説明

ポリ乳酸紡績糸織編物

【課題】 高温雰囲気下での風合い変化や熱収縮が小さく、その為染色加工時の熱や製品となってからのアイロン等の熱処理で風合いの変化もない良好な紡績糸織り編み物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸繊維からなる紡績糸を用いた織編物であって、該ポリ乳酸繊維がポリ乳酸ステレオコンプレックスを含有し高温結晶融解相が結晶全体の95%以上を占め、前記織編物の熱水収縮率が1.5%以下であることを特徴とするポリ乳酸紡績糸織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを含有してなるポリ乳酸紡績糸織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性プラスチックであるポリ乳酸を溶融紡糸法により繊維化する技術は広く知られている。特にL乳酸の含量の高いポリ−L乳酸は結晶性で融点が170℃〜180℃と比較的高融点であるために、衣料用繊維(本体、芯地、中綿)あるいは産業資材用繊維として用いられている。
【0003】
しかしながら、たとえば衣料用繊維として用いた場合、通常加工工程内の温度や、縫製段階でのプレスアイロン等で、風合いの硬化や熱収縮、あるいは繊維表面が溶けて繊維間が融着する等の問題があった。また、産業資材用繊維としての使用においても、比較的高温雰囲気下で使用した場合には、収縮したり変形したりしやすいという寸法安定性について問題点を有するものであった。
【0004】
ところで、ポリ乳酸については、ポリ−L乳酸とポリ−D乳酸とが立体特異的に結合したポリ乳酸ステレオコンプレックスとそれを含んだ繊維が知られており、これらの融点は通常のポリ−L乳酸よりも20〜50℃高いことが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを含んだ繊維の製造方法については、L乳酸とD乳酸のブレンド物を溶融紡糸し、紡糸線上でステレオコンプレックスを形成させる方法が開示されており、これにより繊維の耐熱性と品位が改善できることが記載されている。(例えば、特許文献2参照。)
一方、ポリ乳酸繊維を用いた織編物については、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを芯部、他の低融点の生分解性短繊維を鞘部とした芯鞘構造の繊維を用いる場合について開示され、これにより従来の新合繊では表現できなかったソフト感、ドライ感を付与できることが示されている。(例えば、特許文献3参照。)
また、引用特許文献4では、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成したポリ乳酸系重合体からなる繊維において、該重合体の高温結晶融解相の割合、高温結晶融解相の融解開始温度および熱水収縮率を制御することで、アイロン掛けの際に風合いの硬化がおこらない不織布が得られることが開示されている。(例えば、特許文献4参照。)
【0005】
【特許文献1】特開昭63−264913号公報
【特許文献2】特開2003−293220号公報
【特許文献3】特開2004−91962号公報
【特許文献4】特開2003−105629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら融点の高いステレオコンプレックスを含んだ繊維といえども、繊維や織編物の加工工程での温度に耐え、かつアイロン掛け特性や熱収縮性について十分に改善されたものではない。特に、ステレオコンプレックスでは融点が従来のポリ−L乳酸繊維よりも30℃以上高いにもかかわらず、得られた繊維製品の風合いにおいては、繰り返しの熱履歴に対しては、やはり硬くなる場合が観察されている。
【0007】
すなわち、特許文献2では繊維の紡糸時に紡糸線上でステレオコンプレックスを形成させるものであるが、短い時間内でステレオコンプレックスを十分に形成させることは難しく、また加工の後工程及び繊維製品でのアイロン掛け等の熱履歴により、繊維表面の軟化あるいは融着により風合いの硬化が認められる。また、引用特許文献3においては、繊維表面の鞘材としてポリ乳酸ステレオコンプレックスよりも低融点の生分解性短繊維を使用しているため、当初より十分なアイロン掛け特性は有しておらず、繰り返し使用に伴う熱履歴により、当初のソフト感、ドライ感は消失する傾向になる。
【0008】
一方、引用特許文献4で開示されたポリ乳酸コンプレックスに由来する高温結晶融解相の割合を結晶全体の90%以上、融解開始温度を190℃以上とし、さらに熱水収縮率を10%以下にする方法では、ポリ乳酸繊維のアイロン掛け耐性という点においては従来のポリ乳酸繊維を使う場合に比べ有益な効果が認められるが、繊維製品としての繰り返しアイロン掛けに伴う風合いの硬化や、ステレオコンプレックス繊維からなる紡績糸やその織編物においてはアイロン掛けに伴う風合いの硬化という現象を十分に改善できるものではなかった。
【0009】
すなわち、上記のような従来法では、ポリ乳酸繊維の加工工程時の熱加工や縫製時のアイロン掛け時において硬化したり、繊維製品としての繰り返し使用に伴う熱履歴に対し、変形したり部分融着などすることにより、風合いの硬化が生じるという実用面での問題が完全には解決されていないものであった。
【0010】
本発明は、この様な従来のポリ乳酸を用いた紡績糸構成物が有する欠点を解消し、風合いの硬化しない衣料、芯地、土木資材、鞄材、等の生活資材に用いられる紡績糸構成物、更にそれらを構成する紡績糸織編物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を開発すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
(1)ポリ乳酸繊維からなる紡績糸を用いた織編物であって、該ポリ乳酸繊維がポリ乳酸ステレオコンプレックスを含有し高温結晶融解相が結晶全体の95%以上を占め、前記織編物の熱水収縮率が1.5%以下であることを特徴とするポリ乳酸紡績糸織編物。
(2)前記ポリ乳酸ステレオコンプレックスが、D乳酸を0〜20モル%含有するポリ−L乳酸と、L乳酸を0〜20モル%含有するポリ−D乳酸とから構成されていることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸紡績糸織編物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリ乳酸紡績糸織編物は、ポリ乳酸繊維からなる紡績糸を用いてなるため、ソフトな風合いを有する。また、本発明におけるポリ乳酸繊維は、繊維構造中にポリ乳酸ステレオコンプレックスに起因する高温結晶融解相が結晶全体の95%以上をしめているため、耐熱性が高く、ポリ乳酸繊維の加工工程時の熱加工や縫製時のアイロン掛け時等において硬化することがない。また、本発明における織編物は、熱水収縮率が3%以下であるため、繰り返し使用に伴う熱履歴に対しても、縮みや変形、並びに、ごわごわ感を生じることがなく、風合いを良好に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系紡績糸織編物(以下、本発明の織編物と略称する場合がある。)としては、ポリ乳酸繊維からなる紡績糸を用いてなるものであり、該ポリ乳酸繊維がポリ乳酸ステレオコンプレックスを含有し、高温結晶融解相が結晶全体の95%以上を占めていることが必要である。該高温結晶融解相は、ポリ乳酸ステレオコンプレックスに起因して発現するものであり、これが結晶全体の95%未満の場合、ポリ乳酸繊維を構成するポリ−L乳酸とポリ−D乳酸がステレオコンプレックスを形成していない割合が高いため、ステレオコンプレックスに基づく耐熱性の効果を十分に享受していないものとなり、織編物についてアイロン掛けを行った際に、繊維が軟化し一部融解を始めたり、織編物の風合いが固くなったりして、寸法安定性を保持できないものとなる。すなわち、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの融点は、既述のとおり、ポリ−L乳酸に比べて20〜50℃高いものとなるが、ステレオコンプレックス体を構成していないポリ−L乳酸やポリ−D乳酸成分が高い比率で残存する場合、例えば、高温でのアイロン掛けなどによる繰り返しの熱履歴により、繊維の形態変化が起こり、ひいては織編物における寸法変化や風合いの効果等を引き起こすこととなる。
【0014】
本発明における高温結晶融解相としては、図1に示すように、本発明におけるポリ乳酸ステレオコンプレックスを含んでなるポリ乳酸繊維を、示差走査熱分析(DSC:Differential Scanning Calorimetrey)を行った際の、高温側の吸熱ピーク(Y)で表され、この吸熱量は図の斜線部の面積で表される。
【0015】
ステレオコンプレックスを形成してなるポリ乳酸繊維においては、構成するポリ乳酸成分種或いは組成比、並びにそのステレオコンプレックスの調整条件、および形成状態に応じて、通常は少なくとも2つの吸熱ピークを示し、2つの結晶相が存在することを示す。1つは、ポリ−L乳酸やポリ−D乳酸のような個々のポリマー成分に固有の融点である165〜180℃に観察される低温結晶融解相(X)で、もう一つは、ステレオコンプレックスの形成に伴い認められる190〜230℃の高温結晶融解相(Y)である。
【0016】
高温結晶融解相および低温結晶融解相の相対比較は、それぞれの結晶融解熱量の大きさ、すなわち、融解吸熱曲線(a)の2つの吸熱ピークで表される面積の大きさから算出することができる。したがって、結晶相全体に対する高温結晶融解相の比率は、下記式により求められる。
結晶相全体に対する高温結晶融解相の比率(%)=Y×100/(Y+X)
上記式において、Y:高温結晶融解相の吸熱ピークで表される面積、X:低温結晶融解相の吸熱ピークで表される面積とする。
【0017】
本発明におけるポリ乳酸繊維としては、ポリ−L乳酸とポリ−D乳酸を構成成分とするものである。また、ポリ−L乳酸としては、L乳酸を主成分とするものであり、D乳酸成分を含有する場合については、0〜5モル%の範囲であることが好ましい。ポリ−L乳酸におけるD乳酸成分の含有量が5モル%を超える場合、ポリ乳酸ステレオコンプレックスによって誘起される高温結晶融解相の結晶全体に対する割合が95%以上にはならないこととなるため、好ましくない。また、同様に、ポリ−D乳酸についても、D乳酸を主成分とするものであり、L乳酸成分を含有する場合については、0〜5モル%の範囲であることが好ましい。
【0018】
本発明におけるポリ乳酸ステレオコンプレックスとしては、L乳酸を主成分とするポリ−L乳酸とD乳酸を主成分とするポリ−D乳酸から構成されたもので、このポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造方法は、上記L乳酸を主成分とするポリ−L乳酸とD乳酸を主成分とするポリ−D乳酸を均一混合し、これら2成分の間に立体特異的な結合を生じせしめることにより製造することができる。したがって、ポリ−L乳酸とポリ−D乳酸との含有比率としては、ステレオコンプレックスの含有量を重要な要素であり、質量比(L:D)で10:90〜90:10の範囲であることが好ましく、5:95〜95:5の範囲であることがさらに好ましく、ステレオコンプレックスの含有率をより向上させるためには、50:50になるように配合することが特に好ましい。
【0019】
また、ステレオコンプレックスを含んだポリ乳酸繊維の製造法としては、通常の溶融法或いは溶液溶解法で紡糸する方法が挙げられ、各ポリマーを分子レベルで十分に混練或いは混合することでステレオコンプレックスの含有比率を高めて製造することができる。具体的には、例えば溶液法の場合、所定量のポリ−L乳酸とポリ−D乳酸を、クロロホルム、塩化メチレン、ジオキサン、ベンゼン、アセトニトリルなどの有機溶媒に溶解して紡糸原液とし、水、メタノール、エタノール、アセトン或いはこれらと紡糸原液に用いた有機溶媒との混合液を凝固液として湿式紡糸することで製造できる。また、溶融法の場合、所定量のポリ−L乳酸とポリ−D乳酸をチップ状態でなるべく均一に混合し、分子レベルで十分に溶融混練した後、溶融押し出し機にて溶融紡糸することができる。一般に、製造コストの点からは溶融紡糸法が有利である。
【0020】
ここで、本発明におけるポリ乳酸ステレオコンプレックスとしては、ポリ乳酸繊維中において高温結晶融解相の比率が繊維全体の結晶相に対し95%以上となる程に含有していることが必要であり、これを効率的に達成させるためには、例えば、ステレオコンプレックスを製造する段階において、他の添加剤の含有量を制限することで達成させ易くすることができる。すなわち、ポリ乳酸と何らかの相互作用を誘起させる官能基を有する添加剤の含有量を制限することで、ポリ−L乳酸とポリ−D乳酸とのポリマー鎖間に介入する他成分を少なくし、ステレオコンプレックスの立体構造を形成やすくできる。したがって、ポリ乳酸繊維を紡糸するにあたっては、ステレオコンプレックスを高い濃度で含有させたマスターチップを製造し、これと通常の製造法で得られたポリ−L乳酸とポリ−D乳酸との混練物とを溶融混合しながら、必要に応じて他の添加剤を混練し、溶融紡糸することで達成できる。これにより、従来法のような溶融紡糸段階でポリ−L乳酸とポリ−D乳酸とを初めて混練してステレオコンプレックスを形成させる方法に比べ、その比率を向上させることができる。
【0021】
また、本発明におけるポリ乳酸繊維を構成する樹脂中には、ポリ乳酸以外の成分を含有或いは共重合させてもよい。上記の含有或いは共重合させることができるポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミドが挙げられる。具体的にはポリエステルの場合、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、脂環族ポリエステル等が挙げられるが、本発明においては、ポリ乳酸ステレオコンプレックス以上の融点を有するポリエステルであることが好ましく、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、スルホイソフタル酸、ナフタレン酸などの芳香族酸成分とエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどのジオール成分からなる芳香族ポリエステルであることが好ましい。また、ポリアミドとしては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66などが好ましい。これらポリエステル、ポリアミドの含有或いは共重合量としては、本発明のポリ乳酸繊維における相溶性並びに融点や熱水収縮率等の耐熱性を低下させない範囲で選択することが必要となる。
【0022】
本発明の織編物としては、熱水収縮率が1.5%以下であることが必要であり、1%以下であることが好ましい。該熱水収縮率は1.5%を超える場合、スチームアイロン等による繰り返し熱履歴により組織が密になり、表面品位が維持できなくなると共に風合いの硬化やごわごわ感が発生することなる。
【0023】
本発明における熱水収縮率としては、織編物に対し規定条件にてスチームアイロンをかけた場合の収縮率を評価するものであり、JIS L−1096 H−2法に準じて行う。熱水収縮率の下限としては、0%であることが好ましい。
【0024】
また、ポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維の熱水収縮率を抑制する為には、例えば、ポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維の延伸工程でポリ乳酸ステレオコンプレックスポリマーの結晶融点より低い範囲のできるだけ高温、例えば140℃〜210℃で熱セットすればよい。特にポリ乳酸ステレオコンプレックスの結晶化速度が速くなる165℃〜175℃付近で熱セットすることが望ましい。これはポリ乳酸ステレオコンプレックスポリマーが190℃〜230℃のような高温の結晶融点を示すから可能なことであり、従来のポリ−L乳酸の様に170℃程度の融点の物では不可能なことであった。これによりポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維の熱水収縮率を1.5%以下に制御することが可能となる。
【0025】
また、本発明におけるポリ乳酸繊維としては、その断面形状が丸断面であっても異型断面であってもよいし、中空であっても非中空であってもよい。更にその繊度は特に限定される物ではなく、用途による要求性能により決めればよいが一般的には、0.5〜20デシテックスのものが用いられる。捲縮形態は特に限定しないが、通常の紡績工程でのカード通過性が損なわれない程度で5〜20個/25mmあればよいが、アイロンによる熱履歴による変形を回避するためにも、捲縮は顕在化させていることが好ましい。
本発明の織編物における熱収縮率は1.5%以下であることが必要であるが、これはポリ乳酸繊維段階において熱水収縮率を制御することが必要であることに加え、織り編み物の加工段階での熱履歴を制御することで達成される。すなわち、ポリ乳酸繊維の紡糸および熱セット工程で構築されたステレオコンプレックス構造が、後の織編物の加工工程でも維持でき、さらにはステレオコンプレックス体の結晶割合が増えるのに効果を及ぼすような熱履歴を加えることで可能となる。具体的には、各加工工程の温度を、ステレオコンプレックスの結晶化温度から結晶融解開始温度の間の温度域で行うことで得られる。
【0026】
本発明のポリ乳酸紡績糸織編物を構成する紡績糸としては、ポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維100%で構成されていてもよいし、熱水収縮率が1.5%以下となる範囲であれば、必要に応じてポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維などの合成繊維やレーヨン繊維などの半合成繊維、あるいはウール、コットン、麻などの天然繊維のいずれと混紡しても差し支えない。またこの時、相手側の素材に合わせポリ乳酸繊維のカット長は適宜設定すれば良く、一般的には38mm〜120mmの間で設定することが望ましい。この時ポリ乳酸繊維に付与する油剤としては通常、ポリエステル紡績糸用に付与している油剤を用いればよい。紡績糸の撚り方向はS方向Z方向どちらでもよいが一般的にはZ方向で行う。また紡績撚りに関しては撚り係数2.8〜4.3の間で適宜設定すればよく、必要に応じて撚り止めセットを行う。追撚加工を行う場合紡績撚りの0.7〜1.3倍の撚り数を同一方向に掛ければよく、用途によっては双糸加工を行ってもなんら問題無い。
【0027】
また、織編工程においても通常他素材で実施されている手法にてなんら問題なく製編織でき、エアージェット、レピア、ウォータージェット、フライ、丸編み、経編み等、用途と生産製応じた機種を選定すればよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定される物では無い。なお実施例に記述した諸物性の評価方法は次の通りである。
1.熱水収縮率
JIS L−1097 H−2法に準じて、25mm×25mmに切り出された織編物を試料とし、下式に基づき、タテ糸方向とヨコ糸方向のそれぞれについて算出した。
熱水収縮率(%)=〔(処理前の長さ−処理後の長さ)/処理前の長さ〕×100
2.結晶融解開始温度および融点
パーキンエルマー社製(pyris)1を用い、昇温速度20℃/minで自動計測した場合に自動表示されるonset温度が結晶融解開始温度であり、結晶融解ピーク温度が融点である。
3.風合い
サイズ30cm×30cmの仕上げ布帛にスチームアイロンをあて布をあてて行う。
【0029】
風合い評価に関しては10人のパネラーにより手触りで判断し、最も人数の多い評価を採用した。
【0030】
○;アイロン掛けで風合い変化は認められない
△;アイロン掛け後、やや固めの風合いとなる
×;アイロン掛け後、著しく固めの風合いとなる
また、繰り返し試験では、上記風合い試験を5回連続的に行い、1回目と5回目の風合いの変化を判断する。
5.相対粘度
フェノールと四塩化エタンの等重量混合物を溶媒とし、試料濃度0.5g/dl、温度20℃下で、情報により測定した。
6.分子量測定
示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置(島津製作所製)を用い、テトラヒドロフランを溶出液として40℃で測定し、標準ポリスチレン換算で評価した。なお、テトラヒドロフランに溶けにくいサンプルは少量のクロロホルムに溶解後テトラヒドロフランで希釈して測定した。
【0031】
(実施例1)
D乳酸単位を1モル%含有する融点169℃、相対粘度1.885のポリ−L乳酸チップとL乳酸単位を1モル%含有する融点168℃、相対粘度1.901のポリ−D乳酸チップとを等重量混合しながら減圧乾燥した。 得られた混合チップを通常の溶融紡糸装置を使用し、紡糸温度を235℃、総吐出量を313g/分として溶融紡糸した。紡出糸条を冷却した後引取り速度1000m/分で引き取って未延伸繊維糸条を得た。得られた糸条を集束し、10万デニールのトゥにして、延伸倍率2.9、延伸温度80℃で延伸し170℃のヒートドラムで熱処理してから、押し込み式クリンパを使用して捲縮を付与した後、長さ51mmに切断して、融点218℃、結晶融解開始温度206℃、単糸繊度1.7デシテックスのポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維を得た。
【0032】
得られたポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維を通常の紡績工程にて撚り係数3.4にて20/1の紡績糸を作製した後、エアージェット織機にて経て109本/25mm、緯61本/25mmの2/1の綾織物を得た。
【0033】
得た生機を、糊抜き・精練―リラックス<100℃>―P・S(プレセット)<180℃>―減量―染色―附帯―F・S(ファイナルセット)<160℃>の工程を通過させポリ乳酸ステレオコンプレックスの織物を得た。仕上がり生地の風合いは、リラックス工程による余分な収縮も無く良好でパネラーによる調査においても評価は○と問題無かった。また収縮率に関してH−2法にて試験を行ったところ、経/緯=―0.5%/―0.3%と特に問題無いものであった。H−2試験による風合い変化も特に見られなかった。
【0034】
(実施例2)
実施例1においてD乳酸単位を4.5モル%含有する融点154℃、相対粘度1.827のポリ−L乳酸チップとL乳酸単位を0.5モル%含有する融点172℃、相対粘度1.873のポリ−D乳酸チップとを等重量混合すること以外は実施例1と同様にして実施した。得られたポリ乳酸ステレオコンプレックス繊維は融点209℃、結晶融解開始温度196℃、単糸繊度1.7デシテックスの繊維を得た。
【0035】
得られた繊維を実施例1と同様にして織物を作製し評価を行った。結果仕上がり風合いの評価も○であり、またH−2試験による収縮率は経/緯=―0.8%/―0.7%であり特に問題無く、試験後の風合いに関してもなんら問題の無いものであった。
【0036】
(比較例1)
実施例1においてコハク酸を32モル%共重合した相対粘度1.881のポリ−L乳酸チップ(DSCによる融点は認められない)と同じくコハク酸を32モル%共重合した相対粘度1.875のポリ−D乳酸チップ(DSCによる融点は認められない)とを等重量混合すること以外は実施例1と同様にして実施した。
尚、延伸時のヒートドラム熱セットは110℃で可能だが更に高温ではドラムに巻き付いてしまうので110℃で行った。
結果、加工上がり生地はリラックス工程での収縮があり非常に風合いの悪いものとなり評価は×であった。H−2試験においても経/緯=―4.8%/―5.6%と大きな収縮があり、試験後の風合いは硬化が激しく著しく悪い物であった。


【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ステレオコンプレックスを含んでなるポリ乳酸繊維の融解吸熱曲線(DSC曲線)の例を示す。
【符号の説明】
【0038】
a:融解吸熱曲線
X:低温結晶融解相
Y:高温結晶融解相



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸繊維からなる紡績糸を用いた織編物であって、該ポリ乳酸繊維がポリ乳酸ステレオコンプレックスを含有し高温結晶融解相が結晶全体の95%以上を占め、前記織編物の熱水収縮率が1.5%以下であることを特徴とするポリ乳酸紡績糸織編物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸ステレオコンプレックスが、D乳酸を0〜5モル%含有するポリ−L乳酸と、L乳酸を0〜5モル%含有するポリ−D乳酸とから構成されていることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸紡績糸織編物。












【図1】
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【公開番号】特開2009−243011(P2009−243011A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93653(P2008−93653)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】