説明

ポリプロピレン不織布

【課題】親水化処理の必要が無く、かつ、吸水性および保液性が高く、特にアルカリ乾電池などの電池用セパレータ等の用途に好適に用いることのできるポリプロピレン不織布を提供する。
【解決手段】繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維を、10質量%以上90質量%以下の割合で含む不織布を用いる。また、ポリプロピレン短繊維の単糸繊度が1dtex〜5dtexであることが好ましく、さらに、この不織布の製造は湿式抄造法を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や電解質溶液に対する吸水性や保液性に優れたポリプロピレン不織布に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン繊維は耐薬品性に優れ、比重が軽いという特徴があることから、不織布として加工され、ワイパーや衛生用材料等の用途に利用されている。また、耐アルカリ性にも優れる点から、ポリアミド繊維に代わる電池用セパレータの不織布として用いることも検討されている。
【0003】
しかしながら、ポリプロピレン繊維は疎水性であるために、不織布中のポリプロピレン繊維の使用量を増やすと、水や電解質溶液に対する吸水性、保液性が不十分となりやすかった。
【0004】
この問題を解決するためのポリプロピレン繊維の親水化処理としては、繊維表面への界面活性剤の塗布やプラズマ放電等の処理方法が公知であるが、これらの方法では工程が複雑となり、加工安定性が不十分となりやすく、また、十分な保液性も得られなかった。
【0005】
また、特許文献1には、シリカ微粉末を含有したポリオレフィン繊維からなる不織布の繊維を微多孔化することにより、不織布の保液性を向上する方法が記載されているが、この方法では電池用セパレータとしての十分な吸水性が得られない。また、シリカ微粉末を含有させることで、不織布が脆くなって本来の目的を果たさなくなる恐れがある。
【0006】
さらに、特許文献2には、細繊度の異型断面繊維にスルホン化などの親水化処理を行った、保液性と吸水性の高いポリプロピレン不織布が記載されている。しかし、この不織布は、保液性と吸水性を向上させるために異型断面化に加えて親水化処理が必要であり、異型断面化のみでは保液性が十分ではなかった。
【特許文献1】特開昭62−51150号公報
【特許文献2】特開2002−110128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、親水化処理の必要が無く、なおかつ、吸水性および保液性が高く、特にアルカリ乾電池などの電池用セパレータに好適に用いることができるポリプロピレン不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維を、10質量%以上90質量%以下の割合で含む不織布にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリプロピレン不織布は、繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維を主として用いることにより、水や電解質溶液に対する優れた吸水性および保液性を有する不織布となる。また、本発明の不織布は、不織布を構成するポリプロピレン繊維や不織布自身への親水化処理が不要で簡単に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の最良の形態について適宜図面を参照しながら詳しく説明する。
本発明のポリプロピレン不織布は、図1に示すような繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維を含むことが必要である。
本発明における渦巻き形状とは、図2に示すように、繊維断面における内側端部Aが外側端部Bを超えて内側に巻き込まれ、該端部Aが該端部Bよりも内側に巻き込まれた部分A−aとその外側のB−bにより囲まれた部分であるスリット部1と、該スリット部につながる開口部を有する中空部2とからなる。
本発明では、該スリット部1での毛細管現象により、親水化処理することなく優れた吸水性能が得られ、さらに吸収した液体は、該スリットに開口部を有する中空部2に保持されることにより優れた保液性能が得られる。
なお、繊維断面において、渦巻き形状の一部が融着している部分があると、毛細管現象に伴う吸水性が低下しやすいので、スリット部又は中空部において融着した部分がないことが好ましい。
【0011】
本発明のポリプロピレン不織布は、この渦巻き形状の繊維断面を有するポリプロピレン短繊維を、10質量%以上90質量%以下の割合で含むことが必要であり、20質量%以上80質量%以下の割合で含むことが好ましい。
10質量%未満の場合、繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維による吸水性や保液性向上の効果が現れない。一方、90質量%を超えると、不織布を形成する際のバインダー繊維の量が不十分となり、不織布からから短繊維が脱落する。
【0012】
本発明のポリプロピレン不織布の厚さは、目的に応じて適宜設定されるが、一般的には、0.05〜0.3mmに設定することが好ましい。厚さが0.05mm未満とすると、水や電解質溶液が不織布内部まで浸透しやすくはなるが、強度低下や短絡し易くなる等の問題が生じやすくなる。一方で0.3mmを超えると、内部まで完全に水や電解質溶液が浸透するのに時間がかかり、例えば、電池用セパレータに用いた場合、スムースな充放電反応に支障をきたしやすくなる。
【0013】
本発明における繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維の単糸繊度は1dtex〜5dtexであることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満の繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン繊維は、その紡糸性が不安定であり、紡糸できたとしても不織布の製造が困難になりやすい。一方、単糸繊度が5dtexより大きくなると、繊維の分散性が悪くなるため、得られる不織布の厚みが不均一になりやすく不織布の強度が低下しやすく、不織布の厚みが不均一になると電池用セパレータに加工した場合の、電気抵抗が不均一になる恐れもある。
【0014】
繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維は、公知の方法により得られた繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレンフィラメントを、短繊維にカットすることにより得られる。
【0015】
このポリプロピレンフィラメントの紡糸は、一般的な溶融紡糸及び延伸方法により行うことができる。
本発明の溶融紡糸は、一軸押出機或いは二軸押出機により溶融混練された原料ポリプロピレンを渦巻き形状のノズル口を有するノズルから押出して糸条とし、紡糸油剤を糸条に給油した後、巻き取ることより未延伸糸を得る。
なお、原料ポリプロピレンを混練する際、親水化剤を、紡糸安定性を阻害しない範囲で添加してもよい。本発明で用いることのできる親水化剤の例としては、ポリアルキレンオキサイドとポリオレフィンとのブロック共重合体などの非イオン性の界面活性剤などがある。
【0016】
原料ポリプロピレンのメルトフローレート(以下、MFRと略称する。)は、7〜35g/minの範囲にあることが好ましく、さらに紡糸安定性の面から7〜15g/minの範囲にあることがより好ましい。なお、ここで示しているMFRは、JIS K 7210に準拠して、測定温度230℃、測定荷重2.16kgにより測定したものである。
【0017】
MFRが7g/minより小さい場合には、紡糸温度を高温に設定することが必要となり、延伸特性が低下するために単糸切れが頻発し、紡糸安定性も低下する。
一方、MFRが35g/minより大きい場合には、断面を渦巻き形状にすることが困難になり、部分的に融着した断面となる割合が高くなるために好ましくない。
【0018】
本発明で使用される紡糸油剤は、特にその性状が限定されるものではない。広義に低粘度希釈剤併用タイプや原液油剤を直接繊維に給油するタイプなどを含むストレート系油剤であってもよく、油剤成分が水中にエマルジョン状態で分散しているエマルジョン系油剤であっても良い。
【0019】
本発明におけるフィラメントの製造工程において、フィラメントに付与される油剤量は安定に製糸される範囲であればよく、走行する糸条に対して0.1〜5質量%の範囲であればよく、好ましくは0.1〜3質量%が良い。付与された油剤は製造工程の中で飛散或いは蒸発してその付着量は減少するが、最終的に繊維に付着している油剤の量が0.1〜5質量%の範囲であればよく、延撚工程の安定性の面から0.1〜2質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0020】
得られた未延伸糸はそのまま連続工程で延伸をしてもよく、或いは一旦巻取った後、エージングを行い延伸しても良い。延伸工程は1段或いは2段以上の多段であっても良く、多段延伸における延伸倍率比の設定も特に限定されない。
【0021】
また、本発明の延伸工程に、接触或いは非接触型の熱源いずれを用いても何ら問題ない。熱源として、加熱延伸ローラーを用いる場合は、延伸時の延伸ローラー温度は60℃以上155℃以下の範囲が好ましい。延伸ローラー温度が60℃より低い場合は、延伸時に単糸切れが多発するために好ましくない。ローラー温度が155℃を超える場合には、断糸が発生しローラーに原糸が巻きついた時など、ローラー上で原糸が融解し、製糸工程の管理面で不都合が生じる。また、延伸倍率についても溶融紡糸された繊維の破断伸度の範囲で任意に設定することが可能である。最終的に繊維の強伸度は特に限定されることはない。
【0022】
上述の方法により得られたポリプロピレンフィラメントを短繊維にカットする方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ロービングカッターによる切断方法が挙げられる。
【0023】
本発明における、ポリプロピレン短繊維の繊維長は、1mm以上10mm以下とすることが好ましい。繊維長が1mm未満では、繊維同士の絡み合いが少なすぎ、その結果、不織布の強度が不足するため好ましくない。一方、10mmより長くなると、繊維同士がもつれて均一な不織布にならず、不織布の厚み変動が大きくなるばかりでなく電池用セパレータとして使用すると、その電気抵抗が幅方向で不均一になるため好ましくない。
【0024】
本発明のポリプロピレン不織布は、湿式抄造法や乾式抄造法などの方法で製造可能であるが、特に湿式抄造法で製造することが好ましい。湿式抄造法は、乾式抄造法に比べて、短繊維を緻密に構成できる、より薄い抄紙を得ることができるという利点があるので本発明の不織布の製造方法に適している。
本発明において湿式抄造法を用いる場合は、繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維とバインダー繊維とを水中に離解してスラリーを調整し、このスラリーを公知の角型抄紙機や丸型抄紙機を用いて抄造し、ドラムドライヤー、エアスルードライヤーまたは熱プレス機等の乾燥機によって乾燥と共にバインダー繊維を熱融着させることにより不織布を得ることができる。
【0025】
湿式抄造後の乾燥温度は、80℃以上130℃以下であることが好ましい。80℃未満であると、バインダー繊維が十分に融解せず、十分な接着効果を得られないために好ましくなく、130℃を越えると、繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維の融解の恐れがあり、渦巻き形状の断面を維持できないこともあるため好ましくない。
【0026】
また、バインダー繊維としては、乾燥機の設定温度程度で融解し融着性能を示すものであれば良い。例えば、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、合成パルプ等が挙げられ、本発明においてはこれらいずれも好適に用いることができる。特にビニロン繊維を用いると、不織布の吸水性がさらに向上するので好ましい。また、より軽量で、耐アルカリ性の高い不織布を所望する場合には、バインダー繊維としてポリプロピレン系の熱融着繊維を用いることが好ましい。
[実施例]
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0028】
<吸水速度の測定方法>
本発明における不織布の吸水速度の測定は、JIS L 1907におけるバイレック法に準じて行った。ただし、不織布の試験片の下端(水平棒に固定した一端の反対側)には、重りとして質量5gのクリップを取り付けて、試験片が水面に対して垂直となるようにした。また、吸水速度は1分、3分、5分および10分後における水面からの上昇した高さ(mm)を測定した。
【0029】
<保液性の測定方法>
あらかじめ、乾燥した状態での質量を測定した100mm×100mmの不織布を試験片とし、これを35%のKOH水溶液に室温で1分間浸漬した後、液中から引き上げ、引き上げ1分後の不織布の質量を測定した。この引き上げ後の不織布の質量から、浸漬前の不織布の質量を引き去ることにより、保液量を測定し、さらに、浸漬前の不織布の質量に対する保液量の割合を保液率として算出した。そして、標準サンプル(丸断面のポリプロピレン短繊維からなる不織布)として比較して、保液率が大きいものを○とした。
【0030】
<不織布の外観観察>
不織布を製造した際の表面状態を観察し、短繊維の脱離や凹凸がない場合を「良好」と評価した。
【0031】
以下の記載において、「質量%」は「%」と略記する。
【実施例1】
【0032】
ポリプロピレンホモポリマー(日本ポリプロ株式会社製 商品名:SA03、MFR:30g/min、融点:165℃)を、溶融紡糸機の一軸押出機に投入し、押出機温度は200℃、紡糸ノズル温度を200℃とし、スリット幅0.07mmの渦巻き型ノズル口を36ホール有する紡糸ノズルより、吐出量27.0g/minで吐出した。吐出した糸条に紡糸油剤を給油し、速度1400m/minで巻取り未延伸糸を得た。
得られた未延伸糸をローラー温度80℃で延伸倍率2.3倍として延伸を行い、単糸繊度2.3dtex(総繊度84dtex、36フィラメント)の渦巻き断面を有するポリプロピレンマルチフィラメントを得た。得られたポリプロピレンマルチフィラメントをロービングカッター(オリムベクスタ株式会社製 商品名:ORISCUT 2200TH2)を用いて5mm長にカットし、沸騰水で5分間熱処理した後乾燥してポリプロピレン短繊維を得た。
【0033】
得られたポリプロピレン短繊維およびバインダー繊維(チッソ社製ポリプロピレン繊維 丸断面 商品名:チッソポリプロES)を表1に記載した配合割合として、松下電器製家庭用ミキサー(型番MX−X43)を用い、スライダックを用いて60Vに変圧して、1分間攪拌を行うことにより、水中に離解することでスラリーを作成した。スラリーは650ml、濃度0.288%で調整した。
湿式抄造は、熊谷理機工業社製標準角型抄紙機により不織布の目標目付けが30g/mとなるようにして行った。抄紙の大きさは25cm×25cmとし、使用メッシュは80メッシュブロンズで行った。抄造後、130℃にセットした乾燥機を用いて、乾燥および繊維の熱融着を行うことにより本発明の不織布を得た。
【0034】
(比較例1)
紡糸ノズルとして、丸断面の吐出孔を72ホール有するノズルを用い、紡糸時の押出機からの吐出量14.0g/minで吐出し、延伸倍率を2倍に変更することにより、単糸繊度が0.7dtex(総繊度50dtex、72フィラメント)である丸断面を有する短繊維とした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。しかし、この不織布は、全く吸水性および保液性を有していなかった。
【0035】
(比較例2)
紡糸ノズルとして、丸断面の吐出孔を36ホール有するノズルを用いて、実施例1と同じ単糸繊度である丸断面のポリプロピレン短繊維を用いた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。しかしこの不織布も、全く吸水性および保液性を有していなかった。
【0036】
(比較例3)
紡糸ノズルとして、ノズル口がY断面であって、そのY断面の突起部分のスリット幅が0.7mmの吐出孔を36ホール有するノズルを用いて、実施例1と同じ単糸繊度であるY断面を有するポリプロピレン短繊維とした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。しかし、この不織布も、全く吸水性および保液性を有していなかった。
【0037】
(比較例4)
スラリー中のポリプロピレン繊維の割合を91質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、不織布を得ようとしたが、乾燥後短繊維が脱落し、不織布を得ることができなかった。
【0038】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の不織布を構成するポリプロピレン短繊維の模式図である。
【図2】図1に示したポリプロピレン短繊維の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 スリット部
2 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維断面が渦巻き形状であるポリプロピレン短繊維を、10質量%以上90質量%以下の割合で含む不織布。
【請求項2】
ポリプロピレン短繊維の単糸繊度が、1dtex以上5dtex以下である請求項1に記載の不織布。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−316383(P2006−316383A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140983(P2005−140983)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】