ポリQタンパク質についてのバイオアッセイ
本発明は、疾患進行をモニターするか、もしくは疾患の処置の有効性をモニターするための、疾患と関連する突然変異型ポリQタンパク質についてのバイオアッセイおよび診断ツールとしてのそれらの使用に関する。好ましい態様において、ポリQタンパク質は、ポリQハンチントンである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、疾患進行をモニターするか、もしくは疾患の処置の有効性をモニターするための、疾患と関連する突然変異型ポリQタンパク質についてのバイオアッセイおよび診断ツールとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ハンチントン病(HD)、球脊髄性筋萎縮症、いくつかの脊髄小脳失調症および歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症のような多くの疾患は、ポリグルタミンリピートを有するタンパク質の発現と関連している。これらの障害は、集合的に、「ポリグルタミン病」と呼ばれる。HDは、100000人あたり5から8症例の罹患率を有する最も一般的な遺伝性神経変性疾患である。その主な臨床症状は、運動機能障害、精神疾患および認知症を含む。いかなる実質的な成功を達成することなく多くの対症療法がHDについて試みられてきた(Bonelli and Wenning, 2006)が、HDについて承認された処置は存在しない(Bates, 2003)。HDは、9個の常染色体優性遺伝疾患からなるポリグルタミン(ポリQ)疾患ファミリーの主要メンバーであり、その共通する特徴は、普遍的に発現する異なるタンパク質におけるポリQリピート伸長である(Ross, 2002)。HDを生じる遺伝学的突然変異は、ハンチントンタンパク質におけるポリグルタミン伸長である。36を超えるグルタミンの伸長は病原性となり、タンパク質フォールディングならびに毒性のある細胞内断片および凝集体の一連の形成に影響を与えると考えられる。ハンチントン遺伝子(Htt)における伸長したポリQリピートは、エクソン1に存在し、突然変異体ポリQ-Httタンパク質の発現を生じる(Gusella et al., 1983)。ポリQリピート伸長は、ランダムコイルから、ポリグルタミン鎖間の水素結合により連結された円筒状平行βシート構造への変換を促進し得る(Perutz et al., 1994)。アルツハイマー病またはパーキンソン病のようなタンパク質ミスフォールディングにより特徴づけられる他の神経変性疾患と同様に、螺旋状βシートを有するタンパク質は、不可溶性タンパク質凝集体を形成する傾向がある(Benzinger et al., 2000)。
【0003】
HD様症状は、突然変異体Httの発現が、RNA干渉(DiFiglia et al., 2007)によるか、もしくはテトラサイクリン制御条件下での発現(Yamamoto et al., 2000)により、HDマウスモデルの脳において下方調節されるときに回復する。興味深いことに、突然変異体ポリQ-Httおよび野生型-Httは、細胞により異なる代謝がなされ、異なる様式の翻訳後修飾(リン酸化(Warby et al., 2005)、タンパク質分解性切断(Gafni et al., 2004; Graham et al., 2006; Wellington et al., 2002)、細胞内局在(Davies et al., 1997; van Roon-Mom et al., 2002)および分解(Ravikumar et al., 2002)を示す。これらの知見は、例えばシャペロン系の上方調節もしくはオートファジー分解経路の誘導を介して、突然変異体Httのミスフォールディングもしくは除去に影響を与えることを目的としたHD治療薬についての発見的仕事を促進させた(Yamamoto et al., 2006)。そのような方法は、タンパク質ミスフォールディングにより引き起こされる他の神経変性疾患についての適用を見出し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在のところ、突然変異体ポリグルタミンタンパク質についてのそのような治療効果、例えば臨床試験もしくは治療における例えば突然変異体Httレベルを評価するために利用可能なバイオアッセイは存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
本発明は、疾患進行をモニターするか、もしくは疾患の処置の有効性をモニターするための、疾患と関連する可溶性突然変異型ポリQタンパク質についてのバイオアッセイおよび診断ツールとしてのそれらの使用に関する。
【0006】
好ましい態様において、使用されるバイオアッセイは、神経細胞株におけるハイスループットスクリーニングのために適当なHtt検出についての新規な均一時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法である。我々は、この「時間分解蛍光共鳴エネルギー転移イムノアッセイ」(下記の「バイオアッセイ」)が、細胞、動物およびヒトサンプルにおける内因性の全長可溶性ポリQ-Httを定量するために修飾され得ることを示す。そのようなバイオアッセイの使用は、疾患進行のマーカーとして可溶性突然変異体Httの使用を可能にするか、または前臨床および臨床試験ならびに治療処置における薬剤処置の効果をモニターすることを可能にする。該方法の設計は極めて柔軟であるので、それは、他の疾患、とりわけ、ポリQファミリーの他のメンバーと関連する疾患との関連での使用のために適用可能である。これらのタンパク質は、一般に、細胞内で発現され、疾患進行/治療の診断および/またはモニタリングのために有用なアッセイは、現在まで利用することができていない。
【0007】
本発明の好ましい態様において、バイオアッセイは、ポリQタンパク質、例えば、ポリQハンチントンの可溶型を測定する。本発明の他の好ましい態様において、バイオアッセイは、ポリQタンパク質、例えば、ポリQハンチントンの凝集形態を測定する。本発明のまた他の好ましい態様において、バイオアッセイは、ポリQタンパク質、例えば、ポリQハンチントンの可溶型および凝集形態を測定する。
【0008】
したがって、1つの局面において、本発明は、生物学的サンプルにおけるタンパク質の突然変異型(ポリQ型)の量を測定するためのイムノアッセイであって、該タンパク質が、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される、イムノアッセイを提供する。
【0009】
本発明によるイムノアッセイの好ましい態様において、サンプル中の対応する野生型タンパク質の絶対量または相対量がさらにイムノアッセイにより測定される。
【0010】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、突然変異型タンパク質の翻訳後修飾、例えば、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断のような断片化、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化、脂質修飾またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾の程度がさらに測定される。
【0011】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイは、単一工程アッセイ、すなわち、分離または洗浄が必要とされず、好ましくは単一の生化学的処理後に行われ得る。
【0012】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイ検出技術は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移または電気化学発光に基づくものである。
【0013】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイ検出技術は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移である。
【0014】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイは、下記の工程:
a) 生物学的サンプルをランタノイドイオンクリプテート(例えば、ユーロピウムもしくはテルビウムクリプテート)で標識された第1抗体およびランタニド放出シグナルを検出するために適当なフルオロフォアで標識された第2抗体と接触させること; および
b) 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いてフルオロフォアからの蛍光を測定することにより、サンプル中の突然変異型ポリQタンパク質の量を定量すること
を含み、該抗体の一方は、突然変異型タンパク質のポリQ部分に特異的であり、他方の抗体は、突然変異型ハンチントンタンパク質の異なる部分に特異的である。
【0015】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の(相対)量は、さらに該サンプルを、ランタニド放出シグナルを検出するために適当な異なるフルオロフォアで標識された該タンパク質の野生型に特異的な第3抗体と接触させることにより生物学的サンプルにおいて測定される。
【0016】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、ポリQタンパク質は、ポリQハンチントンである。
【0017】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、生物学的サンプルは、脳、血液、筋肉もしくは心臓に由来するか、または皮膚もしくは毛髪のような任意の他の末梢組織に由来する。
【0018】
本発明の他の局面において、イムノアッセイは、疾患進行をモニターするか、もしくはタンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするために生物学的サンプルにおける突然変異型ポリQタンパク質型の量を測定するために使用され、ここで、該タンパク質は、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される; 疾患進行をモニターするか、もしくは該タンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするための診断ツールとして使用される。イムノアッセイは、好ましくは、本願において記載されたイムノアッセイである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】検出タグの最適化、cDNA構築体およびアッセイの原理。A. ベータ1 (β1) & 25H10の抗体対を用いて解析されたペプチドのアミノ酸配列を示す(各エピトープを太字で示す)。B. Aで示されたペプチドの時間分解FRET解析(3 ng/ウェル、デュプリケート)。突然変異体Httを標識するためにH1配列を選択し、野生型Httを標識するためにI6配列を選択した。C. 誘導性HN10細胞株において発現されるcDNA構築体の図表であり、またC末端タグにおける25H10、32A7およびベータ1 (β1)の抗体結合部位を示す。2B7は、Httの内因性アミノ末端エピトープに特異的である。D. 細胞に基づく時間分解FRETアッセイのために使用されるプロトコールの略図。
【図2】時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による突然変異体および野生型Httの検出。A. 内因性全長Httの発現と比較した場合のHN10細胞における野生型(573-Q25)および突然変異体(573-Q72) Httの誘導された発現のウエスタンブロット解析。B. 誘導の3日後、突然変異体および野生型Httが導入されたHN10細胞株は、長期間および複数の細胞継代にわたる安定したHtt発現を示す。C. 誘導の3日後における示された抗体組み合わせを用いた時間分解FRETによる野生型または突然変異体Httの高感度かつ特異的検出(平均値、n=3、標準偏差)。D. 3日間誘導された細胞における、2B7 & β1抗体対を用いた突然変異体Htt573-Q72の検出のための細胞溶解条件の最適化(抗体添加の50分後に時間分解FRETで測定した、n=6、標準偏差)。E. Z'因子は、73-Q72 HN10細胞の3日間の誘導後、絶対的時間分解FRETシグナルは長期間にわたり増加していたが(データは、示していない)、細胞溶解および検出抗体の添加後35から110分の間、安定したままであった(n=6、標準偏差)。F. 異なる誘導剤濃度で処理された細胞における突然変異体Htt573-Q72発現の用量依存的な増加(n=6、標準偏差、EC50 〜250 nM)。A-C. 96ウェルプレート様式でデータを作製した。D-F. 1536ウェルプレート様式でデータを作製した。
【図3】Httバイオアッセイについて使用されるプロトコールの略図。時間分解FRETのために標識化されたモノクローナル抗体を、単一のピペッティング工程により細胞溶解物または組織ホモジネートに加える。Httへの同時の結合は、2個の抗体が近接する状態をもたらし、その結果、ユーロピウムクリプテートからD2-フルオロフォアへのエネルギー転移を可能にする。ランタニドクリプテートにより放出される固有の長期蛍光は、時間分解測定を可能にし、したがって、干渉短期バックグラウンド蛍光との一時的な区別を可能にする。結果として、正確なHtt決定は、強く発光する自己蛍光生物学的サンプル、例えば、血液において可能である。B. ヒトHtt(タグ化Htt573断片)上の抗体結合部位の図表。2B7およびMW1は、それぞれHttのアミノ末端およびポリQリピートに位置するHttエピトープに特異的である。3個のモノクローナル抗体β1、32A7および25H10は、タグ化Htt573断片のカルボキシ末端に付加されたエピトープに特異的である。ポリQリピートへのMW1結合は、ポリQ長の関数としてHttへのより強力な増加した結合を生じる(図中で示される2個の抗体により表される)。
【図4】ハンチントン病の細胞モデルにおける突然変異体ハンチントンの検出。A: Htt抗体対2B7 & MW1を用いた誘導化HN10細胞溶解物におけるタグ化野生型(25Q)および突然変異体(72Q) Htt 573断片の時間分解FRET検出。非誘導化細胞から調製した溶解物をネガティブコントロールとして使用した。B: 2B7 & MW1を用いた時間分解FRETによるHN10細胞における誘導化非標識Httエクソン1断片の特異的検出。C: 2B7 & MW1を用いた時間分解FRETによる精製化組み換え野生型(25Q)もしくは突然変異体(46Q)Htt 573タンパク質の標準量の定量。D. 2B7 & MW1を用いた時間分解FRETにより解析されるESC由来神経細胞における非タグ化野生型(25Q)および突然変異体(72Q) Htt 548断片のレンチウイルス仲介発現は、同様のHtt発現レベルが2B7を用いたウエスタンブロットにより示されていたが、HttシグナルがポリQ長の関数として増加することを明らかにした。Htt断片は、モック感染細胞において検出されなかった。チューブリンをローディングコントロールとして用いた。E: 140QノックインESCにおける内因性Httの特異的検出。HttノックアウトESC (KO)をネガティブコントロールとして使用した。7Qを有するマウス野生型Httは、2B7 & MW1により検出されなかった。F: 増加したポリQ長を有する内因性Httを発現するノックインESC由来神経細胞から得られた細胞溶解物の解析は、Httについての時間分解FRETアッセイのポリQ依存性を確認する。該図で示される細胞溶解物中のHttの発現のすべてを、ウエスタンブロットにより独立して解析した(データは示していない)。すべてのパネルは、標準偏差値を示すエラーバーを有するn=3の平均値を示す。
【図5】二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による野生型および突然変異体Httの同時決定。同じサンプルにおけるタグ化野生型および突然変異体Htt573の発現レベルの決定。HN10細胞は、アミノ酸573で切断され、それぞれβ1と32A7抗原またはβ1と25H10抗原でタグ化された野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (72Q)の両方を発現する。β1は、蛍光エネルギーをD2で標識された25H10およびAlexa488で標識された32A7に転移させるテルビウムクリプテート部分を有していた。D2およびAlexa488シグナルを、2個の異なる波長チャンネルで測定した。
【図6】純粋な組み換えHttタンパク質の産生。basteriaにおいて産生された精製化野生型(Htt573Q25)および突然変異体(Htt573Q46)タンパク質のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動。規定量のウシ血清アルブミン(BSA)をコントロールとしてロードし、適用された精製法において得られた精製化Httの量を概算した。
【図7】抗体対2B7 & MW1および2B7 & 4C9を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による組み換え野生型および突然変異体Httの決定。規定量の組み換え野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46)を、示された抗体対を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により解析した。2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)は、ポリQ依存的な方法で突然変異体Httをより認識したが、2B7 & 4C9 (D2チャンネル)は、伸長したポリQを有する突然変異体Httタンパク質よりも野生型Httについてより強いシグナルを生じた。
【図8】抗体対2B7 & MW1および2B7 & 2166を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による組み換え野生型および突然変異体Httの決定。規定量の組み換え野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46)を、示された抗体対を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により解析した。2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)は、ポリQ依存的な方法で突然変異体Httをより認識したが、2B7 & 2166 (D2チャンネル)は、伸長したポリQを有する突然変異体Httタンパク質よりも野生型Httについてより強いシグナルを生じた。
【図9】抗体対4C9 & 2166を用いた時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による組み換え野生型および突然変異体Httの決定。規定量の組み換え野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46)を、突然変異体Httおよび野生型Httを十分に等しく認識する抗体対4C9 & 2166を用いた時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により解析した。
【図10】マウスHDモデルにおける可溶性突然変異体ハンチントンの検出。A: R6/2マウスの脳における200Qを有するHttエクソン1の時間分解FRET検出。野生型マウスをネガティブコントロールとして使用した。2B7 & MW1抗体対により測定されたHttの相対濃度は、4週齢の発症前マウスと比較して12週齢の発症マウスにおいて顕著に減少した。B: R6/2マウスにおける脳Htt凝集体をAGERAにより決定した(Aにおいて解析されたものと同じサンプル)。予期されたとおり、凝集体量の顕著な増加が老齢マウス群において見出された。C: 2B7 & MW1抗体対を用いた可溶性Httの特異的検出。超遠心分離により、R6/2脳ホモジネートを可溶性および不可溶性材料に分離した。AGERAにより測定された不可溶性Htt凝集体の主なプールをペレットで回収した。対照的に、時間分解FRETは、上清において主に可溶性Httを示した。D: R6/2組織におけるHttの検出。6週齢のR6/2マウスからの大脳皮質および筋肉サンプルは、野生型同胞種(n=3)と比較して顕著な量のHttを含んでいた。突然変異体Httはまた、野生型マウス(n=4)と比較して9から12週齢のR6/2マウス(n=9)からの血漿およびCSFにおいて検出された。E: 内因性レベルで140Qを有するHttを発現するノックインHdh140マウス(n=3)の異なる脳領域における全長Htt検出。野生型同胞種 (n=3)をネガティブコントロールとして使用した。すべてのデータは、標準偏差を有する平均値である。
【図11】マウス脳におけるHtt凝集体の解析。A: 4および12週齢でのR6/2または野生型(WT)マウスからの脳サンプルのAGERAブロットの代表例。年齢依存的なHtt凝集体量の増加は、R6/2マウス脳において明らかである。B: 超遠心分離による分離の前(出発物)後、可溶性(上清)および不可溶性(ペレット)材料での4および12週齢動物におけるR6/2脳ホモジネートをAGERAにより解析した。
【図12】ヒト組織におけるHttの検出。A: 2B7 & MW1を用いた3人の検死ヒトHD大脳皮質ホモジネート(HD)の時間分解FRETによる解析は、3人のコントロール(HV)と比較してより高いポリQ依存的なHttシグナルを示した; 標準偏差を伴うテクニカルトリプリケート(technical triplicates)(HVとHDの間でp<0.001)。B: HD (n=5)およびコントロール(HV, n=4)対象から単離されたヒトスナップ凍結全血サンプル、EDTA処理赤血球および軟膜において、時間分解FRETにより測定された(トリプリケート)Httのz変換相対量のボックスプロット。ボックスは、50%の値の分布範囲を示し、垂直バーは、すべての値の分布を示し、水平バーは、平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本発明は、疾患進行をモニターするか、もしくは疾患の処置の有効性をモニターするための、疾患と関連するポリQタンパク質についてのバイオアッセイおよび診断ツールとしてのそれらの使用に関する。
【0021】
本発明がより容易に理解され得るために、特定の用語は最初に定義される。さらなる定義は、詳細な説明を通して説明される。
【0022】
「突然変異型ポリQタンパク質」または「ポリQタンパク質」なる用語は、疾患の発症と関連するポリグルタミン伸長を含むポリQタンパク質の形態を意味する。例えば、「突然変異型ポリQハンチントン」は、36個のグルタミンを超えるポリグルタミン伸長を有し、ハンチントン病と関連するハンチントンを意味する。
【0023】
「単一工程アッセイ」なる用語は、分離または洗浄が必要とされず、通常、単一の生化学的処理後に行われ得るイムノアッセイを意味する。
【0024】
「翻訳後修飾」なる用語は、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾を意味する。
【0025】
本発明のバイオアッセイが有用であるポリグルタミン病を下記の表に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
本明細書で使用される「抗体」なる用語は、全抗体およびその任意の抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)もしくは一本鎖を含む。天然で生じる「抗体」は、ジスルフィド結合により結合された少なくとも2個の重(H)鎖および2個の軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3個のドメインからなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、CLの1個のドメインからなる。VHおよびVL領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域に散在する超可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)の領域に分類され得る。各VHおよびVLは、下記の順番でアミノ末端からカルボキシ末端に並べられた3個のCDRおよび4個のFRから構成される: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系のさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1補体(Clq)を含む宿主組織もしくは因子への免疫グロブリンの結合を仲介し得る。
【0028】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」(または、単に「抗原部分」)なる用語は、ある抗原(例えば、ハンチントン)に特異的に結合する能力を保持した全長または1個もしくはそれ以上の抗体の断片を意味する。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片により行われ得ることが示された。抗体の「抗原結合部分」なる用語の範囲内に含まれる抗原結合断片の例は、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片; ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2個のFab断片を含むF(ab)2断片; VHおよびCH1ドメインからなるFd断片; 抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片; VHドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)断片(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546); および単離された相補性決定領域(CDR)を含む。
【0029】
さらに、Fv断片の2個のドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子にコードされているが、それらを、組み換え技術を用いて合成リンカーにより結合させることができ、それにより、VLおよびVH領域が対をなして、一価分子を形成する単一タンパク質鎖(一本鎖Fv (scFv)として既知である; 例えば、Bird et al., 1988 Science 242:423-426; and Huston et al., 1988 Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照のこと)として作製することができる。そのような一本鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合領域」なる用語の範囲内に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に既知の慣用的な技術を用いて取得され、該断片は、インタクト抗体の場合と同じ方法で利用のためにスクリーニングされる。
【0030】
本明細書において「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」なる用語は、「抗原に特異的に結合する抗体」なる用語と交換可能に使用される。
【0031】
本明細書で使用される「ポリQタンパク質に特異的に結合する」抗体は、1 x 10-8 Mもしくはそれ未満、1 x 10-9 Mもしくはそれ未満、または1 x 10-10 Mもしくはそれ未満のKDでポリQタンパク質に結合する抗体を意味することが意図される。「ポリQタンパク質以外の抗原と交差反応する」抗体は、5 x 10-8 Mもしくはそれ未満、5 x 10-9 Mもしくはそれ未満、または2 x 10-9 Mもしくはそれ未満のKDで抗原に結合する抗体を意味することが意図される。「特定の抗原と交差反応しない」抗体は、1.5 x 10-8 Mもしくはそれ以上、または5-10 x 10-8 Mもしくは1 x 10-7 Mもしくはそれ以上のKDで抗原に結合する抗体を意味することが意図される。特定の態様において、抗原と交差反応をしないそのような抗体は、標準的な結合アッセイにおいてこれらのタンパク質に対する本質的に検出不可能な結合を示す。
【0032】
本明細書で使用される「Kassoc」または「Ka」なる用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を意味することが意図され、本明細書で使用される「Kdis」または「KD」なる用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を意味することが意図される。本明細書で使用される「KD」なる用語は、KdとKaの比率(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として示される解離定数を意味することが意図される。抗体についてのKD値は、当分野において十分に確立された方法を用いて決定され得る。抗体のKDを決定する方法は、表面プラズモン共鳴を用いることによるか、またはバイオセンサー系、例えば、Biacore(登録商標)系を用いることによる。
【0033】
本明細書で使用される「親和性」なる用語は、単一の抗原性部位における抗体および抗原間の相互作用の強さを意味する。各抗原性部位内で、抗体「アーム」の可変領域は、抗原と多くの部位において弱い非共有結合を介して相互作用し、ここで、より多くの相互作用は、より強い親和性を示す。
【0034】
本明細書で使用される「アビディティ」なる用語は、抗体-抗原複合体の全体的な安定性もしくは強度の情報的尺度(informative measure)を意味する。それは、下記の3つの主要な要因により制御される: 抗体エピトープ親和性; 抗原および抗体の両方の価数; ならびに相互作用部分の構造配置。最終的にこれらの要因は、抗体の特異性、すなわち、特定の抗体が正確な抗原エピトープに結合する可能性を規定する。
【0035】
「交差反応性」なる用語は、他の抗原上のエピトープに結合する抗体または抗体集団を意味する。これは、抗体の低いアビディティもしくは特異性によるか、または同一のもしくは極めて類似するエピトープを有する複数の異なる抗原により引き起こされ得る。交差反応性は、抗原の関連する群への一般的な結合が望まれる場合に、または抗原エピトープ配列が進化において高度に保存されていないときに種間標識を試みる場合に望ましい。
【0036】
本明細書で使用されるIgG抗体についての「高親和性」なる用語は、標的抗原について10-8 Mもしくはそれ未満、10-9 Mもしくはそれ未満、または10-10 Mもしくはそれ未満のKDを有する抗体を意味する。しかしながら、「高親和性」結合は、他の抗体アイソタイプについて変わり得る。例えば、IgMアイソタイプについての「高親和性」結合は、10-7 Mもしくはそれ未満、または10-8 Mもしくはそれ未満のKDを有する抗体を意味する。
【0037】
本明細書で使用される「対象」なる用語は、すべてのヒトもしくは非ヒト動物を含む。「非ヒト動物」なる用語は、すべての脊椎動物、例えば、哺乳類および非哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。
【0038】
本発明のさまざまな局面は、下記の小節において詳述されている。
【0039】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(時間分解FRET)は、本発明のバイオアッセイにおける使用のために好まれる検出技術である。該技術は、1990年代の初めから、生体分子の相互作用をモニターするために利用されている(Mathis, 1993)。該技術は、ランタニドイオンの蛍光特性のいくつかの局面を利用して、多くの異なる場面に適用されている。希土類イオンの長いフォルスター距離(Foerster's distance)は9 nmまでであり、これは、1-7 nmのフォルスター距離を有する多くの蛍光化合物と比べてより大きいものである。このより長い距離の効果は、多くの蛍光共鳴エネルギー転移対について可能であるよりも長い距離にわたって吸収エネルギーを転移することができるということである。次いで、これは、一般的な免疫検出試薬として希土類キレートを使用することを可能にする(Bazin et al., 2001)。希土類蛍光共鳴エネルギー転移対が有する第2の利点は、蛍光が減衰する時間が大きく延長し、その結果、時間分解蛍光を可能にすることである。この効果は、試験される小分子からのバックグラウンド蛍光の影響を減少させることである。レシオメトリック読み出し(ratiometric readout)をモニターする能力により、液体分配誤差(liquid dispensing errors)を補正し、その結果、アッセイ変動性を減少させ、データの質を改善するのを助けることが可能になり得る(Imbert et al., 2007)。
【表2】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移の原理。320 nmでのユーロピウムクリプテートの励起は、665 nmでのD2-フルオロフォアの近接依存性時間分解FRET放出を生じる。
【0040】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移において、エネルギーは、ランタニド-クリプテート標識化抗体により吸収され、ランタニドは、極端に長い半減期を有し(ユーロピウムおよびテルビウム)、クリプテートとの複合体は、増加した安定性を与え、そしてレシオメトリック測定の使用は、アッセイ干渉補正を可能にする。適当な蛍光性分子で標識された第2の抗体に近接すると、エネルギーが転移する(5-10 nmの範囲の距離について50%から95%の効率で)。歴史的に、CisBioから市販で入手可能な蛍光分子は、XL-665 (105 kDaのフィコビリンタンパク質ヘテロ-ヘキサマー構造)であった。XL-665は、Eu3+-クリプテート放出と重複する励起スペクトルおよびEu3+-クリプテートのみでは弱い光を放出する波長領域である665 nmでの最大光放出を有する。第2世代のD2レセプターは、約1 KDaの有機化合物であるEu3+-クリプテートと高い適合性を示し、顕著に減少したサイズのために、現在、XL-665の使用を完全に置換している。
【0041】
蛍光共鳴エネルギー転移対Eu3+-クリプテート + D2に加えて第2標識対が試験され、その結果、Lumiphore Inc.により開発されたテルビウム複合体であるLumi4(商標)-Tbが時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイにおける新規ドナーとなる。Tb2+-クリプテートの放出は、Eu3+-クリプテートとは異なるので、緑色アクセプター(Alexa488、フルオレセイン)を使用することができる。したがって、現在、同じサンプルにおける2個の異なるタンパク質(または例えば翻訳後修飾を解析するためのエピトープの異なる組み合わせ)を測定することが可能である。
【表3】
Tb2+-クリプテートの放出は、Eu3+-クリプテートとは異なるので、赤色D2アクセプターに加えて、緑色アクセプター(Alexa488、フルオレセイン)を使用することができる。
【0042】
他の好ましい検出技術は、電気化学発光検出であり、例えば、Meso Scale Discovery, 9238 Gaither Road, Gaithersburg, Maryland 20877, USAから市販で入手可能である。
【0043】
メソスケールディスカバリー(MSD)技術の電気化学発光検出技術は、マイクロプレートの電極表面で開始される電気学的な刺激により光を放出するSULFO-TAG標識を使用している。複数の受容抗体が同じウェルにスポットされ得て、その結果、同じサンプル内で10個までの異なるタンパク質を検出することが可能となり、結合したハンチントン(野生型および突然変異体)は、パン抗ハンチントン抗体により検出される。
【表4】
【0044】
我々は、4スポット/ウェルプレート上に2個の捕捉抗体Aβ42 (対応するタグ化野生型25Qハンチントンに対して)およびAβ40 (突然変異体72Qハンチントンのために)をスポットした。抗Aβ42スポットが解析される場合に、野生型25Qハンチントンの誘導化発現を有する細胞からの溶解物を含むサンプルのみがシグナルを生じる。対照的に、突然変異体72Qハンチントンの誘導化発現を有する細胞からの溶解物を含むサンプルは、抗Aβ40スポットにおいて陽性である。プレートに結合したHttをビオチン化Nov1抗体で検出した。
【0045】
したがって、理論上は、10個までの異なるハンチントン形態(突然変異体、野生型、特異的翻訳後修飾)を同じサンプル中で検出することが可能であり、選択的抗体が利用可能であることが想定される。
【0046】
アッセイの説明
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移は、多くの異なる生物学的検体、例えば、小分子(例えば、cAMP (Gabriel et al., 2003))および小型の分泌型サイトカイン(例えば、IL-8 (Achard et al., 2003))およびインビトロアッセイにおけるリン酸化タンパク質のレベル(Riddle et al., 2006)をモニターするために使用されている。また、興味のあるタンパク質基質を過剰発現させた細胞株を用いて細胞溶解物中のリン酸化タンパク質のレベルをモニターするために、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いるという報告が存在する。我々は、本発明において、最適な時間分解蛍光共鳴エネルギー転移シグナルを生じる抗体の組み合わせを設計することによりこれらの観察を発展させ、内因性レベルで発現するタンパク質の検出を可能にする。
【実施例】
【0047】
実施例1
技術開発
液体生物学的サンプル内におけるアミロイドβペプチドの時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出は、以前に記載されており(Clarke and Shearman, 2000)、現在では市販で利用可能である。アミロイドアッセイは、アミロイドβペプチド内の2個の十分に特徴づけられたエピトープに対する高親和性抗体を利用している。我々は、これらのエピトープを有する小型ペプチドのライブラリーを設計した(図1A)。我々の目的は、このペプチド配列を組み換えタンパク質についてのタグとして使用することであり、結果として、該組み換えタンパク質を時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出のために適当なものとする。蛍光共鳴エネルギー転移の効率は、さまざまなパラメーターにより影響され得るので(Foerster, 1948)、我々は、リンカーの長さおよびアミノ酸組成を改変した異なるペプチドを試験して最も適当なペプチド配列を決定した。精製化ペプチドの時間分解蛍光共鳴エネルギー転移は、確かにリンカーの長さおよび配列がシグナル強度にかなりの影響を与え得ることを示した(図1B)。例えば、極めて短いリンカー長を有するペプチド(ペプチドH2およびH3)は、おそらく2個の抗体の立体障害のために低いシグナルを生じる。25H10抗体について特異的なneo-エピトープGGVVがVVIA(32A7抗体について特異的である)で置換されたペプチドI6は、25H10ユーロピウム標識化抗体を用いた場合にシグナルを生じることができず、これはシグナルの特異性を示している。さらなる実験のために、我々は、タグとして正確なH1ペプチド配列(ポリQ-htt/573-Q72)またはneo-エピトープGGVVがVVIAで置換された別の配列(WT-htt/573-Q25)を有する2個のHtt-タンパク質-断片を設計した(図1C)。我々は、ポリQ-Htt、野生型Htt、またはポリQ-Httと野生型Httの誘導性発現を有するクローン化HN10神経細胞株(Lee et al., 1990)を作製した。次いで、これらの細胞株を用いて、細胞タンパク質レベルの検出のための細胞ハイスループット時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを確立した(図1D)。
【0048】
実施例2
タンパク質検出およびシグナル特異性
作製されたクローン化神経細胞株は、ウエスタンブロットにより示されたとおり、検出可能な既定の発現を有することなく、全誘導時において内因性レベルでタグ化ポリQ-Httおよび野生型Httを発現する(図2A、B)。誘導後の構築体の発現レベルは、長期間にわたって安定している(図2B)。96ウェル様式実験は、細胞内におけるWT-もしくはポリQ-Htt-タンパク質の高度に特異的な時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出が、対応するタグを特異的に検出する25H10-K + β1-D2または32A7-K +β1-D2の抗体対を用いた場合に実現可能であることを示した。さらに、カルボキシ末端タグにおけるエピトープに特異的なβ1-D2抗体と組み合わせてアミノ末端内因性Httエピトープに特異的な2B7-K抗体を用いることにより、野生型もしくはポリQ-Httを発現する細胞株における切断されていないインタクトのHtt-タンパク質レベルを特異的に検出することを可能にした(図2C)。
【0049】
次いで、我々は、アッセイを1536マイクロウェル様式に適合させた。このために、非切断型ポリQ-Htt-タンパク質を定量するためのさらなる仕事を、573-Q72発現クローンと2B7-Kおよびβ1-D2抗体の組み合わせを用いて行った。時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法において使用されるレシオメトリック読み出しを用いることの利点の1つは、アッセイシグナルが検出系の路長または検出される粒子の絶対数に依存しないために小型アッセイ様式への適合が容易に促進されることである。さらに、レシオメトリック読み出しはまた、液体の取り扱いにおける誤差に対してより強力であり、再びアッセイ小型化を促進する。1536マイクロウェルプレートにおいて直接増殖させた細胞に対する様式を小型化させた後、アッセイプロトコールを、溶解バッファー(図2D)および長期にわたるシグナル発生(図2E)について最適化した。誘導対非誘導のシグナル比率が抗体のインキュベーション時間と共に改善されるが、Z因子は、短いインキュベーション期間の後、すでに0.86の最大値に達していた(図2E)。我々は、最適な誘導リガンド濃度を決定することにより検出条件の最適化を続行した。ポリQ-Htt発現の誘導は、変化したリガンド濃度に対する十分な応答を示し(400 nMおよび200 nMの誘導リガンドでのシグナル間で〜250 nMのIC50 (図2F)および0.87のZ因子を有する)、これは、ポリQ-Httレベルの部分的な50%減少についてのアッセイの信頼性を示す。
【0050】
実施例3
内因性ハンチントンの検出のための時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイ
突然変異体Httのアミノ末端断片は、インビトロおよびインビボにおいて神経毒性があり、ハンチントン病を引き起こすと考えられている(Arrasate et al., 2004; Li et al., 2000; Varma et al., 2007)。突然変異体Httの毒性および凝集は、ポリQの長さ、Htt断片の長さ、および突然変異体Htt発現のレベルに依存する(Colby et al., 2006; King et al., 2008; Machida et al., 2006; Scherzinger et al., 1999; Wang et al., 2005)。HDについての疾患修飾処置もしくは治療に対する重要な工程は、単純な単一工程アッセイでの治療モダリティの存在下で、突然変異体Httタンパク質レベルにおける変化を検出する能力である。さらに、高感度かつ有効なHtt測定は、HDの臨床的発症もしくは進行を解析するためのバイオマーカーを示し得る。最近、我々は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを用いて、単一工程で細胞内突然変異体Httを測定することの実現可能性を示した。このアッセイにおいて、抗体対は、Htt断片と融合した短い人工タグを認識する(Paganetti et al. 2009)) (図3)。そのような方法を用いて、我々は、Htt変異型のカルボキシ末端に位置するタグに特異的な抗体対を用いた野生型Httについてのアッセイおよび突然変異体Httについてのアッセイを開発した(すなわち、各々β1 & 32A5およびβ1 & 25H10の抗体対である)。人工タグに特異的な抗体を用いた研究を発展させると、タグ化Httは容易に検出されたが、非タグ化Httエクソン1構築体は検出されなかった(図4)。この実験は、特異性を示していたが、内因性非タグ化突然変異体Httを測定することが、Httの内因性エピトープに対する抗体対を必要とすることを強調した。
【0051】
Htt毒性がHttタンパク質のアミノ末端に集中しているという一般的な合意が存在しており、したがって、我々は、アミノ末端特異的抗体を用いた内因性突然変異体Httについての高感度アッセイを開発した。モノクローナル抗体2B7は、断片化および全長突然変異体Httを測定するためのパン抗体であると考えられており、HttのポリQリピートに対してすぐアミノ末端に位置する17個のアミノ酸に結合する。ポリQ結合抗体であるMW1と組み合わせて適用されると、2B7 & MW1ペアは、HN10細胞において発現された野生型(25Q)および突然変異型(72Q) Httの573アミノ酸長断片、ならびに非タグ化野生型および突然変異体Httエクソン1を特異的に検出した(図4B)。HN10細胞において発現されるHttの量を決定するために、我々は、細菌において発現された組み換えHtt573-25Qタンパク質を精製し、それを、非誘導化HN10細胞の細胞溶解物をスパイクするためのスタンダードとして使用して、2B7&MW1時間分解FRETアッセイを標準化した(図4C)。我々は、HN10細胞が0.1 g Htt573-Q25/mgの全タンパク質(全HN10タンパク質の0.01%)および0.5 g Htt エクソン1-25Q/mgの全タンパク質(全HN10タンパク質の0.05%)を発現することを計算し、モノクローナル抗体2B7およびMW1を用いた時間分解FRETアッセイについて、25 pM (384ウェルプレートのウェルあたり250 アトモル(amoles)/10μl)に相当する細胞溶解物において検出の限界を決定した。
【0052】
異なるHN10細胞株における野生型および突然変異体HttのポリQ依存性検出の正確な比較は、タンパク質の発現レベルにおいてクローンごとの変形により妨げられる。別法として、我々は、マウス胚性幹細胞(ESC; (Bibel et al., 2004))の均質集団において、25個もしくは72個のグルタミンを有する非タグ化Htt構築体の発現のためのレンチウイルス法を選択した。所定のウイルス力価は、ウエスタンブロットにより示されたとおり、構築体の同等の発現を生じた。時間分解蛍光共鳴エネルギー転移におけるシグナル強度は、ポリQの長さと共に増加した(図4D)。MW1が、線形格子効果(linear lattice effect) (Ko et al., 2001; Li et al., 2007)のために、野生型Httと比較して突然変異体Httにおける伸長したポリQリピートにより結合しやすいので、これは予期されることであった。また、時間分解FRETアッセイにおけるMW1の使用は、タンパク質濃度、ならびに長いポリQストレッチに同時に結合するMW1抗体の親和性および数に依存してシグナルを生じ得る。実際に、非誘導化HN10細胞の細胞溶解物にスパイクされた異なるポリQ長を有する等量の精製化Httタンパク質を用いた場合に、我々は、Htt573-25Qと比較して、Htt573-46Qについてのシグナルにおいて〜5倍の増加を観察し、それは、2つの標準曲線間の直線部分から計算されるスロープ間の比率として測定された(図4C)。これらのデータは、時間分解FRETを用いた2B7 & MW1の抗体対により、ポリQに依存した方法でのヒトHttの特異的検出を示した。シグナルのポリQ依存性および各ポリQ長についてのタンパク質スタンダードの欠如の観点で、図中のデータは、通常、バックグラウンドを超えたHttシグナルおよび精製されたタンパク質が対応するポリQ長を有しているサンプルについてのみ本明細書において提供されるHttの絶対量として示される。
【0053】
内因性全長Httを検出するための時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイの使用を評価するために、我々は、Htt遺伝子が欠損しているESC(ネガティブコントロールとしてのHttノックアウト)、またはポリQ挿入により修飾されているESC(ポジティブコントロールとしてのポリQノックイン)を選択した。HttノックアウトESCからのサンプルと比較して、140QノックインESCからのサンプルにおいて、顕著なシグナルが得られた(図4E)。対照的に、我々は、正常なESCを用いた場合にバックグラウンド(モック条件)を超えたシグナルを観察しなかった。これは、正常なマウスHttが7個のみのグルタミンのポリQストレッチを有する(これは、MW1モノクローナル抗体による認識のためには明らかに短い(Ko et al., 2001))という事実と一致する。確かに、種々のポリQ長が内因性Htt遺伝子にノックインされているESC由来グルタミン酸作動性神経細胞から得られた細胞溶解物において、神経細胞HttはポリQ長依存的な方法で検出された(図4F)。注目すべきことに、顕著な量のHttがまた、正常なヒト遺伝子座の多くを示すポリQ長である20Q-Httについて検出された。これらのデータは、単一工程の時間分解FRETアッセイが内因性Httタンパク質の迅速かつ定量的なポリQ依存性検出のためのバイオアッセイであることを示した。
【0054】
実施例4
二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による2個のタンパク質の同時検出
1つのさらなる適用は、同じサンプル、例えば、25QHtt573および72QHtt573の両方を発現するHN10細胞溶解物におけるタグ化野生型および突然変異体Htt573の二重決定であり、そこでは、Httのヒト配列は、アミノ酸573で切断され、野生型Htt (25Q)は、β1および32A7抗原でタグ化され、突然変異体Htt (72Q)は、β1および25H10抗原でタグ化されていた(図5、左パネル)。β1抗体を、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイにおける新規ドナーであるLumi4(商標)-Tb(Lumiphore Incにより開発されたテルビウム複合体)で標識した。Tb2+-クリプテートの放出は、25H10抗体に結合した赤色D2アクセプターおよび32A7抗体に結合した緑色アクセプターAlexa488(またはフルオレセイン)により検出される。2つの検出チャンネル(赤色および緑色)を用いると、同じサンプル中の野生型および突然変異体Httの量を特異的に測定することが可能であり(図5、右パネル)、理論上は、同じタンパク質中の2個の異なる翻訳後修飾を解析するために2個の異なるタンパク質の他の任意の組み合わせを用いることが可能である。
【0055】
実施例5
組み換えヒトハンチントンの製造および精製
ヒトHtt 573アミノ酸長の断片(25個のグルタミンを有し、アミノ酸ThrThrThrGluGlyPro*の後で切断されている)をコードするcDNAをグルタチオンS-トランスフェラーゼの下流にサブクローン化し、ベクターをE. coliに導入した。細菌培養物を1のOD600まで37℃で増殖させ、氷冷し、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシドを加えて、培養物を12℃で18時間インキュベートした。遠心分離により細菌を回収し、リン酸緩衝生理食塩水および1% Tween-20を用いて超音波処理により溶解した。遠心分離により溶解物を除去し、2 ml/10mlの溶解物グルタチオンレジンと共にインキュベートした。ビーズを、PBS/0.5% Tween-20で2回、および切断バッファー(cleavage buffer)(50 mM Tris pH 7.0, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM DTT, 0.1% Tween-20, 各々25x ベッドボリューム(bed volumes)での洗浄)で2回洗浄した。40 U/ml PreScission Proteaseを含む1ベッドボリュームの切断バッファーを用いて、4℃で16時間、ローター上でビーズをインキュベートした。精製化Httタンパク質を含む上清を回収し、ビーズをさらに1ベッドボリュームの切断バッファーで洗浄した(図6)。同じ手順を用いて、46個のグルタミンを有する同じヒトHtt断片を精製した(図6)。PreScissionによるグルタチオンS-トランスフェラーゼの除去によって、Httのアミノ末端においてさらに5個のアミノ酸(GlyProLeuGlySer)を取り去る(leaves)。280 nmでの吸光度を測定することによりタンパク質濃度を決定し、市販のタンパク質決定キットを用いて確認した。
【0056】
実施例6
二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による2個のHttアイソフォームの同時検出
第2の考えられる適用は、下記の表に記載されているがそれらに限定されることがないHttに特異的なさらなる抗体を用いて、Httの異なるアイソフォームを試験することである:
【表5】
【0057】
Prof. Patterson, Caltech(Ko and Patterson, 2001)により、MW1およびMW8を作製した。2166は、市販で入手可能な抗体であり(Chemicon)、他のすべての抗体は、我々の研究室で作製された。
【0058】
異なる抗体対の特異性を解析するために、我々は、スタンダードとして、細菌において発現された精製化組み換えHttタンパク質を用いて、バイオアッセイおよび二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移測定を行った。
【0059】
最初の適用において、我々は、25Qおよび46Qを有する組み換えHttタンパク質の検出のために、2B7 & MW1および2B7 & 4C9の2個の抗体対を用いた。我々は、2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)がポリQ依存的な方法でよりよく突然変異体Httを認識するが、2B7 & 4C9 (D2チャンネル)は伸長したポリQを有する突然変異体Httタンパク質についてよりも野生型Httについてより強いシグナルを生じることを観察した(図7)。2B7 & 2166を、2B7 & 4C9 (D2チャンネル)の代わりに2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)と組み合わせた場合に、同様の結果が得られた(図8)。これらのデータは、抗体対がHttのポリQドメインの反対側のエピトープ(またはポリQ配列自体)を認識する2個の抗体を含む場合は常にポリQ依存的なシグナル強度を生じることを示した。
【0060】
さらにこの結論を評価するために、我々は、ポリQストレッチの下流の2個のエピトープを認識する4C9 & 2166の抗体の組み合わせを用いた場合に、野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46Q)が等しく十分に検出されることを観察した(図9)。これらのデータは、Httの複数のアイソフォームの一般的な検出のために時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを設計することが可能であることを示した。
【0061】
実施例7
マウスHDモデルの中枢および末梢組織における可溶性突然変異体Httの検出および疾患進行の関数としての可溶性脳Httにおける顕著な変化
次いで、Httについての単一工程バイオアッセイを用いて、4週および12週齢のR6/2マウスならびに同週齢の野生型マウスから得られた脳ホモジネートを解析した。R6/2マウスは、ヒトHttプロモーターにより誘導される突然変異体Httエクソン1の普遍的な発現のために、侵攻性HD様表現型を発症する(Mangiarini et al., 1996)。図10は、HDマウスについて得られたデータを要約している。解析されたすべてのトランスジェニック動物において、ロバストシグナルが観察された。若年の発症前マウスにおける突然変異体Htt特異的シグナルは、野生型動物で測定されたシグナル(ESC Htt-ノックアウト細胞において内因性マウスHttが検出されなかったので、バックグラウンドノイズとして示され得る(上記を参照))の約25倍である(図10A)。興味深いことに、進行したHD様表現型を有する老齢のマウス群の脳において検出された突然変異体Httのレベルは、若年のR6/2マウスと比較して約45%未満であった(図10A)。AGERAにより同じ脳サンプル内で測定されたHtt凝集体量(load)が年齢の関数として増加したので、突然変異体Httの減少は、驚くべきことであった(図11A; AGERAブロット)。これらの結果についての1つの考えられる説明は、2B7-MW1抗体対を用いた時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイがHtt凝集体とは異なる突然変異体Htt画分に特異的であったということである。この可能性をさらに検証するために、我々は、超遠心分離法によりR6/2脳ホモジネートを下記に示す2つの画分に分離した: 可溶性Htt種のみを含む1つの画分、および不可溶性ペレットとして沈殿したHtt凝集体を含むもう1つの画分。AGERAによる上清およびペレット画分の解析は、不可溶性凝集体のペレット画分への成功した分離を示し、その結果、凝集体は上清画分には存在しなかった(図10Cおよび図11、AGERAブロット)。対照的に、我々は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により検出されるHttの量が、主に、上清画分中に可溶性材料として豊富に存在すること(主に、モノマーおよびオリゴマー形態で)を見出した。これらのデータは、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイが可溶型突然変異体Httに特異的であることを示した。したがって、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移シグナルの減少は、年齢および疾患進行の関数として蓄積する凝集体への可溶性Htt種の集合を示し得て、それは、アルツハイマー病のような他の神経変性疾患についても示されるメカニズムである(Sjogren et al., 2002; Strozyk et al., 2003)。
【0062】
我々は、6週齢のR6/2もしくはWTマウスからの筋肉および血漿サンプルならびに9から12週齢のR6/2もしくはWTマウスからの脳脊髄液サンプルを含むように解析を発展させた。我々は、大脳皮質抽出物において検出されたシグナルよりもかなり弱かったが、解析されたすべての組織サンプルにおけるそれらの通常の同胞種と比較してR6/2マウスにおいて有意に検出可能な量の突然変異体Httを見出した(図10D)。
【0063】
突然変異体Httについてのバイオアッセイにおいて、Httの小型断片の発現に基づくHDのR6/2マウスモデルは、突然変異した全長Httが発現するヒト状況のモデルとして限定された値のみを有し得る。別法として、我々は、140個のグルタミンポリQストレッチを有する内因性マウス全長Httを発現するノックインマウスモデル(Menalled et al., 2003)における突然変異体Httの解析のために、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを適用した。R6/2マウスサンプルと同様に、顕著な量の突然変異体Httが、解析されたすべての脳領域およびポリQノックインマウスから得られた全血液サンプルにおいて検出された(図10E)。
【0064】
実施例8
ヒト組織サンプルにおける高感度かつポリQ依存性ハンチントン検出
突然変異体Httバイオアッセイの感度および特異性がマウス組織サンプルにおいて明確に示されたので、我々は、次いで、3人の健常なボランティア(HV)から得られたヒト検死大脳皮質組織コントロールおよび3人のHD脳における内因性突然変異体Httの検出に注目した。最初の実験において、Httバイオアッセイは、HVコントロールと比較して3人すべてのHD患者において2.7倍高いレベルのHtt (p<0.001)を測定し(図12A)、これは、ヒト組織におけるHttの高感度かつ迅速なポリQ依存性決定のためのアッセイの利用を示す。正常な(25Q)および大多数のHD対立遺伝子(46Q) [37]に相当するポリQ長を有する組み換えHttタンパク質の利用により、我々は、正常なHttタンパク質および突然変異体Httタンパク質について、〜20 ng/mgの全タンパク質(〜10 nM)に達するヒトHD大脳皮質におけるHtt濃度を概算することが可能となった。
【0065】
血液サンプルを得ることが容易な多くの臨床設定と同様に、我々は、次いで、5人の生存しているHD患者および4人のHV対象から得られた3つの異なる血液画分を試験した。盲検実験において、HD患者サンプルと全血、単離された赤血球および軟膜における4つのコントロールサンプルを明確に区別することが可能であった。時間分解FRETアッセイにより決定されたHttの相対量は、血液画分間のスコア比較を可能にするz変換であった(図12B)。各対象についての組織にわたる平均zスコアを比較すると、反復測定ANOVAは、有意な群効果(F(1,7) = 61.07; p<0.001、部分η2=0.90)を示した。全関数容量(total function capacity) (TFC)において予期される有意差に加えて、他の効果もしくは相互作用は、有意ではなかった。例えば、性別は群間で異なっているが、HDとHVの間の差異を説明しなかった。我々は、5つのHDサンプルを解析して、全血(R=0.50)および軟膜(R=0.65)において有望な傾向を観察したが(赤血球では観察されなかった(R=0.03))、Htt濃度と疾患進行(TFC)の間で有意な線形相関には達していなかった。図12におけるボックスプロットは、HDとHVサンプル間の非重複を示し、これは、HttバイオアッセイがHD患者からの組織サンプルにおいて効率的に内因性突然変異体Httを同定することを明確に示しており、DNAに基づく遺伝子型決定を補完し得る。
【0066】
実施例10
ヒト軟膜サンプルの長期的解析
臨床研究計画のための通常の使用に関して、該アッセイを健常なボランティアおよびHD患者からの大規模な群の軟膜PBMCサンプル(Sarah Tabriziにより快く提供される)の解析のために使用した: 各対象について2つの時間点を有する100の対象。この二重盲検試験において、我々は、Steven Herschにより提供されたサンプルを用いた早期の実験により確立されたシグナル閾値を用いて、健常なコントロールに属するものとして44サンプルのうち43サンプルを正確に割り当てた。したがって、該アッセイは、出発材料として血液画分を用いて、健常な対象とHDの患者を区別するために特別入念に行われる。結果を表2において示す。
表2
【表6】
【0067】
我々は、可溶性突然変異体Httの決定のためのバイオアッセイを開発し、細胞溶解物、動物およびヒト組織における突然変異体Httレベルを測定するためのその使用を示した。
【0068】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイは、少量のサンプルのみを必要とする単純な単一工程方法論である。したがって、突然変異体Httレベルの定量的決定は、わずか5 μlのヒト全血を用いて可能であり、これは、サンプルの取得が低侵襲性であるので、患者に影響を与えることなく、より長い臨床試験の間に複数回にわたって可溶性突然変異体Httレベルを決定する可能性を提供する。さらに、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法を用いて人工物を補正する能力により、少量のサンプルにおける突然変異体Httの極めて信頼度の高い定量が可能となる(Imbert et al., 2007)。
【0069】
可溶性突然変異体Httについての我々の検出法の特異性を証明するために、いくつかの実験工程を行った。重要なのは、我々のバイオアッセイが、信頼性およびロバスト性の観点でアッセイの質を反映する共通の統計学的パラメーターである高いZ因子値により示されたとおり(Zhang et al., 1999), (Weiss et al. 提出済)、高感度かつ強力で信頼できる方法でタグ化Htt断片の細胞内レベルを検出することが最近記載された方法に基づいているということである。ハイスループットスクリーニングの検出抗体を、内因性Httエピトープを認識する抗体対に交換することにより、我々は、タグ化Httの誘導性発現を有する安定した神経細胞株において非タグ化Htt断片の検出を示すことができた。野生型Httを超えて突然変異体Httレベルを特異的に検出するために、抗体の1つは、ハンチントン病において伸長するポリQリピートを標的とする。次いで、我々は、シグナル強度が、レンチウイルス感染胚性幹細胞におけるポリQ長、ならびに野生型およびポリQノックイン胚性幹細胞および胚性幹細胞由来神経細胞から得られる細胞溶解物におけるポリQ長と直接相関することを示した。重要なことに、我々は、すべてのHttタンパク質発現が存在しないノックアウト胚性幹細胞溶解物を用いて、我々のシグナルのHtt特異性を証明することができた。検出法はポリQ長依存的な方法であるので、野生型Httは、7個のみのグルタミンのWT-ポリQ長のためにマウス細胞または動物組織において検出されないが、ヒト健常ポリQ長は、通常、約〜20個のグルタミンを有し(Myers, 2004)、該長さはまた、我々の方法により検出されることに留意すべきである。しかしながら、この健常なHtt由来シグナルの強度のみでは、主に39を超えるグルタミンのポリQ長を有する突然変異体ポリQ Htt検出からなる全シグナルにほとんど関与しない。
【0070】
我々は、HDのマウスモデルの解析を進め、2つの異なるHDマウスモデルのさまざまな組織サンプルにおける可溶性非凝集体型突然変異体Httレベルを初めて定量的に決定することができた。注目すべきことに、我々は、老齢R6/2マウスの脳において、不可溶性Htt凝集体の量は増加するが、可溶性突然変異体Httのレベルは減少することを見出した。加齢に応じて生じる凝集体を形成する傾向があるモノマー種の減少は、Aβ42レベルの減少が疾患進行についてのマーカーであるアルツハイマー病(増加したプラーク量の関数として可溶性Aβの集合により生じ得る)における同様の結果に類似する。
【0071】
最後に、我々は、ヒト検死大脳皮質サンプル、ならびに生存しているコントロールおよびHD患者からの全血および血液由来ヒトサンプルを試験した。我々は、シグナル強度単独により、健常なサンプルとHD患者のサンプルを明確に区別することができた。この容易に入手可能なヒト組織サンプルにおける可溶性Httの定量的検出は、HD疾患進行についての潜在的なバイオマーカーとしての使用のためにこの可溶性突然変異体Htt定量の値を決定する可能性を開いた。この点において、解析されたHD患者において全機能容量スコアにより決定されたとおり、軟膜画分において測定されたシグナルが疾患進行の重篤度と相関する傾向があることは興味深い。この傾向は、全血または赤血球において観察されなかった。しかしながら、赤血球は全血において見出される細胞の大部分を代表し、そして赤血球は、軟膜画分において見出されるいくつかのリンパ球よりも短い寿命を有するので、この差異は、突然変異体ハンチントンモノマー発現、例えばハンチントン凝集体の効果が長期間にわたり蓄積し得て、その結果、我々が進行した疾患を有するR6/2マウスにおいて観察したものと同様の可溶性突然変異体ハンチントンの減少したシグナルを生じ得るリンパ球サブ集団のより長い寿命によるものであり得る。より大規模なHD患者集団でのさらなる長期的な試験は、この興味深い可能性を明らかにすること助け得る。さらに、潜在的なHD治療は、可溶性突然変異体Httプールに直接影響を与えることを目的としたものであり得るので(例えば、凝集を変える化合物、シャペロン系に作用する化合物またはオートファジーに作用する化合物)、可溶性突然変異体Httの正確な定量はまた、ヒト臨床試験における処置成功のためのマーカーとしての適用を見出し得る。
【0072】
要約すると、我々のバイオアッセイは、少量のサンプルを必要とする極めて単純な単一工程方法論である。さらに、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移の人工物補正性質(artifact corrected nature)は、対象あたり単一の少量サンプルを用いた極めて信頼性の高いHtt定量を可能にし、該方法を、頻繁にヒト臨床試験において見出されるようなサンプル数またはサンプル量により制限される実験のために有用なものにする。方法のシグナル特異性は、使用される抗体対に依存するので、該方法はまた、HDだけでなく他の疾患、特に、脊髄小脳失調のような他のポリQ疾患についてのさらなる適用を見出し得る。
【0073】
我々のアッセイの興味深い発展は多重化しており、したがって、いくつかのハンチントン形態についての相対的な測定を確立するのを可能にする。我々は、これが突然変異体と正常なハンチントンについて可能であることを示したが、正常なハンチントンと比較した翻訳後修飾の程度、例えば、タンパク質分解性切断、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化および他の天然で生じるポリペプチド骨格の共有結合修飾を測定するために、さらなる抗体組み合わせを開発することは極めて興味深い。
【0074】
本発明によるアッセイにおける使用のためのサンプル材料は、ヒト体液、例えば、尿、唾液、血漿、血清および脳脊髄液、ならびに器官、例えば、脳、筋肉、皮膚、毛髪、血液細胞ならびに他の中枢および末梢ヒト器官からの組織抽出物であり得る。組織抽出物は、組織生検の均質化または界面活性剤溶解により得ることができる。
【0075】
本発明のバイオアッセイが診断ツールとして使用される場合、上記のヒトサンプルのいずれかが解析され、健常なボランティアコントロールから得られたサンプルと比較され得る。
【0076】
本発明のバイオアッセイが疾患進行をモニターするために使用される場合、上記のヒトサンプルのいずれかが、疾患進行の関数として長期的に(longitudinally)、または表現形質の転換(phenoconversion)の前後に解析され得る。
【0077】
本発明のバイオアッセイが疾患の処置の有効性をモニターするために使用される場合、上記のヒトサンプルのいずれかが、薬理学的な処置の前後に解析され得る。
【0078】
方法および材料
ペプチドおよび抗体の作製
抗体25H10、32A7またはβ1と反応し、異なるリンカー配列により分離されたエピトープを含むペプチドは、MITバイオポリマー研究室により特注製造された。アミロイドβ40ペプチドをBachem (Bubendorf, Switzerland)から購入した。
【0079】
GGVV-エピトープに特異的な25H10抗体、VVIAに特異的な32A7抗体、およびEFRHに特異的なβ1抗体については、他の場所に記載されている(Paganetti et al., 1996)。Httタンパク質の最初の17個のアミノ酸に対する2B7抗体は、特注製造された(GENOVAC, Freiburg, Germany)。Dr. Paul Pattersonにより開発されたHttのポリグルタミンストレッチに特異的なMW1抗体を、NICHDの援助の下で設立され、The University of Iowa, Department of Biological Sciences, Iowa City, IA 52242により維持されたDevelopmental Studies Hybridoma Bankから入手した。抗体のカスタムユーロピウムクリプテートおよびD2-フルオロフォア標識は、CisBio (Bagnols/Ceze, France)により行われた。使用されるバッチに依存して、抗体をmol抗体あたり5から7 molのユーロピウムクリプテートもしくはD2-フルオロフォアと架橋させた。
【0080】
神経細胞株の作製
HN10神経細胞(Lee et al., 1990)を用いて、573-Q25および/または573-Q72 Httアミノ末端の発現を有する誘導可能クローンを作製した。要約すると、細胞にrheoswitch受容体プラスミド(New England Biolabs)を導入し、1 mg/ml G418 (Invitrogen)の選択条件下で培養した。クローンを細胞形態についてスクリーニングし、誘導可能ルシフェラーゼレポーター構築体を導入して、2日間誘導した。最大の誘導率を有するクローンを選択し、次の573-Q25または573-Q72誘導可能プラスミドの導入のために使用した。1 mg/ml G418および1 mg/ml ハイグロマイシン(Invitrogen)での選択後、クローン株におけるHtt断片の誘導可能発現を本明細書において記載された時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出法によりモニターし、基底発現を有さず、最大の誘導可能発現を有するクローンをアッセイ様式における使用のために選択した。
【0081】
他の細胞モデル
Wheeler et al., 1999; White et al., 1997に記載されたとおり、ノックイン胚性幹細胞(ES細胞)を作製した。ネオマイシン選択カセットを、creリコンビナーゼを発現するプラスミドを用いた第2エレクトロポレーションにより除去した。Bibel et al., 2007; Bibel et al., 2004に記載されたものとは異なるプロトコールを用いて、胚性幹細胞由来神経細胞(ES神経細胞)を作製した。要約すると、15% ウシ胎児血清(FCS)および1000U/ml LIF (白血病誘導因子)を含むES培地で融解させた後、ES細胞を、少なくとも2回の継代の間、マイトマイシン不活化マウス胚性線維芽細胞上で培養した。次いで、さらに2回以上の継代の間、フィーダー細胞である線維芽細胞を含むことなくそれらを培養した。10% FCSを含むがLIFを含まないEB培地中、細菌皿上で、胚様体(EB)を形成させ、8日間インキュベートし、最後の4日間はレチノイン酸を添加した。トリプシン処理によりEBを解離させ、N2培地中、ポリ-l-リシンおよびラミニン被覆化プレート上に播種し、解離の2日後に、Brewer and Cotman, 1989に記載された神経分化培地に置換した。
【0082】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移によるペプチドの検出
ペプチドを800 μg/mlまでDMSOで前希釈した。さらにDMSO溶液を、3 ng/ml最終濃度まで1/5 RIPAバッファーで希釈した。3 ng/ml アミロイドβ40ペプチドをコントロールとして使用した。低量96ウェルあたり10 μlのペプチド溶液を、5 μlの抗体溶液(50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% tween中、β1-D2 20 ng/ウェル、25H10-K 2 ng/ウェル)と混合し、4℃で一晩インキュベートした。RUBYstar (BMG Labtech)リーダーを用いて、620 nmおよび665 nmのシグナルを測定した。
【0083】
96ウェル様式
20.000細胞/ウェルを100 μlの通常の増殖培地(DMEM (Gibco)、10% FCS、ペニシリンおよびストレプトマイシン)に播種した。2時間後に培地を除去し、200 μlの誘導培地(通常の増殖培地+誘導リガンド)を加えて、Htt断片の発現を開始した。3日後に培地を除去し、30 μl/ウェルの読み出しバッファー(50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% tween中、20 μlの異なる溶解バッファーと10 μlのβ1-D2と25H10-Kもしくは32A7-K)を加えた。室温で30分間のインキュベーション後、溶解物を低量の黒底96ウェルプレートに移した。4℃で3時間後、RUBYstar (BMG Labtech)リーダーを用いて、620 nmおよび665 nmのシグナルを測定した。
【0084】
1536ウェルHTS小型化および化合物スクリーニング
573-Q72発現クローンを、37℃で72時間、5% CO2条件下で、誘導培地を用いてインキュベートし、ポリQ-htt構築体の発現を促進した。次いで、ウェルあたり3 μlの2000細胞/μl細胞懸濁液を1536マイクロタイタープレート(Greiner)に播種し、-/+化合物処理で一晩インキュベートした。3 μlの溶解バッファー(1x PBS + 1% Triton X-100、完全プロテアーゼ阻害剤)を加えて、室温で30分間インキュベートした。50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% tween中、2 μlの抗体希釈物を、60 pg/ウェルのユーロピウム標識化抗体および800 pg/ウェルのD2標識化抗体の最終希釈まで加えた。示したとおり(as indicated)、プレートを室温でインキュベートした。View Luxマシンを下記の設定で用いて測定を行った: ラベル1 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移_Eu-K_(E:800K,Xsec,BF4, GN:高い,SP:遅い)、ラベル2 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移_XL665_(E:800K,Xsec,BF4, GN:高い,SP:遅い)。
【0085】
動物モデル
ヘテロ接合体トランスジェニックR6/2雄のCBAxC57BL/6株をG. Bates研究室(Mangiarini et al., 1996)から入手し、CBAxC57BL/6 F1雌と交配させた。尾組織から得られたDNAのPCRアッセイにより、子孫の遺伝子型を決定した。12時間の明/暗サイクルで維持された温度制御室において動物を飼育した。餌および水は、自由に摂取可能であった。すべての実験は、承認された実験動物の管理と使用に関する指針に基づいて行われた。
【0086】
ハンチントンの時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイ検出のために、2-3月齢の動物に3-5%のイソフルランで麻酔し、その後、100mg/kg ケタミンおよび10mg/kg キシラジンを腹腔内投与した。CSFおよび血液回収後、動物にペントバルビタールナトリウムを過剰投与(150mg/kg)した。さらに、蛍光共鳴エネルギー転移解析のために、筋肉(腓腹筋)および脳を迅速に回収した。脳ホモジネートをウェルあたり100μg(10 mg/mlのタンパク質濃度)載せた。
【0087】
凝集体解析(AGERA)
Weiss et al., 2008に記載されたとおり、AGERA解析を行った。要約すると、R6/2の脳を、10容量(w/v)のPBS + 0,4% TritonX100およびComplete Protease Inhibitor (Roche Diagnostics)で均質化した。AGERAレーンあたり0.15 μgの全タンパク質に相当する脳サンプルを載せた。可溶性および不可溶性画分への脳ホモジネートの分離のために、ホモジネートを124 000 gで1時間遠心分離し、上清を分割し(可溶性画分)、沈殿物を出発量と等しい量のPBS + 0,4% TritonX100で再懸濁した(不可溶性画分)。
【0088】
バイオアッセイ
脳および筋組織を10x量のサンプルバッファー(PBS + 1% Triton X-100 + 完全プロテアーゼ阻害剤)で均質化した。血液、血漿および脳脊髄液サンプルをサンプルバッファーで1:1に前希釈した。10 μlのサンプルおよび5 μlの抗体希釈物(50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% Tween中、ユーロピウムクリプテートおよびD2標識化抗体)を、各ウェルに、1.5 ng/ウェルの2B7-ユーロピウム標識化抗体および30 ng/ウェルのMW1-D2標識化抗体の最終希釈まで加えた。プレートを、4℃で1時間、インキュベートした。Xenon-lamp Envision Readerを用いて、320 nmでの励起後、20 nmおよび665 nmの波長について測定を行った(遅延時間100 μs、ウィンドウ400 μs、100フラッシュ/ウェル)。
【0089】
データ解析
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移測定は、2個の異なるシグナルを生じる。ユーロピウムクリプテート標識化抗体からの620 nmシグナルは、考え得るアッセイの干渉人工物、例えば、化合物によるシグナルクエンチングもしくは吸収、サンプル濁度および励起エネルギーもしくはサンプル量における差異についての内部参照として使用され得る。665 nmシグナルは、D2標識化抗体から生じ、それは、ユーロピウムクリプテートからの時間分解エネルギー転移により励起される。したがって、計算された665/620 nm比は、2個の結合した抗体とそれらの抗原の人工物補正特異的シグナルであり、したがって、サンプル中に存在する抗原の量の正確な反映である。96ウェルデータについて、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移シグナルは、それらの2個の波長間の比率として提供される:
【表7】
【0090】
1536マイクロタイターウェル最適化データについて、時間分解シグナルをΔF値として示し、日ごとのアッセイ変形をそれとして考慮するのにより適当な様式は、バックグラウンド補正値:
【表8】
である。
【0091】
ハイスループットスクリーニングデータの解析は、インハウスデータ解析ソフトウェアを用いて行われ、このソフトウェアは、プレート上に存在する高および低コントロールサンプルを用いて残りの活性に対する活性(%)を標準化し、局所プレート効果を補正する局所回帰アルゴリズムを用いてプレート効果を補正することができる(Gubler, 2006)。Zhang et al., 1999に基づいて、Z因子を計算した。
【0092】
統計学的解析
細胞およびマウスの値の定量を、標準偏差を有する平均として示す。有意差をスチューデントt検定により計算した。
【0093】
参照
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【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、疾患進行をモニターするか、もしくは疾患の処置の有効性をモニターするための、疾患と関連する突然変異型ポリQタンパク質についてのバイオアッセイおよび診断ツールとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ハンチントン病(HD)、球脊髄性筋萎縮症、いくつかの脊髄小脳失調症および歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症のような多くの疾患は、ポリグルタミンリピートを有するタンパク質の発現と関連している。これらの障害は、集合的に、「ポリグルタミン病」と呼ばれる。HDは、100000人あたり5から8症例の罹患率を有する最も一般的な遺伝性神経変性疾患である。その主な臨床症状は、運動機能障害、精神疾患および認知症を含む。いかなる実質的な成功を達成することなく多くの対症療法がHDについて試みられてきた(Bonelli and Wenning, 2006)が、HDについて承認された処置は存在しない(Bates, 2003)。HDは、9個の常染色体優性遺伝疾患からなるポリグルタミン(ポリQ)疾患ファミリーの主要メンバーであり、その共通する特徴は、普遍的に発現する異なるタンパク質におけるポリQリピート伸長である(Ross, 2002)。HDを生じる遺伝学的突然変異は、ハンチントンタンパク質におけるポリグルタミン伸長である。36を超えるグルタミンの伸長は病原性となり、タンパク質フォールディングならびに毒性のある細胞内断片および凝集体の一連の形成に影響を与えると考えられる。ハンチントン遺伝子(Htt)における伸長したポリQリピートは、エクソン1に存在し、突然変異体ポリQ-Httタンパク質の発現を生じる(Gusella et al., 1983)。ポリQリピート伸長は、ランダムコイルから、ポリグルタミン鎖間の水素結合により連結された円筒状平行βシート構造への変換を促進し得る(Perutz et al., 1994)。アルツハイマー病またはパーキンソン病のようなタンパク質ミスフォールディングにより特徴づけられる他の神経変性疾患と同様に、螺旋状βシートを有するタンパク質は、不可溶性タンパク質凝集体を形成する傾向がある(Benzinger et al., 2000)。
【0003】
HD様症状は、突然変異体Httの発現が、RNA干渉(DiFiglia et al., 2007)によるか、もしくはテトラサイクリン制御条件下での発現(Yamamoto et al., 2000)により、HDマウスモデルの脳において下方調節されるときに回復する。興味深いことに、突然変異体ポリQ-Httおよび野生型-Httは、細胞により異なる代謝がなされ、異なる様式の翻訳後修飾(リン酸化(Warby et al., 2005)、タンパク質分解性切断(Gafni et al., 2004; Graham et al., 2006; Wellington et al., 2002)、細胞内局在(Davies et al., 1997; van Roon-Mom et al., 2002)および分解(Ravikumar et al., 2002)を示す。これらの知見は、例えばシャペロン系の上方調節もしくはオートファジー分解経路の誘導を介して、突然変異体Httのミスフォールディングもしくは除去に影響を与えることを目的としたHD治療薬についての発見的仕事を促進させた(Yamamoto et al., 2006)。そのような方法は、タンパク質ミスフォールディングにより引き起こされる他の神経変性疾患についての適用を見出し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在のところ、突然変異体ポリグルタミンタンパク質についてのそのような治療効果、例えば臨床試験もしくは治療における例えば突然変異体Httレベルを評価するために利用可能なバイオアッセイは存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
本発明は、疾患進行をモニターするか、もしくは疾患の処置の有効性をモニターするための、疾患と関連する可溶性突然変異型ポリQタンパク質についてのバイオアッセイおよび診断ツールとしてのそれらの使用に関する。
【0006】
好ましい態様において、使用されるバイオアッセイは、神経細胞株におけるハイスループットスクリーニングのために適当なHtt検出についての新規な均一時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法である。我々は、この「時間分解蛍光共鳴エネルギー転移イムノアッセイ」(下記の「バイオアッセイ」)が、細胞、動物およびヒトサンプルにおける内因性の全長可溶性ポリQ-Httを定量するために修飾され得ることを示す。そのようなバイオアッセイの使用は、疾患進行のマーカーとして可溶性突然変異体Httの使用を可能にするか、または前臨床および臨床試験ならびに治療処置における薬剤処置の効果をモニターすることを可能にする。該方法の設計は極めて柔軟であるので、それは、他の疾患、とりわけ、ポリQファミリーの他のメンバーと関連する疾患との関連での使用のために適用可能である。これらのタンパク質は、一般に、細胞内で発現され、疾患進行/治療の診断および/またはモニタリングのために有用なアッセイは、現在まで利用することができていない。
【0007】
本発明の好ましい態様において、バイオアッセイは、ポリQタンパク質、例えば、ポリQハンチントンの可溶型を測定する。本発明の他の好ましい態様において、バイオアッセイは、ポリQタンパク質、例えば、ポリQハンチントンの凝集形態を測定する。本発明のまた他の好ましい態様において、バイオアッセイは、ポリQタンパク質、例えば、ポリQハンチントンの可溶型および凝集形態を測定する。
【0008】
したがって、1つの局面において、本発明は、生物学的サンプルにおけるタンパク質の突然変異型(ポリQ型)の量を測定するためのイムノアッセイであって、該タンパク質が、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される、イムノアッセイを提供する。
【0009】
本発明によるイムノアッセイの好ましい態様において、サンプル中の対応する野生型タンパク質の絶対量または相対量がさらにイムノアッセイにより測定される。
【0010】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、突然変異型タンパク質の翻訳後修飾、例えば、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断のような断片化、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化、脂質修飾またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾の程度がさらに測定される。
【0011】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイは、単一工程アッセイ、すなわち、分離または洗浄が必要とされず、好ましくは単一の生化学的処理後に行われ得る。
【0012】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイ検出技術は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移または電気化学発光に基づくものである。
【0013】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイ検出技術は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移である。
【0014】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、イムノアッセイは、下記の工程:
a) 生物学的サンプルをランタノイドイオンクリプテート(例えば、ユーロピウムもしくはテルビウムクリプテート)で標識された第1抗体およびランタニド放出シグナルを検出するために適当なフルオロフォアで標識された第2抗体と接触させること; および
b) 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いてフルオロフォアからの蛍光を測定することにより、サンプル中の突然変異型ポリQタンパク質の量を定量すること
を含み、該抗体の一方は、突然変異型タンパク質のポリQ部分に特異的であり、他方の抗体は、突然変異型ハンチントンタンパク質の異なる部分に特異的である。
【0015】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の(相対)量は、さらに該サンプルを、ランタニド放出シグナルを検出するために適当な異なるフルオロフォアで標識された該タンパク質の野生型に特異的な第3抗体と接触させることにより生物学的サンプルにおいて測定される。
【0016】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、ポリQタンパク質は、ポリQハンチントンである。
【0017】
本発明によるイムノアッセイのさらに好ましい態様において、生物学的サンプルは、脳、血液、筋肉もしくは心臓に由来するか、または皮膚もしくは毛髪のような任意の他の末梢組織に由来する。
【0018】
本発明の他の局面において、イムノアッセイは、疾患進行をモニターするか、もしくはタンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするために生物学的サンプルにおける突然変異型ポリQタンパク質型の量を測定するために使用され、ここで、該タンパク質は、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される; 疾患進行をモニターするか、もしくは該タンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするための診断ツールとして使用される。イムノアッセイは、好ましくは、本願において記載されたイムノアッセイである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】検出タグの最適化、cDNA構築体およびアッセイの原理。A. ベータ1 (β1) & 25H10の抗体対を用いて解析されたペプチドのアミノ酸配列を示す(各エピトープを太字で示す)。B. Aで示されたペプチドの時間分解FRET解析(3 ng/ウェル、デュプリケート)。突然変異体Httを標識するためにH1配列を選択し、野生型Httを標識するためにI6配列を選択した。C. 誘導性HN10細胞株において発現されるcDNA構築体の図表であり、またC末端タグにおける25H10、32A7およびベータ1 (β1)の抗体結合部位を示す。2B7は、Httの内因性アミノ末端エピトープに特異的である。D. 細胞に基づく時間分解FRETアッセイのために使用されるプロトコールの略図。
【図2】時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による突然変異体および野生型Httの検出。A. 内因性全長Httの発現と比較した場合のHN10細胞における野生型(573-Q25)および突然変異体(573-Q72) Httの誘導された発現のウエスタンブロット解析。B. 誘導の3日後、突然変異体および野生型Httが導入されたHN10細胞株は、長期間および複数の細胞継代にわたる安定したHtt発現を示す。C. 誘導の3日後における示された抗体組み合わせを用いた時間分解FRETによる野生型または突然変異体Httの高感度かつ特異的検出(平均値、n=3、標準偏差)。D. 3日間誘導された細胞における、2B7 & β1抗体対を用いた突然変異体Htt573-Q72の検出のための細胞溶解条件の最適化(抗体添加の50分後に時間分解FRETで測定した、n=6、標準偏差)。E. Z'因子は、73-Q72 HN10細胞の3日間の誘導後、絶対的時間分解FRETシグナルは長期間にわたり増加していたが(データは、示していない)、細胞溶解および検出抗体の添加後35から110分の間、安定したままであった(n=6、標準偏差)。F. 異なる誘導剤濃度で処理された細胞における突然変異体Htt573-Q72発現の用量依存的な増加(n=6、標準偏差、EC50 〜250 nM)。A-C. 96ウェルプレート様式でデータを作製した。D-F. 1536ウェルプレート様式でデータを作製した。
【図3】Httバイオアッセイについて使用されるプロトコールの略図。時間分解FRETのために標識化されたモノクローナル抗体を、単一のピペッティング工程により細胞溶解物または組織ホモジネートに加える。Httへの同時の結合は、2個の抗体が近接する状態をもたらし、その結果、ユーロピウムクリプテートからD2-フルオロフォアへのエネルギー転移を可能にする。ランタニドクリプテートにより放出される固有の長期蛍光は、時間分解測定を可能にし、したがって、干渉短期バックグラウンド蛍光との一時的な区別を可能にする。結果として、正確なHtt決定は、強く発光する自己蛍光生物学的サンプル、例えば、血液において可能である。B. ヒトHtt(タグ化Htt573断片)上の抗体結合部位の図表。2B7およびMW1は、それぞれHttのアミノ末端およびポリQリピートに位置するHttエピトープに特異的である。3個のモノクローナル抗体β1、32A7および25H10は、タグ化Htt573断片のカルボキシ末端に付加されたエピトープに特異的である。ポリQリピートへのMW1結合は、ポリQ長の関数としてHttへのより強力な増加した結合を生じる(図中で示される2個の抗体により表される)。
【図4】ハンチントン病の細胞モデルにおける突然変異体ハンチントンの検出。A: Htt抗体対2B7 & MW1を用いた誘導化HN10細胞溶解物におけるタグ化野生型(25Q)および突然変異体(72Q) Htt 573断片の時間分解FRET検出。非誘導化細胞から調製した溶解物をネガティブコントロールとして使用した。B: 2B7 & MW1を用いた時間分解FRETによるHN10細胞における誘導化非標識Httエクソン1断片の特異的検出。C: 2B7 & MW1を用いた時間分解FRETによる精製化組み換え野生型(25Q)もしくは突然変異体(46Q)Htt 573タンパク質の標準量の定量。D. 2B7 & MW1を用いた時間分解FRETにより解析されるESC由来神経細胞における非タグ化野生型(25Q)および突然変異体(72Q) Htt 548断片のレンチウイルス仲介発現は、同様のHtt発現レベルが2B7を用いたウエスタンブロットにより示されていたが、HttシグナルがポリQ長の関数として増加することを明らかにした。Htt断片は、モック感染細胞において検出されなかった。チューブリンをローディングコントロールとして用いた。E: 140QノックインESCにおける内因性Httの特異的検出。HttノックアウトESC (KO)をネガティブコントロールとして使用した。7Qを有するマウス野生型Httは、2B7 & MW1により検出されなかった。F: 増加したポリQ長を有する内因性Httを発現するノックインESC由来神経細胞から得られた細胞溶解物の解析は、Httについての時間分解FRETアッセイのポリQ依存性を確認する。該図で示される細胞溶解物中のHttの発現のすべてを、ウエスタンブロットにより独立して解析した(データは示していない)。すべてのパネルは、標準偏差値を示すエラーバーを有するn=3の平均値を示す。
【図5】二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による野生型および突然変異体Httの同時決定。同じサンプルにおけるタグ化野生型および突然変異体Htt573の発現レベルの決定。HN10細胞は、アミノ酸573で切断され、それぞれβ1と32A7抗原またはβ1と25H10抗原でタグ化された野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (72Q)の両方を発現する。β1は、蛍光エネルギーをD2で標識された25H10およびAlexa488で標識された32A7に転移させるテルビウムクリプテート部分を有していた。D2およびAlexa488シグナルを、2個の異なる波長チャンネルで測定した。
【図6】純粋な組み換えHttタンパク質の産生。basteriaにおいて産生された精製化野生型(Htt573Q25)および突然変異体(Htt573Q46)タンパク質のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動。規定量のウシ血清アルブミン(BSA)をコントロールとしてロードし、適用された精製法において得られた精製化Httの量を概算した。
【図7】抗体対2B7 & MW1および2B7 & 4C9を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による組み換え野生型および突然変異体Httの決定。規定量の組み換え野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46)を、示された抗体対を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により解析した。2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)は、ポリQ依存的な方法で突然変異体Httをより認識したが、2B7 & 4C9 (D2チャンネル)は、伸長したポリQを有する突然変異体Httタンパク質よりも野生型Httについてより強いシグナルを生じた。
【図8】抗体対2B7 & MW1および2B7 & 2166を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による組み換え野生型および突然変異体Httの決定。規定量の組み換え野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46)を、示された抗体対を用いた二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により解析した。2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)は、ポリQ依存的な方法で突然変異体Httをより認識したが、2B7 & 2166 (D2チャンネル)は、伸長したポリQを有する突然変異体Httタンパク質よりも野生型Httについてより強いシグナルを生じた。
【図9】抗体対4C9 & 2166を用いた時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による組み換え野生型および突然変異体Httの決定。規定量の組み換え野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46)を、突然変異体Httおよび野生型Httを十分に等しく認識する抗体対4C9 & 2166を用いた時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により解析した。
【図10】マウスHDモデルにおける可溶性突然変異体ハンチントンの検出。A: R6/2マウスの脳における200Qを有するHttエクソン1の時間分解FRET検出。野生型マウスをネガティブコントロールとして使用した。2B7 & MW1抗体対により測定されたHttの相対濃度は、4週齢の発症前マウスと比較して12週齢の発症マウスにおいて顕著に減少した。B: R6/2マウスにおける脳Htt凝集体をAGERAにより決定した(Aにおいて解析されたものと同じサンプル)。予期されたとおり、凝集体量の顕著な増加が老齢マウス群において見出された。C: 2B7 & MW1抗体対を用いた可溶性Httの特異的検出。超遠心分離により、R6/2脳ホモジネートを可溶性および不可溶性材料に分離した。AGERAにより測定された不可溶性Htt凝集体の主なプールをペレットで回収した。対照的に、時間分解FRETは、上清において主に可溶性Httを示した。D: R6/2組織におけるHttの検出。6週齢のR6/2マウスからの大脳皮質および筋肉サンプルは、野生型同胞種(n=3)と比較して顕著な量のHttを含んでいた。突然変異体Httはまた、野生型マウス(n=4)と比較して9から12週齢のR6/2マウス(n=9)からの血漿およびCSFにおいて検出された。E: 内因性レベルで140Qを有するHttを発現するノックインHdh140マウス(n=3)の異なる脳領域における全長Htt検出。野生型同胞種 (n=3)をネガティブコントロールとして使用した。すべてのデータは、標準偏差を有する平均値である。
【図11】マウス脳におけるHtt凝集体の解析。A: 4および12週齢でのR6/2または野生型(WT)マウスからの脳サンプルのAGERAブロットの代表例。年齢依存的なHtt凝集体量の増加は、R6/2マウス脳において明らかである。B: 超遠心分離による分離の前(出発物)後、可溶性(上清)および不可溶性(ペレット)材料での4および12週齢動物におけるR6/2脳ホモジネートをAGERAにより解析した。
【図12】ヒト組織におけるHttの検出。A: 2B7 & MW1を用いた3人の検死ヒトHD大脳皮質ホモジネート(HD)の時間分解FRETによる解析は、3人のコントロール(HV)と比較してより高いポリQ依存的なHttシグナルを示した; 標準偏差を伴うテクニカルトリプリケート(technical triplicates)(HVとHDの間でp<0.001)。B: HD (n=5)およびコントロール(HV, n=4)対象から単離されたヒトスナップ凍結全血サンプル、EDTA処理赤血球および軟膜において、時間分解FRETにより測定された(トリプリケート)Httのz変換相対量のボックスプロット。ボックスは、50%の値の分布範囲を示し、垂直バーは、すべての値の分布を示し、水平バーは、平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本発明は、疾患進行をモニターするか、もしくは疾患の処置の有効性をモニターするための、疾患と関連するポリQタンパク質についてのバイオアッセイおよび診断ツールとしてのそれらの使用に関する。
【0021】
本発明がより容易に理解され得るために、特定の用語は最初に定義される。さらなる定義は、詳細な説明を通して説明される。
【0022】
「突然変異型ポリQタンパク質」または「ポリQタンパク質」なる用語は、疾患の発症と関連するポリグルタミン伸長を含むポリQタンパク質の形態を意味する。例えば、「突然変異型ポリQハンチントン」は、36個のグルタミンを超えるポリグルタミン伸長を有し、ハンチントン病と関連するハンチントンを意味する。
【0023】
「単一工程アッセイ」なる用語は、分離または洗浄が必要とされず、通常、単一の生化学的処理後に行われ得るイムノアッセイを意味する。
【0024】
「翻訳後修飾」なる用語は、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾を意味する。
【0025】
本発明のバイオアッセイが有用であるポリグルタミン病を下記の表に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
本明細書で使用される「抗体」なる用語は、全抗体およびその任意の抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)もしくは一本鎖を含む。天然で生じる「抗体」は、ジスルフィド結合により結合された少なくとも2個の重(H)鎖および2個の軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3個のドメインからなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、CLの1個のドメインからなる。VHおよびVL領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域に散在する超可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)の領域に分類され得る。各VHおよびVLは、下記の順番でアミノ末端からカルボキシ末端に並べられた3個のCDRおよび4個のFRから構成される: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系のさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1補体(Clq)を含む宿主組織もしくは因子への免疫グロブリンの結合を仲介し得る。
【0028】
本明細書で使用される抗体の「抗原結合部分」(または、単に「抗原部分」)なる用語は、ある抗原(例えば、ハンチントン)に特異的に結合する能力を保持した全長または1個もしくはそれ以上の抗体の断片を意味する。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片により行われ得ることが示された。抗体の「抗原結合部分」なる用語の範囲内に含まれる抗原結合断片の例は、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片; ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2個のFab断片を含むF(ab)2断片; VHおよびCH1ドメインからなるFd断片; 抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片; VHドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)断片(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546); および単離された相補性決定領域(CDR)を含む。
【0029】
さらに、Fv断片の2個のドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子にコードされているが、それらを、組み換え技術を用いて合成リンカーにより結合させることができ、それにより、VLおよびVH領域が対をなして、一価分子を形成する単一タンパク質鎖(一本鎖Fv (scFv)として既知である; 例えば、Bird et al., 1988 Science 242:423-426; and Huston et al., 1988 Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照のこと)として作製することができる。そのような一本鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合領域」なる用語の範囲内に包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に既知の慣用的な技術を用いて取得され、該断片は、インタクト抗体の場合と同じ方法で利用のためにスクリーニングされる。
【0030】
本明細書において「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」なる用語は、「抗原に特異的に結合する抗体」なる用語と交換可能に使用される。
【0031】
本明細書で使用される「ポリQタンパク質に特異的に結合する」抗体は、1 x 10-8 Mもしくはそれ未満、1 x 10-9 Mもしくはそれ未満、または1 x 10-10 Mもしくはそれ未満のKDでポリQタンパク質に結合する抗体を意味することが意図される。「ポリQタンパク質以外の抗原と交差反応する」抗体は、5 x 10-8 Mもしくはそれ未満、5 x 10-9 Mもしくはそれ未満、または2 x 10-9 Mもしくはそれ未満のKDで抗原に結合する抗体を意味することが意図される。「特定の抗原と交差反応しない」抗体は、1.5 x 10-8 Mもしくはそれ以上、または5-10 x 10-8 Mもしくは1 x 10-7 Mもしくはそれ以上のKDで抗原に結合する抗体を意味することが意図される。特定の態様において、抗原と交差反応をしないそのような抗体は、標準的な結合アッセイにおいてこれらのタンパク質に対する本質的に検出不可能な結合を示す。
【0032】
本明細書で使用される「Kassoc」または「Ka」なる用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を意味することが意図され、本明細書で使用される「Kdis」または「KD」なる用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を意味することが意図される。本明細書で使用される「KD」なる用語は、KdとKaの比率(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として示される解離定数を意味することが意図される。抗体についてのKD値は、当分野において十分に確立された方法を用いて決定され得る。抗体のKDを決定する方法は、表面プラズモン共鳴を用いることによるか、またはバイオセンサー系、例えば、Biacore(登録商標)系を用いることによる。
【0033】
本明細書で使用される「親和性」なる用語は、単一の抗原性部位における抗体および抗原間の相互作用の強さを意味する。各抗原性部位内で、抗体「アーム」の可変領域は、抗原と多くの部位において弱い非共有結合を介して相互作用し、ここで、より多くの相互作用は、より強い親和性を示す。
【0034】
本明細書で使用される「アビディティ」なる用語は、抗体-抗原複合体の全体的な安定性もしくは強度の情報的尺度(informative measure)を意味する。それは、下記の3つの主要な要因により制御される: 抗体エピトープ親和性; 抗原および抗体の両方の価数; ならびに相互作用部分の構造配置。最終的にこれらの要因は、抗体の特異性、すなわち、特定の抗体が正確な抗原エピトープに結合する可能性を規定する。
【0035】
「交差反応性」なる用語は、他の抗原上のエピトープに結合する抗体または抗体集団を意味する。これは、抗体の低いアビディティもしくは特異性によるか、または同一のもしくは極めて類似するエピトープを有する複数の異なる抗原により引き起こされ得る。交差反応性は、抗原の関連する群への一般的な結合が望まれる場合に、または抗原エピトープ配列が進化において高度に保存されていないときに種間標識を試みる場合に望ましい。
【0036】
本明細書で使用されるIgG抗体についての「高親和性」なる用語は、標的抗原について10-8 Mもしくはそれ未満、10-9 Mもしくはそれ未満、または10-10 Mもしくはそれ未満のKDを有する抗体を意味する。しかしながら、「高親和性」結合は、他の抗体アイソタイプについて変わり得る。例えば、IgMアイソタイプについての「高親和性」結合は、10-7 Mもしくはそれ未満、または10-8 Mもしくはそれ未満のKDを有する抗体を意味する。
【0037】
本明細書で使用される「対象」なる用語は、すべてのヒトもしくは非ヒト動物を含む。「非ヒト動物」なる用語は、すべての脊椎動物、例えば、哺乳類および非哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。
【0038】
本発明のさまざまな局面は、下記の小節において詳述されている。
【0039】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(時間分解FRET)は、本発明のバイオアッセイにおける使用のために好まれる検出技術である。該技術は、1990年代の初めから、生体分子の相互作用をモニターするために利用されている(Mathis, 1993)。該技術は、ランタニドイオンの蛍光特性のいくつかの局面を利用して、多くの異なる場面に適用されている。希土類イオンの長いフォルスター距離(Foerster's distance)は9 nmまでであり、これは、1-7 nmのフォルスター距離を有する多くの蛍光化合物と比べてより大きいものである。このより長い距離の効果は、多くの蛍光共鳴エネルギー転移対について可能であるよりも長い距離にわたって吸収エネルギーを転移することができるということである。次いで、これは、一般的な免疫検出試薬として希土類キレートを使用することを可能にする(Bazin et al., 2001)。希土類蛍光共鳴エネルギー転移対が有する第2の利点は、蛍光が減衰する時間が大きく延長し、その結果、時間分解蛍光を可能にすることである。この効果は、試験される小分子からのバックグラウンド蛍光の影響を減少させることである。レシオメトリック読み出し(ratiometric readout)をモニターする能力により、液体分配誤差(liquid dispensing errors)を補正し、その結果、アッセイ変動性を減少させ、データの質を改善するのを助けることが可能になり得る(Imbert et al., 2007)。
【表2】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移の原理。320 nmでのユーロピウムクリプテートの励起は、665 nmでのD2-フルオロフォアの近接依存性時間分解FRET放出を生じる。
【0040】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移において、エネルギーは、ランタニド-クリプテート標識化抗体により吸収され、ランタニドは、極端に長い半減期を有し(ユーロピウムおよびテルビウム)、クリプテートとの複合体は、増加した安定性を与え、そしてレシオメトリック測定の使用は、アッセイ干渉補正を可能にする。適当な蛍光性分子で標識された第2の抗体に近接すると、エネルギーが転移する(5-10 nmの範囲の距離について50%から95%の効率で)。歴史的に、CisBioから市販で入手可能な蛍光分子は、XL-665 (105 kDaのフィコビリンタンパク質ヘテロ-ヘキサマー構造)であった。XL-665は、Eu3+-クリプテート放出と重複する励起スペクトルおよびEu3+-クリプテートのみでは弱い光を放出する波長領域である665 nmでの最大光放出を有する。第2世代のD2レセプターは、約1 KDaの有機化合物であるEu3+-クリプテートと高い適合性を示し、顕著に減少したサイズのために、現在、XL-665の使用を完全に置換している。
【0041】
蛍光共鳴エネルギー転移対Eu3+-クリプテート + D2に加えて第2標識対が試験され、その結果、Lumiphore Inc.により開発されたテルビウム複合体であるLumi4(商標)-Tbが時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイにおける新規ドナーとなる。Tb2+-クリプテートの放出は、Eu3+-クリプテートとは異なるので、緑色アクセプター(Alexa488、フルオレセイン)を使用することができる。したがって、現在、同じサンプルにおける2個の異なるタンパク質(または例えば翻訳後修飾を解析するためのエピトープの異なる組み合わせ)を測定することが可能である。
【表3】
Tb2+-クリプテートの放出は、Eu3+-クリプテートとは異なるので、赤色D2アクセプターに加えて、緑色アクセプター(Alexa488、フルオレセイン)を使用することができる。
【0042】
他の好ましい検出技術は、電気化学発光検出であり、例えば、Meso Scale Discovery, 9238 Gaither Road, Gaithersburg, Maryland 20877, USAから市販で入手可能である。
【0043】
メソスケールディスカバリー(MSD)技術の電気化学発光検出技術は、マイクロプレートの電極表面で開始される電気学的な刺激により光を放出するSULFO-TAG標識を使用している。複数の受容抗体が同じウェルにスポットされ得て、その結果、同じサンプル内で10個までの異なるタンパク質を検出することが可能となり、結合したハンチントン(野生型および突然変異体)は、パン抗ハンチントン抗体により検出される。
【表4】
【0044】
我々は、4スポット/ウェルプレート上に2個の捕捉抗体Aβ42 (対応するタグ化野生型25Qハンチントンに対して)およびAβ40 (突然変異体72Qハンチントンのために)をスポットした。抗Aβ42スポットが解析される場合に、野生型25Qハンチントンの誘導化発現を有する細胞からの溶解物を含むサンプルのみがシグナルを生じる。対照的に、突然変異体72Qハンチントンの誘導化発現を有する細胞からの溶解物を含むサンプルは、抗Aβ40スポットにおいて陽性である。プレートに結合したHttをビオチン化Nov1抗体で検出した。
【0045】
したがって、理論上は、10個までの異なるハンチントン形態(突然変異体、野生型、特異的翻訳後修飾)を同じサンプル中で検出することが可能であり、選択的抗体が利用可能であることが想定される。
【0046】
アッセイの説明
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移は、多くの異なる生物学的検体、例えば、小分子(例えば、cAMP (Gabriel et al., 2003))および小型の分泌型サイトカイン(例えば、IL-8 (Achard et al., 2003))およびインビトロアッセイにおけるリン酸化タンパク質のレベル(Riddle et al., 2006)をモニターするために使用されている。また、興味のあるタンパク質基質を過剰発現させた細胞株を用いて細胞溶解物中のリン酸化タンパク質のレベルをモニターするために、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いるという報告が存在する。我々は、本発明において、最適な時間分解蛍光共鳴エネルギー転移シグナルを生じる抗体の組み合わせを設計することによりこれらの観察を発展させ、内因性レベルで発現するタンパク質の検出を可能にする。
【実施例】
【0047】
実施例1
技術開発
液体生物学的サンプル内におけるアミロイドβペプチドの時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出は、以前に記載されており(Clarke and Shearman, 2000)、現在では市販で利用可能である。アミロイドアッセイは、アミロイドβペプチド内の2個の十分に特徴づけられたエピトープに対する高親和性抗体を利用している。我々は、これらのエピトープを有する小型ペプチドのライブラリーを設計した(図1A)。我々の目的は、このペプチド配列を組み換えタンパク質についてのタグとして使用することであり、結果として、該組み換えタンパク質を時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出のために適当なものとする。蛍光共鳴エネルギー転移の効率は、さまざまなパラメーターにより影響され得るので(Foerster, 1948)、我々は、リンカーの長さおよびアミノ酸組成を改変した異なるペプチドを試験して最も適当なペプチド配列を決定した。精製化ペプチドの時間分解蛍光共鳴エネルギー転移は、確かにリンカーの長さおよび配列がシグナル強度にかなりの影響を与え得ることを示した(図1B)。例えば、極めて短いリンカー長を有するペプチド(ペプチドH2およびH3)は、おそらく2個の抗体の立体障害のために低いシグナルを生じる。25H10抗体について特異的なneo-エピトープGGVVがVVIA(32A7抗体について特異的である)で置換されたペプチドI6は、25H10ユーロピウム標識化抗体を用いた場合にシグナルを生じることができず、これはシグナルの特異性を示している。さらなる実験のために、我々は、タグとして正確なH1ペプチド配列(ポリQ-htt/573-Q72)またはneo-エピトープGGVVがVVIAで置換された別の配列(WT-htt/573-Q25)を有する2個のHtt-タンパク質-断片を設計した(図1C)。我々は、ポリQ-Htt、野生型Htt、またはポリQ-Httと野生型Httの誘導性発現を有するクローン化HN10神経細胞株(Lee et al., 1990)を作製した。次いで、これらの細胞株を用いて、細胞タンパク質レベルの検出のための細胞ハイスループット時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを確立した(図1D)。
【0048】
実施例2
タンパク質検出およびシグナル特異性
作製されたクローン化神経細胞株は、ウエスタンブロットにより示されたとおり、検出可能な既定の発現を有することなく、全誘導時において内因性レベルでタグ化ポリQ-Httおよび野生型Httを発現する(図2A、B)。誘導後の構築体の発現レベルは、長期間にわたって安定している(図2B)。96ウェル様式実験は、細胞内におけるWT-もしくはポリQ-Htt-タンパク質の高度に特異的な時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出が、対応するタグを特異的に検出する25H10-K + β1-D2または32A7-K +β1-D2の抗体対を用いた場合に実現可能であることを示した。さらに、カルボキシ末端タグにおけるエピトープに特異的なβ1-D2抗体と組み合わせてアミノ末端内因性Httエピトープに特異的な2B7-K抗体を用いることにより、野生型もしくはポリQ-Httを発現する細胞株における切断されていないインタクトのHtt-タンパク質レベルを特異的に検出することを可能にした(図2C)。
【0049】
次いで、我々は、アッセイを1536マイクロウェル様式に適合させた。このために、非切断型ポリQ-Htt-タンパク質を定量するためのさらなる仕事を、573-Q72発現クローンと2B7-Kおよびβ1-D2抗体の組み合わせを用いて行った。時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法において使用されるレシオメトリック読み出しを用いることの利点の1つは、アッセイシグナルが検出系の路長または検出される粒子の絶対数に依存しないために小型アッセイ様式への適合が容易に促進されることである。さらに、レシオメトリック読み出しはまた、液体の取り扱いにおける誤差に対してより強力であり、再びアッセイ小型化を促進する。1536マイクロウェルプレートにおいて直接増殖させた細胞に対する様式を小型化させた後、アッセイプロトコールを、溶解バッファー(図2D)および長期にわたるシグナル発生(図2E)について最適化した。誘導対非誘導のシグナル比率が抗体のインキュベーション時間と共に改善されるが、Z因子は、短いインキュベーション期間の後、すでに0.86の最大値に達していた(図2E)。我々は、最適な誘導リガンド濃度を決定することにより検出条件の最適化を続行した。ポリQ-Htt発現の誘導は、変化したリガンド濃度に対する十分な応答を示し(400 nMおよび200 nMの誘導リガンドでのシグナル間で〜250 nMのIC50 (図2F)および0.87のZ因子を有する)、これは、ポリQ-Httレベルの部分的な50%減少についてのアッセイの信頼性を示す。
【0050】
実施例3
内因性ハンチントンの検出のための時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイ
突然変異体Httのアミノ末端断片は、インビトロおよびインビボにおいて神経毒性があり、ハンチントン病を引き起こすと考えられている(Arrasate et al., 2004; Li et al., 2000; Varma et al., 2007)。突然変異体Httの毒性および凝集は、ポリQの長さ、Htt断片の長さ、および突然変異体Htt発現のレベルに依存する(Colby et al., 2006; King et al., 2008; Machida et al., 2006; Scherzinger et al., 1999; Wang et al., 2005)。HDについての疾患修飾処置もしくは治療に対する重要な工程は、単純な単一工程アッセイでの治療モダリティの存在下で、突然変異体Httタンパク質レベルにおける変化を検出する能力である。さらに、高感度かつ有効なHtt測定は、HDの臨床的発症もしくは進行を解析するためのバイオマーカーを示し得る。最近、我々は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを用いて、単一工程で細胞内突然変異体Httを測定することの実現可能性を示した。このアッセイにおいて、抗体対は、Htt断片と融合した短い人工タグを認識する(Paganetti et al. 2009)) (図3)。そのような方法を用いて、我々は、Htt変異型のカルボキシ末端に位置するタグに特異的な抗体対を用いた野生型Httについてのアッセイおよび突然変異体Httについてのアッセイを開発した(すなわち、各々β1 & 32A5およびβ1 & 25H10の抗体対である)。人工タグに特異的な抗体を用いた研究を発展させると、タグ化Httは容易に検出されたが、非タグ化Httエクソン1構築体は検出されなかった(図4)。この実験は、特異性を示していたが、内因性非タグ化突然変異体Httを測定することが、Httの内因性エピトープに対する抗体対を必要とすることを強調した。
【0051】
Htt毒性がHttタンパク質のアミノ末端に集中しているという一般的な合意が存在しており、したがって、我々は、アミノ末端特異的抗体を用いた内因性突然変異体Httについての高感度アッセイを開発した。モノクローナル抗体2B7は、断片化および全長突然変異体Httを測定するためのパン抗体であると考えられており、HttのポリQリピートに対してすぐアミノ末端に位置する17個のアミノ酸に結合する。ポリQ結合抗体であるMW1と組み合わせて適用されると、2B7 & MW1ペアは、HN10細胞において発現された野生型(25Q)および突然変異型(72Q) Httの573アミノ酸長断片、ならびに非タグ化野生型および突然変異体Httエクソン1を特異的に検出した(図4B)。HN10細胞において発現されるHttの量を決定するために、我々は、細菌において発現された組み換えHtt573-25Qタンパク質を精製し、それを、非誘導化HN10細胞の細胞溶解物をスパイクするためのスタンダードとして使用して、2B7&MW1時間分解FRETアッセイを標準化した(図4C)。我々は、HN10細胞が0.1 g Htt573-Q25/mgの全タンパク質(全HN10タンパク質の0.01%)および0.5 g Htt エクソン1-25Q/mgの全タンパク質(全HN10タンパク質の0.05%)を発現することを計算し、モノクローナル抗体2B7およびMW1を用いた時間分解FRETアッセイについて、25 pM (384ウェルプレートのウェルあたり250 アトモル(amoles)/10μl)に相当する細胞溶解物において検出の限界を決定した。
【0052】
異なるHN10細胞株における野生型および突然変異体HttのポリQ依存性検出の正確な比較は、タンパク質の発現レベルにおいてクローンごとの変形により妨げられる。別法として、我々は、マウス胚性幹細胞(ESC; (Bibel et al., 2004))の均質集団において、25個もしくは72個のグルタミンを有する非タグ化Htt構築体の発現のためのレンチウイルス法を選択した。所定のウイルス力価は、ウエスタンブロットにより示されたとおり、構築体の同等の発現を生じた。時間分解蛍光共鳴エネルギー転移におけるシグナル強度は、ポリQの長さと共に増加した(図4D)。MW1が、線形格子効果(linear lattice effect) (Ko et al., 2001; Li et al., 2007)のために、野生型Httと比較して突然変異体Httにおける伸長したポリQリピートにより結合しやすいので、これは予期されることであった。また、時間分解FRETアッセイにおけるMW1の使用は、タンパク質濃度、ならびに長いポリQストレッチに同時に結合するMW1抗体の親和性および数に依存してシグナルを生じ得る。実際に、非誘導化HN10細胞の細胞溶解物にスパイクされた異なるポリQ長を有する等量の精製化Httタンパク質を用いた場合に、我々は、Htt573-25Qと比較して、Htt573-46Qについてのシグナルにおいて〜5倍の増加を観察し、それは、2つの標準曲線間の直線部分から計算されるスロープ間の比率として測定された(図4C)。これらのデータは、時間分解FRETを用いた2B7 & MW1の抗体対により、ポリQに依存した方法でのヒトHttの特異的検出を示した。シグナルのポリQ依存性および各ポリQ長についてのタンパク質スタンダードの欠如の観点で、図中のデータは、通常、バックグラウンドを超えたHttシグナルおよび精製されたタンパク質が対応するポリQ長を有しているサンプルについてのみ本明細書において提供されるHttの絶対量として示される。
【0053】
内因性全長Httを検出するための時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイの使用を評価するために、我々は、Htt遺伝子が欠損しているESC(ネガティブコントロールとしてのHttノックアウト)、またはポリQ挿入により修飾されているESC(ポジティブコントロールとしてのポリQノックイン)を選択した。HttノックアウトESCからのサンプルと比較して、140QノックインESCからのサンプルにおいて、顕著なシグナルが得られた(図4E)。対照的に、我々は、正常なESCを用いた場合にバックグラウンド(モック条件)を超えたシグナルを観察しなかった。これは、正常なマウスHttが7個のみのグルタミンのポリQストレッチを有する(これは、MW1モノクローナル抗体による認識のためには明らかに短い(Ko et al., 2001))という事実と一致する。確かに、種々のポリQ長が内因性Htt遺伝子にノックインされているESC由来グルタミン酸作動性神経細胞から得られた細胞溶解物において、神経細胞HttはポリQ長依存的な方法で検出された(図4F)。注目すべきことに、顕著な量のHttがまた、正常なヒト遺伝子座の多くを示すポリQ長である20Q-Httについて検出された。これらのデータは、単一工程の時間分解FRETアッセイが内因性Httタンパク質の迅速かつ定量的なポリQ依存性検出のためのバイオアッセイであることを示した。
【0054】
実施例4
二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による2個のタンパク質の同時検出
1つのさらなる適用は、同じサンプル、例えば、25QHtt573および72QHtt573の両方を発現するHN10細胞溶解物におけるタグ化野生型および突然変異体Htt573の二重決定であり、そこでは、Httのヒト配列は、アミノ酸573で切断され、野生型Htt (25Q)は、β1および32A7抗原でタグ化され、突然変異体Htt (72Q)は、β1および25H10抗原でタグ化されていた(図5、左パネル)。β1抗体を、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイにおける新規ドナーであるLumi4(商標)-Tb(Lumiphore Incにより開発されたテルビウム複合体)で標識した。Tb2+-クリプテートの放出は、25H10抗体に結合した赤色D2アクセプターおよび32A7抗体に結合した緑色アクセプターAlexa488(またはフルオレセイン)により検出される。2つの検出チャンネル(赤色および緑色)を用いると、同じサンプル中の野生型および突然変異体Httの量を特異的に測定することが可能であり(図5、右パネル)、理論上は、同じタンパク質中の2個の異なる翻訳後修飾を解析するために2個の異なるタンパク質の他の任意の組み合わせを用いることが可能である。
【0055】
実施例5
組み換えヒトハンチントンの製造および精製
ヒトHtt 573アミノ酸長の断片(25個のグルタミンを有し、アミノ酸ThrThrThrGluGlyPro*の後で切断されている)をコードするcDNAをグルタチオンS-トランスフェラーゼの下流にサブクローン化し、ベクターをE. coliに導入した。細菌培養物を1のOD600まで37℃で増殖させ、氷冷し、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシドを加えて、培養物を12℃で18時間インキュベートした。遠心分離により細菌を回収し、リン酸緩衝生理食塩水および1% Tween-20を用いて超音波処理により溶解した。遠心分離により溶解物を除去し、2 ml/10mlの溶解物グルタチオンレジンと共にインキュベートした。ビーズを、PBS/0.5% Tween-20で2回、および切断バッファー(cleavage buffer)(50 mM Tris pH 7.0, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM DTT, 0.1% Tween-20, 各々25x ベッドボリューム(bed volumes)での洗浄)で2回洗浄した。40 U/ml PreScission Proteaseを含む1ベッドボリュームの切断バッファーを用いて、4℃で16時間、ローター上でビーズをインキュベートした。精製化Httタンパク質を含む上清を回収し、ビーズをさらに1ベッドボリュームの切断バッファーで洗浄した(図6)。同じ手順を用いて、46個のグルタミンを有する同じヒトHtt断片を精製した(図6)。PreScissionによるグルタチオンS-トランスフェラーゼの除去によって、Httのアミノ末端においてさらに5個のアミノ酸(GlyProLeuGlySer)を取り去る(leaves)。280 nmでの吸光度を測定することによりタンパク質濃度を決定し、市販のタンパク質決定キットを用いて確認した。
【0056】
実施例6
二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移による2個のHttアイソフォームの同時検出
第2の考えられる適用は、下記の表に記載されているがそれらに限定されることがないHttに特異的なさらなる抗体を用いて、Httの異なるアイソフォームを試験することである:
【表5】
【0057】
Prof. Patterson, Caltech(Ko and Patterson, 2001)により、MW1およびMW8を作製した。2166は、市販で入手可能な抗体であり(Chemicon)、他のすべての抗体は、我々の研究室で作製された。
【0058】
異なる抗体対の特異性を解析するために、我々は、スタンダードとして、細菌において発現された精製化組み換えHttタンパク質を用いて、バイオアッセイおよび二重時間分解蛍光共鳴エネルギー転移測定を行った。
【0059】
最初の適用において、我々は、25Qおよび46Qを有する組み換えHttタンパク質の検出のために、2B7 & MW1および2B7 & 4C9の2個の抗体対を用いた。我々は、2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)がポリQ依存的な方法でよりよく突然変異体Httを認識するが、2B7 & 4C9 (D2チャンネル)は伸長したポリQを有する突然変異体Httタンパク質についてよりも野生型Httについてより強いシグナルを生じることを観察した(図7)。2B7 & 2166を、2B7 & 4C9 (D2チャンネル)の代わりに2B7 & MW1 (Alexa488チャンネル)と組み合わせた場合に、同様の結果が得られた(図8)。これらのデータは、抗体対がHttのポリQドメインの反対側のエピトープ(またはポリQ配列自体)を認識する2個の抗体を含む場合は常にポリQ依存的なシグナル強度を生じることを示した。
【0060】
さらにこの結論を評価するために、我々は、ポリQストレッチの下流の2個のエピトープを認識する4C9 & 2166の抗体の組み合わせを用いた場合に、野生型Htt (25Q)および突然変異体Htt (46Q)が等しく十分に検出されることを観察した(図9)。これらのデータは、Httの複数のアイソフォームの一般的な検出のために時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを設計することが可能であることを示した。
【0061】
実施例7
マウスHDモデルの中枢および末梢組織における可溶性突然変異体Httの検出および疾患進行の関数としての可溶性脳Httにおける顕著な変化
次いで、Httについての単一工程バイオアッセイを用いて、4週および12週齢のR6/2マウスならびに同週齢の野生型マウスから得られた脳ホモジネートを解析した。R6/2マウスは、ヒトHttプロモーターにより誘導される突然変異体Httエクソン1の普遍的な発現のために、侵攻性HD様表現型を発症する(Mangiarini et al., 1996)。図10は、HDマウスについて得られたデータを要約している。解析されたすべてのトランスジェニック動物において、ロバストシグナルが観察された。若年の発症前マウスにおける突然変異体Htt特異的シグナルは、野生型動物で測定されたシグナル(ESC Htt-ノックアウト細胞において内因性マウスHttが検出されなかったので、バックグラウンドノイズとして示され得る(上記を参照))の約25倍である(図10A)。興味深いことに、進行したHD様表現型を有する老齢のマウス群の脳において検出された突然変異体Httのレベルは、若年のR6/2マウスと比較して約45%未満であった(図10A)。AGERAにより同じ脳サンプル内で測定されたHtt凝集体量(load)が年齢の関数として増加したので、突然変異体Httの減少は、驚くべきことであった(図11A; AGERAブロット)。これらの結果についての1つの考えられる説明は、2B7-MW1抗体対を用いた時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイがHtt凝集体とは異なる突然変異体Htt画分に特異的であったということである。この可能性をさらに検証するために、我々は、超遠心分離法によりR6/2脳ホモジネートを下記に示す2つの画分に分離した: 可溶性Htt種のみを含む1つの画分、および不可溶性ペレットとして沈殿したHtt凝集体を含むもう1つの画分。AGERAによる上清およびペレット画分の解析は、不可溶性凝集体のペレット画分への成功した分離を示し、その結果、凝集体は上清画分には存在しなかった(図10Cおよび図11、AGERAブロット)。対照的に、我々は、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移により検出されるHttの量が、主に、上清画分中に可溶性材料として豊富に存在すること(主に、モノマーおよびオリゴマー形態で)を見出した。これらのデータは、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイが可溶型突然変異体Httに特異的であることを示した。したがって、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移シグナルの減少は、年齢および疾患進行の関数として蓄積する凝集体への可溶性Htt種の集合を示し得て、それは、アルツハイマー病のような他の神経変性疾患についても示されるメカニズムである(Sjogren et al., 2002; Strozyk et al., 2003)。
【0062】
我々は、6週齢のR6/2もしくはWTマウスからの筋肉および血漿サンプルならびに9から12週齢のR6/2もしくはWTマウスからの脳脊髄液サンプルを含むように解析を発展させた。我々は、大脳皮質抽出物において検出されたシグナルよりもかなり弱かったが、解析されたすべての組織サンプルにおけるそれらの通常の同胞種と比較してR6/2マウスにおいて有意に検出可能な量の突然変異体Httを見出した(図10D)。
【0063】
突然変異体Httについてのバイオアッセイにおいて、Httの小型断片の発現に基づくHDのR6/2マウスモデルは、突然変異した全長Httが発現するヒト状況のモデルとして限定された値のみを有し得る。別法として、我々は、140個のグルタミンポリQストレッチを有する内因性マウス全長Httを発現するノックインマウスモデル(Menalled et al., 2003)における突然変異体Httの解析のために、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイを適用した。R6/2マウスサンプルと同様に、顕著な量の突然変異体Httが、解析されたすべての脳領域およびポリQノックインマウスから得られた全血液サンプルにおいて検出された(図10E)。
【0064】
実施例8
ヒト組織サンプルにおける高感度かつポリQ依存性ハンチントン検出
突然変異体Httバイオアッセイの感度および特異性がマウス組織サンプルにおいて明確に示されたので、我々は、次いで、3人の健常なボランティア(HV)から得られたヒト検死大脳皮質組織コントロールおよび3人のHD脳における内因性突然変異体Httの検出に注目した。最初の実験において、Httバイオアッセイは、HVコントロールと比較して3人すべてのHD患者において2.7倍高いレベルのHtt (p<0.001)を測定し(図12A)、これは、ヒト組織におけるHttの高感度かつ迅速なポリQ依存性決定のためのアッセイの利用を示す。正常な(25Q)および大多数のHD対立遺伝子(46Q) [37]に相当するポリQ長を有する組み換えHttタンパク質の利用により、我々は、正常なHttタンパク質および突然変異体Httタンパク質について、〜20 ng/mgの全タンパク質(〜10 nM)に達するヒトHD大脳皮質におけるHtt濃度を概算することが可能となった。
【0065】
血液サンプルを得ることが容易な多くの臨床設定と同様に、我々は、次いで、5人の生存しているHD患者および4人のHV対象から得られた3つの異なる血液画分を試験した。盲検実験において、HD患者サンプルと全血、単離された赤血球および軟膜における4つのコントロールサンプルを明確に区別することが可能であった。時間分解FRETアッセイにより決定されたHttの相対量は、血液画分間のスコア比較を可能にするz変換であった(図12B)。各対象についての組織にわたる平均zスコアを比較すると、反復測定ANOVAは、有意な群効果(F(1,7) = 61.07; p<0.001、部分η2=0.90)を示した。全関数容量(total function capacity) (TFC)において予期される有意差に加えて、他の効果もしくは相互作用は、有意ではなかった。例えば、性別は群間で異なっているが、HDとHVの間の差異を説明しなかった。我々は、5つのHDサンプルを解析して、全血(R=0.50)および軟膜(R=0.65)において有望な傾向を観察したが(赤血球では観察されなかった(R=0.03))、Htt濃度と疾患進行(TFC)の間で有意な線形相関には達していなかった。図12におけるボックスプロットは、HDとHVサンプル間の非重複を示し、これは、HttバイオアッセイがHD患者からの組織サンプルにおいて効率的に内因性突然変異体Httを同定することを明確に示しており、DNAに基づく遺伝子型決定を補完し得る。
【0066】
実施例10
ヒト軟膜サンプルの長期的解析
臨床研究計画のための通常の使用に関して、該アッセイを健常なボランティアおよびHD患者からの大規模な群の軟膜PBMCサンプル(Sarah Tabriziにより快く提供される)の解析のために使用した: 各対象について2つの時間点を有する100の対象。この二重盲検試験において、我々は、Steven Herschにより提供されたサンプルを用いた早期の実験により確立されたシグナル閾値を用いて、健常なコントロールに属するものとして44サンプルのうち43サンプルを正確に割り当てた。したがって、該アッセイは、出発材料として血液画分を用いて、健常な対象とHDの患者を区別するために特別入念に行われる。結果を表2において示す。
表2
【表6】
【0067】
我々は、可溶性突然変異体Httの決定のためのバイオアッセイを開発し、細胞溶解物、動物およびヒト組織における突然変異体Httレベルを測定するためのその使用を示した。
【0068】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイは、少量のサンプルのみを必要とする単純な単一工程方法論である。したがって、突然変異体Httレベルの定量的決定は、わずか5 μlのヒト全血を用いて可能であり、これは、サンプルの取得が低侵襲性であるので、患者に影響を与えることなく、より長い臨床試験の間に複数回にわたって可溶性突然変異体Httレベルを決定する可能性を提供する。さらに、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法を用いて人工物を補正する能力により、少量のサンプルにおける突然変異体Httの極めて信頼度の高い定量が可能となる(Imbert et al., 2007)。
【0069】
可溶性突然変異体Httについての我々の検出法の特異性を証明するために、いくつかの実験工程を行った。重要なのは、我々のバイオアッセイが、信頼性およびロバスト性の観点でアッセイの質を反映する共通の統計学的パラメーターである高いZ因子値により示されたとおり(Zhang et al., 1999), (Weiss et al. 提出済)、高感度かつ強力で信頼できる方法でタグ化Htt断片の細胞内レベルを検出することが最近記載された方法に基づいているということである。ハイスループットスクリーニングの検出抗体を、内因性Httエピトープを認識する抗体対に交換することにより、我々は、タグ化Httの誘導性発現を有する安定した神経細胞株において非タグ化Htt断片の検出を示すことができた。野生型Httを超えて突然変異体Httレベルを特異的に検出するために、抗体の1つは、ハンチントン病において伸長するポリQリピートを標的とする。次いで、我々は、シグナル強度が、レンチウイルス感染胚性幹細胞におけるポリQ長、ならびに野生型およびポリQノックイン胚性幹細胞および胚性幹細胞由来神経細胞から得られる細胞溶解物におけるポリQ長と直接相関することを示した。重要なことに、我々は、すべてのHttタンパク質発現が存在しないノックアウト胚性幹細胞溶解物を用いて、我々のシグナルのHtt特異性を証明することができた。検出法はポリQ長依存的な方法であるので、野生型Httは、7個のみのグルタミンのWT-ポリQ長のためにマウス細胞または動物組織において検出されないが、ヒト健常ポリQ長は、通常、約〜20個のグルタミンを有し(Myers, 2004)、該長さはまた、我々の方法により検出されることに留意すべきである。しかしながら、この健常なHtt由来シグナルの強度のみでは、主に39を超えるグルタミンのポリQ長を有する突然変異体ポリQ Htt検出からなる全シグナルにほとんど関与しない。
【0070】
我々は、HDのマウスモデルの解析を進め、2つの異なるHDマウスモデルのさまざまな組織サンプルにおける可溶性非凝集体型突然変異体Httレベルを初めて定量的に決定することができた。注目すべきことに、我々は、老齢R6/2マウスの脳において、不可溶性Htt凝集体の量は増加するが、可溶性突然変異体Httのレベルは減少することを見出した。加齢に応じて生じる凝集体を形成する傾向があるモノマー種の減少は、Aβ42レベルの減少が疾患進行についてのマーカーであるアルツハイマー病(増加したプラーク量の関数として可溶性Aβの集合により生じ得る)における同様の結果に類似する。
【0071】
最後に、我々は、ヒト検死大脳皮質サンプル、ならびに生存しているコントロールおよびHD患者からの全血および血液由来ヒトサンプルを試験した。我々は、シグナル強度単独により、健常なサンプルとHD患者のサンプルを明確に区別することができた。この容易に入手可能なヒト組織サンプルにおける可溶性Httの定量的検出は、HD疾患進行についての潜在的なバイオマーカーとしての使用のためにこの可溶性突然変異体Htt定量の値を決定する可能性を開いた。この点において、解析されたHD患者において全機能容量スコアにより決定されたとおり、軟膜画分において測定されたシグナルが疾患進行の重篤度と相関する傾向があることは興味深い。この傾向は、全血または赤血球において観察されなかった。しかしながら、赤血球は全血において見出される細胞の大部分を代表し、そして赤血球は、軟膜画分において見出されるいくつかのリンパ球よりも短い寿命を有するので、この差異は、突然変異体ハンチントンモノマー発現、例えばハンチントン凝集体の効果が長期間にわたり蓄積し得て、その結果、我々が進行した疾患を有するR6/2マウスにおいて観察したものと同様の可溶性突然変異体ハンチントンの減少したシグナルを生じ得るリンパ球サブ集団のより長い寿命によるものであり得る。より大規模なHD患者集団でのさらなる長期的な試験は、この興味深い可能性を明らかにすること助け得る。さらに、潜在的なHD治療は、可溶性突然変異体Httプールに直接影響を与えることを目的としたものであり得るので(例えば、凝集を変える化合物、シャペロン系に作用する化合物またはオートファジーに作用する化合物)、可溶性突然変異体Httの正確な定量はまた、ヒト臨床試験における処置成功のためのマーカーとしての適用を見出し得る。
【0072】
要約すると、我々のバイオアッセイは、少量のサンプルを必要とする極めて単純な単一工程方法論である。さらに、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移の人工物補正性質(artifact corrected nature)は、対象あたり単一の少量サンプルを用いた極めて信頼性の高いHtt定量を可能にし、該方法を、頻繁にヒト臨床試験において見出されるようなサンプル数またはサンプル量により制限される実験のために有用なものにする。方法のシグナル特異性は、使用される抗体対に依存するので、該方法はまた、HDだけでなく他の疾患、特に、脊髄小脳失調のような他のポリQ疾患についてのさらなる適用を見出し得る。
【0073】
我々のアッセイの興味深い発展は多重化しており、したがって、いくつかのハンチントン形態についての相対的な測定を確立するのを可能にする。我々は、これが突然変異体と正常なハンチントンについて可能であることを示したが、正常なハンチントンと比較した翻訳後修飾の程度、例えば、タンパク質分解性切断、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化および他の天然で生じるポリペプチド骨格の共有結合修飾を測定するために、さらなる抗体組み合わせを開発することは極めて興味深い。
【0074】
本発明によるアッセイにおける使用のためのサンプル材料は、ヒト体液、例えば、尿、唾液、血漿、血清および脳脊髄液、ならびに器官、例えば、脳、筋肉、皮膚、毛髪、血液細胞ならびに他の中枢および末梢ヒト器官からの組織抽出物であり得る。組織抽出物は、組織生検の均質化または界面活性剤溶解により得ることができる。
【0075】
本発明のバイオアッセイが診断ツールとして使用される場合、上記のヒトサンプルのいずれかが解析され、健常なボランティアコントロールから得られたサンプルと比較され得る。
【0076】
本発明のバイオアッセイが疾患進行をモニターするために使用される場合、上記のヒトサンプルのいずれかが、疾患進行の関数として長期的に(longitudinally)、または表現形質の転換(phenoconversion)の前後に解析され得る。
【0077】
本発明のバイオアッセイが疾患の処置の有効性をモニターするために使用される場合、上記のヒトサンプルのいずれかが、薬理学的な処置の前後に解析され得る。
【0078】
方法および材料
ペプチドおよび抗体の作製
抗体25H10、32A7またはβ1と反応し、異なるリンカー配列により分離されたエピトープを含むペプチドは、MITバイオポリマー研究室により特注製造された。アミロイドβ40ペプチドをBachem (Bubendorf, Switzerland)から購入した。
【0079】
GGVV-エピトープに特異的な25H10抗体、VVIAに特異的な32A7抗体、およびEFRHに特異的なβ1抗体については、他の場所に記載されている(Paganetti et al., 1996)。Httタンパク質の最初の17個のアミノ酸に対する2B7抗体は、特注製造された(GENOVAC, Freiburg, Germany)。Dr. Paul Pattersonにより開発されたHttのポリグルタミンストレッチに特異的なMW1抗体を、NICHDの援助の下で設立され、The University of Iowa, Department of Biological Sciences, Iowa City, IA 52242により維持されたDevelopmental Studies Hybridoma Bankから入手した。抗体のカスタムユーロピウムクリプテートおよびD2-フルオロフォア標識は、CisBio (Bagnols/Ceze, France)により行われた。使用されるバッチに依存して、抗体をmol抗体あたり5から7 molのユーロピウムクリプテートもしくはD2-フルオロフォアと架橋させた。
【0080】
神経細胞株の作製
HN10神経細胞(Lee et al., 1990)を用いて、573-Q25および/または573-Q72 Httアミノ末端の発現を有する誘導可能クローンを作製した。要約すると、細胞にrheoswitch受容体プラスミド(New England Biolabs)を導入し、1 mg/ml G418 (Invitrogen)の選択条件下で培養した。クローンを細胞形態についてスクリーニングし、誘導可能ルシフェラーゼレポーター構築体を導入して、2日間誘導した。最大の誘導率を有するクローンを選択し、次の573-Q25または573-Q72誘導可能プラスミドの導入のために使用した。1 mg/ml G418および1 mg/ml ハイグロマイシン(Invitrogen)での選択後、クローン株におけるHtt断片の誘導可能発現を本明細書において記載された時間分解蛍光共鳴エネルギー転移検出法によりモニターし、基底発現を有さず、最大の誘導可能発現を有するクローンをアッセイ様式における使用のために選択した。
【0081】
他の細胞モデル
Wheeler et al., 1999; White et al., 1997に記載されたとおり、ノックイン胚性幹細胞(ES細胞)を作製した。ネオマイシン選択カセットを、creリコンビナーゼを発現するプラスミドを用いた第2エレクトロポレーションにより除去した。Bibel et al., 2007; Bibel et al., 2004に記載されたものとは異なるプロトコールを用いて、胚性幹細胞由来神経細胞(ES神経細胞)を作製した。要約すると、15% ウシ胎児血清(FCS)および1000U/ml LIF (白血病誘導因子)を含むES培地で融解させた後、ES細胞を、少なくとも2回の継代の間、マイトマイシン不活化マウス胚性線維芽細胞上で培養した。次いで、さらに2回以上の継代の間、フィーダー細胞である線維芽細胞を含むことなくそれらを培養した。10% FCSを含むがLIFを含まないEB培地中、細菌皿上で、胚様体(EB)を形成させ、8日間インキュベートし、最後の4日間はレチノイン酸を添加した。トリプシン処理によりEBを解離させ、N2培地中、ポリ-l-リシンおよびラミニン被覆化プレート上に播種し、解離の2日後に、Brewer and Cotman, 1989に記載された神経分化培地に置換した。
【0082】
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移によるペプチドの検出
ペプチドを800 μg/mlまでDMSOで前希釈した。さらにDMSO溶液を、3 ng/ml最終濃度まで1/5 RIPAバッファーで希釈した。3 ng/ml アミロイドβ40ペプチドをコントロールとして使用した。低量96ウェルあたり10 μlのペプチド溶液を、5 μlの抗体溶液(50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% tween中、β1-D2 20 ng/ウェル、25H10-K 2 ng/ウェル)と混合し、4℃で一晩インキュベートした。RUBYstar (BMG Labtech)リーダーを用いて、620 nmおよび665 nmのシグナルを測定した。
【0083】
96ウェル様式
20.000細胞/ウェルを100 μlの通常の増殖培地(DMEM (Gibco)、10% FCS、ペニシリンおよびストレプトマイシン)に播種した。2時間後に培地を除去し、200 μlの誘導培地(通常の増殖培地+誘導リガンド)を加えて、Htt断片の発現を開始した。3日後に培地を除去し、30 μl/ウェルの読み出しバッファー(50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% tween中、20 μlの異なる溶解バッファーと10 μlのβ1-D2と25H10-Kもしくは32A7-K)を加えた。室温で30分間のインキュベーション後、溶解物を低量の黒底96ウェルプレートに移した。4℃で3時間後、RUBYstar (BMG Labtech)リーダーを用いて、620 nmおよび665 nmのシグナルを測定した。
【0084】
1536ウェルHTS小型化および化合物スクリーニング
573-Q72発現クローンを、37℃で72時間、5% CO2条件下で、誘導培地を用いてインキュベートし、ポリQ-htt構築体の発現を促進した。次いで、ウェルあたり3 μlの2000細胞/μl細胞懸濁液を1536マイクロタイタープレート(Greiner)に播種し、-/+化合物処理で一晩インキュベートした。3 μlの溶解バッファー(1x PBS + 1% Triton X-100、完全プロテアーゼ阻害剤)を加えて、室温で30分間インキュベートした。50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% tween中、2 μlの抗体希釈物を、60 pg/ウェルのユーロピウム標識化抗体および800 pg/ウェルのD2標識化抗体の最終希釈まで加えた。示したとおり(as indicated)、プレートを室温でインキュベートした。View Luxマシンを下記の設定で用いて測定を行った: ラベル1 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移_Eu-K_(E:800K,Xsec,BF4, GN:高い,SP:遅い)、ラベル2 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移_XL665_(E:800K,Xsec,BF4, GN:高い,SP:遅い)。
【0085】
動物モデル
ヘテロ接合体トランスジェニックR6/2雄のCBAxC57BL/6株をG. Bates研究室(Mangiarini et al., 1996)から入手し、CBAxC57BL/6 F1雌と交配させた。尾組織から得られたDNAのPCRアッセイにより、子孫の遺伝子型を決定した。12時間の明/暗サイクルで維持された温度制御室において動物を飼育した。餌および水は、自由に摂取可能であった。すべての実験は、承認された実験動物の管理と使用に関する指針に基づいて行われた。
【0086】
ハンチントンの時間分解蛍光共鳴エネルギー転移アッセイ検出のために、2-3月齢の動物に3-5%のイソフルランで麻酔し、その後、100mg/kg ケタミンおよび10mg/kg キシラジンを腹腔内投与した。CSFおよび血液回収後、動物にペントバルビタールナトリウムを過剰投与(150mg/kg)した。さらに、蛍光共鳴エネルギー転移解析のために、筋肉(腓腹筋)および脳を迅速に回収した。脳ホモジネートをウェルあたり100μg(10 mg/mlのタンパク質濃度)載せた。
【0087】
凝集体解析(AGERA)
Weiss et al., 2008に記載されたとおり、AGERA解析を行った。要約すると、R6/2の脳を、10容量(w/v)のPBS + 0,4% TritonX100およびComplete Protease Inhibitor (Roche Diagnostics)で均質化した。AGERAレーンあたり0.15 μgの全タンパク質に相当する脳サンプルを載せた。可溶性および不可溶性画分への脳ホモジネートの分離のために、ホモジネートを124 000 gで1時間遠心分離し、上清を分割し(可溶性画分)、沈殿物を出発量と等しい量のPBS + 0,4% TritonX100で再懸濁した(不可溶性画分)。
【0088】
バイオアッセイ
脳および筋組織を10x量のサンプルバッファー(PBS + 1% Triton X-100 + 完全プロテアーゼ阻害剤)で均質化した。血液、血漿および脳脊髄液サンプルをサンプルバッファーで1:1に前希釈した。10 μlのサンプルおよび5 μlの抗体希釈物(50mM NaH2Po4、400mM NaF、0.1% BSA、0.05% Tween中、ユーロピウムクリプテートおよびD2標識化抗体)を、各ウェルに、1.5 ng/ウェルの2B7-ユーロピウム標識化抗体および30 ng/ウェルのMW1-D2標識化抗体の最終希釈まで加えた。プレートを、4℃で1時間、インキュベートした。Xenon-lamp Envision Readerを用いて、320 nmでの励起後、20 nmおよび665 nmの波長について測定を行った(遅延時間100 μs、ウィンドウ400 μs、100フラッシュ/ウェル)。
【0089】
データ解析
時間分解蛍光共鳴エネルギー転移測定は、2個の異なるシグナルを生じる。ユーロピウムクリプテート標識化抗体からの620 nmシグナルは、考え得るアッセイの干渉人工物、例えば、化合物によるシグナルクエンチングもしくは吸収、サンプル濁度および励起エネルギーもしくはサンプル量における差異についての内部参照として使用され得る。665 nmシグナルは、D2標識化抗体から生じ、それは、ユーロピウムクリプテートからの時間分解エネルギー転移により励起される。したがって、計算された665/620 nm比は、2個の結合した抗体とそれらの抗原の人工物補正特異的シグナルであり、したがって、サンプル中に存在する抗原の量の正確な反映である。96ウェルデータについて、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移シグナルは、それらの2個の波長間の比率として提供される:
【表7】
【0090】
1536マイクロタイターウェル最適化データについて、時間分解シグナルをΔF値として示し、日ごとのアッセイ変形をそれとして考慮するのにより適当な様式は、バックグラウンド補正値:
【表8】
である。
【0091】
ハイスループットスクリーニングデータの解析は、インハウスデータ解析ソフトウェアを用いて行われ、このソフトウェアは、プレート上に存在する高および低コントロールサンプルを用いて残りの活性に対する活性(%)を標準化し、局所プレート効果を補正する局所回帰アルゴリズムを用いてプレート効果を補正することができる(Gubler, 2006)。Zhang et al., 1999に基づいて、Z因子を計算した。
【0092】
統計学的解析
細胞およびマウスの値の定量を、標準偏差を有する平均として示す。有意差をスチューデントt検定により計算した。
【0093】
参照
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患進行をモニターするか、もしくはタンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするために生物学的サンプルにおける突然変異型ポリQタンパク質の可溶型の量を測定するためのイムノアッセイの使用であって、該タンパク質が、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される、使用; 疾患進行をモニターするか、もしくは該タンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするための診断ツールとしてのイムノアッセイの使用。
【請求項2】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の絶対量または相対量がイムノアッセイにより測定される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
さらに、突然変異型タンパク質の翻訳後修飾、例えば、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断のような断片化、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化、脂質修飾またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾の程度が測定される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
イムノアッセイが、単一工程アッセイ、すなわち、分離または洗浄が必要とされず、好ましくは単一の生化学的処理後に行われ得るイムノアッセイである、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移または電気化学発光に基づくものである、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
請求項5に記載の使用であって、イムノアッセイが、下記の工程:
a) 生物学的サンプルをランタノイドイオンクリプテート(例えば、ユーロピウムもしくはテルビウムクリプテート)で標識された第1抗体およびランタニド放出シグナルを検出するために適当なフルオロフォアで標識された第2抗体と接触させること; および
b) 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いてフルオロフォアからの蛍光を測定することにより、サンプル中の突然変異型ポリQタンパク質の量を定量すること
を含み、該抗体の一方は、突然変異型タンパク質のポリQ部分に特異的であり、他方の抗体は、突然変異型ハンチントンタンパク質の異なる部分に特異的である、使用。
【請求項8】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の(相対)量が、さらに該サンプルを、ランタニド放出シグナルを検出するために適当な異なるフルオロフォアで標識された該タンパク質の野生型に特異的な第3抗体と接触させることにより生物学的サンプルにおいて測定される、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
ポリQタンパク質がポリQハンチントンである、請求項1から8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
生物学的サンプルが、脳、血液、筋肉もしくは心臓に由来するか、または皮膚もしくは毛髪のような末梢組織に由来する、請求項1から9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
生物学的サンプルにおける突然変異型(伸長されたポリQ)タンパク質の可溶型の量を測定するためのイムノアッセイであって、該タンパク質が、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される、イムノアッセイ。
【請求項12】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の絶対量または相対量がイムノアッセイにより測定される、請求項11に記載のイムノアッセイ。
【請求項13】
さらに、突然変異型タンパク質の翻訳後修飾、例えば、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断のような断片化、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化、脂質修飾またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾の程度が測定される、請求項11または12に記載のイムノアッセイ。
【請求項14】
単一工程アッセイ、すなわち、分離または洗浄が必要とされず、好ましくは単一の生化学的処理後に行われ得るイムノアッセイである、請求項11から13のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【請求項15】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移または電気化学発光に基づくものである、請求項11から14のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【請求項16】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移である、請求項15に記載のイムノアッセイ。
【請求項17】
請求項15に記載のイムノアッセイであって、下記の工程:
a) 生物学的サンプルをランタノイドイオンクリプテート(例えば、ユーロピウムもしくはテルビウムクリプテート)で標識された第1抗体およびランタニド放出シグナルを検出するために適当なフルオロフォアで標識された第2抗体と接触させること; および
b) 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いてフルオロフォアからの蛍光を測定することにより、サンプル中の突然変異型ポリQタンパク質の量を定量すること
を含み、該抗体の一方は、突然変異型タンパク質のポリQ部分に特異的であり、他方の抗体は、突然変異型ハンチントンタンパク質の異なる部分に特異的である、イムノアッセイ。
【請求項18】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の(相対)量が、さらに該サンプルを、ランタニド放出シグナルを検出するために適当な異なるフルオロフォアで標識された該タンパク質の野生型に特異的な第3抗体と接触させることにより生物学的サンプルにおいて測定される、請求項17に記載のイムノアッセイ。
【請求項19】
ポリQタンパク質がポリQハンチントンである、請求項1から18のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【請求項20】
生物学的サンプルが、脳、血液、筋肉もしくは心臓に由来するか、または皮膚もしくは毛髪のような末梢組織に由来する、請求項1から19のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【請求項1】
疾患進行をモニターするか、もしくはタンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするために生物学的サンプルにおける突然変異型ポリQタンパク質の可溶型の量を測定するためのイムノアッセイの使用であって、該タンパク質が、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される、使用; 疾患進行をモニターするか、もしくは該タンパク質の突然変異型ポリQ型と関連する疾患の処置の有効性をモニターするための診断ツールとしてのイムノアッセイの使用。
【請求項2】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の絶対量または相対量がイムノアッセイにより測定される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
さらに、突然変異型タンパク質の翻訳後修飾、例えば、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断のような断片化、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化、脂質修飾またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾の程度が測定される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
イムノアッセイが、単一工程アッセイ、すなわち、分離または洗浄が必要とされず、好ましくは単一の生化学的処理後に行われ得るイムノアッセイである、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移または電気化学発光に基づくものである、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
請求項5に記載の使用であって、イムノアッセイが、下記の工程:
a) 生物学的サンプルをランタノイドイオンクリプテート(例えば、ユーロピウムもしくはテルビウムクリプテート)で標識された第1抗体およびランタニド放出シグナルを検出するために適当なフルオロフォアで標識された第2抗体と接触させること; および
b) 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いてフルオロフォアからの蛍光を測定することにより、サンプル中の突然変異型ポリQタンパク質の量を定量すること
を含み、該抗体の一方は、突然変異型タンパク質のポリQ部分に特異的であり、他方の抗体は、突然変異型ハンチントンタンパク質の異なる部分に特異的である、使用。
【請求項8】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の(相対)量が、さらに該サンプルを、ランタニド放出シグナルを検出するために適当な異なるフルオロフォアで標識された該タンパク質の野生型に特異的な第3抗体と接触させることにより生物学的サンプルにおいて測定される、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
ポリQタンパク質がポリQハンチントンである、請求項1から8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
生物学的サンプルが、脳、血液、筋肉もしくは心臓に由来するか、または皮膚もしくは毛髪のような末梢組織に由来する、請求項1から9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
生物学的サンプルにおける突然変異型(伸長されたポリQ)タンパク質の可溶型の量を測定するためのイムノアッセイであって、該タンパク質が、ハンチントン、アンドロゲン受容体、アトロフィン1、アタキシン1、アタキシン2、アタキシン3、アタキシン7、TATAボックス結合タンパク質および電位依存性カルシウムチャネルのα1aサブユニットからなる群から選択される、イムノアッセイ。
【請求項12】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の絶対量または相対量がイムノアッセイにより測定される、請求項11に記載のイムノアッセイ。
【請求項13】
さらに、突然変異型タンパク質の翻訳後修飾、例えば、発現したタンパク質の細胞修飾、例えば、タンパク質分解性切断のような断片化、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、SUMO化、脂質修飾またはポリペプチド骨格の他の共有結合修飾の程度が測定される、請求項11または12に記載のイムノアッセイ。
【請求項14】
単一工程アッセイ、すなわち、分離または洗浄が必要とされず、好ましくは単一の生化学的処理後に行われ得るイムノアッセイである、請求項11から13のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【請求項15】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移または電気化学発光に基づくものである、請求項11から14のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【請求項16】
イムノアッセイ検出技術が時間分解蛍光共鳴エネルギー転移である、請求項15に記載のイムノアッセイ。
【請求項17】
請求項15に記載のイムノアッセイであって、下記の工程:
a) 生物学的サンプルをランタノイドイオンクリプテート(例えば、ユーロピウムもしくはテルビウムクリプテート)で標識された第1抗体およびランタニド放出シグナルを検出するために適当なフルオロフォアで標識された第2抗体と接触させること; および
b) 時間分解蛍光共鳴エネルギー転移を用いてフルオロフォアからの蛍光を測定することにより、サンプル中の突然変異型ポリQタンパク質の量を定量すること
を含み、該抗体の一方は、突然変異型タンパク質のポリQ部分に特異的であり、他方の抗体は、突然変異型ハンチントンタンパク質の異なる部分に特異的である、イムノアッセイ。
【請求項18】
さらに、サンプル中の対応する野生型タンパク質の(相対)量が、さらに該サンプルを、ランタニド放出シグナルを検出するために適当な異なるフルオロフォアで標識された該タンパク質の野生型に特異的な第3抗体と接触させることにより生物学的サンプルにおいて測定される、請求項17に記載のイムノアッセイ。
【請求項19】
ポリQタンパク質がポリQハンチントンである、請求項1から18のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【請求項20】
生物学的サンプルが、脳、血液、筋肉もしくは心臓に由来するか、または皮膚もしくは毛髪のような末梢組織に由来する、請求項1から19のいずれか1項に記載のイムノアッセイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−530074(P2011−530074A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521549(P2011−521549)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060013
【国際公開番号】WO2010/015592
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060013
【国際公開番号】WO2010/015592
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
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