説明

ポリマー基材のメッキ膜の形成方法及びポリマー基材

【課題】 ポリマー基材上に良質なメッキ膜を所望のパターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度なメッキ膜パターンを形成させることが可能なメッキ膜の形成方法を提供する。
【解決手段】 ポリマー基材1表面の所定領域に金属錯体2を付加することと、ポリマー基材1の表面に超臨界流体4を接触させて、金属錯体2をポリマー基材1に浸透させることと、金属錯体2が浸透したポリマー基材1の表面に、上記所定パターンに対応する領域が開口部5aとなるマスク層5を形成することと、該開口部5aにメッキ膜6,7を形成することと、マスク層5を除去することとを含むメッキ膜の形成方法により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー基材の表面にメッキ膜を形成する方法及びその形成方法でメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材に関し、より詳細には、超臨界流体を用いてポリマー基材の表面にメッキ膜を形成する方法及びその形成方法でメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気体のような浸透性を有すると同時に液体のような溶媒としての機能を備える超臨界流体をポリマー基材の成形加工に用いたプロセスが種々提案されている。例えば、超臨界流体は熱可塑性樹脂に浸透することによって可塑剤として作用し、ポリマー基材の粘性を低下させることができるので、この超臨界流体の作用を活用して、射出成形時におけるポリマー基材の流動性や転写性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、超臨界流体の溶媒としての機能を活かして、ポリマー基材の表面の濡れ性を向上させる等の高機能化のための方法も種々提案されている(例えば、特許文献2及び3を参照)。特許文献2には、ポリアルキルグリコールを超臨界流体に溶解させて繊維に接触させることによって、繊維表面を親水化することができることを開示している。特許文献3には、超臨界状態、即ち、高圧下で、機能性材料である溶質が予め溶解した超臨界流体とポリマー基材とを接触させて染色を行うポリマー基材表面の高機能化のためのバッチプロセスが開示されている。
【0004】
また、従来、所望の形状の孔が形成されたマスクを基体上に設け、マスクの上から基体上に付着させる物質(金属錯体)を溶解させた超臨界流体を噴射し、基体表面に付着物質の100μm以下のパターンを形成する方法も提案されている(例えば、特許文献4を参照)。
【0005】
さらに、従来、超臨界流体を利用したポリマー基材の表面改質技術を用いて、メッキ触媒核をポリマー表面の一部に浸透させてポリマー基材にメッキ膜を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5では、ポリマー基材表面の一部分を選択的に改質する方法として、次のような方法を提案されている。まず、ポリマー基材の表面の全面ないし広域に、ポリマー基材表面に浸透させようとする浸透物質を塗布し、次いで、所定の凹凸パターンを有する金型表面をポリマー基材の表面に密着させる。次いで、金型(凹部)とポリマー基材表面との間に画成される空間に超臨界流体を流入し、超臨界流体を流入したポリマー基材表面の領域のみに、塗布された浸透物質を選択的に浸透させる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−128783号公報
【特許文献2】特開2001−226874号公報
【特許文献3】特開2002−129464号公報
【特許文献4】特開2002−313750号公報
【特許文献5】特開2005−305945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜3には、超臨界流体を溶媒として用いたポリマー基材の表面改質方法であり、ポリマー基材表面全体を改質する技術が開示されている。しかしながら、上記特許文献1〜3に開示された技術でポリマー基材表面の一部を選択的に且つ微細に改質することは困難である。また、特許文献4では、超臨界流体に物質(溶質)を溶解してポリマー基材に噴射するため、次のような問題が生じるおそれがある。
【0008】
超臨界流体の圧力と溶質の溶解度との間には強い相関関係が存在する。溶質を溶解した超臨界流体が充填された高圧下の容器から超臨界流体が外部へ放出されると、超臨界流体の圧力が急激に低下し、溶質の溶解度が著しく低下する。すなわち、特許文献4に記載されているように、溶質を超臨界流体に溶解してポリマー基材に噴射する場合、噴射された時点で溶質の析出が起こる。そのため特許文献4に記載されている技術では、溶質をポリマー基材の表面に堆積させることはできるが、超臨界流体のポリマー基材への浸透とともに溶質をポリマー基材の内部に浸透させて表面改質することはできない。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、超臨界流体を用いて、より簡易な方法でポリマー基材の表面に所定パターンのメッキ膜を形成するとともに、より高精度に且つ微細な所定パターンのメッキ膜をポリマー基材表面に形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に従えば、超臨界流体を用いてポリマー基材の表面に所定パターンのメッキ膜を形成する方法であって、上記ポリマー基材表面に金属錯体を付加することと、上記ポリマー基材の表面に上記超臨界流体を接触させて、上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させることと、上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材表面の上記所定パターンに対応する領域を含む領域にメッキ膜を形成することと、メッキ膜を上記所定パターンにパターニングするためのマスク層を形成することとを含むメッキ膜の形成方法が提供される。
【0011】
上記特許文献5で提案された方法では、微細な凹凸パターンが形成された金型を用いて、平坦なポリマー表面に所定のパターン(例えば、配線回路等)で金属微粒子を浸透させ、その上に、メッキ膜を形成する。この際、メッキ膜はその膜厚方向(上面)だけなくメッキ膜の面内方向にも成長するので、メッキ膜の膜厚の増大とともに、メッキ膜のパターン幅も広がる。それゆえ、例えば、狭ピッチパターンのメッキ膜を形成し、メッキ膜の導電性を確保するためにメッキ膜の膜厚を厚くした場合、上記特許文献5で開示されている表面改質技術を用いてメッキ膜を形成すると、パターン幅が広がり、狭ピッチパターンを形成することが困難となる恐れもある。また、上記特許文献5の技術では、微細な凹凸パターンが形成された金型を用いているので、立体形状のポリマー基材表面にメッキ膜を所定のパターンで形成することが困難となる恐れもある。そこで、本発明の別の目的は、上記特許文献5で提案されているような微細な凹凸パターンが形成された金型を用いることなく、より簡易な方法でポリマー基材上に所定パターンのメッキ膜を形成することであり、また、立体形状のポリマー基材表面に対してもより簡易な方法でポリマー基材上に高精度で微細な所定パターンのメッキ膜を形成することである。
【0012】
本発明のメッキ膜の形成方法では、上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させた後に、上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面に、上記所定パターンに対応する領域が開口部となる上記マスク層を形成することと、上記マスク層の開口部に上記メッキ膜を形成することとを含むことが好ましく、特に、上記メッキ膜を形成することが、上記マスク層の上記開口部に露出したポリマー基材表面に、無電解メッキ法により第1メッキ膜を形成することと、第1メッキ膜上に、電解メッキ法により第2メッキ膜を形成することとを含むことが好ましい。
【0013】
この本発明のメッキ膜の形成方法では、ポリマー基材の表面に金属錯体を付加する。なお、この際、金属錯体を付加するポリマー基材の領域はメッキ膜を形成すべき領域(所定パターンに対応する領域:以下、所定パターン領域ともいう)を含む領域(所定領域)であれば任意の領域であり、ポリマー基材の表面全体に付加しても良いし、メッキ膜の所定パターン領域のみに付加しても良い。また、金属錯体を付加する際には、金属錯体をヘキサン、アセトン、エチルアルコール、メチルアルコール等の溶液に含ませた状態でポリマー基材表面に塗布することが好ましい。なお、金属錯体をポリマー基材表面に付加する方法としては、ポリマー基材を直接錯体溶液に浸漬方法(ディップ法)、スプレー塗布法、インクジェット法等の任意の方法が用い得る。特に、ディップ法は簡便な方法であり好適である。
【0014】
次いで、ポリマー基材に超臨界流体を接触させる。その結果、超臨界流体とともに金属錯体がポリマー基材の表面内部に浸透する。この工程で、金属錯体を超臨界流体とともにポリマー基材の表面内部に浸透させるだけで、十分な量の金属錯体がメッキ膜のメッキベース(触媒核)となる金属微粒子に還元されることが、本発明者らの検証実験により分かっている。しかしながら、十分な量の金属微粒子をポリマー基材の表面に確実に偏析させるために、別途、還元剤等を用いて金属錯体の還元処理を行っても良い。
【0015】
メッキ膜のメッキベースをポリマー基材の表面内部に浸透させた後、そのポリマー基材表面に、メッキ膜の所定パターン領域が開口部となるようにマスク層を形成する。次いで、マスク層が形成されたポリマー基材に無電解メッキを施すと、マスク層の開口部に露出したポリマー基材表面に第1メッキ膜が形成される。次いで、第1メッキ膜を電極として電解メッキ(電鋳)を施すと、第1メッキ膜上に第2メッキ膜が形成され、第1及び第2メッキ膜からなるメッキ膜がポリマー基材上に形成される。そして、マスク層を除去すると、所定パターンのメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材が得られる。上記方法を用いてメッキ膜を形成すると、良質なメッキ膜を所望パターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成することができる。
【0016】
なお、上記メッキ膜の形成方法では、メッキ膜の所定パターン領域以外にはマスク層を設けているので、メッキ膜のパターン幅はマスク層の開口部の寸法(幅)より大きくなることはない。それゆえ、上記メッキ膜の形成方法では、狭ピッチパターンのメッキ膜を十分な厚さで形成する場合にも高精度なメッキ膜パターンを形成することができる。また、特許文献5に開示されている技術のように、微細な凹凸パターンが表面に形成された金型を用いることなく、ポリマー基材表面に所定パターンでメッキ膜を形成することができるので、特許文献5に開示されているメッキ膜の形成方法に比べてもより簡易な方法を提供することができる。
【0017】
なお、上記メッキ膜の形成方法では、上述のように、無電解メッキ法と電解メッキ法とを用いてメッキ膜を形成しているが、これは次の理由によるものである。ポリマー基材上に無電解メッキ法と電解メッキ法とを用いてメッキ膜を形成すると、より短い時間で十分な厚さのメッキ膜を形成することができ、製造速度(量産性)を向上することができる。また、一般に、電解メッキ法で形成されたメッキ膜は、無電解メッキ法で形成されたメッキ膜に比べて膜質(導電率、硬度等)が優れていることが知られており、上記方法を用いると、ポリマー基材上に短時間で良質のメッキ膜を形成することができる。
【0018】
また、本発明のメッキ膜の形成方法では、上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させた後に、上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面に、無電解メッキ法により第1メッキ膜を形成することと、第1メッキ膜上に、上記所定パターンに対応する領域が開口部となる上記マスク層を形成することと、上記マスク層の開口部に露出した第1メッキ膜上に、電解メッキ法により第2メッキ膜を形成することと、上記マスク層を除去することと、上記所定パターンに対応する領域以外に形成された第1メッキ膜をエッチングにより除去することとを含むこが好ましい。
【0019】
このメッキ膜の形成方法では、金属錯体をポリマー基材表面の所定領域に浸透させた後、まず、無電解メッキを施してポリマー基材表面に第1メッキ膜を形成し、次いで、メッキ膜の所定パターンに対応する領域が開口部となるようにマスク層を第1メッキ膜上に形成する。次いで、第1メッキ膜を電極として電解メッキを施し、マスク層の開口部に露出した第1メッキ膜上に第2メッキ膜を形成する。これにより、第1及び第2メッキ膜からなるメッキ膜がポリマー基材上に形成される。
【0020】
次いで、マスク層を除去し、反応性イオンエッチング法、ウェットエッチング法等のエッチング法により、ポリマー基材の表面をエッチングする。この際、メッキ膜の所定パターン領域以外の領域には第1メッキ膜のみが存在し、その膜厚は所定パターン領域に形成されたメッキ膜(第1及び第2メッキ膜)の膜厚に比べると薄いので、エッチング工程により、所定パターン領域以外の領域に形成された第1メッキ膜が所定パターン領域に形成されたメッキ膜より先に除去される。その結果、マスク層の開口部に形成されたメッキ膜のみが残り、所定パターンのメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材が得られる。上記方法を用いると、良質なメッキ膜を所望パターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成することができる。
【0021】
また、本発明のメッキ膜の形成方法では、上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させた後に、上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面にメッキ膜を形成することと、上記メッキ膜の上記所定パターンに対応する領域上に、上記マスク層を形成することと、上記マスク層が形成されていない領域の上記メッキ膜をエッチングにより除去することとを含むことが好ましく、特に、上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面にメッキ膜を形成することが、上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面に、無電解メッキ法により第1メッキ膜を形成することと、第1メッキ膜上に、電解メッキ法により第2メッキ膜を形成することとを含むことが好ましい。
【0022】
このメッキ膜の形成方法では、金属錯体をポリマー基材の表面の所定領域に浸透させた後、無電解メッキを施してポリマー基材表面に第1メッキ膜を形成し、次いで、第1メッキ膜を電極として電解メッキを施して第1メッキ膜上に第2メッキ膜を形成する。次いで、メッキ膜の所定パターン領域に対応する第2メッキ膜の領域上にマスク層を形成する。すなわち、メッキ膜の所定パターン領域が覆われるようにマスク層を第2メッキ膜上に形成する。次いで、ウェットエッチング法、反応性イオンエッチング法等のエッチング法により、ポリマー基材の表面をエッチングする。この際、マスク層が形成されていない領域(所定パターン領域以外の領域)に形成されたメッキ膜(第1及び第2メッキ膜)がエッチングにより除去され、メッキ膜の所定パターン領域にのみメッキ膜(第1及び第2メッキ膜)が残る。そして、マスク層を除去すると、所定パターンのメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材が得られる。上記方法を用いると、第1及び第2の態様の形成方法と同様に、良質なメッキ膜を所望パターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成することができる。
【0023】
なお、本発明のメッキ膜の形成方法で用い得る超臨界流体としては、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)が好ましい。なお、超臨界流体としては種々の物質を用いることが可能であり、超臨界二酸化炭素以外では、超臨界状態の窒素(超臨界窒素)を用いても良い。また、超臨界流体としては、超臨界状態にある空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等を用いても良く、金属錯体をある程度溶解する流体であれば任意のものを用い得る。また、金属錯体の超臨界流体に対する溶解度を向上させるために、超臨界流体にエントレーナ、即ち、助剤としてアセトン、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを混合させても良い。
【0024】
本発明のメッキ膜の形成方法では、さらに、上記ポリマー基材の表面に金属錯体を付加した後に、該金属錯体を被覆するようにコーティング層を形成することを含むことが好ましい。
【0025】
ポリマー基材に付加された金属錯体を被覆するようにコーティング層を形成すると、超臨界流体をポリマー基材に接触させた際に、超臨界流体は、まず、コーティング層内に浸透し、次いで、金属錯体に到達してこれを溶解する。そして、該超臨界流体は溶解した金属錯体とともにポリマー基材内部に浸透する。この際、金属錯体は超臨界流体に溶解して流体状態にあるものの、金属錯体がコーティング層に覆われているため、ポリマー基材の表面近傍から外部に飛散しない。すなわち、金属錯体の超臨界流体側への拡散を抑制することができる。このコーティング層の作用により、超臨界流体に溶解された金属錯体をポリマー基材内部に効率良く且つ高濃度で浸透させることができる。
【0026】
なお、コーティング層は少なくとも金属錯体を覆うことができる領域に形成されていれば良く、ポリマー基材全面に渡って形成されていても良いし、付加された金属錯体の領域を含む一部の領域に形成されていても良い。また、必要に応じ、該コーティング層を硬化またはゲル化させると、コーティング層の流動、流出等を防ぐことができ好適である。
【0027】
本発明のメッキ膜の形成方法で用い得るコーティング層の材料としては、超臨界流体を比較的透過させることができ、且つ金属錯体の拡散を抑えることができる材料を選択することが好適である。このような性質を有する材料でコーティング層を形成することにより、金属錯体を溶解した超臨界流体をポリマー基材表面に誘導し、且つ該浸透物質がポリマー基材表面から拡散することを抑制しつつ、超臨界流体をポリマー基材に接触させることができるので、金属錯体を効率良く且つ高濃度でポリマー基材に浸透させることができる。また、本発明のメッキ膜の形成方法では、コーティング層が金属錯体より超臨界流体に溶解し難い材料で形成されていることが好ましい。
【0028】
上記性質を有するコーティング層の材料として、例えば、各種の水溶性樹脂(水溶性高分子)を用いることができる。水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、その他のコーティング層の形成材料としては、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。コーティング層を水溶性樹脂で形成した場合には、金属錯体をポリマー基材に浸透させた後に、コーティング層を除去する際に、ポリマー基材を水で洗い流すことでコーティング層を除去することができるので、ポリマー基材にダメージを与えることなく除去することができる。
【0029】
本発明のメッキ膜の形成方法では、上記マスク層がスプレー法、ディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法及びインクジェット法のいずれか一つの方法を用いて形成されることが好ましい。特に、立体形状のポリマー基材表面にマスク層を形成する場合には、インクジェット法を用いることが好ましい。なお、マスク層の形成材料としては、紫外線硬化樹脂等の感光性樹脂材料が好適である。
【0030】
本発明のメッキ膜の形成方法では、上記ポリマー基材が、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル及びアモルファスポリオレフィンからなる群から選ばれる1つで形成されていることが好ましい。また、ポリマー基材として、ABS、液晶ポリマー等も用い得る。
【0031】
本発明のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜として、Cu膜、Ni膜、Au膜、Ag膜等が好ましい。また、金属錯体としては、超臨界流体に溶解する物質が好ましく、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いた場合には、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、白金ジメチル(シクロオクタジエン)、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトネート)パラジウム、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム等が用い得る。
【0032】
本発明のメッキ膜の形成方法では、第2メッキ膜(電解メッキ法で形成されるメッキ膜)としてCu膜を用いた場合には、その膜厚は用途等に応じて任意に設定可能であるが、10〜100μmの膜厚で第2メッキ膜を形成することが好ましい。第2メッキ膜の厚さが10μmより薄くなると、回路配線として電気抵抗を十分に小さくすることが困難であり、第2メッキ膜の厚さが100μmより厚くなると、第2メッキ膜に割れが生じたり、剥離が生じやすくなる。また、第1メッキ膜(無電解メッキ法で形成されるメッキ膜)としてCu膜を用いた場合には、その膜厚は1〜2μmとすることが好ましい。第1メッキ膜を電解メッキの電極として用いる場合、その膜厚が1μm未満であると第1メッキ膜の電気抵抗が高くなることがあるため、第1メッキ膜の膜厚は1μm以上であることが好ましい。また、第1メッキ膜の膜厚を2μmより厚くても、その電極としての性能は変わらないので、第1メッキ膜を電解メッキの電極として用いる場合には第1メッキ膜の膜厚をそれほど厚くする必要はなく、2μmあれば十分である。
【0033】
本発明の第2の態様に従えば、第1の態様に従うメッキ膜の形成方法により形成された所定パターンのメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材が提供される。
【発明の効果】
【0034】
本発明のポリマー基材のメッキ膜の形成方法によれば、超臨界流体を用いてポリマー基材の表面に金属錯体を浸透した後、無電解メッキ工程及び電解メッキ(電鋳)工程を用いてメッキ膜を形成し、マスク層を用いてメッキ膜のパターニングを行うので、良質なメッキ膜を所望パターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度なメッキ膜パターンをポリマー基材上に形成することができる。
【0035】
また、本発明のポリマー基材のメッキ膜の形成方法によれば、特許文献5に開示されている技術のように、微細な凹凸パターンが表面に形成された金型を用いることなく、ポリマー基材表面に所定パターンでメッキ膜を形成することができるので、特許文献5に開示されているメッキ膜の形成方法に比べてもより簡易な方法を提供することができる。さらに、マスク層をインクジェット法で形成した場合には、立体形状のポリマー基材表面に対しても容易に所定パターンのメッキ膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明のポリマー基材表面へのメッキ膜の形成方法及びその形成方法で作製されたポリマー基材の実施例について、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0037】
実施例1では、ポリマー基材の立体形状の表面に所定パターンの金属配線膜(メッキ膜)を形成する方法について説明する。具体的には、レンズと、レンズによる結像を電気信号として検出するイメージセンサーとを一体に有するワンチップ型のレンズモジュールのモジュール基材に対して回路配線を形成する際に、本発明のメッキ膜形成方法を適用した例を説明する。
【0038】
この例で作製したレンズモジュールの概略構成を図2に示した。この例で作製したレンズモジュール100は、図2(a)及び(b)に示すように、ポリマー基材1と、レンズ52と、イメージセンサー53と、ポリマー基材1のイメージセンサー53側の表面に形成された金属配線8(以下、立体配線8という)とから構成される。ポリマー基材1の一方の面1a(図2(a)中の上面)は略平坦面であり、他方の面1b(図2(a)中の下面:イメージセンサー53側の表面)は凹形状の立体面となっている。レンズ52は、図2(a)に示すように、ポリマー基材1の平坦面1aの中央部分にポリマー基材1と一体的に搭載されており、イメージセンサー53は、凹状の立体面1bの底部1e上に設置される。そして、この例のレンズモジュール100では、図2(b)に示すように、ポリマー基材1の凹状の立体面1bの上部1dと底部1eとを繋ぐ複数の立体配線8が形成されている。この立体配線8は、イメージセンサーをポリマー基材1の凹状の立体面1b上に搭載するために必要な配線である。なお、説明を簡略化するため、図2では、配線本数等の詳細な配線パターンは省略した。
【0039】
この例では、ポリマー基材1として、ガラス転移温度Tgが約145℃のアモルファスポリオレフィンからなるポリマー基板を用いた。また、立体配線8はCu膜で形成した。
【0040】
[表面改質方法に用いる高圧装置]
まず、実施例1におけるメッキ膜の形成方法を説明する前に、超臨界流体を用いてポリマー基材1の表面を改質する(メッキベースを形成する)際に用いる高圧装置について、図7を用いて説明する。なお、この例では、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いた。図7は、この例の表面改質方法に用いる高圧装置の概略構成図である。高圧装置200は、図7に示すように、主に、高圧容器11と、COボンベ12と、超臨界流体調整装置13と、それらの構成要素を繋ぐ配管16a及び16bとで構成されている。
【0041】
高圧容器11は、図7に示すように、表面に凹部31が形成された容器本体33と、蓋34とを含み、容器本体33の凹部31の外壁上面にはO−リング32が設けられている。そして、図7に示すように、蓋34を容器本体33の凹部側の上面に載置してボルト締めすることにより、容器本体33の凹部31が密閉される。また、高圧容器11には、図7に示すように、容器本体33の凹部31と流通した流路36及び導入口35が形成されている。また、流路36は、図7に示すように、導入口35を介して外部の超臨界流体を流す配管16bと流通しており、高圧容器11の外部で生成された超臨界流体は、配管16bから導入口35及び流路36を通って密閉された容器本体33の凹部31に効率良く導入される。この際、容器本体33の凹部31はO−リング32を介して蓋34により密閉されているので、導入口35及び流路36を介して凹部31に導入された超臨界流体が高圧容器11の外部に漏れ出すことはない。
【0042】
超臨界流体調整装置13は、図7に示すように、主に、ブースターポンプ21と、バッファータンク17とから構成されている。COボンベ12と超臨界流体調整装置13とは配管16aによって接続されており、COボンベ12から配管16aを介して超臨界流体調整装置13に導入されたCOガスは、ブースターポンプ21により、バッファータンク17内に導入される。そして、導入されたCOガスは、バッファータンク17内で所定の圧力に昇圧され、バッファータンク17に設けられたヒーター14aにより所定の温度に調整された超臨界状態のCOガス(超臨界二酸化炭素)となる。バッファータンク17内で発生した超臨界二酸化炭素は、温調装置14bで所定の温度に温調された配管16bを通過して、高圧容器11の導入口35から流路36を介して密閉された凹部31内に導入される。
【0043】
[メッキ膜の形成方法]
次に、立体配線8の形成方法を図1を参照しながら説明する。なお、図1は、ポリマー基材1の立体面1bの一部の平坦箇所の概略断面図であり、例えば、図2(b)中のB−B’断面の概略図である。
【0044】
まず、アモルファスポリオレフィンからなるポリマー基材1を用意した(図1中のステップS10)。次いで、ポリマー基材1の立体面1b上の表面にメッキベースを形成する。具体的には、まず、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム金属錯体(浸透物質)2のヘキサン溶液を、インクジェット印刷法によりポリマー基材1の立体面1b上の付加した(図1中のステップS11)。なお、この例では、金属錯体をポリマー基材1の立体面1bに付加する際に、金属錯体はポリマー基材1の立体面1bの全面に付加せず、配線パターンに対応するポリマー基材1の立体面1bの表面領域を含む一部の領域(所定領域)に付加した。ただし、本発明はこれに限定されず、金属錯体をポリマー基材1の立体面1bの全面に付加しても良い。
【0045】
次いで、ポリマー基材1の立体面1b上に付加された金属錯体2を被覆するように、ポリマー基材1の立体面61b上にポリビニルアルコールを塗布して乾燥させた。なお、この例では、スプレー法によりポリビニルアルコールを塗布した。これにより、ポリマー基材表面上にコーティング層3を形成した(図1中のステップS12)。
【0046】
次いで、ポリマー基材1を図7に示した高圧装置200の高圧容器11内に装着し、ポリマー基材1に超臨界二酸化炭素4を接触させた(図1中のステップS13)。なお、この際、高圧容器11内部に、圧力P=15MPa、温度50℃の超臨界二酸化炭素を導入して滞留させ、超臨界二酸化炭素の圧力Pが安定した後、その状態を30分間保持した。この工程により、ポリマー基材1の立体面1bの表面の所定領域に付加した金属錯体2をポリマー基材1内部に浸透させ安定化させた。上述のようにして金属錯体2をポリマー基材1内部に浸透させた場合、ポリマー基材表面上に付加した金属錯体2はコーティング層に被覆された状態で超臨界二酸化炭素とともにポリマー基材1内部に浸透するので、ポリマー基材1内に効率良く且つ高濃度で浸透させることが可能である。
【0047】
金属錯体2をポリマー基材1内部に浸透させた後、高圧装置200からポリマー基材1を取り出して水で洗浄し、ポリビニルアルコールで形成されたコーティング層3を除去した。次いで、エタノールでポリマー基材1を洗浄してポリマー基材1上に残存する金属錯体2を除去した。次いで、還元剤(水素化ホウ素ナトリウム)にポリマー基材1を浸漬し、金属錯体2を還元して金属微粒子2’とした(図1中のステップS14)。このようにして、ポリマー基材1の凹状の立体面1b表面の所定領域にメッキベース(触媒核)を形成した。
【0048】
次に、そのメッキベースが形成されたポリマー基材1の表面に配線パターンに対応する領域が開口部5aとなるマスク層5を形成した(図1中のステップS15)。具体的には、マスク層5の形成材料としては紫外線硬化樹脂を用い、インクジェット印刷法によりポリマー基材1上に付加した。その際に配線パターン領域が開口部となり、その開口部でメッキベースが形成されたポリマー基材表面が露出するようにマスク層5を形成した。そして紫外線を照射して該マスク層5を硬化させた。
【0049】
次に、ポリマー基材1の立体面1b側(マスク層5が形成されている側)の表面に無電解メッキ法により第1Cu膜6(第1メッキ膜)を形成した(図1中のステップS16)。この際、マスク層5の開口部5aに露出した金属錯体2が浸透して表面改質されたポリマー基材1の表面領域にのみCu膜が成長する。この例では、膜厚1〜2μmの第1Cu膜6を形成した。なお、無電解メッキは次のようにして行った。マスク層5が形成されたポリマー基材1を無電解銅メッキ用水溶液(奥野製薬工業製「OPC700A」100mL/L+奥野製薬工業製「OPC700B」100mL/L)の入った容器に浸漬し、温度30℃の条件で10分間攪拌して、マスク層5の開口部5aに露出したポリマー基材1の表面領域を銅メッキ処理した。
【0050】
次に、純水及びメタノールでポリマー基材1を超音波洗浄した後、第1Cu膜6を電極として、電解メッキ(電鋳)を行い、第1Cu膜6上に、銅メッキ膜7(第2メッキ膜:以下、第2Cu膜ともいう)を形成した(図1中のステップS17)。第2Cu膜7の膜厚は10μmとした。なお、電解メッキは公知の方法を用いて行った。このようにして、ポリマー基材1上に第1Cu膜6及び第2Cu膜7からなる立体配線8(メッキ膜)を形成した。
【0051】
次に、マスク層5を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して除去した(図1中のステップS18)。以上のようにして、図2に示すようなCu膜からなる立体配線8が立体面1bに形成されたポリマー基材1を作製した。
【0052】
上述したこの例のメッキ膜の形成方法を用いると、立体形状のポリマー基材表面に良質なメッキ膜を所望のパターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成させることができる。
【実施例2】
【0053】
実施例2では、実施例1と異なる方法でポリマー基材上に所定パターンのメッキ膜を形成した。なお、この例では、実施例1と同様に、レンズと、レンズによる結像を電気信号として検出するイメージセンサーとを一体に有するワンチップ型のレンズモジュールのモジュール基材に回路配線を形成する際に、本発明のメッキ膜の形成方法を適用した例を説明する。また、この例で作製したレンズモジュールの構成は実施例1と同じ(図2参照)とした。
【0054】
次に、この例のポリマー基材表面へのメッキ膜の形成方法を図3を参照しながら説明する。なお、この例のメッキ膜の形成方法では、ポリマー基材1を用意する工程(図3中のステップS20)からポリマー基材1の表面(立体面)1b内部に金属錯体2を浸透させ、メッキベース(金属微粒子)2’を形成する工程(図3中のステップS24)は、実施例1で説明した図1のステップS10〜S14の工程と同じである。それゆえ、ここでは、図3中のステップS20〜S24の工程の説明は省略し、ステップS25以降の工程について説明する。
【0055】
ポリマー基材1の立体面1bの所定領域(配線パターン領域を含む領域)にメッキベース2’が形成された後、ポリマー基材1の立体面1b側(メッキベース2’が形成されている側)の表面に無電解メッキを施し、ポリマー基材1の立体面1b上に第1Cu膜6(第1メッキ膜)を形成した(図3中のステップS25)。この例では、第1Cu膜6の膜厚を1〜2μmとした。なお、無電解メッキは次のようにして行った。マスク層5が形成されたポリマー基材1を無電解銅メッキ用水溶液(奥野製薬工業製「OPC700A」100mL/L+奥野製薬工業製「OPC700B」100mL/L)の入った容器に浸漬し、温度30℃の条件で10分間攪拌して、ポリマー基材1の表面に銅メッキ処理した。次いで、純水及びメタノールでメッキ処理されたポリマー基材1を超音波洗浄した。
【0056】
次に、無電解メッキで形成された第1Cu膜6上に感光性樹脂を付加した。この例では、感光性樹脂に(化薬マイクロケム(株)製、SU−10)を用い、感光性樹脂の塗布厚さは約1μmとした。この例では、ポリマー基材1の立体面1bに配線パターンを形成するので、インクジェット法により、該配線パターン領域に対応する領域が開口部となるように感光性樹脂を第1Cu膜6上に付加した。次いで、付加された感光性樹脂側から紫外線拡散光を照射して硬化させることによりマスク層5を形成した。このようにして配線パターン領域に対応する領域が開口部5aとなるマスク層5を第1Cu膜6上に形成した(図3中のステップS26)。
【0057】
次に、第1Cu膜6を電極として電解メッキ(電鋳)を行なった。なお、電解メッキには公知の技術を用いた。この際、マスク層5の開口部5aに露出した第1Cu膜6上に銅メッキ膜7(第2メッキ膜:以下、第2Cu膜ともいう)が形成される(図3中のステップS27)。すなわち、配線パターン領域に対応するマスク層5の開口部5aにのみ第2Cu膜7が形成される。この例では、第2Cu膜7の膜厚を10μmとした。次いで、マスク層5を、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して除去した(図3中のステップS28)。
【0058】
次に、第1及び第2Cu膜が形成されたポリマー基材1にドライエッチングを施した。配線パターン領域(メッキ膜を形成すべき領域)上には第1Cu膜6及び第2Cu膜7が形成されているが、配線パターン領域以外の領域には第1Cu膜6のみ形成されているので、配線パターン領域以外の領域のメッキ膜の膜厚は配線パターン領域に形成されたメッキ膜の膜厚に比べると薄くなる。それゆえ、このエッチング工程により、配線パターン領域以外の領域に形成されたメッキ膜が所定パターン領域に形成されたメッキ膜より先に除去される。その結果、マスク層5の開口部5aに形成されたメッキ膜8(第1Cu膜6+第2Cu膜7)のみがポリマー基材1の立体面1b上に残り、所定の配線パターンのメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材が得られる(図3中のステップS29)。この例では、以上のようにして、図2に示すようなCu膜からなる立体配線8が立体面1bに形成されたポリマー基材1を作製した。
【0059】
上述したこの例のメッキ膜の形成方法を用いると、実施例1と同様に、立体形状のポリマー基材表面に良質なメッキ膜を所望のパターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成させることができる。
【0060】
さらに、この例のメッキ膜の形成方法では、無電解メッキ法により形成される薄い膜厚の第1Cu膜を、ポリマー基材表面の配線パターン領域を含む広範囲な領域(所定領域)に形成するので、その後工程である電解メッキの工程において、第1Cu膜を電極として用い易くなる。それゆえ、この例のメッキ膜の形成方法はより汎用性のある方法として有効である。
【実施例3】
【0061】
実施例3では、実施例1及び2と異なる方法でポリマー基材上に所定パターンのメッキ膜を形成した。なお、この例では、実施例1及び2と同様に、レンズと、レンズによる結像を電気信号として検出するイメージセンサーとを一体に有するワンチップ型のレンズモジュールのモジュール基材に回路配線を形成する際に、本発明のメッキ膜の形成方法を適用した例を説明する。また、この例で作製したレンズモジュールの構成は実施例1と同じ(図2参照)とした。
【0062】
次に、この例のポリマー基材表面へのメッキ膜の形成方法を図4を参照しながら説明する。なお、この例のメッキ膜の形成方法では、ポリマー基材1を用意する工程(図4中のステップS30)からポリマー基材1の表面1b(立体面)内部に金属錯体2を浸透させてメッキベース(金属微粒子)2’を形成する工程(図4中のステップS34)は、実施例1で説明した図1のステップS10〜S14の工程と同じである。それゆえ、ここでは、図4中のステップS30〜S34の工程の説明は省略し、ステップS35以降の工程について説明する。
【0063】
ポリマー基材1の立体面1bの所定領域(配線パターン領域を含む領域)にメッキベース2’が形成された後、ポリマー基材1の立体面1b側(メッキベース2’が形成されている側)の表面に無電解メッキを施し、ポリマー基材1の立体面1b上に第1Cu膜6を形成した(図4中のステップS35)。この例では、第1Cu膜6の膜厚を1〜2μmとした。なお、無電解メッキは実施例2と同様にして行った。
【0064】
次に、第1Cu膜6を電極として電解メッキ(電鋳)を行ない、第1Cu膜6上に第2Cu膜7を形成した(図4中のステップS36)。なお、電解メッキは公知の方法で行った。この例では、第2Cu膜7の膜厚を10μmとした。
【0065】
次に、配線パターン領域に対応する第2Cu膜7の表面領域上に、インクジェット法により、紫外線硬化樹脂を付加した。次いで、紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化した。このようにして、配線パターン領域に対応する第2Cu膜7の表面領域上にマスク層5を形成した(図4中のステップS37)。すなわち、この例では、配線パターン領域に対応する第2Cu膜7の表面領域を被覆するようにマスク層5を形成した。
【0066】
次いで、マスク層5が形成されたポリマー基材1をエッチング液に浸漬してウェットエッチングを行い、マスク層5で覆われていない領域(配線パターン領域以外の領域)のメッキ膜(第1Cu膜6及び第2Cu膜7)を除去した(図4中のステップS38)。なお、エッチング液としては、王水、ヨウ素/ヨウ化カリ水溶液、ヨウ素/ヨウ化アンモニウム/メタノール水溶液等が用い得る。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でポリマー基材1を洗浄して配線パターン上の紫外線硬化樹脂を除去した(図4中のステップS39)。この例では、以上のようにして、図2に示すようなCu膜からなる立体配線8が立体面1bに形成されたポリマー基材1を作製した。
【0067】
上述したこの例のメッキ膜の形成方法を用いると、実施例1と同様に、立体形状のポリマー基材表面に良質なメッキ膜を所望のパターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成させることができる。
【0068】
なお、実施例3のメッキ膜の形成方法において、ポリマー基材1の配線パターン領域を含む広範囲な領域(所定領域)にメッキ膜(第1Cu膜6及び第2Cu膜7)を形成した状態のポリマー基材1(図4中のS36の状態のポリマー基材1)を配線基板商品として流通させても良い。この場合、購入者はメッキプロセスを行う必要が無く、フォトリソグラフィ工程のみで所望の配線パターンを形成することができる。それゆえ、設備及びプロセスの観点で負荷の小さい配線基板を提供することができる。なお、この場合には、ポリマー基材1の配線パターン領域を含むより広範囲な領域(できれば全面)にメッキ膜を形成することが好ましい。
【0069】
上記実施例1〜3では、立体形状のポリマー基材表面に所定パターンのメッキ膜を形成する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。平坦なポリマー基材表面に所定パターンのメッキ膜を形成する場合にも上記実施例1〜3で説明したメッキ膜の形成方法は適用可能であり、同様の効果が得られる。また、平坦なポリマー基材表面に所定パターンのメッキ膜を形成する場合、次のような変形例が挙げられる。
【0070】
[変形例1]
変形例1では、実施例2のメッキ膜の形成方法の変形例について説明する。変形例1では、第1Cu膜6が形成されたポリマー基材1の表面に配線パターン領域に対応する領域が開口部5aであるマスク層5を形成する工程、すなわち、図3中のステップS25からステップS26に至る工程を実施例2とは変えた。それ以外の工程は実施例2と同様とした。それゆえ、この例では、ステップS25からステップS26に至る工程のみについて説明する。
【0071】
この例のメッキ膜の形成方法における、第1Cu膜6が形成されたポリマー基材1の表面に配線パターン領域に対応する領域が開口部5aであるマスク層5を形成する工程(図3中のステップS25からステップS26に至る工程)の手順を図5に示した。この例では、まず、ポリマー基材1の表面に形成された第1Cu膜6上に(図5中のS25の状態のポリマー基材1上に)、感光性樹脂(レジスト)を塗布した。感光性樹脂の厚さは約1μmとした。次いで、感光性樹脂が塗布されたポリマー基材1を乾燥させ、さらに室温で冷却し硬化させた。このようにして、第1Cu膜6上にマスク層5を形成した(図5中のステップS25A)。
【0072】
次に、マスク層5上に、配線パターン領域に対応する領域が開口部となっているフォトマスク9を被せた。なお、フォトマスク9は遮光性を有する任意の材料で形成することができるが、特にCr等の金属を用いることが好ましい。また、本発明はこれに限定されず、例えば、遮光性を有し、ポリマー基材の表面に付着/密着する性質を有する材料からなるインクを非露光部(配線パターン領域以外の領域)に印刷してマスク層5を形成しても良い。この場合には、この例のメッキ膜の形成方法を立体形状のポリマー基材表面にも適用することができる。
【0073】
次いで、フォトマスク9上から紫外線拡散光10を照射して露光処理を行った(図5中のステップS25B)。この際、フォトマスク9の開口部に露出したマスク層5の領域のみが感光される。
【0074】
次いで、感光性樹脂からなるマスク層5を常温下で専用の現像液で現像処理し、マスク層5の感光領域を除去した。次いで、ポリマー基材1を水洗いした。このようにして、第1Cu膜6が形成されたポリマー基材1の表面に、配線パターン領域に対応する領域が開口部5aとなるマスク層5を形成した(図5中のステップS26の状態)。
【0075】
[変形例2]
変形例2では、実施例3のメッキ膜の形成方法の変形例について説明する。変形例2では、メッキ膜8(第1Cu膜6及び第2Cu膜7)が形成されたポリマー基材表面の配線パターン領域に対応する領域にマスク層5を形成する工程、すなわち、図4中のステップS36からステップS37に至る工程を実施例3とは変えた。それ以外の工程は実施例3と同様とした。それゆえ、この例では、ステップS36からステップS37に至る工程のみについて説明する。
【0076】
この例のメッキ膜の形成方法における、第1Cu膜6及び第2Cu膜7が形成されたポリマー基材表面の配線パターン領域に対応する領域にマスク層5を形成する工程(図4中のステップS36からステップS37に至る工程)の手順を図6に示した。この例では、まず、ポリマー基材1上に形成された第2Cu膜7上に(図6中のS36の状態にあるポリマー基材1上に)、感光性樹脂(レジスト)を塗布した。感光性樹脂の厚さは約1μmとした。次いで、感光性樹脂が塗布されたポリマー基材1を乾燥させ、さらに室温で冷却し硬化させた。このようにして、第2Cu膜7上にマスク層5を形成した(図6中のステップS36A)。
【0077】
次に、マスク層5上の配線パターン領域に対応する領域上にフォトマスク9を被せた。すなわち、配線パターン領域以外の領域が開口部となるフォトマスク9をマスク層5上に被せた。なお、フォトマスク9は遮光性を有する任意の材料で形成することができるが、特にCr等の金属を用いることが好ましい。また、本発明はこれに限定されず、例えば、遮光性を有し、ポリマー基材の表面に付着/密着する性質を有する材料からなるインクを非露光部(配線パターン領域以外の領域)に印刷してマスク層5を形成しても良い。
【0078】
次いで、フォトマスク9上から紫外線拡散光10を照射して露光処理を行った(図6中のステップS36B)。この際、フォトマスク9の開口部に露出したマスク層5の領域(配線パターン領域以外の領域)のみが感光される。
【0079】
次いで、感光性樹脂からなるマスク層5を常温において専用の現像液で現像処理し、マスク層5の感光領域を除去した。次いで、ポリマー基材1を水洗いした。このようにして、第2Cu膜7の表面の配線パターン領域に対応する領域にマスク層5を形成した(図6中のステップS37の状態)。
【0080】
上記変形例1及び2のいずれにおいても、実施例1〜3と同様に、良質なメッキ膜を所望のパターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成させることができる。
【0081】
上記実施例1〜3並びに変形例1及び2では、ポリマー基材表面の所定領域に金属錯体を付加して浸透させる例について説明したが、本発明はこれに限定されず、ポリマー基材表面の全面に金属錯体を付加して浸透させても良い。
【0082】
また、上記実施例1〜3並びに変形例1及び2では、メッキ膜を無電解メッキ法と電解メッキ法とを組み合わせて形成した例を説明したが、本発明は、これに限定されない。メッキ膜を無電解メッキ法のみで形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0083】
上述のように、本発明のポリマー基材のメッキ膜の形成方法では、メッキ膜を形成するポリマー基材の表面の形状(立体形状または平坦面)に関係なく、良質なメッキ膜を所望のパターンで容易に形成することができ、且つ、微細で高精度な配線などのメッキ膜パターンを形成させることができる。それゆえ、あらゆる配線基板を形成する方法として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、実施例1のメッキ膜の形成方法の手順を説明するための図である。
【図2】図2(a)及び(b)は、実施例1〜3で作製したレンズモジュールの概略構成図である。
【図3】図3は、実施例2のメッキ膜の形成方法の手順を説明するための図である。
【図4】図4は、実施例3のメッキ膜の形成方法の手順を説明するための図である。
【図5】図5は、変形例1のメッキ膜の形成方法の手順を説明するための図である。
【図6】図6は、変形例2のメッキ膜の形成方法の手順を説明するための図である。
【図7】図7は、実施例1のメッキ膜の形成方法において、ポリマー基材表面を改質するために用いた高圧装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0085】
1 ポリマー基材
2 金属錯体
3 コーティング層
4 超臨界二酸化炭素
5 マスク層
6 第1Cu膜(第1メッキ膜)
7 第2Cu膜(第2メッキ膜)
8 立体配線(メッキ膜)
9 フォトマスク
10 紫外線拡散光
100 レンズモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体を用いてポリマー基材の表面に所定パターンのメッキ膜を形成する方法であって、
上記ポリマー基材表面に金属錯体を付加することと、
上記ポリマー基材の表面に上記超臨界流体を接触させて、上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させることと、
上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材表面の上記所定パターンに対応する領域を含む領域にメッキ膜を形成することと、
メッキ膜を上記所定パターンにパターニングするためのマスク層を形成することとを含むメッキ膜の形成方法。
【請求項2】
上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させた後に、
上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面に、上記所定パターンに対応する領域が開口部となる上記マスク層を形成することと、
上記マスク層の開口部に上記メッキ膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項1に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項3】
上記マスク層の開口部に上記メッキ膜を形成することが、
上記マスク層の上記開口部に露出したポリマー基材表面に、無電解メッキ法により第1メッキ膜を形成することと、
第1メッキ膜上に、電解メッキ法により第2メッキ膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項2に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項4】
上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させた後に、
上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面に、無電解メッキ法により第1メッキ膜を形成することと、
第1メッキ膜上に、上記所定パターンに対応する領域が開口部となる上記マスク層を形成することと、
上記マスク層の開口部に露出した第1メッキ膜上に、電解メッキ法により第2メッキ膜を形成することと、
上記マスク層を除去することと、
上記所定パターンに対応する領域以外に形成された第1メッキ膜をエッチングにより除去することとを含むことを特徴とする請求項1に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項5】
上記金属錯体を上記ポリマー基材に浸透させた後に、
上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面にメッキ膜を形成することと、
上記メッキ膜の上記所定パターンに対応する領域上に、上記マスク層を形成することと、
上記マスク層が形成されていない領域の上記メッキ膜をエッチングにより除去することとを含むことを特徴とする請求項1に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項6】
上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面にメッキ膜を形成することが、
上記金属錯体が浸透した上記ポリマー基材の表面に、無電解メッキ法により第1メッキ膜を形成することと、
第1メッキ膜上に、電解メッキ法により第2メッキ膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項5に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項7】
さらに、上記ポリマー基材の表面に金属錯体を付加した後に、該金属錯体を被覆するようにコーティング層を形成することを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項8】
さらに、上記ポリマー基材の表面に金属錯体を浸透させた後に、該金属錯体を金属微粒子に還元することを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項9】
上記マスク層がスプレー法、ディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法及びインクジェット法のいずれか一つの方法を用いて形成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項10】
上記ポリマー基材の金属錯体が浸透される表面が立体形状であり、上記マスク層がインクジェット法により形成されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項11】
上記ポリマー基材が、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル及びアモルファスポリオレフィンからなる群から選ばれる1つで形成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法。
【請求項12】
上記請求項1〜11のいずれか一項に記載のメッキ膜の形成方法により形成された所定パターンのメッキ膜が表面に形成されたポリマー基材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−291422(P2007−291422A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117937(P2006−117937)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】