説明

ポリカーボネート系複合材料、その製造方法および成形体

【課題】高い貯蔵弾性率を有するポリカーボネート系複合材料を提供する。
【解決手段】イソソルビト又はその誘導体を有する繰り返し単位と下記式(2)で表わされる繰り返し単位とからなり、全繰り返し単位100mol%に対して前者の含有率が55mol%以上98mol%以下、後者の含有率が2mol%以上45mol%以下となる割合で有するポリカーボネート、および該ポリカーボネート中に分散している有機化層状珪酸塩を含有するポリカーボネート系複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系複合材料、その製造方法および成形体に関し、より詳しくは、ポリカーボネートと層状珪酸塩との複合材料、その製造方法および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れた樹脂であり、電気・電子部品材料、自動車部品材料、光学部品材料などとして広く使用されている。また、このようなポリカーボネートの機械特性や耐熱性を向上させるために様々な充填材が配合されている。
【0003】
このようなポリカーボネートに充填材を配合した例として、特開2003−105190号公報(特許文献1)には、芳香族ポリカーボネートと、炭素数12以上のアルキル基を有する有機オニウム塩により有機化した層状珪酸塩とを、芳香族ポリカーボネートの溶融状態で機械的剪断下に混合して得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、靭性を大きく損なわずに強度は向上したが、層状珪酸塩の分散性が不十分であり、弾性率が未だ十分なものではなかった。
【0004】
また、国際公開第2005/082972号(特許文献2)には、有機珪素化合物および/または有機チタネート化合物を導入した層状珪酸塩の存在下で、芳香族ポリカーボネートの前駆体を界面重縮合反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、弾性が向上するものの、製造工程が煩雑であり、また、前記層状珪酸塩の分散性は未だ十分なものではなく、貯蔵弾性率も不十分であった。
【0005】
さらに、ポリカーボネートと層状珪酸塩のナノ複合材料の合成方法として、Macromolecules、2000年、第33巻、2000〜2004頁(非特許文献1)に記載の方法が知られている。この方法では、ジオクタデシルジメチルアンモ二ウムにより有機化したモンモリロナイトをカーボネート環状オリゴマーに分散させ、このカーボネート環状オリゴマーを前記有機化モンモリロナイトの存在下で開環重合して直鎖状のポリカーボネートを合成するとともに、前記有機化モンモリロナイトを前記ポリカーボネート中に剥離分散させている。このようにして得られたナノ複合材料においては、有機化モンモリロナイトはポリカーボネート中に高分散しているが、この方法は製造工程が煩雑であるという問題があった。なお、非特許文献1においては、ポリカーボネートと前記有機化モンモリロナイトとの混合物を溶融混練した場合には、ポリカーボネートが有機化モンモリロナイトの層間に挿入されるのみであって、有機化モンモリロナイトは剥離分散されないことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−105190号公報
【特許文献2】国際公開第2005/082972号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Macromolecules、2000年、第33巻、2000〜2004頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い貯蔵弾性率を有するポリカーボネート系複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ジオールとしてイソソルビド系化合物とビスフェノール系化合物とを併用して重合させたイソソルビド系ポリカーボネートに、有機化された層状珪酸塩を混合することによって、高い貯蔵弾性率を有するポリカーボネート系複合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のポリカーボネート系複合材料は、下記式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとR、および/または、RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。RおよびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位とを、
全繰り返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率が55mol%以上98mol%以下、前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率が2mol%以上45mol%以下となる割合で有するポリカーボネート、および
該ポリカーボネート中に分散している有機化層状珪酸塩を、
含有することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のポリカーボネート系複合材料の第一の製造方法は、下記式(1):
【0016】
【化3】

【0017】
(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとR、および/または、RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2):
【0018】
【化4】

【0019】
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。RおよびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位とを、
全繰り返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率が55mol%以上98mol%以下、前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率が2mol%以上45mol%以下となる割合で有するポリカーボネートを溶媒に溶解させ、次いで、該ポリカーボネートが溶解した溶液と有機化層状珪酸塩とを混合した後、溶媒を除去することを特徴とする方法である。
【0020】
さらに、本発明のポリカーボネート系複合材料の第二の製造方法は、下記式(1):
【0021】
【化5】

【0022】
(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとR、および/または、RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2):
【0023】
【化6】

【0024】
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。RおよびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位とを、
全繰り返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率が55mol%以上98mol%以下、前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率が2mol%以上45mol%以下となる割合で有するポリカーボネートを溶融ながら有機化層状珪酸塩と混合することを特徴とする方法である。
【0025】
本発明のポリカーボネート系複合材料において、前記有機化層状珪酸塩の含有量は、前記ポリカーボネート100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。また、前記有機化層状珪酸塩は、スメクタイト、カオリナイト、バーミキュライトおよびマイカからなる群から選択される少なくとも1種の層状珪酸塩を有機化したものであることが好ましい。さらに、前記ポリカーボネートのガラス転移温度としては160℃以上が好ましい。
【0026】
本発明の成形体は、このようなポリカーボネート系複合材料を溶融成形せしめたものである。
【0027】
なお、本発明のポリカーボネート系複合材料において貯蔵弾性率が高くなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のポリカーボネート系複合材料においては、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩との相互作用により、有機化層状珪酸塩の各層がもともとの層間距離よりも広がったり、剥離分散したりする。このため、有機化層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入されやすくなる。有機化層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入されると、イソソルビド系ポリカーボネート中の有機化層状珪酸塩は各層が均一に分散された状態またはそれに近い状態となるため、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩との相互作用がより強くなり、貯蔵弾性率などの各種物性が向上するものと推察される。
【0028】
一方、従来のビスフェノール系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩との複合材料においては、有機化層状珪酸塩の層間距離は拡大せず、有機化層状珪酸塩は各層が積層した状態でビスフェノール系ポリカーボネート中に分散している。このような複合材料においては、本発明のポリカーボネート系複合材料に比べて、有機化層状珪酸塩の分散性が劣るため、ビスフェノール系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩との相互作用が弱く、貯蔵弾性率などの各種物性が十分に向上しないと推察される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高い貯蔵弾性率を有するポリカーボネート系複合材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0031】
本発明のポリカーボネート系複合材料は、下記式(1):
【0032】
【化7】

【0033】
で表される繰り返し単位と、下記式(2):
【0034】
【化8】

【0035】
で表される繰り返し単位とを、特定の割合で有するポリカーボネート、およびこのポリカーボネート中に分散している有機化層状珪酸塩を含有するものである。
【0036】
<ポリカーボネート>
先ず、本発明に用いられるポリカーボネートについて説明する。本発明にかかるポリカーボネートは、前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位とを特定の割合で有するイソソルビド系ポリカーボネートである。
【0037】
前記式(1)で表される繰り返し単位において、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表す。前記アルキル基の炭素数は通常1〜18であり、好ましくは1〜6である。前記シクロアルキル基の炭素数は通常3〜8であり、好ましくは3〜6である。前記アルケニル基の炭素数は通常2〜12であり、好ましくは2〜6である。前記アリール基の炭素数は通常6〜18であり、好ましくは6〜12である。なお、前記式(1)中の*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。
【0038】
このような繰り返し単位のうち、剛直な構造と剛性に優れるという観点から、後述するイソソルビドまたはその誘導体と炭酸ジエステルとを反応させることによって形成される下記式(1a):
【0039】
【化9】

【0040】
で表される繰り返し単位が好ましい。なお、前記式(1a)中の*は前記式(1)中の*と同義である。
【0041】
また、前記式(1)において、「RとR」および/または「RとR」は互いに結合して環を形成してもよい。このような環としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基が挙げられる。これらのシクロアルキル基およびシクロアルケニル基の炭素数は通常3〜12であり、好ましくは3〜6である。
【0042】
前記イソソルビド系ポリカーボネートにおいて、前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率は、全繰り返し単位100mol%に対して55mol%以上98mol%以下である。前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率が前記下限未満になるとガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にある。他方、前記上限を超えるとイソソルビド系ポリカーボネートの熱分解温度が上昇せずに耐熱性が向上しない傾向にあり、また、十分に靭性が付与されない傾向にある。さらに、このような観点から前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率は70mol%以上98mol%以下であることが好ましく、80mol%以上98mol%以下であることがより好ましい。
【0043】
前記式(2)で表される繰り返し単位において、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表す。前記アルキル基の炭素数は通常1〜18であり、好ましくは1〜6である。前記シクロアルキル基の炭素数は通常3〜8であり、好ましくは3〜6である。前記アルケニル基の炭素数は通常2〜12であり、好ましくは2〜6である。前記アリール基の炭素数は通常6〜18であり、好ましくは6〜12である。
【0044】
また、前記式(2)において、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。このような環としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基が挙げられる。これらのシクロアルキル基およびシクロアルケニル基の炭素数は通常3〜12であり、好ましくは3〜6である。
【0045】
前記式(2)中のRおよびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表す。前記アルキル基の炭素数は通常1〜18であり、好ましくは1〜12である。前記アルケニル基の炭素数は通常2〜12であり、好ましくは2〜6である。前記アリール基の炭素数は通常6〜18であり、好ましくは6〜12である。
【0046】
前記式(2)において、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、好ましくは0〜2の整数である。また、前記式(2)中の*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。
【0047】
このような繰り返し単位のうち、熱分解温度が上昇し、耐熱性が向上するという観点から、後述するビスフェノールまたはその誘導体と炭酸ジエステルとを反応させることによって形成される下記式(2a)〜(2b):
【0048】
【化10】

【0049】
で表される繰り返し単位が好ましい。なお、前記(2a)〜(2b)中のR〜Rおよび*は前記式(2)中のR〜Rおよび*と同義である。
【0050】
前記イソソルビド系ポリカーボネートにおいて、前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率は、全繰り返し単位100mol%に対して2mol%以上45mol%以下である。前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率が前記下限未満になるとイソソルビド系ポリカーボネートの熱分解温度が上昇せずに耐熱性が向上しない傾向にあり、また、十分に靭性が付与されない傾向にある。他方、前記上限を超えるとガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にある。さらに、このような観点から前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率は2mol%以上30mol%以下であることが好ましく、2mol%以上20mol%以下であることがより好ましい。
【0051】
また、前記イソソルビド系ポリカーボネートにおいては、前記式(1)で表される繰り返し単位と前記式(2)で表される繰り返し単位が、ポリマー鎖中にランダムに配置されていることが好ましい。これにより、ビスフェノール骨格またはその誘導体骨格による靱性とイソソルビド骨格またはその誘導体骨格による剛性とがバランスよく高水準で発現される。
【0052】
さらに、前記イソソルビド系ポリカーボネートにおいては、ガラス転移温度が160℃以上であることが好ましい。なお、ガラス転移温度の上限は特に制限はないが、170℃以下が好ましい。また、前記イソソルビド系ポリカーボネートは耐熱性に優れたものであり、例えば、熱分解温度は300℃以上であることが好ましく、305℃以上であることがより好ましい。さらに、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定した標準ポリスチレン換算の数平均分子量は2万以上であることが好ましく、2.5万以上であることがより好ましい。
【0053】
次に、本発明に用いられるイソソルビド系ポリカーボネートの製造方法について説明する。本発明にかかるイソソルビド系ポリカーボネートは、融点が140℃以下の含窒素環状化合物の存在下で、下記式(3):
【0054】
【化11】

【0055】
で表されるイソソルビドおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のイソソルビド系化合物と、下記式(4):
【0056】
【化12】

【0057】
で表されるビスフェノールおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のビスフェノール系化合物と、炭酸ジエステルとを、溶融してランダムに重合せしめることによって製造することが可能である。
【0058】
前記式(3)で表されるイソソルビド系化合物において、R〜Rは前記式(1)中のR〜Rと同義である。このようなイソソルビド系化合物としては、前記式(1)中のR〜Rが全て水素原子であるイソソルビド系化合物が好ましく、例えば、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール〔イソソルビド〕、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−マンニトール〔イソマンニド〕、1,4:3,6−ジアンヒドロ−L−ソルビトール〔イソイディド〕などが挙げられる。
【0059】
前記イソソルビド系ポリカーボネートの製造方法において、前記イソソルビド系化合物の割合は、全ジオール100mol%に対して55mol%以上98mol%以下である。前記イソソルビド系化合物の割合が前記下限未満になると、得られるイソソルビド系ポリカーボネートのガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にある。他方、前記上限を超えるとイソソルビド系ポリカーボネートの熱分解温度が上昇せずに耐熱性が向上しない傾向にあり、また、十分に靭性が付与されない傾向にある。さらに、このような観点から前記イソソルビド系化合物の割合は70mol%以上98mol%以下であることが好ましく、80mol%以上98mol%以下であることがより好ましい。
【0060】
また、前記式(4)で表されるビスフェノール系化合物において、R〜R、mおよびnは前記式(2)中のR〜R、mおよびnと同義である。このようなビスフェノール系化合物のうち、熱分解温度が上昇し、耐熱性が向上するという観点から、下記式(4a)〜(4b):
【0061】
【化13】

【0062】
(式(4a)〜(4b)中のR〜Rは前記式(2)中のR〜Rと同義である。)
で表されるビスフェノールおよびその誘導体が好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン〔ビスフェノールF〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールC〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン〔ビスフェノールAD〕がより好ましい。
【0063】
前記イソソルビド系ポリカーボネートの製造方法において、前記ビスフェノール系化合物の割合は、全ジオール100mol%に対して2mol%以上45mol%以下である。前記ビスフェノール系化合物の割合が前記下限未満になるとイソソルビド系ポリカーボネートの熱分解温度が上昇せずに耐熱性が向上しない傾向にあり、また、十分に靭性が付与されない傾向にある。他方、前記上限を超えるとガラス転移温度や貯蔵弾性率が低下する傾向にあり、また、剛性が低下しすぎる傾向にある。さらに、このような観点から前記ビスフェノール系化合物の割合は2mol%以上30mol%以下であることが好ましく、2mol%以上20mol%以下であることがより好ましい。
【0064】
また、前記炭酸ジエステルとしては、下記式(5):
【0065】
【化14】

【0066】
(式(5)中、RおよびR10は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表す。)
で表される炭酸ジエステルが好ましい。前記アルキル基の炭素数は通常1〜12であり、好ましくは2〜4である。また、前記アリール基の炭素数は通常6〜18であり、好ましくは6〜12である。このような炭酸ジエステルのうち、前記イソソルビド系化合物およびビスフェノール系化合物との反応性の観点から、アルキル基の炭素数が2〜4の炭酸ジアルキルおよび炭酸ジフェニルが好ましく、炭酸ジフェニルがより好ましい。
【0067】
前記イソソルビド系ポリカーボネートの製造方法において、炭酸ジエステルの割合は、全ジオール1molに対して1〜2molであることが好ましく、1〜1.5molであることがより好ましい。炭酸ジエステルの割合が前記下限未満になると未反応のジオールが残存する傾向にあり、他方、前記上限を超えると未反応の炭酸ジエステルが残存する傾向にあり、いずれの場合も経済的に好ましくない。
【0068】
前記イソソルビド系ポリカーボネートの製造方法においては、前記イソソルビド系化合物と前記ビスフェノール系化合物と前記炭酸ジエステルとを溶融してランダム重合させることが好ましい。このようにランダム重合させることによってイソソルビド系ポリカーボネートの剛性を低下させることなく、靱性を十分に向上させることができる。また、溶融重合させることによって溶剤の回収が不要であり、生成した樹脂が溶融状態で得られるため直接ペレット化することでき、また、高分子量化が可能となる。他方、溶液重合させると溶剤を回収する工程や無機塩を除去する洗浄工程が必要となり、また、重合時間が長くなる傾向にある。
【0069】
前記重合反応は、融点が140℃以下(好ましくは、125℃以下)の含窒素環状化合物の存在下で実施する。この含窒素環状化合物は前記重合反応において触媒として作用する。このような含窒素化合物としては、4−ジメチルアミノピリジン(融点:108〜110℃)、1、2、4−トリアゾール(融点:119〜121℃)、イミダゾール(融点:88〜91℃)、2−ジメチルアミノピリジン(常温で液体)、1、2、3−トリアゾール(融点:23〜25℃)、ピロール(常温で液体)、ピリミジン(常温で液体)、ピラジン(融点:53℃)、ピリダジン(融点:87℃)、テトラゾール(常温で液体)、2−ピコリン(常温で液体)、3−ピコリン(常温で液体)、4−ピコリン(常温で液体)、ピペリジン(常温で液体)などが挙げられる。このような融点が前記範囲の含窒素環状化合物を触媒として使用することによって高分子量かつ透明性に優れたイソソルビド系ポリカーボネート(例えば、前記数平均分子量と光透過率を有するもの)を得ることが可能となる。
【0070】
一方、融点が前記上限を超える含窒素環状化合物やスズ系化合物(例えば、n−BuSn(=O)OH)を触媒として使用した場合には、重合効率が悪く、高分子量のイソソルビド系ポリカーボネートが得られない傾向にある。また、触媒としてスズ系化合物を用いた場合には、イソソルビド系ポリカーボネートが着色し、透明性が劣る傾向にある。
【0071】
前記イソソルビド系ポリカーボネートの製造方法において、前記含窒素環状化合物の割合(質量比)は、全ジオールに対して50〜1000ppmであることが好ましく、100〜600ppmであることがより好ましい。含窒素環状化合物の割合が前記下限未満になると十分に重合反応が進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が着色し、また、高分子量のイソソルビド系ポリカーボネートが生成しにくい傾向にある。
【0072】
前記イソソルビド系ポリカーボネートの製造方法において、重合反応温度は200〜250℃であることが好ましい。重合反応温度が前記下限未満になると高分子量のイソソルビド系ポリカーボネートが生成しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると劣化が起こり、透明なイソソルビド系ポリカーボネートが生成しにくい傾向にある。また、前記重合反応温度まで原料を加熱する際、反応容器内の温度は徐々に上昇させることが好ましい。反応容器内の温度を急激に上昇させると得られたイソソルビド系ポリカーボネートの分子量分布が広くなり、また、低分子量のイソソルビド系ポリカーボネートが生成しやすい傾向にある。
【0073】
また、前記重合反応時間は2〜6時間であることが好ましい。重合反応時間が前記下限未満になると低分子量のイソソルビド系ポリカーボネートが生成しやすい傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られたイソソルビド系ポリカーボネートの分子量分布が広くなり、また、劣化する傾向にある。
【0074】
<有機化珪酸塩>
次に、本発明に用いられる有機化珪酸塩について説明する。前記有機化珪酸塩としては特に制限はないが、例えば、スメクタイト、カオリナイト、バーミキュライト、マイカなどの公知の層状珪酸塩を有機化したものが好ましい。前記スメクタイトとしては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライトなどが挙げられる。前記カオリナイトとしては、例えば、カオリナイト、ハロサイトなどが挙げられる。前記バーミキュライトとしては、例えば、ジオクタヘドラルバーミキュライト、トリオクタヘドラルバーミキュライトなどが挙げられる。前記マイカとしては、例えば、マスコバイト、イライト、セリサイト、フロゴバイト、バイオタイトなどが挙げられる。これらの層状珪酸塩は天然物であっても、水熱合成、溶融法、固相法などによる合成物であってもよい。また、前記層状珪酸塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、層状珪酸塩の陽イオン交換容量は30〜300meq/100gであることが好ましい。
【0075】
本発明に用いられる有機化層状珪酸塩とは、上記のような層状珪酸塩を、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機ピリジニウム塩、有機スルホニウム塩といった有機オニウム塩などで処理したものである。中でも、有機化層状珪酸塩の層間距離を十分に広げることができる点で、有機アンモニウム塩で有機化したものが好ましい。なお、「層状珪酸塩の有機化」とは、層状珪酸塩の層間および/または表面に有機物を物理的および/または化学的方法(好ましくは化学的方法)により吸着および/または結合させることを意味する。
【0076】
前記有機アンモニウム塩としては、例えば、NR[式中、4個のRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルキルエーテル基またはアリール基を表し、Xはカウンターイオンを表す]で表されるものが挙げられる。前記アルキル基およびアルキルエーテル基を構成するアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖または分岐鎖状のペンチル基、直鎖または分岐鎖状のヘキシル基、直鎖または分岐鎖状のヘプチル基、直鎖または分岐鎖状のオクチル基、直鎖または分岐鎖状のノニル基、直鎖または分岐鎖状のデシル基、直鎖または分岐鎖状のウンデシル基、直鎖または分岐鎖状のドデシル基、直鎖または分岐鎖状のトリデシル基、直鎖または分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖または分岐鎖状のペンタデシル基、直鎖または分岐鎖状のオクタデシル基などが挙げられ、中でも、炭素数は1〜4のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数が前記上限を超えると有機アンモニウム塩の合成が困難となる傾向にある。前記アリール基としては、フェニル基、ベンジル基などが挙げられる。また、Xで表されるカウンターイオンとしては、例えばCl、Brなどのハロゲンイオンが挙げられる。
【0077】
このような有機アンモニウム塩の炭素数(4個のRの炭素数の総和)としては6以上が好ましく、8以上がより好ましい。有機アンモニウム塩の炭素数が前記下限未満になると有機化層状珪酸塩の層間距離が十分に広がらず、前記イソソルビド系ポリカーボネート中に有機化層状珪酸塩を均一に分散することが困難となる傾向にある。また、Rがアルキル基またはアルキルエーテル基の場合には、当該アルキル基またはアルキルエーテル基は置換基を有していてもよく、このような置換基としては水酸基が好ましい。
【0078】
このような有機アンモニウム塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、このような有機アンモニウム塩のうち、有機化層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入しやすくなるという観点から、下記式(6)〜(7):
【0079】
【化15】

【0080】
で表される水酸基を有する有機アンモニウムイオンを含む塩がより好ましい。これらの水酸基を有する有機アンモニウム塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
前記式(6)中のR11〜R13はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖または分岐鎖状のペンチル基、直鎖または分岐鎖状のヘキシル基、直鎖または分岐鎖状のヘプチル基、直鎖または分岐鎖状のオクチル基、直鎖または分岐鎖状のノニル基、直鎖または分岐鎖状のデシル基、直鎖または分岐鎖状のウンデシル基、直鎖または分岐鎖状のドデシル基、直鎖または分岐鎖状のトリデシル基、直鎖または分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖または分岐鎖状のペンタデシル基、直鎖または分岐鎖状のオクタデシル基などが挙げられ、中でも、炭素数は1〜4のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数が前記上限を超えると有機アンモニウム塩の合成が困難となる傾向にある。
【0082】
また、前記式(6)中のR11〜R13の炭素数の合計は6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。R11〜R13の炭素数の合計が前記下限未満になると有機化層状珪酸塩の層間距離が十分に広がらず、前記イソソルビド系ポリカーボネート中に有機化層状珪酸塩を均一に分散することが困難となる傾向にある。
【0083】
前記式(6)中のiはメチレン基(−CH−)の重合度を表し、6〜20の整数であることが好ましく、8〜18の整数であることがより好ましい。iが前記下限未満になると有機化層状珪酸塩の層間距離が十分に広がらず、前記イソソルビド系ポリカーボネート中に有機化層状珪酸塩を均一に分散することが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えると有機アンモニウム塩の合成が困難となる傾向にある。
【0084】
前記式(7)中のR14およびR15はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、前記アルキル基としては前記式(6)中のR11〜R13として例示したアルキル基が挙げられる。また、前記式(7)中のR14とR15の炭素数の合計は6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。R14とR15の炭素数の合計が前記下限未満になると有機化層状珪酸塩の層間距離が十分に広がらず、前記イソソルビド系ポリカーボネート中に有機化層状珪酸塩を均一に分散することが困難となる傾向にある。このような有機アンモニウム塩としては、R14が水素原子であり、R15がドデシル基であるもの;R14がメチル基であり、R15がオクタデシル基であるもの;R14、R15がともにオクタデシル基であるものが好ましい。
【0085】
前記式(7)中のjおよびkはオキシエチレン基(−CH−CH−O−)の重合度を表し、1〜20の整数であることが好ましく、1〜10の整数であることがより好ましく、1〜5の整数であることが特に好ましく、1が最も好ましい。jまたはkが前記上限を超えると有機化層状珪酸塩の親水性が過剰に高くなり、調製が困難となる傾向にある。
【0086】
本発明に用いられる有機化層状珪酸塩において、有機オニウム塩の含有量は、層状珪酸塩100質量部に対して10〜150質量部であることが好ましく、20〜100質量部であることがより好ましい。有機オニウム塩の含有量が前記下限未満になると有機化層状珪酸塩の層間距離が十分に広がらず、前記イソソルビド系ポリカーボネート中に有機化層状珪酸塩を均一に分散することが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えると物理吸着によって導入される有機オニウム塩の量が増加してポリカーボネート系複合材料の物性(例えば、ガラス転移温度)が損なわれる傾向にある。
【0087】
このような有機化層状珪酸塩は公知の方法により調製することができる。また、本発明においては、市販の有機化層状珪酸塩を使用することもできる。
【0088】
<ポリカーボネート系複合材料>
本発明のポリカーボネート系複合材料は、前記イソソルビド系ポリカーボネートと、このポリカーボネート中に分散している前記有機化層状珪酸塩とを含有するものである。このようなポリカーボネート系複合材料において、有機化層状珪酸塩の含有量は、ポリカーボネート100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。有機化層状珪酸塩の含有量が前記下限未満になるとポリカーボネート系複合材料の貯蔵弾性率が十分に向上しない傾向にある。他方、前記上限を超えるとポリカーボネート系複合材料の靭性が低下する傾向にある。
【0089】
また、本発明のポリカーボネート系複合材料中に含まれる有機化層状珪酸塩の層間距離としては、有機化層状珪酸塩のもともとの層間距離よりも0.5nm以上長いことが好ましく、1.0nm以上長いことがより好ましく、1.5nm以上長いことがさらに好ましく、特に、有機化層状珪酸塩が剥離分散して層間距離が10nm以上であることが最も好ましい。有機化層状珪酸塩の層間距離が前記下限よりも短くなるとポリカーボネート中に有機化層状珪酸塩が均一に分散しておらず、高い貯蔵弾性率が得られない傾向にある。
【0090】
このようにイソソルビド系ポリカーボネート中に有機化層状珪酸塩が均一に分散された本発明のポリカーボネート系複合材料においては、有機化層状珪酸塩を上記のように少量混合しただけで、本発明にかかるポリカーボネート単独の場合に比べて25℃における貯蔵弾性率が40〜70%向上する傾向にある。また、本発明にかかるイソソルビド系ポリカーボネートが透明性に優れたものである場合には、本発明のポリカーボネート系複合材料も透明性に優れたものとなる傾向にある。
【0091】
次に、本発明のポリカーボネート系複合材料の製造方法について説明する。本発明のポリカーボネート系複合材料は、下記(i)または(ii)の方法により製造することが好ましい。これにより、本発明のポリカーボネート系複合材料を安定して製造することができる。
(i)前記イソソルビド系ポリカーボネートを溶媒に溶解させ、次いで、この溶液と前記有機化層状珪酸塩とを混合し、その後、前記溶媒を除去する方法。
(ii)前記イソソルビド系ポリカーボネートを溶融ながら前記有機化層状珪酸塩と混合する方法。
【0092】
先ず、前記(i)の方法について説明する。この方法では、先ず、本発明にかかるイソソルビド系ポリカーボネートを溶媒に溶解する。このような溶媒としては、イソソルビド系ポリカーボネートが溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド、クロロホルム、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。中でも、有機化層状珪酸塩がイソソルビド系ポリカーボネートとの相互作用に加えて溶媒との相互作用によってより分散するという観点からジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンが好ましい。
【0093】
次に、このようにして調製した溶液に前記有機化層状珪酸塩を混合する。有機化層状珪酸塩の混合方法としては、有機化層状珪酸塩をそのまま、イソソルビド系ポリカーボネートが溶解した溶液に添加して混合してもよいし、有機化層状珪酸塩を前記溶媒に分散させた後、この分散液と、イソソルビド系ポリカーボネートが溶解した溶液とを混合してもよい。混合時の温度および時間としては、イソソルビド系ポリカーボネートが熱分解しない温度および時間であれば特に制限はないが、50〜100℃が好ましく、1〜3時間が好ましい。
【0094】
このようにして得られたイソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する混合分散液から前記溶媒を除去することによって本発明のポリカーボネート系複合材料を得ることができる。溶媒の除去方法としては特に制限はなく、例えば、前記混合分散液を加熱して溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。溶媒を除去する際の加熱温度としては、イソソルビド系ポリカーボネートが熱分解しない温度であれば特に制限はないが、140〜180℃が好ましい。また、ポリカーボネート系複合材料に付着した溶媒を除去するために、溶媒を蒸発させた後のポリカーボネート系複合材料に真空乾燥を施すことが好ましい。
【0095】
次に、前記(ii)の方法について説明する。この方法では、前記イソソルビド系ポリカーボネートを加熱して溶融させ、この溶融状態のイソソルビド系ポリカーボネートと前記有機化層状珪酸塩を混合する。また、予め、前記イソソルビド系ポリカーボネートと前記有機化層状珪酸塩を混合し、この混合物を加熱しながら溶融混合してもよい。前記イソソルビド系ポリカーボネートまたは前記混合物を加熱する際の温度としては、イソソルビド系ポリカーボネートが溶融し且つ熱分解しない温度であれば特に制限はないが、例えば、イソソルビド系ポリカーボネートの軟化点以上且つ熱分解温度未満、具体的には160〜250℃が好ましい。この加熱温度が前記下限未満になるとイソソルビド系ポリカーボネートが十分に溶融せず、有機化層状珪酸塩をイソソルビド系ポリカーボネート中に均一に分散させることが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えるとイソソルビド系ポリカーボネートの分子量が低下し、得られる成形体の物性が低下する傾向にある。混合時間としては特に制限はないが、例えば、1〜120分間が好ましい。溶融混合の方法としては特に制限はなく、ロール、押出機、混練機などを用いて溶融混練する方法が挙げられる。
【0096】
<成形体>
次に、本発明の成形体について説明する。すなわち、本発明の成形体は、本発明のポリカーボネート系複合材料を溶融成形せしめたものである。本発明の成形体を製造するに際し、ポリカーボネート系複合材料を溶融する際の温度としては、使用するイソソルビド系ポリカーボネートが溶融し且つ熱分解しない温度であれば特に制限はないが、180〜250℃が好ましい。この温度が前記下限未満になるとポリカーボネート系複合材料が十分に溶融せず、成形が困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えるとイソソルビド系ポリカーボネートの分子量が低下し、得られる成形体の物性が低下する傾向にある。このような本発明の成形体を製造する方法としては特に制限されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、プレス成形、カレンダー成形、射出ブロー成形、真空圧空成形、紡糸などのいずれの方法であってもよい。また、本発明の成形体の形状、厚みなどは特に制限されず、具体的な成形体として、射出成形品、押出成形品、圧縮成形品、ブロー成形品、シート、フィルム、糸、ファブリックなどが挙げられる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成例で得られたポリカーボネートならびに実施例および比較例で得られたポリカーボネート系複合材料の物性は以下の方法により測定した。
【0098】
<分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ((株)昭和通商製「Shodex GPC−101」)を用い、下記条件でポリカーボネートの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
カラム:昭和電工(株)製「K−805L」。
溶媒:クロロホルム。
流量:1.0ml/分。
標準物質:標準ポリスチレン。
【0099】
<ガラス転移温度>
ポリカーボネート約5.0mgを秤量し、示差走査熱量計(TA Instrument社製「DSC Q1000」)を用いて温度範囲25〜250℃、昇温速度10℃/分の条件でポリカーボネートのガラス転移温度を測定した。
【0100】
<熱分解温度>
ポリカーボネート約7.0mgを秤量し、熱分析装置(理学電機(株)製「Thermoplus TG8120」)を用いて温度範囲25〜500℃、昇温速度10℃/分の条件でポリカーボネートの熱重量変化を測定した。ポリカーボネートの質量が5質量5%減少した時点の温度を熱分解温度とした。
【0101】
<貯蔵弾性率>
ポリカーボネート系複合材料を220℃で溶融させ、厚さ約0.5mmでプレス成形した後、約5.0mm×約30mm×約0.5mmの試験片を切り出した。この試験片の寸法を正確に測定した後、粘弾性スペクトルメーター(アイティー計測制御(株)製「DVA−220」)を用いて周波数10Hz、温度範囲−100〜250℃、昇温速度4℃/分の条件でポリカーボネート系複合材料の貯蔵弾性率を測定した。
【0102】
<層間距離>
ポリカーボネート系複合材料を220℃で溶融させ、100mm×100mm×0.5mmの平板状にプレス成形した後、X線試料ホルダーに合わせた形状の試料を切り出した。この試料をX線試料ホルダーに装着し、X線回折装置((株)リガク製「RINT−TTR」)を用いてポリカーボネート系複合材料中の珪酸塩層のd(001)面の面間隔を測定(Cuα線を使用)し、これを層間距離とした。
【0103】
また、実施例および比較例において使用したイソソルビド骨格含有繰り返し単位を有するポリカーボネートは以下の方法により合成した。
【0104】
(合成例1)
減圧装置と攪拌装置とを備えるガラス容器に、イソソルビド(Aldrich社製)23.38g(160.0mmol)、ビスフェノールA(和光純薬工業(株)製)9.13g(40.0mmol)および炭酸ジフェニル(東京化成工業(株)製)43.3g(202.0mmol)を仕込んだ。これに、触媒として4−ジメチルアミノピリジン(融点:108〜110℃。以下、「DMAP」と略す。)7.0mgを添加した。
【0105】
窒素ガスを20ml/分でガラス容器内に供給し、攪拌しながらオイルバスを用いてガラス容器内の温度を120℃まで上昇させた後、5分間保持した。その後、ガラス容器内の温度を160℃まで上昇させた後、5分間保持した。さらに、ガラス容器内の温度を180℃まで上昇させたところ、フェノールが発生したため、ガラス容器内を0.1Torrまで減圧して前記フェノールを溜去しながら、この状態を30分間保持した。次いで、ガラス容器内の温度を200℃まで上昇させ、窒素ガスの供給を停止した後、20分間保持した。その後、ガラス容器内の温度を230℃まで徐々に上昇させた後、230℃〜240℃で5時間保持して溶融重合を実施し、ポリカーボネートを合成した。反応終了後、ガラス容器内を室温まで冷却した。
【0106】
次に、得られた粗ポリカーボネートをクロロホルムに溶解し、この溶液にメタノールを添加してポリカーボネートを沈殿させた。この溶解・沈殿処理を合計2回繰り返してポリカーボネートを精製した。精製したポリカーボネートを110℃で12時間真空乾燥し、イソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が80mol%のイソソルビド系ポリカーボネートを得た。
【0107】
このイソソルビド系ポリカーボネートの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)および熱分解温度(Td)を前記測定方法に従って測定した結果を表1に示す。
【0108】
(合成例2)
イソソルビドの量を70.0g(478.99mmol)、ビスフェノールAの量を12.15g(53.22mmol)および炭酸ジフェニルの量を114.18g(533.0mmol)に変更した以外は実施例1と同様にしてイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が90mol%のイソソルビド系ポリカーボネートを合成した。このイソソルビド系ポリカーボネートの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)および熱分解温度(Td)を前記測定方法に従って測定した結果を表1に示す。
【0109】
(合成例3)
イソソルビドの量を60.0g(410.57mmol)、ビスフェノールAの量を4.69g(20.53mmol)および炭酸ジフェニルの量を92.54g(432.0mmol)に変更した以外は実施例1と同様にしてイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が95mol%のイソソルビド系ポリカーボネートを合成した。このイソソルビド系ポリカーボネートの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)および熱分解温度(Td)を前記測定方法に従って測定した結果を表1に示す。
【0110】
(合成例4)
イソソルビドの量を40.0g(273.71mmol)、ビスフェノールAの量を1.25g(5.47mmol)および炭酸ジフェニルの量を59.98g(280.0mmol)に変更した以外は実施例1と同様にしてイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が98mol%のイソソルビド系ポリカーボネートを合成した。このイソソルビド系ポリカーボネートの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)および熱分解温度(Td)を前記測定方法に従って測定した結果を表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
(実施例1)
合成例1で合成したイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が80mol%のイソソルビド系ポリカーボネート3.0gをジメチルアセトアミド(以下、「DMAC」と略す。)30mlに溶解した。この溶液に、約80℃で撹拌しながら、有機化層状珪酸塩として有機化モンモリロナイト(Southern Clay Products社製「Cloisite 30B」、methyl tallow bis−2−hydroxyethyl ammoniumで有機化したもの、X線回折法で求めた層間距離:1.8nm)150.0mgを添加し、約3時間撹拌を継続して透明な溶液を得た。
【0113】
この透明な溶液を150〜170℃に加熱してDMACを蒸発させ、乾燥物を得た。この乾燥物を約90℃で真空乾燥させてイソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0114】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、4.6GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、3.6nmであった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入され、層間距離が1.8nm拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0115】
(実施例2)
ポリカーボネートとして合成例2で合成したイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が90mol%のイソソルビド系ポリカーボネート3.0gを使用した以外は実施例1と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0116】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、4.5GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、3.7nmであった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入され、層間距離が1.9nm拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0117】
(実施例3)
ポリカーボネートとして合成例3で合成したイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が95mol%のイソソルビド系ポリカーボネート3.0gを使用した以外は実施例1と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0118】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、4.9GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、回折角0.5〜10°の範囲に層構造を示すピークが観察されず、層間距離は10nm以上であった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入されて、珪酸塩はイソソルビド系ポリカーボネート中に剥離分散され、層間距離が8.2nm以上拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0119】
(実施例4)
ポリカーボネートとして合成例4で合成したイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が98mol%のイソソルビド系ポリカーボネート3.0gを使用し、有機化モンモリロナイトの添加量を30.0mgに変更した以外は実施例1と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0120】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、4.2GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、回折角0.5〜10°の範囲に層構造を示すピークが観察されず、層間距離は10nm以上であった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入されて、珪酸塩はイソソルビド系ポリカーボネート中に剥離分散され、層間距離が8.2nm以上拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0121】
(実施例5)
有機化モンモリロナイトの添加量を90.0mgに変更した以外は実施例4と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0122】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、4.7GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、回折角0.5〜10°の範囲に層構造を示すピークが観察されず、層間距離は10nm以上であった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入されて、珪酸塩はイソソルビド系ポリカーボネート中に剥離分散され、層間距離が8.2nm以上拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0123】
(実施例6)
有機化モンモリロナイトの添加量を150.0mgに変更した以外は実施例4と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0124】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、5.1GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、回折角0.5〜10°の範囲に層構造を示すピークが観察されず、層間距離は10nm以上であった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入されて、珪酸塩はイソソルビド系ポリカーボネート中に剥離分散され、層間距離が8.2nm以上拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0125】
(実施例7)
有機化モンモリロナイトの添加量を300.0mgに変更した以外は実施例4と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0126】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、5.2GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、3.6nmであった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入され、層間距離が1.8nm拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0127】
(実施例8)
有機化層状珪酸塩としてドデシルアンモニウムを用いて常法により有機化したモンモリロナイト(以下、「C12−Mt」という。X線回折法で求めた層間距離:1.8nm)150.0mgを使用した以外は実施例3と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0128】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、4.5GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、2.6nmであった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入され、層間距離が0.8nm拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0129】
(実施例9)
有機化層状珪酸塩としてオクタデシルアンモニウムを用いて常法により有機化したモンモリロナイト(以下、「C18−Mt」という。X線回折法で求めた層間距離:1.8nm)150.0mgを使用した以外は実施例3と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する透明なナノ複合材料を得た。
【0130】
このナノ複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、4.6GPaであった。また、ナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、3.0nmであった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入され、層間距離が1.2nm拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0131】
(実施例10)
合成例4で合成したイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が98mol%のイソソルビド系ポリカーボネート4.0gと、実施例1に記載の有機化モンモリロナイト(前記Cloisite 30B)200.0mgをミニマックス成形機(CUSTOM社製)に仕込み、250℃で1分間撹拌して溶融混練した。この溶融混練物を押出してイソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有するストランド状のナノ複合材料を得た。
【0132】
このナノ複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、8.7nmであった。この結果から、層状珪酸塩の層間にイソソルビド系ポリカーボネートが挿入され、層間距離が6.9nm拡大したことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0133】
(比較例1)
合成例3で合成したイソソルビド骨格含有繰り返し単位の含有率が95mol%のイソソルビド系ポリカーボネートについて、25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、3.5GPaであった。
【0134】
(比較例2)
層状珪酸塩として有機化処理していないモンモリロナイト(Na−Mt、X線回折法で求めた層間距離:1.3nm)150.0mgを使用した以外は実施例3と同様にして、イソソルビド系ポリカーボネートと有機化層状珪酸塩を含有する複合材料を得た。
【0135】
この複合材料の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、3.9GPaであった。また、複合材料中の珪酸塩層の層間距離を前記測定方法に従って測定したところ、1.3nmであった。この結果から、層状珪酸塩の層間距離は全く拡大していないことが確認された。これらの結果を表2に示す。
【0136】
(比較例3)
ビスフェノールA骨格含有繰り返し単位の含有率が100mol%のビスフェノールA系ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ユーピロンS−200UR」、DMACに不溶)3.0gをクロロホルム30mlに溶解した。この溶液に、撹拌しながら、有機化層状珪酸塩として有機化モンモリロナイト(Southern Clay Products社製「Cloisite 30B」)150.0mgを添加し、約3時間撹拌を継続して溶液を得た。
【0137】
この溶液を加熱してクロロホルムを蒸発させ、乾燥物を得た。この乾燥物を目視観察したところ、前記有機化モンモリロナイトが凝集した状態で分散しており、明らかにナノ複合材料は得られていなかった。この乾燥物の25℃の貯蔵弾性率を前記測定方法に従って測定したところ、2.3GPaであり、前記ビスフェノール系ポリカーボネートのみ(有機化層状珪酸塩を添加せず)の場合と同じ値であった。
【0138】
【表2】

【0139】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のポリカーボネート系複合材料(実施例1〜10)は、イソソルビド系ポリカーボネートのみの場合(比較例1)に比べて貯蔵弾性率が向上することが確認された。
【0140】
また、イソソルビド系ポリカーボネートに有機化層状珪酸塩を添加して複合化した場合(実施例1〜10)には、有機化していない層状珪酸塩を添加した場合(比較例2)に比べて貯蔵弾性率が向上することが確認された。これは、比較例2の場合には、イソソルビド系ポリカーボネートが層状珪酸塩の層間に挿入されなかったのに対して、本発明のポリカーボネート系複合材料においては、イソソルビド系ポリカーボネートが有機化層状珪酸塩の層間に挿入されて剥離分散したり、層間が拡大したことによって、イソソルビド系ポリカーボネート中で有機化層状珪酸塩がより均一に分散したためであると推察される。
【0141】
さらに、ビスフェノールA系ポリカーボネートに有機化層状珪酸塩を添加した場合(比較例3)には、貯蔵弾性率の向上効果は見られなかった。これは、有機化層状珪酸塩の層間にビスフェノールA系ポリカーボネートが挿入されなかったためであると推察される。
【0142】
以上の結果から明らかなように、本発明のポリカーボネート系複合材料においては、有機化層状珪酸塩とポリカーボネートのイソソルビド骨格とが互いに作用することによって有機化層状珪酸塩が剥離分散したり、層間が拡大したりするため、有機化層状珪酸塩がより均一に分散し、非常に高い貯蔵弾性率を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0143】
以上説明したように、本発明によれば、高い貯蔵弾性率を有するポリカーボネート系複合材料を得ることが可能となる。
【0144】
したがって、本発明のポリカーボネート系複合材料は、テレビ、VTR、DVD、携帯電話に代表される電気製品に用いられる電気・電子部品用材料、ランプ、レンズ、バンパーといった自動車部品用材料などとして有用である。また、本発明にかかるポリカーボネートを融点が140℃以下の含窒素環状化合物を用いて合成した場合には、本発明の製造方法により、透明性に優れたポリカーボネート系複合材料を得ることができ、このようなポリカーボネート系複合材料は、CD、光ファイバーなどの光学部品用材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとR、および/または、RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2):
【化2】

(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。RおよびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位とを、
全繰り返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率が55mol%以上98mol%以下、前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率が2mol%以上45mol%以下となる割合で有するポリカーボネート、および
該ポリカーボネート中に分散している有機化層状珪酸塩を、
含有することを特徴とするポリカーボネート系複合材料。
【請求項2】
前記有機化層状珪酸塩の含有量が、前記ポリカーボネート100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート系複合材料。
【請求項3】
前記有機化層状珪酸塩が、スメクタイト、カオリナイト、バーミキュライトおよびマイカからなる群から選択される少なくとも1種の層状珪酸塩を有機化したものであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート系複合材料。
【請求項4】
前記ポリカーボネートのガラス転移温度が160℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のポリカーボネート系複合材料。
【請求項5】
下記式(1):
【化3】

(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとR、および/または、RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2):
【化4】

(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。RおよびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位とを、
全繰り返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率が55mol%以上98mol%以下、前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率が2mol%以上45mol%以下となる割合で有するポリカーボネートを溶媒に溶解させ、次いで、該ポリカーボネートが溶解した溶液と有機化層状珪酸塩とを混合した後、溶媒を除去することを特徴とするポリカーボネート系複合材料の製造方法。
【請求項6】
下記式(1):
【化5】

(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとR、および/または、RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2):
【化6】

(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、また、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。RおよびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれか1つを表し、mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数であり、*は隣接する繰り返し単位との結合部位を表す。)
で表される繰り返し単位とを、
全繰り返し単位100mol%に対して、前記式(1)で表される繰り返し単位の含有率が55mol%以上98mol%以下、前記式(2)で表される繰り返し単位の含有率が2mol%以上45mol%以下となる割合で有するポリカーボネートを溶融ながら有機化層状珪酸塩と混合することを特徴とするポリカーボネート系複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のポリカーボネート系複合材料を溶融成形せしめたものであることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2011−63723(P2011−63723A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216087(P2009−216087)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】