説明

マイクロカプセルおよびその製造方法

【課題】透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】マイクロカプセルは、アミノ樹脂で構成される殻体を有し、カプセル強度が3MPa以上、8MPa以下であり、かつ、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値が1質量%以下である。その製造方法においては、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルは、様々な分野で広く用いられている。そして、このようなマイクロカプセルは、100℃以上の温度で乾燥させると、耐熱性および耐溶剤性を発現することが知られている。乾燥させたマイクロカプセルは、凝集して大きい塊となってしまい、水や有機溶剤に分散させることが非常に困難であった。また、マイクロカプセルが耐溶剤性を有するといっても、エタノールに対する耐性を有するだけであり、その他の汎用の有機溶剤、例えば、アセトン、酢酸エチル、トルエンなどに対する耐性は有していなかった。
【0003】
そこで、まず、マイクロカプセルの乾燥時の凝集を防止する目的で、特許文献1には、水溶性高分子を分散剤として調製したマイクロカプセル分散液に、アミノ樹脂の初期縮合物を添加して反応させた後、その分散媒を除去することが提案されている。この技術は、殻体を構成するアミノ樹脂からなる粒子状物を殻体の表面に沈着させて、マイクロカプセルのブロッキングを防止しようとするものである。しかしながら、殻体の表面に沈着した粒子状物により、マイクロカプセルの透明性が著しく損なわれる。それゆえ、用途によっては、例えば、電子ペーパーなどの表示デバイスに用いた場合には、得られた表示デバイスの表示特性が劣るという問題点があった。
【0004】
また、マイクロカプセルの耐溶剤性を向上する目的で、特許文献2および3には、疎水性の内容物の表面に、アミノ樹脂で構成される殻体を形成するにあたり、疎水性の内容物に内壁を形成する物質を添加する方法が提案されている。この技術は、殻体に内壁を形成して、耐溶剤性を向上させようとするものである。しかしながら、疎水性の内容物に粒子状物質を多く含有する場合、殻体に内壁を形成する際に、粒子状物質をも取り込んで内壁を形成することがあり、やはり、マイクロカプセルの透明性が著しく損なわれる。それゆえ、用途によっては、例えば、電子ペーパーなどの表示デバイスに用いた場合には、得られた表示デバイスの表示特性が劣るという問題点があった。
【0005】
他方、本出願人は、内容物の不浸透性に優れると共に、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルとして、メルカプト基を有するアミノ樹脂で構成される第1壁層とエポキシ樹脂で構成される第2壁層とからなる殻体を有するマイクロカプセルを開発して、すでに特許出願を行った(特許文献4および5)。しかしながら、このマイクロカプセルは、乾燥させると、例えば、疎水性の内容物が溶剤を含んでいる場合には、この溶剤が滲出して蒸発することにより、マイクロカプセルが変形することがあることから、水系媒体から分離することはなく、次の工程に付されていた。また、耐熱性といっても、温度110℃で加熱し続けた場合の減量値で評価される耐熱性であり、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値で評価される耐熱性ではない。さらに、耐溶剤性といっても、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールに対する耐性だけであり、その他の汎用の有機溶剤、例えば、アセトン、酢酸エチル、トルエンなどに対する耐性ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−238141号公報
【特許文献2】特開昭62−42732号公報
【特許文献3】特開平7−171379号公報
【特許文献4】特開2008−161859号公報
【特許文献5】特開2008−165191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、これまで、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルについては、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態で得ること、また、耐熱性および耐溶剤性を向上させることが求められてきた。また、本発明者らは、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを100℃以上の温度で乾燥させると、その熱履歴により、殻体を構成するアミノ樹脂の縮合反応が進行して、殻体が硬脆くなり、カプセル強度が低下するので、取り扱い時に破壊や損傷が生じることを見出した。
【0008】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討の結果、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを所定の温度で乾燥させて水分量を所定の値以下に調整すれば、透明性を損なうことなく、マイクロカプセルが分散性に優れた粉体の形態で得られると共に、殻体が硬脆くならないことから、カプセル強度が向上し、かつ、110℃より高い温度に耐えられることから、耐熱性が向上し、かつ、アルコール系有機溶剤だけでなく、その他の汎用の有機溶剤に対しても耐性を有することから、耐溶剤性が向上することを見出して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、アミノ樹脂で構成される殻体を有し、カプセル強度が3MPa以上、8MPa以下であり、かつ、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値が1質量%以下であることを特徴とするマイクロカプセルを提供する。前記マイクロカプセルは、好ましくは、アルコール系、ケトン系、エステル系および芳香族系の有機溶剤に対して、高い耐性を有する。前記マイクロカプセルは、殻体が水溶性高分子を含有することがある。前記マイクロカプセルは、無色透明の溶媒を内包した場合の全光線透過率が好ましくは80%以上である。前記マイクロカプセルは、電子ペーパー用マイクロカプセルとして好適に用いられる。
【0011】
また、本発明は、上記のようなマイクロカプセルを製造する方法であって、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、前記マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することを特徴とする製造方法を提供する。前記製造方法において、マイクロカプセルは、疎水性の内容物を水系媒体中に分散させた後、尿素、チオ尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンおよびシクロヘキシルグアナミンよりなる群から選択される少なくとも1種のアミノ化合物とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いて、縮合反応を行うことにより、前記疎水性の内容物の表面にアミノ樹脂で構成される殻体を形成して調製することが好ましい。前記疎水性の内容物を水系媒体中に分散させる際には、前記初期縮合物1質量部に対して、0.4質量部以上、1質量部以下の分散剤を用いることが好ましい。前記分散剤は、水溶性高分子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロカプセルは、所定の温度で乾燥させて水分量が所定の値以下になるように調整することにより、殻体を構成するアミノ樹脂がより緻密な構造を有するように変化していると考えられるので、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有する。それゆえ、本発明のマイクロカプセルは、取り扱い性に優れており、取り扱い時に破壊や損傷を生じることがなく、また、最終製品の製造時や使用時に比較的高い温度に曝されても機能を発揮することができるという利点を有する。特に、耐溶剤性については、様々な分野で幅広く用いられている汎用の有機溶剤に対して、高い耐性を有するので、マイクロカプセルをバインダー樹脂と混合して塗料化する場合には、バインダー樹脂を自由に設計することができ、その選択幅が拡がると共に、従来技術では不可能であった光硬化樹脂や熱硬化樹脂を用いることが可能になる。
【0013】
本発明によるマイクロカプセルの製造方法は、マイクロカプセルを所定の温度で乾燥させて水分量が所定の値以下になるように調整するだけであるので、上記のように高い物性および優れた特性を有するマイクロカプセルを効率よく簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪マイクロカプセル≫
本発明のマイクロカプセル(以下、単に「マイクロカプセル」ということがある)は、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルであって、カプセル強度が3MPa以上、8MPa以下であり、かつ、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値が1質量%以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のマイクロカプセルは、ある好ましい実施態様では、疎水性の内容物がアミノ樹脂で構成される殻体に内包されているマイクロカプセルであって、疎水性の内容物を水系媒体中に分散させた後、尿素、チオ尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンおよびシクロヘキシルグアナミンよりなる群から選択される少なくとも1種のアミノ化合物とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いて、縮合反応を行うことにより、疎水性の内容物の表面にアミノ樹脂で構成される殻体を形成して調製されたマイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することにより得られることを特徴とする。
【0016】
<マイクロカプセルの物性および特性>
本発明のマイクロカプセルは、ある程度の柔軟性を有しており、その形状は、外部圧力により変化するので、特に限定されるものではないが、外部圧力がない場合には、真球状などの粒子状であることが好ましい。
【0017】
マイクロカプセルの粒子径は、特に限定されるものではないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。マイクロカプセルの粒子径が小さすぎると、マイクロカプセルを製造する際に内容物を内包しないマイクロカプセルが生成することがある。逆に、マイクロカプセルの粒子径が大きすぎると、マイクロカプセルとして要求される物性を保持できないことがある。なお、マイクロカプセルの粒子径とは、乾燥前のマイクロカプセルについて、粒度分布測定装置(製品名:Multisizer4、ベックマン・コールター株式会社製)で測定した体積平均粒子径を意味する。測定の際には、マイクロカプセルの粒子径に合わせた適正なアパチャーを選択して用いるものとする。
【0018】
マイクロカプセルの粒子径の変動係数(すなわち、粒度分布の狭さ;以下「CV値」ということがある)は、特に限定されるものではないが、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。マイクロカプセルの粒子径の変動係数が大きすぎると、有効な粒子径を有するマイクロカプセルが少なく、多数のマイクロカプセルを用いる必要が生じることがある。なお、マイクロカプセルの粒子径の変動係数(CV値)とは、乾燥前のマイクロカプセルについて、粒度分布測定装置(製品名:Multisizer4、ベックマン・コールター株式会社製)で、マイクロカプセルの粒子径と同時に測定された値を意味する。
【0019】
なお、マイクロカプセルの粒子径やその変動係数は、マイクロカプセルを製造する際に疎水性の内容物を水系媒体に分散させた分散液の粒子径や粒度分布に大きく依存する。それゆえ、この分散液の分散条件を適宜調整することにより、所望の粒子径やその変動係数を有するマイクロカプセルを得ることができる。
【0020】
本発明のマイクロカプセルは、従来公知のマイクロカプセルと比較して、透明性を損なうことがない。具体的には、本発明のマイクロカプセルは、無色透明の溶媒を内包した場合の全光線透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは82%以上である。全光線透過率が低すぎると、例えば、電子ペーパーなどの表示デバイスに用いた場合には、得られた表示デバイスの表示特性が劣ることがある。なお、無色透明の溶媒を内包した場合の全光線透過率の上限は、特に限定されるものではないが、90%程度である。ここで、無色透明の溶媒を内包した場合の全光線透過率とは、下記の実施例で説明する方法により測定された値を意味する。
【0021】
本発明のマイクロカプセルは、分散性に優れた粉体の形態である。一般に、従来公知の調製法では、マイクロカプセルは、水系媒体中に分散した分散液の形態で得られる。この分散液から水系媒体を除去してマイクロカプセルの粉体を得ようとすると、効率よく短時間で乾燥させるためには、100℃以上という比較的高い温度が必要である。ところが、マイクロカプセルは、100℃以上の温度で乾燥させると、凝集して大きい塊となってしまい、溶剤に分散させることが非常に困難となる。これに対し、本発明のマイクロカプセルは、20℃以上、80℃以下という比較的低い温度で乾燥させている。それゆえ、マイクロカプセルは、凝集することなく、マイクロカプセルが互いに独立した粉体の形態で得られる。このようなマイクロカプセルは、汎用の有機溶剤に対する耐性と相まって、いずれの有機溶剤に対しても優れた分散性を示す。ここで、優れた分散性とは、マイクロカプセルを有機溶剤に分散させた場合に、マイクロカプセルの凝集がほとんど認められないことを意味する。具体的には、マイクロカプセルを有機溶剤に分散させた状態を光学顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープVHX−500、株式会社キーエンス製;倍率500倍)で観察した場合に、凝集したマイクロカプセルが全く認められないか、あるいは、2〜3個のマイクロカプセルが凝集した小さい凝集物が1視野に3個以下しか認められない程度の分散性を意味する。
【0022】
本発明のマイクロカプセルは、カプセル強度が3MPa以上、8MPa以下である。ここで、カプセル強度とは、微小圧縮試験機(製品名:MCT−W500、株式会社島津製作所製)を用いて測定されたマイクロカプセルの圧縮強度を意味する。なお、マイクロカプセルには、試験力9.8mNを、負荷速度0.446mN/秒、保持時間0秒で印加して測定するものとする。
【0023】
本発明者らの検討によれば、マイクロカプセルの乾燥を100℃以上という比較的高い温度で行うと、マイクロカプセルの圧縮強度が大幅に低下することが認められた。これはアミノ樹脂の縮合が促進され、殻体が硬脆くなるためであると考えられる。これに対し、本発明のマイクロカプセルは、20℃以上、80℃以下という比較的低い温度で乾燥させている。それゆえ、殻体が硬脆くならず、高い圧縮強度(すなわち、高いカプセル強度)を有するマイクロカプセルが得られる。
【0024】
本発明のマイクロカプセルは、従来公知のマイクロカプセルと比較して、高い耐熱性を有する。ここで、耐熱性は、熱分析装置(製品名:差動型高温示差熱天秤TG−DTA2020SA、ブルカー・エイエックス株式会社製)を用いて、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値を測定し、その測定値から評価される。なお、測定条件は、昇温速度:10℃/分、雰囲気ガス:N、雰囲気ガス流量:50mL/分である。また、減量値が小さいほど、耐熱性が高く、減量値が大きいほど、耐熱性が低いと評価される。具体的には、本発明のマイクロカプセルは、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値が1質量%以下という高い耐熱性を有する。さらに、本発明のマイクロカプセルは、200℃を超えて約250℃の温度まで加熱しても、100℃から200℃の温度に加熱した場合と、減量値がほぼ同じ程度であることが確認されている。
【0025】
本発明のマイクロカプセルは、従来公知のマイクロカプセルと比較して、高い耐溶剤性を有する。ここで、高い耐溶剤性とは、マイクロカプセルを有機溶剤に浸漬し、有機溶剤を蒸発させても、マイクロカプセルに変化や異常が認められないことを意味する。具体的には、マイクロカプセルを有機溶剤に浸漬し、有機溶剤を蒸発させながら、マイクロカプセルの状態変化を光学顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープVHX−500、株式会社キーエンス製;倍率500倍)で観察した場合に、有機溶剤に浸漬中および有機溶剤の蒸発後もマイクロカプセルに変化が全く認められないか、あるいは、有機溶剤に浸漬中のマイクロカプセルに有機溶剤の侵入がわずかに認められるが、有機溶剤の蒸発後にマイクロカプセルの異常は認められない程度の耐溶剤性を意味する。
【0026】
従来公知のマイクロカプセル、例えば、特許文献4および5に記載されたマイクロカプセルは、例えば、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールに対しては、高い耐溶剤性を有するが、その他の汎用の有機溶剤、特に、アセトンなどのケトン系有機溶剤に対しては、低い耐溶剤性しか有しなかった。ところが、本発明のマイクロカプセルは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤に対しては、もちろんのこと、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル系有機溶剤、および、トルエン、キシレンなどの芳香族系有機溶剤に対しても、高い耐溶剤性を有する。
【0027】
上記したように、本発明のマイクロカプセルは、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルである。本発明においては、特に、マイクロカプセルが分散性に優れた粉体の形態であると共に、3MPa以上、8MPa以下という高いカプセル強度と、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値が1質量%以下という高い耐熱性とを有していることが重要である。かくして、本発明のマイクロカプセルは、取り扱い性に優れており、取り扱い時に破壊や損傷を生じることがなく、また、最終製品の製造時や使用時に比較的高い温度に曝されても機能を発揮することができるという利点を有する。具体的には、本発明のマイクロカプセルを電子ペーパーなどの表示デバイスに用いた場合には、マイクロカプセルをバインダー樹脂と混合する際の高い剪断力に耐えることができるので、高い回転速度で効率よく簡便に塗料化することが可能であり、また、マイクロカプセルを塗布したシートに透明導電性フィルムをラミネートする際の高い圧力および高い温度に耐えることができるので、短時間のラミネートで効率よく簡便に電子ペーパーを製造することが可能であり、しかも、得られた電子ペーパーは比較的高い温度まで表示特性を劣化することなく使用することが可能である。
【0028】
また、本発明のマイクロカプセルは、好ましくは、アルコール系、ケトン系、エステル系および芳香族系の有機溶剤に対して、高い耐溶剤性を有することも重要である。かくして、本発明のマイクロカプセルは、様々な分野で幅広く用いられている汎用の有機溶剤に対して、高い耐性を有するので、マイクロカプセルをバインダー樹脂と混合して塗料化する場合には、バインダー樹脂を自由に設計することができ、その選択幅が拡がると共に、従来技術では不可能であった光硬化樹脂や熱硬化樹脂を用いることが可能になる。
【0029】
<マイクロカプセルの殻体>
本発明のマイクロカプセルは、アミノ樹脂で構成される殻体を有する。一般に、殻体を構成するアミノ樹脂は不浸透性が高いが、所定の温度で乾燥させて水分量を所定の値以下に調整することにより、殻体を構成するアミノ樹脂がより緻密な構造を有するように変化する。それゆえ、本発明のマイクロカプセルは、内容物の不浸透性に優れると共に、高いカプセル強度に加えて、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有する。
【0030】
また、マイクロカプセルの調製時に分散剤として水溶性高分子を用いた場合には、この水溶性高分子がアミノ樹脂と複合化した状態で殻体の表面に層を形成して、殻体の不浸透性を向上させる。この場合、本発明のマイクロカプセルは、殻体が水溶性高分子を含有する。なお、水溶性高分子がアミノ樹脂と複合化した状態で殻体の表面に層を形成していることは、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により分析することができる。実際、本発明のマイクロカプセルをFTIRで分析したところ、マイクロカプセルの表面からの反射スペクトルには、水溶性高分子の官能基による吸収が多く観察され、アミノ樹脂の官能基による吸収は少し観察されるだけであったが、マイクロカプセルを破砕して内容物を除去し、乾燥させた後で測定したところ、アミノ樹脂の官能基による吸収が多く観察された。それゆえ、殻体の表面に観察される層は、マイクロカプセルの乾燥処理により、水溶性高分子が殻体の表面におけるアミノ樹脂と複合化した状態で殻体の表面に形成した層であると考えられる。
【0031】
本発明のマイクロカプセルにおいて、殻体はアミノ樹脂で構成されている。殻体を構成するアミノ樹脂は、特に限定されるものではないが、尿素、チオ尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンおよびシクロヘキシルグアナミンよりなる群から選択される少なくとも1種のアミノ化合物とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いて、縮合反応を行うことにより形成されるアミノ樹脂が好ましい。このようなアミノ樹脂の具体例としては、尿素およびチオ尿素の少なくとも1種の尿素化合物とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いる場合には、尿素樹脂であり;メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いる場合には、メラミン樹脂であり;ベンゾグアナミン、アセトグアナミンおよびシクロヘキシルグアナミンの少なくとも1種のグアナミン化合物とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いる場合には、グアナミン樹脂であり;尿素化合物、メラミンおよびグアナミン化合物の少なくとも2種とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いる場合には、尿素樹脂、メラミン樹脂およびグアナミン樹脂の少なくとも2種が混在する樹脂である。殻体は、これらのアミノ樹脂のうち、単独のアミノ樹脂で構成されていてもよいし、2種以上のアミノ樹脂で構成されていてもよい。
【0032】
本発明のマイクロカプセルは、アミノ樹脂で構成される殻体を有する限り、単一の壁層を有する単層マイクロカプセルであっても、第1壁層の表面に第2壁層またはそれ以降の壁層を有する多層マイクロカプセルであってもよい。本発明のマイクロカプセルが多層マイクロカプセルである場合には、特許文献5に記載された多層マイクロカプセルであることが好ましい。例えば、アミノ樹脂で構成される第1壁層とアミノ樹脂で架橋されたエポキシ樹脂で構成される第2壁層とからなる殻体を有する2層マイクロカプセルである。
【0033】
マイクロカプセルの殻体の厚さ(全ての壁層の合計厚さ)は、特に限定されるものではないが、湿潤状態で、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、また、好ましくは10μm以下である。マイクロカプセルの殻体の厚さが薄すぎると、充分なカプセル強度が得られないことがある。逆に、マイクロカプセルの殻体の厚さが厚すぎると、例えば、電子ペーパーなどの表示デバイスに用いた場合に、マイクロカプセルの殻体が高い抵抗値を有するので、充分な電界がマイクロカプセルに印加されない原因ともなり、好ましくないことがある。
【0034】
<マイクロカプセルの内容物>
本発明のマイクロカプセルは、疎水性の内容物が殻体に内包されている。疎水性の内容物としては、マイクロカプセルの用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、電子ペーパー用マイクロカプセル、熱線吸収剤、接着剤または粘着剤、可塑剤または可塑剤および粘着付与剤、化粧品、磁性体、蓄熱剤などが挙げられる。なお、疎水性の内容物は、マイクロカプセルを製造する際に、水系媒体中に充分に分散させる必要があるので、液状物質であることが好ましい。
【0035】
<マイクロカプセルの用途>
本発明のマイクロカプセルは、例えば、電子ペーパーなどの表示デバイスに好適に用いられるが、それ以外にも、マイクロカプセル型熱線吸収剤、マイクロカプセル型接着剤または粘着剤、マイクロカプセル型可塑剤、マイクロカプセル型化粧品、マイクロカプセル型磁性体、マイクロカプセル型蓄熱剤などの各種用途や製品に好適であるが、これらに限定されることはない。
【0036】
≪マイクロカプセルの製造方法≫
本発明によるマイクロカプセルの製造方法(以下「本発明の製造方法」ということがある)は、上記のようなマイクロカプセルを製造する方法であって、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することを特徴とする。
【0037】
<マイクロカプセルの調製>
本発明の製造方法において、マイクロカプセルの調製法は、疎水性の内容物の表面にアミノ樹脂で構成される殻体を形成できる限り、従来公知の調製法を用いればよく、特に限定されるものではない。
【0038】
マイクロカプセルの好ましい調製法として、例えば、疎水性の内容物を水系媒体中に分散させた後、尿素、チオ尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンおよびシクロヘキシルグアナミンよりなる群から選択される少なくとも1種のアミノ化合物とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いて、縮合反応を行うことにより、疎水性の内容物の表面にアミノ樹脂で構成される殻体を形成する調製法が挙げられる。
【0039】
この好ましい調製法は、例えば、特許文献5に記載された調製法に準拠して行うことができる。ただし、特許文献5に記載された調製法は、多層マイクロカプセルの調製法であるので、単層マイクロカプセルを調製する場合には、第2壁層および第3以降の壁層を形成する工程を省略すればよい。また、特許文献5に記載された調製法では、第1壁層を形成する際に、メルカプト基(−SH)とカルボキシ基(−COOH)またはスルホ基(−SOH)とを有するチオール化合物の存在下で縮合反応を行っているが、単層マイクロカプセルを調製する場合には、必ずしも、このチオール化合物を用いる必要はない。
【0040】
この好ましい調製法において、疎水性の内容物を水系媒体中に分散させる際には、必要に応じて、分散剤を用いてもよい。分散剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、水溶性高分子(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ゼラチン、アラビアガム、大豆多糖類、ガティガムなどの多糖類)、界面活性剤(例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤)などが挙げられる。これらの分散剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの分散剤のうち、アラビアガムなどの通常の多糖類、および、ガラクトースやアラビノースなどの水溶性単糖類が結合したポリマー構造を有する特定の多糖類(例えば、大豆多糖類、ガティガム)が好ましい。
【0041】
分散剤を用いる場合、その添加量は、殻体の形成を阻害しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、初期縮合物1質量部に対して、好ましくは0.4質量部以上であり、また、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.9質量部以下である。
【0042】
この好ましい調製法において、縮合反応を行う際の反応温度は、縮合反応が好適に進行する限り、特に限定されるものではないが、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、さらに好ましくは40℃以上であり、また、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。縮合反応を行う際の反応温度が低すぎると、縮合反応が遅く、殻体を効率よく形成できないことがある。逆に、縮合反応を行う際の反応温度が高すぎると、殻体の形成が阻害されることがある。反応時間は、特に限定されるものではなく、仕込み量や縮合反応を行う際の反応温度に応じて、適宜設定することができ、通常は、数分間から数十時間の範囲内である。一般に、縮合反応を行う際の反応温度が低い場合は、反応時間を長くし、逆に、縮合反応を行う際の反応温度が高い場合は、反応時間を短くすればよいが、緻密なアミノ樹脂で構成される殻体を形成して耐溶剤性を向上させるには、縮合反応を行う際の反応温度を比較的高くし、反応時間を比較的長くすることが好ましい。
【0043】
縮合反応が終了した後、得られたマイクロカプセルは、粒度分布が狭いマイクロカプセルを得るために、必要に応じて、分級してもよく、および/または、不純物を除去して製品品質を向上させるために、必要に応じて、洗浄してもよい。
【0044】
マイクロカプセルの分級は、水系媒体中にマイクロカプセルを含む分散液に対して、そのままで、あるいは、任意の水系媒体などで希釈した後、従来公知の方式、例えば、ふるい式、フィルター式、遠心沈降式、自然沈降式などの方式を用いて、マイクロカプセルが所望の粒子径や粒度分布を有するように行えばよい。なお、比較的粒子径が大きいマイクロカプセルに対しては、ふるい式が有効である。
【0045】
マイクロカプセルの洗浄は、水系媒体中にマイクロカプセルを含む分散液に対して、そのままで、あるいは、任意の水系媒体などで希釈した後、従来公知の方式、例えば、遠心沈降式、自然沈降式などの方式を用いて、マイクロカプセルを沈降させ、上澄み液を廃棄して沈降物を回収し、任意の水系媒体などに再分散するという操作を繰り返せばよい。なお、比較的粒子径が大きいマイクロカプセルに対しては、マイクロカプセルの破壊や損傷を防止するために、自然沈降式を採用することが好ましい。
【0046】
<マイクロカプセルの乾燥>
本発明の製造方法では、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを、20℃以上、80℃以下の温度で、マイクロカプセルの水分量が5質量%以下になるように乾燥させる。
【0047】
マイクロカプセルの乾燥法としては、マイクロカプセルの破壊や損傷を生じない限り、従来公知の乾燥法を用いればよく、特に限定されるものではないが、マイクロカプセルの破壊や損傷を防止できることやマイクロカプセルを効率よく乾燥できることなどから、例えば、ドライルーム内に放置する乾燥法、熱風乾燥機を用いた乾燥法などが好ましい。
【0048】
マイクロカプセルを乾燥させる際の温度(具体的には、ドライルームや熱風乾燥機の設定温度)は、通常は20℃以上、好ましくは25℃以上であり、また、通常は80℃以下である。乾燥温度が低すぎると、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整するのに長時間を要することがある。逆に、乾燥温度が高すぎると、マイクロカプセルの殻体を構成するアミノ樹脂が硬脆くなり、カプセル強度が低下することがある。
【0049】
マイクロカプセルを乾燥させる際の時間は、マイクロカプセルの水分量が5質量%以下になるのに要する時間であり、採用した乾燥法に応じて変化するので、特に限定されるものではない。
【0050】
マイクロカプセルを乾燥させる際の圧力は、マイクロカプセルの破壊や損傷を招かない限り、特に限定されるものではないが、好ましくは常圧、すなわち760mmHg(101.33kPa)である。しかしながら、500mmHg(66.66kPa)以上、760mmHg(101.33kPa)未満の減圧下であっても、全く問題なく、マイクロカプセルを乾燥させることができる。なお、真空乾燥法は、高い減圧度(例えば、10mmHg(1.333kPa))で乾燥を行うので、マイクロカプセルの破壊や損傷を生じる可能性があり、好ましくない。
【0051】
本発明の製造方法によれば、マイクロカプセルを所定の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することにより、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルが得られる。マイクロカプセルの水分量とは、熱分析装置(製品名:差動型高温示差熱天秤TG−DTA2020SA、ブルカー・エイエックス株式会社製)を用いて、温度25℃から110℃までの減量値を測定し、得られた測定値であると定義する。なお、測定条件は、昇温速度:10℃/分、雰囲気ガス:N、雰囲気ガス流量:50mL/分とする。
【0052】
したがって、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整するには、例えば、乾燥中にサンプリングしたマイクロカプセルを熱分析にかけるか、あるいは、予め、所定の乾燥法および乾燥条件について、マイクロカプセルの水分量と乾燥時間との関係を示す標準線を作成しておき、この標準線を用いて、マイクロカプセルの水分量が5質量%以下になるのに必要な時間だけマイクロカプセルを乾燥させればよい。
【0053】
本発明の製造方法は、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを調製した後、あるいは、調製して保存した後、あるいは、入手した後、20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整するという単純なプロセスであるので、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルを効率よく簡便に得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
まず、マイクロカプセルの物性を測定する方法および特性を評価する方法について説明する。ここで、マイクロカプセルの物性とは、マイクロカプセルの粒子径(以下「カプセル粒子径」という)、マイクロカプセルの水分量(以下「カプセル水分量」という)およびマイクロカプセルの強度(以下「カプセル強度」という)である。マイクロカプセルの特性とは、マイクロカプセルの耐熱性(以下「カプセル耐熱性」という)、マイクロカプセルの耐溶剤性(以下「カプセル耐溶剤性」という)、マイクロカプセルの分散性(以下「カプセル分散性」という)およびマイクロカプセルの透明性(以下「カプセル透明性」という)である。
【0056】
<カプセル粒子径およびCV値>
乾燥前のマイクロカプセルを水に分散させた後、粒度分布測定装置(製品名:Multisizer4、ベックマン・コールター株式会社製)を用いて、体積平均粒子径を測定し、得られた測定値をカプセル粒子径とした。同時に、マイクロカプセルの粒子径の変動係数(CV値)を測定した。なお、実施例および比較例における測定の際には、直径200μmのアパチャーを用いた。
【0057】
<カプセル水分量>
熱分析装置(製品名:差動型高温示差熱天秤TG−DTA2020SA、ブルカー・エイエックス株式会社製)を用いて、温度25℃から110℃までの減量値を測定し、得られた測定値をカプセル水分量とした。なお、測定条件は、昇温速度:10℃/分、雰囲気ガス:N、雰囲気ガス流量:50mL/分であった。
【0058】
<カプセル強度>
微小圧縮試験機(製品名:MCT−W500、株式会社島津製作所製)を用いて、圧縮強度を測定し、得られた測定値をカプセル強度とした。なお、測定条件は、試験力9.8mN、負荷速度0.446mN/秒、保持時間0秒、圧子の直径100μmであった。
【0059】
<カプセル耐熱性>
熱分析装置(製品名:差動型高温示差熱天秤TG−DTA2020SA、ブルカー・エイエックス株式会社製)を用いて、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値を測定し、得られた測定値からカプセル耐熱性を評価した。なお、測定条件は、昇温速度:10℃/分、雰囲気ガス:N、雰囲気ガス流量:50mL/分であった。また、減量値が小さいほど、耐熱性が高く、減量値が大きいほど、耐熱性が低いと評価する。
【0060】
<カプセル耐溶剤性>
マイクロカプセルを有機溶剤(エタノール、アセトン、酢酸エチル、トルエン)に別々に浸漬し、有機溶剤を蒸発させながら、マイクロカプセルの状態変化を光学顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープVHX−500、株式会社キーエンス製;倍率500倍)で観察し、下記の基準で、カプセル耐溶剤性を評価した。
◎:有機溶剤に浸漬中および有機溶剤の蒸発後もマイクロカプセルに変化が全く認められない;
○:有機溶剤に浸漬中のマイクロカプセルに有機溶剤の侵入がわずかに認められるが、有機溶剤の蒸発後にマイクロカプセルの異常は認められない;
△:有機溶剤に浸漬中のマイクロカプセルに膨張などの異常は認められるが、有機溶剤の蒸発後にマイクロカプセル内包物の溶出は認められない;
×:有機溶剤に浸漬中または有機溶剤の蒸発後にマイクロカプセル内包物の溶出が認められる(マイクロカプセルが破壊されている)。
【0061】
<カプセル分散性>
マイクロカプセルをエタノールに添加し、振動攪拌機(製品名:試験管ミキサーTRIO HM−1F、アズワン株式会社製)で1分間分散させ、マイクロカプセルの分散状態を光学顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープVHX−500、株式会社キーエンス製;倍率500倍)で観察し、下記の基準で、カプセル分散性を評価した。
◎:凝集したマイクロカプセルが全く認められない;
○:2〜3個のマイクロカプセルが凝集した小さい凝集物が1視野に3個以下しか認められない;
△:4個以上のマイクロカプセルが凝集した大きい凝集物が1視野に1個以下認められるか、あるいは、2〜3個のマイクロカプセルが凝集した小さい凝集物が1視野に3〜5個認められる;
×:4個以上のマイクロカプセルが凝集した大きい凝集物が1視野に1個より多く認められるか、あるいは、2〜3個のマイクロカプセルが凝集した小さい凝集物が1視野に5個より多く認められる。
【0062】
<カプセル透明性>
無色透明の溶媒を内包したマイクロカプセル10gを、アクリル系ポリマー(アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸の共重合体(組成比45:1:44:9:1;質量平均分子量75,000))の25質量%酢酸エチル溶液15gと、混錬機(商品名:あわとり錬太郎(登録商標)AR−100、株式会社シンキー製)で混合して塗料化した。この塗料を、透明導電性フィルム(商品名:テトライトTCF(登録商標)KB−500、尾池工業株式会社製)の導電層上に、アプリケーターで塗布し、温度50℃の熱風乾燥機で30分間乾燥させて、塗布したマイクロカプセルがほぼ一層に密充填されたシートを作製した。得られたシートの全光線透過率をヘイズメーター(商品名:NDH5000、日本電色工業株式会社製)で測定し、カプセル透明性を評価した。なお、本発明では、上記のようにして作製されたシートの全光線透過率をマイクロカプセルの全光線透過率とみなすことにする。
【0063】
次に、アミノ樹脂で構成される殻体の材料の合成例について説明する。
【0064】
<合成例1>
容量100mLのセパラブルフラスコに、メラミン8g、尿素8g、37質量%ホルムアルデヒド水溶液40g、25質量%アンモニア水2gを仕込み、攪拌しながら、70℃まで昇温した。同温度で1時間保持した後、30℃まで冷却し、メラミン・尿素・ホルムアルデヒド初期縮合物を含有する固形分53.1質量%の水溶液(A1)を得た。
【0065】
<合成例2>
容量300mLのセパラブルフラスコに、エポキシ化合物としてポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX−521(重量平均分子量732、水に対する溶解率100質量%)、ナガセケムテックス(株)製)125g、水125gを仕込み、攪拌して溶解した。この溶液に50質量%尿素水溶液50gを添加し、40℃で1時間反応させて、エポキシ化合物と尿素とを反応させて得られる化合物を含有する固形分50質量%の水溶液(B1)を得た。
【0066】
容量100mLのセパラブルフラスコに、メラミン3g、37質量%ホルムアルデヒド水溶液20g、25質量%アンモニア水2gを仕込み、攪拌しながら、70℃で20分間反応させたところに、水溶液(B1)24gを添加し、さらに同温度で15分間反応を行い、25℃まで冷却して、メラミン・尿素・エポキシ化合物・ホルムアルデヒド初期縮合物を含有する固形分45.7質量%の水溶液(B2)を得た。
【0067】
次に、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルの製造例について説明する。
【0068】
<実施例1>
まず、フェニルキシリルエタン系溶剤(商品名:ハイゾールSAS296、JX日鉱日石エネルギー株式会社製)261gに、熱線吸収剤としてオクタキス(アニリノ)−オクタキス(フェニルチオ)バナジルフタロシアニン2gを溶解させて、熱線吸収剤溶液を調製した。
【0069】
容量500mLのセパラブルフラスコに、アラビアガム20gを溶解した水溶液120gを仕込み、ディスパー(製品名:T.K.ロボミックス(登録商標)、プライミクス株式会社製)を用いて、350rpmで攪拌しながら、熱線吸収剤溶液100gを添加し、その後、攪拌速度を1,600rpmに変更して10分間攪拌をした後、攪拌速度を1,000rpmに変更し、水100gを添加して、懸濁液を得た。
【0070】
この懸濁液を、パドル翼で攪拌しながら、40℃に保持し、固形分53.1質量%の水溶液(A1)45gを添加した。15分後に、L−システイン4gを溶解した水溶液100gを滴下ロートで徐々に添加した。40℃で3時間、さらに80℃で3時間反応を行って、アミノ樹脂で構成された殻体に熱線吸収剤溶液が内包されたマイクロカプセルの分散液を得た。
【0071】
得られた分散液を25℃まで冷却し、目開き53μmのふるいで粗大マイクロカプセルおよび異物を除去した。次いで、マイクロカプセル分散液を脱イオン水2Lで希釈し、目開き32μmのふるいで微小マイクロカプセルを除去した。ふるい上のマイクロカプセルを脱イオン水に分散し、全体量を200gとした。
【0072】
このマイクロカプセル分散液を容量500mLのセパラブルフラスコに移し、攪拌しながら、40℃に加温した。このマイクロカプセル分散液に水溶液(B2)49gを添加した。30分後に、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム2gを溶解した水溶液50gを滴下ロートで徐々に添加し、40℃で2時間、さらに50℃で2時間反応を行って、アミノ樹脂で構成される第1壁層とアミノ樹脂で架橋されたエポキシ樹脂で構成される第2壁層とからなる殻体に熱線吸収剤溶液が内包されている2層マイクロカプセルの水分散液を得た。
【0073】
得られた水分散液を25℃まで冷却し、脱イオン水1Lに添加して希釈した後、目開き53μmのふるいで粗大マイクロカプセルを除去した。次いで、目開き32μmのふるいで微小マイクロカプセルを除去して、マイクロカプセル濾過ケーキを得た。この状態のマイクロカプセルの粒子径およびCV値を測定したところ、それぞれ、40.2μmおよび16.1%であった。
【0074】
このマイクロカプセル濾過ケーキを温度50℃の熱風乾燥機で乾燥させた。このとき、カプセル水分量が5質量%以下になるように調整した。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0075】
<比較例1>
実施例1と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを乾燥せずに用いて、マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0076】
<比較例2>
実施例1と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを温度50℃の熱風乾燥機で乾燥させた。このとき、カプセル水分量が5質量%になる前に乾燥を中止した。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0077】
<比較例3−1および3−2>
実施例1と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを温度110℃の熱風乾燥機で乾燥させた。このとき、カプセル水分量が5質量%になる前に乾燥を中止するか(比較例3−1);あるいは、カプセル水分量を5質量%以下に調整した(比較例3−2)。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0078】
<実施例2−1および2−2>
まず、特許文献5の実施例に記載された方法に準拠して、アクリル系ポリマー(メタクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシルおよびメタクリル酸グリシジルの共重合体(組成比80:15:5;重量平均分子量3,300))で表面処理されたカーボンブラック(商品名:MA−100R、三菱化学株式会社製)3g、アクリル系ポリマー(メタクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシルおよびγ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの共重合体(組成比80:15:5;重量平均分子量6,800))で表面処理された酸化チタン(商品名:GTR−100、堺化学工業株式会社製)30gを、イソパラフィン系溶剤(商品名:アイソパーM、エクソン・モービル・コーポレイション製)67gに分散させて、顔料分散液を調製した。
【0079】
容量500mLのセパラブルフラスコに、大豆多糖類(商品名:ソヤファイブ(登録商標)S−LN、不二製油株式会社製)13gを溶解した水溶液120gを仕込み、ディスパー(製品名:T.K.ロボミックス、プライミクス株式会社製)を用いて、350rpmで攪拌しながら、顔料分散液100gを添加し、その後、攪拌速度を1,600rpmに変更して10分間攪拌をした後、攪拌速度を1,000rpmに変更し、水100gを添加して、懸濁液を得た。
【0080】
この懸濁液を、パドル翼で攪拌しながら、40℃に保持し、固形分53.1質量%の水溶液(A1)50gを添加した。15分後に、L−システイン4gを溶解した水溶液100gを滴下ロートで徐々に添加した。40℃で3時間、さらに80℃で3時間反応を行って、アミノ樹脂で構成された殻体に顔料分散液が内包されている単層マイクロカプセルの分散液を得た。
【0081】
得られた分散液を25℃まで冷却し、脱イオン水1Lに添加して希釈した後、目開き53μmのふるいで粗大マイクロカプセルおよび異物を除去した。次いで、目開き32μmのふるいで微小マイクロカプセルを除去して、マイクロカプセル濾過ケーキを得た。この状態のマイクロカプセルの粒子径およびCV値を測定したところ、それぞれ、38.4μmおよび15.3%であった。
【0082】
このマイクロカプセル濾過ケーキを温度70℃の熱風乾燥機で乾燥させた。このとき、カプセル水分量を5質量%以下に調整するか(実施例2−1);あるいは、カプセル水分量を1質量%以下に調整した(実施例2−2)。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0083】
<実施例3>
実施例2−1および2−2と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを温度25℃のドライルーム(水分露天温度−45℃)に48時間放置して乾燥させた。このとき、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整した。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0084】
<比較例4>
実施例2−1および2−2と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを乾燥せずに用いて、物性および特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0085】
<比較例5>
実施例2−1および2−2と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを温度25℃のドライルーム(水分露天温度−45℃)に24時間放置して乾燥させた。このとき、カプセル水分量が5質量%になる前に乾燥を中止した。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0086】
<比較例6−1、6−2および6−3>
実施例2−1および2−2と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを温度110℃の熱風乾燥機で乾燥させた。このとき、カプセル水分量が5質量%になる前に乾燥を中止するか(比較例6−1);あるいは、カプセル水分量を5質量%以下に調整するか(比較例6−2);あるいは、カプセル水分量を1質量%以下に調整した(比較例6−3)。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0087】
<比較例7>
実施例2−1および2−2と同様にして得られたマイクロカプセル濾過ケーキを、温度50℃、真空度10mmHg(1.333kPa)の真空乾燥機に入れ、24時間乾燥させた。このマイクロカプセル濾過ケーキを取り出し、マイクロスコープで確認したところ、大多数のマイクロカプセルに凹みが確認された。これは、おそらくマイクロカプセルの内容物に含まれる溶剤が蒸発したためであると考えられる。
【0088】
<実施例4>
実施例2−1および2−2において、大豆多糖類(商品名:ソヤファイブ(登録商標)−S−LN、不二製油株式会社製)の使用量を13gから17gに変更したこと、ならびに、40℃で2時間反応を行い、さらに80℃で5時間反応を行ったこと以外は、実施例2−1および2−2と同様にして、マイクロカプセル濾過ケーキを得た。マイクロカプセルの粒子径およびCV値を測定したところ、それぞれ、37.3μmおよび15.6%であった。
【0089】
このマイクロカプセル濾過ケーキを温度80℃の熱風乾燥機で乾燥させた。このとき、カプセル水分量を5質量%以下に調整した。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0090】
<実施例5−1、5−2および5−3>
実施例2−1および2−2において、顔料分散液100gを無色透明のトルエン100gに変更したこと、ならびに、ディスパー(製品名:T.K.ロボミックス、プライミクス株式会社製)の攪拌速度を実施例5−1、5−2および5−3でそれぞれ変更してマイクロカプセルの粒子径が異なる懸濁液を得たこと以外は、実施例2−1および2−2と同様にして、マイクロカプセルの分散液を得た。
【0091】
得られた分散液を25℃まで冷却し、濃度5質量%になるように脱イオン水で希釈した後、目開き32μm(実施例5−1)、目開き53μm(実施例5−2)または目開き120μm(実施例5−3)のふるいで粗大マイクロカプセルおよび異物を除去した。次いで、分液ロートを用いて、マイクロカプセルと水層とを分離することにより、水層に分散している微小マイクロカプセルを除去して、マイクロカプセルペーストを得た。この状態のマイクロカプセルの粒子径およびCV値を測定したところ、それぞれ、13.7μmおよび16.8%(実施例5−1)、36.4μmおよび19.1%(実施例5−2)、ならびに、90.2μmおよび18.2%(実施例5−3)であった。
【0092】
これらのマイクロカプセルペーストを実施例2−2と同様の条件下で乾燥させた。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0093】
得られた粉体状のマイクロカプセルを用いて、全光線透過率を測定したところ、それぞれ、82.67%(実施例5−1)、85.05%(実施例5−2)および85.21%(実施例5−3)であった。その結果を表3に示す。
【0094】
<比較例8>
実施例5−2と同様にして得られたマイクロカプセルペーストを乾燥せずに用いて、部性および特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0095】
また、マイクロカプセルペースト14g(マイクロカプセル10g)をエタノールに分散させて静置した後、上澄み液を除去して溶剤置換した。得られたマイクロカプセルペーストを用いて、全光線透過率を測定したところ、78.56%であった。その結果を表3に示す。なお、全光線透過率を測定する際には、所定のアクリル系ポリマーの25質量%酢酸エチル溶液に代えて、25質量%エタノール溶液を用いた。
【0096】
<比較例9−1、9−2および9−3>
実施例5−1、5−2および5−3において、顔料分散液100gを無色透明のトルエン92gにトリレンジイソシアネート・トリメチロールプロパン付加物(商品名:コルネート(登録商標)L、日本ポリウレタン工業株式会社製)8gを添加した混合物に変更したこと、ならびに、ディスパー(製品名:T.K.ロボミックス(登録商標)、プライミクス株式会社製)の攪拌速度を比較例9−1、9−2および9−3でそれぞれ変更してマイクロカプセルの粒子径が異なる懸濁液を得たこと以外は、実施例5−1、5−2および5−3と同様にして、マイクロカプセルの分散液を得た。
【0097】
得られた分散液を25℃まで冷却し、濃度5質量%になるように脱イオン水で希釈した後、目開き32μm(比較例9−1)、目開き53μm(比較例9−2)または目開き120μm(比較例9−3)のふるいで粗大マイクロカプセルおよび異物を除去した。次いで、分液ロートを用いて、沈降したマイクロカプセルから水層を分離することにより、水層に分散している微小マイクロカプセルを除去して、マイクロカプセルペーストを得た。この状態のマイクロカプセルの粒子径およびCV値を測定したところ、それぞれ、15.5μmおよび18.0%(比較例9−1)、41.5μmおよび17.4%(比較例9−2)、ならびに、89.9μmおよび18.6%(比較例9−3)であった。
【0098】
これらのマイクロカプセルペーストを、乾燥温度70℃を150℃に変更したこと以外は、実施例2−2と同様の条件下で乾燥させた。このようにして、粉体状のマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルの物性を測定し、特性を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0099】
得られた粉体状のマイクロカプセルを用いて、全光線透過率を測定したところ、それぞれ、72.52%(比較例9−1)、75.52%(比較例9−2)および74.74%(比較例9−3)であった。その結果を表3に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1から明らかなように、20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、カプセル水分量を5質量%以下に調整した実施例1、2−1、2−2、3、4、5−1、5−2および5−3のマイクロカプセルは、いずれも、カプセル強度が3MPa以上、8MPa以下であり、かつ、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値が1質量%以下であった。つまり、これらのマイクロカプセルは、高いカプセル強度および高い耐熱性を有していた。また、これらのマイクロカプセルは、いずれも、カプセル分散性に優れていた。
【0102】
これに対し、乾燥しなかった比較例1、4および8のマイクロカプセル、ならびに、乾燥温度またはカプセル水分量が規定外である比較例2、3−1、3−2、5、6−1、6−2、6−3、9−1、9−2および9−3のマイクロカプセルは、いずれも、カプセル強度およびカプセル耐熱性の少なくとも一方に劣っていた。
【0103】
かくして、本発明によれば、マイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することにより、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度および高い耐熱性を有するマイクロカプセルが得られることがわかる。
【0104】
【表2】

【0105】
表2から明らかなように、20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、カプセル水分量を5質量%以下に調整した実施例1、2−1、2−2、3、4、5−1、5−2および5−3のマイクロカプセルは、いずれも、カプセル耐溶剤性に優れ、アルコール系有機溶剤の代表例であるエタノール、ケトン系有機溶剤の代表例であるアセトン、エステル系有機溶剤の代表例である酢酸エチル、芳香族系有機溶剤の代表例であるトルエンに対して、高い耐性を示した。
【0106】
これに対し、80℃を超える温度で乾燥させて、カプセル水分量を5質量%以下に調整した比較例3−2、6−2および6−3のマイクロカプセルは、いずれも、耐溶剤性に優れているが(ただし、表1から明らかなように、これらのマイクロカプセルは、カプセル強度およびカプセル耐熱性に劣っている)、150℃という高い温度で乾燥させて、カプセル水分量を5質量%以下に調整した比較例9−1、9−2および9−3のマイクロカプセルは、いずれも、アルコール系有機溶剤の代表例であるエタノール、および、芳香族系有機溶剤の代表例であるトルエンに対して、高い耐性を示したものの(ただし、表1から明らかなように、これらのマイクロカプセルは、カプセル強度およびカプセル耐熱性に劣っている)、ケトン系有機溶剤の代表例であるアセトン、および、エステル系有機溶剤の代表例である酢酸エチルに対して、低い耐性を示し、また、乾燥しなかった比較例1、4および8のマイクロカプセル、ならびに、カプセル水分量を5質量%超に調整した比較例2、3−1、5および6−1のマイクロカプセルは、いずれも、耐溶剤性に劣っていた。
【0107】
かくして、本発明によれば、マイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することにより、高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルが得られることがわかる。
【0108】
【表3】

【0109】
表3から明らかなように、無色透明のトルエンを内包し、20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、カプセル水分量を5質量%以下に調整した実施例5−1、5−2および5−3のマイクロカプセルは、いずれも、全光線透過率が80%以上であり、高いカプセル透明性を有していた。
【0110】
これに対し、無色透明のトルエンを内包するが、乾燥しなかった比較例8のマイクロカプセルは、全光線透過率が78.56%であり、実施例5−1、5−2および5−3のマイクロカプセルに比べて、若干低い値であった。この点について、所定の温度で乾燥処理を行うことにより、全光線透過率が向上した理由は定かではないが、カプセル水分量が影響していると考えられる。
【0111】
また、特許文献2および3の方法に従って、マイクロカプセルの内容物である無色透明のトルエンに多官能イソシアネート樹脂を添加して、マイクロカプセルにウレタン樹脂層の内壁を形成した比較例9−1、9−2および9−3のマイクロカプセルは、それぞれ、全光線透過率が72.52%、75.52%および74.74%であり、いずれも、低いカプセル透明性を有していた。
【0112】
さらに、光学顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープVHX−500、株式会社キーエンス製;倍率500倍)を用いて、光源を透過型にセットして、実施例5−1、5−2および5−3のマイクロカプセル、ならびに、比較例8のマイクロカプセルを塗布した各シートを観察したところ、マイクロカプセルが無色透明であることが確認された。同様に、比較例9−1、9−2および9−3のマイクロカプセルを塗布した各シートを観察したところ、少し灰色っぽい透明性に劣るマイクロカプセルであることが判明した。
【0113】
かくして、本発明によれば、マイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することにより、高い透明性を有するマイクロカプセルが得られることがわかる。また、本発明のマイクロカプセルは、特許文献1のマイクロカプセルのように、殻体の表面に粒子状物を沈着させたり、特許文献2および3のマイクロカプセルのように、殻体に内壁を形成したりするものではないので、透明性が損なわれることがないことがわかる。
【0114】
次に、マイクロカプセルを電子ペーパーに用いた場合の有用性に関する試験例について説明する。
【0115】
<試験例1>
実施例3で得られたマイクロカプセル10gを、25質量%のアクリル系ポリマー(アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸の共重合体(組成比45:1:44:9:1;質量平均分子量75,000))を含有する酢酸エチル溶液15gに添加し、混錬機(商品名:あわとり錬太郎(登録商標)AR−100、株式会社シンキー製)で混合して塗料化した。この塗料を、透明導電性フィルム(商品名:テトライトTCF(登録商標)KB−500、尾池工業株式会社製)の導電層上に、アプリケーターで塗布した後、温度50℃の熱風乾燥機で30分間乾燥させて、実施例3で得られたマイクロカプセルを塗布したシート(S1)を作製した。
【0116】
上記の方法と同様にして、比較例6−2で得られたマイクロカプセルを塗布したシート(S2)を作製した。
【0117】
これらのシート(S1)および(S2)を用いて、マイクロカプセル層上に、対向電極として、上記と同じ透明導電性フィルムを、その導電層がマイクロカプセル層に対向するようにラミネートして、それぞれ電子ペーパー(P1)および(P2)を作製した。
【0118】
これらの電子ペーパー(P1)および(P2)に直流電圧30Vを印加して、表示状態を比較した。その結果、実施例3で得られたマイクロカプセルを塗布したシート(S1)を用いた電子ペーパー(P1)は、印加電圧の極性を切り替えるごとに、白黒が鮮明に表示された。これに対し、比較例6−2で得られたマイクロカプセルを塗布したシート(S2)を用いた電子ペーパー(P2)は、白黒表示の鮮明さが電子ペーパー(P1)に比べて少し劣っていた。
【0119】
これらの電子ペーパー(P1)および(P2)を光学顕微鏡(製品名:デジタルマイクロスコープVHX−500、株式会社キーエンス製;倍率500倍)で確認したところ、電子ペーパー(P1)は、白黒が切り替わらないマイクロカプセルの存在が認められなかった。これに対し、電子ペーパー(P2)は、白黒が切り替わらないマイクロカプセルが点在することがわかった。白黒が切り替わらないマイクロカプセルは、対向電極として透明導電性フィルムをラミネートした際の圧力により、マイクロカプセルが部分的に破壊してマイクロカプセルの内容物に含まれる溶剤が流出したためであると考えられる。
【0120】
かくして、本発明のマイクロカプセルを用いれば、表示特性に優れた電子ペーパーなどの表示デバイスが得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のマイクロカプセルは、透明性を損なうことなく、分散性に優れた粉体の形態であり、高いカプセル強度、高い耐熱性および高い耐溶剤性を有するマイクロカプセルである。また、本発明の製造方法は、このようなマイクロカプセルを効率よく簡便に製造することができる。それゆえ、本発明のマイクロカプセルおよびその製造方法は、マイクロカプセルが利用・応用可能な各種用途や製品、例えば、電子ペーパーなどの表示デバイス、あるいは、マイクロカプセル型熱線吸収剤、マイクロカプセル型接着剤または粘着剤、マイクロカプセル型可塑剤、マイクロカプセル型化粧品、マイクロカプセル型磁性体、マイクロカプセル型蓄熱剤などの機能性材料に関連する分野で多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ樹脂で構成される殻体を有し、カプセル強度が3MPa以上、8MPa以下であり、かつ、100℃から200℃の温度に加熱した場合の減量値が1質量%以下であることを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項2】
アルコール系、ケトン系、エステル系および芳香族系の有機溶剤に対して耐性を有する請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記殻体が水溶性高分子を含有する請求項1または2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
無色透明の溶媒を内包した場合の全光線透過率が80%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
電子ペーパー用である請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
請求項1に記載のマイクロカプセルを製造する方法であって、アミノ樹脂で構成される殻体を有するマイクロカプセルを20℃以上、80℃以下の温度で乾燥させて、前記マイクロカプセルの水分量を5質量%以下に調整することを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記マイクロカプセルは、疎水性の内容物を水系媒体中に分散させた後、尿素、チオ尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンおよびシクロヘキシルグアナミンよりなる群から選択される少なくとも1種のアミノ化合物とホルムアルデヒドとを反応させて得られる初期縮合物を用いて、縮合反応を行うことにより、前記疎水性の内容物の表面にアミノ樹脂で構成される殻体を形成して調製する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記疎水性の内容物を水系媒体中に分散させる際には、前記初期縮合物1質量部に対して、0.4質量部以上、1質量部以下の分散剤を用いる請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記分散剤が水溶性高分子である請求項8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−40513(P2012−40513A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184286(P2010−184286)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】