説明

ポリ乳酸系樹脂組成物および成形体

【課題】高温高湿度下においても長期使用に耐えうる耐加水分解性および耐久性に優れた樹脂組成物およびその成形体を提供する。
【解決手段】本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、モノカルボジイミド化合物0.1〜10質量部および雲母0.1〜20質量部を含有することを特徴とする。また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物はさらにホホバ油が含有されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高湿度下で長期使用に耐えうる耐加水分解性および耐久性を有するポリ乳酸系樹脂組成物およびそれにより得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の高まりから、ポリ乳酸樹脂に代表される生分解性を有する各種の脂肪族ポリエステル樹脂が注目されている。脂肪族ポリエステル樹脂のなかでも、ポリ乳酸樹脂は、透明性が良好で、かつ最も耐熱性が高い樹脂の一つであり、また、トウモロコシやサツマイモ等の植物由来原料から大量生産可能なためコストが安く、さらに石油原料の使用量削減にも貢献できることから、有用性が高い。
【0003】
しかし、ポリ乳酸樹脂には、長期使用時の耐加水分解性および耐久性が低いという欠点がある。特に高温高湿度下においてはこの傾向が非常に顕著である。ポリ乳酸樹脂の加水分解反応は、分子鎖末端のカルボキシル基が触媒として進行し、特に高温高湿度下ではそれが加速度的に進行する。そのため、ポリ乳酸樹脂単体で作製した成形体は、長期使用時の耐加水分解性、高温高湿度下の保存安定性が不十分で、長期使用や高温高湿度条件での使用による劣化に伴う強度や分子量の低下などが問題となり、長期使用や高温高湿条件での使用には耐えられなかった。また、ポリ乳酸樹脂単体で作製した成形体は、高温高湿度下における長期間の使用において、ひび割れ、ブリードアウト、変形などの問題が発生し、耐久性の面においても実用に耐えうるものではなかった。
【0004】
この問題を解決する方法として、特許文献1には、ポリ乳酸樹脂の分子鎖末端のカルボキシル基を、特定のカルボジイミド化合物で封鎖することで、耐加水分解性を向上させる技術が開示されている。しかし、この方法では、耐加水分解性はかなり向上するが、夏場の車中等より過酷な条件では耐加水分解性および耐久性は不十分であった。
【0005】
また、特許文献2には、ポリ乳酸系樹脂にカルボジイミド化合物や層状珪酸塩、疎水性ワックス等の加水分解防止剤を添加することによって、湿熱耐久性を改良することが記載されている。しかしながら、この方法は、温度85℃、相対湿度85%の条件下で、30時間という非常に低いレベルでの評価であり、長期間での耐加水分解性および耐久性は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−261797号公報
【特許文献2】特開2002−309074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、耐加水分解性および耐久性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物およびそれにより得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂にモノカルボジイミド化合物と雲母(マイカ)とを併用したポリ乳酸系樹脂組成物において、予測できないほど耐加水分解性および耐久性が大きく向上することを見出し、かかる知見に基づき本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、モノカルボジイミド化合物0.1〜10質量部および雲母(マイカ)0.1〜20質量部を含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
(2)雲母(マイカ)が膨潤性雲母または非膨潤性雲母であることを特徴とする上記(1)のポリ乳酸系樹脂組成物。
(3)ホホバ油を含むことを特徴とする上記(1)または(2)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(4)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、ホホバ油の含有量が0.1〜10質量部であることを特徴とする上記(3)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形体。
(6)70℃、相対湿度95%の条件下で2000時間保持した時の曲げ強度保持率が80%以上であることを特徴とする上記(5)の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐加水分解性および耐久性に非常に優れたポリ乳酸系樹脂組成物を得ることが可能であり、該ポリ乳酸系樹脂組成物は各種の成形体として、様々な用途に好適に利用することができる。さらに、ポリ乳酸は植物由来とすることができるため、環境負荷の低減と石油資源の枯渇防止に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)は、ポリ乳酸樹脂、モノカルボジイミド化合物および雲母を含有している。
【0012】
ポリ乳酸樹脂は植物由来原料の中でも、成形性、透明性、耐熱性に優れる。ポリ乳酸樹脂としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体、ステレオコンプレックス共晶体などを挙げることができる。
【0013】
また、用いるポリ乳酸は、工業的な生産の容易さを考慮すると、L/D比=0.05/99.95〜99.95/0.05(mol%)のものが好ましく、この範囲内であれば特に制限なく使用できるが、結晶性のものがより耐加水分解性に優れることから、結晶性を向上させるために、L/D比=0.05/99.95〜5/95(mol%)、もしくは、L/D比=99.95/0.05〜95/5(mol%)の範囲とすることがより好ましい。
【0014】
ポリ乳酸樹脂は公知の溶融重合法で、あるいは必要に応じてさらに固相重合法を併用して製造される。
本発明において、ポリ乳酸樹脂の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)が5万〜30万の範囲であれば好ましく使用することができ、より好ましくは8万〜25万、さらに好ましくは10万〜20万の範囲である。重量平均分子量が25万を超えると溶融粘度が高くなり、溶融混練や成形加工など操業上、樹脂組成物の流動性が悪くなり、操業性が悪化するという問題があり、一方、8万未満であると機械的物性や耐熱性が悪化するという問題がある場合がある。重量平均分分子量(Mw)は、示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置を用いて、テトラヒドロフランを溶出液として、40℃において標準ポリスチレン換算で求めた値である。
【0015】
また、溶融粘度を指標として用いる場合には、ポリ乳酸樹脂の190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローインデックス(MFI)が0.1〜50g/10分であれば好ましく使用することができ、より好ましくは0.2〜40g/10分である。メルトフローインデックスが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形体の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。メルトフローインデックスが0.1g/10分未満の場合は、成形加工時の負荷が高くなりすぎ操業性が低下する場合がある。上記のメルトフローインデックスを所定の範囲に制御する方法として、メルトフローインデックスが大きすぎる場合には、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が使用できる。逆に、メルトフローインデックスが小さすぎる場合には、メルトフローインデックスの大きな生分解性ポリエステル樹脂などの低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0016】
また、本発明において、ポリ乳酸の融点は、操業性および加工性の観点から140〜240℃が好ましく、より好ましくは150〜220℃である。
本発明に用いるポリ乳酸樹脂は、公知慣用の方法により、一部が架橋されていてもよく、また、エポキシ化合物などで修飾(すなわち、グラフト重合)されていてもよい。
【0017】
本発明において用いられるモノカルボジイミド化合物は、同一分子内に1個のカルボジイミド基を有するものである。モノカルボジイミド化合物の具体例としては、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリルカルボジイミド、p−フェニレンービス−ジ−o−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロへキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロへキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N´−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N´−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N´−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N´−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N´−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N´−トリルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミドなどが挙げられる。これらカルボジイミド化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、本発明においては、耐加水分解性、耐久性、物性維持、外観の維持などの観点から、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましい。
【0018】
モノカルボジイミド化合物の配合量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜8質量部である。0.1質量部未満では本発明の目的とする長期の耐湿熱性や外観の安定性が得られず、10質量部を超えると強度低下などの、他の物性に悪影響を与える。
【0019】
ポリ乳酸樹脂の加水分解反応は、該ポリ乳酸樹脂の分子鎖末端のカルボキシル基が多く残存しているほど早く進行する。そのため、樹脂組成物中のカルボキシル基濃度(以下、[COOH]と表記する場合がある)が低いほど、耐加水分解性を向上させるには好ましい。カルボキシル基濃度としては、3.0mol/ton以下であることが好ましく、1.5mol/ton以下であることがさらに好ましく、1.0mol/ton以下であることが最も好ましい。樹脂組成物中のカルボキシル基濃度を適切な範囲に制御する方法として、モノカルボジイミド化合物中のカルボジイミド基濃度や、モノカルボジイミド化合物の添加量を適宜調整する方法が挙げられる。なお、上記カルボキシル基濃度の測定方法としては、滴定法や核磁気共鳴法(NMR)などが挙げられる。
【0020】
本発明における雲母としては、非膨潤性雲母、膨潤性雲母のいずれも好適に用いられる。非膨潤性雲母とは水と接触しても変化を起こさないタイプの雲母である。一方、膨潤性雲母とは、水と接触すると結晶の層間に水分子を吸着して膨潤する特徴を有する雲母である。
【0021】
非膨潤性雲母としては、フッ素金雲母、Ca型四珪素雲母などが挙げられる。膨潤性雲母としては、Na型四珪素雲母、Na型テニオライト、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライトなどが挙げられる。上記の中でも、特にフッ素金雲母、Na型四珪素雲母等が好ましい。
【0022】
雲母としては天然品を好適に用いることができるが、天然品以外に合成品を用いてもよい。
合成雲母の一般式は、次式で表される。
1/3〜12〜3(Z10)F1.5〜2.0
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca2+、Rb2+及びSr2+からなる群から選ばれる1種以上のイオンを表す。YはMg2+、Fe2+、Ni2+、Mn2+、Al3+、Fe3+及びLiからなる群から選ばれる1種以上のイオンを表す。ZはAl3+、Si4+、Ce4+、Fe3+及びB3+からなる群から選ばれる1種以上のイオンを表す。)
上記の合成雲母が膨潤性雲母である場合には、層間に1級〜4級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、またはホスホニウムイオンが結合しているものが好ましい。
【0023】
本発明における合成雲母としては、例えば次の化合物が挙げられる。下記組成は、代表的な組成であり、これらの中間の組成を有するものも使用することができる。
KMg(AlSi10)F フッ素金雲母
KMg2.5(Si10)F Ca型四珪素雲母
KMgLi(Si10)F Caテニオライト
2/3Mg7/3Li2/3(Si10)F
NaMg(AlSi10)F Na型金雲母
NaMgLi(Si10)F Na型テニオライト
NaMg21/2(Si10)F Na型四珪素雲母
これらの雲母は、単独で使用してもよいし、鉱物の種類、産地、粒径等が異なるものを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0024】
雲母の配合量としては、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部であることが必要であり、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜8質量部である。0.05質量部未満では、本発明の目的とする耐熱性の向上効果が得られない。また、20質量部を超える場合には、耐湿熱性の悪化や、成形加工性の低下をきたす場合がある。
【0025】
雲母を合成する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、溶融法、インターカレーション法、水熱法等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、モノカルボジイミド化合物および雲母を併用することで、耐加水分解性および耐久性を付与されているが、より顕著に耐加水分解性および耐久性を向上させるため、さらにホホバ油が含有されていることが好ましい。ホホバ油とは、天然のホホバ(学名:Simmondasia Chinensis)の種子からの圧搾、蒸留により採取したエステルであり、高級不飽和脂肪酸と高級不飽和アルコールとから構成される。ホホバは、米国西南部(アリゾナ州、カリフォルニア州)及びメキシコ北部(ソノーラ、バハ地方)の乾燥地帯に自生する常緑性の灌木である。ホホバは雌雄異株で、樹高60〜180cmでなかには3mに達するものもある。現在は、米国、メキシコの他、イスラエル、オーストラリア、アルゼンチン等の乾燥地帯で栽培されている。
【0026】
本発明において用いられるホホバ油の具体例としては、上述のように種子から圧搾、蒸留したものをそのまま使用した精製ホホバ油、精製ホホバ油を水素添加することにより固体とした水素添加ホホバ油、そのほか液状のホホバアルコール、あるいはクリーム状のホホバクリームなど、樹脂に混合できるものであればいずれのものでもよい。
【0027】
ホホバ油の沸点は420℃と高いため、高温を必要とする樹脂の溶融混練等の際に混合しても、樹脂組成物中に安定して存在する。
ホホバ油の配合量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.1〜4質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。配合量が0.1質量部未満であると、耐加水分解性向上が十分でない場合がある。一方、配合量が10質量部を超えると成形体としたときに、該成形体からホホバ油がブリードアウトして物性が著しく低下する場合や、耐加水分解性が阻害される場合があるため好ましくない。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートおよびそれらの共重合体等の非生分解性樹脂を添加してもよい。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、熱安定剤や酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、分散剤等の添加剤を添加することができる。
【0030】
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえば、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
充填材としては、無機充填材と有機充填材が挙げられる。無機充填材としては、タルク、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト化合物、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品などが挙げられる。
【0031】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、モノカルボジイミド化合物、雲母、ホホバ油をポリ乳酸の重合時に添加する方法、モノカルボジイミド化合物、雲母、ホホバ油をポリ乳酸樹脂とともに溶融混練する方法、モノカルボジイミド化合物、雲母、ホホバ油を成形時に添加する方法などが挙げられる。なかでも、操業性の観点から、溶融混練時または成形時に添加する方法が好ましい。なお、溶融混練や成形時に添加する場合には、各種樹脂と予めドライブレンドしておいてから、一般的な混練機や成形機に供給する方法や、サイドフィーダーを用いて溶融混練の途中から添加する方法などが挙げられる。また、ホホバ油として精製ホホバ油を用いる場合は、液状であるため、加熱定量送液装置などを用いて混練の途中から添加する方法が好ましい。
【0032】
熱安定剤などの添加剤は、一般に溶融混練時あるいは重合時に加えられる。
溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができる。混合均一性や分散性を高める観点からは二軸押出機を使用することが好ましい。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の大きな欠点であった高温高湿度下での長期使用時の耐久性が大幅に改善されている。そのため、各種成形体とした場合に、従来の生分解性を有するポリ乳酸樹脂では実用化において耐久性が不十分であった用途にも使用することができる。例えば、夏場の自動車内での高温高湿度下の過酷な状況でも、保存安定性に優れ、劣化に伴う強度低下や、分子量低下などが起きない。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形など公知の成形方法により、各種成形体とすることができる。
射出成形法としては、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等を採用できる。本発明において、好適な射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度はポリ乳酸樹脂の融点(Tm)または流動開始温度以上であり、好ましくは180〜230℃、最適には190〜220℃の範囲である。シリンダ温度が低すぎると、樹脂の流動性の低下により成形不良や装置の過負荷に陥りやすい。逆にシリンダ温度が高すぎるとポリ乳酸樹脂が分解し、成形体の強度低下、着色等の問題が発生するため好ましくない。
【0035】
また、本発明において、射出成形の際の金型温度については、樹脂組成物のTg(ガラス転移温度)以下とする場合には、好ましくは(Tg−10)℃以下である。また、成形体の剛性、耐熱性向上を目的として結晶化を促進するためにTg以上、(Tm−30)℃以下とすることもできる。
【0036】
ブロー成形法としては、例えば、原料チップから直接成形を行うダイレクトブロー法や、まず射出成形で予備成形体(有底パリソン)を成形後にブロー成形を行う射出ブロー成形法、さらには延伸ブロー成形法等が挙げられる。また、予備成形体を成形後に連続してブロー成形を行うホットパリソン法、いったん予備成形体を冷却し取り出してから再度加熱してブロー成形を行うコールドパリソン法のいずれの方法も採用できる。
【0037】
押出成形法としては、Tダイ法、丸ダイ法等を適用することができる。押出成形温度は原料のポリ乳酸樹脂の融点または流動開始温度以上であることが必要であり、好ましくは180〜230℃、さらに好ましくは190〜220℃の範囲である。成形温度が低すぎると操業が不安定になるという問題や、過負荷に陥りやすいという問題がある。逆に成形温度が高すぎるとポリ乳酸樹脂が分解し、押出成形体の強度低下や着色等の問題が発生するため好ましくない。押出成形によりシートやパイプ等を作製することができる。
【0038】
押出成形法により得られたシートまたはパイプの具体的用途としては、深絞り成形用原反シート、バッチ式発泡用原反シート、クレジットカード等のカード類、下敷き、クリアファイル、ストロー、農業・園芸用硬質パイプ等が挙げられる。また、シートは、さらに、真空成形、圧空成形及び真空圧空成形等の深絞り成形を行うことで、食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターパック容器及びプレススルーパック容器などを製造することができる。深絞り成形温度及び熱処理温度は、(Tg+20)℃〜(Tg+100)℃であることが好ましい。深絞り温度が(Tg+20)℃未満では深絞りが困難になり、逆に深絞り温度が(Tg+100)℃を超えるとポリ乳酸樹脂が分解し偏肉が生じたり、配向がくずれて耐衝撃性が低下したりする場合がある。食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターパック容器、及びプレススルーパック容器の形態は特に限定されないが、食品、物品及び薬品等を収容するためには、深さ2mm以上に深絞りされていることが好ましい。容器の厚さは特に限定されないが、強力の点から、50μm以上であることが好ましく、150〜500μmであることがより好ましい。食品用容器の具体例としては、生鮮食品のトレー、インスタント食品容器、ファーストフード容器、弁当箱等が挙げられる。農業・園芸用容器の具体例としては、育苗ポット等が挙げられる。また、ブリスターパック容器の具体例としては、食品以外にも事務用品、玩具、乾電池等の多様な商品群の包装容器が挙げられる。
【0039】
上記のような成形法を用いて成形された成形体の具体的な使用例を以下に示す。
本発明の樹脂組成物を成形して得られる成形体は、その優れた特性を活かして自動車用部品に特に適する。上記自動車用部品の具体例としては、インストルメントパネル、トリム、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、コンソールボックス、トランクカバー、スペアタイヤカバー、天井材、床材、内板、シート材、ドアパネル、ドアボード、ステアリングホイール、バックミラーハウジング、エアーダクトパネル、ウィンドモールファスナー、スピードケーブルライナー、サンバイザーブラケット、ヘッドレストロッドホルダー、各種モーターハウジング、各種プレート、各種パネルなどが挙げられる。
【0040】
また、他にも耐久性を有する事務機器、家電製品などの筐体、各種部品などの用途に好適に用いることができる。事務機器の具体例としては、プリンター、複写機、ファックスなどのケーシングにおけるフロントカバー、リアカバー、給紙トレイ、排紙トレイ、プラテン、内装カバー、トナーカートリッジなどが挙げられる。他にも、電気・電子部品、医療、食品、家庭・事務用品、OA機器、建材関係部品、家具用部品など耐久性を必要とする各種用途に好適に用いることができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物を用いて製造されるその他の成形品としては、皿、椀、鉢、箸、スプーン、フォーク、ナイフ等の食器;流動体用容器;容器用キャップ;定規、筆記具、クリアケース、CDケース等の事務用品;台所用三角コーナー、ゴミ箱、洗面器、歯ブラシ、櫛、ハンガー等の日用品;植木鉢、育苗ポット等の農業・園芸用資材;プラモデル等の各種玩具類等が挙げられる。なお、流動体用容器の形態は特に限定されないが、流動体を収容するためには深さ20mm以上に成形されていることが好ましい。容器の厚さは特に限定されないが、強力の点から、0.1mm以上であることが好ましく、0.1〜5mmであることがより好ましい。流動体用容器の具体例としては、乳製品や清涼飲料水及び酒類等の飲料用コップ及び飲料用ボトル;醤油、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、食用油等の調味料の一時保存容器;シャンプー・リンス等の容器;化粧品用容器;農薬用容器等が挙げられる。
【0042】
本発明の樹脂組成物は繊維とすることもできる。該繊維の製造方法は特に限定されないが、例えば、溶融紡糸し延伸する方法が好ましい。溶融紡糸温度としては、160℃〜260℃が好ましく、170℃〜230℃がより好ましい。160℃未満では溶融押出が困難となる場合があり、一方、260℃を超えると、樹脂の分解が顕著となり、高強度の繊維を得ることが困難な場合がある。溶融紡糸した繊維糸条は、目的とする強度や伸度となるようにTg以上の温度で延伸させるとよい。
【0043】
上記方法により得られた繊維は、衣料用繊維、産業資材用繊維、短繊維不織布などとして利用される。
本発明の樹脂組成物は長繊維不織布に展開することもできる。その製造方法は特に限定されないが、樹脂組成物を高速紡糸法により繊維を堆積した後ウェブ化し、さらに熱圧接等の手段を用いて布帛化することにより得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
[原料]
以下に、実施例及び比較例において用いた各種原料を示す。
(1)ポリ乳酸樹脂
・ポリ乳酸1(以下、PLA1と称する場合がある)
ネイチャーワークス社製、商品名「Nature Works 4032D」
{L体/D体:98.6/1.4(mol%)、重量平均分子量(Mw):170,000、融点:170℃、MFI:2.5g/10分(190℃、荷重2.16kg)、[COOH]:22mol/ton}
・ポリ乳酸2(以下、PLA2と称する場合がある)
ネイチャーワークス社製、商品名「Nature Works 4060D」
{L体/D体:88/12(mol%)、重量平均分子量(Mw):176,000、融点:なし、流動開始温度:150℃〜190℃、MFI:11.6g/10分(190℃、荷重2.16kg)、[COOH]:19mol/ton}
(2)カルボジイミド化合物
・N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、CD1と称する場合がある)
松本油脂社製、商品名「EN160」
・N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、CD2と称する場合がある)
ラインケミ−社製、商品名「スタバックゾールI」
・脂肪族系ポリカルボジイミド(以下、CD3と称する場合がある)
日清紡ケミカル社製、商品名「LA−1」
・ポリカルボジイミド(以下、CD4と称する場合がある)
ラインケミー社製、商品名「スタバックゾール P−100」
(3)雲母(マイカ)
・非膨潤性ミクロマイカ(以下、Aと称する場合がある)
コープケミカル社製、商品名「MK−100」
・非膨潤性雲母(フッ素金雲母)(以下、Bと称する場合がある)
トピー工業社製、商品名「PDM−800」
・膨潤性雲母(Na四珪素雲母)(以下、Cと称する場合がある)
トピー工業社製、商品名「DMA−350」
・膨潤性雲母(以下、Dと称する場合がある)
コープケミカル社製、商品名「ソマシフME−100」
(4)無機フィラー
・合成スメクタイト(以下、Eと称する場合がある)
コープケミカル社製、商品名「ルーセンタイトSWF」
・合成スメクタイト(以下、Fと称する場合がある)
コープケミカル社製、商品名「ルーセンタイトSWN」
・非水系有機ベントナイト(層間イオンがジオクタデシルジメチルアンモニウムイオンで置換されているモンモリロナイト)(以下、Gと称する場合がある)
ホージュン社製、商品名「エスベンW」
・焼成カオリン(ビニルシラン表面処理品)(以下、Hと称する場合がある)
白石カルシウム社製、商品名「ST−KE」
(5)精製ホホバ油
香栄工業社製、商品名「精製ホホバ油」
[評価方法]
以下に、実施例及び比較例の評価に用いた測定法を示す。
(1)曲げ破断強度
樹脂組成物を射出成形して、(5インチ)×(1/2インチ)×(1/8インチ)の成形片を得た。結晶核剤を添加していない樹脂組成物を用いる場合には、射出成形の際に、成形時の金型温度を15℃として、結晶化させずに成形片を得、これをアニール処理したものを試験片とした。炭酸カルシウムなどの結晶核剤を添加するなどの方法により、結晶化促進処方を施した樹脂組成物を用いる場合は、射出成形の際に、成形時の金型温度を110℃とし、金型内部で1分間結晶化させて成形片を得、これを試験片とした。次いで、ASTM−790に準じて変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ破断強度を測定した。試験片の作製条件を以下に示す。
(射出成形条件)
装置:射出成形機(東芝機械社製、商品名「IS−80G型」)
シリンダ温度:160〜190℃
金型温度:15℃(結晶核剤を添加しない場合)、110℃×1分間(結晶核剤を添加した場合)
金型の規格:ASTM規格、1/8インチ3点曲げ試験片用金型
(アニール処理条件)
120℃のオーブン中で30分間加熱し、アニール処理を行った。
(2)湿熱試験
恒温恒湿器(ヤマト科学社製、商品名「IG400型」)を用い、上記(1)の曲げ破断強度測定と同様に作製した試験片を、温度70℃、相対湿度95%の環境下に保存することにより湿熱処理を施した。保存時間(湿熱処理時間)を、500時間、1000時間、1500時間、1680時間、1848時間、2000時間とし、それぞれの処理時間、湿熱処理を施した試験片を回収し、ASTM−790に準じて変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ破断強度を測定した。以下の式に基づいて、曲げ強度保持率を算出した。
曲げ強度保持率(%)=(湿熱処理後の曲げ強度)/(湿熱処理前の曲げ強度)×100
(3)外観評価
上記(1)の曲げ破断強度測定と同様に作製した試験片(0時間後)、上記(2)の湿熱処理を500時間、1000時間、1500時間、1680時間、1848時間、2000時間施した試験片の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:全く変化なし。
○:表面が若干白化した。
△:表面が粉状に変質した。
×:ひび割れ、またはブリードアウトが発生、または変形した。
本発明においては、○以上が実用に耐えうるものであるとする。
【0045】
(実施例1)
100質量部のPLA1、4質量部のCD1と、0.5質量部の雲母Aとをドライブレンドした後、二軸押出機(池貝社製、商品名「PCM−30型」)を用いて、温度190℃、スクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練した。溶融混練の後0.4mm径×3孔のダイスよりストランドを押出してペレット状にカッティングし、真空乾燥機(ヤマト科学社製、商品名「真空乾燥機DP83」)にて、温度60℃で48時間乾燥処理し樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を射出成形して、(5インチ)×(1/2インチ)×(1/8インチ)の成形片を作製し、評価に付した。評価結果を表1に示した。
(実施例2〜4)
雲母AをB、C、Dにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表1に示した。
(実施例5)
CD1をCD2に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表1に示した。
(実施例6)
PLA1をPLA2に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表1に示した。
(実施例7)
CD1をCD2に変更した以外は、実施例6と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表1に示した。
(実施例8〜15)
CD1の配合量を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表1に示した。
(実施例16〜23)
Aの配合量を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表2に示した。
(実施例24)
精製ホホバ油0.1質量部を添加した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表2に示した。
(実施例25〜27)
精製ホホバ油の配合量を表2に示したように変更した以外は実施例24と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表2に示した。
(比較例1)
雲母を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例2)
モノカルボジイミド化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例3〜5)
AをB、C、Dにそれぞれ変更した以外は、比較例2と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例6〜7)
CD1をCD3、CD4にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例8)
Aの配合量を0.05質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例9)
CD1とAの配合量を表3に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例10)
CD1の配合量を12質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例11〜14)
Aを無機フィラーE〜Hに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
(比較例15)
雲母を用いなかったこと以外は、実施例26と同様にして樹脂組成物を作製し、同様の方法で評価した。評価結果を表3に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表1、2の実施例1〜23より、ポリ乳酸樹脂、モノカルボジイミド化合物、雲母を特定の割合で配合した樹脂組成物は、耐加水分解性が大幅に向上していることがわかった。また、全ての実施例において、良好な外観を、比較例より長期間保持することができ、耐久性も向上している。
【0050】
また、表2の実施例24〜27より、ポリ乳酸樹脂、モノカルボジイミド化合物、雲母および精製ホホバ油を用いた樹脂組成物は、70℃、相対湿度95%の条件下においても、2000時間経過後も曲げ強度保持率が95%以上であり、耐加水分解性がさらに大きく向上している。
【0051】
比較例1では、雲母を用いなかったため、1500時間経過後に曲げ強度保持率が急速に低下し、ひび割れが発生するなどの問題があった。そのため、高温高湿度下での実用化には耐加水分解性および耐久性が不十分である。
【0052】
比較例2〜5では、モノカルボジイミド化合物を用いなかったため、強度が不足し、曲げ破断強度を測定することができなかった。そのため実用化は困難である。
比較例6および7では、ポリカルボジイミド化合物を用いているため、500時間内に曲げ強度保持率が低下しており、耐久性向上に効果がなく、外観も悪化しており、モノカルボジイミド化合物を用いた場合と比較すると、耐加水分解性及び耐久性が大幅に劣るものであった。
【0053】
比較例8は雲母の配合量が過少であったため、1500時間経過後に曲げ強度保持率が急速に低下し、外観も悪化した。そのため、高温高湿度下での実用化には耐加水分解性および耐久性が不十分である。
【0054】
比較例9はモノカルボジイミド化合物の配合量が過少であり、雲母の配合量が過多であったため、500時間内で曲げ強度保持率が急速に低下し、外観も悪化した。そのため、高温高湿度下での実用化には耐加水分解性および耐久性が不十分である。
比較例10はモノカルボジイミド化合物の配合量が過多であるため、1500時間経過後に外観の悪化、成形片にブリードアウトなどが発生した。
【0055】
比較例11〜14は雲母以外の無機フィラーを用いたため、1000時間経過後に曲げ強度保持率が急速に低下し、外観も悪化した。そのため、高温高湿度下での実用化には耐加水分解性および耐水性が不十分である。
【0056】
比較例15は雲母を用いていないため、ホホバ油を添加していても、1848時間経過後に曲げ強度保持率が急速に低下し、外観も悪化した。そのため、高温高湿度下での実用化には耐加水分解性および耐久性が不十分である。
【0057】
実施例より、適切な量のポリ乳酸樹脂、モノカルボジイミド化合物、雲母を組み合わせて用いることで、従来のポリ乳酸系樹脂組成物より大幅に耐加水分解性が向上し、外観においても、ひび割れ等の問題が発生せず耐久性が向上することがわかった。また、上記ポリ乳酸系樹脂組成物にホホバ油を配合するとさらに耐加水分解性および耐久性が向上することがわかった。
【0058】
比較例6および7より、ポリ乳酸樹脂、ポリカルボジイミド化合物、雲母を組み合わせた樹脂組成物では耐加水分解性向上に効果が無く、本発明のポリ乳酸樹脂、モノカルボジイミド化合物、雲母を組み合わせて用いた樹脂組成物と比較すると大幅に耐加水分解性が劣るものであることがわかった。また、ポリ乳酸樹脂、ポリカルボジイミド化合物、雲母を組み合わせた樹脂組成物は、高温高湿度下において長期間使用すると、物性の低下以外に成形片の外観悪化、ブリードアウトなどが発生するため、長期使用に耐えうる用途には実用的ではない。これにより、ポリ乳酸樹脂の耐加水分解性および耐久性の向上にはモノカルボジイミド化合物が必須であることがわかる。
【0059】
また、比較例2〜5からもわかるように、モノカルボジイミド化合物を用いなかった場合も、ポリ乳酸樹脂の耐加水分解性および耐久性向上には効果がないことがわかる。これは、雲母(マイカ)のみをポリ乳酸樹脂に配合しただけでは、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル基末端が封鎖されず、分子鎖末端のカルボキシル基が触媒として働き、高温高湿度下で加速度的にポリ乳酸の加水分解が進行する為である。
【0060】
これらの結果より、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐加水分解性および耐久性を向上させるためには、モノカルボジイミド化合物でポリ乳酸樹脂のカルボキシル基末端を封鎖することが必須であり、さらに雲母(マイカ)を含有することが重要であることがわかった。雲母(マイカ)がポリ乳酸系樹脂組成物の耐加水分解性の向上に効果がある原因は定かではないが、非膨潤性雲母(マイカ)であれば、絶縁性、焼結性、耐熱性を発揮し、一方、膨潤性雲母(マイカ)であれば特有の耐熱性、イオン交換能などが働き、高温高湿度下におけるポリ乳酸系樹脂組成物の酸化や熱分解を著しく抑制することによって、ポリ乳酸樹脂の耐加水分解性および耐久性が大幅に向上すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、モノカルボジイミド化合物0.1〜10質量部および雲母0.1〜20質量部を含有することを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
雲母が膨潤性雲母または非膨潤性雲母であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
ホホバ油を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、ホホバ油の含有量が0.1〜10質量部であることを特徴とする請求項3に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項に記載のポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形体。
【請求項6】
70℃、相対湿度95%の条件下で2000時間保持した時の曲げ強度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項5記載の成形体。

【公開番号】特開2011−16944(P2011−16944A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163214(P2009−163214)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】