説明

ポリカーボネート製造用触媒、及びポリカーボネートの製造方法

【課題】ポリカーボネートとの分離が容易で繰返し使用が可能なポリカーボネート製造用触媒の提供と、該触媒を使用し、有害な塩素ガスやホスゲン、環境に悪影響を与えるハロゲン化有機溶媒を用いずに、高品質のポリカーボネートを効率良く製造する方法の提供。
【解決手段】(a)繊維状有機担体中のリンをアルキルハライドで一部四級化した化合物と(b)パラジウム化合物、及び(c)レドックス触媒能を有する金属化合物との反応生成物を含むポリカーボネート製造用触媒。更に(d)脱水剤や(e)有機レドックス剤を含有していても良い。又、前記ポリカーボネート製造用触媒の存在下に、芳香族ジヒドロキシ化合物及び一価フェノールと一酸化炭素、及び酸素を反応させてポリカーボネートプレポリマーを製造する第一工程と、該プレポリマーを固相重合もしくは溶融重合してポリカーボネートを製造する第二工程を含むポリカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート製造用触媒、及びポリカーボネートの製造方法に関し、詳しくは、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野、及び構造材料分野等における樹脂材料として有用な高品質ポリカーボネートを、環境に配慮しつつ、効率よく製造することができるポリカーボネート製造用触媒、及び該触媒を用いたポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートの製造方法としては、一般にビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとをアルカリの存在下で反応させる方法(溶液法)が知られている。
この方法では猛毒なホスゲンを用いる上に、化学量論量のアルカリ塩が副生すること等の問題がある。
また、ジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルをカルボニル源として使用して加熱溶融して反応させる方法(溶融法)も知られているが、この溶融法では炭酸ジエステルの製造や溶融のために加熱が必要であり、高温に加熱するために、得られたポリカーボネートが着色する等の問題がある。
【0003】
新しいポリカーボネートの製造方法として、パラジウム/レドックス剤/ハロゲン化オニウム塩触媒を用いる酸化的カルボニル化反応による方法が提案されている(特許文献1)が、反応速度が不十分であり、重合度の低いポリカーボネートしか得られない。
この問題を解決するために、パラジウム化合物/無機レドックス触媒/有機レドックス触媒/ハロゲン化オニウム化合物/脱水剤の触媒系で酸化的カルボニル化反応を行い、ポリカーボネートオリゴマーを製造し、その後溶融重合法によりポリカーボネートを得る方法がある(特許文献2)。
しかし、特許文献2記載の触媒では高い重合度のポリカーボネートが得られるが、パラジウム化合物が溶媒に溶解する(均一触媒)ため、パラジウム(0)のクラスターを形成し、失活する可能性があると共に、触媒の分離が困難であり、金属成分がポリカーボネート中に残留し易いという問題がある。
更に、パラジウム原子を金属中心として複数個有し、ヘテロ二座配位子により架橋された多核金属錯体化合物とレドックス触媒及びハロゲン化オニウム化合物とからなる触媒系(特許文献3参照)、ポリビニルピロリドン等からなる触媒担体とパラジウム化合物及びレドックス触媒能を有する金属化合物との反応で得られた錯体を含有する触媒系(特許文献4)により、それぞれポリカーボネートを得る方法が提案されているが、十分な性能のものが得られない。
更に、特定の有機担体にパラジウム化合物と、レドックス触媒能を有する金属化合物とを反応させた触媒系にハロゲン化オニウム化合物/脱水剤からなる触媒系で酸化的カルボニル化反応を行い、ポリカーボネートオリゴマーを製造し、その後、固相重合法によりポリカーボネートを得る方法も提案されている(特許文献5)。この方法では、高い重合度のポリカーボネートが得られるが、使用する触媒に粒径の小さな粒子が含まれており、取り扱いが困難であるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−68744号公報
【特許文献2】特開2000−297148号公報
【特許文献3】特開2002−69170号公報
【特許文献4】特開2004−352878号公報
【特許文献5】特開2005−154673号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリカーボネートの製造方法における上記のような問題点を解消し、ポリカーボネートとの分離が容易で、繰返し使用が可能なポリカーボネート製造用触媒を提供すると共に、該触媒を使用し、有害な塩素ガスやホスゲン、環境に悪影響を与えると考えられるジクロロメタンやクロロホルムのようなハロゲン化有機溶媒を用いずに、従来よりも更に高品質のポリカーボネートを効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、繊維状の有機担体を使用することにより、上記目的を達成し得ることを見出した。本発明は係る知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は以下を要旨とするものである。
1.(a)リンを含む繊維状の有機担体の前記リンをアルキルハライドで一部四級化した化合物と、(b)パラジウム化合物と、(c)レドックス触媒能を有する金属化合物との反応生成物を含有してなるポリカーボネート製造用触媒。
2.前記繊維状の有機担体の繊維長が、少なくとも150μm以上である上記1に記載のポリカーボネート製造用触媒。
3.更に(d)脱水剤を含有してなる上記1又は2に記載のポリカーボネート製造用触媒。
4.更に(e)有機レドックス剤を含有してなる上記1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒。
5.前記繊維状の有機担体が、トリフェニルホスフィンを導入したポリオレフィンである上記1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒。
6.前記レドックス触媒能を有する金属化合物が、コバルト化合物である上記1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒。
7.芳香族ジヒドロキシ化合物及び一価フェノールと、一酸化炭素及び酸素とを反応させてポリカーボネートプレポリマーを製造する第一工程と、該ポリカーボネートプレポリマーを固相重合もしくは溶融重合してポリカーボネートを製造する第二工程を含み、前記第一工程において請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒を用いることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
ポリカーボネートとの分離が容易で、繰返し使用が可能なポリカーボネート製造用触媒を提供することができ、かつ、該触媒を使用し、有害な塩素ガスやホスゲン、環境に悪影響を与えると考えられるジクロロメタンやクロロホルムのようなハロゲン化有機溶媒を用いずに、従来よりも高品質のポリカーボネートを効率良く製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、(a)リンを含む繊維状の有機担体の前記リンをアルキルハライドで一部四級化した化合物と、(b)パラジウム化合物と、(c)レドックス触媒能を有する金属化合物との反応生成物を含有してなるポリカーボネート製造用触媒に関する。
以下、各触媒成分について説明する。
【0009】
(a)リンを含む繊維状の有機担体の前記リンをアルキルハライドで一部四級化した化合物
リンをアルキルハライドで一部四級化できる、リンを含む繊維状を有する有機担体としては、トリフェニルホスフィンを側鎖にもつポリオレフィン(以下、TPP変性ポリオレフィンと言う。)が例示される。
その繊維長は、150μm以上のものが使用でき、200〜5000μmが好ましい。また、繊維径については、特に制限はないが、20μm以上であることが好ましい。このようなTPP変性ポリオレフィンとしては、ジョンソン・マッセイ社製のSmopex−301(TPP変性ポリプロピレン)等の市販品がある。
四級化に用いられるアルキルハライド(R-X)としては特に制限はなく、Rとしてはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、及びベンジル等が挙げられ、Xとしては、臭素、塩素、ヨウ素が挙げられる。前記アルキルハライドは単独で用いても二種以上併用しても良い。
有機担体の四級化反応は、一般的な方法を採用することができ、担体とアルキルハライドを溶媒中で100〜150℃程度に加熱することにより得られる。溶媒も特に制限はなく、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等が用いられるが、メタノールが好ましい。
四級化反応の一例として、TPP変性ポリプロピレンを臭化ブチルにより四級化する場合の反応は次式で表される。
【化1】

【0010】
(b)パラジウム化合物
(b)パラジウム化合物としては、特に制限はなく、パラジウム原子を含有する化合物であれば、以下なる化合物であっても良いが、二価パラジウム化合物が好ましい。
二価パラジウムの例としては、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム((II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム((II)、及びジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム((II)等が挙げられ、中でも溶媒への溶解性の高いジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム((II)、及びジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム((II)が好ましい。
なお、パラジウム化合物の使用量としては、前記四級化反応により四級化されていないリン1モルに対して、0.0005〜1.0モル程度用いられる。これらのパラジウム化合物は単独で用いても二種以上併用しても良い。
(c)レドックス触媒能を有する金属化合物
レドックス触媒能を有する金属としては、ランタノイド、第5〜7族遷移金属、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等が挙げられ、中でもコバルトが好ましい。コバルト化合物としては、塩化コバルト((II)、酢酸コバルト((II)等が適しており、中でも塩化コバルト((II)が好ましい。使用量はパラジウム1モルに対して0.5〜100モル程度用いられる。これらのレドックス触媒能を有する金属は単独で用いても二種以上併用しても良い。
パラジウム化合物及びレドックス触媒能を有する金属の固定化は、前記金属塩が溶解する溶剤中、室温で混合することにより得られる。例えば、アセトンに、前記繊維状の有機担体をサスペンドさせ、そこへジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム((II)等のアセトン溶液を加え、室温で撹拌し、アセトン溶液のパラジウムの色が消失した後、塩化コバルト((II)のアセトン溶液を加え、室温で撹拌することにより固定化触媒が得られる。
これらの固定化触媒は単独で用いても、2種以上併用しても差し支えない。
このようにして、本発明の(a)、(b)及び(c)との反応生成物を含むポリカーボネート製造用触媒が得られる。本発明では、前記触媒を単独で使用することもできるが、好ましくは、更に(d)脱水剤、(e)有機レドックス剤、又は(f)助触媒と共に使用すると、触媒能が更に向上するので、望ましい。
以下に任意成分としての(d)脱水剤、(e)有機レドックス剤、及び(f)助触媒の説明を行う。
【0011】
(d)脱水剤
必要に応じて添加される脱水剤としては、モレキュラーシーブや合成ゼオライト等が用られ、特に制限はない。中でも合成ゼオライトA−3、A−4が好ましく、より好ましくはA−3である。形状にも制限はなく、粉末、粒状、ビーズ状、球状、及びチップ状のものが使用できる。脱水剤の使用量は、前記繊維状の有機担体のリンをアルキルハライドで一部四級化した化合物1質量部に対して、0〜30 質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0012】
(e)有機レドックス剤
必要に応じて添加される有機レドックス剤としては、ハイドロキノン、ベンゾキノン、α−ナフトキノン、アントラキノン、カテコール、2,2’‐ビフェノール、4,4’‐ビフェノール等が挙げられる。これらのレドックス触媒は単独で用いても2種以上併用しても良い。使用量はパラジウム1モルに対して0.5〜100モル、好ましくは5〜50モルである。
【0013】
(f)助触媒
必要に応じて、触媒活性、目的とする生成物への選択率、収率あるいは寿命の向上を目的に助触媒を添加することができる。助触媒は、重合反応に悪影響を及ぼさない限り、任意のものが使用できるが、特にヘテロポリ酸や、ヘテロポリ酸のオニウム塩等が好適に用いられる。
ヘテロポリ酸としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンタングストモリブデン酸、ケイタングストモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸等が挙げられる。また、これらのオニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩等も用いることが可能である。これらは単独でも、二種以上併用しても良い。助触媒の使用量は、前記繊維状の有機担体のリンをアルキルハライドで一部四級化した化合物1質量部に対して、0〜10 質量部程度である。
【0014】
本発明は、前記ポリカーボネート製造用触媒を使用して、ポリカーボネートを製造する方法をも提供する。以下にポリカーボネートを製造する方法を説明する。
本発明のポリカーボネートの製造方法は、芳香族ジヒドロキシ化合物及び一価フェノールと、一酸化炭素及び酸素とを反応させてポリカーボネートプレポリマーを製造する第一工程と、該ポリカーボネートプレポリマーを固相重合するか、又は溶融重合してポリカーボネートを製造する第二工程とを含み、かつ前記第一工程において、前記ポリカーボネート製造用触媒を用いるものである。
第一工程で使いられる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、従来公知の種々のものが使用でき、所望のポリカーボネートの種類により適宜選定することができる。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としては、一般式(I)
【化2】

[式中、R1及びR2は、それぞれハロゲン原子(塩素、臭素、フッ素、又はヨウ素)、アルコキシ基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルキル基、又は環上に全炭素数6〜20のアルキル基を有していてもよい芳香族基であり、o−位、m−位のいずれに結合していても良い。このR1及びR2が、それぞれ複数の場合、各R1及びR2はたがいに同一であっても、異なっていても良い。a及びbは、それぞれ0〜4の整数である。Yは単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−S−、−SO−、−SO2 −、−O−、−CO−、又は下記の一般式
【化3】

で表される基を示す。]で表される炭素数12〜37の芳香族ジヒドロキシ化合物(二価フェノール)が挙げられる。
【0015】
ここで、上記一般式(I)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、様々なものがあるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等のビス(4−ヒドロキシフェニル)化合物、又は2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン;2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のハロゲン化ビスフェノール類等が挙げられる。これらのフェノール類が置換基としてアルキル基を有する場合には、該アルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。なお、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独でも、二種以上併用しても良い。
【0016】
第一工程で用いられる一価フェノールとしては特に制限はなく、フェノール、o−、m−、又はp−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−メトキシフェノール、及びp−フェニルフェノール等が挙げられる。なかでもp−tert−ブチルフェノールやフェノールが好ましい。
一価フェノールの使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常5〜70モル%の範囲である。またこれらの一価フェノールは単独で用いても、二種以上併用しても良い。
【0017】
第一工程で、芳香族ジヒドロキシ化合物及び一価フェノールと反応させる一酸化炭素は、単体であってもよいが、不活性ガスで希釈されていても、水素との混合ガスであってもよい。また、第一工程で同様に反応させる酸素は、純酸素であっても、不活性ガスで希釈されたもの、例えば空気等の酸素含有ガスであってもよい。
【0018】
第一工程のプレポリマー製造工程において使用できる溶媒としては、特に制限はない。例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、アセトフェノン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン等が挙げられるが、環境問題等から非ハロゲン溶媒が好ましい。非ハロゲン溶媒として有用な溶媒には、カ−ボネート結合を有する化合物がある。例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジアリルカーボネート、アリルメチルカーボネート、ビス(2−メトキシフェニル)カーボネート、ビニレンカーボネート、ジベンジルカーボネート、ジ(o−メトキシフェニル)カーボネート、メチルエチルカーボネート等が挙げられる。中でも好ましいのはプロピレンカーボネートである。これらのカ−ボネート系溶媒は単独でも2種以上併用しても良い。
【0019】
酸化的カルボニル化反応によるプレポリマーの製造における反応温度は、通常30〜180℃程度で、好ましくは50〜150℃、より好ましくは80〜120℃の範囲である。180℃を超えると、分解反応等の副反応が多くなり、着色し易く、30℃未満では反応速度が低下して実用的でない。
また、反応圧力は、一酸化炭素や酸素等のガス状の原料を用いるため、加圧状態に設定することが一般的であり、一酸化炭素分圧は1×10-2〜20MPa、好ましくは1×10-2〜10MPaの範囲内で、一方、酸素分圧は1×10-2〜10MPa、好ましくは1×10-2〜5MPaの範囲内であればよい。特に、酸素分圧は、反応系内のガス組成が爆発範囲を外れるように調節することが望ましく、反応圧力が1×10-2MPa未満では、反応速度が低下し、また10MPaを超えると、反応装置が大型となって建設費用が高く、経済的に不利となる。
不活性ガスや水素等を用いる際には、その分圧は特に規定されないが、適宜実用的な圧力範囲で用いればよい。
【0020】
反応時間は、たとえば回分式の場合は1〜48時間程度、好ましくは2〜36時間、より好ましくは3〜30時間である。反応時間が1時間未満であると収率が低く、48時間を超えると収率の向上が見られなくなる。
プレポリマー製造の際の反応方式は、回分式、原料と触媒等を連続的に投入する半連続式、及び原料と触媒等を連続的に投入し、反応生成物を連続的に抜き出す連続式のいずれでも可能である。
【0021】
次に、第二工程を説明する。
この第二工程では、前記第一工程で製造されたポリカーボネートプレポリマーを固相重合又は溶融重合し、ポリカーボネートを製造する。
先ず、固相重合について説明すると、この重合に際しては、触媒として四級ホスホニウム塩が好適に用いられる。
前記四級ホスホニウム塩としては、特に制限はなく、各種のものがあるが、例えば下記一般式(II)又は(III)
(PR34 )+ (X1 )-・・・・・(II)
(PR34 )+2(Y1 )2- ・・・(III)
で表される化合物を用いることができる。
【0022】
上記一般式(II)及び(III)において、R3は有機基を示す。この有機基としては、例えば置換基を有する、若しくは有しない炭素1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、置換基を有する、若しくは有しない炭素数6〜20のアリール基、又は置換基を有する、若しくは有しない炭素数7〜20のアラルキル基が例示される。
ここで炭素1〜20のアルキル基の例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−又はイソペンチル基、n−又はイソヘキシル基、n−又はイソオクチル基、n−又はイソデシル基、n−又はイソドデシル基、n−又はイソテトラデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。また、これらのアルキル基の置換基としては、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。
炭素数6〜20のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。また、これらアリール基の置換基としては、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。
炭素数7〜20のアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、1,1,1−トリフェニルメチル基等が挙げられる。また、これらのアラルキル基の置換基としては、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。
前記四つのR3 はたがいに同一でも異なっていてもよく、また二つのR3 が結合して環構造を形成していてもよい。
1 はハロゲン原子、水酸基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、R'COO、HCO3 、(R'O)2 P(=O)O、又はBR''4 等の1価のアニオン形成が可能な基を示す。ここで、R'はアルキル基やアリール基等の炭化水素基を示し、二つのR'Oはたがいに同一でも異なっていてもよい。またR'' は水素原子や、アルキル基、アリール基等の炭化水素基を示し、四つのR'' はたがいに同一でも異なっていてもよい。Y1 はCO3 等の2価のアニオン形成が可能な基を示す。
前記X1 の具体例としては、ヒドロキシド;ボロヒドリド;テトラフェニルボレート;アルキルトリフェニルボレート;ホルメート;アセテート;プロピオネート;ブチレート;フルオリド;クロリド;ヒドロカーボネート等を挙げることができる。また、Y1 の具体例としては、カーボネート等を挙げることができる。
【0023】
前記一般式(II)で表される四級ホスホニウム塩の具体例としては、テトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、テトラナフチルホスホニウムヒドロキシド、テトラ(クロロフェニル)ホスホニウムヒドロキシド、テトラ(ビフェニル) ホスホニウムヒドロキシド、テトラトリルホスホニウムヒドロキシド、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトライソプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルルホスホニウムヒドロキシド等のテトラ(アリール又はアルキル) ホスホニウムヒドロキシド類;メチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、エチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、プロピルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、イソプロピルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、オクチルトリフエニルホスホニウムヒドロキシド、デシルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、シクロヘキシルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、エトキシベンジルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、エトキシメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、アセトキシメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、フェナシルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、クロロメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ブロモメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ビフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ナフチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、クロロフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、アセトキシフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド等のモノ(アリール又はアルキル)トリフェニルホスホニウムヒドロキシド類;フェニルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、ビフェニルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、フェニルトリヘキシルホスホニウムヒドロキシド、ビフェニルトリヘキシルホスホニウムヒドロキシド等のモノ(アリール)トリアルキルホスホニウムヒドロキシド類;ジメチルジフェニルホスホニウムヒドロキシド、ジエチルジフェニルホスホニウムヒドロキシド、ジ(ビフェニル) ジフェニルホスホニウムヒドロキシド等のジアリールジアルキルホスホニウムヒドロキシド類;更にはイソプロピルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、イソプロピルトリエチルホスホニウムヒドロキシド、イソプロピルトリブチルホスホニウムヒドロキシド、シクロヘキシルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、シクロヘキシルトリエチルホスホニウムヒドロキシド、シクロヘキシルトリブチルホスホニウムヒドロキシド、1,1,1−トリフェニルメチルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、1,1,1−トリフェニルメチルトリエチルホスホニウムヒドロキシド、1,1,1−トリフェニルメチルトリブチルホスホニウムヒドロキシド等のモノ(アルキル又はアラルキル)トリアルキルホスホニウムヒドロキシド類等が挙げられる。
【0024】
更に、テトラメチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラエチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラナフチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ(クロロフェニル) ホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ(ビフェニル) ホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラトリルホスホニウムテトラフェニルボレート等のテトラ(アルキル又はアリール)ホスホニウムテトラフェニルボレート類;メチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、エチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、プロピルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ブチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、オクチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラデシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、シクロペンチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、シクロヘキシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、エトキシベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、アセトキシメチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、フェナシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、クロロメチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ブロモメチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、フェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ナフチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、クロロフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、アセトキシフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のモノ(アリール又はアルキル)トリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート類;フェニルトリメチルホスホニウムテトラフェニルボレート、 ビフェニルトリメチルホスホニウムテトラフェニルボレート、フェニルトリヘキシルホスホニウムテトラフェニルボレート、フェニルトリヘキシルホスホニウムテトラフェニルボレート等のモノアリールトリアルキルホスホニウムテトラフェニルボレート類;ジメチルジフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ジエチルジフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ジ(ビフェニル)ジフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のジアリールジアルキルホスホニウムテトラフェニルボレート類が挙げられる。
【0025】
更に、対アニオンとして、上記のヒドロキシドやテトラフェニルボレート類の代わりに、アルキルトリフェニルボレート、フェノキシド等のアリールオキシ基、メトキシド、エトキシド等のアルキルオキシ基、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート等のアルキルカルボニルオキシ基、ベンゾエート等のアリールカルボニルオキシ基、クロリド、ブロミド等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0026】
また、上記一般式(III)で表される2価の対アニオンを有するものとしては、例えばビス(テトラフェニルホスホニウム)カーボネート、ビス(ビフェニルトリフェニルホスホニウム)カーボネート等の四級ホスホニウム塩や、更に、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのビス−テトラフェニルホスホニウム塩、エチレンビス(トリフェニルホスホニウム)ジブロミド、トリメチレンビス(トリフェニルホスホニウム)−ビス( テトラフェニルボレート)等も挙げることができる。
【0027】
これらの四級ホスホニウム塩の中で、触媒活性が高く、かつ熱分解が容易でポリマー中に残留しにくい等の点から、アルキル基を有するホスホニウム塩、具体的には、テトラメチルホスホニウムメチルトリフェニルボレート、テトラエチルホスホニウムエチルトリフェニルボレート、テトラプロピルホスホニウムプロピルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムブチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、トラエチルホスホニウムテトラフェニルボレート、シクロヘキシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリメチルエチルホスホニウムトリメチルフェニルボレート、トリメチルベンジルホスホニウムベンジルトリフェニルボレート等が好適である。
【0028】
また、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、及びシクロヘキシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等は、分解温度が比較的低いので、容易に分解し、製品ポリカーボネートに不純物として残る恐れが小さいという点で好ましい。また、炭素数が少ないので、ポリカーボネートの製造における原単位を低減でき、コスト的に有利であるという点でも好ましい。
また、触媒効果と得られるポリカーボネートの品質とのバランスから、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートが好ましく用いられる。
更にシクロヘキシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートやシクロペンチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートが、触媒効果と得られるポリカーボネートの品質とのバランスに優れる点で好ましく使用することができる。
【0029】
この固相重合での反応触媒としては、好ましくは四級ホスホニウム塩、及び必要に応じて他の触媒も用いられるが、プレポリマー生成工程で添加し、残存しているものをそのまま使用しても、又は前記触媒を再度粉末、液体又は気体状態で添加してもよい。
この固相重合反応を実施する際の反応温度Tp(℃)及び反応時間は、結晶化プレポリマーの種類(化学構造,分子量等)や形状、結晶化プレポリマー中の触媒の有無、種類又は量、必要に応じて追加される触媒の種類又は量、結晶化プレポリマーの結晶化の度合や溶融温度Tm'(℃)の違い、目的とする芳香族ポリカーボネートの必要重合度、他の反応条件等によって異なるが、好ましくは目的とする芳香族ポリカーボネートのガラス転移湿度以上で、かつ固相重合中の結晶化プレポリマーが溶融しないで固相状態を保つ範囲の温度、より好ましくは下記式(IV)
Tm'−50≦Tp<Tm' ・・・(IV)
で示される範囲の温度において、1 分〜100時間程度、好ましくは0.1〜50時間程度加熱することにより、固相重合反応を行う。
【0030】
このような温度範囲としては、例えばビスフェノールAのポリカーボネートを製造する場合には、約150〜260℃が好ましく、特に約180〜245℃が好ましい。また、重合工程では、重合中のポリマーにできるだけ均一に熱を与え、副生物の抜き出しを有利に進めるために、攪拌したり、反応器自身を回転させたり、又は加熱ガスによって流動させる方法等が好ましく用いられる。
【0031】
一般に工業的に有用な芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量は、6000〜200,000程度であり、上記固相重合工程を実施することによって、このような重合度のポリカーボネートが容易に得られる。結晶化プレポリマーの固相重合によって得られた芳香族ポリカーボネートの結晶化度は、重合前のプレポリマーの結晶化度より増大していることから、本発明の方法では、結晶性芳香族ポリカーボネート粉体が得られる。結晶性芳香族ポリカーボネート粉体は、冷却せずに直接押出機に導入してペレット化することもでき、冷却せずに直接成形機に導入して成形することもできる。重合に寄与する予備重合と固相重合との割合は、必要に応じて適宜変えてもよい。
【0032】
膨潤固相状態での重合方法は、上記方法で結晶化したプレポリマーを、後述する膨潤ガスにより膨潤させた状態での固相重合によって、更に重合を行わせる方法である。この方法は、溶融重合反応によりポリカーボネートを製造する方法において、副生するフェノールのような低分子化合物を脱気又は抽出除去する場合、膨潤ガスにより膨潤状態にある高分子(オリゴカーボネート) から、低分子化合物を脱気又は抽出除去する方が、高粘度溶融高分子や結晶化した固体からの脱気又は抽出除去よりも物質移動速度が速くなり、高効率で反応できることを利用したものである。
【0033】
ここで使用する膨潤溶媒は、ポリカーボネートを以下に示す反応条件で膨潤可能な単一膨潤溶媒、それらの単一膨潤溶媒の混合物、又は単一膨潤溶媒もしくはそれらの混合物にポリカーボネートの貧溶媒を単一あるいは数種類混合したものが例示される。
本工程における膨潤状態とは、以下に示した反応条件の範囲において、反応原料であるプレポリマーフレークを熱膨潤値以上に体積的又は重量的に増加した状態をいい、膨潤溶媒とは、下記反応条件の範囲において完全に気化する沸点を有するか、又は通常6.7kPa以上の蒸気圧を有する単一化合物又はそれらの混合物であり、同時に上記の膨潤状態を形成させることができるものをいう。
【0034】
このような膨潤溶媒は、上記の膨潤条件を満たしていれば、特に制限はない。例えば、溶解度パラメーターが4〜20(cal/cm31/2 の範囲、好ましくは7〜14(cal/cm31/2 の範囲にある芳香族化合物や含酸素化合物が該当する。
膨潤溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエ一テル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。これらの中でも、炭素数6〜20の芳香族炭化水素の単一化合物又は混合物が好ましい。
【0035】
また、膨潤溶媒と混合される貧溶媒の条件としては、下記の反応条件で溶媒へのポリカーボネート溶解度が0.1質量%以下であり、反応に関与する可能性が少ない直鎖又は分岐鎖を有する炭素数4〜18の飽和炭化水素化合物、又は炭素数4〜18でかつ低度の不飽和炭化水素化合物が好ましい。膨潤溶媒及び貧溶媒の沸点が、共に250℃を越えると残留溶媒の除去が困難となり、品質が低下する可能性があり好ましくない。
【0036】
このような貧溶媒と膨潤溶媒とを混合して用いる場合には、その混合溶媒中に膨潤溶媒が1質量%以上合有されていれば良く、好ましくは5質量%以上の膨潤溶媒を混合溶媒中に存在させる。この膨潤固相重合工程では、反応温度が好ましくは100〜240℃であり、反応時の圧力が、好ましくは1330Pa〜0.5MPa・G、特に好ましくは大気圧下で実施する。反応温度が上記範囲より低いと溶融重合反応が進行せず、反応温度がプレポリマーの融点を超える高温条件では、固相状態を維持できず、粒子間で融着等の現象が生じ、運転操作性が著しく低下する。従って、反応温度は融点以下にする必要がある。
【0037】
膨潤溶媒ガスの供給は、液体状態で反応器に供給し反応器内で気化させても、予め熱交換器等により気化させた後、反応器に供給してもよい。ガス供給量としてはプレポリマー1g当たり0.5リットル(標準状態)/hr以上のガスを反応器に供給することが好ましい。膨潤溶媒ガスの流通量は反応速度と密接に関係し、フェノール除去効果と同時に熱媒体としての作用をもしているため、ガスの流通量の増加に伴い反応速度が向上する。このような膨潤固相重合に用いられる反応器に特に制限はない。
【0038】
次に、第二工程で使用される他の重合方法である溶融重合の説明を行う。
この製造方法においては、溶融重合反応の際に使用する重合触媒としては、好ましくは(g)含窒素有機塩基性化合物と(h)アリール基を含む四級ホスホニウム塩との組合せを用いる。
上記(g)成分の含窒素有機塩基性化合物としては、特に制限はなく、各種のものがある。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン等の脂肪族第三級アミン化合物、トリフェニルアミン等の芳香族第三級アミン化合物、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、アミノキノリン、ジアザビシクロオクタン(DABCO)等の含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0039】
更に、一般式(IV)、一般式(V)、又は一般式(VI)で表される四級アンモニウム塩を挙げることができる。
(NR4 4 + ( X2- ・・・(IV)
(NR5 4 +2(Y22- ・・・(V)
〔(NR6 4 +-n−P(=O)R73-n ・・・(VI)
上記一般式(IV)、(V)、あるいは(VI)において、R4 は有機基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基やシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアリールアルキル基等を示す。ここで、4つのR4 はたがいに同一でも異なっていてもよく、また二つのR4 が結合して環構造を形成していてもよい。また一般式(IV)において、X2 はハロゲン原子、水酸基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、HCO3 又はBR4 を示し、一般式(V)において、Y2 はCO3 を示す。ここで、R5 は水素原子、又はアルキル基やアリール基等の炭化水素基を示し、4つのR5 はたがいに同一でも異なっていてもよい。また一般式(VI)において、R7 は炭化水素基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基又は水酸基を示し、R7 はたがいに同一でも異なっていてもよく、nは1〜3の整数を示す。
【0040】
このような四級アンモニウム塩としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基、アリール基、アルアリール基等を有するアンモニウムヒドロキシド類;テトラメチルアンモニウムボロハイドラド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラメチルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基性塩が挙げられる。また、一般式(V)のような2価アニオンであってもよく、例えば、ビス(テトラメチルアンモニウム)カーボネート等が挙げられる。あるいは、一般式(VI)のようなリン酸塩であってもよく、例えば、リン酸テトラメチルアンモニウム、フェニルリン酸テトラメチルアンモニウム、ジフェニルリン酸テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。
これらの含窒素有機塩基性化合物の中で、触媒活性が高く、かつ熱分解が容易でポリマー中に残留しにくい等の点から、上記一般式(IV)で表される四級アンモニウム塩、具体的にはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライドが好ましく、特にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドが好適である。この(g)成分の含窒素有機塩基性化合物は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
一方、(h)成分の四級ホスホニウム塩としては、前記一般式(II)、(III)で表されるもののうち、アリール基を有する化合物、又は、一般式(VII)で表される化合物等が挙げられる。
〔(PR4 4) +-m−P(=O)R93-m ・・・(VII)
〔式中、R4 は一般式(IV)と同様であり、R9 は炭化水素基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基又は水酸基を表し、互いに同一でも異なっていても良く、m は1〜3の整数を表す。]
一般式(VII)で表されるようなリン酸塩、例えば、リン酸テトラフェニルホスホニウム、フェニルリン酸テトラフェニルホスホニウム、ジフェニルリン酸テトラフェニルホスホニウム等が挙げられる。
更に好ましくは、本発明の製造方法では、溶融重合反応の際に、重合触媒として、含窒素有機塩基性触媒と下記一般式(VIII)、(IX)あるいは(X)で表される四級ホスホニウム化合物を組み合わせて用いることが望ましい。ここで、一般式(VIII) は、
【化4】

〔式中、R10 は有機基を示し、たがいに同一でも異なっていてもよく、X3 はハロゲン原子、水酸基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、HCO3 又はBR114(R11は水素原子又は炭化水素基を示し、4つのR11はたがいに同一でも異なっていてもよい)を示し、tは0〜4の整数を示す。〕で表され、一般式(IX)は、
【化5】

〔式中、R10 は一般式(VIII)と同様であり、Y3 はCO3 を示す。〕で表され、一般式(X)は、
【化6】

〔式中、R10 は一般式(VIII)と同様であり、R11 は炭化水素基,アルキルオキシ基,アリールオキシ基又は水酸基を示し、q は1〜4の整数,r は1〜3の整数を示す。〕で表される。
【0042】
このような含窒素有機塩基性触媒と組み合わされて使用されるアリール基を含む四級ホスホニウム化合物の具体例としては、例えばテトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、ビフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムフェノキシド、ビフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、ナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムフェノキシド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、ビフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、フェノキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド又はナフチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等が挙げられる。
【0043】
上記(h)成分の四級ホスホニウム塩の中では、反応時の熱安定性による活性と得られるポリカーボネートの品質のバランスの点から、特にテトラアリールホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラアリールホスホニウムフェノキシド、モノアリールトリフェニルホスホニウムボレート及びモノアリールトリフェニルホスホニウムフェノキシドが好ましい。即ち、アルキル基を含まない四級ホスホニウム塩が熱安定性にすぐれ、反応後期の高分子量化に有効となる。
【0044】
この(h)成分の四級ホスホニウム塩は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、(g)成分としての含窒素有機塩基性化合物及び(h)成分としてのアリール基を含む四級ホスホニウム塩は、各々金属不純物の含有量は50ppm以下であることが好ましく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物の含有量が30ppm以下のものがより好ましく、特に10ppm以下のものが好ましい。
【0045】
この重合触媒は、原料であるたとえばジヒドロキシ化合物1モルに対して、(g)成分と(h)成分との合計量が、通常2×10-1 〜2×10-8 モル、好ましくは2×10-2 〜2×10-7 モル、更に好ましくは2×10-3 〜2×10-6モルになるような割合で添加される。
【0046】
本発明の製造方法に従って溶融重合反応を行うに当たっては、反応温度は、特に制限はなく、通常100〜330℃の範囲、好ましくは180〜300℃の範囲で選ばれるが、より好ましくは、反応の進行に合わせて次第に180〜300℃まで温度を上げていく方法がよい。この溶融重合反応の温度が100℃未満では反応速度が遅くなり、一方330℃を超えると副反応が生じたり、あるいは生成するポリカーボネートが着色する等の問題が生じ、好ましくない。また、反応圧力は、使用するモノマーの蒸気圧や反応温度に応じて設定される。これは、反応が効率良く行われるように設定されればよく、限定されるものではない。通常、反応初期においては、0.1〜5mPaまでの大気圧(常圧)ないし加圧状態にしておき、反応後期においては、減圧状態、好ましくは最終的には1.3Pa〜1.33×10-2mPaにする場合が多い。更に、反応時間は、目標の分子量となるまで行えばよく、通常、0.2〜10時間程度である。
【0047】
そして、上記の溶融重合反応は、通常不活性溶剤の不存在下で行われるが、必要に応じて、得られるポリカーボネートの1〜150質量%の不活性溶剤の存在下において行ってもよい。ここで、不活性溶剤としては、例えば、ジフェニルエーテル、ハロゲン化ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ポリフェニルエーテル、ジクロロベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族化合物、トリシクロ(5,2,10)デカン、シクロオクタン、シクロデカン等のシクロアルカン等が挙げられる。また、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、ここで、不活性ガスとしては、例えばアルゴン、二酸化炭素、一酸化二窒素、窒素等のガス、クロロフルオロ炭化水素、エタンやプロパン等のアルカン、エチレンやプロピレン等のアルケン等、各種のものが挙げられる。
【0048】
また、必要に応じ、酸化防止剤を反応系に添加してもよい。この酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤が好ましく、例えばトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスチルジホスファイト、トリス(2−クロロエチル)ホスファイト、トリス(2、3−ジクロロプロピル)ホスファイト等のトリアルキルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト等のトリシクロアルキルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(エチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ヒドロキシフェニル)ホスファイト等のトリアリールホスファイト、2−エチルヘキシルジフェニルホスファイト等のモノアルキルジアリールホスファイト、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、ジステアリルペンタエリスリチルジホスフェート、トリス(2−クロロエチル)ホスフェート、トリス(2、3−ジクロロプロピル)ホスフェート等のトリアルキルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート等のトリシクロアルキルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等のトリアリールホスフェート等が挙げられる。
【0049】
反応が進行するとともに、使用した炭酸ジエステルに対応するフェノール類、アルコール類、又はそれらのエステル類及び不活性溶剤が反応器より脱離してゆく。これら脱離物は、分離、精製しリサイクル使用も可能であり、これらを除去する設備があれば好ましい。反応方式としては、バッチ式又は連続式に行うことができ、かつ任意の装置を使用することができる。なお、連続式で製造する場合には、少なくとも二基以上の反応器を使用し、上記の反応条件を設定するのが好ましい。本発明で用いられる反応器は、その材質や構造は、特に制限はされないが、通常の攪拌機能を有していればよい。ただし、反応後段においては粘度が上昇するので高粘度型の攪拌機能を有するものが好ましい。更に、反応器の形状は槽型のみならず、押出機型のリアクター等でもよい。
【0050】
以上に説明したように、本発明に係るポリカーボネート製造用触媒は、固相重合でも溶融重合でも、反応終了後、濾過等により容易に分離することができ、該触媒を分離したポリカーボネート中に残存金属量が殆ど存在しない。また、繰返し使用が可能で、触媒効率が高い。更に、溶剤不要の脱水剤と組み合わせて着色のほとんど無いポリカーボネートを得ることが可能である。
更に、本発明に係るポリカーボネートの製造方法では、有害な塩素ガスやホスゲン、環境に悪影響を与えると考えられるジクロロメタンやクロロホルムのようなハロゲン化有機溶媒を用いずに、重合度の高い高品質のポリカーボネートを効率良く製造することができる等、優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0051】
以下に本発明の実施例、及び比較例を掲げて更に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
製造例1
(TPP変性ポリオレフィンの四級化反応)
内容量200mlのオートクレーブにTPP変性ポリプロピレン(ジョンソン・マッセイ製、Smopex−301、繊維長:250μm、lot.PT0023、TPP1.00ミリモル/g)6.00g、メタノール85ml、及び1−ブロモブタン1.64gを入れ、窒素でパージし、110℃に加熱し、48時間攪拌した。その後、室温にまで冷却した。沈殿物を濾過し、多量のメタノールで洗浄して未反応の1−ブロモブタンを除き、70℃で24時間真空乾燥した。収量は6.47gであった。増量分よりホスフィンは58%が四級化されていた。
【0052】
(三種同時固定化触媒Aの調製)
上記により得られた58%四級化されたTPP変性ポリプロピレン2.50gをアセトン30mlにサスペンドさせた。これにジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム((II)のアセトン溶液〔ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム((II)0.075ミリモル、アセトン:20ml〕をゆっくり加え、続いて塩化コバルト(II)のアセトン溶液〔塩化コバルト((II):0.15ミリモル、アセトン:20ml〕を加えて、室温で1時間撹拌した。その後、沈殿物を濾過し、アセトンで洗浄し、70℃で24時間真空乾燥し、目的の固定化触媒Aを得た。得られた固定化触媒Aを電子顕微鏡にて確認したところ、当初のTPP変性ポリプロピレンの繊維長である250μmを保持していることを確認した。
【0053】
製造例2
(TPP変性ポリオレフィンの四級化反応)
製造例1において、1‐ブロモブタンの使用量を2.46gにし、反応温度を120℃、反応時間を72時間に変更した他は製造例1と同様に実施した。収量は6.55gであった。増量分よりホスフィンは67%が四級化されていた。
【0054】
(三種同時固定化触媒Bの調製)
上記により得られた67%四級化されたTPP変性ポリプロピレン2.24gをアセトン30mlにサスペンドさせた。これにジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム((II)のアセトン溶液〔ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム((II)0.075ミリモル、アセトン:20ml〕をゆっくり加え、続いて塩化コバルト((II)のアセトン溶液〔塩化コバルト((II):0.15ミリモル、アセトン:20ml〕を加えて、室温で1時間撹拌した。その後、沈殿物を濾過し、アセトンで洗浄し、70℃で24時間真空乾燥し、目的の固定化触媒Bを得た。得られた固定化触媒Bを電子顕微鏡にて確認したところ、当初のTPP変性ポリプロピレンの繊維長である250μmを保持していることを確認した。
【0055】
実施例1
(ポリカーボネートプレポリマーの製造)
内容量30mlのオートクレーブに、ビスフェノールA:4.16ミリモル、製造例1で得られた固定化触媒A 422mg、ベンゾキノン0.31ミリモル、合成ゼオライトA−3粉末(和光純薬製、粒径75μm未満)1.0g、脱水処理をしたプロピレンカーボネート10mlを入れ、一酸化炭素6.0MPa、及び酸素0.3MPaを25℃で充填した。封入した後に容器を閉構造とし、100℃で24時間加熱した。反応終了後、7μmのフィルターを用いて合成ゼオライト及び固定化触媒を除き、メタノール再沈殿により、目的のポリカーボネートを得た。これを70℃で24時間、真空乾燥した。目視におけるポリカーボネート粉末の色は薄い黄色であった。得られたポリカーボネートの収率(%)と、数平均分子量(Mn)及び重量数平均分子量(Mw)を第1表に示す。また、分離された合成ゼオライト及び固定化触媒を電子顕微鏡にて確認したところ、固定化触媒については、当初のTPP変性ポリプロピレンの繊維長である250μmを保持していることを確認した。
【0056】
実施例2
(ポリカーボネートプレポリマーの製造)
実施例1において、ベンゾキノンを加えなかった他は、実施例1と同様に実施した。目視におけるポリカーボネート粉末の色は白色であった。ポリカーボネート中の残存パラジウム量は25ppm以下であった。得られたポリカーボネートの収率(%)と、数平均分子量(Mn)及び重量数平均分子量(Mw)を第1表に示す。
【0057】
実施例3
(ポリカーボネートプレポリマーの製造)
実施例1において、実施例1で得られた固定化触媒A 422mgの代わりに製造例2で得られた固定化触媒B 373mgを用いた他は、実施例1と同様に実施した。目視におけるポリカーボネート粉末の色は薄い黄色であった。ポリカーボネート中の残存パラジウム量は25ppm以下であった。得られたポリカーボネートの収率(%)と、数平均分子量(Mn)及び重量数平均分子量(Mw)を第1表に示す。
【0058】
実施例4
(ポリカーボネートプレポリマーの製造)
実施例3において、ベンゾキノンを加えなかった他は実施例3と同様に実施した。目視におけるポリカーボネート粉末の色は白色であった。ポリカーボネート中の残存パラジウム量は25ppm以下であった。得られたポリカーボネートの収率(%)と、数平均分子量(Mn)及び重量数平均分子量(Mw)を第1表に示す。
【0059】
実施例5
(ポリカーボネートの製造)
(第一工程)内容量100mlのオートクレーブに、ビスフェノールA 9.83ミリモル、p−tert−ブチルフェノール5.29ミリモル、製造例1で得られた固定化触媒A 997mg、合成ゼオライトA−3粉末(和光純薬製、粒径75μm未満)3.0g、及びプロピレンカーボネート30mlを入れ、一酸化炭素6.0MPa、酸素0.3MPaを25℃で充填した。封入した後に容器を閉構造とし、100℃で24時間加熱した。
反応終了後、合成ゼオライト及び固定化触媒を分離し、メタノール再沈殿により、目的のポリカーボネートプレポリマーを得、70℃で、24時間、真空乾燥した。
(第二工程)第一工程で得られたポリカーボネートプレポリマー500mgにシクロヘキシルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートを300ppm添加し、内径1.3cmのSUS管に入れ、窒素ガス100ml/分の速度で導入し、190℃で2時間、210℃で2時間、230℃で4時間、計8時間の固相重合を実施し、目的のポリカーボネートを得た。ポリカーボネート中の残存パラジウム量は25ppm以下であった。
第一工程で得られたポリカーボネートプレポリマー及び第二工程で得られたポリカーボネートの分子量(Mn,Mw)を第2表に示す。
【0060】
比較例1
実施例5において、p−tert−ブチルフェノールを用いなかった他は、実施例5と同様に実施した。第一工程で得られたポリカーボネートプレポリマー及び第二工程で得られたポリカーボネートの分子量(Mn,Mw)を第2表に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
以上より、本発明の触媒は、反応終了後、濾過等により容易に分離することができ、溶剤不要の脱水剤と組み合わせて着色のほとんど無いポリカーボネートを得ることができることがわかる。更に、本発明のポリカーボネートの製造方法では、有害な塩素ガスやホスゲン、及びハロゲン化有機溶媒を用いることなく、上記2段階の製造工程により、分子量の大きい高品質のポリカーボネートを効率良く製造することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリカーボネート製造用触媒は、パラジウム化合物とレドックス触媒能を有する金属化合物を繊維状有機担体により固定化したものであり、パラジウムのクラスターが形成せず、安定してポリカーボネートを製造できる。また、本発明のポリカーボネート製造用触媒は、反応終了後、濾過等により容易に分離することができ、該触媒を分離したポリカーボネート中に残存金属量が殆ど存在しない。また、溶剤不要の脱水剤と組み合わせて着色の無いポリカーボネートが得ることができる。
更に、本発明のポリカーボネートの製造方法では、有害な塩素ガスやホスゲン、環境に悪影響を与えると考えられるジクロロメタンやクロロホルムのようなハロゲン化有機溶媒を用いずに、上記2段階の製造工程により分子量の大きい高品質のポリカーボネートを効率良く製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リンを含む繊維状の有機担体の前記リンをアルキルハライドで一部四級化した化合物と、(b)パラジウム化合物と、(c)レドックス触媒能を有する金属化合物との反応生成物を含有してなるポリカーボネート製造用触媒。
【請求項2】
前記繊維状の有機担体の繊維長が、少なくとも150μm以上である請求項1に記載のポリカーボネート製造用触媒。
【請求項3】
更に(d)脱水剤を含有してなる請求項1又は2に記載のポリカーボネート製造用触媒。
【請求項4】
更に(e)有機レドックス剤を含有してなる請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒。
【請求項5】
前記繊維状の有機担体が、トリフェニルホスフィンを導入したポリオレフィンである請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒。
【請求項6】
前記レドックス触媒能を有する金属化合物が、コバルト化合物である請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒。
【請求項7】
芳香族ジヒドロキシ化合物及び一価フェノールと、一酸化炭素及び酸素とを反応させてポリカーボネートプレポリマーを製造する第一工程と、該ポリカーボネートプレポリマーを固相重合もしくは溶融重合してポリカーボネートを製造する第二工程を含み、前記第一工程において請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート製造用触媒を用いることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。

【公開番号】特開2009−235256(P2009−235256A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83737(P2008−83737)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】