説明

ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体及びその製造方法

ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体、及びそれを製造する方法を開示する。ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体を製造する方法には、両親媒性ブロック共重合体の重合において、α−ヒドロキシ酸、そのラクトン単量体、そのオリゴマー及び有機金属触媒を除去することが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両親媒性ブロック共重合体は、親水性高分子ブロックと疎水性高分子ブロックを含む。親水性高分子ブロックとしては、生体内で血中タンパク質及び細胞膜と直接接触するため、生体適合性をもつポリエチレングリコールまたはモノメトキシポリエチレングリコールなどが使用されてきた。一方、疎水性高分子ブロックとしては、疎水性薬物との親和性を向上させ、生分解性をもつポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリアミノ酸またはポリオルトエステルなどが使用されてきた。特に、ポリラクチド誘導体は、生体適合性に優れ、体内では無害な乳酸に加水分解されるという特徴から多様な形態で薬物担体に応用されている。ポリラクチド誘導体は、その分子量に応じて多様な性質を有する。さらに、ポリラクチド誘導体は、ミクロスフェア、ナノ粒子、高分子ゲル、及びインプラント剤などの形態で開発された。
【0003】
薬物担体として使用される両親媒性ブロック共重合体は、親水性及び疎水性高分子ブロックの構成比及びそれぞれの分子量などを調節して薬物の放出速度を制御することができ、薬物の放出速度を正確に調節するためには、両親媒性ブロック共重合体の純度が重要である。疎水性生分解性高分子ブロックを合成するために単量体を使用するが、最終両親媒性ブロック共重合体に反応しない単量体が含まれると、分子量分布が広くなり、低分子量の高分子をヒトに投与したとき、初期に薬物が過多放出される現象を示すこともある。また、残留する単量体が分解されてpHが低下すると、高分子の分解速度が早くなり、持続的な薬物放出が困難となる。
【0004】
こうした状況下で、疎水性ブロックとしてポリラクチド誘導体を含む両親媒性ブロック共重合体を溶媒/非溶媒法にて精製する技術が示唆されている。この方法において、単量体であるd,l−ラクチドを除去するために溶媒/非溶媒系として塩化メチレン/エーテル系を使用する。このような方法ではd,l−ラクチドの除去には効果があるものの、高分子の重合時に使用されたオクタン酸スズ触媒は、非溶媒中でブロック共重合体と一緒に沈殿されてしまい、殆ど除去させることができない。また、非溶媒として使用されるエーテルの沸点が非常に低いため商業化の適用にも多くの問題点をもっている。オクタン酸スズ触媒の残留は、ポリラクチド誘導体の加水分解を促進させることで分子量を減少させ、その結果、pHを低下させるようになる。
【0005】
別のアプローチとしては、溶媒を使用することなく単量体を除去する方法が示唆されてきた。この方法では、ポリラクチド誘導体を含む両親媒性共重合体を合成した後、高温の真空条件下で未反応単量体であるラクチドの昇華性質を用いて昇華法で除去する。この方法は商業化の適用には有利であるという長所がある。しかし、残った単量体の含量を1重量%以下に下げにくく、長時間の高温及び真空条件では合成された高分子の熱分解現象により所望する分子量を調節しにくい。また、重合時に使用された有機金属触媒はそのまま含むようになる。
【0006】
一方、米国特許公開第20050238168号では、液−液相分離方法で低分子量のd,l−ポリ乳酸を精製する方法が開示されている。重合された高分子をメタノールまたはエタノールなどに加熱して溶かした後、−78℃で冷凍保管すると層分離が起こる。低分子量のポリ乳酸は上層の有機溶媒に溶解され、且つ高分子量のポリ乳酸は下層で固体化される。下層を分離した後に溶媒を蒸留除去する工程で単量体及びオリゴマーが除去され、分子量の分布が狭い高純度のd,l−ポリ乳酸が得られることが開示されている。しかし、低温下で保管するため未反応単量体のラクチドの溶解度が減少することでラクチドが沈殿し、その結果、ラクチドを除去しにくいという問題点がある。さらに、両親媒性ブロック共重合体の場合は、低温下で保管しても液−液相分離が起こらないため、上記方法を両親媒性ブロック共重合体の精製に使用することは不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体から単量体、低分子量の重合体及び有機金属触媒を効率よく除去して、高純度のポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を製造する方法が開示される。また、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体が開示される。
【0008】
さらに、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体を利用するミクロスフェア、高分子ミセルなどの医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一局面において、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体を製造する方法が提供され、この方法は、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を水混和性のある有機溶媒に溶解させ;得られた高分子溶液に水またはアルカリ金属塩を含む水溶液を添加し、その後に混合し;得られた溶液を塩析法によって有機溶媒層と水溶液層とに分離させ;及び有機溶媒層を収得し、有機溶媒を除去して高分子を回収することを含む。
【0010】
別の局面では、上記両親媒性ブロック共重合体は、α−ヒドロキシ酸のラクトン単量体の含量が共重合体全体の重量を基準に1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が共重合体全体の重量を基準に50ppm以下であるポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体が提供される。
【0011】
発明の効果
本明細書に開示される両親媒性ブロック共重合体及びその製造方法によれば、両親媒性ブロック共重合体に含有されている未反応単量体、有機金属触媒などを効率よく除去して純度の高い高分子を得ることができ、且つ副産物による副反応及び毒性を顕著に低減させる。そして、医療用高分子の商業生産工程に本発明の精製工程を適用しやすいため、医療用適用分野を増大させるという効果がある。
【0012】
開示された例示的な態様の上記及び他の局面、特徴並びに利点は、添付の図面と併せて、以下の詳細なき記載からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】製造例1から得られたジブロック(diblock)共重合体mPEG−PLAの1H−NMRスペクトルを示す。
【図2】実施例1に従って精製されたジブロック共重合体mPEG−PLAの1H−NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
例示的な態様は、添付の図面を参照して、以下においてより十分に記載され、ここでは、例示的な態様が示される。しかし、この開示は、多くの異なる形態で体現されてもよく、そこに記載される例示的な態様に限定されるものとして構成されるべきではない。むしろ、これらの例示的な態様は、この開示が詳細であり、かつ完全であるように提供され、当業者に対してこの開示の範囲を十分に伝えることができる。本明細書では、周知な特徴及び技術の詳細は、示された態様を不必要に不明瞭にすることを避けるために削除される場合がある。
【0015】
本明細書において使用される用語は、特定の態様だけを記載することを目的とするものであって、この開示を限定することを意図していない。本明細書で使用するとき、単数形である「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、他に明確に指示がなければ、同様にその複数形を含むものとする。さらに、用語、aやanなどの使用は、量の制限を示しておらず、むしろ、参照される項目の少なくとも1つの存在を示す。さらに、用語「含む(comprise)」及び/又は「含んでいる(comprising)」、又は「含む(include)」及び/又は「含んでいる(including)」は、本明細書中で使用されるとき、定まった特徴、領域、整数、段階、操作、要素、及び/又は成分の存在を特定するものであるが、1以上の他の特徴、領域、整数、段階、操作、要素、及び/又はそれらのグループの存在又は追加を排除しない。
【0016】
他に定義がなければ、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。さらに、用語、例えば、通常使用される辞書において定義される用語は、関連技術及び本開示との関連でそれらの意味が一致し、本明細書において明確に定義されていなければ、理想的又は非常に公式的な意味で妨げられない。
【0017】
一局面では、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の両親媒性ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体が提供される。別の局面では、上記の両親媒性ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0018】
一態様では、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体の製造方法は、
ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を水混和性のある有機溶媒に溶解させ;
得られた高分子溶液に水またはアルカリ金属塩を含む水溶液を混合し;
得られた溶液を塩析法によって有機溶媒層と水溶液層とに分離させ;及び
有機溶媒層を収得し、有機溶媒を除去して高分子を回収する
ことを含む。
【0019】
別の態様において、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の両親媒性ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体は、α−ヒドロキシ酸のラクトン単量体の含量が共重合体全体の重量を基準に1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が共重合体全体の重量を基準に50ppm以下である。より具体的には、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の両親媒性ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体は、α−ヒドロキシ酸のラクトン単量体の含量が共重合体全体の重量を基準に0.5重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が共重合体全体の重量を基準に20ppm以下である。一態様によれば、ラクチドの含量が共重合体全体の重量を基準に1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が共重合体全体の重量を基準に50ppm以下である高純度のポリラクチド誘導体高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を提供する。
【0020】
以下、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体及びその製造方法についてより詳しく説明することにする。
【0021】
一態様によれば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む高純度の両親媒性ブロック共重合体を製造する方法が提供される。本方法は、単量体を加水分解させて単量体の水溶液に対する溶解度を増加させ、液−液相分離するために塩化合物を処理して塩析法(salting−out method)を適用する方法を含む。
【0022】
より具体的に、一態様に係る本方法は、
ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を水混和性のある有機溶媒に溶解させ;
得られた高分子溶液に水またはアルカリ金属塩水溶液を混合し;
得られた溶液を塩析法によって有機溶媒層と水溶液層とに分離させ;及び
有機溶媒層を収得し、有機溶媒を除去して高分子を回収する
ことを含む。
【0023】
一態様による本方法から得られた両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)とからなるA−B型のジブロック共重合体またはB−A−B型のトリブロック共重合体を含む。両親媒性ブロック共重合体の親水性ブロックの含量は20〜95重量%、より具体的には40〜95重量%であり、疎水性ブロックの含量は5〜80重量%、より具体的には5〜60重量%である。両親媒性ブロック共重合体の数平均分子量は1,000〜50,000ダルトンであり、具体的には1、500〜20,000ダルトンである。
【0024】
上記親水性高分子ブロックは、生体適合性をもつポリエチレングリコールまたはその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはポリアクリルアミドなどである。より具体的には、親水性高分子ブロックには、ポリエチレングリコールまたはモノメトキシポリエチレングリコールが含まれる。親水性ブロックの数平均分子量は200〜20,000ダルトン、具体的には200〜10,000ダルトンである。
【0025】
疎水性高分子ブロックは、生分解性をもつ高分子でα−ヒドロキシ酸由来単量体の高分子であり、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(マンデル酸)、ポリカプロラクトンまたはポリ(ジオキサン−2−オン)、これらの共重合体、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物及びポリカーボネートよりなる群から選択される一種以上であり、具体的には、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトンまたはポリ(ジオキサン−2−オン)である。
【0026】
ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式1によって表すことができる。
[式1]
HO−[R1l−[R2m−[R3n−R4
式中、
1は、−CHZ−C(=O)−O−であり;
2は、−CHY−C(=O)−O−、−CH2CH2CH2CH2CH2−C(=O)−O−、または−CH2CH2OCH2−C(=O)−O−であり;
3は、−CH2CH2O−、−CH(OH)−CH2−、−CH(C(=O)−NH2)−CH2−、または
【0027】
【化1】

【0028】
であり;
4は、−CH3または−C(=O)−[R1l−[R2m−CHZ−OHであり;
Z及びYは、各々、−H、−CH3、−C65、またはC65−CH2−であり;
lとmは、各々、0〜300の整数であり、lとmは両方とも同時に0になることはなく;
nは、4〜1、100の整数である。
【0029】
最初に、一態様に係る本方法において、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を水混和性のある有機溶媒に溶解させる。水混和性溶媒は、上記両親媒性ブロック共重合体を可溶化することのできる溶媒で沸点が100℃以下である。水混和性のある有機溶媒の具体例は、アセトンやアセトニトリルである。有機溶媒は、両親媒性ブロック共重合体の重量に対して具体的に0.5〜5倍、より具体的に0.5〜2倍の量で使用されていてよい。
【0030】
次に、溶解された高分子含有有機溶媒に水またはアルカリ金属塩水溶液を徐々に添加して混合させると、低分子量のポリラクチド誘導体とラクトン単量体が加水分解された後にアルカリ金属塩と中和反応を起こして塩化合物が生成される。なお、両親媒性ブロック共重合体に含まれたポリ(α−ヒドロキシ酸)は、末端基としてヒドロキシ酸を有することからアルカリ金属塩とは反応しない。上記アルカリ金属塩水溶液は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウムまたは炭酸リチウムの水溶液を含み、より具体的には、炭酸水素ナトリウム水溶液である。上記水溶液の濃度は、0.05〜0.2g/mL、より具体的には、0.1g/mL程度である。上記水またはアルカリ金属塩水溶液の添加量は、未反応単量体の含有量と有機溶媒の量に応じて変化されていてよい。具体的には、添加された有機溶媒に対し体積基準に0.5〜5倍、より具体的に0.5〜2倍であればよい。上記工程(b)において、混合された溶液を25〜100℃で10分〜24時間、より具体的には、60〜80℃で2〜6時間加熱して反応させることができる。上記温度よりも高い温度で加熱すると、合成された両親媒性ブロック共重合体の疎水性ブロックが加水分解されて分子量が減少される場合がある。
【0031】
次に、先行する操作で形成された塩化合物は水溶液に対する溶解度が大きいため、別の塩化合物を添加することによって、混合溶液は、水混和性有機溶媒層と水溶液層とに層分離させる。使用可能な塩化合物の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどがある。両親媒性ブロック共重合体全体の重量を基準に0.1〜50重量%、より具体的に0.1〜20重量%の量で添加されてもよい。したがって、有機溶媒層には精製された両親媒性ブロック共重合体が溶解されており、水溶液層には塩化合物、アルカリ金属塩、中和された単量体の金属塩及び有機金属触媒などが含有されているようになる。
【0032】
最後に、上記されるように分離された有機溶媒層を収得し、有機溶媒を除去して精製された高分子を回収する工程に該当する。有機溶媒は、公知の分別蒸留または(溶媒/非溶媒)沈殿法で除去することができ、具体的には分別蒸留法を用いることができ、この場合の温度は60〜80℃であることが好ましい。
【0033】
別の例示的な態様によれば、最終的に形成された高分子中に存在する少量の塩化合物、アルカリ金属塩を除去するために、本方法は、
有機溶媒の除去後に回収された高分子を無水有機溶媒に溶解させた後、ろ過し、高分子を含む溶液を得て;及び
高分子を含む溶液から有機溶媒を除去する
ことをさらに含んでもよい。
【0034】
具体的には、高分子に無水有機溶媒を添加すると、両親媒性ブロック共重合体は有機溶媒に溶解され、少量存在する塩化合物、アルカルリ金属塩は沈殿されるため、ろ過して塩化合物及びアルカルリ金属塩を除去することができる。上記無水有機溶媒は、精製された高分子を溶解させることができるものであれば特にその種類に制限がなく、具体的には、アセトン、アセトニトリルなどの沸点が低く且つ毒性の少ない溶媒を使用すればよい。
【0035】
上述されるように、塩化合物及びアルカリ金属塩を除去後、最終的には、精製された高分子含有有機溶媒液から有機溶媒を除去される。本明細書では、公知の分別蒸留または(溶媒/非溶媒)沈殿法で除去することができる。より具体的には、分別蒸留法を用いることができ、分別蒸留温度は60〜80℃である。
【0036】
一つの例示的な態様による両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)とからなるA−B型のジブロック共重合体またはB−A−B型の三重ブロック共重合体を含む。両親媒性ブロック共重合体の親水性ブロックの含量は20〜95重量%、より具体的には40〜95重量%であり、疎水性ブロックの含量は5〜80重量%、より具体的には5〜60重量%である。両親媒性ブロック共重合体の数平均分子量は1,000〜50,000ダルトンであり、具体的には1、500〜20,000ダルトンである。
【0037】
親水性高分子ブロックは、生体適合性をもつポリエチレングリコールまたはその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはポリアクリルアミドなどである。より具体的には、ポリエチレングリコールまたはモノメトキシポリエチレングリコールが含まれる。上記親水性ブロックの数平均分子量は200〜20,000ダルトンであり、具体的には200〜10,000ダルトンである。
【0038】
疎水性高分子ブロックは、生分解性をもつ高分子でα−ヒドロキシ酸来由単量体の高分子であり、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(マンデル酸)、ポリカプロラクトンまたはポリ(ジオキサン−2−オン)、これらの共重合体、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物及びポリカーボネートよりなる群から選択される一種以上である。より具体的には、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトンまたはポリ(ジオキサン−2−オン)である。
【0039】
ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体は、開始剤としてヒドロキシル基を有する親水性高分子及びα−ヒドロキシ酸のラクトン単量体を利用した公知の開環重合法で合成することができる。例えば、ヒドロキシル基を有する親水性ポリエチレングリコールまたはモノメトキシポリエチレングリコールを開始剤としてL−ラクチドまたはd,l−ラクチドを開環重合させることができる。開始剤としての親水性ブロックに存在するヒドロキシル基の個数に応じてジブロックまたはトリブロック共重合体の合成が可能である。上記開環重合の合成時に酸化スズ、酸化鉛、オクタン酸スズ及びオクタン酸アンチモン(antimony octoate)などの有機金属触媒を使用し、医療用高分子の製造には生体適合性のあるオクタン酸スズを使用することができる。
【0040】
しかし、上記の重合過程から得られた両親媒性ブロック共重合体には、ラクチドのような未反応物のα−ヒドロキシ酸のラクトン単量体化合物、上記ラクトン単量体の分解された産物、低分子量のα−ヒドロキシ酸のオリゴマー及び有機金属触媒が含まれている。
【0041】
上記ラクトン単量体、その分解産物及び低分子量のα−ヒドロキシ酸のオリゴマーは体内及び水溶液で分解されやすいためpHを低下させ、これにより、高分子の分解速度を促進させ、または高分子に含有された薬物の安定性に影響を及ぼすことで不純物を誘導する。また、製造された高分子に不純物として含まれた有機金属触媒もまた、疎水性ブロックの加水分解を促進させることで分子量を減少させ、その結果、pHを低下するようになる。有機金属触媒の不純物によって加水分解速度が早くなると、製剤組成物において薬物担体として使用される疎水性ブロックによる薬物の持続的な放出が妨害され、所望する期間より早い薬物放出現象を示すことがあり、薬物放出速度を調節しにくくなる。したがって、本明細書に開示された両親媒性ブロック共重合体を薬物担体に適用する場合、薬物の放出速度を調節し且つ不純物の生成を防止するためには、両親媒性ブロック共重合体に混在する単量体、低分子量の単量体のオリゴマー、及び有機金属触媒の含量を調節することが必須である。
【0042】
これに関連して、α−ヒドロキシ酸のラクトン単量体含量が1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が50ppm以下である高純度のポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体が提供される。より具体的に、α−ヒドロキシ酸のラクトン単量体の含量が0.5重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が20ppm以下である高純度のポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体が提供される。例示的な態様によれば、ラクチド単量体の含量は1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量は50ppm以下である高純度のポリラクチド誘導体高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体が提供される。ラクトン単量体の含量が1.0重量%以上であると、高分子の分解速度を促進させ、高分子に含有された薬物の安定性に影響を及ぼして不純物を誘導するため好ましくない。また、有機金属触媒の金属含有量が50ppm以上であると、疎水性ブロックの加水分解を促進させることでpHを減少させ、その結果、薬物の持続的放出を達成することができなくなる。
【0043】
一態様によれば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体は、上記一般式1によって表される。
【0044】
また、高純度のポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含むミクロスフェア、高分子ミセルなどの医薬組成物が開示される。
【0045】
以下、実施例を通じて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲が下記実施形態によって何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0046】
製造例1.モノメトキシポリエチレングリコールとd,l−ラクチドとからなるジブロック共重合体mPEG−PLAの合成
モノメトキシポリエチレングリコール(mPEG:数平均分子量2,000)100gを撹拌器が備えられた250ml丸底フラスコに入れた後、120℃、真空条件下で2時間掻き混ぜながら水分を除去した。反応フラスコ内にトルエン200ulに溶解させたオクタン酸スズ(Sn(Oct)2)0.1gを添加した後、更に1時間真空条件下で撹拌しながらトルエンを蒸留除去した。
【0047】
次に、d,l−ラクチド100gを添加し、窒素雰囲気下で掻き混ぜながら溶かした。d,l−ラクチドが完全に溶けると、反応器を密封し、120℃で20時間反応させた。反応の終了後、未精製のジブロック共重合体mPEG−PLA高分子193g(数平均分子量:3、725ダルトン)を得た。1H−NMR分析してモノメトキシポリエチレングリコールの末端基である−OCH3を基準に強度を求めて分子量を計算した。図1には、合成された両親媒性共重合体の1H−NMRを示し、ラクチド単量体に該当する1.5ppm及び5.0ppmが確認された。
【0048】
比較例1.昇華法によるジブロック共重合体mPEG−PLAの精製
製造例1から得られたmPEG−PLA 50gをフラスコに入れ、120℃で溶解させた。マグネチックバーで撹拌させつつ、真空ポンプに連結して1トール以下で昇華法にてラクチドを除去した。昇華されたラクチドは加熱されていないフラスコの表面に析出され、析出されたラクチドを除去して精製されたmPEG−PLAの46gを溶融状態で得た。ラクチドの含量及び触媒のSnの含量を測定して表1に表した。
【0049】
比較例2.溶媒/非溶媒精製法によるジブロック共重合体mPEG−PLAの精製
製造例1から得られたmPEG−PLAの50gをメチレンクロライド100mlに溶解させた後、ジエチルエーテル1Lにゆっくり加えながら掻き混ぜて高分子を粒子形態で析出させた。沈殿後に得られた高分子をろ過し、真空オーブンで24時間乾燥して精製されたmPEG−PLA 43gを白い固体粒子形態で得た。ラクチドの含量及び触媒のSnの含量を測定して表1に表した。
【0050】
実施例1.ジブロック共重合体mPEG−PLAの精製
製造例1から得られたmPEG−PLAの50gを、アセトニトリル100mlを添加して溶解させた。溶解されたmPEG−PLAに炭酸水素ナトリウム水溶液(0.1g/ml)100mlを徐々に添加し、60℃で2時間撹拌させた。常温で2溶媒を層分離させるために、塩化ナトリウム10gを添加して常温で撹拌及び溶解させた。分別漏斗を利用して2溶媒層を層分離させ、有機溶媒層を分離した。分離された有機溶媒層に蒸留水100mlと塩化ナトリウム10gを添加して撹拌しながら溶解させた。更に分別漏斗を利用して2溶媒層を層分離させ、有機溶媒層を分離した。得られた有機溶媒層を80℃、真空条件下で2時間分別蒸留してアセトニトリルと蒸留水を完全に除去した後、無水アセトニトリル100mlを添加して高分子を溶かしながら混入されていた塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを沈殿させた。沈殿物をろ過分離して除去し、80℃、真空条件下で2時間分別蒸留してアセトニトリルを除去することで精製されたmPEG−PLAの45gを得た後、含有されたラクチドの含量及び触媒のSnの含量を測定して表1に表した。また、1H−NMRによってラクチド単量体に該当するピークが顕著に減少されていることを確認した(図2参照)。
【0051】
実施例2.ジブロック共重合体mPEG−PLAの精製
炭酸水素ナトリウム水溶液(0.1g/ml)50mlを徐々に添加することを除いては、実施例1と同様な方法にてmPEG−PLA 47gを得た後、含有されたラクチドの含量及び触媒のSnの含量を測定して、結果を表1に表した。
【0052】
実施例3.ジブロック共重合体mPEG−PLAの精製
単量体を加水分解させる反応条件として40℃で2時間撹拌させることを除いては、実施例1と同様な方法にてmPEG−PLAの47gを得た。次に、含有されたラクチドの含量及び触媒のSnの含量を測定して、その結果を表1に表した。
【0053】
【表1】

【0054】
a)1H−NMR分析してモノメトキシポリエチレングリコールの末端基である−OCH3を基準に強度を求めてラクチドの含量を計算する。
b)誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)で含量を分析する。
【0055】
表1から見ることができるように、d,l−ラクチドの開環重合法で合成されたmPEG−PLAはオクタン酸スズ有機金属触媒を使用した。製造例1に従い合成後に精製されていないmPEG−PLAは、相当量のラクチドと有機金属を含んでいる。昇華法による比較例1は、ラクチド及び触媒が殆ど除去されずに残存していた。また、溶媒/非溶媒の精製法によってはラクチドの除去には効果があったものの、有機金属は殆ど除去されなかった。使用された触媒がFDA承認を受けたものであるとしても触媒が最終高分子に含まれていると、高分子の加水分解などを促進させることで高分子の所望する物性を変形させることがある。これに対し、本発明の精製方法、すなわち、単量体を加水分解した後に溶媒層分離するといった方法による場合には、残存する単量体の含量も非常に低く、且つ有機金属触媒の含量が顕著に減少されることが分かる。
【0056】
例示的な態様が示され、説明されているが、形式的及び詳細における種々の変更は、添付の特許請求の範囲によって定義されるこの開示の精神及び範囲から逸脱することなしになし得ることは、当業者に理解されよう。
【0057】
さらに、その本質的な範囲から逸脱することなしに、本開示の教示に特定の状況または材料を適合するように多くの改変をなすことができる。したがって、本開示は、この開示を実施するために意図された最良の形態として開示された特定の例示的な態様に限定されることは意図していないが、本開示は、添付の特許請求の範囲に含まれる術点お開示を含むことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を水混和性のある有機溶媒に溶解させ;
得られた高分子溶液に水またはアルカリ金属塩を含む水溶液を混合し;
得られた溶液を塩析法によって有機溶媒層と水溶液層とに分離させ;及び
有機溶媒層を収得し、有機溶媒を除去して高分子を回収する
ことを含む、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックは、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(マンデル酸)、ポリカプロラクトンまたはポリ(ジオキサン−2−オン)、これらの共重合体、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、及びポリカーボネートよりなる群から選択される一種以上の疎水性ブロックであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式1:
[式1]
HO−[R1l−[R2m−[R3n−R4
{式中、
1は、−CHZ−C(=O)−O−であり;
2は、−CHY−C(=O)−O−、−CH2CH2CH2CH2CH2−C(=O)−O−、または−CH2CH2OCH2−C(=O)−O−であり;
3は、−CH2CH2O−、−CH(OH)−CH2−、−CH(C(=O)−NH2)−CH2−、または
【化1】

であり;
4は、−CH3または−C(=O)−[R1l−[R2m−CHZ−OHであり;
Z及びYは、各々、−H、−CH3、−C65、またはC65−CH2−であり;
lとmは、各々、0〜300の整数であり、lとmは両方とも同時に0になることはなく;及び
nは、4〜1、100の整数である]
で表されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記両親媒性ブロック共重合体の数平均分子量は、1,000〜50,000ダルトンの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記両親媒性ブロック共重合体は、親水性高分子の割合が20〜95重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、または炭酸リチウムであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属塩水溶液または水は、有機溶媒に対し体積基準に0.5〜5倍に対応する量で添加されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記塩析法は、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを添加して層分離させることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記塩化ナトリウムまたは塩化カリウムは、両親媒性ブロック共重合体全体の重量を基準に0.1〜50重量%の量で添加されることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
高分子を回収した後に、
有機溶媒を除去後に回収された高分子を無水有機溶媒に溶解させた後にろ過し、高分子が含有された溶液を得て;及び
高分子が含有された溶液から有機溶媒を除去する
ことを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
α−ヒドロキシ酸のラクトン単量体の含量が共重合体全体の重量を基準に1.0重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量が共重合体全体の重量を基準に50ppm以下である、ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体。
【請求項12】
前記α−ヒドロキシ酸のラクトン単量体の含量は、両親媒性ブロック共重合体全体の重量を基準に0.5重量%以下であり、有機金属触媒の金属含有量は、両親媒性ブロック共重合体全体の重量を基準に20ppm以下であることを特徴とする、請求項11に記載のポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体。
【請求項13】
前記ポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックは、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(マンデル酸)、ポリカプロラクトンまたはポリ(ジオキサン−2−オン)、これらの共重合体、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、及びポリカーボネートよりなる群から選択される一種以上であることを特徴とする、請求項11に記載のポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体。
【請求項14】
前記両親媒性ブロック共重合体は、下記の一般式1:
[式1]
HO−[R1l−[R2m−[R3n−R4
{式中、
1は、−CHZ−C(=O)−O−であり;
2は、−CHY−C(=O)−O−、−CH2CH2CH2CH2CH2−C(=O)−O−、または−CH2CH2OCH2−C(=O)−O−であり;
3は、−CH2CH2O−、−CH(OH)−CH2−、−CH(C(=O)−NH2)−CH2−、または
【化2】

であり;
4は、−CH3または−C(=O)−[R1l−[R2m−CHZ−OHであり;
Z及びYは、各々、−H、−CH3、−C65、またはC65−CH2−であり;
lとmは、各々、0〜300の整数であり、lとmは両方とも同時に0になることはなく;及び
nは、4〜1、100の整数である]
で表されることを特徴とする、請求項11に記載のポリ(α−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された両親媒性ブロック共重合体、または請求項11〜14のいずれか1項に記載の両親媒性ブロック共重合体を含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−508046(P2011−508046A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540592(P2010−540592)
【出願日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007854
【国際公開番号】WO2009/091150
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(500578515)サムヤン コーポレイション (20)
【Fターム(参考)】