説明

ポーラス金属の圧縮特性予測方法

【課題】クローズドセル構造のポーラス金属について、静的圧縮試験による静的ひずみ速度よりも速い所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を、該動的ひずみ速度での圧縮試験を行うことなく適正に予測できるようにすること。
【解決手段】(1)クローズドセル構造のポーラス金属を対象とし、ひずみ速度を静的ひずみ速度から動的ひずみ速度にわたる範囲で変化させて各ひずみ速度で圧縮試験を行い、前記ポーラス金属の規格化プラトー応力と気孔変形のひずみ速度との関係を示すひずみ速度依存性データを予め求めておく工程と、(2)前記ひずみ速度依存性データから、規格化プラトー応力の静動比と気孔変形のひずみ速度との関係式を予め求めておく工程と、(3)前記ポーラス金属について所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を、静的ひずみ速度での規格化プラトー応力と前記関係式とから算出する工程とを備えたポーラス金属の圧縮特性予測方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローズドセル構造のポーラス金属について静的圧縮試験による静的ひずみ速度よりも速い所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を、該動的ひずみ速度での圧縮試験を行うことなく適正に予測できるようにした、ポーラス金属の圧縮特性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境保護の観点から自動車などの輸送機器には軽量化の要求が高まるとともに、歩行者及び乗員保護の目的で、自動車などの輸送機器に適用される部材には優れた耐衝突性能が要求されている。
【0003】
このような状況にあって、ポーラス金属(多孔質な金属)は、その軽量性とエネルギ吸収特性から、輸送機器の耐衝突部材の閉断面へ充填して用いられることにより、優れた耐衝突部材としての適用が期待されている。
【0004】
工業的に製造される物のほとんどが緻密体であり、緻密な金属材料では、その圧縮変形挙動として圧縮に伴い高さ方向(圧縮力が加えられる方向)に均一に変形することが知られている(ポアソン効果)。
【0005】
一方、ポーラス金属は金属によって気孔(空孔、セル)の稜や面が構成されるものであり、ポーラス金属の圧縮特性は、緻密材料のそれとは大きく異なる。非特許文献1には、ポーラス金属では、変形機構として、ポーラス金属の独自構造(気孔率80%以上で独立気孔又は貫通気孔で構成)に起因し、圧縮に伴い強度的に弱い箇所から変形帯を形成して、局所的な変形を繰り返し(アコーディオン状)不均一に変形することが述べられている。
【0006】
ここで、クローズドセル構造(独立気孔)のポーラス金属を自動車などの輸送機器の耐衝突部材へ適用する場合、該ポーラス金属の高速度での変形特性(圧縮特性)を評価することが必要となる。
【0007】
そのため、クローズドセル構造のポーラス金属について、静的圧縮試験による静的ひずみ速度よりも速い所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を、該動的ひずみ速度での圧縮試験を行うことなく適正に予測できるようにすることが要望されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】R.Gradinger and F.G.Rammerstorfer,Acta Materialia 47,pp143-148,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、クローズドセル構造のポーラス金属について、静的圧縮試験による静的ひずみ速度よりも速い所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を、該動的ひずみ速度での圧縮試験を行うことなく適正に予測できるようにした、ポーラス金属の圧縮特性予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0011】
請求項1の発明は、(1)クローズドセル構造のポーラス金属を対象とし、前記ポーラス金属からなる試験片について、ひずみ速度を静的ひずみ速度から動的ひずみ速度にわたる範囲で変化させて各ひずみ速度で圧縮試験を行い、プラトー応力を当該ポーラス金属の相対密度の3/2乗で除した値を規格化プラトー応力とし、変形速度を前記ポーラス金属の平均気孔径で除した値を気孔変形のひずみ速度として、前記圧縮試験から、前記ポーラス金属の規格化プラトー応力と気孔変形のひずみ速度との関係を示すひずみ速度依存性データを予め求めておく工程と、(2)引き続き、前記(1)の工程で得た前記ひずみ速度依存性データから、静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力を基準として、規格化プラトー応力の静動比と気孔変形のひずみ速度との関係式を予め求めておく工程と、(3)その後、前記ポーラス金属について所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を求める際に、当該ポーラス金属について静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力と、前記(2)の工程で求めておいた前記関係式とに基づいて、前記所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を算出する工程と、を備えたことを特徴とするポーラス金属の圧縮特性予測方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポーラス金属の圧縮特性予測方法は、クローズドセル構造のポーラス金属を対象とし、予め、まず、前記ポーラス金属からなる試験片について、ひずみ速度を静的ひずみ速度から動的ひずみ速度にわたる範囲で変化させて各ひずみ速度で圧縮試験を行い、その圧縮試験の結果を、ポーラス金属の変形機構を考慮した「気孔変形のひずみ速度(ε)」で整理して、前記ポーラス金の規格化プラトー応力と気孔変形のひずみ速度との関係を示すひずみ速度依存性データを求めておき、次いで、前記ひずみ速度依存性データから、静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力を基準として、規格化プラトー応力の静動比と気孔変形のひずみ速度との関係式を求めておくようにしている。
【0013】
したがって、本発明のポーラス金属の圧縮特性予測方法は、前記ポーラス金属について所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を求めるにあたり、該所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を、当該ポーラス金属について静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力と前記関係式とに基づいて算出することができ、該動的ひずみ速度での圧縮試験を行うことなく適正に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】規格化プラトー応力とひずみ速度との関係を示す図である。
【図2】図1におけるひずみ速度1×10−3−1の部分を拡大した図である。
【図3】本発明方法の一実施形態に係る図であって、規格化プラトー応力と気孔変形のひずみ速度との関係を示す図である。
【図4】本発明方法の一実施形態に係る図であって、規格化プラトー応力の静動比と気孔変形のひずみ速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
圧縮試験に供したポーラス金属は、市販されている神鋼鋼線工業(株)製のアルポラス(商品名)という純Al系のポーラスアルミニウム(化学組成:Al−1.5質量%Ca−1.5質量%Ti)であり、密度:0.23g/cm、平均気孔径:3.5mmのもの(標準材と称する)と、密度:0.30g/cm、平均気孔径:2.5mmのもの(高密度材と称する)との2種類である。なお、このアルポラスは、溶融法の一種である溶湯増粘法で製造されており、アルミニウム溶湯に該溶湯の粘性を増加させるためにカルシウムを添加し、発泡剤として水素化チタンを用いている。
【0017】
試験片は、形状が立方体(6面が正方形の正四角柱)で、50mm角,100mm角,17mm角(参考用)の3種類である。各試験片は、購入材から木工用のバンドソーを用いて切り出し、圧縮試験の際に試験片を上下方向から挟む焼入れ研磨した鋼板と接触する面のみを研磨した。
【0018】
前記試験片について、ひずみ速度εを静的ひずみ速度から動的ひずみ速度にわたる範囲で変化させて各ひずみ速度で圧縮試験を行うため、静的圧縮試験はインストロン社製万能試験機を用いて、ひずみ速度ε:1×10−3−1で行った(標準材の17mm角,50mm角,100mm角の試験片、及び高密度材の17mm角,50mm角,100mm角の試験片)。また、10−1のオーダーのひずみ速度εでの圧縮試験は落錘式試験装置を用いて行い(標準材の50mm角,100mm角の試験片、及び高密度材の50mm角,100mm角の試験片)、10−1のオーダーのひずみ速度εでの圧縮試験はホプキンソン棒法衝撃試験装置を用いて行った(標準材の17mm角の試験片、及び高密度材の17mm角の試験片)。
【0019】
ここで、一般的に、圧縮応力のひずみ速度(変形速度)依存性は、試験片高さ方向に対して試験片全体が均等に変形するものとして、下記(1)式に示すように、変形速度Vを試験片高さLで除した値が用いられる。
【0020】
ε=V/L …(1)式
【0021】
一方、ポーラスアルミニウムの圧縮変形挙動は、気孔寸法の不均一性に起因して、セル強度の低い箇所から気孔径の幅程度の変形帯を伴って優先的に変形することが知られており、緻密材料と異なる。そこで、本発明方法では、圧縮試験の結果によるプラトー応力とひずみ速度との関係を整理するに際し、実際の圧縮変形挙動を考慮して、前記ひずみ速度εに代えて、下記(2)式に示すように、変形速度Vを平均気孔径φで除した値を「気孔変形のひずみ速度ε」と称してこの「気孔変形のひずみ速度ε」を用いるようにしている。
【0022】
ε=V/φ …(2)式
【0023】
また、研究者L.J.GibsonとM.F.Ashbyは、ポーラス金属などのセルエッジ崩壊応力と密度との関係を理論的に分析して、ポーラス金属の崩壊圧縮相対強度(σ/σ)は、その相対密度(ρ/ρ)の3/2乗に比例するとして、下記の(3)式を提案している。ここで、(3)式において、σ:ポーラス金属の崩壊圧縮強度、σ:ポーラス金属母材の圧縮降伏強度、ρ:ポーラス金属の密度、ρ:ポーラス金属母材の密度、c:セル形態に関連した定数である。
【0024】
σ/σ=c(ρ/ρ3/2 …(3)式
【0025】
したがって、ポーラスアルミニウムの圧縮応力は、それ自身の相対密度の3/2乗で除することにより、微小な密度変化に基づく圧縮応力の差異を無視して横並びで比較、評価することが可能となる。
【0026】
よって、本発明方法では、圧縮試験によるプラトー応力σplをポーラスアルミニウムの相対密度(ρ/ρ)の3/2乗で除した値を規格化プラトー応力とし、この規格化プラトー応力と前記気孔変形のひずみ速度εとを用いて、圧縮試験の結果によるプラトー応力とひずみ速度との関係を整理するようにしている。なお、プラトー応力σplは20〜30%圧縮ひずみでの圧縮応力の平均値として定めている。
【0027】
さて、前記圧縮試験の結果による圧縮特性を図1,図2、及び図3に示す。なお、この圧縮試験は、前記標準材を用いたものである。図1は規格化プラトー応力(縦軸)とひずみ速度(横軸:対数目盛)との関係を示す図、図2は図1におけるひずみ速度1×10−3−1の部分を拡大した図、図3は本発明方法の一実施形態に係る図であって、規格化プラトー応力(縦軸)と気孔変形のひずみ速度(横軸:対数目盛)との関係を示す図である。
【0028】
図1に示すように、前記圧縮試験の結果による圧縮特性を、前記(1)式によるひずみ速度εで整理すると、規格化プラトー応力はひずみ速度εが1×10−1以上で増加が認められるものの不連続となり、ひずみ速度εを用いることでは、規格化プラトー応力のひずみ速度依存性を説明することはできなかった。
【0029】
これに対し、前記圧縮試験の結果による圧縮特性を、前記(2)式による気孔変形のひずみ速度εで整理すると、図3に示すように、規格化プラトー応力は、試験片寸法によらず、ひずみ速度εがほぼ1×10−1以上から増加しており、規格化プラトー応力のひずみ速度依存性を説明することができた。
【0030】
このことはポーラス金属(ポーラスアルミニウム)の圧縮特性が該ポーラス金属を構成する気孔及びその集合体の強度に起因することを意味しており、ポーラス金属の圧縮特性を10−3−1のオーダーの静的ひずみ速度だけではなく、10−1〜10−1のオーダーの動的ひずみ速度においてもポーラス金属の前記変形機構を考慮した「気孔変形のひずみ速度ε」で整理することができて、本発明方法の合理性が証明されたといえる。
【0031】
図4は本発明方法の一実施形態に係る図であって、規格化プラトー応力の静動比(縦軸)と気孔変形のひずみ速度(横軸:対数目盛)との関係を示す図である。
【0032】
図4に示すグラフは、前記図3に示されるところの、規格化プラトー応力と気孔変形のひずみ速度εとの関係を示すひずみ速度依存性データから、50mm角の試験片での静的圧縮試験における規格化プラトー応力[σpl/(ρ/ρ3/2staticを分母(基準)とし、静的ひずみ速度から動的ひずみ速度にわたる各ひずみ速度εにおける規格化プラトー応力[σpl/(ρ/ρ3/2dynamicを分子とする規格化プラトー応力の静動比を算出し、これらの静動比と気孔変形のひずみ速度εとの関係をプロットしたものである。
【0033】
これらのデータの関係を示す関係式を求めると、次の(4)式が得られる。なお、(4)式において、xは気孔変形のひずみ速度ε、Cは材料定数であり、本実施形態ではC=1.030である。
【0034】
[σpl/(ρ/ρ3/2dynamic/[σpl/(ρ/ρ3/2static
=Ce7E−05x …(4)式
【0035】
このように、本実施形態による圧縮特性予測方法は、ポーラス金属としてクローズドセル構造のポーラスアルミニウムを対象とし、予め、まず、前記ポーラスアルミニウムからなる試験片について、ひずみ速度を10−3のオーダーの静的ひずみ速度から10−1〜10−1のオーダーの動的ひずみ速度にわたる範囲で変化させて各ひずみ速度で圧縮試験を行い、その圧縮試験の結果を、ポーラスアルミニウムの変形機構を考慮した「気孔変形のひずみ速度ε」で整理して、前記ポーラスアルミニウムの規格化プラトー応力[σpl/(ρ/ρ3/2]と気孔変形のひずみ速度εとの関係を示すひずみ速度依存性データを求めておき、次いで、前記ひずみ速度依存性データから、静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力を基準として、規格化プラトー応力の静動比と気孔変形のひずみ速度との関係式(前記(4)式)を求めておくようにしている。
【0036】
したがって、本実施形態による圧縮特性予測方法は、前記ポーラスアルミニウムについて所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を求めるにあたり、該所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を、当該ポーラスアルミニウムについて静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力と前記関係式とに基づいて算出することができ、該動的ひずみ速度での圧縮試験を行うことなく適正に予測することができる。
【0037】
なお、前記実施形態において前記(4)式の妥当性を検証するため、同様に試験評価した密度及び平均気孔径が異なる高密度材料での結果をプロットすると、(4)式についての評価が妥当であることが確認できた。そして、前記実施形態で示したポーラスアルミニウムとは異なる母材成分のポーラス金属であっても、前記材料定数Cを同定することによって、前記実施形態と同様の効果が得られることが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)クローズドセル構造のポーラス金属を対象とし、前記ポーラス金属からなる試験片について、ひずみ速度を静的ひずみ速度から動的ひずみ速度にわたる範囲で変化させて各ひずみ速度で圧縮試験を行い、プラトー応力を当該ポーラス金属の相対密度の二分の三乗で除した値を規格化プラトー応力とし、変形速度を前記ポーラス金属の平均気孔径で除した値を気孔変形のひずみ速度として、前記圧縮試験から、前記ポーラス金属の規格化プラトー応力と気孔変形のひずみ速度との関係を示すひずみ速度依存性データを予め求めておく工程と、
(2)引き続き、前記(1)の工程で得た前記ひずみ速度依存性データから、静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力を基準として、規格化プラトー応力の静動比と気孔変形のひずみ速度との関係式を予め求めておく工程と、
(3)その後、前記ポーラス金属について所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を求める際に、当該ポーラス金属について静的圧縮試験による静的ひずみ速度での規格化プラトー応力と、前記(2)の工程で求めておいた前記関係式とに基づいて、前記所要の動的ひずみ速度でのプラトー応力を算出する工程と、
を備えたことを特徴とするポーラス金属の圧縮特性予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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