説明

ポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造方法

【課題】ポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造において、鋼板上にポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムをラミネートした後の冷却速度を速めることにより、加工性に優れるポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の光沢上昇とエンボス形状の劣化を抑制し、意匠性に優れたポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を提供すること。
【解決手段】鋼板表面に、最外層に透明ポリ塩化ビニル樹脂凹凸層を具えるポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを接着剤を介して貼着し、その後、加熱、加圧した後に、冷却してポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を製造する方法において、上記の加熱、加圧後の冷却に当たり、1秒以内に60℃以下の温度にまで急冷すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装壁材や鋼製家具などに使用できるポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板は、予め着色したポリ塩化ビニル樹脂フィルム上に装飾用の印刷を施した後、印刷面側に透明なポリ塩化ビニル樹脂フィルムを保護層としてラミネートした複合フィルムを作り、さらにその表面にフィルムエンボスロールを用いて凹凸を施した後、この複合フィルムを接着剤を塗布した金属板上にラミネートしたものからなる。
【0003】
このポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板は、着色やプリント、エンボス加工の自由度が高く、様々な装飾が可能であることから意匠性に優れ、さらに金属板として加工性、機械的強度、耐薬品性、防湿性等に優れる鋼板の一つである。
【0004】
しかし、このポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板は、加工性が優れる一方で、樹脂自体の融点が低い傾向にあり、ラミネート時にフィルム表面の光沢が上昇したり、最外層のエンボス形状が減少する等の欠点がある。この欠点を補うためにポリ塩化ビニル樹脂フィルムに添加されている可塑剤を減少させると、光沢の上昇やエンボス形状の減少は低減することができるが、反面、加工性の低下や加工部分の白色化現象が発生するという新たな問題点が生じてしまう。
【0005】
この点に関し、特許文献1には、塩化ビニルフィルムと耐熱性の高い離型フィルムとを、紫外線硬化型塗膜を介して仮着し、これを鋼板に貼合た後、圧着ロールを用いて一体化させた後、全体を冷水に浸漬して冷却する方法が開示されている。また、特許文献2には、金属板上にポリ塩化ビニル樹脂フィルムと合成樹脂フィルムとの複合フィルムを積層し、これを圧着ロールを用いて一体化させた後、積層金属板裏側に冷却水を噴射して冷却する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−54552号公報
【特許文献2】特開平4−226350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2において開示されている技術はいずれも、鋼板上へのポリ塩化ビニル樹脂フィルムを有する複合フィルムのロール圧着後の冷却速度が遅く、得られる被覆鋼板の光沢が上昇したり、最外層のエンボス形状が劣化(減少)するという問題点を抱えていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術が抱えている上述した課題を解決し、ポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造において、鋼板上にポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムをラミネートした後の冷却速度を速めることにより、加工性に優れるポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の光沢上昇とエンボス形状の劣化を抑制し、意匠性に優れたポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、従来技術が抱えている上述した課題を解決し、上記目的の実現に有効な手段として、下記の要旨構成に係る新規技術を提案する。すなわち、本発明は、鋼板表面に、最外層に透明ポリ塩化ビニル樹脂凹凸層を具えるポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを接着剤を介して貼着し、その後、加熱、加圧した後に、冷却してポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を製造する方法において、上記の加熱、加圧後の冷却に当たり、1秒以内に60℃以下の温度にまで急冷することを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造方法に関する。
【0009】
なお、本発明においては、
(1)前記ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムは、鋼板表面側から着色ポリ塩化ビニル樹脂層、印刷層および、最外層にエンボスが施された透明ポリ塩化ビニル樹脂凹凸層を順次に積層したフィルムからなること、
(2)前記急冷は、加熱、加圧後のポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板に対し、該外表面に冷却水を噴射するか、該鋼板を冷却水中に浸漬することのいずれか1以上の冷却方法によること、
がより好ましい解決手段となる。
【発明の効果】
【0010】
前記のような本発明のポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造方法では、鋼板上にポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを貼着して、加熱、加圧後、1秒以内に前記被覆鋼板の温度を60℃以下にまで急冷する。このことにより、該鋼板は、ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムの融点以下の温度となり、該フィルムの溶融による表面の平滑化が防止できるため、鋼板表面の光沢の上昇やエンボス形状の劣化を抑制できると共に、加工性の低下や加工部分の白色化現象の発生も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
鋼板表面に、最外層に透明ポリ塩化ビニル樹脂凹凸層を具えるポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを接着剤を介して貼着し、その後、加熱、加圧すると、その加熱温度によって融点の低い該ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムが溶け出し、フィルム表面の光沢が上昇したり、外表面に加工したエンボス模様が融けて減少してしまうおそれがある。そこで、本発明では、上記の加熱、加圧後に、加熱鋼板を1秒以内に60℃以下の温度にまで急冷し、前記のようなポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムの溶融を効果的に抑制することを提案するものである。
【0012】
なお、前記のようにポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを貼着した鋼板を、加熱、加圧後、1秒以内に60℃以下の温度まで急冷する理由は、温度が60℃を超えると、ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムの溶融により表面が平滑化され、光沢の上昇、エンボス形状の劣化が発生するからであり、また、加熱、加圧後から冷却されるまでの時間が1秒を超えると、同様に平滑化が促進されるからである。
【0013】
また、上記のように被覆鋼板を60℃以下にまで急冷する方法としては、該鋼板の被覆面側に冷却水を噴射するか、該鋼板を冷却水中に浸漬することのいずれか1以上の冷却方法によることが好ましく、これは、該鋼板の表面温度を急激に下げる方法として最も有効だからである。
【0014】
なお、本発明において用いられる鋼板としては、とくに限定されるものではなく、亜鉛めっき鋼板、アルミめっき鋼板等のめっき鋼板や合金化めっき鋼板等、種々のものを好適に用いることができる。なお、金属板として使用するめっき鋼板等は、ポリ塩化ビニルフィルムの貼着に先立ち、その片面もしくは両面に、予め化成処理を施すことが好ましい。この化成処理は、めっき鋼板等とポリ塩化ビニルフィルムとの密着性を向上し、かつ耐食性を付与するために形成されるものであり、例えば、塗布型クロメート、クロメートフリー系においては、リン酸塩処理もしくはジルコニウム系、シリカ系、アルミ系等を含有する化成処理が好ましい。
【0015】
また、ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを鋼板表面に貼着する際に用いられる接着剤としては、ポリエステル系、アクリル系またはウレタン系の接着剤などが好適に用いられる。なお、接着剤層の厚みは1〜20μmであることが好ましい。この理由は、接着剤層の厚みが1μm未満では、接着剤層の不足による密着不良が生じるからであり、一方、20μm超では、接着剤層の凝集破壊による接着性の低下が生じるためである。
【0016】
また、本発明において、上記ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムは、めっき鋼板側(下層)から、着色ポリ塩化ビニル樹脂層、印刷層、および最外層がエンボスが施された透明のポリ塩化ビニル樹脂凹凸層が順次に積層された積層フィルムであることが好ましい。なお、上記の着色ポリ塩化ビニル樹脂層、印刷層および透明のポリ塩化ビニル樹脂凹凸層はそれぞれ、建材分野において公知のものを使用することができる。ただし、着色ポリ塩化ビニル樹脂層および透明のポリ塩化ビニル樹脂凹凸層はいずれも、加工性を向上し、かつ加工部の白色化を防ぐため、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、可塑剤を15〜35質量部、好ましくは20〜30質量部配合したものが好ましい。その理由は、可塑剤が15質量部未満の場合、加工性の低下や加工部分の白色化現象が発生するおそれがあり、一方、35質量部超の場合、光沢の上昇やエンボス形状の劣化を抑制することができないからである。また、上記印刷層は、とくに限定されるものではないが、通常のインキを用いて、グラビア印刷やオフセット印刷等の印刷法によって形成されるものである。
【実施例】
【0017】
下記の実施例1および2、比較例1〜5にしたがって得られたそれぞれのポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板に対し、該ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムの鋼板表面への貼着(ラミネート)直後(約1秒後)の温度を、携帯型熱画像装置サーモビューTi20(FLUKE製)によって測定した。その結果を表1に示す。
(実施例1)
連続式カラー塗装ライン上で、0.4mm厚の亜鉛めっき鋼板(帯状金属板)に、化成処理(塗布型クロメート)を施した後、ウレタン系接着剤(東洋インキ製)を5μmの厚さに塗布し、次に、加熱炉内に装入して鋼板の温度が190℃になるように加熱し、さらに、その加熱鋼板上にポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを貼着(ラミネート)した後、直ちに鋼板温度が60℃以下になるように外表面側(ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムの被覆面側)から、流水を、幅方向に均一になるように直接吹きつけて冷却を行った。なお、60℃以下まで急冷した鋼板は、さらに水槽に通し、ディッピングによって室温まで冷却した。
【0018】
本実施例1において使用したポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムは、ポリ塩化樹脂100質量部に対して、25質量部の可塑剤とその他顔料や安定剤を有する膜厚100μmの着色ポリ塩化ビニル樹脂層に、印刷を施した後、樹脂100質量部に対して30質量部の可塑剤とその他安定剤を有する膜厚100μmの透明のポリ塩化ビニル樹脂層を積層し、さらにこの透明のポリ塩化ビニル樹脂層表面にエンボスロールでエンボス(凹凸)を施したものからなる。
【0019】
(実施例2)
下層となる着色ポリ塩化ビニル樹脂層が、ポリ塩化樹脂100質量部に対して、15質量部の可塑剤を有するものからなり、上層となる透明のポリ塩化ビニル樹脂層が、膜厚50μmのポリ塩化樹脂100質量部に対して、17質量部の可塑剤を有するものからなること以外は、実施例1と同様にしてポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を作製した。
【0020】
(比較例1)
ポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を冷却する際に、該鋼板表面に吹きつける流水量を調節し、ラミネート後の温度を70〜80℃にした以外は、実施例1と同様にしてポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を作製した。
【0021】
(比較例2)
ポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を冷却する際に、該鋼板表面に吹きつける流水量を調節し、ラミネート後の温度を90℃にした以外は、実施例1と同様にしてポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を作製した。
【0022】
(比較例3)
流水の吹きつけによる冷却を行わず、水槽によるディッピングのみで冷却を行うと共に、このディッピングをラミネートから約2秒後に行った以外は、実施例1と同様にしてポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を作製した。
【0023】
(比較例4)
ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを鋼板表面に貼着(ラミネート)した後、約1秒後に該ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムの被覆面とは逆側(裏面側)から冷水をシャワーして冷却を行った以外は、実施例1と同様にしてポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を作製した。
【0024】
(比較例5)
ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを鋼板表面に貼着(ラミネート)した後、水冷却を行わず、そのまま放冷して冷却した以外は、実施例1と同様にしてポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を作製した。
【0025】
【表1】

【0026】
このようにして作製した上記実施例および比較例のポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板に対し、種々の性能試験を行った。各測定方法、試験方法および評価方法は以下の通りである。その結果を表2に示す。なお、実施例1と同様の組成からなるポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムについても同様の性能試験を行い、その結果を表2に比較して示す。
(1)表面光沢測定
JIS−K−5600−4−7に規定された塗料一般試験方法に基づき、被覆膜表面の光沢値を測定した。
(2)表面粗さ測定
レーザー顕微鏡 VK8700(キーエンス製)を用いて、表面の平均粗さおよび最大粗さを求めた。
(3)鉛筆硬度試験
JIS−K−5600−5−5に規定された塗料一般試験方法に基づき、被覆膜表面に疵のつかない硬度を求めた。なお、鉛筆は、三菱鉛筆ユニを使用した。
(4)曲げ試験
JIS−G−3312に規定された曲げ試験方法に基き、被覆膜面を外側にして鋼板を180度に曲げて、折り曲げ部分に割れが発生しなくなるT数を求めた。なお、T数とは、折り曲げ部分の内側に何も挟まず、180度折り曲げ行った場合を0T、試験板と同じ厚さの板を1枚挟んで折り曲げた場合を1T、2枚、3枚を挟んだ場合を2T、3Tと表すものである。また、白色化現象は、折り曲げ部分を目視判定して評価した。
【0027】
【表2】

【0028】
表2の結果より、実施例1および2では、ポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板表面の光沢値の上昇が少なく、また、エンボス(凹凸)の減少を低く抑えることができた。これは、ラミネート直後の鋼板温度を60℃以下まで急冷させたことによるものと考えられる。
一方、比較例1および2では、被覆面側(外表面側)から水冷却を行っているものの、冷却水量が少ないため冷却効率が悪く、鋼板温度を十分に下げることができなかったため、ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルム表面が溶融してしまい、光沢値が上昇すると共に、エンボス(凹凸)も減少してしまった。また、比較例3〜5では、ラミネート直後に加熱鋼板を急冷しなかったため、同様に被覆鋼板表面の光沢値の上昇やエンボス(凹凸)の減少が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板は、加工性と意匠性に優れるものであり、内装壁材や鋼製家具などとして好適であることはもちろん、それら以外にも前記性能が要求される用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に、最外層に透明ポリ塩化ビニル樹脂凹凸層を具えるポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムを接着剤を介して貼着し、その後、加熱、加圧した後に、冷却してポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板を製造する方法において、
上記の加熱、加圧後の冷却に当たり、1秒以内に60℃以下の温度にまで急冷することを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記ポリ塩化ビニル樹脂積層フィルムは、鋼板表面側から着色ポリ塩化ビニル樹脂層、印刷層および、最外層にエンボスが施された透明ポリ塩化ビニル樹脂凹凸層を順次に積層したフィルムからなることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記急冷は、加熱、加圧後のポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板に対し、該外表面に冷却水を噴射するか、該鋼板を冷却水中に浸漬することのいずれか1以上の冷却方法によることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ塩化ビニル樹脂被覆鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−106346(P2012−106346A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254756(P2010−254756)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】