説明

ポリビニルアルコール系重合体フィルム

【課題】膨潤時の寸法変化の小さいポリビニルアルコール系重合体フィルムおよびその製造方法、ならびに当該ポリビニルアルコール系重合体フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】直径0.5〜0.9μmの気泡をフィルム面積1cm当たり1.0×10個以上含むポリビニルアルコール系重合体フィルム;直径0.5〜0.9μmの気泡を含む水にポリビニルアルコール系重合体を溶解させて直径0.5〜0.9μmの気泡を1cm当たり1.0×10個以上含む製膜原液を調製し、当該製膜原液を用いてポリビニルアルコール系重合体フィルムを得る、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法;および上記ポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸する偏光フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な気泡を含むポリビニルアルコール系重合体フィルムおよびその製造方法、ならびに偏光フィルムの製造方法に関する。本発明のポリビニルアルコール系重合体フィルムは偏光フィルムを製造する用途に好ましく使用することができる。
【背景技術】
【0002】
特定の偏光を選択的に透過させる偏光板は、光の偏光状態を変化させる液晶とともに、液晶ディスプレイ(LCD)を構成する重要な部材である。LCDは、電卓および腕時計等の小型機器、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器など広範な用途に用いられている。
【0003】
従来から汎用されている偏光板は、偏光フィルムの片面または両面に、三酢酸セルロースフィルムや酢酸・酪酸セルロースフィルムなどの保護膜を貼り合わせることによって製造されている。当該偏光フィルムは、多くの場合、ポリビニルアルコール系重合体[以下、「ポリビニルアルコール系重合体」を「PVA」と略記することがある]フィルムを水で膨潤させた後、ヨウ素や二色性染料による染色処理、一軸延伸、ほう素化合物による固定処理などを施すことによって製造されている。
【0004】
一般的に吸水性の高いPVAフィルムは、ヨウ素や二色性染料による染色処理を容易に行うことができるので偏光フィルム製造工程におけるライン速度を速くすることができ生産性に優れる。しかしながら、膨潤工程においてPVAフィルムが過度に吸水しやすく、PVAフィルムの流れ方向に対する垂直方向(いわゆる幅方向)の寸法変化率が大きくなり、PVAフィルム全体にシワが発生したり、PVAフィルムの幅方向端部が折れ曲がる不具合が生じやすい。そのため、膨潤工程において寸法変化の小さいPVAフィルムが求められていた。
【0005】
ところで、気泡を含むPVAフィルムが知られている。例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、連続気泡または独立気泡を有し、かつ密度が0.05〜1.0g/cmの刺繍用基材フィルムが知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、ポリビニルアルコール系樹脂を水または有機溶媒に溶解してポリビニルアルコール系樹脂溶液を調製し、当該溶液を発泡させ、これをフィルム化する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1において具体的に記載されている気泡の大きさは比較的大きなものであり、PVAフィルムの製膜過程で脱泡されやすく、安定した品質を有するPVAフィルムを得ることが困難であった。
【0006】
また、インク受容層を有する記録媒体において、そのインク受容層をポリビニルアルコールを含む多孔質構造にすることが知られている(特許文献2参照)。特許文献2には、ポリビニルアルコールを水に溶解させるなどして調製した塗工液を微細な気泡ができるように攪拌した後、これを基材に塗工後、乾燥することが記載されており、微細な気泡の平均粒径が1.5μm以下であることが記載されている。しかしながら、PVA系重合体に単に微細な気泡を含ませるだけでは、偏光フィルム等を製造する際の膨潤工程において寸法変化の小さいPVAフィルムを得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−217457号公報
【特許文献2】特開2001−39024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、膨潤時の寸法変化の小さいPVAフィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、当該PVAフィルムを用いた偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、直径0.5〜0.9μmの気泡をPVAフィルム面積1cm当たり1.0×10個以上含ませることにより膨潤時の寸法変化を小さくすることができることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]直径0.5〜0.9μmの気泡をフィルム面積1cm当たり1.0×10個以上含むポリビニルアルコール系重合体フィルム、
[2]厚さが5〜200μmである上記[1]のポリビニルアルコール系重合体フィルム、
[3]前記気泡が空気から形成される上記[1]または[2]のポリビニルアルコール系重合体フィルム、
[4]単層フィルムである上記[1]〜[3]のいずれか1つのポリビニルアルコール系重合体フィルム、
[5]偏光フィルム製造用ポリビニルアルコール系重合体フィルムである上記[1]〜[4]のいずれか1つのポリビニルアルコール系重合体フィルム、
[6]直径0.5〜0.9μmの気泡を含む水にポリビニルアルコール系重合体を溶解させて直径0.5〜0.9μmの気泡を1cm当たり1.0×10個以上含む製膜原液を調製し、当該製膜原液を用いてポリビニルアルコール系重合体フィルムを得る、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法、
[7]上記[5]のポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸する偏光フィルムの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膨潤時の寸法変化の小さい、偏光フィルム製造用として好適なPVAフィルムが提供される。また本発明によれば、当該PVAフィルムを容易に製造することのできるPVAフィルムの製造方法が提供される。さらに本発明によれば、膨潤時の寸法変化が小さくて優れた品質を有する偏光フィルムを容易に製造することのできる偏光フィルムの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のPVAフィルムを構成するPVAとしては、ビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されるものを使用することができる。当該ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。これらのビニルエステルの中でも、入手の容易性、PVAの製造の容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0013】
上記のポリビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0014】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;ビニルエチルカーボネート等のビニルカーボネート;3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3,4−ジエトキシ−1−ブテン等のジヒドロキシブテン誘導体;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩もしくはエステル;イタコン酸またはその塩もしくはエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステル系重合体は、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0015】
上記のポリビニルエステル系重合体に占める上記他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明において使用されるPVAは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また本発明において使用されるPVAは、その水酸基の一部がホルマリン、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒドなどと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、アルデヒドなどと反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0017】
本発明において使用されるPVAの平均重合度は、フィルムの強度を高くする観点から、800以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1500以上であることがさらに好ましく、2000以上であることが特に好ましい。PVAの平均重合度の上限に特に制限はないが、PVAの製造が工業的に容易であることから、10000以下であることが好ましく、8000以下であることがより好ましく、6000以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書でいうPVAの平均重合度は、JIS K 6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0018】
また、本発明において使用されるPVAのけん化度には、特に限定はなく、PVAフィルムの用途に応じて適宜調整することができる。例えば、水溶性フィルムの用途であればPVAのけん化度は80〜100モル%の範囲内にあることが好ましく、82〜95モル%の範囲内にあることがより好ましく、85〜90モル%の範囲内にあることがさらに好ましい。繊維包装用途、光学用途(例えば、偏光フィルム製造用等)、離型用途などであれば、PVAのけん化度は88〜100モル%の範囲内にあることが好ましく、95〜100モル%の範囲内にあることがより好ましく、98〜100モル%の範囲内にあることがさらに好ましい。なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有するけん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVAのけん化度はJIS K 6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0019】
上記のPVAフィルムには、可塑剤を配合することができる。可塑剤としては、多価アルコールが好ましく用いられ、その具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、揮発性と可塑性の観点からグリセリンが好ましい。
【0020】
PVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、PVA100質量部に対して、3〜20質量部の範囲内であることが好ましく、4〜18質量部の範囲内であることがより好ましく、5〜15質量部の範囲内であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して3質量部以上であることによりPVAフィルムの柔軟性がよくなり取り扱い性が向上する。一方、可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して20質量部以下であることにより、PVAフィルムの表面に可塑剤がブリードアウトしてPVAフィルムの取り扱い性が低下したり、延伸性が低下したりするのを抑制することができる。
【0021】
また、PVAフィルムには、そのフィルムの取り扱い性を向上させるために界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤の中でも、アニオン系またはノニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系の界面活性剤としては、トリエトキシドデカンスルホン酸ナトリウム等のアルキルエーテルスルホン酸ナトリウムが好ましく、ノニオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル等)が好ましい。これらの界面活性剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0022】
PVAフィルムにおける界面活性剤の含有量は、PVA100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.01質量部以上であることにより、製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、PVAフィルムの表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0023】
本発明のPVAフィルムは、気泡部分以外の部分について、PVAのみからなっていても、あるいはPVAと上記した可塑剤および/または界面活性剤のみからなっていてもよいが、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤、無機フィラー等、上記したPVA、可塑剤および界面活性剤以外の他の成分を含有していてもよい。
本発明のPVAフィルムの気泡部分以外の部分における、PVA、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合としては、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、95〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のPVAフィルムは直径が0.5〜0.9μmの気泡をフィルム面積1cm当たり1.0×10個以上含む。PVAフィルムに含まれる気泡の直径が小さすぎると、PVAフィルムの寸法安定性を向上させることができない。これは、小さすぎる気泡ではPVAフィルムの膨潤時の体積変化を緩衝することができないためと考えられる。一方で気泡の直径が大きすぎると、PVAフィルムの色が白っぽく見えるようになり、透明度が低下するので好ましくない。
【0025】
PVAフィルム中における気泡の直径は、PVAフィルムを顕微鏡で観察することにより測定することができる。具体的には、PVAフィルムを必要に応じて予め染色した後、顕微鏡(例えば倍率400倍)で気泡を観察することにより、各気泡の直径を測定することができる。気泡は通常、真球状であるため、顕微鏡で観察される真円状の像のどの部分の直径を測定してもよいが、気泡が真球状でなく顕微鏡で観察される像が真円状でない気泡については、当該像の最大長を当該気泡の直径とみなすことができる。
【0026】
また、本発明のPVAフィルムにおいて、上記した直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、少なすぎると本発明の効果が十分に奏されないことから、PVAフィルムの面積1cm当たり、1.0×10個以上であり、1.5×10個以上であることが好ましい。PVAフィルムにおける気泡の数が上記範囲にあることにより、PVAフィルムを膨潤したときの寸法変化を小さくすることができる。なお、当該PVAフィルムを膨潤したときの寸法変化が小さくなる理由については定かではないが、PVAフィルム中の気泡がPVAフィルムの膨潤時の体積変化を緩衝しているためと考えられる。上記気泡の数の上限に特に制限はないが、あまりに多すぎるとフィルムの強度が低下する傾向があることから、当該気泡の数は、PVAフィルムの面積1cm当たり1.0×10個以下であることが好ましく、1.0×10個以下であることがより好ましい。
【0027】
上記の気泡の数は、顕微鏡を用いて計測することができる。具体的には、PVAフィルムを必要に応じて予め染色した後、顕微鏡(例えば倍率400倍)によりPVAフィルムの面積1mm当たりに含まれる上記した直径を有する気泡の数を計測し、PVAフィルムの面積1cm当たりに換算することにより求めることができる。
【0028】
本発明のPVAフィルムに含まれる気泡を形成するガスとしては、例えば、空気、不活性ガス(窒素、アルゴン等)、オゾン、分子量100以下の揮発性有機化合物などを用いることができるが、気泡を形成するガスとして水に溶解しにくいガスを用いると、上記した直径を有する気泡をPVAフィルムに含ませることが容易になることから好ましい。当該ガスとしては、空気が最も利用しやすい。
【0029】
本発明のPVAフィルムの厚さは5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。当該厚さが5μm以上であることにより、PVAフィルムの破断が発生しにくくなる。当該厚さの上限は、PVAフィルムの用途によって異なるが、コストの観点からは、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。なお、PVAフィルムの厚さは任意の5箇所の厚さを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0030】
本発明のPVAフィルムは、その用途にもよるが、単層フィルムの形態で使用することができる。また、本発明のPVAフィルムは、単層フィルムを巻き取ることにより得られるロールとして保管または輸送することができる。
【0031】
本発明のPVAフィルムは、直径0.5〜0.9μmの気泡を含む水にPVAを溶解させて製膜原液を調製し、当該製膜原液を用いることにより製造することができる。製膜原液からPVAフィルムを製造する方法としては、製膜原液を金属ロール等の上に流し、乾燥してフィルムとするキャスト製膜法が好ましい。
【0032】
上記の製膜原液は、例えば、タンク等の容器内に、気泡を含む水、PVA、および必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤、その他の成分等を供給した後、加熱・攪拌することにより調製することができる。
【0033】
上記気泡を含む水における、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、気泡を含む水1cm当たり1.0×10個以上であることが好ましく、1.5×10個以上であることがより好ましい。気泡の数が1.0×10個以上であることにより、本発明のPVAフィルムを容易に製造することができる。上記気泡を含む水における気泡の数の上限は、製造しようとするPVAフィルムにおける気泡の数などにもよるが、市販されている気泡発生装置を使用することを考慮すると、当該気泡の数は、気泡を含む水1cm当たり5.0×10個以下であることが好ましい。
上記気泡を含む水を調製する際に使用される水としては、蒸留水を用いることが好ましい。
【0034】
上記気泡を含む水は、マイクロバブル発生装置あるいはナノバブル発生装置として市販されているものを使用して調製することができ、当該装置を用いることにより、直径0.5〜0.9μmの気泡を安定して発生させることができる。発生した気泡の直径が0.9μm以下であることにより、当該気泡は浮力の影響を受けにくくなり、水中で安定して存在することができるようになる。
【0035】
上記したマイクロバブル発生装置あるいはナノバブル発生装置としては、例えば、株式会社協和機設製「バヴィタス」や、株式会社アスプ製「AS−MA1」等を好ましく使用することができる。その運転条件としては、上記直径を有する気泡を生成する際の効率の観点から、株式会社協和機設製「バヴィタス」を使用する場合には、エアー吸入量を装置付属のエアーゲージのメモリが0.6〜1.0の範囲内となるような条件で運転するのが好ましく、0.7〜0.9の範囲内となるような条件で運転するのがより好ましい。
【0036】
上記の製膜原液における直径0.5〜0.9μmの気泡の数としては、当該製膜原液1cm当たり1.0×10個以上であることが好ましく、1.5×10個以上であることがより好ましい。当該気泡の数の上限は、製造しようとするPVAフィルムにおける気泡の数にもよるが、気泡を含む水1cm当たり5.0×10個以下であることが好ましい。なお、製膜原液が直径0.5〜0.9μmの気泡を含むことにより、製膜原液中での気泡の安定性が向上し、脱泡されずに製膜後にもPVAフィルム内部に残存することが可能になる。
【0037】
上記した気泡を含む水および製膜原液における気泡の直径および数は、光散乱法により計測することができ、具体的には、実施例の項目において後述する方法により計測することができる。
【0038】
キャスト製膜法によりPVAフィルムを製造するにあたっては、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどを用い、製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)上に均一に吐出または流延し、この第1ロール(あるいはベルト)上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発分を蒸発させて乾燥し、続いて吐出または流延された膜の他方の面を回転する第2の加熱ロール(あるいは乾燥ロール)の周面上を通過させて乾燥し、その下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置に巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0039】
本発明のPVAフィルムの用途に特に制限はなく、例えば、水溶性フィルム用途、繊維包装用途、光学用途、離型用途等に使用することができるが、本発明のPVAフィルムは膨潤時の寸法変化が小さいことから、光学用途に使用することが好ましく、特に偏光フィルムを製造するために使用することがより好ましい。
【0040】
偏光フィルムは、上記のPVAフィルムを染色および一軸延伸、ならびに必要に応じてさらに固定処理、乾燥処理、熱処理等の処理をすることにより製造することができる。各工程の順序に特に制限はなく、また2つ以上の工程(例えば、染色と一軸延伸)を同時に行ってもよい。さらに、各工程を複数回繰り返してもよい。
【0041】
染色は、一軸延伸の前、一軸延伸と同時、一軸延伸後のいずれにおいても可能であるが、PVAは一軸延伸により結晶化度が上がりやすく染色性が低下することがあるため、一軸延伸に先立つ任意のとき、または一軸延伸工程中において染色するのが好ましい。
【0042】
染色に用いる染料としては、ヨウ素−ヨウ化カリウムまたはDirect black 17、19、154;Direct brown 44、106、195、210、223;Direct red 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;Direct blue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;Direct violet 9、12、51、98;Direct green 1、85;Direct yellow 8、12、44、86、87;Direct orange 26、39、106、107等の二色性染料などを使用することができる。染色は、通常PVAフィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行うことができるが、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0043】
前記PVAフィルムの長さ方向に行う一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法を採用することができ、温水中(前記染料を含有する溶液や後述する固定処理浴中でもよい)で、または吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で行ってもよい。延伸倍率は、延伸方向への長さとして、4倍以上が好ましく、5倍以上が特に好ましい。延伸倍率が4倍より小さいと、実用的に十分な偏光性能や耐久性能が得られにくい。延伸温度は特に限定されないが、PVAフィルムを温水中で延伸(湿式延伸)する場合には30〜90℃の範囲内であることが好ましく、また乾熱延伸する場合には50〜180℃の範囲内であることが好ましい。延伸後のPVAフィルムの厚さは、使用されるPVAフィルムの厚さにもよるが、3〜75μmの範囲内であることが好ましく、10〜50μmの範囲内であることがより好ましい。
【0044】
前記PVAフィルムへの上記染料の吸着を強固にすることを目的に、固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する処理浴には、ホウ酸またはホウ素化合物を添加することができる。
【0045】
前記PVAフィルムの乾燥処理(熱処理)は、30〜150℃の範囲内で行うことが好ましく、50〜150℃の範囲内で行うことがより好ましい。
【0046】
以上のようにして得られる偏光フィルムは、その両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有した保護膜を貼り合わせて偏光板として使用することができる。保護膜としては、セルロースアセテート系フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム等を使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において採用された、気泡を含む水および製膜原液中の気泡の数、PVAフィルム中の気泡の数、およびPVAフィルムの膨潤時の寸法変化率の各測定方法を以下に示す。
【0048】
気泡を含む水および製膜原液中の気泡の数の測定
気泡を含む水および製膜原液中の気泡の数は、Particle Measuring Systems社製「LS−200」で測定した。具体的には、装置に気泡を含む水または製膜原液を3cmチャージして、3cm中に含まれる気泡の粒径(直径とみなした)および数を測定して、その数値を1/3にして、気泡を含む水または製膜原液1cm中の気泡の数を算出した。
【0049】
PVAフィルム中の気泡の数の測定
気泡を含有したPVAフィルムをヨウ素0.02質量%/ヨウ化カリウム2質量%/ホウ酸4質量%の水溶液に1分間浸漬して染色した後、微分干渉顕微鏡「ECLIPSE E−600W」(Nikon社製)を用いて400倍の倍率下でPVAフィルム面積1mm中の気泡の数を測定して、1cm当たりに換算した。
【0050】
PVAフィルムの膨潤時の寸法変化率の測定
PVAフィルムを縦15cm×横15cmにカットして、30℃の蒸留水に60分間浸漬した後、蒸留水中から取り出し、縦方向(PVAフィルムの製膜方向)および横方向(PVAフィルム上でPVAフィルムの製膜方向に対して垂直な方向)の中央部の寸法変化率を以下の式によりそれぞれ求めた。
寸法変化率(%)=100×[膨潤後の長さ]/[膨潤前の長さ]
【0051】
[実施例1]
株式会社協和機設製「バヴィタス」を用いて、エアー吸入量を装置付属のエアーゲージのメモリを約0.7メモリに調整して蒸留水に空気からなる気泡を含有させ、気泡を含む水を作製した。当該気泡を含む水において、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、気泡を含む水1cm当たり2.2×10個であった。
次に、平均重合度2400、けん化度99モル%のポリビニルアルコール100g、グリセリン12g、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル0.1gを、上記した気泡を含む水1000gに加え、80℃に加熱して4時間撹拌して、気泡を含む製膜原液を作製した。この気泡を含む製膜原液において、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、製膜原液1cm当たり2.0×10個であった。
得られた気泡を含む製膜原液を60℃まで冷却し、60℃のクロムメッキ表面を有する金属ロールにキャスト流延し、乾燥して厚さ100μmのPVAフィルムを得た。当該PVAフィルムにおいて、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、PVAフィルム1cm当たり2.0×10個であった。
このPVAフィルムの膨潤時の寸法変化率を上記した方法により測定したところ、縦120%、横120%であり、寸法変化は良好であった。
【0052】
[実施例2]
株式会社協和機設製「バヴィタス」を用いて、エアー吸入量を装置付属のエアーゲージのメモリを約0.7メモリに調整して蒸留水に空気からなる気泡を含有させ、気泡を含む水を作製した。当該気泡を含む水において、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、気泡を含む水1cm当たり2.6×10個であった。
次に、平均重合度2400、けん化度99モル%のポリビニルアルコール100g、グリセリン12g、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル0.1gを、上記した気泡を含む水1000gに加え、80℃に加熱して4時間撹拌して、気泡を含む製膜原液を作製した。この気泡を含む製膜原液において、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、製膜原液1cm当たり2.3×10個であった。
得られた気泡を含む製膜原液を60℃まで冷却し、60℃のクロムメッキ表面を有する金属ロールにキャスト流延し、乾燥して厚さ100μmのPVAフィルムを得た。当該PVAフィルムにおいて、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、PVAフィルム1cm当たり2.3×10個であった。
このPVAフィルムの膨潤時の寸法変化率を上記した方法により測定したところ、縦118%、横119%であり、寸法変化は良好であった。
【0053】
[比較例1]
平均重合度2400、けん化度99モル%のポリビニルアルコール100g、グリセリン12g、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル0.1gを、蒸留水1000gに加え、80℃に加熱して4時間撹拌して、気泡を含まない製膜原液を作製した。
得られた気泡を含まない製膜原液を60℃まで冷却し、60℃のクロムメッキ表面を有する金属ロールにキャスト流延し、乾燥して厚さ100μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムの膨潤時の寸法変化率を上記した方法により測定したところ、縦128%、横130%であり、寸法変化の大きいフィルムであった。
【0054】
[比較例2]
株式会社協和機設製「バヴィタス」を用いて、エアー吸入量を装置付属のエアーゲージのメモリを約0.5メモリに調整して蒸留水に空気からなる気泡を含有させ、気泡を含む水を作製した。当該気泡を含む水において、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、気泡を含む水1cm当たり9.5×10個であった。
次に、平均重合度2400、けん化度99モル%のポリビニルアルコール100g、グリセリン12g、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル0.1gを、上記した気泡を含む水1000gに加え、80℃に加熱して4時間撹拌して、気泡を含む製膜原液を作製した。この気泡を含む製膜原液において、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、製膜原液1cm当たり8.6×10個であった。
得られた気泡を含む製膜原液を60℃まで冷却し、60℃のクロムメッキ表面を有する金属ロールにキャスト流延し、乾燥して厚さ100μmのPVAフィルムを得た。当該PVAフィルムにおいて、直径0.5〜0.9μmの気泡の数は、PVAフィルム1cm当たり8.5×10個であった。
このPVAフィルムの膨潤時の寸法変化率を上記した方法により測定したところ、縦125%、横128%であり、寸法変化の大きいフィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のPVAフィルムは、膨潤時の寸法変化が小さいことから、特に偏光フィルム製造用等の光学用途に好ましく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.5〜0.9μmの気泡をフィルム面積1cm当たり1.0×10個以上含むポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項2】
厚さが5〜200μmである請求項1に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項3】
前記気泡が空気から形成される請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項4】
単層フィルムである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項5】
偏光フィルム製造用ポリビニルアルコール系重合体フィルムである請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項6】
直径0.5〜0.9μmの気泡を含む水にポリビニルアルコール系重合体を溶解させて直径0.5〜0.9μmの気泡を1cm当たり1.0×10個以上含む製膜原液を調製し、当該製膜原液を用いてポリビニルアルコール系重合体フィルムを得る、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸する偏光フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−111526(P2011−111526A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268782(P2009−268782)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】