説明

ポリビニルアセタール系多孔質体

【課題】ポリビニルアセタール系多孔質体は、乾燥すると硬化して、使用時に乾燥状態から湿潤状態へ戻すには吸水させる必要があるが、柔軟性が回復するまでに通常かなりの時間を要するため、速やかに乾燥状態から湿潤状態へ移行するものが望まれている。
【解決手段】水に対し不溶性もしくは難溶性のポリエーテルポリオール類をポリビニルアセタール系多孔質体樹脂に均一に分散、付着させることで、ポリビニルアセタール系多孔質体の親水性が向上し、乾燥状態における吸水速度が著しく向上し、繰り返し使用しても、吸水性能に極めて優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール系多孔質体に係り、さらに詳しくは、湿潤状態での弾力性、吸水性に優れ、また、乾燥状態での吸水性にも優れた、ポリビニルアセタール系多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール系多孔質体は、湿潤状態において優れた吸水性、柔軟性及び弾力性を有しており、洗車用スポンジ、浴用スポンジ等の一般家庭用品や半導体洗浄、ガラス洗浄等の工業用として広く使用されている。
【0003】
一般にポリビニルアセタール系多孔質体は、乾燥すると硬化して、吸水性、柔軟性及び弾力性が失われる。使用時に乾燥状態から湿潤状態へ戻すには吸水させる必要があるが、柔軟性が回復するまでに通常かなりの時間を要する。特に低温時には湿潤状態に戻すのに非常に時間がかかる。そのため、速やかに乾燥状態から湿潤状態へ移行するものが望まれている。
【0004】
乾燥状態におけるポリビニルアセタール系多孔質体の吸水速度を大きくする方法としては、一般に、界面活性剤を添加あるいは付着させる方法が知られている。(特許文献1、2、3参照)その中でもカチオン系界面活性剤がポリビニルアセタール樹脂との吸着性が良く、脱落しにくいとされている。(特許文献1参照)しかしながら、イオン性界面活性剤は、水に容易に溶解できることも知られており、使用中に水とともに溶解、流出し、従来行われている界面活性剤の添加、付着量では、数回使用し乾燥すると、もはやその効果が失われる。
【特許文献1】特開平7−278343
【特許文献2】特開平8−231754
【特許文献3】特開2000−119436
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、湿潤時の吸水性、弾力性に優れ、また、乾燥状態における吸水性能にも優れ、乾燥状態から湿潤状態へと速やかに移行し、湿潤、乾燥を繰り返しても乾燥状態での吸水性効果が持続するポリビニルアセタール系多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るポリビニルアセタール系多孔質体は、水に対し不溶性もしくは難溶性であるポリエーテルポリオール類を含有したことを特徴とするものであり、ポリビニルアセタール系多孔質素材を製造する際、水に対し不溶性もしくは難溶性のポリエーテルポリオール類を混合することにより達成される。
【0007】
これによると、形成された連続気孔構造組織の樹脂に、水に対し不溶性もしくは難溶性のポリエーテルポリオール類が全体に分散、付着することにより、親水性を有するポリエーテルポリオール類によって、ポリビニルアセタール系多孔質体の乾燥状態における吸水性能を向上させる。また、このポリエーテルポリオール類が水に対し不溶性もしくは難溶性であるので、水洗しても溶け出す量がほとんどないため、繰り返し使用による湿潤、乾燥を繰り返しても、ポリエーテルポリオール類の親水性が維持され、ポリビニルアセタール系多孔質体の乾燥状態における吸水性能を長期間持続させることが可能となる。
【0008】
ポリエーテルポリオール類は、一般式 R[(RO)H]で表され、例としては、脂肪族多価アルコール・アルキレンオキサイド、糖・アルキレンオキサイド、フェノール・アルキレンオキサイド、リン酸・アルキレンオキサイド、脂肪族アミン・アルキレンオキサイド、脂肪族アミノアルコール・アルキレンオキサイド、芳香族アミン・アルキレンオキサイド等が挙げられる。
【0009】
本発明に用いるポリエーテルポリオール類の種類は特に限定されるものではなく、水に対し不溶性もしくは難溶性のものであれば、いずれも使用することが可能である。
【0010】
また、本発明に係るポリビニルアセタール系多孔質体は、ポリビニルアルコール、気孔形成材、アルデヒド類、酸類及び水からなる反応液を架橋反応させた後、気孔形成材を除去してポリビニルアセタール系多孔質体を製造する工程において、前記工程中で添加する不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類の添加混合量が、反応液の0.01重量%以上、0.3重量%以下であることを特徴とする。
【0011】
これによると、ポリビニルアルコール、気孔形成材、アルデヒド類、酸類及び水からなる反応液を架橋反応させた後、気孔形成材を除去してポリビニルアセタール系多孔質体を製造する工程において、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類を反応液中に添加混合することにより、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類が反応液中に均一に分散する。均一に分散した不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類を含有する反応液を架橋反応させることにより、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類が均一に分散、付着されたポリビニルアセタール系多孔質体を得られる。また、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類の添加混合の量は反応液全体の重量の0.01重量% 以上から0.3重量%以下である。不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類の混合量が、反応液の0.01重量未満であると、乾燥状態における吸水性能が不充分、もしくは、持続性に乏しいものとなり、逆に反応液の0.3重量%を超えると、ポリビニルアセタール系多孔質体を製造する際の反応時に収縮率が大きくなり、品質安定性に欠けるものとなる。
【0012】
次に、本発明のポリビニルアセタール系多孔質体の製造法について説明する。
本発明のポリビニルアセタール系多孔質体は、ポリビニルアルコール、気孔形成材、アルデヒド類、酸類及び水からなる反応液に不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類を添加混合し、この反応液を架橋反応させた後、気孔形成材を除去することにより、製造することが出来る。あるいは、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類を反応液に添加すること無しに製造したポリビニルアセタール系多孔質体に不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類の分散液を含浸して付着させる。後者の方法は、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類を多孔質体中に均一に分散することが難しく、吸水性能に斑ができやすいので、前者の反応液に添加混合する方法が好ましい。
【0013】
以下、反応液に添加混合する方法について説明する。
先ず、濃度3〜15重量%のポリビニルアルコール水溶液に、気孔形成材として澱粉、水溶性高分子等を添加する。
ここで、本発明に用いるポリビニルアルコールは、特に限定されるものではないが、好ましくは平均重合度が500〜4000のものであり、完全鹸化、部分鹸化何れのタイプも使用可能である。
【0014】
本発明に使用する気孔形成材は、公知のものから適宜選択すれば良く、澱粉やその他水溶性高分子を使用することが出来る。特に、植物から抽出される澱粉粒が好適に使用され、例えば、米、麦、とうもろこしなどの穀類、馬鈴薯、甘薯、タロイモ等の芋類などの植物が挙げられる。
【0015】
澱粉粒は植物の種類により粒径が異なるので、使用する澱粉の種類は、所望するポリビニルアセタール系多孔質体の気孔径に応じて適宜選択すれば良い。また、より粒径の大きな加工化澱粉を使用あるいは併用することも出来る。尚、反応液中の水が気孔形成材として機能するため、澱粉等の気孔形成材を添加しなくとも良い。
【0016】
次に、この様にして得られたポリビニルアルコール水溶液に、前記不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類を添加し、十分攪拌混合する。不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類が溶液中に十分分散した後、アルデヒド類と酸類を加え、攪拌混合する。ここで、攪拌混合は、減圧下で実施することにより、より気孔構造の均一な多孔質体を得ることができる。
【0017】
また、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類は、始めに水に添加分散しても、ポリビニルアルコールを溶解した後でも、気孔形成材を添加した後でも、アルデヒド類、酸類を添加した後でも、いずれの時点でも混合することは可能であり、反応液中に均一に分散されていれば良い。
【0018】
本発明に使用するアルデヒド類は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクリルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド類、グリオキサール等の脂肪族ジアルデヒド類、ベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド等を挙げることが出来る。中でも、ホルムアルデヒドが多孔質体の湿潤状態における吸水性、柔軟性及び弾力性が優れており、特に好ましい。
【0019】
また、酸類としては、例えば、硫酸、塩酸、燐酸、マレイン酸、蓚酸等の無機酸あるいは有機酸があげられるが、特に硫酸が適度な反応性を有しており、好ましい。
【0020】
以上のようにして得られた反応液を樹脂などの型枠に注型し、恒温室内で、40〜90℃の温度で5〜24時間反応させ、不溶化した反応体を得る。さらに、この縮合物を水洗して、気孔形成材、過剰のアルデヒド類、酸類等を除去して、不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類が均一に分散、付着されたポリビニルアセタール系多孔質体を得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリビニルアセタール系多孔質体は、水に対し不溶性もしくは難溶性のポリエーテルポリオール類を多孔質体樹脂に均一に分散、付着させることで、ポリビニルアセタール系樹脂の親水性が向上し、乾燥状態における吸水速度が著しく向上し、吸水性能に極めて優れたものである。このため、本発明のポリビニルアセタール系多孔質体は、乾燥状態から速やかに湿潤状態にすることができ、実用上極めて有用である。また、繰り返し吸水、乾燥する使い方をしても、ポリエーテルポリオール類が水に溶け出す量がほとんどないため、ポリビニルアセタール系多孔質体の乾燥状態から湿潤状態に短時間で戻る性能を長期間持続させることが可能となり、実用上極めて有用である。また、本発明のポリビニルアセタール系多孔質体は、この様な優れた吸水性能を利用して、洗車用、浴用、台所用等の一般家庭用吸水拭き取り材として、また、ガラス洗浄用等の工業用として好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施例及び比較例にて詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0023】
・実施例1
ポリビニルアルコール 7.7重量%
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー 0.1重量%
小麦澱粉 3.2重量%
硫酸(50%濃度水溶液) 11.2重量%
ホルムアルデヒド(37%濃度水溶液) 8.8重量%
水 69.0重量%
100.0重量%
平均重合度1700の中間鹸化型ポリビニルアルコール(日本合成化学製、C−500)の加温した12%水溶液8リットルに、脂肪族多価アルコール・アルキレンオキサイドに属する不溶性のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(第一工業製薬製エパン710)10gと小麦澱粉400gの水分散液1.5リットルを攪拌混合した。
混合液を冷却後、50%濃度の硫酸(希硫酸)1リットル、37%濃度のホルムアルデヒド(ホルマリン)1リットルを加えた後、ポリプロピレン製容器に流し込んだ。
得られた反応液を恒温室内で、60℃にて、18時間反応させた後、反応生成物を容器より取出し、洗浄して気孔形成材や余剰分の架橋剤などを除去し、本発明のポリビニルアセタール系多孔質体を得た。
【0024】
・実施例2
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを脂肪族多価アルコール・アルキレンオキサイドに属するポリプロピレングリコール(三洋化成工業製、サンニックスPP−4000)とした以外は、実施例1と同様にして、本発明のポリビニルアセタール系多孔質体を得た。
【0025】
・比較例1
不溶性ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを水溶性ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(第一工業製薬製、エパン485)とした以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール系多孔質体を得た。
【0026】
・比較例2
不溶性ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーをラウリル硫酸ナトリウムとした以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール系多孔質体を得た。
【0027】
・比較例3
不溶性ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを塩化ベンザルコニウム1.0gとした以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール系多孔質体を得た。表1に示すように、得られた多孔質体は、乾燥状態における吸水性は不充分なものであった。
【0028】
・比較例4
実施例1において用いた不溶性ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを反応液に混合しない以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール系多孔質体を得た。
【0029】
・比較例5
不溶性ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを分子量400の水溶性のポリエチレングリコールとした以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール系多孔質体を得た。
【0030】
・吸水性、持続性評価試験
前記で得られた各ポリビニルアルコール系多孔質体の乾燥状態における吸水性簡易評価として、ポリビニルアルコール系多孔質体に2cmの高さから1滴(約0.05cc)の水を滴下したときの、水滴が消失するまでの時間を測定した。さらに持続性評価の一つとして、一般家庭用洗濯機(LG電子製WD−D50W)で水での洗濯を、2回、5回、10回繰り返した後、60℃で30時間乾燥させた時の吸水性として、前記と同様に2cmの高さから1滴(約0.05cc)の水を滴下したときの、水滴が消失するまでの時間を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
本発明の実施例1と実施例2のポリビニルアルコール系多孔質体は洗濯前は勿論洗濯10回後も瞬時に水滴を吸収する。界面活性剤を用いない比較例4のポリビニルアルコール系多孔質体は当初から水滴を吸収するのに90秒以上かかる。水溶性の界面活性剤を含む他の比較例1、2、3、5のポリビニルアルコール系多孔質体では、洗濯前は比較的水滴を短時間で吸収するが、洗濯することで急速に吸収性能が低下してしまう。
【0033】
また、別に120×80×35mmの大きさにポリビニルアルコール系多孔質体を裁断し、前記、一般家庭用洗濯機で洗濯後、60℃で30時間乾燥させる工程を繰り返し、その都度乾燥状態で水面に静置したときに、多孔質体に水が完全に浸透するまでの時間を測定し、吸水性の持続性評価の別法とした。 その結果を図1、2に示す。
【0034】
本発明の実施例1、2のポリビニルアルコール系多孔質体は本試験方法でも吸水性能の持続性が高く、10回の洗濯を繰り返しても20秒以内に完全に水が浸透する。それに対し、比較例2、3、5のポリビニルアルコール系多孔質体では洗濯前は短時間で吸水するが、数回の洗濯をすると完全に水を含ませるのに5分以上かかってしまう。
本発明のポリビニルアルコール系多孔質体は繰り返し吸水、乾燥する使い方をしても乾燥状態から湿潤状態に短時間で戻る性能を有している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1、2の吸水性持続性評価である。
【図2】実施例1,2、比較例2、3、5の吸水性持続性評価である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対し不溶性もしくは難溶性であるポリエーテルポリオール類を含有したことを特徴とするポリビニルアセタール系多孔質体。
【請求項2】
ポリビニルアルコール、気孔形成材、アルデヒド類、酸類及び水からなる反応液を架橋反応させた後、気孔形成材を除去してポリビニルアセタール系多孔質体を製造する工程において、前記工程中で添加する不溶性もしくは難溶性ポリエーテルポリオール類の添加混合量が、反応液の0.01重量%以上、0.3重量%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアセタール系多孔質体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−274018(P2008−274018A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115925(P2007−115925)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(500004069)アイオン株式会社 (12)
【Fターム(参考)】