説明

ポリ乳酸の製造方法

【課題】分子量の低下といったポリ乳酸の劣化を防止し、強度などの物性に優れたポリ乳酸の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒の存在下で固相重合によりポリ乳酸を製造する方法であって、前記触媒の分解開始温度が120〜140℃、及び/又は分解開始温度の接線と分解終了温度の接線との交点温度が140〜180℃である、前記ポリ乳酸を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相重合によりポリ乳酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環型社会の実現、すなわち環境低負荷型の社会の実現には、自然環境下で水と二酸化炭素に分解されるポリ乳酸などのバイオマス由来のプラスチックの利用が非常に重要な役割を果たす。ポリ乳酸を各種樹脂製品に利用するには、目的とする用途に適した強度などの各種物性を達成すること、製造コストの引き下げにより汎用性を高めることが重要となる。
【0003】
ところで、ポリ乳酸の製造方法としては、単量体の乳酸を二量体したラクチドを原料として開環重合する方法、乳酸を有機溶媒中で直接脱水重縮合する方法、粉末又は粒子状の低分子量のポリ乳酸を不活性ガス雰囲気下又は真空下で所定の温度で加熱することで分子量を増加させる方法が挙げられる。
【0004】
直接脱水重縮合によりポリ乳酸を製造する方法としては、例えば、特許文献1及び2に示すように、有機スルホン酸系触媒を使用する方法が知られている。特許文献1ではメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンジスルホン酸及びナフタレンジスルホン酸が具体的に使用されており、特許文献2ではメタンスルホン酸及びエタンスルホン酸が具体的に使用されている。なお、ポリ乳酸樹脂中に触媒が残存している場合、溶融形成時にポリ乳酸樹脂が熱分解することがある。そのため、特許文献1及び2では重合終了後にポリ乳酸の熱安定性を高めるために触媒失活剤を添加している。
【0005】
また、特許文献3に示すように、結晶化した低分子量のポリ乳酸を触媒の存在下で固相重合する技術において、特定の原料及び触媒を用い、流通ガス量を制御することにより高分子量のポリ乳酸を製造する方法が知られている。特許文献3では、固相重合の際の触媒として揮発性触媒、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸などの有機スルホン酸系化合物を使用することが開示されている。特許文献3によれば、揮発性に優れた触媒を使用することで、得られたポリ乳酸に残留する触媒量を低減し、ポリ乳酸の経時劣化を防止できるとされている。なお、特許文献3において具体的に使用された揮発性触媒は、p-トルエンスルホン酸及びメタンスルホン酸の2種類である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−144132号公報
【特許文献2】特開2009−35706号公報
【特許文献3】特開2001−122954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリ乳酸の重合用触媒は、重合時においては重合作用を発揮するが、重合終了後はポリ乳酸の分解に寄与しないことが必要とされる。しかしながら、例えば、特許文献3において具体的に開示された揮発性触媒を用い、ポリ乳酸を固相重合により製造しても、射出成形時の滞留時間に相当する環境を経ると著しく分子量が低下してしまい、優れた強度のポリ乳酸成形品を製造できないといった問題があった。つまり、従来の重合用触媒では乳酸の重合と共にポリ乳酸の分解を促進してしまうため、強度などの物性において優れたポリ乳酸を製造することは困難であった。
【0008】
そのため、本発明は分子量の低下といったポリ乳酸の劣化を防止し、強度などの物性に優れたポリ乳酸の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、ポリ乳酸の分子量の低下を抑制することのできる触媒を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)触媒の存在下で固相重合によりポリ乳酸を製造する方法であって、前記触媒の分解開始温度が100〜140℃、及び/又は分解開始温度の接線と分解終了温度の接線との交点温度が130〜190℃である、前記ポリ乳酸を製造する方法。
(2)触媒がm-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸又はm-トルエンスルホン酸である、(1)に記載の方法。
(3)得られたポリ乳酸をその融点以下の温度で加熱処理する工程を含む、(1)又は(2)に記載の方法。
【0011】
(4)触媒の存在下で乳酸を固相重合する工程:及び
前記工程により得られたポリ乳酸をその融点以下の温度で加熱処理する工程;
を含む、ポリ乳酸の製造方法。
(5)加熱処理を150〜180℃で行う、(4)に記載の方法。
(6)触媒が有機スルホン酸系触媒である、(4)又は(5)に記載の方法。
(7)触媒がm-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、m-トルエンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸である、(6)に記載の方法。
【0012】
また、本発明は、本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造されるポリ乳酸も包含する。さらに、本発明は、本発明に係るポリ乳酸を用いて成形された成形品も包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、高分子量を維持し、強度などの物性に優れたポリ乳酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】各種触媒の存在下で製造したポリ乳酸、及び市販のポリ乳酸の劣化試験後の分子量残存率を示す。
【図2】p-キシレン-2-スルホン酸の分解開始温度、分解終了温度、及び分解開始温度の接線と分解終了温度の接線との交点温度を示す。
【図3】各種有機スルホン酸の熱重量分析(TGA)の結果を示す。
【図4】各種有機スルホン酸の分解開始温度を示す。
【図5】各種有機スルホン酸の分解開始温度の接線と分解終了温度の接線との交点温度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るポリ乳酸の製造方法は、触媒の存在下で固相重合によりポリ乳酸を製造する方法である。
【0016】
1.固相重合
ここで、固相重合とは低分子量のポリ乳酸(以下「乳酸プレポリマー」という)を固体状態で脱水重縮合する反応を意味する。したがって、固相重合によれば、固相重合終了後のポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)が、固相重合開始前の乳酸プレポリマーの重量平均分子量(Mw)を上回ることとなる。
【0017】
プレポリマーを製造する方法には、溶融重合方法、有機溶媒を使用する溶液重合方法があり、所望の重量平均分子量(Mw)や操作の簡便性に応じて、適宜、公知の反応方法を選択して用いることができる。例えば、特開昭59−96123号公報に記載の溶融重合方法、米国特許第5310865号明細書、米国特許第5401796号明細書、米国特許第5817728号明細書及び欧州特許出願公開第0829503号明細書に記載の溶液重合方法に準じた方法を用いることができる。なお、プレポリマーの製造に触媒を使用する場合、その後の固相重合において使用する触媒を用いることが好ましい。
【0018】
乳酸プレポリマーの形状は特に限定されず、フィルム形状、ペレット形状、粉末形状などが挙げられるが、固相重合を効率的に行うためには粉末形状であることが好ましい。なお、乳酸プレポリマーの粒子径は特に限定されないが、表面積を増大させて重合反応を効率的に行うためには、0.1μm〜5mmであることが好ましく、1μm〜500μmmであることがより好ましく、10μm〜200μmであることが特に好ましい。
【0019】
固相重合を行う際には、乳酸プレポリマーが結晶化していることが好ましい。結晶化法としては特に限定されず、公知の方法を使用することができる。例えば、乳酸プレポリマーを結晶化温度で処理する方法、溶媒に乳酸プレポリマーを溶解させた後に溶媒を揮発させる方法などを挙げることができる。ここで、結晶化温度とは乳酸プレポリマーのガラス転移温度以上、且つ融点以下の温度範囲をいう。
【0020】
固相重合における反応時間は特に限定されないが、高分子量のポリ乳酸を得る観点から、5〜50時間反応させることが好ましく、10〜40時間反応させることがより好ましく、20〜30時間反応させることが特に好ましい。
【0021】
固相重合における反応温度は、乳酸プレポリマーが固体状態を保っていれば特に限定されないが、高分子量のポリ乳酸を得る観点や重合速度を向上させる観点から100℃からポリ乳酸の融点の温度範囲であることが好ましい。また、反応温度は触媒の揮発温度や分解温度などを考慮して設定する。例えば、100〜170℃で反応させることが好ましく、120〜165℃で反応させることがより好ましく、140〜160℃で反応させることが特に好ましい。
【0022】
重合反応の進行とともに反応温度を多段階で昇温させることも高分子量のポリ乳酸を得る観点から好ましい。例えば、第1段階として105〜115℃で1〜5時間、第2段階として115〜135℃で3〜10時間、第3段階として135〜165℃で10〜20時間反応させることが好ましく、第1段階として105〜115℃で2〜4時間、第2段階として115〜125℃で4〜6時間、第3段階として140〜160℃で13〜17時間反応させることが特に好ましい。
【0023】
固相重合は減圧条件、加圧条件及び常圧条件のいずれの条件下においても行うことができるが、反応の進行とともに生じる水を除去して、反応を促進させる観点から減圧条件下で行うことが好ましい。例えば0.01〜300Torrで反応させることが好ましく、0.05〜100Torrで反応させることがより好ましく、0.1〜10Torrで反応させることが特に好ましく。一方、重合反応温度において触媒が揮発する場合には、触媒の減少を防止する観点から加圧条件下で重合してもよい。例えば1500〜38000Torrで反応させることが好ましく、2700〜19000Torrで反応させることがより好ましく、3800〜7600Torrで反応させることが特に好ましい。
【0024】
常圧条件下において固相重合を行う場合には、反応の進行とともに生じる水を除去するために、流通ガス雰囲気下で反応を行うことが好ましい。流通ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、キセノンなどの不活性ガス及び空気などが挙げられる。流通ガスの含水率が高い場合には重合速度を低下させてしまうため、無水状態のガスであることが好ましい。そのため、流通ガスはモレキュラーシーブスなどを通過させて脱水した後に使用することが好ましい。
【0025】
2.重合用触媒
固相重合に使用する触媒は(i)触媒分解開始温度(以下、単に「分解開始温度」と称する場合もある)が100〜140℃の触媒、(ii) 触媒分解開始温度の接線と触媒分解終了温度(以下、単に「分解終了温度」と称する場合もある)の接線との交点温度(以下、単に「交点温度」と称する場合もある)が130〜190℃の触媒、又は(iii) 触媒分解開始温度が100〜140℃であり、且つ交点温度が130〜190℃の触媒である。なお、これらの触媒は互いに重複しうる。(i)〜(iii)の触媒は単独で使用しても、異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
ここで、触媒分解開始温度とは、図2及び図3に示すように、熱重量分析(TGA)において20℃/分の速度で昇温させたときに触媒の重量が減少し始める温度をいう。この温度は、TGA曲線の接線の傾きが0未満になる温度として規定することができる。なお、例えば、図2に示すp-キシレン-2-スルホン酸の熱重量分析においては2段階で重量が減少しているが、第1段階は触媒の水和水が脱離したことに起因するものであり、触媒の分解を示すものではない。つまり、p-キシレン-2-スルホン酸の分解開始温度は第2段階の重量減少が生じる温度である。このことは、図3に示すその他の触媒についても同様である。本発明に使用する触媒の分解開始温度は100〜140℃であることが好ましく、120〜140℃であることがより好ましく、125〜130℃であることが特に好ましい。
【0027】
触媒分解終了温度とは、図2及び図3に示すように、熱重量分析(TGA)において20℃/分の速度で昇温させたときに触媒の重量が0に近似する温度をいう。
【0028】
触媒分解開始温度の接線とは、TGA曲線上の分解開始温度に対応する点における接線をいう。また、触媒分解終了温度の接線とは、TGA曲線上の分解終了温度に対応する点における接線をいう。交点温度とは、分解開始温度の接線と分解終了温度の接線との交点に対応する温度をいう。本発明に使用する触媒の交点温度は130〜190℃であることが好ましく、140〜180℃であることがより好ましく、150〜175℃であることが特に好ましい。
【0029】
分解開始温度、分解終了温度及び交点温度は公知の熱重量分析装置及びこれに組み込まれたプログラムを利用することで決定することができる。図2及び図3に示す熱重量分析はティー・エイ・インスツルメント社製のTGA-2950を使用し、窒素雰囲気下、20℃/分の速度で昇温させたものである。
【0030】
各種触媒はそれぞれ固有の分解開始温度、分解終了温度及び交点温度を有しており、当業者であれば触媒の有する構造によりこれらの温度を推定することができる。例えば、ベンゼンスルホン酸を基本骨格とする触媒では、ベンゼン環上に電子供与性基を有することにより脱スルホン化が生じやすくなり、分解が起こりやすくなる傾向がある(つまり、分解開始温度などが低下する)。また、電子供与性基の数を増加させることにより分解が起こりやすくなる。一方、ベンゼン環上に電子求引性基を有すると、脱スルホン化が生じにくくなり、分解が起こりにくくなる傾向がある。また、電子求引性基の数を増加させることにより分解が起こりにくくなる。
【0031】
電子供与性基としては様々なものが知られているが、例えば、アミノ基、アルコキシル基、アルキル基、ヒドロキシル基、アミド基、フェニル基などを挙げることができる。電子求引性基としては様々なものが知られているが、例えば、ハロゲン、アルデヒド基、カルボキシル基、ニトロ基、エステル基、アシル基、シアノ基、アンモニウム基などを挙げることができる。当業者であれば上記の分解傾向及び既存の化合物の物性などに基づいて、所定の分解開始温度及び/又は交点温度を有する触媒を選択することが可能である。
【0032】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法に使用する触媒としては、例えば、上記分解開始温度及び/又は交点温度を有する有機スルホン酸系触媒、特にベンゼンスルホン酸系触媒を挙げることができる。より具体的には、式(I):
【0033】
【化1】

[式中、
RはNR12、C1〜6アルコキシ、C1〜6アルキル、OH、NHC(=O)(C1〜6アルキル)、フェニル、ハロゲン、アルデヒド、カルボキシル、ニトロ、C(=O)O(C1〜6アルキル)、C(=O)(C1〜6アルキル)、シアノ又はNR14+であり;
R1は水素又はC1〜6アルキルであり;
mは1〜5の整数である]
を有する触媒を挙げることができる。なかでも、RがC1〜6アルキルであり、mが2の整数である、式(I)の化合物が好ましく、m-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸及びm-トルエンスルホン酸が特に好ましい。
【0034】
本発明に係る製造方法に使用する触媒の量は特に限定されないが、触媒の量が少ないと重合速度が低下し、高分子量のポリ乳酸が得られないおそれがある、一方、過剰に触媒を使用すると、重合後のポリ乳酸を分解し、分子量を低下させるおそれがある。そのため、乳酸に対して触媒を0.01〜10mol%使用することが好ましく、0.05〜5mol%使用することがより好ましく、0.1〜1mol%使用することが特に好ましい。
【0035】
有機スルホン酸系触媒の種類によっては、水和水を有するものがあり、これがポリ乳酸の分子量の低下を引き起こすおそれがある。そのため、水和水を有する触媒は予め水和水を除去してから使用することが高分子量のポリ乳酸を得る観点から好ましい。
【0036】
3.加熱処理工程
本発明は、(i)触媒の存在下で乳酸を固相重合する工程、及び(ii)前記工程により得られたポリ乳酸をその融点以下の温度で加熱処理する工程を含む、ポリ乳酸の製造方法も包含する。
【0037】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法において使用する触媒は上記に記載しているが、加熱処理を行う場合には上記触媒に加えて公知の様々な触媒を使用することができる。触媒はポリ乳酸の融点以下の温度で分解または揮発するものであればよく、例えば、有機スルホン酸系触媒として、芳香族スルホン酸(ベンゼンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸、n-ブチルベンゼンスルホン酸、n-オクチルベンゼンスルホン酸、2,5-ジブチルベンゼンスルホン酸、クメンスルホン酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸、2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、3-アミノ-4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5-アミノ-2-メチルベンゼンスルホン酸、3,5-ジアミノ-2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、p-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、o-クレゾールスルホン酸、m-クレゾールスルホン酸、p-クレゾールスルホン酸、ナフタレン-1-スルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、2,5-ナフタレンジスルホン酸など);脂肪族スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、1-ヘプタンスルホン酸、1-オクタンスルホン酸、1-ノナンスルホン酸、1-デカンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、スルホ酢酸、アミノメタンスルホン酸、タウリンなど);脂環式スルホン酸(シクロペンタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、カンファースルホン酸など)などを挙げることができる。これらのなかでも、m-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、m-トルエンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸が特に好ましい。これらの触媒は単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
ポリ乳酸の分子量の低下は、例えば、ポリ乳酸の融点を超える高温条件下にポリ乳酸を曝すことで生じる。具体的には、ポリ乳酸を原料とする射出成形により所望の形状の成形体を製造する際、射出成形装置内において例えば220℃といった高温条件下でポリ乳酸を滞留させる場合がある。このような温度条件で滞留すると、ポリ乳酸の分子量が低下し、得られた成形品における機械的強度が期待値よりも大幅に低くなってしまうことがある。このことは、重合の際に使用した残留触媒がポリ乳酸の分解を促進させることが大きく影響している。
【0039】
そこで、ポリ乳酸に含まれる触媒を分解し、ポリ乳酸の分子量の低下を抑制するために、固相重合終了後に加熱処理を行うことが好ましい。触媒の存在下でポリ乳酸を溶融させるとポリ乳酸の分子量の低下を招くおそれがあるため、加熱処理はポリ乳酸の融点以下の温度で行うことが好ましい。なお、加熱処理は触媒を揮発させる目的で行ってもよい。
【0040】
加熱処理の温度は、ポリ乳酸の融点以下であれば特に限定されないが、重合反応温度以上且つポリ乳酸に融点以下の温度が好ましく、具体的には150〜180℃がより好ましく、160〜175℃が特に好ましい。なお、加熱温度は段階的に変化させてもよい。
【0041】
加熱処理の時間は特に限定されないが、触媒を完全に分解及び/又は揮発させること、並びに高温条件下にポリ乳酸を長時間さらすことで分子量の低下を招くおそれがあることを考慮して、30分〜30時間であることが好ましく、1〜20時間であることがより好ましく、3〜10時間であることが特に好ましい。
【0042】
加熱処理は常圧条件及び減圧条件のいずれの条件下においても行うことができるが、触媒分解物や揮発した触媒を効率的に除去する観点から減圧条件下で行うことが好ましい。例えば0.01〜300Torrで反応させることが好ましく、0.05〜100Torrで反応させることがより好ましく、0.1〜10Torrで反応させることが特に好ましく。
【0043】
触媒は加熱処理前の重合工程における反応温度で分解及び/又は揮発が開始していてもよい。この場合、加熱処理は重合終了時にポリ乳酸中に残存している触媒を更に分解及び/又は揮発することができる点で有効である。
【0044】
4.ポリ乳酸
本発明に係る製造方法により得られるポリ乳酸は、L-乳酸及び/又はD-乳酸を主成分とするものであるが、なかでもL-乳酸を主成分とするポリ乳酸が特に好ましい。また、L-乳酸の光学純度が95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
【0045】
ポリ乳酸は他の構成成分を含んでいてもよい。他の構成成分としては、例えば、多価カルボン酸(コハク酸、マロン酸、アジピン酸、シュウ酸、グルタル酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸など);多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど);ヒドロキシカルボン酸(グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸など);ラクトン(グリコリド、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、δ-ブチロラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトンなど)などが挙げられる。
【0046】
ポリ乳酸が乳酸以外の構成成分を含む場合には、ポリ乳酸の性能を保持する観点から、乳酸単位の占める割合が80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましく、95mol%以上であることが特に好ましい。
【0047】
ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、機械的強度や成形性などを考慮して、8万以上であることが好ましく、8万〜100万であることがより好ましく,10万〜50万であることが特に好ましい。なお、本発明におけるポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算したものである。
【0048】
ポリ乳酸の融点は、ポリ乳酸の構成成分や分子量によって異なるが、固相重合中にポリ乳酸を固体状態で維持すること、及び重合終了後に加熱処理を行うことなどを考慮して、150℃以上であることが好ましく、160〜200℃であることがより好ましく、170〜185℃であることが特に好ましい。なお、本発明におけるポリ乳酸の融点とは、示差走査型熱量計(DSC)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件で測定したものである。
【0049】
固相重合後におけるポリ乳酸の分子量の低下抑制効果は、例えば、ポリ乳酸を大気雰囲気下、220℃で30分間溶融した後、室温にまで冷却し、ポリ乳酸の分子量を測定することにより評価することができる。本発明に係る製造方法によれば、上記溶融処理後の分子量残存率が高いポリ乳酸を製造することができる。特に、固相重合後に加熱処理を行うことでより高い分子量残存率を有する優れたポリ乳酸を製造することができる。なお、分子量残存率は以下の式:
100×[溶融処理後のポリ乳酸の分子量]÷[固相反応後のポリ乳酸の分子量]
により算出することができる。
【0050】
固相重合したポリ乳酸には触媒が含有されており、成形のためにポリ乳酸を溶融すると残留触媒がポリ乳酸の分解を促進し、分子量の低下を招くおそれがある。そのため、固相重合後の加熱処理にポリ乳酸中の触媒を分解することが好ましい。ポリ乳酸中の残留触媒の量が、使用した触媒量の10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、1%未満であることが特に好ましい。
【0051】
本発明に係る製造方法により得られたポリ乳酸は、触媒の分解物を含有しているため、他の製造方法により得られたポリ乳酸と区別することができる。ポリ乳酸に含まれる触媒の分解物は、ガスクロマトグラフィーなどの手法により検出することができる。
【0052】
5.ポリ乳酸の成形品
本発明に係る製造方法により得られるポリ乳酸は、成形品に加工する際に一旦熱溶融しても高分子量を維持するため、優れた機械的強度を有する成形品とすることができる。加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸などを挙げることができる。また、成形品としては、例えば、フィルム、シート、繊維、布、不織布、射出成形品、押出し成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、及び他の材料との複合体などを挙げることができる。これらの成形品は、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、電気・電子部品、又はその他の用途において有用である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれにより限定されるものではない。
【0054】
乳酸プレポリマーの製造
本例では、90重量%の乳酸水溶液(ピューラック社製、商品名:Hipure90)を使用した。なお、使用した乳酸の光学純度は99.9%であった。光学純度は以下の式:
100×([L-乳酸]−[D-乳酸])/([L-乳酸]+[D-乳酸])
により算出した。この乳酸水溶液を試験管に5g採取し、触媒としてカンファースルホン酸(CSA)、メシチレンスルホン酸(MSA)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)、m-キシレン-4-スルホン酸(m-XSA)、p-キシレン-2-スルホン酸(p-XSA)、m-トルエンスルホン酸(m-TSA)及びp-トルエンスルホン酸(p-TSA)を別々の試験管に0.5mol%添加した。次に、試験管内を室温及び常圧から段階的に昇温、減圧し、最終的に150℃、30Torrで3時間、脱水縮合反応を行った。
【0055】
ポリ乳酸の製造(固相重合)
上記で得られた乳酸プレポリマーを乳鉢にて微粉(平均粒径200μm以下)とした後、試験管に1.0gずつ採取した。表1に示す温度、圧力及び反応時間にて固相重合を行った。
【0056】
【表1】

【0057】
固相重合終了後のポリ乳酸の分子量を測定した。分子量の測定後、劣化試験を行い、得られた各ポリ乳酸の分子量の低下を比較した。劣化試験は、固相重合により得られたポリ乳酸を試験管に0.5gずつ採取し、大気雰囲気下、220℃で30分間保持することで行った。劣化試験後のポリ乳酸の分子量を測定し、劣化試験前の分子量と比較した結果を表2及び図1に示す。なお、比較のため、市販のポリ乳酸(三井化学社製、商品名:レイシアH-100)についても、劣化試験を行い、分子量を測定した。
【0058】
また、固相重合終了後、劣化試験前に加熱処理を行った。加熱処理は、固相重合により得られたポリ乳酸を試験管に少量採取し、0.5Torr、170℃で5時間保持することで行った。その後、上記の劣化試験を行い、加熱処理後及び劣化試験後のポリ乳酸の分子量を測定した。加熱処理後及び劣化試験後のポリ乳酸の分子量についての比較結果を表2及び図1に示す。
【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下で固相重合によりポリ乳酸を製造する方法であって、前記触媒の分解開始温度が100〜140℃、及び/又は分解開始温度の接線と分解終了温度の接線との交点温度が130〜190℃である、前記ポリ乳酸を製造する方法。
【請求項2】
触媒がm-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸又はm-トルエンスルホン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
得られたポリ乳酸をその融点以下の温度で加熱処理する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
触媒の存在下で乳酸を固相重合する工程:及び
前記工程により得られたポリ乳酸をその融点以下の温度で加熱処理する工程;
を含む、ポリ乳酸の製造方法。
【請求項5】
加熱処理を150〜180℃で行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
触媒が有機スルホン酸系触媒である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
触媒がm-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、m-トルエンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸である、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162682(P2011−162682A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27701(P2010−27701)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】