説明

ポリペプチドの産生のための細胞培養における銅およびグルタミン酸塩の使用

細胞培養におけるポリペプチドの大規模産生のための改良されたシステムが提供される。本発明によれば、目的のポリペプチドを発現する細胞は、銅、グルタミン酸塩または両方を含む培地において増殖される。このようなシステムの使用によって、ミスフォールディングおよび/または凝集が低下されており、かつ総グリコシル化が増大されているポリペプチドの産生が可能になる。本発明によって発現されるポリペプチドは、薬学的組成物、農業的組成物または他の市販の組成物の調製において有利に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願への相互参照
本願は、2007年3月2日に出願された米国仮特許出願第60/892,749号とともに継続中であって、少なくとも一人の共通の発明者を共にし、そして米国仮特許出願第60/892,749号に対する優先権を主張する。米国仮特許出願第60/892,749号の全ての内容は、本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
タンパク質およびポリペプチドはますます重要な治療剤となってきている。ほとんどの場合、これらのタンパク質およびポリペプチドは細胞培養において、操作されるかおよび/または選択されている細胞から産生されて、目的の通常高レベルの特定のタンパク質またはポリペプチドが産生される。細胞培養条件の制御および最適化はタンパク質およびポリペプチドの首尾よい商業的生産に重要である。
【0003】
細胞培養において産生される多くのタンパク質およびポリペプチドは、バッチまたはフィード・バッチプロセスで作製され、ここでは細胞がある期間培養され、次いでその培養が終り、その産生されたタンパク質またはポリペプチドが単離される。あるいは、タンパク質またはポリペプチドは、灌流細胞培養プロセスで産生されてもよく、ここでは培養は終わらず、かつ新しい栄養素および他の成分がこの培養物に定期的にまたは連続して追加され、この間に、発現されたタンパク質またはポリペプチドが定期的にまたは連続的に回収される。産生されたタンパク質またはポリペプチドの最終的な量および質は、細胞培養の条件によって劇的に影響され得る。例えば、伝統的なバッチおよびフィード・バッチ培養のプロセスは多くの場合、ミスフォールディングされているか、および/または凝集型であるタンパク質およびポリペプチドを生じる。ミスフォールディングされるか、および/または凝集されたタンパク質またはポリペプチドのレベルの増大は、正確に畳まれるかおよび/または凝集されていないタンパク質またはポリペプチドの全体的な収量を低くさせる傾向がある。さらに、伝統的なバッチおよびフィード・バッチ培養プロセスは多くの場合、広範でないか、そうでなければ所望されないグリコシル化パターンを有するタンパク質またはポリペプチドを生じる。
【0004】
正確に折り畳むか、容易には凝集しないか、またはより所望されるグリコシル化のパターンを有するタンパク質またはポリペプチドを産生するためのシステムは、力価がより大きくかつ副作用が少ない治療用タンパク質またはポリペプチド剤を可能性として生じ得る。さらに、このようなタンパク質またはポリペプチドは、より有効な農業上の薬剤または他の市販の薬剤として役立ち得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、正確に折り畳み、あまり凝集しないか、および/またはより所望されるグリコシル化のパターンを有するタンパク質またはポリペプチドの産生が得られる改良されたシステムおよび組成物の必要性が存在する。定義された培地において増殖される細胞培養においてタンパク質またはポリペプチドを産生するための改良システムの開発という特別な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、細胞培養におけるタンパク質および/またはポリペプチドの大規模生産のための改良されたシステムを提供する。特定の実施形態では、本発明は、銅を含む細胞培養培地においてタンパク質またはポリペプチドを産生するシステムを提供する。特定の実施形態では、本発明は、グルタミン酸塩を含む細胞培養培地においてタンパク質またはポリペプチドを産生するためのシステムを提供する。ある実施形態では、本発明は、銅およびグルタミン酸塩の両方を含む細胞培養培地においてタンパク質またはポリペプチドを産生するためのシステムを提供する。特定の実施形態では、本発明の細胞培養培地を用いて、目的のタンパク質またはポリペプチドを発現する哺乳動物細胞を増殖する。
【0007】
特定の実施形態では、本発明は、銅および/またはグルタミン酸塩を含む培地を利用する商業規模(例えば、500L以上)の培養方法を提供する。特定の実施形態では、この培養方法は、本発明の開示に教示されるとおり、細胞培養の経過の間1つ以上の温度シフトを含む。本発明の特定の局面によれば、このような方法の使用は、それ以外は同一の増殖条件下でそれ以外は同一の培地において増殖されるポリペプチドで観察されるよりも高いレベルの正確に折り畳まれたタンパク質ポリペプチドを生じる。さらに、本発明のいくつかの局面によれば、このような方法の使用によって、それ以外は同一の増殖条件下でそれ以外は同一の培地において増殖されるポリペプチドで観察されるも広範であるかそうでなければ所望されるグリコシル化パターンを有するポリペプチドの産生が得られる。特定の実施形態では、このような方法の使用によって、それ以外は同一の増殖条件下でそれ以外は同一の培地において増殖されるポリペプチドで観察されるよりも総シアリル化が増大したポリペプチドの産生が得られる。
【0008】
当業者は、本発明の培地処方物が定義される培地および複合培地の両方を包含することを理解する。特定の実施形態では、この培養培地は、培地の組成が公知でありかつ管理されている定義された培地である。
【0009】
ある実施形態では、米国特許出願第11/213,308、同第11/213,317および同第11/213,633号(各々が2005年8月25日出願であって、かつ各々がその全体が参照によって本明細書に援用されている)に記載される条件のうちの1つ以上のもとで細胞は増殖される。いくつかの実施形態では、米国特許仮出願第60/830,658号(2006年7月13日出願、その全体が参照によって本明細書に援用される)に記載の状態のうち1つ以上のもとで細胞は増殖される。いくつかの実施形態では、米国特許仮出願第60/856,615号(2006年11月3日出願、その全体が参照によって本明細書に援用される)に記載の状態のうち1つ以上のもとで細胞は増殖される。
【0010】
本発明の細胞培養物は必要に応じて、栄養物および/または他の培地成分を補充されてもよく、これには、例えば、ホルモンおよび/もしくは他の増殖因子、イオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、および/またはリン酸塩)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常は極めて低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/もしくはグルコースまたは他のエネルギー源が挙げられる。特定の実施形態では、この培地を、ヘキサメチレン−ビス(アセトアミド)(「HMBA」)および酪酸ナトリウム(「NaB」)などの化学誘導体類(inductants)で補充することが有益である場合がある。これらの任意の補充物は、培養の開始に添加されてもよいし、または枯渇された栄養物を補給するため、もしくは別の理由で後の時点で添加されてもよい。特定の実施形態では、本発明に従って補充物を最小限にするために最初の培地組成物を選択することが所望される。
【0011】
特定の実施形態では、細胞培養物を得る総時間は、伝統的な培養時間を越えて有意に増大することが可能になり、それによって細胞培養において産生される任意の所定のポリペプチドの収量および質が向上し、目的のポリペプチドを発現する細胞を培養する適切または最適の時間を決定するための融通度が実施者にとって向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】表3に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の積算生細胞密度(integrated viable cell density)(IVCD)を示す。
【図2】表3に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の累積産生比(cumulative specific productivity)(Qp)を示す。
【図3】表3に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物のグルタミン酸塩の値を示す。
【図4】表3に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の乳酸塩の値を示す。
【図5】表3に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物のミスフォールディングされるかおよび/または凝集された、産生されたTNFR−Igの10日目の相対値、および10日目の力価を示す。
【図6】表4に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の積算生細胞密度(IVCD)を示す。
【図7】表4に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の累積産生比(Qp)を示す。
【図8】表4に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物のグルタミン酸塩の値を示す。
【図9】表4に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の乳酸塩の値を示す。
【図10】表4に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物のミスフォールディングされるかおよび/または凝集された、産生されたTNFR−Igの10日目の相対値、および10日目の力価を示す。
【図11】表5に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の積算生細胞密度(IVCD)を示す。
【図12】表5に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の累積産生比(Qp)を示す。
【図13】表5に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物のグルタミン酸塩の値を示す。
【図14】表5に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の乳酸塩の値を示す。
【図15】表5に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物のミスフォールディングされるかおよび/または凝集された、産生されたTNFR−Igの10日目の相対値、および10日目の力価を示す。
【図16】表4に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の8日および10日での参照TNFR−Igサンプルの割合として、ミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたTNFR−Igを示す。
【図17】表5に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の8日、10日および12日での参照TNFR−Igサンプルの割合として、ミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたTNFR−Igを示す。
【図18】表4に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の8日および10日での参照TNFR−Igサンプルの割合として、発現されたTNFR−Igのシアリル化を示す。
【図19】表5に記載される実験条件下で増殖される細胞培養物の8日および10日での参照TNFR−Igサンプルの割合として、発現されたTNFR−Igのシアリル化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
「アミノ酸」:「アミノ酸」という用語は本明細書において用いる場合、それらのアミノ酸または任意の天然に存在するアミノ酸のポリペプチド、アナログまたは誘導体の形成において正常に用いられる任意の20個の天然に存在するアミノ酸をいう。特定の実施形態では、本発明のアミノ酸は、細胞培養に対して培地において提供される。培地において提供されるアミノ酸は、塩として提供されても、または水和物型で提供されてもよい。
【0014】
「抗体」:本明細書において用いる場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子または免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、FabまたはF(ab’)フラグメントなどの抗原と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含む分子をいう。特定の実施形態では、抗体とは、当業者に公知の代表的な天然の抗体、例えば、4つのポリペプチド鎖(2つの重鎖および2つの軽鎖)を含んでいる糖タンパク質である。特定の実施形態では、抗体とは単鎖抗体である。例えば、ある実施形態では、単鎖抗体は、代表的な天然の抗体の改変体を含み、ここでは重鎖および/または軽鎖の2つ以上のメンバーが、例えば、ペプチド結合を介して共有結合されている。特定の実施形態では、単鎖抗体とは重鎖および軽鎖からなる2つのポリペプチド鎖構造を有するタンパク質であり、この鎖は例えば、鎖間ペプチドリンカーによって安定化され、このタンパク質は、抗原に特異的に結合する能力を有する。特定の実施形態では、この抗体は、例えば、ラマおよびラクダを含むラクダ科の構成員で天然に見出される重鎖などの重鎖のみから構成される抗体である(例えば、Castermanらの米国特許第6,765,087号、Castermanらの同第6,015,695号、Castermanらの同第6,005,079号(その各々が全体が参照によって援用される)を参照のこと)。本明細書において用いる場合、「モノクローナル抗体」および「モノクローナル抗体組成物」という用語は、唯一の種の抗原結合部位を含み、従って、単一のエピトープまたは特定の抗原とのみ通常相互作用する抗体分子の集団を指す。従って、モノクローナル抗体組成物は代表的には、それらが免疫反応する特定のエピトープに単一の結合親和性を示す。特定の実施形態では、モノクローナル抗体はヒト化抗体であり、ここでは大部分のアミノ酸残基がヒト抗体由来であり、従ってヒト被験体に送達されるとき、いかなる潜在的な免疫反応も最小限にする。「ポリクローナル抗体」および「ポリクローナル抗体組成物」という用語は、特定の抗原と相互作用する複数の種の抗原結合部位を含む抗体分子の集団を指す。
【0015】
「バッチ培養」:「バッチ培養」という用語は、本明細書において用いる場合、細胞を培養する方法であって、培地(下の「培地」の定義を参照のこと)および細胞自体を含む、その細胞を培養するのに最終的に用いられる全ての成分が培養プロセスの開始時点で提供される方法をいう。バッチ培養は代表的には、いくつかの時点で停止されて、培地中の細胞および/または成分が回収され必要に応じて精製される。
【0016】
「バイオリアクター」:「バイオリアクター」という用語は、本明細書において用いる場合、細胞培養の増殖のために有用な任意の容器をいう。バイオリアクターは、細胞を培養するために有用である限りどのような大きさであってもよい。特定の実施形態では、このような細胞は哺乳動物細胞である。代表的には、バイオリアクターは、少なくとも1リットルであり、10、100、250、500、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上、またはその間の任意の値であってもよい。限定はしないがpHおよび温度を含む、バイオリアクターの内部条件は培養期間の間必要に応じて制御される。このバイオリアクターは、ガラス、プラスチックまたは金属を含む、本発明の培養条件下で、培地中に懸濁される哺乳動物細胞培養物を保持するために適切な任意の物質から構成され得る。「産生バイオリアクター」という用語は、本明細書において用いる場合、目的のポリペプチドまたは糖タンパク質の産生に用いられる最終のバイオリアクターをいう。産生バイオリアクターの容積は代表的には、少なくとも500リットルであり、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上、またはその間の任意の容積であってもよい。当業者は、本発明を行うのにおける使用のための適切なバイオリアクターを承知し、かつ選択できる。
【0017】
「細胞密度」:「細胞密度」という用語は本明細書において用いる場合、所定の容積の培地中に存在する細胞の数を指す。
【0018】
「細胞生存度」:「細胞生存度」という用語は、本明細書において用いる場合、培養物中の細胞が所定の設定の培養条件または実験バリエーションのもとで生存できる能力を指す。この用語は本明細書において用いる場合、特定の時点での培養物中の細胞の総数(生きている、死んでいる)に対するその特定の時点で生きている細胞の割合を指す。
【0019】
「複合培地」:「複合培地」という用語は、本明細書において用いる場合、正体もしくは品質が未知であるかまたは管理されていない少なくとも1つの成分を含む培地を指す。
【0020】
「培養」、「細胞培養」:これらの用語は本明細書において用いる場合、細胞集団の生存および/または増殖に適切な条件下で培地(下の「培地」の定義を参照のこと)中で懸濁されている細胞集団を指す。文脈から当業者に明白であるとおり、これらの用語は本明細書において用いる場合また、細胞集団および培地(この集団が懸濁されている)を含む組み合わせを指す。特定の実施形態では、この細胞培養は哺乳動物細胞培養物である。
【0021】
「定義された培地」:「定義された培地」という用語は、本明細書において用いる場合、その培地の組成物が公知でありかつ管理されている培地を指す。
【0022】
「フィード・バッチ培養」:「フィード・バッチ培養」という用語は本明細書において用いる場合、追加の成分が培養プロセスの開始に引き続いていくつかの時点で培養物に提供される、細胞培養の方法を指す。この提供される成分は代表的には、培養プロセスの間に枯渇されている細胞のための栄養成分を含む。さらにまたはあるいは、このような追加の成分は補充成分を含んでもよい(下の「補充成分」の定義を参照のこと)。特定の実施形態では、このような追加の成分が、フィード培地において提供される(下の「フィード培地」の定義を参照のこと)。フィードバッチ培養物は代表的には、ある時点で停止されて、その細胞および/またはその培地中の成分が回収され、必要に応じて精製される。
【0023】
「フィード培地」:「フィード培地」という用語は本明細書において用いる場合、細胞培養の開始後に追加される、増殖している哺乳動物細胞に栄養を与える栄養物を含有する溶液をさす。フィード培地は、最初の細胞培養培地に提供される成分と同一の成分を含んでもよい。さらに、またはあるいは、フィード培地は、最初の細胞培養培地において提供される成分を上回る1つ以上の追加の成分を含んでもよい。さらにまたはあるいは、フィード培地は、最初の細胞培養培地に提供された1つ以上の成分を欠いてもよい。特定の実施形態では、フィード培地の1つ以上の成分は、それらの成分が最初の細胞培養培地において提供される濃度または値と同一または同様の濃度または値で提供される。特定の実施形態では、フィード培地の1つ以上の成分は、それらの成分が最初の細胞培養培地において提供された濃度または値とは異なる濃度または値で提供される。例示的なフィード培地は、表2に示されるが、本発明はこれらの培地の使用には限定されない。当業者は、別のフィード培地が用いられてもよく、および/または特定の変更が表2に列挙される例示的なフィード培地の組成に対してなされてもよいことを理解する。特定の実施形態では、フィード培地は、補充成分(下の「補充成分」の定義を参照のこと)を含む。
【0024】
「フラグメント」:「フラグメント」という用語は、本明細書において用いる場合、ポリペプチドを指しており、そのポリペプチドに固有であるか、または特徴的である所定のポリペプチドの任意の別個の部分として規定される。この用語は、本明細書において用いる場合また、全長のポリペプチドの活性の少なくともある画分を保持する所定のポリペプチドの任意の別個の部分を指す。特定の実施形態では、保持される活性の画分は、全長ポリペプチドの少なくとも10%である。特定の実施形態では、保持される活性の画分は、全長ポリペプチドの活性の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%である。特定の実施形態では、保持される活性の画分は、全長ポリペプチドの活性の少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。特定の実施形態では、保持される活性の画分は、全長ポリペプチドの活性の100%以上である。あるいは、またはさらに、この用語は本明細書において用いる場合、全長ポリペプチドに見出される少なくとも確立された配列エレメントを含む所定のポリペプチドの任意の部分を指す。いくつかの実施形態では、この配列エレメントは、全長ポリペプチドの少なくとも4〜5、10、15、20、25、30、35、40、45、50以上のアミノ酸にまたがる。
【0025】
「遺伝子」:「遺伝子」という用語は本明細書において用いる場合、任意のヌクレオチド配列、DNAまたはRNA(その少なくともいくつかの部分が別個の最終産物(代表的には、限定はしないがポリペプチド)をコードする)を指す。必要に応じて、この用語は、ポリペプチドまたは他の別個の最終産物をコードするコード配列を指すだけではなく、発現の基礎レベルを調節する領域(コード配列に先行するかおよび/または後ろに続く)(下の「遺伝子制御エレメント」の定義を参照のこと)、並びに個々のコードセグメント(「エキソン」)の間の介入配列(「イントロン」)も包含してもよい。
【0026】
「遺伝子制御エレメント」:「遺伝子制御エレメント」という用語は本明細書において用いる場合、そのエレメントが作動可能に連結されている遺伝子の発現を調節する任意の配列エレメントを指す。遺伝子制御エレメントは、発現レベルを増大または減少させることのいずれかによって機能してもよく、コード配列の前、中、または後に配置されてもよい。遺伝子制御エレメントは、例えば、転写の開始、伸長もしくは終止、mRNAスプライシング、mRNA編集、mRNA安定性、細胞内のmRNA局在化、翻訳の開始、伸長もしくは終止、または遺伝子発現の任意の他の段階を調節することによって遺伝子発現の任意の段階で作用し得る。遺伝子制御エレメントは個々に、またはお互いと組み合わされて機能し得る。
【0027】
「糖タンパク質」:「糖タンパク質」という用語は、本明細書において用いる場合、1つ以上の共有結合したオリゴ糖鎖を含むタンパク質またはポリペプチドを指す。このオリゴ糖鎖は、単一の糖の残基、糖残基の単一の未分岐鎖、または1回以上分岐する糖残基の鎖から構成されてもよい。このオリゴ糖鎖はN連結されてもO連結されてもよい。
【0028】
「グリコシル化パターン」:「グリコシル化パターン」という用語は、所定の糖タンパク質(単数または複数)の観察されたグリコシル化を指す。そのオリゴ糖鎖(単数または複数)の中により多くの数の共有結合された糖残基を有する糖タンパク質は、増大されるかまたはより過剰なグリコシル化パターンを有するといわれる。逆に、オリゴ糖鎖(単数または複数)の中に共有結合した糖残基が少ない糖タンパク質は、グリコシル化パターンが少ないかまたは広範でないと考えられる。「グリコシル化パターン」という用語は本明細書において用いる場合また、本発明の教示に従って発現される個々の糖タンパク質上のいくつかの異なるグリコシル化パターンの特徴的な分布を指す。この意味では、増大したグリコシル化パターンとは、発現された糖タンパク質のグリコシル化パターンの特徴的な分布の増大を指す。
【0029】
「宿主細胞」:「宿主細胞」という用語は本明細書において用いる場合、目的のタンパク質またはポリペプチドを産生するために本発明に従って培養物中で増殖される細胞を指す。この用語はまた、糖タンパク質を生じる本発明によって操作されている細胞を指す。特定の実施形態では、宿主細胞で産生される糖タンパク質は、本明細書に記載される方法に従いかつ本明細書に記載される組成物中で産生されるとき、さらに広範なおよび/または所望されるグリコシル化パターンを示す。特定の実施形態では、この宿主細胞は哺乳動物細胞である。
【0030】
「ハイブリドーマ」:「ハイブリドーマ」という用語は、本明細書において用いる場合、不死化細胞および抗体産生細胞の融合から生じる細胞または細胞の子孫を指す。得られたハイブリドーマは抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作製するために用いられる個々の細胞は、任意の哺乳動物由来であってもよく、この哺乳動物としては限定はしないが、ラット、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヤギおよびヒトが挙げられる。この用語はまた、トリオーマ細胞株を包含し、この細胞株は、ヘテロハイブリッド骨髄腫融合物の子孫(ヒト細胞とマウス骨髄腫細胞株との間の融合の産物である)が形質細胞と引き続き融合されるときに生じる。さらにこの用語は、例えば、クアドローマなどの抗体を生じる任意の不死化ハイブリッド細胞株を含むことを意味する(例えば、Milstein et al.,Nature,537:3053,1983を参照のこと)。
【0031】
「積算生細胞密度(integrated viable cell density)」、「IVCD」:「積算生細胞密度」または「IVCD」という用語は、本明細書において用いる場合、培養の経過にまたがる生細胞の平均密度に、培養が行われた時間を掛けたものを指す。産生されるポリペプチドおよび/またはタンパク質の量が、その培養の経過にまたがって存在する生細胞の数に比例する場合、積算生細胞密度は、培養の経過にまたがって産生されるポリペプチドおよび/またはタンパク質の量を見積もるのに有用なツールである。
【0032】
「培地」、「細胞培養培地」、「培養培地」:これらの用語は、本明細書において用いる場合、増殖している細胞に栄養を与える栄養物を含む溶液を指す。特定の実施形態では、この培養培地は増殖している哺乳動物細胞に有用である。代表的には、培養培地は、最低限の増殖および/または生存にとって細胞によって必要とされる、必須アミノ酸および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質および微量元素を提供する。培養培地はまた、この最小速度を上回って増殖および/または生存を増強する補充成分(下の「補充成分」の定義を参照のこと)を含んでもよく、この成分としては限定はしないが、ホルモンおよび/または他の増殖因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常極めて低濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/またはグルコースもしくは他のエネルギー源が挙げられる。特定の実施形態では、培地は細胞の生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に有利に処方される。例示的な培養培地を表1に示すが、本発明はこれらの培地の使用には限定されない。当業者は、別の培養培地が用いられてもよく、および/または特定の変更が表1に列挙される例示的な培養培地の組成に対してなされ得ることを理解する。特定の実施形態では、この培地は、細胞培養の開始後に追加されるフィード培地である(上記の「フィード培地」の定義を参照のこと)。特定の実施形態では、この細胞培養培地は、開始栄養液と、細胞培養の開始後に追加される任意のフィード培地との混合物である。
【0033】
「代謝性廃棄産物」:「代謝性廃棄産物」という用語は本明細書において用いる場合、特に所望の組み換えポリペプチドまたはタンパク質の発現または活性に関して、細胞培養に対して有害な方法であり、正常または非正常な代謝プロセスの結果として細胞培養によって産生される化合物をいう。例えば、代謝性廃棄産物は、細胞培養物の増殖または生存に対して有害であり得るか、産生される組み換えポリペプチドまたはタンパク質の量を減少し得るか、発現されるポリペプチドまたはタンパク質の折り畳み、安定性、凝集、グリコシル化または他の翻訳後修飾を変更し得るか、あるいは細胞に対して、および/または組み換えポリペプチドまたはタンパク質の発現もしくは活性に対して多数の他の方法において有害であり得る。例示的な代謝性廃棄物としては、乳酸塩(グルコース代謝の結果として産生される)、およびアンモニウム(グルタミン代謝の結果として産生される)が挙げられる。細胞培養では、1つ以上の代謝性廃棄産物を生じ得る。
【0034】
「ポリペプチド」:「ポリペプチド」という用語は本明細書において用いる場合、ペプチド結合を介して一緒に結合されたアミノ酸の連鎖を指す。この用語は任意の長さのアミノ酸鎖を指すために用いられるが、当業者は、この用語が長鎖に限定されないことを理解し、この用語はペプチド結合を介して一緒に結合される2つのアミノ酸を含む最小鎖を指してもよい。当業者に公知のとおり、ポリペプチドは、処理されるか、および/または改変されてもよい。例えば、ポリペプチドはグリコシル化されてもよい(上記の「糖タンパク質」の定義を参照のこと)。
【0035】
「タンパク質」:「タンパク質」という用語は本明細書において用いる場合、別個の単位として機能する1つ以上のポリペプチドを指す。単一のポリペプチドが別個に機能する単位であり、この別個の機能単位を形成するために他のポリペプチドとの永続的または一時的な物理的会合が必要ない場合、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、交換可能に用いられ得る。この別個の機能的単位がお互いと物理的に会合する複数のポリペプチドから構成される場合、「タンパク質」という用語は、本明細書において用いる場合、別個の単位として物理的にカップリングされて一緒に機能する複数のポリペプチドをいう。
【0036】
「組み換え発現されるポリペプチド」および「組み換えポリペプチド」:これらの用語は本明細書において用いる場合、ポリペプチドを発現するようにヒトの手で操作されている宿主細胞から発現されたポリペプチドを指す。特定の実施形態では、宿主細胞とは哺乳動物細胞である。特定の実施形態では、この操作は、1つ以上の遺伝子改変を含んでもよい。例えば、宿主細胞は、発現されるべきポリペプチドをコードする1つ以上の異種遺伝子の導入によって遺伝子操作されてもよい。異種組み換え発現されるポリペプチドは、宿主細胞で正常に発現されるポリペプチドと同一であっても、または類似であってもよい。異種組み換え発現されたポリペプチドはまた、宿主細胞に対して外来、例えば、宿主細胞で正常に発現されるポリペプチドに対して異種であってもよい。特定の実施形態では、異種組み換え発現されたポリペプチドはキメラである。例えば、ポリペプチドの一部が、宿主細胞で正常に発現されるポリペプチドと同一または類似であるアミノ酸配列を含んでもよく、他の部分が、宿主細胞に外来であるアミノ酸配列を含む。さらに、またはあるいは、ポリペプチドは、宿主細胞で両方とも正常に発現される2つ以上の異なるポリペプチド由来のアミノ酸配列を含んでもよい。さらに、ポリペプチドは、宿主細胞に対して両方とも外来である2つ以上のポリペプチド由来のアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの実施形態では、宿主細胞は一般には1つ以上の内因性遺伝子の活性化または上方制御によって遺伝子的に改変される。
【0037】
「補充成分」:「補充成分」という用語は、本明細書において用いる場合、最小速度を上回る増殖および/または生存を増強する成分を指し、これには限定はしないが、ホルモンおよび/または他の増殖因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(通常極めて低濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/もしくはグルコースまたは他のエネルギー源が挙げられる。特定の実施形態では、補充成分は、最初の細胞培養に添加される。特定の実施形態では、補充成分は、細胞培養の開始後に追加される。
【0038】
「力価」:「力価」という用語は本明細書において用いる場合、所定の量の培地容積において哺乳動物細胞培養によって産生される組み換え発現されたタンパク質またはポリペプチドの総量をいう。力価は代表的には、培地1ミリリットルあたりのタンパク質またはポリペプチドのミリグラムの単位で表現される。
【0039】
特定の実施形態の詳細な説明
本発明は、細胞培養によるタンパク質および/またはポリペプチドの産生のための改善されたシステムおよび培地処方物を提供する。特定の実施形態では、本発明は、ミスフォールディングおよび/または凝集されたタンパク質産物を最小限にするシステムを提供する。ミスフォールディングされるかまたは凝集されたタンパク質またはポリペプチドが産生される場合、そのせいで細胞培養において産生される所望のタンパク質またはポリペプチドの総量は減少される。特定の実施形態では、ミスフォールディングされるか、および/または凝集されたタンパク質またはポリペプチドの減少または排除は、銅を含む細胞培養物を提供する工程を包含する方法の使用を通じて達成される。いくつかの実施形態では、ミスフォールディングされるか、および/または凝集されたタンパク質またはポリペプチドの減少または排除は、グルタミン酸塩を含む細胞培養物を提供する工程を包含する方法の使用を通じて達成される。特定の実施形態では、ミスフォールディングされるか、および/または凝集されたタンパク質またはポリペプチドの減少または排除は、銅およびグルタミン酸塩の両方を含む細胞培養物を提供する工程を包含する方法の使用を通じて達成される。
【0040】
本発明の特定の方法はまた、細胞培養において産生されるタンパク質またはポリペプチド中でグリコシル化の総量を増大するか、そうでなければより望ましいグリコシル化パターンを生じる工程を包含する。特定の実施形態では、産生されるタンパク質またはポリペプチド中で、グリコシル化の総量を増大するか、そうでなければより望ましいグリコシル化パターンを生じる工程は、銅を含む細胞培養物を提供する工程を包含する方法の使用を通じて達成される。いくつかの実施形態では、産生されるタンパク質またはポリペプチド中で、グリコシル化の総量を増大するか、そうでなければより望ましいグリコシル化パターンを生じる工程は、グルタミン酸塩を含む細胞培養物を提供する工程を包含する方法の使用を通じて達成される。いくつかの実施形態では、産生されるタンパク質またはポリペプチド中で、グリコシル化の総量を増大するか、そうでなければより望ましいグリコシル化パターンを生じる工程は、銅およびグルタミン酸塩の両方を含む細胞培養物を提供する工程を包含する方法の使用を通じて達成される。特定の実施形態では、この細胞培養はバッチ培養またはフィード・バッチ培養である。
【0041】
本発明の特定の組成物は、銅を含む細胞培養培地を包含する。本発明の特定の組成物は、グルタミン酸塩を含む細胞培養培地を含む。本発明の特定の組成物は、銅およびグルタミン酸塩の両方を含む細胞培養培地を含む。いくつかの実施形態によれば、産生される総ポリペプチドに対して、本発明の培地の組成物中で増殖されるミスフォールディングされるか、および/または凝集されたポリペプチドの画分は、銅および/またはグルタミン酸塩を欠く以外は同一の培地において細胞が増殖される場合に観察される、ミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたポリペプチドの画分に比較して減少されている。さらに、いくつかの実施形態では、本発明の培地組成物中で増殖される細胞によって産生されるポリペプチドの総シアリル化は、銅および/またはグルタミン酸塩を欠く以外は同一の培地において増殖される細胞によって産生されるペプチドの総シアリル化に対して増大される。
【0042】
特定の実施形態および局面が下に詳細に考察される。しかし、当業者はこれらの実施形態に対する種々の改変が添付の特許請求の範囲内であるということを理解するであろう。これは本発明の範囲を規定する特許請求の範囲およびその等価物であり、これは特定の実施形態のこの説明に限定されず、かつこの説明によって限定されるべきでもない。
【0043】
細胞
細胞培養物に対して、およびタンパク質またはポリペプチドの発現に対して感受性の任意の宿主細胞を本発明に従って利用してもよい。特定の実施形態では、宿主細胞は哺乳動物である。本発明に従って用いられ得る哺乳動物細胞の非限定的な例としては、BALB/cマウス骨髄腫株(NSO/l、ECACC No:85110503);ヒト網膜芽細胞腫(PER.C6,CruCell,Leiden,The Netherlands);SV40によって形質転換されるサル腎臓CV1株(COS−7,ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓株(懸濁培養物中での増殖のためにサブクローニングされた293または293細胞、Graham et al.,J.Gen Virol.,36:59,1977);ベビー・ハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞+/−DHFR(CHO,UrlaubおよびChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216,1980);マウス・セルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243〜251,1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76,ATCC CRL−1 587);ヒト子宮頸癌細胞(HeLa,ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK,ATCC CCL 34);バッファロー・ラット肝臓細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(WI38,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44〜68,1982);MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝細胞腫株(Hep G2)が挙げられる。
【0044】
さらに、任意の多数の市販の、および市販されていないハイブリドーマ細胞株(ポリペプチドまたはタンパク質を発現する)を本発明に従って利用してもよい。当業者は、ハイブリドーマ細胞株が最適の増殖およびポリペプチドもしくはタンパク質の発現のために異なる栄養要件を有してもよく、ならびに/または異なる培養条件を要してもよく、必要に応じて条件を改変できるということを理解する。
【0045】
上記のとおり、多くの場合に、細胞は、高レベルの目的のタンパク質またはポリペプチドを生じるように選択または操作される。多くの場合、細胞は、例えば、目的のタンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子の導入によって、および/または目的のタンパク質もしくはポリペプチドをコードするその遺伝子(内因性であろうとまたは導入されていようと)の発現を調節する制御エレメントの導入によって、高レベルのタンパク質を生じるように操作される。
【0046】
当業者は、異なる細胞タイプで産生されるタンパク質またはポリペプチドが、種々の得られたグリコシル化パターンを含んでもよいということを理解する。例えば、Przybyloらは、カドヘリンのグリコシル化パターンが、非悪性上皮尿管細胞、v−rafのトランスフェクトされたHCV29細胞および膀胱の移行細胞癌中で発現される場合、異なっていることを実証した(Przybylo et al.,Cancer Cell International,2(1):6,2002を参照のこと)。Lifelyらは、ヒト化IgG抗体のグリコシル化パターンおよび生物学的活性が、CHO、Y0骨髄腫およびNS0骨髄腫細胞株で発現される場合、異なっているということを実証した(Lifely et al.,Glycobiology,5(8):813〜22,1995を参照のこと)。特定のタンパク質またはポリペプチドのグリコシル化の程度およびパターンを検出および測定する方法は当該分野で公知である。従って、当業者は、過度の実験なしに、任意の所定のタンパク質またはポリペプチドの産生についてほとんどの所望の細胞株を選択できる。どの細胞株が最終的に選択されるかにかかわらず、本発明の方法および組成物を用いて、より広範であるか、そうでなければより望ましいグリコシル化パターンを有するタンパク質またはポリペプチドを生じることができる。
【0047】
特定のポリペプチドは、細胞増殖、細胞生存、または細胞のいくつかの他の特徴に対して有害な影響を有し得、この影響は目的のポリペプチドまたはタンパク質の産生を、いくつかの方法で最終的には制限する。特定のポリペプチドを発現するように操作された1つの特定のタイプの細胞の集団のなかでさえ、その細胞集団内での変動が存在する場合があり、その結果特定の個体細胞が良好に増殖し、目的のポリペプチドをさらに産生し、ミスフォールディングおよび/または凝集を受けにくいポリペプチドが産生されるか、および/またはさらに広範なもしくはさらに望ましいグリコシル化パターンを有するポリペプチドが産生される。特定の実施形態では、この細胞株は細胞を培養するために選択される特定の条件下での堅調な増殖のために実施者によって経験的に選択される。特定の実施形態では、特定のポリペプチドを発現するように操作された個々の細胞を、細胞増殖、最終の細胞密度、細胞生存パーセント、発現されるポリペプチドの力価、正確な折り畳み、望ましいグリコシル化パターンまたはこれらの任意の組み合わせまたは実施者によって重要とみなされる任意の他の条件に基づいて、大規模産生のために選択する。
【0048】
細胞を培養する
本発明は、ポリペプチドの発現の影響を受け易い任意の細胞培養方法またはシステムで用いられ得る。例えば、細胞は、バッチ培養、またはフィード・バッチ培養で増殖されてもよく、ここでは培養は、ポリペプチドの十分な発現後に終わらせ、その後に発現されたポリペプチドを回収して必要に応じて精製する。あるいは、細胞は、灌流培養で増殖されてもよく、ここでは培養は終わることがなく、新しい栄養物および他の成分が定期的にまたは連続してその培養に添加され、その間、発現されるポリペプチドは定期的にまたは連続して回収される。
【0049】
細胞は、実施者によって選択される任意の従来の容積で増殖され得る。例えば、細胞は、2〜3ミリリットルから数リットルの容積におよぶ小規模容器内で増殖され得る。あるいは、この細胞は、およそ少なくとも1リットル〜10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上の容積、またはその間の任意の容積におよぶ大規模の市販のバイオリアクター中で増殖され得る。
【0050】
細胞培養の温度は、細胞培養物が生きたままであるか、高レベルのポリペプチドが産生されるか、ポリペプチドのミスフォールディングおよび/もしくは凝集が減少されるか、ポリペプチドがさらに広範であるかそうでなければ望ましいグリコシル化パターンを示す温度範囲、またはこれらの任意の組み合わせもしくは実施者によって重要とみなされる他の要因に主に基づいて選択される。例えば、CHO細胞はよく増殖して、高レベルまたはタンパク質またはポリペプチドを産生するか、および/または約37℃で所望のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を産生する。一般には、ほとんどの哺乳動物細胞はよく増殖して、高レベルまたはタンパク質またはポリペプチドを産生し得るか、および/または約25℃〜42℃の範囲内で所望のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を産生し得るが、本発明によって教示される方法は、これらの温度に限定されない。特定の哺乳動物細胞はよく増殖して、高レベルまたはタンパク質またはポリペプチドを産生し得るか、および/または約35℃〜40℃の範囲内で所望のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を産生し得る。特定の実施形態では、この細胞培養物は、細胞培養プロセスの間、1回以上、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45℃という温度で増殖される。当業者は、細胞の要件、および実施者の産生の要件に依存して、細胞を増殖する適切な温度(単数または複数)を選択できる。
【0051】
さらに、その培養は、培養の経過の間に1つ以上の温度シフトを課されてもよい。培養の温度をシフトする場合、その温度シフトは、比較的徐々にであってもよい。例えば、温度変化を完了するためには数時間または数日間を要してもよい。あるいは、温度シフトは、比較的急激であってもよい。温度は培養プロセスの間、着実に増大されても減少されてもよい。さらに、またはあるいは、温度は、培養プロセスの間種々の時間で別個の量で増大されても減少されてもよい。この引き続く温度(単数または複数)または温度範囲(単数または複数)は、最初のまたは以前の温度(単数または複数)または温度範囲(単数または複数)よりも低くても高くてもよい。当業者は、多数の温度シフトが本発明に包含されるということを理解する。例えば、温度は一回シフトされてもよく(高い方または低い方の温度または温度範囲へのいずれか)、この細胞は特定の期間、この温度または温度範囲で維持され、その後にその温度が新しい温度または温度範囲へ再度シフトされてもよく、ここで前の温度または温度範囲よりもこの温度または温度範囲は高くても低くてもよい。各々の別個のシフトの後の培養の温度は、一定であってもよいし、または特定の温度範囲内で維持されてもよい。
【0052】
最初の温度または温度範囲内と同様に、細胞培養物の温度または温度範囲は、温度シフト(単数または複数)後、一般には主に、細胞培養物が生きたままである温度(単数または複数)、高レベルの糖タンパク質が産生される範囲、および/または発現された糖タンパク質が所望のグリコシル化パターンを含む範囲に基づいて選択される。一般には、ほとんどの哺乳動物細胞は、生きたままであって、約25℃〜42℃という範囲内の商業上適切なレベルで所望のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を発現するが、本開示によって教示される方法は、これらの温度には限定されない。特定の実施形態では、哺乳動物細胞は、生きたままであって、約25℃〜35℃という範囲内の商業上適切なレベルで所望のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を発現する。特定の実施形態では、この細胞培養物は、温度シフト(単数または複数)の後に1回以上、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、または45℃という温度で増殖される。当業者は、温度シフト(単数または複数)後に細胞を増殖する適切な温度(単数または複数)または温度範囲(単数または複数)を、細胞の特定の要件、および実施者の特定の産生要件に依存して選択可能である。細胞は、実施者の必要性および細胞自体の要件に依存して、任意の時間増殖され得る。
【0053】
特定の実施形態では、バッチおよび/またはフィード・バッチ細胞培養は、発現されたポリペプチドが十分に高い力価に一旦達すれば終わらされる。非限定的な例として、細胞培養物は、ポリペプチドの力価が100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、2000mg/L以上であるとき、終わらせてもよい。当業者は、バッチおよび/またはフィード・バッチ培養物が回収され得る1つ以上の適切な力価を選択できる。さらに、またはあるいは、特定の実施形態では、バッチおよび/またはフィード・バッチ細胞培養は、発現された糖タンパク質が実施者の必要性で決められたような所望のグリコシル化パターンを一旦示せば終わらされる。さらに、および/またはあるいは、バッチおよび/またはフィード・バッチ細胞培養は、細胞が実施者の必要性で決められるような十分に高い密度に一旦達すれば終わらされる。例えば、培養は、細胞が最大の生細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントに一旦達すれば終わらされてもよい。さらに、またはあるいは、バッチおよび/またはフィード・バッチ反応は、例えば、乳酸塩およびアンモニウムなどの代謝性廃棄産物の過剰な蓄積の前に終わらされてもよい。
【0054】
特定の実施形態では、バッチおよび/またはフィード・バッチ細胞培養は、ミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたポリペプチドの望ましくない蓄積を予防するために終わらされる。例えば、細胞培養はミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたポリペプチドの相対画分が、適切に折り畳まれるかおよび/または凝集されていないポリペプチドの30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1パーセントであるとき、終わらされてもよい。特定の実施形態では、ミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたポリペプチドの相対画分が、適切に折り畳まれるかおよび/または凝集されていないポリペプチドの1パーセント未満であるとき、細胞培養は終わらされる。特定の実施形態では、このような終止は、十分に高い力価が達成される十分前に起こり、その後に細胞が十分に高密度に達するか、および/またはその後に代謝性廃棄産物が過剰なレベルまで蓄積する。特定の実施形態では、本発明の方法および組成物に従って増殖される細胞培養物は、伝統的な培養方法を用いて可能であるよりも長時間増殖可能である。なぜなら産生されたポリペプチドのミスフォールディングおよび/または凝集が低下するからである。例えば、本発明の方法および組成物に従って増殖される細胞培養物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30以上の日数、増殖されてもよい。当業者は、ミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたポリペプチドの量を減らしながら、長期間、細胞培養物を増殖することを可能にすることで、正確に折り畳まれた凝集していない産生されたポリペプチドの量の増大が生じるということを理解する。従って、本発明の特定の方法および組成物によって、目的のポリペプチドを発現する細胞を培養するために適切な時間または最適な時間を決定することに実施者の融通性が加わる。
【0055】
特定の場合、細胞によって枯渇されるかまたは代謝されている栄養物または他の培地成分を用いて、引き続く産生の相の間に細胞培養を補充することが有益であるかまたは必須であり得る。非限定的な例として、ホルモンおよび/または他の増殖因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常は極めて低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、またはグルコースもしくは他のエネルギー源を用いて細胞培養を補充することが有益または必要である場合がある。これらの補充成分は全てが細胞培養物に一度に添加されてもよいし、または一連の付加で細胞培養物に提供されてもよい。
【0056】
特定の実施形態では、細胞は米国特許出願第11/213,308号、同第11/213,317号、および同第11/213,633号(各々、2005年、8月25日出願であって、その各々がその全体が参照によって本明細書に援用される)に記載される任意の細胞培養方法に従って増殖される。例えば、特定の実施形態では、累積アミノ酸濃度が約70mMより大きい培養培地において細胞を増殖する。特定の実施形態では、モルの累積のグルタミン対累積のアスパラギンの比が約2未満である培養培地において細胞を増殖する。特定の実施形態では、モルの累積のグルタミン対累積の総アミノ酸の比が約0.2未満である培養培地において細胞を増殖する。特定の実施形態では、モルの累積の無機イオン対累積の総アミノ酸の比が約0.4から1である培養培地において細胞を増殖する。特定の実施形態では、合わせた累積のグルタミンおよび累積のアスパラギン濃度が約16〜36mMである培養培地において細胞を増殖する。特定の実施形態では、先行する培地の条件のうち2つ、3つ、4つ、または5つ全てを含む培養培地において細胞を増殖する。特定の実施形態では、細胞培養培地中のグルタミンの濃度は、約13mM未満に制限される。特定の実施形態では、細胞培養培地中のグルタミンの濃度は、約4mM未満に制限される。
【0057】
いくつかの実施形態では、細胞は米国仮特許出願第60/830,658号(2006年7月13日出願であって、その全体が参照によって本明細書に援用される)に記載の条件のうち1つ以上のもとで増殖される。例えば、いくつかの実施形態では、約10〜600nMの濃度でマンガンを含む培養培地において細胞を増殖する。いくつかの実施形態では、細胞は、約20〜100nMの濃度のマンガンを含む培養培地において増殖される。いくつかの実施形態では、細胞は、約40nMの濃度のマンガンを含む培養培地において増殖される。
【0058】
いくつかの実施形態では、細胞は米国仮特許出願第60/856,615号(2006年11月3日出願であって、その全体が参照によって本明細書に援用される)に記載の条件のうち1つ以上のもとで増殖される。いくつかの実施形態では、細胞は、グルコースのアナログである2−デオキシグルコースを含む培地において増殖される。特定の実施形態では、細胞培養物は、2−デオキシグルコースを含む培地(ここではグルタミンが約13mM未満の濃度で存在する)中で増殖される。特定の実施形態では、細胞培養物は、2−デオキシグルコースを含む培地(ここではグルタミンが約4mM未満の濃度で存在する)中で増殖される。特定の実施形態では、細胞培養物は、ジ(2−エチルヘキシル)リン酸塩、トリブチルリン酸塩、ドデシルリン酸塩、(ジフェニルメチル)−リン酸の2−ジメチルアミノエチルエステル、[2−ジフェニルホスフィニルオキシ)エチル]トリメチルヨウ化アンモニウム、ヨード酢酸および/またはフルオロアセテートを含む培地において増殖され、必要に応じてここにはグルタミンが約13mMまたは4mM未満の濃度で存在する。
【0059】
当業者は、細胞培養の特定の特徴を最適化するために特定の細胞培養条件を仕立てることが可能で、この条件としては、限定はしないが、増殖速度、細胞生存度、細胞培養物の最終細胞密度、乳酸塩およびアンモニウムなどの有害な代謝性副産物の最終濃度、発現されるポリペプチドの最終力価、発現されるポリペプチドのミスフォールディングおよび/または凝集の減少、発現されるポリペプチドのさらに広範であるか、そうでなければさらに望ましいグリコシル化パターン、またはそれらの任意の組み合わせ、または実施者によって重要とみなされる他の条件が挙げられる。
【0060】
培地組成
本発明に従って、任意の広範な種々の増殖培地を用いてもよい。特定の実施形態では、細胞は、任意の種々の化学的に定義された培地(培地の成分が公知であってかつ管理されている)中で増殖される。いくつかの実施形態では、細胞は任意の種々の複合培地(培地の全ての成分が公知ではないか、および/または管理される)中で増殖される。
【0061】
細胞培養のための化学的に定義される増殖培地は、ここ数十年にわたって広く開発および公開されており、これには哺乳動物細胞培養のための化学的に定義された増殖培地が挙げられる。定義される培地の全ての成分が十分に特徴付けられており、そのような定義される培地は、血清または加水分解産物などの複雑な添加物を含まない。初期の培地処方物は、タンパク質産生または質についての懸念が少ないかまたは全くなしに、細胞増殖および生存度の維持を可能にするように開発された。さらに最近では、高度に生産的な細胞培養を支持する発現目的で培地処方物が開発されている。しかし、品質がより高いタンパク質またはポリペプチド、例えば、正確に折り畳み、凝集が少ないか、および/または広範であるかもしくはさらに所望されるグリコシル化パターンを有するタンパク質またはポリペプチドを生じる培地処方物を開発するためにはかなりの労力が残っている。
【0062】
定義される培地は代表的には、水中で既知の濃度のほぼ50の化合物からなる。ほとんどの定義される培地はまた、1つ以上の十分特徴づけられたタンパク質、例えば、インスリン、IGF−1、トランスフェリンまたはBSAを含むが、他に必要なタンパク質成分はなく、そのためタンパク質なしの定義された培地と呼ばれる。定義された培地の化学成分は一般に、以下の5つの広範なカテゴリーにおさまる:アミノ酸、ビタミン、無機塩、微量元素、および整理された分類を定義する雑多なカテゴリー。
【0063】
全ての培地(定義された培地または複合培地)は、細胞を増殖させるエネルギー源を含む。しばしば、このエネルギー源は、化学式C12を有する単純な単糖であるグルコースである。伝統的な培地処方物(市販の培地、例えば、Ham’s F10(Sigma)、最小基本培地(Minimal Essential Medium)([MEM],Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、およびダルベッコの改変イーグル培地([DMEM],Sigma)を含む)は、比較的高レベルのグルコースを含んでいた。グルコースは伝統的には、豊富に要求されると考えられる。なぜなら、細胞の主な代謝エネルギー源であるからである。しかし、グルコースの急速な消費は、乳酸塩の蓄積をもたらす。乳酸塩は、有害な代謝性廃棄産物であって、細胞培養における細胞増殖および再生の公知のインヒビターであるからである(Gorfien et al.,Optimized Nutrient Additives for Fed−Batch Cultures,Biopharm.International,April 2003;Lao and Toth,Effect of ammonium and lactate on growth and metabolism of a recombinant Chinese Hamster Ovary Cell Culture,Biotechnology.Prog.13(5):688−691,1997を参照のこと)。
【0064】
本発明は、本明細書に開示される特定の方法および組成物を用いて定義された培地において増殖される細胞培養物によって産生されるタンパク質またはポリペプチドが、例えば上記のような伝統的な培地で細胞が増殖される場合よりも、ポリペプチドのミスフォールディングの低下、凝集の低下、および/またはより広範であるかそうでなければより望ましいグリコシル化パターンを示すという知見を包含する。特定の実施形態では、銅を含む培地処方物が、産生されたポリペプチドのミスフォールディングおよび/もしくは凝集を低減するのに、またはより広範であるかそうでなければより望ましいグリコシル化パターンを有するポリペプチドを産生するのに有用である。例えば、本発明の培地処方物は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100μMという濃度で銅を含んでもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、グルタミン酸塩を含む培地処方物は、産生されたポリペプチドのミスフォールディングおよび/もしくは凝集を低減するのに、またはより広範であるかそうでなければより望ましいグリコシル化パターンを有するポリペプチドを産生するのに有用である。例えば、本発明の培地処方物は、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、または35mMという濃度でグルタミン酸塩を含んでもよい。
【0066】
当業者は、細胞培養培地中の銅および/またはグルタミン酸塩の前述の濃度が、バッチ培養、フィード・バッチ培養、または灌流培養を用いて達成され得るということを理解する。
【0067】
特定の実施形態では、銅およびグルタミン酸塩の両方を含む培地処方物は、産生されたポリペプチドのミスフォールディングおよび/もしくは凝集を低減するのに、またはより広範であるかそうでなければより望ましいグリコシル化パターンを有するポリペプチドを産生するのに有用である。
【0068】
本明細書に開示される本発明の培地処方物は必要に応じて、ホルモンおよび/または他の増殖因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常は極めて低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、タンパク質加水分解産物、またはグルコースもしくは他のエネルギー源によって必要に応じてまたは所望の場合補充されてもよい。本発明の特定の実施形態では、化学誘導体、例えば、ヘキサメチレン−ビス(アセトアミド)(「HMBA」)および/または酪酸ナトリウム(「NaB」)で培地を補充することが有益である場合がある。これらの任意の補充物は、培養の開始時に添加されてもよいし、または枯渇された栄養物を補給するため、もしくは別の理由で後の時点で添加されてもよい。当業者は、本発明の培地処方物に含まれてもよい任意の所望のまたは必須の補充物を承知し、かつどの特定の補充物が添加されるかをその実験および/または他の必要性に基づいて選択できるであろう。
【0069】
ポリペプチド
宿主細胞で発現可能な任意のポリペプチドは、本発明に従って生成され得る。このポリペプチドは、宿主細胞に内因性である遺伝子から発現されても、または宿主細胞に導入される異種遺伝子から発現されてもよい。ポリペプチドは、天然に存在するものであってもよいし、あるいはヒトの手によって操作または選択される配列を有してもよい。本発明に従って産生されるべきポリペプチドは、天然に個々に生じるポリペプチドフラグメントからアセンブルされてもよい。さらに、またはあるいは、この操作されたポリペプチドは、天然には存在しない1つ以上のフラグメントを含んでもよい。
【0070】
本発明に従って望ましくは発現され得るポリペプチドは、目的または有用な生物学的もしくは化学的活性に基づいて選択される場合が多い。例えば、本発明は任意の薬学的、または市販の関連の酵素、凝固因子、レセプター、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤などを発現するために使用され得る。ポリペプチドの以下の列挙(本発明に従って産生され得る)は、実際は単に例示であって、限定する言及ではない。当業者は、任意のポリペプチドが本発明に従って発現され得、彼らの特定の必要性に基づいて産生されるべき特定のポリペプチドを選択できるということを理解する。
【0071】
抗体
抗体とは特定の抗原に特異的に結合する能力を有するタンパク質である。薬剤または他の市販の剤として現在用いられているかまたは検討中である多数の抗体を考慮すれば、本発明による抗体の産生は特に目的である。例えば、本発明は、産生される抗体のミスフォールディングおよび/または凝集が低減される細胞培養中で抗体を産生するために用いられ得る。
【0072】
さらに、またはあるいは、本発明は、産生された抗体がより広範であるかそうでなければより望ましいグリコシル化パターンを有する細胞培養中で抗体を産生するために用いられ得る。種々のグリコシル化パターンを有する抗体は、それらが投与される個体で免疫応答を開始する可能性が低い場合があり、これによってさらに有効な治療レジメンが得られる。さらにまたはあるいは、種々のグリコシル化パターンを有する抗体は、その一定の領域で、改良された薬物動態学的または薬力学的エフェクター機能を示し得る。さらにまたはあるいは、種々のグリコシル化パターンを有する抗体は、それらが産生される細胞培養条件において、例えば、細胞培養中のプロテアーゼまたは他の成分に対してさらに耐性であることによってさらに安定であり得、その結果さらに高い最終力価の抗体が産生される。
【0073】
宿主細胞で発現され得る任意の抗体が、本発明に従って用いられ得る。いくつかの実施形態では、発現されるべき抗体は、モノクローナル抗体である。特定の実施形態では、モノクローナル抗体はキメラ抗体である。当該分野で公知のとおり、キメラ抗体は、2つ以上の生物体由来のアミノ酸フラグメントを含む。キメラ抗体分子は、例えば、ヒト定常領域を有する、マウス、ラットまたは他の種の抗体由来の抗原結合ドメインを含んでもよい。キメラ抗体を作製するための種々のアプローチが記載されている。例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:6851,1985;Takeda et al.,Nature 314:452,1985,Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号;Boss et al.米国特許第4,816,397号;Tanaguchi et al.,欧州特許出願公開第171496号;欧州特許出願公開第0173494号、英国特許第2177096号B(その各々がその全体が参照によって本明細書に援用される)を参照のこと。
【0074】
特定の実施形態では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。ヒト化抗体は、アミノ酸残基の大部分がヒト抗体由来であるキメラ抗体であって、従ってヒト被験体に送達された場合任意の可能な免疫反応を最小にする。ヒト化抗体では、超可変領域のアミノ酸残基は、所望の抗原特異性または親和性を付与する非ヒト種由来の残基で置換されている。特定の実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト抗体に対して少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99パーセント以上同一であるアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖系列置換および/または復帰突然変異(backmutations)の導入によって最適化される。このような変更された免疫グロブリン分子は、当該分野で公知の任意のいくつかの技術によって作製されてもよく(例えば、Teng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308〜7312,1983;Kozbor et al.,Immunology Today,4:7279,1983;Olsson et al.,Meth.Enzymol.,92:3〜16,1982)、PCT国際公開第92/06193号または欧州特許第0239400号(その各々がその全体が参照によって本明細書に援用される)の教示に従って作製されてもよい。
【0075】
特定の実施形態では、本開示の教示に従って産生される抗体は、改良されたグリコシル化パターンを示す免疫グロブリン定常領域またはFc領域を含む。例えば、本明細書の教示に従って産生される抗体は、補体および/またはFcレセプターなどのエフェクター分子に対してより強力にまたは高い特異性で結合し得、これが抗体のいくつかの免疫機能、例えば、エフェクター細胞活性、溶解、補体媒介性活性、抗体クリアランスおよび抗体半減期を制御し得る。抗体(例えば、IgG抗体)のFc領域に結合する代表的なFcレセプターとしては限定はしないが、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIならびにFcRnサブクラスのレセプターが挙げられ、これは対立遺伝子改変体および代替的にはそれらのレセプターのスプライシング形態を包含する。Fcレセプターは、RavetchおよびKinet,Annu.Rev.Immunol 9:457〜92,1991;Capel et al.,Immunomethods 4:25〜34,1994;ならびにde Haas et al.,J.Lab.Clin.Med.126:330〜41,1995(その各々がその全体が参照によって本明細書に援用される)に概説される。
【0076】
1つの非限定的な例であるが、本教示に従って産生され得る抗体は抗Aβ抗体である。抗Aβ抗体は、アルツハイマー病(「AD」)の処理における特に有望な治療の潜在的な手段である。ADは、老年性認知症を生じる進行性の疾患である(一般には:Selkoe,TINS 16:403,1993;Hardy et al.,国際公開第92/13069号;Selkoe,J.Neuropathol.Exp.Neurol.53:438,1994;Duff et al.,Nature 373:476,1995;Games et al.,Nature 373:523,1995(そのいくつかが参照によって本明細書に援用される)を参照のこと)。広義にいえば、疾患は、2つのカテゴリーにおさまる:高齢(65歳+)で生じる後記の発現、および老年期のかなり前(すなわち、35〜60歳)に生じる早期発現。両方のタイプの疾患で、病理は同じであるが、異常は早期年齢で開始する場合にはさらに重篤かつ広範になる傾向である。疾患は、脳、神経原線維変化および老人斑における少なくとも2つのタイプの病変で特徴づけられる。神経原線維変化は、お互いに対でねじれた2つの線維からなる微小管結合τタンパク質の細胞内沈着である。老人斑(すなわち、アミロイド斑)は、中心で細胞外アミロイド沈着にまたがる最大150μmの乱れた神経網の領域であって、これは脳組織の切片の顕微鏡分析によって可視である。脳内のアミロイド斑の蓄積はまた、ダウン症よび他の認識力障害に関連する。
【0077】
プラーク(斑)の主な構成は、Aβまたはβアミロイドペプチドと呼ばれるペプチドである。Aβペプチドはアミロイド前駆体タンパク質(APP)と名付けられた、より大きい膜貫通糖タンパク質の39〜43アミノ酸の4kDaの内部フラグメントである。異なるセクレターゼ酵素によるAPPのタンパク質分解性処理の結果として、Aβは主に40アミノ酸長の短い型、および42〜43アミノ酸長におよぶ長い型の両方で見出される。APPの疎水性膜貫通ドメインの一部は、Aβのカルボキシ末端で見出され、特に長い型の場合には、Aβがプラークに凝集する能力を担う場合がある。脳におけるアミロイド班の蓄積は最終的に神経細胞死滅を生じる。このタイプの神経の増悪に関連する物理的症状がアルツハイマー病を特徴づける。
【0078】
APPタンパク質内のいくつかの変異は、ADの存在と相関している(例えば、その各々が全体として参照によって本明細書に援用されるGoate et al.,Nature 349:704,1991(バリン717〜イソロイシン);Chartier Harlan et al.Nature 353:844,1991(バリン717〜グリシン);Murrell et al.,Science 254:97,1991(バリン717〜フェニルアラニン);Mullan et al.,Nature Genet.1:345,1992(二重変異変化リジン595−メチオニン596〜アスパラギン595−ロイシン596)を参照のこと)。このような変異は、APPからAβという増大または変更されたプロセシング、特にAPPの増大した量のAβの長い型(すなわち、Aβ1−42およびAβ1−43)へのプロセシングによってADを生じることが考えられる。PS1およびPS2というプレセニリン遺伝子などの他の遺伝子における変異は、APPのプロセシングに間接的に影響して増大した量の長い型のAβを作製すると考えられる(その全体が参照によって本明細書に援用されるHardy,TINS 20:154,1997を参照のこと)。
【0079】
マウスモデルも首尾よく用いて、ADにおいてアミロイド斑が有意であることが確認されている(その全体が参照によって本明細書に援用されるGames et al.,上掲;Johnson−Wood et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1550,1997)。詳細には、PDAPPトランスジェニックマウス(変異型のヒトAPPを発現し、かつアルツハイマー病を若齢で発症する)が長い型のAβを注射される場合、それらは、アルツハイマーの進行の低減、およびAβペプチドへの抗体力価の増大の両方を示す(その全体が参照によって本明細書に援用されるSchenk et al.,Nature 400,173,1999)。上で考察される観察によって、Aβが特にその長い型で、アルツハイマー病の原因要素であることが示される。
【0080】
Aβペプチドは、溶液中に存在してもよく、CNS(例えば、CSF)および血漿中で検出されてもよい。特定の条件下では、可溶性のAβが、ADを有する患者の老人斑および脳血管に見出される線維状、毒性のβシート型に変換される。Aβに対するモノクローナル抗体での免疫を含む処置は検討されている。能動的免疫および受動的免疫の両方がADのマウスモデルで試験されている。能動的免疫によって、ただし経鼻投与によってだけ、脳におけるプラークの負荷にある程度の減少が生じた。PDAPPトランスジェニックマウスの受動免疫も検討されている(その全体が参照によって本明細書に援用されるBard,et al.,Nat.Med.6:916〜19,2000)。Aβのアミノ末端および中央のドメインを認識する抗体は、Aβ沈着の食作用を刺激するが、カルボキシ末端ドメインに近いドメインに対する抗体は刺激しないことが見出された。
【0081】
受動免疫または能動免疫後のAβのクリアランスの機構は継続して検討中である。2つの機構、すなわち中枢の分解および末梢の分解が有効なクリアランスについて提唱されている。中枢の分解機構は、抗体が血液脳関門を横切る能力、プラークに結合する能力および既存のプラークのクリアランスを誘導することができる能力に依拠する。クリアランスはFcレセプター媒介性の食作用を通じて促進されることが示されている(Bard,et al.,上掲)。Aβクリアランスの末梢分解機構は、抗体の投与の際の、脳、CSFおよび血漿の間のAβの動的平衡の破壊に依拠し、これによって一区画から別の区画へのAβの輸送がもたらされる。中枢由来のAβは、CSFおよび血漿に輸送され、そこで分解される。近年の研究によって、可溶性および未結合のAβは、脳におけるアミロイド沈着の減少がなくても、ADに関連する記憶障害に関与するということが結論される。さらなる研究が、Aβクリアランスのためのこれらの経路の作用および/または相互作用を確認するために必要である(その全体が参照によって本明細書に援用されるDodel,et al.,The Lancet Vol.2:215,2003)。
【0082】
抗−Aβ抗体は、ADの処置の可能性として有望な経路である。なぜなら、それらは、Aβまたはアミロイド斑を含む他の成分に結合して、排除し得るからである。本開示の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、例えば、より効果的にアミロイド斑の成分に結合および排除することによって、ともなう重篤な副作用が2〜3であるかもしくは少なくアミロイド斑を排除することによって、またはアミロイド斑の形成または構築を予防することによって、ADまたは他の関連の疾患を良好に処置するように機能し得る。特定の実施形態では、本教示に従って産生される抗−Aβ抗体はモノクローナル抗体である。
【0083】
特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、可溶型に結合することなく凝集型のAβに特異的に結合する。特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、それらが凝集型には結合しない条件下で可溶型の抗−Aβ抗体に特異的に結合する。特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、凝集型および可溶型の両方に結合する。特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、プラーク中のAβに結合する。特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、血液脳関門を通過する。特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、被験体のアミロイド負荷を軽減する。特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、被験体の神経突起のジストロフィーを軽減する。特定の実施形態では、抗−Aβ抗体は、シナプス構造(例えば、シナプトフィジン)を維持し得る。
【0084】
いくつかの実施形態によれば、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、Aβの残基13〜28内のエピトープに結合する(天然のAβの最初のN末端残基を1と命名して)。いくつかの実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、Aβの残基19〜22内のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、種々の抗−Aβエピトープに対する結合特異性を有する複数のモノクローナル抗体が用いられる。例えば、いくつかの実施形態では、Aβの残基19〜22内のエピトープに特異的な抗体は、Aβの残基19〜22の外側のエピトープに特異的な抗体とともに同時投与される。このような抗体は、連続して投与されても、または同時に投与されてもよい。Aβ以外のアミロイド成分に対する抗体が用いられてもよい(例えば、投与されるかまたは同時投与される)。
【0085】
特定の実施形態では、本発明の教示に従って産生される抗−Aβ抗体は、他で産生される抗−Aβ抗体よりも強力または高い特異性でAβエピトープに結合する。抗体のエピトープ特異性は、公知の技術によって、例えば、ファージディスプレイライブラリー(異なるメンバーが異なる配列のAβを示す)を形成することによって決定され得る。次いで、ファージディスプレイライブラリーを、試験下の抗体に対して特異的に結合するメンバーについて選択してもよい。配列のファミリーを単離する。代表的には、このようなファミリーは、共通のコア配列、および種々の長さの隣接する配列を種々のメンバーに含む。抗体に対して特異的な結合を示す最短のコア配列は代表的には、抗体によって結合されるエピトープを規定する。あるいは、またはさらに、抗体は、抗体(そのエピトープ特異性はすでに決定されている)との競合アッセイでエピトープ特異性について試験され得る、例えば、Aβに対する結合について15C11抗体と競合する抗体は、15C11(すなわちAβ19〜22残基内)と同じまたは類似のエピトープに結合すると考えられる。特定の実施形態では、エピトープ特異性について抗体をスクリーニングすることは、治療有効性の有用な指標である。例えば、Aβの残基13〜28(例えば、Aβ19〜22)内のエピトープに結合することが確認された抗体は、本発明の方法論に従ってアルツハイマー病を予防および処置するのに有効であると考えられる。
【0086】
Aβの他の領域に対する結合なしにAβの好ましいセグメントに特異的に結合する抗体は、他の領域に対するモノクローナル抗体結合に対して、またはインタクトなAβに対するポリクローナル血清に対して多数の利点を有する。とりわけ、等しい質量の投薬量については、好ましいセグメントに特異的に結合する抗体の投薬量は、アミロイド斑を除去するのに有効な抗体のより高いモル投薬量を含む。また、好ましいセグメントに特異的に結合する抗体は、インタクトなAPPポリペプチドに対する除去反応を誘導することなくアミロイド沈着に対する除去反応を誘導し得、それによって可能性のある副作用を軽減する。
【0087】
特定の実施形態では、上記のモノクローナル抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体は、いかなる種においてもいかなる抗体にも自然には存在しないアミノ酸残基を含む。これらの外来の残基は例えば、モノクローナル抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体に対して新規なまたは改変された特異性、親和性またはエフェクター機能を付与するために利用され得る。
【0088】
凝固因子
凝固因子は、薬剤および/または市販の剤として有効であることが示されている。血友病Bは、罹患者の血液が凝固できない障害である。従って、出血を生じるなんらかの小さい傷が可能性としては命にかかわる事象である。血友病のような疾患の処置における組み換え凝固因子の重要性を考慮すれば、本発明による凝固因子の産生は特に目的のものである。例えば、本発明は、細胞培養において凝固因子を産生するために用いられ得、ここでは産生される凝固因子のミスフォールディングおよび/または凝集が軽減される。さらにまたはあるいは、本発明は、細胞培養において凝固因子を産生するために用いられ得、ここでは産生される凝固因子がさらに広範囲かそうでなければさらに望ましいグリコシル化パターンを有する。
【0089】
例えば、凝固因子IX(第IX因子または「FIX」)は、単鎖の糖タンパク質であって、それが欠乏すれば血友病Bが生じる。FIXは、活性化ペプチドの遊離によって2つの鎖のセリンプロテアーゼ(第IXa因子)へ活性化され得る単鎖酵素前駆体として合成される。第IXa因子の触媒ドメインは、重鎖に配置される(その全体が参照によって本明細書に援用される、Chang et al.,J.Clin.Invest.,100:4,1997を参照のこと)。FIXは、N連結およびO連結の両方の炭水化物を含む複数のグリコシル化部位を有する。セリン61の1つの特定のO連結構造(Sia−α2,3−Gal−β1,4−GlcNAc−β1,3−Fuc−α1−O−Ser)はかつてFIXに固有であると考えられたが、その後哺乳動物およびDrosophilaにおけるNotchタンパク質を含む2〜3の他の分子で見出されている(Maloney et al,Journal of Biol.Chem.,275(13),2000)。細胞培養中のChinese Hamster Ovary(「CHO」)細胞によって産生されるFIXは、Serine 61オリゴ糖鎖におけるある程度の可変性を示す。これらの異なる糖型および他の可能性のある糖型は、ヒトもしくは動物に投与されるとき凝固を誘導する異なる能力を有する場合があるか、および/または血液中で異なる安定性を有する場合があり、その結果、有効な凝固が少ない。
【0090】
血友病A(血友病Bから臨床的に識別不能である)は、単鎖として合成され、次いで2つの鎖の活性型にプロセシングされる別の糖タンパク質であるヒト凝固因子VIIIが欠けることによって生じる。本発明はまた、第VIII凝固因子のグリコシル化パターンを制御または変更して、その凝固活性を調節するために使用されてもよい。本発明に従って産生され得る他の凝固因子としては組織因子およびフォン・ヴィレブランド因子が挙げられる。
【0091】
酵素
薬剤および/または市販の剤として有効であることが示されており、本発明の教示にしたがって望ましくは産生され得る別の分類のポリペプチドとしては酵素が挙げられる。疾患の処置および他の商業的用途および製剤学的用途における組み換え酵素の重要性を考慮すれば、本発明による酵素の産生は特に目的のものである。例えば、本発明は、細胞培養において酵素を産生するために用いられてもよく、ここでは産生された酵素のミスフォールディングおよび/または凝集が軽減されている。
【0092】
酵素は糖タンパク質であってもよくそのグリコシル化パターンは、酵素活性に影響する。従って本発明はまた、細胞培養において酵素を産生するためにも用いられ得、ここでは産生された酵素は、さらに広範であるかそうでなければより所望されるグリコシル化パターンを有する。
【0093】
非限定的な一例であるが、グルコセレブロシダーゼ(GCR)の欠損は、ゴーシェ病として公知の状態(特定の細胞のリソソームにおけるグルコセレブロシダーゼの蓄積によって生じる)を生じる。ゴーシェ病を有する被験体は、脾腫、肝腫脹、骨障害、血小板減少症および貧血を含むある範囲の症状を示す。FriedmanおよびHayesは、一次アミノ酸配列に単一の置換を含む組み換えGCR(rGCR)が変更されたグリコシル化パターン、特に天然に存在するGCRに比較してフコースおよびN−アセチルグルコサミン残基の増大を示すということを示した(その全体が参照によって本明細書に援用される米国特許第5,549,892号を参照のこと)。
【0094】
FriedmanおよびHayesはまた、天然に存在するrGCRに比較してこのrGCRが改良された薬物動態学的特性を示すことを実証した。例えば、rGCRは天然に存在するGCRの約2倍、肝臓クッパー細胞を標的した。2つのタンパク質の一次アミノ酸配列は、単一の残基で異なるが、FriedmanおよびHayesは、rGCRの変更されたグリコシル化パターンがまた、クッパー細胞に対する標的化に影響し得ると仮定した。当業者は、変更された酵素特性、薬物動態学的特性、および/または薬力学的特性を示す酵素の他の公知の例がそのグリコシル化パターンの変更から生じているということを承知するであろう。
【0095】
増殖因子および他のシグナル伝達分子
薬剤および/または市販の剤として有効であることが示されており、かつ本発明の教示に従って望ましくは産生され得る別の分類のポリペプチドとしては、増殖因子および他のシグナル伝達分子が挙げられる。増殖因子および他のシグナル伝達分子の生物学的重要性、ならびに可能性のある治療剤としてのそれらの重要性を考慮すれば、本発明に従うこれらの分子の産生は、特に関心のあるものである。例えば、本発明は細胞培養中で増殖因子または他のシグナル伝達分子(ここではこの産生された増殖因子または他のシグナル伝達分子のミスフォールディングおよび/または凝集が低減されている)を産生するために用いられ得る。
【0096】
増殖因子は代表的には、細胞によって分泌されて、他の細胞上でレセプターに結合しかつレセプターを活性化する糖タンパク質であって、レセプター細胞における代謝性または発達性の変化を開始する。従って、本発明はまた、細胞培養中で増殖因子または他のシグナル伝達分子を産生するために用いられ得、ここでこの産生された増殖因子または他のシグナル伝達分子は、さらに広範であるかそうでなければさらに望ましいグリコシル化パターンを有する。
【0097】
哺乳動物増殖因子および他のシグナル伝達分子の非限定的な例としては、サイトカイン;上皮細胞成長因子(EGF);血小板由来増殖因子(PDGF);線維芽細胞成長因子類(FGF類)、例えば、FGFおよびbFGF;トランスフォーミング増殖因子類(TGF類)例えば、TGF−αおよびTGF−β(TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、またはTGF−β5;インスリン様増殖因子−Iおよび−II(IGF−IおよびIGF−II);des(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質類;CDタンパク質類、例えば、CD−3、CD−4、CD−8、およびCD−19;エリスロポエチン;骨誘導因子類;免疫毒素類;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えば、インターフェロン−α、−β、および−γ;コロニー刺激因子類(CSF類)、例えば、M−CSF、GM−CSF、およびG−CSF;インターロイキン類(TL類)、例えば、IL−1〜IL−10;腫瘍壊死因子(TNF)αおよびβ;インスリンA−鎖;インスリンB−鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;凝固因子、例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、およびフォン・ヴィレブランド因子;抗−凝固因子、例えば、プロテインC;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼまたはヒトの尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA);ボンベシン;トロンビン、造血増殖因子;エンケファリナーゼ;ランテス(RANTES)(regulated on activation normally T−cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP−1−α);ミュラー管阻害物質;レラキシンA鎖;レラキシンB−鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5もしくは−6(NT−3、NT−4、NT−5もしくはNT−6)、または神経成長因子、例えば、NGF−βが挙げられる。当業者は、本発明の方法および組成物に従って発現され得る他の増殖因子またはシグナル伝達分子を承知するであろう。
【0098】
増殖因子または他のシグナル伝達分子のグリコシル化パターンの特定の変更は、それらの治療特性に劇的な影響を有することが示されている。一例として、慢性無呼吸を罹患している患者の治療の一般的方法は、組み換えヒトエリスロポイエチン(rHuEPO)の頻繁な注射をその患者に与えて、赤血球の産生をブーストすることである。rHuEPOのアナログであるダルベポエチンα(Aranesp(登録商標))は、正常なrHuEPOよりも長い作用時間を有するように開発されている。ダルベポエチンαとrHuEPOとの間の一次的な相違は、2つの余分なシアル酸含有N連結オリゴ糖鎖の存在である。ダルベポイエチンαの産生はインビトロの糖鎖工学を用いて達成されている(その全体が参照によって本明細書に援用される、Elliottら,Nature Biotechnology 21(4):414〜21,2003を参照のこと)。Elliottらは、インビトロの突然変異誘発を用いてrHuEPOポリペプチド骨格へ余分のグリコシル化部位を組み込み、これによってダルベポエチンαのアナログの発現を得た。余分のオリゴ糖鎖は、EPOレセプター結合部位に対して遠位に位置し、レセプター結合を見かけ上は邪魔しない。しかし、ダルベポエチンαの半減期は、rHuEPOよりも三倍高くなり、これによってかなり有効な治療剤が得られる。
【0099】
この実施例によって、増殖因子または他のシグナル伝達分子のグリコシル化パターンにおける変更が、治療的な糖タンパク質の安定性および/または活性に劇的な影響を有し得ることが実証される。従って、本発明の方法および組成物による目的の増殖因子または他のシグナル伝達分子の発現は、改良されたグリコシル化パターンおよび改良された治療特性を有する、増殖因子またはシグナル伝達分子の発現を生じ得る。特定の実施形態では、本発明の方法および組成物に従って発現される糖タンパク質は、増大されるかまたはさらに望ましいシアリル化パターンのいずれかを有する。いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物に従って発現される糖タンパク質のシアリル化パターンは、天然または内因性の糖タンパク質のシアリル化パターンをさらに正確に反映し得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物に従って発現される糖タンパク質のシアリル化パターンは、天然または内因性の糖タンパク質のシアリル化パターンとは異なり、これによってその糖タンパク質のさらに望ましい特性または活性が得られる。
【0100】
レセプター
薬剤および/または市販の剤として有効であることが示されており、かつ本発明の教示に従って望ましくは産生され得る別の分類のポリペプチドとしてはレセプターが挙げられる。レセプターの生物学的重要性およびそれらの可能性のある治療剤としての重要性を考慮すれば、本発明によるこれらの分子の産生は特に関心のあるものである。例えば、本発明は、細胞培養においてレセプターを産生するために用いられてもよく、ここでは産生されたレセプターのミスフォールディングおよび/または凝集が軽減される。
【0101】
レセプターは代表的には、細胞外のシグナル伝達リガンドを認識することによって機能する膜貫通糖タンパク質である。従って、本発明はまた、細胞培養(産生されたレセプターがさらに広範であるかそうでなければ望ましいグリコシル化パターンを有する)中でレセプターを産生するために用いられてもよい。レセプターはリガンド認識ドメインに加えてタンパク質キナーゼドメインを有する場合が多い。このタンパク質キナーゼドメインは、リガンド結合の際に標的細胞内分子をリン酸化することによってシグナル伝達経路を開始し、これによって細胞内の発達または代謝性の変化がもたらされる。特定の実施形態では、膜貫通レセプターの細胞外ドメインを、本明細書に開示される方法およびシステムに従って産生する。特定の実施形態では、膜貫通レセプターの細胞内ドメインは、本明細書に開示される方法およびシステムに従って産生される。
【0102】
特定の実施形態では、腫瘍壊死因子インヒビターは、腫瘍壊死因子αおよびβレセプターの形態で(TNFR−1;1991年3月20日公開の欧州特許第417,563号、TNFR−2,1991年3月20日公開の欧州特許第417,014号、その各々がその全体が参照によって本明細書に援用される)本発明のシステムおよび方法に従って発現される(概説については、その全体が参照によって本明細書に援用されるNaismithおよびSprang,J Inflamm.47(1−2):1−7,1995−96を参照のこと)。いくつかの実施形態によれば、腫瘍壊死因子インヒビターは、可溶性のTNFレセプターを含む。特定の実施形態では、腫瘍壊死因子インヒビターは、可溶性のTNFR−Igを含む。特定の実施形態では、本発明のTNFインヒビターはTNFRIおよびTNFRIIの可溶型である。特定の実施形態では、本発明のTNFインヒビターは、可溶性のTNF結合タンパク質である。特定の実施形態では、本発明のTNFインヒビターは、TNFR−Ig融合タンパク質、例えば、TNFR−Fcまたはエタネルセプト(etanercept)である。本明細書において用いる場合、「エタネルセプト」とは、p75 TNF−αレセプターの細胞外部分の2つの分子(各々の分子は、ヒトIgG1の235アミノ酸のFc部分からなる)の二量体であるTNFR−Fcを指す。
【0103】
いくつかの実施形態では、本発明に従って産生されるべきレセプターは、レセプターチロシンキナーゼ類(RTK類)である。RTKファミリーは、種々の機能の多くの細胞タイプに重要であるレセプターを包含する(例えば、その各々が参照によって本明細書に援用される、YardenおよびUllrich,Ann.Rev.Biochem.57:433−478,1988;UllrichおよびSchlessinger,Cell 61:243−254,1990を参照のこと)。RTKsの非限定的な例としては、腫瘍壊死因子αおよびβのレセプター、線維芽細胞成長因子(FGF)レセプターファミリーのメンバー、上皮成長増殖因子(EGF)レセプターファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子(PDGF)レセプター、免疫グロブリンおよびEGF相同性ドメイン−1(TIE−1)およびTIE−2レセプター(Sato et al.,Nature 376(6535):70−74,1995、その全体として参照によって本明細書に援用される)およびc−Metレセプターを有するチロシンキナーゼが挙げられ、そのいくつかは血管形成を直接または間接的に促進することが示唆されている(Mustonen and Alitalo,J.Cell Biol.129:895−898,1995)。RTKの他の非限定的な例としては、胎児肝臓キナーゼ1(FLK−1)(キナーゼ挿入ドメイン含有レセプター(kinase insert domain−containing receptor)(KDR)(Terman et al.,Oncogene 6:1677−83,1991)または血管内皮細胞増殖因子レセプター2,VEGFR−2と呼ばれることもある)、fms−様チロシンキナーゼ−1(Flt−1)(DeVries et al.Science 255;989−991,1992;Shibuya et al.,Oncogene 5:519−524,1990)、(血管内皮細胞増殖因子レセプター1(VEGFR−1)、ニューロピリン−1、エンドグリン、エンドシアリンおよびAx1呼ばれるときもある)が挙げられる。当業者は、本発明に従って発現され得る他のレセプターを認識する。
【0104】
特定の実施形態では、本発明に従って産生されるレセプターとは、Gタンパク質カップリングレセプター(GPCR)である。GPCR類は薬物の作用および開発のための主な標的である。実際、レセプターは、現在公知の薬物の半分以上をもたらしており(Drews,Nature Biotechnology,14:1516,1996)GPCR類は、GPCRを拮抗するかまたはアゴナイズする臨床的に処方される薬物のうち30%で治療介入の最も重要な標的となっている(Milligan,G.and Rees,S.,TIPS,20:118〜124,1999)。これらのレセプターは確立された、治療標的として証明された歴史を有しているので、本発明によるGPCR類の産生も特に関心のあるものである。
【0105】
GPCR類は、7つの膜貫通ドメインを有するタンパク質である。GPCRに対するリガンドの結合の際、シグナルが細胞内で伝えられこれが細胞の生物学的または物理学的特性の変化を生じる。GPCR類は、Gタンパク質およびエフェクター類(Gタンパク質によって調節される細胞内酵素類およびチャネル類)とともに、細胞外インプットに対して細胞内第二メッセンジャーの状態を接続するモジュラー・シグナル伝達システムの成分である。これらの遺伝子および遺伝子産物は疾患の潜在的な原因因子である。
【0106】
GPCRタンパク質のスーパーファミリーは現在、異なる種由来の同じレセプターであるオルトログとは反対の、遺伝子複製(または他のプロセス)によって作製される改変体に相当するレセプターである、パラログを250タイプを超えて含む。このスーパーファミリーは、以下の5つのファミリーに分類され得る:第Iのファミリー、ロドプシンによって代表されるレセプターおよびβ2アドレナリン受容体であって、現在200を超える固有のメンバーで代表される;第IIのファミリー、最近特徴付けられた副甲状腺ホルモン/カルシトニン/セクレチンレセプターファミリー;第IIIのファミリー、哺乳動物における代謝型グルタミン酸レセプターファミリー;第IVファミリー、cAMPレセプターファミリー、D.discoideumの走化性および発達に重要;ならびに第Vのファミリー、真菌交配フェロモンレセプター、例えば、STE2。
【0107】
GPCR類としては、生体アミン、炎症の脂質メディエーター、ペプチドホルモンおよび分泌シグナルメディエーターのレセプターが挙げられる。GPCRは、レセプターがその細胞外リガンドに結合するとき活性化される。GPCRにおける高次構造の変化(リガンド−レセプター相互作用から生じる)は、GPCR細胞内ドメインに対するGタンパク質の結合親和性に影響する。これによってGTPはGタンパク質に対して増強された親和性で結合できる。
【0108】
GTPによるGタンパク質の活性化で、Gタンパク質αサブユニットとアデニレートシクラーゼまたは他の第二のメッセンジャー分子のジェネレイターとの相互作用がもたらされる。この相互作用によって、アデニレートシクラーゼの活性が、したがって第二のメッセンジャー分子cAMPの産生が調節される。cAMPは他の細胞内タンパク質のリン酸化および活性を調節する。あるいは、他の第二のメッセンジャー分子、例えば、cGMPまたはエイコシノイドの細胞レベルは、GPCR類の活性によって上方制御または下方制御され得る。Gタンパク質サブユニットは、GTPaseによるGTPの加水分解によって無力化され、α、βおよびγサブユニットが再会合する。次いでヘテロ三量体Gタンパク質が、アデニレートシクラーゼまたは他の第二のメッセンジャー分子ジェネレイターから解離する。GPCRの活性はまた、細胞内および細胞外のドメインまたはループのリン酸化によって調節され得る。
【0109】
グルタミン酸レセプターは神経伝達に重要であるGPCR類の群を形成する。グルタミン酸塩はCNSにおける主な神経伝達物質であって、神経の可塑性、認知、記憶、学習およびいくつかの神経学的障害、例えば、てんかん、脳卒中および神経変性に重要な役割を有すると考えられている(Watson,S.およびS.Arkinstall,The G−Protein Linked Receptor Facts Book,Academic Press,San Diego CA,pp.130〜132,1994)。血管作動性の腸ポリペプチド(VIP)ファミリーは、関連のポリペプチド(その作用がまたGPCRによって媒介される)の群である。このファミリーの重要なメンバーは、VIP自体、セクレチン、および成長ホルモン放出因子(GRF)である。VIPは、平滑筋の弛緩、種々の組織における分泌の刺激または阻害、種々の免疫細胞活性の調節、ならびにCNSにおける種々の興奮活性および阻害活性を含む広範なプロフィールの生理学的作用を有する。セクレチンは、膵臓および腸で酵素およびイオンの分泌を刺激して、また脳には少量存在する。
【0110】
一般には、本発明の実施者は、目的の彼らのタンパク質またはポリペプチドを選択し、その正確なアミノ酸配列を知るであろう。本発明に従って発現されるべき任意の所定のポリペプチドは、それ自体の特定の特徴を有し、かつ培養された細胞の細胞密度または生存度に影響し得、そして同一の培養条件下で増殖される別のポリペプチドまたはタンパク質よりも低レベルで発現されてもよい。当業者は、本明細書に記載の本発明の培地および方法を適切に改変して、所定の発現されたポリペプチドまたはタンパク質の細胞増殖、力価、グリコシル化、折り畳みまたは任意の他の特性を最適化することができるであろう。
【0111】
宿主細胞中へのポリペプチドの発現のための遺伝子の導入
特定の実施形態では、細胞へ導入された核酸分子は、本発明に従って発現されることが望ましいポリペプチドをコードする。特定の実施形態では、核酸分子は、細胞による所望のポリペプチドの発現を誘導する遺伝子産物をコードしてもよい。例えば、導入された遺伝子物質は、内因性または異種のポリペプチドの転写を活性化する転写因子をコードしてもよい。あるいはまたはさらに、導入された核酸分子は、細胞によって発現されるポリペプチドの翻訳または安定性を増大してもよい。
【0112】
哺乳動物宿主細胞へ目的のポリペプチドの発現を達成するのに十分な核酸を導入するために適切な方法は、当該分野で公知である。例えば、Gething et al.,Nature,293:620〜625,1981;Mantei et al.,Nature,281:40〜46,1979;Levinson et al.欧州特許第117,060号;および欧州特許第117,058号(各々が参照によって本明細書に援用される)を参照のこと。哺乳動物細胞については、細胞へ遺伝物質を導入する一般的な方法としては、リン酸カルシウム沈殿方法、Grahamおよびvan der Erb,Virology,52:456−457,1978、またはリポフェクタミン(商標)(Gibco BRL)法(Hawley−Nelson,Focus 15:73,1993)が挙げられる。哺乳動物細胞宿主系形質転換体の一般的な局面は、1983年8月16日発行の米国特許第4,399,216号でAxelによって記載されている。哺乳動物細胞へ遺伝物質を導入するための種々の技術については、Keown et al.,Methods in Enzymology,185:527〜537,1990,and Mansour et al.,Nature,336:348〜352,1988を参照のこと。
【0113】
特定の実施形態では、導入されるべき核酸は、裸の核酸分子の形態である。これらの実施形態のいくつかの局面では、細胞に導入された核酸分子は、ポリペプチドおよび必要な遺伝子制御エレメントをコードする核酸のみからなる。これらの実施形態のいくつかの局面では、ポリペプチドをコードする核酸(必須の調節性エレメントを含む)は、プラスミドベクター内に含まれる。哺乳動物細胞におけるポリペプチドの発現のための適切なベクターの非限定的な代表的な例としては、pCDNA1;pCD(Okayama,et al.,Mol.Cell Biol.5:1136〜1142,1985を参照のこと);pMClneo ポリ−A(Thomas,et al.,Cell 51:503〜512,1987を参照のこと);バキュロウイルスベクター、例えば、pAC 373またはpAC610;CDM8(Seed,B.,Nature 329:840,1987)、およびpMT2PC(Kaufman,et al.,EMBO J.6:187〜195,1987)が挙げられる。特定の実施形態では、細胞に導入されるべき核酸分子は、ウイルスベクター内に含まれる。例えば、ポリペプチドをコードする核酸は、ウイルスゲノム(または部分的なウイルスゲノム)に挿入されてもよい。ポリペプチドの発現を指向する調節性エレメントは、ウイルスゲノムに挿入される核酸とともに含まれてもよいし(すなわち、ウイルスゲノムに挿入される遺伝子に対して連結される)、またはウイルスゲノム自体によって提供されてもよい。
【0114】
DNAおよびリン酸カルシウムを含む沈殿物を形成することによって裸のDNAを細胞に導入し得る。さらにまたはあるいは、DNAおよびDEAEデキストランの混合物を形成すること、ならびにこの混合物と細胞との混合物をインキュベートすること、または細胞とDNAとを一緒に適切な緩衝液中でインキュベートすることおよびこの細胞を高電圧の電気的パルスに供すること(すなわち、エレクトロポレーション)によって、裸のDNAを細胞に導入してもよい。ある実施形態では、DNAと陽イオン性脂質を含むリポソーム懸濁液とを混合することによって裸のDNAを細胞に導入する。次いでDNA/リポソーム複合体を細胞とともにインキュベートする。裸のDNAはまた、例えば、マイクロインジェクションによって細胞に直接注射してもよい。
【0115】
さらにまたはあるいは、DNAをポリリジンのような陽イオン(細胞表面レセプターについてのリガンドに結合される)と複合することによって、裸のDNAを細胞に導入してもよい(例えば、Wu,G.およびWu,C.H.,J.Biol.Chem.263:14621,1988;Wilson et al.,J.Biol.Chem.267:963〜967,1992;および 米国特許第5,166,320号を参照のこと)。レセプターに対するDNA−リガンド複合体の結合によって、レセプター媒介性食作用によるDNAの取り込みが容易になる。
【0116】
特定の核酸配列、例えば、ポリペプチドをコードするcDNAを含むウイルスベクターの使用は、細胞へ核酸配列を導入するための一般的アプローチである。ウイルスベクターを細胞に注射することは、細胞の大部分が核酸を受け取るという利点を有し、これによって核酸を受け取っている細胞の選択の必要性を無くすることができる。さらに、ウイルスベクター内にコードされる(例えば、ウイルスベクターに含まれるcDNAによる)分子は一般に、ウイルスベクター核酸を取り込んでいる細胞で効率的に発現される。
【0117】
欠損レトロウイルスは遺伝子治療目的のための遺伝子移入における使用について十分特徴づけられている(概説については、Miller,A.D.,Blood 76:271,1990を参照のこと)。組み換えレトロウイルスは、レトロウイルスゲノムに挿入された目的のポリペプチドをコードする核酸を有して構築されてもよい。さらに、レトロウイルスゲノムの一部を除いて、レトロウイルスを複製欠損にさせてもよい。次いで複製欠損レトロウイルスをビリオンにパッケージングし、これを用いて、標準的な技術によるヘルパーウイルスの使用を通じて標的細胞を感染させてもよい。
【0118】
アデノウイルスのゲノムが目的のポリペプチドをコードしかつ発現するが、正常な溶解性のウイルスのライフサイクルで複製する能力に関しては不活性であるように、そのアデノウイルスゲノムを操作してもよい。例えば、Berkner et al.,BioTechniques 6:616,1988;Rosenfeld et al.,Science 252:431〜434,1991;およびRosenfeld et al.,Cell 68:143〜155,1992を参照のこと。アデノウイルス株Ad5型dl324または他の株のアデノウイルス(例えば、Ad2、Ad3、Ad7など)から誘導された適切なアデノウイルスベクターは、当該分野で公知である。組み換えアデノウイルスは、それらが有効な遺伝子送達ビヒクルであるために細胞分裂の必要がなく、かつ気道上皮(Rosenfeld et al.,1992,上述)、内皮細胞(Lemarchand et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6482〜6486,1992)、肝細胞(Herz and Gerard,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812〜2816,1993)および筋細胞(Quantin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581〜2584,1992)を含む広範な種々の細胞タイプに感染するために用いられ得るという点で有利である。さらに、導入されたアデノウイルスDNA(およびその中に含まれる外来のDNA)は、宿主細胞のゲノムに組み込まれないが、エピソームを保持しており、それによって、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えば、レトロウイルスDNA)に組み込まれる状況では挿入突然変異の結果として生じ得る潜在的な問題を回避する。さらに、外来DNAについてのアデノウイルスゲノムの保持能力は、他の遺伝子送達ベクターに対して大きい(最大8キロベース)(Berkner et al.,上述;Haj−AhmandおよびGraham,J.Virol.57:267,1986)。現在使用されるほとんどの複製欠損アデノウイルスベクターは、ウイルスのE1およびE3遺伝子の全てまたは一部を欠失するが、アデノウイルス遺伝子物質の80%程度の大きさを保持する。
【0119】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は天然に存在する欠損ウイルスであって、別のウイルス、例えば、アデノウイルスまたはヘルパーウイルスを、効率的な複製および生産的ライフサイクルのためのヘルパーウイルスとして要する(概説については、Muzyczka et al.,Curr.Topics in Micro.and Immunol.158:97〜129,1992を参照のこと)。このウイルスはまた、そのDNAを分裂していない細胞に組み込み得る2〜3のウイルスのうちの1つであって、高い頻度の安定な組み込みを示す(例えば、Flotte et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.7:349〜356,1992;Samulski et al.,J.Virol.63:3822〜3828,1989;およびMcLaughlin et al.,J.Virol.62:1963〜1973,1989を参照のこと)。300塩基対程度の小さいAAVを含むベクターは、パッケージング可能でかつ、組み込み可能である。外因性のDNAのスペースは、約4.5kbに限られる。Tratschin et al.,(Mol.Cell.Biol.5:3251〜3260,1985)に記載されるようなAAVベクターは、DNAを細胞に導入するために用いられ得る。AAVベクターを用いて種々の核酸が種々の細胞タイプに導入されている(例えば、Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466〜6470,1984;Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072〜2081,1985;Wondisford et al.,Mol.Endocrinol.2:32〜39,1988;Tratschin et al,J.Virol.51:611〜619,1984;およびFlotte et al.,J.Biol.Chem.268:3781〜3790,1993を参照のこと)。
【0120】
細胞の集団へ核酸分子を導入するために用いられる方法が、細胞の大部分の改変、および細胞によるポリペプチドの効果的な発現を生じるとき、この細胞の改変された集団を、集団内の個々の細胞のさらなる単離またはサブクローニングなしに用いてもよい。すなわち、この細胞の集団によるポリペプチドの十分な産生があり得、その結果、さらなる細胞の単離は必要なく、その集団は細胞培養を播種してポリペプチドを産生するために直ちに用いられ得る。ある実施形態では、ポリペプチドを効率的に産生する、単一の細胞から均質な集団の細胞を単離および増殖することが所望され得る。
【0121】
目的のポリペプチドをコードする細胞に核酸分子を導入する代わりに、導入された核酸は、別のポリペプチド、タンパク質または調節エレメント(細胞によって内因性に産生されるタンパク質またはポリペプチドの発現を誘導するかそのレベルを増大する)をコードしてもよい。例えば、細胞は特定のポリペプチドを発現可能である場合もあるが、細胞のさらなる処理なしには発現できない場合もある。同様に、細胞は所望の目的のために不十分な量のポリペプチドを発現する場合もある。従って、目的のポリペプチドの発現を刺激する因子は、細胞によるそのポリペプチドの誘導またはその発現の増大のために用いられ得る。例えば、導入された核酸分子は、目的のポリペプチドの転写を活性化または上方制御する転写因子をコードし得る。このような転写因子の発現が次に、目的のポリペプチドの発現、またはさらに堅調な発現をもたらす。同様に、この導入された核酸分子は、目的のポリペプチドの調節性領域から1つ以上の転写リプレッサーを判定する1つ以上の調節エレメントを含んでもよい。
【0122】
特定の実施形態では、ポリペプチドの発現を指向する核酸は、宿主細胞に安定に導入される。特定の実施形態では、ポリペプチドの発現を指向する核酸は、宿主細胞に一過性に導入される。当業者は、彼らの実験の必要性に基づいて細胞に核酸を安定に導入するか、または一過性に導入するかを選択可能であろう。
【0123】
目的のポリペプチドをコードする遺伝子は、1つ以上の調節性遺伝子制御エレメントに対して必要に応じて連結されてもよい。いくつかの実施形態では、遺伝子制御エレメントは、ポリペプチドの構成的発現を指向する。いくつかの実施形態では、目的のポリペプチドをコードする遺伝子の誘導性発現を提供する遺伝子制御エレメントを用いてもよい。誘導性の遺伝子制御エレメント(例えば、誘導性プロモーター)の使用によって、細胞でのポリペプチドの産生の調節が可能になる。真核生物細胞での使用のための潜在的に有用な誘導性の遺伝子制御エレメントの非限定的な例としては、ホルモン調節性エレメント(例えば、Mader,S.およびWhite,J.H.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603〜5607,1993を参照のこと)、合成のリガンド調節性エレメント(例えば、Spencer,D.M.et al.,Science 262:1019〜1024,1993)および電離放射線−調節性エレメント(例えば、Manome,Y.et al.,Biochemistry 32:10607〜10613,1993;Datta,R.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10149〜10153,1992を参照のこと)が挙げられる。当該分野で公知のさらなる細胞特異的または他の調節性のシステムは、本明細書に記載の方法および組成物に従って用いられ得る。
【0124】
当業者は、本発明の教示に従って細胞に目的のポリペプチドを発現させる遺伝子を導入する方法を選択し、および必要に応じて適切に改変することが可能であろう。
【0125】
発現されたポリペプチドの単離
特定の実施形態では、本発明に従って発現されるタンパク質またはポリペプチドを単離および/または精製することが所望される。特定の実施形態では、発現されたポリペプチドまたはタンパク質は、培地中に分泌され、従って細胞および他の固体は、例えば、精製プロセスの最初の工程として、遠心分離または濾過などによって、除去され得る。
【0126】
いくつかの実施形態では、発現されたポリペプチドまたはタンパク質は、宿主細胞の表面に結合される。このような実施形態では、培地を取り出して、ポリペプチドまたはタンパク質を発現する宿主細胞を精製プロセスの最初の工程として溶解する。哺乳動物宿主細胞の溶解は、ガラスビーズによる物理的な破壊、および高いpH条件への暴露を含む、当業者に公知の多数の手段によって達成され得る。
【0127】
ポリペプチドまたはタンパク質は、限定はしないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、サイズ排除、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)、ゲル濾過、遠心分離、または溶解度差、エタノール沈殿を含む標準的な方法によって、またはタンパク質の精製のための任意の他の利用可能な技術によって単離および精製され得る(例えば、その各々がその全体として参照によって本明細書に援用されるScopes,Protein Purification Principles and Practice 第2版,Springer−Verlag,New York,1987;Higgins,S.J.およびHames,B.D.(編),Protein Expression:A Practical Approach,Oxford Univ Press,1999;ならびにDeutscher,M.P.,Simon,M.I.,Abelson,J.N.(編),Guide to Protein Purification:Methods in Enzymology(Methods in Enzymology Series,Vol 182),Academic Press,1997を参照のこと)。詳細にはイムノアフィニティークロマトグラフィーについては、タンパク質に対して惹起されており、静止した支持体に固定された抗体を含むアフィニティーカラムに対して、そのタンパク質を結合することによって、そのタンパク質を単離してもよい。アフィニティータグ、例えば、インフルエンザコート配列、ポリ−ヒスチジン、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼを、標準的な組み換え技術によってタンパク質に結合させて、適切なアフィニティーカラムにまたがって通過することによって容易な精製を可能にすることができる。プロテアーゼインヒビター、例えば、フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチンまたはアプロチニンを、精製プロセスの間にポリペプチドまたはタンパク質の変性を低減または排除するために任意のまたは全ての段階で添加してもよい。プロテアーゼインヒビターは、発現されたポリペプチドまたはタンパク質を単離および精製するために細胞を溶解しなければならない場合、特に有利である。
【0128】
本発明の特定の方法に従って発現されるタンパク質またはポリペプチドは、発明的でない細胞培養条件下で増殖される場合、よりも広範な、および/または改変されたグリコシル化パターンを有し得る。従って、精製工程で開拓され得る本発明の1つの実際的な利点とは、特定の本発明の方法および/または組成物に従って増殖される糖タンパク質に存在する追加のおよび/または修飾された糖残基が、そのタンパク質に対して別個の生化学的特性(その糖タンパク質を、発明ではない方法および/または組成物に従って増殖された糖タンパク質で可能であるよりも簡易に、またはより大きい純度まで精製するために実施者によって用いられ得る)を付与し得るということである。
【0129】
当業者は、正確な精製技術は、精製されるべきポリペプチドまたはタンパク質の特徴、そのポリペプチドまたはタンパク質が発現される細胞の特徴、および/または細胞が増殖される培地の組成物に依存して変化し得るということを理解するであろう。
【0130】
免疫原性組成物
本開示の教示に従って産生されるタンパク質またはポリペプチドはまた、例えば、ワクチンなどの免疫原性組成物中でもちいられてもよい。特定の実施形態では、産生されたタンパク質またはポリペプチドのミスフォールディングおよび/または凝集の軽減によって、より有効な免疫原性組成物が生じる。
【0131】
特定の実施形態では、本発明の特定の方法および/または組成物に従って糖タンパク質を産生することによって得られる、改良された糖タンパク質のパターンによって、より有効な免疫原性組成物が生じる。例えば、産生された糖タンパク質を含む免疫原性組成物は、より有効な免疫応答を誘発し得、ここでは被験体の免疫系が糖タンパク質に対する多数の抗体を産生するか、および/または免疫原性糖タンパク質により大きい特異性を示す抗体を産生する。さらにまたはあるいは、この糖タンパク質は、副作用が少ないか、および/または重篤度の低い免疫応答を誘発し得る。特定の実施形態では、本発明の免疫原性組成物は、1つ以上の糖タンパク質を含む。さらにまたはあるいは、本発明の免疫原性組成物は、1つ以上の生理学的に受容可能な担体を包含し得る。
【0132】
一般には、本発明の免疫原性組成物(単数または複数)の成分の適切な「有効量」または投薬量の選択は代表的には、限定はしないが使用される免疫原性組成物中の選択されるポリペプチド(単数または複数)の特定、ポリペプチド(単数または複数)のグリコシル化パターン、および被験体の身体条件(最も詳細には免疫される被験体の全身的健康状態、年齢および体重を含む)を含む種々の要因に依存する。当該分野で公知のとおり、投与の特定の方法および経路、ならびに免疫原性組成物中の追加の成分の存在がまた、DNAプラスミド組成物の投薬量および量に影響し得る。有効用量のこのような選択および上向きまたは下向きの調節は、当該分野の技術の範囲内である。免疫応答(限定はしないが防御反応を含む)を誘導するために、または重大な有害な副作用なしに患者で外因性の効果を生じるのに必要である免疫原性組成物の量は、これらの要因に依存して変化する。適切な投薬量は、当業者によって容易に決定される。
【0133】
本発明の特定の免疫原性組成物は、アジュバントを含んでもよい。アジュバントとは、免疫原または抗原とともに投与されるとき免疫応答を増強する物質である。多数のサイトカインまたはリンホカインが免疫調節活性を有することが示されており、従って、アジュバントとして用いられ得、これには限定はしないが、インターロイキン1−α,1−β,2,4,5,6,7,8,10,12(例えば、その全体として参照によって本明細書に援用される米国特許第5,723,127号を参照のこと),13,14,15,16,17および18(およびその変異型)、インターフェロン−α、βおよびγ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(例えば、その全体として参照によって本明細書に援用される米国特許第5,078,996号を参照のこと)、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、GSF、および腫瘍壊死因子αおよびβが挙げられる。本発明において有用なさらに別のアジュバントとしては、ケモカインが挙げられ、これには限定はしないが、MCP−1、MIP−1α、MIP−1β、およびRANTESが挙げられる。アドヘシン分子、例えば、セレクチン、例えば、L−セレクチン、P−セレクチンおよびE−セレクチンはまた、アジュバントとして有用であり得る。さらに他の有用なアジュバントとしては限定はしないが、ムチン様分子、例えば、CD34、GlyCAM−1およびMadCAM−1、インテグリンファミリーのメンバー、例えば、LFA−1、VLA−1、Mac−1およびp150.95、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、例えば、PECAM、ICAM類、例えば、ICAM−1、ICAM−2およびICAM−3、CD2およびLFA−3、同時刺激分子、例えば、CD40およびCD40L、増殖因子類(これには、血管増殖因子、神経増殖因子、線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、B7.2、PDGF、BL−1、および血管内皮増殖因子が含まれる)、レセプター分子類(これにはFas、TNFレセプター、Flt、Apo−1、p55、WSL−1、DR3、TRAMP、Apo−3、AIR、LARD、NGRF、DR4、DR5、KILLER、TRAIL−R2、TRICK2、およびDR6が含まれる)が挙げられる。さらに別のアジュバント分子としては、カスパーゼ(ICE)が挙げられる。また、その各々がその全体として参照によって本明細書に援用される国際公開第98/17799号およびWO99/43839号も参照のこと。
【0134】
またアジュバントとして有用なのはコレラ毒素(CT)およびその変異体であって、これには公開された国際公開第00/18434号(ここではグルタミン酸がアミノ酸29位置で別のアミノ酸(アスパラギン酸以外、例えば、ヒスチジン)によって置換されている)に記載されるものを含む。類似のCT類または変異体類は、公開された国際公開第02/098368号(ここではイソロイシンがアミノ酸16位置で別のアミノ酸によって、単独で、またはアミノ酸位置68のセリンの別のアミノ酸での置換と組み合わせてのいずれかで置換されているか;および/またはアミノ酸位置72のバリンが別のアミノ酸で置換されている)に記載されている。他のCT毒素類は、公開された国際公開第02/098369号(ここではアルギニンがアミノ酸25位置で別のアミノ酸によって置換されているか;および/またはあるアミノ酸がアミノ酸位置49に挿入されているか;および/または2つのアミノ酸がアミノ酸位置35および36に挿入されている)に記載されている。これらの引用文献の各々はその全体が本明細書に援用される。
【0135】
特定の実施形態では、本発明の免疫原性組成物は、ヒトにまたは非ヒト脊椎動物に対して、限定はしないが、鼻腔内、口腔、膣、直腸、非経口、皮内、経皮(例えば、その全体が参照によって本明細書に援用される国際公開第98/20734号を参照のこと)、筋肉内、腹腔内、皮下、静脈内および動脈内を含む種々の経路によって投与される。適切な経路は、用いられる免疫原性組成物の性質、患者の年齢、体重、性別および一般的全身健康状態、ならびに免疫原性組成物に存在する抗原、ならびに/または当業者に公知の他の因子に依存して選択され得る。
【0136】
特定の実施形態では、免疫原性組成物は、複数回投与される。免疫原性組成物の投与の順序および個々の投与の間の期間は、物理学的特徴および方法の適用に対する宿主の正確な応答を含むがこれらに限定されない、当業者に公知の関連の因子に基づいて当業者によって選択され得る。
【0137】
薬学的処方物
特定の実施形態では、産生されるポリペプチドまたはタンパク質は、薬理学的活性を有し、かつ製剤の調製に有用である。上記の本発明の組成物は、被験体に投与されてもよいし、または最初に、非経口、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、経口、口腔、舌下、経鼻、気管支、眼、経皮(局所)、経粘膜、直腸および膣内経路を含むがこれらに限定されない任意の利用可能な経路による送達のために処方されてもよい。本発明の薬学的組成物は代表的には、哺乳動物細胞株から発現される精製されたポリペプチドまたはタンパク質、送達因子(すなわち、上記のようなカチオン性ポリマー、ペプチド分子輸送体、サーファクタントなど)を、薬学的に受容可能な担体と組み合わせて含む。本明細書において用いる場合、「薬学的に受容可能な担体」という言葉は、薬学的な投与に適合する、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを包含する。補充的に活性な化合物も、本発明の組成物に組み込まれてもよい。例えば、本発明に従って産生されるタンパク質またはポリペプチドは、全身の薬物療法のための薬物、例えば、毒素、低分子量細胞傷害薬、生物学的応答調節剤、および放射性核種にコンジュゲートされてもよい(例えば、Kunz et al.,Calicheamicin derivative−carrier conjugates,米国特許出願公開第20040082764号A1を参照のこと)。本発明に従う薬学的組成物を調製するのに有用な追加の成分としては例えば、香味料、潤滑剤、可溶化剤、懸濁剤、充填剤、流動促進剤、圧縮補助剤、結合剤、錠剤崩壊剤、カプセル化物質、乳化剤、緩衝液、防腐剤、甘味料、増粘剤、着色剤、粘性調節剤、安定剤もしくは浸透圧調節剤、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0138】
あるいは、またはさらに、本発明に従って産生されるタンパク質またはポリペプチドは、1つ以上の追加の薬学的に活性な剤と組み合わせて(同時にまたは連続して)投与されてもよい。これらの薬学的に活性な剤の例示的な列挙は、その全体が参照によって本明細書に援用されるPhysicians’ Desk Reference,第55版、Medical Economics Co.,Inc.,Montvale,N.J.,2001公開、において見出され得る。これらの列挙された剤の多くについて、薬学的に有効な投薬量およびレジメンが当該分野で公知であり;多くがPhysicians’ Desk Reference自体に提示されている。
【0139】
固体の薬学的組成物は、1つ以上の固体の担体、および必要に応じて1つ以上の他の添加物、例えば、香味料、潤滑剤、可溶化剤、懸濁剤、充填剤、流動促進剤、圧縮補助剤、結合剤、もしくは錠剤崩壊剤、またはカプセル化物質を含んでもよい。適切な固体担体としては例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、滑石、糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシルメチル・セルロース・ナトリウム、ポリビニルピロリドン、低融点ワックス、もしくはイオン交換樹脂、またはそれらの組み合わせが挙げられる。粉末の薬学的組成物では、担体は、微細に粉砕された固体であってもよく、これが微細に粉砕された活性成分と混合される。錠剤では、活性成分は一般には、適切な割合で必須の圧縮特性を有する担体と、および必要に応じて他の添加物と混合されて、所望の形状および大きさに圧縮される。
【0140】
液体の薬学的組成物は、本発明に従って発現されたポリペプチドまたはタンパク質、および溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシル、または圧縮組成物を形成する1つ以上の液体担体を含んでもよい。薬学的に受容可能な液体担体としては、例えば、水、有機溶媒、薬学的に受容可能なオイルもしくは脂肪、またはそれらの組み合わせが挙げられる。その液体担体は、他の適切な薬学的な添加物、例えば、可溶化剤、乳化剤、緩衝液、防腐剤、甘味料、香味料、懸濁剤、増粘剤、着色剤、粘性調節剤、安定剤もしくは浸透圧調節剤、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。液体処方物が小児の使用を意図する場合、アルコールの包含を回避すること、またはアルコールの量を制限することが一般に所望される。
【0141】
経口投与または非経口投与に適切な液体担体の例としては、水(カルボキシルメチル・セルロース・ナトリウムなどのセルロース誘導体などの添加物を必要に応じて含む)、アルコールまたはその誘導体(一価アルコールまたは多価アルコール、例えば、グリコールを含む)、またはオイル(例えば、ヤシ油およびラッカセイ油)が挙げられる。非経口投与のためには、この担体はまた、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルなどの油状エステルであってもよい。加圧された組成物にための液体担体は、ハロゲン化炭化水素であっても、または他の薬学的に受容可能な噴霧剤であってもよい。
【0142】
滅菌溶液または懸濁液である液体の薬学的組成物は、非経口的に、例えば、筋肉内、腹腔内、硬膜外、クモ膜下腔内、静脈内または皮下の注射によって投与されてもよい。経口または経粘膜投与のための薬学的組成物は、液体型であっても、または固体組成物型であってもよい。
【0143】
特定の実施形態では、薬学的組成物は、その意図される投与経路と適合するように処方される。非経口、皮内、または皮下の適用のために用いられる溶液または懸濁液は、以下の成分を含んでもよい:滅菌希釈剤、例えば、注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩、および張度の調節剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムで調節してもよい。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、または複数回投与のバイアルに入れられてもよい。
【0144】
注射の用途に適切な薬学的組成物としては代表的には、滅菌水溶液(ここでは水溶性)、または分散液および滅菌粉末(無菌の注射用溶液または分散液の即時調製のため)が挙げられる。静脈内投与のためには、適切な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合に、この組成物は、無菌でなければならず、かつ容易な注射針通過が可能な程度まで液体であるべきである。有利には、特定の薬学的処方物が、製造および貯蔵の条件下で安定であって、かつ細菌および真菌などの微生物の混入作用を防がなければならない。一般には、関連の担体とは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体のポリエチレングリコールなど)を含む溶媒または分散培地、およびそれらの適切な混合物であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合には必要な粒子サイズの維持によって、およびサーファクタントの使用によって、維持され得る。微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。特定の場合には、等張剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物中に含むことが有用である。注射用組成物の長期の吸収は、その組成物中に、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによってもたらされ得る。
【0145】
滅菌注射液は、精製されたポリペプチドまたはタンパク質を、必要な量で、適切な溶媒中で、上記の成分とまたはその組み合わせとともに組み込むことによって、必要に応じて、続いて濾過滅菌によって調製され得る。一般には、分散液は、滅菌ビヒクル(基本の分散培地および上述のものから必要な他の成分を含む)中に哺乳動物細胞株から発現された精製されたポリペプチドまたはタンパク質を組み込むことによって調製される。滅菌注射液の調製のための液体粉末の場合には、調製の有利な方法は、真空乾燥および凍結乾燥であって、これによって活性成分の粉末に加えて任意の追加の所望される成分を、以前に無菌濾過されたその溶液から得る。
【0146】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤または食用の担体を含む。経口治療投与の目的で、精製されたポリペプチドまたはタンパク質は、賦形剤と組み合わされて、錠剤、トローチまたはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルの形態で用いられてもよい。経口組成物はまた、例えば、うがい薬としての用途で、液体担体を用いて調製してもよい。薬学的に適合する結合剤および/または補助剤は、組成物の一部として含まれてもよい。錠剤、丸剤、カプセル、トローチなどは、任意の以下の成分、または類似の性質の化合物:結合剤、例えば、微結晶性セルロース、トガガカント・ゴムまたはゼラチン;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトース、崩壊剤、例えば、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはコーン・スターチ;潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはステロート(Sterotes);流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素;甘味料、例えば、スクロースまたはサッカリン;あるいは香味料、例えば、ペパーミント、メチルサリチル酸、またはオレンジ香料を含んでもよい。このような調製物は、例えば、小児へ、錠剤を飲み込む能力が損なわれた個体へ、または動物への投与を容易にするため、必要に応じて、チュアブル(噛み砕ける)または液体の処方物、または食物もしくは液体と混合されてもよい。経口送達のための処方物は有利には、胃腸管内の安定性を改善するか、および/または吸収を増強するための因子を組み込んでもよい。
【0147】
吸入による投与のためには、哺乳動物細胞株から発現された精製されたポリペプチドまたはタンパク質および送達因子を含む本発明の組成物はまた、鼻腔内にまたは吸入によって投与されてもよく、乾燥粉末吸入器、または加圧容器、ポンプ、スプレー、噴霧器もしくはネブライザーからのエアロゾルスプレー提供の形態で、適切な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン、例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134A(商標))または1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227EA(商標))、二酸化炭素または他の適切なガスの使用の有無とともに都合よく送達される。加圧エアロゾルの場合には、この投薬単位は、一定量、例えば、治療有効量を送達するバルブを設けることによって決定され得る。本発明は詳細には、経鼻スプレー、吸入器、または他の上気道および/または下部気道への直接送達を用いる本発明の組成物の送達を特に考慮する。インフルエンザウイルスに対するDNAワクチンの鼻腔内投与は、CD8T細胞の応答を誘発することが示されており、これは、気道の少なくともいくつかの細胞が、この経路に送達されるときDNAを取り込み得ること、および本発明の送達因子が細胞取り込みを増強することを示している。特定の実施形態によれば、哺乳動物細胞株から発現される精製されたポリペプチドおよび送達因子を含む組成物は、エアロゾル投与のための大型の多孔性粒子として処方される。
【0148】
改変された放出および脈動性の放出の経口剤形は、放出速度調整剤として作用する賦形剤を含んでもよく、これらはデバイスの本体でコーティングされているか、および/または含まれている。放出速度調整剤としては排他的に限定はしないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシルメチル・セルロース・ナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン・オキシド、キサンタン・ゴム、カルボマー(Carbomer)、アンモニオメタクリラートコポリマー、水素化キャスターオイル、カルナバ・ワックス、パラフィンろう、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマーおよびそれらの混合物が挙げられる。改変された放出および脈動性の放出経口剤形は、放出速度調節賦形剤の1つまたは組み合わせを含んでもよい。放出速度改変賦形剤は、その剤形内に、すなわちマトリックス内に、および/またはその剤形上に、すなわち、表面もしくはコーティング上に存在してもよい。
【0149】
全身投与はまた、経粘膜的な方法または経皮的な方法によってもよい。経粘膜的な方法または経皮的な方法については、浸透されるべき障壁に適切な浸透剤を処方物に用いる。このような浸透剤は一般には当該分野で公知であって、これには例えば、経粘膜投与については、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸の誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、経鼻スプレーまたは坐剤の使用によって達成されてもよい。経粘膜投与については、精製されたポリペプチドまたはタンパク質および送達剤を、以下のうちの1つ以上との例えば混合物中に懸濁または溶解された活性化合物を含む適切な軟膏として処方してもよい:鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ろうおよび水。あるいは、それらを適切なローションもしくはクリームとして処方してもよいし、以下のうちの1つ以上の例えば混合物中に懸濁または溶解してもよい:鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水。
【0150】
あるいは、この化合物は、坐剤もしくはペッサリーの形態で投与されてもよく、またはそれらは、ゲル、ヒドロゲル、ローションもしくは他のグリセリド、溶液、クリーム、軟膏または散粒粉末(dusting powder)の形態で局所的に与えられてもよい。
【0151】
ある実施形態では、組成物は、インプラントおよびマイクロカプセル化された送達システムを含む、制御された徐放性の処方物などの、このポリペプチドまたはタンパク質が身体から急速に排除されることを防ぐ担体とともに調製される。一般には、本発明の組成物は、即時送達、遅延送達、変更された送達、徐放性送達、パルス的送達または制御された徐放性送達のために処方され得る。生分解性ポリマー、生物適合性ポリマー、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸が用いられてもよい。このような処方物の調製のための方法は、当業者に明らかである。適切な物質は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から購入することもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染された細胞に対して標的されたリポソームを含む)もまた、薬学的に受容可能な担体として用いられ得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されているとおり当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0152】
本発明に従って作製されたタンパク質およびポリペプチドはまた、シクロデキストリンと組み合わせて用いてもよい。シクロデキストリンは特定の分子と包接錯体および非包接錯体を形成することが公知である。シクロデキストリン錯体の形成によって、タンパク質またはポリペプチドの溶解度、溶出速度、バイオアベイラビリティおよび/または安定性の特性を変更できる。シクロデキストリン錯体は一般には、ほとんどの剤形および投与経路で有用である。タンパク質またはポリペプチドと直接の錯体形成の代わりに、シクロデキストリンは補助的な添加物として、例えば、担体、希釈剤または可溶化剤として用いてもよい。αシクロデキストリン、βシクロデキストリン、およびγシクロデキストリンが最も一般的に用いられ、適切な例は、国際特許出願である国際公開第91/11172号、国際公開第94/02518号および国際公開第98/55148号に記載される。
【0153】
いくつかの実施形態では、本発明の薬学的組成物は、単位剤形、例えば、錠剤またはカプセルで与えられる。各々の投与の容易さおよび投薬の均一性のために単位剤形に経口組成物または非経口組成物を処方することが有利であり得る。このような形態では、この組成物は、適切な量のポリペプチドまたはタンパク質を含む単位用量に小分割される。この単位剤形は、パッケージされた組成物、例えば、パッケージされた粉末、バイアル、アンプル、プレフィルドシリンジまたは子袋(sachets)(液体を含む)であってもよい。この単位剤形は、例えば、カプセルもしくは錠剤自体であってもよいし、またはパッケージされた形態の適切な数の任意のこのような組成物であってもよい。当業者が理解するとおり、治療上有効な単位投薬量は、例えば、投与方法、ポリペプチドもしくはタンパク質の力価、ならびに/またはレシピエントの体重、およびこの薬学的組成物中の他の成分の同一性を含むいくつかの要因に依存するであろう。
【0154】
本発明に従って発現されるポリペプチドまたはタンパク質は、必要に応じて種々の間隔で、かつ種々の期間にわたって、例えば、約1〜10週、2〜8週、約3〜7週、約4、5または6週などの間、1週に1回、投与されてもよい。当業者は、特定の要因が疾患または障害の重篤度、以前の処置、被験体の全身健康状態および/または年齢、ならびに既存の他の疾患を含むがこれに限定されない、被験体を有効に処置するために必要な投薬量およびタイミングに影響し得ることを理解するであろう。本明細書に記載されるようなポリペプチドまたはタンパク質での被験体の処置は、単一の処置を含んでもまたは一連の処置を含んでもよい。適切な用量は、ポリペプチドまたはタンパク質の力価に依存し得、必要に応じて、例えば、所定の所望の応答が得られるまで漸増用量を投与することによって、特定のレシピエントに対して仕立てられてもよいことがさらに理解される。任意の特定の動物被験体への特定の投与レベルは、使用される特定のポリペプチドまたはタンパク質の活性、被験体の年齢、体重、全身健康状態、性別および食餌、投与時間、投与経路、排出速度、任意の薬物併用、ならびに調節されるべき発現または活性の程度を含む種々の要因に依存し得ることが理解される。
【0155】
本発明は、非ヒト動物の処置のための本発明の組成物の使用を包含する。従って、投与の用量および方法は、獣医の薬理学および医薬の公知の原理に従って選択され得る。指導に関しては、例えば、Adams,R.(編),Veterinary Pharmacology and Therapeutics,第8版,Iowa State University Press;ISBN:0813817439;2001に見ることができる。
【0156】
本発明の薬学的組成物は、容器、パックまたはディスペンサーの中に、投与のための装置とともに入れられてもよい。
【実施例】
【0157】
(実施例1)
媒体の処方
本発明は、1つ以上の本発明の濃度で銅および/またはグルタミン酸塩を含有する培養培地において増殖された細胞の培養によって産生されたポリペプチドが、その細胞を伝統的な培地において増殖させた場合よりも低レベルのミスフォールディングおよび/または凝集のレベルを示すという知見を包含する。本発明はまた、1つ以上の本発明の濃度で銅および/またはグルタミン酸塩を含有する培養培地において増殖された細胞の培養によって産生されたポリペプチドが、その細胞を伝統的な培地において増殖される場合に観察されるよりも総グリコシル化の増大を示すという知見を包含する。銅および/またはグルタミン酸塩は、細胞増殖を支持することが可能な任意の培養培地に加えられてもよい。銅および/またはグルタミン酸塩が任意の本発明の濃度内で添加されてもよい例示的な培養培地は表1に列挙するが、本発明は、これらの培養培地の利用に限定されない。当業者によって理解されるとおり、他の培養培地が細胞を増殖するのに利用されてもよいし、および/または表1に列挙される例示的な培養培地の組成に対して特定の変更を行ってもよい。
【0158】
【表1−1】

【0159】
【表1−2】

特定の実施形態では、最初の培地が1回以上のフィード培地で開始された後、細胞を1回以上補充する。例示的なフィード培地は表2に列挙するが、本発明はこれらのフィード培地の利用に限定されない。当業者によって理解されるとおり、他のフィード培地が細胞を増殖するのに利用されてもよいし、および/または表2に列挙される例示的なフィード培地の組成に対して特定の変更を行ってもよい。例えば、このようなフィード培地の1つ以上の成分の濃度が、このような成分の所望の濃度を達成するために増大されても減少されてもよい。特定の実施形態では、各々のフィード培地成分の濃度は、同じ要因によって増大または減少される。例えば、各々のフィード培地成分の濃度は、1×、2×、3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、10×、11×、12×、13×、14×、15×、16×、17×、18×、19×、20×、25×、30×、35×、40×、45×、50×またはそれ以上増大されても減少されてもよい。
【0160】
【表2−1】

【0161】
【表2−2】

【0162】
【表2−3】

(実施例2)
定義された増殖培地に対する銅およびグルタミン酸塩の添加の効果
序:細胞培養中でのタンパク質またはポリペプチドの発現における1つの課題は、発現されたタンパク質またはポリペプチドのミスフォールディング型または凝集型を最小限にすることである。この問題に対するいくつかの解決法が提案されており、これにはこの細胞培養物のpHおよび/または温度を低下すること、ならびにHMBAなどの誘導剤の添加が挙げられる。
【0163】
細胞培養物のレドックス環境がミスフォールディングおよび凝集されたポリペプチドの蓄積において役割を果たすか否かを確認するために、以下の実験を行った。より酸化的な環境を達成するために、銅およびグルタミン酸塩を、レドックス状態に影響するその公知の細胞内機構に基づいて細胞培養培地に添加した。銅は、システイン(還元型)からシスチン(酸化型)への細胞外の酸化を触媒する。細胞培養培地に対して銅を添加することは、シスチンの蓄積を容易にして、さらに酸化的な環境を生み出すという仮説がなされた。グルタミン酸塩は細胞がシスチンを取り込んでそれをシステインに還元する能力を妨げることが示されている。細胞がシスチンを取り込んで引き続きそれをシステインに変換する能力をブロックするためにグルタミン酸塩を用いることによって、さらに酸化的な環境が生じるということが考えられた。
【0164】
材料および方法:以下の実験の全てに関して、標準的な灌流方法に従って、TNFR−Igを1Lの産生バイオリアクター中で増殖させた。特定のセットの実験についての各々の細胞培養物(表3、4、および5に示される)を同じ接種源から播種した。pHおよび温度の設定のポイントは、実験の間でわずかに調節し、その詳細は表3、4および5に示す。銅およびグルタミン酸塩は、産生の施行の0日目に最初の細胞培養物に投与した。誘導剤HMBAおよびNaBを、表3、4および5に示される時点で細胞培養物に添加した。
【0165】
各々の細胞培養物を最初に第一の温度で増殖し、次いで1日目にそれより低い温度にシフトした。各々の実験の終わりには、無細胞順化(馴化)培地は−80℃で保管した。タンパク質調製物は、標準的なプロトコールに従って解凍した物質で行った。産生物の質の分析は、各々の試験された細胞培養条件から得られたカラム溶出液を用いて行った。
【0166】
【表3】

【0167】
【表4−1】

【0168】
【表4−2】

【0169】
【表5】

結果:図1〜5、6〜10および11〜15は、それぞれ表3、4および5に記載する実験からの結果を示す。図1、6および11は、3つの実験の各々で試験した細胞培養物の各々についての積算生細胞密度(integrated viable cell density)(IVCD)を示す。図2、7および12は、3つの実験の各々で試験した細胞培養物の各々についての累積産生比(cumulative specific productivity)(Qp)を示す。図3、8および13は、3つの実験の各々において試験した細胞培養物の各々についてのグルタミン酸塩の値を示す。図4、9および14は、3つの実験の各々において試験した細胞培養物の各々についての乳酸塩の値を示す。図5、10および15は、細胞培養の10日目のミスフォールディングされたTNFR−Igの割合を産生された総TNFR−Igの割合として、および3つの実験の各々において試験した細胞培養の各々について10日目の力価を示す。表6は、表3、4および5に記載される細胞培養物の各々についての質の結果(ミスフォールディング/凝集のTNFR−Igの割合)の編集である。さらに、表6は、TNFR−Igの参照サンプルの総シアリル化の割合として表現したTNFR−Igの総シアリル化を示す。
【0170】
【表6】

図16および17は、それぞれ表4および5に記載した実験について試験した細胞培養の各々について8および10日目のミスフォールディング/凝集されたTNFR−Igの割合を示す。図18および19は、それぞれ表4および5に記載した実験について、8、10および12日目の発現されたTNFR−Igの総シアリル化を、TNFR−Igの参照サンプルの総シアリル化の割合として示す。
【0171】
細胞培養能力:銅、グルタミン酸塩または2つの組み合わせの添加は、各々の実験内のコントロールの条件に比較した場合、培養能力に有意に影響しなかった。培養細胞密度は、図1、6および11に示されるように、添加によって負に影響されることはなかった。図
図2、7および12に示されるとおり、全ての添加のうち1つの均一の影響は、コントロールに比較して産生性の比わずかな低下であって、全ての3つの実験で一貫して観察された相違であった。ほとんどの条件下で、回収の力価は、産生比の率における小さい相違を考慮して予想されるとおりコントロールのプロセスよりもわずかに低かった。
【0172】
グルタミン酸の蓄積は、各々の産生の施行の経過にわたって測定した。図3、8および13に示されるとおり、グルタミン酸塩が前払いで投与される条件(グルタミン酸塩のみおよび併用条件)は、全体的に低いグルタミン酸塩産生率を有した。産生比の率は低かったが、これらのグルタミン酸塩添加のなかの1つの均一な効果は、最後のグルタミン酸塩濃度がコントロールよりも一貫して約1.5mM高かったということであった。銅のみを投与した条件は、グルタミン酸産生プロフィールに関してコントロール条件と同一であった(図3、8および13を参照のこと)。これによって、銅のみの添加は、グルタミン酸塩蓄積の正常な機構に影響しなかったことが示唆される。
【0173】
乳酸塩消費の減少が、銅、グルタミン酸塩または2つの組み合わせが添加された全ての条件について観察された(図4、9および14を参照のこと)。従って、これらの条件はコントロールに比較して高い乳酸塩蓄積で回収された。いかなる特定の理論によっても束縛されることは望まないが、本発明者らは、銅および/またはグルタミン酸塩の添加と乳酸塩の消費との間で観察される逆の傾向がレドックス状態と細胞の乳酸塩消費速度との間の関係の指標であり得るということを提唱する。
【0174】
産物の質の影響:これらの実験の主な評価項目は、銅、グルタミン酸塩または2つの組み合わせが細胞培養物に添加されたとき、産生されたポリペプチドの質に対する影響を評価することであった。特に、これらの実験は、銅、グルタミン酸塩またはその両方の添加が細胞培養能力に負に影響することなく、産生されたポリペプチドのミスフォールディングおよび/または凝集の総量を低くし得るか否かを確認することに関する。表6から理解できるとおり、銅、グルタミン酸塩またはその2つの組み合わせの添加が産生されるポリペプチドの質を実際に改善した。3つの全ての実験において、ミスフォールディングおよび/または凝集されたポリペプチドの総量は銅および/またはグルタミン酸塩を含む条件で低下した。
【0175】
興味深いことに、実験2および3の培養条件からの時間経過データによって、ミスフォールディングおよび/または凝集されたポリペプチドの総量は、銅および/またはグルタミン酸塩を含有する条件について経時的に安定化していたことが示された(それぞれ図16および図17、ならびに表6を参照のこと)。コントロール条件によって、ミスフォールディングおよび/または凝集されたポリペプチドの値の明確な増大が経時的に示された。この影響は、ミスフォールディングされた「温度シフトなし」プロセスでは観察されず(図17、実験3aコントロール対実験3a併用を参照のこと)、このことは特定の実験条件下で、温度シフトがミスフォールディングおよび/または凝集されたポリペプチドの量を低下するのに有用であるということを示している。全体として、ミスフォールディングおよび/または凝集されたポリペプチドの総量が、コントロールのプロセスに比較して銅および/またはグルタミン酸塩の条件について所定の収集日(8、10または12)に低下されたということが3つの実験全てで実証された。検討された全ての条件のうち、グルタミン酸塩および銅の併用は一貫して、ミスフォールディングおよび/または凝集されたポリペプチドの量を回収時に低下させた。
【0176】
1つの予期されなかったが有望な結果は、総シアリル化に対するこれらの種々の添加の影響であった。表6に示されるとおり、実験1の結果によって、銅およびグルタミン酸塩の両方の条件は、コントロールの条件よりも高い総シアリル化を有したことが示された。さらに、表4および表5に記載される実験からの時間経過データによって、銅および/またはグルタミン酸塩を含有する条件について経時的に総シアリル化の安定化またはわずかな増大が示された(図18および19を参照のこと)。これらの実験におけるコントロール条件によって、経時的に総シアリル化の低下が示された。さらに、総シアリル化の増大は、低pH培養条件(表6および図18を参照のこと)および温度シフトなしの培養条件(表6および図19を参照のこと)で観察され、このことはこの機構がプロセスのpHおよび温度のストラテジーとは独立し得るということを示唆している。
【0177】
前述の説明は、例示でしかないと理解されるべきであって、限定ではないものとする。本発明およびまたさらなる適用を実行するための代替的な方法および物質は、当業者に明確であって、以下の特許請求の範囲内に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養においてポリペプチドを産生する方法であって:
目的のポリペプチドの発現を可能にする条件下で、かつ十分な時間、約0.5μMと5μMとの間の銅と、約1.7mMと33mMとの間のグルタミン酸塩とを含む細胞培養培地において該目的のポリペプチドをコードする遺伝子を含む哺乳動物細胞を培養する工程を包含し、ここで、産生された該総ポリペプチドに対する、ミスフォールディングされたポリペプチドおよび/または凝集されたポリペプチドの画分が、銅およびグルタミン酸塩を欠く以外は同一の培地において、それ以外は同一の条件下で観察されるミスフォールディングされたポリペプチドおよび/または凝集されたポリペプチドの画分に比較して減少されている方法。
【請求項2】
細胞培養においてポリペプチドを産生する方法であって:
約0.5μMと5μMとの間の銅と、約1.7mMと33mMとの間のグルタミン酸塩とを含む細胞培養培地において目的のポリペプチドをコードする遺伝子を含む哺乳動物細胞を培養する工程と;
該培養物を第一の温度範囲で維持する工程であって、該第一の温度範囲で維持される場合、最大可能な生存細胞密度の約20%〜80%の範囲内という生存可能な細胞の密度まで該細胞を再生可能であるのに十分な第一の期間維持する工程と;
該培養物を第二の温度範囲にシフトさせる工程であって、該第二の温度範囲の少なくとも1つの温度が、該第一の温度範囲の最低の温度よりも低い工程と;
該培養物を、第二の期間、該ポリペプチドの発現を可能にするのに十分な条件下かつ時間、維持する工程であって、該産生された総ポリペプチドに対する、ミスフォールディングされるかおよび/または凝集されたポリペプチドの画分が、銅およびグルタミン酸塩を欠く以外は同一の培地において、それ以外は同一の条件下で観察されるミスフォールディングされたポリペプチドおよび/または凝集されたポリペプチドの画分に比較して減少されている工程と、
を包含する方法。
【請求項3】
前記第一の温度範囲が、約30℃〜約42℃である温度範囲を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第二の温度範囲が約25℃〜約41℃である温度範囲を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、前記第一のシフト工程に続く第二のシフト工程を包含し、該工程が前記培養物を第三の温度または温度範囲にシフトする工程を包含し、該第三の温度範囲の少なくとも1つの温度が、該第二の温度範囲の最低の温度よりも低い、方法。
【請求項6】
前記第三の温度範囲が、約25℃〜40℃である温度範囲を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞培養培地の最初のグルタミン濃度が約4mM以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞培養物がグルコース1リットルあたり約2グラムをさらに補充されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞培養物が補充成分をさらに補充されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記補充成分が、フィード培地において提供される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記補充成分が多数の間隔で提供される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞培養培地が定義されている、先行する請求項のうちの1つ以上に記載の方法。
【請求項13】
前記定義された細胞培養培地が添加された血清も加水分解産物も含まない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記定義された細胞培養培地がタンパク質を含まない、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞培養培地が、約0.7μMと約1.5μMとの間の銅を含む、請求項1〜14のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞培養培地が約1μMの銅を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞培養培地が、約3mMと約7mMとの間のグルタミン酸塩を含む、請求項1〜16のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞培養培地が約5mMのグルタミン酸塩を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
約0.5μMと約5μMとの間の銅、および約1.7mMと約33mMとの間のグルタミン酸塩を含む、細胞培養培地。
【請求項20】
前記細胞培養培地の最初のグルタミン濃度が約4mM以下である、請求項19に記載の細胞培養培地。
【請求項21】
1リットルあたり約2グラムのグルコースをさらに含む、請求項19または20に記載の細胞培養培地。
【請求項22】
前記細胞培養培地が定義される、請求項19〜21のいずれか1項に記載の細胞培養培地。
【請求項23】
前記定義された細胞培養培地が添加された血清も加水分解産物も含まない、請求項22に記載の細胞培養培地。
【請求項24】
前記定義された細胞培養培地がタンパク質を含まない、請求項22に記載の細胞培養培地。
【請求項25】
前記細胞培養培地が、約0.7μMと約1.5μMとの間の銅を含む、請求項19〜24のいずれか1項に記載の細胞培養培地。
【請求項26】
前記細胞培養培地が約1μMの銅を含む、請求項25に記載の細胞培養培地。
【請求項27】
前記細胞培養培地が、約3mMと約7mMとの間のグルタミン酸塩を含む、請求項19〜24のうちいずれか1項に記載の細胞培養培地。
【請求項28】
前記細胞培養培地が約5mMのグルタミン酸塩を含む、請求項27に記載の細胞培養培地。
【請求項29】
細胞培養においてポリペプチドを産生する方法であって:
約0.5μMと約5μMとの間の銅、および約1.7mMと約33mMとの間のグルタミン酸塩を含む細胞培養培地において、目的のポリペプチドの発現を可能にするのに十分な条件下、かつ時間で、該目的のポリペプチドをコードする遺伝子を含む哺乳動物細胞を培養する工程を包含し、ここで、発現された該ポリペプチドのグリコシル化パターンが、銅およびグルタミン酸塩を欠く以外は同一である培地において、それ以外は同一の条件下で発現された該ポリペプチドに対して観察されるグリコシル化パターンに対して増大されている方法。
【請求項30】
細胞培養においてポリペプチドを産生する方法であって:
約0.5μMと約5μMとの間の銅、および約1.7mMと約33mMとの間のグルタミン酸塩を含む細胞培養培地において、目的のポリペプチドをコードする遺伝子を含む哺乳動物細胞を培養する工程と;
該培養物を第一の温度範囲で維持する工程であって、該第一の温度範囲で該培養物が維持される場合、最大の可能な生存細胞密度の約20%〜80%の範囲内という生存可能な細胞の密度まで該細胞を再生可能であるのに十分な第一の期間維持する工程と;
該培養物を第二の温度範囲にシフトさせる工程であって、該第二の温度範囲の少なくとも1つの温度が、該第一の温度範囲の最低の温度よりも低い工程と;
該培養物を、第二の期間、該ポリペプチドの発現を可能にするのに十分な条件下でかつ時間、維持する工程であって、ここで該発現されたポリペプチドのグリコシル化パターンが、銅およびグルタミン酸塩を欠く以外は同一の培地において、それ以外は同一の条件下で発現される該ポリペプチドで観察されるグリコシル化パターンに比較して増大されている方法。
【請求項31】
前記発現されたポリペプチドの前記増大されたグリコシル化パターンが、総シアリル化の増大を含む、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞培養培地が定義されている、請求項29または30に記載の方法。
【請求項33】
前記定義された細胞培養培地が添加された血清も加水分解産物も含まない、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記定義された細胞培養培地がタンパク質を含まない、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞培養培地が、約0.7μMと約1.5μMとの間の銅を含む、請求項29〜34のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞培養培地が約1μMの銅を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞培養培地が、約3mMと約7mMとの間のグルタミン酸塩を含む、請求項29〜34のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞培養培地が約5mMのグルタミン酸塩を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ポリペプチドがTNFR−Igである、請求項1〜18および29〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記ポリペプチドがTNFR−Fcである、請求項1〜18および29〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記ポリペプチドが:酵素、凝固因子、レセプター、抗体、ホルモン、調節因子、抗原および結合剤からなる群より選択されるポリペプチドである、請求項1〜18および29〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記ポリペプチドが抗Aβ抗体である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記培養工程がバッチ培養物中で前記哺乳動物細胞を培養する工程を包含する、請求項1〜18および29〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記ポリペプチドまたはタンパク質が単離および/または精製されている、請求項1〜18および29〜41のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公表番号】特表2010−519909(P2010−519909A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551867(P2009−551867)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/055447
【国際公開番号】WO2008/109410
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】