マイクロチップの製造方法、及びマイクロチップ
【課題】樹脂製基板の接合強度を高めることが可能なマイクロチップの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂製基板10の表面には流路用溝が形成され、流路用溝の端部には貫通孔が形成されている。樹脂製基板20は、流路用溝と貫通孔とに沿った形状を有している。流路用溝が形成されている面を内側にして樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することで、内部に微細流路15、16が形成されたマイクロチップを製造する。樹脂製基板20の端部は、微細流路15、16と開口部17とから所定距離(2mm)以内の範囲に含まれている。
【解決手段】樹脂製基板10の表面には流路用溝が形成され、流路用溝の端部には貫通孔が形成されている。樹脂製基板20は、流路用溝と貫通孔とに沿った形状を有している。流路用溝が形成されている面を内側にして樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することで、内部に微細流路15、16が形成されたマイクロチップを製造する。樹脂製基板20の端部は、微細流路15、16と開口部17とから所定距離(2mm)以内の範囲に含まれている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流路用溝が形成された樹脂製基板を接合することでマイクロチップを製造する方法、及び、その接合によって製造されるマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術を利用してシリコンやガラス基板上に微細な流路や回路を形成し、微小空間上で核酸、タンパク質、血液などの液体試料の化学反応や、分離、分析などを行うマイクロ分析チップ、あるいはμTAS(Micro Total Analysis Systems)と称される装置が実用化されている。このようなマイクロチップの利点としては、サンプルや試薬の使用量又は廃液の排出量が軽減され、省スペースで持ち運び可能な安価なシステムの実現が考えられる。
【0003】
マイクロチップは、少なくとも一方の部材に微細加工が施された2つの部材をはり合わせることにより製造される。従来においては、マイクロチップにはガラス基板が用いられ、様々な微細加工方法が提案されている。しかしながら、ガラス基板は大量生産には向かず、非常に高コストであるため、廉価で使い捨て可能な樹脂製のマイクロチップの開発が望まれている。
【0004】
樹脂製のマイクロチップを製造する方法として、流路用溝が形成された樹脂製基板と、流路用溝をカバーする樹脂製基板とを接合する方法がある。樹脂製基板同士の接合には、熱板、熱風、熱ロール、超音波、振動、レーザなどを用いて樹脂製基板を加熱して接合する溶着方法、接着剤や溶剤を用いて樹脂製基板を接合する接着方法、樹脂製基板自体の粘着性を利用して接合する方法、及び、樹脂製基板にプラズマ処理などの表面処理を施すことで基板同士を接合する方法などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、接着方法においては、接合に用いる接着剤や溶剤が流路内に染み出てしまい、流路を汚染してしまう問題があった。そこで、従来においては、接着剤や溶剤が流路内に染み出ることを防止するために、流路用溝が形成された基板とカバー部材とに接着剤を逃がすための逃げ部を形成し、流路近傍とそれ以外の接合面とを分割して樹脂製基板同士を接合していた(例えば特許文献1、及び特許文献2)。
【0006】
また、熱板を用いた熱圧着法や熱ロールを用いた熱ラミネート法によって樹脂製基板同士を接合する場合、流路用溝が形成された樹脂製基板に、接合の位置決め用の孔を形成しておき、カバー部材は、その位置決め用の孔を覆うことがないように、流路用溝が形成された樹脂製基板よりも所定寸法小さく形成して接合していた(例えば特許文献3)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−106508号公報
【特許文献2】特開2004−136637号公報
【特許文献3】特開2004−151041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、樹脂製基板の接合面が剥離してしまう場合があり、流路近傍の接合面の剥離は、流路から分析試料が漏れる原因になる。その剥離が、顕微鏡で観察しなければ確認できないような小さい剥離であっても、流路内での分析試料の流れや移動が変わってしまうおそれがある。そのため、マイクロチップには、強固な接合強度が求められている。
【0009】
また、マイクロチップは、取り扱いやすさから数cm角の大きさが望まれる。しかしながら、マイクロチップを作製する場合に、基板の全面を接合するためには、すべての接合面に高い面精度が要求される。
【0010】
一方、流路用溝が形成された樹脂製基板を成形する方法には、射出成形法、プレス成形法、又は機械加工法などの方法がある。しかしながら、成形時において入熱条件や加圧条件が場所によって不均一になり、成形の精度が悪化しやすくなる。その結果、樹脂製基板の表面の平面精度が悪化し、マイクロチップの接合強度を高めることが困難であった。また、成形型の面精度が転写されるため、成形型にも高い面精度が要求される。
【0011】
上述した特許文献1と特許文献2に記載の方法では、接着剤を用いて樹脂製基板を接合している。この方法によって樹脂製基板を接合する場合、接合面の平面精度によって接着層における接合強度がばらついてしまい、接合強度が低くなってしまう問題がある。また、接着剤を逃がすための逃げ部を設けているため、その逃げ部によっても基板表面の平面精度が悪化するおそれがあり、さらに、マイクロチップのサイズが拡大してしまう問題がある。また、上述した特許文献3に記載の方法においても、接合面の平面精度に関する問題は解決されていない。
【0012】
また、流路用溝が形成された樹脂製基板を射出成形法によって作製する場合、ヒートサイクル成形を用いることにより、表面の平面精度を向上させることができる。しかしながら、ヒートサイクル成形に用いる設備の導入や、成形サイクルの長時間化によって、樹脂製基板の製造コストが高くなってしまう問題がある。また、射出成形法では、成形型によって形成されたキャビティ空間に射出成形のゲートを通して樹脂を射出することにより、流路用溝が表面に形成された樹脂製基板を作製する。ヒートサイクル成形によって面精度を向上させることができても、成形した樹脂製基板と射出成形のゲートとを切り離す工程において、ゲート近傍における基板表面の平面精度が悪化してしまう問題がある。
【0013】
以上のように、樹脂製基板の平面精度が悪化することにより、2つの樹脂製基板の接合面の密着性が低下し、その結果、樹脂製基板の接合強度が低下してしまう問題があった。
【0014】
この発明は上記の問題を解決するものであり、樹脂製基板の接合強度を高めることが可能なマイクロチップの製造方法、及び樹脂製基板同士の接合強度が高められたマイクロチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の第1の形態は、2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合するマイクロチップの製造方法であって、前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部を、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含ませて前記2つの樹脂製基板を接合する接合工程を含むマイクロチップの製造方法である。
また、この発明の第2の形態は、第1の形態に係るマイクロチップの製造方法であって、前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部は、前記一方の樹脂製基板を前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれ、前記接合工程では、前記一方の樹脂製基板を、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねて、前記2つの樹脂製基板を接合することを特徴とする。
また、この発明の第3の形態は、第2の形態に係るマイクロチップの製造方法であって、前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であり、前記個別基板のすべての端部は、前記複数の個別基板を前記他方の樹脂製基板に形成された溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれ、前記接合工程では、前記複数の個別基板のそれぞれを、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記個別基板と前記他方の樹脂製基板とを接合することを特徴とする。
また、この発明の第4の形態は、第1の形態から第3の形態のいずれかに係るマイクロチップの製造方法であって、前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする。
また、この発明の第5の形態は、第1の形態から第4の形態のいずれかに係るマイクロチップの製造方法であって、前記接合工程では、前記2つの樹脂製基板を重ねた状態で前記2つの樹脂製基板を加熱して溶着することで前記接合を行うことを特徴とする。
また、この発明の第6の形態は、第1の形態から第5の形態のいずれかに係るマイクロチップの製造方法であって、前記接合によって、電気泳動分析に用いるマイクロチップを製造することを特徴とする。
また、この発明の第7の形態は、2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合されたマイクロチップであって、前記貫通孔と前記流路用溝とは繋がっており、前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部が、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれることを特徴とするマイクロチップである。
また、この発明の第8の形態は、第7の形態に係るマイクロチップであって、前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板と接合された基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする。
また、この発明の第9の形態は、第8の形態に係るマイクロチップであって、前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に接合された基板であり、前記複数の個別基板のそれぞれは、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記他方の樹脂製基板と接合されて、前記個別基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする。
また、この発明の第10の形態は、第7の形態から第9の形態のいずれかに係るマイクロチップであって、前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする。
また、この発明の第11の形態は、第7の形態から第10の形態のいずれかに係るマイクロチップであって、前記2つの樹脂製基板は、加熱して溶着することで接合されたことを特徴とする。
また、この発明の第12の形態は、第7の形態から第11の形態のいずれかに係るマイクロチップであって、電気泳動分析に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、一方の樹脂製基板の端部を、流路用溝から2mm以内の範囲に含ませて2つの樹脂製基板を接合することで、接合に供する面が小さくなるため、接合において平面精度の影響を受ける範囲が狭くなる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面であっても、その表面の影響を低減して2つの樹脂製基板を接合することが可能となる。その結果、マイクロチップの接合強度をより高くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの製造方法と、その製造方法により製造されたマイクロチップについて、図1から図5を参照して説明する。図1は、この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の上面図である。図2は、この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図1のII−II断面図である。図3は、この発明の第1実施形態に係る他方の樹脂製基板を示す上面図である。図4は、この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの上面図である。図5は、この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図4のV−V断面図である。
【0018】
図1に示すように、樹脂製基板10は、1例として、正方形や長方形などの四角形の外形形状を有している。樹脂製基板10の一方の表面には、直線状の流路用溝11と直線状の流路用溝12とが形成されている。この実施形態では、1例として流路用溝11と流路用溝12とが直交して樹脂製基板10の表面に形成されている。なお、流路用溝11と流路用溝12とは直交せずに、任意の角度をなして樹脂製基板10に形成されていても良い。また、図1と図2とに示すように、流路用溝11の両端部と流路用溝12の両端部とには、樹脂製基板10の厚さ方向に貫通する貫通孔13が形成されている。貫通孔13は、流路用溝11の端部と流路用溝12の端部とに繋がっている。
【0019】
樹脂製基板10の接合の相手方となる樹脂製基板20を図3に示す。樹脂製基板20は平板状の基板である。また、樹脂製基板20の外形形状は、樹脂製基板10の表面に形成された流路用溝11、12の形状と、貫通孔13が形成されている位置とに依存する。例えば、樹脂製基板20の外形形状は、流路用溝11、12と貫通孔13とに沿った形状となっている。具体的には、樹脂製基板20の外形形状は、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12が形成されている位置と貫通孔13が形成されている位置とから、所定距離d以内の範囲に含まれる形状となっている。これにより、樹脂製基板10の表面に形成された流路用溝11、12の位置に合わせて樹脂製基板20を樹脂製基板10に重ねて接合したときに、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12と貫通孔13とから所定の距離d以内の範囲に含まれることになる。
【0020】
例えば、樹脂製基板10には、直線状の流路用溝11と直線状の流路用溝12とが直交して形成され、流路用溝11、12のそれぞれの両端部には貫通孔13が形成されている。そのため、カバー側の樹脂製基板20の外形形状は、流路用溝11に沿った直線状の部材21と、流路用溝12に沿った直線状の部材22とを備えた形状となっている。例えば、流路用溝11に沿った直線状の部材の幅と流路用溝12に沿った部材の幅とを幅wとする。幅wと、流路用溝11、12の幅と、距離dとの間には、以下の式(1)が成立する。
幅w≦流路用溝の幅+(2×距離d) ・・・式(1)
この式の条件を満たすことで、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合したときに、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12から距離d以内の範囲に含まれることになる。なお、図3には、樹脂製基板20の形状を模式的に表しており、流路用溝と貫通孔とが形成されている位置に応じて、カバー側の樹脂製基板の形状を変えれば良い。
【0021】
そして、図4と図5に示すように、流路用溝11、12が形成されている面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することでマイクロチップを製造する。このとき、樹脂製基板10に形成された流路用溝11、12の位置と貫通孔13の位置とに合わせて、樹脂製基板20を樹脂製基板10に重ねて接合する。この接合によって、樹脂製基板20が流路用溝11、12の蓋(カバー)として機能し、流路用溝11によって微細流路15が形成され、流路用溝12によって微細流路16が形成される。さらに、樹脂製基板10には、流路用溝11の両端部と流路用溝12の両端部とに貫通孔13が形成されており、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することで、マイクロチップに開口部17が形成される。このように、第1実施形態に係るマイクロチップは、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを備えて構成されている。マイクロチップの内部には、直線状の微細流路15と微細流路16とが互いに直交して形成されており、さらに、微細流路15の両端部と微細流路16の両端部とには開口部17が形成されている。
【0022】
樹脂製基板10の貫通孔13は流路用溝11、12と繋がっているため、その貫通孔13による開口部17は微細流路15、16に繋がっている。この開口部17は、ゲル、試料、緩衝液の導入、保存、排出を行うための孔である。開口部17(貫通孔13)の形状は、円形状や矩形状の他、様々な形状であっても良い。
【0023】
樹脂製基板20の幅wと、流路用溝11、12の幅と、距離dとの間には、上記の式(1)の関係が成立するため、樹脂製基板20のすべての端部が、微細流路15、16から距離d以内の範囲内に含まれることになる。なお、図4に示す例では、樹脂製基板20のすべての端部から微細流路15、16までの距離が距離dと等しくなっているが、距離d以内となっていれば良い。
【0024】
以上のように、カバー側の樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12と貫通孔13とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、樹脂製基板10と樹脂製基板20とが接合する面をより小さくすることが可能となる。このように接合面が小さくなることで、接合において平面精度の影響を受ける範囲がより狭くなる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面であっても、その表面の影響を低減して樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。その結果、樹脂製基板10と樹脂製基板20との接合強度をより高くすることが可能となる。
【0025】
1例として、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12(微細流路15、16)と貫通孔13(開口部17)とから、2mm以内の範囲に含まれることが好ましく、0.2mm〜2mmの範囲内に含まれていることがより好ましい。樹脂製基板20のすべての端部をこの範囲に含ませることで樹脂製基板10との接合強度を保ちつつ、平面精度が比較的低い表面の影響を低減して、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。なお、マイクロチップの大きさによって、距離dの範囲を変えても良い。例えば、マイクロチップの大きさによって、距離dを3mm以内や5mm以内にした場合であっても、平面精度が比較的低い表面の影響を低減して、マイクロチップの接合強度を高めることができる。
【0026】
また、射出成形によって樹脂製基板10を作製する場合、樹脂製基板10の端部や角が盛り上がるおそれがある。そのことにより、端部や角において平面精度が比較的低くなり、基板同士の接合強度が低くなってしまう。例えば、樹脂製基板10の角から1mmの範囲内に含まれる表面は、平面精度が比較的低くなるおそれがある。
【0027】
これに対して第1実施形態によると、樹脂製基板20の外形形状を樹脂製基板10に形成された流路用溝と貫通孔とに沿った形状とし、樹脂製基板20の大きさを樹脂製基板10の大きさよりも小さくすることで、樹脂製基板10の角近傍の表面を避けて樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面を避けて、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となり、マイクロチップの接合強度をより高めることが可能となる。
【0028】
また、マイクロチップは基板の角から剥がれやすいため、樹脂製基板10の角を避けて樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することで、角から剥がれにくいマイクロチップを作製することができる。
【0029】
また、射出成形によって樹脂製基板10を作製する場合、ゲート近傍の表面の平面精度が比較的低くなるおそれがある。第1実施形態によると、射出成形のときに使用されたゲート近傍の表面を避けて、平面精度が比較的高い面を接合面にして樹脂製基板同士を接合することが可能となる。例えば、図4に示す樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合する場合、ゲート近傍の表面を避けて接合することができる。すなわち、カバー側の樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12と貫通孔13とから所定の距離(0.2mm〜2mm)の範囲に含まれるため、樹脂製基板10のゲート近傍の表面を避けて、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。これにより、平面精度が比較的低いゲート近傍の表面を避けて、平面精度が比較的高い表面を接合面として、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。その結果、マイクロチップの接合強度をより高めることが可能となる。
【0030】
なお、樹脂製基板10の外形形状は、ハンドリング、分析しやすい形状であれば良く、正方形や長方形などの形状が好ましい。例えば、10mm角〜200mm角程度の大きさが好ましく、10mm角〜100mm角がより好ましい。また、貫通孔13の内径は、分析手法や分析装置に合わせれば良く、例えば2mm程度であることが好ましい。
【0031】
樹脂製基板10、20には樹脂が用いられる。その樹脂としては、成形性(転写性、離型性)が良いこと、透明性が高いこと、紫外線や可視光に対する自己蛍光性が低いことなどが条件として挙げられる。例えば、樹脂製基板10、20には熱可塑性樹脂が用いられる。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサン、環状ポリオレフィンなどを用いることが好ましい。特に好ましいのは、ポリメタクリル酸メチル、環状ポリオレフィンを用いることである。なお、樹脂製基板10と樹脂製基板20とで、同じ材料を用いても良いし、異なる材料を用いても良い。また、流路用溝が形成されていない樹脂製基板20には、熱可塑性樹脂の他、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂などを用いても良い。熱硬化性樹脂としては、ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましい。
【0033】
樹脂製基板10、20は、押出成形法、Tダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダ成形法、射出成形法、プレス成形法、又は機械加工法等の方法によって作製することができる。例えば、射出成形法によって、流路用溝や突起部を樹脂製基板の表面に形成しても良いし、機械加工法によって、流路用溝や突起部を樹脂製基板の表面に形成しても良い。また、樹脂製基板10と樹脂製基板20とでは、同じ方法で作製しても良いし、異なる方法で作製しても良い。
【0034】
なお、微細流路15、16の形状は、分析試料、試薬の使用量を少なくできること、成形金型の作製精度、転写性、離型性などを考慮して、幅、深さともに、10μm〜200μmの範囲内の値であることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、微細流路15、16の幅と深さは、マイクロチップの用途によって決めれば良い。なお、説明を簡便にするために、微細流路15、16の断面の形状は矩形状となっているが、この形状は1例であり、曲面状となっていても良い。また、溝の幅と高さは、微細流路15と微細流路16とで同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0035】
また、流路用溝11、12が形成された樹脂製基板10の板厚は、成形性を考慮して、0.2mm〜5mm程度が好ましく、0.5mm〜2mmがより好ましい。流路用溝11、12を覆うための蓋(カバー)として機能する樹脂製基板20の板厚は、成形性を考慮して、0.2mm〜5mm程度が好ましく、0.5mm〜2mmがより好ましい。また、蓋(カバー)として機能する樹脂製基板20に流路用溝を形成しない場合、板状の部材ではなく、フィルム(シート状の部材)を用いても良い。この場合、フィルムの厚さは、30μm〜300μmでることが好ましく、50μm〜150μmであることがより好ましい。
【0036】
(接合)
樹脂製基板10と樹脂製基板20との接合は、熱圧着又は熱ラミネートによって行われる。樹脂製基板10、20に対して熱圧着又は熱ラミネートを施すことにより、樹脂製基板10、20の接合面における樹脂を溶融させて、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合する。
【0037】
例えば熱圧着の場合、流路用溝11、12が形成された面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを重ねる。その状態で、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加熱することで接合面を溶融させ、さらに、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加圧することで接合する。例えば、70℃〜200℃の範囲で樹脂製基板10、20を加熱し、その状態で樹脂製基板10、20を加圧することで、基板同士を接合する。また、熱ラミネートの場合、樹脂製基板10、20を加熱した状態で、ロールによって樹脂製基板10、20を加圧することで、基板同士を接合する。
【0038】
また、熱圧着及び熱ラミネートの他、レーザ溶着又は超音波溶着によって樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合しても良い。
【0039】
レーザ溶着の場合、流路用溝11、12が形成された面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを重ねる。その状態で、樹脂製基板10と樹脂製基板20に対してレーザを照射することで接合面を溶融させ、さらに、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加圧することで接合する。例えば、0.1W〜20Wのレーザ強度で樹脂製基板上を走査することで、基板同士を接合する。
【0040】
また、超音波溶着の場合、流路用溝11、12が形成された面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを重ねる。その状態で、樹脂製基板10と樹脂製基板20に対して超音波を照射することで接合面を溶融させ、さらに、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加圧することで接合する。例えば、10kHz〜50kHzの超音波を印加しながら樹脂製基板を加圧することで、基板同士を接合する。
【0041】
以上のように、溶着によって接合する場合は、接着のように接着剤を介して2つの樹脂製基板を接合するのではなく、2つの樹脂製基板を直接、接触させて接合するため、樹脂製基板の表面の平面精度が接合状態に大きく影響する。この実施形態のように、一方の樹脂製基板の端部の一部を、他方の樹脂製基板の端部よりも内側にして2つの樹脂製基板を接合することにより、溶着のように2つの樹脂製基板を直接接触させる場合であっても、強固な接合強度を得ることができる。
【0042】
また、微細流路15と微細流路16とが直交して形成されたマイクロチップは、例えば電気泳動法に用いられる。例えば、開口部17から微細流路15の内部に試料や緩衝液を加圧注入し、さらに、マイクロチップの開口部17の2箇所に電極を差し込み、高電圧をかけて電気泳動を行う。1例として、開口部17から微細流路15の内部にポリマーを含む緩衝液を加圧注入し、つづいて蛍光標識したDNAサンプルを注入する。さらに、開口部17の2箇所に電極を差し込み、高電圧をかけて電気泳動を行い、蛍光検出器によりDNAサンプルを検出する。
【0043】
なお、第1実施形態においては、カバー側の樹脂製基板20の外形形状を樹脂製基板10に形成された流路用溝と貫通孔とに沿った形状とし、樹脂製基板20の大きさを樹脂製基板10の大きさよりも小さくすることで、接合に供する表面を小さくする。この接合の例は1例であり、2つの樹脂製基板のうち、いずれか一方の樹脂製基板の大きさを小さくして接合しても、この実施形態と同じ効果を奏することができる。例えば、樹脂製基板20に流路用溝と貫通孔とを形成し、樹脂製基板10を平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板10と樹脂製基板20とが接合する面が小さくなるため、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板10には流路用溝11、12のみを形成し、樹脂製基板20に貫通孔を形成しても良い。
【0044】
[第1実施形態の変形例]
次に、上述した第1実施形態の変形例について図6から図9を参照して説明する。図6は、第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の上面図である。図7は、第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図6のVII−VII断面図である。図8は、第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。図9は、第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの断面図であり、図8のIX−IX断面図である。
【0045】
図6に示すように、変形例に係る樹脂製基板10Aの一方の表面には、第1実施形態に係る樹脂製基板10と同様に、流路用溝11、12が形成されている。また、流路用溝11、12の両端部には、樹脂製基板10Aの厚さ方向に貫通する貫通孔13が形成されている。さらに、樹脂製基板10Aには、流路用溝11、12が形成されている表面とは反対側の表面に凹凸部材が設けられている。例えば図6と図7に示すように、樹脂製基板10Aには、流路用溝11、12が形成されている表面とは反対側の表面であって貫通孔13の周囲に、円筒状の突起部14が設けられている。突起部14は貫通孔13を囲み、樹脂製基板10Aの厚さ方向に突出している。この突起部14にチューブやノズルを嵌合して、試料などの導入や排出を行う。なお、図6に示す突起部14は円筒状の形状を有しているが、これは1例であり、多角形の形状を有していても良い。このように、樹脂製基板10Aは、突起部14を除いて第1実施形態に係る樹脂製基板10と同じ構成を有している。
【0046】
また、図8と図9とに示すように、第1実施形態と同様に、樹脂製基板10Aの接合の相手方となる樹脂製基板20は平板状の基板である。そして、流路用溝11、12が形成されている面を内側にして、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20とを接合することでマイクロチップを製造する。この接合によって、マイクロチップの内部には、直線状の微細流路15と微細流路16とが互いに直交して形成され、さらに、微細流路15の両端部と微細流路16の両端部とには開口部17が形成される。そして、突起部14に、分析装置に設けられたチューブやノズルを嵌合し、そのチューブやノズルを介して、ゲル、試料、又は緩衝液などを微細流路に導入し、又は、微細流路15、16から試料などを排出する。
【0047】
上述した第1実施形態と同様に、樹脂製基板20の幅wと、流路用溝11、12の幅と、距離dとの間には、上記の式(1)の関係が成立するため、樹脂製基板20のすべての端部が、微細流路15、16から距離d以内の範囲内に含まれることになる。そのことにより、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20との接合面がより小さくなるため、接合において平面精度の影響を受ける範囲をより小さくすることが可能となる。その結果、平面精度が比較的低い表面であっても、その表面の影響を低減して、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20との接合強度をより高くすることが可能となる。
【0048】
さらに、射出成形によって樹脂製基板10Aの貫通孔13の周囲に突起部14を形成する場合、樹脂製基板10Aが偏肉するため、樹脂製基板10Aにおける接合面の平面精度はより低くなる。より詳しく説明すると、突起部14を形成することで、樹脂製基板10Aの厚さが部分的に異なる。厚さが部分的に異なることで、成形中、樹脂製基板10Aの各部分における冷却過程がそれぞれ変わってしまい、その結果、樹脂製基板10Aの表面に歪みができやすくなる。その結果、突起部14を形成した場合には、樹脂製基板10Aにおける接合面の平面精度がより低くなる。従って、突起部14を設けた樹脂製基板10Aを接合する場合は、接合強度がより低くなってしまうおそれがある。
【0049】
これに対して、樹脂製基板20のすべての端部を、流路用溝11、12と貫通孔13とから距離d以内の範囲に含ませることで、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20との接合面がより小さくなるため、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。その結果、接合強度がより低くなり得る突起部14を形成した場合であっても、マイクロチップの接合強度をより高めることが可能となる。
【0050】
なお、この変形例においては、分析装置と接続するための突起部14を貫通孔13の周囲に設けた例について説明したが、樹脂製基板10Aの表面に設けられる凹凸部材は、この突起部14に限定されない。凹凸部材の別の例として、微細流路内を流れる試料の流動を制御するための流動制御機構や、マイクロチップ上で分析するための反応機構を表面に形成しても良い。
【0051】
流動制御機構の例として、スイッチ機構が該当する。例えば、微細流路と繋がる貫通孔を樹脂製基板10Aに形成し、その貫通孔を通して微細流路内を流れる試料の流動を制御するためのスイッチ機構を、樹脂製基板10Aの表面に形成する。このスイッチ機構が凹凸部材の1例に該当する。そのスイッチを微細流路内に挿入する程度を変えることで、微細流路内を流れる試料の量などを制御する。
【0052】
また、反応機構の例として、光ファイバーを固定するための固定部やレンズが該当する。例えば、分析用の光ファイバーをマイクロチップに取り付けるための固定部を樹脂製基板10Aの表面に形成する。また、分析装置からの光を微細流路内に集光するためのレンズなどを樹脂製基板10の表面に形成しても良い。固定部やレンズなどが凹凸部材の1例に該当する。
【0053】
以上のような凹凸部材を樹脂製基板10Aに形成した場合も、突起部14を形成した場合と同様に、樹脂製基板10Aの表面の平面精度が低くなってしまう。そのような場合であっても、この変形例によれば、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20とが接合する面を小さくすることで、接合において平面精度の影響を低減して、マイクロチップの接合強度を高めることが可能となる。
【0054】
なお、樹脂製基板20に流路用溝と貫通孔と突起部とを形成し、樹脂製基板10Aを平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20とが接合する面が小さくなるため、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板10Aには流路用溝11、12のみを形成し、樹脂製基板20に貫通孔を形成しても良い。
【0055】
[第2の実施の形態]
次に、この発明の第2実施形態に係るマイクロチップについて図10から図13を参照して説明する。図10は、この発明の第2実施形態に係る樹脂製基板の上面図である。図11は、この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの上面図である。図12は、この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図11のXII−XII断面図である。
【0056】
第2実施形態では、互いに独立した複数の流路用溝を樹脂製基板に形成し、複数のカバー側の樹脂製基板のそれぞれを、流路用溝ごとに接合することでマイクロチップを製造する。例えば図10に示すように、樹脂製基板30の一方の表面には、流路用溝31と流路用溝34とが形成されている。流路用溝31、34は、1例として、直線状の溝とその直線状の溝に交差する2つの溝とを含んで構成されている。流路用溝31と流路用溝34とは繋がっておらず、それぞれ独立した溝である。また、流路用溝31の端部には、樹脂製基板30の厚さ方向に貫通する貫通孔32が形成されている。同様に、流路用溝34の端部には、樹脂製基板30の厚さ方向に貫通する貫通孔35が形成されている。
【0057】
第2実施形態では、カバー側の基板として2つの樹脂製基板を用いる。例えば、図11と図12とに示すように、樹脂製基板40と樹脂製基板50とをカバー側の基板として用いる。なお、樹脂製基板40、50が、この発明の「個別基板」の1例に相当する。樹脂製基板40、50はそれぞれ平板状の基板である。樹脂製基板40は、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝31をカバーする基板である。一方、樹脂製基板50は、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝34をカバーする基板である。このように、流路用溝ごとに別個の基板を接合する。
【0058】
樹脂製基板40の形状は、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝31の形状と貫通孔32が形成されている位置とに依存する。例えば、樹脂製基板40の形状は、流路用溝31と貫通孔32とに沿った形状となっている。具体的には、樹脂製基板40の形状は、樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝31が形成されている位置と貫通孔32が形成されている位置とから、所定の距離d以内の範囲に含まれる形状となっている。これにより、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝31の位置に合わせて樹脂製基板40を樹脂製基板30に重ねて接合したときに、樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝31と貫通孔32とから所定の距離d以内の範囲に含まれることになる。1例として、樹脂製基板30のすべての端部が、流路用溝31と貫通孔32とから、2mm以内の範囲に含まれることが好ましく、0.2mm〜2mmの範囲内に含まれることがより好ましい。
【0059】
同様に、樹脂製基板50の形状は、流路用溝34の形状と貫通孔35が形成されている位置とに依存し、流路用溝34と貫通孔35とに沿った形状となっている。具体的には、樹脂製基板50の形状は、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34が形成されている位置と貫通孔35が形成されている位置とから、所定の距離d以内の範囲に含まれる形状となっている。これにより、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝34の位置に合わせて樹脂製基板50を樹脂製基板30に重ねて接合したときに、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34と貫通孔35とから所定の距離d以内の範囲に含まれることになる。1例として、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34と貫通孔35とから、2mm以内の範囲に含まれることが好ましく、0.2mm〜2mmの範囲内に含まれることがより好ましい。
【0060】
そして、図11と図12とに示すように、流路用溝31、34が形成されている面を内側にして、樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することでマイクロチップを製造する。このとき、樹脂製基板30に形成された流路用溝31の位置と貫通孔32の位置とに合わせて、樹脂製基板40を樹脂製基板30に重ねて接合する。この接合によって、樹脂製基板40が流路用溝31の蓋(カバー)として機能し、流路用溝31によって微細流路41が形成され、貫通孔32によって開口部42が形成される。また、樹脂製基板30に形成された流路用溝34の位置と貫通孔35の位置とに合わせて、樹脂製基板50を樹脂製基板30に重ねて接合する。この接合によって、樹脂製基板50が流路用溝34の蓋(カバー)として機能し、流路用溝34によって微細流路51が形成され、貫通孔35によって開口部52が形成される。
【0061】
以上のように、カバー側の樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝31と貫通孔32とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、樹脂製基板30と樹脂製基板40とが接合する面をより小さくすることが可能となる。このように接合面が小さくなることで、接合において平面精度の影響を受ける範囲がより狭くなる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面があっても、その表面の影響を低減して樹脂製基板30と樹脂製基板40とを接合することができる。その結果、樹脂製基板30と樹脂製基板40との接合強度をより高くすることが可能となる。同様に、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34と貫通孔35とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、樹脂製基板30と樹脂製基板50との接合強度をより高くすることが可能となる。
【0062】
また、第1実施形態と同様に、樹脂製基板30の角近傍の表面を避けて樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することが可能となる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面を避けて、樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することが可能となる。また、射出成形のときに使用されたゲート近傍の表面を避けて、樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することができる。
【0063】
なお、樹脂製基板40と樹脂製基板50とに流路用溝と貫通孔とを形成し、樹脂製基板30を平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板30と樹脂製基板40とが接合する面が小さくなり、樹脂製基板30と樹脂製基板50とが接合する面が小さくなる。そのことにより、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板30に流路用溝のみを形成し、樹脂製基板30に貫通孔を形成しても良い。
【0064】
[第2実施形態の変形例]
次に、上述した第2実施形態の変形例について図13と図14を参照して説明する。図13は、第2実施形態の変形例に係る樹脂製基板の上面図である。図14は、第2実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。
【0065】
この変形例では、上述した樹脂製基板40と樹脂製基板50とをカバー側の基板として用い、互いに独立した流路用溝が形成された樹脂製基板30Aと接合することでマイクロチップを作製する。変形例に係る樹脂製基板30Aの一方の表面には、第1実施形態に係る樹脂製基板10と同様に、流路用溝31、34が形成されている。また、流路用溝31の端部には貫通孔32が形成され、流路用溝34の端部には貫通孔35が形成されている。さらに、樹脂製基板30Aには、流路用溝31、34が形成されている表面とは反対側の表面に凹凸部材が設けられている。例えば、樹脂製基板30Aには、流路用溝31、34が形成されている表面とは反対側の表面に突起部33と突起部36とが設けられている。突起部33と突起部36とは円筒状の形状を有し、樹脂製基板30Aの厚さ方向に突出している。突起部33は貫通孔32を囲んで設けられ、突起部36は貫通孔35を囲んで設けられている。突起部33、36にチューブやノズルを嵌合して、試料などの導入や排出を行う。なお、図13に示す突起部33、36は円筒状の形状を有しているが、これは1例であり、多角形の形状を有していても良い。このように、樹脂製基板30Aは、突起部33、36を除いて第2実施形態に係る樹脂製基板30と同じ構成を有している。
【0066】
そして、図14に示すように、樹脂製基板30Aの表面に形成された流路用溝の位置に合わせて、樹脂製基板40と樹脂製基板50とを樹脂製基板30Aに重ねて接合する。
【0067】
上述した第2実施形態と同様に、カバー側の樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝と貫通孔とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、接合面を小さくして、平面精度の影響を受ける範囲を小さくすることが可能となる。その結果、樹脂製基板30Aと樹脂製基板40との接合強度をより高めることが可能となる。同様に、樹脂製基板30Aと樹脂製基板50との接合においても、接合強度をより高めることが可能となる。
【0068】
なお、樹脂製基板40と樹脂製基板50とに流路用溝と貫通孔と突起部とを形成し、樹脂製基板30Aを平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板30Aと樹脂製基板40とが接合する面が小さくなり、樹脂製基板30Aと樹脂製基板50とが接合する面が小さくなる。そのことにより、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板30Aに流路用溝のみを形成し、樹脂製基板40、50に貫通孔を形成しても良い。
【0069】
また、樹脂製基板の表面に形成する流路用溝の数は限定されない。互いに独立した3個以上の流路用溝を、樹脂製基板の表面に形成しても良い。さらに、3つ以上の樹脂製基板を重ねて接合しても良い。また、射出成形に使用するゲートを複数用いても良い。この場合も、ゲート近傍の表面を避けて樹脂製基板同士を接合すれば良い。
【0070】
[実施例]
次に、具体的な実施例について説明する。
【0071】
この実施例では、上記第1実施形態の具体例を説明する。
【0072】
(樹脂製基板)
射出成形機で透明樹脂材料のアクリル(旭化成社製デルペット)を成形し、複数の流路用溝と複数の貫通孔とが形成された流路側の樹脂製基板を作製した。この流路側の樹脂製基板が、上述した第1実施形態における流路用溝11、12と貫通孔13とが形成された樹脂製基板10の1例に相当する。
流路側の樹脂製基板の寸法を以下に示す。
一辺の長さ=50mm
厚さ=1mm
流路用溝11、12の幅、深さ=50μm
流路用溝11の長さ=10mm
流路用溝12の長さ=22mm
貫通孔13の内径=2mm
また、流路用溝11と、流路用溝11の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは14mmである。
また、流路用溝12と、流路用溝12の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは26mmである。
【0073】
また、透明樹脂材料としてアクリルを用い、押出成形法によって、基板の厚さが1mmカバー側の樹脂製基板を作製した。このカバー側の樹脂製基板が、上述した第1実施形態に係る樹脂製基板20の1例に相当する。
カバー側の樹脂製基板の寸法を以下に示す。
流路用溝11に沿う部材21の長さ=18mm
流路用溝12に沿う部材22の長さ=30mm
幅w=4mm
基板の厚さ=1mm
【0074】
(接合)
次に、流路用溝が形成された表面を内側にして、流路側の樹脂製基板とカバー側の樹脂製基板とを重ねた。その状態で、加熱プレス機を用いて、90℃に加熱された熱板によって2つの樹脂製基板を挟み、1kgf/cm2の圧力を加えて、1分間保持することでマイクロチップを作製した。流路用溝11、12の幅は50μmで、流路用溝11の長さが10mmで、流路用溝12の長さが22mmで、貫通孔13の内径が2mmである。そのため、流路用溝11と、流路用溝11の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは14mmとなる。また、流路用溝12と、流路用溝12の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは26mmとなる。一方、カバー側の樹脂製基板20において、流路用溝11に沿う部材21の長さは18mmであり、流路用溝12に沿う部材22の長さは30mmである。従って、上記の流路側の樹脂製基板とカバー側の樹脂製基板とを接合することで、カバー側の樹脂製基板が流路用溝11、12と貫通孔13とを覆うことができる。さらに、カバー側の樹脂製基板のすべての端部を、流路用溝11、12と貫通孔13とから2mm以内の範囲に含ませることができる。
【0075】
(評価)
上述した方法で作製したマイクロチップの接合面を顕微鏡で観察したところ、この実施例において、2つの樹脂製基板は全面溶着されていた。
【0076】
(比較例)
次に、上述した実施例に対する比較例を説明する。
【0077】
(樹脂製基板)
射出成形機で透明樹脂材料のアクリル(旭化成社製、デルペット)を成形し、外形寸法が幅50mm×幅50mm×厚さ1mmの板状部材に幅50μm、深さ50μmの複数の流路用溝と、内径2mmの複数の貫通孔とが形成された流路側の樹脂製基板を作製した。突起部は各貫通孔を囲む形状を有し、流路用溝が形成されている表面とは反対側の表面に形成されている。同様に、外形寸法が幅50mm×幅50mm×厚さ1mmのカバー側の樹脂製基板を作製した。このカバー側の樹脂製基板が、流路用溝の蓋(カバー)として機能する。
【0078】
(接合)
次に、流路用溝が形成された表面を内側にして、流路側の樹脂製基板とカバー側の樹脂製基板とを重ねた。その状態で、加熱プレス機を用いて、90℃に加熱された熱板によって2つの樹脂製基板を挟み、1kgf/cm2の圧力を加えて、1分間保持することでマイクロチップを作製した。
【0079】
(評価)
比較例に係るマイクロチップの接合面を顕微鏡で観察したところ、角部や端部近傍で未溶着の範囲が観察された。
【0080】
以上のように、この発明の実施例によると、比較例と比べて、樹脂製基板同士の接合強度が高くなることが確認された。これは、2つの樹脂製基板の接合に供する面が小さくなり、その結果、平面精度の影響を低減することができたからと考えられる。
【0081】
なお、上述した実施例で示した樹脂製基板の材料や寸法は1例であり、この発明がこれらに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態で挙げた樹脂を用いた場合も、比較例と比べて、樹脂製基板同士の接合強度を高くすることが可能である。また、第2実施形態に係る樹脂製基板を用いても、上述した実施例と同様の効果が得られる。さらに、スイッチ機構やレンズを樹脂製基板の表面に形成した場合であっても、上述した実施例と同様の結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の上面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図1のII−II断面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る他方の樹脂製基板の上面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの上面図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図4のV−V断面図である。
【図6】第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の上面図である。
【図7】第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図6のVII−VII断面図である。
【図8】第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。
【図9】第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの断面図であり、図8のIX−IX断面図である。
【図10】この発明の第2実施形態に係る樹脂製基板の上面図である。
【図11】この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの上面図である。
【図12】この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図11のXII−XII断面図である。
【図13】第2実施形態の変形例に係る樹脂製基板の上面図である。
【図14】第2実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。
【符号の説明】
【0083】
10、10A、20、30、30A、40、50 樹脂製基板
11、12、31、34 流路用溝
13、32、35 貫通孔
14、33、36 突起部
15、16、41、51 微細流路
17、42、52 開口部
【技術分野】
【0001】
この発明は、流路用溝が形成された樹脂製基板を接合することでマイクロチップを製造する方法、及び、その接合によって製造されるマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術を利用してシリコンやガラス基板上に微細な流路や回路を形成し、微小空間上で核酸、タンパク質、血液などの液体試料の化学反応や、分離、分析などを行うマイクロ分析チップ、あるいはμTAS(Micro Total Analysis Systems)と称される装置が実用化されている。このようなマイクロチップの利点としては、サンプルや試薬の使用量又は廃液の排出量が軽減され、省スペースで持ち運び可能な安価なシステムの実現が考えられる。
【0003】
マイクロチップは、少なくとも一方の部材に微細加工が施された2つの部材をはり合わせることにより製造される。従来においては、マイクロチップにはガラス基板が用いられ、様々な微細加工方法が提案されている。しかしながら、ガラス基板は大量生産には向かず、非常に高コストであるため、廉価で使い捨て可能な樹脂製のマイクロチップの開発が望まれている。
【0004】
樹脂製のマイクロチップを製造する方法として、流路用溝が形成された樹脂製基板と、流路用溝をカバーする樹脂製基板とを接合する方法がある。樹脂製基板同士の接合には、熱板、熱風、熱ロール、超音波、振動、レーザなどを用いて樹脂製基板を加熱して接合する溶着方法、接着剤や溶剤を用いて樹脂製基板を接合する接着方法、樹脂製基板自体の粘着性を利用して接合する方法、及び、樹脂製基板にプラズマ処理などの表面処理を施すことで基板同士を接合する方法などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、接着方法においては、接合に用いる接着剤や溶剤が流路内に染み出てしまい、流路を汚染してしまう問題があった。そこで、従来においては、接着剤や溶剤が流路内に染み出ることを防止するために、流路用溝が形成された基板とカバー部材とに接着剤を逃がすための逃げ部を形成し、流路近傍とそれ以外の接合面とを分割して樹脂製基板同士を接合していた(例えば特許文献1、及び特許文献2)。
【0006】
また、熱板を用いた熱圧着法や熱ロールを用いた熱ラミネート法によって樹脂製基板同士を接合する場合、流路用溝が形成された樹脂製基板に、接合の位置決め用の孔を形成しておき、カバー部材は、その位置決め用の孔を覆うことがないように、流路用溝が形成された樹脂製基板よりも所定寸法小さく形成して接合していた(例えば特許文献3)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−106508号公報
【特許文献2】特開2004−136637号公報
【特許文献3】特開2004−151041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、樹脂製基板の接合面が剥離してしまう場合があり、流路近傍の接合面の剥離は、流路から分析試料が漏れる原因になる。その剥離が、顕微鏡で観察しなければ確認できないような小さい剥離であっても、流路内での分析試料の流れや移動が変わってしまうおそれがある。そのため、マイクロチップには、強固な接合強度が求められている。
【0009】
また、マイクロチップは、取り扱いやすさから数cm角の大きさが望まれる。しかしながら、マイクロチップを作製する場合に、基板の全面を接合するためには、すべての接合面に高い面精度が要求される。
【0010】
一方、流路用溝が形成された樹脂製基板を成形する方法には、射出成形法、プレス成形法、又は機械加工法などの方法がある。しかしながら、成形時において入熱条件や加圧条件が場所によって不均一になり、成形の精度が悪化しやすくなる。その結果、樹脂製基板の表面の平面精度が悪化し、マイクロチップの接合強度を高めることが困難であった。また、成形型の面精度が転写されるため、成形型にも高い面精度が要求される。
【0011】
上述した特許文献1と特許文献2に記載の方法では、接着剤を用いて樹脂製基板を接合している。この方法によって樹脂製基板を接合する場合、接合面の平面精度によって接着層における接合強度がばらついてしまい、接合強度が低くなってしまう問題がある。また、接着剤を逃がすための逃げ部を設けているため、その逃げ部によっても基板表面の平面精度が悪化するおそれがあり、さらに、マイクロチップのサイズが拡大してしまう問題がある。また、上述した特許文献3に記載の方法においても、接合面の平面精度に関する問題は解決されていない。
【0012】
また、流路用溝が形成された樹脂製基板を射出成形法によって作製する場合、ヒートサイクル成形を用いることにより、表面の平面精度を向上させることができる。しかしながら、ヒートサイクル成形に用いる設備の導入や、成形サイクルの長時間化によって、樹脂製基板の製造コストが高くなってしまう問題がある。また、射出成形法では、成形型によって形成されたキャビティ空間に射出成形のゲートを通して樹脂を射出することにより、流路用溝が表面に形成された樹脂製基板を作製する。ヒートサイクル成形によって面精度を向上させることができても、成形した樹脂製基板と射出成形のゲートとを切り離す工程において、ゲート近傍における基板表面の平面精度が悪化してしまう問題がある。
【0013】
以上のように、樹脂製基板の平面精度が悪化することにより、2つの樹脂製基板の接合面の密着性が低下し、その結果、樹脂製基板の接合強度が低下してしまう問題があった。
【0014】
この発明は上記の問題を解決するものであり、樹脂製基板の接合強度を高めることが可能なマイクロチップの製造方法、及び樹脂製基板同士の接合強度が高められたマイクロチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の第1の形態は、2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合するマイクロチップの製造方法であって、前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部を、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含ませて前記2つの樹脂製基板を接合する接合工程を含むマイクロチップの製造方法である。
また、この発明の第2の形態は、第1の形態に係るマイクロチップの製造方法であって、前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部は、前記一方の樹脂製基板を前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれ、前記接合工程では、前記一方の樹脂製基板を、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねて、前記2つの樹脂製基板を接合することを特徴とする。
また、この発明の第3の形態は、第2の形態に係るマイクロチップの製造方法であって、前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であり、前記個別基板のすべての端部は、前記複数の個別基板を前記他方の樹脂製基板に形成された溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれ、前記接合工程では、前記複数の個別基板のそれぞれを、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記個別基板と前記他方の樹脂製基板とを接合することを特徴とする。
また、この発明の第4の形態は、第1の形態から第3の形態のいずれかに係るマイクロチップの製造方法であって、前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする。
また、この発明の第5の形態は、第1の形態から第4の形態のいずれかに係るマイクロチップの製造方法であって、前記接合工程では、前記2つの樹脂製基板を重ねた状態で前記2つの樹脂製基板を加熱して溶着することで前記接合を行うことを特徴とする。
また、この発明の第6の形態は、第1の形態から第5の形態のいずれかに係るマイクロチップの製造方法であって、前記接合によって、電気泳動分析に用いるマイクロチップを製造することを特徴とする。
また、この発明の第7の形態は、2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合されたマイクロチップであって、前記貫通孔と前記流路用溝とは繋がっており、前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部が、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれることを特徴とするマイクロチップである。
また、この発明の第8の形態は、第7の形態に係るマイクロチップであって、前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板と接合された基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする。
また、この発明の第9の形態は、第8の形態に係るマイクロチップであって、前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に接合された基板であり、前記複数の個別基板のそれぞれは、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記他方の樹脂製基板と接合されて、前記個別基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする。
また、この発明の第10の形態は、第7の形態から第9の形態のいずれかに係るマイクロチップであって、前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする。
また、この発明の第11の形態は、第7の形態から第10の形態のいずれかに係るマイクロチップであって、前記2つの樹脂製基板は、加熱して溶着することで接合されたことを特徴とする。
また、この発明の第12の形態は、第7の形態から第11の形態のいずれかに係るマイクロチップであって、電気泳動分析に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、一方の樹脂製基板の端部を、流路用溝から2mm以内の範囲に含ませて2つの樹脂製基板を接合することで、接合に供する面が小さくなるため、接合において平面精度の影響を受ける範囲が狭くなる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面であっても、その表面の影響を低減して2つの樹脂製基板を接合することが可能となる。その結果、マイクロチップの接合強度をより高くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの製造方法と、その製造方法により製造されたマイクロチップについて、図1から図5を参照して説明する。図1は、この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の上面図である。図2は、この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図1のII−II断面図である。図3は、この発明の第1実施形態に係る他方の樹脂製基板を示す上面図である。図4は、この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの上面図である。図5は、この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図4のV−V断面図である。
【0018】
図1に示すように、樹脂製基板10は、1例として、正方形や長方形などの四角形の外形形状を有している。樹脂製基板10の一方の表面には、直線状の流路用溝11と直線状の流路用溝12とが形成されている。この実施形態では、1例として流路用溝11と流路用溝12とが直交して樹脂製基板10の表面に形成されている。なお、流路用溝11と流路用溝12とは直交せずに、任意の角度をなして樹脂製基板10に形成されていても良い。また、図1と図2とに示すように、流路用溝11の両端部と流路用溝12の両端部とには、樹脂製基板10の厚さ方向に貫通する貫通孔13が形成されている。貫通孔13は、流路用溝11の端部と流路用溝12の端部とに繋がっている。
【0019】
樹脂製基板10の接合の相手方となる樹脂製基板20を図3に示す。樹脂製基板20は平板状の基板である。また、樹脂製基板20の外形形状は、樹脂製基板10の表面に形成された流路用溝11、12の形状と、貫通孔13が形成されている位置とに依存する。例えば、樹脂製基板20の外形形状は、流路用溝11、12と貫通孔13とに沿った形状となっている。具体的には、樹脂製基板20の外形形状は、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12が形成されている位置と貫通孔13が形成されている位置とから、所定距離d以内の範囲に含まれる形状となっている。これにより、樹脂製基板10の表面に形成された流路用溝11、12の位置に合わせて樹脂製基板20を樹脂製基板10に重ねて接合したときに、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12と貫通孔13とから所定の距離d以内の範囲に含まれることになる。
【0020】
例えば、樹脂製基板10には、直線状の流路用溝11と直線状の流路用溝12とが直交して形成され、流路用溝11、12のそれぞれの両端部には貫通孔13が形成されている。そのため、カバー側の樹脂製基板20の外形形状は、流路用溝11に沿った直線状の部材21と、流路用溝12に沿った直線状の部材22とを備えた形状となっている。例えば、流路用溝11に沿った直線状の部材の幅と流路用溝12に沿った部材の幅とを幅wとする。幅wと、流路用溝11、12の幅と、距離dとの間には、以下の式(1)が成立する。
幅w≦流路用溝の幅+(2×距離d) ・・・式(1)
この式の条件を満たすことで、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合したときに、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12から距離d以内の範囲に含まれることになる。なお、図3には、樹脂製基板20の形状を模式的に表しており、流路用溝と貫通孔とが形成されている位置に応じて、カバー側の樹脂製基板の形状を変えれば良い。
【0021】
そして、図4と図5に示すように、流路用溝11、12が形成されている面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することでマイクロチップを製造する。このとき、樹脂製基板10に形成された流路用溝11、12の位置と貫通孔13の位置とに合わせて、樹脂製基板20を樹脂製基板10に重ねて接合する。この接合によって、樹脂製基板20が流路用溝11、12の蓋(カバー)として機能し、流路用溝11によって微細流路15が形成され、流路用溝12によって微細流路16が形成される。さらに、樹脂製基板10には、流路用溝11の両端部と流路用溝12の両端部とに貫通孔13が形成されており、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することで、マイクロチップに開口部17が形成される。このように、第1実施形態に係るマイクロチップは、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを備えて構成されている。マイクロチップの内部には、直線状の微細流路15と微細流路16とが互いに直交して形成されており、さらに、微細流路15の両端部と微細流路16の両端部とには開口部17が形成されている。
【0022】
樹脂製基板10の貫通孔13は流路用溝11、12と繋がっているため、その貫通孔13による開口部17は微細流路15、16に繋がっている。この開口部17は、ゲル、試料、緩衝液の導入、保存、排出を行うための孔である。開口部17(貫通孔13)の形状は、円形状や矩形状の他、様々な形状であっても良い。
【0023】
樹脂製基板20の幅wと、流路用溝11、12の幅と、距離dとの間には、上記の式(1)の関係が成立するため、樹脂製基板20のすべての端部が、微細流路15、16から距離d以内の範囲内に含まれることになる。なお、図4に示す例では、樹脂製基板20のすべての端部から微細流路15、16までの距離が距離dと等しくなっているが、距離d以内となっていれば良い。
【0024】
以上のように、カバー側の樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12と貫通孔13とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、樹脂製基板10と樹脂製基板20とが接合する面をより小さくすることが可能となる。このように接合面が小さくなることで、接合において平面精度の影響を受ける範囲がより狭くなる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面であっても、その表面の影響を低減して樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。その結果、樹脂製基板10と樹脂製基板20との接合強度をより高くすることが可能となる。
【0025】
1例として、樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12(微細流路15、16)と貫通孔13(開口部17)とから、2mm以内の範囲に含まれることが好ましく、0.2mm〜2mmの範囲内に含まれていることがより好ましい。樹脂製基板20のすべての端部をこの範囲に含ませることで樹脂製基板10との接合強度を保ちつつ、平面精度が比較的低い表面の影響を低減して、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。なお、マイクロチップの大きさによって、距離dの範囲を変えても良い。例えば、マイクロチップの大きさによって、距離dを3mm以内や5mm以内にした場合であっても、平面精度が比較的低い表面の影響を低減して、マイクロチップの接合強度を高めることができる。
【0026】
また、射出成形によって樹脂製基板10を作製する場合、樹脂製基板10の端部や角が盛り上がるおそれがある。そのことにより、端部や角において平面精度が比較的低くなり、基板同士の接合強度が低くなってしまう。例えば、樹脂製基板10の角から1mmの範囲内に含まれる表面は、平面精度が比較的低くなるおそれがある。
【0027】
これに対して第1実施形態によると、樹脂製基板20の外形形状を樹脂製基板10に形成された流路用溝と貫通孔とに沿った形状とし、樹脂製基板20の大きさを樹脂製基板10の大きさよりも小さくすることで、樹脂製基板10の角近傍の表面を避けて樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面を避けて、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となり、マイクロチップの接合強度をより高めることが可能となる。
【0028】
また、マイクロチップは基板の角から剥がれやすいため、樹脂製基板10の角を避けて樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することで、角から剥がれにくいマイクロチップを作製することができる。
【0029】
また、射出成形によって樹脂製基板10を作製する場合、ゲート近傍の表面の平面精度が比較的低くなるおそれがある。第1実施形態によると、射出成形のときに使用されたゲート近傍の表面を避けて、平面精度が比較的高い面を接合面にして樹脂製基板同士を接合することが可能となる。例えば、図4に示す樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合する場合、ゲート近傍の表面を避けて接合することができる。すなわち、カバー側の樹脂製基板20のすべての端部が、流路用溝11、12と貫通孔13とから所定の距離(0.2mm〜2mm)の範囲に含まれるため、樹脂製基板10のゲート近傍の表面を避けて、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。これにより、平面精度が比較的低いゲート近傍の表面を避けて、平面精度が比較的高い表面を接合面として、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合することが可能となる。その結果、マイクロチップの接合強度をより高めることが可能となる。
【0030】
なお、樹脂製基板10の外形形状は、ハンドリング、分析しやすい形状であれば良く、正方形や長方形などの形状が好ましい。例えば、10mm角〜200mm角程度の大きさが好ましく、10mm角〜100mm角がより好ましい。また、貫通孔13の内径は、分析手法や分析装置に合わせれば良く、例えば2mm程度であることが好ましい。
【0031】
樹脂製基板10、20には樹脂が用いられる。その樹脂としては、成形性(転写性、離型性)が良いこと、透明性が高いこと、紫外線や可視光に対する自己蛍光性が低いことなどが条件として挙げられる。例えば、樹脂製基板10、20には熱可塑性樹脂が用いられる。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサン、環状ポリオレフィンなどを用いることが好ましい。特に好ましいのは、ポリメタクリル酸メチル、環状ポリオレフィンを用いることである。なお、樹脂製基板10と樹脂製基板20とで、同じ材料を用いても良いし、異なる材料を用いても良い。また、流路用溝が形成されていない樹脂製基板20には、熱可塑性樹脂の他、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂などを用いても良い。熱硬化性樹脂としては、ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましい。
【0033】
樹脂製基板10、20は、押出成形法、Tダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダ成形法、射出成形法、プレス成形法、又は機械加工法等の方法によって作製することができる。例えば、射出成形法によって、流路用溝や突起部を樹脂製基板の表面に形成しても良いし、機械加工法によって、流路用溝や突起部を樹脂製基板の表面に形成しても良い。また、樹脂製基板10と樹脂製基板20とでは、同じ方法で作製しても良いし、異なる方法で作製しても良い。
【0034】
なお、微細流路15、16の形状は、分析試料、試薬の使用量を少なくできること、成形金型の作製精度、転写性、離型性などを考慮して、幅、深さともに、10μm〜200μmの範囲内の値であることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、微細流路15、16の幅と深さは、マイクロチップの用途によって決めれば良い。なお、説明を簡便にするために、微細流路15、16の断面の形状は矩形状となっているが、この形状は1例であり、曲面状となっていても良い。また、溝の幅と高さは、微細流路15と微細流路16とで同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0035】
また、流路用溝11、12が形成された樹脂製基板10の板厚は、成形性を考慮して、0.2mm〜5mm程度が好ましく、0.5mm〜2mmがより好ましい。流路用溝11、12を覆うための蓋(カバー)として機能する樹脂製基板20の板厚は、成形性を考慮して、0.2mm〜5mm程度が好ましく、0.5mm〜2mmがより好ましい。また、蓋(カバー)として機能する樹脂製基板20に流路用溝を形成しない場合、板状の部材ではなく、フィルム(シート状の部材)を用いても良い。この場合、フィルムの厚さは、30μm〜300μmでることが好ましく、50μm〜150μmであることがより好ましい。
【0036】
(接合)
樹脂製基板10と樹脂製基板20との接合は、熱圧着又は熱ラミネートによって行われる。樹脂製基板10、20に対して熱圧着又は熱ラミネートを施すことにより、樹脂製基板10、20の接合面における樹脂を溶融させて、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合する。
【0037】
例えば熱圧着の場合、流路用溝11、12が形成された面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを重ねる。その状態で、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加熱することで接合面を溶融させ、さらに、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加圧することで接合する。例えば、70℃〜200℃の範囲で樹脂製基板10、20を加熱し、その状態で樹脂製基板10、20を加圧することで、基板同士を接合する。また、熱ラミネートの場合、樹脂製基板10、20を加熱した状態で、ロールによって樹脂製基板10、20を加圧することで、基板同士を接合する。
【0038】
また、熱圧着及び熱ラミネートの他、レーザ溶着又は超音波溶着によって樹脂製基板10と樹脂製基板20とを接合しても良い。
【0039】
レーザ溶着の場合、流路用溝11、12が形成された面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを重ねる。その状態で、樹脂製基板10と樹脂製基板20に対してレーザを照射することで接合面を溶融させ、さらに、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加圧することで接合する。例えば、0.1W〜20Wのレーザ強度で樹脂製基板上を走査することで、基板同士を接合する。
【0040】
また、超音波溶着の場合、流路用溝11、12が形成された面を内側にして、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを重ねる。その状態で、樹脂製基板10と樹脂製基板20に対して超音波を照射することで接合面を溶融させ、さらに、樹脂製基板10と樹脂製基板20とを加圧することで接合する。例えば、10kHz〜50kHzの超音波を印加しながら樹脂製基板を加圧することで、基板同士を接合する。
【0041】
以上のように、溶着によって接合する場合は、接着のように接着剤を介して2つの樹脂製基板を接合するのではなく、2つの樹脂製基板を直接、接触させて接合するため、樹脂製基板の表面の平面精度が接合状態に大きく影響する。この実施形態のように、一方の樹脂製基板の端部の一部を、他方の樹脂製基板の端部よりも内側にして2つの樹脂製基板を接合することにより、溶着のように2つの樹脂製基板を直接接触させる場合であっても、強固な接合強度を得ることができる。
【0042】
また、微細流路15と微細流路16とが直交して形成されたマイクロチップは、例えば電気泳動法に用いられる。例えば、開口部17から微細流路15の内部に試料や緩衝液を加圧注入し、さらに、マイクロチップの開口部17の2箇所に電極を差し込み、高電圧をかけて電気泳動を行う。1例として、開口部17から微細流路15の内部にポリマーを含む緩衝液を加圧注入し、つづいて蛍光標識したDNAサンプルを注入する。さらに、開口部17の2箇所に電極を差し込み、高電圧をかけて電気泳動を行い、蛍光検出器によりDNAサンプルを検出する。
【0043】
なお、第1実施形態においては、カバー側の樹脂製基板20の外形形状を樹脂製基板10に形成された流路用溝と貫通孔とに沿った形状とし、樹脂製基板20の大きさを樹脂製基板10の大きさよりも小さくすることで、接合に供する表面を小さくする。この接合の例は1例であり、2つの樹脂製基板のうち、いずれか一方の樹脂製基板の大きさを小さくして接合しても、この実施形態と同じ効果を奏することができる。例えば、樹脂製基板20に流路用溝と貫通孔とを形成し、樹脂製基板10を平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板10と樹脂製基板20とが接合する面が小さくなるため、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板10には流路用溝11、12のみを形成し、樹脂製基板20に貫通孔を形成しても良い。
【0044】
[第1実施形態の変形例]
次に、上述した第1実施形態の変形例について図6から図9を参照して説明する。図6は、第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の上面図である。図7は、第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図6のVII−VII断面図である。図8は、第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。図9は、第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの断面図であり、図8のIX−IX断面図である。
【0045】
図6に示すように、変形例に係る樹脂製基板10Aの一方の表面には、第1実施形態に係る樹脂製基板10と同様に、流路用溝11、12が形成されている。また、流路用溝11、12の両端部には、樹脂製基板10Aの厚さ方向に貫通する貫通孔13が形成されている。さらに、樹脂製基板10Aには、流路用溝11、12が形成されている表面とは反対側の表面に凹凸部材が設けられている。例えば図6と図7に示すように、樹脂製基板10Aには、流路用溝11、12が形成されている表面とは反対側の表面であって貫通孔13の周囲に、円筒状の突起部14が設けられている。突起部14は貫通孔13を囲み、樹脂製基板10Aの厚さ方向に突出している。この突起部14にチューブやノズルを嵌合して、試料などの導入や排出を行う。なお、図6に示す突起部14は円筒状の形状を有しているが、これは1例であり、多角形の形状を有していても良い。このように、樹脂製基板10Aは、突起部14を除いて第1実施形態に係る樹脂製基板10と同じ構成を有している。
【0046】
また、図8と図9とに示すように、第1実施形態と同様に、樹脂製基板10Aの接合の相手方となる樹脂製基板20は平板状の基板である。そして、流路用溝11、12が形成されている面を内側にして、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20とを接合することでマイクロチップを製造する。この接合によって、マイクロチップの内部には、直線状の微細流路15と微細流路16とが互いに直交して形成され、さらに、微細流路15の両端部と微細流路16の両端部とには開口部17が形成される。そして、突起部14に、分析装置に設けられたチューブやノズルを嵌合し、そのチューブやノズルを介して、ゲル、試料、又は緩衝液などを微細流路に導入し、又は、微細流路15、16から試料などを排出する。
【0047】
上述した第1実施形態と同様に、樹脂製基板20の幅wと、流路用溝11、12の幅と、距離dとの間には、上記の式(1)の関係が成立するため、樹脂製基板20のすべての端部が、微細流路15、16から距離d以内の範囲内に含まれることになる。そのことにより、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20との接合面がより小さくなるため、接合において平面精度の影響を受ける範囲をより小さくすることが可能となる。その結果、平面精度が比較的低い表面であっても、その表面の影響を低減して、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20との接合強度をより高くすることが可能となる。
【0048】
さらに、射出成形によって樹脂製基板10Aの貫通孔13の周囲に突起部14を形成する場合、樹脂製基板10Aが偏肉するため、樹脂製基板10Aにおける接合面の平面精度はより低くなる。より詳しく説明すると、突起部14を形成することで、樹脂製基板10Aの厚さが部分的に異なる。厚さが部分的に異なることで、成形中、樹脂製基板10Aの各部分における冷却過程がそれぞれ変わってしまい、その結果、樹脂製基板10Aの表面に歪みができやすくなる。その結果、突起部14を形成した場合には、樹脂製基板10Aにおける接合面の平面精度がより低くなる。従って、突起部14を設けた樹脂製基板10Aを接合する場合は、接合強度がより低くなってしまうおそれがある。
【0049】
これに対して、樹脂製基板20のすべての端部を、流路用溝11、12と貫通孔13とから距離d以内の範囲に含ませることで、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20との接合面がより小さくなるため、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。その結果、接合強度がより低くなり得る突起部14を形成した場合であっても、マイクロチップの接合強度をより高めることが可能となる。
【0050】
なお、この変形例においては、分析装置と接続するための突起部14を貫通孔13の周囲に設けた例について説明したが、樹脂製基板10Aの表面に設けられる凹凸部材は、この突起部14に限定されない。凹凸部材の別の例として、微細流路内を流れる試料の流動を制御するための流動制御機構や、マイクロチップ上で分析するための反応機構を表面に形成しても良い。
【0051】
流動制御機構の例として、スイッチ機構が該当する。例えば、微細流路と繋がる貫通孔を樹脂製基板10Aに形成し、その貫通孔を通して微細流路内を流れる試料の流動を制御するためのスイッチ機構を、樹脂製基板10Aの表面に形成する。このスイッチ機構が凹凸部材の1例に該当する。そのスイッチを微細流路内に挿入する程度を変えることで、微細流路内を流れる試料の量などを制御する。
【0052】
また、反応機構の例として、光ファイバーを固定するための固定部やレンズが該当する。例えば、分析用の光ファイバーをマイクロチップに取り付けるための固定部を樹脂製基板10Aの表面に形成する。また、分析装置からの光を微細流路内に集光するためのレンズなどを樹脂製基板10の表面に形成しても良い。固定部やレンズなどが凹凸部材の1例に該当する。
【0053】
以上のような凹凸部材を樹脂製基板10Aに形成した場合も、突起部14を形成した場合と同様に、樹脂製基板10Aの表面の平面精度が低くなってしまう。そのような場合であっても、この変形例によれば、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20とが接合する面を小さくすることで、接合において平面精度の影響を低減して、マイクロチップの接合強度を高めることが可能となる。
【0054】
なお、樹脂製基板20に流路用溝と貫通孔と突起部とを形成し、樹脂製基板10Aを平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板10Aと樹脂製基板20とが接合する面が小さくなるため、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板10Aには流路用溝11、12のみを形成し、樹脂製基板20に貫通孔を形成しても良い。
【0055】
[第2の実施の形態]
次に、この発明の第2実施形態に係るマイクロチップについて図10から図13を参照して説明する。図10は、この発明の第2実施形態に係る樹脂製基板の上面図である。図11は、この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの上面図である。図12は、この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図11のXII−XII断面図である。
【0056】
第2実施形態では、互いに独立した複数の流路用溝を樹脂製基板に形成し、複数のカバー側の樹脂製基板のそれぞれを、流路用溝ごとに接合することでマイクロチップを製造する。例えば図10に示すように、樹脂製基板30の一方の表面には、流路用溝31と流路用溝34とが形成されている。流路用溝31、34は、1例として、直線状の溝とその直線状の溝に交差する2つの溝とを含んで構成されている。流路用溝31と流路用溝34とは繋がっておらず、それぞれ独立した溝である。また、流路用溝31の端部には、樹脂製基板30の厚さ方向に貫通する貫通孔32が形成されている。同様に、流路用溝34の端部には、樹脂製基板30の厚さ方向に貫通する貫通孔35が形成されている。
【0057】
第2実施形態では、カバー側の基板として2つの樹脂製基板を用いる。例えば、図11と図12とに示すように、樹脂製基板40と樹脂製基板50とをカバー側の基板として用いる。なお、樹脂製基板40、50が、この発明の「個別基板」の1例に相当する。樹脂製基板40、50はそれぞれ平板状の基板である。樹脂製基板40は、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝31をカバーする基板である。一方、樹脂製基板50は、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝34をカバーする基板である。このように、流路用溝ごとに別個の基板を接合する。
【0058】
樹脂製基板40の形状は、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝31の形状と貫通孔32が形成されている位置とに依存する。例えば、樹脂製基板40の形状は、流路用溝31と貫通孔32とに沿った形状となっている。具体的には、樹脂製基板40の形状は、樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝31が形成されている位置と貫通孔32が形成されている位置とから、所定の距離d以内の範囲に含まれる形状となっている。これにより、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝31の位置に合わせて樹脂製基板40を樹脂製基板30に重ねて接合したときに、樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝31と貫通孔32とから所定の距離d以内の範囲に含まれることになる。1例として、樹脂製基板30のすべての端部が、流路用溝31と貫通孔32とから、2mm以内の範囲に含まれることが好ましく、0.2mm〜2mmの範囲内に含まれることがより好ましい。
【0059】
同様に、樹脂製基板50の形状は、流路用溝34の形状と貫通孔35が形成されている位置とに依存し、流路用溝34と貫通孔35とに沿った形状となっている。具体的には、樹脂製基板50の形状は、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34が形成されている位置と貫通孔35が形成されている位置とから、所定の距離d以内の範囲に含まれる形状となっている。これにより、樹脂製基板30の表面に形成された流路用溝34の位置に合わせて樹脂製基板50を樹脂製基板30に重ねて接合したときに、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34と貫通孔35とから所定の距離d以内の範囲に含まれることになる。1例として、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34と貫通孔35とから、2mm以内の範囲に含まれることが好ましく、0.2mm〜2mmの範囲内に含まれることがより好ましい。
【0060】
そして、図11と図12とに示すように、流路用溝31、34が形成されている面を内側にして、樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することでマイクロチップを製造する。このとき、樹脂製基板30に形成された流路用溝31の位置と貫通孔32の位置とに合わせて、樹脂製基板40を樹脂製基板30に重ねて接合する。この接合によって、樹脂製基板40が流路用溝31の蓋(カバー)として機能し、流路用溝31によって微細流路41が形成され、貫通孔32によって開口部42が形成される。また、樹脂製基板30に形成された流路用溝34の位置と貫通孔35の位置とに合わせて、樹脂製基板50を樹脂製基板30に重ねて接合する。この接合によって、樹脂製基板50が流路用溝34の蓋(カバー)として機能し、流路用溝34によって微細流路51が形成され、貫通孔35によって開口部52が形成される。
【0061】
以上のように、カバー側の樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝31と貫通孔32とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、樹脂製基板30と樹脂製基板40とが接合する面をより小さくすることが可能となる。このように接合面が小さくなることで、接合において平面精度の影響を受ける範囲がより狭くなる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面があっても、その表面の影響を低減して樹脂製基板30と樹脂製基板40とを接合することができる。その結果、樹脂製基板30と樹脂製基板40との接合強度をより高くすることが可能となる。同様に、樹脂製基板50のすべての端部が、流路用溝34と貫通孔35とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、樹脂製基板30と樹脂製基板50との接合強度をより高くすることが可能となる。
【0062】
また、第1実施形態と同様に、樹脂製基板30の角近傍の表面を避けて樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することが可能となる。そのことにより、平面精度が比較的低い表面を避けて、樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することが可能となる。また、射出成形のときに使用されたゲート近傍の表面を避けて、樹脂製基板30と樹脂製基板40、50とを接合することができる。
【0063】
なお、樹脂製基板40と樹脂製基板50とに流路用溝と貫通孔とを形成し、樹脂製基板30を平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板30と樹脂製基板40とが接合する面が小さくなり、樹脂製基板30と樹脂製基板50とが接合する面が小さくなる。そのことにより、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板30に流路用溝のみを形成し、樹脂製基板30に貫通孔を形成しても良い。
【0064】
[第2実施形態の変形例]
次に、上述した第2実施形態の変形例について図13と図14を参照して説明する。図13は、第2実施形態の変形例に係る樹脂製基板の上面図である。図14は、第2実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。
【0065】
この変形例では、上述した樹脂製基板40と樹脂製基板50とをカバー側の基板として用い、互いに独立した流路用溝が形成された樹脂製基板30Aと接合することでマイクロチップを作製する。変形例に係る樹脂製基板30Aの一方の表面には、第1実施形態に係る樹脂製基板10と同様に、流路用溝31、34が形成されている。また、流路用溝31の端部には貫通孔32が形成され、流路用溝34の端部には貫通孔35が形成されている。さらに、樹脂製基板30Aには、流路用溝31、34が形成されている表面とは反対側の表面に凹凸部材が設けられている。例えば、樹脂製基板30Aには、流路用溝31、34が形成されている表面とは反対側の表面に突起部33と突起部36とが設けられている。突起部33と突起部36とは円筒状の形状を有し、樹脂製基板30Aの厚さ方向に突出している。突起部33は貫通孔32を囲んで設けられ、突起部36は貫通孔35を囲んで設けられている。突起部33、36にチューブやノズルを嵌合して、試料などの導入や排出を行う。なお、図13に示す突起部33、36は円筒状の形状を有しているが、これは1例であり、多角形の形状を有していても良い。このように、樹脂製基板30Aは、突起部33、36を除いて第2実施形態に係る樹脂製基板30と同じ構成を有している。
【0066】
そして、図14に示すように、樹脂製基板30Aの表面に形成された流路用溝の位置に合わせて、樹脂製基板40と樹脂製基板50とを樹脂製基板30Aに重ねて接合する。
【0067】
上述した第2実施形態と同様に、カバー側の樹脂製基板40のすべての端部が、流路用溝と貫通孔とから所定の距離d以内の範囲に含まれることで、接合面を小さくして、平面精度の影響を受ける範囲を小さくすることが可能となる。その結果、樹脂製基板30Aと樹脂製基板40との接合強度をより高めることが可能となる。同様に、樹脂製基板30Aと樹脂製基板50との接合においても、接合強度をより高めることが可能となる。
【0068】
なお、樹脂製基板40と樹脂製基板50とに流路用溝と貫通孔と突起部とを形成し、樹脂製基板30Aを平板状の基板としても良い。この場合も、樹脂製基板30Aと樹脂製基板40とが接合する面が小さくなり、樹脂製基板30Aと樹脂製基板50とが接合する面が小さくなる。そのことにより、接合において平面精度の影響を低減することが可能となる。また、樹脂製基板30Aに流路用溝のみを形成し、樹脂製基板40、50に貫通孔を形成しても良い。
【0069】
また、樹脂製基板の表面に形成する流路用溝の数は限定されない。互いに独立した3個以上の流路用溝を、樹脂製基板の表面に形成しても良い。さらに、3つ以上の樹脂製基板を重ねて接合しても良い。また、射出成形に使用するゲートを複数用いても良い。この場合も、ゲート近傍の表面を避けて樹脂製基板同士を接合すれば良い。
【0070】
[実施例]
次に、具体的な実施例について説明する。
【0071】
この実施例では、上記第1実施形態の具体例を説明する。
【0072】
(樹脂製基板)
射出成形機で透明樹脂材料のアクリル(旭化成社製デルペット)を成形し、複数の流路用溝と複数の貫通孔とが形成された流路側の樹脂製基板を作製した。この流路側の樹脂製基板が、上述した第1実施形態における流路用溝11、12と貫通孔13とが形成された樹脂製基板10の1例に相当する。
流路側の樹脂製基板の寸法を以下に示す。
一辺の長さ=50mm
厚さ=1mm
流路用溝11、12の幅、深さ=50μm
流路用溝11の長さ=10mm
流路用溝12の長さ=22mm
貫通孔13の内径=2mm
また、流路用溝11と、流路用溝11の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは14mmである。
また、流路用溝12と、流路用溝12の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは26mmである。
【0073】
また、透明樹脂材料としてアクリルを用い、押出成形法によって、基板の厚さが1mmカバー側の樹脂製基板を作製した。このカバー側の樹脂製基板が、上述した第1実施形態に係る樹脂製基板20の1例に相当する。
カバー側の樹脂製基板の寸法を以下に示す。
流路用溝11に沿う部材21の長さ=18mm
流路用溝12に沿う部材22の長さ=30mm
幅w=4mm
基板の厚さ=1mm
【0074】
(接合)
次に、流路用溝が形成された表面を内側にして、流路側の樹脂製基板とカバー側の樹脂製基板とを重ねた。その状態で、加熱プレス機を用いて、90℃に加熱された熱板によって2つの樹脂製基板を挟み、1kgf/cm2の圧力を加えて、1分間保持することでマイクロチップを作製した。流路用溝11、12の幅は50μmで、流路用溝11の長さが10mmで、流路用溝12の長さが22mmで、貫通孔13の内径が2mmである。そのため、流路用溝11と、流路用溝11の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは14mmとなる。また、流路用溝12と、流路用溝12の両端部に形成された2つの貫通孔13とを含めた長さは26mmとなる。一方、カバー側の樹脂製基板20において、流路用溝11に沿う部材21の長さは18mmであり、流路用溝12に沿う部材22の長さは30mmである。従って、上記の流路側の樹脂製基板とカバー側の樹脂製基板とを接合することで、カバー側の樹脂製基板が流路用溝11、12と貫通孔13とを覆うことができる。さらに、カバー側の樹脂製基板のすべての端部を、流路用溝11、12と貫通孔13とから2mm以内の範囲に含ませることができる。
【0075】
(評価)
上述した方法で作製したマイクロチップの接合面を顕微鏡で観察したところ、この実施例において、2つの樹脂製基板は全面溶着されていた。
【0076】
(比較例)
次に、上述した実施例に対する比較例を説明する。
【0077】
(樹脂製基板)
射出成形機で透明樹脂材料のアクリル(旭化成社製、デルペット)を成形し、外形寸法が幅50mm×幅50mm×厚さ1mmの板状部材に幅50μm、深さ50μmの複数の流路用溝と、内径2mmの複数の貫通孔とが形成された流路側の樹脂製基板を作製した。突起部は各貫通孔を囲む形状を有し、流路用溝が形成されている表面とは反対側の表面に形成されている。同様に、外形寸法が幅50mm×幅50mm×厚さ1mmのカバー側の樹脂製基板を作製した。このカバー側の樹脂製基板が、流路用溝の蓋(カバー)として機能する。
【0078】
(接合)
次に、流路用溝が形成された表面を内側にして、流路側の樹脂製基板とカバー側の樹脂製基板とを重ねた。その状態で、加熱プレス機を用いて、90℃に加熱された熱板によって2つの樹脂製基板を挟み、1kgf/cm2の圧力を加えて、1分間保持することでマイクロチップを作製した。
【0079】
(評価)
比較例に係るマイクロチップの接合面を顕微鏡で観察したところ、角部や端部近傍で未溶着の範囲が観察された。
【0080】
以上のように、この発明の実施例によると、比較例と比べて、樹脂製基板同士の接合強度が高くなることが確認された。これは、2つの樹脂製基板の接合に供する面が小さくなり、その結果、平面精度の影響を低減することができたからと考えられる。
【0081】
なお、上述した実施例で示した樹脂製基板の材料や寸法は1例であり、この発明がこれらに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態で挙げた樹脂を用いた場合も、比較例と比べて、樹脂製基板同士の接合強度を高くすることが可能である。また、第2実施形態に係る樹脂製基板を用いても、上述した実施例と同様の効果が得られる。さらに、スイッチ機構やレンズを樹脂製基板の表面に形成した場合であっても、上述した実施例と同様の結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の上面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図1のII−II断面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る他方の樹脂製基板の上面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの上面図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図4のV−V断面図である。
【図6】第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の上面図である。
【図7】第1実施形態の変形例に係る一方の樹脂製基板の断面図であり、図6のVII−VII断面図である。
【図8】第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。
【図9】第1実施形態の変形例に係るマイクロチップの断面図であり、図8のIX−IX断面図である。
【図10】この発明の第2実施形態に係る樹脂製基板の上面図である。
【図11】この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの上面図である。
【図12】この発明の第2実施形態に係るマイクロチップの断面図であり、図11のXII−XII断面図である。
【図13】第2実施形態の変形例に係る樹脂製基板の上面図である。
【図14】第2実施形態の変形例に係るマイクロチップの上面図である。
【符号の説明】
【0083】
10、10A、20、30、30A、40、50 樹脂製基板
11、12、31、34 流路用溝
13、32、35 貫通孔
14、33、36 突起部
15、16、41、51 微細流路
17、42、52 開口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合するマイクロチップの製造方法であって、
前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部を、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含ませて前記2つの樹脂製基板を接合する接合工程を含むマイクロチップの製造方法。
【請求項2】
前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部は、前記一方の樹脂製基板を前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれ、
前記接合工程では、前記一方の樹脂製基板を、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねて、前記2つの樹脂製基板を接合することを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項3】
前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であり、前記個別基板のすべての端部は、前記複数の個別基板を前記他方の樹脂製基板に形成された溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれ、
前記接合工程では、前記複数の個別基板のそれぞれを、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記個別基板と前記他方の樹脂製基板とを接合することを特徴とする請求項2に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
前記接合工程では、前記2つの樹脂製基板を重ねた状態で前記2つの樹脂製基板を加熱して溶着することで前記接合を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
前記接合によって、電気泳動分析に用いるマイクロチップを製造することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項7】
2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合されたマイクロチップであって、
前記貫通孔と前記流路用溝とは繋がっており、
前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部が、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項8】
前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板と接合された基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする請求項7に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に接合された基板であり、前記複数の個別基板のそれぞれは、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記他方の樹脂製基板と接合されて、前記個別基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする請求項8に記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項11】
前記2つの樹脂製基板は、加熱して溶着することで接合されたことを特徴とする請求項7から請求項10のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項12】
電気泳動分析に用いられることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項1】
2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合するマイクロチップの製造方法であって、
前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部を、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含ませて前記2つの樹脂製基板を接合する接合工程を含むマイクロチップの製造方法。
【請求項2】
前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部は、前記一方の樹脂製基板を前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれ、
前記接合工程では、前記一方の樹脂製基板を、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねて、前記2つの樹脂製基板を接合することを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項3】
前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であり、前記個別基板のすべての端部は、前記複数の個別基板を前記他方の樹脂製基板に形成された溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に重ねたときに、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれ、
前記接合工程では、前記複数の個別基板のそれぞれを、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記個別基板と前記他方の樹脂製基板とを接合することを特徴とする請求項2に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
前記接合工程では、前記2つの樹脂製基板を重ねた状態で前記2つの樹脂製基板を加熱して溶着することで前記接合を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
前記接合によって、電気泳動分析に用いるマイクロチップを製造することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項7】
2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板の表面には流路用溝が形成され、前記2つの樹脂製基板のうち少なくとも1つの樹脂製基板には貫通孔が設けられ、前記2つの樹脂製基板を、前記流路用溝が形成されている面を内側にして接合されたマイクロチップであって、
前記貫通孔と前記流路用溝とは繋がっており、
前記2つの樹脂製基板の一方の樹脂製基板の端部が、前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項8】
前記2つの樹脂製基板の他方の樹脂製基板の表面には前記流路用溝が形成され、前記一方の樹脂製基板は平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板と接合された基板であり、前記一方の樹脂製基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする請求項7に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記流路用溝は、互いに繋がりがない独立した複数の溝を含み、前記一方の樹脂製基板は、前記複数の溝の数に応じた複数の個別基板を備え、前記複数の個別基板はそれぞれ平板状の基板であって、前記他方の樹脂製基板に形成された前記流路用溝の位置に合わせて前記他方の樹脂製基板に接合された基板であり、前記複数の個別基板のそれぞれは、前記他方の樹脂製基板に形成された前記複数の溝のそれぞれの位置に合わせて、独立した溝ごとに前記他方の樹脂製基板と接合されて、前記個別基板のすべての端部が、前記他方の樹脂製基板に形成された前記溝から2mm以内の範囲に含まれていることを特徴とする請求項8に記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記2つの樹脂製基板は熱可塑性樹脂により構成されていることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項11】
前記2つの樹脂製基板は、加熱して溶着することで接合されたことを特徴とする請求項7から請求項10のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項12】
電気泳動分析に用いられることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれかに記載のマイクロチップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−192421(P2009−192421A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34692(P2008−34692)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
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