説明

ポリマーセメント組成物

【課題】 本発明は、広い温度領域で、速硬性、仮防水性及び多様な材質との下地接着性に優れ、さらに、多様な上塗り仕上げ材の施工が可能な下地調整材を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び高炉スラグ粉を含む水硬性組成物と、エポキシ樹脂とを含むポリマーセメント組成物であり、エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤とを含むポリマーセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物とエポキシ樹脂とを含み、速硬性と仮防水性と下地接着性に優れた下地調整材に用いられるポリマーセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般建造物の屋上やルーフバルコニーなどの防水層の改修では、(1)既設の防水層の全面除去を行い、防水性を有する下地調整材を用いて、下地調整処理を行なった後に、新規の防水層を施工して全面改修する、又は(2)旧防水層の膨れ、剥がれ、或いは割れなどの不具合部分を部分的に除去し、防水性を有する下地調整材を用いて、下地調整処理を行なった後に、新規の防水層を施工して部分改修する、等の改修工事が行われている。
【0003】
ポリマーセメント系複合材としては、特許文献1に、エポキシ樹脂及び硬化剤、ポルトランドセメント、カルシウムアルミネート系化合物、石膏並びにリチウム化合物を含有し、必要十分な可使時間後に急速に硬化して高強度に達し、さらに低収縮性と低白華性を合わせもった、ポリマーセメント系複合材が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3624294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般建造物の屋上やルーフバルコニーには多様な材質の材料が用いられている。したがって、既設の防水層の改修においては、多様な材質の下地と良好な接着性が得られる下地調整材への要求は大きい。さらに、防水層の改修工事では、降雨など天候への対処が必要であるため速やかな施工が要求され、下地処理材などの使用材料においても速硬性は重要な機能となる。
また、多様な下地との接着性が良好な特性及び速硬性に優れる特性は、既設建造物の改修に限らず、新設建造物の建設においても優れた特性となる。
【0006】
本発明は、広い温度領域で、速硬性、仮防水性及び多様な材質との下地接着性に優れ、さらに、多様な上塗り仕上げ材の施工が可能な下地調整材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び高炉スラグ粉を含む水硬性組成物と、油性(非水性)のエポキシ樹脂主剤と水性のエポキシ樹脂硬化剤とを含むエポキシ樹脂エマルジョンとを用いることによって、低温域から高温域の広い温度領域で、速硬性と仮防水性を有するとともに、多様な下地に対して優れた接着性を有し、さらに多様な上塗り材の施工が可能なポリマーセメント組成物を見出して本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び高炉スラグ粉を含む水硬性組成物と、エポキシ樹脂とを含むポリマーセメント組成物であり、エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤とを含むことを特徴とするポリマーセメント組成物である。
【0009】
以下に本発明のポリマーセメント組成物の好ましい様態を示し、本発明ではこれらを複数組合せることができる。
1)エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤と水とを配合したエポキシ樹脂エマルジョンであること。
2)アルミナセメントとポルトランドセメントの配合割合が、アルミナセメント45〜95質量%、ポルトランドセメント55〜5質量%であること。
3)水硬性組成物がさらに石膏を含むこと。
4)水硬性組成物100質量部に対して、エポキシ樹脂の固形分が3〜35質量部であること。
5)ポリマーセメント組成物が、速硬性、仮防水性及び下地接着性を有する下地調整材に用いられること。
6)ポリマーセメント組成物を硬化させて得られるポリマーセメント硬化体であること。
7)ポリマーセメント組成物と水との配合物を硬化させて得られるポリマーセメント硬化体であること。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリマーセメント組成物は、低温域から高温域の広い温度領域で、多様な材質の下地に施工可能で、速硬性、仮防水性及び下地と強固な接着性を有し、さらに、本発明のポリマーセメント組成物を用いた下地調整材の上に、多様な上塗り仕上げ材の施工が可能なポリマーセメント組成物であり、既設建築物の改修における防水工事をはじめとして、新設建築物の建設における防水工事に好適に利用でき、優れた性能を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び高炉スラグ粉を含む水硬性組成物と、エポキシ樹脂とを含むポリマーセメント組成物であり、エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤とを含むことを特徴とするポリマーセメント組成物である。
以下に本発明のポリマーセメント組成物の好ましい態様を示す。
【0012】
本発明に係るエポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤とを用いる。
【0013】
本発明におけるエポキシ樹脂の主剤は、油性(非水性)であればその種類・タイプ等の制限なく使用できる。
エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤としては、特にビスフェノールAを好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上含むものが好適に使用される。
本発明に係るエポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とは、その構成成分として水を含まないものである。したがって、予めエポキシ樹脂の油性(非水性)主剤と水とを混合攪拌して調製したエマルジョンは、本発明で用いるエポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とは異なるものであり、本発明では用いない。
【0014】
本発明におけるエポキシ樹脂の硬化剤は、水性のものであればその種類・タイプ等の制限なくすべて使用できる。
エポキシ樹脂の水性の硬化剤としては、特に水に低粘度分散又は溶解するものが好ましく、構造的には変性ポリアミン、変性ポリアミドアミン等が好適に使用できる。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤と、エポキシ樹脂の水性硬化剤と水とを含む配合物とを混合攪拌して、均質なエポキシ樹脂エマルジョンを調製して使用する。
【0016】
エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤との混合割合は、油性(非水性)主剤100質量部に対して、水性硬化剤が20〜400質量部を配合することが好ましい。
【0017】
本発明に係る水硬性組成物は、水硬性成分としてアルミナセメントとポルトランドセメントとを含む。
アルミナセメントとポルトランドセメントの配合割合は、好ましくはアルミナセメント45〜95質量%に対して、ポルトランドセメント55〜5質量%、より好ましくは、アルミナセメント50〜85質量%に対して、ポルトランドセメント50〜15質量%、特に好ましくは、アルミナセメント55〜75質量%に対して、ポルトランドセメント45〜25質量%の範囲で用いることが、実用的な可使時間を保持しつつ、急硬性で、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化の少ない硬化物を得られるために好ましい。
アルミナセメントが45質量%より少ないと、可使時間が短く施工性が不良になるとともに、低温域の硬化時間が長くなるので好ましくない。また、95質量%を超えると、低温域の硬化が著しく遅れることから好ましくない。
【0018】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0019】
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントなどを用いることができる。
また、ポルトランドセメントを含む高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなども用いることができる。
【0020】
本発明に用いられる水硬性組成物は、さらに高炉スラグ粉を含む。
水硬性組成物は、高炉スラグ粉を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
【0021】
水硬性組成物において、高炉スラグ粉の配合量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜180質量部、特に好ましくは70〜150質量部を配合するのが好ましく、少なすぎると硬化性状が不良となり好ましくなく、多すぎると硬化体強度の低下を招くことがあり好ましくない。
【0022】
高炉スラグ粉は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0023】
水硬性組成物は、さらにフライアッシュ、シリカ粉などの無機成分を含むことができ、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
【0024】
水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分(ポルトランドセメント、アルミナセメントの合計)100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜180質量部、特に好ましくは70〜150質量部とするのが好ましい。
【0025】
水硬性組成物は、必要に応じてさらに細骨材を含むことができる。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは80〜300質量部、特に好ましくは100〜250質量部の範囲が好ましい。
【0026】
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.032〜1.5mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.075〜1mmの骨材、特に好ましくは0.1〜0.85mmの骨材を主成分としている。
【0027】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類などを好ましく用いることが出来る。
【0028】
細骨材の粒径は、JIS Z 8801で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0029】
水硬性組成物は、必要に応じてさらに石膏を含むことができる。
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種を問わず1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏の添加は、ポリマーセメントモルタルの硬化後の寸法安定性改善に寄与し、特に硬化体の防水特性が向上することから好ましい。
石膏の配合量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは2〜45質量部、特に好ましくは3〜40質量部を配合することが好ましい。
【0030】
水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ適度の流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を含むことが好ましい。
水硬性成分であるアルミナセメント及びポルトランドセメントの発現強度は、ともに水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが有効である。
【0031】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販のものが、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販のものが好ましい。
【0032】
流動化剤は、水硬性成分の特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2質量部、さらに好ましくは0.03〜1.5質量部、特に好ましくは0.05〜1質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと十分な効果が発現せず、また多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によっては所要の流動性を得るための混練水量が増大し、同時に粘稠性も大きくなり、施工性が悪化する場合が考えられる。
【0033】
凝結調整剤は、水硬性成分の特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間を調整することができる。
【0034】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることが出来、例えば、凝結促進の性質を有するリチウム塩を好適に用いることが出来る。
凝結促進剤の配合量は、水硬性成分100質量部に対して0.002〜1.5質量部、さらに0.005〜1質量部、特に0.01〜0.5質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0035】
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から特に好ましい。
【0036】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。
凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸ニナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなど有機酸などの、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを用いることが出来る。特に重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0037】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
【0038】
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
【0039】
凝結遅延剤の添加量は、水硬性成分100質量部に対して0.05〜3質量部、さらに0.1〜2質量部、特に0.3〜1.5質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0040】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
【0041】
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、良好な消泡効果が認められるために好ましい。
【0042】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含む増粘剤を好適に用いることができ、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを併用して用いることが出来る。
【0043】
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性組成物100質量部中に、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.8質量部、特に0.03〜0.6質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、流動性の低下を招く恐れがあるために上記配合の範囲で用いることが好ましい。
【0044】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、ポリマーセメント硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、ポリマーセメント硬化体の特性を向上させるために好ましい。
【0045】
水硬性組成物は、アルミナセメント及びポルトランドセメントを含む水硬性成分、高炉スラグ粉、硅砂などの細骨材、必要に応じて配合する流動化剤、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含む増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤とを含むことができる。
【0046】
水硬性成分と、高炉スラグ粉、無機成分、細骨材、必要に応じて配合する流動化剤、増粘剤、凝結調整剤、消泡剤などを混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0047】
本発明のポリマーセメント組成物では、まずエポキシ樹脂の油性(非水性)の主剤と、エポキシ樹脂の水性硬化剤を含む水溶液とを攪拌機を用いて混合攪拌し、均質なエポキシ樹脂エマルジョンを調製する。続いて、このエポキシ樹脂エマルジョンに水硬性組成物を加えて混合攪拌し、ポリマーセメント組成物を得る。
また、本発明のポリマーセメント組成物では、まずエポキシ樹脂の油性(非水性)の主剤と、エポキシ樹脂の水性硬化剤を含む水溶液とを攪拌機を用いて混合攪拌し、均質なエポキシ樹脂エマルジョンを調製したのち、このエポキシ樹脂エマルジョンに水硬性組成物と水とを加えて混合攪拌し、ポリマーセメント組成物を得ることができる。
【0048】
水硬性組成物に対するエポキシ樹脂の配合割合は、水硬性組成物100質量部に対して、エポキシ樹脂の油性(非水性)及びエポキシ樹脂の水性硬化剤からなるエポキシ樹脂エマルジョンの全固形分の使用量が、3〜35質量部の範囲が好ましく、5〜30質量部の範囲がさらに好ましく、6〜25質量部がより好ましく、7〜20質量部が特に好ましい。3質量部未満では、下地とポリマーセメント組成物の硬化体との間に充分な接着強度が得られないことがあり、防水特性も低下することから好ましくなく、35質量部を超えるとスラリー粘度の上昇が顕著になり施工性が損なわれ、また経済性も低下することから好ましくない。
【0049】
本発明のポリマーセメント組成物は、こて塗り、刷毛塗り、吹付け、流し延べ、注入等の方法により施工し、材料自体のもつ良好な流動性によって下地を平滑に調整する事が出来る。
【0050】
本発明の、エポキシ樹脂の油性(非水性)の主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤とを含むエポキシ樹脂エマルジョンと、水硬性組成物と、さらに必要に応じて水とを一定比率で混合した本発明のポリマーセメント組成物は、好ましくは2℃〜40℃の温度範囲において、さらに好ましくは5℃〜35℃の温度範囲において、可使時間が0.3〜2時間であり、実用上の作業時間確保に充分な可使時間を有し、塗り厚1mm〜3mmの薄塗り時は勿論、塗り厚3mm〜30mmの厚塗り時においても、乾燥及び水和による硬化時間が0.75時間〜9時間で速やかに硬化し、降雨などの障害による塗膜破壊の危険性を極力小さく出来る。
【0051】
さらに、ポリマーセメント組成物の硬化体は、防水性能としてJIS A 1404(1時間、294.0kPa)の透水量が3g以下であり、仮防水性又は防水性を保有するものである。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0053】
(評価および測定方法)
1)スラリー粘度の測定
水硬性組成物と各種樹脂エマルジョンとを混合・攪拌して調製したスラリー(ポリマーセメント組成物)について、B型粘度計を用いて、ローターNo.4で6rpm、12rpm、60rpmの順に粘度を測定した。
2)フロー値の測定
JASS15 M−103に準拠して行なった。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を設置し、練り混ぜたスラリー(ポリマーセメント組成物)を充填した後、パイプを引き上げる。スラリーの広がりが静止した後、直角の2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とした。フロー値は、材料を混合攪拌してスラリーを調製した終了直後と、攪拌終了から15分毎にスラリーを軽く練り返したものについて測定した。
3)可使時間の評価
スラリー(ポリマーセメント組成物)のフロー値を攪拌終了から15分毎に測定し、攪拌終了直後のフロー値の80%以上を保持できるまでの時間を可使時間とした。
4)硬化時間の評価
スラリー(ポリマーセメント組成物)の硬化時間の測定には、ゴム硬度計(高分子計器社製)を用い、スラリー調製から硬度が90以上となった時点までの経過時間を硬化時間とした。
5)ひび割れの評価方法
スラリー(ポリマーセメント組成物)を厚さ2mm、10mmになるようにコテで均して静置し、乾燥後の塗膜表面のひび割れの有無を確認する。
6)試験体の透水量測定
試験体の透水量の測定は、JIS A 1404建築用セメント防水剤の試験方法に従って実施した。
7)付着性の評価
70×70×20mmのモルタル板、及び70×70×20mmのモルタル板上にウレタン塗膜防水(宇部興産社製)、加硫ゴムシート(東洋ゴム工業社製)、塩ビシート(三菱化学MKV社製)を各業者の定める使用方法により予め施工したものを用意した。
これらのモルタル板の表面にポリマーセメント組成物を厚さ2mmになるようにコテで均して塗布し、23℃RH50%で14日間養生した後、JIS A 6916建築用下地調整材の付着強さ試験に準拠して付着強さを測定した。
8)耐溶剤性の評価
70×70×20mmのモルタル板にポリマーセメント組成物を厚さ2mmになるようにコテで均し、23℃RH50%で7日間養生した後、その表面にウレタン塗膜防水(宇部興産社製)、加硫ゴムシート(東洋ゴム工業社製)、塩ビシート(三菱化学MKV社製)を各業者の定める使用方法によって施工し、23℃RH50%で7日間養生後、JIS A 6916建築用下地調整材の付着強さ試験に準拠して、付着強さ及び破断状況を評価した。
【0054】
[実施例1〜7および比較例1〜8]
原料は以下のものを使用した。
【0055】
(樹脂エマルジョン)
1)エポキシ樹脂A
・主剤(油性) :R−362クリヤ−R(成分:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、ノニルフェノール、アイカ工業製)
・硬化剤(水性):P−362クリヤ−H(成分:変性ポリアミドアミン、水、アイカ工業製)
2)エポキシ樹脂B
・主剤(油性) :R−920R(成分:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、エチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、アイカ工業製)
・硬化剤(水性):P−920H(成分:変性ポリアミドアミン、アイカ工業製)
3)エポキシ樹脂C
・主剤(水性) :E−セラックR(成分:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、水、アイカ工業製)
・硬化剤(水性):E−セラックH(成分:変脂肪族ポリアミドアミン、水、アイカ工業製)
4)エポキシ樹脂D
・主剤(水性) :P−921R(成分:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、プロピレングリコールモノメチルエーテル、水、アイカ工業製)
・硬化剤(水性):P−921H(成分:変性脂肪族ポリアミン、水、アイカ工業製)5)アクリル樹脂エマルジョン : ユービーカチオンK(宇部興産社製)
6)ゴムアスファルトエマルジョン: クィックベース主剤(宇部興産社製)
【0056】
(水硬性組成物の原料)
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
2)細骨材 : 6号珪砂。
3)無機成分 : 高炉スラグ(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
4)石膏 : II型無水石膏(セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)。
5)凝結促進剤: 炭酸リチウム:(本荘ケミカル社製)。
6)凝結遅延剤:
・重炭酸ナトリウム:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸ナトリウム:L−酒石酸ニナトリウム(扶桑化学工業社製)。
7)混和剤
・流動化剤:ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
・増粘剤 :ヒドロキシメチルセルロース系増粘剤(マーポローズEMP−30、松本油脂社製)。
・消泡剤 :ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
【0057】
(樹脂エマルジョンの調製)
・使用した樹脂エマルジョンを表1及び表2に示す。
・エポキシ樹脂A及びエポキシ樹脂Bは、それぞれエポキシ樹脂の油性(非水性)主剤と水性硬化剤とを、2Lのポリ容器に計り取り、0.15KW攪拌機を使用して1300rpmの条件下で白濁色の液体になるまで強制混合攪拌し、エポキシ樹脂エマルジョンを調製した。
・エポキシ樹脂C及びエポキシ樹脂Dは、それぞれエポキシ樹脂の水性主剤と水性硬化剤とを、2Lのポリ容器に計り取って攪拌してエポキシ樹脂エマルジョンを調製した。
・アクリル樹脂エマルジョン及びゴムアスファルトエマルジョンは、それぞれをよく攪拌した後、2Lのポリ容器に計り取った。
【0058】
(水硬性組成物の調製)
水硬性成分、細骨材、無機成分、石膏、流動化剤、増粘剤、凝結調整剤及び消泡剤を、ロッキングミキサーを用いて混合し、表1及び表2に示す水硬性組成物を調製した。
【0059】
(ポリマーセメント組成物の調製)
水硬性組成物と各種樹脂エマルジョンとを表1及び表2に示す配合割合で3分間混合してポリマーセメント組成物を調製した。
【0060】
得られたポリマーセメント組成物について、スラリー粘度、可使時間、硬化時間、各種材質の下地との付着性、各種上塗り材に対する耐溶剤性、硬化体のひび割れ発生を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
エポキシ樹脂として、油系(非水系)のエポキシ樹脂主剤と水系のエポキシ樹脂硬化剤とを含むエポキシ樹脂と、水硬性組成物として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び高炉スラグ粉を含む水硬性組成物、または、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ粉及び石膏を含む水硬性組成物とを用いた実施例1〜5及び実施例6及び実施例7の場合、低温域(5℃)から高温域(35℃)まで実用上充分な0.4時間〜1.5時間の可使時間が得られ、硬化時間についても0.9時間〜8時間と優れた硬化特性を示した。
また、これらの硬化体の透水性は、いずれのポリマーセメントモルタル硬化体でも、3g以下の透水量で、優れた仮防水性を示し、特に石膏を含む水硬性組成物を用いた実施例6及び7は際立った防水特性が得られている。
さらに、各種下地との付着強度及び各種上塗り材への耐溶剤性において、良好な付着強度と耐溶剤特性を示し、ポリマーセメントモルタル硬化体についても、薄塗り・厚塗りを問わず、ひび割れの発生は認められなかった。
【0066】
これに対して、実施例1、4と同じ配合の水硬性組成物と、エポキシ樹脂として水系のエポキシ樹脂主剤と水系のエポキシ樹脂硬化剤とを含むエポキシ樹脂とを用いた比較例1及び比較例2や、実施例6、7と同じ配合の水硬性組成物と、エポキシ樹脂として水系のエポキシ樹脂主剤と水系のエポキシ樹脂硬化剤とを含むエポキシ樹脂とを用いた比較例3の場合、ポリマーセメントモルタル硬化体の透水量が約4gであり防水特性は好ましくなく、さらに薄塗り・厚塗りを問わず、ポリマーセメントモルタル硬化体にはひび割れの発生が認められた。
【0067】
また、実施例1、4と同じ配合の水硬性組成物と、アクリル樹脂系エマルジョン又はゴムアスファルト系エマルジョンとを用いた比較例4及び比較例5の場合、ウレタンなどの上塗り材に対する耐溶剤性が不良であった。
【0068】
実施例1と同じエポキシ樹脂(非水系主剤+水系硬化剤)と、高炉スラグ粉を含まない水硬性組成物とを用いた比較例6の場合、5℃の硬化時間が10時間以上であり、硬化特性が不良であった。
また、実施例1と同じエポキシ樹脂と、水硬性成分がアルミナセメントのみ(ポルトランドセメントを含まない)の水硬性組成物とを用いた比較例7の場合も、比較例6と同様に硬化性状が不良であった。
【0069】
本発明のポリマーセメント組成物は、低温域から高温域にわたる広範囲の温度領域において、下地調整材として十分な流動性と流動性保持時間(可使時間)を兼ね備えていて、施工作業性に優れている。さらに、多様な材質の下地と良好な付着性を有するとともに、速硬性で、仮防水性をも兼ね備え、さらに、本発明のポリマーセメント組成物を用いた下地調整材の上には、ウレタンをはじめとして多様な上塗り仕上げ材を施工することができる。
本発明のポリマーセメント組成物は、既設建築物の改修における防水工事をはじめとして、新設建築物の建設における防水工事においても優れた性能を発揮するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び高炉スラグ粉を含む水硬性組成物と、エポキシ樹脂とを含むポリマーセメント組成物であり、
エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤とを含むことを特徴とするポリマーセメント組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂の油性(非水性)主剤とエポキシ樹脂の水性硬化剤と水とを配合したエポキシ樹脂エマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項3】
アルミナセメントとポルトランドセメントの配合割合が、アルミナセメント45〜95質量%、ポルトランドセメント55〜5質量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項4】
水硬性組成物がさらに石膏を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項5】
水硬性組成物100質量部に対して、エポキシ樹脂の固形分が3〜35質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項6】
ポリマーセメント組成物が、速硬性、仮防水性及び下地接着性を有する下地調整材に用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物を硬化させて得られるポリマーセメント硬化体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物と水との配合物を硬化させて得られるポリマーセメント硬化体。


【公開番号】特開2007−277047(P2007−277047A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105863(P2006−105863)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】