説明

ポリ乳酸繊維及び芯鞘複合繊維

【課題】
アルカリ加水分解性に優れるポリ乳酸及びポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合糸を提供する。
【解決手段】
無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル含有し、かつ樹脂成分としては実質的にポリ乳酸からなるポリ乳酸繊維およびポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維において、無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル含有するポリ乳酸部が、繊維表面一部又は全表面に配されていることを特徴とする芯鞘複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたアルカリ加水分解性を兼備するポリ乳酸繊維及びポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球的規模での環境問題に対して、自然環境の中で分解するポリマー素材の開発が切望されており、脂肪族ポリエステル等、様々なポリマーの研究・開発、また実用化の試みが活発化している。そして、微生物により分解されるポリマー、すなわち生分解性ポリマーに注目が集まっている。
【0003】
従来のポリマーはほとんど石油資源を原料としているが、石油資源が将来的に枯渇するのではないかということ、また石油資源を大量消費することにより、地質時代より地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに地球温暖化が深刻化することが懸念されている。しかし、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料としてポリマーが合成できれば、二酸化炭素循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるのみならず、資源枯渇の問題も同時に解決できる可能性がある。このため、植物資源を原料とするポリマー、すなわちバイオマス利用ポリマーに注目が集まっている。
【0004】
上記2つの点から、バイオマス利用の生分解性ポリマーが大きな注目を集め、石油資源を原料とする従来のポリマーを代替していくことが期待されている。しかしながら、バイオマス利用の生分解性ポリマーは一般に力学特性、耐熱性が低く、また高コストとなるといった課題があった。これらを解決できるバイオマス利用の生分解性ポリマーとして、現在、最も注目されているのはポリ乳酸である。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料としたポリマーであり、バイオマス利用の生分解性ポリマーの中では力学特性、耐熱性、コストのバランスが最も優れている。そして、これを利用した繊維の開発が急ピッチで行われているが、ポリ乳酸は従来のポリマーに比べるといくつかの欠点を有している。このうち大きなものとして、高温力学特性、耐摩耗性が悪いことが挙げられる。この問題を改善する方法として特許文献1には3らせん構造を形成させた特定のポリ乳酸繊維とすることにより高温力学特性を改良する方法、特許文献2には脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドをポリ乳酸繊維に含有せしめることにより耐摩耗性を改良する方法が開示され、衣料用途への展開に大きな進展を遂げた。
【0005】
一方、ポリエステル繊維は、アルカリに加水分解しやすい性質を有することから、これを活用して、従来から、いわゆるアルカリ減量処理を施すことにより繊維表面を改質し、風合い向上やドレープ性を付与することが行われてきた。また、アルカリ加水分解速度の異なるポリエステルを組み合わせて、又はアルカリ難溶ポリマー(例えばポリアミドなど)と組み合わせて用い、複合繊維や、複合加工糸とした後、アルカリ減量処理を施すことにより、風合いを向上させたり、機能性を付与することも行われ、アルカリ減量処理は現在では不可欠な工程となっている。ポリ乳酸に関しても同様の加工を施すことが可能である。例えば、特許文献3にはポリ乳酸とポリアミドとの複合繊維が開示され、ポリ乳酸をアルカリ減量処理することが開示されている。しかしながら、本発明者ら本特許文献記載の技術について検討したところ、アルカリ減量処理は、複合繊維を浸漬した処理溶液を所定温度まで加温して加熱することにより行われるが、同文献の実施例等で具体的に開示された方法で行うためには昇温時間を長くとる必要があり、結果的には昇温開始から減量工程を終了するまでにかかるトータルの時間は未だ満足できるものではなかった。また、昇温時間を短くすると、減量時間を長くする、もしくは減量温度を高くする必要が生じ、これまた結果的にはトータル時間が長くなるか、減量温度が高くなるためにポリアミドの強度が低下するなどの問題が生じるものであった。
【特許文献1】特開2003−293221号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2004−91968号公報(第1頁)
【特許文献3】特開2000−54228号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来の問題を解決し、アルカリ加水分解性に優れるポリ乳酸及びポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合糸を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明は、次の構成を採用する。
(1)無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有し、かつ樹脂成分としては実質的にポリ乳酸からなるポリ乳酸繊維。
(2)ポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維において、無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有するポリ乳酸部が、繊維表面一部又は全表面に配されている芯鞘複合繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリ乳酸繊維によると、アルカリ加水分解性に優れたポリ乳酸繊維を得ることができる。
【0009】
本発明の芯鞘複合繊維によると、アルカリ加水分解性に優れたポリ乳酸とポリアミドの芯鞘複合繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明のポリ乳酸繊維およびポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維を実施するための最良の形態について説明する。本発明はこれに限られるものではない。
【0011】
本発明のポリ乳酸繊維は、無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有するものである(第1発明)。
【0012】
本発明のポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維は、無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有することが必要である(第2発明)。
【0013】
かかる範囲とすることにより、無機マグネシウム化合物を含まないポリ乳酸繊維に対し、苛性アルカリ(アルカリ金属水酸化物の水溶液)中で、ポリ乳酸繊維のアルカリ加水分解速度が速くなることを本発明者らは見いだした。 ポリ乳酸に無機マグネシウム化合物を含有することにより、苛性アルカリ(アルカリ金属水酸化物の水溶液)中での加水分解速度が速くなる理由としては、詳細は解明されていないが、研究の結果から、アルカリ金属水酸化物の水溶液中でポリ乳酸繊維の減量処理を行う時に、ポリ乳酸に含有したマグネシウムと水分が化合し、アルカリ性である水酸化マグネシウムとなり、これがポリ乳酸をアルカリ加水分解することにより、減量が進むことが推定される。このマグネシウムはポリ乳酸中で陽イオン状態あるいは塩として存在する。なお、ナトリウム、カルシウム、リチウム、バリウム等のマグネシウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属においてもマグネシウムと同様にアルカリ加水分解作用を有し、特に原子番号の大きなアルカリ金属を使用するとアルカリ作用が高くなるが、マグネシウムが、溶融紡糸する場合には製糸性が良く生産性に適しているため、本発明においては無機マグネシウム化合物を使用することが重要である。
【0014】
マグネシウムがポリ乳酸100gに対して0.5ミリモル未満では、苛性アルカリへの加水分解速度がマグネシウムを含まないポリ乳酸と比べて僅かに速くなるだけで、減量工程時間の短縮となる効果は低い。また、マグネシウムがポリ乳酸100gに対して25ミリモルより多量であっても、効果は同程度であり経済的観点から好ましくないばかりでなく、特に原糸の製造工程において、不溶解異物として残存したマグネシウムが異物除去のため設置したフィルターでの濾過圧力上昇などの問題を引き起こす。
【0015】
本発明においては、前記したように無機マグネシウム化合物をポリ乳酸に添加することにより、ポリ乳酸の苛性アルカリに対する加水分解速度が速くなることにより、苛性アルカリによる減量工程にかかる時間の短縮をはかることができるが、ポリ乳酸繊維及びポリ乳酸繊維のみからなる布帛よりも、ポリ乳酸とポリエステル、ポリアミド等合成繊維や半合成繊維、天然繊維などの他素材との混用の場合において、減量工程にかかる時間短縮以外の効果が顕著に発現する。
【0016】
また、ポリ乳酸とポリアミドとの芯鞘複合繊維の場合は、ポリアミドに無機マグネシウム化合物を添加すると溶融時のゲル化を抑制し、口金面の汚れが付着しにくくなる効果は従来より知られていたが、ポリ乳酸にマグネシウムを添加し、ポリアミドと同一口金から吐出する場合にも相乗効果により口金面汚れが付着しにくくなることを見いだしたのである。そのため、紡糸中の糸切れが減少し製糸性も向上する。
【0017】
ポリ乳酸に無機マグネシウム化合物を含有せしめる方法としては、ポリ乳酸ペレットに無機マグネシウム化合物をブレンドし溶融する方法、ポリ乳酸ペレットへ高濃度の無機マグネシウム化合物を含有するマスタペレットを本発明で規定する範囲内となる量でブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリ乳酸へ無機マグネシウム化合物を添加し混練する方法、ポリ乳酸の重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ無機マグネシウム化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0018】
本発明でいう無機マグネシウム化合物は、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらは通常、粉末状で用いることができる。水酸化マグネシウムの場合、例えばポリ乳酸に含有させたペレットとして保管した場合、保管中に加水分解が進みやすくなるなど、取り扱い性の点から、注意が必要であり、水酸化物以外のマグネシウム化合物を用いることが好ましい。なかでも酸化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0019】
本発明のポリ乳酸繊維は、脂肪族ビスアミドおよび/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5重量%含有することが好ましい。
【0020】
本発明のポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維は、ポリ乳酸部中に脂肪族ビスアミドおよび/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドをポリ乳酸に対して0.1〜5重量%含有することが好ましい。
【0021】
本発明でいう脂肪酸ビスアミドは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。また、本発明でいうアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
【0022】
本発明では脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いるが、これらの化合物は、通常の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低く、溶融成形時においてポリ乳酸との反応が起こりにくい。また、高分子量のものが多いため、一般に耐熱性が良く、昇華しにくいという特徴がある。特に、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く、昇華しにくいことから、より好ましい滑剤として用いることができる。
【0023】
本発明では、ポリ乳酸繊維中、もしくは芯鞘複合繊維のポリ乳酸部中に、滑剤として脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドをポリ乳酸に対して0.1〜5重量%含有することが好ましい。該脂肪酸アミドの含有量を0.1重量%以上とすることで、繊維の表面摩擦係数が低減し、繊維製品に衣料用途等で要求される耐摩耗性と繰り返し使用での耐久性を付与することができる。さらに、布帛の加工工程での裁断カッターや高速のミシン針による布帛の融着を抑制し、工程通過性を向上できる。また、該脂肪酸アミドの含有量を5重量%以下とすることで、脂肪酸アミドを微分散することができ、繊維の物性斑や染色斑が発生するのを防ぐことができる。該脂肪酸アミドの含有量は、好ましくは0.5〜3重量%である。本発明では、該脂肪酸アミドが単一でも良いし、また複数の成分が混合されていても良く、混合されている場合には、その混合物がポリ乳酸に対して0.1〜5重量%含有していれば良い。
【0024】
ポリ乳酸に脂肪族ビスアミドおよび/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有せしめる方法としては、ポリ乳酸ペレットへ脂肪族ビスアミドおよび/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドをブレンドし溶融する方法、ポリ乳酸ペレットへ高濃度の脂肪族ビスアミドおよび/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリ乳酸へ脂肪族ビスアミドおよび/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドを添加し混練する方法、ポリ乳酸の重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ脂肪族ビスアミドおよび/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドを添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0025】
本発明のポリ乳酸繊維は樹脂成分としては実質的にポリ乳酸からなるものであり、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の樹脂を配合することも可能である。具体的な配合量は配合する樹脂の種類にもより一概にはいえないが、例えば樹脂成分の95重量%以上がポリ乳酸からなるものであり、好ましくは98重量%以上がポリ乳酸からなるものであり、樹脂成分の全てがポリ乳酸からなるものが最も好ましい。また、本発明の芯鞘複合繊維においてもポリ乳酸部の樹脂成分は上記と同様、実質的にポリ乳酸からなるものが好ましく、他の樹脂を配合する場合も本発明の効果を損なわない程度、樹脂成分の95重量%以上がポリ乳酸、より好ましくは98重量%以上のポリ乳酸であり、さらには全てがポリ乳酸からなるものが最も好ましい。
【0026】
本発明でいうポリ乳酸とは、-(O-CHCH-CO)-を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。
【0027】
本発明においては、ポリ(L−乳酸)およびポリ(D−乳酸)を併用することも可能であり、その場合にはステレオコンプレックスを形成するように紡糸することが好ましい。
【0028】
ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の製造方法には、それぞれL−乳酸、あるいはD−乳酸を原料として一旦環状2量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う2段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られ
ている。本発明で用いるポリ乳酸はいずれの製法によって得られたものであってもよい。ラクチド法によって得られるポリマーの場合にはポリマー中に含有される環状2量体が溶融紡糸時に気化して糸斑の原因となるため、溶融紡糸以前の段階でポリマー中に含有される環状2量体の含有量を0.3重量%以下とすることが望ましい。直接重合法の場合には環状2量体に起因する問題が実質的にないため、製糸性の観点からはより好適である。
【0029】
本発明に用いるポリL−乳酸はL−乳酸を主たるモノマー成分とする重合体であり、L−乳酸のほかにD−乳酸成分を15モル%以下含有する共重合ポリL−乳酸であっても良いが、耐熱性の高いポリ乳酸繊維を所望する場合や、ステレオコンプレックス結晶を形成させる場合には、その形成性を高める観点から、ポリL−乳酸中のD−乳酸成分は少ないほど好ましく、ホモポリL−乳酸を用いることがさらに好ましい。
【0030】
同様に、本発明に用いるポリD−乳酸はD−乳酸を主たるモノマー成分とする重合体であり、D−乳酸のほかにL−乳酸成分を15モル%以下含有する共重合ポリD−乳酸であっても良いが、耐熱性の高いポリ乳酸繊維を所望する場合や、ステレオコンプレックス結晶を形成させる場合にはその形成性を高める観点から、ポリD−乳酸中のL−乳酸成分は少ないほど好ましく、ホモポリD−乳酸を用いることがさらに好ましい。
【0031】
さらに、本発明に用いるポリL−乳酸および/またはポリD−乳酸は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のエステル形成能を有するモノマー成分を共重合しても良い。共重合可能なモノマー成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0032】
上述したポリL−乳酸およびポリD−乳酸の重量平均分子量は好ましくは5万以上、さらに好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上とするものである。重量平均分子量が10万に満たない場合には繊維の強度物性を優れたものとすることができにくくなるので好ましくない。なお、一般にポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸の平均分子量を50万以上とすることは困難である。上記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いてポリスチレン換算で求めた値である。
【0033】
また、本発明で用いるポリL−乳酸およびポリD−乳酸には本発明の効果を損なわない範囲で上記樹脂以外の成分を含有してもよい。例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、酸化防止剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤あるいは着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加してもよい。
【0034】
例えば、紫外線安定化剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系薬剤を好ましく用いることができる。この際の配合量はポリ乳酸に対して0.005〜1.0重量%が好ましい。着色顔料としては酸化チタン、カーボンブラックなどの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などのものを好ましく用いることができる。
【0035】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、硫黄系、リン系、あるいはこれらを複合したものを好ましく用いることができる。その際、配合量はポリ乳酸に対して0.01〜1重量%が好ましい。特に、ポリ乳酸はポリアミドと比較して耐熱性が低く、両ポリマーを同温度条件で複合紡糸する必要がある場合には、ポリ乳酸の方が熱劣化が進みやすく、生産性の悪化を招きやすい。そこで、ポリ乳酸に酸化防止剤を少量含有させることにより、ポリ乳酸の熱劣化を抑制し、より厳しい温度条件での溶融紡糸に耐えうることを見いだしたのである。これにより、ポリヘキサメチレンアジパミドのようなポリアミドの中でも比較的融点の高いポリマーと複合紡糸することも容易となる。0.01重量%未満であると添加量が少なすぎて充分な熱劣化抑制効果が得られない。また、1重量%を超えると、紡糸フィルターの詰まりを引き起こすなど生産性が悪化することがある。好ましくは0.02〜0.5重量%である。
【0036】
本発明でいうポリアミドとは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、好ましくは、染色性、洗濯堅牢度、機械特性に優れる点から、主としてポリカプラミド、もしくはポリヘキサメチレンアジパミドからなるポリアミドである。ここでいう主としてとは、ポリカプラミドではポリカプラミドを構成するカプラミド単位が、またポリヘキサメチレンアジパミドではポリヘキサメチレンアジパミドを構成するヘキサメチレンアジパミド単位が全アミノカルボニル単位中80モル%以上であることをいい、さらに好ましくは90モル%以上である。その他の成分としては、特に制限されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどから生成する単位が挙げられる。
【0037】
本発明でいうポリアミドの重合度は、芯鞘複合繊維あるいはその加工品の要求特性またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、98%硫酸相対粘度で2.0〜3.3の範囲が好ましい。
【0038】
本発明でいうポリ乳酸繊維の製造方法は、特に限定されるものでなく、公知の溶融紡糸により製造される。一例を示せば、重量平均分子量10万〜30万のホモポリL−乳酸を紡糸温度210〜250℃で口金より吐出し、冷却風により糸を冷却固化させる。その後、繊維用油剤を付与し高速で引き取り、そのまま巻き取る。そして、この高速紡糸により得られたポリ乳酸繊維を、延伸温度90℃以上で延伸し、熱セットする。高温力学特性に優れたポリ乳酸繊維を得る観点から、紡糸速度は3500m/分以上、特に4000〜6000m/分であることが好ましく、延伸温度は130℃以上が好ましく、糸の部分融解を考慮すると160℃以下とすることが好ましい。
【0039】
また、延伸倍率は1.2〜3.0倍とすることが好ましく、3.5倍以上の延伸倍率は、繊維の変形が大きすぎ延伸が不均一になり易く、糸斑が大きくなってしまうので避けることが好ましい。
【0040】
また、ポリ乳酸繊維、ポリ乳酸が一部露出したポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維は摩擦係数が高いため、高速紡糸工程、仮撚加工や流体加工のような糸加工工程、ビーミング、製織、製編のような製布工程での毛羽が発生し易いという問題がある。このため、繊維用油剤としては、ポリエーテル系の平滑剤は耐熱性には優れるが、繊維と金属の摩擦係数を高くするため避け、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油等の平滑剤を主体とするものを用いると、ポリ乳酸繊維の摩擦係数を低下させることができ、上記工程での毛羽を大幅に抑制でき、好ましい。
【0041】
上記脂肪酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルオレート、イソプロピルミリステート、オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート等の一価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の一価のアルコールと多価のカルボン酸のエステル、エチレングリコールジオレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート等の多価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ラウリル(エチレンオキサイド)オクタノエート等のアルキレンオキサイド付加エステル等が挙げられる。ポリ乳酸繊維、ポリ乳酸が一部露出したポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維に上記のような平滑剤を含有させた油剤を付与することによって、紡糸、延伸工程での糸切れや毛羽の発生、ローラーへの巻き付きを抑制することができる。また、従来のポリ乳酸繊維、ポリ乳酸が一部露出したポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維では工程通過性が悪かった仮撚加工についても、糸とツイスターの間の摩擦力が減少し、糸切れが抑制されることによって、工程通過性良く実施できる。さらに、製編織工程では、糸と金属、或いは糸同士の摩擦が少なくなり、毛羽の発生を抑制することによって品位の高い繊維製品を得ることができる。平滑剤の油剤全体に対する含有量は、好ましくは30〜95重量%である。平滑剤の油剤全体に対する含有量を30重量%以上とすることで、繊維の表面摩擦係数が大幅に低減し、繊維および繊維製品の工程通過性や品位を向上できる。また、含有量を95重量%以下とすることで、油剤の水への分散性を良くし、これを繊維に塗布した際の油剤の付着斑を抑制することができる。平滑剤の油剤全体に対する含有量は、より好ましくは55〜75重量%である。
【0042】
本発明でいうポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維の製造方法は、特に限定されるものでなく、公知の溶融複合紡糸により製造される。一例を示せば、ポリ乳酸およびポリアミドをそれぞれ別個に溶融した後に同一の紡糸口金に導いて芯鞘構造となるように複合し、吐出させることにより得られる。吐出された糸条は、一旦巻き取ることなく直接紡糸延伸法で製造される。直接紡糸延伸法で製造する際、吐出された糸条を冷却風で冷却した後、給油装置にて給油をおこない、流体交絡装置に糸条を通して交絡を生じさせる。しかる後に1000m/分以上の速度で引き取り、130℃以上に加熱したローラーとの間で延伸、熱固定を行い3000m/分以上の速度で巻取る。また、冷却、給油後、3000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく実質延伸しないで3000m/分以上の速度で巻取る。ここで実質延伸しないでとは、理想的には延伸倍率が1倍であることを意味するが、ローラー間での糸のタルミによる巻き付きを無くすこと等を目的として、糸の物性にほとんど影響しない程度のストレッチをかけることまで妨げる趣旨ではなく、1〜1.2倍程度の延伸倍率で有れば差し支えは無いということを意味する。
【0043】
本発明でいうポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維の複合割合としては、重量比でポリ乳酸:ポリアミドが10:90から90:10の間であることが好ましい。同一口金から吐出する点から割合に偏りがあると製糸性が低下するため、20:80から80:20の間であることが好ましく、30:70から70:30の間であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明でいうポリ乳酸繊維の繊維断面は、特に限定されるものではない。例えば、丸断面、偏平断面、レンズ型断面、三葉断面、マルチローバル断面、3〜8ヶの凸部と同数の凹部を有する異形断面、中空断面その他公知の異形断面でもよい。
【0045】
本発明でいうポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維の繊維断面は、特に限定されるものではない。例えば、丸断面、偏平断面、レンズ型断面、三葉断面、マルチローバル断面、3〜8ヶの凸部と同数の凹部を有する異形断面その他公知の異形断面でもよい。
【0046】
本発明でいうポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維の複合形態は、特に限定されるものではないが、ポリ乳酸が繊維表面一部又は全表面に配されていることが必要であり、その条件を満たせば芯部がポリ乳酸部であっても鞘部がポリ乳酸部であってもよい。一例を示せば、図1(a)〜(e)のような複合形態、例えば、芯部がポリ乳酸部であって、その一部が表面に露出している形態(例えば(a))、芯部が十字もしくは放射線状のポリ乳酸部であって、その一部が表面に露出し、その周囲に分割されたポリアミド部が配されている形態((例えばb))、或いはその逆の形態(例えば(c))、ポリ乳酸が花状で突起を有し、その突起部が表面の露出している形態(例えば(d))、或いはポリ乳酸部とポリアミド部が2分割されている形態(例えば(e))、格子状の4分割もしくはそれ以上に複数分割されている形態などが挙げられる。
【0047】
本発明でいうポリ乳酸繊維のウースター斑(U%)は、1.2%以下であることが好ましい。1.2%を越えると糸の太さムラにより布帛としたときに濃淡ムラなどの欠点となる。上記ウースター斑は、溶融紡糸において均一冷却、均一給油、延伸倍率等紡糸条件により上記範囲に制御することができる。
【0048】
本発明でいう繊維とは、長繊維、短繊維のいずれの場合も含むものである。
【0049】
本発明でいうポリ乳酸繊維及びポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維はアルカリ減量を行うことが機能性を高めるために好ましい。この場合、アルカリ減量は、原糸のまま減量しても、布帛とした後に減量してもいずれの場合でもよい。また、減量率は目的とする機能に応じて設定可能であり、好ましくは3〜100%である。
【0050】
例えば、布帛としては、パンスト、タイツ、靴下などの丸編み、下着、水着向けのトリコット、さらにはスポーツウェア、外衣向けの織物、編物などが挙げられる。丸編み、トリコットなどの場合には、編成、熱セットを施した後に減量処理をおこない、中和処理、染色、仕上げセット及び機能加工を行う。また、織物の場合には整経、糊付け、製織を行った後に減量処理をおこない、中和処理、染色、仕上げセット及び機能加工を行う。また、これらの前工程として仮撚りや流体噴射加工などを行い繊維に嵩高性を持たせることも可能である。また、布帛を形成する際にはポリ乳酸繊維を少なくとも30%以上の混率であることが好ましい。複数種の繊維よりなる布帛の例として、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタン等の弾性繊維と混合したニットや、複合フィラメント糸をタテ糸またはヨコ糸のみに用いた織物、さらには他の合成繊維あるいは綿などの天然繊維と合撚、複合加工する方法などが挙げられる。
【0051】
アルカリ減量に用いるアルカリの種類は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど強アルカリが挙げられるが、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。このアルカリ減量のとりうる条件としては、アルカリ濃度5〜80g/Lの水溶液とすることが好ましく、5〜50g/Lの水溶液とすることがより好ましい。80g/Lを越えると、生産作業者にとっての取り扱いに危険を伴う。5g/L未満の場合、減量時間を要するため生産性が低下する。また、その水溶液の温度は、70〜115℃であることが好ましく、80〜100℃であることがより好ましい。115℃を越えると、ポリ乳酸繊維が劣化し引裂強力、破裂強力等、布帛の物理特性が低下する。また、ポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維の場合は、ポリ乳酸繊維だけでなくポリアミド繊維の強力が低下し引裂強力、破裂強力等、布帛の物理特性が低下する。70℃未満の場合、加水分解が遅くなり減量時間を要するため生産性が低下する。減量時間については、目的とする風合いなどの機能性が発現するための減量を達成する時間が適宜選択される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0053】
なお、実施例および比較例における各測定値は、次の方法で得たものである。
【0054】
A.重量平均分子量
島津社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー「島津LC−10AD」を用いて、
ポリスチレンを標準として測定した。
【0055】
B.融点
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料20mgを昇温速度 16℃/分にて測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。
【0056】
C.強度および伸度
オリエンテック社製「テンシロンUTM−100III」を用いて、室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強伸度曲線を求めた。(JIS L 1013に準拠)
【0057】
D.沸騰水収縮率
下記式から求めた。
沸収(%)=[(L0−L1)/L0]]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初荷重0.088cN/dtex下で測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.088cN/dtex下でのかせ長。
【0058】
E.ウースター斑(U%)
ツエルベガー社製「ウースターテスターIII 」を用いてハーフモードで20m/分×3分間の測定により、糸の太さ斑を測定した。
【0059】
F.加水分解性(減量率、加水分解速度)
筒編地を所定の減量条件において、設定温度に到達した時点から、設定した時間点での重量を測定し、減量前後における重量変化により減量率を算出し、下記式により加水分解速度比を算出した。
(加水分解速度比)=(該当水準の減量率)/(マグネシウム化合物を含まないポリ乳酸水準の減量率)
【0060】
G.乾摩擦堅牢度
染色した布帛サンプルを綿布で100回往復摩擦した後の、綿布への色移り度合いをグレースケールを用いて1〜5級で判定した。(JIS L 0849に準拠)
なお染色は以下の方法で行った。すなわち、分散染料(Dianix Navy Blue ERFS 200)2重量%、染色温度110℃、染色時間40分にて染色加工を施した。
【0061】
H.引裂強力
JIS L 1096「一般織物試験方法」(1999)、シングルタング法に準じて測定した。
【0062】
I.製糸性
1t当たりの糸切れの回数を示した。
【0063】
実施例
実施例1
ポリ乳酸100gに対し協和化学工業製の“酸化マグネシウムEL”の粉末をマグネシウム含有量が10ミリモル、日本油脂製のエチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)粉末を、0.7%となるようにブレンドした重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃)を220℃で溶融し、孔径0.15mm丸型の吐出孔(24ホール)を有する紡糸口金から吐出し、一方向からの冷却風によって冷却し、脂肪酸エステル系の平滑剤を40重量%(イソトリデシルステアレート20重量%+オクチルパルミテート20重量%)を含有する紡糸油剤(濃度15%)を繊維に対して1重量%塗布する給油をし、交絡を付与したのち第1ゴデットローラー(非加熱ローラー)に引取り、引き続き、第2ゴデットローラー(非加熱ローラー)を介して、4500m/minにて巻き取った。
【0064】
続いて、130℃に加熱された第1ホットローラーと120℃に加熱された第2ホットローラーとの間で1.3倍に延伸し、84デシテックス、24フィラメントのポリ乳酸長繊維糸条を得た(強度6.0cN/dtex、伸度25%、沸騰水収縮率5%、ウースター斑0.5%)。
【0065】
得られたポリ乳酸長繊維糸をタテ糸およびヨコ糸に用いてタテ密度120本/インチ、ヨコ密度90本/インチのタフタ織物を製織した。製織したタフタ織物を40g/lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、昇温速度1.5°/分で80℃まで昇温し、80℃で10分減量した時の減量率を測定した。また、乾摩擦堅牢度を測定したところ4級であった。
【0066】
実施例2
エチレンビスステアリン酸アミドを含まない以外は実施例1と同様に製糸し、84デシテックス、24フィラメントのポリ乳酸長繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸長繊維糸条を、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。また、乾摩擦堅牢度を測定したところ2級であった。実施例1と比較してエチレンビスステアリン酸アミドを含有するものは、織物の耐摩耗性に優れることがわかる。
【0067】
実施例3
マグネシウム含有量を0.5ミリモルとした以外は、実施例1と同様に製糸し、84デシテックス、24フィラメントのポリ乳酸長繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸長繊維糸条を、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。
【0068】
実施例4
マグネシウム含有量を25ミリモルとした以外は、実施例1と同様に製糸し、84デシテックス、24フィラメントのポリ乳酸長繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸長繊維糸条を、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。
【0069】
比較例1
マグネシウム含有量を0.2ミリモルとした以外は、実施例1と同様に製糸し、84デシテックス、24フィラメントのポリ乳酸長繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸長繊維糸条を、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。
【0070】
比較例2
マグネシウム含有量を30ミリモルとした以外は、実施例1と同様に製糸し、84デシテックス、24フィラメントのポリ乳酸長繊維糸条を得た。この時、製糸開始直後と24時間後の紡糸フィルターの濾圧上昇(15MPa)が高く、糸切れが10回/tと生産性が低かった。得られたポリ乳酸長繊維糸条を、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。
【0071】
比較例3
マグネシウムを含まないとした以外は、実施例1と同様に製糸し、84デシテックス、24フィラメントのポリ乳酸長繊維糸条を得た。得られたポリ乳酸長繊維糸条を、実施例1と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
表1より明らかなように、本発明におけるポリ乳酸繊維は、アルカリ加水分解性に優れている。
【0074】
実施例5
ポリ乳酸100gに対し協和化学工業製の“酸化マグネシウムEL”の粉末をマグネシウム含有量が10ミリモル、日本油脂製のエチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50S”)0.7重量%となるようにブレンドした重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃)を芯部とし、98%硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン6(融点225℃)を鞘部として、それぞれ別々に溶融し、お互いの重量比が50/50となるように計量して紡糸口金に導き、ポリ乳酸が芯部、ナイロン6が鞘部となるように複合した後、溶融吐出した(紡糸温度260℃)。つづいて糸条を冷却風で冷却し、給油、交絡をおこなった後、第1ゴデッドローラー(非加熱ローラー)で引き取り、第2ゴデッドローラー(170℃の加熱ローラー)との間で1.5倍に延伸して巻き取り速度4000m/分で巻き取りをおこない、図1(a)に示すような複合形態の78デシテックス24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。
【0075】
得られた芯鞘複合長繊維糸条をタテ糸およびヨコ糸に用いてタテ密度120本/インチ、ヨコ密度90本/インチのタフタ織物を製織した。得られたタフタ織物を40g/lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、昇温速度2℃/分で100℃まで消音し、100℃で10分、30分減量した時の減量率を測定した。減量率50%のタフタ織物(ナイロン6)は軽量性に優れており、引き裂き強力(タテ)は、12Nであった。
【0076】
比較例4
無機マグネシウム化合物を含まないとした以外は、実施例5と同様に製糸し、図1(a)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。 得られた芯鞘複合長繊維糸条を用いて、実施例5と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。10分後の加水分解速度は、実施例5の方が比較例4よりも2.3倍速く、比較例4のものは生産性に劣っていた。
【0077】
30分減量処理を施しても、減量率50%を得ることができなかったため、60分減量処理を施し、減量率50%を確認した。得られた減量率50%のタフタ織物は軽量性に優れていたが、引き裂き強力(タテ)は、10Nであった。実施例5と比較して、無機マグネシウム化合物を含有しないものは、長い減量時間を要するとともに、布帛の耐久性も低下することが解る。
【0078】
実施例6
ポリ乳酸とナイロン6の重量比を30/70とした以外は、実施例5と同様に製糸し、図1(a)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を、実施例5と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。減量率30%のタフタ織物(ナイロン6)は軽量性に優れていた。また、引き裂き強力(タテ)は17Nであった。
【0079】
比較例5
無機マグネシウム化合物を含まないとした以外は、実施例6と同様に製糸し、図1(a)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を用いて、実施例5と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。10分後の加水分解速度は、実施例6の方が比較例よりも2.1倍速く、比較例5のものは生産性に劣っていた。減量率30%のタフタ織物(ナイロン6)は軽量性に優れていたが、引き裂き強力(タテ)は、14Nであった。実施例5と比較して、無機マグネシウム化合物を含有しないものは、長い減量時間を要するとともに、布帛の耐久性も低下することが解る。
【0080】
実施例7
ポリ乳酸とナイロン6の重量比を70/30とした以外は、実施例5と同様に製糸し、図1(a)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を、実施例5と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。減量率70%のタフタ織物(ナイロン6)は軽量性に優れていた。
【0081】
比較例6
無機マグネシウム化合物を含まないとした以外は、実施例7と同様に製糸し、図1(a)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を用いて、実施例5と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。10分後の加水分解速度は、実施例7の方が比較例よりも2.3倍速く、比較例6のものは生産性に劣っていた。
【0082】
実施例8
複合形態を図1(b)の芯鞘複合繊維とした以外は、実施例5と同様に製糸し、78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を実施例5と同様にタフタ織物を製織した。得られたタフタ織物を40g/lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、昇温速度2℃/分で80℃まで昇温し、80℃で10分減量した時の減量率を測定した。減量率30%のタフタ織物(ナイロン6)はソフト性に優れていた。
【0083】
比較例7
無機マグネシウム化合物を含まないとした以外は、実施例8と同様に製糸し、図1(b)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を用いて、実施例8と同様にタフタ織物を作成し、減量処理を施し、減量率を測定した。
【0084】
10分後の加水分解速度は、実施例8のものが、比較例7のものと比較して、2.1倍速く、比較例7のものは生産性に劣っていた。
【0085】
実施例9
複合形態を図1(c)の芯鞘複合繊維とした以外は、実施例5と同様に製糸し、78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を実施例5と同様にタフタ織物を製織した。得られたタフタ織物を5g/lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、昇温速度1.5℃/分で80℃まで昇温し、80℃で10分減量した時の減量率を測定した。減量率5%のタフタ織物(ポリ乳酸とナイロン6混)はソフト性に優れていた。また、200℃のアイロンを30秒あてた評価をしたところ、繊維が融着した。さらに、乾摩擦堅牢度を測定したところ、4級であり、乾摩擦堅牢度にも優れていた。
【0086】
比較例8
無機マグネシウム化合物を含まないとした以外は、実施例9と同様に製糸し、図1(c)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を用いて、実施例5と同様にタフタ織物を作成し。得られたタフタ織物を実施例9と同様に減量処理を施し、減量率を測定した。10分後の加水分解速度は、実施例9の方が比較例よりも2.0倍速く、比較例8のものは生産性に劣っていた。
【0087】
実施例10
ポリ乳酸を、重量平均分子量15.1万ポリL乳酸と重量平均分子量30.2万のポリD乳酸(PURAC社製)を50:50とブレンドした以外は、実施例9と同様に製糸し、図1(c)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を用いて、実施例5と同様にタフタ織物を作成し。得られたタフタ織物を実施例9と同様に減量処理を施し、減量率を測定した。減量率5%のタフタ織物(ポリ乳酸とナイロン6混)はソフト性に優れていた。また、200℃のアイロンを30秒あてた評価をしたところ、繊維1本1本融着することなく耐熱性に優れていた。さらに、乾摩擦堅牢度を測定したところ、4級であった。
【0088】
200℃のアイロンによる評価は、実施例10のものが実施例9のものと比較して、実施例10のものは耐熱性にすぐれていた。
【0089】
実施例11
ポリ乳酸を、重量平均分子量15.1万ポリL乳酸と重量平均分子量30.2万のポリD乳酸(PURAC社製)を50:50とブレンド、エチレンビスステアリン酸アミドを含まないとした以外は、実施例9と同様に製糸し、図1(c)に示すような複合形態の78デシテックス、24フィラメントの芯鞘複合長繊維糸条を得た。得られた芯鞘複合長繊維糸条を用いて、実施例5と同様にタフタ織物を作成し。得られたタフタ織物を実施例9と同様に減量処理を施し、減量率を測定した。減量率5%のタフタ織物(ポリ乳酸とナイロン6混)はソフト性に優れていた。また、200℃のアイロンを30秒あてた評価をしたところ、繊維1本1本融着することなく耐熱性に優れていた。さらに、乾摩擦堅牢度を測定したところ、2級であり、乾摩擦堅牢度にも優れていた。
【0090】
実施例10、11を比較するとエチレンビスステアリン酸アミドを含むものは、織物の耐摩耗性に優れることがわかる。
【0091】
【表2】

【0092】
表2より明らかなように、本発明における芯鞘複合繊維は、アルカリ加水分解が速く、さらには、製糸性が良く生産性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明のポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維の繊維横断面形状を模式的に例示する繊維断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1:ポリ乳酸、 2:ポリアミド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有し、かつ樹脂成分としては実質的にポリ乳酸からなるポリ乳酸繊維。
【請求項2】
ポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合繊維において、無機マグネシウム化合物をポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル(マグネシウム換算)含有するポリ乳酸部が、繊維表面一部又は全表面に配されていることを特徴とする芯鞘複合繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2006−283222(P2006−283222A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104191(P2005−104191)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】