説明

マイクロストリップ線路間の接続構造およびマイクロ波ユニット

【課題】高周波信号がマイクロストリップ線路上を伝送するとき、高調波成分が減衰せずに不要な高調波がそのまま伝送される。
【解決手段】ベースプレート10と、地導体16、誘電体17および中心導体18を有する入力側基板11と、地導体19、誘電体20および中心導体21を有する出力側基板12と、入出力基板11、12の対向する側壁面28、29の間に空隙13を空けてベースプレート10上に固定する固定具14と、入力側基板11の中心導体18および出力側基板12の中心導体21間を接続する導体部材15とを備え、導体部材15が基本波成分および高調波成分に与えるインピーダンスを、導体部材15の線路長によって変化させ、高調波成分の電力の減衰量を、基本波成分の電力の減衰量に対して2dB以上にしたことを特徴とするマイクロストリップ線路間の接続構造が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態はマイクロストリップ線路間の接続構造およびマイクロ波ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波回路は、分配器、増幅器あるいは合成器など複数のモジュールを有し、これらのモジュールをそれぞれ複数多段に接続し、電力増幅装置などを構成する。マイクロ波回路では、低価格化のためマイクロストリップ線路が使用される(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
マイクロストリップ線路基板はその主面上に中心導体をパターンニングしている。マイクロストリップ線路基板とは地導体、誘電体基板及び中心導体からなるマイクロストリップ線路を配置した基板を指す。前後2段のマイクロストリップ線路基板は、これらの基板間で中心導体を接続する必要がある。また、増幅器やミクサ等の部品を載せたユニットをマイクロストリップ線路によって接続する場合、これらの部品間を中心導体で接続する必要がある。
【0004】
マイクロストリップ線路基板間の接続部では、インピーダンスの不連続が起こる。接続部とは、各マイクロストリップ線路の中心導体の端部の間の空間を指す。インピーダンスとは特性インピーダンスを指す。インピーダンスの不連続性の影響を受けずにVSWR(電圧定在波比)の悪化や伝送損失の増加が発生しないように、マイクロ波回路は構成される。マイクロ波回路は、できるだけマイクロストリップ線路基板間を近づけて、これらの基板間を接続用の導体によって最短距離で配線するようにしている。接続用の導体により基板間を最短で配線することにより、マイクロ波回路は、インピーダンスの不連続部を減らし、低い周波数から高い周波数まで伝送損失が少なくなるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2636550号明細書
【特許文献2】特開2007−208671号公報
【特許文献3】特開平10−209712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、線路上へのマイクロストリップ線路の挿入による挿入損失は周波数特性上では小さい。線路上に不要な高調波が存在する場合、高調波成分が減衰せずに高調波がそのまま伝送されるという問題が存在する。
【0007】
例えば増幅器など入出力特性が非線形である素子がマイクロ波信号を増幅すると、線路上には増幅後のマイクロ波信号の基本波と、不要な高調波とが発生する。不要な高調波を除去するためのフィルタを線路上の何れかの箇所に設けることを必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、一実施形態によれば、導電性のベースプレートと、このベースプレートの主面上の地導体、この地導体上の誘電体およびこの誘電体上の中心導体をそれぞれ有し、基本波成分を有する高周波信号、および基本波周波数の逓倍周波数を持つ高調波成分の周波数信号を伝送させる少なくとも2つの基板と、これらの基板の対向する側壁面の間に空隙を空けて各基板を前記ベースプレート上に固定する固定具と、この固定具により固定された各基板の前記中心導体の間を接続する導体部材と、を備え、この導体部材が前記基本波成分および前記高調波成分に与えるインピーダンスを、前記導体部材の線路長、前記側壁面間の距離および前記主面に凹設される溝の溝深さの何れか一つ以上によって変化させ、前記高調波成分の電力の減衰量を、前記基本波成分の電力の減衰量に対して2dB以上にしたことを特徴とするマイクロストリップ線路間の接続構造が提供される。
【0009】
また、別の一実施形態によれば、基本波成分を有する高周波信号の入出力方向に設けられた導電性のベースプレートと、このベースプレートの主面上に信号入力側に設けられ、この主面上に接地される地導体、この地導体上の誘電体、およびこれらの地導体及び誘電体と共にマイクロストリップ線路を構成する前記誘電体上の中心導体を有する入力側基板と、この入力側基板と対向して前記主面上に信号出力側に設けられ、前記主面上に接地される地導体、この地導体上の誘電体、およびこれらの地導体及び誘電体と共にマイクロストリップ線路を構成する前記誘電体上の中心導体を有する出力側基板と、これらの出力側基板および入力側基板の対向する側壁面の間に空隙を空けて前記出力側基板および前記入力側基板を前記ベースプレート上に固定する固定具と、この固定具により固定された前記入力側基板を伝送する前記高周波信号の基本波周波数の逓倍周波数を持つ高調波成分の周波数信号を発生させるマイクロ波部品と、このマイクロ波部品からの前記周波数信号および前記高周波信号が伝送する前記入力側基板の前記中心導体および前記出力側基板の前記中心導体の間を接続する導体部材と、を備え、この導体部材が前記基本波成分および前記高調波成分に与えるインピーダンスを、前記導体部材の線路長、前記側壁面間の距離および前記主面に凹設される溝の溝深さの何れか一つ以上によって変化させ、前記高調波成分の電力の減衰量を、前記基本波成分の電力の減衰量に対して2dB以上にしたことを特徴とするマイクロ波ユニットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は第1の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図であり、(b)は同接続構造の(a)の縦断面図である。
【図2】第1の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造による高周波波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るマイクロ波ユニットを含む増幅器モジュールの構成例を示す図である。
【図4】(a)から(c)は比較例に係るマイクロ波ユニットのマイクロストリップ線路の接続部を示す図である。
【図5】(a)は第2の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図であり、(b)は同接続構造の縦断面図であり、(c)は第2の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造による高周波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。
【図6】(a)は第3の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図であり、(b)は同接続構造の縦断面図であり、(c)は第3の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造による高周波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。
【図7】(a)は第4の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図であり、(b)は同接続構造の縦断面図であり、(c)は第4の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造による高周波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。
【図8】第4の実施形態の変形例に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造およびマイクロ波ユニットについて、図1乃至図8を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1(a)は第1の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図である。図1(b)は同接続構造の図1(a)のAA′間に沿った縦断面図である。これらの図中、同一の符号を付したものは互いに同じ要素を表す。同図の例では、左方が入力端子側であり、右方が出力端子側である。
【0013】
本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造はそれぞれマイクロストリップ線路を有する入出力基板間を接続するための構造である。本実施形態に係るマイクロ波ユニットは、このマイクロストリップ線路間の接続構造を有する増幅器モジュールである。
【0014】
本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造は、導電性のケース10(ベースプレート)と、このケース10の主面上で入力端子側に設けられた入力側基板11と、この入力側基板11と対向して主面上で出力端子側に設けられた出力側基板12と、入出力基板11、12(入力側基板11及び出力側基板12)を対向する側壁面28、29間に空隙13を空けた状態のままケース10上に固定する複数本のネジ14(固定具)と、固定された入出力基板11、12の各中心導体を接続する接続用の導体箔15(導体部材)とを備えている。
【0015】
ケース10はシールドケースの底壁であり、ベースプレートとして機能する。このケース10はアルミニウムや銅などの金属からなる。ケース10は、入出力基板11、12の各マイクロストリップ線路のアース面を共通させる。
【0016】
入力側基板11はケース10の主面上の地導体16、この地導体16上の誘電体層17(誘電体)及びこの誘電体層17上に設けられた中心導体18を備えている。地導体16及び中心導体18は何れも金や銅といった金属層である。地導体16の下面とケース10の主面とは半田付けなどによって固定されている。中心導体18はストリップ導体である。中心導体18はフォトレジストを用いてエッチング処理するなどして生成されている。誘電体層17には例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレンが用いられる。これらの地導体16、誘電体層17及び中心導体18はマイクロストリップ線路を構成する。このマイクロストリップ線路を、左方の図示しない入力端子より入力されたマイクロ波信号(高周波信号)が伝送する。
【0017】
マイクロ波信号は基本波成分を有する。増幅素子などのマイクロ波部品をマイクロ波信号が通過すると、マイクロ波部品は、基本波周波数を逓倍した周波数を有する高調波成分を出力する。入出力基板11、12には、基本波成分と高調波成分とが伝播する。
【0018】
出力側基板12はケース10の主面上の地導体19、この地導体19上の誘電体層20(誘電体)及びこの誘電体層20上に設けられた中心導体21を備えている。地導体19及び中心導体21は何れも金や銅の金属層である。地導体19の下面とケース10の主面とは半田付けにより固定されている。中心導体21はストリップ導体であり、フォトレジストを用いたエッチング処理などによって生成される。誘電体層20にはPTFEが用いられる。これらの地導体19、誘電体層20及び中心導体21によりマイクロストリップ線路が構成される。このマイクロストリップ線路を、導体箔15からのマイクロ波信号が伝送し、右方の図示しない出力端子より出力されるようになっている。
【0019】
また、入力側基板11の誘電体層17と、出力側基板12の誘電体層20との上には中心導体18、21とは別の配線パターンが形成されており、入出力基板11、12の何れか一方又は両方に図示しない増幅素子や受動素子等がこの配線パターンに接続されている。入力側基板11及び出力側基板12はそれぞれ上下に基板材を貫通するネジ孔が形成されている。
【0020】
複数のネジ14は、地導体16の裏面及びケース10の主面の間を密着させ、地導体19の裏面及びケース10の主面の間を密着させる。入力側基板11においては、基板幅方向で中心導体18を挟んで対称な位置がネジ止めされている。出力側基板12においては、基板幅方向で中心導体21を挟んで対称な位置がネジ止めされている。基板幅方向とは、基板長方向(信号電力の伝播方向)と主面上で直交する方向を指す。
【0021】
接続用の導体箔15は金又は銅により形成された箔である。あるいは導体箔15には電線等が用いられる。本実施形態による接続構造は、導体箔15が下方に垂れないよう上方に湾曲させて導体箔15を撓ませている。メインラインとしての導体箔15と、アース面としてのケース10の主面との間の物理的な距離が長くされている。導体箔15を撓ませることにより、この導体箔15は温度変化やネジ止めの際に入出力基板11、12に発生するストレス(応力)等を受けないようにされている。この導体箔15の両端部はそれぞれ中心導体18、21上にはんだ付け等により固定されている。
【0022】
本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造は、マイクロ波信号に対するインピーダンスを、導体箔15の線路長によって変化させている。導体箔15の線路長とは、側面視で円弧状に湾曲する導体箔15の経路長に実質等しい。経路とは、導体箔15の一端の固定点からループ状の信号伝送経路を通りこの導体箔15の他端の固定点までを指す。導体箔15の経路長は、例えば入力側基板11の基板厚さの約2倍から約3倍にする等の目安によって決められる。撓み量は導体箔15が切断されない程度に値に決められている。
【0023】
図2は本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造によるマイクロ波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。同図の横軸は周波数を表す。縦軸は周波数成分の電力の減衰量を表す。この減衰量は、マイクロ波信号が導体箔15を伝送する前のこのマイクロ波信号の信号電力を基準値としており、基準値は例えば0dBである。基本波の周波数は1GHzである。3倍波の周波数は3GHzである。本実施形態による接続構造は、マイクロ波信号の基本波成分の電力の減衰量に対して、目的とする3倍波成分の電力の減衰量が2dB以上になるようにしている。更には基本波の周波数などを適宜選択することにより3倍波の周波数成分の電力の減衰量を、基本波成分のそれに対して3dB以上にするようにもできる。
【0024】
本実施形態に係るマイクロ波ユニットはこのマイクロストリップ線路間の接続構造を有する。それぞれ3段に直列接続された3つの増幅器モジュールのうちの2番目の増幅器モジュールにマイクロ波ユニットが用いられる場合の構成例を図3に示す。図3はマイクロ波ユニットを含む増幅器モジュールの構成例を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。マイクロ波増幅器22はマイクロ波信号の送信系に設けられたマイクロ波回路である。マイクロ波増幅器22は、マイクロ波ユニット1よりも前段に設けられた第1増幅器モジュール(第1増幅器)23と、入出力基板11、12を有し、マイクロストリップ線路間の接続構造を有する増幅器モジュールを構成するマイクロ波ユニット1と、このマイクロ波ユニット1よりも後段に設けられた第2増幅器モジュール(第2増幅器)24とを備えている。マイクロ波ユニット1は、入力側基板11上の増幅素子25と、出力側基板12上の増幅素子26とのうちの一方又は両方を備えている。
【0025】
このような構成のマイクロ波ユニット1には、第1増幅器モジュール23が増幅出力したマイクロ波信号が入力される。この第1増幅器モジュール23や増幅素子25の増幅特性は非線形性を有する。入力側基板11のマイクロストリップ線路をマイクロ波信号が通った後、不要な高調波が発生する。導体箔15は、中心導体18上における導体箔15の一端側の固定点を含む側壁面28と、中心導体21における導体箔15の他端側の固定点を含む側壁面29との間の空間でのインピーダンスを変えている。高調波成分が導体箔15を見ると、マイクロストリップ線路間の接続部においてインピーダンスを高くできる。
【0026】
基本波に影響を与えない範囲で、マイクロストリップ線路間を長い導体箔15によって接続することにより、マイクロストリップ線路間の接続部のインピーダンスが高められる。マイクロ波ユニット1はマイクロ波信号に導体箔15を通過させることにより、3倍波を抑圧する。基本波成分の減衰量に対して目的とする高調波成分がより減衰される。
【0027】
使用する基本波の周波数によってマイクロ波信号が受ける影響が変わるため、マイクロストリップ線路間の距離や導体箔15の長さは影響を与える要素に応じて元々変動しうるものである。高調波は減衰させて使うものであるため、マイクロ波ユニット1は、マイクロストリップ線路基板間の距離、及び導体箔15の長さを、基本波の伝送特性に応じて決めている。
【0028】
決め方の一例として、側壁面28、29間の距離や導体箔15の長さは、基本波の周波数を元にこれらの距離及び長さを漸増させて何回か実験を行ってマイクロ波信号の伝送特性を測ったときに、基本波の特性が悪化し始める直前の試行で使用した距離や長さを用いることが望ましい。
【0029】
基本波成分の損失がある程度許容されるという使用状況下でマイクロ波ユニット1が使われる場合、導体箔15により所望する高調波成分の減衰量を調節してもよい。又は、基本波の伝送特性の悪化がある程度許容される場合、接続部のインピーダンスをさらに高くすることが高調波を抑圧するためには効果的である。
【0030】
このマイクロ波ユニット1により、従来例と同等の費用でマイクロストリップ線路間の接続部において不要な高調波の抑圧をすることができる。高調波を除去するためのフィルタが不要になる。フィルタとはローパスフィルタあるいはバンドパスフィルタを指す。あるいはフィルタ数を削減することができる。あるいは減衰特性が急峻なフィルタを用いずに、減衰特性が比較的なだらか安価なフィルタに変更して使うことが可能になる。
【0031】
図4に比較例に係るマイクロ波ユニットのマイクロストリップ線路の接続部を示す。図4(a)は比較例に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図である。図4(b)は同接続構造の縦断面図である。図4(c)は比較例に係るマイクロストリップ線路間の接続構造によるマイクロ波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。これらの図中、既述の符号はそれらと同等な要素を表す。
【0032】
入力側基板11の信号伝送方向の基板端では、誘電体層17が途切れて無くなる。接地面の連続性が失われるため、マイクロストリップ線路の基板間の接続部では、急激なインピーダンスの不連続が起こる。VSWRの悪化を避け、伝送損失量を増大させないように、入出力基板11、12間が互いにできるだけ近づくように配置されている。
【0033】
図4(a)、図4(b)に示すように、マイクロ波ユニットは、接続用の導体100を中心導体18、21間において最短距離で配線している。最短距離の配線の実施によって、インピーダンスの不連続部を減らし、図4(c)に示すように低い周波数から高い周波数まで伝送損失が少なくなるようにされている。ところが、図4(a)、図4(b)の例では、マイクロストリップ線路は挿入損失が小さい。周波数特性上、周波数が変化しても挿入損失の大きさの変動量は少ない。比較例では線路上に不要な高調波が存在する場合、高調波成分が基本波成分と同様にそのまま伝送される。マイクロ波ユニットの特性が、所望する基本波の周波数に合わせて伝送損失を少なくするという特性である場合、高調波成分が損失無く伝送される。
【0034】
これに対して、マイクロ波ユニット1は導体箔15に周波数特性を持たせ、不要な高調波を伝送させないようにしている。換言すれば、マイクロ波ユニット1は、接続部のインピーダンスを意図的に変える点で、接続部のインピーダンスを変化させない従来例とは異なる。このようにして、マイクロ波ユニット1は、基本波の周波数を持つ信号に影響を与えない程度で3倍波に与えるインピーダンスを大きくし、これによって3倍波を抑圧させている。マイクロ波ユニット1は、マイクロ波信号に導体箔15を通過させるだけで、フィルタを用いずに基本波の電力を保ちつつ高調波の電力を減衰させることができる。
【0035】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、導体箔15の線路長を長くしていたが、入出力基板11、12の各側壁面28、29間の距離を拡げることにより、マイクロストリップ線路基板間の接続部を高インピーダンス化することができる。
【0036】
図5(a)は第2の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図である。図5(b)は同接続構造の図5(a)のBB′間に沿った縦断面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。
【0037】
本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造は、入力側基板11と、出力側基板12と、接続用の導線27(導体部材)とを備えている。この導線27は、入力側基板11の中心導体18と、出力側基板12の中心導体21とを接続する。導線27は多数本の金属素線が編組されて成る。導線27の両端部はそれぞれ中心導体18、21上にはんだ付け等により固定されている。側壁面28、29間の距離を大きくとることによって、基本波成分を減衰させずに、マイクロ波信号の3倍波成分に対する導線27によるインピーダンスが高められている。
【0038】
このような構成のマイクロ波ユニット2の入力側基板11をマイクロ波信号が通った後、不要な高調波が発生する。図5(c)は本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造によるマイクロ波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。マイクロ波信号の基本波成分の電力の減衰量に対して目的とする3倍波成分の電力の減衰量ATTが2dB以上である。基本波の周波数などを適宜選択することにより3倍波の周波数成分の電力の減衰量を基本波成分のそれに対して3dB以上にすることもできる。
【0039】
基本波に影響を与えない範囲で、マイクロストリップ線路間を長い導線27によって接続することにより、マイクロストリップ線路間の接続部のインピーダンスが高められる。マイクロ波ユニット1は、マイクロ波信号に導線27を通過させるだけで、フィルタを用いずに基本波の電力を保ちつつ高調波の電力を減衰させることができる。
【0040】
また、接続部を高インピーダンス化することによって図1で得られた効果と同様の効果が得られる。
【0041】
(第3の実施形態)
また、第1の実施形態の例よりも入出力基板11、12の各側壁面28、29間の距離を狭めるとともに導体部材の線路長を更に長くすることもできる。
【0042】
図6(a)は第3の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図である。図6(b)は同接続構造の図6(a)のCC′間に沿った縦断面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。
【0043】
本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造は接続用の銅箔30(導体部材)を備えている。この銅箔30は、入力側基板11の中心導体18と、出力側基板12の中心導体21とを接続する。銅箔30の両端部はそれぞれ中心導体18、21上にはんだ付け等により固定されている。銅箔30は、この銅箔30の途中部が上方に向かって引延ばされ、湾曲姿勢を保持した状態で起立している。中心導体18、21上から起立した状態の銅箔30の高さは、一例として、入出力基板11、12の基板厚みの3倍程度である。側壁面28、29間の空隙13のギャップ値が低くされてインピーダンスが小さくなる分を、銅箔30の線路長によるインピーダンスを大きくすることによって、メインラインとしての銅箔30と、アース面としてのケース10の主面との間の距離が確保されている。マイクロ波信号の3倍波成分に対するインピーダンスが高められている。
【0044】
このような構成のマイクロ波ユニット3の入力側基板11をマイクロ波信号が通った後、不要な高調波が発生する。
【0045】
図6(c)は本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造によるマイクロ波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。マイクロ波信号の基本波成分の電力の減衰量に対して、目的とする3倍波成分の電力の減衰量ATTが2dB以上である。基本波の周波数などを適宜選択することにより3倍波の周波数成分の電力の減衰量を、基本波のそれに対して3dB以上にすることができる。
【0046】
基本波に影響を与えない範囲で、マイクロストリップ線路間を長い銅箔30によって接続することにより、マイクロストリップ線路間の接続部のインピーダンスが高められる。マイクロ波ユニット3は、マイクロ波信号に銅箔30を通過させるだけで、フィルタを用いずに基本波の電力を保ちつつ高調波の電力を減衰させることができる。
【0047】
(第4の実施形態)
また、メインラインと、アース面との間の距離を稼ぐ方法として、ケース10の主面に溝を掘るようにもできる。
【0048】
図7(a)は第4の実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の上面図である。図7(b)は同接続構造の図7(a)のDD′間に沿った縦断面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。
【0049】
本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造は接続用の銅箔31(導体部材)と、ケース10の主面に凹設された溝32とを有する。銅箔31は、入力側基板11の中心導体18と、出力側基板12の中心導体21とを接続する。銅箔31の両端部はそれぞれ中心導体18、21上にはんだ付け等により固定されている。溝32はケース10の主面よりも低い溝底33を有する。メインラインとしての銅箔31と、アース面としての溝底33との間の距離が確保されている。マイクロ波信号の3倍波成分に対するインピーダンスが高められている。溝底33の溝深さの決め方は、例えば銅箔31を取付けた状態で溝深さの値を種々変えながら減衰量を計測するといった作業、実験による。
【0050】
このような構成のマイクロ波ユニット4の入力側基板11をマイクロ波信号が通った後、不要な高調波が発生する。
【0051】
図7(c)は本実施形態に係るマイクロストリップ線路間の接続構造によるマイクロ波信号の減衰量の周波数特性を示す図である。マイクロ波信号の基本波成分の電力の減衰量に対して目的とする3倍波成分の電力の減衰量ATTが2dB以上である。基本波の周波数などを適宜選択することによりこの接続構造は3倍波の周波数成分の電力の減衰量を、基本波のそれに対して3dB以上にすることができる。
【0052】
基本波に影響を与えない範囲で、溝32を凹設することにより、マイクロストリップ線路間の接続部のインピーダンスが高められる。マイクロ波ユニット4は、マイクロ波信号に銅箔31を通過させるだけで、フィルタを用いずに基本波の電力を保ちつつ高調波の電力を減衰させることができる。
【0053】
また、溝の大きさや形状は種々変更可能である。
【0054】
図8は第4の実施形態の変形例に係るマイクロストリップ線路間の接続構造の縦断面図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。この変形例に係るマイクロストリップ線路間の接続構造は、接続用の導体箔34(導体部材)と、入力側基板11と、出力側基板12と、ケース10の主面に凹設された溝35とを有する。
【0055】
マイクロ波ユニット5は、マイクロストリップ線路間の接続距離を延ばすこと、基板間の接続用の導体部材を長くすること、及びケース壁を掘込むことの3つを施したものである。空隙13の部分の線路長を計算上で延長し、接続部を高インピーダンス化することによって機器からの不要波(高調波)を抑圧することができる。
また、上記各実施形態のそれぞれを組合わせてもよい。導体箔15の線路長を長くすること、各側壁面間の距離を短くすること、及びケース10の主面に溝を掘ることのうち、何れか2つを実施するようにもできる。基本波の伝送特性に影響が現れない範囲で、導体部材の長さ、側壁面間の距離、及び溝の溝深さを変化させてもよい。
【0056】
(その他)
上記の実施形態では、高調波の次数は3次であったが、基本波の2倍高調波あるいは3倍を越える高次高調波を除去するようなインピーダンスを接続部あるいは導体箔15などの導体部材に与えるようにしてもよい。
【0057】
上記実施形態では、導体部材には導体箔15が用いられていたが、箔体と異なる棒状、板状あるいは細線状の導体片を導体部材として用いても良い。
【0058】
上記実施形態では、側方から見た導体箔15の形状や、溝の形状等は、対称性を有することが好ましい。
【0059】
上記実施形態では、ネジ止めにより地導体16、19をケース10に固定していたが、固定には半田付けや、導電性の接着剤による接着を用いても良い。
【0060】
上記実施形態では、マイクロ波ユニットは増幅器モジュール内の基板間の接続に用いられていたが、例えばアンテナスイッチ、アイソレータ、サーキュレータ、増幅器、移相器、ミクサなどに用いてもよい。
【0061】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
1,2,3,4,5…マイクロ波ユニット、10…ケース(ベースプレート)、11…入力側基板(基板)、12…出力側基板(基板)、13…空隙、14…ネジ(固定具)、15…導体箔(導体部材)、16…地導体、17…誘電体層(誘電体)、18…中心導体、19…地導体、20…誘電体層(誘電体)、21…中心導体、22…マイクロ波増幅器、23…第1増幅器モジュール、24…第2増幅器モジュール、25,26…増幅素子、27…導線(導体部材)、28,29…側壁面、30…銅箔(導体部材)、31…銅箔(導体部材)、32…溝、33…溝底、34…導体箔(導体部材)、35…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性のベースプレートと、
このベースプレートの主面上の地導体、この地導体上の誘電体およびこの誘電体上の中心導体をそれぞれ有し、基本波成分を有する高周波信号、および基本波周波数の逓倍周波数を持つ高調波成分の周波数信号を伝送させる少なくとも2つの基板と、
これらの基板の対向する側壁面の間に空隙を空けて各基板を前記ベースプレート上に固定する固定具と、
この固定具により固定された各基板の前記中心導体の間を接続する導体部材と、を備え、
この導体部材が前記基本波成分および前記高調波成分に与えるインピーダンスを、前記導体部材の線路長、前記側壁面間の距離および前記主面に凹設される溝の溝深さの何れか一つ以上によって変化させ、前記高調波成分の電力の減衰量を、前記基本波成分の電力の減衰量に対して2dB以上にしたことを特徴とするマイクロストリップ線路間の接続構造。
【請求項2】
前記導体部材は、前記高調波成分の電力の減衰量を、前記基本波成分の電力の減衰量に対して3dB以上にしたことを特徴とする請求項1記載のマイクロストリップ線路間の接続構造。
【請求項3】
前記導体部材は、前記基本波成分に影響を与えない範囲で前記高調波成分に対して高インピーダンスを与えることを特徴とする請求項1記載のマイクロストリップ線路間の接続構造。
【請求項4】
基本波成分を有する高周波信号の入出力方向に設けられた導電性のベースプレートと、
このベースプレートの主面上に信号入力側に設けられ、この主面上に接地される地導体、この地導体上の誘電体、およびこれらの地導体及び誘電体と共にマイクロストリップ線路を構成する前記誘電体上の中心導体を有する入力側基板と、
この入力側基板と対向して前記主面上に信号出力側に設けられ、前記主面上に接地される地導体、この地導体上の誘電体、およびこれらの地導体及び誘電体と共にマイクロストリップ線路を構成する前記誘電体上の中心導体を有する出力側基板と、
これらの出力側基板および入力側基板の対向する側壁面の間に空隙を空けて前記出力側基板および前記入力側基板を前記ベースプレート上に固定する固定具と、
この固定具により固定された前記入力側基板を伝送する前記高周波信号の基本波周波数の逓倍周波数を持つ高調波成分の周波数信号を発生させるマイクロ波部品と、
このマイクロ波部品からの前記周波数信号および前記高周波信号が伝送する前記入力側基板の前記中心導体および前記出力側基板の前記中心導体の間を接続する導体部材と、を備え、
この導体部材が前記基本波成分および前記高調波成分に与えるインピーダンスを、前記導体部材の線路長、前記側壁面間の距離および前記主面に凹設される溝の溝深さの何れか一つ以上によって変化させ、前記高調波成分の電力の減衰量を、前記基本波成分の電力の減衰量に対して2dB以上にしたことを特徴とするマイクロ波ユニット。
【請求項5】
前記導体部材は、前記高調波成分の電力の減衰量を、前記基本波成分の電力の減衰量に対して3dB以上にしたことを特徴とする請求項4記載のマイクロ波ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−5083(P2013−5083A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132124(P2011−132124)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】