説明

ポリ乳酸系樹脂発泡体、該ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法および該ポリ乳酸系樹脂発泡体を成形してなる発泡成形体

【課題】優れた2次発泡性を有し、容易に型内発泡成形を行うことができるポリ乳酸系樹脂発泡体を提供する。
【解決手段】本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、結晶性ポリ乳酸系樹脂、熱分解型化学発泡剤、および物理発泡剤からなるポリ乳酸系樹脂組成物を押出発泡させて得られるものであり、該ポリ乳酸系樹脂発泡体の面積平均気泡径が1〜200μmであり、かつ該ポリ乳酸系樹脂発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比が0.6以上であり、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた2次発泡性を有し、容易に型内発泡成形を行うことができるポリ乳酸系樹脂発泡体、該ポリ乳酸系樹脂発泡体を成形してなる発泡成形体および該ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、生分解性や植物由来という特長を有する脂肪族ポリエステルが注目されている。脂肪族ポリエステルの中でもポリ乳酸は機械的特性が優れているだけでなく、デンプンやトウモロコシを原料としており大量生産可能であるため、コストが低く特に注目されている。さらに、発泡剤により発泡させたポリ乳酸系樹脂発泡体は、その軽量性、緩衝性、消音性、断熱性などを活かして、従来の石油原料由来の発泡成形体と同様に緩衝材、包装材、消音材、建材などに使用できる。
【0003】
これまで、光学純度の低い非晶性ポリ乳酸を用いた、ビーズ発泡法による発泡粒子(粒子状の発泡体)および該発泡粒子を成形してなる発泡成形体に関する先行技術は数多く報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、非晶性であるため耐熱性に劣り、得られる発泡体の耐熱性は50℃程度であった。そのため、該発泡体の粒子を成形してなる発泡成形体は、60℃以上に加熱した時の寸法安定性に劣り、低温での用途に限られるという問題があった。
【0004】
また、光学純度の高い結晶性ポリ乳酸からなり、優れた耐熱性を有する発泡粒子および発泡成形体に関する先行技術としては、押出発泡法にて結晶化度を低く抑えるように作製した1次発泡粒子を型内発泡に供して2次発泡後に結晶化させる方法が報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかしこの場合は、発泡粒子の結晶化度の制御方法や型内発泡の方法などにおいて高度な技術を必要とするものであり、2次発泡性に劣るため、容易に発泡成形体を作製できるものではなかった。
【0005】
また、スチレン系樹脂発泡体などの製造において、物理発泡剤および熱分解型化学発泡剤を併用する技術が報告されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この場合は、大きな気泡(例えば、200〜500μm程度の気泡)と微細な気泡(例えば、0.1μm以下の気泡)が両方存在するため、2次発泡性に劣り、発泡成形体を得ることが困難となり、得られたとしても外観が損なわれるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−264166号公報
【特許文献2】特開2007−100025号公報
【特許文献3】特開2005−041516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するものであり、結晶性ポリ乳酸系樹脂、熱分解型化学発泡剤および物理発泡剤からなり、優れた2次発泡性を有し容易に型内発泡成形を行うことができるポリ乳酸系樹脂発泡体、該ポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法を提供することを目的とするものである。さらに該ポリ乳酸系樹脂発泡体から得られる加熱後の体積変化率が少なく寸法の安定した、外観にも優れる発泡成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、結晶性ポリ乳酸系樹脂、熱分解型化学発泡剤および物理発泡剤からなるポリ乳酸系樹脂組成物を用い、発泡剤の添加量や押出条件等を調整して発泡させることにより、ポリ乳酸系樹脂発泡体の面積平均気泡径が1〜200μm、発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比が0.6以上、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5以上となるようにすることができることを見出した。そして、このようなポリ乳酸系樹脂発泡体は2次発泡性が大幅に向上し、容易に型内発泡成形を行うことができ、さらに発泡成形体とした場合に加熱後も体積変化が少なく、外観にも優れた発泡成形体を得ることができることを見出し、かかる知見に基づき本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)結晶性ポリ乳酸系樹脂、熱分解型化学発泡剤、および物理発泡剤からなるポリ乳酸系樹脂組成物を押出発泡させて得られたポリ乳酸系樹脂発泡体であって、該ポリ乳酸系樹脂発泡体の面積平均気泡径が1〜200μmであり、かつ該ポリ乳酸系樹脂発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比が0.6以上であり、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5以上であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体。
(2)熱分解型化学発泡剤がアゾ化合物からなることを特徴とする(1)のポリ乳酸系樹脂発泡体。
(3)形状が粒子状であることを特徴とする(1)または(2)のポリ乳酸系樹脂発泡体。
(4)(1)〜(3)のポリ乳酸系樹脂発泡体を型内発泡成形させてなる発泡成形体。
(5)(1)〜(3)の発泡体を製造する方法であって、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、熱分解型化学発泡剤0.01〜3質量部を押出機に供給し、物理発泡剤の存在下にて押出発泡することを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、結晶性ポリ乳酸系樹脂、熱分解型化学発泡剤および物理発泡剤からなるポリ乳酸系樹脂組成物を用いたものであり、面積平均気泡径が1〜200μm、発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比が0.6以上、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5以上であるため、優れた2次発泡性を有し、容易に型内発泡成形を行うことが可能となる。そして、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は成形を行うことで、容易に発泡成形体を得ることができ、得られた本発明の発泡成形体は、加熱後の寸法安定性に優れ、100℃を超える高温雰囲気下でも良好に使用することができる耐熱性を有し、かつ外観にも優れている。
【0011】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法によれば、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体を生産性よく得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】屈曲点が現れるまでの伸長初期の線形領域の傾きa1と屈曲点以降の伸長後期の傾きa2(a2/a1;ひずみ硬化係数)を求める際の伸長時間と伸長粘度の模式図を示す。
【図2】実施例1で得られた発泡体(ストランド形状)の断面(TD断面)の電子顕微鏡写真を示す。
【図3】比較例1で得られた発泡体(ストランド形状)の断面(TD断面)の電子顕微鏡写真を示す。
【図4】比較例2で得られた発泡体(ストランド形状)の断面(TD断面)の電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体(以下、単に「発泡体」と称する場合がある)は、ポリ乳酸系樹脂、熱分解型化学発泡剤および物理発泡剤よりなるポリ乳酸系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)を押出発泡させることにより得られるものである。
【0014】
上記ポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸を主成分とする樹脂であり、環境負荷低減の観点からは、ポリ乳酸を40質量%以上含むことが好ましい。ポリ乳酸を60質量%以上含むと、植物由来度が高くなりより好ましく、さらには80質量%以上含むことが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の発泡体においては、100℃を超える高温雰囲気下でも使用可能な耐熱性を有するものとするため、ポリ乳酸系樹脂は結晶性のものとすることが必要である。
中でも、ポリ乳酸のD体含有率が8%以下である、または92%以上であることが好ましい。融点が高く、また結晶化が進行しやすくなるため、さらには、D体含有率が4%以下である、または96%以上であることが好ましく、より好ましくは、D体含有率が2%以下である、または98%以上である。
D体含有率が8%を超えるか、92%未満のポリ乳酸は、結晶化速度が著しく遅く実質的に結晶化が起こらないため、耐熱性が不十分となる。
【0016】
上記ポリ乳酸系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、主成分であるポリ乳酸以外に他の樹脂成分を含有することができる。ポリ乳酸以外の樹脂成分としては、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸樹脂等が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸以外のヒドロキシ酸重縮合物、ポリカプロラクトン等のラクトンの開環重合物、及びポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸との重縮合物、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸と芳香族多価カルボン酸との重縮合物等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、発泡に適したレオロジー特性を有していることが好ましい。レオロジー特性として、ひずみ硬化性、溶融張力などの指標が挙げられる。
ひずみ硬化性については、ポリ乳酸系樹脂の融点より10℃高い温度での伸長粘度測定で得られる時間−伸長粘度曲線において、屈曲点が現れるまでの伸長初期の線形領域の傾きa1と、屈曲点以降の伸長後期の傾きa2との比(a2/a1;ひずみ硬化係数)が、1.05以上、50未満であるような場合、発泡に適したひずみ硬化性が発現されるポリ乳酸系樹脂であるといえる(図1参照)。
【0018】
ひずみ硬化性を制御する方法としては、ポリ乳酸に架橋剤や増粘剤を添加して改質する方法が好適に用いられる。例えば、ポリ乳酸と、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、又は1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基若しくはビニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び過酸化物を溶融混練することで、ひずみ硬化性を有し、発泡に適したポリ乳酸系樹脂を得ることができる。あるいは、ポリ乳酸と、分子内に2個以上のグリシジル基、イソシアネート基またはカルボジイミド基を有する化合物とを溶融混練することでも、発泡に適したポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0019】
溶融張力については、発泡性の観点から、40〜1000mNであることが好ましい。50〜800mNであることがより好ましく、60〜400mNであることがさらに好ましい。
【0020】
なお、溶融張力は以下のような方法で測定される。
あらかじめ乾燥させたペレット状の樹脂組成物を、190℃に設定したキャピラリレオメータ(東洋精機製作所、商品名「キャピログラフ 1C」)のシリンダー内に充填し、シリンダーの上にピストンを載せて5分間余熱する。その後、シリンダーの下部のダイ(1mmφ×10mm長)から、10mm/分のピストン速度で押し出したストランドを、初期速度1mm/分で引き取り、張力計で張力を検出する。その後、引取速度を徐々に上げていき、ストランドが破裂したときの張力を、溶融張力(mN)とする。
【0021】
また、本発明において、ポリ乳酸系樹脂の融点は、結晶化度向上の観点から、140〜190℃であることが好ましく、より好ましくは160〜190℃である。
ポリ乳酸系樹脂のポリ乳酸系樹脂組成物に対する含有割合は、環境負荷低減の観点から、25質量%以上であることが好ましく、中でも50質量%以上が好ましく、さらには80質量%以上であることが好ましい。
【0022】
そして、本発明の発泡体を形成するポリ乳酸系樹脂組成物中には、上記したようなポリ乳酸系樹脂とともに熱分解型化学発泡剤及び物理発泡剤が添加されている。このため、ポリ乳酸系樹脂に熱分解型化学発泡剤、物理発泡剤をそれぞれ単独で添加する場合と比較して、微細で独立した気泡を生成することが可能であるという利点がある。
【0023】
熱分解型化学発泡剤は、押出発泡時には気泡調整剤として作用し、微細気泡を形成させ、さらに2次発泡時にも新たに微細気泡を生成する役割を担う。本発明において、押出発泡とは、本発明で得られた樹脂組成物を、押出発泡機を用いて発泡させることをいう。また、本発明において、2次発泡とは、押出発泡で得られた発泡体を、さらに発泡させて成形体を得ることをいう。なお、押出発泡および2次発泡の詳細は後述する。
【0024】
熱分解型化学発泡剤は、分解温度以上に加熱することによりガスを発生して樹脂を発泡させる発泡剤であり、有機系熱分解型化学発泡剤、無機系熱分解型化学発泡剤のいずれもが好適に使用される。有機系熱分解型化学発泡剤としては、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、セミカルバジド化合物、アジド化合物、テトラゾール化合物などが挙げられる。代表的なものとして、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)等が挙げられる。無機系熱分解型化学発泡剤としては、重炭酸塩、炭酸塩、亜硝酸塩などが挙げられる。代表的なものとして、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。上記のなかでも、ある一定温度に達すると分解反応が急激に起こる有機系の化学発泡剤がより好ましい。中でも、分解温度がポリ乳酸系樹脂の溶融押出の温度に近く、最も汎用性がある観点から、アゾ化合物が特に好ましい。
【0025】
熱分解型化学発泡剤の分解温度は、ポリ乳酸系樹脂の溶融押出の温度に合わせて、180〜230℃であることが好ましく、190〜220℃であることがより好ましい。
上記の熱分解型化学発泡剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
熱分解型化学発泡剤の添加量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、通常0.01〜3質量部が好ましく、0.01〜2質量部がより好ましく、0.1〜1質量部がさらに好ましい。熱分解型化学発泡剤の添加量が多いほど後述の面積平均気泡径が小さくなるが、3質量部を超えると物理発泡剤による発泡の妨げとなり、発泡倍率が低下する場合がある。一方、0.01重量部未満であると、上記したような熱分解型化学発泡剤を添加する効果が十分に奏されない場合がある。
【0027】
なお、熱分解型化学発泡剤は加熱時に分解してガスを発生するため、溶融混練や押出発泡を経た後の発泡体には、熱分解型化学発泡剤が十分に含まれないことがある。そこで、上記熱分解型化学発泡剤の分解温度を調整するために、本発明の効果を損なわない範囲において、発泡助剤を使用しても良い。発泡助剤としては、尿素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0028】
次に、物理発泡剤について説明する。本発明において用いられる物理発泡剤は、化学反応を伴わずに温度変化や圧力変化によって膨張したガスにより樹脂を発泡させる発泡剤であり、熱分解型化学発泡剤によって内在させた微細気泡を成長させ、押出発泡において主な役割を担うものである。物理発泡剤は有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤のいずれも好適に使用できる。
【0029】
有機系物理発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン、1,2,2,2−テトラフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
【0030】
無機系発泡剤としては、水、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気等が挙げられる。上記の中でも、プロパン、ブタン類、ペンタン類、二酸化炭素が好ましく使用される。これらの発泡剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用される。
【0031】
物理発泡剤の添加量は、ポリ乳酸系樹脂に対する溶解度が比較的高い炭化水素などの有機系物理発泡剤を用いた場合、ポリ乳酸系樹脂組成物100質量部に対して、1〜8質量部が好ましく、特に好ましくは1〜4質量部である。
【0032】
ポリ乳酸系樹脂に対する溶解度の比較的低い二酸化炭素などの無機系物理発泡剤を用いた場合の添加量は、ポリ乳酸系樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜1.5質量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜0.6質量部である。いずれの場合も、上記の範囲より少なすぎると、十分に発泡せず、発泡倍率が小さいものとなる場合がある。加えて、十分な2次発泡性が得られず、得られる発泡体の2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5未満となる場合がある。一方、上記の範囲を超えて物理発泡剤が多すぎると、破泡が起こる場合や、発泡体内部で気泡の合体が起こり、後述の式(1)に示す発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比(気泡径比)が小さくなる場合がある。さらには、発泡体表面と繋がって閉じていない気泡(開放気泡)が生成して、十分な2次発泡性が得られず、型内発泡成形を行うことができない場合がある。
【0033】
通常、押出発泡において、ポリ乳酸系樹脂に対する溶解度が比較的低い二酸化炭素などの無機系物理発泡剤を用いた場合、ポリ乳酸系樹脂を押出発泡させることはできるものの、高発泡倍率でかつ2次発泡性にも優れた発泡体を得ることは困難である。しかしながら、本発明においては、上記したような熱分解型化学発泡剤も用いることにより、押出発泡で十分に発泡させることができると同時に、2次発泡性にも優れた発泡体を得ることが可能となる。
【0034】
また、本発明において、ポリ乳酸系樹脂組成物には、より微細な気泡を得る目的で、気泡調整剤が添加されていてもよい。気泡調整剤としては、例えば、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、珪酸カルシウム、シリカ、クエン酸ソーダ、炭酸カルシウム、珪藻土、焼成パーライト、ゼオライト、ベントナイト、ガラス、石灰石、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸第二鉄、ポリテトラフルオロエチレン粉末等が挙げられる。気泡調整剤は、分散性や目的とする気泡径との兼ね合いから、平均粒径が0.1〜100μmのものが好ましく、1〜20μmがさらに好ましい。
【0035】
気泡調整剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂組成物100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部が特に好ましい。0.01質量部未満であると、気泡調整剤を添加した効果が現れずに発泡体の気泡が粗大となり、後述の面積平均気泡径が大きくなる場合や、外観が損なわれる場合がある。一方、5質量部を超えると、押出発泡時に破泡が起こりやすくなるため独立気泡率が低下したり、外観が損なわれたりする場合がある。また、気泡調整剤の多くは結晶核剤としても働くため、過剰に添加した場合、ポリ乳酸の結晶化を過度に促進して2次発泡性および発泡成形性が損なわれる場合がある。
本発明では、主にポリ乳酸系樹脂組成物中の熱分解型化学発泡剤の添加量を調整することにより、発泡体の面積平均気泡径を調整することができる。
【0036】
発泡体の面積平均気泡径とは、各気泡の径の平均値を表すものである。発泡体を切断した場合に、切断面に現れた気泡は、球状である気泡の任意の箇所が切断されたものであるが、該気泡切断面の気泡径の2乗平均より算出されたものが面積平均気泡径である。面積平均気泡径は2次発泡性に関与するものであり、以下のようにして算出される。
【0037】
まず、押出発泡により得られた発泡体を液体窒素にて凍結させ、凍結した発泡体をTD方向に厚み100μmで、ミクロトームにより切断する。次いで、イオンスパッタ(日立ハイテク製、商品名「日立イオンスパッター E1030」)を用い、切断面にプラチナで5nmのスパッタコーティング処理を施す。スパッタコーティング処理条件は、真空度:8Pa、電圧:0.4kV、電流:15mA、時間:60秒、ガス:アルゴンとする。次いで、スパッタコーティング処理した切断面を、走査型電子顕微鏡(日立製作所製、商品名「S4000」)で観察し、すべての気泡の直径(気泡径)を計測する。なお、気泡が円形でなく楕円形の場合は、短径と直径の平均値を気泡径とする。また、切断面あたりの気泡径の数が200を超えた場合には、半円もしくは4分の1の切断面の気泡について、気泡径を計測する。そして、面積平均気泡径を下記式(ア)により算出する。
(ア) 面積平均気泡径=[(TD断面の気泡径)の和]/[TD断面の気泡径の和]
なお、TD方向とは、発泡体の押出方向に対して垂直方向をいい、TD断面とは、TD方向に発泡体を切断したときの断面を示すものである。
【0038】
本発明においては、面積平均気泡径は1〜200μmであることが必要であり、ガスの散逸がさらに抑制できるため1〜150μmであることが好ましく、1〜80μmであることがより好ましい。面積平均気泡径が200μmを超えると、気泡内のガスが散逸しやすくなることで2次発泡性が損なわれたり、発泡成形体の外観が損なわれたりする問題がある。一方、面積平均気泡径が1μm未満であると、発泡が十分でなく、発泡倍率の低いものとなり、2次発泡性にも劣るものとなる。
【0039】
本発明においては、発泡体断面(TD断面)は面積が等分となるように外側と内側に区分けされている。断面形状は、特に制限されるものではなくあらゆる形状を採用することができるが、例えば円形の場合には、区分けされた境界線から中心側を内側とし、区分けされた境界線から円周側を外側としている。なお、円形の場合は、TD断面の半径を100としたときの71の半径を有する同心円によってTD断面を区分けして、境界線から中心側を内側とし、境界線から円周側を外側とする。このとき、外側と内側の面積は等分である。
【0040】
本発明において、気泡径比は発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比であり、2次発泡性に関与するものである。
気泡径比は下記式(イ)により算出される。
(イ) 気泡径比=(発泡体のTD断面の外側の面積平均気泡径)/(発泡体のTD断面の内側の面積平均気泡径)
なお、上記式(イ)において、外側および内側の面積平均気泡径は上記式(ア)により求められるものである。
本発明において、主に熱分解型化学発泡剤の添加量を調整することにより気泡径を調整すると同時に、物理発泡剤の添加量を調整することで、気泡径比を0.6以上とすることができる。中でも、気泡径比は0.75以上であることが好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。気泡径比が0.6未満である場合には、発泡体製造時に破泡や気泡の合体が頻繁に起こっているため、2次発泡時に発泡体内部にガスが保持されず、十分な2次発泡性が得られないという問題がある。
【0041】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、前記した気泡調整剤のほか、発泡倍率の向上を目的として、本発明の効果を損なわない範囲において、発泡助剤を用いてもよい。発泡助剤としては、特に限定されず、例えば、低級アルコール、ケトン類、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0042】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、添加剤を添加することができる。添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、架橋剤、鎖延長剤、末端封鎖剤、充填材等が挙げられる。これらの添加剤は、一般的には溶融混練時、押出発泡時、または重合時に加えられる。
【0043】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ホスファイト系有機化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、またはこれらの混合物を使用することができる。
【0044】
結晶核剤としては、例えば、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、珪酸カルシウム、シリカ、クエン酸ソーダ、炭酸カルシウム、珪藻土、焼成パーライト、ゼオライト、ベントナイト、ガラス、石灰石、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸第二鉄、ポリテトラフルオロエチレン粉末等が挙げられる。
【0045】
末端封鎖剤としては、カルボジイミド、オキサゾリン、エポキシ化合物が挙げられる。
分散剤としては、流動パラフィン、ミネラルオイル、クレオソート油、潤滑油、シリコーンオイルなどの工業用オイル;コーン油、大豆油、菜種油、パーム油、亜麻仁油、ホホバ油などの植物油;イオン性またはノニオン性の界面活性剤などが挙げられる。
【0046】
充填材としては、無機充填材、有機充填材が挙げられる。無機充填材としては、タルク、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いられてもよいし2種類以上組み合わせて用いられてもよい。
【0047】
本発明の発泡体は、上記のような構成を有することにより、2次発泡性を有するものである。具体的には、本発明の発泡体は、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5以上であることが必要であり、2倍以上であることが好ましい。2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5未満であると、十分な2次発泡性を有しておらず、型内発泡成形等の2次発泡により十分に発泡した発泡体を得ることができない。
【0048】
本発明における2次発泡前後の発泡倍率の変化率とは、以下のように測定し、算出されるものである。
まず、発泡体を形成するポリ乳酸系樹脂組成物の質量と見かけ体積を測定し、該質量と見かけ体積より、ポリ乳酸系樹脂組成物の見かけ密度を算出する。
【0049】
次いで、ポリ乳酸系樹脂組成物を後述のように押出発泡に付し、発泡体を得る。そして、該発泡体の質量と見かけ体積を測定し、該質量と見かけ体積より、発泡体の密度を算出する。
【0050】
次に、発泡体(シート形状またはストランド形状の場合は、切断して粒子径1〜5mmの発泡粒子とする)に、耐圧容器内で30℃にて0.5MPaで二酸化炭素を内圧付与させた後、金型に充填せずに120℃の乾燥熱風中で加熱して2次発泡させる。2次発泡後の発泡体の質量と見かけ体積を測定し、該質量と見かけ体積より、2次発泡後の発泡体の見かけ密度を算出する。
【0051】
なお、本発明において見かけ体積は、湿式電子比重計を用いて測定されるものである。
そして、発泡倍率を以下の式より算出する。
・2次発泡前の発泡体の発泡倍率=(ポリ乳酸系樹脂組成物の見かけ密度)/(2次発泡前の発泡体の見かけ密度)
・2次発泡後の発泡体の発泡倍率=(ポリ乳酸系樹脂組成物の見かけ密度)/(2次発泡後の発泡体の見かけ密度)
その後、2次発泡前後の発泡体の発泡倍率から、下記式により、2次発泡前後の発泡倍率の変化率を算出する。
・2次発泡前後の発泡倍率の変化率=(2次発泡後の発泡体の発泡倍率)/(2次発泡前の発泡体の発泡倍率)
本発明の発泡体は、2次発泡性を有しているために、用途に合わせてさらに任意に発泡成形することができる。例えば、発泡体をストランド形状とし、該ストランド形状とされた発泡体を切断して、発泡粒子を作製する。次いで、得られた発泡粒子を型内発泡成形に供して、発泡成形体とすることができる。すなわち、本発明の発泡体から得られた発泡粒子を、型内発泡成形の金型内に充填し加熱することで、発泡体をさらに発泡(2次発泡)させて、本発明の成形体を得ることができる。
【0052】
本発明の発泡成形体は、本発明の発泡体を2次発泡させることで粒子同士を融着させるとともに、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度を高め、耐熱性、緩衝性、および機械的強度に優れ、加熱後も体積変化の少ない発泡成形体とすることができる。
【0053】
本発明の発泡体を型内発泡成形に供し2次発泡させる際には、発泡体の形状が粒子状であることが好ましい。粒子状であることにより、型内発泡成形工程において、発泡体を金型内に隙間無く充填することができる。発泡体を粒子状としたときの粒子径は、効率よく充填される観点から、1〜5mmが好ましく、より好ましくは1〜3mmである。
【0054】
発泡体を粒子状にする方法としては、押出発泡により発泡体をストランド形状とし、その後。ペレタイザ、ファンカッタ、ホットカッタなどを用いて切断する方法が挙げられる。
【0055】
また、本発明の発泡体の発泡倍率(2次発泡前の発泡体の発泡倍率)は、2〜100倍であることが好ましく、3〜100倍がより好ましく、3〜20倍がさらに好ましい。本発明の発泡体を2次発泡させることにより得られる発泡成形体の発泡倍率は、2〜100倍であることが好ましく、4〜100倍がより好ましく、4〜30倍がさらに好ましい。
【0056】
以下に、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法について説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体は、ポリ乳酸系樹脂組成物を押出発泡することにより得られるものである。本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法においては、ポリ乳酸系樹脂に熱分解型化学発泡剤添加した後、押出機に供給し、物理発泡剤の存在下にて押出発泡させる。
【0057】
上述したように、熱分解型化学発泡剤の添加量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.01〜3質量部とする必要があり、0.01〜2質量部がより好ましく、0.1〜1質量部がさらに好ましい。熱分解型化学発泡剤の添加量が多すぎると、物理発泡剤による発泡時の妨げとなる。一方、0.01質量部未満であると、押出発泡時に微細気泡を形成させることができず、2次発泡性を付与することができないため、得られる発泡体の2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5未満となる。
【0058】
上述したように、物理発泡剤の添加量は、ポリ乳酸系樹脂に対する溶解度が比較的高い炭化水素などの有機系物理発泡剤を用いた場合、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、1〜8質量部が好ましく、特に好ましくは1〜4質量部である。ポリ乳酸系樹脂に対する溶解度の比較的低い二酸化炭素などの無機系物理発泡剤を用いた場合の物理発泡剤の添加量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.1〜1.5質量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜0.6質量部である。いずれの場合も、物理発泡剤の添加量が上記の範囲より少なすぎると、十分に発泡せず、発泡倍率の小さい発泡体となる。加えて、十分な2次発泡性が得られず、得られる発泡体の2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5未満となる場合がある。一方、上記の範囲を超えて物理発泡剤の添加量が多すぎると、破泡が起こる場合や、発泡内部で気泡の合体が起こり、前述の式(イ)に示す発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比(気泡径比)が小さくなる場合がある。さらには、発泡体表面と繋がって閉じていない気泡(開放気泡)が生成して、十分な2次発泡性が得られず、得られる発泡体の2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5未満となる場合がある。
【0059】
発泡体の製造に用いる押出機としては、公知慣用の発泡押出機を好適に使用できる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、複数の押出機を連結させたタンデム型の押出機が挙げられる。押出機のバレル(円筒部、シリンダ)は、樹脂組成物を溶融させる部分(溶融ゾーン)と、得られた発泡体を冷却させる部分(冷却ゾーン)を有していることが好ましい。本発明においては、物理発泡剤を注入して含浸させる位置より下流側を冷却ゾーンとし、溶融ゾーンと冷却ゾーンとを合わせて20以上のL/Dであることが好ましく、より好ましくは30以上である。なお、ここで、Lは押出部(溶融ゾーンと冷却ゾーン)の長さを示し、Dは押出部の直径を示す。
【0060】
押出発泡の際の溶融温度は180〜230℃とすることが好ましい。また、破泡を防ぐ観点から、溶融ゾーンの温度を180〜230℃、冷却ゾーンの温度を130〜180℃、ダイス出口温度を140〜170℃とすることが好ましい。
【0061】
そして、押出発泡により、該ポリ乳酸系樹脂組成物をスリット状ノズルから押し出して発泡シート形状にしたり、丸型ノズルから押し出して発泡ストランド形状にしたりして、発泡体を得ることができる。さらに、該発泡シートや発泡ストランドを切断することで、本発明のポリ乳酸系樹脂発泡体の形状を粒子状にすることができる。中でも、取扱性の観点から、丸型ノズルから押し出して得られた発泡ストランドを切断して粒子状とすることが好ましい。
【0062】
また、発泡体を2次発泡させて発泡成形体を作製するためには、押出発泡直後の発泡体を速やかに冷却し、結晶化の進行を抑制することが好ましい。押出発泡直後の発泡体を冷却する方法としては、特に制限されず、水に浸けて冷却する方法、冷風を吹き付けて冷却する方法、冷却板と接触させて冷却する方法などが好ましく用いられる。
【0063】
本発明の発泡成形体は、本発明の発泡体を型内発泡成形させてなる発泡成形体であることが好ましい。型内発泡成形時(2次発泡時)の加熱媒体としては、乾燥熱風、水蒸気、幅射熱などが挙げられるが、熱量が大きいため加熱効率がよく結晶化を促進できる観点から、水蒸気を使用することが好ましい。
【0064】
型内発泡成形に用いる装置としては特に限定されず、公知のものを利用することができる。例えば、発泡ポリスチレン用成形機または発泡ポリオレフィン用成形機などが挙げられる。
【0065】
型内発泡成形時の加熱媒体の温度としては、加熱媒体の種類や金型の大きさにもよるが、2次発泡前の結晶化を防ぎながら、なおかつ収縮しないで2次発泡させる観点から、100〜170℃が好ましく、110〜140℃がさらに好ましい。
【0066】
さらに、本発明の発泡体には、型内発泡成形(2次発泡)に供する前に圧力容器内にて予め内圧付与することが好ましい。内圧付与することで発泡体はさらに高い2次発泡性を示し、成形時の発泡粒子同士の融着性が向上し、優れた機械的強度を有する発泡成形体を得ることができる。内圧付与に用いるガスとしては、空気、二酸化炭素、窒素などが挙げられる。内圧付与の圧力としては、気泡内へのガスの浸透効率と形状保持の観点から、0.1〜3MPaが好ましく、0.2〜1MPaがより好ましい。また、内圧付与する際の温度としては、変形防止および結晶化抑制の観点から、ポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。内圧付与の時間は、気泡内へのガス浸透効率の観点から、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。
【0067】
また、内圧付与した発泡体を50〜90℃で加熱して、金型に充填せずに2次発泡させてから、再び内圧付与して金型に充填して加熱することで、型内発泡成形してもよい(3次発泡)。この場合、2次発泡に用いる加熱媒体としては、結晶化を促進しにくい乾燥熱風を使用することが好ましい。
【0068】
本発明の発泡体および発泡成形体は、その軽量性、耐熱性、断熱性、耐衝撃性、クッション性、遮音性を生かして、包装材、梱包材、緩衝材、断熱材、保温材、保冷材、消音材、吸音材、防音材、制振材、建材、クッション材、資材、容器、などに利用することができる。その具体例としては、ソファ、ベッドマット、椅子、寝具、マットレス、電灯カバー、ぬいぐるみ、スリッパ、クッション、ヘルメット、カーペット、枕、靴、ポーチ、マット、クラッシュパッド、スポンジ、文具、玩具、DIY用品、パネル、畳芯材、マネキン、自動車内装部材、クッション、カーシート、デットニング、ドアトリム、サンバイザー、自動車用制振材、吸音材、スポーツ用マット、フィットネス用品、スポーツ用プロテクター、ビート板、グラウンドフェンス、レジャーシート、医療用マットレス、医療用品、介護用品、リハビリ用品、建築用断熱材、建築目地材、面戸材、建築養生材、反射材、工業用トレー、チューブ、パイプカバー、エアコン断熱配管、ガスケット芯材、コンクリート型枠、土木目地、つらら防止パネル、保護材、軽量土、盛土、人口土壌、梱包材・包装資材、梱包資材、ラッピング、生鮮品・野菜・果物等の梱包材・包装材、電子機器等の梱包材・緩衝包装材、生鮮品・野菜・果物等の保温・保冷箱、カップラーメン・弁当箱等の食品容器、食用トレー、飲料容器、農業用資材、発泡模型、スピーカ用振動板などが挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中の特性値の測定及び評価は以下のように行った。
(i)融点
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 商品名「DSC−7」)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
(ii)ひずみ硬化係数(a2/a1)(図1参照)
ポリ乳酸系樹脂を210℃でプレス成形することにより厚み1mmのシートを作製し、60mm×7mm×1mmのサイズで切断して試験片を得た。伸長粘度測定装置(レオメトリック社製 商品名「RME」)を用い、得られた試験片の両端を金属ベルトクランプにより支持した。次いで、ポリ乳酸系樹脂の融点よりも10℃高い温度で、ひずみ速度0.1sec−1で測定サンプルに伸長変形を加え、変形中にピンチローラーにかかる応力(単位:Pa)を検出し、伸長粘度(単位:Pa・s)を求めた。さらに、伸長時間と伸長粘度の両対数プロットにおいて、屈曲点が現れるまでの伸長初期の線形領域の傾きa1と屈曲点以降の伸長後期の傾きa2との比(a2/a1)を算出した。
(iii)溶融張力
前記の方法で測定した。
(iv)発泡倍率
用いたポリ乳酸系樹脂組成物、得られた発泡体、得られた発泡成形体の見かけ体積を、湿式電子比重計(アルファ・ミラージュ社製、商品名「EW−300SG」を用いて測定した。これらのポリ乳酸系樹脂組成物、発泡体、発泡成形体の質量を測定し、見かけ体積と質量から見かけ密度を算出した。そして、発泡倍率を以下の式より求めた。
・発泡体の発泡倍率=(ポリ乳酸系樹脂組成物の見かけ密度)/(発泡体の見かけ密度)
・発泡成形体の発泡倍率=(ポリ乳酸系樹脂組成物の見かけ密度)/(発泡体成形体の見かけ密度)
(v)発泡体の面積平均気泡径
前記の方法で測定し、算出した。
(vi)気泡径比
前記の方法で算出した。
(vii)2次発泡前後の発泡倍率の変化率
前記の方法で測定し、算出した。
(viii)型内発泡成形性の評価
型内発泡成形時の発泡成形体の粒子同士の融着性を、目視にて確認し、以下の基準で評価した。
○:良好に融着している。
△:一部融着しているが、形を維持できない。
×:融着せず、形をなしていない。
なお、上記評価において○であるものを、実用に耐え得るものであるとした。
(ix)加熱寸法安定性
得られた発泡成形体を、100℃で24時間、熱風乾燥機により加熱処理した。加熱処理前後の体積変化率を、以下の基準で評価した。
○:体積変化率が5%未満である
×:体積変化率が5%以上である
なお、体積変化率は以下の式より求めた。
体積変化率(%)=(Y−X)/X×100
X:加熱前の発泡成形体の体積
Y:加熱後の発泡成形体の体積
【0070】
[原料]
実施例および比較例において用いた各種原料を示す。
・ポリ乳酸系樹脂
A:発泡用結晶性ポリ乳酸(ユニチカ社製、商品名「HV−6250H」)
融点:165℃、D体:1.4%、ひずみ硬化係数:2.5、溶融張力110mN
B:射出成形用結晶性ポリ乳酸(ユニチカ社製、商品名「TE−6000」
融点:165℃、D体:1.4%、ひずみ硬化係数:1.8、溶融張力:50mN
・熱分解型化学発泡剤
C:アゾジカルボンアミド(永和化成工業社製、商品名「ビニホール AC♯1C」)
分解温度:199℃、メジアン径:7μm
D:アゾジカルボンアミド(永和化成工業社製、商品名「ビニホール AC♯3」)
分解温度:208℃、メジアン径:17μm
E:N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(永和化成工業社製、商品名「セルラー L−70」分解温度205℃
・物理発泡剤
F:二酸化炭素
G:ノルマルブタン
・気泡調整剤
H:微粉タルク(林化成社製、商品名「MW−HST」、平均粒径:2.5μm)
【0071】
実施例1
二軸押出発泡機(池貝社製、商品名「PCM−30」、スクリュー径:29mm、L/D:30、ノズル直径:0.8mm、孔数:30孔、溶融ゾーン温度(溶融温度):210℃、冷却ゾーン温度:135〜160℃、ダイス出口温度:155℃)を用い、表1に示す添加量となるように、ポリ乳酸系樹脂Aと熱分解型化学発泡剤Cを供給し、押出機途中から物理発泡剤Fを液化炭酸ガス注入装置(昭和炭酸社製)を用いて、表1に示す添加量となるように注入した。そして、得られたポリ乳酸系樹脂組成物を吐出速度12kg/hで押し出し、ノズルから押出発泡させてストランド形状の発泡体を製造した。ストランド形状の発泡体を水に浸して冷却した後、ペレタイザにより粒子状に加工し、直径2mmの発泡粒子を得た。このとき得られた発泡粒子の発泡倍率は4倍であった。
【0072】
得られた発泡粒子を圧力容器に入れて、二酸化炭素を0.5MPaとなるように充填し、30℃にて1時間内圧付与した。圧力容器から取り出した発泡粒子を直ちに金型内に充填し、120℃の水蒸気で加熱して型内発泡成形を行い、発泡成形体を得た。このとき得られた発泡成形体の発泡倍率は7倍であった。
【0073】
実施例2
実施例1で得られた発泡粒子を圧力容器内に入れて、二酸化炭素を0.5MPaとなるように充填して、30℃にて1時間内圧付与した。その後発泡粒子を70℃にて2分間熱風加熱して2次発泡させてから、再度30℃にて1時間内圧付与した。次いで、圧力容器から取り出した発泡粒子を直ちに金型内に充填し、120℃の水蒸気で加熱して型内発泡成形(3次発泡)を行い、発泡成形体を得た。
【0074】
実施例3〜20、比較例1〜9
ポリ乳酸系樹脂の種類、熱分解型化学発泡剤の種類、物理発泡剤の種類、これらの添加量および気泡調整剤の有無を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして発泡体および発泡成形体を得た。
【0075】
実施例及び比較例で得られた発泡体および発泡成形体についての評価を表1および表2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

表1から明らかなように、実施例1〜20のポリ乳酸系樹脂組成物から得られる発泡体は、面積平均気泡径が小さく、気泡径比も大きく、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5以上であったので、2次発泡性に優れ、型内発泡成形性に優れた発泡成形体を得ることができた。そして、得られた発泡成形体は加熱後の体積変化が少なく寸法の安定したものであり、外観も良好であった。
【0078】
比較例1のポリ乳酸系樹脂組成物中には熱分解型化学発泡剤が添加されていなかったため、得られた発泡体は図3で示すように面積平均気泡径が大きいものとなり、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく発泡成形体を作製できなかった。
【0079】
比較例2では、ポリ乳酸系樹脂組成物中の物理発泡剤の添加量が多すぎたため、得られた発泡体は図4で示すように破泡が多く、気泡径比が小さく、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく発泡成形体を作製できなかった。
【0080】
比較例3では、ポリ乳酸系樹脂組成物中の物理発泡剤の添加量が少なすぎたため、得られた発泡体は面積平均気泡径が小さく、気泡径比も0.6以上であるにもかかわらず、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく型内発泡成形性に劣るものであった。
【0081】
比較例4では、ポリ乳酸系樹脂組成物中に熱分解型化学発泡剤が添加されていないため、気泡調整剤を添加しても2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく、泡成形体を作製できなかった。
【0082】
比較例5では、ポリ乳酸系樹脂組成物中の熱分解型化学発泡剤の添加量が多すぎたため、発泡を阻害し、得られた発泡体は十分に発泡せず(発泡倍率が小さく)、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく発泡成形体を作製できなかった。
【0083】
比較例6では、ポリ乳酸系樹脂組成物中の熱分解型化学発泡剤の添加量が少なすぎたため、得られた発泡体は面積平均気泡径が大きくなり、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく発泡成形体を作製できなかった。
【0084】
比較例7では、ポリ乳酸系樹脂組成物中の熱分解型化学発泡剤および物理発泡剤の添加量が少なすぎたため、得られた発泡体は十分に発泡せず(発泡倍率が小さく)、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく発泡成形体を作製できなかった。
【0085】
比較例8では、ポリ乳酸系樹脂組成物中の熱分解型化学発泡剤および物理発泡剤の添加量がともに多すぎるため、破泡が多く、気泡径比が小さく、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく、発泡成形体を成形できなかった。
【0086】
比較例9では、ポリ乳酸系樹脂組成物中に物理発泡剤を添加しなかったため、得られた発泡体は十分に発泡せず(発泡倍率が小さく)、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が小さいものとなった。このため、2次発泡性に乏しく発泡成形体を作製できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリ乳酸系樹脂、熱分解型化学発泡剤、および物理発泡剤からなるポリ乳酸系樹脂組成物を押出発泡させて得られたポリ乳酸系樹脂発泡体であって、該ポリ乳酸系樹脂発泡体の面積平均気泡径が1〜200μmであり、かつ該ポリ乳酸系樹脂発泡体断面の外側の面積平均気泡径と内側の面積平均気泡径の比が0.6以上であり、2次発泡前後の発泡倍率の変化率が1.5以上であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項2】
熱分解型化学発泡剤がアゾ化合物からなることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項3】
形状が粒子状であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸系樹脂発泡体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸系樹脂発泡体を型内発泡成形させてなる発泡成形体。
【請求項5】
請求項1〜3に記載の発泡体を製造する方法であって、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、熱分解型化学発泡剤0.01〜3質量部を押出機に供給し、物理発泡剤の存在下にて押出発泡することを特徴とするポリ乳酸系樹脂発泡体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−68734(P2011−68734A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219841(P2009−219841)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】