説明

ポリマー材料

【課題】ポリマー材料を調製する方法を提供する。
【解決手段】方法はアリールケトン部位を有する1つ以上のモノマーを選択する工程を含み、ガスクロマトグラフ(GC)分析を用いて測定される該1つ以上のモノマーの純度は99.7面積%以上である。ポリマー材料の核形成温度Tnとガラス転移温度Tgとの差は23℃より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー材料に関し、詳細には、次に限定されないが、ポリマー材料それ自体、その調製方法およびその材料の使用に関する。好適な実施形態は、ポリアリールエーテルケトン(例えば、ポリエーテルエーテルケトン)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトンは、優れた化学的性質および物理的性質が要求される状況において用いられる、高機能な熱可塑性ポリマーである。
ポリエーテルエーテルケトンなど非結晶状態にある半結晶性ポリマーの延伸熱成形を行うには、ポリマーを伸展させるのが適度に容易である必要がある。したがって、ポリマーはTg(ガラス転移温度、ガラス状態からゴム状態への遷移)より高い延伸または熱成形温度でゴム状態にある必要があるが、延伸または熱成形段階における過度な結晶化を防止するため、その温度はTn(冷結晶化または核形成温度;この温度を超えると結晶化度が増大する)未満である必要がある。したがって、TgとTnとの差は可能な限り大きいことが有利である。それによって、結晶化の発生前に成形物を熱成形する際、あるいは単軸延伸または二軸延伸(連続延伸および同時延伸の両方)したフィルムまたはチューブなどの配向処理の際に、最大の加工可能範囲が与えられる。
【0003】
450GグレードなどVictrex Plc販売のポリエーテルエーテルケトンにおけるTgとTnとの差(このポリマーは非結晶状態で分析されている)は、約22℃であり、一部の延伸、熱成形またはその両方の処理における使用には、加工範囲が狭すぎる。この問題を克服する試みには、ポリアリールエーテルケトンの結晶性を乱してTnを上昇させ、加工範囲を拡張するように選択されたコモノマーを含む、ポリアリールエーテルケトンコポリマーを提供することが含まれる。しかしながら、不利なことに、そのようなコポリマーは、ポリアリールエーテルケトン(例えば、ポリエーテルエーテルケトン)ホモポリマーに比べ、化学的性質、物理的性質またはその両方が劣る傾向にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述の問題に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様では、ポリマー基本骨格にフェニル部位、ケトン部位およびエーテル部位を含むポリマー材料の調製方法を提供する。この方法は、次式の部位を有する1つ以上のモノマーを選択することを含む。
【0006】
【化1】

【0007】
ここで、Phはフェニル部位を表し、上記1つ以上のモノマーは99.7面積%以上の純度を有する。
驚くべきことに、式Iの比較的純粋なモノマーを提供することによって、ポリマーのT
gとTnとの間の差が増大し、延伸、熱成形またはその両方の処理においてポリマーをより容易に用いることが可能となることが見出された。さらに、驚くべきことに、式Iの比較的純粋なモノマーを提供することによって、調製されるポリマー材料のメルトフローインデックス(MFI)が期待されるよりも著しく大きくなることが見出された。また、これによって、延伸、熱成形またはその両方の処理が容易となる。
【0008】
上記1つ以上のモノマーの純度はガスクロマトグラフ(GC)分析を用いて、適切には以下の試験1に記載の方法を用いて評価できる。
上記1つ以上のモノマーは、99.75面積%以上、適切には99.8面積%以上、好適には99.85面積%以上、より好適には99.88面積%以上、特に99.9面積%以上の純度を有してよい。
【0009】
上記1つ以上のモノマーは、適切には無置換である2つ以上のフェニル部位を好適には含む。この2つ以上のフェニル部位は、好適には別の原子または基によって離間されている。この別の原子または基は、−O−および−CO−から選択されてよい。上記1つ以上のモノマーは、フェノキシフェノキシ安息香酸またはベンゾフェノンを含んでよい。
【0010】
上記1つ以上のモノマーは、ハロゲン原子(例えば、塩素またはフッ素原子。フッ素原子が特に好適である)、−OH部位および−COOH部位から選択される末端基を含む。上記1つ以上のモノマーは、好適にはフッ素原子および−COOH基から選択される末端基を含む。
【0011】
上記製法は、(a)次の一般式の化合物を自己縮重合させることと、
【0012】
【化2】

【0013】
(ここで、Yはハロゲン原子または基−EHを表し、Yはハロゲン原子または基−COOHもしくは−EHを表し、YおよびYが共に水素原子を表すことはない)
(b)次の一般式の化合物を
【0014】
【化3】

【0015】
次式の化合物、
【0016】
【化4】

【0017】
次式の化合物
【0018】
【化5】

【0019】
またはその両方と縮重合させることと、
(ここで、Yはハロゲン原子または基−EHを表し、Xはハロゲン原子または基−EHのうちの他方を表し、Yはハロゲン原子または基−EHを表し、Xはハロゲン原子または基−EHのうちの他方を表す)
(c)随意で(a)に記載の工程の生成物を(b)に記載の工程の生成物と共重合させることと、を含んでよい。ここで、各Arは次式の部位(i)〜(iv)のうちの1つから独立に選択され、
【0020】
【化6】

【0021】
部位(i)〜(iv)は自身のフェニル部位のうちの1つ以上によって(好適にはその4,4’−位において)隣接部位へ結合されており、各m,n,w,r,s,z,tおよびvは独立に0または正の整数を表し、各Gは酸素もしくは硫黄の原子、直接結合または−O−Ph−O−部位から独立に選択され、Phはフェニル部位を表し、各Eは酸素もしく
は硫黄の原子または直接結合から独立に選択される。
【0022】
本明細書では、特に述べない限り、フェニル部位は、それが結合されている部位に対し、1,4’−または1,3’−結合(好適には、1,4’−結合)を有する。
特に述べない限り、フェニル部位は好適には無置換である。
【0023】
好適なAr部位には、部位(i),(iii)および(iv)が含まれる。
各m,n,w,r,s,z,tおよびvは、好適には、独立に0または1を表す。
この製法を用いて、以下に記載のようなポリマー材料を製造することができる。
【0024】
上記ポリマー材料は、次の一般的式の繰返単位を有するホモポリマーであってもよく、
【0025】
【化7】

【0026】
2つ以上の異なるIVの単位からなるランダムコポリマーまたはブロックコポリマーであってもよい。ここで、AおよびBは独立に0または1を表し、E,G,Ar,m,r,sおよびw,zは、本明細書のいずれかの記載の通りである。E’はEについて記載した任意の部位から独立に選択されてよい。
【0027】
上述の単位IVを含むポリマー材料の代替として、上記ポリマー材料は、次の一般的式の繰返単位を有するホモポリマーであってもよく、
【0028】
【化8】

【0029】
2つ以上の異なるIVの単位からなるランダムコポリマーまたはブロックコポリマーであってもよい。ここで、AおよびBは独立に0または1を表し、E,E’,G,Ar,m,r,sおよびw,zは、本明細書のいずれかの記載の通りである。
【0030】
好適には、mは、0〜3の範囲、より好適には0〜2の範囲、特に0〜1の範囲である。好適には、rは、0〜3の範囲、より好適には0〜2の範囲、特に0〜1の範囲である。好適には、sは0または1である。好適には、wは0または1である。
【0031】
好適には、上記ポリマー材料は一般式IVの繰返単位を有するホモポリマーである。
上記ポリマー材料は、好適には次式の繰返単位を含み(例えば、上記ポリマー材料のうちの80wt%以上、好適には90wt%以上、特に95wt%以上が含む)、より好適には、次式の繰返単位のみからなる。
【0032】
【化9】

【0033】
ここで、t、vおよびbは独立に0または1を表す。好適なポリマー材料は、上記繰返単位を有する。ここで、t=1またはv=0(いずれの場合もb=0);t=0,v=0およびb=0;t=0,v=1およびb=0;t=1,v=1,b=0;またはt=0,v=0,b=1である。より好適には、t=1かつv=0;または、t=0かつv=0である。最も好適には、t=1かつv=0である。
【0034】
好適な実施形態では、上記ポリマー材料は、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンおよびポリエーテルケトンケトンから選択される。より好適な一実施形態では、ポリマー材料はポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトンおよびポリエーテルケトンエーテルケトンケトンから選択される。特に好適な一実施形態では、ポリマー材料はポリエーテルエーテルケトンである。
【0035】
(a)に記載の工程は、求電子的な工程であっても求核的な工程であってもよい。
がハロゲン原子を表し、Yが基−COOHを表す、(a)に記載の工程の第1の実施形態では、この工程は求電子的であってよい。この工程は、好適には縮合剤の存在下に実行される。この縮合剤は、メタンスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸無水物)であってもよい。溶媒が適切には存在し、これは、メタンスルホン酸であってよい。この第1の実施形態では、好適には式Vの化合物において、Yは水素原子を表し、Yは基−COOHを表し、Arは式(iii)の部位を表し、mは0を表す。上記製法は、欧州特許第1263836号明細書および欧州特許第1170318号明細書に記載されている。
【0036】
(a)に記載の工程の第2の実施形態では、好適には、YおよびYのうちの一方はフッ素原子を表し、他方はヒドロキシル基を表す。そのようなモノマーが求核的な工程により縮重合されてもよい。モノマーの例には、4−フルオロ−4’−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ−4’−(4−フルオロベンゾイル)ベンゾフェノン、4−ヒドロキシ−4’−(4−フルオロベンゾイル)ビフェニル、および4−ヒドロキシ−4’−{4−フルオロベンゾイル)ジフェニルエーテルが含まれる。
【0037】
(b)に記載の工程は、好適には求核的である。好適には、YおよびYは各々ヒドロキシ基を表す。好適には、XおよびXは各々ハロゲン原子(適切には同じハロゲン原子)を表す。
【0038】
(b)に記載の工程が実行される場合、適切には、「a」は、この工程において用いられる化合物VIのモル%を表し、「b」は、この工程において用いられる化合物VIIのモル%を表し、「c」は、この工程において用いられる化合物VIIIのモル%を表す。
【0039】
好適には、aは45〜55の範囲、特に48〜52の範囲にある。好適には、bおよびcの合計は45〜55の範囲、特に48〜52の範囲にある。好適には、a、bおよびcの合計は100である。
【0040】
好適には、cは0である。この縮重合は、好適には式VIの1つのモノマーと式VIIの1つのモノマーとの縮重合を含み、aおよびbの合計は約100である。
この方法において接触される1つ以上の式VIIの化合物に対する1つ以上の式VIの化合物のモル数の比は、好適には1〜1.5の範囲、特に1〜1.1の範囲にある。好適には、この方法では、式VIの化合物は1種類しか用いられない。
【0041】
(b)に記載の工程が実行される場合、好適には、化合物VI、VIIおよびVIIIにおけるハロゲン原子または基−EHのうちの一方の合計のモル%は、化合物VI、VIIおよびVIIIにおけるハロゲン原子または基−EHのうちの他方の合計のモル%より、例えば、10%以下、特に5%以下だけ大きい。ハロゲン原子のモル%の方が大きい場合、ポリマーはハロゲン末端基を有し、基−EHのモル%の方が大きい場合(この場合、ポリマーは−EH末端基を有する)よりも安定する。
【0042】
また、過剰のハロゲンまたはヒドロキシ反応物を用いることによって、ポリマーの分子量を制御することも可能である。この過剰は、通常、0.1〜5.0モル%の範囲である。重合反応は、エンドキャップ部分として1つ以上の単官能性反応物を添加することによって、終了されてよい。
【0043】
(b)に記載の好適な工程は、一般式VIIの化合物(ここで、XおよびXはフッ素原子を表し、wは1を表し、Gは直接結合を表し、sは0を表す)を、一般式VIの化合物(ここで、YおよびYは−OH基を表し、Arは部位(iv)を表し、mは0を表す)または式VIの化合物(ここで、YおよびYは−OH基を表し、Arは部位(i)を表し、mは0を表す)と縮重合させることを含む。(b)に記載の別の好適な工程は、一般式VIIの化合物(ここで、XおよびXはフッ素原子を表し、wは0を表し、Gは直接結合を表し、rは1を表し、sは1を表す)を式VIの化合物(ここで、YおよびYは−OH基を表し、Arは部位(i)を表し、mは0を表す)と縮重合させることを含む。
【0044】
上述に記載のような純度を有するモノマーは、好適には一般式VIIのモノマーである。この化合物におけるXおよびXは、好適にはフッ素原子を表す。このモノマーは、好適には式VIIのモノマーであり、XおよびXはフッ素原子を表し、wは1を表し、Gは直接結合を表し、sは0を表す。
【0045】
第1の態様のこの工程は、好適には溶媒の存在下に実行される。溶媒は次式の溶媒であってよい。
【0046】
【化10】

【0047】
ここで、Wは直接結合、酸素原子または2つの水素原子(それぞれのベンゼン環に結合している)であり、ZおよびZ’は(同じであっても異なっていてもよい)水素原子またはフェニル基である。そのような芳香族スルホンの例には、ジフェニルスルホン、ジベンゾチオフェンジオキサイド、フェノキサチインジオキサイドおよび4−フェニルスルホニルビフェニルが含まれる。ジフェニルスルホンは好適な溶媒である。
【0048】
調製されるポリマー材料は、好適には、特定のモノマー(V),(VI),(VII)および(VIII)に由来する部位のみからなる。
調製されるポリマーは、好適には、式Vのモノマーに由来する部位、または式VIIのモノマーと縮重合された式VIのモノマーに由来する部位のみからなる。好適には、このポリマーは式VIIIのモノマーに由来する部位を含まない。
【0049】
この式V,VI,VII,VIIIの化合物では、各フェニル部位は、好適には1,4−置換されている。
(c)に記載の工程は、好適には用いられない。
【0050】
第1の態様の好適な工程は、
(d)次のフェノキシフェノキシ安息香酸の自己縮重合と、
【0051】
【化11】

【0052】
(適切には、本明細書において規定される式Xのポリマーを含む(好適には、のみからなる)ポリマーを調整する。ここで、pは1を表す)
(e)4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノンまたは4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンとの縮重合と、から選択されてよい。
【0053】
好適には、繰返単位のほぼ全体が、(d)および(e)において参照されるモノマーに由来する。
好適な一実施形態では、製法は、ポリマーを調製するために(e)に参照される縮重合を含み、適切には、次式の繰返単位を含むポリマー、より好適には、次式の繰返単位のみからなるポリマーを調製する。
【0054】
【化12】

【0055】
ここで、pは0または1を表す。特に好適な一実施形態では、pは1を表す。
上記ポリマー材料のMVは、0.06kNsm−2以上、より好適には0.08kNsm−2以上、特に0.085kNsm−2以上であってよい。MVは、4.0kNsm−2未満、適切には2.0kNsm−2未満、好適には1.0kNsm−2未満、より好適には0.75kNsm−2未満、特に0.5kNsm−2未満であってよい。適切には、MVは、0.08kNsm−2〜1.0kNsm−2の範囲、好適には0.085kNsm−2〜0.5kNsm−2の範囲である。
【0056】
適切には、MVは、0.08kNsm−2〜1.0kNsm−2の範囲、好適には0.085kNsm−2〜0.5kNsm−2の範囲である。
他に記載のない限り、以下の試験1に記載のように、本明細書に記載の溶融粘度MVは、0.5×3.175mmの炭化タングステンダイを用いて、剪断速度1000s−1、400℃で動作するキャピラリーレオメータ測定を用いて、適切には測定される。
【0057】
上記ポリマー材料は、ASTM D638に則して測定される、100MPa以上の引張強度を有してよい。引張強度は、好適には105MPaより大きい。引張強度は、100〜120MPaの範囲、より好適には105〜110MPaの範囲であってよい。
【0058】
上記ポリマー材料は、ASTM D790に則して測定される、145MPa以上、好適には150MPa以上、より好適には155MPa以上の曲げ強度を有してよい。曲げ強度は、好適には145〜180MPaの範囲、より好適には150〜170MPaの範囲、特に155〜160MPaの範囲にある。
【0059】
上記ポリマー材料は、ASTM D790に則して測定される、3.5GPa以上、好適には4GPa以上の曲げ弾性率を有してよい。曲げ弾性率は、好適には3.5〜4.5GPaの範囲、より好適には3.8〜4.4GPaの範囲にある。
【0060】
上記ポリマー材料のガラス転移温度(T)は、140℃以上、適切には143℃以上であってよい。好適な一実施形態では、ガラス転移温度は140℃〜145℃の範囲にある。
【0061】
上記ポリマー材料(結晶の場合)の融解吸熱(Tm)の主ピークは、300℃以上であってよい。
上記ポリマー材料は、好適には半結晶性である。ポリマーの結晶度のレベルおよび程度は、例えば、BlundellおよびOsbornによる記載(Polymer、第24巻、953頁、1983年)のように、好適には広角X線回折(広角X線散乱すなわちWAXSとも呼ばれる)によって測定される。これに代えて、結晶度が示差走査熱量測定(DSC)によって評価されてもよい。
【0062】
上記ポリマー材料の結晶度のレベルは、1%以上、適切には3%以上、好適には5%以上、より好適には10%以上であってよい。特に好適な実施形態では、結晶度は30%を越え、より好適には40%を越え、特に45%を越えてよい。
【0063】
一般式V,VI,VIIおよびVIIIの化合物は市販されている(例えば、Aldrich U.K.)が、一般にフリーデル−クラフツ(Friedel−Crafts)反応と、それに続く適切な官能基の誘導とを含む標準的な手法によって調製することもできる。
【0064】
本発明の第2の態様では、第1の態様の製法により調製されるポリマー材料を提供する。
本発明の第3の態様では、第1の態様に記載の種類のポリマー材料を提供する。このポリマーは、例えば、一般式IVまたはIVの繰返単位のホモポリマーまたはコポリマーであり、このポリマー材料のTnとTgとの差は23℃より大きい。
【0065】
TgおよびTnは、適切には以下の実施例8に記載のように測定される。
TnとTgとの差は24℃以上、好適には25℃以上、より好適には26℃以上、特に26.5℃以上であってよい。この差は35℃未満であってよい。
【0066】
材料のTgは、好適には130℃以上、より好適には140℃以上である。
上記ポリマー材料のTgに対するTnの比は、適切には1.16より大きく、好適には1.17より大きく、より好適には1.18より大きい。
【0067】
上記ポリマー材料は、0.08〜0.50kNsm−2の範囲、適切には0.085〜0.46kNsm−2の範囲の溶融粘度(MV)(本明細書に記載のように測定される)を有してよい。このMVは、0.14〜0.5kNsm−2の範囲、適切には0.3〜0.55kNsm−2の範囲、好適には0.35〜0.5kNsm−2の範囲、特に0.4〜0.5kNsm−2の範囲である。
【0068】
上記ポリマー材料は、次式の繰返単位を有してもよい。
【0069】
【化13】

【0070】
ここで、Phはフェニル部位を表し、pは0または1を表す。このポリマー材料はkNsm−2で測定される溶融粘度(MV)と、メルトフローインデックス(MFI)とを有する。ここで、
(a)pが1を表すとき、上記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて算出されるlog10MFIの期待値より大きい:
期待値(EV)=−3.2218x+2.3327
(ここで、xは上記ポリマー材料のkNsm−2でのMVを表す)
(b)pが0を表すとき、上記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて算出されるlog10MFIの期待値より大きい:
期待値(EV)=−2.539y+2.4299
(ここで、yは上記ポリマー材料のkNsm−2でのMVを表す)。
【0071】
MVは、以下の試験に記載のように、0.5×3.175mmの炭化タングステンダイを用いて、剪断速度1000s−1、400℃で動作するキャピラリーレオメータ測定を用いて、適切には測定される。
【0072】
MFIは、熱可塑性ポリマーの溶融物の流れの容易さの尺度である。MFIは、以下の試験2に記載のように測定されてよい。
上記ポリマー材料は、80wt%以上、好適には90wt%以上、特に95wt%以上の上記繰返単位Xを含んでよい。
【0073】
上記ポリマー材料は、好適には式Xの繰返単位のみからなり、p=1またはp=0である。すなわち、このポリマー材料は、好適にはポリエーテルエーテルケトンまたはポリエーテルケトンである。
【0074】
pが1を表すとき、上記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて算出されるlog10MFIの期待値より大きくてよい:
期待値(EV)=mx+2.33
(ここで、xは上記ポリマー材料のkNsm−2でのMVを表し、mは−3.00より大きい)
適切には、mは、−2.8より大きく、好適には−2.6より大きく、より好適には−2.5より大きく、特に−2.45より大きい。好適な一実施形態では、pが1を表すとき、期待値はほぼ次式によって与えられる:
期待値(EV)=−2.4x+2.34
(ここで、xは上記ポリマー材料のkNsm−2でのMVを表す)。
【0075】
pが0を表すとき、上記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて算出されるlog10MFIの期待値より大きくてよい:
期待値(EV)=my+2.43
(ここで、yは上記ポリマー材料のkNsm−2でのMVを表し、mは−2.5より大きい)
適切には、mは、−2.45より大きく、好適には−2.40より大きく、より好適には−2.35より大きい。
【0076】
上記ポリマー材料は好適には式Xからなり、pは1を表し、TnとTgとの差は25℃以上であり、材料のTgは140℃以上かつ145℃未満である。
本発明の第4の態様では、部材または物品の製造方法を提供する。この方法は、上記部材または物品を形成するために、第2または第3の態様によるポリマー材料の延伸、熱成形またはその両方を行うことを含む。
【0077】
延伸、熱成形またはその両方は、ポリマー材料のTn未満の温度、好適には171℃未満にて実行される。
この部材または物品には、形成された部品(例えば、中空領域を有する)、繊維、チューブまたはフィルムが含まれてよい。
【0078】
本発明の第5の態様では、熱成形もしくは延伸された部材または物品を提供する。この部材または物品は、第2または第3の態様によるポリマー材料を含むか、第4の態様により製造される。
【0079】
この部材または物品は、中空領域を含んでもよい。この部材または物品は、繊維、チューブまたはフィルムであってもよい。
本明細書に記載された任意の発明または実施形態の任意の態様の任意の機能は、必要な変更を加えて本明細書に記載の他の発明または実施形態の任意の態様の任意の機能と組み合わされてよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】様々な4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを用いて製造されるポリエーテルエーテルケトンについてのlog10MFI対溶融粘度のプロットの図。
【図2】ポリエーテルケトンについてのlog10MFI対溶融粘度のプロットの図。
【発明を実施するための形態】
【0081】
ここで、例として、添付の図面を参照し、本発明の特定の実施形態について記載する。
他に記載のない限り、本明細書に記載の化学試薬はすべて、Sigma−Aldrich Chemical Company(英国ドーセット州)から入手したままで用いた。
【0082】
以下の実施例では、次の試験を用いた。
試験1−ポリアリールエーテルケトンの溶融粘度
ポリアリールエーテルケトンの溶融粘度を、0.5×3.175mmの炭化タングステンダイが取り付けられたラム押出機を用いて測定した。約5グラムのポリアリールエーテルケトンを、空気循環式オーブン中、150℃で3時間乾燥した。押出機を400℃の平衡状態とした。
乾燥させたポリマーを加熱した押出機のバレルに充填し、そのポリマーの上に真鍮チップ(長さ12mm×直径9.92±0.01mm)を配置した。続いて、閉じ込められた空気を除くのを補助するように、ピストンおよびスクリューを圧力計のプルーフリングがピストンにちょうど接するまで手動で回転させた。このポリマーのカラムを5分間以上掛けて加熱し、溶融させた。予熱段階の後、溶融したポリマーが1000s−1の剪断速度でダイを通じて押し出されて細い繊維を形成するようにスクリューを動かすと同時に、ポリマーを押し出すのに必要な圧力(P)を記録した。溶融粘度は次式によって与えられる。
【0083】
【数1】

【0084】
剪断速度と他のパラメータとの関係は次式によって与えられる:
【0085】
【数2】

【0086】
試験2−ポリアリールエーテルケトンのメルトフローインデックス
ポリアリールエーテルケトンのメルトフローインデックスを、CEASTメルトフローテスター6941.000で測定した。乾燥したポリマーをメルトフローテスター装置のバレルに配置し、適切な実施例において指定される温度まで加熱した。この温度は、完全にポリマーを溶融させるように選択される。次いで、バレルに加重ピストン(5kg)を挿入し、2.095mmボア×8.000mmの炭化タングステンダイを通じて押し出すことによって、一定の剪断応力の下でポリマーを押し出した。MFI(メルトフローインデックス)は、10分間に押し出されたポリマーの質量(g)である。
【0087】
試験3−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンのガスクロマトグラフィー(GC)分析
Varian GCカラム(CP Sil 8CB、非極性、30m、0.25mm、1μm DF、部品番号CP8771)を用いて、Varian 3900ガスクロマトグラフでGC分析を行った。動作条件は次のとおりであった:
注入部温度300℃
検出部温度340℃
10℃/minで100℃から300℃までオーブンを昇温し、10分間保持(合計動作時間は30分間)
スプリット比50:1
注入体積1μL。
【0088】
試料は、100mgの4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを1mLのジクロロメタンに溶解することによって調整する。
4,4’−ジフルオロベンゾフェノンのGC保持時間は約13.8分である。
【0089】
純度は標準的な方法を用いて算出される面積%として示される。
試験4−融点範囲の決定
融点範囲は、Buchi B−545を用いる光透過率測定によって、自動的に決定される。第1の値は透過率1パーセントで記録される。
設定: 勾配:1℃/min
設定温度:101℃
モード:薬物類(pharmacopoe)
検出:1および90パーセント。
【0090】
融点範囲は、90および1パーセントの融点決定間の差として記録される。
実施例1−L.V.Johnson、F Smith、M StaceyおよびJ C
Tatlowによる製法(J Chem. Soc、第919号、p.4710−4713、1952年)に基づく、フルオロベンゼンと四塩化炭素との反応による4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(BDF)の調製
機械式スターラー、温度計、フルオロベンゼン(192g、2mol)および四塩化炭素(290g)を収容している滴下漏斗、温度計、および環流式冷却器を取り付けた1Lの3口丸底フラスコに、四塩化炭素(250g)および無水の三塩化アルミニウム(162g、1.2mol)を充填した。フルオロベンゼン/四塩化炭素溶液を、撹拌しながら10℃に保持した三塩化アルミニウムの四塩化炭素懸濁液に1時間掛けて滴下した。次いで、この反応混合物を、さらに16時間、15℃に保持した。反応混合物を氷水へ注ぎ、有機層を分離して、重炭酸ナトリウム水溶液、次いで水で洗浄した。
【0091】
この有機相を、機械式スターラー、温度計および環流冷却器を取り付けた、エタノール/水の50:50混合物(500cm)を収容している2Lの3口丸底フラスコに充填した。この混合物を還流温度まで加熱して30分間保持し、室温まで冷却して、粗固体生成物をろ過によって回収し、真空下70℃で乾燥した。
【0092】
乾燥した粗生成物(100g)を熱工業用アルコール(400cm)および炭に撹拌して溶解し、濾別し、水(100cm)を加え、還流点まで再加熱して生成物を溶解し、冷却した。この生成物を濾別し、1:1の工業用アルコール/水で洗浄し、次いで真空下、70℃で乾燥させた。この生成物の融点範囲は107〜108℃であり(試験4を用いて決定)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン純度は99.9面積%であった(試験3を用いて決定)。
【0093】
実施例2−フルオロベンゼンと4−フルオロベンゾイルクロリドとの反応による4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(BDF)の調製
機械式スターラー、温度計、4−フルオロベンゾイルクロリド(1550g、9.78mol)を収容している滴下漏斗、および環流冷却器が取り付けられた10Lの3口丸底フラスコに、フルオロベンゼン(2048g、21.33mol)および無水の三塩化アルミニウム(1460g、10.94mol)を充填した。この混合物を撹拌しながら20〜30℃に保持し、4−フルオロベンゾイルクロリドを1時間掛けて滴下して添加した。添加を完了させると、反応混合物の温度を2時間掛けて80℃まで上昇させ、周囲温度まで冷ましてから注意深く氷(4kg)/水(2kg)へ取り出した。この混合物を、20Lの蒸留ヘッドの取り付けられた1口丸底フラスコへ再充填した。過剰なフルオロベンゼンを蒸留して除くため、蒸留ヘッドの温度が100℃に達するまで内容物を加熱した。この混合物を20℃まで冷却し、粗4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを濾別し、水で洗浄して、真空下、70℃で乾燥した。
【0094】
この粗生成物を実施例1に記載のように再結晶させた。この生成物の融点範囲は107〜108℃であり(試験4を用いて決定)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン純度は99.9面積%であった(試験3を用いて決定)。
【0095】
実施例3−4,4’−ジフルオロジフェニルメタンの硝酸酸化による4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(BDF)の調製
規模を3倍にした以外は、欧州特許第4710号明細書(EP4710A2)の実施例2に記載の4,4’−ジフルオロジフェニルメタンの酸化の製法にしたがった。
【0096】
実施例3a
EP4710A2の実施例2に記載の再結晶手順にしたがって、融点範囲106〜107℃および純度99.6%(試験3を用いて分析)の4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(115g)を生成した。
【0097】
実施例3b
実施例3aの生成物を再び同じ手順を用いて再結晶し、融点範囲107〜108℃および純度99.9%(GCgcによって分析)の4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(95g)を得た。
【0098】
実施例4a−ポリエーテルエーテルケトンの調製
すりガラスのQuickfit蓋、撹拌器/撹拌器ガイド、ならびに窒素入口および出口が取り付けられた250mlのフランジ付きフラスコを、実施例1の4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(22.48g、0.103mol)、ヒドロキノン(11.01g、0.1mol)およびジフェニルスルホン(49g)で充填し、1時間以上窒素でパージした。次いで、内容物を140〜150℃まで加熱し、ほぼ無色の溶液を形成させた。乾燥した炭酸ナトリウム(10.61g、0.1mol)および炭酸カリウム(0.278g、0.002mol)を添加した。温度を200℃まで上昇させて1時間保持し、250℃まで上昇させて1時間保持し、315℃まで上昇させて2時間保持した。生成物の溶融粘度およびメルトフローインデックス(上述の試験を用いて測定)の詳細を、以下のテーブル1に与える。
【0099】
実施例4b〜4t−様々な4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(BDF)源からのポリエーテルエーテルケトン試料の調製および溶融粘度範囲
4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの源を変化させ、一定の範囲の溶融粘度を有するポリエーテルエーテルケトンを生成するように重合時間を変化させた以外は、実施例4aに記載の手順を繰り返した。調製した生成物の溶融粘度およびメルトフローインデックス
の詳細を、以下のテーブル1に与える。
テーブル1
【0100】
【表1】

【0101】
実施例4a〜4iおよび4k〜4sについての溶融粘度およびMFIのデータを図1にグラフとして示す。このグラフは、次式から算出されている。
log10MFI(実施例3aによるポリエーテルエーテルケトン)=2.35−3.2
2×溶融粘度(実施例3aによるポリエーテルエーテルケトン)、および、
log10MFI(実施例1によるポリエーテルエーテルケトン)=2.34−2.4×溶融粘度(実施例1によるポリエーテルエーテルケトン)。
【0102】
実施例5a−ポリエーテルケトンの調製
すりガラスのQuickfit蓋、撹拌器/撹拌器ガイド、ならびに窒素入口および出口が取り付けられた250mlのフランジ付きフラスコを、実施例1の4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(33.49g、0.153mol)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン(32.13g、0.150mol)およびジフェニルスルホン(124.5g)で充填し、1時間以上窒素でパージした。次いで、内容物を160℃まで加熱し、ほぼ無色の溶液を形成させた。乾燥した炭酸ナトリウム(16.59g、0.156mol)を添加した。温度を1℃/minで340℃まで上昇させて、2時間保持した。
【0103】
この反応混合物を冷やし、粉砕して、アセトンおよび水で洗浄した。得られたポリマーを120℃のエアオーブンで乾燥し、粉体を得た。生成物の色調、溶融粘度およびメルトフローインデックスの詳細を、以下のテーブル2に与える。
【0104】
実施例5b〜j−様々な4,4’−ジフルオロベンゾフェノン源からのポリエーテルケトン試料の調製
4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの源を変化させ、一定の範囲の溶融粘度を有するポリエーテルエーテルケトンを生成するように重合時間を変化させた以外は、実施例5aに記載の手順を繰り返した。詳細をテーブル2に与える。
テーブル2
【0105】
【表2】

【0106】
実施例5a〜5jについての溶融粘度およびMFIのデータを図2にグラフとして示す。このグラフは、次式から算出されている。
log10MFI(実施例3aによるポリケトン)=2.42−2.539×溶融粘度(実施例3aによるポリケトン)。
【0107】
実施例6−繊維延伸によるポリマーレオロジー
約25グラムの実施例4fのポリエーテルエーテルケトンを、空気循環式オーブン中、150℃で3時間乾燥した。直径1.0mm×長さ16mmのダイおよび180度の入口アングルを取り付けたBohlin RH10キャピラリーレオメータ380℃の平衡状態とした。乾燥させたポリマーを加熱したレオメータのバレルに充填し、詰込具を用いて手動で下へ詰め込んだ。次いで、ピストンをクロスヘッド上に配置し、ポリマーの上部へ押し下げた。閉じ込められた空気を除くのを補助するように、短い間、詰込圧力をピストンに加えながら、このポリマーのカラムを6分間以上掛けて加熱し、溶融させた。溶融したポリマーを、その試験の所望の剪断速度で、所定のクロスヘッド速度にて、細い繊維を形成するようにダイを通じて押し出した。
【0108】
条件は次の通りであった:
キャピラリーレオメータの設定:
試験中の剪断速度 90s−1
引取初速 20〜50m/min(試料に適するように調整)
引取終速 500m/min
試験時間 5min
加速度 約1.5m/min/s(すなわち、90m/min/minまたは0.025m/s/s)。
【0109】
次いで、繊維を上部の皿秤に取り付けられた自由プーリーの周りに取り、速度の制御された引取ユニットへと取った。秤上のプーリーは、試験中に延伸速度が加速されるにつれて、繊維上の延伸力を測定した。測定ソフトウェアは、繊維の直線速度および繊維を延伸するのに必要な力の両方を記録した。繊維を破断させるまで、一定の加速度で速度を増加させた。破損速度を以下のテーブル3に与える。
【0110】
実施例4pのポリマーを用いて上述の手順を繰り返した。破損速度を以下のテーブル3に与える。
テーブル3
【0111】
【表3】

【0112】
実施例7−延伸繊維の張力測定
Bohlinキャピラリーレオメータからバレル温度380℃、剪断速度250s−1および引取速度80m/minで繊維を溶融押出し、延伸することによって、実施例4fおよび4pのポリマーから繊維を作製した。得られた繊維を機械的性質について試験した。
【0113】
繊維は、試験前に23℃(±2℃)、相対湿度50%(+5%)で最小24時間貯蔵した。10Nのロードセルを組み合わせたInstron5565汎用試験フレームを用いて、試験速度50mm/minで、引張特性について繊維を試験した。また、繊維の繊細な性質のため、標本を挟むときには非常に注意し、1対の空気圧把持具を用いた。ゲージ長は100mmであった。
【0114】
20倍の拡大レンズが取り付けられたビデオ顕微鏡を用いて、その直径を横切って各繊維を測定した。
結果を以下のテーブル4に与える。
テーブル4
【0115】
【表4】

【0116】
実施例8−延伸繊維の示差走査熱量測定
実施例6aおよび6bの繊維のガラス転移温度(Tg)、冷結晶化温度(Tn)、溶融温度(Tm)および溶融からの結晶化温度(Tc)を、示差走査熱量測定(DSC)によって流速40mL/min、窒素下で、TA Instruments DSC Q100により、10mg±10マイクログラムの繊維の粉体試料を検査して、決定した。
【0117】
走査手順は次の通りであった:
ステップ1:試料を20℃/minで30℃から450℃まで加熱し、Tg、TnおよびTmを記録することによる。予熱サイクルの実行および記録。
ステップ2:2min保持。
ステップ3:10℃/minで30℃まで冷却し、5min保持して、Tcを記録。
ステップ4:20℃/minで30℃から450℃まで加熱し、TgおよびTmを記録。
【0118】
得られた曲線において、遷移前のベースラインに沿って引かれる線と、遷移中に得られる最大勾配に沿って引かれる線との交点から、Tgの開始が得られた。Tnは、冷結晶化発熱の主ピークが最大に達する温度であった。Tmは、融解吸熱の主ピークが最大に達する温度であった。Tcは、溶融発熱からの結晶化の主ピークが最大に達する温度であった。
【0119】
融解熱(ΔH(J/g))は、比較的真っすぐなベースラインから融解吸熱が逸脱した2つの点を結ぶことによって得られた。時間の関数としての吸熱下の積分面積は、遷移のエンタルピー(mJ)を与え、質量で規格化された融解熱は、標本の質量でエンタルピーを割ることによって算出される(J/g)。結晶化のレベル(X(%))は、完全に結晶性のポリマーの融解熱(ポリエーテルエーテルケトンでは、これについて利用可能なデータは130J/gである)で標本の融解熱を割ることによって決定される。
【0120】
結果を以下のテーブル5に与える。
テーブル5
【0121】
【表5】

【0122】
2つのBDF源による延伸繊維の機械的性質については、テーブル4に示している。高純度のBDFから製造された繊維の引張強度および弾性率はより低いを示したが、同じ押出条件の下での破断伸びはより大きかった。また、繊維の降伏点に達するのに必要な応力は、より低かった。
【0123】
引張強度がより低いことによって、より低い応力や、結晶化前の熱成形加工における部品の成形加工がより容易となることが可能となり、伸張加工において、より低い延伸力を用いることが可能となる。より高い伸びが得られることによって、標準的な純度のBDFを越える、より純粋なBDFによるより高い伸張比で配向されたフィルム、繊維およびチューブが可能となり、より薄いゲージ延伸フィルム、繊維およびチューブの製造が可能となる。
【0124】
提供したDSCの結果によって、高純度BDFから調製したポリエーテルエーテルケトンから延伸された繊維は、低純度BDFから延伸された繊維に比べ、より広い加工範囲を有することが示される。
【0125】
記載のTg/Tnの関係から得られる利点に加えて、所与のMVに対するMFIが比較的高いことによって、記載のポリマー材料の流れが改良され、延伸、熱成形またはその両方における加工に使用されることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式の繰返単位を含むポリマー材料を調製する方法であって、
【化1】

式中、t、vおよびbは独立に0または1を表し、該ポリマー材料の核形成温度Tnとガラス転移温度Tgとの差は23℃より大きく、前記方法は、次式の部位を有する1つ以上のモノマーを選択する工程を含み、
【化2】

式中、Phはフェニル部位を表し、ガスクロマトグラフ(GC)分析を用いて測定される前記1つ以上のモノマーの純度は99.7面積%以上である方法。
【請求項2】
前記純度は99.85面積%以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記純度は99.9面積%以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のモノマーは、フェノキシフェノキシ安息香酸およびベンゾフェノンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー材料のTnとTgとの差は26℃以上であり、かつ、35℃未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー材料のTgは140℃以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー材料のTgに対するTnの比は1.16より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー材料の溶融粘度(MV)は0.08〜0.50kNsm−2の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー材料は次式の繰返単位を有し、試験1の記載にしたがってkNsm−2単位により測定される溶融粘度(MV)と、試験2の記載にしたがって測定されるメルトフローインデックス(MFI)とを有し、
【化3】

式中、pは0または1を表し、
(a)pが1を表すとき、前記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて算出されるlog10MFIの期待値より大きく、
期待値(EV)=−3.2218x+2.3327
(ここで、xは前記ポリマー材料のkNsm−2単位でのMVを表す)
(b)pが0を表すとき、前記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて算出されるlog10MFIの期待値より大きい
期待値(EV)=−2.539y+2.4299
(ここで、yは前記ポリマー材料のkNsm−2単位でのMVを表す)
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー材料はポリエーテルエーテルケトンおよびポリエーテルケトンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
pが1を表すとき、前記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて計算されるlog10MFIの期待値より大きく、
期待値(EV)=mx+2.33
(ここで、xは前記ポリマー材料のkNsm−2単位でのMVを表し、mは−3.00より大きい)
pが0を表すとき、前記ポリマー材料の実際のlog10MFIは次式を用いて計算されるlog10MFIの期待値より大きい
期待値(EV)=my+2.43
(ここで、yは前記ポリマー材料のkNsm−2単位でのMVを表し、mは−2.5より大きい)
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
pが1を表すとき、mは−2.45より大きく、pが0を表すとき、mは−2.35より大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
pは1を表し、前記ポリマー材料のTnとTgとの差は25℃以上であり、前記材料のTgは140℃以上かつ145℃未満である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
部材または物品を製造する方法であって、部材または物品を形成するために、請求項1に記載の方法によって製造されたポリマー材料の延伸、熱成形またはその両方を行うことを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−237016(P2012−237016A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187663(P2012−187663)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2009−514896(P2009−514896)の分割
【原出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(501097318)ビクトレックス マニュファクチャリング リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】VICTREX MANUFACTURING LIMITED
【Fターム(参考)】