説明

ポリフッ化ビニリデン系樹脂の導電性透明無端ベルト

【課題】転写ベルトとしての機能を充分に発揮するだけでなく、透明性に優れることにより、トナーの転写過程を直接観察できるものである、導電性及び透明性を有したポリフッ化ビニリデン系樹脂無端状ベルトを提供すること。
【解決手段】ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対し、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を2〜20重量部含有させることにより、透明性を有する画像形成装置用転写ベルトが得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置に係り、詳しくは中間転写体を有する画像形成装置において、トナー像の画像濃度又はトナー付着量或いはトナー濃度を的確に検出する手段を持つ電子写真方式の画像形成装置に用いる、透明性を有する画像形成装置用ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を応用した画像形成装置では、まず無機又は有機光導電性感光体からなる潜像担持体上に一様な電荷を形成し、画像信号を変調したレーザーや発光ダイオード光等で静電潜像を形成した後、帯電したトナーで前記静電潜像を現像して可視化したトナー像とし、前記トナー像を静電的に中間転写ベルト上へ一次転写し、さらに中間転写ベルト上のトナー像を記録紙に静電的に二次転写して、これを加熱や加圧により定着させることによって、所要の再生画像を得る中間転写方式が知られている。
【0003】
このような中間転写方式に用いられる中間転写ベルトとしては、半導電性ベルトが挙げられ、ポリイミドやポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイドなどの樹脂に、カーボンブラックなどの電子導電性導電剤やイオン導電性導電剤を用いたものが知られている。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂にカーボンブラックを充填した中間転写ベルトとしては、特許文献1−3が挙げられる。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に粘土鉱物を充填した中間転写ベルトとしては、特許文献4に記載がある。上記電子写真方式の画像形成装置においては、近年、高画質化の要求が高まっており、画像濃度を安定に推移させることは大変重要である。従来、画像濃度の安定化は感光体上に現像されたトナー像の画像濃度を認識し、ある基準値と比較し、違いがある場合は画像形成条件(プロセス条件)、例えばレーザーのパワーや発光周波数を変えたり、現像バイアスやトナー濃度、スリーブ回転数や転写電流等にフィードバックしたりすることで実現させようとしていた。
【0004】
そして、この感光体上のトナー像の画像濃度を判断する方法としては、LED等の光でドラム面を照射し、ドラム面からの反射光をフォトダイオード等の素子で受光し、トナー像の濃度を判断するものが一般的である。すなわち、トナーが付着していない感光体表面の反射光レベルを基準として、感光体上に付着したトナー像の反射光レベルを読む方法である。この場合、照射された光はトナー像により散乱されるため、反射光レベルは低くなる。これにより感光体に付着したトナー量を判断する。
【0005】
ところが、感光体上に付着したトナー量を反射光で判断するには、下記の問題点がある。
(1)付着トナー量があるレベルを越えると、反射光レベルが変化しなくなり、微妙な付着トナー量の変化を認識出来なくなる。
(2)粒径の揃っていないトナーでは、反射光レベルが同じでも、付着トナー量が大きく異なることがある。
【0006】
上記問題を解決するために、特許文献5において、感光体回転方向に対し、現像器位置より下流側であってクリーニング位置より上流側に、一部又は全体が透過率5%以上の透明部材で構成された転写ベルトを設け、該転写ベルトに転写されたトナー像の透過光量を、該転写ベルトの内側と外側、又は外側と内側にそれぞれ設けられた投光器及び受光器により検出する検出手段が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記の実施例に示された抵抗値の転写ベルトを製造するためのカーボンによる導電機構では、多くのカーボン含有量が必要であり、透明性を維持することはできない。また、レーザー透過による付着トナー量の検出のみでは転写過程を直接確認することは不可能である。また、透明性を保持できる範囲の少量のカーボン添加量では転写ベルトとして適した抵抗値を発現させることは難しく、抵抗値の面内バラつきも大きくなることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−200904号公報
【特許文献2】特開平10−080957号公報
【特許文献3】特開平10−034763号公報
【特許文献4】特開2006−162958号公報
【特許文献5】特開2002−014497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対し、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を2〜20重量部含有してなる、400nm以上の波長で透過率70%以上であって、ヘイズが20%以下の、透明性を有するベルトであり、かつ体積抵抗率1×10〜1×1013(Ω・cm)の範囲内にあることを特徴とする、透明性を有する画像形成装置用転写ベルトを提案することにある。
【0010】
導電性及び透明性を有する無端状のベルトの製造を可能にすることで、トナーの転写過程を直接観察が可能にすることができ、高速度カメラによる画像解析によって転写メカニズムの詳細な分析が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対し、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を2〜20重量部含有させることにより、透明性を有する画像形成装置用転写ベルトが得られることを見出した。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。
項1.ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対し、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を2〜20重量部含有してなる、400nm以上の波長で透過率70%以上であって、ヘイズが20%以下の、透明性を有するベルトであり、かつ体積抵抗率が1×10〜1×1013(Ω・cm)の範囲内にあることを特徴とする、透明性を有する画像形成装置用ベルト。
項2.表面抵抗率が1×10〜1×1013(Ω/□)の範囲内にあることを特徴とする、項1に記載の透明性を有する画像形成装置用ベルト。
項3.前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体、又はこれらの混合物である、項1または2に記載の透明性を有する画像形成装置用ベルト。
項4.前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、フッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であることを特徴とする、項3に記載の透明性を有する画像形成装置用ベルト。
項5.前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンである、項1〜4のいずれかに記載の透明性を有する画像形成用ベルト。
項6.ポリフッ化ビニリデン系樹脂を有機極性溶媒に溶解して得られる溶液に、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を分散させて、液体原料を調整し、該粘土鉱物を分散させた液体原料を、回転成形法にて管状物に成形する透明性を有する画像形成装置用ベルトの製造方法であって、
(1)回転する円筒金型の内周面に、該粘土鉱物を分散させた液体原料を塗布する工程、
(2)該円筒金型を回転させたまま80〜150℃の温度で加熱して、自己支持性の皮膜を形成する工程、
を含むことを特徴とする製造方法。
項7.前記液体原料の粘度が1〜6Pa・sである、項6に記載の製造方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
I.基材
本発明のベルトは、基材としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデン(VdF)単独重合体や、VdFと、VdFと共重合可能な他の単量体との共重合体のことであり、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、VdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体(VdF−HFP共重合体)、又はこれらの混合物が挙げられ、これらの中でも、VdF−HFP共重合体が、成形された塗膜に柔軟性を与えるだけでなく、表面層であるポリイミド樹脂との接着性が高くなる点から好ましい。また、VdF−HFP共重合体のVdFとHFPのモル比としては、VdF/HFP=99/1〜70/30が好ましく、VdF/HFP=97/3〜80/20がより好ましく、VdF/HFP=97/3〜90/10がさらに好ましい。VdFとHFPのモル比が前記範囲内であることで、耐オゾン性や耐汚染性が高くなり、更に機械的強度や引き裂き強度が高くなる。本発明において好適に用いることができるポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、例えば、アルケマ(株)製 カイナー♯2801(PVdF-HFP共重合体 HFP:11モル%)、アルケマ(株)製 カイナー♯301F(PVdF)などを挙げることができる。その中でもアルケマ(株)製 カイナー♯2801(PVdF-HFP共重合体 HFP:11モル%)が好ましい。
【0014】
II.導電性付与剤
本発明の画像形成装置用ベルトは、透明性を維持するためにカーボンブラックを含まない。また、カーボンブラックを含まないことで、耐電圧を高く維持し、体積抵抗率の電圧依存を小さくできる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は表面エネルギーが小さいため、導電性材料を分散させた場合、体積抵抗率の分布が不均一になりやすい。さらに、高電圧の印加などによって導電性材料が樹脂中を移動し、その結果、体積抵抗率の水準が変わったり、電圧依存性が大きくなったりするという問題があった。
【0015】
本発明においては、導電性付与剤として、粘土鉱物を有機オニウムイオンで有機変性させたものを用いる。当該有機変性処理を行うことによって、水中でのみ膨潤する層状粘土鉱物が、有機溶媒中においても膨潤して層間距離が広がる。例えば、粘土鉱物の一種であるモンモリロナイトは、厚さが約1nm、一片の長さが約100nmのシート状シリケート層が重なって構成され、層間の距離は約10Åであるが、このシリケート層間に水や有機溶媒が入り込むと、層間距離が50Å程度に膨潤する。当該層間距離が広がることにより、有機溶媒に溶解したポリマー鎖が層状粘土鉱物の層間に入りやすくなり、分散性が向上する等の効果が得られる。また、PVdFが層間に入り易くなることにより、層間に挿入されたPVdFは極性が大きいことから、層間の有機オニウムイオンをイオン化させ、導電性を発現する。PVdF単独でも弱い導電性を有しているが、上記のように層間にイオン導電が発現することにより、さらに大きな導電性が得られる。
【0016】
上記粘土鉱物としては、カオリナイト、ディッカナイト、ナクライト及びハロイサイト等の蛇紋石-カオリン族鉱物、白雲母、海緑石、セラドナイト、パラゴナイト、金雲母、黒雲母、鉄雲母、イーストナイト、イライト、フェンジャイト及びブラマーサイト等の雲母族鉱物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト及びソーコナイト等のスメクタイト族鉱物、脆雲母族鉱物、緑泥石族鉱物、パイロフィライト、タルク等のタルク-パイロフィライト族鉱物、バーミュライト族鉱物、混合層鉱物等が挙げられる。これらの粘土鉱物は天然のものであっても合成されたものであっても良い。また、上記粘土鉱物は1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
また、上記有機オニウムイオンとしては、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどを挙げることができる。これらの中でも、アンモニウムイオンが好ましく、4級アンモニウムイオンがより好ましい。
【0018】
上記第4級アンモニウム塩としては、例えば、ジメチルステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などを挙げることができる。上記有機オニウムイオンで有機変性処理された上記粘土鉱物は、一般に市場で容易に入手することが可能であり、以下のものを好適に用いることができる。
【0019】
上記有機変性モンモリロナイトとして、(株)ホージュン製エスベン(商品名)及びオルガナイト(商品名)、Nanocor社製Nanomer(商品名)、SouthernClay Product社製Cloisite(商品名)等;有機変性ヘクトライトとして、コープケミカル(株)製ルーセンタイトSPN(商品名)、ルーセンタイトSEN(商品名)及びルーセンタイトSTN(商品名)等;有機変性合成雲母として、コープケミカル(株)製ソマシフMPE(商品名)等が挙げられる。
【0020】
III.ポリフッ化ビニリデン樹脂系無端ベルト
本発明のポリフッ化ビニリデン系樹脂無端ベルトは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対し、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を2〜20重量部含有してなるものである。
【0021】
通常、ポリフッ化ビニリデン系樹脂等のフッ素樹脂を含む組成物を溶融製膜した場合、α型の結晶構造を有することが知られている。しかしながら、粘土鉱物を添加することで、このフッ素樹脂のα型結晶構造が、β型やγ型結晶構造に相転移する。このような相転移することで、形成された塗膜に柔軟性を与え、機械的強度を改善することができるため好ましい。
【0022】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶構造がα型の場合、赤外分光法(IR)スペクトルにおいて、760cm−1付近(約755〜765cm−1)と790cm−1付近(約785〜800cm−1)にα型の結晶構造由来のピークが確認できる。一方、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶構造がβ型又はγ型の場合、IRスペクトルにおいて、α型結晶構構造由来の760cm−1付近と790cm−1付近には、明確なピークが確認できず、810cm−1付近(約805〜815cm−1)(γ型)、830cm−1付近(約825〜835cm−1)(βとγ型)にβ型又はγ型結晶構造由来のピークが確認できる。また、870cm−1付近に確認できるピークは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のC−F結合に由来するピークであり、必ず出現するピークである。
【0023】
このようにIRスペクトルのピークを確認することにより、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶構造がα型から、β型又はγ型に十分に相転移していることが確認できる。従って、760cm−1付近のピークが小さければ小さいほど好ましいものである。
【0024】
IV.ポリフッ化ビニリデン樹脂系無端ベルトの製造方法
本発明のポリフッ化ビニリデン樹脂系無端ベルトの製造方法は、好ましくは回転成型法による。これは原料を溶媒に溶解させることで、PVdF樹脂ワニス中に粘土鉱物を分散させることが重要であるためである。PVdF樹脂はその他のフッ素系高分子に比べ抵抗値が低く、粘土鉱物を有機変性させることで発現するイオン導電性により、ベルト全体として、転写ベルトとして最適な体積抵抗率が1×10〜1×1013(Ω・cm)の導電性を与えることが可能となる。
【0025】
粘土鉱物粉末及びPVdF樹脂を溶媒で希釈して液体原料とするが、この際粘度を調整することが好ましい。液体原料の粘度が低すぎると、回転成形にて金型に溶液を馴染ませる際に、形状を保つことが出来ずに垂れて、厚みムラの原因になる。逆に粘度が高過ぎると、充分に金型に馴染ませることができないため、周方向への厚みムラの原因になる。液体原料の粘度を1〜6Pa・s、より好ましくは2〜4Pa・sの範囲とすれば、厚みムラを最小限に抑制できる。
【0026】
粘土鉱物が充分に分散されたPVdF樹脂の液体原料は、以下に例示する工程によって無端ベルトに成型される。
【0027】
両端開口の金属ドラム(内面はRz=0.5μm程度のクロムめっきによる鏡面仕上)がヒーター内蔵の2本の可変回転ローラー上に着脱自在に載置され、ローラーの回転によって回転する間接回転方式をとる。金属ドラムの加熱は、回転ローラーに内蔵されたヒーターと遠赤外線ヒーターによる外部加熱方式による。また、加熱によって蒸発する有機溶媒は、排気ファンを用いて積極的に排気する。
【0028】
金属ドラムの回転速度は、30〜100rad/sの範囲が好ましい。回転速度が30rad/s未満では充分な遠心力が作用せず、フィルムの均一な厚み精度が得られにくい。逆に回転速度が100rad/sを越えると、金属ドラムの回転軸のブレによりフィルムの厚み精度への悪影響が懸念される。
【0029】
次に金属ドラムの回転を維持し、150℃程度まで徐々に加熱して含有溶媒の除去、すなわち一時的成型を行なう。この際含有溶媒は完全には除去されない可能性があるため、回転成型の終了後、金型ごと熱風乾燥炉内に投入する。この工程ではフィルムの残存溶媒を除去するため徐々に昇温し、最後に冷却し金型から抜き取りPVdF樹脂系無端ベルトを得る。
【0030】
このPVdF樹脂系無端ベルトの厚みは50μm〜300μmであることが好ましい。50μm以上であれば、フィルム強度として十分であり、取り扱いが容易であって、転写ベルトに要求される強度や耐久性を満たす点から好ましい。また、成形時に金型に容易に流し込むという点から、300μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、ポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分としてなる基材に、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を添加することで、導電性及び透明性を有した無端状のベルトを得ることができる。当該ベルトは転写ベルトとしての機能を充分に発揮するだけでなく、その優れた透明性によりトナーの転写過程を直接観察できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
各値の測定方法
本発明において、各値は以下のとおり測定した。
【0033】
<光透過率>
光透過率は、日本分光(株)製の紫外可視分光光度計V-670を用いて、波長域380〜750nmにおいて5nmの波長間隔で測定を行った。得られた結果のうち、最低透過率を示す波長の透過率を表記した。
【0034】
<ヘイズ>
ヘイズは、日本電色工業(株)製のHAZEMETER NDH-5000を用いて測定を行った。ヘイズの測定方法の詳細はJIS K 7136を参照にすることができる。
【0035】
<粘度>
東機産業(株)製のVISCOMETER TV-10を用いて、スピンドルM4、回転数100rpm、測定時間1分において測定を行った。
【0036】
<厚み>
各層の厚みおよび総厚みは、(株)ミツヨト製デジマチックインジケータの平面型測定子を用いて幅方向3点、周方向8点の合計24点測定し、その平均値として示した。
【0037】
<表面抵抗率、体積抵抗率>
表面抵抗率(Ω/□)及び体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学(株)製 “ハイレスタIP”、HRブロ−ブにて測定した。表面抵抗率測定時のレジテーブルにはテフロン(登録商標)面を使用し、体積抵抗率測定時のレジテーブルにはSUS面に導電性シリコーンゴムを敷き測定を行った。印加電圧100V、10秒後の表面抵抗率及び体積抵抗率をそれぞれ記録し、その平均値で示した。
【実施例】
【0038】
実施例1
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部(112.5g)に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSEN ポリオキシエチレンヤシアルキルメチルアンモニウムイオン30〜40%含有のヘクトライト)20重量部(22.5g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌して液体原料(粘度2.0Pa・s)を得た。この液体原料750gを回転ドラム(金属金型)内(内径224mm、幅850mm)(内面はRz=0.5μm程度のクロムめっきによる鏡面仕上)に均一に塗布した。次にドラムの加熱と共に回転を徐々に加速し、50rad/sに到達したところでその回転数を維持しつつ、温度(ドラム内温)150℃まで昇温した。この回転と温度下で120分間遠心成形した。得られた該ベルトはDMAc(溶媒)を約5wt%含有するPVdF系ベルトであった。回転成形の終了後、残存する溶媒を除去するために、金型ごと熱風乾燥炉内に投入した。60分間で140℃に到達させ、その温度で60分間加熱した。最後に常温に冷却し金型から抜き取った。得られたベルトは完全に溶媒が完全に揮発したPVdF樹脂系ベルトであり、該ベルトの厚さは100±5μm、内径223mm、長さ800mmであった。表面抵抗率は2.0〜3.0×1010Ω/□、体積抵抗率は5.0〜7.0×10Ω・cmの範囲で安定していた。また、該ベルトの光透過率は400nm以上で71%以上であり、ヘイズは8%であった。
【0039】
実施例2
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部(112.5g)に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSTN トリオクチルメチルアンモニウムイオン22〜32%含有のヘクトライト)10重量部(11.25g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌して液体原料(粘度2.0Pa・s)を得た。以下、実施例1に用いた粘土鉱物ルーセンタイトSENをルーセンタイトSTNに変えた以外は実施例1と同様にPVdF樹脂系ベルトを作製した。
【0040】
得られたベルトは完全に溶媒が完全に揮発したPVdF樹脂系ベルトであり、該ベルトの厚さは100±5μm、内径223mm、長さ800mmであった。
表面抵抗率は7.0〜9.0×1011Ω/□、体積抵抗率は2.0〜3.0×1010Ω・cmの範囲で安定していた。また、該ベルトの光透過率は400nm以上で73%以上であり、ヘイズは5%であった。
【0041】
実施例3
アルケマ(株)製 カイナー♯721の100重量部(112.5g)に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSEN)10重量部(11.25g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌して液体原料(粘度2.0Pa・s)を得た。以下、実施例1に用いたPVdF系原料を♯721に変えた以外は実施例1と同様にPVdF樹脂系ベルトを作製した。
【0042】
得られたベルトは完全に溶媒が完全に揮発したPVdF樹脂系ベルトであり、該ベルトの厚さは100±5μm、内径223mm、長さ800mmであった。
表面抵抗率は5.0〜8.0×1011Ω/□、体積抵抗率は3.0〜4.0×1010Ω・cmの範囲で安定していた。また、該ベルトの光透過率は400nm以上で72%以上であり、ヘイズは10%であった。
【0043】
実施例4
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部(112.5g)に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSEN)2重量部(2.25g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌して液体原料(粘度1.0Pa・s)を得た。以下、実施例1に用いた粘土鉱物ルーセンタイトSENの濃度を2重量部に変えた以外は実施例1と同様にPVdF樹脂系ベルトを作製した。
【0044】
得られたベルトは完全に溶媒が完全に揮発したPVdF樹脂系ベルトであり、該ベルトの厚さは100±5μm、内径223mm、長さ800mmであった。
表面抵抗率は7.0〜9.5×1012Ω/□、体積抵抗率は1.0〜3.0×1012Ω・cmの範囲で安定していた。また、該ベルトの光透過率は400nm以上で76%以上であり、ヘイズは11%であった。
【0045】
比較例1
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部(112.5g)に対し、アセチレンブラック(電気化学工業(株)製 デンカブラック粒状)10重量部(11.25g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌して液体原料(1.5Pa・s)を得た。以下、実施例1に用いた粘土鉱物ルーセンタイトSENをアセチレンブラックに変えた以外は実施例1と同様にPVdF樹脂系ベルトを作製した。
【0046】
得られたベルトは完全に溶媒が完全に揮発したPVdF樹脂系ベルトであり、該ベルトの厚さは100±5μm、内径223mm、長さ800mmであった。
表面抵抗率は5.0〜8.0×10Ω/□、体積抵抗率は1.0〜5.0×10Ω・cmの範囲で安定していた。また、該ベルトの光透過率は波長400nm以上で70%以下であり、ヘイズ測定に充分な光透過性を有しておらず、転写過程を直接観察するための充分な透明性は得られなかった。
【0047】
比較例2
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部(112.5g)に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSWNを用いて、アミノカルボン酸(12−アミノドデカン酸)処理したもの)10重量部(11.25g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌を行ったところ、一部凝集体を生じて、完全に溶解した液体原料を作製することはできなかった。
【0048】
比較例3
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部(112.5g)に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSEN)30重量部(33.75g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌して液体原料(粘度2.0Pa・s)を得た。以下、実施例1に用いた粘土鉱物ルーセンタイトSENの濃度を30重量部に変えた以外は実施例1と同様にPVdF樹脂系ベルトを作製した。
【0049】
しかしながら、以上の条件で得られるサンプルは非常に脆いため、膜として得ることは出来なかった。
【0050】
比較例4
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部(112.5g)に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSEN)1重量部(1.125g)を、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)626.25gに溶解させた後、ペイントシェイカーを用いて2時間攪拌して液体原料(粘度2.0Pa・s)を得た。以下、実施例1に用いた粘土鉱物ルーセンタイトSENの濃度を1重量部に変えた以外は実施例1と同様にPVdF樹脂系ベルトを作製した。
【0051】
得られたベルトは完全に溶媒が完全に揮発したPVdF樹脂系ベルトであり、該ベルトの厚さは100±5μm、内径223mm、長さ800mmであった。
表面抵抗率は5.0〜8.0×1013Ω/□、体積抵抗率は、測定装置で測定できる範囲を超えた。また、該ベルトの光透過率は400nm以上で77%以上であり、ヘイズは11%であった。
【0052】
比較例5
アルケマ(株)製 カイナー♯2801の100重量部に対し、粘土鉱物(コープケミカル社製 ルーセンタイトSEN)2重量部を混合し、二軸押出機(バレル温度190〜250℃)で混練しつつペレット化した。得られたペレットを十分に乾燥後、次に一軸押出機に環状ダイスをセットして、バレル温度は190〜230℃、環状ダイスの温度240℃にて、チューブ状(ベルト状)に単層で押出成形を行った。
得られたベルトはルーセンタイトSEN(分解温度240℃)が熱分解を起こしたため、赤褐色に変色していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対し、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を2〜20重量部含有してなる、400nm以上の波長で透過率70%以上であって、ヘイズが20%以下の、透明性を有するベルトであり、かつ体積抵抗率が1×10〜1×1013(Ω・cm)の範囲内にあることを特徴とする、透明性を有する画像形成装置用ベルト。
【請求項2】
表面抵抗率が1×10〜1×1013(Ω/□)の範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の透明性を有する画像形成装置用ベルト。
【請求項3】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体、又はこれらの混合物である、請求項1または2に記載の透明性を有する画像形成装置用ベルト。
【請求項4】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、フッ化ビニリデン(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であることを特徴とする、請求項3に記載の透明性を有する画像形成装置用ベルト。
【請求項5】
前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンである、請求項1〜4のいずれかに記載の透明性を有する画像形成用ベルト。
【請求項6】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を有機極性溶媒に溶解して得られる溶液に、有機オニウムイオンで有機変性された粘土鉱物を分散させて、液体原料を調整し、該粘土鉱物を分散させた液体原料を、回転成形法にて管状物に成形する透明性を有する画像形成装置用ベルトの製造方法であって、
(1)回転する円筒金型の内周面に、該粘土鉱物を分散させた液体原料を塗布する工程、
(2)該円筒金型を回転させたまま80〜150℃の温度で加熱して、自己支持性の皮膜を形成する工程、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記液体原料の粘度が1〜6Pa・sである、請求項6に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−47969(P2012−47969A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189865(P2010−189865)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】