説明

ポリロタキサンの分子内触媒反応方法

【課題】 ポリロタキサンの輪分子中に存在する触媒の作用によって、基質分子として輪分子中に挿入された軸分子が有する被反応構造単位の構造変換を、選択的かつ高効率で行うことができるポリロタキサンの分子内触媒反応方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 環状分子構造単位Aと、前記環状分子構造単位Aの分子環内を貫通する鎖状部分を有し、両末端に末端封鎖基Cを有する鎖状分子構造単位Bと、前記環状分子構造単位Aの分子環内に包接された金属触媒分子Mからなるポリロタキサン錯体において、前記鎖状分子構造単位Bが分子鎖中に含む被反応構造単位を、前記金属触媒分子Mの存在下に反応させる工程(A)を含むことを特徴とするポリロタキサンの分子内触媒反応方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサンの分子内触媒反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリロタキサンが、その分子構造の特異性に由来して種々の特性を示すことから、注目を集めている。このポリロタキサンは、環状化合物(輪分子)の分子環の空孔に、鎖状化合物(軸分子)の分子鎖が貫通し、その鎖状化合物の分子鎖の両末端に嵩高い末端封鎖基を有する構造のものである。そして、ポリオレフィンを軸分子とし、輪分子がポルフィリン構造を含むポリロタキサンにおいて、軸分子中のオレフィンの酸化反応が進行することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、これまでにプロパルギルウレタン構造を、オキサゾリドン環構造に直接変換する方法がいくつか提案されており、窒素原子上に電子吸引性のグループが存在する場合にのみ同様の環化反応が進行することが報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
ところで、触媒原子の存在下に、多数の有用な物質を生成する触媒反応は、物質の効率的な生産、環境保護などの様々な観点から重要である。
一方、酵素や抗体などの生体系中で触媒機能を発揮する物質では、その反応サイトは、タンパク質などの高度な3次元構造によって基質選択性と生成物選択性に優れた環境を提供する。しかし、一般に、酵素などでも基質の入り口と生成物の出口は共通であるため、生成物が酵素外に出るまでは次の基質は反応サイトに近づけず、次の基質の反応が進まない、という問題がある。こうした酵素などの触媒と同様に、従来の触媒では、高選択性を付与するために触媒の反応サイト周辺に設けられた立体的な環境により、基質と生成物が間断なく触媒の反応サイトへ近づくことができず、生成物の反応サイトからの脱離のコントロールが困難であるため、反応効率の向上、触媒反応の制御が困難となっていた。
【0005】
これに対して、生体分子の中には筒状構造を有するエキソヌクレアーゼのように、基質分子がその筒の中を貫通する間に反応が完了する反応システムが存在する。基質分子が輪や筒の中を貫通するだけで反応が進むならば、生成物の出口と基質の入り口が異なるため触媒反応は極めて効率よく、しかも速やかに進むため、これまでにない高効率の触媒反応が期待される。
【0006】
一方、低分子、高分子を問わず、分子内の官能基変換は、その構造や物性改善などの観点から重要である。しかし、例えば、ウレタン結合の変換はNHのアシル化など比較的少数の例に限られており、さらなる構造変換の手法の開発が望まれている。
【非特許文献1】P. Thordarson et al., Nature, 424, 915 (2003)
【非特許文献2】Y. Horino et al., Chem. Eur. J., 9, 2419-2438 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、前記した課題を解決し、ポリロタキサンの輪分子中に存在する触媒の作用によって、基質分子として輪分子中に挿入された軸分子が有する被反応構造単位の構造変換を、選択的かつ高効率で行うことができるポリロタキサンの分子内触媒反応方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明のポリロタキサンの分子内触媒反応方法は、環状分子構造単位Aと、前記環状分子構造単位Aの分子環内を貫通する鎖状部分を有し、両末端に末端封鎖基Cを有する鎖状分子構造単位Bとからなるポリロタキサンを用い、前記鎖状分子構造単位Bが分子鎖中に含む被反応構造単位を、前記環状分子構造単位Aの分子環内に包接された金属触媒原子Mの存在下に反応させる工程(A)を含むことを特徴とする。
【0009】
このポリロタキサンの分子内触媒反応方法では、環状分子構造単位Aの分子環を鎖状分子構造単位Bが貫通した構造によって、鎖状分子構造単位Bが有する被反応構造単位のみが、その環状分子構造単位Aの分子環内に包接された金属触媒原子Mによって反応して構造変換される反応系を構成することができる。そのため、環状分子構造単位Aの分子環を貫通しないものは反応せず、高い選択性および効率で触媒反応を行うことが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法において、前記環状分子構造単位Aが、下記式(a)で表される構造単位であることを特徴とする。
【化4】

(式(a)中、Mは金属触媒原子である。)
【0011】
このポリロタキサンの分子内触媒反応方法では、ポリロタキサンの環状分子構造単位Aであるシクロデキストリンの分子環内に包接された金属触媒原子Mによって、鎖状分子構造単位Bが分子鎖中に含む被反応構造単位を、高い選択性および効率で反応させることが可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法において、前記鎖状分子構造単位Bが、下記式(b)で表される構造単位であることを特徴とする。
【化5】

(式(b)中、Rは末端封鎖基Cであり、mは1以上の整数である。)
【0013】
このポリロタキサンの分子内触媒反応方法では、ポリロタキサンの環状分子構造単位Aの分子環内に包接された金属触媒原子Mによって、鎖状分子構造単位Bであるポリエチレングリコールまたはポリテトラヒドロフランが分子鎖中に含む被反応構造単位を、高い選択性および効率で反応させることが可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法において、前記金属触媒原子Mが、パラジウムニッケル、または銅であることを特徴とする。
【0015】
このポリロタキサンの分子内触媒反応方法では、パラジウムニッケル、または銅からなる金属触媒原子によって、鎖状分子構造単位Bが分子鎖中に含む被反応構造単位を、高い選択性および効率で反応させることが可能となる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応において、前記ポリロタキサン錯体が、下記式(c)および/または式(d)で表される繰り返し構造単位を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法。
【化6】

(式(c)中、Rは末端封鎖基Cである。)
【0017】
このポリロタキサンの分子内触媒反応方法では、環状分子構造単位Aの分子環を鎖状分子構造単位Bが貫通した構造において、環状分子構造単位Aの分子環内に包接された金属触媒原子Mによって、鎖状分子構造単位Bが有するプロパルギルウレタン構造単位のみが反応して、オキサゾリドン環構造単位に構造変換される反応系を構成することができる。そのため、環状分子構造単位Aの分子環を貫通しないものは反応せず、高い選択性および効率で触媒反応を行うことが可能となる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法において、前記工程(A)において、前記鎖状分子構造単位Bのプロパルギルウレタン構造単位がオキサゾリドン環構造単位に変換されることを特徴とする。
【0019】
このポリロタキサンの分子内触媒反応方法では、鎖状分子構造単位Bが被反応構造単位として有するプロパルギルウレタン構造単位が、工程(A)によって、オキサゾリドン環構造単位に高い選択性および効率で変換される。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法によって得られた反応生成物における前記鎖状分子構造単位の両末端の末端封鎖基Cを除去して、前記鎖状分子構造単位を含む鎖状分子構造化合物を得る工程(B)を含むことを特徴とする鎖状分子構造化合物の製造方法を提供する。
【0021】
この鎖状分子構造化合物の製造方法では、ポリロタキサンの分子内触媒反応方法によって得られた反応生成物における前記鎖状分子構造単位の両末端の末端封鎖基Cを除去することによって、プロパルギルウレタン構造単位がオキサゾリドン環構造単位に変換された鎖状分子構造化合物を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、ポリロタキサンの輪分子中に存在する触媒の作用によって、基質分子として輪分子中に挿入された軸分子中が有する被反応構造単位の構造変換を、高選択的かつ高効率で行うことができる。すなわち、輪分子の分子鎖を貫通した構造によって、貫通した軸分子が有する構造単位のみが、輪分子の分子環に包接された触媒原子によって反応して構造変換される触媒反応システムを構築することができる。そのため、輪分子の分子環を貫通しないものは反応せず、これは、反応の選択性、効率および速度の向上の観点から有用性が高い。
【0023】
また、本発明の方法によれば、従来、環化反応が不可能であったプロパルギルウレタンでも、この触媒反応系によって環化反応を進行させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明のポリロタキサンの分子内触媒反応方法(以下、「本発明の方法」という)の実施形態について、適宜、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の方法は、環状分子構造単位A(輪分子)の分子環内に金属触媒原子Mが包接されたポリロタキサンにおいて、環状分子構造単位Aの分子環内を貫通する鎖状分子構造単位B(軸分子)が分子鎖中に含む被反応構造単位を、前記金属触媒原子によって反応させる工程(A)を含む方法である。
【0025】
環状分子構造単位A(輪分子)は、鎖状分子構造単位Bの分子鎖が貫通する分子環を有する環状分子構造であり、分子環内に金属触媒原子Mを包接するものである。また、金属を含む窒素などの3つの配位原子が作る面がほぼ平面となるような配位子構造を含む環状構造を持ち、この環状分子構造単位Aとして、前記式(a)で表される構造単位、または、オキシエチレン鎖部分がアルカンの構造単位などが挙げられる。前記式(a)において、Mは金属触媒原子である。
【0026】
金属触媒原子Mは、環状分子構造単位Aの分子環を構成する原子または基との配位結合によって、環状分子構造単位Aの分子環内に包接されている。この金属触媒原子Mは、その触媒作用によって、鎖状分子構造単位Bが分子鎖中に有する被反応構造単位の構造変換を促すものである。この金属触媒原子Mの具体例として、パラジウム、ニッケル、銅等が挙げられる。この金属触媒原子Mは、触媒反応、被反応構造単位の構造、輪成分の構造等に応じて選択される。
【0027】
前記式(a)で表される構造単位は、例えば、下記式にしたがって得ることができる。
【化7】

【0028】
鎖状分子構造単位B(軸分子)は、環状分子構造単位Aの分子環を貫通する鎖状部分(分子鎖)Cを有し、両末端に末端封鎖基Cを有する鎖状分子構造を構成するものである。この鎖状分子構造単位Bの具体例として、前記式(b)で表される構造単位を有するポリマー、あるいは、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリトリオキサン、ポリ(1,3−ジオキソラン)、ポリ(1,3−ジオキセパン)、ポリシロキサン、末端水酸化ポリブタジエン等の直鎖状ポリマー、また、これらの直鎖状ポリマーの重合(オリゴマー化)物等の直鎖状重合体の分子鎖骨格または側鎖に被反応構造単位を導入したポリマーなどが挙げられる。前記式(b)において、Rは末端封鎖基であり、mは1以上の整数である。末端封鎖基は、環状分子構造単位Aの分子環の分子環内径よりも大きい分子径を有する置換基である。例えば、環状分子構造単位が前記式(a)で表される構造単位である場合には、Rとしては、4−トリス(t−ブチルフェニル)メチル基、4−トリスフェニルメチル基等が挙げられる。
【0029】
ポリロタキサン錯体の具体例として、下記式(e−1)、式(e−2)等で表されるものが挙げられる。
【化8】

(式(e−1)および(e−2)中、Rは末端封鎖基である。)
【0030】
このポリロタキサン錯体の製造は、例えば、下記式にしたがって行うことができる。
【化9】

【0031】
本発明の方法は、前記鎖状分子構造単位Bが分子鎖中に含む被反応構造単位を、前記環状分子構造単位Aの分子環内に包接された前記金属触媒原子Mの存在下に反応させる工程(A)を含む。この工程(A)の具体例として、被反応構造単位としてプロパルギルウレタン構造を有するポリロタキサン錯体についての反応を下記式に示す。
【化10】

(式中、Rは末端封鎖基、Mは金属触媒原子である。)
【0032】
この反応式で表される反応において、反応溶媒としては、メタノール、エタノール等を用いることができる。また、反応温度は、60℃程度、反応圧力は1013hPa程度であり、反応時間は20時間程度である。この反応、すなわちプロパルギルウレタン構造からオキサゾリドン環構造への変換反応は、前記の式で示す分子環内に金属触媒原子が包接されているロタキサン錯体においてのみ生起し、前記式(a)で表される環状分子構造単位を有する化合物単独と、前記式(b)で表される鎖状分子構造単位を有する化合物単独とを反応させた場合には生起しない。これは、ウレタン窒素に隣接するプロパルギル基をもつ部位のパラジウム錯体触媒による環化反応は、窒素原子上に電子吸引基が必要であるが、ロタキサン系ではパラジウム錯体と基質となる軸成分の距離が強制的に縮められるため、反応が進行する、と考えられる。
【0033】
この工程(A)における反応を下記反応式(I)および(II)に示す。この反応式(I)および(II)は、前記鎖状分子構造単位Bが、被反応構造単位としてプロパルギルウレタン構造単位を有する下記式(1)および式(3)で表されるポリロタキサン錯体を金属触媒原子Mの存在下に反応させて、オキサゾリドン環構造を有する下記式(2)および式(4)で表されるポリロタキサン錯体に変換する反応を示す。
【化11】

(式(1)〜式(4)において、Rは末端封鎖基、Mは金属触媒原子である。)
【0034】
本発明において、前記工程(A)において得られた反応生成物における前記鎖状分子構造単位の両末端の末端封鎖基Cを除去して、前記鎖状分子構造単位を含む鎖状分子構造化合物を得ることができる。前記鎖状分子構造単位を含む鎖状分子構造化合物は、(1)金属触媒原子Mを環状分子構造単位Aの分子環から除去した後、末端封鎖基を除去する方法、(2)末端封鎖基を除去した後、金属触媒原子Mを環状分子構造単位Aの分子環から除去する方法のいずれの方法によって行ってもよい。
【0035】
金属触媒原子Mを環状分子構造単位Aの分子環から除去する方法は、例えば、下記式に従って行うことができる。
【化12】

【0036】
また、末端封鎖基の除去は、特に限定されず、例えば、塩基性または酸性条件下における、加水分解、加アルコール分解、還元等の方法によって行うことができる。
【0037】
本発明において、前記工程(A)と、工程(b)を行うことによって、鎖状分子構造単位を有し、両末端に末端封鎖基を有しない鎖状分子構造化合物を製造することができる。したがって、本発明の方法において、被反応構造単位を有する鎖状分子構造単位Bとして所望の構造を有する化合物と、その被反応構造単位の構造変換の反応に適用する金属触媒原子を分子環に有する環状分子構造単位を有する化合物とを、それぞれ軸分子および輪分子とするポリロタキサン錯体(1)を用いることにより、被反応構造単位が所望の構造に変換された鎖状分子構造単位を有するポリロタキサン錯体(2)を得ることができる。そして、得られたポリロタキサン錯体から、金属触媒原子の脱離、末端封鎖基の除去を行うことによって、被反応構造単位が所望の構造に変換された鎖状分子構造化合物を得ることができる。
【0038】
本発明の方法は、ポリウレタンに代表される代表的な官能基構造であるウレタン構造の触媒的変換を選択的かつ効率的に行うことができる。したがって、本発明は、ポリウレタン等の構造変換や特性変換等に応用可能な方法である。すなわち、様々な素材に応用されているポリウレタンの機能化にもつながる応用範囲の広い変換方法を提供することができる。
【0039】
また、以上の実施形態においては、鎖状分子構造単位Bが被反応構造単位としてプロパルギルウレタン構造単位を有するポリロタキサン錯体について説明したが、本発明の方法は、プロパルギルウレタン構造単位を有するポリロタキサン錯体に限定されず、被反応構造単位および鎖状分子構造単位、さらに、金属触媒原子を選択することによって、各種の構造変換を選択的かつ効率的に行うことが可能となる。例えば、エポキシ化反応、カップリング反応、アリル化反応等の変換を行うことができると考えられる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1(2つのウレタン構造を持つポリロタキサンの合成と触媒的環化反応)
下記の反応式にしたがって、2つのウレタン構造を有するロタキサンを合成した。
まず、アルゴン雰囲気下、ジクロロメタン(2.5mL)中に、分子環内にPdが配位しているポリロタキサン(式1で表される化合物,82.6mg,0.100mmol)と、式2で表されるイソシアネート化合物(159mg,0.300mmol)とを加えた後、ジラウリン酸ジ−n−ブチル錫(12.6μL,0.020mmol)を加えて、室温で20時間攪拌して反応させた。溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラム(抽出溶媒;CHCl→MeOH:CHCl=1:20)、次いで、HPLCで精製することにより、180mg(96%)の黄色固体を得た。得られた黄色固体について、融点(m.p.)を測定し、また、H NMR、IR、FAB−MSで分析した。結果を下記に示す。
その結果、反応生成物は、下記の式3で表される構造を有するポリロタキサンであることが分かった。
【0042】
m.p.:199.4℃〜(decomp.);
H NMR (500 MHz, CDCl3,図1(a)参照):8.42 (br 2H, OCONH), 7.80 (t, J = 7.6 Hz, 1H, py-
4H:wheel),7.71 (d, J = 8.0 Hz, 2H, py-3H, 5H:wheel), 7.81 (br, 1H, py-4H),
7.35 (d, J = 8.4 Hz, 2H, py-3H, 5H), 7.29-7.06 (m, 32H, ph-H:endcap), 6.49 (d,
J = 9.6 Hz, 4H, ph-H), 6.41 (d, J = 9.2 Hz, 4H, ph-H), 4.77 (s, 4H, C≡CCH2),
4.12 (br s, 4H, ph-CH3), 4.03 (br, 4H, OCH2), 3.76 (br, 4H, OCH2), 3.59 (br,
4H, OCH2), 3.51 (br, 4H, OCH2), 3.55 (m, 8H, OCH2), 1.27 (s, 54H, t-Bu) ppm;
IR (NaCl) 3248, 2248, 1734, 1590, 1509, 1458, 1216, 1063, 822, 756 cm-1;
FAB−MS (媒質:m−ベンジルアルコール)
m/z 1884.9 [M+]; Anal. C116H126N6O11Pd・1/3 CHCl3・1/3 H2O: calcd. C, 72.30;
H, 6.62; N, 4.35%, found. C, 72.36; H, 6.48; N, 4.24%.
【0043】
【化13】

【0044】
次に、メタノール(2mL)中に、式3で表されるポリロタキサン(3.0mg,0.0016mmol)を加え、室温で7日間静置して反応させた。反応生成物から、シリンジを用いて液体分を注意深く抜き取り、得られた結晶を減圧乾燥することにより微量の黄色固体を得た。
【0045】
この黄色固体について、融点(m.p.)を測定し、また、H NMR、IR、FAB−MSで分析した。結果を下記に示す。
この結果から、前記の反応式にしたがって、式4で表されるポリロタキサンが得られたことが分かった。
【0046】
m.p.:265.1 ℃〜 (decomp.)
H NMR (500 MHz, CDCl3,図1(b)参照):7.48 (t, J = 8.5 Hz, 1H, py-4H:wheel), 7.38 (br s,
2H, py-3H, 5H:wheel), 7.29 (d, J = 8.5 Hz, 12H, ph-H:endcap), 7.26 (d, J = 8.5
Hz, 4H, ph-H:endcap), 7.22 (d, J = 7.5 Hz, 2H, py-3H, 5H ), 7.05 (t, J = 7.0
Hz, 1H, py- 4H), 6.99 (d, J = 8.5 Hz, 4H, ph-H:endcap), 6.85 (d, J = 8.5 Hz,
12H, ph-H:endcap), 6.31 (d, J = 8.0 Hz, 2H, C=CH), 6.20 (d, J = 8.5 Hz, 4H,
ph-H), 6.14 (d, J = 8.5 Hz, 4H, ph-H), 5.07 (s, 4H, C≡CCH2), 4.02 (br s, 4H,
ph-CH3), 3.90 (br s, 4H, OCH2), 3.75 (br m, 12H, OCH2), 1.29 (s, 54H, t-Bu) ppm
IR (NaCl) 1786, 1650, 1596, 1558, 1508, 1467, 1236, 1214, 1061, 823, 755 cm-1
FAB−MS(matrix:m-benzyl alcohol) m/z 1884.9 [M+];Anal. C116H126N6O11Pd・2H2O:
calcd. C, 72.46; H, 6.81; N, 4.37%, found. C, 72.60; H, 6.99; N, 4.23%.
尚、式4で表されるポリロタキサン化合物の構造は、単結晶X線構造解析によっても確認した。
【0047】
実施例2〜9
表1に示す溶媒、反応温度および反応時間とした以外は、実施例1と同様にして、式1で表される化合物を用いて、式3で表される化合物を製造した。式3で表される化合物の収率を表1に示す。
【表1】

【0048】
実施例10(4つのウレタン構造を持つロタキサンの合成と触媒的環化反応)
下記の反応式にしたがって、4つのウレタン構造を持つロタキサンを合成した。
まず、下記反応式に示す式1で表されるロタキサン型錯体(6.6mg,2.3μmol)に、メタノール(12mL)、次いで、水(0.6mL)を加え、19時間還流した。その後、溶媒を減圧留去し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(抽出溶媒;ジクロロメタン/メタノール=100/1→30/1)、次いで、クロロホルム/ヘキサンの混合溶媒から2回再結晶させて、式2で表される黄色固体0.6mg(0.2μmol,9.1%)を得た。
【化14】

【0049】
反応の前後におけるロタキサン型錯体および黄色固体について測定されたH NMRスペクトルを図2に示す。また、FAB−MSによって測定されたm/zを図2に示す各化学式1,2の下部に示す
【0050】
実施例11
下記の反応式にしたがって、式3で表されるロタキサン型錯体(42.9mg,19.2μmol)に、メタノール(50mL)、THF(15mL)、次いで、水(0.5mL)を加え、20時間還流して反応させた。その後、溶媒を減圧留去し、反応生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(抽出溶媒:ジクロロメタン/メタノール=100/1→30/1)で精製して茶色の固体を得た。
【化15】

【0051】
反応の前後における、式3で表されるロタキサン型錯体および茶色固体について測定されたH NMRスペクトルを図3に示す。また、FAB−MSによって測定されたm/zを図3に示す各化学式1,2の下部に示す
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1における反応の前後のH NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例10における反応の前後のH NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例11における反応の前後のH NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子構造単位Aと、前記環状分子構造単位Aの分子環内を貫通する鎖状部分を有し、両末端に末端封鎖基Cを有する鎖状分子構造単位Bと、前記環状分子構造単位Aの分子環内に包接された金属触媒原子Mからなるポリロタキサン錯体において、前記鎖状分子構造単位Bが分子鎖中に含む被反応構造単位を、前記金属触媒原子Mの存在下に反応させる工程(A)を含むことを特徴とするポリロタキサンの分子内触媒反応方法。
【請求項2】
前記環状分子構造単位Aが、下記式(a)で表される構造単位であることを特徴とする請求項1に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法。
【化1】

(式(a)中、Mは金属触媒原子である。)
【請求項3】
前記鎖状分子構造単位Bが、下記式(b)で表される構造単位であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法。
【化2】

(式(b)中、Rは末端封鎖基Cであり、mは1以上の整数である。)
【請求項4】
前記金属触媒原子Mが、パラジウム、ニッケル、または銅であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法。
【請求項5】
前記ポリロタキサン錯体が、下記式(c)および/または式(d)で表される繰り返し構造単位を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法。
【化3】

(式(c)中、Rは末端封鎖基Cである。)
【請求項6】
前記工程(A)において、前記鎖状分子構造単位Bのプロパルギルウレタン構造単位がオキサゾリドン環構造単位に変換されることを特徴とする請求項5に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリロタキサンの分子内触媒反応方法によって得られた反応生成物における前記鎖状分子構造単位の両末端の末端封鎖基Cを除去して、前記鎖状分子構造単位を含む鎖状分子構造化合物を得る工程(B)を含むことを特徴とする鎖状分子構造化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77030(P2007−77030A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263209(P2005−263209)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日に社団法人日本化学会が発行した日本化学会第85春季年会講演予稿集IIにて発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】