説明

ポリ乳酸異形断面マルチフィラメント。

【課題】 ポリ乳酸を直接紡糸することにより得られる極細繊維でありながら、製糸性よく得ることができ、かつ、ソフト性、拭き取り性能に優れた布帛を得ることができるポリ乳酸異形断面マルチフィラメントを提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸を直接紡糸することによって得られたマルチフィラメントであって、単糸繊度が0.1〜1.0dtexであり、単糸を繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状が多葉断面形状を呈しており、かつ異形度が1.3〜5.0であるポリ乳酸異形断面マルチフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単糸繊度が小さく、単糸の横断面形状が多葉断面形状を呈しているポリ乳酸マルチフィラメントであって、製糸性よく得ることが可能であり、製編織すると、拭き取り性能に優れた布帛を得ることができる、ポリ乳酸異形断面マルチフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、力学的性質、熱安定性、ウォッシャブル性等に優れており、衣料用、産業資材用、インテリア用等極めて広い分野に使用されている。
【0003】
しかし、このようなポリエステル繊維を含め、ポリオレフィン、ポリアミド等の合成繊維は、使用した後自然界に放置されても分解され難く、地球環境の保護の面からさまざまな問題を生じている。例えば、これらの生活衣料品等は分解され難いため、使用後に一部はリサイクルされるが、その大半は焼却等の処理が必要となるため、その廃棄に制限があった。このような問題を解決するために、土中や水中で分解される布帛を用いることが考えられてきたが、未だ十分なものは得られていない。
【0004】
従来の生分解性ポリマーとしては、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン等の多糖類、タンパク質、ポリ3-ヒドロキシブチレートや3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシバリレートの共重合体等の微生物により作られるポリマー、ポリグリコリド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルが知られている。
【0005】
これらの中で、主に使用されているセルロース系のコットン、再生セルロースは安価であるが、熱可塑性でないため用途が限定されている。また、微生物により作られるポリ3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシバリレートの共重合体等は、高価であり汎用に向いておらず、また強度が低いという問題があった。さらに、ポリカプロラクトンやポリブチレンサクシネートは、溶融紡糸可能な熱可塑性の生分解性ポリマーであるが、融点が低く、耐熱性が劣るという問題があった。
【0006】
このような中で、熱可塑性樹脂であるポリ乳酸は、溶融紡糸が容易であるため、産業資材をはじめ、一般衣料用途にも用いられている。
【0007】
そして、ポリ乳酸フィラメントを用いた織物は、同単糸繊度のポリエステルフィラメント、例えば主にポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)からなるポリエステルフィラメントを用いた織物より拭き取り性能が優れているという特徴を有している。
【0008】
これは、ポリ乳酸の摩擦係数が主にPETからなるポリエステルより高いためである。そして、拭き取り性能の高い織編物とするためには、単糸繊度が0.1dtex程度の超極細マルチフィラメントを使用することが好ましく、このような単糸繊度の小さいポリ乳酸繊維も種々提案されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、単糸繊度を0.5dtex以下としたポリ乳酸繊維が提案されている。しかしながら、このポリ乳酸繊維は異ポリマーとの複合紡糸により複合繊維を得、その後、異ポリマーとポリ乳酸を分割、または異ポリマーを溶解させることにより極細ポリ乳酸繊維を得るものである。このため、コスト的に不利であり、また溶解後の異ポリマーが環境に悪影響を与えるという問題点があった。
【0010】
また、特許文献2には、熱水溶解性ポリマーを海成分に、脂肪族ポリエステルを芯成分とする複合繊維を得、その後、海成分を熱水溶解することにより得られた極細ポリ乳酸繊維が記載されている。この繊維においても特許文献1と同じようにコスト的に不利であり、溶解成分が環境に悪影響を与えるという問題点があり、さらには、脂肪族ポリエステルが熱水に晒されるため、物性が低下し、風合いも悪化するという問題点があった。
【0011】
そこで、特許文献3には、脂肪族ポリエステルとしてポリ乳酸を直接紡糸することによって得られた単糸繊度0.1〜1dtexの極細繊維が記載されている。しかしながら、ポリ乳酸を直接紡糸することにより極細繊維を得ようとすると、製糸操業性が非常に悪いことが分かっており、特許文献3においても、製糸性の評価は2時間紡糸した時の切れ糸回数が3回までであったものを合格としており、このことからも製糸性の悪さが明らかである。
【特許文献1】特開2001-192932号公報
【特許文献2】特開2000-226734号公報
【特許文献3】特開2000-220032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ポリ乳酸を直接紡糸することにより得られる極細繊維でありながら、製糸性よく得ることができ、かつ、ソフト性、拭き取り性能に優れた布帛を得ることができるポリ乳酸異形断面マルチフィラメントを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、ポリ乳酸マルチフィラメントの単糸の断面形状を特定の形状にすることによって、製糸操業性が著しく向上し、さらには、得られた繊維からなる布帛はソフト性、拭き取り性能に優れたものとなることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸を直接紡糸することによって得られたマルチフィラメントであって、単糸繊度が0.1〜1.0dtexであり、単糸を繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状が多葉断面形状を呈しており、かつ異形度が1.3〜5.0であることを特徴とするポリ乳酸異形断面マルチフィラメントを要旨とするものである。
ただし、異形度とは、多葉断面形状における外接円の直径Rと内接円の直径rの比(R/r)をいい、多葉断面形状において、形状の外部の点に接し(外接し)て描ける円のうち、最も多くの点に外接して描ける円であって、最も直径の小さい円を外接円とし、形状の内部に3点以上接し(内接し)て描ける円のうち、最も直径の大きい円を内接円という。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントは、単糸繊度が小さく、かつ単糸の断面形状が多葉断面形状を呈しており、異形度も適切な範囲のものであるため、ポリ乳酸を直接紡糸する方法でも操業性よく得ることができる。さらには、汚れをかき取ったり、保持することができ、高密度でソフト性に優れた織編物を得ることができるので、拭き取り性能に優れたワイピングクロスを得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、ポリ乳酸を直接紡糸することによって得られたマルチフィラメントとは、ポリ乳酸を他のポリマーと複合繊維とし、複合繊維中から他のポリマーを分割や溶融により除去してポリ乳酸のみからなる繊維を得るものではなく、ポリ乳酸のみを溶融紡糸、延伸することにより得られるマルチフィラメントをいう。本発明のマルチフィラメントは、ポリ乳酸を溶融紡糸した後、一旦巻き取ることなく延伸を行う一工程法で得られたマルチフィラメントであっても、ポリ乳酸を溶融紡糸した後、一旦巻取ったもの(未延伸糸やPOY糸等)に延伸を行う二工程法で得られたマルチフィラメントであってもよい。
【0017】
本発明のマルチフィラメントを構成するポリ乳酸とは、ポリ乳酸及び/又はポリ乳酸を主体とする共重合物をいう。ポリ乳酸は、D体のみ、L体のみ、D体とL体の混合物のいずれでもよい。ポリ乳酸を主体とする共重合物としては、ポリ乳酸(D体のみ、L体のみ、D体とL体の混合物のいずれでもよい。)と、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ青草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から選ばれるモノマーの一種又は二種以上とを共重合したものが挙げられる。共重合の割合としては、ポリ乳酸 100質量部に対して、共重合させるモノマーは10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0018】
また、本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントは、その効果を損なわない範囲であれば、各種顔料、染料、着色剤、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、無機化合物粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤を使用用途に応じて添加したものであってもよい。
【0019】
本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントは、単糸繊度を0.1〜1.0dtexとすることが必要である。単糸繊度を0.1〜1.0dtexとすることにより、製編織等した布帛にソフト性と優れた拭き取り性能を付与することができる。つまり、得られる布帛は単糸繊度の小さい繊維を使用していることから、繊維密度の高いものとなるが、剛直な布帛とはならず、ソフト性に優れた布帛となるため、拭き取り性能に優れたものとなる。
【0020】
単糸繊度が1.0dtexを超えると、得られる布帛はソフト性と拭き取り性能に乏しいものとなり、単糸繊度が0.1dtex未満となると、紡糸、延伸工程での操業性が悪化するため好ましくない。
【0021】
さらに、本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントは、単糸を繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状が多葉断面形状を呈しており、異形度を1.3〜5.0とすることが必要である。
【0022】
単糸の断面形状を多葉断面形状とすることによって、紡糸、延伸、巻取等の工程における各種のローラやガイド類に接触する繊維の表面積が減少し、摩擦抵抗が減少するので、糸切れが生じにくくなり、操業性を向上させることが可能となる。
【0023】
さらには、多葉断面形状を呈していることにより、単糸の表面に凹凸があることから各単糸が汚れを保持する能力を有しているとともに、屈曲性にも優れているため、汚れをかき取る能力にも優れたマルチフィラメントとなり、拭き取り性能に優れた布帛を得ることが可能となる。
【0024】
つまり、本発明のマルチフィラメントは、ポリ乳酸からなるものであるため、PETに比べて拭き取り性能に優れた織編物を得ることができるとともに、単糸繊度を0.1〜1.0dtexとすることにより、高密度でかつソフト性にも優れた布帛を得ることができる。さらには、単糸の断面形状を多葉断面形状とし、かつ異形度を特定のものとすることにより、汚れを保持する能力とかき取る能力に優れるため、特に拭き取り性能に優れた織編物を得ることが可能となるものである。
【0025】
次に、本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントの単糸の断面形状について図面を用いて説明する。図1は、三葉断面形状の一実施態様を示す断面模式図であり、図2は、六葉断面形状の一実施態様を示す断面模式図である。
【0026】
本発明における異形度とは、多葉断面形状における外接円の直径Rと内接円の直径rの比(R/r)をいい、多葉断面形状において、形状の外部の点に接し(外接し)て描ける円のうち、最も多くの点に外接して描ける円であって、最も直径の小さい円を外接円とし、形状の内部に3点以上接し(内接し)て描ける円のうち、最も直径の大きい円を内接円という。
【0027】
そして、マルチフィラメントを構成する単糸を任意に20本取り出し、これらの単糸を繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状を電子顕微鏡にて観察し、これらについて異形度を測定する。そしてこれらの異形度の平均値(n=20)をとるものとする。
【0028】
異形度は中でも1.5〜3.0とすることが好ましい。異形度が1.3未満であると、単糸の断面形状が丸断面形状に近いものとなり、ローラやガイド類に接触する面積が大きくなり、操業性が低下するばかりでなく、汚れを保持する能力及び汚れをかき取る能力ともに乏しいものとなり、得られる布帛の拭き取り性能も劣ったものとなる。異形度が5.0を超えると、多葉断面形状がいびつな形状のものとなるため、紡糸時や延伸時に形状が潰れてしまったり、葉部が分離する等のトラブルが生じ、操業性が悪化して好ましくない。
【0029】
本発明においては、上記のような汚れの保持能力、かき取り能力、操業性ともに優れたものとして、単糸の断面形状が三葉断面形状のものとすることが好ましい。そして、異形度は中でも1.5〜3.0とすることが好ましい
【0030】
本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントは、用途に応じて、総繊度、強度、伸度等を選択すればよいが、拭き取り性能に優れた織編物に用いるには、総繊度10〜300dtexとすることが好ましく、強度1.0〜5.0cN/dtex、伸度20〜40%とすることが好ましい。
【0031】
次に、本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントの製造方法について説明する。まず、ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸機に供給し、樹脂の融点より20℃以上高い温度で溶融混練し、続いて紡糸口金の吐出孔から吐出させて溶融紡糸を行う。紡糸された糸条を横吹付装置や環状吹付装置などの公知の冷却装置を用いて冷却した後、油剤を付与する。そして、二工程法を採用する際には、2000m/分以上の高速紡糸を行い、延伸することなく巻き取った半未延伸糸(POY糸)や、2000m/分未満の低速紡糸を行い、延伸することなく巻き取った未延伸糸条に別工程で延伸熱処理を行うことにより本発明のマルチフィラメントを得る。また、一工程法を採用する場合には、紡糸後一旦巻き取ることなく連続して延伸を行うことにより、本発明のマルチフィラメントを得る。
なお、延伸倍率や熱処理温度は、得られるマルチフィラメントの強度や伸度が上記の範囲内となるように適宜選択することが好ましい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における特性値の測定法及び評価方法は、次のとおりである。
(1)相対粘度
フェノールと四塩化エタンの等質量混合溶液を溶媒としたときの0.5g/100mlのポリマー溶液の粘度を、ウベローデ粘度計を使用して温度20℃の条件下で測定した。
(2)ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の含有割合(モル比:L/D)
純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液の等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定した。カラムにはsumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
(3)強伸度
オリエンテック社製万能引張り試験機テンシロンRTC1210型を用いて、試料長500mm、引張速度500mm/分で応力−伸長曲線を測定し、繊維の最大点強力から強度と伸度を求めた。
(4)単糸繊度(dtex)
JIS L−1013 8.3.1(正量繊度)A法により測定した正量繊度を、フィラメント数で割った値を単糸繊度とした。
(5)製糸操業性
16錘で24時間連続して操業(紡糸、延伸、巻き取り)を行った時の合計切れ糸回数で評価し、○と△を合格とした。
0回:○、1〜2回:△、3回以上:×
(6)拭き取り性能
得られたマルチフィラメントをコース方向30本/2.54cm、ウエール方向40本/2.54cmとしてWピケ組織の編物を製編し、これをワイピングクロスとした。
表面を純水洗浄した後にメタノールで洗浄を行ったガラスプレート(厚さ1mm)を用意し、その中央部のオパシティ値(不透明度合い)を分光光度計(マクベス社製、CE−3100)により測定した(その値を0gとする)。
次に、このガラスプレート中央部表面の半径1cmの範囲に、汚染源として2mgの口紅を塗布し、同様にオパシティ値を測定した(その値を0oとする)。底面積7.07cm2(半径1.5cmの円形)の拭き取り用ジグにワイピングクロスを被せ、上記ガラスプレートの汚染源を塗布した箇所を、拭き取り荷重14.1g/m2、拭き取り速度3cm/秒の条件で拭き取るという拭き取り試験を実施した。このとき、1回拭き取るごとにオパシティ値を測定してからワイピングクロスを新しいものに取り替えることとし、1つのガラスプレートにつき計3回の拭き取り及びオパシティ値測定(累積拭き取り回数n回のときの測定値を0nとする)を行った。
以上の測定結果から、下記式により算出される汚れ除去率を求め、拭き取り性能の指標とした。この方法で求められる汚れ除去率は、ワイピングクロスが汚れを除去してゆく度合いを示すものであり、ワイピングクロスの拭き取り性能の定量的な指標となる。本発明の目的を達成するうえで、この汚れ除去率としては、除去率90%以上、さらには95%以上が1回の拭き取りで達成されることが好ましい。また、除去率95%以上、さらには99%以上が2回以内の拭き取りで達成されることが好ましい。
汚れ除去率(%)=(0o−0n)/(0o−0g)×100
【0033】
実施例1
ポリ乳酸樹脂として、L−乳酸を主体とするポリ乳酸樹脂であって、L/Dが98.5/1.5、融点170℃、相対粘度1.88のものを用いた。ポリ乳酸樹脂を常法により乾燥した後、溶融押出機に供給し、210℃で溶融混練し、温度230℃で紡糸を行った。このとき、三葉型の吐出孔が穿設された口金から吐出させ、糸条を冷却、固化した後、3500m/分の速度で半未延伸糸を巻き取り、84dtex/144filのマルチフィラメント(POY糸)を得た。次いで、これを通常の延伸装置を用い、予備加熱温度85℃、熱セット温度125℃、延伸倍率1.17倍とし、700m/分の速度で延伸し、72dtex/144fil(単糸繊度0.5dtex)のマルチフィラメントを得た。
【0034】
実施例2〜3、比較例2〜3
溶融紡糸時のポリマーの吐出量を変更し、また、延伸倍率を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様に行い、表1に示す単糸繊度のマルチフィラメントを得た。
【0035】
実施例4〜5、比較例4-〜5
口金の形状を変更し、異形度を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行い、マルチフィラメントを得た。
【0036】
実施例6
六葉型の吐出孔が穿設された口金から吐出させ、断面形状を六葉、異形度を1.5とした以外は実施例1と同様に行い、マルチフィラメントを得た。
【0037】
比較例1
丸型の吐出孔が穿設された口金から吐出させ、断面形状を丸型とした以外は、実施例1と同様に行い、マルチフィラメントを得た。
【0038】
比較例6
溶融紡糸時のポリマーの吐出量を変更し、また、延伸倍率を表1に示す値に変更した以外は比較例1と同様に行い、表1に示す単糸繊度のマルチフィラメントを得た。
【0039】
比較例7
ポリ乳酸樹脂に代えて、PETを主成分とするポリエステル樹脂(融点255℃、相対粘度1.38)を用い、紡糸温度を290℃に変更した以外は実施例1と同様に行い、100dtex/144filの三葉断面マルチフィラメント(POY糸)を得た。次いでこれを通常の延伸装置を用い、延伸時の予備加熱温度90℃、熱セット温度160℃、延伸倍率を1.52倍とし、700m/分の速度で延伸し、72dtex/144filのマルチフィラメントを得た。
【0040】
比較例8
丸型の吐出孔が穿設された口金から吐出させ、断面形状を丸型とした以外は、比較例7と同様に行い、マルチフィラメントを得た。
【0041】
実施例1〜6、比較例1〜8で得られたマルチフィラメントの物性、製糸操業性、拭き取り性能の評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、実施例1〜6のマルチフィラメントは、製糸操業性よく得ることができ、これらのマルチフィラメントから得られた布帛は優れた拭き取り性能を有していた。
【0044】
一方、比較例1のマルチフィラメントは単糸の断面形状が丸断面形状であったため、また、比較例4のマルチフィラメントは単糸の異形度が小さいものであったため、ともにローラやガイド等との接触面積が大きくなり、製糸操業性が悪かった。また、これらのマルチフィラメントから得られた布帛は拭き取り性能にも劣るものであった。比較例2のマルチフィラメントは、単糸繊度が小さすぎたため、製糸操業性に劣るものであった。比較例3、比較例6のマルチフィラメントは、単糸繊度が1dtexを超えていたため、さらに比較例6のマルチフィラメントは単糸の断面形状が丸断面形状であったため、これらのマルチフィラメントから得られた布帛は、拭き取り性能に劣るものであった。比較例5のマルチフィラメントは、単糸の異形度が大きすぎたため、葉部が潰れてしまい、糸切れが生じ、製糸操業性が悪かった。比較例7〜8のマルチフィラメントは、PET樹脂からなるマルチフィラメントであったため、これらのマルチフィラメントから得られた布帛は拭き取り性能に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントの単糸を繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状(三葉断面形状)の一実施態様を示す断面模式図である。
【図2】本発明のポリ乳酸異形断面マルチフィラメントの単糸を繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状(六葉断面形状)の一実施態様を示す断面模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を直接紡糸することによって得られたマルチフィラメントであって、単糸繊度が0.1〜1.0dtexであり、単糸を繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面形状が多葉断面形状を呈しており、かつ異形度が1.3〜5.0であることを特徴とするポリ乳酸異形断面マルチフィラメント。
ただし、異形度とは、多葉断面形状における外接円の直径Rと内接円の直径rの比(R/r)をいい、多葉断面形状において、形状の外部の点に接し(外接し)て描ける円のうち、最も多くの点に外接して描ける円であって、最も直径の小さい円を外接円とし、形状の内部に3点以上接し(内接し)て描ける円のうち、最も直径の大きい円を内接円という。
【請求項2】
多葉断面形状が三葉断面形状である請求項1記載のポリ乳酸異形断面マルチフィラメント。

【図1】
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【図2】
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