説明

ポリ乳酸モノフィラメントの製造方法およびポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ

【課題】糸条パッケージのまま保管した場合にも経時での物性低下の極めて小さなポリ乳酸モノフィラメントの糸条パッケージ、及び、ポリ乳酸モノフィラメントの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊工程に供してポリ乳酸モノフィラメントを得るポリ乳酸モノフィラメントの製造方法において、ポリ乳酸モノフィラメントを0.03〜0.5cN/dtexの張力で巻き取る製造方法、および、ポリ乳酸モノフィラメントが巻き取り張力0.03〜0.5cN/dtexで巻き取られているポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸モノフィラメントの製造方法およびポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージに関するものであり、詳しくはパッケージ状態で保管した際に物性低下が少なく工程通過性に優れたポリ乳酸モノフィラメントの製造方法と糸条パッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸樹脂は非石油系原料から得られる現存の生物原料を活用可能なカーボンニュートラル素材である。ポリ乳酸は植物由来であり、空気中の二酸化炭素を吸収し、固定化する。植物由来のポリ乳酸樹脂を燃焼させた際に出る二酸化炭素はもともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、重要視する傾向となっている。かつ、ポリ乳酸は生分解性を有していることから環境負荷が小さく廃棄物量を増大させない素材として近年注目を集めている。
【0003】
繊維分野においてもポリ乳酸マルチフィラメント、ポリ乳酸モノフィラメント、ポリ乳酸スリットヤーン、ポリ乳酸BCF(Bulked Continuous Filament)等の各種繊維が衣料用途から産業用途まで実用化に向けた開発が進められている。
【0004】
なかでもポリ乳酸モノフィラメントは、その透明性、機械的強度、適度な生分解速度等の理由から、釣糸や漁網と言った水産資材、水切りネットやティーバッグと言った生活資材、オーガンジー等の衣料資材、植生ネットや幼齢木保護ネット等の農業資材等に幅広く利用され始めている。
【0005】
ポリ乳酸モノフィラメントの製造コストを削減する方法のひとつに、一旦、ポリ乳酸マルチフィラメントを製造した後、単糸一本一本に分繊してポリ乳酸モノフィラメントを得る方法が特許文献1に記載されている。
【0006】
ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊してポリ乳酸モノフィラメントを得る方法では、特許文献1の0013段落には、単糸繊度10〜40dtexのマルチフィラメントを解舒しつつ分繊してボビンパッケージに巻き取り、この際、糸条に掛かる張力が20cN以上であることから、単糸繊度と単糸強度を乗じた値は25cN/dtex以上でなければならないという旨の記載があるように、分繊時にはモノフィラメントに大きな張力を与えながら分繊して巻き取る必要があると考えられていた。
【0007】
しかしながら、本発明者らがポリ乳酸モノフィラメントについて検討を進めた結果、ポリ乳酸モノフィラメントは過剰な張力を与えたまま巻き取った場合には経時で物性が変化することを見出した。、特許文献1に記載されているように繊度10dtexのモノフィラメントを20cNの張力で分繊して巻き取る場合には糸条パッケージに巻かれたポリ乳酸モノフィラメントが経時で劣化すると言う問題を有していた。
【特許文献1】特開2005−163224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、糸条パッケージのまま保管した場合にも経時での物性低下の極めて小さなポリ乳酸モノフィラメントの糸条パッケージ、及び、ポリ乳酸モノフィラメントの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが前記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊工程に供してポリ乳酸モノフィラメントを得るポリ乳酸モノフィラメントの製造方法において、ポリ乳酸モノフィラメントを0.03〜0.5cN/dtexの張力で巻き取る製造方法を採用することで、糸条パッケージのまま保管した場合にも経時での物性低下の小さなポリ乳酸モノフィラメントが得られることを見出した。また、ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊し、ポリ乳酸モノフィラメントを0.5〜3cN/dtexの張力で一旦巻き取った後に、0.03〜0.5cN/dtexの張力でリワインドすることによっても、経時での物性低下の小さなポリ乳酸モノフィラメントが得られる。なお、本発明の製造方法においては、下記(イ)が好ましい条件としてあげられる。
(イ)ボビンおよび/またはパーンに巻き取ること。
【0010】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージは、ポリ乳酸モノフィラメントが巻き取り張力0.03〜0.5cN/dtexで巻き取られている糸条パッケージであり、下記(ロ)、(ハ)が好ましい条件としてあげられる。
(ロ)ポリ乳酸モノフィラメントの繊度が10〜40dtex、強度が2〜6cN/dtexであること。
(ハ)ボビンおよび/またはパーンに巻き取られていること。
【0011】
すなわち、本発明においては、ポリ乳酸モノフィラメントを、従来知られているよりも遙かに低張力で巻取ることにより、はじめて経時劣化のないポリ乳酸を安定して製造できたのである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するように、糸条パッケージのまま保管した場合にも経時での物性低下の極めて小さなポリ乳酸モノフィラメントの糸条パッケージの製造方法、及び、糸条パッケージの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明におけるポリ乳酸モノフィラメントの製造方法は、ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊してポリ乳酸モノフィラメントを得ることが必要である。マルチフィラメントを分繊してモノフィラメントを得ることで、直接モノフィラメントを紡糸するよりもコスト的に有利なモノフィラメントを得ることが可能となる。
【0015】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントが原料とするポリ乳酸ポリマは、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主成分とする乳酸を重合してなるポリ乳酸である。ここでL−乳酸を主成分とするとは、構成成分の60重量%以上がL−乳酸よりなっていることを意味しており、これはD−乳酸を主成分とする場合も同様である。また、ポリ乳酸ポリマの分子量はなんら制限されるものでは無く、例えば、重量平均分子量が100,000〜300,000の範囲のポリマを使用することができる。
【0016】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントはポリ乳酸ポリマと共重合可能な成分との共重合体、またはブレンド可能な他の熱可塑性ポリマとのブレンド物などからなるモノフィラメントであってもよい。
【0017】
共重合物としては、例えばε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から選ばれるモノマの一種または二種以上とを共重合したもの等を例示することができる。中でもポリマの重合特性から、環状ラクトン類およびグリコール類が好ましい。共重合の割合としては特に限定されないが、乳酸100重量部に対して、共重合させるモノマは100重量部以下が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0018】
ブレンド可能な熱可塑性ポリマとしては、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマを例示することができる。
【0019】
また、ポリ乳酸ポリマが水酸基を持つ化合物によって該ポリマ中のカルボキシル基をエステル化されてなるものであっても良い。水酸基を持つ化合物としては、例えばオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数が6以上の高級アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類が挙げられる。水酸基を持つ化合物でポリ乳酸分子末端のカルボキシル基をエステル化処理することにより、溶融紡糸時の熱安定性および溶融紡糸後の繊維の経時安定性を改善することができる。
【0020】
中でも延伸性の観点から、炭素数6〜18の高級アルコールが好ましい。また、同様の効果を得る目的でカルボキシル基にカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物を反応させても良い。
【0021】
また、本発明に用いるポリ乳酸モノフィラメントは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐蒸熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤および難燃剤などを含むことができる。
【0022】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメントは、染色工程による強度低化や環境汚染を避けるために予め、少なくとも1種類以上の着色剤を含有させても良い。添加される着色剤は、ポリ乳酸ポリマに適切な特定の無機、有機顔料および染料であり、具体的には酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、アンスラキノン系、ベリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系等を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0023】
着色剤の含有量としては0.01〜4重量%含有していることが好ましい。着色剤の添加量が0.01重量%以下の場合は色調が不足し、4重量%を超える場合は必要な強度を得ることが困難になる。着色剤の添加量は、ポリマに対し0.1〜0.6重量%であることがより好ましく0.3〜0.5%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントには耐磨耗性を向上させるために脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを0.1〜5重量%、更に好ましくは0.5〜3重量%含有させても良い。0.1重量%未満では耐磨耗性向上効果が十分に得られず、5重量%を超える場合には必要な強度を得ることが困難となる。脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの含有量を上記範囲とすることで、モノフィラメント表面の滑り性が向上し、優れた耐摩耗性を付与することができる。
【0025】
脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えばメチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等であり、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチローラステアリン酸アミド、メチローラベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。なかでも、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く昇華しにくいことから、より好ましく用いることができる。上記脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは単一で添加しても良いし、また複数の成分を混合して用いても良い。
【0026】
しかしながら、本発明のポリ乳酸モノフィラメントは、生分解性および非石油系原料であるという特徴を活かし、廃棄しても環境負荷の小さい製品として用いるため、石油系ポリマのブレンド、該成分の共重合等は極力避け、また各種添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないものであることが好ましい。
【0027】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントは円形断面は勿論のこと、扁平、三角、中空、星型等の異型断面や中空部を有するものであっても、芯鞘複合や海島型等の複合繊維であってもよい。
【0028】
本発明におけるポリ乳酸モノフィラメントの製造方法では、0.03〜0.5cN/dtexの張力でポリ乳酸モノフィラメントを巻き取ることが必要である。図1は分繊工程の一実施態様を示す概略側面図である。図1においてポリ乳酸マルチフィラメント糸条パッケージ(7)から解舒された糸条は、走行方向(1)の方向に走行し、分繊ガイド(3)により分繊され、モノフィラメントとなり走行方向(2)の方向に走行し各巻取り機のガイド(5)を経てポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ(4)に巻き取られる。この場合に巻き取り張力は、通常、ポリ乳酸モノフィラメントを巻き取る直前、例えば図1において分繊ガイド(3)〜巻き取り機のガイド(5)間の張力測定区間(6)で測定する。巻き取り張力の測定方法はなんら限定されるものでは無く通常知られた方法で測定すればよい。張力制御の方法に関しても、巻き取り速度を張力値に応じて制御する等の通常知られた方法を採用できる。巻き取り張力が0.03cN/dtexを下回る場合には張力が低すぎてパッケージフォームが崩れてしまう問題が発生し、巻き取り張力が0.5cN/dtexを超える場合には、糸条パッケージ状態で保管した際に経時劣化の大きなポリ乳酸モノフィラメントしか得ることが出来ない。好ましい巻き取り張力の範囲として、0.03〜0.35cN/dtex、さらに好ましくは0.05〜0.2cN/dtexの範囲を例示することができる。
【0029】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージは前述の観点から0.03〜0.5cN/dtexの張力で巻き取られていることが必要であり、好ましい巻き取り張力の範囲として0.03〜0.35cN/dtex、さらに好ましくは0.05〜0.2cN/dtexの範囲を例示することができる。ポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージの製造方法は特に制限されるものではないが、本発明のポリ乳酸モノフィラメントの製造方法を用いることで、容易に達成することが可能である。
【0030】
また、本発明におけるポリ乳酸モノフィラメントの製造方法では、ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊するに際し、ポリ乳酸モノフィラメントを0.5〜3cN/dtexの張力で一旦巻き取った後に、0.03〜0.5cN/dtexの張力でリワインドことによっても上記と同様な効果を得ることができる。
【0031】
ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊する際に、ポリ乳酸モノフィラメントにかかる張力が0.5cN/dtexを下回る場合には、張力不足によりポリ乳酸モノフィラメントが絡み合ったり、もつれたりする問題が発生しやすい。一方、ポリ乳酸モノフィラメントにかかる張力が3cN/dtexを超える場合には、ポリ乳酸モノフィラメントに与える負荷が大き過ぎてポリ乳酸モノフィラメントの物性を低下させてしまう可能性を有している。このような理由より、本発明のポリ乳酸モノフィラメントの製造方法においては、ポリ乳酸モノフィラメントを0.5〜3cN/dtexの張力で分繊した後に、0.03〜0.5cN/dtexの張力でリワインドすることが好ましい。
【0032】
リワインドの方法は制限されるものではなく、当業者の間で通常知られた方法、例えば図2に示すような複数のローラを用いてリワインドする方法等を採用することができる。図2は分繊工程のリワインドの一実施態様を示す概略側面図である。図2においてポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ(14)から解舒された糸条は、走行方向(12)の方向に走行し、ネルソン型ローラに巻き取られた後、各巻取り機のガイド(5)を経てポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ(14)に巻き取られる。この場合に巻き取り張力は、通常、ネルソン型ローラ(8)〜巻き取り機のガイド(6)間の張力測定区間(6)で測定する。
【0033】
分繊直後のポリ乳酸モノフィラメントは直ちにリワインド工程に供することが好ましいが、本発明者らの検討の結果、分繊直後からリワインド工程に供する時間は下記式で表される範囲にすることで、ポリ乳酸モノフィラメントの経時劣化を防ぎつつポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージを得ることができる。
Y<−1564.6Ln(X)+559.45
但し、Xは分繊時の張力(cN/dtex)、Yは分繊直後からリワインド工程に供する時間(hr)。
【0034】
本発明のポリ乳酸モノフィラメントはボビンおよび/またはパーンに巻き取ることが好ましい形態である。チーズ状パッケージと比べてボビンおよび/またはパーン状パッケージは巻き取り時に綾落ちがし難く、本発明の如き低張力の範囲で巻き取った際にも後工程での工程通過性に優れたポリ乳酸モノフィラメントを供給することが可能となる。
【0035】
本発明のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージも前述の観点から、ボビンおよび/またはパーン状に巻き取られていることが好ましい。
【0036】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージには、単糸繊度が10〜40dtex、強度が2〜6cN/dtexのモノフィラメントが巻き取られていることが好ましい。単糸繊度が10dtexを下回る場合や強度が2cN/dtexを下回る場合には、後工程において糸切れする可能性がある。一方で単糸繊度が40dtexを超える場合にはポリ乳酸モノフィラメントが太く、剛性が高いため後工程にて加工し難いと言う問題が発生する。強度は本来高いほどよいが、強度が6cN/dtexを超えるポリ乳酸モノフィラメントを生産性良く得ることは現状技術では困難である。
【0037】
本発明の製造方法、および、本発明のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージは沸収が10〜20%のポリ乳酸モノフィラメントを巻き取る際にも有効である。通常、10%を超えるような高い沸収を有するポリ乳酸モノフィラメントでは、モノフィラメントの非晶領域の歪が大きいため、経時でモノフィラメントが収縮して物性の経時劣化を促進する傾向にあるが、本発明のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ、および、本発明の製造方法を用いた場合にはそのような問題は発生し難い。一方で、沸収が20%を超えるポリ乳酸モノフィラメントは繊維製品とした際の寸法安定性が悪化する可能性があるため好ましくない。
【0038】
また、本発明のポリ乳酸モノフィラメントの製造においても、同様の理由から単糸繊度が10〜40dtex、強度が2〜6cN/dtexのモノフィラメントが巻き取られていることが好ましい
本発明のポリ乳酸モノフィラメントの製造方法に用いるポリ乳酸マルチフィラメントは以下の実施例に説明する方法で製造することが可能であるが、その製造方法や特性はなんら制限されるものでは無く、常法により製造することが可能である。マルチフィラメントを製造する際には集束を目的に交絡ノズルを用いて交絡を付与することがあるが、分繊工程での工程通過性を勘案すると交絡度は10未満であることが好ましい。
【0039】
本発明のポリ乳酸モノフィラメント製造方法に用いる分繊方法も以下の実施例に説明する方法で実施することが可能であるが、これに限られるものではない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明するが、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0041】
[繊度]:JIS L1090(1999年)により測定した。
【0042】
[強度]:JIS L1013(1998年)の方法で測定した。測定機器としてオリエンテック(株)製“テンシロンUCT−100“に示される定速伸長条件で測定した。また、200時間および400時間放置後の強度については、温度20℃、湿度65%の室内に所定時間放置した後、前述の方法により測定した。また、強度保持率は次式より求めた。
強度保持率(%)=(所定時間放置後の強度)/(放置前の強度)×100。
【0043】
[沸収]:JIS L1013(1998年)の方法に従って測定した。糸条パッケージから検尺機でカセを採取し、0.09cN/dtexの荷重をかけてカセ長L1を測定し、引き続いて荷重を外して沸騰水中で30分間処理した。沸騰水処理後のカセを風乾し、再び0.09cN/dtexの荷重をかけてカセ長L2を測定し、次式により沸収を測定した。
沸収(%)=[(L1−L2)/L1]×100。
【0044】
[重量平均分子量]:ポリスチレンを標準として、ウォーターズ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー2690を用いて測定した。測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0045】
[交絡度]:1m試長の試料に100gの荷重をかけ、6gのフックを下降速度1〜2cm/秒で下降させ次式に従って測定し、試行回数10回の平均値を求めた。
式:交絡度=100(cm)/下降距離(cm)。
【0046】
[巻き取り張力]:検出器としてエイコー測器(株)製“TensionPickup”(BTB1‐R03)を用い、エイコー測器(株)製“TensionMeter”(HS−3060)を用いてモニタリングした。巻き取り時間60分での巻き取りを実施し、巻き取り時間10分、20分、30分、40分、50分での張力を測定して、その平均値を巻き取り張力とした。
【0047】
[製造例1](ポリ乳酸ポリマの製造)
光学純度99.5%のL−乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10,000:1)、GE社製“Ultranox626”(ラクチド対“Ultranox626”重量比=99.8:0.2)を存在させてチッソ雰囲気下180℃で350分間重合を行い、重量平均分子量200,000のポリ乳酸ポリマP1を得た。
【0048】
[製造例2](ポリ乳酸マルチフィラメントの製造)
ポリ乳酸ポリマP1を、エクストルーダー型紡糸機を用いて220℃で溶融紡糸した。溶融ポリマは、紡糸パック中で20μの金属不織布フィルターで濾過した後、孔径0.52φ、孔長1.25mmで10ホールの口金から紡出した。
口金面より3cm下には15cmの加熱筒および15cmの断熱筒を取り付け、筒内雰囲気温度が250℃となるように加熱した。ここで筒内雰囲気温度とは、加熱筒長の中央部で、内壁から1cm離れた部分の空気層温度である。
【0049】
加熱筒の直下には環状吹きだし型チムニーを取り付け、糸条に30℃の冷風を30m/分の速度で吹き付け冷却固化した後、糸条に油剤を付与した。油剤は、イソC24アルコール/チオジプロピオン酸エステル(40重量%)、C11〜15アルコールAOA/チオジプロピオン酸エステル(30重量%)、トリメチローラプロパンAOAジステアレート(10重量%)、C8アルコールAOA(10重量%)硬化ヒマシ油(7重量%)、ステアリルアミンEO15(3重量%)を鉱物油で20%に希釈した非水系油剤を用いた。
【0050】
油剤を付与された未延伸糸条は、2個のローラを一対とするネルソン型ローラ(表面速度800m/分:表面温度50℃:捲数5回)に捲回して引き取った。引き取り糸条は一旦巻き取ることなく、次のネルソン型ローラ(表面速度820m/分:表面温度100℃:捲数5回)に捲回して糸条を引き揃えた。
【0051】
引き揃えられた糸条は、引き続いて順次設置された3組のネルソンローラ間で2段熱延伸−弛緩処理を実施した。各ローラの表面速度および表面温度および捲数はそれぞれ次の通りである。表面速度2700m/分:表面温度110℃:捲数5回、表面速度3200m/分:表面温度130℃:捲数8回、表面速度3150m/分:表面温度100℃:捲数4回。弛緩処理後の糸条は、巻き取り機にてチーズ条パッケージに巻き取り、総繊度300dtex、単糸数10、強度3.5cN/dtexのポリ乳酸マルチフィラメントを得た。
【0052】
(実施例1)
製造例2で得たポリ乳酸マルチフィラメントをカンダ技研製ストレート分繊機で分繊して得られたポリ乳酸モノフィラメントを紙管にパーン状に巻き取った。この時ポリ乳酸マルチフィラメントを巻き取る直前の張力は0.7cN/dtexであった。得られたポリ乳酸モノフィラメントは分繊から12時間経過後に図2に示すリワインド装置で張力0.1cN/dtexでリワインドして紙管にパーン状に巻き取り、ポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージを得た。ポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージに巻き取られた直後のポリ乳酸モノフィラメントの物性、および、得られたポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージを温度25℃、湿度65%雰囲気下に200時間、および、400時間放置した後の物性を表1に示した。
【0053】
(実施例2)
製造例2で得たポリ乳酸マルチフィラメントをカンダ技研製ストレート分繊機で分繊して得られたポリ乳酸モノフィラメントをボビンに巻き取り、ポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージを得た。この時ポリ乳酸マルチフィラメントを巻き取る直前の張力は0.5cN/dtexであった。ポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージに巻き取られた直後のポリ乳酸モノフィラメントの物性、および、得られたポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージを温度25℃、湿度65%雰囲気下に200時間、および、400時間放置した後の物性を表1に示した。この時、分繊機のガイドにポリ乳酸モノフィラメントの擦れによる若干の白粉が発生したものの、生産性良くポリ乳酸モノフィラメントを製造することができた。
【0054】
(実施例3、4)
分繊時にポリ乳酸マルチフィラメントを巻き取る直前の張力、および、リワインド時の張力を表1記載の通りにしたこと以外は実施例1と同様におこなった。
【0055】
(比較例1〜3)
分繊時にポリ乳酸マルチフィラメントを巻き取る直前の張力、および、リワインド時の張力を表1記載の通りにしたこと以外は実施例1と同様におこなった。
比較例2に関しては、分繊時に糸切れが多発してポリ乳酸モノフィラメントを得ることができなかった。また、比較例3に関しては分繊時の糸揺れに起因する糸切れが多発してポリ乳酸モノフィラメントを得ることができなかった。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より明らかなように、本発明のポリ乳酸モノフィラメントの製造方法を用いた場合には、パッケージ状態で保管した際に物性低下が少ないポリ乳酸モノフィラメントを得ることが可能であり、本発明のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージはポリ乳酸モノフィラメントの経時劣化の少ないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の分繊工程の一実施態様を示す概略側面図である。
【図2】本発明の分繊工程のリワインドの一実施態様を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0059】
1:ポリ乳酸マルチフィラメントの走行方向
2:ポリ乳酸モノフィラメントの走行方向
3:分繊ガイド
4:ポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ
5:巻き取り機のガイド
6:張力測定区間
7:ポリ乳酸マルチフィラメント糸条パッケージ
8:ネルソン型ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊工程に供してポリ乳酸モノフィラメントを得るポリ乳酸モノフィラメントの製造方法において、ポリ乳酸モノフィラメントを0.03〜0.5cN/dtexの張力で巻き取ることを特徴とするポリ乳酸モノフィラメントの製造方法。
【請求項2】
ポリ乳酸マルチフィラメントを分繊し、ポリ乳酸モノフィラメントを0.5〜3cN/dtexの張力で一旦巻き取った後に、0.03〜0.5cN/dtexの張力でリワインドすることを特徴とするポリ乳酸モノフィラメントの製造方法。
【請求項3】
ポリ乳酸モノフィラメントをボビンおよび/またはパーンに巻き取ることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸モノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
ポリ乳酸モノフィラメントが巻き取り張力0.03〜0.5cN/dtexで巻き取られていることを特徴とするポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ。
【請求項5】
ポリ乳酸モノフィラメントの繊度が10〜40dtex、強度が2〜6cN/dtexであることを特徴とする請求項4に記載のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ。
【請求項6】
ポリ乳酸モノフィラメントがボビンおよび/またはパーンに巻き取られていることを特徴とする請求項4または5に記載のポリ乳酸モノフィラメント糸条パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−321266(P2007−321266A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151310(P2006−151310)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】