説明

ポリマー材料を用いた懸垂がいし

【課題】従来有する懸垂がいしの特性を維持しつつ、軽量化を図ることができるポリマー材料を用いた懸垂がいしを提供する。
【解決手段】頭部6a及び基部6bからなる円筒状部10と笠部7とを有するがいし本体部1と、がいし本体部1の頭部6aに外嵌されて、開口端縁が縮径して頭部6aに対して圧縮力を付与する有底カップ状のキャップ部2と、がいし本体部1の頭部6aに内嵌されるピン部材3と、キャップ部2と頭部6aとの間、及び頭部6aとピン部材3との間に充填されるセメント材4、5とを有する懸垂がいしである。少なくとも頭部6aを磁器にて構成するとともに、笠部7を、撥水性を有するポリマー材料にて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料を用いた懸垂がいしに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なポリマーがいしは、コア材として絶縁物であるガラス系のFRPを使用し、その周囲をポリマー材料にて被覆し、両端に金具を加締めた構造となっている(特許文献1)。このようなポリマーがいしは、長期的に外気に晒されているため、表面に塩分及び水滴が付着すると放電が起こり、硝酸が発生する。コア材のFRPに硝酸が混入した場合、FRPは酸に弱いため、FRPが破断するいわゆるブリトルフラクチャ(応力腐食破断)が海外で生じている。特に、高圧送電線ではブリトルフラクチャが発生し、最悪がいし連が断連した場合影響が大きいため、このようなタイプのがいしは、特に日本国内ではほとんど使用されない。
【0003】
そこで、高圧送電線においては、通常図4に示すような懸垂がいしが用いられる。この懸垂がいしは、笠部107と頭部106とを備えた磁器部101と、頭部106に外嵌される金属性のキャップ部102と、頭部106に内嵌される金属性のピン部材103とを備え、キャップ部102と頭部106、及び頭部106とピン部材103との間に、夫々セメント104、105が充填されている。ピン部材103の先端は、ボール部108が形成されるとともに、キャップ部102には、このボール部108が挿入係止される穴部109が形成されている。このような懸垂がいしは、FRPが使用されておらず、磁器及び金属にて構成されているので、前記したような劣化が生じることなく、ブリトルフラクチャが生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−251715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような懸垂がいしは、図5に示すように、複数個の懸垂がいしが連結されて構成された、いわゆるがいし連として使用されるのが一般的である。すなわち、懸垂がいしを連結する場合、1つの懸垂がいしの穴部109に、別の懸垂がいしのピン部材103のボール部108を挿入係止し、穴部109に形成されるピン孔(図示省略)に固定ピン(図示省略)を挿通してボール部108を固定し、懸垂がいしを順次連結する。このような懸垂がいしを連結したものは、重量が大きくなり、取付作業が行いにくく、取付後のメンテナンス作業も大掛かりなものとなっていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、従来有する懸垂がいしの特性を維持しつつ、軽量化を図ることができるポリマー材料を用いた懸垂がいしを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしは、頭部及び基部からなる円筒状部と笠部とを有するがいし本体部と、このがいし本体部の頭部に外嵌されて、その開口端縁が縮径して前記頭部に対して圧縮力を付与する有底カップ状のキャップ部と、前記がいし本体部の頭部に内嵌されるピン部材と、前記キャップ部と頭部との間、及び頭部とピン部材との間に充填されるセメント材とを有し、少なくとも前記頭部を磁器にて構成するとともに、前記笠部を、撥水性を有するポリマー材料にて構成したものである。
【0008】
本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしによれば、がいし本体部のうち、外部に晒される笠部を撥水性を有するポリマー材料にて構成しているため、従来のように笠部を磁器にて構成する場合よりも軽量なものとなる。また、FRPを使用していないため、ブリトルフラクチャの発生を防止又は抑制することができる。さらには、がいし本体部の頭部を磁器にて構成していることから、頭部の剛性を従来同様に維持することができて、キャップ部の開口端縁からピン部材に対する圧縮力を従来同様に維持することができる。この圧縮力にて、取付状態における引張力に対する引張強度を保っており、この引張強度を従来同様に維持することができる。
【0009】
前記構成において、前記ポリマー材料をシリコーンゴムとするのが望ましい。シリコーンゴムは撥水性がよく、また、電気絶縁性にも優れており、笠部を構成するポリマー材料としては最適なものとなる。
【0010】
前記構成において、前記笠部を、前記基部の延びる方向に沿って複数配設するのが望ましい。これにより、単一のキャップ部及びピン部材で、複数の笠部を備えた構成とすることができる。すなわち、従来のがいし連のように、キャップ部及びピン部材及びがいし本体部を備えた懸垂がいしを1つのユニットとして、このユニットを複数個備えた(キャップ部及びピン部材を複数個備えた)構成とすることなく、単一のキャップ部及びピン部材にてがいし連を構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいし連は、軽量なものとなって、取付前においては運搬作業、取付作業が容易なものとなり、取付時においては取付状態が安定し、取付後においては容易に取外すことができてメンテナンス性の向上を図ることができる。また、ブリトルフラクチャの発生を防止又は抑制することができるため、その機能を長期にわたって維持することができる。さらには、取付状態における引張強度を従来同様に維持することができるため、取り付け状態を従来同様に安定させることができる。
【0012】
ポリマー材料をシリコーンゴムとすると、がいし本体部を磁器のみで構成した場合の特性に劣ることなく、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしの第1実施形態を示す部分断面図である。
【図2】本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしの変形例を示す部分断面図である。
【図3】本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしの第2実施形態を示す断面図である。
【図4】従来の懸垂がいしの部分断面図である。
【図5】従来の懸垂がいしを連結した懸垂がいし連を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしの第1実施形態の部分断面図である。このポリマー材料を用いた懸垂がいしは、図1に示すように、がいし本体部1と、キャップ部2と、ピン部材3とを備えており、がいし本体部1とキャップ部2との間、及びがいし本体部1とピン部材3との間には、夫々セメント材4、5が充填されている。
【0016】
キャップ部2は、有底カップ状となっており、本実施形態ではキャップ部2は、底部から離間する程、その外径が拡径するベル型形状となっている。底部には、穴部9が設けられており、この穴部9には、別の懸垂がいしのピン部材の先端部(ボール部3c)が挿入係止可能となっている(図5参照)。キャップ部2の開口端縁(底部と反対側)は、その径が縮径されてなる加締部8が形成されており、この加締部8は後述するピン部材3に対して圧縮力を付与する。
【0017】
がいし本体部1は、頭部6a及び基部6bからなる円筒状部10と、笠部7とから構成されている。円筒状部10は、キャップ部2の底部側を塞ぐ底壁を有する円筒状体である。この円筒状部10は、その一部がキャップ部2に内嵌されており、キャップ部2に被覆される部分を頭部6a、キャップ部2から露出する部分を基部6bとしている。本発明は、少なくとも頭部6aが磁器にて構成されるものであり、本実施形態では基部6bも磁器にて構成されている。キャップ部2の内径側と頭部6aの外径側との間には、セメント材4が充填されている。
【0018】
笠部7は、基部6bの側面から外径側へ延びて、その上面が、円筒状部側から外径側に向かって僅かに下降傾斜する円盤状体である。笠部7の下面は、同心円状に形成された複数のひだが形成されている。笠部7は、撥水性を有するポリマー材料にて形成されている。その中でも、特にシリコーンゴムとするのが望ましく、本実施形態では笠部7はシリコーンゴムにて形成されている。シリコーンゴムは、撥水性に優れており、さらには体積固有抵抗値が1011〜1016Ω・mと電気絶縁性に優れている。しかも、耐熱性及び耐寒性に優れており、広い温度範囲にわたって適用しやすく、絶縁材料として最も好ましい材質である。さらには、加工しやすく、笠部7の成形を容易にできるという利点がある。基部6bと笠部7は、粘着材を介して接合されている。また、圧着等の方法により接合することもできる。
【0019】
ピン部材3は、大径部3aと軸部3bとボール部3cとからなる。大径部3aが頭部6に被覆されるとともに、ボール部3cが笠部7から露出している。頭部6の内径側とピン部材3の外径側との間には、セメント材5が充填されている。
【0020】
キャップ部2の加締部8は、図1の矢印Aの方向に示すように、ピン部材3の大径部3aに向かって圧縮力を付与している。この圧縮力にて、取付状態における引張力(図1の矢印B)に対する引張強度を保っている。本発明では、頭部6を従来同様に磁器にて構成しているため、頭部6の剛性を従来同様に維持することができて、キャップ部2の開口端縁からピン部材3の大径部3aに対する圧縮力を従来同様に維持することができる。従って、引張強度も従来とほぼ同様に維持することができるため、本発明の懸垂がいしを例えば鉄塔及び電線に取り付けた場合、取り付け状態は、従来同様に安定したものとなる。
【0021】
このように、本発明では、がいし本体部1のうち、外部に晒される笠部7を撥水性を有するポリマー材料にて構成しているため、従来のように笠部7を磁器にて構成する場合よりも軽量なものとなって、取付前においては運搬作業、取付作業が容易なものとなり、取付時においては取付状態が安定し、取付後においては容易に取外すことができるため、メンテナンス性の向上を図ることができる。また、ブリトルフラクチャの発生を防止又は抑制することができるため、その機能を長期にわたって維持することができる。さらには、取付状態における引張強度を従来同様に維持することができるため、取り付け状態を従来同様に安定させることができる。
【0022】
笠部7におけるポリマー材料をシリコーンゴムとしているため、がいし本体部1を磁器のみで構成した場合の特性に劣ることなく、軽量化を図ることができる。
【0023】
図2は、本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしの変形例を示す。図2の懸垂がいしは、笠部7の形状が図1のものと相違する。笠部7の上面は、基部6bの側面から外径側へ延びて、その上面が、円筒状部側から外径側に向かって下降傾斜するテーパ面であり、笠部7の下面は、平面状となっており、ひだが形成されていない。このように、笠部7の形状としては、懸垂がいしが使用される環境等によって種々の形状とすることができる。なお、図2に示す懸垂がいしにおいて、図1に示す懸垂がいしと同様の構成については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0024】
図3は、本発明のポリマー材料を用いた懸垂がいしの第2実施形態の部分断面図を示す。この懸垂がいしは、図3に示すように、がいし本体部11と、キャップ部12と、ピン部材13とを備えており、がいし本体部11とキャップ部12との間、及びがいし本体部11とピン部材13との間には、夫々セメント材14、15が充填されている。
【0025】
キャップ部12は、前記第1実施形態の懸垂がいしで使用したキャップ部2と同様のものを使用している。
【0026】
がいし本体部11は、頭部16a及び基部16bからなる円筒状部20と、複数の(本実施形態では2個)笠部17a、17bとから構成されている。基部16bの長さ寸法は、第1実施形態の懸垂がいしの基部6bの長さ寸法よりも長くしている。具体的には、基部6bは、2個の笠部17a、17bが取付可能な長さとなっている。第2実施形態の懸垂がいしも、少なくとも頭部16aが磁器にて構成されるものであり、本実施形態では基部16bも磁器にて構成されている。キャップ部12の内径側と頭部16aの外径側との間には、セメント材14が充填されている。
【0027】
笠部17a、17bは、いずれも前記懸垂がいしで使用した笠部7と同様の形状、材質のものを使用している。笠部17a、17bは、基部16bの外周面に、基部16bの延びる方向に沿って2個取り付けられている。これにより、単一のキャップ12部及びピン部材13で、2つの笠部17a、17bを備えた構成とすることができる。
【0028】
ピン部材13は、大径部13aと軸部13bとボール部13cとからなり、軸部13bの長さ寸法は、第1実施形態の懸垂がいしの軸部3bの長さ寸法よりも長くなっている。大径部13aが頭部16に被覆されるとともに、ボール部13cが下方側の笠部17bから露出している。頭部16の内径側とピン部材13の外径側との間には、セメント材15が充填されている。
【0029】
このような構成とすることにより、第2実施形態の懸垂がいしは、前記第1実施形態の懸垂がいしと同様の作用効果を得ることができる。それに加えて、第2実施形態の懸垂がいしでは、単一のキャップ部12及びピン部材13で、複数の(本実施形態では2個)笠部17a、17bを備えた構成とすることができる。すなわち、従来のがいし連のように、キャップ部及びピン部材を複数個備えたものとすることなく、単一のキャップ部12及びピン部材13にてがいし連を構成することができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、前記実施形態では、基部6b、16bの材質を磁器としたが、少なくとも頭部6a、16aが磁器にて構成されていればよいため、基部6b、16bの材質は種々設定することができる。すなわち、基部6b、16bの全部をポリマー材料にて構成したり、基部6b、16bの一部を磁器とし、その他の部分をポリマー材料にて構成したりすることができる。基部6b、16bの材質は、頭部6a、16aや笠部7、17a、17bと同一の材質でなくてもよい。
【0031】
笠部7、17a、17bの材質としては撥水性を有するポリマー材料であれば、シリコーンゴムに限られず、その他のゴム材料であってもよい。第2実施形態のがいし連において、笠部17a、17bの個数は任意とすることができる。また、夫々の笠部17a、17bの形状や大きさを相違させてもよい。前記実施形態では、がいしの連結として、ボール部をキャップ部に差し込んで接続するいわゆる「ボールソケット」タイプのものとして説明したが、ピンを差し込んで接続するいわゆる「クレビス」タイプのものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1、11 がいし本体部
2、12 キャップ部
3、13 ピン部材
4、5、14、15 セメント材
6a、16a 頭部
6b、16b 基部
7、17a、17b 笠部
10、20 円筒状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部及び基部からなる円筒状部と笠部とを有するがいし本体部と、このがいし本体部の頭部に外嵌されて、その開口端縁が縮径して前記頭部に対して圧縮力を付与する有底カップ状のキャップ部と、前記がいし本体部の頭部に内嵌されるピン部材と、前記キャップ部と頭部との間、及び頭部とピン部材との間に充填されるセメント材とを有し、
少なくとも前記頭部を磁器にて構成するとともに、前記笠部を、撥水性を有するポリマー材料にて構成したことを特徴とするポリマー材料を用いた懸垂がいし。
【請求項2】
前記ポリマー材料をシリコーンゴムとしたことを特徴とする請求項1のポリマー材料を用いた懸垂がいし。
【請求項3】
前記笠部を、前記基部の延びる方向に沿って複数配設したことを特徴とする請求項1又は請求項2のポリマー材料を用いた懸垂がいし。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−226867(P2012−226867A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91106(P2011−91106)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】