説明

ポリフェニレンエーテル

【課題】加熱時の着色性に優れ、また加工時の目やにやゲルなどの発生を抑制し、さらには成形流動性に優れ、純度の高いポリフェニレンエーテルを提供する。
【解決手段】残留金属触媒量が0.5ppm以下であり、分子量50,000以上の成分量が0〜20質量%の範囲であり、かつ、分子量8,000以下の成分量が0〜30質量%の範囲であるポリフェニレンエーテル。残留金属触媒量は0.3ppm以下であることが好ましく、重量平均部試料(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度が1.6〜3.0の範囲であることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテルは、加工性及び生産性に優れ、溶融射出成型や溶融押出成型等の成型方法により所望の形状の製品や部品を効率良く生産できるという利点を有している。ポリフェニレンエーテルは、このような利点を生かし、電気・電子材料分野及び自動車分野における部品用材料、並びにその他各種工業材料分野及び食品の包装分野における部品用材料として幅広く用いられている。
【0003】
近年、ポリフェニレンエーテルの新たな工業用途として、他樹脂と組み合わせて優れた特性を得るための複合材料としての用途や、電子材料としての用途等が検討されている。これらの用途に対しては、従来公知のポリフェニレンエーテルに加え、低分子量のポリフェニレンエーテルが有効であると考えられている。また、材料の薄肉化が要求される昨今、加工流動性が高く、機械的特性に優れたポリフェニレンエーテルが求められている。
【0004】
一方で、材料の意匠性の要求も高く、着色性の低いポリフェニレンエーテルの要求も依然として高い。
【0005】
さらに、溶融加工時にゲル等の異物を抑制し得るポリフェニレンエーテル、或いは原料の純度の高いポリフェニレンエーテルが要求されている。
【0006】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルは加熱することにより、褐色に着色することが知られており、溶融加工時の着色性の改良が幾度となくされてはいるものの充分な改良がされていないのが現状である。殊に、低分子量のポリフェニレンエーテルになるほど着色性の悪化が顕著になる。
【0007】
したがって、近年では、流動性、機械的特性及び着色性さらには純度の高さを満たしたポリフェニレンエーテルが渇望されている。
【0008】
着色性の改善には、ポリフェニレンエーテル系重合体自身の分子構造を不活性化することによる方法が提案されている。例えば、特許文献1には末端アシル化による方法が、特許文献2には末端アミド化による方法が、特許文献3には末端スチレン化による方法が、特許文献4には低分子量スチレン系重合体を結合する方法が開示されている。さらに、アミン類を添加する技術も複数提案されている。例えば、特許文献5、特許文献6及び特許文献7には、ポリフェニレンエーテルに芳香族アミン類の添加が開示されている。これらの方法によれば、ポリフェニレンエーテル系重合体のガラス転移点温度以下すなわち、150℃程度以下の熱履歴による着色性の改良には効果がある。
【0009】
特許文献8には、光安定性を改良することを目的として、ポリフェニレンエーテル粉体にモノアミンを含有させて250℃でプレス成型したPPE組成物が開示されている。また、特許文献9には、ベンジルアミンで変性されたポリフェニレンエーテルを、ベンジルアミン存在下、280℃でプレス成型したポリフェニレンエーテル組成物が開示されており、加熱時の着色が抑制されたPPE組成物が得られている。
【0010】
また、特許文献10には酸性度(Pka)が8以上である沸点が80℃以上の2級または3級脂肪族モノアミンを、ポリフェニレンエーテル100重量部に対し5重量部混合し、加熱時の色調悪化を抑制したポリフェニレンエーテル組成物が開示されている。
【0011】
さらにまた、ポリフェニレンエーテルについては種々の提案がなされている。例えば、溶剤溶解性を高めることや変性させることを目的とした低分子量のポリフェニレンエーテル(例えば、特許文献11、12参照。)、ガスバリア性を高めることを目的とした高分子量のポリフェニレンエーテル(例えば、特許文献13参照。)等が挙げられる。
【0012】
またさらに、低分子量のポリフェニレンエーテルと高分子量のポリフェニレンエーテルとを混合し、流動性を改善したもの等も提案されている(例えば、特許文献14〜16参照。)。
【0013】
特許文献16には、メインの重合ラインで重合させた還元粘度0.4〜3.0dl/gを有するポリフェニレンエーテルと、メインの重合ラインからバイパスさせた還元粘度0.05〜0.6dl/gを有するポリフェニレンエーテルを混合し、2峰性の分子量分布を持つポリフェニレンエーテルを連続的に製造する方法が提案されている。
【0014】
比較的低分子量のポリフェニレンエーテルの製造方法としては、ポリフェニレンエーテルの重合工程において2,4,6−トリメチルフェノールを加え、その添加量を制御することによりポリフェニレンエーテルの分子量を変化させる技術が提案されている(例えば、特許文献17参照。)。
【0015】
また、特許文献17には、溶媒としてポリフェニレンエーテルの良溶媒(例えばベンゼン、トルエン、キシレン)とポリフェニレンエーテルの貧溶媒(例えばケトン、エーテル、アルコール)との混合溶媒を用い、良溶媒/貧溶媒の比を変えることにより、種々の分子量のポリフェニレンエーテルを得ることが記載されている。
【0016】
また、ポリフェニレンエーテルの良溶媒である芳香族炭化水素(例えばベンゼン、トルエン又はキシレン等)と、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒である脂肪族炭化水素(例えばn−ヘキサン、イソヘキサン又はn−ヘプタン等)との混合溶媒中で、ポリフェニレンエーテルの重合を実施する方法が開示されている(例えば、特許文献18参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許3375228号明細書
【特許文献2】特公昭46−2837号公報
【特許文献3】特公昭46−32427号公報
【特許文献4】特開平1−172451号公報
【特許文献5】特開昭52−84247号公報
【特許文献6】特開昭58−176243号公報
【特許文献7】特開昭58−176245号公報
【特許文献8】特開平6−145497号公報
【特許文献9】特開平7−278292号公報
【特許文献10】特開平6−157893号公報
【特許文献11】米国特許出願公開第2003/0130438号明細書
【特許文献12】特開2004−99824号公報
【特許文献13】国際公開第WO2002/12370号
【特許文献14】米国公開特許2003/23006号公報
【特許文献15】英国特許第EP0401690号明細書
【特許文献16】特開平11−012354号公報
【特許文献17】米国特許第3440217号公報
【特許文献18】特公昭50−6520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の方法では、加熱時の着色性改良の効果が充分ではなく、また特許文献5〜8、10において開示されている方法によって得られるポリフェニレンエーテルは、加工時に添加するアミンが残存するため、ポリフェニレンエーテルの純度を低下させている。また、実施例に挙げられるアミンの一部は危険物に該当し、用いるアミンの引火点、さらには用いるアミンの発火点以上の温度で加工されており、安全に工業的に生産をするための設備が必要である。また、特許文献5〜8、10に開示の方法は、アミンは独特の臭気により、作業環境の悪化が懸念されることから、純度高いポリフェニレンエーテルを得るには望ましくない方法である。さらに特許文献9において開示されている方法では、250℃のような低温下での着色性についてのみ検討されており、一般的なポリフェニレンエーテルエーテルの加工温度(300℃)のような高温下での着色性については検討されていない。
【0019】
また、特許文献11〜15に記載のポリフェニレンエーテルは、加熱時の優れた着色性と加工時の目やにやゲル発生の抑制とを両立し得るものではなく、さらには成形流動性に優れるものではない。
【0020】
特許文献16において開示されている方法によって得られるポリフェニレンエーテルは分子量分布が広く、近年において要求されている分子量分布の狭く、物性面で優れたポリフェニレンエーテルを得る技術として、必ずしも満足のいくものではない。
【0021】
特許文献17に開示されている方法は、要求する分子量のポリマーを得る方法としては正確性に欠けるという問題を有しているだけでなく、2,4,6−トリメチルフェノールが含まれるため純度が低いポリフェニレンエーテルとなっている。
【0022】
特許文献18において開示されている方法においては、生成水やアミン類が反応系内に存在し、かかる状態で反応を進めると、オリゴフェニレンエーテルの粒子が不均一に生じ、これが反応器等に付着しやすいという欠点を有している。また、加熱時の着色に関する検討はなされていない。
【0023】
そこで、上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明においては、加熱時の着色性に優れ、また加工時の目やにやゲルなどの発生を抑制し、さらには成形流動性に優れ、純度の高いポリフェニレンエーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記従来技術の課題に対して鋭意研究を行った結果、加熱時の優れた着色性と加工時の目やにやゲル発生の抑制とを両立したポリフェニレンエーテル得るためには、残留する金属触媒量(例えば、銅量)が極めて少ない状況下において、所定の分子量以下の成分量及び所定の分子量以上の成分量が影響していること、さらには、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が影響していることを突き止めた。またさらに驚くべきことに、そのような特定のポリフェニレンエーテルは成形流動性までも優れることを見出した。
【0025】
そこで本発明においては、これらの影響因子を詳細に検討し、加熱時の着色性に優れ、また加工時の目やにやゲルなどの発生を抑制し、さらには成形流動性に優れ、純度の高いポリフェニレンエーテルを完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0027】
[1]
残留金属触媒量が0.5ppm以下であり、
分子量50,000以上の成分量が0〜20質量%の範囲であり、かつ、分子量8,000以下の成分量が0〜30質量%の範囲であるポリフェニレンエーテル。
【0028】
[2]
残留金属触媒量が0.3ppm以下である、[1]に記載のポリフェニレンエーテル。
【0029】
[3]
重量平均部試料(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度が1.6〜3.0の範囲である、[1]又は[2]に記載のポリフェニレンエーテル。
【0030】
[4]
熱プレス処理(熱プレス温度:310℃、熱プレス時間:20分、熱プレス圧力:10MPaの条件)後のカラーインデックス(C.I.heat)が4.0以下である、[1]〜[3]いずれか一項に記載のポリフェニレンエーテル。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、加熱時の着色性に優れ、また加工時の目やにやゲルなどの発生を抑制し、さらには成形流動性に優れ、純度の高いポリフェニレンエーテルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの本実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。そして、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0033】
本実施の形態のポリフェニレンエーテル(以下、単に「PPE」という場合がある。)は、下記式(1)で表される繰返し単位構造からなるホモ重合体及び/又は共重合体である。
【0034】
【化1】

式(1)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択される。
【0035】
前記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0036】
前記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示される「アルキル基」は、炭素数が好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示すものとし、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。メチル、エチルが好ましく、メチルがより好ましい。
【0037】
前記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示されるアルキル基は、置換可能な位置に、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0038】
このような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル)、アルケニル基(例えば、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル)、アルキニル基(例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル)、アラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ)等が挙げられる。
【0039】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルは、残留金属触媒量が0.5ppm以下であり、分子量50,000以上の成分量が0〜20質量%の範囲であり、かつ、分子量8,000以下の成分量が0〜30質量%の範囲である。
【0040】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの残留金属触媒量は0.5ppm以下である。
【0041】
ポリフェニレンエーテルの残留金属触媒量は、原子吸光光度計により測定することができる。
【0042】
残留金属触媒が0.5ppm以下であることは、ポリフェニレンエーテルの高純度・加熱時の着色抑制の観点から好ましく、さらに、残留金属触媒量が0.5ppm以下であると加熱加工時のゲル等の発生を抑制できるため好ましく、より好ましくは0.3ppm以下、さらに好ましくは0.2ppm以下、さらにより好ましくは0.1ppm以下、最も好ましくは0.05ppm以下である。
【0043】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの製造方法において、例えば、重合時間の調整、抽出時の液粘度の調整や精製操作の制御、抽出時の撹拌温度の調整により、残留金属触媒量を前記範囲としたポリフェニレンエーテルを得ることができる。
【0044】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの分子量に関わる情報は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置を用いた測定により得られる。具体的なゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件としては、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーSystem21(カラム:昭和電工(株)製K−805Lを2本直列、カラム温度:40℃、溶媒:クロロホルム、溶媒流量:1.0ml/min、サンプル濃度:ポリフェニレンエーテルの1g/Lクロロホルム溶液)を用いて、標準ポリスチレン(標準ポリスチレンの分子量は、3,650,000、2,170,000、1,090,000、681,000、204,000、52,000、30,200、13,800、3,360、1,300、550)の検量線を作成するという、測定条件とする。
【0045】
検出部のUVの波長は、標準ポリスチレンの場合は254nm、ポリフェニレンエーテルの場合は283nmを、それぞれ選択できる。
【0046】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)は、7,000以上15,000以下であることが好ましい。より好ましい下限は8,000以上であり、さらに好ましい下限は9,000以上である。また、より好ましい上限は14,000以下であり、さらに好ましい上限は13,000以下である。機械的特性を発揮する観点から、数平均分子量の下限は7,000以上であることが好ましく、優れた溶剤溶解性を得る観点から、数平均分子量の上限は15,000以下であることが好ましい。
【0047】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルは、低分子量で、かつ、オリゴマー成分が少ないポリフェニレンエーテルである。また、分子量8,000以下の成分量、50,000以上の成分量を上記特定の範囲にすることで、溶融加工時にゲル等の発生を抑制し、高い機械的強度を有する。具体的には、加工流動性と機械的強度との観点から、ポリフェニレンエーテル全体に対して、分子量50,000以上の成分量は0〜20質量%であり、3〜20質量%であることがより好ましく、5〜18質量%であることがさらに好ましい。機械的特性の観点からは、ポリフェニレンエーテル全体に対して、分子量8,000以下の成分量は0〜30質量%であり、さらに残留金属触媒の除去効率の観点からは10〜30質量%であることが好ましく、15〜30質量%であることがより好ましい。
【0048】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの製造方法において、例えば重合時間や用いる触媒量・モノマー量・溶剤組成等を制御することにより、分子量50,000以上の成分を上述の特定量に制御し、かつ、分子量8,000以下の成分を上述の特定量に制御することができる。
【0049】
ポリフェニレンエーテルを製造した後、例えば、分子量8,000以下のポリフェニレンエーテルが30質量%を超える場合、又は分子量50、000以上のポリフェニレンエーテルが20質量%を超える場合には、下記の方法により分子量を調整できる。
【0050】
例えば、ポリフェニレンエーテルを良溶媒に溶解し貧溶媒で再沈させ単離する、良溶媒と貧溶媒の混合溶媒で洗浄する等の方法が適用できる。
【0051】
これらの方法は、処理温度により分子量を調整可能なため、ポリフェニレンエーテルの分子量調整方法として使用できるが、低減された不要な成分がポリマー損失となり収率が低下する可能性が高い。そのため、分子量調整方法を使用せず、本実施の形態のポリフェニレンエーテルを重合段階で製造する方法が、効率的にポリフェニレンエーテルを製造するという観点から好ましい。
【0052】
また、分子量分布を示す指標として、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度を使用する。この分散度は、値が小さいほど分子量分布が狭いことを示し、1が最小値である。
【0053】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの分散度は、3.5以下であることが好ましい。分散度がこの範囲であることで、高い流動性と機械的特性とを有するポリフェニレンエーテルとなる傾向にある。本実施の形態のポリフェニレンエーテルの分散度は、より好ましくは3.2以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.0以下であることが好ましく、最も好ましくは2.8以下である。
【0054】
また、本実施の形態のポリフェニレンエーテルの分散度は1.6以上であることが好ましい。この範囲未満であると、分子量8,000以下の成分量及び50,000以上の成分量を特定の範囲にすることが困難となる可能性が高く、効率よくポリフェニレンエーテルを製造することが困難となる。より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは1.9以上、最も好ましくは2.0以上である。
【0055】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルにおいて、分子量8,000以下の成分量と分子量50,000以上の成分量と残留金属触媒量とが、同時に上述した条件を満たすことにより、溶融加工時に生成するゲル等の異物を抑制できると発明者らは推定している。すなわち、分子量8,000以下の成分が30質量%を超えて、もしくは分子量50,000以上の成分が20質量%を超えて含み、または残留金属触媒が0.5ppmを超えて含まれるとき、溶融加工時にゲル等の異物が生成するなどの不都合が生じやすくなる。
【0056】
よって、本実施の形態のポリフェニレンエーテルは、残留金属触媒が0.5ppm以下とし、かつ分子量8,000以下の成分量が30質量%以下、かつ分子量50,000以上の成分量が20質量%以下に制御することにより、溶融加工時にゲル等の異物が生成することを抑制することができる。
【0057】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルは、製造に用いた芳香族炭化水素の残存量が、ポリフェニレンエーテルに対し0.01質量%以上1.5質量%未満の範囲であることが好ましい。
【0058】
芳香族炭化水素の残存量が1.5質量%以上であると、分子量50,000以上の成分量が20質量%を超えることや分子量8000以下の成分量が30質量%を超えることと相まって、溶融加工時に目やにが発生するおそれがある。
【0059】
一方で、0.01質量%未満であると、ポリフェニレンエーテルの製造工程の乾燥工程において、乾燥時間を長くする必要があり、大量生産に不向きなものとなり、工業的に製造の実現性が低くなる。
【0060】
以上の観点から、本実施の形態のポリフェニレンエーテルは、製造に用いた芳香族炭化水素の残存量が、0.01質量%以上1.5質量%未満の範囲であることが好ましく、0.01質量%以上1.2質量%以上の範囲がより好ましく、0.01質量%以上1.0質量%以下の範囲がさらに好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲が特に好ましい。
【0061】
ポリフェニレンエーテルの着色性の指標としては、カラーインデックス(C.I.)が利用できる。
【0062】
ポリフェニレンエーテルは他の樹脂と溶融混練して使用されることが多いが、加熱することで着色することが知られている。そのため、加熱後のポリフェニレンエーテルのカラーインデックス値が小さいほど、調色性に優れるポリフェニレンエーテルとなる。なお、「加熱後のポリフェニレンエーテル」とは、溶融混練後のポリフェニレンエーテル、成形加工後のポリフェニレンエーテル、コンプレッション後のポリフェニレンエーテル等が挙げられ、代表的な方法の一例としては、ポリフェニレンエーテルを、310℃で20分、10MPaの圧力でのコンプレッションしたポリフェニレンエーテルのカラーインデックス値(C.I.heat)を測定する方法が簡便である。
【0063】
なお、本実施の形態において、ポリフェニレンエーテルのカラーインデックスは、下記のようにして求められる。
【0064】
ポリフェニレンエーテルをクロロホルムに溶かし、ポリフェニレンエーテル濃度0.05g/mLのクロロホルム溶液とする。
【0065】
セル長1cmの石英セルに、ポリフェニレンエーテルの溶解に用いたものと同一のクロロホルムをいれ、紫外線(波長480nm)により純クロロホルムの吸光度を測定し、吸光度0とする。
【0066】
同様のセルに上記調製したポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液を入れ、480nmでの吸光度を測定する。
【0067】
ポリフェニレンエーテル溶液の吸光度から純クロロホルムの吸光度を減じ、ポリフェニレンエーテル溶液中のポリフェニレンエーテル濃度で除した値をポリフェニレンエーテルのカラーインデックス(C.I)とする。
【0068】
カラーインデックス値は、大きいほど着色していることを示す。加熱後のカラーインデックス値(C.I.heat)は、調色性の観点から小さいほど好ましく、具体的には4.0以下が好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0、最も好ましくは2.5以下である。
【0069】
上記式(1)により表されるポリフェニレンエーテルは、以下のフェノール化合物を重合することにより製造できる。
【0070】
フェノール化合物としては、例えば、o−クレゾール、2,6−ジメチルフェノール、2−エチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2−n−プロピルフェノール、2−エチル−6−n−プロピルフェノール、2−メチル−6−クロルフェノール、2−メチル−6−ブロモフェノール、2−メチル−6−イソプロピルフェノール、2−メチル−6−n−プロピルフェノール、2−エチル−6−ブロモフェノール、2−メチル−6−n−ブチルフェノール、2,6−ジ−n−プロピルフェノール、2−エチル−6−クロルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノール、2−フェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2,6−ビス−(4−フルオロフェニル)フェノール、2−メチル−6−トリルフェノール、2,6−ジトリルフェノール、2、5−ジメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,5−ジエチルフェノール、2−メチル−5−エチルフェノール、2−エチル−5−メチルフェノール、2−アリル−5−メチルフェノール、2、5−ジアリルフェノール、2,3−ジエチル−6−n―プロピルフェノール、2−メチル−5−クロルフェノール、2−メチル−5−ブロモフェノール、2−メチル−5−イソプロピルフェノール、2−メチル−5−n−プロピルフェノール、2−エチル−5−ブロモフェノール、2−メチル−5−n−ブチルフェノール、2,5−ジ−n−プロピルフェノール、2−エチル−5−クロルフェノール、2−メチル−5−フェニルフェノール、2,5−ジフェニルフェノール、2,5−ビス−(4−フルオロフェニル)フェノール、2−メチル−5−トリルフェノール、2,5−ジトリルフェノール、2,6−ジメチル−3−アリルフェノール、2,3,6−トリアリルフェノール、2,3,6−トリブチルフェノール、2,6−ジーn−ブチル−3−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−3−メチルフェノール、2,6−ジメチル−3−n−ブチルフェノール、2,6−ジメチル−3−t−ブチルフェノール等が挙げられる。
【0071】
特に、安価であり入手が容易であるため、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノールが好ましく、2,6−ジメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノールがより好ましい。
【0072】
上記フェノール化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
例えば、2,6−ジメチルフェノールと2,6−ジエチルフェノールとを組み合わせて使用する方法、2,6−ジメチルフェノールと2,6−ジフェニルフェノールとを組み合わせて用いる方法、2,3,6−トリメチルフェノールと2,5−ジメチルフェノールとを組み合わせて使用する方法、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとを組み合わせて用いる方法等が挙げられる。混合比は任意に選択できる。また使用するフェノール化合物の中には、製造の際の副産物として含まれている少量のm−クレゾール、p−クレゾール、2,4−ジメチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール等が含まれていてもよい。
【0074】
上記フェノール化合物の他に、使用する化合物の中に下記式(2)で表される二価のフェノール化合物が含まれていてもよい。下記式(2)で表されるような二価のフェノール性化合物は、対応する一価のフェノール化合物とケトン類、またはジハロゲン化脂肪族炭化水素との反応や、対応する一価のフェノール化合物同士の反応等により工業的に有利に製造できる。例えばホルムアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサン等の汎用ケトン化合物と一価のフェノール化合物の反応により得られる化合物群や、一価のフェノール化合物同士の反応により得られる化合群がある。例えば下記一般式(2−a)、(2−b)、(2−c)で表される化合物が挙げられる。
【0075】
【化2】

【0076】
【化2−a】

【0077】
【化2−b】

【0078】
【化2−c】

上記式で表される代表的な化合物としては、R5及びR6がメチル基、R7及びR8が水素でXが両方のアリール基を直結している化合物、R5及びR6がメチル基、R7及びR8が水素でXがメチレンである化合物、R5及びR6がメチル基、R7及びR8が水素でXがチオである化合物、R5、R6及びR7がメチル基、R8が水素でXがエチレンである化合物、R5及びR6がメチル基、R7及びR8が水素でXがイソプロピリデンである化合物、R5及びR6がメチル基、R7及びR8が水素でXがシクロヘキシリデンである化合物、R5、R6及びR7がメチル基、R8が水素でXが両方のアリール基を直結している化合物、R5、R6及びR7がメチル基、R8が水素でXがメチレンである化合物、R5、R6及びR7がメチル基、R8が水素でXがエチレンである化合物、R5、R6及びR7がメチル基、R8が水素でXがチオである化合物、R5、R6及びR7がメチル基、R8が水素でXがイソプロピリデンである化合物、R5、R6、R7及びR8がメチル基でXがメチレンである化合物、R5、R6、R7及びR8がメチル基でXがエチレンである化合物、R5、R6、R7及びR8がメチル基でXがイソプロピリデンである化合物等であるが、これらの例に限定されない。
【0079】
さらに上記フェノール化合物の他に、多価フェノール化合物を共存させることが可能である。例えば、分子内に3個以上9個未満のフェノール性水酸基を有し、その内の少なくとも1個のフェノール性水酸基の2,6位にアルキル基またはアルキレン基を有する化合物が挙げられる。多価フェノール化合物の一例として、以下に列挙する。4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[(2-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシ-3-エトキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルエチルフェノール)、4,4’-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、2,2’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(3,5,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[4-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシリデン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(2-ヒドロキシフェニル)メチレン]-ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシ-3-フルオロフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)エチル]-4-メチルフェノール、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-2,3,6-トリメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5,6-トリメチルフェニル)メチル]-4-エチルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-6-メチルフェノール、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)メチル]-6-メチルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-6-シクロヘキシルフェノール、2,4-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-6-シクロヘキシルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-2,3,6-トリメチルフェニル)メチル]-6-シクロヘキシルフェノール、3,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,2-ベンゼンジオール、4,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,3-ベンゼンジオール、2,4,6-トリス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,3-ベンゼンジオール、2,4,6-トリス[(2-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,3-ベンゼンジオール、2,2’-メチレンビス[6-[(4/2-ヒドロキシ-2,5/3,6-ジメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、2,2’-メチレンビス[6-[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、2,2’-メチレンビス[6-[(4/2-ヒドロキシ-2,3,5/3,4,6-トリメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、2,2’-メチレンビス[6-[(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,4-ジヒドロキシフェニル)メチル]-6-メチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,4-ジヒドロキシフェニル)メチル]-3,6-ジメチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,4-ジヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-3,6-ジメチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチル]-3,6-ジメチルフェノール]、6,6’-メチレンビス[4-[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]フェノール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]フェノール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(4-ヒドロキシ-2-メチル-5-シクロヘキシルフェニル)メチル]フェノール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチル]フェノール]、4,4’,4”,4”’-(1,2-エタンジイリデン)テトラキス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’,4”,4”’-(1,4-フェニレンジメチリデン)テトラキス(2,6-ジメチルフェノール)、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。フェノール性水酸基の数は3個以上であれば特に制限はないが、数が多くなると残留触媒が効率的に除去できなくなる可能性があるため、好ましくは3〜6個、さらに好ましくは3〜4個であり、また、2,6位のアルキル基またはアルキレン基としてはメチル基が好ましい。最も好ましい多価フェノール化合物は、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’,4”,4”’-(1,4-フェニレンジメチリデン)テトラキス(2,6-ジメチルフェノール)である。
【0080】
ポリフェニレンエーテルは、沈殿析出重合法又は溶液重合法の2種類の製造方法により製造できる。沈殿析出重合法とは、所定の分子量となったポリフェニレンエーテルが沈殿析出する重合形態である。沈殿析出重合法においては、ポリフェニレンエーテルの重合が進行するにつれて、溶媒組成などに応じて決まる分子量に達したものが析出し、それ以下の分子量のものは溶解した状態となる。溶媒としては、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等のポリフェニレンエーテルの良溶媒と、メタノール及びブタノール等の貧溶媒との混合溶媒が用いられる。析出したポリフェニレンエーテルは重合反応速度が遅くなるので、理論上、得られるポリフェニレンエーテルの分子量分布が狭くなっていく。さらに、重合途中でポリフェニレンエーテルが析出するため、系内の粘度は徐々に低下していくことから重合時のモノマー濃度(フェノール化合物濃度)を高くすることができる。また、析出したポリフェニレンエーテルをろ過することで容易に取り出すことができるので、極めて簡易な工程によりポリフェニレンエーテルを得ることができる。
【0081】
一方、溶液重合法とは、ポリフェニレンエーテルの良溶媒中で重合が行われ、重合中に沈殿が析出しない重合方法である。全ポリフェニレンエーテル分子が溶解した状態にあり、分子量分布は広くなる傾向にある。溶液重合法においては、ポリフェニレンエーテルが溶解した重合液を、メタノール等のポリフェニレンエーテルの貧溶媒中に展開することによって粉体状のポリフェニレンエーテルが得られる。
【0082】
効率良くポリフェニレンエーテルを製造する観点及び特定の分子量分布をもつポリフェニレンエーテルを製造する観点から、モノマー濃度は、重合液の全量を基準として、10〜28質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。前記濃度が10質量%以上であると、ポリフェニレンエーテルの製造効率が高くなる。
【0083】
一方、前記濃度が30質量%以上であると、特定の分子量に調整できなくなる傾向にある。この原因について本発明者らは以下のように推定している。前記濃度が30質量%以上と高くなると、重合終結時の液粘度が高くなり、均一な撹拌が困難となってくる場合がある。そのため、不均一な反応が起こり、予想外の分子量のポリフェニレンエーテルが得られる。その結果、本実施の形態の、特定の分子量をもつポリフェニレンエーテルを効率よく製造することが困難になるおそれがある。
【0084】
重合終結時の重合溶液は、ポリフェニレンエーテルが沈殿析出した状態であるため、触媒の洗浄除去を目的として、ポリフェニレンエーテルの溶解能が低い溶媒を主成分とする溶液を用いて繰り返し洗浄処理を行うことが好ましい。
【0085】
その後、各種乾燥機を用いて乾燥処理を施すことにより、ポリフェニレンエーテルが粉体として回収できる。
【0086】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの重合工程においては、沈殿析出重合、溶液重合のいずれにおいても、酸素含有ガスを供給しながら行う。
【0087】
酸素含有ガスとしては、純酸素の他、酸素と窒素等の不活性ガスとを任意の割合で混合したもの、空気、更には空気と窒素、希ガス等の不活性ガスとを任意の割合で混合したもの等が使用できる。
【0088】
重合反応中の系内圧力は、常圧でよいが、必要に応じて減圧でも加圧でも使用できる。
【0089】
酸素含有ガスの供給速度は、除熱や重合速度等を考慮して任意に選択できるが、重合に用いるフェノール化合物1モル当たりの純酸素として5NmL/分以上が好ましく、10NmL/分以上がさらに好ましい。
【0090】
ポリフェニレンエーテルの重合反応系には、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキサイド、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等の中性塩、ゼオライト等を添加してもよい。
【0091】
また、従来から重合活性に向上効果を有することが知られている界面活性剤を重合溶媒中に添加してもよい。このような界面活性剤としては、例えば、Aliquat336やCapRiquat(株式会社 同仁化学研究所製 商品名)で知られるトリオクチルメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。使用量は重合反応原料の全量に対して0.1質量%を超えない範囲が好ましい。
【0092】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの製造に用いる触媒としては、一般的にポリフェニレンエーテルの製造に用いられる公知の触媒系が使用できる。
【0093】
例えば、酸化還元能を有する遷移金属イオンと、この金属イオンと錯形成可能なアミン化合物からなるものがあり、具体的には、銅化合物とアミンとからなる触媒系、マンガン化合物とアミンとからなる触媒系、コバルト化合物とアミンとからなる触媒系等が挙げられる。
【0094】
重合反応は若干のアルカリ性条件下で効率良く進行するため、ここに若干のアルカリ若しくは更なるアミンを加えてもよい。
【0095】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの製造工程において好適な触媒としては、構成成分として、銅化合物、ハロゲン化合物及び下記式(3)で表されるジアミン化合物を含む触媒が挙げられる。
【0096】
【化3】

上記式(3)中、R9、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかを示す。なお全てが同時に水素ではないものとする。R13は炭素数2〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。
【0097】
触媒成分を構成する銅化合物としては、第一銅化合物、第二銅化合物又はこれらの混合物を使用できる。第一銅化合物としては、例えば塩化第一銅、臭化第一銅、硫酸第一銅、硝酸第一銅等が挙げられる。第二銅化合物としては、例えば、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅等が挙げられる。これらの中で特に好ましい銅化合物は、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅である。
【0098】
また、これらの銅化合物は、酸化物(例えば酸化第一銅)、炭酸塩、水酸化物等と対応するハロゲン又は酸から合成してもよい。
【0099】
例えば、酸化第一銅とハロゲン化合物(例えばハロゲン化水素の溶液)とを混合することにより合成できる。これらの銅化合物は、単独でも用いられるし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0100】
触媒成分を構成するハロゲン化合物としては、例えば、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム等である。またこれらは水溶液や適当な溶媒を用いた溶液として使用できる。
【0101】
これらのハロゲン化合物は、単独でも用いられるし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0102】
好ましいハロゲン化合物は、塩化水素の水溶液、臭化水素の水溶液である。
【0103】
これらの化合物の使用量は特に限定されないが、銅原子のモル量に対してハロゲン原子として2倍以上20倍以下が好ましく、使用されるフェノール化合物の100モルに対して好ましい銅原子の使用量としては0.02モルから0.6モルの範囲である。
【0104】
上記式(3)により示されるジアミン化合物としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリエチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−N’−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N−エチルエチレンジアミン、N−n−プロピルエチレンジアミン、N,N’−ジーn−プロピルエチレンジアミン、N−i−プロピルエチレンジアミン、N,N’−ジーi−プロピルエチレンジアミン、N−n−ブチルエチレンジアミン、N,N’−ジーn−ブチルエチレンジアミン、N−i−ブチルエチレンジアミン、N,N’−ジーi−ブチルエチレンジアミン、N−t−ブチルエチレンジアミン、N,N’−ジーt−ブチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’−トリメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、N−メチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノ−1−メチルプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノ−2−メチルプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,5−ジアミノペンタン等が挙げられる。
【0105】
好ましいジアミン化合物は、2つの窒素原子をつなぐアルキレン基(R13)の炭素数が2又は3のものである。
【0106】
これらのジアミン化合物の使用量は特に限定されないが、通常使用されるフェノール化合物100モルに対して0.01モル〜10モルの範囲で用いられる。
【0107】
重合触媒を構成するその他の成分について説明する。
【0108】
重合工程で用いる重合触媒には、上述した触媒成分の他、さらに、例えば3級モノアミン化合物又は2級モノアミン化合物を、それぞれ単独で又は組み合わせて含有させてもよい。
【0109】
3級モノアミン化合物とは、脂環式3級アミンを含む脂肪族3級アミンである。
【0110】
例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、アリルジエチルアミン、ジメチル−n−ブチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0111】
これらの第3級モノアミンは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。使用量は特に限定されないが、重合するフェノール化合物100モルに対して15モル以下が好ましい。
【0112】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルの製造において、3級モノアミン化合物は通常使用される全量を全て反応系内に初期から加える必要はない。即ち、その内の一部を途中で加えてもよいし、その一部を重合開始から逐次加えてもよい。また、重合の開始と同時にフェノール化合物またはフェノール化合物の溶液に加え、これと共に加えてもよい。
【0113】
2級モノアミン化合物としては、第2級脂肪族アミンが挙げられる。
【0114】
第2級脂肪族アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−i−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−i−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジペンチルアミン類、ジヘキシルアミン類、ジオクチルアミン類、ジデシルアミン類、ジベンジルアミン類、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、シクロヘキシルアミンが挙げられる。
【0115】
また、2級モノアミン化合物としては、芳香族を含む2級モノアミン化合物も適用できる。例えば、N−フェニルメタノールアミン、N−フェニルエタノールアミン、N−フェニルプロパノールアミン、N−(m−メチルフェニル)エタノールアミン、N−(p−メチルフェニル)エタノールアミン、N−(2’,6’−ジメチルフェニル)エタノールアミン、N−(p−クロロフェニル)エタノールアミン、N−エチルアニリン、N−ブチルアニリン、N−メチル−2−メチルアニリン、N−メチル−2,6−ジメチルアニリン、ジフェニルアミン等が挙げられる。上述した2級モノアミン化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2級モノアミン化合物の使用量は、特に限定されないが、重合するフェノール化合物100モルに対して15モル以下が好適である。
【0116】
重合反応の終了後の後処理方法については、特に限定されるものではないが、通常、塩酸や酢酸等の酸、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)及びその塩、ニトリロトリ酢酸及びその塩等を反応液に加えて触媒を失活させる方法が挙げられる。
【0117】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルは、残留金属触媒量の低減の観点から、ポリフェニレンエーテルを良溶媒に溶解させたポリフェニレンエーテル溶液(油相)と、塩酸や酢酸等の酸、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)及びその塩、ニトリロトリ酢酸及びその塩等を溶解させた水溶液(水相)を接触させる方法が好ましい。特に、水相側に金属触媒を補足した後、油相と水相とを分離する際は、油相の粘度を、10cP以下に調整することで、金属触媒がポリフェニレンエーテルと再結合しないように、効率よく残留金属触媒を除去することができる。油相の粘度は、好ましくは8cP以下に、さらに好ましくは6cP以下に調整することが好ましく、よりさらに好ましくは4cP以下に調整することが好ましい。前記油相と前記水相とを接触させる温度としては、残留金属触媒量の低減効率の観点から、0℃以上であることが好ましい。当該温度が0℃未満であると、残留金属触媒量を低減させるために時間を多量に要するなどの問題が生じる可能性がある。当該温度は、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。一方、前記油相の沸点以下で前記油相と前記水相とを接触させることが好ましい。前記油相の沸点を超える温度で接触させる場合、良溶剤の蒸発が多くなり、コンデンサーなどへの負荷が高くなる、多量の熱量が必要となるなどの問題を生じる可能性がある。前記油相と前記水相とを接触させる温度は、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下である。
【0118】
ポリフェニレンエーテルは上記スラリー重合、溶液重合いずれによって得られたものでも構わないが、スラリー重合で得られたポリフェニレンエーテルは、一度析出したポリフェニレンエーテルを良溶媒に溶解させ上記粘度に調整することで残留金属触媒量の極めて少ないポリフェニレンエーテルを得る事が可能となる。溶液重合の場合、スラリー重合と比較し良溶媒の使用量が少ないため、環境への負荷の観点から、溶液重合法を選択するほうが好ましい。上記良溶媒とは、ポリフェニレンエーテルを溶解させることができる溶媒を指し、1種を単独で用いられても、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。これらの中でも好ましい良溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
【0119】
溶液重合で得られたポリフェニレンエーテルは、重合終結時のポリフェニレンエーテル溶液を用い、上記粘度に調整することで、残留金属触媒の極めて少ないポリフェニレンエーテルを得る事が可能となる。
【0120】
乾燥処理は、少なくとも60℃以上の温度により行うものとし、80℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、150℃以上がさらにより好ましい。
【0121】
ポリフェニレンエーテルの乾燥を60℃未満の温度で行うと、ポリフェニレンエーテル中の芳香族炭化水素の含有量が効率よく1.5質量%未満に抑制できないおそれがある。
【0122】
ポリフェニレンエーテルを高効率で得るためには、乾燥温度を上昇させる方法、乾燥雰囲気中の真空度を上昇させる方法、乾燥中に撹拌を行う方法等が有効であるが、特に、乾燥温度を上昇させる方法が製造効率の観点から好ましい。
【0123】
乾燥工程は混合機を併用することが好ましい。混合機としては、撹拌式、転動式の乾燥機が挙げられる。これにより処理量を多くでき、生産性を高く維持できる。
【0124】
本実施の形態のポリフェニレンエーテルは、従来既知の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂と溶融混練することができる。
【0125】
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、超高分子量ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、フェノール、尿素、メラミン、不飽和ポリエステル、アルキッド、エポキシ、ジアリルフタレート、ビスマレイミド等の樹脂が挙げられる。
【0126】
溶融混練時に、導電性、難燃性、耐衝撃性等の効果を付与する目的で従来既知の添加剤や熱可塑性エラストマーを加えることがより好ましい。
【0127】
また、本実施の形態のポリフェニレンエーテルを用いた樹脂組成物を製造する際には、その他の添加剤、例えば可塑剤、安定剤、変性剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、離型剤及びガラス繊維、炭素繊維等の繊維状補強剤、更にはガラスビーズ、炭酸カルシウム、タルク、クレイ等の充填剤を添加してもよい。
【0128】
安定剤や変性剤としては、亜リン酸エステル類、ヒンダードフェノール類、含イオウ酸化防止剤、アルカノールアミン類、酸アミド類、ジチオカルバミン酸金属塩類、無機硫化物、金属酸化物類、無水カルボン酸類、スチレンやステアリルアクリレート等のジエノフィル化合物類、エポキシ基含有化合物等が挙げられる。これらの添加剤は単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0129】
樹脂組成物を構成する成分を混合する方法としては、例えば、溶液ブレンドと脱気方法、押出機、加熱ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ヘンシェルミキサー等が使用できる。
【実施例】
【0130】
以下、本実施の形態について、実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本実施の形態の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0131】
先ず、実施例及び比較例に適用した、物性及び特性等の測定方法を下記に示す。
【0132】
(1)分子量8,000以下の成分及び分子量50,000以上の成分の定量、並びに重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の測定
測定装置として、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーSystem21を用い、標準ポリスチレンにより検量線を作成し、この検量線を利用して測定を行った。
【0133】
標準ポリスチレンの分子量は、3650000、2170000、1090000、681000、204000、52000、30200、13800、3360、1300、550のものを用いた。
【0134】
カラムは、昭和電工(株)製K−805Lを2本直列につないだものを使用した。
【0135】
溶媒は、クロロホルムを使用し、溶媒の流量は1.0mL/min、カラムの温度は40℃として測定した。
【0136】
測定用試料としては、ポリフェニレンエーテルの1g/Lクロロホルム溶液を作製して用いた。
【0137】
検出部のUVの波長は、標準ポリスチレンの場合は254nm、ポリフェニレンエーテルの場合は283nmとした。
【0138】
(2)加熱後のポリフェニレンエーテルのカラーインデックス(C.I.heat)の測定
後述する実施例及び比較例で得られたポリフェニレンエーテルの粉体を熱プレス処理(310℃×20分×10MPaの条件)したものをクロロホルムに溶解し、ポリフェニレンエーテル濃度が0.05g/mLとなるように調製した。
【0139】
セル長1cmの石英セルにポリフェニレンエーテル溶解用クロロホルムと同じクロロホルムを加え、波長480nmの紫外線を照射し、純クロロホルムの吸光度を測定し、この吸光度を基準値0とした。
【0140】
次に、前記石英セル内のクロロホルムを廃棄し洗浄し乾燥処理を施した。続いて、前記石英セルに上記調製したポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液を加え、波長480nmの紫外線を照射し、上記調製したポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液の吸光度を測定した。
【0141】
得られたポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液の吸光度から純クロロホルムの吸光度を減じ、ポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液中のポリフェニレンエーテル濃度で除してポリフェニレンエーテルのC.I.heatとした。
【0142】
(3)残留金属触媒量の定量
原子吸光光度計(島津製作所製AA6650)を用い、後述する実施例1〜5及び比較例1〜5で得られたポリフェニレンエーテル中の残留金属触媒量を測定した。
【0143】
(4)ポリフェニレンエーテルに含まれる芳香族炭化水素の定量
後述する実施例1〜5及び比較例1〜5で得られたポリフェニレンエーテルに含まれる芳香族炭化水素の定量は、キャピラリーカラム(製品名HR−1(信和化工社製))を取付けたガスクロマトグラフィー(製品名GC−2010(島津製作所製))、及び検出器(FID)を用い、メシチレンを内部標準物質とした内部標準検量線法により行った。
【0144】
(5)目やに評価
後述する実施例1〜5及び比較例1〜5で得られたポリフェニレンエーテルを原料として用い、以下の条件ポリフェニレンエーテルの溶融樹脂を製造した。
【0145】
製造装置としては、独国Werner&Pfleiderer社製「ZSK25二軸押出機」(バレル数10、スクリュー径25mm、ニーディングディスクL:2個、ニーディングディスクR:8個、ニーディングディスクN:4個を有するスクリューパターン)を用い、二軸押出機の最上流部(トップフィード)から上記原料を供給した。
【0146】
この二軸押出機は、スクリューを挿入するシリンダーが各ブロック(バレル)1〜10で構成されており、最上流の原料供給口がバレル1で、溶融混練した溶融樹脂の出口であるダイスヘッドの直前がバレル10となっている。バレル4及び8にはベントポートがあり、オープン状態にして実施した。
【0147】
シリンダー温度310℃、スクリュー回転数250rpmの条件で溶融混練してポリフェニレンエーテルの溶融樹脂を得た。
【0148】
この溶融混練の際、ダイに発生した目やに量を目視にて観察し、以下基準により評価した。
【0149】
(評価基準)
×:目やにが多量に確認された場合(悪い)
△:目やにが少量観察された場合(標準)
〇:目やにが観察されなかった場合(良好)
(6)ゲルの確認
後述する実施例1〜5及び比較例1〜5で得られたポリフェニレンエーテルから、上記(5)の「ZSK25二軸押出機」を用いて得られたポリフェニレンエーテルの溶融樹脂1gを、50mLのガラス瓶に入れ、クロロホルム10mLに溶解した。
【0150】
溶解後のクロロホルム溶液を目視で観察し、ゲルの有無を確認した。
【0151】
また、ゲルが目視で観察されない場合、シリンジ透過試験を実施した。
【0152】
このシリンジ透過試験においては、前記クロロホルム溶液を3mLのシリンジに2mL吸い上げた後、シリンジの先端に ミリポア社製Millex(登録商標)−LGフィルター(ポアサイズ:0.20μm)を装着し、溶液のろ過性を確認した。
【0153】
目視確認できないゲルが発生していた場合はフィルターを通過しにくいことが分かった。
【0154】
ゲルの有無は、下記基準により評価した。
【0155】
(評価基準)
×:ゲルが目視で多量に確認された場合
△:ゲルが目視で少量確認された場合
〇:ゲルが目視で確認されなかったが、シリンジ透過試験にてフィルターの詰まりが発生した場合
◎:ゲルが目視で観察されず、シリンジ透過試験においてフィルターの詰まりが発生しなかった場合
(7)成形流動性(SSP)
後述する実施例1〜5及び比較例1〜5で得られたポリフェニレンエーテルを用い、東芝機械社製の射出成型機「IS―80EPN(成型温度330℃、金型温度100℃)」により作製した、厚み0.32cmのダンベル成型片のショートショットプレッシャー(SSP)をゲージ圧で測定した。
【0156】
成形流動性(SSP)は、8(MPa)以下であれば、実用上良好であると判断した。
【0157】
<実施例1>
重合槽底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、撹拌タービン翼及びバッフルを備え、重合槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた40リットルのジャケット付き重合槽に、0.5L/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら、4.02gの酸化第二銅、29.876gの47質量%臭化水素水溶液、9.684gのジ−t−ブチルエチレンジアミン、48.88gのジ−n−ブチルアミン、141.94gのブチルジメチルアミン、19.65kgのトルエン、及び1.12kgの2,6−ジメチルフェノールを入れ、均一溶液となり、かつ重合槽の内温が25℃になるまで撹拌した。
【0158】
次に、重合槽へ32.8NL/分の速度で乾燥空気をスパージャーより導入を始め重合を開始したと同時にトルエン1.0kg及び2,6−ジメチルフェノール2.0kgからなる混合液を30分かけて添加した。乾燥空気を124分間通気し、重合混合物を得た。なお、重合終結時の内温が40℃になるようコントロールした。重合終結時の重合液は溶液状態であった。
【0159】
乾燥空気の通気を停止し、重合混合物にエチレンジアミン四酢酸4ナトリウム塩(同仁化学研究所製試薬)の2.5質量%水溶液を2.4kg添加して重合混合物溶液を得た。当該重合混合物溶液5kgを、ビスコテック社製オンライン粘度計MIVI7000を具備した20リットルのジャケット付抽出槽に移し、70℃で120分間、撹拌した。その後、室温に冷却した際の重合混合物溶液の液粘度は15cPであった。ついで、重合混合物溶液にトルエンを徐々に添加して行き、液粘度約6cPとなるまで添加を続けたところ、約1.1kgのトルエンを必要とした。当該添加後の重合混合物溶液を、巴工業社製ラボラトリ・セントリフュージT−1Pに200ml/分で送液し、油相と水相とを分離し、油相を回収した。なお、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、6cpであった。回収した室温の油相にメタノールを過剰に加えてポリフェニレンエーテルが析出したスラリーを作成した。その後、当該スラリーを、バスケットセントル(タナベウィルテック製O−15型)を用い濾過した。濾過後、過剰のメタノールをバスケットセントル内にいれ、再度濾過し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。得られた湿潤ポリフェニレンエーテルを、150℃、1mmHgで1.5時間保持し、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表1に示す。
【0160】
<実施例2>
乾燥空気をスパージャーより導入した時間を85分とし、抽出槽にトルエンを約0.5kg添加し、液粘度を約5cPとした以外は、実施例1と同様に実施して、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。なお、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、5cpであった。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表1に示す。
【0161】
<実施例3>
乾燥空気をスパージャーより導入した時間を85分とし、抽出槽における撹拌温度を55℃にし、抽出槽の液粘度を調整するためのトルエンを添加しなかった以外は実施例1と同様に実施して、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。なお、前記抽出槽の液粘度は約3cPであった。また、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、3cpであった。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表1に示す。
【0162】
<実施例4>
重合槽底部に酸素含有ガス導入用のスパージャー、撹拌タービン翼及びバッフルを備え、重合槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備え、重合槽側面に第二重合槽へのオーバーフローラインを備えた1.6リットルのジャケット付き第一重合槽に、500mL/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら、0.239gの塩化第二銅2水和物、1.122gの35%塩酸、3.531gのジ−n−ブチルアミン、18.154gのN,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン、445.1gのキシレン、170.8gのn−ブタノール、及び509.5gのメタノールを入れた。
【0163】
同様に、重合槽底部に酸素含有ガス導入用のスパージャー、撹拌タービン翼及びバッフルを備え、重合槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備え、重合槽側面に洗浄槽へのオーバーフローラインを備えた4.0リットルのジャケット付き第二重合槽に、1000mL/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら、1007.8gのキシレン、498.4gのn−ブタノール、及び389.5gのメタノールを入れた。
【0164】
また、プランジャーポンプにより第一重合槽に送液できるライン、撹拌タービン翼及び槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた6.0リットルの第一原料タンクに、窒素ガス流入口から500mL/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら、0.642gの塩化第二銅2水和物、2.827gの35質量%塩酸、9.247のジ−n−ブチルアミン、24.519gのN,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン、1206.5gのキシレン、904.5gのn−ブタノール、912.2gのメタノール、及び920.0gの2,6−ジメチルフェノールを入れ、撹拌して液を混合して、重合溶液を得た。なお、第一原料タンク中の仕込み液は、重合槽に供給すると減量するため、第一原料タンクに、適宜上記液組成のものを追加添加した。
【0165】
次に、激しく撹拌した第一重合槽へ、第一原料タンクより19.42g/分の流量で重合溶液を供給し、同時にスパージャーより第一重合槽へ329.42mL/分の速度での酸素の導入を開始した。更に、第一重合槽より第二重合槽へのオーバーフローが開始されると同時に、スパージャーより第二重合槽へ32.4mL/分の速度で酸素を導入した。重合温度は第一重合槽及び第二重合槽ともに40℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。なお、第二重合槽からのオーバーフローは、回収容器に回収した。
【0166】
その後、40時間後からオーバーフローしたスラリーを回収し始め、次いで、23時間重合を継続し、重合を完了した。得られたポリフェニレンエーテルのスラリーは約26.8kgであった。
【0167】
上述したようにして得られたポリフェニレンエーテルのスラリーの4分の1の量(6.7kg)を、撹拌タービン翼及びバッフル、槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた10リットルのジャケット付き槽に入れ、50℃に温めた。
【0168】
次に、ハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のポリフェニレンエーテルが白色となるまで、50℃での保温を続けた。白色となったスラリー状のポリフェニレンエーテルをろ過して得られた湿潤ポリフェニレンエーテルを抽出槽に移し、キシレンを約6.8kg、エチレンジアミン四酢酸4ナトリウム塩(同仁化学研究所製試薬)の2.5質量%水溶液850gを添加し、70℃で120分間撹拌した。その後、室温に冷却したところ液粘度は約26cPであった。ついで、キシレンを徐々に添加して行き、液粘度約7cPとなるまで続けたところ、約2.9kgのキシレンを必要とした。ついで、巴工業社製ラボラトリ・セントリフージT−1Pに200ml/分で送液し、油相と水相とを分離し、油相を回収した。なお、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、26cpであった。回収した室温の油相にメタノールを過剰に加えてポリフェニレンエーテルが析出したスラリーを作成した。その後、前記スラリーを、バスケットセントル(タナベウィルテック製O−15型)を用い濾過した。濾過後、過剰のメタノールをバスケットセントル内に加え、再度濾過し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。得られた湿潤ポリフェニレンエーテルを、50℃、1mmHgで1.5時間保持し、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表1に示す。
【0169】
<実施例5>
抽出槽の液粘度を調整するためのトルエン添加量を約0.5kgとし、抽出槽の液粘度を約3cPとした以外は、実施例1と同様に実施して、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。なお、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、3cpであった。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表1に示す。
【0170】
<比較例1>
実施例4と同様にしてポリフェニレンエーテルが析出したスラリーを作成した。得られたポリフェニレンエーテルのスラリーの4分の1の量(6.7kg)を撹拌タービン翼及びバッフル、槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた10リットルのジャケット付き槽に入れ、エチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)の10質量%水溶液を100g添加し、50℃に温めた。次に、ハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のポリフェニレンエーテルが白色となるまで、50℃での保温を続けた。白色となったスラリー状のポリフェニレンエーテルをろ過し、ろ残のポリフェニレンエーテルにメタノールを加え、洗浄処理を行い、ポリフェニレンエーテル粉体を得た。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表2に示す。
【0171】
<比較例2>
乾燥空気をスパージャーより導入した時間を130分とし、抽出槽の液粘度を調整するためのトルエンを添加せず、液粘度を約15cPとした以外は、実施例1と同様に実施して、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。なお、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、15cpであった。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表2に示す。
【0172】
<比較例3>
乾燥空気をスパージャーより導入した時間を150分とし、抽出槽の液粘度を調整するためのトルエンを添加せず、液粘度を約27cPとした以外は、実施例1と同様に実施して、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。なお、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、27cpであった。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表2に示す。
【0173】
<比較例4>
抽出槽の液粘度を調整するためのキシレンを添加せず、抽出槽の液粘度を26cPとした以外は実施例4と同様に実施して、乾燥状態のポリフェニレンエーテル粉体を得た。なお、油相と水相とを分離する際の油相の液粘度は、26cpであった。得られたポリフェニレンエーテル粉体について上記方法に従って各物性及び特性を測定した。結果を表2に示す。
【0174】
【表1】

【0175】
【表2】

実施例1〜5で得られたポリフェニレンエーテルは、分子量50,000以上の成分量が0〜20質量%の範囲であり、分子量8,000以下の成分量が0〜30質量%の範囲である低分子量を有するポリフェニレンエーテルであった。また、その製造工程において、油相の液粘度を10cP以下としたため、得られたポリフェニレンエーテルの残留金属触媒量が極めて低かった。実施例1〜5においては、純度の高いポリフェニレンエーテルが得られており、加熱時の着色性にすぐれたポリフェニレンエーテルが得られた。
【0176】
比較例1〜4のポリフェニレンエーテル製造工程おいては、油相の液粘度が10cPより高かったため、効率的な金属触媒の除去に至らず、加熱後の着色性も悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明のポリフェニレンエーテルは、純度が高く、成形流動性に優れ、また加熱加工時の着色性に優れ、さらには加工時の目やにやゲル等の異物の発生が低減化されているため、機械部品、自動車部品、電気電子部品、特にプリント基板、絶縁封止剤等の電気電子部品、フィルム、シート、射出成型体、ブロー成型体、ICトレー等として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留金属触媒量が0.5ppm以下であり、
分子量50,000以上の成分量が0〜20質量%の範囲であり、かつ、分子量8,000以下の成分量が0〜30質量%の範囲であるポリフェニレンエーテル。
【請求項2】
残留金属触媒量が0.3ppm以下である、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル。
【請求項3】
重量平均部試料(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度が1.6〜3.0の範囲である、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル。
【請求項4】
熱プレス処理(熱プレス温度:310℃、熱プレス時間:20分、熱プレス圧力:10MPaの条件)後のカラーインデックス(C.I.heat)が4.0以下である、請求項1〜3いずれか一項に記載のポリフェニレンエーテル。