ポリチオウレタンの製造方法およびグラフトポリマーの製造方法
【課題】制御された分子量、頭−尾構造など非常に組織化された高分子構造を有するポリチオウレタンの製造方法、ならびに得られたポリチオウレタンマクロモノマーと芳香族ビニル化合物との共重合体の製造方法の提供。
【解決手段】重合開始剤として安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネートまたは4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルを使用したL−セリン(SL)に由来する1,3−オキサゾリジン−2−チオンのカチオン開環重合によるポリチオウレタンの製造方法、及び当該ポリチオウレタンと芳香族ビニル化合物との共重合によるグラフトポリマーの製造方法。
【解決手段】重合開始剤として安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネートまたは4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルを使用したL−セリン(SL)に由来する1,3−オキサゾリジン−2−チオンのカチオン開環重合によるポリチオウレタンの製造方法、及び当該ポリチオウレタンと芳香族ビニル化合物との共重合によるグラフトポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオウレタンの製造方法およびグラフトポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオウレタンは高い屈折率を有し、光学デバイスに適用できる可能性を持っている。ポリチオウレタンの一般的な合成方法であるジチオールとジイソシアネートの重付加は、非常に組織化された高分子構造(すなわち、制御された分子量、頭−尾構造)を有するポリチオウレタンの合成には十分ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ポリチオウレタンの製造方法、ならびに前記製造方法によって得られたポリチオウレタンを用いたグラフトポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のポリチオウレタンの製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とする。
【0005】
【化4】
【化5】
【0006】
また、本発明のポリチオウレタンの製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(3)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とする。
【0007】
【化6】
【0008】
本発明のグラフトポリマーの製造方法は、上記製造方法により得られたポリチオウレタンと芳香族ビニル化合物とを共重合することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.第1実施形態
以下、本実施の形態のポリチオウレタンの製造方法について説明する。なお、具体的な実験手順例は、後述する実験例1に示す。
【0010】
リビング制御重合は、ポリマー合成分野で最も先進的な合成法になるだろう。これらの重合の利点としては、分子量の制御、狭い分子量分布を有する単分散ポリマー、正確なトポロジー(例えば、ブロック、グラフト、星型ポリマー)、そして制御された構造が挙げられる。これらの重合は優れた面を有するが、通常は水分および/または酸素の存在しない条件が必要となる。すなわち、停止反応や連鎖移動反応を回避するために、溶媒の精製、不活性ガス、または封管技術を採用しなければならない。これらは複雑なプロセスであるため、多くの研究者が空気および水分に耐性を有する重合開始剤と触媒を探求している。例えば、オレフィンのメタセシスに使用されるルテニウムカルベン錯体や耐水性ルイス酸としての希土類金属トリフラートによって、空気と水分の存在下においても様々な化学物質の効率的な合成が実現されている。しかし、それらの有効性は低分子量化合物の合成に留まっている。これらの触媒を使用した空気または水の存在下でのリビング制御重合の開発が進められているが、これらの重合系における分子量と分子量分布(すなわち、Mn<l04、Mw/Mn>1.2)は、厳密に精製された条件での重合に匹敵するものではなかった。
【0011】
本出願の発明者らは、L−セリンに由来する1,3−オキサゾリジン−2−チオンの制御カチオン開環重合を最近開発し、キラルポリチオウレタンを得ている。重合は、カチオン重合開始剤としてトリフルオロメタンスルホン酸メチルを使用し、精製ジクロロメタン中において乾燥窒素雰囲気下で30℃にて行なうことができる。制御特性は、この重合系における反応末端(環状エンド−イミノチオカーボネート)の非常に安定した性質に依存している。
【0012】
この観点から、l,3−オキサゾリジン−2−チオン誘導体とトリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)との反応によって、新規なカチオン重合開始剤(安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1))が合成された。この重合開始剤は、D2O中での1H NMRスペクトル測定にみられるように、空気と水に対して感受性を有していない(図7を参照)。
【0013】
以下、空気および水の存在下での、重合開始剤として1を使用したL−セリン(SL)に由来する1,3−オキサゾリジン−2−チオンのカチオン開環重合について述べる(スキーム1)。
【0014】
【化7】
【0015】
SLのカチオン重合は、湿度が例えば80−90%と高い空気中で、1([SL]/[1]=100)を使用して、未精製CH2Cl2中で30℃にて行なわれた。この場合、SLは35時間以内に完全に消費されることが確認され、白色の粉末状ポリマー(ポリ(SL))が99%の収率で得られる。粗混合物のSEC分析は、分布が十分に狭い(Mw/Mn=1.09)単峰(unimodal)ピークを示した(数平均分子量(Mn)は19600であると推定された)。このMnは仕込率[すなわち、Mn(理論値)=(SLの式量;161.18)×([SL]/[l];99)+(末端基の式量;開始基(284.38)および末端基(310.25)のSL)]に基づく理論値(16551)よりもわずかに大きいが、(繰り返し単位におけるメチルエステルプロトンと開始末端のS−Meプロトンの比率に基づく)1H NMRスペクトルから決定されたMn(17233)は理論値と良好に一致している。空気の存在下で得られたポリマー(Mn=19605)の1H NMRスペクトルは、報告されている精製条件下で得られた1H NMRスペクトルとほぼ等しく(Mn=19540)、それらが同一の一次構造を有することを示している(図8を参照)。これらのポリマーの比旋光度([α]D30)はほぼ同じ値だった(([α]D30=165.9°および163.3°)。この結果は、これらのポリマーが類似の二次構造からなることを示している。この空気系の制御された性質は、[SL]/[1]比率を変化させた重合によって確認された(図1)。[SL]/[1]比率とは関係なく、分子量分布の狭いポリマーが定量的な収率で得られ、SECプロファイルは単峰ピーク(Mw/Mn=1.17−1.05)を示した。ポリマーの分子量は、[SL]/[1]比率と直線的な関係を有していた。SEC分析によって推定したこれらのポリマーの数平均分子量は、[SL]/[1]比率から予測されたよりも若干大きかったが、1H NMR分光法によって決定された分子量は予測値と良好に一致した(上記を参照)。したがって、この系では制御下で重合が進行し、開始工程は精製条件での重合と同様に定量的に発生する。
【0016】
SLのカチオン重合が停止することなく進行するか否かを確認するため、空気下で30℃でのSLの重合における分子量と転化率または反応時間との関係を調べた。図2aは、ln([SL]0/[SL])と時間を示し、転化率が99%に達するまで重合時の活性種の濃度が一定であることを示している。各ポリマーのSECプロファイルによれば、Mnはモノマー転化率と直線的に増加して狭い単峰ピークを維持しており、1H NMRスペクトルも同様の結果を示している(図2b)。これらのデータは、これらの重合では停止反応と連鎖移動反応が検出できないことを示している。さらに、水の存在下でのSLのカチオン開環重合を、混合溶媒(CH2Cl2:H2O=2:1)中において1([SL]/[1]=33.35)を使用して空気中で30℃で達成し、対応するポリマーを98%の収率で得た。
【0017】
SECプロファイルは、狭い分布(Mw/Mn=1.14)を有する単峰ピークを示している。ただし、Mn(5720)は水が存在しない条件と比較してわずかに大きかった。この結果は、活性種の水に対する安定性を示すものである。
【0018】
成長末端の安定性を明らかにするために、後重合実験を行った。第一段階で仕込んだモノマーの完全な消費後([SL]/[1]=14.29)にSLを再補充し([SL]/[1]=79.86)、後重合を行ったところ、再補充されたモノマーは完全に消費され、SLの全量に対して定量的な収率で対応するポリマーが得られた。図3に示すように、SECプロファイルの溶離ピークは、後重合後に高分子量領域に移行し、単峰分布を維持した。これにより、SLのカチオン重合における成長末端がさらなる重合を再び開始させるために十分安定していることが確認された。
【0019】
発明者らの知り得る限りでは、本実施の形態のチオウレタンの製造方法は、空気と水の存在下における制御カチオン開環重合(Mn>l04、Mw/Mn<1.l8)の最初の例である。
【0020】
上述したように、本実施の形態の製造方法によって、空気と水の存在下でのリビングカチオン開環重合を、耐水性カチオン重合開始剤を使用して未精製ジクロロメタン中で周囲温度で達成した。
【0021】
2.第2実施形態
以下、本実施の形態のポリチオウレタンの製造方法およびグラフトポリマーの製造方法について説明する。なお、具体的な実験手順は、後述する実験例2に示す。
【0022】
ポリチオウレタンは高い屈折率を有し、光学デバイスに適用できる可能性を持っている。ポリチオウレタンの一般的な合成方法であるジチオールとジイソシアネートの重付加は非常に組織化された高分子構造(すなわち、制御された分子量、頭−尾構造)を有するポリチオウレタンの合成には十分ではない。
【0023】
そこで、第1の実施形態で記載されたように、本出願の発明者らは、環状チオウレタン(SL)のリビングカチオン開環重合によって、制御された構造を有するポリチオウレタンを合成する方法を開発した。非常に安定した反応種もこの重合系の利点である。すなわち、このリビング重合は、環状チオウレタン誘導体とトリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)との反応によって合成された水に対して安定な重合開始剤を採用することによって、空気と水分の存在下で行なうことができる。これによって、この重合における高い化学選択性を保証することができるとともに、機能的な末端基を有するポリチオウレタンを開発することができるようになる。
【0024】
魅力的な候補はマクロモノマーの合成である。制御されたキラリティーを有するマクロモノマーの重合によって、グラフト化された高分子側鎖を有する櫛状ポリマーを生成することができる。高密度に組織された側鎖によって、新しい機能性が得られる。これまでに様々なマクロモノマーが製造されているが、その大部分は末端基の変性に基づくものである。これらの技術は時として不十分な転換を伴い、機能的ではないポリマーが混入したポリマーが生成されることになる。
【0025】
マクロモノマーを得るための別の方法は、一方の基がマクロモノマーの合成時に未反応のままで残る2つの重合性基を有する重合開始剤を使用するものである。この重合は高い化学選択性を有していなければならない。したがって、代表的なカチオン重合は、重合可能なモノマーが広範囲に及ぶためにあまり適切ではないが、このSLのリビング重合は、マクロモノマーに基づいてグラフト共重合体を製造するためにふさわしいものである。
【0026】
以下、(a)ビニル基とトリフラート基を有する新規なカチオン重合開始剤の合成、(b)この重合開始剤を使用したリビング重合によるマクロモノマーの製造、および(c)このマクロモノマーのラジカル重合による光学的に活性なグラフト共重合体の製造について述べる。
【0027】
(a)カチオン重合開始剤1の合成
二官能性重合開始剤(4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル)1は、乾燥アセトニトリル中で4−ビニル安息香酸2−チオキソ−4−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルとTfOMeとを反応させることによって、定量的な収率で合成された(スキーム2)。1の構造は、1H NMR、13C NMR、IR分光法、元素分析によって確認された。スチリル基はカチオン種に対して相対的に影響されやすいが、生成された塩の安定性とビニル基の求核性を減少させるベンゼン環上の電子受容性エステル基によってイミニウム塩を選択的に形成することができた。
【0028】
【化8】
【0029】
(b)マクロモノマーの合成
SLのカチオン開環重合を、乾燥CH2Cl2中、4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル1を重合開始剤として使用して乾燥窒素中で30℃で行った(スキーム3)。仕込率[SL]0/[1]0が6.6の場合には、反応は24時間以内に終了し、対応するポリマーがほぼ定量的に得られた。SEC分析から、MnとMw/Mnはそれぞれ1700および1.18と推定された。得られたポリマーの構造を、1H NMR、13C NMR、IR分光法によって確認した。IRスペクトルは、1658cm−1でのチオウレタン部分のカルボニル基特有の吸収を示した。このデータは、得られたポリマーがチオウレタン主鎖からなることを示している。図10は、CDCl3およびDMSO−d6中でのポリマーの1H NMRスペクトルを示す。CDCl3中でのポリマーの1H NMRスペクトルは複雑な構造を示唆しているようだが(図10(A))、DMSO−d6中でのポリマーの1H NMRスペクトルは明確なピークを示している(図10(B))。このデータは、水素結合による二次構造のためにMSLのプロトンがCDCl3中では多様な環境下にあるが、DMSO中では水素結合から独立しているために似通った状況にあることを示している。2.21ppmにおいてS−Me基に帰属できるシグナル、5.42−5.46、5.99−6.05、6.78−6.88ppmにおいてビニル基のシグナル、7.61−7.65および8.40−8.42ppmにおいて芳香族基のシグナルが観察された。開始末端と繰り返し単位(ビニル基からのMn=1654、芳香族基からのMn=1568)の比率から推定したMnは、理論値(1465)と良好に一致していた。
【0030】
【化9】
【0031】
重合反応を30℃で仕込率[SL]/[1]を変化させて行った場合には、仕込率とSECおよび1H NMRから推定したMnとの関係は直線的だった(図11)。SEC分析によって推定したMnは[SL]/[1]比率から予測される値よりもわずかに大きかったが、1H NMR分光法によって測定された値はTfOMeによって開始させた重合の場合と同様に予測値と良好に一致していた。また、後重合もうまく行なうことができた。したがって、この重合系ではスチリル基の存在にもかかわらずリビングプロセスによって反応が進行し、スチリル基はマクロモノマーの合成の間未反応のままだった。得られたMSL(Mn;1600、5700、11600)の各種有機溶媒に対する溶解性を調べ、MSLの重合のために適切な溶媒を決定した。約5%(w/v)溶液を溶解性試験の標準とした。表1に示すように、MSLはMnとは無関係にDMFやDMSOなどの非常に極性の高い溶媒に溶解させることができた。得られるマクロモノマーのMnが増加すると、極性がより低い溶媒では溶解させることができなくなった。これらの結果から、広範囲の溶媒に溶解させることのできる低分子量のMSL(Mn=1600)が選択され、グラフト共重合体が得られた。
【0032】
【表1】
【0033】
(c)マクロモノマーのラジカル重合
MSL(Mn≒1600)の芳香族ビニル化合物(スチレン)とのラジカル重合を、AIBN(10mol%)を重合開始剤として使用し、数種類の溶媒中で60℃で20時間行い、対応する共重合体を得た(スキーム4および表2)。極性溶媒としてのDMFとDMSO中以外での重合では対応するグラフト共重合体が得られ、特にDMF中での重合ではMSLの分解のために分子量が低下した(表2のラン1および2)。MSLがこれらの条件下で分解された理由を調べるために、MSLのDMF溶液をラジカル重合開始剤を使用せずに60℃で20時間攪拌したところ、MSLの分解が起こった。すなわち、MSLは極性溶媒中では非常に熱に敏感であることが分かった。
【0034】
一方、DMFやDMSOよりも極性の低い溶媒であるPhCl中でのMSLのラジカル重合では対応するグラフト共重合体が良好な収率で得られた。ただし、反応混合物は12時間以内に不均一になった。1H NMRスペクトルでは、得られたポリマーの残留ビニルプロトンシグナルは観察されなかった(表2のラン3)。グラフト共重合体の側鎖のMnを、1H NMRスペクトルによるS−Meプロトンから計算した。その結果、Mnは重合前のMSLのMnとほぼ同じ値を示した(それぞれ1651および1658)。この結果は、チオウレタン部分を保護するPhCl中での安定した二次構造のために、この重合ではチオウレタン部分の分解が起きなかったことを示すものであろう。重合は定量的に進行したが、高い分子量を有するMSL(Mn>5700)から得られたグラフト共重合体は通常の有機溶媒に対する溶解性が低く、詳細な特性評価を行なうことができなかった。しかし、Mnが5700および1600のMSLから得られたグラフト共重合体のIRスペクトルにおけるNHおよびC=O吸収の波数間の相違は観察できなかった。このデータは、グラフトポリマーの不溶性が、Mnの増加によって強化されたグラフト側鎖ポリマーを介した安定した水素結合に起因することを示すものである。
【0035】
【化10】
【表2】
【0036】
図12に示すように、SECプロファイル中の溶離ピークは重合後に高分子量領域に移行し、単峰分布が維持されている。グラフト共重合体の比旋光度と融点はマクロモノマーよりも増加した。CDスペクトルにおけるコットン効果[チオウレタン(228nm)およびエステル(195nm)]も増加した(図13)。これらのデータは、グラフト化されたMSLの二次構造がMSLよりも安定していることを裏付けている。
【0037】
MSLと芳香族ビニル化合物(St;スチレン)のラジカル共重合を、75:25および50:50の仕込モル比率で調べた(表2のラン4および5)。これらの場合、反応混合物は10時間以内に不均一になった。Stとの共重合体は、共重合後にアセトン中で沈殿させてオリゴStから分離した。共重合体の単位比率は、S−Me基と芳香族基に帰属できるピークの比率を比較することによって、それぞれMSL:St=92:8および82:18と推定した。この結果は、MSLの反応速度がStの反応速度よりも高いことを示すものといえる。この現象について考えられ得る理由は、MSLの成長末端のPhCl中における低い溶解性に起因するゲル効果である。比旋光度と融点はスチレン成分の増加とともに減少した。これは、ポリスチレン構造がグラフト化されたMSLに挿入され、二次構造を損なったことによるものと思われる。
【0038】
上述したように、本実施の形態の製造方法によって、新規なカチオン重合開始剤である、ビニル基とトリフラート基を含有する新規なカチオン重合開始剤である、4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1)を、1,3−オキサゾリジン−2−チオン誘導体とトリフルオロメタンスルホン酸メチルとの反応によって定量的な収率で合成した。
【0039】
また、本実施の形態の製造方法によって、4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1)を重合開始剤として使用して、L−セリンに由来する光学的に活性な環状チオウレタン(SL)のリビングカチオン開環重合をジクロロメタン中で行い、対応するマクロモノマー(MSL;Mn>104、Mw/Mn<1.18)が得られた。すなわち、このマクロモノマー(MSL)は高い分子量(>104)と狭い多分散性(<1.18)を有する。MSLの分子量は[SL]/[1]によって制御することができる。MSLは、光学的に活性なチオウレタン主鎖と開始末端のスチリル基から定量的に構成される。
【0040】
さらに、本実施の形態の製造方法によって、マクロモノマー(MSL)のラジカル単独重合と芳香族ビニル化合物(スチレン)との共重合を行なうことにより、グラフトモノマーが高い収率で得られた。MSLから得られたポリマーは、MSLよりも高い比旋光度([α]D25)、融点(Tm)、コットン効果を示し、グラフト化ポリ(SL)側鎖の安定した二次構造を裏付けている。
【0041】
3.第3実施形態
以下、本実施の形態のポリチオウレタンの製造方法について説明する。なお、具体的な実験手順は、後述する実験例3に示す。
【0042】
トリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)によるL−セリンに由来する、光学的に活性な環状チオウレタン(SL)(第1および第2実施形態参照)の水素原子が電子受容部分を持たない置換基によって置換されると、得られるポリマーは異なる二次構造をとることが予想され、置換基は重合挙動に影響を与えることになる。
【0043】
以下、詳細なN−置換環状チオウレタンのカチオン開環重合の挙動と得られたポリマーの光学特性について述べる。
【0044】
(a)N−置換環状チオウレタン(RnSL)の制御カチオン開環重合
N−置換環状チオウレタン(BnSL、BzSL、AcSL)のカチオン開環重合を、TfOMe(3.04mol%)を重合開始剤として使用し、CH2Cl2中において窒素中で30℃で行い、ポリマー(ポリ(BnSL)、ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL))を定量的な収率で得た(スキーム5)。全ての場合において、重合はチオカルボニル基のカルボニル基への選択的な異性化に伴って順調に進行した。得られたポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は狭く(Mw/Mn<1.15)、数平均分子量(Mn)(ポリ(BnSL)=8200、ポリ(BzSL)=8500、ポリ(AcSL)=6600)は仕込率[RnSL]/(TfOMe)から予測された値(Mncalcd=8300、8700、6700)と良好に一致していた。
【0045】
【化11】
【0046】
本出願の発明者らは、このN−置換モノマーの重合が、報告されているSLの重合と同様に制御された様式で進行するものと予測して、TfOMeを使用したこれらのモノマーの重合の制御性を、様々な[RnSL]/[TfOMe]比率での重合によって調べた。[RnSL]/[TfOMe]比率とは関係なく、分子量分布の狭いポリマーが定量的な収率で得られ、SECプロファイルは単峰ピークを示した。[RnSL]/[TfOMe]比率とSECおよび1H NMRから推定した分子量の関係は直線的であり、ポリマーのMnは予測値と良好に一致した(図14)。N−置換モノマーの重合が停止することなく進行するか否かを確認するために、30℃でのモノマーの重合におけるMn、Mw/Mn、転化率、反応時間の関係が調査された。図15に示すように、得られたポリマーのMnは、直線的な関係と狭い単峰ピークを維持しながらモノマーの転化率とともに増加した。このデータは、これらの重合では停止反応と連鎖移動反応は無視できることを示すものと考えられる。
【0047】
(b)SLとN−置換環状チオウレタンのカチオン重合に関する運動的検討
CH2Cl2(0.5M)中でのSLおよびN−置換チオウレタンの重合速度をTfOMe(3.04mol%)を使用して30℃で調べた。図16は、時間−転化率(a)と一次時間−転化率(b)のプロットを示す。モノマー転化率は一次運動方程式(すなわち、−d[モノマー]/dt=kobs[モノマー][反応種])に従っており、重合が停止することなく進行したことを示している。SLの重合については、開始が定量的に発生し、反応末端の濃度はTfOMeの初期濃度(0.015mol・L−1)と常に同等だったとの前提の下で、観察速度係数kobsを8.44×10−3L・mol−1・s−1と推定した。このkobs値は、BnSLの重合(kobs=4.58×10−3L・mol−1・s−1)よりも1.8倍大きい。同様に、BnSLのkobsはBzSL(kobs=3.12×10−3L・mol−1・s−1)よりも1.5倍大きく、BzSLのkobsはAcSL(kobs=0.93×10−3L・mol−1・s−1)よりも3.3倍大きい(図16(b))。
【0048】
反応を開始することによって得られた環状エンド−イミノチオカーボネートトリフラート塩が非常に安定であるという事実を踏まえ、TfOMeを使用してモノマーからイミノチオカーボネートトリフラート塩が調製され、13C NMRとIR分光法によって電子特性が明らかにされ、運動的な結果について検討された(スキーム6および表3)。13C NMRおよびIRスペクトルは、環状チオウレタンのチオカルボニル基の電子密度が重合速度の順であることを示している。すなわち、硫黄原子の求核性もSL>BnSL>BzSL>AcSLの順となる。環状エンド−イミノチオカーボネートトリフラート塩については、13C NMRは、モノマーの硫黄原子によって攻撃されたメチレン基の求電子性がAcSL<BzSL<BnSL≒SLの順となることを示している。BnSLとSLから得られたイミノチオカーボネートトリフラート塩の電子密度は同一だが、SLのチオカルボニル基の求核性はBnSLよりも高い。ここで述べた反応種とモノマーの電子的性質は、実際の重合速度(SL>BnSL>BzSL>AcSL)を反映したものだろう。
【0049】
【化12】
【表3】
【0050】
(c)得られたポリマーのCDスペクトル
得られたポリマーの光学特性を確認するため、ポリマーのCDスペクトルと比旋光度([α]D25)が評価された。図17は、ポリ(SL)(Mn=3000、Mw/Mn=1.13、[α]D25=62.4°)、ポリ(BnSL)(Mn=3600、Mw/Mn=1.14、[α]D25=−99.6°)、ポリ(BzSL)(Mn=3500、Mw/Mn=1.15、[α]D25=−127.0°)、ポリ(AcSL)(Mn=3400、Mw/Mn=1.15、[α]D25=−213.2°)のCDスペクトルを示す。ポリ(SL)の比旋光度は、ポリ(BnSL)、ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL)とは異なり、正の値を示した。227nmでのポリ(SL)のチオウレタン部分のコットン効果は正だったが、ポリ(BnSL)、ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL)のチオウレタン部分のコットン効果は比旋光度と同様に負だった。この相違は、カルボニルとNH部分の間の水素結合に基づくポリ(SL)のものとは関係なく、立体因子(steric
factor)に基づく二次構造の形成につながる窒素原子における置換基の存在によるものと思われる。N−置換モノマーから得られたポリチオウレタンが、水素結合によるポリ(SL)の二次構造(例えば、これらのポリマーは反転した螺旋構造を有する)とは異なる二次構造をとると推測される。
【0051】
本実施の形態の製造方法によれば、N−置換環状チオウレタン(BnSL、BzSL、AcSL)をL−セリンメチルエステル塩酸塩から合成し、トリフルオロメタンスルホン酸メチルを使用してカチオン開環重合させることによって、対応するポリチオウレタンが得られた。得られたポリチオウレタンの分子量は、重合開始剤に対するモノマーの比率([RnSL]/[TfOMe])によって制御することができ、その分子量分布は報告されている環状チオウレタン(SL)の重合と同様に狭い(Mw/Mn<1.15)ものである。重合速度はSL>BnSL>BzSL>AcSLの順であり、これはモノマーのチオカルボニル部分の求核性と良好に一致している。N−置換モノマーから得られたポリマーのCDスペクトルにおけるコットン効果は、ポリ(SL)とはほぼ反転した形状を示し、比旋光度の符号も反転する。これは、ポリ(SL)とN−置換ポリマーが異なる高次構造を有するということを示唆している。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。また、下記の記載により本発明は限定されるものではない。
【0053】
[実験例1]
安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの合成
4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンの合成
セリノール(18.2g、200mmol)をMeOH(200mL)に懸濁させた懸濁液に、トリエチルアミン(55.4mL、200mmol)を窒素雰囲気下で0℃でゆっくりと添加し、次に二硫化炭素(22.84g、300mmol)のMeOH(20mL)溶液を0℃で添加した。混合物を0℃で10分間、次に室温で1時間攪拌した。得られた混合物に過酸化水素水(30%、40mL)を室温でゆっくりと添加した後、混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣をクロロホルム/アセトン(6/4=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、混合溶媒[n−ヘキサン/酢酸エチル(2/1=v/v)]からの再結晶によって、4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンを無色の固体(26.2g、98%)として得た。
【0054】
安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの合成
塩化ベンゾイル(14.6mL、126.1mmol)の乾燥THF(50mL)溶液を、4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(14.0g、105.1mmol)を乾燥THF(250mL)およびトリエチルアミン(17.5mL、126.1mmol)に溶解した溶液に0℃で添加した。室温で12時間攪拌した後、塩酸トリエチルアミンを濾過によって除去し、真空中で溶媒を蒸留によって除去した。残渣を酢酸エチル/アセトン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、混合溶媒[n−ヘキサン/酢酸エチル(3/1=v/v)]からの再結晶によって、安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルを無色の固体(20.5g、82%)として得た。
【0055】
安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1の合成
トリフルオロメタンスルホン酸メチル(0.8mL、7.2mmol)を、安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル(1.42g、6.0mmol)の乾燥アセトニトリル(10mL)溶液に乾燥窒素雰囲気下で室温で添加した。次に、混合物を3時間攪拌した。その後、溶液を乾燥ジエチルエーテル中に注ぎ、沈殿物を濾過によって単離した後、ジクロロメタン/n−ヘキサンからの再結晶によって、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1を白色の粉末(2.38g、99%)として得た。1H
NMR(270MHz,CD2Cl2,25℃:δ=2.56(s,3H;−S−CH3),4.54−4.70(m,2H,−CH2−O(C=O)C6H5),5.02−5.33(m,3H;−CH2−,>CH−),7.49−8.02(m,5H;−C6H5),12.28(br,1H;−C=NH+−);13C NMR(270MHz,CD2Cl2,25℃)δ=183.3(−C=NH+−);166.5(−CO2CH3),134.4,130.3,129.5,129.3,77.4(−CH2−O(C=O)C6H5),63.6(>CH−),59.2(−CH2−),14.7ppm(−S−CH3);IR(KBr):υ−3178,3100,3020,1720(>C=O),1589(C=NH+),1473,1280,1241,1164,1033cm−1.元素分析(%)C13H14F3NO6S2(401.38)計算値:C38.90,H3.52,N3.49,S15.98;測定値:C38.74,H34.7,N3.49,S16.05.
【0056】
代表的なリビングカチオン重合手順
4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)(0.161g、1.0mmol)を安定化剤として2−メチル−2−ブテン(0.005%)および水(1.0mL、必要に応じて添加)を含む未精製CH2Cl2(1.0mL)に溶解した溶液を、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(8.0mg、20mol、[SL]/[1]=50)を同様のCH2Cl2(1.0mL)に溶解した溶液に空気中(湿度:89%)で30℃で添加した。得られた混合物を、空気中で30℃で35時間重合させた。反応混合物は反応の間均一なままだった。反応をクエンチするためにメタノールを添加した後、得られた混合物をメタノール中に注ぎ、ポリマーを沈殿させた。ポリマーを吸引濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。その結果、ポリSLを無色の固体として定量的に得た。[αD30=−147.3°(c=1.0,DMF);1H
NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C):δ=2.21(−S−Me,terminal group),2.81−3.05(1H;−CH2−),3.26−3.42(1H;−CH2−),3.60−3.69(3H;−OCH3),4.03−4.14(>CH−,terminal group),4.15−4.33(1H;>CH−),4.43−4.73(−CH2−,terminal group),4.73−4.84(>CH−,terminal group),7.44−8.07(−C6H5,terminal group),8.03−8.52(−NH−,terminal group),8.86−9.10(1H;−NH−);13C NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C)δ=170.5(−S(C=O)NH−),166.0(−(C=O)OCH3),54.5(>CH−),52.4(−OCH3),30.0(−CH2−);IR(KBr):υ=3301,1743(−O(C=O)C6H5),1658(−O(C=O)NH−),1511,1203,1018,856cm−1.
1とSLとの反応(1:SL=1:4)
SL(0.032g、0.2mmol)のCH2Cl2(0.5mL)溶液を、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(0.02g、0.05mmol)のCH2Cl2(0.5mL)溶液に空気中で30℃で添加した。混合物を12時間攪拌した後、クエンチせずに得られた混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した。生成物を1H NMR分光法によって確認した(図9(b))。1の2.80ppmでのS−Me基に帰属できるシグナルは完全に消失し、開始末端の2.31ppmでのS−Me基に帰属できるシグナルが新たに現われた。開始末端のS−Me基と芳香族基の比率は理論値(3:5)と良好に一致し、これはポリマーでも観察された。このデータは、この重合系の開始効率が定量的であることを示すものである。
【0057】
後重合反応
SL(0.48g、3.0mmol)のCH2Cl2溶液を、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(0.088g、7.29mol%)のCH2Cl2(1.0mL)溶液に空気中で30℃で添加した。次に、混合物を30時間攪拌した。SLの完全な転化後(1H NMRスペクトルによって監視)、SL(0.97g、6.0mmol)のCH2Cl2(12mL)溶液を残りの溶液に添加した。後重合を60時間行った後、反応をクエンチするためにメタノールを添加した。得られた混合物をメタノール中に注ぎ、沈殿物を真空中で乾燥してポストポリマー(1.40g、97%)を得た。[αD30=160.3°(c=1.0、DMF);1H NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C):δ=2.21(−S−Me,terminal group),2.82−3.04(1H;−CH2−),3.25−3.42(1H;−CH2−),3.60−3.70(3H;−OCH3),4.13−4.32(1H;>CH−),7.43−8.06(−C6H5,terminal group),8.88−9.12(1H;−NH−);13C NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C):δ=170.7(−S(C=O)NH−),166.1(−(C=O)OCH3),54.6(>CH−),52.3(−OCH3),29.9(−CH2−);IR(KBr):υ=3301,1743:(−(C=O)OCH3),1658(−S(C=O)NH−),1511,1203,1018,856cm−1.
【0058】
[実験例2]
材料:4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)と4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンを合成した。TfOMe(アルドリッチ化学(Aldrich Chemical)社製、>99%)、クロロベンゼン(PhCl)、アセトニトリル、DMF、DMSO、CH2Cl2は使用前にCaH2で蒸留した。スチレン(St)(関東化学株式会社製、>99%)は減圧下で蒸留によって精製した。4−ビニルベンゾイルクロリドは文献にしたがって合成した。その他の試薬はそのままの状態で使用した。
【0059】
測定:1H NMR(270MHz)および13C NMR(67.5MHz)スペクトルは、テトラメチルシラン(TMS)を内標準として使用し、CDCl3、CD2Cl2、またはDMSO−d6中でJEOL JNH EX−270分光計によって記録した。FT−IRスペクトルは、JASCO FT/IR−210分光計によって得た。比旋光度([α]D)は、ナトリウムランプを光源として備えたJASCO DIP−1000デジタル偏光計によって測定した。円偏光二色性(CD)スペクトルは、JASCO J−720分光偏光計によって測定した。数平均分子量(Mn)および多分散性(Mw/Mn)は、4つの連続したポリスチレンゲルコラム[TSK−ゲル(ビーズの大きさ、排除限界分子量);αM(13μm、>1×107)、α4000H(10μm、>1×106)、α3000H(7μm、>1×105)、α2500H(7μm、>1×104)]と40℃における屈折率および紫外線検出器を備えた東ソー株式会社製HPLC HLC−8020システムを使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって推定した。システムは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(5.0mM臭化リチウムおよび5.0mMリン酸)を溶離剤として使用し、1.0mL/分の流量で操作した。ポリスチレン標準を校正に使用した。示差走査熱分析(DSC)測定は、SII DSC−6200を使用し、窒素雰囲気下で10℃/分の加熱速度で行った。
【0060】
4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの合成
4−ビニルベンゾイルクロリド(21.0g、126mmol)の乾燥THF(50mL)溶液を、4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(14.0g、105mmol)を乾燥THF(250mL)およびピリジン(10.2mL、126mmol)に溶解した溶液に0℃で添加した。室温で12時間攪拌した後、ピリジン塩酸塩を濾過によって除去し、真空中で溶媒を蒸留によって除去した。残渣を酢酸エチル/アセトン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、混合溶媒[n−ヘキサン/酢酸エチル(3/1=v/v)]からの再結晶によって、4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルを無色の固体として得た。収率73%(24.1g、91.5mmol)。1H NMR(DMSO−d6):δ=4.25−4.77(5H,>CH,−CH2−O(CO)−,−(SC)O−CH2−),5.45(d,J=10.8Hz,1H,−CH=CH2),6.03(d,J=17.8Hz,1H,−CH=CH2),6.84(dd,J=11.3,17.7Hz,1H,−CH=CH2),7.64(d,J=8.1Hz,2H,−C6H4−),8.01(d.J=8.1Hz,2H,−C6H4−),10.3(broads,1H.NH−)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=55.0(CO−CH2−CH<),65.1(>CH−),71.8(−CH2−O(CO)−),117.7(−CH=CH2),126.5,128.6,130.1(−C6H4−),136.0(−CH=CH2),142.2(−C6H4−),165.6(−O(CO)−C6H4−),189.3(>C=S)ppm.IR(KBr):3185,1712(−OCOPh),1504(C=S),1280,1180,1110,971cm−1.
【0061】
4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−
4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1)の合成
トリフルオロメタンスルホン酸メチル(0.89mL、7.00mmol)を、4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル(1.58g、6.00mmol)の乾燥アセトニトリル(10mL)溶液に乾燥窒素雰囲気下で室温で添加した。混合物を3時間攪拌した後、溶液を乾燥ジエチルエーテル中に注ぎ、沈殿物を濾過によって単離した後、ジクロロメタン/n−ヘキサンからの再結晶によって、4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1を白色の粉末として得た。収率98%(3.01g、7.01mmol)。1H NMR(CD2Cl2):δ=2.77(s,3H,−S−CH3),4.52−4.61(dd,J=3.0,12.6Hz,1H,−CH2−O(CO)−),4.62−4.72(dd,J=3.0,12.4Hz,1H,−CH2−O(CO)−),4.67−5.07(m,2H,CO−CH2−CH<),5.11−5.20(m,1H,>CH−),5.38−5.48(dd,J=0.8,10.8Hz,1H,−CH=CH2),5.85−5.99(dd,J=0.8,17.4Hz,1H,−CH=CH2),6.79(dd,J=11.1,17.8Hz,1H,−CH=CH2),7.52(d,J=8.4Hz,2H,−C6H4−),7.97(d,J=8.4Hz,2H,−C6H4−),12.41(broad s,JH,>C=NH+−)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=14.6(−S−CH3),59.3(CO−CH2−CH<),63.6(>CH−),77.4(−CH2−O(CO)−),117.6(−CH=CH2),127.0,128.5,130.7(−C6H4−),136.5(−CH=CH2),143.5(−C6H4−),166.2(−O(CO)−C6H4−),183.2(−C=NH+−)ppm.IR(KBr):2992,1720(−OCOPh),1589(−C=NH+−),1288,1241,1164,1241,1118,1025,640cm−1.C15H16F3NO6S2:計算値:C42.15,H3.77,N32.8,S15.00;測定値:C42.16,H3.81,N32.4,S15.16.
【0062】
マクロモノマー(MSL)の合成
4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)(2.0g、12mmol)および4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(0.8g、1.9mmol)の乾燥CH2Cl2(25mL)溶液を、窒素雰囲気下で丸底フラスコ(50mL)に入れた。得られた混合物を、窒素中で30℃で24時間重合させた。反応混合物は反応の間均一なままだった。反応をクエンチするためにメタノールを添加した後、得られた混合物をエチルエーテル中に注ぎ、ポリマーを沈殿させた。ポリマーを吸引濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。こうして、マクロモノマー(MSL)を無色の固体として定量的な収率で得た。[αD30=46.4°(c=1.0g/dL,CH2Cl2).Fw≒1600(1H NMRスペクトルから算出)。1H NMR(DMSO−d6):δ2.21(initiating end,−S−CH3),2.97−3.05(1H,−CH2−),3.25−3.38(1H,−CH2−),3.64(3H,−OCH3),4.19−4.40(1H,>CH−),5.49−5.46(initiating end,−CH=CH2),5.99−6.05(initiating end,−CH=CH2),6.78−6.88(initiating end,−CH=CH2),7.61−7.65(initiating end,−CH=CH2),7.95−7.98(initiating end,−C6H4−),8.40−8.42(initiating end,−NH−),8.76−8.79(terminal group,−NH−),8.86−8.89(1H,−NH−)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=9.16(initiating end,−S−CH3),27.58(−CH2−),49.72(−OCH3),54.09(>CH−),114.70(initiating end,−CH=CH2),123.87,126.55,127.41,(−C6H4−),133.01(initiating end,−CH=CH2),139.30(initiating end,−C6H4−),162.57(initiating end,−S(CO)NH−),163.32(−S(CO)NH−),167.82(initiating end,−O(CO)−C6H4−)167.89(−COOMe)ppm.IR(KBr):3309(−NH−),1743(−OCOPh),1658(−SCONH−),1512,1211,856cm−1.
【0063】
MSLの重合
MSLの重合の代表的な操作を以下に示す。MSL(0.100g、0.058mmol)とAIBN(1.00mg、0.0061mmol)の混合物を、ガス抜きした封管内においてPhCl中で60℃で20時間加熱した。反応後、得られた混合物をDMSOに溶解し、次にメタノール中に注ぎ、白色の粉末状ポリマーを沈殿させた。スチレンとの共重合体を沈殿させるために、アセトンを貧溶媒として使用した。沈殿物を濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。収率89%(90mg、0.0520mmol)。1H NMR(DMSO−d6):δ=1H NMR(DMSO−d6):δ=2.18(initiating end,−S−CH3),2.93−3.12(1H,−CH2−),3.23−3.40(1H,−CH2−),3.64(3H,−OCH3),4.10−4.40(1H,>CH−),7.65−7.97(initiating end,−C6H4−),8.04−8.15(initiating end,−C6H4−),8.39−8.40(initiating end,−NH−),8.85−8.92(1H,−NH−)ppm.Mn=10700(Mw/Mn=1.75)(表1のラン3).
【0064】
[実験例3]
材料:4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)と(S)−N−ベンジルセリンメチルエステルは既知の方法にしたがって合成した(Nagai, A.; Miyagawa, T.; Kudo, H.; Endo, T. Macromolecules 2003, 36, 9335., Thompson, C. M.; Frick, J. A.; Green, D. L. C.; J. Org. Chem. 1990, 55, 111.)。トリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)(アルドリッチ化学(Aldrich Chemical)社製、>99%)、トリエチルアミン(東京化成工業株式会社製、>99%)、ジクロロメタン(CH2Cl2)は使用前にCaH2で蒸留した。テトラヒドロフラン(THF)はナトリウムで蒸留した。その他の試薬はそのままの状態で使用した。
【0065】
測定:1H NMR(270MHz)および13C NMR(67.5MHz)スペクトルは、テトラメチルシラン(TMS)を内標準として使用し、CDCL3およびDMSO−d6中でJEOL JNM−LA−270分光計によって記録した。FT−IRスペクトルは、JASCO FT/IR−210分光計によって得た。比旋光度([α]D)は、ナトリウムランプを光源として備えたJASCO DIP−1000デジタル偏光計によって測定した。円偏光二色性(CD)スペクトルは、JASCO J−720分光偏光計によって測定した。数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、4つの連続したポリスチレンゲルコラム[TSK−ゲル(ビーズの大きさ、排除限界分子量);αM(13μm、>1×107)、α4000H(10μm、>1×106)、α3000H(7μm、>1×105)、α2500H(7μm、>1×104)]と40℃における屈折率および紫外線検出器を備えた東ソー株式会社製HPLC HLC−8020システムを使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって推定した。システムは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(5.0mM臭化リチウムおよび5.0mMリン酸)を溶離剤として使用し、1.0mL/分の流量で操作した。ポリスチレン標準を校正に使用した。
【0066】
4(S)−(メトキシカルボニル)−N−ベンジル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(BnSL)
乾燥THF(200mL)に溶解したチオホスゲン(23.8g、207mmol)を、N−ベンジル−L−セリン(43.4g、207mmol)およびトリエチルアミン(41.9g、414mmol)の乾燥THF(600mL)溶液に窒素中で60℃でゆっくりと添加した。混合物を3時間攪拌し、さらに室温で12時間攪拌した。トリエチルアミン塩酸塩を濾過によって除去し、溶媒を真空中で蒸発させた。残渣を酢酸エチル/n−ヘキサン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。混合溶媒[THF/n−ヘキサン(2/1=v/v)]からの再結晶によってBnSL(40.1g、77%)を白色の粉末として得た。[α]D25=35.0°(c=0.1g/dL,CH2Cl2).m.p.=101.3−101.8℃.1H NMR(CD2Cl2):δ=3.70(s,3H,−OCH3),4.32−4.37(m,lH,−CH2−),4.54−4.59(3H,−CH<,−CH2−,−CH2−C6H5),5.31−5.42(m,lH,−CH2−C6H5),7.33−7.38(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=51.47(−CH2−C6H5),53.06(−OCH3),59.90(−CH<),65.55(−CH2−),128.98,129.04,129.48,135.09(−C6H5),169.55(−COOCH3),189.39(−OCSNH−)ppm.IR(KBr):1743(−COOCH3),1481(C=S),1450,1357,1304,1211,971,701cm−1.C12H13NO3S:計算値:C57.35,H5.21,N5.57,S12.76;測定値:C57.54,H5.19,N5.64,S12.72.
【0067】
4(S)−(メトキシカルボニル)−N−ベンゾイル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(BzSL)
塩化ベンゾイル(14.2g、112mmol)の乾燥CH2Cl2溶液を、SL(15.0g、93.0mmol)およびピリジン(9.6g、121mmol)の溶液に窒素中で0℃で添加した。混合物を室温になるまで放置した後、攪拌下で水を添加した。有機相をMgSO4で乾燥し、溶媒を減圧下で蒸発させた。残渣を酢酸エチル/n−ヘキサン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。混合溶媒[酢酸エチル/n−ヘキサン(2/1=v/v)]からの再結晶によってBzSL(23.4g、95%)を無色の固体として得た。[α]D25=−28.9°(c=0.1g/dL,CH2Cl2).m.p.=87.2−88.0℃.1H NMR(CD2Cl2):δ=3.76(s,3H,−OCH3),4.56−4.60(m,1H,−CH2−),4.77−4.81(m,1H,−CH<),5.21−5.26(m,1H,−CH2−),7.40−7.74(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=53.98(−OCH3),60.81(−CH<),70.05(−CH2−),128.72,130.13,133.45,133.59(−C6H5),168.97(−COOCH3),170.98(−NHCO−C6H5),186.51(−OCSNH−)ppm.IR(KBr):1751(−COOCH3),1682(−NHCO−C6H5),1442(−OCSNH−),1373,1311,1250,1219,1188,964,910,733,694cm−1.C12H11NO4S:計算値:C54.26,H4.18,N5.28,S12.09;測定値:C54.21,H4.11,N5.28,S11.90.
4(S)−(メトキシカルボニル)−N−アセチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(AcSL)
【0068】
塩化アセチル(8.71g、111mmol)を使用して、BzSLの合成を同様の操作を行った。混合溶媒[酢酸エチル/n−ヘキサン(2/1=v/v)]からの再結晶によってAcSL(17.3g、92%)を無色の固体として得た。[α]D25=−29.0°(c=0.1g/dL,CH2Cl2).m.p.=68.0−68.4℃.1H
NMR(CH2Cl2):δ=2.81(s,3H,−COCH3),3.79(s,3H,−OCH3),4.53(dd,J=4.05,5.97Hz,lH,−CH2−),4.64(m,1H,−CH<),5.15(dd,J=4.05,5.40Hz,1H,−CH2−)ppm.13C NMR(CD2Cl2:δ=25.97(−COCH3),53.64(−OCH3),60.00(−CH<),69.61(−CH2−),169.26(−COOCH3),171.68(−NHCOCH3),186.26(−OCSNH−)ppm.IR(KBr):1758(−COOCH3),1712(−NHCOCH3),1419(−OCSNH−),1373,1311,1227,1180,1041,980,957cm−1.C7H9NO4S:C41.37,H4.46,N6.89,S15.78;測定値C41.24,H4.46,N6.88,S15.78.
【0069】
SL誘導体のカチオン重合
代表的な操作を以下に示す。乾燥CH2Cl2(6.0mL)および3.04mol%のTfOMeを、SL(0.48g、3.0mmol)を含む重合管に導入した。得られた混合物を、窒素中で30℃で8時間攪拌した。反応は均一に進行した。トリエチルアミン(0.2mL)で反応をクエンチした後、得られた混合物をエチルエーテル(300mL)中に注ぎ、ポリマーを沈殿させた。ポリマーを吸引濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。こうして、ポリSLを無色の固体として定量的に得た。Mn=6100,Mw/Mn=1.13.1H NMR(DMSO−d6);δ=2.21(initiating end,S−CH3),2.89−3.11(1H,−CH2−),3.17−3.37(1H,−CH2−),3.55−3.76(3H,−OCH3),4.21−4.41(1H,>CH−).8.79−9.00(1H,−NH−)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=29.5(−CH2−),53.0(−OCH3),54.37(>CH−),163.89(−SCONH−),167.38(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3301,1743(−COOCH3),1658(−SCONH−),1512,1203cm−1.
ポリ(BnSL)(収率:定量的)。無色の固体。Mn=8200,Mw/Mn=1.04.1H NMR(DMSO−d6):δ=2.22(initiating end,S−CH3),3.36−3.67(3H,−OCH3),4.05−4.92(3H,−CH<,−CH2−),7.05−7.28(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=29.4(−CH2−),52.3(−OCH3),53.18(>CH−),60.67(−CH2−C5H6),127.87,128.13,128.45,135.86(−C6H5),168.08(−SCONH−),169.12(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3456,1743(−COOCH3),1651(−SCONH−),1404,1311,1180,1072,987,710cm−1.
ポリ(BzSL)(収率:定量的)。薄緑色の固体。Mn=8500,Mw/Mn=1.11.1H NMR(DMSO−d6):δ=2.21(initiating end,S−CH3),2.88−3.79(5H,−CH2−,−OCH3),4.73−5.06(1H,−CH<),7.16−8.04(5H,−C6H5)ppm.13C
NMR(DMSO−d6):δ=30.7(−CH2−),52.9(−OCH3<)59.6(−CH<),128.60,129.02,132.95,133.88(−C6H5),168.42(−SCONH−),171.28(−NHCO−C6H5),172.12(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3394,1751(−COOCH3),1702(−NHCO−C6H5),1658(−SCONH−),1296,1203,1126,694cm−1.
ポリ(AcSL)(収率:定量的)。無色の固体。Mn=6600,Mw/Mn=1.09.1H NMR(DMSO−d6):δ=2.21(initiating end,S−CH3),2.18−2.44(3H,−CH3),2.74−3.81(5H,−CH2−,−OCH3),4.72−5.10(1H,−CH<)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=24.5(−COCH3),29.90(−CH2−),52.76(−OCH3),59.46(−CH<),170.00(−SCONH−),171.50(−NHCO−CH3),173.34(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3370,1751(−COOCH3),1703(−NHCO−CH3),1658(−SCONH−),1373,1250,1203,1003cm−1.
【0070】
TfOMeによるSL誘導体のメチル化
代表的な操作を以下に示す。SL(0.15g、0.77mmol)のCD2Cl2(0.8mL)溶液を窒素雰囲気下でNMR管に入れた。TfOMe(93μL、0.85mmol)を添加した後に管を閉じ、混合物を室温で1分間攪拌した。SLとTfOMeから得られたイミノチオカーボネートトリフラート塩(Me−SL)の特性を、1H NMR、13C NMR、IR分光法によって確認した。1H NMR(CD2Cl2):δ=2.76(s,3H,−SCH3),3.85(s,3H,−OCH3),5.20−5.39(3H,>CH−,−CH2−),11.92(broad s,1H,=HN+)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=14.53(−SCH3),54.23(−OCH3),60.07(>CH−),77.75(−CH2−),167.82(−COOCH3),183.96(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):2962,1751(−COOCH3),1581(−C=HN+),1481,1442,1357,1281,1241,1165,1034,957,918,640cm−1.
Me−BnSL.1H NMR(CD2Cl2):δ=2.79(s,3H,−SCH3),3.67(s,3H,−OCH3),4.89(s,2H,−CH2−C6H5),5.00−5.45(3H,−CH<,−CH2−),7.41(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=15.09(−SCH3),52.51(−CH2−C6H5),54.07(−OCH3),63.32(>CH−),77.29(−CH2−),129.96,130.08,130.39,130.73(−C6H5),167.35(−COOCH3),183.03(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):3502,3039,2963,1751(−COOCH3),1566(−C=HN+),1435,1412,1265,1157,1034,964,926,710,640,517cm−1.
Me−BzSL.1H NMR(CD2Cl2):δ=2.74(s,3H,−SCH3),3.67(s,3H,−OCH3),5.43−5.46(m,1H,−CH2−),5.73−5.87(3H,−CH<,−CH2−),7.53−7.90(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=16.17(−SCH3),54.05(−OCH3),62.94(>CH−),79.40(−CH2−),129.52,130.07,130.68,135.16(−C6H5),167.10(−COOCH3),167.52(−NHCO−C6H5),189.79(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):3070,1751(−COOCH3),1658(−NHCO−C6H5),1604(−C=HN+),1543,1473,1442,1381,1288,1234,1165,1026,972,895,717,640,517cm−1.
Me−AcSL.1H NMR(CD2Cl2):δ=2.49(s,3H,−SCH3),2.73(−CH3),3.91(s,3H,−OCH3),5,50(dd,J=3.78,5.13Hz,1H,−CH2−),5.63(m,1H,−CH<),5.84(dd,J=4.05,6.21Hz,1H,−CH2−)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=15.89(−SCH3),23.67(−CH3),54.87(−OCH3),61.64(>CH−),80.14(−CH2−),167.66(−COOCH3),170.11(−NHCO−CH3),188.98(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):3032,2962,1751(−COOCH3),1713(−C=HN+),1442(−NHCO−CH3),1389,1281,1234.1165,1034,980,640cm−1.
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】MnおよびMw/Mn対仕込率([SL]/[1])を示す。
【図2】(a)は、CH2Cl2中における空気中で30℃での安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1を使用したSLの重合の時間−転化率と一次時間−転化率のプロットを示し、(b)は、CH2Cl2中における空気中で30℃での1を使用したSLの重合の転化率−Mnと転化率−Mw/Mnのプロットを示す;[1]0=0.01M、[SL]0/[1]0=50。
【図3】SLの後重合実験前後のSECプロファイルを示す;ポリSL:第1段階の重合で得られたプレポリマー(MnSEC=3400,MnNMR=2700,Mw/Mn=1.17、ポリ(SL−p−SL)):第2段階の重合で得られたポストポリマー(MnSEC=19000,MnNMR=17500,Mw/Mn=1.09)。
【図4】空気と水の存在下で、耐水性カチオン重合開始剤を使用し、未精製ジクロロメタン中で通常温度で達成したリビングカチオン開環重合を示す。
【図5】4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンの1H NMRスペクトルを示す。
【図6】安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの1H NMRスペクトルを示す。
【図7】D2O中での安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1の1H NMRスペクトルを示す。
【図8】a)乾燥窒素雰囲気中で得られたポリマー(Mn=19540)およびb)空気中で得られたポリマー(Mn=19605)の1H NMRスペクトルを示す。
【図9】a)1およびb)1とSLの混合物の1H NMRスペクトルを示す。
【図10】1(15mol%)を使用してCH2Cl2中で24時間のSLのカチオン重合によって得られたMSLの(A)CDCl3中および(B)DMSO−d6中の1H NMR(270MHz)スペクトルを示す。
【図11】MnおよびMw/Mn対仕込率([SL]/[1])を示す[条件;溶媒:CH2Cl2(0.5M)、温度:30℃、[SL]/[1]=6.6−67、SLの転化率=100%]。
【図12】ラジカル重合で得られた(A)MSLおよび(B)グラフト共重合体(表2のラン3)のSECプロファイル(UV検出器)を示す。
【図13】(A)MSLおよび(B)グラフト共重合体(表2のラン3)のCDスペクトル(c=0.1g/dL、CH2Cl2)を示す。
【図14】MnおよびMw/Mn対仕込率([RnSL]/[TfOMe])を示す[条件;溶媒:CH2Cl2(0.5M)、温度:30℃、[SL]/[1]=11.5−56.5、RnSLの転化率=100%]。
【図15】CH2Cl2中、30℃でTfOMeを使用したRnSLの重合の時間−転化率および一次時間−転化率のプロットを示す;[TfOMe]0=0.015M、[RnSL]0/[TfOMe]0=32.9。
【図16】CH2Cl2中、30℃でTfOMeを使用したRnSLの重合の(a)転化率−Mnおよび(b)転化率−Mw/Mnを示す;[TfOMe]0=0.015M、[SL]0/[TfOMe]0=32.9。
【図17】ポリチオウレタンのCDスペクトル(c=0.1g/dL、CH2Cl2)を示す:(a)ポリ(SL)、(b)ポリ(BnSL)、(c)ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオウレタンの製造方法およびグラフトポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオウレタンは高い屈折率を有し、光学デバイスに適用できる可能性を持っている。ポリチオウレタンの一般的な合成方法であるジチオールとジイソシアネートの重付加は、非常に組織化された高分子構造(すなわち、制御された分子量、頭−尾構造)を有するポリチオウレタンの合成には十分ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ポリチオウレタンの製造方法、ならびに前記製造方法によって得られたポリチオウレタンを用いたグラフトポリマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のポリチオウレタンの製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とする。
【0005】
【化4】
【化5】
【0006】
また、本発明のポリチオウレタンの製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(3)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とする。
【0007】
【化6】
【0008】
本発明のグラフトポリマーの製造方法は、上記製造方法により得られたポリチオウレタンと芳香族ビニル化合物とを共重合することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.第1実施形態
以下、本実施の形態のポリチオウレタンの製造方法について説明する。なお、具体的な実験手順例は、後述する実験例1に示す。
【0010】
リビング制御重合は、ポリマー合成分野で最も先進的な合成法になるだろう。これらの重合の利点としては、分子量の制御、狭い分子量分布を有する単分散ポリマー、正確なトポロジー(例えば、ブロック、グラフト、星型ポリマー)、そして制御された構造が挙げられる。これらの重合は優れた面を有するが、通常は水分および/または酸素の存在しない条件が必要となる。すなわち、停止反応や連鎖移動反応を回避するために、溶媒の精製、不活性ガス、または封管技術を採用しなければならない。これらは複雑なプロセスであるため、多くの研究者が空気および水分に耐性を有する重合開始剤と触媒を探求している。例えば、オレフィンのメタセシスに使用されるルテニウムカルベン錯体や耐水性ルイス酸としての希土類金属トリフラートによって、空気と水分の存在下においても様々な化学物質の効率的な合成が実現されている。しかし、それらの有効性は低分子量化合物の合成に留まっている。これらの触媒を使用した空気または水の存在下でのリビング制御重合の開発が進められているが、これらの重合系における分子量と分子量分布(すなわち、Mn<l04、Mw/Mn>1.2)は、厳密に精製された条件での重合に匹敵するものではなかった。
【0011】
本出願の発明者らは、L−セリンに由来する1,3−オキサゾリジン−2−チオンの制御カチオン開環重合を最近開発し、キラルポリチオウレタンを得ている。重合は、カチオン重合開始剤としてトリフルオロメタンスルホン酸メチルを使用し、精製ジクロロメタン中において乾燥窒素雰囲気下で30℃にて行なうことができる。制御特性は、この重合系における反応末端(環状エンド−イミノチオカーボネート)の非常に安定した性質に依存している。
【0012】
この観点から、l,3−オキサゾリジン−2−チオン誘導体とトリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)との反応によって、新規なカチオン重合開始剤(安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1))が合成された。この重合開始剤は、D2O中での1H NMRスペクトル測定にみられるように、空気と水に対して感受性を有していない(図7を参照)。
【0013】
以下、空気および水の存在下での、重合開始剤として1を使用したL−セリン(SL)に由来する1,3−オキサゾリジン−2−チオンのカチオン開環重合について述べる(スキーム1)。
【0014】
【化7】
【0015】
SLのカチオン重合は、湿度が例えば80−90%と高い空気中で、1([SL]/[1]=100)を使用して、未精製CH2Cl2中で30℃にて行なわれた。この場合、SLは35時間以内に完全に消費されることが確認され、白色の粉末状ポリマー(ポリ(SL))が99%の収率で得られる。粗混合物のSEC分析は、分布が十分に狭い(Mw/Mn=1.09)単峰(unimodal)ピークを示した(数平均分子量(Mn)は19600であると推定された)。このMnは仕込率[すなわち、Mn(理論値)=(SLの式量;161.18)×([SL]/[l];99)+(末端基の式量;開始基(284.38)および末端基(310.25)のSL)]に基づく理論値(16551)よりもわずかに大きいが、(繰り返し単位におけるメチルエステルプロトンと開始末端のS−Meプロトンの比率に基づく)1H NMRスペクトルから決定されたMn(17233)は理論値と良好に一致している。空気の存在下で得られたポリマー(Mn=19605)の1H NMRスペクトルは、報告されている精製条件下で得られた1H NMRスペクトルとほぼ等しく(Mn=19540)、それらが同一の一次構造を有することを示している(図8を参照)。これらのポリマーの比旋光度([α]D30)はほぼ同じ値だった(([α]D30=165.9°および163.3°)。この結果は、これらのポリマーが類似の二次構造からなることを示している。この空気系の制御された性質は、[SL]/[1]比率を変化させた重合によって確認された(図1)。[SL]/[1]比率とは関係なく、分子量分布の狭いポリマーが定量的な収率で得られ、SECプロファイルは単峰ピーク(Mw/Mn=1.17−1.05)を示した。ポリマーの分子量は、[SL]/[1]比率と直線的な関係を有していた。SEC分析によって推定したこれらのポリマーの数平均分子量は、[SL]/[1]比率から予測されたよりも若干大きかったが、1H NMR分光法によって決定された分子量は予測値と良好に一致した(上記を参照)。したがって、この系では制御下で重合が進行し、開始工程は精製条件での重合と同様に定量的に発生する。
【0016】
SLのカチオン重合が停止することなく進行するか否かを確認するため、空気下で30℃でのSLの重合における分子量と転化率または反応時間との関係を調べた。図2aは、ln([SL]0/[SL])と時間を示し、転化率が99%に達するまで重合時の活性種の濃度が一定であることを示している。各ポリマーのSECプロファイルによれば、Mnはモノマー転化率と直線的に増加して狭い単峰ピークを維持しており、1H NMRスペクトルも同様の結果を示している(図2b)。これらのデータは、これらの重合では停止反応と連鎖移動反応が検出できないことを示している。さらに、水の存在下でのSLのカチオン開環重合を、混合溶媒(CH2Cl2:H2O=2:1)中において1([SL]/[1]=33.35)を使用して空気中で30℃で達成し、対応するポリマーを98%の収率で得た。
【0017】
SECプロファイルは、狭い分布(Mw/Mn=1.14)を有する単峰ピークを示している。ただし、Mn(5720)は水が存在しない条件と比較してわずかに大きかった。この結果は、活性種の水に対する安定性を示すものである。
【0018】
成長末端の安定性を明らかにするために、後重合実験を行った。第一段階で仕込んだモノマーの完全な消費後([SL]/[1]=14.29)にSLを再補充し([SL]/[1]=79.86)、後重合を行ったところ、再補充されたモノマーは完全に消費され、SLの全量に対して定量的な収率で対応するポリマーが得られた。図3に示すように、SECプロファイルの溶離ピークは、後重合後に高分子量領域に移行し、単峰分布を維持した。これにより、SLのカチオン重合における成長末端がさらなる重合を再び開始させるために十分安定していることが確認された。
【0019】
発明者らの知り得る限りでは、本実施の形態のチオウレタンの製造方法は、空気と水の存在下における制御カチオン開環重合(Mn>l04、Mw/Mn<1.l8)の最初の例である。
【0020】
上述したように、本実施の形態の製造方法によって、空気と水の存在下でのリビングカチオン開環重合を、耐水性カチオン重合開始剤を使用して未精製ジクロロメタン中で周囲温度で達成した。
【0021】
2.第2実施形態
以下、本実施の形態のポリチオウレタンの製造方法およびグラフトポリマーの製造方法について説明する。なお、具体的な実験手順は、後述する実験例2に示す。
【0022】
ポリチオウレタンは高い屈折率を有し、光学デバイスに適用できる可能性を持っている。ポリチオウレタンの一般的な合成方法であるジチオールとジイソシアネートの重付加は非常に組織化された高分子構造(すなわち、制御された分子量、頭−尾構造)を有するポリチオウレタンの合成には十分ではない。
【0023】
そこで、第1の実施形態で記載されたように、本出願の発明者らは、環状チオウレタン(SL)のリビングカチオン開環重合によって、制御された構造を有するポリチオウレタンを合成する方法を開発した。非常に安定した反応種もこの重合系の利点である。すなわち、このリビング重合は、環状チオウレタン誘導体とトリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)との反応によって合成された水に対して安定な重合開始剤を採用することによって、空気と水分の存在下で行なうことができる。これによって、この重合における高い化学選択性を保証することができるとともに、機能的な末端基を有するポリチオウレタンを開発することができるようになる。
【0024】
魅力的な候補はマクロモノマーの合成である。制御されたキラリティーを有するマクロモノマーの重合によって、グラフト化された高分子側鎖を有する櫛状ポリマーを生成することができる。高密度に組織された側鎖によって、新しい機能性が得られる。これまでに様々なマクロモノマーが製造されているが、その大部分は末端基の変性に基づくものである。これらの技術は時として不十分な転換を伴い、機能的ではないポリマーが混入したポリマーが生成されることになる。
【0025】
マクロモノマーを得るための別の方法は、一方の基がマクロモノマーの合成時に未反応のままで残る2つの重合性基を有する重合開始剤を使用するものである。この重合は高い化学選択性を有していなければならない。したがって、代表的なカチオン重合は、重合可能なモノマーが広範囲に及ぶためにあまり適切ではないが、このSLのリビング重合は、マクロモノマーに基づいてグラフト共重合体を製造するためにふさわしいものである。
【0026】
以下、(a)ビニル基とトリフラート基を有する新規なカチオン重合開始剤の合成、(b)この重合開始剤を使用したリビング重合によるマクロモノマーの製造、および(c)このマクロモノマーのラジカル重合による光学的に活性なグラフト共重合体の製造について述べる。
【0027】
(a)カチオン重合開始剤1の合成
二官能性重合開始剤(4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル)1は、乾燥アセトニトリル中で4−ビニル安息香酸2−チオキソ−4−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルとTfOMeとを反応させることによって、定量的な収率で合成された(スキーム2)。1の構造は、1H NMR、13C NMR、IR分光法、元素分析によって確認された。スチリル基はカチオン種に対して相対的に影響されやすいが、生成された塩の安定性とビニル基の求核性を減少させるベンゼン環上の電子受容性エステル基によってイミニウム塩を選択的に形成することができた。
【0028】
【化8】
【0029】
(b)マクロモノマーの合成
SLのカチオン開環重合を、乾燥CH2Cl2中、4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル1を重合開始剤として使用して乾燥窒素中で30℃で行った(スキーム3)。仕込率[SL]0/[1]0が6.6の場合には、反応は24時間以内に終了し、対応するポリマーがほぼ定量的に得られた。SEC分析から、MnとMw/Mnはそれぞれ1700および1.18と推定された。得られたポリマーの構造を、1H NMR、13C NMR、IR分光法によって確認した。IRスペクトルは、1658cm−1でのチオウレタン部分のカルボニル基特有の吸収を示した。このデータは、得られたポリマーがチオウレタン主鎖からなることを示している。図10は、CDCl3およびDMSO−d6中でのポリマーの1H NMRスペクトルを示す。CDCl3中でのポリマーの1H NMRスペクトルは複雑な構造を示唆しているようだが(図10(A))、DMSO−d6中でのポリマーの1H NMRスペクトルは明確なピークを示している(図10(B))。このデータは、水素結合による二次構造のためにMSLのプロトンがCDCl3中では多様な環境下にあるが、DMSO中では水素結合から独立しているために似通った状況にあることを示している。2.21ppmにおいてS−Me基に帰属できるシグナル、5.42−5.46、5.99−6.05、6.78−6.88ppmにおいてビニル基のシグナル、7.61−7.65および8.40−8.42ppmにおいて芳香族基のシグナルが観察された。開始末端と繰り返し単位(ビニル基からのMn=1654、芳香族基からのMn=1568)の比率から推定したMnは、理論値(1465)と良好に一致していた。
【0030】
【化9】
【0031】
重合反応を30℃で仕込率[SL]/[1]を変化させて行った場合には、仕込率とSECおよび1H NMRから推定したMnとの関係は直線的だった(図11)。SEC分析によって推定したMnは[SL]/[1]比率から予測される値よりもわずかに大きかったが、1H NMR分光法によって測定された値はTfOMeによって開始させた重合の場合と同様に予測値と良好に一致していた。また、後重合もうまく行なうことができた。したがって、この重合系ではスチリル基の存在にもかかわらずリビングプロセスによって反応が進行し、スチリル基はマクロモノマーの合成の間未反応のままだった。得られたMSL(Mn;1600、5700、11600)の各種有機溶媒に対する溶解性を調べ、MSLの重合のために適切な溶媒を決定した。約5%(w/v)溶液を溶解性試験の標準とした。表1に示すように、MSLはMnとは無関係にDMFやDMSOなどの非常に極性の高い溶媒に溶解させることができた。得られるマクロモノマーのMnが増加すると、極性がより低い溶媒では溶解させることができなくなった。これらの結果から、広範囲の溶媒に溶解させることのできる低分子量のMSL(Mn=1600)が選択され、グラフト共重合体が得られた。
【0032】
【表1】
【0033】
(c)マクロモノマーのラジカル重合
MSL(Mn≒1600)の芳香族ビニル化合物(スチレン)とのラジカル重合を、AIBN(10mol%)を重合開始剤として使用し、数種類の溶媒中で60℃で20時間行い、対応する共重合体を得た(スキーム4および表2)。極性溶媒としてのDMFとDMSO中以外での重合では対応するグラフト共重合体が得られ、特にDMF中での重合ではMSLの分解のために分子量が低下した(表2のラン1および2)。MSLがこれらの条件下で分解された理由を調べるために、MSLのDMF溶液をラジカル重合開始剤を使用せずに60℃で20時間攪拌したところ、MSLの分解が起こった。すなわち、MSLは極性溶媒中では非常に熱に敏感であることが分かった。
【0034】
一方、DMFやDMSOよりも極性の低い溶媒であるPhCl中でのMSLのラジカル重合では対応するグラフト共重合体が良好な収率で得られた。ただし、反応混合物は12時間以内に不均一になった。1H NMRスペクトルでは、得られたポリマーの残留ビニルプロトンシグナルは観察されなかった(表2のラン3)。グラフト共重合体の側鎖のMnを、1H NMRスペクトルによるS−Meプロトンから計算した。その結果、Mnは重合前のMSLのMnとほぼ同じ値を示した(それぞれ1651および1658)。この結果は、チオウレタン部分を保護するPhCl中での安定した二次構造のために、この重合ではチオウレタン部分の分解が起きなかったことを示すものであろう。重合は定量的に進行したが、高い分子量を有するMSL(Mn>5700)から得られたグラフト共重合体は通常の有機溶媒に対する溶解性が低く、詳細な特性評価を行なうことができなかった。しかし、Mnが5700および1600のMSLから得られたグラフト共重合体のIRスペクトルにおけるNHおよびC=O吸収の波数間の相違は観察できなかった。このデータは、グラフトポリマーの不溶性が、Mnの増加によって強化されたグラフト側鎖ポリマーを介した安定した水素結合に起因することを示すものである。
【0035】
【化10】
【表2】
【0036】
図12に示すように、SECプロファイル中の溶離ピークは重合後に高分子量領域に移行し、単峰分布が維持されている。グラフト共重合体の比旋光度と融点はマクロモノマーよりも増加した。CDスペクトルにおけるコットン効果[チオウレタン(228nm)およびエステル(195nm)]も増加した(図13)。これらのデータは、グラフト化されたMSLの二次構造がMSLよりも安定していることを裏付けている。
【0037】
MSLと芳香族ビニル化合物(St;スチレン)のラジカル共重合を、75:25および50:50の仕込モル比率で調べた(表2のラン4および5)。これらの場合、反応混合物は10時間以内に不均一になった。Stとの共重合体は、共重合後にアセトン中で沈殿させてオリゴStから分離した。共重合体の単位比率は、S−Me基と芳香族基に帰属できるピークの比率を比較することによって、それぞれMSL:St=92:8および82:18と推定した。この結果は、MSLの反応速度がStの反応速度よりも高いことを示すものといえる。この現象について考えられ得る理由は、MSLの成長末端のPhCl中における低い溶解性に起因するゲル効果である。比旋光度と融点はスチレン成分の増加とともに減少した。これは、ポリスチレン構造がグラフト化されたMSLに挿入され、二次構造を損なったことによるものと思われる。
【0038】
上述したように、本実施の形態の製造方法によって、新規なカチオン重合開始剤である、ビニル基とトリフラート基を含有する新規なカチオン重合開始剤である、4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1)を、1,3−オキサゾリジン−2−チオン誘導体とトリフルオロメタンスルホン酸メチルとの反応によって定量的な収率で合成した。
【0039】
また、本実施の形態の製造方法によって、4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1)を重合開始剤として使用して、L−セリンに由来する光学的に活性な環状チオウレタン(SL)のリビングカチオン開環重合をジクロロメタン中で行い、対応するマクロモノマー(MSL;Mn>104、Mw/Mn<1.18)が得られた。すなわち、このマクロモノマー(MSL)は高い分子量(>104)と狭い多分散性(<1.18)を有する。MSLの分子量は[SL]/[1]によって制御することができる。MSLは、光学的に活性なチオウレタン主鎖と開始末端のスチリル基から定量的に構成される。
【0040】
さらに、本実施の形態の製造方法によって、マクロモノマー(MSL)のラジカル単独重合と芳香族ビニル化合物(スチレン)との共重合を行なうことにより、グラフトモノマーが高い収率で得られた。MSLから得られたポリマーは、MSLよりも高い比旋光度([α]D25)、融点(Tm)、コットン効果を示し、グラフト化ポリ(SL)側鎖の安定した二次構造を裏付けている。
【0041】
3.第3実施形態
以下、本実施の形態のポリチオウレタンの製造方法について説明する。なお、具体的な実験手順は、後述する実験例3に示す。
【0042】
トリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)によるL−セリンに由来する、光学的に活性な環状チオウレタン(SL)(第1および第2実施形態参照)の水素原子が電子受容部分を持たない置換基によって置換されると、得られるポリマーは異なる二次構造をとることが予想され、置換基は重合挙動に影響を与えることになる。
【0043】
以下、詳細なN−置換環状チオウレタンのカチオン開環重合の挙動と得られたポリマーの光学特性について述べる。
【0044】
(a)N−置換環状チオウレタン(RnSL)の制御カチオン開環重合
N−置換環状チオウレタン(BnSL、BzSL、AcSL)のカチオン開環重合を、TfOMe(3.04mol%)を重合開始剤として使用し、CH2Cl2中において窒素中で30℃で行い、ポリマー(ポリ(BnSL)、ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL))を定量的な収率で得た(スキーム5)。全ての場合において、重合はチオカルボニル基のカルボニル基への選択的な異性化に伴って順調に進行した。得られたポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は狭く(Mw/Mn<1.15)、数平均分子量(Mn)(ポリ(BnSL)=8200、ポリ(BzSL)=8500、ポリ(AcSL)=6600)は仕込率[RnSL]/(TfOMe)から予測された値(Mncalcd=8300、8700、6700)と良好に一致していた。
【0045】
【化11】
【0046】
本出願の発明者らは、このN−置換モノマーの重合が、報告されているSLの重合と同様に制御された様式で進行するものと予測して、TfOMeを使用したこれらのモノマーの重合の制御性を、様々な[RnSL]/[TfOMe]比率での重合によって調べた。[RnSL]/[TfOMe]比率とは関係なく、分子量分布の狭いポリマーが定量的な収率で得られ、SECプロファイルは単峰ピークを示した。[RnSL]/[TfOMe]比率とSECおよび1H NMRから推定した分子量の関係は直線的であり、ポリマーのMnは予測値と良好に一致した(図14)。N−置換モノマーの重合が停止することなく進行するか否かを確認するために、30℃でのモノマーの重合におけるMn、Mw/Mn、転化率、反応時間の関係が調査された。図15に示すように、得られたポリマーのMnは、直線的な関係と狭い単峰ピークを維持しながらモノマーの転化率とともに増加した。このデータは、これらの重合では停止反応と連鎖移動反応は無視できることを示すものと考えられる。
【0047】
(b)SLとN−置換環状チオウレタンのカチオン重合に関する運動的検討
CH2Cl2(0.5M)中でのSLおよびN−置換チオウレタンの重合速度をTfOMe(3.04mol%)を使用して30℃で調べた。図16は、時間−転化率(a)と一次時間−転化率(b)のプロットを示す。モノマー転化率は一次運動方程式(すなわち、−d[モノマー]/dt=kobs[モノマー][反応種])に従っており、重合が停止することなく進行したことを示している。SLの重合については、開始が定量的に発生し、反応末端の濃度はTfOMeの初期濃度(0.015mol・L−1)と常に同等だったとの前提の下で、観察速度係数kobsを8.44×10−3L・mol−1・s−1と推定した。このkobs値は、BnSLの重合(kobs=4.58×10−3L・mol−1・s−1)よりも1.8倍大きい。同様に、BnSLのkobsはBzSL(kobs=3.12×10−3L・mol−1・s−1)よりも1.5倍大きく、BzSLのkobsはAcSL(kobs=0.93×10−3L・mol−1・s−1)よりも3.3倍大きい(図16(b))。
【0048】
反応を開始することによって得られた環状エンド−イミノチオカーボネートトリフラート塩が非常に安定であるという事実を踏まえ、TfOMeを使用してモノマーからイミノチオカーボネートトリフラート塩が調製され、13C NMRとIR分光法によって電子特性が明らかにされ、運動的な結果について検討された(スキーム6および表3)。13C NMRおよびIRスペクトルは、環状チオウレタンのチオカルボニル基の電子密度が重合速度の順であることを示している。すなわち、硫黄原子の求核性もSL>BnSL>BzSL>AcSLの順となる。環状エンド−イミノチオカーボネートトリフラート塩については、13C NMRは、モノマーの硫黄原子によって攻撃されたメチレン基の求電子性がAcSL<BzSL<BnSL≒SLの順となることを示している。BnSLとSLから得られたイミノチオカーボネートトリフラート塩の電子密度は同一だが、SLのチオカルボニル基の求核性はBnSLよりも高い。ここで述べた反応種とモノマーの電子的性質は、実際の重合速度(SL>BnSL>BzSL>AcSL)を反映したものだろう。
【0049】
【化12】
【表3】
【0050】
(c)得られたポリマーのCDスペクトル
得られたポリマーの光学特性を確認するため、ポリマーのCDスペクトルと比旋光度([α]D25)が評価された。図17は、ポリ(SL)(Mn=3000、Mw/Mn=1.13、[α]D25=62.4°)、ポリ(BnSL)(Mn=3600、Mw/Mn=1.14、[α]D25=−99.6°)、ポリ(BzSL)(Mn=3500、Mw/Mn=1.15、[α]D25=−127.0°)、ポリ(AcSL)(Mn=3400、Mw/Mn=1.15、[α]D25=−213.2°)のCDスペクトルを示す。ポリ(SL)の比旋光度は、ポリ(BnSL)、ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL)とは異なり、正の値を示した。227nmでのポリ(SL)のチオウレタン部分のコットン効果は正だったが、ポリ(BnSL)、ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL)のチオウレタン部分のコットン効果は比旋光度と同様に負だった。この相違は、カルボニルとNH部分の間の水素結合に基づくポリ(SL)のものとは関係なく、立体因子(steric
factor)に基づく二次構造の形成につながる窒素原子における置換基の存在によるものと思われる。N−置換モノマーから得られたポリチオウレタンが、水素結合によるポリ(SL)の二次構造(例えば、これらのポリマーは反転した螺旋構造を有する)とは異なる二次構造をとると推測される。
【0051】
本実施の形態の製造方法によれば、N−置換環状チオウレタン(BnSL、BzSL、AcSL)をL−セリンメチルエステル塩酸塩から合成し、トリフルオロメタンスルホン酸メチルを使用してカチオン開環重合させることによって、対応するポリチオウレタンが得られた。得られたポリチオウレタンの分子量は、重合開始剤に対するモノマーの比率([RnSL]/[TfOMe])によって制御することができ、その分子量分布は報告されている環状チオウレタン(SL)の重合と同様に狭い(Mw/Mn<1.15)ものである。重合速度はSL>BnSL>BzSL>AcSLの順であり、これはモノマーのチオカルボニル部分の求核性と良好に一致している。N−置換モノマーから得られたポリマーのCDスペクトルにおけるコットン効果は、ポリ(SL)とはほぼ反転した形状を示し、比旋光度の符号も反転する。これは、ポリ(SL)とN−置換ポリマーが異なる高次構造を有するということを示唆している。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。また、下記の記載により本発明は限定されるものではない。
【0053】
[実験例1]
安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの合成
4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンの合成
セリノール(18.2g、200mmol)をMeOH(200mL)に懸濁させた懸濁液に、トリエチルアミン(55.4mL、200mmol)を窒素雰囲気下で0℃でゆっくりと添加し、次に二硫化炭素(22.84g、300mmol)のMeOH(20mL)溶液を0℃で添加した。混合物を0℃で10分間、次に室温で1時間攪拌した。得られた混合物に過酸化水素水(30%、40mL)を室温でゆっくりと添加した後、混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣をクロロホルム/アセトン(6/4=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、混合溶媒[n−ヘキサン/酢酸エチル(2/1=v/v)]からの再結晶によって、4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンを無色の固体(26.2g、98%)として得た。
【0054】
安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの合成
塩化ベンゾイル(14.6mL、126.1mmol)の乾燥THF(50mL)溶液を、4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(14.0g、105.1mmol)を乾燥THF(250mL)およびトリエチルアミン(17.5mL、126.1mmol)に溶解した溶液に0℃で添加した。室温で12時間攪拌した後、塩酸トリエチルアミンを濾過によって除去し、真空中で溶媒を蒸留によって除去した。残渣を酢酸エチル/アセトン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、混合溶媒[n−ヘキサン/酢酸エチル(3/1=v/v)]からの再結晶によって、安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルを無色の固体(20.5g、82%)として得た。
【0055】
安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1の合成
トリフルオロメタンスルホン酸メチル(0.8mL、7.2mmol)を、安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル(1.42g、6.0mmol)の乾燥アセトニトリル(10mL)溶液に乾燥窒素雰囲気下で室温で添加した。次に、混合物を3時間攪拌した。その後、溶液を乾燥ジエチルエーテル中に注ぎ、沈殿物を濾過によって単離した後、ジクロロメタン/n−ヘキサンからの再結晶によって、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1を白色の粉末(2.38g、99%)として得た。1H
NMR(270MHz,CD2Cl2,25℃:δ=2.56(s,3H;−S−CH3),4.54−4.70(m,2H,−CH2−O(C=O)C6H5),5.02−5.33(m,3H;−CH2−,>CH−),7.49−8.02(m,5H;−C6H5),12.28(br,1H;−C=NH+−);13C NMR(270MHz,CD2Cl2,25℃)δ=183.3(−C=NH+−);166.5(−CO2CH3),134.4,130.3,129.5,129.3,77.4(−CH2−O(C=O)C6H5),63.6(>CH−),59.2(−CH2−),14.7ppm(−S−CH3);IR(KBr):υ−3178,3100,3020,1720(>C=O),1589(C=NH+),1473,1280,1241,1164,1033cm−1.元素分析(%)C13H14F3NO6S2(401.38)計算値:C38.90,H3.52,N3.49,S15.98;測定値:C38.74,H34.7,N3.49,S16.05.
【0056】
代表的なリビングカチオン重合手順
4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)(0.161g、1.0mmol)を安定化剤として2−メチル−2−ブテン(0.005%)および水(1.0mL、必要に応じて添加)を含む未精製CH2Cl2(1.0mL)に溶解した溶液を、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(8.0mg、20mol、[SL]/[1]=50)を同様のCH2Cl2(1.0mL)に溶解した溶液に空気中(湿度:89%)で30℃で添加した。得られた混合物を、空気中で30℃で35時間重合させた。反応混合物は反応の間均一なままだった。反応をクエンチするためにメタノールを添加した後、得られた混合物をメタノール中に注ぎ、ポリマーを沈殿させた。ポリマーを吸引濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。その結果、ポリSLを無色の固体として定量的に得た。[αD30=−147.3°(c=1.0,DMF);1H
NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C):δ=2.21(−S−Me,terminal group),2.81−3.05(1H;−CH2−),3.26−3.42(1H;−CH2−),3.60−3.69(3H;−OCH3),4.03−4.14(>CH−,terminal group),4.15−4.33(1H;>CH−),4.43−4.73(−CH2−,terminal group),4.73−4.84(>CH−,terminal group),7.44−8.07(−C6H5,terminal group),8.03−8.52(−NH−,terminal group),8.86−9.10(1H;−NH−);13C NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C)δ=170.5(−S(C=O)NH−),166.0(−(C=O)OCH3),54.5(>CH−),52.4(−OCH3),30.0(−CH2−);IR(KBr):υ=3301,1743(−O(C=O)C6H5),1658(−O(C=O)NH−),1511,1203,1018,856cm−1.
1とSLとの反応(1:SL=1:4)
SL(0.032g、0.2mmol)のCH2Cl2(0.5mL)溶液を、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(0.02g、0.05mmol)のCH2Cl2(0.5mL)溶液に空気中で30℃で添加した。混合物を12時間攪拌した後、クエンチせずに得られた混合物をロータリーエバポレーターで濃縮した。生成物を1H NMR分光法によって確認した(図9(b))。1の2.80ppmでのS−Me基に帰属できるシグナルは完全に消失し、開始末端の2.31ppmでのS−Me基に帰属できるシグナルが新たに現われた。開始末端のS−Me基と芳香族基の比率は理論値(3:5)と良好に一致し、これはポリマーでも観察された。このデータは、この重合系の開始効率が定量的であることを示すものである。
【0057】
後重合反応
SL(0.48g、3.0mmol)のCH2Cl2溶液を、安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(0.088g、7.29mol%)のCH2Cl2(1.0mL)溶液に空気中で30℃で添加した。次に、混合物を30時間攪拌した。SLの完全な転化後(1H NMRスペクトルによって監視)、SL(0.97g、6.0mmol)のCH2Cl2(12mL)溶液を残りの溶液に添加した。後重合を60時間行った後、反応をクエンチするためにメタノールを添加した。得られた混合物をメタノール中に注ぎ、沈殿物を真空中で乾燥してポストポリマー(1.40g、97%)を得た。[αD30=160.3°(c=1.0、DMF);1H NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C):δ=2.21(−S−Me,terminal group),2.82−3.04(1H;−CH2−),3.25−3.42(1H;−CH2−),3.60−3.70(3H;−OCH3),4.13−4.32(1H;>CH−),7.43−8.06(−C6H5,terminal group),8.88−9.12(1H;−NH−);13C NMR(270MHz,[D6]DMSO,25°C):δ=170.7(−S(C=O)NH−),166.1(−(C=O)OCH3),54.6(>CH−),52.3(−OCH3),29.9(−CH2−);IR(KBr):υ=3301,1743:(−(C=O)OCH3),1658(−S(C=O)NH−),1511,1203,1018,856cm−1.
【0058】
[実験例2]
材料:4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)と4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンを合成した。TfOMe(アルドリッチ化学(Aldrich Chemical)社製、>99%)、クロロベンゼン(PhCl)、アセトニトリル、DMF、DMSO、CH2Cl2は使用前にCaH2で蒸留した。スチレン(St)(関東化学株式会社製、>99%)は減圧下で蒸留によって精製した。4−ビニルベンゾイルクロリドは文献にしたがって合成した。その他の試薬はそのままの状態で使用した。
【0059】
測定:1H NMR(270MHz)および13C NMR(67.5MHz)スペクトルは、テトラメチルシラン(TMS)を内標準として使用し、CDCl3、CD2Cl2、またはDMSO−d6中でJEOL JNH EX−270分光計によって記録した。FT−IRスペクトルは、JASCO FT/IR−210分光計によって得た。比旋光度([α]D)は、ナトリウムランプを光源として備えたJASCO DIP−1000デジタル偏光計によって測定した。円偏光二色性(CD)スペクトルは、JASCO J−720分光偏光計によって測定した。数平均分子量(Mn)および多分散性(Mw/Mn)は、4つの連続したポリスチレンゲルコラム[TSK−ゲル(ビーズの大きさ、排除限界分子量);αM(13μm、>1×107)、α4000H(10μm、>1×106)、α3000H(7μm、>1×105)、α2500H(7μm、>1×104)]と40℃における屈折率および紫外線検出器を備えた東ソー株式会社製HPLC HLC−8020システムを使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって推定した。システムは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(5.0mM臭化リチウムおよび5.0mMリン酸)を溶離剤として使用し、1.0mL/分の流量で操作した。ポリスチレン標準を校正に使用した。示差走査熱分析(DSC)測定は、SII DSC−6200を使用し、窒素雰囲気下で10℃/分の加熱速度で行った。
【0060】
4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの合成
4−ビニルベンゾイルクロリド(21.0g、126mmol)の乾燥THF(50mL)溶液を、4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(14.0g、105mmol)を乾燥THF(250mL)およびピリジン(10.2mL、126mmol)に溶解した溶液に0℃で添加した。室温で12時間攪拌した後、ピリジン塩酸塩を濾過によって除去し、真空中で溶媒を蒸留によって除去した。残渣を酢酸エチル/アセトン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、混合溶媒[n−ヘキサン/酢酸エチル(3/1=v/v)]からの再結晶によって、4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルを無色の固体として得た。収率73%(24.1g、91.5mmol)。1H NMR(DMSO−d6):δ=4.25−4.77(5H,>CH,−CH2−O(CO)−,−(SC)O−CH2−),5.45(d,J=10.8Hz,1H,−CH=CH2),6.03(d,J=17.8Hz,1H,−CH=CH2),6.84(dd,J=11.3,17.7Hz,1H,−CH=CH2),7.64(d,J=8.1Hz,2H,−C6H4−),8.01(d.J=8.1Hz,2H,−C6H4−),10.3(broads,1H.NH−)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=55.0(CO−CH2−CH<),65.1(>CH−),71.8(−CH2−O(CO)−),117.7(−CH=CH2),126.5,128.6,130.1(−C6H4−),136.0(−CH=CH2),142.2(−C6H4−),165.6(−O(CO)−C6H4−),189.3(>C=S)ppm.IR(KBr):3185,1712(−OCOPh),1504(C=S),1280,1180,1110,971cm−1.
【0061】
4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−
4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート(1)の合成
トリフルオロメタンスルホン酸メチル(0.89mL、7.00mmol)を、4−ビニル安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステル(1.58g、6.00mmol)の乾燥アセトニトリル(10mL)溶液に乾燥窒素雰囲気下で室温で添加した。混合物を3時間攪拌した後、溶液を乾燥ジエチルエーテル中に注ぎ、沈殿物を濾過によって単離した後、ジクロロメタン/n−ヘキサンからの再結晶によって、4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1を白色の粉末として得た。収率98%(3.01g、7.01mmol)。1H NMR(CD2Cl2):δ=2.77(s,3H,−S−CH3),4.52−4.61(dd,J=3.0,12.6Hz,1H,−CH2−O(CO)−),4.62−4.72(dd,J=3.0,12.4Hz,1H,−CH2−O(CO)−),4.67−5.07(m,2H,CO−CH2−CH<),5.11−5.20(m,1H,>CH−),5.38−5.48(dd,J=0.8,10.8Hz,1H,−CH=CH2),5.85−5.99(dd,J=0.8,17.4Hz,1H,−CH=CH2),6.79(dd,J=11.1,17.8Hz,1H,−CH=CH2),7.52(d,J=8.4Hz,2H,−C6H4−),7.97(d,J=8.4Hz,2H,−C6H4−),12.41(broad s,JH,>C=NH+−)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=14.6(−S−CH3),59.3(CO−CH2−CH<),63.6(>CH−),77.4(−CH2−O(CO)−),117.6(−CH=CH2),127.0,128.5,130.7(−C6H4−),136.5(−CH=CH2),143.5(−C6H4−),166.2(−O(CO)−C6H4−),183.2(−C=NH+−)ppm.IR(KBr):2992,1720(−OCOPh),1589(−C=NH+−),1288,1241,1164,1241,1118,1025,640cm−1.C15H16F3NO6S2:計算値:C42.15,H3.77,N32.8,S15.00;測定値:C42.16,H3.81,N32.4,S15.16.
【0062】
マクロモノマー(MSL)の合成
4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)(2.0g、12mmol)および4−ビニル安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1(0.8g、1.9mmol)の乾燥CH2Cl2(25mL)溶液を、窒素雰囲気下で丸底フラスコ(50mL)に入れた。得られた混合物を、窒素中で30℃で24時間重合させた。反応混合物は反応の間均一なままだった。反応をクエンチするためにメタノールを添加した後、得られた混合物をエチルエーテル中に注ぎ、ポリマーを沈殿させた。ポリマーを吸引濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。こうして、マクロモノマー(MSL)を無色の固体として定量的な収率で得た。[αD30=46.4°(c=1.0g/dL,CH2Cl2).Fw≒1600(1H NMRスペクトルから算出)。1H NMR(DMSO−d6):δ2.21(initiating end,−S−CH3),2.97−3.05(1H,−CH2−),3.25−3.38(1H,−CH2−),3.64(3H,−OCH3),4.19−4.40(1H,>CH−),5.49−5.46(initiating end,−CH=CH2),5.99−6.05(initiating end,−CH=CH2),6.78−6.88(initiating end,−CH=CH2),7.61−7.65(initiating end,−CH=CH2),7.95−7.98(initiating end,−C6H4−),8.40−8.42(initiating end,−NH−),8.76−8.79(terminal group,−NH−),8.86−8.89(1H,−NH−)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=9.16(initiating end,−S−CH3),27.58(−CH2−),49.72(−OCH3),54.09(>CH−),114.70(initiating end,−CH=CH2),123.87,126.55,127.41,(−C6H4−),133.01(initiating end,−CH=CH2),139.30(initiating end,−C6H4−),162.57(initiating end,−S(CO)NH−),163.32(−S(CO)NH−),167.82(initiating end,−O(CO)−C6H4−)167.89(−COOMe)ppm.IR(KBr):3309(−NH−),1743(−OCOPh),1658(−SCONH−),1512,1211,856cm−1.
【0063】
MSLの重合
MSLの重合の代表的な操作を以下に示す。MSL(0.100g、0.058mmol)とAIBN(1.00mg、0.0061mmol)の混合物を、ガス抜きした封管内においてPhCl中で60℃で20時間加熱した。反応後、得られた混合物をDMSOに溶解し、次にメタノール中に注ぎ、白色の粉末状ポリマーを沈殿させた。スチレンとの共重合体を沈殿させるために、アセトンを貧溶媒として使用した。沈殿物を濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。収率89%(90mg、0.0520mmol)。1H NMR(DMSO−d6):δ=1H NMR(DMSO−d6):δ=2.18(initiating end,−S−CH3),2.93−3.12(1H,−CH2−),3.23−3.40(1H,−CH2−),3.64(3H,−OCH3),4.10−4.40(1H,>CH−),7.65−7.97(initiating end,−C6H4−),8.04−8.15(initiating end,−C6H4−),8.39−8.40(initiating end,−NH−),8.85−8.92(1H,−NH−)ppm.Mn=10700(Mw/Mn=1.75)(表1のラン3).
【0064】
[実験例3]
材料:4(S)−(メトキシカルボニル)−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(SL)と(S)−N−ベンジルセリンメチルエステルは既知の方法にしたがって合成した(Nagai, A.; Miyagawa, T.; Kudo, H.; Endo, T. Macromolecules 2003, 36, 9335., Thompson, C. M.; Frick, J. A.; Green, D. L. C.; J. Org. Chem. 1990, 55, 111.)。トリフルオロメタンスルホン酸メチル(TfOMe)(アルドリッチ化学(Aldrich Chemical)社製、>99%)、トリエチルアミン(東京化成工業株式会社製、>99%)、ジクロロメタン(CH2Cl2)は使用前にCaH2で蒸留した。テトラヒドロフラン(THF)はナトリウムで蒸留した。その他の試薬はそのままの状態で使用した。
【0065】
測定:1H NMR(270MHz)および13C NMR(67.5MHz)スペクトルは、テトラメチルシラン(TMS)を内標準として使用し、CDCL3およびDMSO−d6中でJEOL JNM−LA−270分光計によって記録した。FT−IRスペクトルは、JASCO FT/IR−210分光計によって得た。比旋光度([α]D)は、ナトリウムランプを光源として備えたJASCO DIP−1000デジタル偏光計によって測定した。円偏光二色性(CD)スペクトルは、JASCO J−720分光偏光計によって測定した。数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、4つの連続したポリスチレンゲルコラム[TSK−ゲル(ビーズの大きさ、排除限界分子量);αM(13μm、>1×107)、α4000H(10μm、>1×106)、α3000H(7μm、>1×105)、α2500H(7μm、>1×104)]と40℃における屈折率および紫外線検出器を備えた東ソー株式会社製HPLC HLC−8020システムを使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって推定した。システムは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(5.0mM臭化リチウムおよび5.0mMリン酸)を溶離剤として使用し、1.0mL/分の流量で操作した。ポリスチレン標準を校正に使用した。
【0066】
4(S)−(メトキシカルボニル)−N−ベンジル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(BnSL)
乾燥THF(200mL)に溶解したチオホスゲン(23.8g、207mmol)を、N−ベンジル−L−セリン(43.4g、207mmol)およびトリエチルアミン(41.9g、414mmol)の乾燥THF(600mL)溶液に窒素中で60℃でゆっくりと添加した。混合物を3時間攪拌し、さらに室温で12時間攪拌した。トリエチルアミン塩酸塩を濾過によって除去し、溶媒を真空中で蒸発させた。残渣を酢酸エチル/n−ヘキサン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。混合溶媒[THF/n−ヘキサン(2/1=v/v)]からの再結晶によってBnSL(40.1g、77%)を白色の粉末として得た。[α]D25=35.0°(c=0.1g/dL,CH2Cl2).m.p.=101.3−101.8℃.1H NMR(CD2Cl2):δ=3.70(s,3H,−OCH3),4.32−4.37(m,lH,−CH2−),4.54−4.59(3H,−CH<,−CH2−,−CH2−C6H5),5.31−5.42(m,lH,−CH2−C6H5),7.33−7.38(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=51.47(−CH2−C6H5),53.06(−OCH3),59.90(−CH<),65.55(−CH2−),128.98,129.04,129.48,135.09(−C6H5),169.55(−COOCH3),189.39(−OCSNH−)ppm.IR(KBr):1743(−COOCH3),1481(C=S),1450,1357,1304,1211,971,701cm−1.C12H13NO3S:計算値:C57.35,H5.21,N5.57,S12.76;測定値:C57.54,H5.19,N5.64,S12.72.
【0067】
4(S)−(メトキシカルボニル)−N−ベンゾイル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(BzSL)
塩化ベンゾイル(14.2g、112mmol)の乾燥CH2Cl2溶液を、SL(15.0g、93.0mmol)およびピリジン(9.6g、121mmol)の溶液に窒素中で0℃で添加した。混合物を室温になるまで放置した後、攪拌下で水を添加した。有機相をMgSO4で乾燥し、溶媒を減圧下で蒸発させた。残渣を酢酸エチル/n−ヘキサン(1/1=v/v)を溶離剤とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。混合溶媒[酢酸エチル/n−ヘキサン(2/1=v/v)]からの再結晶によってBzSL(23.4g、95%)を無色の固体として得た。[α]D25=−28.9°(c=0.1g/dL,CH2Cl2).m.p.=87.2−88.0℃.1H NMR(CD2Cl2):δ=3.76(s,3H,−OCH3),4.56−4.60(m,1H,−CH2−),4.77−4.81(m,1H,−CH<),5.21−5.26(m,1H,−CH2−),7.40−7.74(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=53.98(−OCH3),60.81(−CH<),70.05(−CH2−),128.72,130.13,133.45,133.59(−C6H5),168.97(−COOCH3),170.98(−NHCO−C6H5),186.51(−OCSNH−)ppm.IR(KBr):1751(−COOCH3),1682(−NHCO−C6H5),1442(−OCSNH−),1373,1311,1250,1219,1188,964,910,733,694cm−1.C12H11NO4S:計算値:C54.26,H4.18,N5.28,S12.09;測定値:C54.21,H4.11,N5.28,S11.90.
4(S)−(メトキシカルボニル)−N−アセチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオン(AcSL)
【0068】
塩化アセチル(8.71g、111mmol)を使用して、BzSLの合成を同様の操作を行った。混合溶媒[酢酸エチル/n−ヘキサン(2/1=v/v)]からの再結晶によってAcSL(17.3g、92%)を無色の固体として得た。[α]D25=−29.0°(c=0.1g/dL,CH2Cl2).m.p.=68.0−68.4℃.1H
NMR(CH2Cl2):δ=2.81(s,3H,−COCH3),3.79(s,3H,−OCH3),4.53(dd,J=4.05,5.97Hz,lH,−CH2−),4.64(m,1H,−CH<),5.15(dd,J=4.05,5.40Hz,1H,−CH2−)ppm.13C NMR(CD2Cl2:δ=25.97(−COCH3),53.64(−OCH3),60.00(−CH<),69.61(−CH2−),169.26(−COOCH3),171.68(−NHCOCH3),186.26(−OCSNH−)ppm.IR(KBr):1758(−COOCH3),1712(−NHCOCH3),1419(−OCSNH−),1373,1311,1227,1180,1041,980,957cm−1.C7H9NO4S:C41.37,H4.46,N6.89,S15.78;測定値C41.24,H4.46,N6.88,S15.78.
【0069】
SL誘導体のカチオン重合
代表的な操作を以下に示す。乾燥CH2Cl2(6.0mL)および3.04mol%のTfOMeを、SL(0.48g、3.0mmol)を含む重合管に導入した。得られた混合物を、窒素中で30℃で8時間攪拌した。反応は均一に進行した。トリエチルアミン(0.2mL)で反応をクエンチした後、得られた混合物をエチルエーテル(300mL)中に注ぎ、ポリマーを沈殿させた。ポリマーを吸引濾過によって回収し、真空中で乾燥させた。こうして、ポリSLを無色の固体として定量的に得た。Mn=6100,Mw/Mn=1.13.1H NMR(DMSO−d6);δ=2.21(initiating end,S−CH3),2.89−3.11(1H,−CH2−),3.17−3.37(1H,−CH2−),3.55−3.76(3H,−OCH3),4.21−4.41(1H,>CH−).8.79−9.00(1H,−NH−)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=29.5(−CH2−),53.0(−OCH3),54.37(>CH−),163.89(−SCONH−),167.38(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3301,1743(−COOCH3),1658(−SCONH−),1512,1203cm−1.
ポリ(BnSL)(収率:定量的)。無色の固体。Mn=8200,Mw/Mn=1.04.1H NMR(DMSO−d6):δ=2.22(initiating end,S−CH3),3.36−3.67(3H,−OCH3),4.05−4.92(3H,−CH<,−CH2−),7.05−7.28(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=29.4(−CH2−),52.3(−OCH3),53.18(>CH−),60.67(−CH2−C5H6),127.87,128.13,128.45,135.86(−C6H5),168.08(−SCONH−),169.12(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3456,1743(−COOCH3),1651(−SCONH−),1404,1311,1180,1072,987,710cm−1.
ポリ(BzSL)(収率:定量的)。薄緑色の固体。Mn=8500,Mw/Mn=1.11.1H NMR(DMSO−d6):δ=2.21(initiating end,S−CH3),2.88−3.79(5H,−CH2−,−OCH3),4.73−5.06(1H,−CH<),7.16−8.04(5H,−C6H5)ppm.13C
NMR(DMSO−d6):δ=30.7(−CH2−),52.9(−OCH3<)59.6(−CH<),128.60,129.02,132.95,133.88(−C6H5),168.42(−SCONH−),171.28(−NHCO−C6H5),172.12(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3394,1751(−COOCH3),1702(−NHCO−C6H5),1658(−SCONH−),1296,1203,1126,694cm−1.
ポリ(AcSL)(収率:定量的)。無色の固体。Mn=6600,Mw/Mn=1.09.1H NMR(DMSO−d6):δ=2.21(initiating end,S−CH3),2.18−2.44(3H,−CH3),2.74−3.81(5H,−CH2−,−OCH3),4.72−5.10(1H,−CH<)ppm.13C NMR(DMSO−d6):δ=24.5(−COCH3),29.90(−CH2−),52.76(−OCH3),59.46(−CH<),170.00(−SCONH−),171.50(−NHCO−CH3),173.34(−COOCH3)ppm.IR(KBr):3370,1751(−COOCH3),1703(−NHCO−CH3),1658(−SCONH−),1373,1250,1203,1003cm−1.
【0070】
TfOMeによるSL誘導体のメチル化
代表的な操作を以下に示す。SL(0.15g、0.77mmol)のCD2Cl2(0.8mL)溶液を窒素雰囲気下でNMR管に入れた。TfOMe(93μL、0.85mmol)を添加した後に管を閉じ、混合物を室温で1分間攪拌した。SLとTfOMeから得られたイミノチオカーボネートトリフラート塩(Me−SL)の特性を、1H NMR、13C NMR、IR分光法によって確認した。1H NMR(CD2Cl2):δ=2.76(s,3H,−SCH3),3.85(s,3H,−OCH3),5.20−5.39(3H,>CH−,−CH2−),11.92(broad s,1H,=HN+)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=14.53(−SCH3),54.23(−OCH3),60.07(>CH−),77.75(−CH2−),167.82(−COOCH3),183.96(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):2962,1751(−COOCH3),1581(−C=HN+),1481,1442,1357,1281,1241,1165,1034,957,918,640cm−1.
Me−BnSL.1H NMR(CD2Cl2):δ=2.79(s,3H,−SCH3),3.67(s,3H,−OCH3),4.89(s,2H,−CH2−C6H5),5.00−5.45(3H,−CH<,−CH2−),7.41(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=15.09(−SCH3),52.51(−CH2−C6H5),54.07(−OCH3),63.32(>CH−),77.29(−CH2−),129.96,130.08,130.39,130.73(−C6H5),167.35(−COOCH3),183.03(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):3502,3039,2963,1751(−COOCH3),1566(−C=HN+),1435,1412,1265,1157,1034,964,926,710,640,517cm−1.
Me−BzSL.1H NMR(CD2Cl2):δ=2.74(s,3H,−SCH3),3.67(s,3H,−OCH3),5.43−5.46(m,1H,−CH2−),5.73−5.87(3H,−CH<,−CH2−),7.53−7.90(5H,−C6H5)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=16.17(−SCH3),54.05(−OCH3),62.94(>CH−),79.40(−CH2−),129.52,130.07,130.68,135.16(−C6H5),167.10(−COOCH3),167.52(−NHCO−C6H5),189.79(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):3070,1751(−COOCH3),1658(−NHCO−C6H5),1604(−C=HN+),1543,1473,1442,1381,1288,1234,1165,1026,972,895,717,640,517cm−1.
Me−AcSL.1H NMR(CD2Cl2):δ=2.49(s,3H,−SCH3),2.73(−CH3),3.91(s,3H,−OCH3),5,50(dd,J=3.78,5.13Hz,1H,−CH2−),5.63(m,1H,−CH<),5.84(dd,J=4.05,6.21Hz,1H,−CH2−)ppm.13C NMR(CD2Cl2):δ=15.89(−SCH3),23.67(−CH3),54.87(−OCH3),61.64(>CH−),80.14(−CH2−),167.66(−COOCH3),170.11(−NHCO−CH3),188.98(−C=HN+)ppm.IR(CD2Cl2):3032,2962,1751(−COOCH3),1713(−C=HN+),1442(−NHCO−CH3),1389,1281,1234.1165,1034,980,640cm−1.
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】MnおよびMw/Mn対仕込率([SL]/[1])を示す。
【図2】(a)は、CH2Cl2中における空気中で30℃での安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1を使用したSLの重合の時間−転化率と一次時間−転化率のプロットを示し、(b)は、CH2Cl2中における空気中で30℃での1を使用したSLの重合の転化率−Mnと転化率−Mw/Mnのプロットを示す;[1]0=0.01M、[SL]0/[1]0=50。
【図3】SLの後重合実験前後のSECプロファイルを示す;ポリSL:第1段階の重合で得られたプレポリマー(MnSEC=3400,MnNMR=2700,Mw/Mn=1.17、ポリ(SL−p−SL)):第2段階の重合で得られたポストポリマー(MnSEC=19000,MnNMR=17500,Mw/Mn=1.09)。
【図4】空気と水の存在下で、耐水性カチオン重合開始剤を使用し、未精製ジクロロメタン中で通常温度で達成したリビングカチオン開環重合を示す。
【図5】4−ヒドロキシメチル−1,3−オキサゾリジン−2−チオンの1H NMRスペクトルを示す。
【図6】安息香酸2−チオキソ−オキサゾリジン−4−イルメチルエステルの1H NMRスペクトルを示す。
【図7】D2O中での安息香酸2−メチルスルファニル−4,5−ジヒドロ−オキサゾリニウム−4−イルメチルエステルトリフルオロメタンスルホネート1の1H NMRスペクトルを示す。
【図8】a)乾燥窒素雰囲気中で得られたポリマー(Mn=19540)およびb)空気中で得られたポリマー(Mn=19605)の1H NMRスペクトルを示す。
【図9】a)1およびb)1とSLの混合物の1H NMRスペクトルを示す。
【図10】1(15mol%)を使用してCH2Cl2中で24時間のSLのカチオン重合によって得られたMSLの(A)CDCl3中および(B)DMSO−d6中の1H NMR(270MHz)スペクトルを示す。
【図11】MnおよびMw/Mn対仕込率([SL]/[1])を示す[条件;溶媒:CH2Cl2(0.5M)、温度:30℃、[SL]/[1]=6.6−67、SLの転化率=100%]。
【図12】ラジカル重合で得られた(A)MSLおよび(B)グラフト共重合体(表2のラン3)のSECプロファイル(UV検出器)を示す。
【図13】(A)MSLおよび(B)グラフト共重合体(表2のラン3)のCDスペクトル(c=0.1g/dL、CH2Cl2)を示す。
【図14】MnおよびMw/Mn対仕込率([RnSL]/[TfOMe])を示す[条件;溶媒:CH2Cl2(0.5M)、温度:30℃、[SL]/[1]=11.5−56.5、RnSLの転化率=100%]。
【図15】CH2Cl2中、30℃でTfOMeを使用したRnSLの重合の時間−転化率および一次時間−転化率のプロットを示す;[TfOMe]0=0.015M、[RnSL]0/[TfOMe]0=32.9。
【図16】CH2Cl2中、30℃でTfOMeを使用したRnSLの重合の(a)転化率−Mnおよび(b)転化率−Mw/Mnを示す;[TfOMe]0=0.015M、[SL]0/[TfOMe]0=32.9。
【図17】ポリチオウレタンのCDスペクトル(c=0.1g/dL、CH2Cl2)を示す:(a)ポリ(SL)、(b)ポリ(BnSL)、(c)ポリ(BzSL)、ポリ(AcSL)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とするポリチオウレタンの製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(3)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とするポリチオウレタンの製造方法。
【化3】
【請求項3】
請求項2の製造方法により得られたポリチオウレタンと芳香族ビニル化合物とを共重合することを特徴とするグラフトポリマーの製造方法。
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(2)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とするポリチオウレタンの製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物を下記一般式(3)で表される化合物の存在下に重合することを特徴とするポリチオウレタンの製造方法。
【化3】
【請求項3】
請求項2の製造方法により得られたポリチオウレタンと芳香族ビニル化合物とを共重合することを特徴とするグラフトポリマーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−124551(P2006−124551A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315857(P2004−315857)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】
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