説明

ポリスチレン系樹脂発泡板およびディスプレイパネル

【課題】 本発明は、優れた表面平滑性を有し、美麗で商品価値が高く、しかも表面へ直接UVインキによるインクジェット印刷が可能なポリスチレン系樹脂発泡板、および該発泡板からなるインクジェット印刷用ディスプレイパネルを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のポリスチレン系樹脂発泡板は、環状ダイから筒状に押出された、ポリスチレン系樹脂発泡体をピンチロールにて挟圧して該発泡体の内面を融着させて製造された厚み2〜20mm、見掛け密度0.04〜0.2g/cmのポリスチレン系樹脂発泡板であり、少なくとも片面の表面気泡数が100個/4mm以上であり、且つ算術平均表面粗さ:Raが特定の(1)及び(2)式を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合せ方式で得られるポリスチレン系樹脂発泡板に関し、詳しくは表面が平滑、美麗で、直接印刷しても表面が粗れることがなく、特に紫外線硬化型インキによるインクジェット直接印刷用ディスプレイパネルとして好適なポリスチレン系樹脂発泡板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、押出機の先端に取付けられたダイより発泡性溶融樹脂を円筒状に押出し、得られた筒状発泡体の表面に空気を吹き付けて冷却しつつ、押圧ロール間を通過させて発泡体内面を融着させることにより(貼り合せ方式)ポリスチレン系樹脂発泡板を製造することが行われてきた。
【0003】
この貼り合せ方式によるポリスチレン系樹脂発泡板(以下、単に発泡板ともいう。)は、軽量で、加工性に優れることから、折り箱に成形したり(特許文献1)、インクジェット紙やコート紙が表面に貼られたディスプレイパネルとして使用されてきた(特許文献2)。
【0004】
しかし、従来のポリスチレン系樹脂貼り合せ発泡板の表面の平滑性、美麗さを更に向上させることにより商品価値が高められたポリスチレン系樹脂発泡板の開発が望まれる。具体的には、発泡板の表面平滑性や美麗さは、表面気泡数などを指標として評価することができ、例えば、従来の発泡板においては、表面気泡数が80個/4mm未満であるのに対し、80個/4mmを超え、望ましくは表面気泡数100個/4mm以上の発泡板の開発が期待される。
【0005】
しかし、従来においては、表面気泡数80個/4mm以上の発泡板を製造することは困難であった。即ち、表面気泡数80個/4mm以上の発泡板を製造しようとして、気泡調整剤の添加量を増やすと、押出された筒状発泡体にヒダ状の凹凸が発生し、このヒダが原因で空気を吹き付けて冷却する際に、均一な冷却ができなくなって、得られる発泡板に厚み厚薄の不均一、表面気泡数の不均一が発生し、商品として通用するポリスチレン系樹脂発泡板を製造することができなかった。
【0006】
一方、発泡板に紙を貼って、その紙に印刷を施してディスプレイパネルとして使用することは従来から行われてきたが、発泡板に直接印刷することができれば、材料費を安価に抑え、製造コストを低減することもできる。しかし、従来の発泡シートは、例えば、紫外線硬化型インキ(以下、UVインキという。)を用いてインクジェット印刷を直接行うと、発泡板の表面に凹凸が発生して粗れてしまい、商品価値が低下するという欠点を有するものであった。具体的には、発泡板の表面平滑性は算術平均表面粗さRaによっても評価することができるが、印刷前の算術平均表面粗さ:Ra(a)に対し印刷後の算術平均表面粗さ:Ra(b)が大きくなることを防ぐことができなかった(Ra(a)<Ra(b))。
【0007】
【特許文献1】特開平6−297537号公報
【0008】
【特許文献2】特開2002−215072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた表面平滑性を有し、美麗で商品価値が高く、しかも表面へ直接UVインキによるインクジェット印刷が可能なポリスチレン系樹脂発泡板、および該発泡板からなるUVインクジェット直接印刷用のディスプレイパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記したように、ディスプレイパネル、折箱容器素材等として使用されているポリスチレン系樹脂発泡板は、発泡剤を含有する溶融スチレン系樹脂を押出機の先端に取付けた環状ダイから低圧領域に円筒状に押し出して筒状発泡体とした後、ロール間に通して該筒状発泡体の内面を圧着させることにより板状に加工する押出発泡貼り合せ方式により製造されている。
【0011】
本発明者等は、貼り合せ方式において、次の<1>〜<4>の手段などを採用することにより、得られるポリスチレン系樹脂発泡板の表面の平滑性、美麗さを向上させることに成功した。
【0012】
即ち、<1>ダイ出口の間隙を広げることによりヒダの発生を抑えると共に、<2>ダイのリングとシャフトの温度調節を行って発泡性溶融樹脂の温度を制御することによりダイ内での内部発泡を防止し、過冷却による筒状発泡体の内部の融着不良を防止し、且つ<3>可能な限りダイ出口に近い位置で筒状発泡体に冷却エアを吹付けると共に、<4>前記リングの温度制御によりダイ出口外側の過冷却を防止して筒状発泡体の冷却ムラを無くすことにより、表面気泡数100個/4mm以上の発泡板であって、算術平均表面粗さ:Raが小さい発泡板を得ることに成功した。更に、この発泡板にUVインキを用いてインクジェット方式の直接全面ベタ印刷を施したところ、表面粗れが発生することがなく、極めて美麗な印刷仕上がりのディスプレイパネルを得ることができることを見出した。
【0013】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂発泡板およびディスプレイパネルが提供される。
【0014】
〔1〕 環状ダイから筒状に押出された、ポリスチレン系樹脂発泡体をピンチロールにて挟圧して該発泡体の内面を融着させて製造された厚み2〜20mm、見掛け密度0.04〜0.2g/cmのポリスチレン系樹脂発泡板において、少なくとも片面の表面気泡数が100個/4mm以上であると共に、算術平均表面粗さ:Raが下記(1)及び(2)式を満足することを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡板。
【0015】
MDのRa≦2.5μm・・・(1)
TDのRa≦3.5μm・・・(2)
(但し、MDはポリスチレン系樹脂発泡板の押出方向、TDは押出方向に対して直角なポリスチレン系樹脂発泡板の幅方向である。)
〔2〕 前記片面の表層密度が0.15〜0.35g/cmである前記〔1〕に記載のポリスチレン系樹脂発泡板。
【0016】
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリスチレン系樹脂発泡板からなり紫外線硬化型インキによるインクジェット印刷用ディスプレイパネル。
【発明の効果】
【0017】
本発明の貼り合せ方式で製造されたポリスチレン系樹脂押出発泡板は、表面気泡数が100個/4mm以上であると共に、算術平均表面粗さ:Raが特定数値以下であることにより、従来の貼り合せ方式押出発泡板では到達することができなかった、優れた表面の平滑性と美麗さを有するものである。
【0018】
また、該ポリスチレン系樹脂貼り合せ発泡板は、表面気泡数が100個/4mm以上であると共に、算術平均表面粗さ:Raが特定数値以下、更に好ましくは表層密度が特定数値範囲のものであることにより、UVインキを用いるインクジェット印刷により、表面への直接印刷を行っても印刷面に凹凸が発生することが抑制され、印刷模様や印刷文字の輪郭が不明確になることもなく、美麗且つ安価な印刷ディスプレイパネルとして使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂貼り合せ発泡板について詳細に説明する。
【0020】
本発明のポリスチレン系樹脂貼り合せ発泡板は、円筒状に押出発泡された筒状発泡体を押圧ロール間を通過させることにより発泡体内面を融着させる、貼り合せ方式により製造されたものである。該発泡体の厚みは2〜20mm、見掛け密度は0.04〜0.2g/cmである。かかる発泡板は、軽量性、加工性、曲げ強度や圧縮強度等の機械的諸物性が優れたものである。
【0021】
発泡体の厚みが2mm未満では強度が弱くなり、ディスプレイパネルや成形された折り箱の実用性が失われる虞がある。一方、20mm超では、厚すぎて取り扱い難くなり、コストアップにも繋がるので好ましくない。かかる観点から、厚みは3〜15mmが好ましく、より好ましくは4〜10mmである。
【0022】
発泡体の見掛け密度が0.04g/cm未満では、強度が弱くなりすぎる虞があり、0.2g/cm超では重過ぎて取扱いにくくなる虞がある。かかる観点から、見掛け密度は0.05〜0.15g/cmが好ましい。
【0023】
本明細書における見掛け密度の測定は、JIS K6721(1977)に基づいて測定される値である。
【0024】
本発明の発泡板を構成するポリスチレン系樹脂には、スチレンの単独重合体及び共重合体が包含され、その重合体中に含まれるスチレン系モノマー単位は少なくとも25重量%以上、好ましくは50重量%以上である。
【0025】
前記ポリスチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリスチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物などが例示される。
【0026】
本発明においては、ビカット軟化点が110℃以上のポリスチレン系樹脂を使用することにより、発泡板の耐熱性を向上させることができる。
【0027】
本明細書におけるビカット軟化温度は、JIS K7206(1999)に基づいて、A 120法にて伝熱媒体としてシリコーン油を用いて加熱浴槽を使用して測定するものとする。
【0028】
本発明の発泡板においては、前記ポリスチレン系樹脂に脆性改善等を目的としてスチレン共役ジエンブロック共重合体、その水添物等のエラストマー、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等の弾性成分を30重量%以下の割合で混合したものを使用することができる。
【0029】
また前記ポリスチレン系樹脂には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、無機充填剤等を添加することができる。
【0030】
本発明の発泡板においては、表面の表面気泡数が100個/4mm以上であり、好ましくは120個/4mm以上である。表面気泡数が100個/4mm以上の発泡板は、表面平滑性に優れ、極めて美麗なものであるための必要条件であり、特に後述する直接印刷性に優れたものを得ることができるものとなり、紙を貼ってその上から印刷されたディスプレイパネルに比較するとコストダウンが可能となるものである。表面気泡数が100個/4mm未満では外観に劣るものとなり、特にUVインキを用いてインクジェット方式で直接印刷を施すと、表面が粗れてディスプレイパネルとしての商品価値が落ちてしまう。なお、その上限は、発泡板製造時のヒダの発生を抑制することが困難になり、表面平滑性が不充分になる虞や、気泡径の均一性が損なわれる虞があることから、500個/4mmであり、好ましくは400個/4mmである。なお、表面気泡数が100個/4mm以上の貼り合せ方式による発泡板は、前記の通り従来の製造技術では得ることができなかったものである。
【0031】
本明細書における表面気泡数は、次のように測定される。
【0032】
表面気泡数の測定は、顕微鏡(株式会社キーエンス製デジタルHDマイクロスコープVH−700)を用いて、発泡板の表面をテレビ画面上に拡大して写し、該拡大された画面上において実際の試料面積4mm2に相当する面積内の気泡径の数を測定する。具体的には、発泡板の表面から、該表面を基準として厚さ50μmの厚みで切り出した、厚み50μm、縦2mm以上、横2mm以上の測定試料を、顕微鏡の試料台に発泡板の表面がテレビ画面に写し出されるように水平に置き、拡大倍率100倍(面積の拡大倍率で10000倍)に拡大して、テレビ画面上において400cm2(実際の試料面積4mm2に相当する)範囲内の気泡数を測定する。
【0033】
上記表面気泡数の測定においては、テレビ画面上の20cm各の正方形の内側を残してその周囲をマスキングテープ等で貼り、該正方形の内部に存在する気泡数を数える。尚、上記正方形の境界線上に気泡が存在している場合は、相対する一の辺を跨っている気泡は測定の対象とするが、相対する他の辺を跨っている気泡は測定の対象としない。
【0034】
本発明の発泡板においては、前記片面の算術平均表面粗さ:Raが下記(1)式及び(2)式を満足するものである。
【0035】
MDのRa≦2.5μm …(1)
TDのRa≦3.5μm …(2)
(但し、MDはポリスチレン系樹脂発泡板の押出方向、TDは押出方向に対して直角な幅方向である。)
【0036】
MDのRaとTDのRaのどちらか一方でも上記範囲を外れると、表面平滑性や美麗さが損なわれてしまう。
【0037】
なお、製法上の限界から、MDのRaの下限は概ね1μm、TDのRaの下限は概ね1μmである。
【0038】
なお、算術平均表面粗さ:Raも発泡板の表面平滑性を評価する基準であり、特に算術平均表面粗さ:Raにより、後記するUVインクジェット印刷方式による直接印刷を行った場合における発泡体表面の粗れ具合の程度を数値にて表現することができる。また、表面気泡数が多いと、算術平均表面粗さ:Raは概ね小さくなる傾向にある。
【0039】
本発明における発泡板表面の算術平均表面粗さ:Raは、表面粗さ計を用いてJIS−B0601(1994)に準じて測定される中心線表面粗さのことである。表面粗さ計としては、一般に使用されているものでよく、例えば、(株)小坂研究所製のサーフコーダSE−30D、サーフコーダSE1700αが挙げられる。中心線表面粗さの測定は、前記測定サンプルの幅方向、押出方向に沿って、8mmの測定距離を各々5回測定し、各方向の中心線表面粗さの平均値をTDのRa、MDのRaとする。なお、測定時の計測速度は0.25mm/秒以下で実施する。
【0040】
本発明の発泡体においては、表層密度が好ましくは0.15〜0.35g/cmであり、より好ましくは0.18〜0.30g/cmである。表層密度が上記範囲内であれば、発泡板表面の圧縮強度が向上し、発泡板の曲げ物性の向上も期待できる。
【0041】
本明細書における表層密度とは、発泡板の表面から200μm深さの部分の密度を言い、次のように測定される。
【0042】
まず発泡板から縦20mm、横5mm、厚みが発泡板厚みの短冊状の発泡体を切り出す。次に該発泡体の表面から深さ200μmまでの部分をスライスして、縦20mm、横5mm、厚み200μmのスキン層を含む表層部分の試験片を得る。この操作によって測定しようとする発泡板の測定対象となる面において10個の試験片を得る。得られた各試験片について、各々重量(g)を測定し、重量を測定した試験片の外形寸法(cm)から算出される体積(cm)にて割り算することにより、各試験片の表層部分の密度を算出する。そして、10個の試験片の表層部分の密度の算術平均値をもって、発泡板の表層密度とする。
【0043】
なお、本発明の発泡板は筒状発泡体を押しつぶして貼り合せたものであることから、表面と裏面それぞれの表面気泡数、算術平均表面粗さRa、表層密度は、通常同じであるが、一方の面を表面処理するなどして100個/4mm未満の表面気泡数にしたり、算術平均表面粗さ:Raを(1)式及び/又は(2)式で定まる範囲以外にしたり、異なる表層密度にすることができる。
【0044】
本発明の発泡板は、その表面への直接ベタ印刷が可能なものである。即ち、従来の表面気泡数100個/4mm未満の発泡板や、算術平均表面粗さ:Raが前記(1)式及び/又は(2)式で定まる範囲外の発泡板の場合、例えばUVインキを用いてインクジェット方式による全面ベタ印刷を施すと、紫外線を短時間当ててインクを硬化させるだけで表面粗れが発生する。具体的には、印刷前の算術平均表面粗さ:Ra(a)に対し印刷後の算術平均表面粗さ:Ra(b)が大きくなってしまう(Ra(a)<Ra(b))。これに対し、本発明の発泡板の場合、印刷前の算術平均表面粗さ:Ra(a)に対し印刷後の算術平均表面粗さ:Ra(b)が、押出方向及び幅方向共に大きくなることがなく、前記(1)式及び/又は(2)式で定まる範囲を満足し、特に好ましいものにおいては印刷前以上に表面が平滑なものとなる。
【0045】
前記のように、本発明の発泡板は印刷により発泡板表面の凹凸発生が低減されている。これに対し、従来の発泡板においてはUVインクジェット直接印刷を施すと、発泡板表面に凹凸が発生することを防ぐことができなかった。その理由は次のように考えられる。
【0046】
一般に、UVインキの硬化は、UVランプを使用し、紫外線を照射することにより行うが、該照射により熱が発生し、これに伴う温度上昇が生じることとなる。その際、本発明の発泡板は特定の表面気泡数、好ましくは特定の表層の密度を有するものであるため、発泡板の表層は熱容量の関係で樹脂の軟化が抑制されることにより熱耐性が向上し、その結果、発泡板表面の凹凸発生が低減されていると考えられる。
【0047】
また、本発明の発泡板は、印刷前の算術平均表面粗さ:Ra(a)に対しUVインクジェット直接印刷後の算術平均表面粗さ:Ra(b)が小さくなる傾向にあり、印刷模様に滲みがなく、光沢等に優れた印刷面を有するUVインクジェット直接印刷物となる。これは、上記のUVインクジェット直接印刷時に発泡板表面が荒らされることがないことと、発泡板の製造時に、表面気泡数を増大させ且つ算術平均表面粗さ:Raを小さくしているにもかかわらず、得られる発泡板を構成する気泡に不要な残留応力を生じさせていないことによるものと考えられる。
【0048】
本発明の発泡板は表面平滑性に優れることから、その印刷方式としては、前記インクジェット印刷を始め、凸版印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷が挙げられる。
【0049】
前記の印刷方式の中でも、インクジェット印刷が好ましい。インクジェット印刷は、コンピューターに入力された文字や絵柄等の情報に基づき、被印刷物に所望される文字や絵柄等を印刷することができるインクジェット印刷装置を用いて行う印刷方法である。インクジェット印刷によれば、印刷情報をコンピューターに入力して即座に発泡板に印刷するので、多岐にわたる小ロットの印刷柄に容易に対応することができる。
【0050】
インクジェット印刷においては、色材、基材(分散媒又はワックス、或いは樹脂など)、その他の添加物などを含有してなるインキを被印刷物に噴射し、文字や絵柄等が印刷される。インクジェット印刷に使用されるインキとしては、無溶剤型のUVインキが好ましい。
【0051】
該UVインキは、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板への直接印刷に対して良好な付着性、印刷画像の耐久性(耐光性、耐水性)に優れており、残留臭気が少なく、紫外線を短時間照射するだけで硬化し、発色性、環境適性に優れるものである。
【0052】
該UVインキとしては、(1)非水系ラジカルUVインキ、(2)カチオンUVインキ、および、(3)水系ラジカルUVインキなどが挙げられ、中でもカチオンUVインキが好ましい。
【0053】
次に、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法について説明する。
【0054】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡板は、押出発泡法により筒状発泡体を製造し、この筒状発泡体を押し潰して筒状発泡体の内面を貼り合せることにより製造される。即ち、本発明の発泡板は、スチレン系樹脂と発泡剤とを押出機内で溶融混練して発泡性溶融樹脂とし、該発泡性溶融樹脂を押出機出口の環状ダイから押し出して筒状発泡体を得、次いでこの筒状発泡体を押圧ロール間を通過させて押し潰して、発泡体内面を融着させて板状とし、次いで幅方向に切断することにより得ることができる。
【0055】
発泡板の製造に用いるポリスチレン系樹脂としては、前記のものを用いることができる。また、発泡剤としては、例えばプロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類または二酸化炭素、窒素、水等の物理発泡剤を用いることができる。
【0056】
発泡剤の添加量は所望される発泡板の見掛け密度、発泡剤の種類やスチレン系樹脂の種類等によって異なるが、一般的には樹脂100重量部当たり1.0〜8.0重量部程度である。
【0057】
得られる発泡板の気泡径の調整は、発泡板の基材樹脂であるポリスチレン系樹脂100重量部に対して気泡調整剤を0.05〜3重量部添加することにより調整できる。該気泡調整剤の具体例としては、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、又は重炭酸ナトリウム、クエン酸モノナトリウム塩等が例示される。これらの気泡調整剤は、通常は単独で使用されるが2種以上組合せて用いてもよい。
【0058】
気泡調整剤として用いる無機物粉末は、粒子径が小さいほど発泡板の気泡径を小さくする効果が大きいので、使用量が少なくても気泡径を小さくすることができる。かかる観点から無機物粉末の平均粒子径(遠心沈降法)は30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましい。但し、平均粒子径が小さくなるほど加工に費用がかかり、無機物粉末の価格が高くなるので、0.1μmを下限とすることが好ましい。上記無機物粉末の中でも、タルクが気泡径を小さくする効果が大きいと共に安価なので最も好ましい。
【0059】
本発明においては、表面気泡数が100個/4mm以上、且つ、算術平均表面粗さ:Raを前記(1)式及び(2)式で定まる範囲内に調整する必要があり、そのためには、前記の気泡調整剤を樹脂100重量部に対して、0.05〜3.0重量部、好ましくは0.3〜2.0重量部、より好ましくは0.5〜1.5重量部添加し、更に押出機の環状ダイから押し出された筒状発泡体の外側にダイ出口にて冷却エアを吹きかけることを要する。冷却エアの量としては、0.3〜0.9m/分が好ましく、より好ましくは0.4〜0.7m/分である。冷却エアの量が少なすぎると、表面気泡数を100個/4mm以上にしても、算術平均表面粗さ:Raが大きくなりすぎて、前記(1)式及び(2)式で定まる範囲内にすることができなくなる。一方、冷却エアの量が多すぎると、表面気泡数の増加は微増となってしまい、逆にダイスが冷えすぎるデメリットが生じ、ダイス内に樹脂結晶化物が発生し、発泡板表面の外観等の不良が発生する虞がある。更に、冷却エアを増量することにより、得られる発泡板の発泡倍率が低下する為、目的の発泡倍率の発泡板を得るために発泡剤を増量する必要が生じる。
【0060】
前記のように、表面気泡数を100個/4mm以上にすると、ダイ出口にて筒状発泡体にヒダ状の凹凸が発生し、凹凸が発生した筒状発泡体に冷却エアを吹きかけると、冷却ムラが起こり、得られる発泡板に微小な厚み厚薄、気泡形状のムラが生じて、商品として通用しないものとなってしまう。この問題を解決するために、次の手法を採用することができる。
【0061】
先ずダイの設計および調整において、(1)ダイ内でのせん断発熱を防ぐことを目的としてダイ内の樹脂流路の断面積を通常よりも広い流路構造にすること、(2)筒状発泡体への凹凸の発生を抑えることを目的として、環状ダイ出口の間隙は、ダイ内での樹脂の発泡(内部発泡と呼ばれる現象)が起こらない範囲、即ち、ダイ内の圧力が、樹脂の発泡が起こらない状態に保たれる範囲で、可能な限り広いダイ先端部構造にすること、(3)ダイ内での樹脂の内部発泡が起こらないようにダイ内の樹脂流路の断面積を出口付近で急激に狭めること。(4)ダイ先端部の環状樹脂流路を流動する発泡性溶融樹脂の樹脂流路内のシャフト側(内側)とリング側(外側)の温度ムラを小さくし、発泡性溶融樹脂の温度の均一化を目的として、リングとシャフトをオイル温調すること。また、樹脂の選択として(5)ダイ内での内部発泡が起き難い溶融時の粘度の比較的高い樹脂を選択すること。押出発泡後の発泡体の調整方法として(6)ダイ出口に近い位置にて、前述した大量のエアを、押し出された筒状発泡体の外面へ吹付けること。これら(1)〜(6)の手段により、筒状発泡体への凹凸の発生を抑えることができる。
【0062】
表層密度を0.15〜0.35g/cmに調節するには、ダイ内での発泡性溶融樹脂の温度制御を前記の通りに行って、押出樹脂温度を低めに設定することと、ダイ出口における筒状発泡体を冷却するためのエアの風量および温度の調整を併用することにより行う。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0064】
発泡板製造用の押出機として、直径115mmの第一押出機と直径150mmの第二押出機の2台の押出機からなるタンデム押出機を使用し、第二押出機の出口にダイリップ径180mmの環状ダイを取り付けた装置を用い、環状ダイには外部先端部(リング)と内部(シャフト)のオイル温調装置を取り付けた。
【0065】
気泡調整剤として、タルクがポリスチレン系樹脂に35重量%配合されたマスターバッチを用いた。
【0066】
実施例1〜3、比較例1
ポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン社製『G450X』:メルトフローレイト6.0g/10分(測定温度200℃、荷重49N))を主成分とする基材樹脂に、気泡調整剤として表1に示す量のマスターバッチを混合して押出機に供給した。
【0067】
上記混合物を第一押出機において200℃まで加熱し溶融し混練し、発泡剤として(工業用ブタン)を第一押出機先端付近で表1に示す量(樹脂100重量部に対する重量部)注入し、加熱混練した。次いで、発泡性溶融樹脂の樹脂温度を(第二押出機の先端で測定)表1に示す温度に調節し、該溶融樹脂を環状ダイから円筒状に押出発泡させ、表1に示す量の冷却エアをダイ出口に近い位置にて、押し出された筒状発泡体の外面へ噴きつけた。
【0068】
【表1】

【0069】
次いで、上記筒状発泡体の内面が接着可能な状態にある間に、筒状発泡体を上下の押圧ロール間を通過させることにより発泡体内面を融着させて、幅760mm、長さ1080mmの発泡板を得た。得られた発泡板の諸物性を表2に示す。
【0070】
比較例2
発泡板として市販の積水化成品工業株式会社製『セキスイエスレンウッドパネル』を使用した。該発泡板の諸物性を表2に示す。
【0071】
比較例3
発泡板として市販のダウ化工株式会社製『ウッドラックパネルB−H』を使用した。該発泡板の諸物性を表2に示す。
【0072】
実施例、比較例で得られた発泡板に、ピエゾ・ドロップオンデマンド方式の住友スリーエム(株)製インクジェットプリンター「PressVu UV200」により、同機専用のUVインキを用いてインク塗布量20〜30cc/mの条件にて直接印刷を行った。
【0073】
【表2】

【0074】
表2における印刷後の外観評価の基準
○…発泡板に紙を貼って印刷したものと同等の外観を有する。
【0075】
△…肉眼では表面粗れは目立たないが、発泡板に紙を貼って印刷したものと比較すると見劣りがする。
【0076】
×…肉眼でも表面粗れが目立ち、商品価値の低下が容易に確認できる。
【0077】
UVインキによる直接印刷の結果、実施例における印刷後の表面粗さ:Raは印刷前より小さくなったが、比較例においては印刷後の表面粗さ:Raが印刷前より大きくなってしまった。この比較例における表面粗さ:Raの増加は、発泡板表面が粗れたことを意味している。これに対応して、実施例における印刷後の外観評価は、発泡板に紙を貼って印刷した場合と比較しても遜色ないものであったが、比較例における印刷後の外観は、紙を貼って印刷した場合に比較すると見劣りがするものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ダイから筒状に押出されたポリスチレン系樹脂発泡体をピンチロールにて挟圧して該発泡体の内面を融着させて製造された、厚み2〜20mm、見掛け密度0.04〜0.2g/cmのポリスチレン系樹脂発泡板において、少なくとも片面の表面気泡数が100個/4mm以上であると共に、算術平均表面粗さ:Raが下記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡板。
MDのRa≦2.5μm・・・(1)
TDのRa≦3.5μm・・・(2)
(但し、MDはポリスチレン系樹脂発泡板の押出方向、TDは押出方向に対して直角なポリスチレン系樹脂発泡板の幅方向である。)
【請求項2】
前記片面の表層密度が0.15〜0.35g/cmである請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡板からなる紫外線硬化型インキによるインクジェット印刷用ディスプレイパネル。

【公開番号】特開2009−221365(P2009−221365A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67889(P2008−67889)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】