説明

マイクロチップへの試薬の充填方法

【課題】小さな供給口から微量の試薬を効率的に、マイクロチップの試薬収容部に充填する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】液漏れを起こさない枠部材でマイクロチップ表面の試薬供給部の開口周辺を取り囲み、その内側に供給すべき液体の試薬を入れた後、エアポンプと連通するエアポンプ接続部を設けたを上記の枠に被せて密閉し、該エアポンプから空気を送り込み、上記の試薬にまず試薬供給部を通過し始めるために必要な圧力をかけ、続いて試薬収容部の末端に設けられた撥水バルブの液体保持力以下の圧力をかけることにより、試薬収容部に試薬を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている(特許文献
1)。これは、μ−TAS(Micro total Analysis System:マイクロ総合分析システム
)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。現実には遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることによる恩恵は多大と言える。
【0002】
各種の分析、検査ではこれらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためシンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題である。精度が高く、信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められており、好適なマイクロポンプシステムおよびその制御方法を本発明者らはすでに提案している(特許文献2〜4)。
【0003】
μ−TASにおいて、マイクロチップの試薬収容部には、用いる反応方法や検出方法に応じた必要な試薬類が予め所定の量だけ封入されており、分析時に即使用可能な状態になっていることが望ましい。ところが、微量の試薬はマイクロチップに充填しにくく、さらに、試薬の供給口が小さな場合、供給のための位置決めも難しくなる。また、試薬の供給の際に、試薬収容部からこれに連通する微細流路に試薬が漏れてしまうと、正常な送液ができなくなるため、これを防止する必要がある。
【特許文献1】特開2004-28589号公報
【特許文献2】特開2001-322099号公報
【特許文献3】特開2004-108285号公報
【特許文献4】特開2004-270537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述の問題に鑑みてなされたものであり、小さな供給口から微量の試薬を効率的に、マイクロチップの試薬収容部に充填する方法を提供することを目的としている。また、そのような方法により試薬が充填されたマイクロチップを用いたマイクロ総合分析システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のマイクロチップへの試薬の充填方法は、微細流路における試薬収容部と、該試薬収容部の上面に設けられた試薬供給部と、該試薬収容部の少なくとも下流側末端に設けられた撥水バルブとを有するマイクロチップを対象とする。
【0006】
このようなマイクロチップに対して、
液漏れを起こさない枠部材でマイクロチップ表面の該試薬供給部の開口周辺を取り囲み、その内側に供給すべき液体の試薬を入れた後、
エアポンプと連通するエアポンプ接続部を設けたを上記の枠に被せて密閉し、該エアポンプから空気を送り込み、
上記の試薬にまず試薬供給部を通過し始めるために必要な圧力をかけ、続いて撥水バル
ブの液体保持力以下の圧力をかけることにより、試薬収容部に試薬を供給する。
【0007】
また、上述した充填方法において、単一のエアポンプと複数の蓋部材のエアポンプ接続部とを連通させることにより、複数の試薬供給部に対して同時に試薬の供給を行うことも可能である。
【0008】
マイクロチップの試薬収容部は、微細流路の途中に形成され、該試薬収容部の上流側末端および下流側末端に撥水バルブが設けられているものであってもよい。
本発明のマイクロ分析システムは、
上記の方法を用いて試薬が充填されたマイクロチップと、システム装置本体とを備えるマイクロ総合分析システムであって、
そのシステム装置本体は、少なくとも、チップ接続部およびマイクロポンプを含むマイクロポンプユニットと、該マイクロポンプユニットの機能を制御する制御装置とを備え、
該マイクロポンプが、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、第1流路および第2流路に接続された加圧室と、該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、該アクチュエータを駆動する駆動装置とを備える
ことを特徴とするマイクロ総合分析システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マイクロチップの試薬収容部の供給口が小さな場合であっても、微量の試薬の充填を容易に行うことが可能である。また、複数の試薬収容部に対して同時に試薬を充填することも可能であり、充填工程を効率的に行うことができる。このような方法により試薬が充填されたマイクロチップは、試薬収容部から微細流路へ試薬が漏れ出ているおそれがなく、正確な送液を行えるため、マイクロ総合分析システムにおいて使用するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、「マイクロチップ」は、合成や検査など様々な用途に用いられるマイクロ総合分析システムにおけるチップのことであるが、特に生体物質を対象とした検査に用いられるものについては「検査チップ」と呼ぶこともある。「微細流路」は、狭義には、広幅に形成されることもある構造部を除いた幅の狭い流路部位のみを指すこともあるが、広義には、そのような構造部を含めた一連の流路を指す。連通する微細流路内を流れる流体は、実際は液体であることが多く、具体的には、各種の試薬類、試料液、変性剤液、洗浄液、駆動液などが該当する。「遺伝子」とは、何らかの機能を発現する遺伝情報を担うDNAまたはRNAをいうが、単に化学的実体であるDNA、RNAの形でいうこともある。分析対象である標的物質を「アナライト」ということもある。
【0011】
本発明は、種々の実施の形態において、本発明の趣旨に沿って任意の変形、変更が可能であり、それらは本発明に含まれる。すなわち、本発明のマイクロ総合分析システムの全体または一部について、構造、構成、配置、形状形態、寸法、材質、方式、方法などを本発明の趣旨に合致する限り、種々のものにすることができる。
【0012】
マイクロチップ
本発明のマイクロチップには、化学分析、各種検査、試料の処理・分離、化学合成などを行うための、微小な溝状の流路(微細流路)および機能部品(流路エレメント)が、用途に応じた適当な態様で配設されている。微細流路には、例えば検体液を収容する検体収容部、試薬類を収容する試薬収容部などが設けられており、場所や時間を問わず迅速に検査ができるよう、試薬収容部には必要とされる試薬類、洗浄液、変性処理液などがあらかじめ収容されている。
【0013】
上記のチップは、一般的には、溝形成基板および被覆基板からなる基本的基板を構造として有する。少なくとも溝形成基板には、上記の微細流路が形成されている。被覆基板は、少なくとも溝形成基板の微細流路を密着して覆う必要があり、溝形成基板の全面を覆っていてもよい(ただし、開放すべき一部の開口を除く)。
【0014】
・素材
マイクロチップは、加工成形性、非吸水性、耐薬品性、耐熱性、廉価性などに優れていることが望まれており、チップの構造、用途、検出方法などを考慮して、チップの材料を適切に選択することが求められる。その材料としては従来公知の様々なものが使用可能であり、個々の材料特性に応じて通常は1以上の材料を適宜組み合わせて、基板および流路エレメントが成形される。
【0015】
一例として、多数の測定検体、とりわけ汚染、感染のリスクのある臨床検体を対象とするチップは、ディスポーサブルタイプであることが望ましい。そのため、量産可能であり、軽量で衝撃に強く、焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂、例えば、透明性、機械的特性および成型性に優れて微細加工がしやすいポリスチレンが好ましく用いられる。
【0016】
分析においてチップを100℃近くまで加熱する必要がある場合には、耐熱性に優れる樹脂(例えばポリカーボネートなど)を用いることが好ましい。樹脂やガラスなどは熱伝導率が小さく、マイクロチップの局所的に加熱される領域にこれらの材料を用いることにより、面方向への熱伝導が抑制され、加熱領域のみ選択的に加熱することができる。
【0017】
また、微細流路の検出部において、蛍光物質または呈色反応の生成物などの光学的な検出が行われる場合、この部位の基板には光透過性の材料(例えばアルカリガラス、石英ガラス、透明プラスチック類)を用いる必要がある。
【0018】
・微細流路
マイクロチップの微細流路には、例えば、各収容部(試薬収容部、検体収容部など)および廃液貯留部などの液溜部;ポンプ接続部;弁基部、送液制御部(撥水バルブなど)、逆流防止部(逆止弁、能動弁など)、試薬定量部、混合部などの送液を制御するための部位;反応部;検出部などの構造部およびそれらを連通する流路が含まれている。このような微細流路はマイクロメーターオーダーで形成されており、例えば幅は数十〜数百μm、好ましくは50〜100μm、深さは25〜200μm程度、好ましくは50〜100μmである。流路幅が50μm未満であると、流路抵抗が増大し、流体の送出および検出上不都合である。幅500μmを超える流路ではマイクロスケール空間の利点が薄まる。なお、試薬類などの収容部、反応部および検出部は、容量の大きい広幅の液溜め状になっていることもある。
【0019】
微細流路は、使用の目的に応じて予め設計された流路配置に従って基盤上に形成される。その成形方法としては従来の微細加工技術を用いて作成した母型からの転写、射出成形、押し出し成形があげられる。材料としては、サブミクロンの構造も正確に転写でき、機械的特性の良好なプラスチックが好ましく、例えばポリスチレン、ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサンなどは形状転写性に優れている。
【0020】
・試薬収容部周辺の構造
図2は、一実施態様における試薬収容部周辺の概要を表した断面図である。以下、この図を参照しながら説明を行う。なお、これはまだ蓋部材57が被せられる前の状態であり、蓋部材57を被せた後に試薬40の注入が開始される。
【0021】
マイクロチップの試薬収容部31は、反応や検出に用いられる試薬を収容し、混合部に供給するための微細流路中の部位である。試薬収容部の容積は用いられる試薬に応じて適宜調整され、他の微細流路より幅広に形成されることもあるが、例えば3〜10μL程度である。
【0022】
試薬収容部31の上面には、これと連通し、外部から試薬を注入するための開口を有する試薬供給部32が設けられている。この開口の形状および大きさは、試薬収容部31の大きさなどに応じて適宜設定されるが、一例としては直径が約0.3mm〜0.6mmの円形である。
【0023】
本発明のマイクロチップにおいて、試薬収容部の一部には送液制御部、例えば「撥水バルブ」(「疎水性バルブ」ともいう。)が形成されている。例えば、図2の例のように試薬収容部31が微細流路の途中に形成されている場合は、一般的に、試薬収容部の上流側末端および下流側末端の両方に撥水バルブが形成される態様となる(撥水バルブ34aおよび34b)。試薬収容部の上流側から駆動液などの液体が送り込まれ、試薬収容部の試薬はこの液体と共に撥水バルブを通過して下流側の微細流路へ押し出され、微細流路内を通して送液される。
【0024】
上記の撥水バルブは、流路径を絞った部分、すなわち「絞り流路」からなる。その一端側から達した流体が他端側へ通過することを規制し、所定圧以上の送液圧力が加えられると流体の通過を許可するように機能する。絞り流路の断面積(流路に対して垂直な断面の面積)は、撥水バルブの上流側の流路および下流側の流路の断面積よりも小さくなっており、下流方向への送液圧力が所定圧に達するまで流体の通過を遮断する。垂直断面の大きさは、流路壁の材質や目的とする送液圧力などにより適宜調節されるが、一例としては、上流側の流路および下流側の流路の垂直断面の縦横が150μm×300μm程度であり、絞り流路の縦横が25μm×25μm程度である。
【0025】
下流側の流路へ流体を流出させるには、マイクロポンプによって所定圧以上の送液圧力を加えればよい。これにより表面張力に抗して流体が絞り流路から下流側の通路へ押し出される。一旦流体が流路へ流出した後は、流体の先端部を下流側の流路へ押し出すのに要した送液圧力を維持せずとも、液が下流側の流路へ流れていく。
【0026】
撥水バルブおよびこれに連通する流路の撥水性が劣ると、流体の止まりが悪くなり、流体が少しずつ流れ出てしまう。このため、微細流路の壁面はプラスチック樹脂などの疎水性の高い材質で形成されていることが望ましい。流路壁がガラスなどの親水性の材質で形成されている場合には、少なくとも絞り流路の内面に、撥水性のコーティング、例えばフッ素系のコーティングを施す必要がある。
【0027】
なお、このような撥水バルブの形成は試薬収容部だけに限らず、例えば、試薬混合部や検体収容部の合流部側の端部などにも設けられ、その先の流路への送液開始のタイミングを制御するために用いられることがある。また、このような撥水バルブを設けることにより、ポンプの駆動停止時に、毛管力により流体が勝手に移動してしまうことを防止できる。
【0028】
充填方法
上述したような、微細流路における試薬収容部と、該試薬収容部の上面に設けられた試薬供給部と、該試薬収容部の少なくとも下流側末端に設けられた撥水バルブとを有するマイクロチップへの、本発明の試薬の充填方法は、
液漏れを起こさない枠部材でマイクロチップ表面の該試薬供給部の開口周辺を取り囲み、その内側に供給すべき液体の試薬を入れた後、
エアポンプと連通するエアポンプ接続部を設けたを上記の枠部材に被せて密閉し、該エアポンプから空気を送り込み、
上記の試薬にまず試薬供給部を通過し始めるために必要な圧力をかけ、続いて撥水バルブの液体保持力以下の圧力をかけることにより、試薬収容部に試薬を供給することを特徴とすることを特徴とする。
【0029】
なお、マイクロチップの保管中に試薬が収容部から微細流路内に漏れ出すことを防止するために、試薬の充填に先立って、封止剤を封入することが望ましい。封止剤は、マイクロチップの使用前に保管される冷蔵条件下では固化またはゲル化しており、試薬の流出を防ぐが、室温にすると融解し流動状態となり、送液時に容易に排出することができるものである。このような封止剤としては、例えば、水に対する溶解度が1%以下であり、かつ融点が8℃〜室温(約25℃)である油脂、およびゼラチンの水溶液が挙げられる。ゼラチンの水溶液は、ゼラチンの濃度を変えることによりゲル化温度を調整することができ、例えば10℃前後でゲル化させるためには、約1%の水溶液とすればよい。このような封止剤は、試薬収容部とこれに連通する微細流路との間に充填してもよく、封止剤用に設けられた貯留部に充填してもよい。
【0030】
・枠部材
以下、再び図2を参照しながら説明を行う。試薬の充填の際には、まず、液漏れを起こさない枠部材56でマイクロチップ表面の該試薬供給部32の開口周辺を取り囲み、つぎに、上記の枠部材56で囲まれた内部に供給すべき液体の試薬40を入れる。このとき、枠部材56とマイクロチップ2表面とを密着させることなどにより、試薬が漏れ出さないような構造
とすることが望ましい。枠部材56で取り囲む範囲の面積は、後述するエアポンプによる注入が可能な範囲において、枠部材56の高さや、供給すべき試薬40の量などにより適宜調整される。枠部材56の材質は、上記のようなマイクロチップとの密着性などの観点から適宜選択すればよい。形状も特に制限されないが、一例としてリング状の部材とすることが挙げられる。
【0031】
・蓋部材
枠部材56の内側に試薬40が入れられたら、つづいて、試薬液面全体を覆うよう、蓋部材57を枠部材56に被せる。後述するエアポンプによる加圧が試薬40液面に効率的に伝わるよう、空気が外部に漏れ出ない密閉された空間を創出するような構造であれば、蓋部材57の形状および材質は特に制限されない。
【0032】
この蓋部材57には、エアポンプ(図示せず)と接続するためのエアポンプ接続部58が設けられている。エアポンプ接続部58と別途のエアポンプとは、エアポンプ連通部材59(例えばチューブのような部材)により連通させ、エアポンプから空気が送り込まれるようにする。このような、蓋部材57、エアポンプ接続部58およびエアポンプ連通部材59の材質や形状は、後述する充填圧力や、複数の箇所に同時に加圧する態様かどうかに応じて、適切なものであればよい。蓋部材57、エアポンプ接続部58およびエアポンプ連通部材59は、あらかじめ一体化された構造であってもよい。
【0033】
なお、前述した枠部材56で囲む工程と試薬40を入れる工程とは、手順が逆になるようにすることもできる。すなわち、例えば、先に試薬供給部32の開口付近に試薬40を滴下し、その後に液滴を囲むように枠部材56を設置してもよい。このような場合には、枠部材56と蓋部材57とがあらかじめ一体化した部材を用いることも可能である。
【0034】
・加圧方法
上記の工程の後、エアポンプより空気を送り込み、試薬に圧力を加える。マイクロチップ表面が疎水性である場合、試薬供給部32の開口上部に試薬40を載せた状態で大気圧が加
わる程度では、試薬40は開口から試薬収容部31に入りにくいが、さらに加圧することにより試薬40が連続的に注入される。撥水バルブにおける説明と同様に、一度注入が開始されれば、開始時の圧力よりも低い圧力(これを「充填圧力」とよぶ。)にて注入が続く。
【0035】
この充填圧力は、試薬収容部40の端部に設けられた撥水バルブ34aおよび34bの液体保持力以下でなくてはならない。この条件が満たされる場合、試薬収容部31が試薬40で満杯になった時点で、試薬40の供給は停止される。逆に、充填圧力が撥水バルブ34aおよび34bの液体保持力以上であると、注入された試薬40が試薬収容部31から微細流路33aまたは33bに漏れ出すことになり、送液が正常に行われなくなるため、きわめて不適切である。試薬収容部に複数の撥水バルブが設けられている場合、充填圧力は、そのうちの最も小さな液体保持力以下とする必要がある。
【0036】
エアポンプは、充填圧力の調整が比較的行いやすいため、このような加圧において好適に用いられるが、その他の手段により試薬液面へ適切に加圧することが可能であれば、同様の方法で充填を行うこともできる。また、空気酸化により試薬の劣化が懸念される場合には、空気に替えて窒素などを使用してもよい。
【0037】
このような加圧による試薬充填の一例として、マイクロチップ材料がポリスチレンやポリプロピレンなどのプラスチックであり、撥水バルブ(絞り流路)の寸法が25×25μmである場合、例えば2KPa以下の圧力を加えることにより撥水バルブから試薬が漏れるこ
となく充填することができる。
【0038】
・複数の試薬収容部を対象とした充填方法
マイクロチップには試薬収容部が複数存在する場合が多いが、それぞれの試薬収容部に対して、試薬供給部の周囲に枠部材および蓋部材を設置し、さらにエアポンプを接続し、上記のような操作により試薬を充填すればよい。ここで、複数の蓋部材のエアポンプ接続部のエアポンプ接続部と単一のエアポンプとを分岐したチューブなどで接続するようにし、複数の試薬液面に同時に圧力を加え、試薬収容部に試薬を一度に供給することが可能である。これにより、複数箇所への試薬の供給が、短時間で効率よく、簡便に行うことができる。この際の充填圧力の条件は前述と同様である。
【0039】
図3は、複数の試薬収容部に対して同時に試薬を供給する場合の概要を示した図である。試薬供給部32aおよび32bのそれぞれの開口部の周囲に、枠部材56および蓋部材57を設置し、エアポンプ接続部58aおよび58bは、分岐したエアポンプ連通部材59でエアポンプ(図示せず)に接続されている。エアポンプにより空気を送り込むと、試薬40aおよび40bに同時に空気圧が加わり、試薬収容部31aおよび31bに試薬40aおよび40bが注入される。
【0040】
複数の試薬収容部に試薬を充填する際には、一例として、以下のような態様の枠部材、蓋部材およびエアポンプ連通部材を用いることも考えられる。マイクロチップの複数箇所の試薬供給部に設置すべき枠部材として、それぞれの試薬供給部に対応する部分を開口させた1枚の基板、すなわち枠基板を用いる。この枠基板をマイクロチップと重ね合わせることにより、試薬供給部の開口の周囲に枠部材を設置された状態となる。基板の厚さが枠部材の高さに相当する。また、蓋部材としては、上記の枠基板の開口に対応する部分を窪ませ、別の場所に一カ所の開口を設け、これらの窪みと開口とを溝で連通させた1枚の基板、すなわち蓋基板を用いる。上記の溝がエアポンプ連通部材の機能を担い、窪みがエアポンプ接続部に相当する。
【0041】
図4は、枠基板および蓋基板を用いた複数箇所への試薬充填の一態様における、そのうちの1カ所の試薬収容部周辺の様子を示した断面図である。枠基板61の開口部63を、対応するマイクロチップ2の試薬供給部32の位置に合わせて密着させた後、試薬40をそこに入
れる。続いて、枠基板開口部63の位置に蓋基板窪み64が合うように蓋基板62を重ね合わせる。その後、枠基板開口部66に接続されたエアポンプ(図示せず)より空気を送り込めば、前述と同様にして試薬収容部31に試薬40を供給することができる。他の部位の試薬収容部にも、これと同様にして試薬が供給される。
【0042】
なお、上記の枠基板の開口および蓋基板の窪み、溝、開口などの大きさや形状は、それぞれ適切なものとすることができる。枠基板および蓋基板の大きさは、マイクロチップと同じでも異なっていてもよく、これらの基板の厚みも作業に適したものに調整すればよい。枠基板および蓋基板の材質は、マイクロチップの基板と同様のものを用いることができる。
【0043】
・シール
以上の方法によりマイクロチップに試薬を充填した後は、その試薬の蒸発、漏失、汚染または変性もしくは気泡の混入を防止するため、マイクロチップ表面に残された余分な試薬を除去し、開口をシール部材などで直ちに封止することが望ましい。
【0044】
マイクロ総合分析システム
図1は、本発明のマイクロ総合分析システムの一実施形態における構成を示した概念図である。図示したように、かかる実施形態では、マイクロチップ2とともに、このチップ
を収容する装置として、システム装置本体1がある。この装置は、反応のために用いられ
るペルチェ3(冷却装置)と、ヒーター4(加熱装置)と、送液用のマイクロポンプ11、駆動液タンク10およびチップ接続部を有するマイクロポンプユニットと、それらの送液、温度、反応の各制御に関わる制御装置(図示せず)と、光学検出系(ホトダイオード5、L
ED6など)を含み、測定データの収集および処理をも受け持つ検出処理装置(図示せず
)とを備えている。マイクロ総合分析システムは、マイクロチップ2以外の構成要素を一
体化してシステム装置本体1とし、マイクロチップ2をこのシステム装置本体1に着脱する
ように構成することが望ましい。
【0045】
マイクロチップ2は、一般に検査チップ、分析チップ、マイクロリアクタ・チップなど
とも称されるものと同等である。通常、このチップの縦横のサイズは数十mm、高さは数mm程度である。そこには、微細加工技術により微細流路が形成されている。微細流路に連通している試薬収容部内、検体収容部内にある各種の液体は、マイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部12を介して各収容部に連通された上記マイクロポンプ11によって送液される。
【0046】
マイクロポンプは、マイクロチップ2に設けることも可能であるが、通常、複数のマイ
クロポンプがシステム装置本体1に組み込まれる。これら複数のマイクロポンプと、マイ
クロチップ2に連通させるための流路開口を有するチップ接続部とを含むマイクロポンプ
ユニットが、システム装置本体1のベース本体内に配置されている。図示したように、マ
イクロチップ2をシステム装置本体1に装着し、面同士で重ね合わせることにより、該チップのポンプ接続部をマイクロポンプユニットにあるチップ接続部に接続するようになっている。マイクロポンプ11により駆動液をマイクロチップ2の微細流路に送り込み、検体や
試薬などの流体を押し出して、微細流路内の流体の送液を行う。
【0047】
マイクロポンプ11を制御する電気制御系統の装置は、流量の目標値を設定し、それに応じた駆動電圧をマイクロポンプに供給している。後述するように、そうした制御を受け持つ制御装置についても、本発明システムの装置本体に組み込んで、マイクロチップ2のポ
ンプ接続部12をマイクロポンプユニットのチップ接続部に接続させた場合に作動制御させるようにしてもよい。
【0048】
光学的検出、データの収集および処理を受け持つユニットである検出処理装置(図示せず)は、例えば可視分光法、蛍光測光法などの手法が適用される場合、その光学的測定の手段として特に限定されないが、LED、光電子増倍菅、フォトダイオード、CCDカメラなどがその構成要素としてシステム装置本体内に適宜設置されることが望ましい。
【0049】
ペルチェ3およびヒーター4は、マイクロチップの特定の部位に当接するよう配置され、これらの部位の冷却または加熱を行う。
少なくとも前記のマイクロポンプユニットの機能を制御する制御装置(図示せず)が、本発明システムの装置本体に組み込まれている。この制御装置は、さらに、加熱装置および/または冷却装置による温度調節を管理する機能、検出処理装置における測定データの記録および処理機能などを統合して担い、システムを統括的に制御支配するようにしてもよい。マイクロポンプ11による送液の順序、容量、タイミングの制御、あるいは加熱装置および/または冷却装置による温度制御などの諸条件は、あらかじめプログラムの内容として設定しておき、マイクロ総合分析システムに搭載されたマイクロコンピュータ等のソフトウェアに従ってそれらの制御を行うことができる。
【0050】
マイクロチップ2における反応および検出などの一連の分析工程は、前記のマイクロポ
ンプ11、検出処理装置および制御装置などが一体化されたシステム装置本体1にチップを装着することにより行なわれる。試料および試薬類の送液、前処理、混合に基づく所定の反応および光学的測定が、一連の連続的工程として自動的に実施され、測定データが、必要な条件、記録事項とともにファイル内に格納される形態が望ましい。
【0051】
従来の分析チップでは、異なる分析または合成などを行う場合には、変更される内容に対応するマイクロ流体デバイスをその都度構成する必要があった。これとは異なり、本発明のマイクロ総合分析システムでは脱着可能な上記チップのみ交換すればよい。各流路エレメントの制御変更も必要となる場合には、装置本体に格納された制御プログラムを適宜変更すればよい。
【0052】
マイクロポンプユニット
本発明のシステム装置本体は、ベース本体とともに、そのベース本体内に配置され、マイクロチップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、複数のマイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットを構成単位として有している。マイクロポンプは、例えば複数のマイクロポンプがフォトリソグラフィ技術などにより形成されたチップ状のポンプユニットとして、システム装置本体に組み込まれていてもよい。
【0053】
マイクロポンプとしては、アクチュエータを設けた弁室の流出入孔に逆止弁を設けた逆止弁型のポンプなど各種のものが使用できるが、ピエゾポンプを用いることが好適である。このピエゾポンプは、概略すると、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、第1流路および第2流路に接続された加圧室と、該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、該アクチュエータを駆動する駆動装置とを備えており、ポンプの駆動電圧波形、電圧値、および周波数を変えることによって、液体の送液方向、送液速度を制御できるようになっている。このようなマイクロポンプおよびそれを用いたシステムを本発明者らはすでに提案しており、その詳細は特開2001-322099号公報、特開2004-108285号公報、特開2004-270537号公報などを参照することができる。
【0054】
図6(a)は、ピエゾポンプの一例を示した断面図、図6(b)は、その上面図である。このマイクロポンプには、第1液室48、第1流路46、加圧室45、第2流路47、および第2液室49が形成された基板42と、基板42上に積層された上側基板41と、上側基板41上に積層された振動板43と、振動板43の加圧室45と対向する側に積層された圧電素子44と、圧電
素子44を駆動するための駆動部(図示せず)とが設けられている。この駆動部と、圧電素子44表面上の2つの電極とは、フレキシブルケーブルなどによる配線で接続されており、かかる接続を通じて当該駆動部の駆動回路によって圧電素子44に特定波形の電圧を印加する構成となっている。図6の(a)(b)には図示されていないが、第1液室48には、駆動液タンク10につながるポート72が設けられており、その第1液室は、「リザーバ」の役割を演じ、ポート72で駆動液タンク10から駆動液の供給を受けている。第2液室49はマイクロポンプユニットの流路を形成し、その流路の先にチップ接続部のポート73があり、マイクロチップの「ポンプ接続部」12とつながる。
【0055】
図6(c)に、このポンプの他の例を示した。この例では、ポンプをシリコン基板71、圧電素子44、および図示しないフレキシブル配線から構成している。加圧室45、ダイヤフラム43、第1流路46、第1液室48、第2流路47、および第2液室49が形成されている。第1液室48にはポート72が、第2液室49にはチップ接続部のポート73がそれぞれ設けられており、例えばこのピエゾポンプを図1のマイクロチップ2とは別体とする場合には、この
ポート73を介してマイクロチップ2のポンプ接続部12と連通する。例えば、ポート72、73が穿孔された基板74と、マイクロチップのポンプ接続部近傍とを上下に重ね合わせることによって、ポンプをマイクロチップ2に接続することができる。また、前述したように、
1枚のシリコン基板に複数のポンプを形成することも可能である。この場合、マイクロチップ2と接続したポートの反対側のポートには、駆動液タンク10が接続されていることが
望ましい。ポンプが複数個ある場合、それらのポートは共通の駆動液タンクに接続されてもよい。
【0056】
上記のマイクロポンプと、図1に示した本発明のマイクロ総合分析システムとの関係を説明する。図1の例では、マイクロポンプ11は、マイクロチップ2とは別の装置としてシ
ステム装置本体1に属し、駆動液タンク10と連通している。マイクロポンプ11は、マイク
ロチップ2とは、両者が互いに所定の形態で接合したときに、マイクロポンプユニットに
あるチップ接続部のポート73と、マイクロチップにあってマイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部12とが連結してマイクロチップの流路と連通するようになる。
【0057】
なお、別の態様として、マイクロポンプそのものもマイクロチップ上に組み込むことも可能である。特にチップ上の流路が比較的単純であり、繰り返し使用を前提とするような目的または用途、例えば化学合成反応用のチップとする場合にはこの形態を採り得る。
【0058】
分析の実施態様
本発明のマイクロ分析システムは、特に遺伝子または核酸(DNA、RNA)の検査に好適に用いることができる。その場合、マイクロチップの微細流路は、PCR法またはICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid amplification)法による遺伝子増幅に適した構成とされるが、遺伝子検査以外の生体物質についても基本的な流路構成はほぼ同一になるといえる。通常は検体前処理部、試薬類、プローブ類を変更すればよく、その場合、送液エレメントの配置、数などは変化するであろう。当業者であれば、例えばイムノアッセイ法のために必要な試薬類などをマイクロチップに搭載し、若干の流路エレメントの変更、仕様の変更を含む修正を施すことにより、分析の種類を容易に変更することができる。ここにいう遺伝子以外の生体物質とは、各種の代謝物質、ホルモン、タンパク質(酵素、抗原なども含む)などをいう。
【0059】
本発明のマイクロチップの好ましい一態様では、一つのチップ内において、
検体もしくは検体から抽出したアナライト(例えば、DNA、RNA、遺伝子)が注入される検体収容部と、
検体の前処理を行う検体前処理部と、
プローブ結合反応、検出反応(遺伝子増幅反応または抗原抗体反応なども含む)などに用いる試薬が収容される試薬収容部と、
ポジティブコントロールが収容されるポジティブコントロール収容部と、
ネガティブコントロールが収容されるネガティブコントロール収容部と、
プローブ(例えば、遺伝子増幅反応により増幅された検出対象の遺伝子にハイブリダイズさせるプローブ)が収容されるプローブ収容部と、
これらの各収容部に連通する微細流路と、
前記各収容部および流路内の液体を送液する別途のマイクロポンプに接続可能なポンプ接続部と、が設けられている。
【0060】
図5は、このようなマイクロチップにおける微細流路の構成の一実施態様を示す。マイクロチップのポンプ接続部12を介して接続されたマイクロポンプ11は、検体収容部20に収容された検体もしくは検体から抽出した生体物質(例えばDNAまたはそれ以外の生体物質)と、試薬収容部18に収容された試薬とを流路15へ送液する。これらを微細流路の反応部位、例えば遺伝子増幅反応(タンパク質の場合、抗原抗体反応など)の部位で混合して反応させた後、その下流側流路にある検出部22aへ、この反応液を処理した処理液と、プ
ローブ収容部21fに収容されたプローブとを送液し、流路内で混合してプローブと結合(またはハイブリダイゼーション)させ、この反応生成物に基づいて生体物質の検出を行う。また、ポジティブコントロール収容部21hに収容されたポジティブコントロールおよび
ネガティブコントロール収容部21iに収容されたネガティブコントロールについても、上
記と同様にして反応および検出を行う。
【0061】
・検体
マイクロチップの検体収容部は、検体注入部に連通し、検体の一時収容および混合部への検体供給を行う。検体収容部への検体の注入は、例えば検体収容部の上面に設けられた検体注入部から行われる。この検体注入部は、ゴム状材質などの弾性体からなる栓が形成されているか、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂、強化フィルムで覆われていることが望ましい。例えば、当該ゴム材質の栓を突き刺したニードルまたは蓋付き細孔を通したニードルでシリンジ内の検体を注入する。なお、マイクロチップへの検体の注入は、システム装置本体に装着する前にあらかじめ行っておいてもよいし、装着してから行うようにしてもよい。
【0062】
遺伝子検査において対象となる検体は、DNAまたはRNAを含有する試料であり、例えば、全血、血漿、血清、バフィーコート、尿、糞便、唾液、喀痰などの生体由来の試料、ウィルス、細菌、カビ、酵母、動植物の細胞などが挙げられる。また、これらの試料から従来技術により単離したDNAまたはRNAを用いてもよい。
【0063】
必要とされる検体の量は、従来の装置を使用して行う手作業の場合に比べて極めて少なくてすむ。例えば、縦横の長さが数cmのチップに対しては、2〜3μL程度の血液検体を注入するだけでよい。DNAとしては、0.001〜100ngである。
【0064】
また、検体収容部に注入された検体については、必要に応じて、試薬との混合前に、予め流路に設けられた検体前処理部にて、前処理を行ってもよい。好ましい検体前処理として、アナライトの分離または濃縮、除タンパクなどが含まれる。例えば、1%SDS混合液などの溶菌剤を用いて溶菌を行い、放出されたDNAをビーズ、吸着用樹脂またはフィルターの膜面に吸着させる、DNA抽出処理が挙げられる。
【0065】
・試薬
マイクロチップの試薬収容部には、目的とする反応方法や検出方法に応じた必要な試薬類が予め所定の量だけ封入されている。したがって使用時にその都度、試薬を必要量充填
する必要はなく、即使用可能の状態になっている。チップ内に内蔵される試薬類は、蒸発、漏失、気泡の混入、汚染、変性などを防止するため、その収容部の表面が密封処理されている。
【0066】
検体中の生体物質を分析する場合に必要な試薬類は、従来と同じものである。例えば、検体に存在する抗原を分析する場合、それに対する抗体(好ましくはモノクローナル抗体)を含有する試薬が使用される。抗体は、好ましくはビオチンおよびFITCで標識されている。遺伝子検査用の試薬類としては、遺伝子増幅に用いられる各種試薬、検出に使用されるプローブ類、発色試薬などが挙げられ、必要であれば、前記の検体前処理に使用する前処理試薬も含まれる。
【0067】
・混合
マイクロポンプから駆動液を供給することにより各収容部から検体液および試薬液を押し出してこれらを合流させることによって、遺伝子増幅反応、アナライトのトラップまたは抗原抗体反応といった分析に必要な反応が開始される。
【0068】
試薬と試薬との混合、および検体と試薬との混合は、単一の混合部で所望の比率で混合してもよく、あるいは何れかもしくは両方を分割して複数の合流部を設け、最終的に所望の混合比率となるように混合してもよい。
【0069】
そうした反応部位の態様は特に限定されるものではなく、様々な形態および様式が考えられる。一例としては、試薬を含む2以上の液体を合流させる合流部(流路分岐点)から先に、各液が拡散混合される微細流路が設けられ、この微細流路の下流側末端から先に設けられた、該微細流路よりも広幅の空間からなる液溜めにおいて反応が行われる。
【0070】
・反応
DNA増幅方法としては、改良点も含めて各種文献などに記載され、多方面で盛んに利用されているPCR法を使用することができる。PCR法においては、3つの温度間で昇降させる温度管理が必要になるが、適切な装置を使用してマイクロチップの温度制御を行えばよい。マイクロチップにおいては、微細流路において熱サイクルを高速に切り替えることが可能であり、DNAの増幅を手作業で行うよりもはるかに短時間で行うことができる。また、近年開発されたICAN法(タカラバイオ(株)、登録商標)は、50〜65℃における任意の一定温度の下にDNA増幅を短時間で実施できるため(特許第3433929号)、本発明システムにおいても好適な増幅技術である。
【0071】
・検出
マイクロチップの微細流路における反応部位よりも下流側には、アナライト、例えば増幅された遺伝子を検出するための検出部が設けられている。少なくともその検出部の基板は、光学的測定を可能とするために透明な材質、好ましくは透明なプラスチックとなっている。
【0072】
さらに微細流路上の検出部位に吸着させ固定化したビオチン親和性タンパク質(アビジン、ストレプトアビジン)は、プローブ物質に標識されたビオチン、または遺伝子増幅反応に使用されるプライマーの5’末端に標識されたビオチンと特異的に結合する。これにより、ビオチンで標識されたプローブまたは増幅された遺伝子が本検出部位でトラップされる。
アナライトまたは目的遺伝子のDNAを分析する方法は特に限定されないが、好ましい態様として基本的には以下の工程で行われる。
【0073】
(1a) 検体もしくは検体から抽出したDNA、あるいは検体もしくは検体から抽出し
たRNAから逆転写反応により合成したcDNAと、5’位置でビオチン修飾したプライマーとを、これらの収容部から下流の微細流路へ送液する。
【0074】
反応部位の微細流路内で、遺伝子を増幅する工程、微細流路内で増幅された遺伝子を含む増幅反応液と変性液とを混合して、増幅された遺伝子を変性処理により一本鎖にし、これと末端をFITC(fluorescein isothiocyanate)で蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせる。
【0075】
次いで、ビオチン親和性タンパク質を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、前記増幅遺伝子を微細流路内の検出部位にトラップする(増幅遺伝子を検出部位でトラップした後に蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせてもよい。)。
【0076】
(1b) 検体に存在する抗原、代謝物質、ホルモンなどのアナライトに対する特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含有する試薬を検体と混合する。その場合、抗体は、ビオチンおよびFITCで標識されている。したがって抗原抗体反応により得られる生成物は、ビオチンおよびFITCを有する。これをビオチン親和性タンパク質(好ましくはストレプトアビジン)を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、ビオチン親和性タンパク質とビオチンとの結合を介して該検出部位に固定化する。
(2) 上記微細流路内にFITCに特異的に結合する抗FITC抗体で表面を修飾した金コロイド液を流し、これにより固定化したアナライト・抗体反応物のFITCに、あるいは遺伝子にハイブリダイズしたFITC修飾プローブに、その金コロイドを吸着させる。
(3) 上記微細流路の金コロイドの濃度を光学的に測定する。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、マイクロ総合分析システムの一実施形態における概略構成を示す図である。
【図2】図2は、一実施態様における試薬収容部周辺の概要を表した断面図である。まだ蓋部材が被せられる前の状態であり、蓋部材を被せた後に試薬の注入が開始される。
【図3】図3は、複数の試薬収容部に対して同時に試薬を供給する場合の概要を示した図である。
【図4】図4は、複数の試薬収容部に試薬を充填する際に用いることができる、枠部材、蓋部材およびエアポンプ連通部材の一態様を示した図である。
【図5】図5は、マイクロチップにおける微細流路の構成の一実施態様を示す図である。
【図6】図6(a)は、ピエゾポンプの一例を示した断面図、図6(b)は、その上面図である。図6(c)は、ピエゾポンプの他の例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 本体
2 マイクロチップ
3 ペルチェ(冷却装置)
4 ヒーター(加熱装置)
5 ホトダイオード
6 LED
10 駆動液タンク
11 マイクロポンプ
12 ポンプ接続部
13 送液制御部
15 微細流路
15a〜15d 微細流路
16 逆止弁
17a 試薬貯留部
17b 検体貯留部
18 試薬収容部
18a〜18c 試薬収容部
20 検体収容部
21a 反応停止液収容部
21b 変性液収容部
21c ハイブリダイゼーションバッファー収容部
21d 洗浄液収容部
21e 金コロイド収容部
21f プローブDNA収容部
21g インターナルコントロール用プローブDNA収容部
21h ポジティブコントロール収容部
21i ネガティブコントロール収容部
21jバッファー収容部
22 検出部
23 廃液貯留部
31,31a,31b 試薬収容部
32,32a,32b 試薬供給部
33a 上流側微細流路
33b 下流側微細流路
34a,34b 撥水バルブ
38 被覆基板
39 溝形成基板
40,40a,40b 試薬
41 上側基板
42 基板
43 振動板
44 圧電素子
45 加圧室
46 第1流路
47 第2流路
48 第1液室
49 第2液室
56,56a,56b 枠部材
57,57a,57b 蓋部材
58,58a,58b エアポンプ接続部
59 エアポンプ連通部材
61 枠基板
62 蓋基板
63 枠基板開口部
64 蓋基板窪み
65 蓋基板溝
66 蓋基板開口部
71 シリコン基板
72 ポート
73 ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細流路における試薬収容部と、該試薬収容部の上面に設けられた試薬供給部と、該試薬収容部の少なくとも下流側末端に設けられた撥水バルブとを有するマイクロチップへの試薬の充填方法であり、
液漏れを起こさない枠部材でマイクロチップ表面の該試薬供給部の開口周辺を取り囲み、その内側に供給すべき液体の試薬を入れた後、
エアポンプと連通するエアポンプ接続部を設けた蓋部材を上記の枠に被せて密閉し、該エアポンプから空気を送り込み、
上記の試薬にまず試薬供給部を通過し始めるために必要な圧力をかけ、続いて撥水バルブの液体保持力以下の圧力をかけることにより、試薬収容部に試薬を供給することを特徴とする、マイクロチップへの試薬の充填方法。
【請求項2】
単一のエアポンプと複数の蓋部材のエアポンプ接続部とを連通させることにより、複数の試薬供給部に対して同時に試薬の供給を行うことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロチップへの試薬の充填方法。
【請求項3】
上記の試薬収容部が微細流路の途中に形成され、該試薬収容部の上流側末端および下流側末端に撥水バルブが設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載にマイクロチップへの試薬の充填方法。
【請求項4】
微細流路における試薬収容部と、該試薬収容部の上面に設けられた試薬供給部と、該試薬収容部の下流側末端に設けられた撥水バルブとを有し、
液漏れを起こさない枠部材でマイクロチップ表面の該試薬供給部の開口周辺を取り囲み、その内側に供給すべき液体の試薬を入れた後、
エアポンプと連通するエアポンプ接続部を設けたを上記の枠に被せて密閉し、該エアポンプから空気を送り込み、
上記の試薬にまず試薬供給部を通過し始めるために必要な圧力をかけ、続いて撥水バルブの液体保持力以下の圧力をかけることにより、試薬収容部に試薬が充填されることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項5】
単一のエアポンプと複数の蓋部材のエアポンプ接続部とが連通されることにより、複数の試薬供給部に対して同時に試薬が供給されることを特徴とする、請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
上記の試薬収容部が微細流路の途中に形成され、該試薬収容部の上流側末端および下流側末端に撥水バルブが設けられていることを特徴とする、請求項4または5に記載にマイクロチップ。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のマイクロチップと、システム装置本体とを備えるマイクロ総合分析システムであって、
そのシステム装置本体は、少なくとも、チップ接続部およびマイクロポンプを含むマイクロポンプユニットと、該マイクロポンプユニットの機能を制御する制御装置とを備え、
該マイクロポンプが、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、第1流路および第2流路に接続された加圧室と、該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、該アクチュエータを駆動する駆動装置とを備える
ことを特徴とするマイクロ総合分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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