説明

ポリビニルアセタール樹脂組成物及びその製造方法

【課題】透明性、靭性、剛性、表面硬度のバランスに優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を含有する樹脂組成物であって、ポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対してフュームドシリカ(B)4〜60重量部を含有することを特徴とする樹脂組成物を溶融成形して成形品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール樹脂とフュームドシリカを含有する透明な樹脂組成物に関する。また、そのような樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、透明性、靭性に優れる材料であるが、その一方で、剛性や表面硬度が著しく不足するために、広範囲な用途に用いることは困難であった。そのため、これらの物性が改善されたバランスの良い透明材料を提供することが求められてきた。
【0003】
透明な熱可塑性樹脂には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を主体とするメタクリル樹脂や、ポリカーボネート(PC)樹脂等が一般的に良く知られている。しかし、PMMAを主体とするメタクリル樹脂は、透明性、剛性、表面硬度が優れるものの、靭性が著しく不足する欠点がある。また、PCは、透明性、靭性に優れるものの、剛性及び表面硬度が著しく不足するという欠点がある。これらの透明材料の課題を改善する方法として、透明な熱可塑性樹脂と無機材料との複合化が近年検討されている。
【0004】
特許文献1には、ポリビニルブチラール(PVB)などの分散安定化樹脂を溶解した有機溶剤にシリカ粒子分散液を混合し、さらにアクリル系モノマーなどの放射線硬化性単量体を混合してなる放射線硬化樹脂組成物が記載されている。この組成物をプラスチック層に塗布して硬化させることによって、表面硬度の高い積層体が得られるとされている。
【0005】
特許文献2には、ゾルゲル法で形成されたシリカなどの無機ガラスのマトリックスに対し、液状の樹脂を含浸させてから固化させる、機能性グレージングが記載されている。
【0006】
特許文献3には、プラスチックレンズ基材の表面に架橋されたポリビニルアセタール樹脂からなるプライマー層を設け、続いてその上にハードコート層を設けたプラスチックレンズが記載されている。このとき、プライマー層としては、ポリビニルアセタール樹脂と加水分解性オルガノシラン化合物を含む酸性溶液を用いることができ、オルガノシラン化合物の加水分解物又は縮合物によって架橋されることが記載されている。これにより耐衝撃性に優れたプラスチックレンズが得られるとされている。
【0007】
非特許文献1には、ポリビニルブチラール(PVB)、アルコキシシラン及びコロイダルシリカを2−プロパノール中で反応させ、それを透明ポリウレタン基板にコーティングすることで、PVB−シリカ複合体薄膜試料を作成することが記載されている。これにより、密着性が良好で、硬度の高い、透明均一な薄膜が得られるとされている。
【0008】
非特許文献2には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のテトラヒドロフラン(THF)溶液と、テトラエトキシシシランと塩酸を含有する水/エタノール溶液とを混合することによって、ゾルゲル法により、PMMA−シリカハイブリッド材料を作成することが記載されている。そして、有機相と無機相の界面でシラノール基とカルボニル基が水素結合を形成することによって、両相が高度に混合可能であることが示されている。
【0009】
特許文献4には、コロイダルシリカを乾燥して粉末にしてから、メタクリル酸メチル(MMA)などのモノマーに分散させた後、重合反応を進行させて複合化する、ナノ複合樹脂組成物の製造方法が記載されている。PMMAマトリクス中にシリカをナノオーダーで分散させることで、剛性や表面硬度、熱安定性が向上したシリカ含有樹脂組成物を得ている。
【0010】
しかしながら、基材がPETやPMMAである場合は靭性が不十分であり、バランスの取れた透明材料とは言い難い。また、無機微粒子などをゾルゲル法にて製造する手法では靭性は改善されず、また製造面においてもコスト高となり実用的でない。さらに、熱可塑性樹脂と無機微粒子とを溶媒を用いて溶液状態で混合することは、製造工程上実用的でなく、コスト高でもある。また、積層構造を採用する場合は、工程が複雑になる上、剥離のおそれがあり問題である。
【0011】
【特許文献1】特開平2−273233号公報
【特許文献2】特開平7−172881号公報
【特許文献3】特開平7−306302号公報
【特許文献4】特開2004−161795号公報
【非特許文献1】行木啓記、「ポリビニルブチラール−シリカ複合体薄膜の作製とその耐衝撃性」、愛知県産業技術研究所研究報告、2003年
【非特許文献2】C. -K. Chan外3名、Polymer、2001年、第42巻、p.4189−4196
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、透明性、靭性、剛性及び表面硬度に優れる樹脂組成物を提供することである。また、そのような樹脂組成物を低コストで容易に製造できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を含有する樹脂組成物であって、ポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対してフュームドシリカ(B)4〜60重量部を含有することを特徴とする樹脂組成物を提供することによって解決される。ここでポリビニルアセタール樹脂(A)が、平均重合度200〜4000のポリビニルアルコールをアセタール化して得られたものであることが好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂(A)のアセタール化度が55〜83モル%であることが好ましい。さらに、ポリビニルアセタール樹脂(A)がポリビニルブチラール樹脂であることも好ましい。
【0014】
上記樹脂組成物を、厚さ1mmに成形した場合に、可視光線透過率が80%以上であり、かつヘイズ値が10%以下であることが好適である。また、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片に成形した場合に、歪み1%時の曲げ応力から算出される曲げ弾性率が2000MPa以上であり、かつ試験片が破断するまでの歪みが10%以上であることも好適である。さらに、JIS K7113記載の2号形試験片(厚さ1mm)に成形した場合に、歪み1%時の引張応力から算出される引張弾性率が2000MPa以上であり、かつ試験片が破断するまでの伸びが10%以上であることも好適である。また、フュームドシリカ(B)を添加しない以外は同じ組成の樹脂組成物と比較して、ガラス転移温度の変化量が3℃以内であることも好適である。
【0015】
上記樹脂組成物からなる成形品が、本発明の好適な実施態様である。このとき、成形品の鉛筆硬度がF以上であることが好ましい。また、上記樹脂組成物からなるフィルムも本発明の好適な実施態様である。
【0016】
上記課題は、ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を溶融混練することによる、上記樹脂組成物の製造方法を提供することによっても解決される。このとき、溶融状態のポリビニルアセタール樹脂(A)に対して、フュームドシリカ(B)を添加して溶融混練することが好適である。また、溶融樹脂温度が140℃以上であり、溶融粘度が10000Pa・s以下であり、かつ最大せん断速度が100sec−1以上である条件で溶融混練することも好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物はシートなどに成形した際に、透明性、靭性、剛性及び表面硬度に優れていて、製造工程やコストにおいて、安価で容易に製造可能な成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を詳述する。本発明は、ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を含有する樹脂組成物であって、ポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対してフュームドシリカ(B)4〜60重量部を含有することを特徴とする樹脂組成物である。このような構成にすることによって、透明性、靭性、剛性、表面硬度のバランスに優れた成形品を得ることができる。
【0019】
本発明で用いられるポリビニルアセタール樹脂(A)は、ポリビニルアルコール(PVA)とアルデヒドとを、水及び/又は有機溶剤中で酸触媒存在下にて反応させ、必要に応じて中和し、洗浄した後、乾燥することにより得ることができる。得られるポリビニルアセタール樹脂(A)の構造は下記式(I)に示されるとおりである。
【0020】
【化1】

【0021】
上記式(I)中、k+l+m=1である。また、Rはアセタール化反応に用いたアルデヒドの残基を示す。このとき、異なるアルデヒドを併用しても構わない。上記式において、各結合の配列の仕方は特に制限されず、ブロック的であっても、ランダム的であってもよい。
【0022】
ポリビニルアセタール樹脂(A)のアセタール化度は、好ましくは55〜83モル%である。アセタール化度が55モル%未満のポリビニルアセタール樹脂は製造工程が煩雑になって製造コストが高くなるとともに溶融加工性も低下することから好ましくない。一方、83モル%を超えてPVAをアセタール化しようとすれば、アセタール化反応の時間を長くすることが必要になり経済的に不利になる。ポリビニルアセタール樹脂(A)は、1種類のものを単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。ここで、アセタール化度(モル%)は、以下の式によって表されるものであり、前記式(I)にしたがえば、[2k/(2k+l+m)]×100(モル%)と示されるものである。
アセタール化度(モル%)=[(アセタール化された水酸基のモル数)/(原料ポリビニルアルコール中の水酸基及びアセチル基の合計モル数)]×100
【0023】
ポリビニルアセタール樹脂(A)の製造に用いられるPVAは、特に限定されず、ポリ酢酸ビニル等をアルカリ触媒又は酸触媒を用いてけん化することにより製造されたもの等、従来公知のPVAを用いることができる。PVAは完全にけん化されたものであっても、部分的にけん化されたものであってもよい。けん化度は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。PVAは1種類のものを単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。PVAとして、エチレン−ビニルアルコール共重合体、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体等の、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとの共重合体を用いることもできる。さらに、一部にカルボン酸等の官能基が導入された変性PVAを用いることもできる。
【0024】
また、ポリビニルアセタール樹脂(A)の製造に用いられるPVAは、平均重合度が200〜4000であることが好ましい。より好ましくは200〜3000、さらに好ましくは300〜2000である。PVAの平均重合度が200以下であると、得られる成形品の力学物性が低下する。一方、ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度が4000を越えると、得られる樹脂組成物を溶融混練する際の溶融粘度が高くなりすぎ、製造が困難となる。平均重合度は、けん化されていない部分(酢酸ビニル基)をあらかじめ水酸化ナトリウムを用いて完全にけん化した後、粘度計を用いて水との相対粘度をもとめ、相対粘度から計算によって算出される(JIS K6726)。
【0025】
ポリビニルアセタール樹脂(A)の製造に用いられるアルデヒドは特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。上記アルデヒドとして、工業的な入手性、製造の容易性などの観点から、ブチルアルデヒドが特に好ましく用いられる。即ち、ポリビニルアセタール樹脂(A)がポリビニルブチラールであることが特に好ましい。このとき、ブチルアルデヒドを主として用い、他のアルデヒドを併用しても良い。
【0026】
PVAのアセタール化反応、中和、脱水、洗浄は、特に制限されるものでなく、公知の方法で行うことができる。例えば、PVAの水溶液とアルデヒドを酸触媒の存在下、アセタール化反応させて樹脂粒子を析出させる水媒法、PVAを有機溶媒中に分散させ、酸触媒下でアルデヒドとアセタール化反応させ、この反応液をポリビニルアセタール樹脂に対して貧溶媒である水等に析出させる溶媒法などを適用することができる。どちらの方法を用いても、ポリビニルアセタール樹脂が媒体中に分散したスラリーが得られる。
【0027】
これらの方法により得られたスラリーは、酸触媒により酸性を呈しているため、必要に応じて、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ性の中和剤を添加して、pHが5〜9、好ましくは6〜9、更に好ましくは6〜8となるように調整する。次いで、脱水と洗浄を行い、乾燥して、パウダー状、顆粒状あるいはペレット状のポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。
【0028】
用いられる酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類、硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸類が挙げられる。また、アセタール化反応後の中和剤は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ類、エチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド類、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0029】
本発明で用いられるフュームドシリカ(B)は乾式法で製造されることが好ましい。フュームドシリカとしては、例えばデグッサ(Degussa)社のAEROSIL、株式会社トクヤマのREOLOSIL、カボート(Cabot)社のCAB−O−SIL等があげられる。フュームドシリカは、高度に精製した四塩化珪素を酸水素炎中で高温加水分解させて得ることができる。フュームドシリカ(B)は、樹脂組成物中において、微細に分散している必要があり、微細に分散していない場合は、可視光下において光が散乱し、ヘイズが悪化してしまう。一般的には、光の波長の1/4程度以下の粒径になるように微細に分散させることが望ましく、そのためフュームドシリカ(B)の平均一次粒子径は50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。また平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましい。平均一次粒子径が、5nmより小さいと、表面積の増大にともなってシリカ粒子どうしの凝集力が強くなり過ぎて、微細に分散することが困難になる場合がある。フュームドシリカ(B)の比表面積はBET法で50〜500m/gであることが好ましい。比表面積はより好適には100m/g以上であり、またより好適には300m/g以下である。
【0030】
ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)の配合比は、ポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対してフュームドシリカ(B)4〜60重量部である。フュームドシリカ(A)の配合量がこの範囲に含まれることによって、剛性、表面硬度及び靭性のバランスに優れた成形品を得ることができる。ここで、フュームドシリカ(A)の配合量が4重量部以上であることが重要であり、これによって、十分な剛性と表面硬度を有する成形品を得ることができる。すなわち、ある程度大量に配合することで、初めて十分な剛性と表面硬度の改善効果が得られるのである。フュームドシリカ(A)の配合量は、好適には6重量部以上であり、さらに好適には10重量部以上である。一方、フュームドシリカ(A)の配合量が60重量部を超えると、靭性が低下してしまい、ポリビニルアセタール樹脂(A)が本来有していた靭性が大きく損なわれてしまう。フュームドシリカ(A)の配合量は、好適には40重量部以下であり、さらに好適には30重量部以下である。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、好適には、ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を溶融混練して製造される。用いられるポリビニルアセタール樹脂(A)の形態は特に限定されず、例えば、パウダー状、ペレット状、繊維状、ストランド状又はフィルム状のものを用いることができる。また、フュームドシリカ(B)は粉末状のものが好適に用いられる。粉末状のフュームドシリカ(B)を用いる場合には、シリカゾルを用いる場合と比較して、分散媒の除去が不要になることから、装置、工程両面における簡略化が可能になり、製造コストを低減することができる。ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を予め混合してから混練装置に導入してもよいが、溶融状態のポリビニルアセタール樹脂(A)に対して、フュームドシリカ(B)を添加して溶融混練する方が好ましい。こうすることによって、シリカ微粒子がより均一に分散した樹脂組成物が得られる。
【0032】
ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を溶融混練する際に用いられる装置は、両者を均一に混練できるものであればよく特に限定されない。なかでも、ローラーミキサーや二軸押出機のように、強いせん断力を付与することのできる混練装置が好適に用いられる。強いせん断力を与えることによって、粒子同士の凝集を破壊し、シリカ粒子を樹脂中に高度に分散させることができる。
【0033】
溶融混練法にて樹脂組成物を製造する場合の溶融条件としては特に制限はないが、次に述べる条件下で行うことが好ましい。混練時の溶融樹脂温度は、良好な可塑性を得るために、140℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。溶融樹脂温度は、熱分解を防止するとともに、溶融粘度が低くなりすぎてせん断力が低下するのを防止するためには300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。また、前記溶融樹脂温度における溶融粘度は、通常の混練装置で容易に混合するためには10000Pa・s以下であることが好ましく、8000Pa・s以下であることがより好ましい。一方、溶融粘度が低すぎると、混練時にせん断力が低下するおそれがあるので、50Pa・s以上であることが好ましく、100Pa・s以上であることがより好ましい。さらに、最大せん断速度は100sec−1以上であることが好ましく、200sec−1以上であることがより好ましい。一方、通常の混練装置で容易に混合するためには、最大せん断速度が5000sec−1以下であることが好ましい。以上のような条件を採用することによって、シリカ粒子が高度に分散した樹脂組成物を得ることができる。
【0034】
本発明の樹脂組成物には、発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、接着力調整剤、充填剤、耐湿剤等が添加されていても良い。なお、剛性に優れた成形品を得るためには、可塑剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0035】
こうして得られた樹脂組成物は、厚さ1mmに成形した場合に、可視光線透過率が80%以上であることが好ましい。可視光線透過率が80%以上であることによって、透明材料として広く使用することができる。可視光線透過率は、より好適には85%以上である。また、厚さ1mmに成形した場合に、ヘイズ値が10%以下であることが好ましい。ヘイズ値が10%以下であることによって、透明材料として広く使用することができる。ヘイズ値は、より好適には5%以下である。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片に成形した場合に、歪み1%時の曲げ応力から算出される曲げ弾性率が2000MPa以上であり、かつ試験片が破断するまでの歪みが10%以上であることが好ましい。曲げ弾性率が2000MPa以上であることによって、成形品として使用する際に十分な剛性を示すことができる。曲げ弾性率は、より好適には2200MPa以上である。試験片が破断するまでの歪みが10%以上であることによって、成形品として使用する際に十分な靭性を示すことができる。破断歪みは、より好適には20%以上であり、さらに好適には30%以上である。
【0037】
また、本発明の樹脂組成物は、JIS K7113記載の2号形試験片(厚さ1mm)に成形した場合に、歪み1%時の引張応力から算出される引張弾性率が2000MPa以上であり、かつ試験片が破断するまでの伸びが10%以上であることが好ましい。引張弾性率が2000MPa以上であることによって、成形品として使用する際に十分な剛性を示すことができる。引張弾性率は、より好適には2200MPa以上である。試験片が破断するまでの伸びが10%以上であることによって、成形品として使用する際に十分な靭性を示すことができる。破断伸びは、より好適には20%以上であり、さらに好適には30%以上である。
【0038】
また、本発明の樹脂組成物は、フュームドシリカ(B)を添加しない以外は同じ組成の樹脂組成物と比較して、ガラス転移温度の変化量が3℃以内であることが好ましい。ガラス転移温度の変化量は、より好適には2℃以内である。
【0039】
本発明の樹脂組成物を成形することで、成形品が得られる。成形方法は特に限定されないが、溶融成形することが好ましい。溶融成形としては、押出成形、射出成形などの各種の成形方法を採用することができる。また、他の素材との積層体にすることもできる。押出機中でポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を溶融混練して、そのまま成形しても構わない。
【0040】
本発明の成形品は、その表面の鉛筆硬度がF以上であることが好ましい。鉛筆硬度がF以上であることによって、表面に摩擦による傷が発生するのを抑制できる。一般に、透明な成形品はその表面に傷が発生して透明性が損なわれることを嫌うので、この点は重要である。鉛筆硬度は、より好適にはH以上である。
【0041】
本発明の成形品は、透明性、靭性、剛性及び表面硬度に優れているので、透明性と力学特性が要求される様々な成形品、例えば、フィルム、シートあるいは射出成形品として用いられる。透明性と力学特性上の要請から、現状ではアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等が用いられているような用途に、好適に用いることができる。例えば、高速道路等の遮音壁等の壁材や窓材等の建材、光学レンズや映像レンズ等の光学部材、車両用部材、家電用部材、食品用包装用トレーや蓋材、カップ等など、多くの用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例によりなんら限定されるものではない。なお以下の実施例において、可視光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率、歪み、引張弾性率、伸び、表面硬度、ガラス転移温度、シリカの粒子径、シリカの比表面積及び溶融粘度は下記の方法により測定した。
【0043】
[可視光線透過率]
株式会社日立製作所製の分光光度計UV−4100を用い、厚さ1mmの試験片について、波長領域280〜2500nmの透過率を測定し、JIS R 3106に準じ、380〜780nmまでの可視光線透過率を求めた。
【0044】
[ヘイズ]
JIS K7105に準じて、厚さ1mmの試験片のヘイズを求めた。
【0045】
[曲げ弾性率と歪み]
曲げ試験における剛性(弾性率)、靭性(破断歪み)評価は、JIS K7171に従い、株式会社島津製作所製オートグラフAG−5000Bを用いて、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を用いて、歪み速度1mm/minで測定した。剛性は、試験開始から歪み1%時の曲げ応力によって算出される曲げ弾性率(MPa)で評価した。また、靭性は、試験片が破断するまでの歪み(%)で評価した。
【0046】
[引張弾性率と伸び]
引張試験における剛性(弾性率)、靭性(破断伸び)評価は、JIS K7162に従い、株式会社島津製作所製オートグラフAG−5000Bを用いて行い、試験片の形状は、JIS K7113記載の2号形ダンベル(厚さ1mm)を用いて、引張速度5mm/minで測定した。剛性は、引張歪み1%時の引張応力から算出される引張弾性率(MPa)で評価した。靭性は、試験片が破断するまでの伸び(%)で評価した。
【0047】
[表面硬度]
表面硬度はJIS K5400に従い、厚さ1mmの試験片の鉛筆硬度を測定した。
【0048】
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度の評価は、長さ20mm×幅3mm×厚さ1mmの試験片を用いて、レオロジー製FTレオスペクトラーDVE−V4にて、正弦振動数10Hz、昇温速度3℃/minの測定条件で、主分散の損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)を求めた。フュームドシリカを添加した後のガラス転移温度(Tgb)と、添加する前のポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度(Tga)の両方の値を求めた。
【0049】
[シリカの粒子径]
シリカの粒子径は、H−800NA透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて求めた。フィルム断面の写真から任意に500個のシリカ粒子を選び、その大きさをそれぞれ実測し、平均一次粒子径とした。
【0050】
[シリカの比表面積]
DIN 66131に準じて、使用したシリカのBET法による比表面積を測定した。
【0051】
[溶融粘度]
株式会社東洋精機製作所製のCAPIROGRAPH1Dを用いて、溶融粘度を測定した。装置仕様は、バレル径9.55mmφ、キャピラリー長さ(L)10mm、キャピラリー直径(D)1mm、L/D=10、バレル材質SACM(チッ化鋼)である。
【0052】
[ポリビニルアセタール樹脂の製造方法]
重合度800、けん化度99モル%のPVA(275g)を純水(2890g)に加温しながら溶解させ、12℃に温度調節して、35重量%の塩酸(201g)とn−ブチルアルデヒド(148g)を加え、この温度を2時間保持して反応生成物を析出させた。その後、反応系を45℃で3時間保持して反応を完了させ、過剰の水で洗浄し、未反応のアルデヒドを洗い流し、残存する塩酸を水酸化ナトリウム水溶液で中和し、脱水した後で、再び大過剰の水でpH=7になるまで洗浄し、揮発分が1.0%になるまで乾燥することにより、ポリビニルアセタール樹脂(A−1)を得た。用いるPVA、アルデヒド化合物を表1に記載したように変えることで、ポリビニルアセタール樹脂(A−2〜4)を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
[シリカ]
表2に示すとおり、乾式法で製造されたフュームドシリカのAEROSIL(デグッサ社製)2種とREOLOSIL(株式会社トクヤマ製)、湿式法で製造されたNIPGEL(東ソー・シリカ株式会社製)の合計4種のシリカを用いた。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例1
ポリビニルアセタールA−1(100重量部)を、株式会社東洋精機製のローラーミキサーR60型ラボプラストミルを用いて、樹脂温度200℃、回転数100rpmで溶融させた状態でシリカB−1(5重量部)を添加し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物に140℃、5分の熱プレスを行い、長さ200mm×幅200mm×厚さ1mmと長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片をそれぞれ作製した。得られた樹脂組成物の200℃における溶融粘度は200Pa・sであった。また、溶融混練時の最大せん断速度は250sec−1であった。これら試験片を用いて、可視光線透過率、ヘイズ、曲げ弾性率、歪み、引張弾性率、伸び、鉛筆硬度、ガラス転移温度(Tgb)を測定した。結果を表3に示す。
【0057】
実施例2〜8
使用するポリビニルアセタールの種類と重量、シリカの種類と重量を表3に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物から試験片を作製して、物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
比較例1〜6
使用するポリビニルアセタールの種類と重量を表4に示すとおりに変更し、シリカは使用しないか、あるいは種類と重量を表4に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物から試験片を作製して、物性評価を行った。結果を表4に示す。
【0060】
比較例7
透明材料として一般的に用いられているPMMA(株式会社クラレ製PARAPET G)100gを、ラボプラストミルを用いて、樹脂温度220℃、回転数100rpmで溶融させ、得られた樹脂組成物に220℃、5分の熱プレスを行い、実施例1と同様に試験片を作製して、物性評価を行った。結果を表4に示す。
【0061】
比較例8
透明材料として一般的に用いられているPC(帝人株式会社製パンライト L−1225)100gを用いて、ラボプラストミルを用いて、樹脂温度260℃、回転数100rpmで溶融させ、得られた樹脂組成物に250℃、5分の熱プレスを行い、実施例1と同様に試験片を作製して、物性評価を行った。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表3及び表4に示す結果から、本発明の樹脂組成物は透明性(可視光線透過率、ヘイズ)、剛性(曲げ/引張弾性率)、靭性(破断歪み、破断伸び)、表面硬度(鉛筆硬度)に優れ、バランスの取れた透明材料であることがわかる。また、フュームドシリカを使用しない場合や使用量が少ない場合には透明性や剛性が十分でなく、PMMAやPCなどの透明材料も剛性、靭性及び表面硬度が十分でなく、バランスに欠けることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を含有する樹脂組成物であって、ポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対してフュームドシリカ(B)4〜60重量部を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂(A)が、平均重合度200〜4000のポリビニルアルコールをアセタール化して得られたものである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂(A)のアセタール化度が55〜83モル%である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリビニルアセタール樹脂(A)がポリビニルブチラール樹脂である請求項1〜3のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項5】
厚さ1mmに成形した場合に、可視光線透過率が80%以上であり、かつヘイズ値が10%以下である請求項1〜4のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項6】
長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片に成形した場合に、歪み1%時の曲げ応力から算出される曲げ弾性率が2000MPa以上であり、かつ試験片が破断するまでの歪みが10%以上である請求項1〜5のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項7】
JIS K7113記載の2号形試験片(厚さ1mm)に成形した場合に、歪み1%時の引張応力から算出される引張弾性率が2000MPa以上であり、かつ試験片が破断するまでの伸びが10%以上である請求項1〜6のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項8】
フュームドシリカ(B)を添加しない以外は同じ組成の樹脂組成物と比較して、ガラス転移温度の変化量が3℃以内である請求項1〜7のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項10】
鉛筆硬度がF以上である請求項9記載の成形品。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項12】
ポリビニルアセタール樹脂(A)とフュームドシリカ(B)を溶融混練する請求項1〜8のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
溶融状態のポリビニルアセタール樹脂(A)に対して、フュームドシリカ(B)を添加して溶融混練する請求項12記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
溶融樹脂温度が140℃以上であり、溶融粘度が10000Pa・s以下であり、かつ最大せん断速度が100sec−1以上である条件で溶融混練する請求項12又は13記載の樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−255226(P2008−255226A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99055(P2007−99055)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】