説明

マイクロカプセル、液体クロマトグラフ用充填剤及びそれを用いた液体クロマトグラフ用カラム

【課題】高流速下での理論段数の低下が少なく、分析時間の大幅な短縮が可能な液体クロマト用カラム充填剤に用いるマイクロカプセルを提供する。
【解決手段】中空球体11と、該中空球体の外周面に設けられた多孔体からなる外殻12で形成されたマイクロカプセル13であって、前記外殻がメソ細孔16を有するロッド17が枝分かれした樹枝状構造14から構成され、該樹枝状構造のロッドの間隙にマクロ細孔15が形成されている多孔体からなるマイクロカプセルおよび該マイクロカプセルからなる液体クロマト用カラム充填剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に溶解している被分離物質の分離等に用いられるマイクロカプセル、該マイクロカプセルからなる液体クロマトグラフ用充填剤、及びそれを用いた液体クロマトグラフ用カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、医薬品などの機能性分子の分離のニーズが高くなっており、それらを効率的に分離するクロマトグラフ用充填剤の開発が求められている。現在、液体クロマトグラフ用充填剤としては、ポリマー系樹脂のような有機担体を基材とするものと、シリカ系担体(シリカゲル、アルミナ、珪藻土、ゼオライト等)を用いる無機担体を基材とするものに大別することができる。同一溶媒を用いた場合においては、充填剤の表面特性、細孔径の違いにより、溶質物質を分離する能力に差が生じる。しかし、実際には無機担体であるシリカゲルを基材とした充填剤の使用頻度が高く、HPLCの全分離モードの60%以上を占める逆相液体クロマトグラフィーではシリカゲル担体表面を化学修飾したアルキルシリル化シリカゲルが主に用いられている。
【0003】
液体クロマトグラフとしては、カラムクロマトグラフ、高性能液体クロマトグラフ(HPLC)、薄層クロマトグラフ(TLC)等を挙げることができる。
近年分析時間を短縮するために、充填剤粒子を小径化する開発が進んでいる。小粒子径のシリカゲルを用いると実行表面積やカラムの理論段数が向上するため、短いカラム長でも分離を達成でき、分析時間の短縮が可能となる。しかし、極端に粒子径の小さなシリカゲルを使用すると、使用時にカラム内の圧力が高くなりすぎたり、カラム内でシールできなかったりすることから、小粒子化には限界があった。(特許文献1および2参照)
【特許文献1】特開平5−107237号公報
【特許文献2】特開平9−329590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HPLCカラムにおいて、分析時間は流速に反比例するため、移動相流速を高めることによって分析時間を短縮することが可能である。しかしながら、従来の市販HPLCカラムでは、上記のように分析時間の短縮に使用時のカラム内の圧力が実用上可能なものとなる程度に小粒子径のシリカゲルを用い、合わせて移動相流速を高める方法が取られていた。従って、分離性能を高めるためにカラム剤を表面修飾する手法がとられており、構造的に解決する手段はこれまで提示されていなかった。
【0005】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、高流速下での理論段数の低下が少なく、分析時間の大幅な短縮が可能な液体クロマトグラフ用カラム充填剤に用いるマイクロカプセルおよびその製造方法を提供するものである。
【0006】
また本発明は、前記液体クロマトグラフ用カラム充填剤、およびそれを用いた液体クロマトグラフ用カラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、メソ細孔とマクロ細孔を有する、樹枝状構造の多孔体からなる外殻を有する、メソポーラスシリカで形成されたマイクロカプセルを液体クロマトグラフ用の充填剤に用いることで、高表面積でありながらも低圧、高流速で測定可能なHPLCを達成できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
上記の課題を解決するマイクロカプセルは、中空球体と、該中空球体の外周面に設けられた多孔体からなる外殻で形成されたマイクロカプセルであって、前記外殻がメソ細孔を有するロッドが枝分かれした樹枝状構造から構成され、該樹枝状構造のロッドの間隙にマクロ細孔が形成されている多孔体からなることを特徴とする。
【0009】
前記ロッドが、ロッドの短軸方向に配向したチューブ状のメソ細孔を有することが好ましい。
前記多孔体のメソ細孔の細孔径(D)に対する細孔の長さ(L)の比(L/D)が30以下であることが好ましい。
【0010】
前記マクロ細孔の直径が500nm以上2000nm以下であることが好ましい。
前記外殻の厚さが300nm以上1000nm以下であることが好ましい。
前記マイクロカプセルの窒素ガス吸着測定により求められたメソ細孔の細孔径分布が単一の極大値を有し、かつ60%以上のメソ細孔が幅10nm以下の細孔径分布の幅に含まれることが好ましい。
【0011】
前記マイクロカプセルのX線回折分析において、1nm以上の構造周期に対応する角度領域に少なくとも1つの回折ピークを有することが好ましい。
前記マイクロカプセルを構成する外殻の多孔体におけるメソ細孔およびマクロ細孔の表面に、細孔を形成している成分とは異なる成分が被覆されてことが好ましい。
【0012】
前記細孔を形成している成分とは異なる成分が有機物であることが好ましい。
前記外殻の多孔体を構成する材料がケイ素を成分として含むことが好ましい。
前記外殻の多孔体を構成する材料がシリカであることが好ましい。
【0013】
上記の課題を解決する液体クロマトグラフ用充填剤は、上記のマイクロカプセルからなることを特徴とする。
上記の課題を解決する液体クロマトグラフ用カラムは、上記のマイクロカプセルを充填剤として使用したことを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決するマイクロカプセルの製造方法は、中空球体と、該中空球体の外周面に設けられた多孔体からなる外殻で形成されたマイクロカプセルであって、前記外殻がメソ細孔を有するロッドが枝分かれした樹枝状構造から構成され、該樹枝状構造のロッドの間隙にマクロ細孔が形成されている多孔体からなるマイクロカプセルを、18℃から25℃の低温合成にて準備する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、メソ細孔とマクロ細孔を有する、樹枝状構造の多孔体からなる外殻を有する、メソポーラスシリカで形成されたマイクロカプセルを提供することできる。また、本発明によれば、高流速下での理論段数の低下が少なく、分析時間の大幅な短縮が可能な液体クロマトグラフ用カラム充填剤、およびそれを用いた液体クロマトグラフ用カラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
最初に本発明に係る多孔体で構成される外殻で形成されたマイクロカプセルについて説明する。ただし、本発明に係るマイクロカプセルは以下に記述する方法に限定されるものではなく、目的の材料を得られる範囲内であれば、どのような手法を用いても構わない。
【0017】
本発明に係るマイクロカプセルは、中空球体と、該中空球体の外周面に設けられた多孔体からなる外殻で形成されたマイクロカプセルであって、前記外殻がメソ細孔を有するロッドが枝分かれした樹枝状構造から構成され、該樹枝状構造のロッドの間隙にマクロ細孔が形成されている多孔体からなることを特徴とする。
【0018】
図1は、本発明の樹枝状メソポーラスシリカで構成されたマイクロカプセルの一実施態様を示す模式図である。図1において、本発明に係るマイクロカプセル13は、中空球体11と、該中空球体11の外周面に設けられた多孔体からなる外殻12で構成されている。メソ細孔16を有するシリカからなるロッド17は枝分かれして樹枝状構造14を形成して3次元的に網目状に配列し、樹枝状構造14のロッド17の間隙にマクロ細孔15が形成されている。チューブ状のメソ細孔16はロッド17の短軸方向に対して平行方向に配列し、メソ細孔16はロッド17の長軸方向に対して積層している。
【0019】
マイクロカプセルの外殻12を構成する多孔体18は、ロッド17が樹枝状構造を形成し、3次元的に絡み合って網目状の構造体を形成している。樹枝状構造は規則的な配向をしないため、密に詰まった充填構造をとらない。そのために樹枝状構造体の間隙にはマクロ細孔15が形成される。このマクロ細孔15は規則的な構造である必要がない。
【0020】
中空球体11は、マイクロカプセルの中央部が中空で構成されていることを表す。中空球体11の断面形状は、円形または楕円形でもよい。
本発明でいうメソ細孔とは、IUPACの定義によるもので、直径が2nmから50nmの範囲の径の細孔をいう。マクロ細孔とは、IUPACの定義によるもので、直径が50nm以上の範囲の径の細孔をいう。
【0021】
前記多孔体のメソ細孔の細孔径(D)に対する細孔の長さ(L)の比(L/D)は、30以下、好ましくは5以上20以下である。
前記マクロ細孔の直径は、500nm以上2000nm以下、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
【0022】
前記外殻の厚さは、300nm以上1000nm以下、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
マイクロカプセルの大きさは、平均粒子径が5μm以上20μm以下、好ましくは10μm以上15μm以下である。
【0023】
一般にマイクロカプセルを構成するメソポーラス材料の細孔は、界面活性剤分子集合体(ミセル)が形成するものが主であり、ある条件においてはミセルを形成する分子の会合数が等しいために、同じ形の細孔が形成される。ミセルの形状は、球状、チューブ状、層状など種々の形態が知られているが、本発明に関わるメソポーラス材料を形成するミセルの形状は基本的にはチューブ状のものである。ただし、均一細孔性のメソポーラス材料を作成できるのであれば、界面活性剤分子集合体をテンプレートに使用する以外の方法(テンプレートフリー等)であっても本発明のマイクロカプセルに適用することは可能である。
【0024】
本発明のマイクロカプセルに適用するメソポーラス材料において、この多孔質材料を形成する材料は、上記細孔構造を有するものであれば、どのようなものでも適用可能であるが、ケイ素を成分として含む材料が好ましく、特にシリカが好ましく用いられる。また、1以上の炭素原子を含有する有機基と、前記有機基と2箇所以上で結合する2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子と結合する1以上の酸素原子から構成される、有機シリカハイブリッド材料も使用可能である。
【0025】
以下、樹枝状構造から構成される外殻を有するマイクロカプセルの製造方法について説明する。
反応溶液は、界面活性剤と有機分子、そして金属アルコキシド等の目的材料の原料になる物質を含む溶液である。細孔壁を形成する材料に応じて、加水分解反応触媒である酸等を適当量添加する場合もある。
【0026】
細孔壁を構成する材料の原料としては、目的材料に応じて、ハロゲン化物、カルコゲン化物、アルコキシド等が用いられる。例えば、細孔壁がシリカの場合には、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシドが好ましく用いられるが、特に限定は無く、アルコキシド以外のシリカ源でも目的の多孔質材料に適応可能である。
【0027】
使用する界面活性剤は、ポリエチレンオキシドを親水基として含む、ブロックコポリマーなどの非イオン性界面活性剤等が用いられる。しかし、使用可能な界面活性剤はこれらに限定されず、目的の構造が得られるものであれば特に限定しない。
【0028】
本発明に適用されるマイクロカプセルを構成しているメソポーラス材料において、ロッドの短軸方向へ配列したチューブ状のメソ細孔の配向制御およびロッドの樹枝状構造の3次元網目状配列は、添加する有機分子およびその添加量によって制御される。例えばn−デカン(n−decane)を添加することによって、短軸方向に配向した細孔構造を有する分散性単一ロッド状メソポーラスシリカが合成される。しかし、本発明に適用できる有機分子、つまりメソ細孔を樹枝状構造のロッドの短軸方向に配向させることが可能な有機分子は、本発明にかかる細孔構造を有するメソポーラス材料の形成を達成しえるものであれば、特に制限はない。また、その添加量は適宜最適化される。
【0029】
使用する酸も塩酸、硝酸のような一般的なものを使用することが可能である。
また、本発明のマイクロカプセルの形成は、有機溶媒と水の相分離構造を利用しており、低温での合成過程が好ましい。この時の低温とは、18℃から25℃程度の温度領域において選択される。熟成時間は数時間から数日程度で、反応温度と反応時間は適宜最適化されたものを用いればよい。
【0030】
上記のように調製した反応溶液を水熱条件下で反応させることにより、マイクロカプセルを合成することができる。水熱合成させる際の温度は、100℃程度の温度において選択される。反応時間は数時間から数日程度で、反応温度や反応時間は適宜最適化される。
【0031】
この様にして製造されたメソポーラス構造を有するマイクロカプセルは、純水で洗浄した後に空気中で自然乾燥させ、メソ細孔内に界面活性剤ミセルをテンプレートとして含む無機−有機複合粉末材料が得られる。
【0032】
以上のように作製された無機−有機複合粉末材料からテンプレートの界面活性剤ミセルを除去することで、樹枝状構造のメソポーラスシリカを外殻に有するマイクロカプセルを製造することができる。界面活性剤の除去方法には種々の方法があるが、細孔構造を破壊せずに界面活性剤を除去できる方法であれば、どのような方法を使用しても良い。
【0033】
最も一般的に用いられる方法は、酸素を含んだ雰囲気中で焼成する方法である。例えば、合成した材料を空気中で、550℃において5時間焼成する。このことによって、メソ細孔構造およびカプセル形状をほとんど破壊することなく、完全に界面活性剤を除去することができる。焼成温度と時間は、マイクロカプセルを形成する材料と使用する界面活性剤により、最適化されるのが好ましい。
【0034】
焼成以外の方法で界面活性剤を除去する方法として、溶剤による抽出や超臨界状態の流体による除去が用いられている。また、焼成や抽出以外の方法として、オゾン酸化による除去も可能である。
【0035】
このような方法で合成した粉末試料について、窒素ガス吸脱着測定を行い、メソサイズの細孔径に関する知見を得ることができる。本発明におけるメソポーラス材料の細孔径は、実質的に均一な径であることを特徴とする。ここでいう均一径の細孔とは、窒素ガス吸着測定の結果から、BJH法により評価される細孔径分布において、求められた細孔径分布が、単一の極大値を有し、かつ該細孔径分布において、60%以上の細孔が10nmの幅を持つ範囲に含まれることを示す。尚、メソ細孔径は、後に説明する界面活性剤を適宜選択することで変化させることができる。BJH法は、Berret−Joyner−Halenda法を表す。
【0036】
細孔の周期構造はX線回折(XRD)測定によって知見を得ることが可能である。本発明におけるメソポーラス材料は、XRD測定において、1nm以上の構造周期に対応する角度領域に少なくとも1つの回折ピークを有することを特徴とする。
【0037】
本発明に用いられるメソポーラス材料の細孔表面には、細孔壁の成分とは異なる材料、例えば、有機物の層を形成させることが可能である。
細孔表面を有機物で修飾する方法としては、シランカップリング剤で細孔表面を修飾する方法等が一般的に用いられているが、使用し得る多孔質材料の細孔表面の修飾はこれらに限定されるわけではない。
【0038】
シランカップリング剤は、一般的にR−Si−X3の化学式で表される化合物で、分子中に2個以上の異なった官能基を持っている。上記Xは無機材料から成る多孔体表面と反応することができる部位である。例えば、メソポーラス材料がシリカである場合は、Sol−Gel science 誌1989年第662頁に記述されている。細孔表面に存在するシラノール基の水素が有機ケイ素基によって置換され、Si−O−Si−R結合を形成し、細孔表面に有機物Rの層を形成する。
【0039】
Xとしては、クロル基、アルコキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基、アミノ基等が挙げられるが、本発明において特に限定はない。また、細孔表面と反応し、Rの層を形成することができれば、Xが三官能基のものでなくても、二官能基や一官能基のカップリング剤を用いても良い。
【0040】
一方上記Rは有機基であり、アミノ基やカルボン基、マレイミド基等が好ましく用いられるが、上記有機基に限定したものではない。
さらに本発明は、これら樹枝状メソポーラス構造の外殻を有するマイクロカプセルを利用したクロマトグラフ用充填剤および液体クロマトグラフ用カラムを包含する。本発明では、高比表面積でありながらも、低圧で高速の分析が可能となる。
【0041】
以下に、該マイクロカプセルをHPLC用カラム充填剤に用いた場合の例を示す。
HPLC用カラムは、上記マイクロカプセルを利用したものであり、混合物である試料から、必要とする化合物だけを単離精製し、試料中に何がどれだけ含まれているかを明らかにする装置である。小粒子径で多孔質の充填剤を使用すると、短いカラム長で同じ理論段数が得られる。さらに、内径の小さいカラムを使用すれば、省溶媒効果がある。したがって、本発明によるHPLC用のカラムは内径5mm以下、長さ150mm以下であることが好ましい。カラムの材質は特に限定されず、ステンレス、合成樹脂いずれも用いることが可能である。また、カラムへの充填はシクロヘキサノール・クロロホルム混液やメタノールを用いたスラリー充填法や簡単なタッピング法などを用いることができる。したがって、本発明は該カラムを利用する装置やプロセス等において、上記本発明のマイクロカプセルを用いる限りにおいては、その種類や構成に限定しない。
【0042】
該マイクロカプセルにおいて、実質的なカラム分離能を有しているメソポーラス構造部分が直径500nm程度の粒子であると仮定すると、粒子径5μmの充填剤を使用する場合と比較して、約1割のカラム長で同様の理論段数が得られる。そのため、分析時間が従来の1割に短縮可能である。更に流速を2倍にすることによって分析時間が1/2に短縮できる。したがって、本発明のクロマトグラフ用充填剤を用いれば、従来の約20倍の高速分析が可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
実施例1
本実施例は、ロッドが枝分かれした、シリカの3次元的に樹枝状に配列した、マクロ細孔を有する多孔質材料において、実質的に均一なチューブ状メソ細孔がロッドの短軸方向に対して平行方向に形成されメソポーラスシリカを用いた。また、メソポーラスシリカを外殻にしたマイクロカプセルを作製し、メチルオクタデシルクロロシランで表面修飾した例である。
【0044】
2.40gの非イオン界面活性剤であるトリブロックコポリマー(EO20PO70EO20;HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20H)を76.5mLの純水に溶解した。さらに7.5mLの36wt%濃塩酸を添加し、室温で30分撹拌した。溶解後、水溶液を18℃から30℃の恒温槽にて冷却し、2時間放置した。続いてn−デカンを13.9g添加し、1日撹拌した。さらに、この混合溶液に加水分解触媒としてNH4Fを0.027g、および5.10gのテトラエトキシシラン(TEOS)を添加したものを前駆溶液とした。最終的な前駆溶液の組成(モル比)は、TEOS:HCl:(EO20PO70EO20):NH4F:n−デカン:H2O=0.25:0.9:0.004:0.007:1:42.9となるようにした。
【0045】
この前駆体溶液を1日撹拌し、その後耐圧容器に移し変えて100℃で48時間反応させた。得られた白色沈殿物は純水で十分に洗浄し、真空乾燥させた。
得られた粉末試料を、空気中500℃で焼成し、細孔内から界面活性剤を分解・除去した。界面活性剤等の有機物の除去は、赤外吸収スペクトルによって確認された。
【0046】
合成されたメソポーラスシリカ粉末をX線回折法により評価した結果、面間隔8.7nmのヘキサゴナル構造の(100)面に帰属される回折ピークを始め、(110)、(200)、(210)面に帰属される回折ピークを確認した。この結果は、メソポーラスシリカの細孔構造が、高い規則性を持ったヘキサゴナル配列を有していることを示している。
【0047】
77Kにおける窒素吸脱着等温線測定を行った結果、吸着等温線形状はIUPAC分類におけるIV型となった。B.E.T.法によって算出された比表面積は800m2/gとなり、細孔容量は1.88mL/gとなった。また、この吸着等温線の結果から、BJH法により細孔径を算出すると、本実施例で合成したメソポーラスシリカの細孔径分布は、10.2nmに単一のピークを有する狭い分布となった。細孔の90%以内が10nmの分布内に収まった。
【0048】
次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察を行ったところ、図2のように大きさが10マイクロメートル程度の球状構造体が無数確認された。無数の枝分かれしたロッドの樹枝状構造および、これらの構造が3次元的に網目状に配列した構造を形成していた。この枝分かれしたロッドの樹枝状構造の間隙には、直径が500nm以上1000nm以下のマクロ細孔が形成されていた。また外殻を形成しているロッドの樹枝状構造の短軸直径は、約300nmから500nmであった。また、この球状構造体の亀裂を観察したところ、図3のように、約500nmから1000nmの膜厚で形成されたカプセル状の構造であることが観察された。
【0049】
さらに高倍率でSEM観察を行ったところ、図4のように樹枝状構造の短軸方向に直径10nmのチューブ状メソ細孔が配向しており、細孔径とチューブ状細孔の長さの比が30以下であることを確認した。また、その断面図では図5のように、比較的均一なチューブ状のメソ細孔がハニカムパッキングした細孔構造を形成していた。尚、観察中に電子線によりメソ細孔構造が破壊されることはなかった。
【0050】
また、本発明のマイクロカプセルにおいては、細孔内外を任意のシランカップリング剤を利用することによって、化学修飾することが可能である。以下、ジメチルオクタデシルシランで表面修飾した例を示す。上記にて合成したマイクロカプセル5.0gを110℃で5時間真空乾燥し、ナスフラスコ中で乾燥トルエン50ml、ジメチルオクタデシルクロロシラン4.69g(15mmol)、ピリジン1.5mlを加えた。この混合物を撹拌しながら6時間加熱還流した後、室温まで冷却し、固形物を吸引濾別した。この固形物を順次トルエン、50%メタノール、メタノールによって吸引濾過して洗浄し、次に60℃で10時間減圧乾燥して、ジメチルオクタデシルシリル化した該マイクロカプセルを得た。このマイクロカプセルの炭素含有率は、元素分析から21%であった。
【0051】
実施例2
本実施例は、実施例1で合成したマイクロカプセルを充填剤として利用し、クロマトグラフ用のカラムを作成し、その性能を測定した例である。
【0052】
実施例1で合成したマイクロカプセルをメタノール溶液にスラリー濃度10%となるようにスラリーを調製した。調製したスラリーを内径2mm、長さ50mmのステンレス製カラムに加え、アスピレーターで吸引しながら充填した。充填したカラムをHPLC装置に装着し、メタノールを0.5mL/min、25℃で平衡化し、85%メタノール移動相におけるナフタレンの分離状態を測定して、ナフタレンピークの理論段数を下記の式(1)により算出した。
【0053】
【数1】

【0054】
比較例として、平均粒子径5μm、細孔径12nm、比表面積300m2/gの球状シリカの充填剤も同様にカラムに充填し、85%メタノール移動相におけるナフタレンの分離状態を調べた。上記測定より、移動相流速に対するナフタレンピークの理論段数のプロットを行った。これらの結果より、比較例の球状シリカを充填したカラムは200μl(0.2ml)/min以上の流速域では理論段数の低下が観察された。一方、本発明によるカラムでは、流速1ml/minにおいても、理論段数の低下はほとんど見られないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のマイクロカプセルは、メソ細孔とマクロ細孔を有する、樹枝状構造の多孔体からなる外殻を有するので、高流速下での理論段数の低下が少なく、分析時間の大幅な短縮が可能な液体クロマトグラフ用カラム充填剤、およびそれを用いた液体クロマトグラフ用カラムに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の樹枝状メソポーラスシリカで構成されたマイクロカプセルの一実施態様を示す模式図である。
【図2】実施例1で合成された樹枝状構造のメソポーラスを有するマイクロカプセルの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図2で示されたマイクロカプセルが、一部割れている樹枝状構造のメソポーラスを有するマイクロカプセルの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で合成されたマイクロカプセルの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】図4で示された樹枝状構造の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0057】
11 中空球体
12 マイクロカプセルの外殻
13 マイクロカプセル
14 樹枝状構造物
15 マクロ細孔
16 メソ細孔
17 ロッド
18 多孔体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空球体と、該中空球体の外周面に設けられた多孔体からなる外殻で形成されたマイクロカプセルであって、前記外殻がメソ細孔を有するロッドが枝分かれした樹枝状構造から構成され、該樹枝状構造のロッドの間隙にマクロ細孔が形成されている多孔体からなることを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項2】
前記ロッドが、ロッドの短軸方向に配向したチューブ状のメソ細孔を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記多孔体のメソ細孔の細孔径(D)に対する細孔の長さ(L)の比(L/D)が30以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
前記マクロ細孔の直径が500nm以上2000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
前記外殻の厚さが300nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
前記マイクロカプセルの窒素ガス吸着測定により求められたメソ細孔の細孔径分布が単一の極大値を有し、かつ60%以上のメソ細孔が幅10nm以下の細孔径分布の幅に含まれることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
前記マイクロカプセルのX線回折分析において、1nm以上の構造周期に対応する角度領域に少なくとも1つの回折ピークを有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載のマイクロカプセル。
【請求項8】
前記マイクロカプセルを構成する外殻の多孔体におけるメソ細孔およびマクロ細孔の表面に、細孔を形成している成分とは異なる成分が被覆されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載のマイクロカプセル。
【請求項9】
前記細孔を形成している成分とは異なる成分が有機物であることを特徴とする請求項8に記載のマイクロカプセル。
【請求項10】
前記外殻の多孔体を構成する材料がケイ素を成分として含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかの項に記載のマイクロカプセル。
【請求項11】
前記外殻の多孔体を構成する材料がシリカであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかの項に記載のマイクロカプセル。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれかに記載のマイクロカプセルからなることを特徴とする液体クロマトグラフ用充填剤。
【請求項13】
請求項1乃至9のいずれかに記載のマイクロカプセルを充填剤として使用したことを特徴とする液体クロマトグラフ用カラム。
【請求項14】
中空球体と、該中空球体の外周面に設けられた多孔体からなる外殻で形成されたマイクロカプセルであって、前記外殻がメソ細孔を有するロッドが枝分かれした樹枝状構造から構成され、該樹枝状構造のロッドの間隙にマクロ細孔が形成されている多孔体からなるマイクロカプセルを、18℃から25℃の低温合成にて準備する工程を有することを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−145190(P2008−145190A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330912(P2006−330912)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】