説明

ポリマー処理剤およびドープ

【課題】室温付近で液体状であり、かつ、低粘度であるため取扱い性に優れる、イオン液体を含むポリマー処理剤を提供すること。
【解決手段】例えば、下記式(1)で表されるイオン液体と、DMSOなどの非プロトン溶媒とからなり、30℃で液体状であるポリマー処理剤。


〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー処理剤およびドープに関し、さらに詳述すると、イオン液体と非プロトン溶媒とからなり、例えば、ポリマーの表面処理や、膨潤処理、溶解剤として好適なポリマー処理剤、およびイオン液体および非プロトン溶媒にポリマーが溶解してなるドープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン液体に、セルロース、絹、ウール等の高分子物質が溶解することが知られている(非特許文献1:JACS, 2002, vol.124, p.4274-4275、非特許文献2:JACS, 2004, vol.126, p.14350-14351、非特許文献3:Green Chem., 2005, vol.7, p.606-608参照)。
中でも、セルロースについては、セルロースのイオン液体溶液を利用した再生や、化学修飾、表面処理などが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1(特表2005−506401号公報)には、実質的に水を含まない1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドなどのイオン液体中にセルロースを溶解させてセルロース溶液を調製し、これに水を加えてセルロースを再生させる方法が開示されている。
特許文献2(国際公開第2005/054298号パンフレット)には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドに代表されるイオン液体にセルロースを溶解し、セルロースの水酸基をエーテル化する手法が開示されている。
特許文献3(特表2005−530910号公報)には、イオン液体を含む布地処理剤で処理されたセルロース系布地は、機能的または美観的に優れた外観を示し、繊維強化効果が発揮され得ることが開示されている。
【0004】
しかしながら、セルロース、絹、ウール等の溶解能を有するイオン液体のほとんどが室温で固体であるため、室温での処理は困難である。このため、イオン液体が溶融するような比較的高い温度で処理する必要がある。しかし、処理温度を高くすると、被処理物であるポリマーの分子量が著しく低下し、その結果、処理後のポリマーの物性が低下するという問題があった。
また、イオン液体は、粘度が高いため、液体としての取扱い性に劣るうえに、被処理物との接触およびその後の被処理物内部への浸透などに時間を要していた。
【0005】
最近、セルロースをイミダゾリウム系イオン液体(BMIMCl)に溶かした溶液に、DMSO,DMAc,ジオキサンを加えると溶液粘度が減少することが報告されている(非特許文献4:Journal of Cellulose Science and Technology, 2006, 14(2), 8-12)。
しかし、非特許文献4において、粘度特性を評価した温度範囲が75〜100℃であることから、非特許文献4の溶液は、室温での粘度が高いか、室温で凝固している可能性が高い。したがって、この場合も、室温での取扱い性には劣る。
【0006】
また、テトラアルキルアンモニウムハライドにDMSOやTMSO(テトラメチレンスルホキシド)を添加した系でセルロースが溶解することも知られている(特許文献4:特開昭60−144332号公報)。
しかし、この場合も、テトラアルキルアンモニウムハライドがDMSOに溶解しなかったり、融点が高いためか室温で塩の析出または溶液自体の固体化が起こったりするという問題があった。
以上のような理由から、低粘度であり、かつ、室温付近でポリマーを処理し得るポリマー処理剤が望まれている。
【0007】
一方、セルロースとその他の高分子物質とのブレンドに関して、従来、その調製が試みられている。
例えば、特許文献5(特開平4−224838号公報)には、ビスコース法によって得られた再生セルロースとポリウレタンの、セルロース/プラスチックブレンドが開示されている。
しかし、高分子物質とのブレンドに際して、予めセルロースを処理する必要があること、およびセルロースを溶解する処理溶媒が限られているのみならず、それらの処理溶媒が汎用的な溶媒でないことから、使用可能な高分子物質も限定され、所望の組み合わせによるブレンドポリマーを得ることが難しかった。
これを解決するために、セルロースの水酸基をエステル化やエーテル化することにより、セルロース自体を化学修飾し、汎用的な溶媒への溶解性を高め、その他の高分子物質とのブレンドポリマーを調製することも行われている(特許文献6:特表平8−510782号公報)。
しかし、この場合は、セルロース自体が化学修飾されていることから、得られたブレンドポリマーに未修飾セルロースの諸物性を発現させることが難しく、根本的な問題解決には至っていない。
【0008】
【特許文献1】特表2005−506401号公報
【特許文献2】国際公開第2005/054298号パンフレット
【特許文献3】特表2005−530910号公報
【特許文献4】特開昭60−144332号公報
【特許文献5】特開平4−224838号公報
【特許文献6】特表平8−510782号公報
【非特許文献1】JACS, 2002, vol.124, p.4274-4275
【非特許文献2】JACS, 2004, vol.126, p.14350-14351
【非特許文献3】Green Chem., 2005, vol.7, p.606-608
【非特許文献4】Journal of Cellulose Science and Technology, 2006, 14(2), 8-12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、室温付近で液体状であり、かつ、低粘度であるため取扱い性に優れる、イオン液体を含むポリマー処理剤およびドープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、イオン液体と非プロトン溶媒とからなる混合溶媒が、粘度が低いことから取扱い性に優れ、しかも30℃程度でも凝固せずに液相を保持すること、およびセルロース等のポリマーの溶解能に優れていることを見出すとともに、この混合溶媒中に2種以上のポリマーを溶解させ、これを再生させることで従来にないブレンドポリマーが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. イオン液体と非プロトン溶媒とからなり、30℃で液体状であることを特徴とするポリマー処理剤、
2. 下記式[1]で示される前記イオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)が、30〜85%である1のポリマー処理剤、
【数1】

3. 前記非プロトン溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよびピリジンから選ばれる1種また2種以上である1または2のポリマー処理剤、
4. 前記イオン液体が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンをアニオン成分とする1〜3のいずれかのポリマー処理剤、
5. 前記イオン液体が、式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である1〜4のいずれかのポリマー処理剤、
【化1】

〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
6. 前記イオン液体が、式(2)で示される5のポリマー処理剤、
【化2】

〔式中、nおよびYは前記と同じ意味を表す。〕
7. 前記イオン液体が、式(3)で示される6のポリマー処理剤、
【化3】

8. 天然高分子化合物の処理剤である1〜7のいずれかのポリマー処理剤、
9. 前記天然高分子化合物が、セルロースである8のポリマー処理剤、
10. 表面処理剤、膨潤剤または溶解剤である1〜9のいずれかのポリマー処理剤、
11. 1〜9のいずれかのポリマー処理剤を用いるポリマー処理方法、
12. イオン液体と、非プロトン溶媒と、ポリマーとを含み、このポリマーが前記イオン液体および非プロトン溶媒中に溶解しているドープであって、下記式[1]で示される前記イオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)が、30〜99%であるドープ、
【数2】

13. イオン液体と、非プロトン溶媒と、2種以上のポリマーとを含み、これらポリマーが前記イオン液体および非プロトン溶媒中に溶解していることを特徴とするドープ、
14. 前記2種以上のポリマーのうちの1種が、セルロースである13のドープ、
15. 前記2種以上のポリマーが、セルロースおよびポリ乳酸である14のドープ、
16. 下記式[1]で示される前記イオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)が、30〜99%である12〜15のいずれかのドープ、
【数3】

17. 前記イオン液体が、下記式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である12〜16のいずれかのドープ、
【化4】

〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
18. 13のドープから再生されたブレンドポリマー、
19. 15のドープから再生されたセルロース−ポリ乳酸ブレンドポリマー、
20. 13のドープに、前記イオン液体および非プロトン溶媒に相溶し、かつ、前記ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体を加え、または13のドープを、前記イオン液体および非プロトン溶媒に相溶し、かつ、前記ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体に加えることを特徴とするブレンドポリマーの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリマー処理剤は、イオン液体と非プロトン溶媒とからなるものであるため、室温付近でも凝固せず液相を保持し得る。したがって、従来のイオン液体では不可能であった室温付近での処理が可能となる。このポリマー処理剤は、粘度が低いことから取扱い性に優れるばかりでなく、セルロースをはじめとする各種ポリマーの溶解性に優れるとともに、セルロースを溶解した場合の分子量低下がほとんどない。
また、本発明のイオン液体と非プロトン溶媒とからなる混合溶媒は、上述のように各種ポリマーを溶解し得るため、この混合溶媒と複数種の高分子物質とを含むドープを調製し、これから、ポリマーを再生させることで、従来にないブレンドポリマーの調製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るポリマー処理剤は、イオン液体と非プロトン溶媒とからなり、30℃で液体状であるものである。ここで、イオン液体とは、100℃以下で流動性があり、完全にイオンから成る液体をいうが、80℃以下で液体であるものがより好ましく、70℃以下で液体であるものがより一層好ましい。本発明のポリマー処理剤は、30℃で固体のイオン液体を用いた場合でも、30℃で液体状を呈するものである。
本発明のポリマー処理剤を構成するイオン液体は任意であり、従来公知の各種イオン液体を用いることができるが、ポリマーの溶解性などの点から、アニオン成分が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンであるイオン液体が好ましい。
【0014】
ハロゲン化物イオンとしては、Cl-、Br-、I-が挙げられ、総炭素数1〜3のカルボン酸イオンとしては、C25CO2-、CH3CO2-、HCO2-等が挙げられ、擬ハロゲン化物イオンとしては、一価でありハロゲン化物に類似した特性を有するCN-、SCN-、OCN-、ONC-、N3-等が挙げられるが、ポリマーの溶解性を高めるという点から、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、または擬ハロゲン化物イオンが好ましく、特に、Cl-、Br-、HCO2-、SCN-が好ましい。
【0015】
一方、カチオン成分としては、脂肪族系カチオンおよび芳香族系カチオンのいずれも用いることができる。
脂肪族系カチオンとしては、4つの置換基のうち少なくとも1つがその他の置換基と異なる(非対称カチオン)脂肪族アンモニウム塩であることが、低融点、非プロトン溶媒との相溶性の点で好ましい。
特に、テトラアルキルではない、エーテル基を含む下記式(1)で示される4級アンモニウム塩系イオン液体が、低融点、非プロトン溶媒との相溶性、セルロースの溶解性(低粘度)の点で好ましい。
【0016】
【化5】

〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【0017】
式(1)において、炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基等が挙げられる。炭素数3〜5のアルケニル基としては、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基(クロチル基)、3−ブテニル基、イソクロチル基、2−メチルアリル基(メタリル基)等が挙げられる。R4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシまたはエトキシメチル基、メトキシまたはエトキシエチル基が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、式(1)におけるR1〜R3が、互いに同一でも異なっていてもよい、メチル基、エチル基、アリル基、メタリル基、またはR4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基(特に、メトキシエチル基またはメトキシメチル基)であるものが好ましい。
より具体的には、置換基のうち1つがアルコキシアルキル基である下記式(2)で示されるイオン液体を好適に用いることができる。
【0019】
【化6】

〔式中、nおよびYは上記と同じ意味を表す。〕
【0020】
特に、n=2およびY=Cl-である、下記式(3)で示されるジエチルメチルメトキシエチルアンモニウムクロライド(DEMECl)が好ましい。
【0021】
【化7】

【0022】
芳香族系カチオンとしては、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオンが挙げられる。
イミダゾリウムカチオンとしては、例えば、ジアルキルイミダゾリウムカチオン、トリアルキルイミダゾリウムカチオン等が挙げられ、具体例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−(1,2または3−ヒドロキシプロピル)−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられる。
イミダゾリウム系イオン液体としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIMCl)が好適である。
【0023】
ピリジニウムカチオンとしては、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、3−メチル−N−ブチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4−ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられる。
ピリジニウム系イオン液体としては、3−メチル−N−ブチルピリジニウムクロライド(MBPyriCl)が好適である。
なお、上述した各イオン液体は、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0024】
非プロトン溶媒としては、プロトン供与性を持たない溶媒であれば任意であるが、好ましくはドナー数が10以上、かつ、アクセプター数が10以上の溶媒が好ましく、さらには誘電率10以上の溶媒が好ましい。
非プロトン溶媒の具体例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトニトリル、ピリジンなどが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
これらの中でも、溶解速度の点からはDMSOが好ましく、室温液体化の点からはDMFが好ましい。
これらの非プロトン溶媒について、ドナー数、アクセプター数、融点、誘電率を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
本発明のポリマー処理剤において、イオン液体と非プロトン溶媒とからなる混合溶媒が30℃で液体状である限り、イオン液体および非プロトン溶媒を任意の割合で配合することができるが、下記式[1]で示されるイオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)を、30〜85%とすることが好ましく、40〜75%とすることがより好ましく、50〜70%とすることがより一層好ましい。
この範囲とすることで、室温で液体状であり、かつ、ポリマー処理剤としての特性も十分に発揮させ得る。
【0027】
【数4】

【0028】
本発明のポリマー処理剤の調製は、イオン液体と非プロトン溶媒とが分離せず、均一に相溶する方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、イオン液体に非プロトン溶媒を混合してよいし、非プロトン溶媒にイオン液体を混合してもよい。また、イオン液体が30℃において固体であっても液体であっても、上記の調製方法が適応できるが、必要に応じて上記の方法で調製したポリマー処理剤を適宜加熱してもよい。
【0029】
本発明のポリマー処理剤は、ポリマーの表面処理剤、溶解剤、膨潤剤などとして好適に用いることができる。
ポリマー処理剤の粘度は、低い程好ましいが、ポリマー処理剤の被処理物への浸透の容易さや、液体としての取扱いの容易さ、連続工程の場合に洗浄層への処理剤の混入を少なくすることなどを考慮すると、25℃で100Pa・s以下であることが好ましく、10Pa・s以下であることがより好ましく、1Pa・s以下であることがより一層好ましい。
【0030】
なお、本発明において、溶解とは、ポリマーが媒体中に均一相として存在するように視認されることをいう。膨潤とは、媒体がポリマーの凝集分子鎖中に浸入し、分子鎖同士の相互作用が緩和されているが、完全に分子鎖の凝集が解かれるまでには至っていない状態をいう。
また、本発明のポリマー処理剤には、その効果を発現させる限度においてその他の成分を添加することもできる。その他の成分としては、香料、染料、撥水剤、撥油剤、抗菌剤、防カビ剤などが挙げられる。
【0031】
本発明のポリマー処理剤で処理されるポリマーとしては、イオン液体に溶解または膨潤するものであれば特に限定はなく、例えば、糖鎖もしくはタンパク質等の天然高分子化合物、またはこれらの混合物が挙げられる。
糖鎖としては、セルロース、キチン、キトサンなどが挙げられる。
セルロースとしては、植物由来セルロース、動物由来セルロース、バクテリア由来セルロース、再生セルロースが挙げられる。具体的には、綿、麻、竹、バナナ、月桃、ハイビスカスローゼル、ケナフ、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、レーヨン、キュプラ、テンセル、イオン液体による再生セルロースなどが挙げられ、イオン液体に溶解,膨潤し得る限り、それらの誘導体も含まれる。誘導体としては、例えばセルロースの水酸基をエーテル化またはエステル化した誘導体や、シアノエチル化した誘導体などが挙げられる。
なお、セルロースの結晶構造は任意であり、I型、II型、III型、IV型、非晶のいずれか1つの構造またはそれらの組合せからなる構造を有するセルロースを採用できる。また、セルロースの結晶化度に関わらず本発明の方法が適用できる。
タンパク質としては、絹、羊毛、コラーゲン、ケラチン、セリシン、フィブロイン、カゼイン等が挙げられる。
【0032】
また、上記ポリマーは、上述したイオン液体に溶解または膨潤する天然高分子化合物以外に、非プロトン溶媒に溶解または膨潤するその他の高分子化合物を含んでいてもよい。
非プロトン溶媒に溶解または膨潤するその他の高分子化合物としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアミド(ナイロン)、ポリスチレンなどが挙げられる。
なお、その他の高分子化合物の含有量は任意であるが、ポリマー全体に対して、5〜95質量%程度が好適である。
【0033】
さらに、上記ポリマーは、イオン液体にも非プロトン溶媒にも溶解または膨潤しない物質を含んでいてもよい。
このような物質としては、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、ロックウールなどが挙げられる。
なお、これらの物質の含有量は任意であるが、ポリマー全体に対して、5〜95質量%程度が好適である。
【0034】
上記ポリマーの構造は任意であり、糸,織物,編物,不織布,紙等の繊維構造物、フィルム、ビーズ、板、ブロックなどの各種構造を採用できる。
【0035】
以上で説明したポリマー処理剤を用いたポリマー処理方法は、当該ポリマー処理剤を、ポリマーを含む被処理物と接触させて、当該ポリマーを膨潤または溶解させたり、表面処理したりするものである。
接触方法としては特に制限はなく、ポリマー処理剤中へ被処理物を浸漬させたり、ポリマー処理剤を含む槽内に被処理物を通過させたりする方法や、被処理物へポリマー処理剤を噴霧する方法などが挙げられる。
【0036】
接触時間は、所望の効果に応じて適宜決定すればよく、例えば、ポリマー処理剤との長時間の接触により、ポリマーは、その内部まで膨潤や溶解し、ポリマー処理剤との短時間の接触により、ポリマーは、その表面近傍のみが膨潤や溶解する。一般的には、0.01秒から180分間程度の範囲で適宜調節すればよい。
接触温度は、ポリマー処理剤が液体状である温度領域であればよい。本発明では30℃においても液体であることから、加熱なしに被処理物の処理が可能でエネルギー的に有利である。また、低温であるほどポリマーの分子量低下も少ないため、被処理物の物性低下を最小限に食い止めることができる。具体的には非プロトン溶媒の種類によるが、−100℃以上であればよく、0〜100℃程度が好ましく、15〜60℃程度がより好ましい。
【0037】
接触処理後に被処理物に残存したポリマー処理剤は、ポリマー処理剤と相溶でかつポリマーを溶解・膨潤させない溶液で洗浄することで容易に除去することができる。
このような溶媒としては、例えば、水、メタノール,エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル類、アセトン,メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、クロロホルム等が挙げられる。
接触処理および必要に応じて行われる洗浄処理後、被処理物を適宜乾燥させればよい。乾燥手法は任意であり、公知の各種方法を用いることができる。具体例としては、ヒートドラム、熱風、赤外線、天日による方法などが挙げられる。
【0038】
本発明に係るドープは、イオン液体と、非プロトン溶媒と、ポリマーとを含み、ポリマーがイオン液体および非プロトン溶媒に溶解しているものである。この場合、ポリマーは2種以上用いてもよい。2種以上の組み合わせとして、イオン液体に溶解する2種以上のポリマー、イオン液体に溶解するポリマーの少なくとも1種と、非プロトン溶媒に溶解するポリマーの少なくとも1種などが挙げられる。
なお、イオン液体、非プロトン溶媒およびポリマーは、上記ポリマー処理剤で述べたものと同様のものが挙げられる。
【0039】
このドープにおいては、イオン液体と非プロトン溶媒との配合量は、上記式[1]で示されるイオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)を、30〜99%とすることが好ましく、40〜85%とすることがより好ましく、50〜75%とすることがより一層好ましい。
また、ドープ中のポリマー含有量は、使用するポリマーの種類にもよるため一概には規定できないが、本発明のドープにおいては、0.1〜50質量%程度とすることができる。
【0040】
本発明のドープの調製法は特に限定されるものではなく、上述したイオン液体と非プロトン溶媒との混合溶媒にポリマーを溶解して調製しても、イオン液体にポリマーを溶解した後に非プロトン溶媒を添加して調製しても、イオン液体に、これに溶解するポリマーを溶解し、一方、非プロトン溶媒に、これに溶解するポリマーを溶解し、それぞれの溶液を混合して調製してもよい。既に述べたように、本発明のイオン液体と非プロトン溶媒との混合溶媒は、室温付近で液体状であるとともに粘度が低く、ポリマーをより低温で溶解し得、ポリマーの物性低下などを起こしにくいことから、イオン液体と非プロトン溶媒との混合溶媒にポリマーを溶解する方法が好適である。
【0041】
本発明のドープを用いることで再生ポリマーを製造することができ、特に2種以上のポリマーを含むドープの場合には、これら各ポリマーのブレンドポリマーを製造することができる。
特に、本発明のイオン液体と非プロトン溶媒との混合溶媒は、未修飾セルロースを容易に溶解できるうえ、非プロトン溶媒を適宜選択することにより、種々のポリマーをも溶解できるため、従来困難であった、未修飾セルロースと種々のポリマーとのブレンドポリマーが製造でき、例えば、セルロースとポリ乳酸とのブレンドポリマーなどを容易に製造することができる。
なお、ポリ乳酸を含むドープを調製する場合、非プロトン溶媒としては、DMAc、NMPを用いることが好ましい。
【0042】
再生ポリマーや、ブレンドポリマーを製造する具体的手法としては、イオン液体および非プロトン溶媒に相溶し、かつ、ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体を本発明のドープに加えたり、イオン液体および非プロトン溶媒に相溶し、かつ、ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体に本発明のドープを加えたりすることで再生ポリマーやブレンドポリマーを製造できる。
【0043】
ここで、イオン液体および非プロトン溶媒に対して相溶し、かつ、ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体の具体例としては、水、メタノール,エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル類、アセトン,メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、クロロホルムなどが挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、水、アルコール類が好ましく、環境面を配慮すると水がより好ましい。
なお、「ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体」とは、ポリマーを全く溶解しない媒体という意味ではなく、本発明のドープに加え、その添加量を臨界量以上に増大させた場合にポリマーを析出させることが可能な媒体を意味する。
【0044】
本発明のドープと上記媒体との使用割合は、ポリマーが析出してくる割合であれば任意であり、また使用する媒体によっても変動するものであるため一概に規定することはできないが、効率的にポリマーを析出させるためには、媒体/ドープの液量比は1以上が好ましく、2以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。
なお、ドープ中に媒体を加える方法、媒体中にドープを加える方法は任意である。
【0045】
再生ポリマーやブレンドポリマーの形態は、特に限定されるものではなく、粉状、粒状、塊状、綿状、短繊維状、長繊維状、棒状、スポンジ状、フィルム状等の各種形状とすることができる。
たとえば、ドープを上記媒体に加える手法では、Tダイなどを通してドープを媒体中に押し出すなどにより、フィルム状や、長繊維状の再生ポリマーやブレンドポリマーを連続的に得ることもできる。
【実施例】
【0046】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[合成例1]N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライドの合成
【化8】

【0048】
ジエチルアミン(関東化学(株)製)71質量部と2−メトキシエチルクロライド(関東化学(株)製)88質量部とを混合し、オートクレーブ中、120℃で24時間反応させた。この時、最高到達内圧は4.5kgf/cm2(0.44MPa)であった。24時間後、析出した結晶を、テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)を用いて洗浄して濾別した。濾液を常圧蒸留し、沸点135℃付近の留分を81質量部得た。この化合物が2−メトキシエチルジエチルアミンであることを核磁気共鳴スペクトル(以下、NMRという)により確認した。
続いて、オートクレーブ中にてテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)80質量部に2−メトキシエチルジエチルアミン9.0質量部を溶解し、攪拌を行いつつ、窒素中15%塩化メチルガス(日本特殊化学工業(株)製)を導入した。内圧が4kgf/cm2(0.39MPa)になるまで塩化メチルガスを加えた後、3時間かけて徐々に60℃まで昇温した。この時、最高到達内圧は5.4kgf/cm2(0.53MPa)であった。この後、攪拌を続けながら放冷し、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライド(以下、DEMEClという)を12質量部得た。
【0049】
[合成例2]N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムチオシアネートの合成
【化9】

【0050】
合成例1の中間生成物である2−メトキシエチルジエチルアミン(20g:152.4mmol)を、テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)中で攪拌し、これにヨウ化メチル(シグマアルドリッチジャパン(株)製)(11.29ml:182.9mmol)を滴下した。室温にて約24時間攪拌した後、析出した結晶を濾別した。この結晶を減圧下乾燥し、目的物であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムヨーダイド(以下、DEMEIという)を得た。構造確認はNMRにより行った。
次に文献(J. M. Pringle et al., Journal of Materials Chemistry, 2002, vol.12, p3475-3480)記載の方法に準じて、DEMEIのI-イオンをSCN-イオンに置換し、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムチオシアネート(以下、DEMESCNという)を得た。構造確認はNMRにより行った。
【0051】
[合成例3]N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−(2−プロペニル)アンモニウムクロライドの合成
【化10】

【0052】
合成例1の中間生成物である2−メトキシエチルジエチルアミン(3.43g:0.026mol)をアセトニトリル中で攪拌し、これに3−クロロプロペン(東京化成工業(株)製)(2.6ml:0.031mol)を滴下した。暗所、室温にて約72時間攪拌した後、真空ポンプで原料および溶媒を除去し、N,N−ジエチル−N−(2−メトキシエチル)−N−(2−プロペニル)アンモニウムクロライド(以下、DEMPClという)を得た。構造確認はNMRにより行った。
【0053】
[1]固液特性
[実施例1]
20mlサンプル瓶に、合成例1で得られたDEMECl(融点59〜60℃)12.0gと、DMF(大伸化学(株)製)4.0gとを加え、DEMEClを70℃で溶解させてポリマー処理剤を調製した。
【0054】
[実施例2]
DEMEClを10.7g、DMFを5.3g用いた以外は、実施例1と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0055】
[実施例3]
DEMEClを8.0g、DMFを8.0g用いた以外は、実施例1と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0056】
[実施例4]
DEMEClを5.3g、DMFを10.7g用いた以外は、実施例1と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0057】
[実施例5]
DEMEClを4.0g、DMFを12.0g用いた以外は、実施例1と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0058】
[実施例6]
DMFをDMSO(和光純薬工業(株)製)に変更した以外は、実施例2と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0059】
[実施例7]
DMFをDMSOに変更した以外は、実施例3と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0060】
[実施例8]
DMFをDMSOに変更した以外は、実施例4と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0061】
[実施例9]
DMFをDMSOに変更した以外は、実施例5と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0062】
上記実施例1〜9で得られたポリマー処理剤について、0℃および室温(20〜25℃)での性状を調べた。具体的には、各ポリマー処理剤をそれぞれの温度で24時間放置後に、溶液の状態を目視で観察した。結果を表2に示す。
なお、表中の含有比率とは、イオン液体および非プロトン溶媒の含有比率、すなわち、ポリマー処理剤に対する非プロトン溶媒の割合を示し、上述の式[1]を用いて算出した。
後述する以降の実施例および比較例においても、含有比率は上記式[1]を用いて算出した。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示されるように、DEMEClに、非プロトン溶媒であるDMFまたはDMSOを加えることにより、室温で液体状態を維持するばかりでなく、特にDMFとの含有比率によっては、0℃においても液体状態を保っていることが分かる。
なお、実施例1〜9で得られたポリマー処理剤に、微結晶セルロース(SIGMA−ALDRICH社製)を加えて5質量%セルロースドープをそれぞれ調製したものについても、同様に0℃および室温(20〜25℃)での性状を調べた結果、表2と同様の性状が確認された。
【0065】
[2]粘度特性
[実施例10]
50mlサンプル瓶に、合成例1で得られたDEMECl(融点59〜60℃)と、DMSO(和光純薬工業(株)製)とを、DMSO/DEMECl=0.8(モル比)(含有比率44%)で加え、DEMEClを70℃で溶解させてポリマー処理剤を調製した。
【0066】
[実施例11]
DMSO/DEMECl=1.0(モル比)(含有比率50%)とした以外は、実施例10と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0067】
[実施例12]
DMSO/DEMECl=1.2(モル比)(含有比率55%)とした以外は、実施例10と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0068】
[実施例13]
DMSO/DEMECl=1.5(モル比)(含有比率60%)とした以外は、実施例10と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0069】
[実施例14]
DMSO/DEMECl=2.3(モル比)(含有比率70%)とした以外は、実施例10と同様にしてポリマー処理剤を調製した。
【0070】
実施例10〜14で調製したポリマー処理剤の室温(20〜25℃)での粘度を測定した。また、実施例10〜14で調製したポリマー処理剤に、短繊維状セルロース(ARBOCEL B400,J.RETTENMAIER&SO EHNE社製)を加えて5質量%セルロースドープをそれぞれ調製したものについても、室温(20〜25℃)での粘度を測定した。これらの結果を図1に示す。
なお、粘度は、粘度計(VISCOMETER TVB−10、東機産業(株)製)により測定した。粘度測定に際しては、液体の粘度に合わせてローターとその回転数を適宜選択した。
【0071】
図1に示されるように、室温(20〜25℃)におけるポリマー処理剤の粘度は、DMSO/DEMEClのモル比が0.8〜2.3の範囲内;すなわち上述した式[1]で示されるイオン液体および非プロトン溶媒の含有比率が44〜70%の範囲内において、1Pa・s以下を示し、非常に低粘度であることが分かる。
また、これらポリマー処理剤の5質量%セルロースドープの粘度が、上記範囲内において100Pa・s以下を示していることからも、ポリマー処理剤、およびドープとしての取扱いが容易であることが示唆される。
【0072】
[3]再生セルロースの分子量
[実施例15〜17]
50mlサンプル瓶に、合成例1で得られたDEMECl(融点59〜60℃)26.0gと、DMSO(和光純薬工業(株)製)13.0gとを加え(DEMECl/DMSO=1/1.2(モル比)、(含有比率55%))、DEMEClを70℃で溶解させてポリマー処理剤を調製した。
このポリマー処理剤に、微結晶セルロース(SIGMA−ALDRICH社製)2.1gを、室温(20〜25℃)(実施例15)、60℃(実施例16)、100℃(実施例17)で溶解させ、セルロースドープを調製した。
このようにして調製したセルロースドープ41.1gを、攪拌下で水300gに少しずつに分けて加え、最終的に全量加えた後、30分間攪拌を続けてセルロースを析出させた。
デカンテーションにより水相を捨て、新たに300gの水を加えて攪拌する操作を4回繰り返してセルロースからDEMEClを洗い流し、再生セルロースを得た。乾燥後の再生セルロースの質量はそれぞれ、2.0g、1.9g、2.0gであった。
【0073】
[比較例1]
実施例15と同様にして、微結晶セルロースを、合成例1で得られたDEMEClに100℃で溶かし、DEMEClのセルロース溶液を調製した。この溶液を用い、実施例15と同様にして再生セルロースを得た。乾燥後の再生セルロースの質量は、2.0gであった。
【0074】
[再生セルロースの分子量測定]
上記実施例15〜17および比較例1で得られた再生セルロースの分子量を、TAPPI標準法T238su−63に従って測定した。具体的な測定法を以下に示す。
発煙硝酸(比重1.52、関東化学(株)製)300mlに、濃硝酸(比重1.38、関東化学(株)製)50mlを少しずつ加え、比重1.50の濃硝酸を調製した。続いて氷水で冷やしながらこの濃硝酸に五酸化二リン(国産化学(株)製)200gを加えて硝化反応用の混酸を調製した。氷水冷却下でこの混酸100mlに、実施例15〜17および比較例1で得られた再生セルロース、並びに対照として微結晶セルロース(SIGMA−ALDRICH社製)をそれぞれ1g加えてよく分散させ、1時間反応させた。反応終了後、ガラスフィルタで吸引ろ過し、生成した硝酸セルロースを混酸から分離した。この硝酸セルロースを氷冷水(300ml)中に分散させ、ガラスフィルタで再びろ過し、氷冷水とメタノールで十分に洗浄した。続いて50℃の乾燥機中で乾燥した。
【0075】
得られた三硝酸セルロースをテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)に0.1%(w/v)となるように溶解し、これを分析試料としてゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCという)にて分子量分布を測定した。
GPCは2695 Separatins Module(日本ウォーターズ(株)製)にGPC KF−801カラム(昭和電工(株)製)を直列に3本接続したものを用い、流速1ml/min、カラム温度40℃にて測定した。この重量平均分子量(Mw)は、単分散ポリスチレン標準試料STANDARD SM−105(昭和電工(株)製)を用いて作成した検量線から、ポリスチレン換算値として求めた値である。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表3に示されるように、本発明のポリマー処理剤を用いた場合、再生セルロースの分子量低下が抑えられ、また、より低い温度でセルロースを溶解することにより、長時間保存しても分子量の低下がより抑えられることが分かる。
【0078】
[4]綿糸の表面処理
[実施例18]
50mlサンプル瓶に、合成例1で得られたDEMECl(融点59〜60℃)27.97gと、DMF(大伸化学(株)製)12.03gを加え(DEMECl/DMSO=1/1(モル比)、(含有比率50%))、DEMEClを70℃で溶解させてポリマー処理剤を調製した。ポリマー処理剤の温度を室温まで徐冷した後、このポリマー処理剤に50番手3撚綿糸(カネボウカタン糸)(カネボウ繊維(株)製)30cmを室温にて、30秒間浸漬させた。その後、糸を水で数回洗浄し、充分に乾燥させ目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0079】
[実施例19]
浸漬時間を30秒間から60秒間(1分間)に代えた以外は実施例18と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0080】
[実施例20]
浸漬時間を30秒間から180秒間(3分間)に代えた以外は実施例18と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0081】
[実施例21]
浸漬時間を30秒間から300秒間(5分間)に代えた以外は実施例18と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0082】
[実施例22]
浸漬時間を30秒間から1200秒間(20分間)に代えた以外は実施例18と同様にして目的の糸を得た。糸の質量は処理前後で不変であった。
【0083】
上記実施例18〜22で得られた綿糸について引張強度を下記手法により測定した。比較として、未処理綿糸の引張強度も下記手法により測定した。
[引張強度]
インストロン万能試験機(5582型)(INSTRON社製)を使用して、つかみ間距離25cm,引張速度30cm/minとし、JIS L1095−9.5に準じて行った。
これらの結果を表4に示す。なお、強度比は、未処理綿糸の強度を1として表した。
【0084】
【表4】

【0085】
表4に示されるように、本発明のポリマー処理剤を用いることで、室温(20〜25℃)という比較的低い温度で綿糸を処理することが可能であり、また、実施例18〜21では、当該表面処理によって綿糸の引張強度が向上していることがわかる。
なお、DEMEClは室温(20〜25℃)では固体であり、この温度で綿糸を処理することはできない。
【0086】
[5]溶解速度特性
[実施例23]
20mlサンプル瓶に、合成例1で得られたDEMECl(融点59〜60℃)1.32gと、DMF(大伸化学(株)製)3.96gとを加え(DEMECl/DMF=1/7.5(モル比)、(含有比率88%))、DEMEClを70℃で溶解させてポリマー処理剤を調製した。
このポリマー処理剤に、微結晶セルロース(SIGMA−ALDRICH社製)0.05g(1質量%)または0.28g(5質量%)を、室温(20〜25℃)、60℃、100℃の各温度で溶解させ、それぞれについてセルロースが完全に溶解するまでにかかった時間を目視で観察した。
【0087】
[実施例24]
DEMECl1.65g、DMF3.30g(DEMECl/DMF=1/5(モル比)、(含有比率83%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.26g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0088】
[実施例25]
DEMECl2.55g、DMF2.55g(DEMECl/DMF=1/2.5(モル比)、(含有比率71%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.27g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0089】
[実施例26]
DEMECl3.07g、DMF1.54g(DEMECl/DMF=1/1.2(モル比)、(含有比率55%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0090】
[実施例27]
DEMECl3.79g、DMF1.26g(DEMECl/DMF=1/0.8(モル比)、(含有比率44%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.27g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0091】
[実施例28]
DEMECl4.19g、DMF0.84g(DEMECl/DMF=1/0.5(モル比)、(含有比率33%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.26g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0092】
[実施例29]
DEMEClを2.04g、DMFをDMSO(和光純薬工業(株)製)3.41g(DEMECl/DMSO=1/7(モル比)、(含有比率88%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.06g(1質量%)または0.29g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0093】
[実施例30]
DEMECl2.53g、DMSO2.54g(DEMECl/DMSO=1/4.7(モル比)、(含有比率82%))に代えた以外は実施例29と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.27g(5質量%)に代えた以外は実施例29と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0094】
[実施例31]
DEMECl3.91g、DMSO1.30g(DEMECl/DMSO=1/2.3(モル比)、(含有比率70%))に代えた以外は実施例29と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.27g(5質量%)に代えた以外は実施例29と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0095】
[実施例32]
DEMECl2.56g、DMSO1.28g(DEMECl/DMSO=1/1.2(モル比)、(含有比率55%))に代えた以外は実施例29と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.04g(1質量%)または0.20g(5質量%)に代えた以外は実施例29と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0096】
[実施例33]
DEMECl3.81g、DMSO1.27g(DEMECl/DMSO=1/0.8(モル比)、(含有比率44%))に代えた以外は実施例29と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.27g(5質量%)に代えた以外は実施例29と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0097】
[実施例34]
DEMECl4.25g、DMSO0.85g(DEMECl/DMSO=1/0.5(モル比)、(含有比率33%))に代えた以外は実施例29と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.27g(5質量%)に代えた以外は実施例29と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0098】
[実施例35]
DEMEClをBMIMCl(ACROS ORGANICS社製)1.59g、DMFをDMSO3.18g(DEMECl/DMSO=1/4.5(モル比)、(含有比率82%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.25g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0099】
[実施例36]
BMIMCl2.33g、DMSO2.33g(BMIMCl/DMSO=1/2.2(モル比)、(含有比率69%))に代えた以外は実施例35と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.25g(5質量%)に代えた以外は実施例35と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0100】
[実施例37]
BMIMCl3.00g、DMSO1.50g(BMIMCl/DMSO=1/1.1(モル比)、(含有比率52%))に代えた以外は実施例35と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例35と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0101】
[実施例38]
BMIMCl4.12g、DMSO0.82g(BMIMCl/DMSO=1/0.5(モル比)、(含有比率33%))に代えた以外は実施例35と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.26g(5質量%)に代えた以外は実施例35と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0102】
[実施例39]
DEMEClを2.33g、DMFをピリジン(関東化学(株)製)2.33g(DEMECl/ピリジン=1/2.3(モル比)、(含有比率70%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.25g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0103】
[実施例40]
DEMECl3.00g、ピリジン1.50g(DEMECl/ピリジン=1/1.2(モル比)、(含有比率55%))に代えた以外は実施例39と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例39と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0104】
[実施例41]
DEMEClを2.33g、DMFをNMP(ゴードー溶剤(株)製)2.33g(DEMECl/NMP=1/1.8(モル比)、(含有比率64%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.25g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0105】
[実施例42]
DEMECl3.00g、NMP1.50g(DEMECl/NMP=1/0.9(モル比)、(含有比率47%))に代えた以外は実施例41と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例41と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0106】
[実施例43]
DEMEClを3.00g、DMFをDMAc(和光純薬工業(株)製)1.44g(DEMECl/DMAc=1/1(モル比)、(含有比率50%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.23g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0107】
[実施例44]
DEMEClを3.00g、DMFをアセトニトリル(関東化学(株)製)1.50g(DEMECl/アセトニトリル=1/2.2(モル比)、(含有比率69%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0108】
[実施例45]
DEMECl3.00g、アセトニトリル0.68g(DEMECl/アセトニトリル=1/1(モル比)、(含有比率50%))に代えた以外は実施例44と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.04g(1質量%)または0.19g(5質量%)に代えた以外は実施例44と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0109】
[実施例46]
DEMEClを合成例3で得られたDEMPCl3.00g、DMFをDMSO1.50g(DEMPCl/DMSO=1/1.3(モル比)、(含有比率57%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0110】
[実施例47]
DEMEClを合成例2で得られたDEMEI3.00g、DMFをDMSO1.50g(DEMEI/DMSO=1/1.8(モル比)、(含有比率64%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0111】
[実施例48]
DEMEClを合成例2で得られたDEMESCN3.00g、DMFをDMSO1.50g(DEMESCN/DMSO=1/1.3(モル比)、(含有比率57%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0112】
[比較例2]
DEMEClをテトラブチルアンモニウムクロライド(TBACl)(和光純薬工業(株)製)3.00g、DMFをDMSO0.84g(TBACl/DMSO=1/1(モル比)、(含有比率50%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.04g(1質量%)または0.20g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0113】
[比較例3]
TBACl3.00g、DMSO1.50g(TBACl/DMSO=1/1.8(モル比)、(含有比率64%))に代えた以外は比較例2と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は比較例2と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0114】
[比較例4]
DEMEClをトリエチルメチルアンモニウムクロライド(TEMACl)(和光純薬工業(株)製)3.00g、DMFをDMSO1.55g(TEMACl/DMSO=1/1(モル比)、(含有比率50%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0115】
[比較例5]
DEMEClをテトラエチルアンモニウムクロライド(TEACl)(和光純薬工業(株)製)3.00g、DMFをDMSO1.50g(TEACl/DMSO=1/1.1(モル比)、(含有比率52%))に代えた以外は実施例23と同様にしてポリマー処理剤を調製した。微結晶セルロース0.05g(1質量%)または0.24g(5質量%)に代えた以外は実施例23と同様にしてセルロースの溶解速度を観察した。
【0116】
上記実施例23〜48、および比較例2〜5で調製したポリマー処理剤の室温(20〜25℃)および30℃における性状を表5に、セルロースの溶解速度の観察結果を表6に示す。
なお、表6において、ポリマー処理剤にセルロースが溶解した場合は「溶解」とし、セルロースが完全に溶解するまでにかかった時間を記載した。また、30時間を経過した時点で、セルロースがわずかに残っているものについては「一部不溶」、ほとんど溶解していないものは「不溶」とした。また、ポリマー処理剤の性状が固体であった場合、あるいはイオン液体と非プロトン溶媒が完全に相溶していない場合は、セルロースの溶解速度の観察は実施せず、表中「−」で示した。
【0117】
【表5】

【0118】
【表6】

【0119】
表6に示されるように、本発明のポリマー処理剤の組成に関わらず、イオン液体/非プロトン溶媒のモル比が1/1(含有比率50%)、またはそれに近い配合である場合にセルロース溶解速度が最も優れていることが分かる。また、セルロース溶解温度が高い程、セルロース溶解速度が優れるが、セルロースの分子量低下を抑えるという観点を考慮すると、本発明のポリマー処理方法としては60℃以下での処理が適していることが分かる。
【0120】
[6]ブレンドポリマーの作製
[実施例49]Lポリ乳酸/セルロース(1/5:質量比)ブレンドポリマー
モル比1/1(含有比率50%)のDEMECl/NMP混合溶媒0.76gに、短繊維状セルロース(ARBOCEL B400,J.RETTENMAIER&SO EHNE社製)0.10gを添加して60℃で溶解し、これにさらにNMP25mlを加えてセルロース含有溶液を調製した。
一方、Lポリ乳酸(三井化学(株)製)0.02gをNMP20mlに160℃で溶解してポリ乳酸含有溶液を調製した。
これら各溶液を室温まで徐冷した後、室温で撹拌しながら混合し、ドープを調製した。このドープをろ過後、メタノール300mlを加えて生じた沈殿をメンブレンフィルターにてろ過して集め、40℃で乾燥してブレンドポリマー0.10gを得た。
得られたブレンドポリマーを、SEM(S−4800、(株)日立製作所製)にて撮影した電子顕微鏡写真を図2に示す。
また、このブレンドポリマーをクロロホルムに6時間浸漬した後の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0121】
[実施例50]Lポリ乳酸/セルロース(1/1:質量比)ブレンドポリマー
短繊維状セルロースを0.05g、Lポリ乳酸を0.05g用いた以外は、実施例49と同様にしてブレンドポリマーを得た。
【0122】
[実施例51]Lポリ乳酸/セルロース(5/1:質量比)ブレンドポリマー
短繊維状セルロースを0.02g、Lポリ乳酸を0.10g用いた以外は、実施例49と同様にしてブレンドポリマーを得た。
【0123】
[実施例52]Lポリ乳酸/セルロース(10/1:質量比)ブレンドポリマー
短繊維状セルロースを0.05g、Lポリ乳酸を0.5g用いた以外は、実施例49と同様にしてブレンドポリマーを得た。得られたブレンドポリマーの電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0124】
[比較例6]NMP溶解、再生Lポリ乳酸
Lポリ乳酸(三井化学(株)製)0.10gをNMP20mlに160℃で溶解してポリ乳酸含有溶液を調製した。
この溶液をろ過後、メタノール300mlを加えて生じた沈殿をメンブレンフィルターにてろ過して集め、40℃で乾燥して再生Lポリ乳酸0.10gを得た。
【0125】
[比較例7]DEMECl溶解、再生セルロース
短繊維状セルロース0.10gをDEMECl2.00gに160℃で溶解してセルロース含有溶液を調製した。
この溶液にメタノール20mlを加えて生じた沈殿をメンブレンフィルターにてろ過して集め、40℃で乾燥して再生セルロース0.09gを得た。
【0126】
上記実施例49〜51で得られたブレンドポリマーについて、TG/DTA分析(示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA6200、セイコーインスツルメンツ(株)製)により、熱分解点(10%質量減少温度)および最終質量減少率(600℃)を測定した。結果を表7に示す。
なお、比較例6,7で得られたLポリ乳酸、短繊維状セルロースについても同様の測定を行った。結果を併せて表7に示す。
【0127】
【表7】

【0128】
表7に示されるように、ブレンドポリマーの熱分解点は、Lポリ乳酸および短繊維状セルロースのそれぞれが示す熱分解点の間に位置し、多量成分の熱特性を反映した結果を示していることが分かる。
また、図2〜4に示されるように、得られたブレンドポリマーは、セルロース中にポリ乳酸が均一にブレンドされていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】実施例10〜14で調製したポリマー処理剤、及び、5質量%セルロースドープの室温(20〜25℃)での粘度変化を示すグラフである。
【図2】実施例49で得られたブレンドポリマーの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】実施例49で得られたブレンドポリマーをクロロホルムに6時間浸漬した後の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】実施例52で得られたブレンドポリマーの電子顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体と非プロトン溶媒とからなり、30℃で液体状であることを特徴とするポリマー処理剤。
【請求項2】
下記式[1]で示される前記イオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)が、30〜85%である請求項1記載のポリマー処理剤。
【数1】

【請求項3】
前記非プロトン溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよびピリジンから選ばれる1種また2種以上である請求項1または2記載のポリマー処理剤。
【請求項4】
前記イオン液体が、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンをアニオン成分とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリマー処理剤。
【請求項5】
前記イオン液体が、式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である請求項1〜4のいずれか1項記載のポリマー処理剤。
【化1】

〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【請求項6】
前記イオン液体が、式(2)で示される請求項5記載のポリマー処理剤。
【化2】

〔式中、nおよびYは前記と同じ意味を表す。〕
【請求項7】
前記イオン液体が、式(3)で示される請求項6記載のポリマー処理剤。
【化3】

【請求項8】
天然高分子化合物の処理剤である請求項1〜7のいずれか1項記載のポリマー処理剤。
【請求項9】
前記天然高分子化合物が、セルロースである請求項8記載のポリマー処理剤。
【請求項10】
表面処理剤、膨潤剤または溶解剤である請求項1〜9のいずれか1項記載のポリマー処理剤。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか記載のポリマー処理剤を用いるポリマー処理方法。
【請求項12】
イオン液体と、非プロトン溶媒と、ポリマーとを含み、このポリマーが前記イオン液体および非プロトン溶媒中に溶解しているドープであって、
下記式[1]で示される前記イオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)が、30〜99%であるドープ。
【数2】

【請求項13】
イオン液体と、非プロトン溶媒と、2種以上のポリマーとを含み、これらポリマーが前記イオン液体および非プロトン溶媒中に溶解していることを特徴とするドープ。
【請求項14】
前記2種以上のポリマーのうちの1種が、セルロースである請求項13記載のドープ。
【請求項15】
前記2種以上のポリマーが、セルロースおよびポリ乳酸である請求項14記載のドープ。
【請求項16】
下記式[1]で示される前記イオン液体および非プロトン溶媒の含有比率(モル比)が、30〜99%である請求項13〜15のいずれか1項記載のドープ。
【数3】

【請求項17】
前記イオン液体が、下記式(1)で示される4級アンモニウム系イオン液体である請求項12〜16のいずれか1項記載のドープ。
【化4】

〔式中、R1〜R3は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜5のアルケニル基、またはR4−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基を示し、R4は、メチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。Yは、ハロゲン化物イオン、総炭素数1〜3のカルボン酸イオン、過塩素酸イオン、擬ハロゲン化物イオン、シアナミドイオン、またはジシアナミドイオンを示す。〕
【請求項18】
請求項13記載のドープから再生されたブレンドポリマー。
【請求項19】
請求項15記載のドープから再生されたセルロース−ポリ乳酸ブレンドポリマー。
【請求項20】
請求項13記載のドープに、前記イオン液体および非プロトン溶媒に相溶し、かつ、前記ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体を加え、または請求項13記載のドープを、前記イオン液体および非プロトン溶媒に相溶し、かつ、前記ポリマーの溶解能を実質的に有しない媒体に加えることを特徴とするブレンドポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−111707(P2010−111707A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41682(P2007−41682)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】