説明

ポリマーアロイの押出成形シート

【課題】本発明の目的は、ポリフェニレンスルフィド樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂で構成されるポリマーアロイから押出成形する際のドローダウン(加熱によるシート、フィルムの垂れ)の改良及び得られたポリマーアロイからの押出成形シート特性(厚みムラ、表面外観)の改良である。
【解決手段】本発明は、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂からなるマトリックス相と、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂からなる分散相と、(d)グリシジル基、オキサゾリル基の少なくとも一方の官能基を有するスチレン系共重合体と、を含むポリマーアロイを押出成形して得られる押出成形シートであって、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、100〜500Pa・secであり、かつ、オリゴマー含有量が0.7重量%以下であり、
前記分散相の平均粒子径が10μm以下であり、
前記ポリマーアロイの剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、200〜1200Pa・secである、押出成形シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂をマトリックス相、ポリフェニレンエーテル系樹脂を分散相とするポリマーアロイからなる押出成形方法による押出成形シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂のシートは、耐熱性、耐薬品性、電気特性及び耐加水分解性に優れるため電子機器、電子部品、自動車電装系部品、発電機部品の分野において単体のシートや複合シートとして、または、これらシートをさらに賦型した形状で利用されている。一方、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、そのガラス転移温度が約90℃と低いため、90℃以上の環境下で使用されるポリフェニレンスルフィド樹脂のシートは熱収縮しやすい問題点を有している。
【0003】
ポリフェニレンスルフィド樹脂からなるシートについては、ガラス転移温度に起因する欠点を改良するため、既に多くの提案がなされている。例えば、ポリフェニレンスルフィドよりガラス転移温度が高いポリマーをポリフェニレンスルフィドに配合してポリマーアロイにすることが提案されている。これらの提案の一部では、ポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテルから成り、耐熱性、成形加工性、耐衝撃性に優れた樹脂組成物を開示している。また、これらの提案の別の一部では、ポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテル/熱可塑性エラストマーからなり、耐熱性、難燃性、耐溶剤性、成形加工性、機械的強度及び耐衝撃性に優れた樹脂組成物を開示している。さらに、これらの提案のさらに別の一部では、ポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテルから成り、耐衝撃性の大幅な向上、ウェルド強度の改良された樹脂組成物が提案されている。これらの提案には、いずれもポリフェニレンスルフィドを含むリマーアロイを射出成形する方法が記載又は示唆されている。また、一部の文献(例えば、特許文献1〜4)で示される樹脂組成物はその使用する用途としてその明細書に「シート又はフィルム」の記載が見られる。
【0004】
しかしながら、本発明者がポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテルからなる樹脂組成物を用いて押出成形方法によってシートを成形加工したところ、ドローダウン(加熱によるシート、フィルムの垂れ)が生じ、厚みムラ及び表面外観の悪化の問題が起こることが分かった。ポリフェニレンスルフィド/ポリフェニレンエーテルから成る樹脂組成物を押出成形によってシート化する際のこのような問題点、さらにはその問題点を改良する方法に関しては技術的な開示が成されていないのが実状である。
【特許文献1】特開2002−12764号公報
【特許文献2】特開平2005−264124号公報
【特許文献3】WO2006/067902A1
【特許文献4】WO2006/082902A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ポリフェニレンスルフィド樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂を含んだポリマーアロイを用いて、ドローダウン、厚みムラ及び表面概観の悪化のない、押出成形方法によるシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、ポリフェニレンスルフィド樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂を含んだポリマーアロイを用いた押出成形方法によるシート化する際の押出成形加工に関して鋭意検討した結果、特定の溶融粘度を有し、且つ、特定のオリゴマー量を有するポリフェニレンスルフィド樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂を含んだポリマーアロイであって、特定の溶融粘度を有するポリマーアロイが、押出成形方法によるシート化する際、ドローダウン(加熱によるシート、フィルムの垂れ)を生じ難いことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1] (a)ポリフェニレンスルフィド樹脂からなるマトリックス相と、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂からなる分散相と、
(d)グリシジル基、オキサゾリル基の少なくとも一方の官能基を有するスチレン系共重合体と、
を含むポリマーアロイを押出成形して得られる押出成形シートであって、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、100〜500Pa・secであり、かつ、オリゴマー含有量が0.7重量%以下であり、
前記分散相の平均粒子径が10μm以下であり、
前記ポリマーアロイの剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、200〜1200Pa・secである、押出成形シート、
[2] 前記分散相中に(c)エラストマーが存在する、前項[1]に記載の押出成形シート、
[3] 前記ポリマーアロイが、
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂 45〜95重量%と、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂 5〜55重量%と、
(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対し(d)グリシジル基、オキサゾリル基の少なくとも一方の官能基を有するスチレン系共重合体 1〜5重量部と、
を含有する、前項[1]又は[2]に記載の押出成形シート、
[4] 前記ポリマーアロイが、
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂 45〜95重量%と、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂 5〜55重量%と、
(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対し(c)エラストマー 1〜15重量部と、
(d)グリシジル基、オキサゾリル基の少なくとも一方の官能基を有するスチレン系共重合体 1〜5重量部と、
を含有する、前項[1]〜[3]のいずれか一項に記載の押出成形シート、
[5] (a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、リニア型ポリフェニレンスルフィド、又は架橋型ポリフェニレンスルフィドである、前項[1]〜[4]のいずれか1項に記載の押出成形シート、
[6] (a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、リニア型ポリフェニレンスルフィド及び架橋型ポリフェニレンスルフィドを含有する、前項[1]〜[4]のいずれか一項に記載の押出成形シート、
[7] (b)成分が、ポリフェニレンエーテル100重量%、又はポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂=1〜99重量%/99〜1重量%である、前項[1]〜[6]のいずれか一項に記載の押出成形シート、
[8] (c)エラストマーが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体、前記ブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、及びエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前項[2]〜[7]のいずれか一項に記載の押出成形シート、
[9] (d)スチレン系共重合体が、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマーがグラフトしたグラフト共重合体、及びエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマー、及びアクリロニトリルがグラフトしたグラフト共重合体からなる群の中から選ばれる少なくとも1種である前項[3]〜[8]のいずれか一項に記載の押出成形シート、
[10] 単層又は多層である、前項[1]〜[9]のいずれか一項に記載の押出成形シート、
[11] 前記押出成形シートが、厚さ1000μm以下である、前項[1]〜[10]のいずれか一項に記載の押出成形シート、
[12] 前項[1]〜[11]の記載のいずれか一項に記載の押出成形シートを用いて賦型した成型体、
を提供する。
【0008】
なお、本明細書で用いる用語「押出成形シート」とは、押出成形された薄膜状のものをいう。技術分野によっては、厚さが1000μm以下のものがシート、厚さが100μm以下のものがフィルムと呼ばれる場合があるが、本発明の押出成形シートはいずれの厚さのものも含む。
【発明の効果】
【0009】
特定の溶融粘度を有し、且つ、特定のオリゴマー量を有するポリフェニレンスルフィド樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、特定の溶融粘度を有するポリマーアロイは、押出成形方法による押出成形シート化する際、ドローダウン(加熱によるシートやフィルムの垂れ)を生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の押出成形シートを形成するポリマーアロイである押出成形シート形成用ポリマーアロイは、(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂と、(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂とを含む。(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「PPS」と略記する。)は、下記一般式(式1)で示されるアリーレンスルフィドの繰返し単位を50モル%有するのが好ましく、より好ましくは70モル%、さらに好ましくは90モル%以上のアリーレンスルフィドの繰り返し単位を含む。
[−Ar−S−] (式1)
(ここで、Arはアリーレン基を示し、アリーレン基として、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換基を有してもよいフェニレン基(置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基が好ましい。)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基が挙げられる。)
なお、PPSは構成単位であるアリーレン基が1種であるホモポリマーであってもよく、加工性や耐熱性の観点から、2種以上の異なるアリーレン基を混合して用いて得られるコポリマーであってもよい。中でも、主構成要素としてp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するPPSが、加工性、耐熱性に優れ、かつ、工業的に入手が容易なことから好ましい。
【0011】
前述のPPSの製造方法は、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えば、p−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で(1)硫化ナトリウム;(2)硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウム;(3)硫化水素と水酸化ナトリウム;(4)ナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられる。中でも、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で、硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。これらの製造方法は公知の方法であり、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号、米国特許第3274165号明細書、特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、及び特開平5−222196号公報、等に記載された方法や、これら特許等に例示された先行技術の方法でPPSを得ることができる。この重合で得られるPPSは通常リニア型PPSであり、このPPSを重合した後に、さらに酸素の存在下でPPSの融点以下の温度(例えば、200〜250℃)で加熱処理し酸化架橋を促進してポリマー分子量、粘度を適度に高めたものが架橋型PPSとして分類される。なお、ここで分類される架橋型PPSには、その架橋程度を微少に留めた半架橋PPSも含まれる。
【0012】
本発明で用いる(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂は、上記したリニア型PPS、架橋型PPSのいずれか1種または2種を併用することができる。本発明では、(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂の剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、100〜500Pa・sec、好ましくは100〜400Pa・sec、より好ましくは150〜400Pa・secの特性を有するPPSである。この溶融粘度が100Pa・sec以上のPPSを用いることによりポリマーアロイから押出成形シート化する際の押出加工時のドローダウンが防止できるため、成形加工性(製膜性)に優れ、溶融粘度が500Pa・sec以下のPPSを用いることにより、厚みムラ、表面外観に優れたポリマーアロイから押出成形シートをもたらす。
【0013】
なお、溶融粘度は、キャピラリー式のレオメータによって測定でき、例えば、キャピログラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、キャピリーは、キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mmを用いて、温度300℃、剪断速度100sec-1にて測定することができる。
【0014】
さらに、上記の特徴の他に、ポリマーアロイを押出加工して、本発明の押出成形シートを得る際に押出機のダイス部に発生するメヤニを低減し、成形したシート表面外観を悪化させないためには、(a)成分のオリゴマー含有量が0.7重量%以下である必要がある。ここで、PPSに含まれるオリゴマーとは、供するPPSを塩化メチレンにより抽出される物質を意味し、一般にPPSの不純物として知られている物質であり、オリゴマーの含有量の測定は以下の方法により求めることができる。すなわち、PPS粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、6時間ソクスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン溶液を秤量瓶に移す。さらに、上記の抽出に使用した容器を、塩化メチレン合計60mlを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に、約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量より塩化メチレンによる抽出量、すなわちPPS中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
【0015】
本発明で用いる(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記の結合単位(式2)で示される繰返し単位を有し、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定したポリスチレン換算した数平均分子量が1000以上、好ましくは1500〜50000、より好ましくは1500〜30000の範囲にあるホモ重合体及び/又は共重合体のポリフェニレンエーテル樹脂(以下、PPEと略記する。)である。
【0016】
【化1】

【0017】
(ここで、R1,R2,R3及びR4は、各々独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜7までの第一級又は第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものである。)
【0018】
前述のPPEの具体的な例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられる。さらに、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。
【0019】
かかるPPEの製造方法は公知の方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号記載のHayによる第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6−キシレノールを酸化重合することにより容易に製造できる。そのほかにも、米国特許第3306875号、同第3257357号、同第3257358号、特公昭52−17880号、特開昭50−51197号、及び同63−152628号等に記載された方法で容易に製造できる。
【0020】
本発明で用いる(b)成分のPPEは、上記したPPE成分100重量%でも利用可能であるが、PPE/スチレン系樹脂=1〜99重量%/99〜1重量%の割合で構成されたものも好ましく用いることができる。PPSの耐熱性、特に非晶相の欠点を改良する観点から、PPE/スチレン系樹脂の配合割合は、そのガラス転移温度がPPSのガラス転移温度(約90℃)以上となるように配合割合を調整した方が好ましい。
【0021】
かかるスチレン系樹脂とは、スチレン系化合物の単独重合体、2種以上のスチレン系化合物の共重合体及びスチレン系化合物の重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなるゴム変性スチレン樹脂(ハイインパクトポリスチレン)等が挙げられる。これら重合体をもたらすスチレン系化合物としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等が挙げられる。
【0022】
これらスチレン系化合物は、2種以上のスチレン系化合物を用いて得られる共重合体でもよく、中でもスチレンを単独で用いて重合して得られるポリスチレンが好ましい。これらの重合体はアタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン等の立体規則構造を有するポリスチレンが有効に利用できる。なお、このPPEと併用して用いるスチレン系樹脂には、後記する(d)成分の共重合体として挙げる、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体、及びスチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン系共重合体や、(c)成分のエラストマーとして挙げる、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体及びこのブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体で代表されるスチレン−ブタジエンブロック共重合体やその水素添加物である水添ブロック共重合体は含まれない。
【0023】
本発明で用いる(b)成分のPPEは、上記の(a)PPSのマトリックス中に分散する粒子として存在し、PPSの非晶部分のガラス転移温度以上での耐熱性を補強する上で重要な役割を示し、その分散平均粒子径は10μm以下である。かかる分散平均粒子径が10μmを超える場合は、得られる押出成形シートの外観が悪化したり、剥離現象が起こり好ましくない。
【0024】
つぎに、本発明で用いる(d)成分としての官能基を有するスチレン系共重合体は、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体であり、(a)成分のPPSと(b)成分のPPEを混合する際の乳化分散剤として作用して、ポリマーアロイの分散相である(b)成分のPPEの分散平均粒子径を(a)成分のPPS中に10μm以下に制御し、ポリマーアロイの溶融粘度を高く調整するのに優れた効果を奏するものである。
【0025】
かかる(d)成分の共重合体は、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体が好ましく利用できる。ここで言うスチレンを主たる成分とするモノマーとは、スチレン成分が100重量%は何ら問題ないが、スチレンと共重合可能な他のモノマーが存在する場合は、その共重合体鎖が(b)成分のPPEとの混和性を保持する上で、少なくともスチレンモノマーを65重量%以上、より好ましくは75〜95重量%含むことが必要である。これら共重合体を構成するグリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーの例として、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネート等が挙げられる。中でもグリシジルメタアクリレートが好ましい。また、上記のオキサゾリル基含有不飽和モノマーとしては、例えば、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手でき好ましく使用できる。
【0026】
前述のグリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーと共重合する他の不飽和モノマーとしては、必須成分のスチレンの他に、共重合成分としてアクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等が挙げられる。また、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーは(d)成分の共重合体中に0.3〜20重量%、好ましくは1〜15重量%、より好ましくは3〜10重量%含有する。かかる(d)成分の共重合体のグリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマー量は、0.3重量%以上が必要であり、20重量%以下であれば、(a)成分のPPSと(b)成分のPPEとの混和性が良好となり、得られるポリマーアロイに分散する(b)成分のPPEの分散平均粒子径の大きさを10μm以下に制御することができ、押出成形シート用に好適にポリマーアロイの溶融粘度を高めることができる。
【0027】
これら共重合可能な不飽和モノマーを共重合して得られる(d)成分の共重合体の例として、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体、及びスチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。(d)成分の共重合体として、さらに、エチレン系共重合体にスチレン系モノマー等がグラフトした共重合体であってもよく、例えば、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマーがグラフトしたグラフト共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマー及びアクリロニトリルがグラフトしたグラフト共重合体等が挙げられる。
【0028】
この(d)成分の共重合体の配合量は、上記した(a)〜(b)成分の合計100重量部に対して、1〜5重量部である。かかる(d)成分の配合量が1重量部以上であれば、(a)成分のPPSと(b)成分のPPEとの混和性が良くなり、5重量部以下であれば、得られたポリマーアロイを用いて押出加工方法による押出成形シート化する際のドローダウンを防止し、成形加工性(製膜性)とシート特性(厚みムラ、表面外観)のバランスに優れたシートをもたらす。このように(d)成分は、(b)成分を平均粒子径10μm以下に乳化分散させ、ポリマーアロイの溶融粘度を高める効果は有するものの、押出成形シート化する際の表面外観を考慮し、得られるポリマーアロイの剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度を200〜1200Pa・secとなるように、(d)成分の好適な配合量と官能基の量を選択する必要がある。
【0029】
本発明の押出成形シート形成用樹脂組成物であるポリマーアロイは、上記した(a)成分、(b)成分及び(d)成分を含む。本発明の押出成形シートの靱性、柔軟性を付与させるために、下記に述べる(c)成分のエラストマーを、さらに加えたポリマーアロイが、本発明の押出成形シートとして最も好ましいポリマーアロイである。
【0030】
本発明で用いる(c)成分としてのエラストマーは、例えば、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体及び前記ブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、エチレン/α−オレフィン共重合体の中から目的に応じ少なくとも1種を(c)成分であるエラストマーとして選択して用いることができる。
【0031】
ここで、供する(c)成分のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその水素添加物である水添ブロック共重合体の構造に関して簡単に説明する。一般に、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とを各々のモノマー単位でブロック共重合し、ビニル芳香族化合物を主体とする(ビニル芳香族化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする(共役ジエン化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックBとからなるブロック共重合体の構造で示されるものである。ブロック共重合体中には、ランダム共重合部分のビニル芳香族化合物は均一に分布していても、又はテーパー状に分布していてもよい。また、該共重合体ブロックには、ビニル芳香族化合物が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分が、それぞれ複数個共存していてもよい。さらに、該共重合体ブロックには、ビニル芳香族化合物含有量の異なる部分が複数個共存していてもよい。このビニル芳香族化合物を主体とする(ビニル芳香族化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする(共役ジエン化合物の含有量が少なくとも70%以上有する)重合体ブロックBとからなるブロック共重合体とは、一般に、下記構造を有するブロック共重合体が例示される。
(A−B)n、A−(B−A)n−B、B−(A−B)n+1、[(A−B)km+1−Z、[(A−B)k−A]m+1−Z、[(B−A)km+1−Z、[(B−A)k−B]m+1−Z
(上式において、Zはカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物の開始剤の残基を示す。n、k及びmは、1以上の整数、一般的には1〜5である。)
【0032】
かかるビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体に用いるビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種または2種以上が選択でき、特にスチレンが好ましい。ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体におけるビニル芳香族化合物の含有量は、通常1〜70重量%の中から好適に選ぶことが可能であり、好ましくは5〜55重量%、より好ましくは10〜55重量%である。さらに、かかるブロック共重合体における共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種または2種以上が選ばれ、特にブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。また、前記ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体における共役ジエン化合物の重合形式であるミクロ構造は任意に選ぶことができる。例えば、ブタジエンにおいては、1,2−ビニル結合が2〜85%、好ましくは100〜85%、さらに好ましくは35〜85%である。また、イソプレンにおいては、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が2〜85%、好ましくは3〜75%、さらに好ましくは3〜60%である。1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合は該共役ジエン化合物重合体ブロック中に均一に分布していても、又はテーパー状に分布していてもよい。また、該共役ジエン化合物重合体は、1,2−ビニル結合含量又は1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が異なる重合体部分、例えば1,2−ビニル結合含量又は1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が30%未満の重合体部分と30%以上の重合体部分が存在してもよく、さらにこれらの異なるビニル結合量が異なる重合体部分が複数個共存していてもよい。
【0033】
これらの前駆体であるビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算の分子量)は、通常、1000〜1000000、好ましくは10000〜500000、更に好ましくは30000〜300000である。
上記したブロック共重合体は、炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物を重合開始剤として共役ジエン化合物、ビニル芳香族化合物をアニオン重合して得られる。かかる炭化水素溶媒としては、脂肪族、脂環式および芳香族炭化水素使用することができ、例えば、プロパン、イソブタン、n−ヘキサン、イソオクタン、シクローペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられ、特に好ましい溶媒はn−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼンであり、これらの溶媒は1種又は2種以上の混合溶媒として用いても構わない。また、重合に使用する重合開始剤である有機リチウム化合物としては、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のモノ有機リチウム化合物や、ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルメタン、1,3,5−トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物が使用でき、これらは単独又は二種以上の混合物で使用することができる。これらの有機リチウム化合物の使用量は、目的とする共役ジエン化合物を含む重合体の数平均分子量に応じ、単分散ポリマー(重量平均分子量/数平均分子量=1)を前提とした計算で適宜選択できる。上記した共役ジエン化合物の重合形式であるミクロ構造の1,2−ビニル結合量、3,4−ビニル結合量の増加調整、あるいはビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体鎖中のランダム性を調整するために、通常、エーテル類、第3級アミン類、アルカリ金属アルコキシド等の極性化合物を使用することができる。例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコール・ジメチルエーテル、エチレングリコール・ジn−ブチルエーテル、エチレングリコール・n−ブチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコール・ジ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコール・ジメチルエーテル、トリエチレングリコール・ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、α−メトキシメチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシベンゼン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、カリウム−tert−アミルオキシド、カリウム−tert−ブチルオキシド等が挙げられ、これらの化合物は単独または2種以上の混合物として使用できる。かかる極性化合物の使用量は、有機リチウム化合物1モルに対して0モル以上、好ましくは0〜300モルである。このように、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を、有機リチウム化合物を用いてアニオン重合することによってビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体が得られる。
【0034】
さらに、ここで得たビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体は、炭化水素溶媒中で、水素添加触媒及び水素ガスを添加し、水素添加反応を行うことにより、重合体中に存在する共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合を90%以下、好ましくは55%以下、より好ましくは20%以下まで低減化することにより、水添ブロック共重合体を得ることができる。かかる水添反応は、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体に存在する共役ジエン化合物に由来するオレフィン性不飽和結合を低減化できるものであれば、その製法に制限は無く、いかなる製造方法でもよい。
【0035】
本発明で用いる(c)成分のビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその水素添加物である水添ブロック共重合体は、上記した構造を有するブロック共重合体である。一般に、これらブロック共重合体をさらに官能基を有する化合物と反応させて得られる官能基を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその水素添加物である官能基を有する水添ブロック共重合体等が知られているが、押出成形シート化するポリマーアロイの(c)成分として用いることは好ましくない。なぜならば、官能基を有するエラストマーを(c)成分として用いた場合、押出成形シートの外観を悪化させるからである。
【0036】
さらに、(c)成分のエチレン/α−オレフィン共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種以上との共重合体であり、上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセン及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも、炭素数3〜12のα−オレフィンを用いた共重合体が好ましい。かかるエチレン/α−オレフィン系共重合体は、α−オレフィンの含量が好ましくは1〜30モル%、より好ましくは2〜25モル%、さらに好ましくは3〜20モル%である。さらに、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−エチル−2,5−ノルボルナジエン、5−(1’−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンの少なくとも1種が共重合されていてもよい。
【0037】
本発明で用いる(c)成分のエチレン/α−オレフィン共重合体は、上記で示した構造を有する共重合体である。一般に、これらエチレン/α−オレフィン共重合体をさらに官能基を有する化合物と反応させて得られる官能基を有するエチレン/α−オレフィン共重合体や、エチレンと官能基含有モノマーとの共重合体及びエチレン/α−オレフィン/官能基含有モノマーの共重合体等が知られているが、押出成形シート用のポリマーアロイの(c)成分として用いることは好ましくない。なぜならば、これらの官能基を有するエラストマーを(c)成分として用いた場合、押出成形シートの外観を悪化させるからである。
【0038】
上記したこれらの(c)成分のエラストマーの配合量は、上記した(a)〜(b)成分の合計100重量部に対して、1〜15重量部が好ましく、より好ましくは3〜12重量部である。かかる配合量が1重量部以上であれば、靱性及び柔軟性を有する押出成形シートとなり、配合量が15重量部以下において、ポリマーアロイから押出成形されたシートは、機械的強度及び耐熱性に優れたシートとなり得る。
【0039】
本発明の押出成形シート形成用の最も好ましいポリマーアロイは、上記した(a)成分のPPS、(b)成分のPPE、(c)成分のエラストマー及び(d)成分のグリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体で構成され、マトリックス相が(a)成分のPPS、分散相が、平均粒子径が10μm以下で分散した(b)成分のPPEである。該分散相の(b)成分のPPE中に(c)成分のエラストマー成分がさらに分散したモルフォロジーを示し、剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、200〜1200Pa・secであるポリマーアロイである。
【0040】
本発明の押出成形シート形成用ポリマーアロイは、上記成分の他に、効果を損なわない範囲で必要に応じて、炭酸カルシウムや酸化マグネシウム等の無機フィラー(ただし、酸化チタンは除く);、熱安定剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤等の安定剤;結晶核剤;帯電防止剤;導電物質(カーボン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなど、ただしグラファイトは除く);難燃剤;顔料や染料等の着色剤;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸塩ワックス、ステアリン酸塩ワックス等の公知の離形剤も適宜添加することができる。
【0041】
なお、ポリマーアロイ中に分散した(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の分散形態は、透過型電子顕微鏡を用いて容易に測定し確認できる。例えば、四塩化ルテニウム等の重金属化合物を用いてサンプルを酸化染色し、ウルトラミクロトーム等で超薄切片を切り出し、その切片を透過型電子顕微鏡で写真をとり、写真(例えば、10000倍)として現像し、その写真を200dpi以上の解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置(例えば、旭化成社製のIP−1000など)の粒子解析ソフトを用いて分散した(a)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の粒子径を測定し、以下の数式により平均粒子径を算出した。
平均粒子径=ΣniDri3/ΣniDri2
(ここで、niは、写真中の粒子径Driの粒子の個数、粒子径Driは、写真中の粒子面積から円相当径とした時の粒子径である。)
【0042】
ポリマーアロイの製造方法は、上記した特徴を有するものであれば特にその製造方法は限定されないが、好ましい製造方法は以下である:
(1)少なくとも2個のベント口及び少なくとも1個のサイド供給口を有し、280℃〜 350℃に温度設定した二軸押出機を用いて、押出機のトップより(a)成分〜( d)成分の全量を供給し溶融混練した後に、該二軸押出機の一つ以上のベント口を 絶対真空圧95kPa以下で脱気して溶融混練する方法;
(2)リニア型PPSと架橋型PPSを併用する場合は、少なくとも2個のベント口及び 少なくとも1個のサイド供給口を有し、280℃〜350℃に温度設定した二軸押 出機を用いて、押出機のトップより(a)成分のリニア型PPSと(b)成分〜( d)成分の全量を溶融混練した後に、該二軸押出機の第1ベント口を絶対真空圧9 5kPa以下で脱気するゾーンを設けて溶融混練し、該二軸押出機の第1サイド供 給口より(a)成分の架橋型PPSを添加し、さらに加熱溶融混練した後に、該二 軸押出機の第2ベント口を絶対真空圧95kPa以下で脱気して溶融混練する方法 。
【0043】
このようにして得られるポリマーアロイは、剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、200〜1200Pa・secであることが重要であるが、ポリマーアロイの溶融粘度だけではなく(a)成分のPPSの剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、100〜500Pa・secを満たさなければならない。これらの2つの溶融粘度(ポリマーアロイの溶融粘度及びPPSの溶融粘度)は、いずれか一方の溶融粘度がこれらの範囲を満たさない場合は、シートを押出加工する際にドローダウンが発生したり、押出成形シート特性(厚みムラ、表面外観)が悪化し好ましくない。
【0044】
これらの2つの溶融粘度が好適な範囲に制御されたポリマーアロイは、押出加工方法による押出成形シート化する際のドローダウンを防止し、成形加工性(製膜性)と、特性(厚みムラ、表面外観)のバランスに優れたシートを与える。
【0045】
すなわち、(a)成分のPPSの剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度を100Pa・sec以上、且つ、ポリマーアロイのかかる溶融粘度を200Pa・sec以上とすることにより、押出成形シート化する際の押出加工時のドローダウンを防止でき、(a)成分のPPSの剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度を500Pa・sec以下、且つ、ポリマーアロイのかかる溶融粘度を1200Pa・sec以下とすることによりポリマーアロイから押出成形されるシート特性(厚みムラ、表面外観)のバランスに優れる。
【0046】
さらに、供する(a)PPS中に含まれるオリゴマー量が0.7重量%以下でなければならない。たとえ、上記した2つの溶融粘度を満たすポリマーアロイであっても供する(a)成分のPPS中のオリゴマー量が0.7重量%を超える場合は、シートとして押出加工が可能となるものの、押出機のダイス部分にメヤニの発生が著しく、発生したメヤニの生長によりシートに傷が付いたりする等の外観不良をもたらし好ましくない。かかるオリゴマー量が0.7重量%以下であれば、メヤニの生長を減ずることができ、シートの外観の悪化を防止することができ好ましい。
【0047】
本発明において、ポリマーアロイから得られる押出成形シートは、事前に作成したポリマーアロイのペレットを用いて公知の各種押出成形方法によって所望の厚さの押出成形シートを得ることが可能である。また、上記した(a)〜(d)成分を溶融混練しポリマーアロイ化する工程と、シート化する工程を同時に併せ持つ押出シート成形機を用いて、所望の厚さ(1000μm以下や100μm以下)のシートを得ることもできる。
【0048】
本発明の押出成形シートを得るための具体的な押出成形方法としては、Tダイ押出成形方法が挙げられ、この場合、押出成形シートは無延伸のままで製造してもよいし、1軸延伸してもよいし、2軸延伸することも可能である。特に、本発明の押出成形シートの強度を高めたい場合は、延伸する方法が好ましい。また、このTダイ押出成形方法では、ポリマーアロイの単層シートの他に、多層化が可能なマニホールド方式やフィードブロック方式による多層Tダイを用いた押出成形方法により、ポリマーアロイと他の樹脂よりなる多層シートを得ることができる。多層のうち少なくとも一層が上述のポリマーアロイからなるものは、本発明の範疇である。また上述のポリマーアロイからなる層と、銅等の金属からなる層を有する多層シート、具体的には、銅張積層板も本発明の範疇である。
【0049】
さらに、上記のTダイ押出成形方法のほかに、薄物のシートを成形するには押出しチューブラー成形法、又はインフレーション成形法と呼ばれる押出成形方法を用いてシートを製造することができる。これらの製造方法では、円筒から出てきたポリマーアロイのパリソンがすぐに冷却しないように、50〜290℃の温度範囲の中から適宜好適な温度を選択して、該パリソンを温度制御することがシート厚みを均一にし、層剥離のないシートを製造する上で極めて重要である。このインフレーション成形法ではポリマーアロイの単層シートのほかに、多層化が可能な多層ダイを用いてポリマーアロイと他の樹脂よりなる多層シートも得ることができる。また、これらの方法で得たポリマーアロイのシートは、さらなる賦型加工することも可能でありポリマーアロイのシート賦型品として利用できる。
【0050】
本発明の押出成形シートは、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れ、加えて、熱収縮率が小さく、また難燃性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れ、耐加水分解性にも優れる特徴を有する。従って、本発明の押出成形シートは、これらの特性が要求される用途に用いることができる。例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池内部の絶縁ワッシャー、などが挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって説明する。
なお、使用した原料は下記の通りである。
【0052】
(a)成分のポリフェニレンスルフィド樹脂
(a−1):特開平8−253587号公報に実施例1に準じて、キャピログラフ((株)東洋精機製作所製)による、剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が470Pa・secであり、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.6重量%の半架橋タイプのPPS(a−1)を合成した。
(a−2): a−1と同様に、測定した溶融粘度が、310Pa・secのp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.3重量%のリニアタイプのPPS(a−2)を合成した。
(a−3):a−1と同様に、測定した溶融粘度が180Pa・sec、のp−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.5重量%の半架橋タイプのPPS(a−3)を合成した。
(a−4):a−1と同様に、測定した溶融粘度が110Pa・sec、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.3重量%のリニアタイプのPPS(a−4)を合成した。
(a−5):a−1と同様に、測定した溶融粘度が75Pa・sec、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.3重量%のリニアタイプのPPS(a−5)を合成した。
(a−6):a−1と同様に、測定した溶融粘度が38Pa・sec、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.5重量%のリニアタイプのPPS(a−6)を合成した。
(a−7):a−1と同様に、測定した溶融粘度が580Pa・sec、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.5重量%の、半架橋タイプのPPS(a−7)を合成した。
(a−8):a−1と同様に、測定した溶融粘度が240Pa・sec、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が0.8重量%の半架橋タイプのPPS(a−8)を合成した。
(a−9):a−1と同様に、測定した溶融粘度が310Pa・sec、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有し、塩化メチレン抽出法で求めたオリゴマー量が1.1重量%の半架橋タイプのPPS(a−8)を合成した。
【0053】
(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂
(b−1): 2,6−キシレノール(日本クレノール株式会社製、製品名2,6−キシレノール)を酸化重合し、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定し、ポリスチレン換算した数平均分子量が24000のポリフェニレンエーテル(b−1)を合成した。
(b−2): 2,6−キシレノール(日本クレノール株式会社製、製品名2,6−キシレノール)を酸化重合し、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定し、ポリスチレン換算した数平均分子量が13000のポリフェニレンエーテル(b−2)を合成した。
【0054】
(c)成分のエラストマー
(c−1):(特開昭60−79005号公報)に準じて、ポリスチレンブロック−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンブロックの構造を持ち、結合スチレン量が33%、ポリブタジエン部分の1,2−ビニル結合量が47%、ポリスチレン鎖の数平均分子量が29000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.8%の水添ブロック共重合体(c−1)を合成した。
(c−2):(特開昭60−79005号公報)に準じて、ポリスチレンブロック−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンブロックの構造を持ち、結合スチレン量が60%、ポリブタジエン部分の1,2−ビニル結合量が55%、ポリスチレン鎖の数平均分子量が24000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.2%の水添ブロック共重合体(c−2)を合成した。
(c−3):密度0.86、温度230℃、荷重21.2Nの条件で測定したメルトフローレートが0.5g/10分のエチレン?オクテン共重合体(c−3)を合成した。
【0055】
(d)成分のスチレン系共重合体
(d−1): グリシジルメタクリレートを5重量%含有するスチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(重量平均分子量110,000)(d−1)を合成した。
(d−2): 2−イソプロペニル−2−オキサゾリンを5重量%含有するスチレン−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体(重量平均分子量146,000)(d−2)を合成した。
【0056】
ポリマーアロイのシート成形と評価を、以下の方法に従って実施した。
(1)シート成形
ポリマーアロイのペレットを、単軸押出し成形機(ユニオンプラスチック(株)製、スクリュー径40mm、L/D28)と地面に垂直に位置するコートハンガーダイ(幅400mm、ダイリップ間隔0.6mm)を用い、シリンダー温度及びダイ温度300℃にてシート状に押出した。コートハンガーダイより押し出された溶融シートは温度120℃の冷却ロールを介してシートとして巻き取った。なお、シートの厚み調整は押出機の吐出量及び引き取りロールの回転数で調整した。
【0057】
(2)ポリマーアロイの溶融シート−ドローダウン評価
単軸押出し成形機を用いてシリンダー温度及びダイ温度300℃にて地面に垂直に位置するコートハンガーダイ(幅400mm、ダイリップ間隔0.6mm)より押し出された溶融シートが自重で垂れが発生するか観察し、以下の判定基準に基づき使用したポリマーアロイのドローダウン評価を行った。
○:ドローダウン発生が認められなかった。
×:ドローダウン発生が認められた。
【0058】
(3)ポリマーアロイシートの厚みムラの評価
シート幅中央部の厚みが150μmとなるように引き取りロールの調整を行い、ポリマーアロイのシートを50m作成し、シート長さ1m毎にシート幅中央部の厚みをデジタルシックネスゲージ(尾崎製作所製:G2−205)を用いて測定し、(シート幅中央部最大厚みとシート幅中央部最小厚みの平均値)/(シート幅中央部の厚み平均値)の値を%で表した数値を厚みムラ(%)として評価した。
数値(%)が大きいものほど厚みムラが大きいと判断した。
【0059】
(4)ポリマーアロイシートの表面外観の評価
シート幅中央部の厚みが150μmとなるように引き取りロールの調整を行い、ポリマーアロイのシートを作成し、JIS−Z8741に準じた方法でデジタル変角光沢計(日本電色工業製:VGS−1D型)を用いて入射光反射光変角60°の光沢度を測定し表面外観として評価した。
なお、押出機でシート作成時にTダイ部のメヤニ蓄積が著しく、シート表面外観を悪化させたサンプルは光沢度の測定は行わずに、製膜時のメヤニ発生で好ましくないと判断した。
【0060】
(5)ポリマーアロイの溶融粘度の測定
キャピログラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、キャピリーは、キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mmを用いて、温度300℃、剪断速度100sec-1のポリマーアロイの溶融粘度を測定した。
【0061】
(6)ポリマーアロイ中の分散相(a)成分の平均粒子径の測定
ポリマーアロイのペレットをウルトラミクロトーム等で超薄切片を切り出して四塩化ルテニウムを用いて酸化染色し、その染色した切片を透過型電子顕微鏡で写真をとり、10000倍の写真として現像し、その写真を400dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置(旭化成社製のIP−1000)の粒子解析ソフトを用いて分散した(a)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の粒子径を測定し、以下の数式により平均粒子径を算出した。
平均粒子径=ΣniDri3/ΣniDri2
(ここで、niは写真中の粒子径Driの粒子の個数、また、粒子径Driは写真中の粒子面積から円相当径とした時の粒子径である。)
【0062】
[実施例1〜9、比較例1〜15]
温度290〜310℃、スクリュー回転数300rpmに設定した二軸押出機(ZSK−40;COPERION WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国)を用い、押出機の第一原料供給口より、表1に記載の組成割合で各成分を供給して加熱溶融混練し、溶融混練後の第一ベント口及び第二ベント口の真空度を絶対真空圧95kPa以下で脱気して溶融混練し、ポリマーアロイをペレットとして得た。ここで得たポリマーアロイを、単軸押出し成形機を用いてシート成形を行い、ドローダウンの評価、シートの厚みムラ、表面外観の評価、使用したポリマーアロイの溶融粘度及びモルフォロジーを確認し分散平均粒子径を測定した。これらの結果を併せて表1〜2に掲載した。
【0063】
[比較例9]
特開平1−213361号公報の追試
特開平1−213361号公報の実施例に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS:320℃の剪断速度1000sec-1の溶融粘度が約2600ポイズ)相当するポリフェニレンスルフィド樹脂を温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、950Pa・secであった。この溶融粘度を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を用い、他は実施例1と同じ組成、同じ方法でポリマーアロイを得た。このポリマーアロイの温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、3500Pa・secであった。このポリマーアロイを用いて押出シート成形時のドローダウンを確認したが全くドローダウンは無かった。また、この実施例1相当の組成物はシート押出時のメヤニ発生が多かった。そして得られた150μmのシートは目視で凹凸が見られ、光沢が無く、入射光反射光変角60°の光沢度が28であり、シートの厚みムラは37.2%であった。
【0064】
[比較例10]
特開平2−86652号公報の追試
特開平2−86652号公報の実施例1、実施例4及び実施例6の組成物で使用しているポリフェニレンスルフィド樹脂の「商品名:トープレンT−4」、「商品名:トープレンT−1」を温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、それぞれ、180Pa・sec及び24Pa・secであった。特開平2−86652号公報の実施例1、実施例4及び実施例6に記載されている組成物は相当する各配合成分を用いて実施例1〜3に記載の方法で樹脂組成物を作成した。この追試で得た実施例1、実施例4及び実施例6相当の樹脂組成物の温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度は、それぞれ、1800Pa・sec、2100Pa・sec及び1500Pa・secであった。これらの樹脂組成物を用いて押出シート成形時のドローダウンを確認したが全くドローダウンは無かった。しかしながら、Tダイ部のメヤニ発生は多く、メヤニによるダイラインが発生し、得られた150μmのシートは目視で凹凸が見られ、光沢が無く、入射光反射光変角60°の光沢度がそれぞれ43、41及び44であった。なお、シートの厚みムラはそれぞれ20.6%、23.5%、及び26.6%であった。
【0065】
[比較例11]
特開平3−20356号公報の追試
特開平3−20356号公報の実施例1、実施例2及び実施例4で使用しているポリフェニレンスルフィド樹脂の「商品名:ライトンM2588」を温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、90Pa・secであった。特開平3−20356号公報の実施例1、実施例2及び実施例4に記載されている組成物は相当する各配合成分を用いて実施例1〜3に記載の方法で樹脂組成物を作成した。なお、この実施例で使用されているPPEはその分子量に相当する記載が何ら見受けられないので、2,6−キシレノールを酸化重合し、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて測定し、ポリスチレン換算した数平均分子量が24000のPPEを用いた。この追試で得た実施例1、実施例2及び実施例4相当の樹脂組成物の温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度は、それぞれ、1600Pa・sec、2400Pa・sec及び1400Pa・secであった。これらの樹脂組成物を用いて押出シート成形時のドローダウンを確認したが全くドローダウンは無かった。またシート押出時のTダイ部のメヤニ発生は少なかった。しかしながら、得られたシートは目視で凹凸が見られ、光沢が無く、入射光反射光変角60°の光沢度がそれぞれ35、29及び34であった。なお、得たシートの厚みムラはそれぞれ26.7%、28.9%、及び21.2%であった。
【0066】
[比較例12]
特開平9−161737号公報の追試
特開平9−161737号公報の実施例1、実施例4及び実施例6の組成物で使用しているポリフェニレンスルフィド樹脂の「商品名:ライトンL2120」、「商品名:ライトンM2588」を温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、それぞれ、350Pa・sec及び90Pa・secであった。特開平9−161737号公報の実施例1、実施例4及び実施例6に記載されている組成物は相当する各配合成分を用いて実施例1〜7に記載の方法で樹脂組成物を作成した。この追試で得た実施例1、実施例4及び実施例6相当の樹脂組成物の温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度は、それぞれ、1800Pa・sec、2100Pa・sec及び1400Pa・secであった。これらの樹脂組成物を用いて押出シート成形時のドローダウンを確認したが全くドローダウンは無かった。また、シート押出時のTダイ部のメヤニ発生に関し、実施例1及び実施例4相当の組成物はTダイ部のメヤニ発生は多かったが、実施例6相当の樹脂組成物はTダイ部のメヤニ発生は少なかった。しかしながら、得られたシートは目視で凹凸が見られ、光沢が無く、入射光反射光変角60°の光沢度が、それぞれ、42、40及び43であった。なお、得た150μmのシートの厚みムラは、それぞれ、19.7%、21.3%、及び19.3%であった。
【0067】
[比較例13]
特開2002−12764号公報の追試
特開2002−12764号公報の実施例1、実施例2及び実施例5の組成物で使用しているポリフェニレンスルフィド樹脂の(a−1)及び(a−2)を温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、それぞれ75Pa・sec及び74Pa・secであった。特開2002−12764号公報の実施例1、実施例2及び実施例5に記載されている組成物は相当する各配合成分を用いて実施例1〜14に記載の方法で樹脂組成物を作成した。この追試で得た実施例1、実施例2及び実施例5相当の樹脂組成物の温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度は、それぞれ、650Pa・sec、640Pa・sec及び950Pa・secであった。これらの樹脂組成物を用いて押出シート成形時のドローダウンを確認したところ、実施例1及び実施例2の組成物はドローダウンが発生し、安定してシートを生産できなかった。また、実施例5の組成物はドローダウンが全く起こらずシートを得ることができた。また、シート押出時のTダイ部のメヤニ発生に関し、実施例1、実施例2及び実施例5相当の樹脂組成物は、Tダイ部のメヤニ発生は少なかった。しかしながら、得られた実施例5の組成物のシートは目視で凹凸が見られ、光沢が無く、入射光反射光変角60°の光沢度が20であった。なお、得た実施例5の150μmのシートの厚みムラは、28.6%であった。
【0068】
[比較例14]
WO2006/067902 A1公報の追試
WO2006/067902 A1公報の実施例14、実施例18及び実施例19の組成物で使用しているポリフェニレンスルフィド樹脂の(a−1)、(a−2)、(a−3)、(b−1)、(b−2)及び(b−3)を温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、それぞれ、75Pa・sec、45Pa・sec、15Pa・sec、74Pa・sec、75Pa・sec及び70Pa・secであった。WO2006/067902 A1公報の実施例14、実施例18及び実施例19に記載されている組成物に相当する各配合成分を用いて実施例1〜31に記載の方法で樹脂組成物を作成した。この追試で得た実施例14、実施例18及び実施例19相当の樹脂組成物の温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度は、それぞれ、600Pa・sec、920Pa・sec及び800Pa・secであった。これらの樹脂組成物を用いて押出シート成形時のドローダウンを確認したところ、実施例14、実施例18及び実施例19の組成物はドローダウンが発生し、安定してシートを生産できなかった。また、シート押出時のTダイ部のメヤニ発生に関し、実施例14、実施例18及び実施例19相当の樹脂組成物はTダイ部のメヤニ発生は少なかった。
【0069】
[比較例15]
WO2006/082902 A1公報の追試
WO2006/082902 A1公報の実施例5の外層の組成物で使用しているポリフェニレンスルフィド樹脂を温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度を測定したところ、73Pa・secであった。WO2006/082902 A1公報の実施例5の外層に記載されている組成物に相当する各配合成分を用いて、本発明の製造方法で樹脂組成物を作成した。この追試で得た実施例5の外層に相当する樹脂組成物の温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度は、630Pa・secであった。この樹脂組成物を用いて押出シート成形時のドローダウンを確認したところ、ドローダウンが発生し、安定してシートを生産できなかった。また、シート押出時のTダイ部のメヤニ発生に関し、この実施例5の外層部相当の樹脂組成物はTダイ部のメヤニ発生は少なかった。
このWO2006/082902 A1公報の実施例5に記載の外層及び内層からなる多層シートは、内層と外層を複合することによりTダイより押し出された多層シートは、ドローダウンは防止できたものと理解される。
これらの結果より、使用したポリフェニレンスルフィド樹脂の温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度が100〜500Pa・secであり、ポリマーアロイ中に分散した(b)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の平均粒子径が10μm以下であり、且つ、ポリマーアロイの温度300℃、剪断速度100sec-1の溶融粘度が200〜1200Pa・secを満たす場合は、押出シート成形時のドローダウンが無く、シート成形加工性(製膜性)に優れ、厚みムラが少なく表面外観に優れるシートを与えることが明らかとなった。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の押出成形シート形成用ポリマーアロイを押出成形して得られる押出成形シートは、その成形加工性(製膜性)に優れ、厚みムラが少なく良好な表面外観を有する厚み1000μm以下のシートを与えるため、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池内部の絶縁ワッシャー等のシート、フィルム領域の材料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂からなるマトリックス相と、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂からなる分散相と、
(d)グリシジル基、オキサゾリル基の少なくとも一方の官能基を有するスチレン系共重合体と、
を含むポリマーアロイを押出成形して得られる押出成形シートであって、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、100〜500Pa・secであり、かつ、オリゴマー含有量が0.7重量%以下であり、
前記分散相の平均粒子径が10μm以下であり、
前記ポリマーアロイの剪断速度100sec-1における300℃の溶融粘度が、200〜1200Pa・secである、押出成形シート。
【請求項2】
前記分散相中に(c)エラストマーが存在する、請求項1に記載の押出成形シート。
【請求項3】
前記ポリマーアロイが、
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂 45〜95重量%と、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂 5〜55重量%と、
(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対し(d)グリシジル基、オキサゾリル基の少なくとも一方の官能基を有するスチレン系共重合体 1〜5重量部と、
を含有する、請求項1又は2に記載の押出成形シート。
【請求項4】
前記ポリマーアロイが、
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂 45〜95重量%と、
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂 5〜55重量%と、
(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対し(c)エラストマー 1〜15重量部と、
(d)グリシジル基、オキサゾリル基の少なくとも一方の官能基を有するスチレン系共重合体 1〜5重量部と、
を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項5】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、リニア型ポリフェニレンスルフィド、又は架橋型ポリフェニレンスルフィドである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項6】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、リニア型ポリフェニレンスルフィド及び架橋型ポリフェニレンスルフィドを含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項7】
(b)成分が、ポリフェニレンエーテル100重量%、又はポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂=1〜99重量%/99〜1重量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項8】
(c)エラストマーが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体、前記ブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、及びエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜7のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項9】
(d)スチレン系共重合体が、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマーがグラフトしたグラフト共重合体、及びエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマー、及びアクリロニトリルがグラフトしたグラフト共重合体からなる群の中から選ばれる少なくとも1種である請求項3〜8のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項10】
単層又は多層である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項11】
前記押出成形シートが、厚さ1000μm以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の押出成形シート。
【請求項12】
請求項1〜11の記載のいずれか一項に記載の押出成形シートを用いて賦型した成型体。

【公開番号】特開2008−255220(P2008−255220A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98823(P2007−98823)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】