ポリフッ化ビニリデン多孔質体
【課題】厚みがあるポリフッ化ビニリデンの多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】主成分としてポリフッ化ビニリデンを含み、厚みが1mm以上である多孔質体の製造方法であって、前記ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得、前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得、前記成形体を分離し、乾燥して、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る工程を含む。この溶媒は、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒とを含む。
【解決手段】主成分としてポリフッ化ビニリデンを含み、厚みが1mm以上である多孔質体の製造方法であって、前記ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得、前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得、前記成形体を分離し、乾燥して、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る工程を含む。この溶媒は、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質体は分離剤、吸着剤等として多方面で多く用いられている。無機系多孔質体は、シリカ系多孔質体に関して膨大な研究がなされている。シリカ系多孔質体の中でも多孔体シリカ粒子を作成する技術が一般的である。この多孔体シリカ粒子は、分析用材料として実用化されている。一方、高分子系多孔質体としては、ビニルモノマーの懸濁重合時に適切な希釈剤を加えて多孔質体粒子を得る技術が知られている。この高分子系多孔質体は、高分子材料の軽量性という特徴を活かして、各種吸着剤や分離剤として実用化されている。
【0003】
連続した骨格と空隙が互いに絡み合った構造を有する一塊の材料は、モノリスと呼ばれる。シリカ系多孔質体には、厚みのある成形体であるモノリスを作成する技術も知られている。高分子系多孔質体としては、ビニルポリマーのモノリスについては、重合法による合成技術が報告されているが、構造制御が容易ではないため、実用化に至っていない。
【0004】
高分子材料として、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと呼ぶことがある)は、高耐性、高純度な熱可塑性フッ素重合体の一つとして知られている。このPVDFは、一般に、高純度、高強度、耐薬品性、耐熱性が要求される用途において材料として用いられている。例えば、パイプ、シート、プレートなどの製品として販売されている。このようなPVDFの特殊な性質を利用するため、PVDFの多孔質膜化技術が開発され、実用化されている。しかしながら、現在までに得られているPVDF多孔質膜は、多くの場合、その空隙率が低いという問題があった。また、PVDF多孔質膜は報告されている。例えば、PVDFの溶液から溶媒含有フィルムを作成し、そのフィルムを水等に投入して多孔化と同時に固化させる方法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。この方法では、水はPVDFの溶液の溶媒に対して大過剰に用いられている。また、この方法では、いったん、PVDF溶液を調製し、その溶液と水とを接触させることにより相分離を起こさせ、固化させている。
【0005】
しかしながら、厚みがある、主成分とてPVDFを含む多孔質体の製造方法は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/106545号パンフレット
【特許文献2】特開平6−79150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、厚みがあるポリフッ化ビニリデンの多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含み、厚みが1mm以上である多孔質体の製造方法であって、
前記ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得、
前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得、
前記成形体を別の溶媒に浸漬させて、前記溶媒を前記別の溶媒と置換させ、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る工程を含み、
前記溶媒が、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒とを含み、
前記貧溶媒は、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノールおよび1,2−プロピレングリコールからなる群から選択される1以上であり、
前記良溶媒は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、厚みがあるポリフッ化ビニリデンの多孔質体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1(a)】図1(a)は、実施例1で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(b)】図1(b)は、実施例2で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(c)】図1(c)は、実施例3で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。。
【図1(d)】図1(d)は、実施例4で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(e)】図1(e)は、実施例5で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(f)】図1(f)は、実施例6で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(a)】図2(a)は、実施例7で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(b)】図2(b)は、実施例8で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(c)】図2(c)は、実施例9で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(d)】図2(d)は、実施例10で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(e)】図2(e)は、実施例11で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(f)】図2(f)は、実施例12で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図3】図3は、実施例7〜9および実施例10〜12における骨格径を示したグラフである。
【図4(a)】図4(a)は、実施例13で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図4(b)】図4(b)は、実施例14で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図5】図5は、実施例1の多孔質体とPVDF粉末のFT−IRスペクトルを示す(実施例15)。
【図6】図6は、実施例1の多孔質体とPVDF粉末のDSCスペクトルを示す(実施例16)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の多孔質体は、膜より厚みがある。この多孔質体の形状は限定されないが、この多孔質体の縦横高さの3つの方向のうち、最も短いものを便宜的に厚みと呼ぶ。本発明の多孔質体の厚みは、前記のように1mm以上であり、好ましくは1.5mm以上であり、より好ましくは2mm以上である。
【0012】
本発明において、ポリフッ化ビニリデンは分子量は限定されないが、平均分子量が、例えば、1万〜500万であり、好ましくは2万〜400万であり、より好ましくは3万〜300万である
【0013】
本発明における製造方法では、前記のように、ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得る。この加熱温度は、好ましくは110〜150℃であり、より好ましくは120〜140℃である。ポリフッ化ビニリデンを溶媒に溶解させる際、物理的刺激を与えて行ってもよい。その物理的刺激としては、例えば、攪拌、振とう、超音波処理等が挙げられる。
【0014】
前記溶媒は、前記のように、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対して良溶媒とを含む。ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒は、前記のように、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノールおよび1,2−プロピレングリコールからなる群から選択される1以上であり、好ましくは、エチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される1以上である。また、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒は、前記のように、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上であり、好ましくはN,N−ジメチルアセトアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上である。なお、本願において前記貧溶媒とは、前記ポリフッ化ビニリデンを溶かす能力の小さい溶媒のことを意味する。具体的には、前記貧溶媒1Lに対してポリフッ化ビニリデン1g以上が、好ましくは0.8g以上が、より好ましくは0.5g以上が溶解しないことを意味する。また、本願において前記良溶媒とは、前記ポリフッ化ビニリデンを溶かす能力の大きい溶媒のことを意味する。具体的には、前記良溶媒1Lに対してポリフッ化ビニリデン10g以上が、好ましくは15g以上が、より好ましくは20g以上が溶解することを意味する。
【0015】
前記溶媒を100体積%とする場合、良溶媒の含有量は、例えば20〜90体積%、好ましくは40〜85体積%、より好ましくは55〜80体積%である。
【0016】
また、前記ポリフッ化ビニリデン溶液におけるポリフッ化ビニリデンの濃度は、例えば3〜20質量%、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは10〜20質量%である。
【0017】
本発明における製造方法においては、次に、前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得る。この冷却温度は、好ましくは−196〜25℃であり、より好ましくは−196〜20℃である。この冷却時間は、好ましくは1.5分〜15時間であり、より好ましくは2分〜12時間である。
【0018】
本発明における製造方法においては、次に、前記成形体を別の溶媒に浸漬させて、前記溶媒を前記別の溶媒と置換させ、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る。
【0019】
前記別の溶媒は、水、低級アルコール、アセトンおよびアセトニトリルからなる群から選択される1以上が好ましく、水、低級アルコールがより好ましい。前記低級アルコールとしては、炭素数1〜6を有する低級アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、t−アミルアルコール、n−ヘキサノールが挙げられる。
【0020】
前記溶媒を前記別の溶媒と置換させた後、得られた成形体を乾燥して多孔質体を得てもよい。前記乾燥は、例えば−78℃〜90℃、好ましくは−78℃〜80℃で行う。また、前記乾燥は、例えば減圧〜常圧、好ましくは減圧で行う。
【0021】
本発明の多孔質体は、前記のようにポリフッ化ビニリデンを主成分として含み、かつ、多孔質体の厚みが1mm以上である。また、本発明の多孔質体は、前記のようにポリフッ化ビニリデンを主成分として含み、前記多孔質体の前記孔の骨格径は、例えば0.05〜8μmであり、かつ、多孔質体の厚みが1mm以上である。従って、このような多孔質体は、例えばフィルター、吸着材等として、用いることができる。
【0022】
また、本発明の多孔質体は、ポリフッ化ビニリデンのα相とβ相とを含み、β相をより多く含むのが好ましい。ポリフッ化ビニリデンは、結晶性ポリマーであり、α相、β相、γ相およびδ相が知られている。この中で、β相が、焦電効果および圧電効果がもっとも高い。ゆえに、β相をより多く含む本発明のポリフッ化ビニリデンの多孔質体は、好ましい。
【0023】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
ポリフッ化ビニリデン:PVDF
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
EG:エチレングリコール
【0024】
本明細書において、測定機器は以下の機器を用いた。
SEM:日立S−3000N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
イオンスパッタ:日立E−1010
FT−IR:SPECTRUM ONE(パーキンエルマー製)
DSC:EXSTAR6000 DSC6229(SII製)
本明細書において骨格径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像より求めた。
【実施例1】
【0025】
5ccのサンプル管にPVDF(平均分子量Mw=534,000)を入れ、撹拌しながらDMAcに溶解させた。その後、140℃で攪拌しながらEGを添加することでPVDF濃度15質量%、混合溶媒の組成DMAc/EG(60/40wt%)の溶液を調製した。この溶液の入ったサンプル管を5℃の水浴に12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中に水を3回交換して溶媒のDMAcとEGを水に置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、水を除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状)。
【0026】
<SEM観察>
15.0mAの放電電流で150sスパッタリングを行った後、15.0kVから25.0kVの印加電圧でSEM観察を行った。
【0027】
得られた多孔質体のSEM写真を図1に示す。図1(a)に示すように、多孔質体は、骨格径が0.48±0.10μmの多孔質体であることが確認できた。
【実施例2】
【0028】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=65/35wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は0.69±0.16μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(b)に示す。
【実施例3】
【0029】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=70/30wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は5.22±0.53μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(c)に示す。
【実施例4】
【0030】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=75/25wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は5.78±0.76μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(d)に示す。
【実施例5】
【0031】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=80/20wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は5.73±1.01μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(e)に示す。
【実施例6】
【0032】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=55/45wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は0.38±0.07μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(f)に示す。
【実施例7】
【0033】
5ccのサンプル管にPVDF(平均分子量Mw=534,000)を入れ、撹拌しながらDMAcに溶解させた。その後、140℃で攪拌しながらEGを添加することでPVDF濃度20質量%、混合溶媒の組成DMAc/EG(70/30wt%)の溶液を調製した。この溶液の入ったサンプル管を5℃の水浴に12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中に水を3回交換して溶媒のDMAcとEGを水に置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、水を除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は2.60±0.36μm)。得られた多孔質体のSEM写真を図2(a)に示す。
【実施例8】
【0034】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=75/25wt%に変更した以外は、実施例7と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は3.29±0.58μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(b)に示す。
【実施例9】
【0035】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=80/20wt%に変更した以外は、実施例7と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は5.25±0.92μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(c)に示す。
【実施例10】
【0036】
5ccのサンプル管にPVDF(平均分子量Mw=534,000)を入れ、撹拌しながらDMAcに溶解させた。その後、140℃で攪拌しながらEGを添加することでPVDF濃度20質量%、混合溶媒の組成DMAc/EG(70/30wt%)の溶液を調製した。この溶液の入ったサンプル管を液体窒素浴(−196℃)で5分間静置し、続いて5℃の水浴に12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中に水を3回交換して溶媒のDMAcとEGを水に置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、水を除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は0.26±0.32μm)。得られた多孔質体のSEM写真を図2(d)に示す。
【実施例11】
【0037】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=75/25wt%に変更した以外は、実施例10と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は0.51±0.10μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(e)に示す。
【実施例12】
【0038】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=80/20wt%に変更した以外は、実施例10と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は1.05±0.22μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(f)に示す。
【0039】
実施例7〜9および実施例10〜12における多孔質体の骨格径を図3のグラフに示す。横軸は混合溶媒の組成DMAc/EGである。図3中、上側のチャートが実施例7〜9において得られた多孔質体の骨格径であり、下側のチャートが実施例10〜12において得られた多孔質体の骨格径を示す。図3に示すように、非常に低温で相分離時を行った場合、それより高い温度での相分離を行った場合と比べて骨格径は小さくなることが確認できた。
【実施例13】
【0040】
PVDF濃度を10質量%に変更した以外は、実施例3と同様にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み5mmの略円柱状、骨格径は5.67±0.66μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図4(a)に示す。
【実施例14】
【0041】
PVDF濃度を20質量%に変更した以外は、実施例3と同様にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は0.93±0.22μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図4(b)に示す。
【0042】
PVDF濃度が10質量%の実施例13、PVDF濃度が15質量%の実施例3、およびPVDF濃度が20質量%の実施例14において得られた多孔質体の骨格径を比較すると、濃度が高いほど骨格径が小さくなることが確認できた。
【実施例15】
【0043】
実施例1で得られた多孔質体と、PVDF(平均分子量Mw=534,000)粉末とのFT−IRを図5に示す。図5中、横軸が波数であり、縦軸が吸収強度を示す。また、図5中、上側のチャートが実施例1で得られた多孔質体のFT−IRスペクトルであり、下側のチャートがPVDF粉末のFT−IRスペクトルである。また、763cm-1の吸収はPVDFのα相結晶に由来する吸収であり、841cm-1はβ相結晶に由来する吸収である。図5より、841cm-1における吸収ピークが上側のチャートは下側のチャートより大きい、すなわち、実施例1で得られた多孔質体は原料の粉末よりβ相結晶を多く含むことが確認できた。
【実施例16】
【0044】
実施例1で得られた多孔質体と、PVDF(平均分子量Mw=534,000)粉末とのDSCを図6に示す。図6中、下側のチャートが実施例1で得られた多孔質体のDSCスペクトルであり、上側のチャートがPVDF粉末のDSCスペクトルである。図6から、160℃(PVDFの融点)におけるピークが下側のチャートのほうが上側のチャートよりも大きく、すなわち、実施例1で得られた多孔質体のほうが粉末より結晶性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の方法により得られたポリフッ化ビニリデンは、フィルター、吸着材等への利用も期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質体は分離剤、吸着剤等として多方面で多く用いられている。無機系多孔質体は、シリカ系多孔質体に関して膨大な研究がなされている。シリカ系多孔質体の中でも多孔体シリカ粒子を作成する技術が一般的である。この多孔体シリカ粒子は、分析用材料として実用化されている。一方、高分子系多孔質体としては、ビニルモノマーの懸濁重合時に適切な希釈剤を加えて多孔質体粒子を得る技術が知られている。この高分子系多孔質体は、高分子材料の軽量性という特徴を活かして、各種吸着剤や分離剤として実用化されている。
【0003】
連続した骨格と空隙が互いに絡み合った構造を有する一塊の材料は、モノリスと呼ばれる。シリカ系多孔質体には、厚みのある成形体であるモノリスを作成する技術も知られている。高分子系多孔質体としては、ビニルポリマーのモノリスについては、重合法による合成技術が報告されているが、構造制御が容易ではないため、実用化に至っていない。
【0004】
高分子材料として、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと呼ぶことがある)は、高耐性、高純度な熱可塑性フッ素重合体の一つとして知られている。このPVDFは、一般に、高純度、高強度、耐薬品性、耐熱性が要求される用途において材料として用いられている。例えば、パイプ、シート、プレートなどの製品として販売されている。このようなPVDFの特殊な性質を利用するため、PVDFの多孔質膜化技術が開発され、実用化されている。しかしながら、現在までに得られているPVDF多孔質膜は、多くの場合、その空隙率が低いという問題があった。また、PVDF多孔質膜は報告されている。例えば、PVDFの溶液から溶媒含有フィルムを作成し、そのフィルムを水等に投入して多孔化と同時に固化させる方法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。この方法では、水はPVDFの溶液の溶媒に対して大過剰に用いられている。また、この方法では、いったん、PVDF溶液を調製し、その溶液と水とを接触させることにより相分離を起こさせ、固化させている。
【0005】
しかしながら、厚みがある、主成分とてPVDFを含む多孔質体の製造方法は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/106545号パンフレット
【特許文献2】特開平6−79150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、厚みがあるポリフッ化ビニリデンの多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含み、厚みが1mm以上である多孔質体の製造方法であって、
前記ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得、
前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得、
前記成形体を別の溶媒に浸漬させて、前記溶媒を前記別の溶媒と置換させ、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る工程を含み、
前記溶媒が、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒とを含み、
前記貧溶媒は、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノールおよび1,2−プロピレングリコールからなる群から選択される1以上であり、
前記良溶媒は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、厚みがあるポリフッ化ビニリデンの多孔質体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1(a)】図1(a)は、実施例1で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(b)】図1(b)は、実施例2で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(c)】図1(c)は、実施例3で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。。
【図1(d)】図1(d)は、実施例4で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(e)】図1(e)は、実施例5で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図1(f)】図1(f)は、実施例6で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(a)】図2(a)は、実施例7で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(b)】図2(b)は、実施例8で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(c)】図2(c)は、実施例9で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(d)】図2(d)は、実施例10で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(e)】図2(e)は、実施例11で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図2(f)】図2(f)は、実施例12で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図3】図3は、実施例7〜9および実施例10〜12における骨格径を示したグラフである。
【図4(a)】図4(a)は、実施例13で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図4(b)】図4(b)は、実施例14で得られたPVDF多孔質体のSEM写真である。
【図5】図5は、実施例1の多孔質体とPVDF粉末のFT−IRスペクトルを示す(実施例15)。
【図6】図6は、実施例1の多孔質体とPVDF粉末のDSCスペクトルを示す(実施例16)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の多孔質体は、膜より厚みがある。この多孔質体の形状は限定されないが、この多孔質体の縦横高さの3つの方向のうち、最も短いものを便宜的に厚みと呼ぶ。本発明の多孔質体の厚みは、前記のように1mm以上であり、好ましくは1.5mm以上であり、より好ましくは2mm以上である。
【0012】
本発明において、ポリフッ化ビニリデンは分子量は限定されないが、平均分子量が、例えば、1万〜500万であり、好ましくは2万〜400万であり、より好ましくは3万〜300万である
【0013】
本発明における製造方法では、前記のように、ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得る。この加熱温度は、好ましくは110〜150℃であり、より好ましくは120〜140℃である。ポリフッ化ビニリデンを溶媒に溶解させる際、物理的刺激を与えて行ってもよい。その物理的刺激としては、例えば、攪拌、振とう、超音波処理等が挙げられる。
【0014】
前記溶媒は、前記のように、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対して良溶媒とを含む。ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒は、前記のように、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノールおよび1,2−プロピレングリコールからなる群から選択される1以上であり、好ましくは、エチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される1以上である。また、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒は、前記のように、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上であり、好ましくはN,N−ジメチルアセトアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上である。なお、本願において前記貧溶媒とは、前記ポリフッ化ビニリデンを溶かす能力の小さい溶媒のことを意味する。具体的には、前記貧溶媒1Lに対してポリフッ化ビニリデン1g以上が、好ましくは0.8g以上が、より好ましくは0.5g以上が溶解しないことを意味する。また、本願において前記良溶媒とは、前記ポリフッ化ビニリデンを溶かす能力の大きい溶媒のことを意味する。具体的には、前記良溶媒1Lに対してポリフッ化ビニリデン10g以上が、好ましくは15g以上が、より好ましくは20g以上が溶解することを意味する。
【0015】
前記溶媒を100体積%とする場合、良溶媒の含有量は、例えば20〜90体積%、好ましくは40〜85体積%、より好ましくは55〜80体積%である。
【0016】
また、前記ポリフッ化ビニリデン溶液におけるポリフッ化ビニリデンの濃度は、例えば3〜20質量%、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは10〜20質量%である。
【0017】
本発明における製造方法においては、次に、前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得る。この冷却温度は、好ましくは−196〜25℃であり、より好ましくは−196〜20℃である。この冷却時間は、好ましくは1.5分〜15時間であり、より好ましくは2分〜12時間である。
【0018】
本発明における製造方法においては、次に、前記成形体を別の溶媒に浸漬させて、前記溶媒を前記別の溶媒と置換させ、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る。
【0019】
前記別の溶媒は、水、低級アルコール、アセトンおよびアセトニトリルからなる群から選択される1以上が好ましく、水、低級アルコールがより好ましい。前記低級アルコールとしては、炭素数1〜6を有する低級アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、t−アミルアルコール、n−ヘキサノールが挙げられる。
【0020】
前記溶媒を前記別の溶媒と置換させた後、得られた成形体を乾燥して多孔質体を得てもよい。前記乾燥は、例えば−78℃〜90℃、好ましくは−78℃〜80℃で行う。また、前記乾燥は、例えば減圧〜常圧、好ましくは減圧で行う。
【0021】
本発明の多孔質体は、前記のようにポリフッ化ビニリデンを主成分として含み、かつ、多孔質体の厚みが1mm以上である。また、本発明の多孔質体は、前記のようにポリフッ化ビニリデンを主成分として含み、前記多孔質体の前記孔の骨格径は、例えば0.05〜8μmであり、かつ、多孔質体の厚みが1mm以上である。従って、このような多孔質体は、例えばフィルター、吸着材等として、用いることができる。
【0022】
また、本発明の多孔質体は、ポリフッ化ビニリデンのα相とβ相とを含み、β相をより多く含むのが好ましい。ポリフッ化ビニリデンは、結晶性ポリマーであり、α相、β相、γ相およびδ相が知られている。この中で、β相が、焦電効果および圧電効果がもっとも高い。ゆえに、β相をより多く含む本発明のポリフッ化ビニリデンの多孔質体は、好ましい。
【0023】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
ポリフッ化ビニリデン:PVDF
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
EG:エチレングリコール
【0024】
本明細書において、測定機器は以下の機器を用いた。
SEM:日立S−3000N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
イオンスパッタ:日立E−1010
FT−IR:SPECTRUM ONE(パーキンエルマー製)
DSC:EXSTAR6000 DSC6229(SII製)
本明細書において骨格径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像より求めた。
【実施例1】
【0025】
5ccのサンプル管にPVDF(平均分子量Mw=534,000)を入れ、撹拌しながらDMAcに溶解させた。その後、140℃で攪拌しながらEGを添加することでPVDF濃度15質量%、混合溶媒の組成DMAc/EG(60/40wt%)の溶液を調製した。この溶液の入ったサンプル管を5℃の水浴に12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中に水を3回交換して溶媒のDMAcとEGを水に置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、水を除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状)。
【0026】
<SEM観察>
15.0mAの放電電流で150sスパッタリングを行った後、15.0kVから25.0kVの印加電圧でSEM観察を行った。
【0027】
得られた多孔質体のSEM写真を図1に示す。図1(a)に示すように、多孔質体は、骨格径が0.48±0.10μmの多孔質体であることが確認できた。
【実施例2】
【0028】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=65/35wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は0.69±0.16μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(b)に示す。
【実施例3】
【0029】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=70/30wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は5.22±0.53μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(c)に示す。
【実施例4】
【0030】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=75/25wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は5.78±0.76μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(d)に示す。
【実施例5】
【0031】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=80/20wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は5.73±1.01μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(e)に示す。
【実施例6】
【0032】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=55/45wt%に変更した以外は、実施例1と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み6mmの略円柱状、骨格径は0.38±0.07μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図1(f)に示す。
【実施例7】
【0033】
5ccのサンプル管にPVDF(平均分子量Mw=534,000)を入れ、撹拌しながらDMAcに溶解させた。その後、140℃で攪拌しながらEGを添加することでPVDF濃度20質量%、混合溶媒の組成DMAc/EG(70/30wt%)の溶液を調製した。この溶液の入ったサンプル管を5℃の水浴に12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中に水を3回交換して溶媒のDMAcとEGを水に置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、水を除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は2.60±0.36μm)。得られた多孔質体のSEM写真を図2(a)に示す。
【実施例8】
【0034】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=75/25wt%に変更した以外は、実施例7と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は3.29±0.58μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(b)に示す。
【実施例9】
【0035】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=80/20wt%に変更した以外は、実施例7と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は5.25±0.92μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(c)に示す。
【実施例10】
【0036】
5ccのサンプル管にPVDF(平均分子量Mw=534,000)を入れ、撹拌しながらDMAcに溶解させた。その後、140℃で攪拌しながらEGを添加することでPVDF濃度20質量%、混合溶媒の組成DMAc/EG(70/30wt%)の溶液を調製した。この溶液の入ったサンプル管を液体窒素浴(−196℃)で5分間静置し、続いて5℃の水浴に12時間静置した。この冷却時の間に相分離が起こり、円柱状の成形体が得られた。24時間中に水を3回交換して溶媒のDMAcとEGを水に置換した。その後24時間常温で減圧乾燥を行い、水を除去して多孔質体を得た(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は0.26±0.32μm)。得られた多孔質体のSEM写真を図2(d)に示す。
【実施例11】
【0037】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=75/25wt%に変更した以外は、実施例10と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は0.51±0.10μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(e)に示す。
【実施例12】
【0038】
混合溶媒の組成DMAc/EGの溶液の組成を、DMAc/EG=80/20wt%に変更した以外は、実施例10と同一にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は1.05±0.22μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図2(f)に示す。
【0039】
実施例7〜9および実施例10〜12における多孔質体の骨格径を図3のグラフに示す。横軸は混合溶媒の組成DMAc/EGである。図3中、上側のチャートが実施例7〜9において得られた多孔質体の骨格径であり、下側のチャートが実施例10〜12において得られた多孔質体の骨格径を示す。図3に示すように、非常に低温で相分離時を行った場合、それより高い温度での相分離を行った場合と比べて骨格径は小さくなることが確認できた。
【実施例13】
【0040】
PVDF濃度を10質量%に変更した以外は、実施例3と同様にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み5mmの略円柱状、骨格径は5.67±0.66μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図4(a)に示す。
【実施例14】
【0041】
PVDF濃度を20質量%に変更した以外は、実施例3と同様にして多孔質体(寸法:直径10mm、厚み7mmの略円柱状、骨格径は0.93±0.22μm)を得た。得られた多孔質体のSEM写真を図4(b)に示す。
【0042】
PVDF濃度が10質量%の実施例13、PVDF濃度が15質量%の実施例3、およびPVDF濃度が20質量%の実施例14において得られた多孔質体の骨格径を比較すると、濃度が高いほど骨格径が小さくなることが確認できた。
【実施例15】
【0043】
実施例1で得られた多孔質体と、PVDF(平均分子量Mw=534,000)粉末とのFT−IRを図5に示す。図5中、横軸が波数であり、縦軸が吸収強度を示す。また、図5中、上側のチャートが実施例1で得られた多孔質体のFT−IRスペクトルであり、下側のチャートがPVDF粉末のFT−IRスペクトルである。また、763cm-1の吸収はPVDFのα相結晶に由来する吸収であり、841cm-1はβ相結晶に由来する吸収である。図5より、841cm-1における吸収ピークが上側のチャートは下側のチャートより大きい、すなわち、実施例1で得られた多孔質体は原料の粉末よりβ相結晶を多く含むことが確認できた。
【実施例16】
【0044】
実施例1で得られた多孔質体と、PVDF(平均分子量Mw=534,000)粉末とのDSCを図6に示す。図6中、下側のチャートが実施例1で得られた多孔質体のDSCスペクトルであり、上側のチャートがPVDF粉末のDSCスペクトルである。図6から、160℃(PVDFの融点)におけるピークが下側のチャートのほうが上側のチャートよりも大きく、すなわち、実施例1で得られた多孔質体のほうが粉末より結晶性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の方法により得られたポリフッ化ビニリデンは、フィルター、吸着材等への利用も期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてポリフッ化ビニリデンを含み、厚みが1mm以上である多孔質体の製造方法であって、
前記ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得、
前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得、
前記成形体を別の溶媒に浸漬させて、前記溶媒を前記別の溶媒と置換させ、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る工程を含み、
前記溶媒が、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒とを含み、
前記貧溶媒は、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノールおよび1,2−プロピレングリコールからなる群から選択される1以上であり、
前記良溶媒は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上である製造方法。
【請求項2】
前記別の溶媒が、水、低級アルコール、アセトンおよびアセトニトリルからなる群から選択される1以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒を100体積%とする場合、良溶媒の含有量が、20〜90体積%である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリフッ化ビニリデン溶液におけるポリフッ化ビニリデンの濃度が、3〜20質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体であって、
多孔質体の厚みが1mm以上であることを特徴とする多孔質体。
【請求項1】
主成分としてポリフッ化ビニリデンを含み、厚みが1mm以上である多孔質体の製造方法であって、
前記ポリフッ化ビニリデンを100〜160℃で加熱して溶媒に溶解させてポリフッ化ビニリデン溶液を得、
前記ポリフッ化ビニリデン溶液を−196〜30℃で1分〜24時間冷却して析出した成形体を得、
前記成形体を別の溶媒に浸漬させて、前記溶媒を前記別の溶媒と置換させ、主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体を得る工程を含み、
前記溶媒が、ポリフッ化ビニリデンに対する貧溶媒と、ポリフッ化ビニリデンに対する良溶媒とを含み、
前記貧溶媒は、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノールおよび1,2−プロピレングリコールからなる群から選択される1以上であり、
前記良溶媒は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上である製造方法。
【請求項2】
前記別の溶媒が、水、低級アルコール、アセトンおよびアセトニトリルからなる群から選択される1以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒を100体積%とする場合、良溶媒の含有量が、20〜90体積%である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリフッ化ビニリデン溶液におけるポリフッ化ビニリデンの濃度が、3〜20質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
主成分としてポリフッ化ビニリデンを含む多孔質体であって、
多孔質体の厚みが1mm以上であることを特徴とする多孔質体。
【図3】
【図5】
【図6】
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図1(e)】
【図1(f)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図2(d)】
【図2(e)】
【図2(f)】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図5】
【図6】
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図1(e)】
【図1(f)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図2(d)】
【図2(e)】
【図2(f)】
【図4(a)】
【図4(b)】
【公開番号】特開2011−236292(P2011−236292A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107377(P2010−107377)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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