説明

ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその成形体

【課題】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の特徴である圧縮物性、耐熱性などの優れた性質を損なうことなく、低い加熱温度での型内成形にて同等の性質を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を得ることができる優れたポリプロピレン系樹脂発泡粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂融点が115〜135℃、且つオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上のポリプロピレン系樹脂からなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子の表面のアッシュの量が3000重量ppm以下(0も含む)、該発泡粒子の示差走査熱量測定によって得られる第1回目のDSC曲線(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子1〜3mgを示差走査熱量測定装置によって10℃/分の昇温速度で、常温から200℃まで昇温したときに得られるDSC曲線)において、樹脂融点以下の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPaが現れると共に、樹脂融点を超え、且つ130℃以上の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPbが現れ、吸熱ピークPbの総熱量が2〜12J/gであることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン系樹脂発泡粒子および該発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体に関し、詳しくは、低温成形性に優れるポリプロピレン系樹脂発泡粒子および該発泡粒子から得られる外観、圧縮物性、耐熱性に優れるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年各種産業におけるプラスチック材料の統合の動きなどから、特にポリプロピレン系樹脂はその機械強度、耐熱性、加工性、価格のバランスに優れていること、及び易焼却性、易リサイクル性等の優れた性質を有することから利用分野を拡大しつつある。同様にポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、上記ポリプロピレン系樹脂の優れた性質を失うことなく更に、軽量性、緩衝性、断熱性等の特性を付加できるため、包装材料、建築材料、断熱材料等として広く利用されている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形して得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体はポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体と比較して、耐熱性、耐薬品性、靭性、圧縮歪回復性などに優れている。その反面、型内成形において、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を二次発泡させると共に相互に融着させるためには、ポリスチレン系樹脂発泡粒子の型内成形に比べて高温加熱、すなわち高い飽和蒸気圧の水蒸気による加熱を必要とする。そのため、高耐圧仕様の金型と、高プレス圧の専用の成型機が必要であり、それに伴って使用するエネルギーコストも大きなものであった。
【0004】
この課題を解決するために、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の表面をより低融点の異種樹脂で被覆するなどの方法も行われている(例えば、特許文献1)が、この被覆に用いられる装置が複雑で製造工程も煩雑である上に、型内成形時における樹脂粒子の相互融着性は向上するものの、発泡粒子の二次発泡性が不十分であるため外観において改善の余地が残され、その課題を解決するために、発泡粒子の二次発泡性を高めることを目的として発泡粒子内部の圧力を大きく高める内圧付与工程や、高圧縮比での型内充填による型内成形、或いは所期の目的に反する型内成形時の水蒸気圧力の引き上げが必要であった。
【0005】
また、比較的低融点のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂として用いる方法もあり、例えばメタロセン系重合触媒を使用して重合されたポリプロピレン系樹脂を基材樹脂として使用したポリプロピレン系樹脂発泡粒子が知られている(例えば、特許文献2、3)。このメタロセン系重合触媒を使用して重合されたポリプロピレン系樹脂は従来のチーグラー・ナッタ触媒を使用して重合されたポリプロピレン系樹脂に比べ低融点の樹脂が得られ易いものであるが、型内成形時に加熱媒体として必要な水蒸気の飽和蒸気圧力の引き下げ効果の面やポリプロピレン系樹脂本来の機械的強度、耐熱性等の優れた性質を維持する上で改善の余地を残すものであった。
【0006】
また、ポリプロピレン系樹脂にビニル系単量体を含浸させて、グラフト重合して得られる、[ポリプロピレン系樹脂含有量]/[ビニル系単量体からなる重合体含有量]の比が97〜65重量%/3〜35重量%である変性ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする無架橋発泡粒子が知られている(例えば、特許文献4)。この変性ポリプロピレン系樹脂粒子を基材樹脂とする発泡粒子の耐熱性能は融点あるいはガラス転移温度などの高分子ポリマー特有の状態転移に依存する傾向があり、融点の低いポリプロピレン系樹脂を選定することにより、型内成形時の水蒸気の飽和蒸気圧力の引き下げは可能であると考えられるが、耐熱性を維持する上で課題を有するものであった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−894号公報
【特許文献2】特開平6−240041号公報
【特許文献3】特開2001−431151号公報
【特許文献4】特開平10−292064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、従来の高い加熱温度で型内成形して得られるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の特徴である圧縮物性、耐熱性などの優れた性質を損なうことなく、低い加熱温度での型内成形にて同等の性質を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を得ることができる優れたポリプロピレン系樹脂発泡粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために種々検討を重ねた結果、特定の基材樹脂物性と発泡粒子成形体の圧縮物性との関係、発泡粒子の結晶構造と発泡粒子成形体の耐熱性との関係、発泡粒子の結晶構造や発泡粒子の型内成形時の挙動と発泡粒子の成形性との関係、そして、これらの関係の相互バランスを解明し、特定の融点および曲げ弾性率を有するポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子の結晶構造を調整することにより、発泡粒子の低い加熱温度での良好な型内成形を実現しつつ、得られる発泡粒子成形体の優れた外観、圧縮物性、耐熱性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は〔1〕樹脂融点が115〜135℃、且つオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上のポリプロピレン系樹脂からなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子の表面のアッシュの量が3000重量ppm以下(0も含む)、該発泡粒子の示差走査熱量測定によって得られる第1回目のDSC曲線(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子1〜3mgを示差走査熱量測定装置によって10℃/分の昇温速度で、常温から200℃まで昇温したときに得られるDSC曲線)において、樹脂融点以下の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPaが現れると共に、樹脂融点を超え、且つ130℃以上の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPbが現れ、吸熱ピークPbの総熱量が2〜12J/gであることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子、
〔2〕前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気加熱における発泡倍率比(加熱による最大発泡粒子倍率/加熱前の発泡粒子倍率)が1.3〜3.5である前記〔1〕に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子、
〔3〕前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が50〜350μmである前記〔1〕または〔2〕に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子、
〔4〕前記ポリプロピレン系樹脂のオルゼン曲げ弾性率と樹脂融点の関係が下記(1)式を満足する前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子、
(数2)
(オルゼン曲げ弾性率〔MPa〕+1400)/15≧樹脂融点〔℃〕≧(オルゼン曲げ弾性率〔MPa〕+1750)/20 ・・・(1)
〔5〕前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体である前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子、
〔6〕前記ポリプロピレン系樹脂の樹脂融点が115℃以上130℃未満である前記〔1〕に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子、
〔7〕前記ポリプロピレン系樹脂の樹脂融点が130〜135℃である前記〔1〕に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子、
〔8〕前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、低い型内成形温度(低い飽和蒸気圧の水蒸気加熱)で金型形状再現性、寸法安定性、表面平滑性などの外観、発泡粒子相互の融着性に優れた発泡粒子成形体を提供することができるものであり、本発明の発泡粒子を型内成形することにより得られた発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体本来の優れた圧縮物性、靭性、耐熱性においても従来の高い型内成形温度にて成形された従来のものと比較して遜色ないものである。更に、本発明の発泡粒子及びその成形体は、易焼却性、易リサイクル性にも優れるものである。
【0012】
また、低い型内成形温度での型内成形が可能となることにより、従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内成形に比べ成形時の大幅なエネルギーコストの削減が可能であるとともに、低い飽和蒸気圧の水蒸気の使用が可能であることで、成型機の型締め圧力を低くできることや金型の厚みを薄くできることなど、成型機や金型を低圧設計にすることが可能となるため、成型設備面でも安価な設計が可能となると共に、既存のポリスチレン系樹脂発泡粒子の型内成形用の設備を転用することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の発泡粒子は、通常使用されているポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の特徴である機械強度、耐熱性等の優れた性質を損なうことなく、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体の型内成形に要するエネルギー消費に比肩する低い型内成形温度での型内成形が可能となるポリプロピレン系樹脂発泡粒子である。
【0014】
ポリスチレン系樹脂発泡粒子の型内成形に要するエネルギー消費に比肩するポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内成形を実現するには、型内成形時に型内で発泡粒子を成形する際に型内部に流入させる水蒸気の最大飽和蒸気圧力を、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を得るのに好ましい0.18MPa(G)以下、更に好ましくは0.15MPa(G)以下にすることが必要となる。そのため、本発明では低融点のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂として用いる。
【0015】
一方、公知の技術として無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡粒子製造時のポリプロピレン系樹脂の等温結晶化により、樹脂融点以上の温度領域にて融解する結晶を形成した発泡粒子を使用して、無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を製造する技術がある。なお、この樹脂融点以上の温度領域にて融解する結晶の存在は、発泡粒子の示差走査熱量測定によるDSC曲線上の所謂、高温ピークとして確認できる。上記高温ピークの形成の目的としては、発泡粒子の水蒸気加熱による型内成形において、プロピレン樹脂特有の急激な粘性変化を防止できるため有意義であり、その効果として型内成形時の水蒸気による成形加熱温度範囲の拡大、成形後の発泡粒子成形体の収縮の防止、更には剛性維持に効果があることは知られていた。しかし、耐熱性能への影響に関しては知られるところではなかった。
【0016】
本発明者らは、この高温ピークが耐熱性能の維持にも貢献していることを突き止め、更に発泡粒子のDSC曲線上の130℃以上、好ましくは135℃以上の温度領域に頂点温度を有する高温ピークを配置するように発泡粒子の結晶構造を調整すれば、従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体と同様に実用上の耐熱性能を維持できることを突き止めた。
【0017】
しかしながら、融点が135℃以下のポリプロピレン系樹脂を基材樹脂として、該基材樹脂から得られる発泡粒子の結晶構造を調整して、頂点温度が基材樹脂の融点を超え且つ130℃以上の高温ピークを有するものを得たとしても、該発泡粒子は、型内成形において0.18MPa(G)以下の飽和蒸気圧での水蒸気加熱では、発泡粒子の発泡性と融着性が共に優れる発泡粒子とはならず、良好な発泡粒子成形体が得られない場合が多々あるものであった。
【0018】
そこで、本発明者らの新たな知見として、型内成形における発泡粒子の性質としては、発泡粒子が相互に融着し次いで二次発泡する性質の融着先行型発泡粒子と、発泡粒子が二次発泡し次いで発泡粒子の相互融着が起こる性質の二次発泡先行型発泡粒子とがあり、両者の発泡粒子の内、融着先行型発泡粒子の方が型内成形性において、より好ましいものであることを上記技術に加味すること、特にこれまでのポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内成形の常識を覆す飽和蒸気圧0.18MPa(G)以下の水蒸気加熱での型内成形を目標とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子の開発においては、融着先行型発泡粒子を意識して検討することが重要であった。
【0019】
即ち、元来ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体の型内成形よりも高い飽和蒸気圧の水蒸気加熱を必要とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内成形を、ポリスチレン系樹脂発泡粒子の成形に要するエネルギー消費に比肩するものにするには、従来よりも低い飽和蒸気圧の水蒸気加熱で効率的な水蒸気の消費を実現する必要があり、そのためには発泡粒子を、融着先行型発泡粒子であり、且つ発泡粒子の相互融着と二次発泡とが近い加熱温度範囲で起きる性質を有するものとする必要があった。なお、上記のように融着先行型発泡粒子の方がより好ましいものである理由は、二次発泡先行型発泡粒子の場合には、二次発泡が先行するために、型内成形時の加熱工程において型内に充填された発泡粒子間隙が埋まり易く、発泡粒子間隙への水蒸気の流入、通過を阻害し、結果、発泡粒子相互の融着を阻害する要因となるのに対し、融着先行型発泡粒子はそのようなことが起こり難いためである。そして、発泡粒子の相互融着と二次発泡とが近い加熱温度範囲が好ましい理由は、単に融着先行型発泡粒子では、融着はするが二次発泡の開始温度が融着温度よりも著しく高い場合に、良好な外観等を有する発泡粒子成形体を得るためには、型内成形時の加熱温度を上げざるを得ない場合があるためである。
【0020】
融着先行型発泡粒子であり、且つ発泡粒子の相互融着と二次発泡とが近い加熱温度範囲で起きる性質を有する発泡粒子を得るためには、型内成形を直接的に支配する要因である所定加熱下での発泡粒子の二次発泡性能を主に支配する高温ピーク熱量の適正化、個々の発泡粒子を特定の温度で融着させるため発泡粒子表面の分散剤付着量の適正化、そしてこれらをバランスさせることが重要である。
【0021】
飽和蒸気圧0.18MPa(G)以下の水蒸気加熱での型内成形において二次発泡性、融着性に優れ、耐熱性、外観が良好な発泡粒子成形体を得ることができるポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、上述した複数の支配要因を最適化することにより可能である。
【0022】
このようにして、低い加熱温度での型内成形加工性能を付与したポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得ることに成功したが、圧縮強度等の物性については従来のプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の特性を維持するには至らない場合があった。しかし、本発明者らは、融点が135℃以下であるにも拘らず、オルゼン曲げ弾性率が500MPa以上の基材樹脂を使用することで解決するに至った。
【0023】
従って、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、樹脂融点が115〜135℃、且つオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上のポリプロピレン系樹脂からなり、該発泡粒子の表面のアッシュの量が3000重量ppm以下(0も含む)、該発泡粒子の示差走査熱量測定によって得られる第1回目のDSC曲線において、樹脂融点以下の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPaが現れると共に、樹脂融点を超え、且つ130℃以上の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPbが現れ、吸熱ピークPbの総熱量が2〜12J/gのものである。
【0024】
本発明に使用されるポリプロピレン系樹脂はプロピレンモノマーを主原料として重合した重量平均分子量で10000以上のプロピレン系重合体を指す。発泡粒子の基材樹脂は架橋ポリプロピレン系樹脂であっても無架橋ポリプロピレン系樹脂であってもよいが、好ましくは無架橋プロピレン系樹脂であり、樹脂融点が115〜135℃、且つオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上であればプロピレン単独重合体、プロピレン系ブロック共重合体またはプロピレン系ランダム共重合体を問わずに使用は可能である。なお、樹脂融点が115〜135℃のポリプロピレン系樹脂を得る上ではプロピレン系ランダム共重合体が好ましい。上記プロピレン系ランダム共重合体としては、エチレンおよび/または炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体からなり、プロピレンとの共重合コモノマーとしては、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ブテンなどが例示される。上記プロピレン系ランダム共重合体は、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体等の2元共重合体であっても、プロピレン−エチレン−ブテンランダム共重合体等の3元共重合体であっても良い。共重合体中におけるプロピレン以外のコモノマー成分の割合は特に制限されるものではないが、重合後のポリピロピレン系樹脂が実質的な結晶を形成する結晶性樹脂として取り扱われる範囲である。
【0025】
また、本発明に使用されるポリプロピレン系樹脂を重合する際に用いる重合触媒は特に限定されるものではなく、重合触媒としての性能を有した有機金属錯体を用いることができる。一般的にはチーグラー・ナッタ触媒といわれるチタン、アルミニウム、マグネシウムなどを核元素とし、一部または全部をアルキル基で修飾した有機金属錯体、及びメタロセン触媒または均一系触媒といわれるジルコニウム、チタン、トリウム、ルテチウム、ランタン、鉄などの遷移金属または硼素を核元素としシクロペンタン環などで修飾した有機金属錯体単体、或いは前記有機金属錯体とメチルアルモキサンとの併用系などを使用することができる。なお、オルゼン曲げ弾性率が高く、且つ低融点のポリプロピレン系樹脂を得る上でメタロセン触媒を使用することが好ましく、メタロセン触媒の中でのシリレン架橋型のアズレニル型配位子を有する錯体からなるものが特に好ましい。
【0026】
本発明において使用されるポリプロピレン系樹脂の中でメタロセン系触媒にて重合したポリプロピレン系樹脂は、従来のチーグラー・ナッタ触媒においては重合が困難であったモノマーをプロピレンとの共重合に用いたポリプロピレン系樹脂をも発泡粒子を製造する基材樹脂として用いることができる。このようなモノマーの例としては、例えば、シクロペンテン、ノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,8,8a,6−オクタヒドロナフタレン等の環状オレフィン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−6−オクタジエン等の非共役ジエン、スチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族不飽和化合物などの1種又は2種以上を挙げることができる。
【0027】
本発明におけるポリプロピレン系共重合体は、該共重合体中のプロピレンに由来する構造単位が70モル%以上、好ましくは80〜99モル%含有し、エチレンおよび/または炭素数4〜20のα−オレフィンから得られる構造単位が、30モル%以下、好ましくは1〜20モル%含有するポリプロピレン系樹脂である。上記共重合体におけるエチレンおよび/または炭素数4〜20のα−オレフィンに由来する構造単位の含有量が多すぎる場合には基材樹脂の曲げ強度、引張強度などの機械的物性が大きく低下し、オルゼン曲げ弾性率が500MPa以上のものが得られない虞があり、所期の目的を達成できる発泡粒子及び発泡粒子成形体を得ることができないという憂いがある。
【0028】
なお、本発明にて使用する融点が115〜135℃、且つオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上のポリプロピレン系樹脂は、例えば、メタロセン系重合触媒を用いて、
13C−NMRで測定した全プロピレン挿入中のプロピレンモノマー単位の2,1−挿入に基づく位置不規則単位の割合が、0.05〜1.5%であり、かつプロピレンモノマー単位の1,3−挿入に基づく位置不規則単位の割合が、0.005〜0.2%となるものを重合することにより得ることもできる。
【0029】
上記の2,1−挿入に基づく位置不規則単位の割合が、0.05%未満では、発泡粒子の気泡径が不均一になり易く、一方1.5%を超える場合には基材樹脂の機械的強度が低下するため、オルゼン曲げ弾性率が不充分となる虞がある。また、上記1,3−挿入に基づく位置不規則単位の割合が、0.005%未満では発泡粒子の気泡径が不均一になり易く、0.2%を超える場合には基材樹脂の機械的強度が低下するため、オルゼン曲げ弾性率が不充分となる虞がある。
【0030】
ここで、プロピレン共重合体中のプロピレンから得られる構造単位、エチレン及び/又は炭素数4〜20のα−オレフィンから得られる構造単位の分率、及び後述するアイソタクチックトリアッド分率は、13C−NMRスペクトル(核磁気共鳴スペクトル)法を用いて測定される値である。13C−NMRスペクトルの測定法は、例えば下記の通りである。すなわち径10mmφのNMR用サンプル管内に、350〜500mg程度の試料を採り、溶媒としてo−ジクロロベンゼン約2.0ml及びロック用に重水素化ベンゼン約0.5mlを用いて完全に溶解させた後、130℃にてプロトン完全デカップル条件下に測定した。
【0031】
測定条件は、フリップアングル65deg、パルス間隔5Tl以上(但しTlはメチル基のスピン格子緩和時間のうちの最長の値)を選択した。プロピレン重合体においては、メチレン基及びメチン基のスピン格子緩和時間はメチル基のそれよりも短いため、この測定条件では全ての炭素の磁化の回復は99%以上である。なお、13C−NMR法での位置不規則単位の検出感度は、通常の0.01%程度であるが、積算回数を増加することにより、これを高めることができる。
【0032】
また、上記測定におけるケミカルシフトは、頭−尾結合しておりメチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基のピークを21.8ppmとして設定し、このピークを基準として他の炭素ピークのケミカルシフトを設定した。
【0033】
この基準を用いると、下記式[化1]中のPPP[mm]で示されるプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に基づくピークは21.3〜22.2ppmの範囲に、PPP[mr]で示されるプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に基づくピークは20.5〜21.3ppmの範囲に、PPP[rr]で示されるプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基に基づくピークは19.7〜20.5ppmの範囲にそれぞれ現れる。
【0034】
ここで、PPP[mm],PPP[mr]及びPPP[rr]は、それぞれ下記[化1]のように示される。
【0035】
【化1】

【0036】
さらに本発明において好ましく使用されるプロピレン系共重合体は、プロピレンの2,1−挿入、及び1,3−挿入に基づく位置不規則単位を含む下記[化2]で示される部分構造(I)及び(II)を特定量含有する。
【0037】
【化2】

【0038】
このような構造は、例えばメタロセン系重合触媒を用いて重合反応を行った場合に、プロピレン重合体の重合時に発生する位置不規則性により生じると考えられている。
すなわち、プロピレンモノマーは、通常メチレン側が触媒中の金属成分と結合する方式、すなわち、いわゆる1,2−挿入にて反応するが、稀には2,1−挿入や1,3−挿入を起すことがある。2,1−挿入は1,2−挿入とは付加方向が逆となる反応形式であり、ポリマー鎖中に上記の部分構造(I)で現構造単位を形成する。
【0039】
また、1,3−挿入とは、プロピレンモノマーのC−1とC−3とでポリマー鎖中に取り込まれるものであり、その結果として直鎖状の構造単位、すなわち上記の部分構造(II)を生じるのである。部分構造(II)では、1,3−挿入の結果として、プロピレンモノマーに由来するメチル基が1個相当分だけ消失している。
【0040】
本発明におけるプロピレン系共重合体の全ポリマー連鎖中のアイソタクチックトリアッド分率(以下、mm分率という。)は次の式で表される。
【0041】
【数3】

【0042】
上記の式において、ΣICHは全メチル基(ケミカルシフトの19〜22ppmのピーク全て)の面積を示す。またA(1)、 A(2)、 A(3)、 A(4)、 A(5)、 A(6)、 A(7)、 A(8)及びA(9)は、それぞれ、42.3ppm、35.9ppm、38.6ppm、30.6ppm、36.0ppm、31.5ppm、31.0ppm、37.2ppm、27.4ppmのピークの面積であり、部分構造(I)及び(II)で示した炭素の存在量比を示す。
また、全プロピレン挿入に対する2,1−挿入したプロピレンの割合、及び1,3−挿入したプロピレンの割合は下記の式で計算した。
【0043】
【数4】

【0044】
本発明における上記プロピレン系共重合体は頭−尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の13C−NMRで測定したmm分率、すなわちポリマー鎖中の任意のプロピレン単位3連鎖のうち、各プロピレン単位が頭−尾結合し、かつプロピレン単位中のメチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位3連鎖の割合が97%以上であることが好ましい。この場合には発泡粒子中の気泡径の均一性が高くなる効果を得ることができる。mm分率が97%未満の場合には、基材樹脂の機械的物性が低下し、これを用いて得られる発泡樹脂粒子からなる発泡粒子成形体は機械的物性も低下するおそれがある。なお、mm分率は98%以上であることが更に好ましい。
【0045】
上記のメタロセン系触媒にて重合したポリプロピレン系樹脂に限らず、本発明に使用されるポリプロピレン系樹脂には、融点の異なる樹脂またはモノマー成分の異なる樹脂を、結晶性、非晶性に関わらずポリプロピレン系樹脂100重量部に対して50重量部以下の範囲で添加することができる。添加できる樹脂としてはプロピレン単独重合体、プロピレンに、エチレン及び/またはブテン、ヘキセン、オクテンなどのα―オレフィンを共重合したランダム共重合体またはブロック共重合体、及びスチレン、エチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン、ブテン、4−メチル−ペンテン−1、ビスフェノールA、エチレングリコール、プロピレングリコール、テレフタル酸、ナフタレンなどのモノマー群から1若しくは2以上選択された分子量が1000以上の単独重合体や共重合体が用いられる。
【0046】
本発明に使用されるポリプロピレン系樹脂は、上記の通り、単独、若しくは複合組成物であり、樹脂融点が115〜135℃、且つオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上である。
【0047】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂の樹脂融点が135℃以下であることにより、発泡粒子の型内成形時の加熱温度を低くすることができる。一方。上記樹脂融点が115℃以上であることは、オルゼン曲げ弾性率が500MPa以上の条件等と相俟って、発泡粒子型内成形直後の養生条件の安定化、十分な機械物性を有する発泡粒子成形体の製造に寄与している。なお、上記樹脂融点は、発泡粒子のより一層低い温度での型内成形性の観点から115℃以上、130℃未満であることが好ましく、一方、優れた機械物性の発泡粒子成形体を得る観点から130〜135℃であることが好ましい。
【0048】
本発明においてポリプロピレン系樹脂の樹脂融点は、JIS K7121−1987に記載の方法にて求められる値である。上記樹脂融点測定の詳細な条件設定としては、同JIS記載の『試験片の状態調節を行った後に融解温度を求める方法』を採用する。上記樹脂融点測定によって得られるDSC曲線には結晶融解に基づく1または2以上の吸熱ピークが出現する。1の吸熱ピークが出現する場合には、その吸熱ピークの頂点温度を樹脂融点とし、2以上の吸熱ピークが出現する場合には、各々の吸熱ピークの熱量を下記の部分面積解析法にて求め、吸熱ピークの熱量が4J/g以上の吸熱ピークの内で最も高温側に現れる吸熱ピークの頂点温度を樹脂融点Tmとする(図1参照)。また、上記樹脂融点測定の試験片としては、ポリプロピレン系樹脂以外に、発泡粒子或いは発泡粒子成形体片を準用できる。
【0049】
図2に基づいて上記の部分面積解析法を説明する。得られたDSC曲線上の80℃に相当する点αと、樹脂の融解終了温度Teに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。次に最低温部に観察されるピークaとピークaに隣接するピークaとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をδとする。更にピークaに隣接するピークaが観察されるので、ピークaとピークaとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、上記直線(α−β)と交わる点をδとする。以降、ピークa、ピークa、ピークa・・・が観察される場合は同様の操作を繰り返す。上記操作により、得られる線分(δn−γn)(nは1以上の整数)が、吸熱ピークの面積を定める際の各ピーク境界線となる。そこで、吸熱ピークの熱量に相当する各ピークの面積は、ピークaにおいては、ピークaを示すDSC曲線と、線分(δ−γ)と、線分(α−δ)とによって囲まれる面積であり、ピークaにおいては、ピークaを示すDSC曲線と、線分(δ−γ)と、線分(δ−γ)と、線分(δ−δ)とによって囲まれる面積であり、ピークaにおいては、ピークaを示すDSC曲線と、線分(δ−γ)と、線分(δ−β)とによって囲まれる面積として定められる。以降、ピークa、ピークa、ピークa・・・が観察される場合も同じ要領でピークの面積を定めることができ、そこで、各ピークの熱量は、上記のように定められた各ピークの面積に基づいて示差走査熱量測定装置により機械的に算出される。なお、上記測定方法において、ベースラインである直線(α−β)を引くために、DSC曲線上の点αを温度80℃に対応する点とした理由は、80℃に対応する点を始点とし、融解終了温度を終点したベースラインが、吸熱ピークの熱量を再現性良く安定して求める上で好適であるとの発明者らの知見による。
【0050】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂のオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上であることにより、従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体と同等の機械強度を発揮することが可能となる。前記オルゼン曲げ弾性率は、更に優れた機械的強度の発泡粒子成形体を得る観点から600MPa以上、更に700MPa以上であることが好ましく、その上限値は、概ね2500MPaである。
【0051】
また、一般に発泡粒子成形体は、水蒸気による成形の後、発泡粒子成形体を構成している気泡内部が減圧状態になる傾向があるため、型内成形直後は収縮変形を起こすことがある。通常の場合、発泡粒子成形体内部に取り込まれた水蒸気由来の水蒸気凝結水の乾燥、並びに発泡粒子成形体の気泡内部の圧力を大気圧に戻すための空気の透過促進を目的として、60℃以上の温度、大気圧雰囲気の条件下に発泡粒子成形体を保持する、所謂、加温養生または後養生の工程を設けている。この発泡粒子成形体の収縮変形は、発泡粒子成形体を得るための型内成形時の水蒸気成形圧力が高い場合に限らず、例えば飽和蒸気圧0.18MPa(G)以下の水蒸気加熱であっても起こることである。そのような状況において、基材樹脂の樹脂融点と正の相関を有する型内成形時の水蒸気成形圧力に対してオルゼン曲げ弾性率が高い場合には、樹脂の剛性により成形直後の収縮変形が小さくなる傾向があることから、下記(2)式の関係を満足するポリプロピレン系樹脂を使用することにより養生温度低下、養生時間短縮の効果が達成できる。
【0052】
(数5)
(オルゼン曲げ弾性率〔MPa〕+1400)/15≧樹脂融点〔℃〕・・・(2)
【0053】
一方で樹脂融点に比較してオルゼン曲げ弾性率が極端に高い場合には、融着先行型発泡粒子となり易く好ましくもあるが、発泡粒子の製造の際に発泡倍率が向上し難い傾向や、型内成形時において発泡粒子の融着に必要な水蒸気圧力に比べて二次発泡に必要な水蒸気圧力が極端に高くなる傾向がある。従って、15倍以上の発泡倍率の発泡粒子を得ようとする場合や、発泡粒子の型内成形性を考慮すると、下記(3)式の関係を満足するポリプロピレン系樹脂を使用することが好ましい。
【0054】
(数6)
(オルゼン曲げ弾性率〔MPa〕+1750)/20≦樹脂融点〔℃〕・・・(3)
【0055】
従って、加熱養生条件の軽減、型内成形性向上の観点から下記(1)式の関係を満足するポリプロピレン系樹脂を使用することが好ましい。
【0056】
(数7)
(オルゼン曲げ弾性率〔MPa〕+1400)/15≧樹脂融点〔℃〕≧(オルゼン曲げ弾性率〔MPa〕+1750)/20 ・・・(1)
【0057】
本発明においてポリプロピレン系樹脂のオルゼン曲げ弾性率はJIS K7106−1995に基づき求められる弾性率である。上記測定に使用する試験片としては、ポリプロピレン系樹脂原料を用いて熱プレスにより作成した板を同JIS規定の長さ80mm、幅15mm、厚さ2.0mmの寸法に打抜加工したものを使用する。また、更に発泡粒子あるいは発泡粒子成形体を試験片作成に供する場合は、数回に渡って熱プレスで充分に脱泡した試料を賽の目状に切断したものから、試験片を上記の通り作成することができる。なお、上記測定における試験条件としては、曲げモーメント6kg・cm、支点間距離30mmとする。
【0058】
また、発泡粒子の基材樹脂であるプロピレン系樹脂特性として重要なのは前述の通り樹脂融点とオルゼン曲げ弾性率であるが、基材樹脂のメルトフローレイト(以下、MFRともいう。)の値が高いものを使用すると、発泡粒子の型内成形において発泡粒子の二次発泡に必要な水蒸気圧力を低下させる効果が認められることから、MFRの値は5(g/10分)以上が好ましく、10(g/10分)以上が更に好ましい。一方、MFRの値が高すぎる場合は、得られる発泡粒子成形体が脆いものとなる虞があることから、MFRの値は60(g/10分)以下が好ましく、40(g/10分)以下が更に好ましい。なお、メルトフローレイトはJIS K7210−1999の試験条件M(温度230℃、荷重2.16kg)で測定される値である。
【0059】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の表面のアッシュの量は発泡粒子の重量に対して3000重量ppm以下である必要がある。好ましくは、2000重量ppm以下であり、更に好ましくは1000重量ppm以下である。また、理論上最も好ましいのは0ppmであるが、0ppmのものを得るためには発泡粒子表面の十分な洗浄が必要であり、現実的には製造上そのような洗浄は実施するのは難しい。また、製造上、発泡粒子への大気中や分散媒中の異物の吸着や付着を防止することは困難であるし、分散剤の使用が不可避であることから、実質的には極力低いアッシュの量とすることが好ましく、上記範囲内にて該アッシュの量は適宜調整される。
【0060】
なお、本発明におけるアッシュとは、後述する発泡粒子のるつぼによる燃焼残渣試験で検出される燃焼残渣物質を意味している。発泡粒子の表面のアッシュに由来する物質は、発泡粒子表面に付着している無機物であり発泡粒子の生産に使用する分散剤の誘導体と考えられ、例えばカオリンなどのアルミノシリカ複合塩や燐酸三カルシウムの燃焼誘導体と考えられる。また、発泡粒子の表面のアッシュの量は、後述する発泡粒子のるつぼによる燃焼残渣試験にて燃焼残渣物質の量として求められる値であり、発泡粒子表面に付着している無機物の量と相関する。
上記アッシュの量が3000重量ppm以上の場合は、発泡粒子表面に付着している無機物の量が多いものであるため本発明の目的とする飽和蒸気圧0.18MPa(G)以下の水蒸気加熱での発泡粒子の型内成形において多量の無機物が発泡粒子相互の融着を阻害するため、たとえ、融着先行型発泡粒子を使用して型内成形を行ったとしても良好な発泡粒子成形体は得られない。
【0061】
上記アッシュの量を3000重量ppm以下とする方法に関しては発泡粒子の製造時に分散媒中へ樹脂粒子と共に入れられる分散剤と密接に関係する。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法としては、ポリプロピレン系樹脂粒子を加熱及び発泡剤含浸との相互作用で可塑化し、可塑化状態の樹脂粒子を密閉容器内から低圧雰囲気に放出することで発泡粒子を得る方法が一般的に知られている。そして、樹脂粒子が密閉容器内で可塑化状態を維持している状態、及び樹脂粒子が低圧雰囲気に放出され発泡する状態、これらの状態で樹脂粒子、或いは発泡粒子の互着を防止する役目を担うのが分散剤である。本発明の発泡粒子は、例えば発泡剤に無機ガスを採用した場合、樹脂融点で115〜135℃のポリプロピレン系樹脂粒子を原料として発泡粒子を製造する都合上、発泡温度としては概略120〜140℃に調整する。一方、樹脂融点が115〜135℃のポリプロピレン系樹脂粒子から得られた発泡粒子から型内成形にて発泡粒子成形体を得る場合の加熱成形温度としては飽和蒸気圧0.18MPa以下の水蒸気加熱、即ち、概略130℃以下の水蒸気での型内成形を可能とすることを本発明では所期の目的としている。従って、融着先行型発泡粒子とする必要があった。しかし、融着先行型発泡粒子は、粒子の互着が発生し易く、このような状況において、粒子間の互着を防止するためには分散媒に加えられる分散剤の添加量を、通常時と比較して倍量以上にする必要がある。このように分散剤の添加量を増量して得られた発泡粒子の表面に付着している無機物の量は前記アッシュの量として測定すると3000重量ppmを超えるものとなる。
【0062】
しかし、分散媒に分散剤と共に界面活性剤を添加し、界面活性剤と分散剤の添加量比率を調整すること、及び低圧雰囲気に樹脂粒子を放出し発泡粒子を得る際の雰囲気温度を100℃以下、且つ樹脂の結晶化温度以下となるように調整することで分散剤添加量を少なくすることができ、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の表面のアッシュの量を3000重量ppm以下に制御することができる。具体的には、発泡粒子を製造する際に分散媒に添加する分散剤の量は、樹脂粒子の重量/分散剤の重量で求められる重量比を20以上、更に300以上(上限は概ね1000である。)とすることが好ましい。また、分散剤と界面活性剤の比率としては分散剤の重量/界面活性剤の重量で求められる重量比を45以下、更に30以下(下限は概ね1.5である。)とすることが好ましい。
【0063】
上記分散剤としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、タルク、マイカなどが挙げられる。また、上記界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0064】
本発明の発泡粒子は、上記の特定比率の分散剤と界面活性剤を使用する方法により得られる発泡粒子に限定されるものではなく、最終的に発泡粒子の表面のアッシュの量が3000重量ppm以下となっていればよく、例えば、分散剤の添加量を増量して樹脂粒子および発泡粒子の相互の凝結を防止する方法で発泡粒子を製造し、発泡粒子の表面のアッシュの量が3000重量ppmを超えても、該発泡粒子の表面を後工程で洗浄することにより、付着している多量の無機物を除去する方法で、発泡粒子の表面のアッシュの量が3000重量ppm以下である発泡粒子を得ることもできる。
【0065】
本発明における発泡粒子の表面に付着している無機物は、発泡粒子のるつぼによる燃焼残渣試験によるアッシュを定量することで、その量が多いか少ないかが判断できる。上記アッシュを定量するための燃焼残渣試験は、以下の手順にて、発泡粒子に混練されていた無機物に由来する燃焼残渣と発泡粒子の表面に付着している無機物に由来する燃焼残渣の量とを含む発泡粒子全体の燃焼残渣から、発泡粒子の表面に付着している無機物に由来する燃焼残渣の量を区別する必要がある。先ず燃焼残渣試験は、恒量化したるつぼを精秤し、該るつぼに精秤した発泡粒子を入れ、加熱炉内に入れ、炉内温度950℃で、15分保持することにより、ポリプロピレン系樹脂を含めた有機物を焼却または加熱分解により除去し、恒量にした燃焼残渣を得、恒量にした燃焼残渣を含むるつぼの重量を精秤し、先に恒量化したるつぼの重量との差より、該燃焼残渣の重量を求める。
【0066】
次いで、るつぼに入れた発泡粒子重量に対する該燃焼残渣の重量の百万分率(A)重量ppmを算出する。上記燃焼残渣としてるつぼ内に残存する該無機物は発泡粒子に混練されていた無機物に由来する燃焼残渣と、発泡粒子の表面に付着している無機物に由来する燃焼残渣とを含む発泡粒子全体の燃焼残渣である。そこで、発泡粒子の表面に付着していた無機物に由来する燃焼残渣の量を求めるためには、発泡粒子全体の燃焼残渣の重量から、発泡粒子に混練されていた無機物に由来する燃焼残渣の重量を差し引く必要がある。そのため、別に、先に使用した発泡粒子と同じ発泡粒子群から取り出した発泡粒子を用意し、該発泡粒子の表面部を削り取った発泡粒子内部発泡層のみを得、るつぼに精秤した該発泡粒子内部発泡層を入れ、上記燃焼残渣試験操作と同様の操作を行い発泡粒子に混練されていた無機物に由来する燃焼残渣の重量を求める。ついで、るつぼに入れた発泡粒子内部発泡層の重量に対する該燃焼残渣の重量の百万分率(B)重量ppmを算出する。以上の通り求められた(A)重量ppmから(B)重量ppmを差し引くことで発泡粒子の表面のアッシュの量を求めることができる。なお、上記発泡粒子内部発泡層を得るための該発泡粒子の表面部を削り取る方法としては、カッターナイフ等を使用して、発泡粒子の全ての表面を切り取る作業であり、表面の切り取り厚みは概ね200μmで行なうこととする。
【0067】
本発明の発泡粒子において、飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気で加熱した際の加熱前後の発泡倍率の比が、低い型内成形温度での成形が可能であるための必要条件の一つである二次発泡性の要件を満足するものであるか否かの指標となる。具体的には、飽和蒸気圧0.18MPa(G)以下の水蒸気加熱での型内成形にて十分な二次発泡性を示すものであるためには、上記発泡倍率の比が1.5以上であることが好ましい。なお、発泡倍率の値はポリプロピレン樹脂の標準的密度である900g/Lを発泡粒子の見かけ密度(g/L)で除した数値である。
【0068】
本発明の発泡粒子は、先に融着先行型発泡粒子と二次発泡先行型発泡粒子により説明したように、発泡粒子を低い飽和蒸気圧の水蒸気加熱での型内成形を実現する上では、発泡粒子の二次発泡性と共に、発泡粒子の融着性を二次発泡能力の発現するタイミングと併せて調整しなければならない。従って、発泡粒子を飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気で加熱した際の加熱前後の発泡倍率の比が1.5以上であることが好ましい。
【0069】
本明細書において、発泡粒子を飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気で加熱した際の加熱前後の発泡倍率の比は、飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気での加熱後の発泡粒子の発泡倍率を測定に使用する発泡粒子の発泡倍率にて除することにより求められるものであり、該加熱後の発泡粒子の発泡倍率は、以下のようにして求めることができる。
【0070】
飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気での加熱後の発泡粒子の発泡倍率の測定は、10gの発泡粒子を3〜5リットルのオートクレーブ等の密閉容器に入れ、飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気を導入する試験を、水蒸気の導入継続時間を変えて複数回行い、各々の試験にて得られた発泡粒子の見かけ密度を測定し、発泡粒子の見かけ密度と水蒸気の導入継続時間との関係を表す曲線グラフを得る。得られたグラフ上の曲線より、発泡粒子の見かけ密度の最小値を読み取り、900g/Lを発泡粒子の見かけ密度の最小値(g/L)で除することにより求められる値を、加熱後の発泡粒子の発泡倍率とする。
【0071】
発泡粒子が、飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気で加熱した際の加熱前後の発泡倍率の比が1.5以上である性能を満たすには、発泡粒子の示差走査熱量測定によって得られる第1回目のDSC曲線において、樹脂融点を超え、且つ130℃以上の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピーク(以下、高温ピークという。)が現れ、該高温ピークの熱量が2〜12J/gであることが重要である。なお、高温ピークが2つ以上現れる場合は、該高温ピークの熱量は、全ての高温ピークの合計熱量が2〜12J/gであることを意味する。上記高温ピークは発泡粒子に存在しうるポリプロピレン樹脂の結晶のうち、等温結晶化の操作により形成しうるポリプロピレン樹脂の結晶に由来するものである。上記高温ピークの熱量が2J/g未満の場合、型内成形後に高温での加熱養生を行っても発泡粒子成形体に生じた収縮を回復させることが難しく、得られる発泡粒子成形体においては、圧縮強度、エネルギー吸収効率等が低下する。一方、高温ピークの熱量が12J/gを超える場合には、飽和蒸気圧0.18MPa(G)以下の水蒸気加熱での型内成形時の二次発泡性が不充分なものとなる虞がある。本発明における高温ピークの熱量は、上記の観点から特に4〜11J/gのものが好ましい。
【0072】
本発明の発泡粒子は、上記の高温ピークを有するものであると同時に樹脂融点以下の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークが現れるものである。この樹脂融点以下の温度領域に現れる吸熱ピークは、基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂の樹脂融点を示す結晶に由来するものであり、該吸熱ピークの内、最も面積の大きなピークの頂点温度が、概ね基材樹脂の樹脂融点と一致するため、凡その基材樹脂の樹脂融点の指標となる。また、高温ピーク熱量の測定方法と同様の要領にて測定できる上記樹脂融点以下の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークの総熱量(例えば、図3の白抜き部分で現されるピークPaの面積に相当する熱量)は、型内成形時における発泡粒子相互の優れた融着性の観点から3〜12J/g、更に5〜10J/gであることが好ましい。
【0073】
本発明において高温ピークの熱量を上記範囲内に調整する方法としては、後述する発泡粒子製造時の等温結晶化操作による調整方法が、安定した機械的物性の発泡粒子成形体を得る上で好ましいが、等温結晶化操作による方法以外に、ポリプロピレン系樹脂として、樹脂融点が135℃以下のポリプロピレン系樹脂に、樹脂融点が135℃を超えるポリプロピレン系樹脂を混合する方法も挙げられる。なお、当然のことながら混合後のポリプロピレン系樹脂の樹脂融点は115℃〜135℃である必要がある。
【0074】
本発明における発泡粒子の高温ピークの熱量の測定方法は、以下の通りである。発泡粒子2〜4mgを、示差走査熱量計によって室温(概ね25℃)から220℃まで10℃/分で昇温した時に得られるDSC曲線において、基材樹脂であるポリプロピレン系樹脂の樹脂融点を示す結晶に由来し、該樹脂融点以下の温度領域に頂点温度PTmaを有する吸熱ピーク(以下、固有ピークという。)Paが現れ、該樹脂融点を超え、且つ130℃以上の温度領域に頂点温度PTmbを有する1以上の吸熱ピークPbが現れる場合の該吸熱ピークPbが本発明における高温ピークであり、発泡粒子の高温ピークの熱量に相当するのが該吸熱ピークPbの面積である。そこで、上記高温ピークの熱量は、吸熱ピークPbの面積を定めることにより示差走査熱量測定装置により機械的に算出される。なお、上記吸熱ピークPbの面積は、以下のように定めることができる。
【0075】
例えば、図3に示すように、DSC曲線上の80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Teに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。次に固有ピークPaと高温ピークPbとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をδとする。高温ピークPbの面積は、DSC曲線の高温ピークPbを示すDSC曲線と、線分(δ−β)と、線分(γ−δ)とによって囲まれる部分(図3において斜線を付した部分)の面積として定められる。
【0076】
本発明において、後述する等温結晶化操作による調整方法にて得られた高温ピークPbは、上記のようにして測定した発泡粒子の第1回目のDSC曲線には現れるが、第1回目のDSC曲線を得た後、220℃から10℃/分で一旦40℃付近まで降温し、再び10℃/分で220℃まで昇温した時に得られる第2回目のDSC曲線には現れず、第2回目のDSC曲線には固有ピークPaと同様な基材樹脂の樹脂融点を示す結晶に由来する吸熱ピークしか現れないため、固有ピークPaと高温ピークPbとを、容易に判別できる。なお、上記測定方法において、ベースラインである直線(α−β)を引くために、DSC曲線上の点αを温度80℃に対応する点とした理由は、80℃に対応する点を始点とし、融解終了温度を終点したベースラインが、高温ピークの熱量を再現性良く安定して求める上で好適であることによる。
【0077】
本発明の発泡粒子の平均気泡径は、通常30〜500μmであり、50〜350μmであることが好ましい。上記範囲内の平均気泡径を有する発泡粒子は、気泡膜の強度の関係から、後述する発泡粒子の二段発泡や型内成形時に発泡粒子を構成する気泡が破泡せずに良好な発泡性を示す。
【0078】
上記発泡粒子の平均気泡径は、先ず、発泡粒子を略2等分に切断し気泡断面を得、該断面を顕微鏡にて撮影した拡大写真に基づき、以下の操作を行うことにより求めることができる。上記気泡断面の拡大写真において、発泡粒子の表面から他方の表面に亘り、且つ気泡断面の中心部を通過する直線を4本、8方方向に引く。続いて、前記4本の直線と交わる気泡の数の総数:N(個)を求める。そして、前記4本の各直線の長さの総和:L(μm)を気泡の数の総数:N(個)にて除する(L/N)ことにより求められる値を発泡粒子の平均気泡径とする。
【0079】
また、上記平均気泡径は、基材樹脂の高MFR化、発泡温度の上昇、発泡剤の減量、気泡核剤の減量及び粗粒径化などにより大きくなるため、これらの平均気泡径変動要因を適宜調整することにより目的の平均気泡径を有する発泡粒子を得ることができる。
【0080】
また、発泡粒子の1個当たりの平均重量は、小さいものの方が低い加熱温度で型内成形できる利点があるが、一方で、発泡粒子の1個当たりの平均重量が小さすぎると発泡効率が悪くなる。従って、発泡粒子の1個当たりの平均重量は0.01〜10.0mg、特に0.1〜5.0mgであることが好ましい。なお、発泡粒子の上記平均重量は、発泡粒子を得るための樹脂粒子の1個当たりの平均重量を目的とする発泡粒子の1個当たりの平均重量に合わせることにより調整される。
【0081】
また、樹脂粒子の1個当たりの平均重量は、押出機内で基材樹脂とその他の成分や添加剤を溶融混練した後、押出機先端に取り付けた小孔を有する口金より混練物を紐状に押出し、引取機を備えた切断機で所望の大きさ又は重量に紐状物を切断し樹脂粒子とする方法など従来公知のペレタイズ方法より調整できる。
【0082】
本発明の発泡粒子は、通常、10g/L以上500g/L以下の見かけ密度を有する。本発明の発泡粒子の見かけ密度の上限は、発泡体としての軽量性、緩衝性等の基本特性向上の観点から300g/Lが好ましく、180g/Lがより好ましい。一方、発泡粒子の見かけ密度があまりにも低くなりすぎると気泡が破泡しやすくなるので、見かけ密度の下限は12g/Lとすることが好ましく、15g/Lとすることがより好ましい。
【0083】
本発明における発泡粒子の見かけ密度は、水の入ったメスシリンダー内に重量:W(g)の発泡粒子群を、金網などを使用して沈めることにより、水位上昇分から読取れる該発泡粒子群の体積:V(L)を測定し、該発泡粒子群の重量を該発泡粒子群の体積にて除する(W/V)ことにより求められる値である。
【0084】
本発明の発泡粒子の製造には、例えばプロピレン系樹脂粒子を発泡剤と共に密閉容器内で水等の分散媒に分散させ、加熱して樹脂粒子を軟化させるとともに樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、樹脂粒子の軟化温度以上の温度で容器内より低圧下(通常大気圧下)に樹脂粒子を放出して発泡させるなど、特公昭49−2183号公報、同56−1344号公報、同62−61227号公報などに記載の公知の発泡方法を適用することができる。また、発泡粒子を得るために密閉容器内の内容物を密閉容器から低圧域に放出する際には、使用した発泡剤あるいは窒素等の無機ガスで密閉容器内に背圧をかけて該容器内の圧力が急激に低下しないようにして、内容物を放出することが、得られる発泡粒子の見かけ密度の均一化の観点から好ましい。
【0085】
前述した発泡粒子の平均気泡径の調整方法としては、主として、タルク、水酸化アルミニウム、シリカ、ゼオライト、硼砂、無機粉体等の無機物を気泡調節剤として基材樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部の割合で発泡粒子を得るための樹脂粒子の造粒時に基材樹脂に配合することにより行われるが、上記発泡粒子製造時の発泡温度や発泡剤の種類及び使用量等でも該平均気泡径が変化するため、目的の平均気泡径を有するものを得るには予備実験をして条件を設定する必要がある。
【0086】
また、高温ピークを有する発泡粒子は、上記公知の発泡方法において樹脂粒子を密閉容器内で分散媒に分散させて加熱する際に、樹脂粒子の融解終了温度(以下、Teともいう。)以上に昇温することなく、樹脂粒子の樹脂融点(以下、Tmともいう。)よりも15℃低い温度以上、Te未満の範囲内の任意の温度:Taで昇温を止めて、その温度:Taで十分な時間、好ましくは10〜60分程度保持し、その後、(Tm−5℃)〜(Te+5℃)の範囲の任意の温度:Tbに調節し、その温度で樹脂粒子を容器内から低圧域に放出して発泡させる方法により得ることができる。なお、高温ピークを形成するための上記(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での保持は、該温度範囲内にて多段階に設定することもできるし、また、該温度範囲内で十分な時間をかけてゆっくりと昇温することによっても該高温ピークを形成することも可能である。
【0087】
また、発泡粒子の上記高温ピークの形成、および高温ピークの熱量の大小は、主として、発泡粒子を製造する際の樹脂粒子に対する上記温度Taと上記温度Taにおける保持時間、及び上記(Tm−5℃)〜(Te+5℃)の範囲内や(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での昇温速度に依存する。発泡粒子の上記高温ピークの熱量は、温度Ta又はTbが上記各々の温度範囲内において低い程、そして(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での保持時間が長い程、そして(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での昇温速度が遅い程、大きくなる傾向を示す。なお、上記昇温速度は通常0.5〜5℃/分が採用される。一方、温度Ta又はTbが上記各々の温度範囲内において高い程、(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での保持時間が短い程、そして(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での昇温速度が速い程、小さくなる傾向を示す。これらの点を考慮して予備実験を繰り返せば、所望の高温ピーク熱量を示す発泡粒子の製造条件を知ることができる。なお、上述した高温ピークの形成に係る温度範囲は、発泡剤として無機系物理発泡剤を使用した場合の適切な温度範囲である。従って、発泡剤が有機系物理発泡剤に変更された場合には、その種類や使用量に応じてその適切な温度範囲は上記温度範囲よりもそれぞれ低温側に0〜30℃程度シフトすることになる。
【0088】
上記方法において用いる発泡剤としては、有機系物理発泡剤や無機系物理発泡剤、或いはこれらの混合物等を用いることができる。有機系物理発泡剤としてはプロパン、ブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、クロロフロロメタン、トリフロロメタン、1,1−ジフロロエタン、1,1,1,2−テトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のジアルキルエーテル等が挙げられ、これらは2種以上を混合して用いることができる。
【0089】
また、無機系物理発泡剤としては、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気、水等が挙げられ、これらは2種以上を混合して用いることができる。発泡粒子を得る際に密閉容器内に樹脂粒子と共に分散媒として水を使用する場合には、該樹脂粒子に吸水性樹脂などを混錬したものを使用することにより分散媒である水を効率的に発泡剤として使用することができる。有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤とを混合して用いる場合、上記した有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤より任意に選択した化合物を組み合わせて用いることができる。なお、無機系物理発泡剤と有機系物理発泡剤とを併用する場合には無機ガス系発泡剤が少なくとも30重量%以上含有することが好ましい。上記発泡剤のうち、特にオゾン層破壊の虞れがなく、安価な無機系物理発泡剤が好ましく、なかでも窒素、空気、二酸化炭素、水が好ましい。
【0090】
発泡剤の使用量は、得ようとする発泡粒子の見かけ密度、基材樹脂の種類、または発泡剤の種類等を考慮して決定するが、通常、樹脂粒子100重量部当たり、有機系物理発泡剤で5〜50重量部、無機系物理発泡剤で0.5〜30重量部を用いることが好ましい。
【0091】
発泡粒子製造に際して樹脂粒子を分散させる分散媒としては、上記した水に限らず、樹脂粒子を溶解させない溶媒であれば使用することができる。水以外の分散媒としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられるが、通常は水を用いる。また、樹脂粒子を分散媒に分散させるに際し、必要に応じて分散剤を分散媒に添加することができる。分散剤としては、微細な酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、マイカ、クレー等が挙げられる。これら分散剤は、通常、樹脂粒子100重量部当たりに対し、0.2〜2重量部使用される。
【0092】
樹脂粒子としては、前述したようにポリプロピレン系樹脂よりなるものが用いられるが、本発明の所期の効果を損なわない範囲内において、他のポリプロピレン系樹脂(例えば、樹脂融点が135℃を超えるポリプロピレン系樹脂)や、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のエチレン系樹脂、或いはポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のポリスチレン系樹脂などの樹脂を配合して用いることができる。
【0093】
また、上記樹脂の他に、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−1−ブテンゴム、プロピレン−1−ブテンゴム、スチレン−ブタジエンゴムやその水添物、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、或いはスチレン−ブタジエンブロック共重合体エラストマーやその水添物等のエラストマーを添加することもできる。上記ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂やエラストマー等をポリプロピレン系樹脂に配合する場合、これらポリプロピレン系樹脂以外の樹脂やエラストマーの添加量は合計で、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して50重量部以下、更に30重量部以下、特に10重量部以下となるように調整することが好ましい。
【0094】
更にまた、樹脂粒子中には、各種添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、導電性付与剤、難燃剤、金属不活性剤、顔料、染料、結晶核剤、或いは無機充填材等が挙げられる。これらの各種添加剤は各々、樹脂粒子100重量部に対して25重量部以下、更に20重量部以下、特に5重量部以下添加することが好ましい。
【0095】
また、上記した方法によって密閉容器から低圧域に放出されることにより得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、該放出後に通常行われる大気圧下での養生工程を経た後、加圧用の密閉容器に入れられ空気などの加圧気体により、0.01〜0.10MPa(G)に加圧処理して発泡粒子内の圧力を高める操作を行った後、該発泡粒子を該容器内から取り出して、水蒸気や熱風を用いて加熱することにより、より低い見かけ密度の発泡粒子とする(この工程を、二段発泡という。)ことが可能である。
【0096】
本発明の発泡粒子成形体は、必要に応じて、上述した二段発泡における操作と同様の発泡粒子内の圧力を高める操作を行い発泡粒子内の圧力を0.01〜0.10MPa(G)に調整した後、加熱及び冷却が可能であって且つ開閉し密閉できる従来公知の熱可塑性樹脂発泡粒子型内成形用の金型のキャビティー内に充填し、飽和蒸気圧が0.06〜0.18MPa(G)、好ましくは0.10〜0.16MPa(G)の水蒸気を供給して金型内で発泡粒子同士を加熱して膨張、融着させ、次いで得られた発泡粒子成形体を冷却して、キャビティー内から取り出すバッチ式型内成形法(例えば、特公平4−46217号公報、特公平6−49795号公報等に記載される成形方法)を採用して製造することができる。また、上記型内成形法における水蒸気加熱の方法としては、一方加熱、逆一方加熱、本加熱などの加熱方法を適宜組み合わせる従来公知の方法を採用できるが、特に、予備加熱、一方加熱、逆一方加熱、本加熱の順に発泡粒子を加熱する方法が好ましい。なお、発泡粒子型内成形時の上記0.06〜0.18MPa(G)の飽和蒸気圧は、型内成形工程において、金型内に供給される水蒸気の飽和蒸気圧の最大値である。
【0097】
また、本発明の発泡粒子成形体は発泡粒子を、必要に応じて発泡粒子内の圧力を0.01〜0.10MPa(G)に調整した後、通路内の上下に沿って連続的に移動するベルトによって形成される型内に連続的に供給し、水蒸気加熱領域を通過する際に飽和蒸気圧が0.06〜0.18MPa(G)の水蒸気を供給して発泡粒子同士を膨張、融着させ、その後冷却領域を通過させて冷却し、次いで得られた発泡粒子成形体を通路内から取り出し、適宜長さに順次切断する連続式型内成形法(例えば特開平9−104026号、特開平9−104027号及び特開平10−180888号等に記載される成形方法)により製造することもできる。
【0098】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子による型内成形は、前記水蒸気による加熱により発泡粒子の表面が先ず溶融し、一方で発泡粒子自体が軟化して発泡粒子の表面の溶融よりも遅れて二次発泡することにより外観と発泡粒子相互の融着性が共に優れる良好な発泡粒子成形体となると考えられる。
【0099】
なお、見かけ密度30g/L以下の発泡粒子成形体を得る場合、従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内成形では、目的の形状にもよるが、発泡粒子内の圧力を高めた発泡粒子を使用して型内成形する方法や、目的とする発泡成形体の見かけ密度以下の見かけ密度を有する発泡粒子を製造して該発泡粒子の金型キャビティー内への充填率を大きく高めて型内成形する方法でなければ良好な発泡粒子成形体を得ることが難しかったが、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、そのような方法に拠らずとも良好な発泡粒子成形体を得ることができる特徴を有する。
【0100】
以上のようにして製造される本発明の発泡粒子成形体は、ASTM−D2856−70の手順Cに基づく連続気泡率が40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが最も好ましい。連続気泡率が小さい発泡粒子成形体ほど、機械的強度に優れる。また、本発明の発泡粒子成形体の見かけ密度は、機械的強度、緩衝性、軽量性などの観点から、10〜300g/L、更に13〜180g/Lであることが好ましい。なお、発泡粒子成形体の見かけ密度(g/L)は、発泡粒子成形体の重量(g)を該発泡粒子成形体の外形寸法から求められる体積(L)にて除することにより求めることができる。
【実施例】
【0101】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0102】
実施例1〜10および比較例1〜9
下記表1に実施例、比較例に使用した基材樹脂及びその性状を示す。
【0103】
(表1)


【0104】
上記表1中の基材樹脂に関し、その製造例を以下に示す。
【0105】
(樹脂1の製造方法)
特開2002−284808号公報に記載された方法に基づいてメタロセン系重合触媒を調整した。
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン0.32kg、水素2.5リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を1.90g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、40分かけて70℃に昇温し、60分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体20.3kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂1を得た。
この樹脂のMFRは7g/10分、エチレン含量は0.75mol%、融点は142℃であった。
【0106】
(樹脂2の製造方法)
特開昭56−143207号公報に記載された方法に基づいてチーグラー・ナッタ系重合触媒を調整した。
内容積500リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブを室温下、プロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘキサン240リットルを入れた。次に温度45℃の条件下、ジエチルアルミニウムクロライド240g、水素320リットル(標準状態換算)、および前記チーグラー・ナッタ系重合触媒15gを加えた。
オートクレーブの内温を60℃に保ちながら、圧力が1.0MPa(G)になるまでプロピレンをフィードし、さらにエチレンを0.37kg/hrで供給し、重合反応を開始した。エチレンを定速で供給しながら、圧力が1.0MPaになるようにプロピレンを供給し、240分間重合を行った。
この結果、供給したモノマーの総量は、プロピレン110kg、エチレン1.5kg、となった。
オートクレーブを25℃まで冷却しながら、未反応ガスを放出し、重合を停止した。得られたスラリーは、次の攪拌機付き槽に移送し、メタノールを50L加え、55℃で30分間攪拌し、次に20wt%の水酸化ナトリウム水溶液0.5Lを加え30分間、更に純水200リットルを加え1時間攪拌した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘキサンを除去、60℃の乾燥機で3時間乾燥し、61.0kgのプロピレン系重合体(製品)を得た。この操作を2回繰り返し、基材樹脂2を得た。
この樹脂のMFRは10g/10分、エチレン含量は2.8mol%、融点は145℃であった。
【0107】
(樹脂3の製造方法)
内容積500リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブを室温下、プロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘキサン240リットルを入れた。次に温度45℃の条件下、ジエチルアルミニウムクロライド240g、水素320リットル(標準状態換算)、およびチーグラー・ナッタ系重合触媒15gを加えた。
オートクレーブの内温を60℃に保ちながら、圧力が1.0MPa(G)になるまでプロピレンをフィードし、さらにエチレンを0.63kg/hrで供給し、重合反応を開始した。エチレンを定速で供給しながら、圧力が1.0MPaになるようにプロピレンを供給し、210分間重合を行った。
この結果、供給したモノマーの総量は、プロピレン110kg、エチレン2.2kg、となった。
オートクレーブを25℃まで冷却しながら、未反応ガスを放出し、重合を停止した。得られたスラリーは、次の攪拌機付き槽に移送し、メタノールを50L加え、55℃で30分間攪拌し、次に20wt%の水酸化ナトリウム水溶液0.5Lを加え30分間、更に純水200リットルを加え1時間攪拌した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘキサンを除去、60℃の乾燥機で3時間乾燥し、60.5kgのプロピレン系重合体(製品)を得た。この操作を2回繰り返し、基材樹脂3を得た。
この樹脂のMFRは7g/10分、エチレン含量は3.9mol%、融点は135℃であった。
【0108】
(樹脂4の製造方法)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン1.7kg、水素4.5リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を0.75g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、40分かけて62℃に昇温し、120分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体21.5kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂4を得た。
この樹脂のMFRは7g/10分、エチレン含量は4.3mol%、融点は125℃であった。
【0109】
(樹脂5の製造方法)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン0.9kg、水素3.0リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を0.90g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、40分かけて70℃に昇温し、120分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体20.1kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂5を得た。
この樹脂のMFRは7g/10分、エチレン含量は2.4mol%、融点は134℃であった。
【0110】
(樹脂6の製造方法)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン3.6kg、水素7.0リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を0.40g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて45℃に昇温し、60分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体21.0kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂6を得た。
この樹脂のMFRは4g/10分、エチレン含量は7.9mol%、融点は109℃であった。
【0111】
(樹脂7の製造方法)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン2.3kg、水素6.0リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を0.29g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて60℃に昇温し、60分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体20.2kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂7を得た。
この樹脂のMFRは8g/10分、エチレン含量は5.6mol%、融点は120℃であった。
【0112】
(樹脂8の製造方法)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン1.2kg、1−ブテン3.6kg、水素4.5リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を1.30g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて60℃に昇温し、60分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体21kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂8を得た。
この樹脂のMFRは4g/10分、エチレン含量は1.3mol%、1−ブテン含量は3.1mol%、融点は120℃であった。
【0113】
(樹脂9の製造方法)
特開昭56−143207号公報に記載された方法に基づいてチーグラー・ナッタ系重合触媒を調整した。
内容積500リットルの攪拌機付きステンレス鋼製オートクレーブを室温下、プロピレンガスで充分に置換し、重合溶媒として脱水及び脱酸素したn−ヘキサン210リットルを入れた。次に温度45℃の条件下、ジエチルアルミニウムクロライド220g、水素350リットル(標準状態換算)、および前記チーグラー・ナッタ系重合触媒20gを加えた。
オートクレーブの内温を45℃に保ちながら、圧力が0.7MPa(G)になるまでプロピレンをフィードし、さらにエチレンを1.0kg/hr、1−ブテンを5.7kg/hrで供給し、重合反応を開始した。エチレンおよび1−ブテンを定速で供給しながら、圧力が0.7MPaになるようにプロピレンを供給し、150分間重合を行った。
この結果、供給したモノマーの総量は、プロピレン95.0kg、エチレン2.5kg、1−ブテン14.3kgとなった。
オートクレーブを25℃まで冷却しながら、未反応ガスを放出し、重合を停止した。得られたスラリーは、次の攪拌機付き槽に移送し、メタノールを50L加え、55℃で30分間攪拌し、次に20wt%の水酸化ナトリウム水溶液0.5Lを加え30分間、更に純水200リットルを加え1時間攪拌した後、水層を静置後分離、触媒残渣を除去した。スラリーは遠心分離機で処理し、ヘキサンを除去、60℃の乾燥機で3時間乾燥し、50.3kgのプロピレン系重合体(製品)を得た。この操作を2回繰り返し、基材樹脂9を得た。
この樹脂のMFRは5g/10分、エチレン含量は4.7mol%、1−ブテン含量は1.7mol%、融点は129℃であった。
【0114】
(樹脂10の製造方法)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、1−ブテン6.6kg、水素4.2リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を3.60g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、30分かけて60℃に昇温し、60分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体21.8kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂10を得た。
この樹脂のMFRは5g/10分、1−ブテン含量は8.5mol%、融点は124℃であった。
【0115】
(樹脂11の製造方法)
内容積200リットルの攪拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。これにトリイソブチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液500ml(0.12mol)、エチレン1.4kg、水素6.5リットル(標準状態の体積として)を加え、内温を30℃に維持した。次いで、メタロセン系重合触媒を0.49g(固体触媒成分として)アルゴンで圧入して重合を開始させ、40分かけて62℃に昇温し、120分間その温度を維持した。ここでエタノール100mlを添加して反応を停止させた。残ガスをパージし、ポリプロピレン重合体51.0kgを得た。この操作を5回繰り返し、基材樹脂11を得た。
この樹脂のMFRは25g/10分、エチレン含量は3.7mol%、融点は128℃であった。
【0116】
[ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造]
上記表1に記載の基材樹脂と該基材樹脂100重量部に対して0.05重量部のホウ酸亜鉛とを、65mmφの短軸押出機に供給して加熱下に溶融混練し、混練物を押出機先端に取り付けた口金の小孔からストランド状に押出し、水槽で冷却し、ペレタイザーで重量が略1mgになるように切断して樹脂粒子を得た。なお、ホウ酸亜鉛はマスターバッチにて押出機に供給した。
この樹脂粒子100kgと水220リットル、分散剤としてカオリン300g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム200g、および硫酸アルミニウム10gを、撹拌機を備えたオートクレーブ中に仕込み、発泡剤として炭酸ガス8kgを圧入し、撹拌下に表2、3に示す発泡温度にまで昇温したのち、表2、3に示す条件にて保持することにより高温ピーク熱量を調整した後、オートクレーブ中の内容物を大気圧下に放出してポリプロピレン系発泡粒子を得た。尚、実施例9,10はそれぞれカオリンを900g、1500gとし、比較例6はカオリンを1800gとした。得られた発泡粒子の見かけ密度、平均気泡径などの諸物性を表2、3に示す。
【0117】
[ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造]
上記の方法により得られた発泡粒子を縦250mm、横200mm、厚み50mmの平板金型に充填し、表2、3に示す水蒸気加熱条件にて型内成形を行って成形体を得た(但し、比較例6においては成形体を得ることができなかった。)。加熱方法は、両面の金型のドレン弁を開放した状態でスチームを供給する5秒間の排気工程の後、本加熱圧力より0.04MPa(G)低い圧力での一方加熱、さらに本加熱圧力より0.02MPa(G)低い圧力での逆一方加熱の後、表2、3に示す。成型加熱水蒸気圧力での加熱をした。加熱終了後放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで水冷し、金型を解放後、成形体を取り出した。得られた成形体を80℃のオーブンにて12時間養生することによりポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を得た。得られた発泡粒子成形体の見かけ密度、評価結果などを表2、3に示す。
【0118】
【表2】

【0119】
(表3)

【0120】
表2、3における発泡粒子成形性の評価は、成形スチーム圧力を変更して、複数回金型成形を行い、得られた各々の発泡粒子成形体を観察して以下の通り評価を行った。
【0121】
発泡粒子成形性評価
[二次発泡圧力]
成形体表面に発泡粒子間隙が殆どなく平滑な表面状態を示す発泡粒子成形体が得られる最低成形圧力。
[融着完了圧力]
成形体を破断したときの発泡粒子の材料破壊率が70%以上となる発泡粒子成形体が得られる最低成形圧力。
【0122】
表2、3における発泡粒子成形体の評価は下記の通り行った。
成形体評価
[外観]
発泡粒子成形体表面を目視により観察して以下の基準にて評価した。
○:成形体表面が平滑であり、金型形状を再現している。
△:成形体表面がやや弓なりに凹むが、ほぼ金型形状を再現している。
×:成形体表面が弓なりに凹むなど、金型形状を再現できていない。
【0123】
[圧縮物性]
下記式にて求められる標準の圧縮応力に対する発泡粒子成形体の50%歪における圧縮応力の到達率を基準にして以下の通り評価した。なお、発泡粒子成形体の50%歪における圧縮応力の測定はJIS K6767:1999(ISO3386−1)により求められる値である。
50%歪における標準の圧縮応力(kPa)=0.0742×D+3.874×D+24.03
但し、Dは発泡粒子成形体の見かけ密度(g/L)である。
○:50%歪における標準の圧縮応力に対する到達率が80%以上
△:50%歪における標準の圧縮応力に対する到達率が70%以上、80%未満
×:50%歪における標準の圧縮応力に対する到達率が70%未満
【0124】
[耐熱性]
JIS K6767:1999による「高温時の寸法安定性B法」による110℃での耐熱性試験を行い、以下の基準により評価した。
○:加熱寸法変化率が5%未満
△:加熱寸法変化率が5%以上、10%未満
×:加熱寸法変化率が10%以上
【0125】
表3において、比較例1、2、3は基材樹脂の樹脂融点が本発明で特定する樹脂融点より高く、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形用の成型機の耐圧圧力以上の飽和蒸気圧0.2MPa(G)の水蒸気を導入しても発泡粒子が金型内で充分に発泡(二次発泡)も融着もせず、良好な発泡粒子成形体が得られない。
【0126】
また、比較例4、5は実施例2、3、9、10と同一の基材樹脂を使用したにも係らず、比較例4は発泡粒子製造時の発泡温度が低いために高温側吸熱ピーク熱量が高過ぎ、成形加熱水蒸気圧力が0.24MPa(G)と高く、発泡粒子成形体の柔軟性に劣るために、また、比較例5は発泡粒子製造時の発泡温度が高いために高温側吸熱ピーク熱量が低過ぎ、発泡粒子成形体の収縮が大きく、成形体が金型形状を再現できず、いずれも満足な発泡粒子成形体が得られない。
【0127】
また、比較例6でも実施例2、3、9、10と同一の樹脂を使用しているが、発泡時の雰囲気温度を調整せず、100℃以上とした場合であり、通常の分散剤量では粒子が融着したため、分散剤量を増量した。その結果、発泡粒子の表面のアッシュ量は3000ppm以上となり、満足な成型融着性を得るために、0.2MPa(G)以上の加熱スチームを必要とし、成形体の収縮が大きくなった。
【0128】
比較例7は基材樹脂の樹脂融点は本発明で特定する融点範囲内であるもののオルゼン曲げ弾性率が低く、発泡粒子成形体の物性低下が懸念されたが、高温ピーク熱量が高いことにより物性低下は防がれている。しかし、高温ピーク熱量が高過ぎることにより、成形加熱水蒸気圧力が0.24MPa(G)と高く、本発明の所期の目的が達成できていない。
【0129】
比較例8は基材樹脂の樹脂融点は本発明で特定する融点範囲内であるもののオルゼン曲げ弾性率が低く、圧縮物性、耐熱性を満足する発泡粒子成形体が得られない。比較例9の基材樹脂では発泡粒子の高温ピーク温度が130℃以上とはならず、成形体物性、耐熱性を満足する成形体を得ない。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】基材樹脂の第2回目のDSC曲線を示す図面。
【図2】本発明発泡粒子の基材樹脂の第2回目のDSC曲線を示す図面。
【図3】本発明発泡粒子の第1回目のDSC曲線を示す図面。
【符号の説明】
【0131】
Pa 固有ピーク
Pb 高温ピーク
PTma 固有ピークの頂点温度
PTmb 高温ピークの頂点温度
Tm 樹脂融点
Te 融解終了温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂融点が115〜135℃、且つオルゼン曲げ弾性率が500MPa以上のポリプロピレン系樹脂からなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子の表面のアッシュの量が3000重量ppm以下(0も含む)、該発泡粒子の示差走査熱量測定によって得られる第1回目のDSC曲線(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子1〜3mgを示差走査熱量測定装置によって10℃/分の昇温速度で、常温から200℃まで昇温したときに得られるDSC曲線)において、樹脂融点以下の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPaが現れると共に、樹脂融点を超え、且つ130℃以上の温度領域に頂点温度を有する1以上の吸熱ピークPbが現れ、吸熱ピークPbの総熱量が2〜12J/gであることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、飽和蒸気圧0.15MPa(G)の水蒸気加熱における発泡倍率比(加熱による最大発泡粒子倍率/加熱前の発泡粒倍率)が1.3〜3.5であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均気泡径が50〜350μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂のオルゼン曲げ弾性率と樹脂融点の関係が下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
(数1)
(オルゼン曲げ弾性率[MPa]+1400)/15≧樹脂融点[℃]≧(オルゼン曲げ弾性率[MPa]+1750)/20 ・・・(1)
【請求項5】
前記ポリオプロピレン系樹脂がプロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項6】
前記ポリオプロピレン系樹脂の樹脂融点が115℃以上130未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項7】
前記ポリプロピレン系樹脂の樹脂融点が130〜135℃であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−303376(P2008−303376A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318743(P2007−318743)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】