マイクロチップ及びマイクロチップにおける送流方法
【課題】微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に制御し得るマイクロチップの提供。
【解決手段】荷電された液滴が導入される空洞領域2と、この空洞領域2に臨んで配設された電極41, 42と、を備えるマイクロチップAを提供する。このマイクロチップAは、前記空洞領域2に連通して複数の分岐領域31, 32, 33を備え、液滴に付与された電荷と電極41, 42との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域2内における液滴の移動方向を制御して、任意に選択される一の分岐領域へ液滴を誘導することができる。
【解決手段】荷電された液滴が導入される空洞領域2と、この空洞領域2に臨んで配設された電極41, 42と、を備えるマイクロチップAを提供する。このマイクロチップAは、前記空洞領域2に連通して複数の分岐領域31, 32, 33を備え、液滴に付与された電荷と電極41, 42との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域2内における液滴の移動方向を制御して、任意に選択される一の分岐領域へ液滴を誘導することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ、及びこのマイクロチップが搭載され得る液体分析装置、並びにこのマイクロチップにおける送流方法に関する。より詳しくは、マイクロチップに設けられた空洞領域内へ荷電された液滴を導入し、電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-total-analysis system)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や効率化、集積化、あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、チップのディスポーザブルユース(使い捨て)が可能なことなどの理由から、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された流路内で細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術がある。この微小粒子分析技術では、分析の結果、所定の条件を満たすポピュレーション(群)を微小粒子中から分別回収することも行われている。
【0006】
この微小粒子分取技術に関連して、特許文献1には、レーザートラッピングを利用した粒子分別装置が開示されている。この粒子分別装置は、移動する細胞等の粒子に対して走査光を照射することにより、粒子の種類に応じた作用力を与えて粒子の分取を行うものである。
【0007】
同様の技術として、特許文献2には、光圧(optical forceもしくはoptical pressure)を利用した微粒子回収装置が開示されている。この微粒子回収装置は、微粒子の流路に、微粒子の流れ方向に交差させてレーザービームを照射し、回収すべき微粒子の運動方向をレーザービームの収束方向に偏向させて微粒子を回収するものである。
【0008】
また、特許文献3には、微粒子の移動方向を制御するための電極を有する微粒子分別マイクロチップが記載されている。この電極は、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置され、電界との相互作用により微粒子の移動方向を制御するものである。
【0009】
【特許文献1】特開平7−24309号公報
【特許文献2】特開2004−167479号公報
【特許文献3】特開2003−107099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3に開示されるように、従来のμ−TASでは、流路内を一定方向に流れる液体中の微小粒子に対し、直接、レーザートラッピングや光圧、電気等によって作用力を与え、微小粒子を液体の流れる方向とは異なる向きに、いわば流れに逆らって移動させていた。このため、微小粒子の送流方向の制御を行うためには、微小粒子に対してかなり大きな作用力を付与してやる必要があった。
【0011】
しかし、レーザートラッピングや光圧、電気等によって、直接、微小粒子に対して作用力を付与する方式では、微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に行うために十分な作用力を与えることは難しかった。
【0012】
そこで、本発明は、微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に制御し得るマイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題解決のため、本発明は、荷電された液滴が導入される空洞領域と、この空洞領域に臨んで配設された電極と、を備えるマイクロチップを提供する。このマイクロチップは、さらに前記空洞領域に連通して複数の分岐領域を備える。これにより、本発明に係るマイクロチップでは、液滴に付与された電荷と電極との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御して、任意に選択される一の分岐領域へ液滴を誘導することができる。
さらに、本発明に係るマイクロチップは、以下の(1)〜(4)の構成を備える。
すなわち、このマイクロチップは、液体を前記空洞領域に送液する流路と、(1)この流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化するための圧電素子、又は、(2)少なくとも一側方からこの流路に合流し、流路内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入して、流路内を通流する液体を分断し、液滴化するための流体導入部、とを備える。
このマイクロチップは、(3)前記流路を通流する液体Tの層流中に他の液体Sを導入する微小管を備える。これにより、本発明に係るマイクロチップでは、微小管から導入される液体Sの層流の周囲を、液体Tの層流で取り囲んだ状態で、該流路の前記連通口又は前記流体導入部の合流部へ送液することができる。
(4)前記流路には、送液方向に対する垂直断面の面積が次第に小さくなるように形成された絞込部が設けられる。これにより、前記液体S及び液体Tの両層流の層流幅を絞り込んで送液することができる。
このマイクチップは、(5)前記微小管が、電圧を印加可能な金属により形成される。これにより、前記流路を通流する前記液体S及び液体Tに対し電荷を付与することができる。この際、前記流路内において液体が液滴化及び電荷付与される領域に臨んで、接地された電極を配設することが好適となる。
以上の構成によって、本発明に係るマイクロチップでは、前記液体Sに含まれる微小粒子を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取することが可能とされる。この分岐領域には、細胞培養用ゲルを充填しておくことができる。
【0014】
併せて、本発明は、上記マイクロチップが搭載され得る液体分析装置及び微小粒子分取装置を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、マイクロチップに設けられた空洞領域内へ荷電された液滴を導入し、空洞領域に臨んで配設された電極と液滴に付与された電荷との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップにおける送流方法をも提供する。
この送流方法では、前記空洞領域における前記液滴の移動方向を制御することにより、空洞領域に連通して複数設けられた分岐領域から選択される任意の一の分岐領域へ液滴を誘導することができる。
この送流方法では、圧電素子を用い、液体を前記空洞領域に送液する流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する構成や、液体を前記空洞領域に送液する流路内へ、気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入して通流する液体を分断、液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する構成を採用し得る。
この送流方法では、微小粒子を含む液体を導入して、この液体を所定数の微小粒子ごとに分断し、液滴化することで、微小粒子を含む液滴を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取することが可能である。
【0016】
ここで、本発明において「液体」という用語は広義に解釈されるべきであり、均質な液体、懸濁液、すなわち微小粒子を含む液体や、小さい気泡を含む液体などが含まれる。「液体」は、水性液、有機液体又は二相系液体であってよく、疎水性液体又は親水性液体であってよい。また、「気体」という用語も、狭義に解釈されるべきでなく、空気や、窒素、等のガスなどを広く包含し得るものとする。
【0017】
本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
【0018】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に制御し得るマイクロチップが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
1.マイクロチップA
図1は、本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。図中、符号Aで示すマイクロチップは、微小粒子を含む液体を通流させて、微小粒子の分取を行うために好適に使用されるものである。
【0022】
(1-1)空洞領域
マイクロチップAは、略90度折れ曲がる曲折部11, 12を有する流路1と、この流路1に連通する空洞領域2(以下、「キャビティー2」という)と、キャビティー2に連通する分岐領域31, 32, 33と、を備えている。キャビティー2には、流路1から送流される荷電された液滴が導入される。
【0023】
図1中、符号41, 42は、キャビティー2の内部空間に臨んで配設された一対の移動方向制御用電極(以下、単に「電極」という)を示している。マイクロチップAでは、この電極41, 42と、キャビティー2に導入された液滴に付与された電荷との電気的力に基づいて、キャビティー2内における液滴の移動方向を制御することができる。これにより、マイクロチップAでは、液滴を分岐領域31, 32, 33のいずれかに選択的に誘導することが可能とされている。図中、符号311, 321, 331は、分岐領域31, 32, 33へ誘導された液滴をマイクロチップA外へ排出するためのアウトレットを示す。
【0024】
このように、マイクロチップAは、液滴を荷電した上で、キャビティー2に導入し、キャビティー2内の自由空間において電気的力に基づいて液滴の移動方向を制御することを特徴とする。このため、キャビティー2に導入する液滴に微小粒子を包含させることで、液滴全体に作用する大きな電気的作用力でもって微小粒子の移動方向を制御することができる。加えて、微小粒子を含む液滴の移動方向の制御は、キャビティー2内の自由空間内において行われるため、流路壁面との摩擦力の影響が小さく、他の流体が一定方向に通流する流路内で移動方向の制御を行う場合に比べて、高速かつ高精度に移動方向を変化させることができる。
【0025】
(1-2)圧電素子
図1中、符号5は、流路1を通流する液体を液滴化してキャビティー2に送流するための圧電素子を示している。この圧電素子5は、流路1のキャビティー2への連通口13において、通流する液体を液滴化する。
【0026】
圧電素子5は、流路1の連通口13上流に、流路1内に臨んで配設されている。圧電素子5は電圧を印加されると変形し、流路1内を通流する液体に圧力を加える。そして、流路1内の液体は、この圧電素子5からの圧力を受けると、流路1の連通口13からキャビティー2内へ吐出される。この際、圧電素子5に印加する電圧をパルス電圧として圧電素子5を振動させることで、液体を液滴状としてキャビティー2内へ吐出させることができる。このとき、流路1に微小粒子を含む液体を通流させれば、キャビティー2内へ微小粒子を含む液滴を吐出させることができる。
【0027】
このような圧電素子5を用いた液滴化は、例えば、インクジェットプリンタで採用されるピエゾ振動素子を用いたインクの滴状吐出と同様にして行うことができる。
【0028】
(1-3)微小管
図1中、符号6は、流路1内に液体(これを「液体T」とする)を導入するためのインレットを示す。流路1の曲折部12には、このインレット6から供給されて、流路1内を通流する液体T層流中に、他の液体(これを「液体S」とする)を導入するための微小管7が配設されている。
【0029】
以下では、マイクロチップAを用いて微小粒子の分取を行う場合を例に、インレット6から液体Tとしてシース液Tが、微小管7から液体Sとして微小粒子を含むサンプル液Sが導入されるものとして説明する。すなわち、符号8で示すサンプル液インレットから供給されるサンプル液Sは、微小管7によって、インレット6(以下、「シース液インレット6」という)から供給されて流路1を通流するシース液Tの層流中に導入される。図1中、符号71は微小管7の流路1側端の開口を、符号72はサンプル液インレット8側端の開口を示す。
【0030】
マイクロチップAでは、このように微小管7によって流路1を通流するシース液Tの層流中にサンプル液Sを導入することによって、サンプル液Sの層流の周囲を、シース液Tの層流で取り囲んだ状態で送液することが可能とされている。
【0031】
さらに、この微小管7は、電圧を印加可能な金属によって形成されており、流路1を通流するシース液T及びサンプル液Sに対し、正又は負の電荷を付与することが可能とされている。後述するように、シース液T及びサンプル液Sが液滴化されてキャビティー2内へ吐出される際に、微小管7に電圧を印加することで、吐出される液滴に正又は負の電荷を付与することができる。なお、流路1を通流するシース液T及びサンプル液Sに対し、微細管に電圧を印加することなしで、電荷を付与しないことも可能である。この場合、シース液T及びサンプル液Sが液滴化されてキャビティー2内へ吐出される際に、微小管7に電圧を印加しないので、吐出される液滴に電荷をもたないようにすることが可能である。
【0032】
この際、液滴に正確に電荷を付与し、液滴の荷電状態を安定化させるため、マイクロチップAでは、流路1内において液体が液滴化及び電荷付与される領域、すなわち圧電素子5近傍の流路1、に臨んで、接地された電極43, 44(以下、「グランド電極43, 44」という)を配設している。
【0033】
荷電された液滴はキャビティー2に導入され、付与された電荷と電極41, 42との電気的力に基づいて、キャビティー2内における移動方向を制御されるが、正確な移動方向の制御を行うためには、液滴に正確かつ安定した電荷が付与されることが必要である。マイクロチップAでは、液体の液滴化及び電荷付与が行われる領域と、電極41, 42とが隣接して設けられている。そのため、電極41, 42の高電位の影響によって液滴に電位が生じ、微小管7による液滴の荷電状態が不安定となるおそれがある。
【0034】
マイクロチップAでは、圧電素子5近傍の流路1に臨んでグランド電極43, 44を配設し、液体が液滴化される領域に電極41, 42の高電位の影響が及ばないようにしている。これにより、液滴に正確な電荷を付与し、移動方向を正確に制御することが可能とされている。
【0035】
(1-4)絞込部
図1中、符号14は、流路1に設けられた絞込部を示す。絞込部14は、送液方向に対する垂直断面の面積が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、絞込部14の流路側壁は送液方向に従って図中Y軸正負方向に狭窄するように形成されており、絞込部14はその上面視において次第に細くなる錘形としてみることができる。この形状によって、絞込部14は、シース液Tとサンプル液Sの層流の層流幅を、図中Y軸正負方向に絞り込んで送液することが可能とされている。さらに、絞込部14は、その流路底面が上流から下流に向かって深さ方向(Z軸正方向)に高くなる傾斜面となるように形成されており、同方向にも層流幅を絞り込むことが可能とされている(次に詳しく説明する)。
【0036】
2.マイクロチップAにおける液体送流方法
次に、マイクロチップAにおけるサンプル液S及びシース液Tの送流方法について、送流方向上流から順に説明する。
【0037】
(2-1)微小管による層流形成
図2は、流路1内に形成されるシース液Tとサンプル液Sの層流を示す模式図である。図2(A)は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面図であり、微小管7の開口71と、流路1の絞込部14と、を拡大して示している。また、図2(B)は、図1拡大図中Q-Q断面に対応する断面図であり、流路1下流側から正面視した開口71を拡大して示している。
【0038】
流路1を通流するシース液Tの層流(図中符号T参照)中に、微小管7によってサンプル液Sを導入することにより、図2(A)に示すように、サンプル液Sの層流を、シース液Tの層流で取り囲んだ状態で送液することができる。以下、サンプル液Sの層流を単に「サンプル液層流S」、シース液Tの層流を「シース液層流T」というものとする。
【0039】
図2では、微小管7を、その中心が流路1の中心と同軸上に位置するように配設した場合を示した。この場合、サンプル液層流Sは、流路1を通流するシース液層流Tの中心に導入されることとなる。シース液層流T中のサンプル液層流Sの形成位置は、流路1内における微小管7の配設位置を調節することによって任意に設定することができる。
【0040】
(2-2)絞込部による層流幅の絞り込み
絞込部14は、送液方向に対する垂直断面の面積が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、図2(A)に示すように、絞込部14は、その流路底面が上流から下流に向かってZ軸正方向に高くなる傾斜面となるように形成されている。この形状によって、絞込部14へ送液されたシース液層流Tとサンプル液層流Sは、マイクロチップA上面側に偏向されながら、Z軸正方向に層流幅を絞り込まれることとなる。
【0041】
図3は、絞込部14の上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。図3(A)は、図2中R1-R1断面に対応する断面図であり、図3(B)は、図2中R2-R2断面に対応する断面図である。
【0042】
図1において説明したように、絞込部14は、上流から下流に向かってY軸正負方向に次第に細くなる錘形に形成されている。また、図2で説明したように、絞込部14の流路底面は、上流から下流に向かってZ軸正方向に高くなる傾斜面として形成されている。このように、絞込部14を送液方向に対する垂直断面の面積が流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成したことにより、シース液層流Tとサンプル液層流Sを、Y軸及びZ軸方向に層流幅を絞り込みながら、マイクロチップA上面側(図3中Z軸正方向)に偏向させて送液することが可能となる。すなわち、図3(A)に示すシース液層流Tとサンプル液層流Sは、絞込部14において、図3(B)に示すように層流幅を絞り込まれて送液される。
【0043】
このように、シース液層流とサンプル液層流の層流幅を絞り込んで送液することにより、サンプル液として微小粒子を含む溶液を流路内に通流させて、微小粒子の光学分析を行う場合、絞り込まれたサンプル液層流中の微小粒子に精度良く測定光を照射することが可能となる。なお、このようなシース液層流とサンプル液層流の層流幅の絞り込みは、絞込部14の流路底面及び上面の両方を傾斜面として形成することにより行うこともできる。
【0044】
特に、絞込部14によれば、マイクロチップAの水平方向(図1中Y軸方向)のみならず、垂直方向(図2中Z軸方向)にもサンプル液層流の層流幅を絞り込むことができるため、流路1の深さ方向における測定光の焦点位置を微小粒子の送流位置と精緻に一致させることできる。このため、微小粒子に精度良く測定光を照射して高い測定感度を得ることが可能となる。
【0045】
ここで、流路1を十分に細い流路として形成し、この流路1を通流するシース液層流中に、径の小さい微小管7を用いてサンプル液を導入すれば、予め層流幅が絞り込まれたシース液層流とサンプル液層流を形成することが可能とも考えられる。しかしながら、この場合には、微小管7の径を小さくすることによって、サンプル液中に含まれる微小粒子が微小管7に詰まるという問題が生じ得る。
【0046】
マイクロチップAでは、絞込部14を設けたことにより、サンプル液中に含まれる微小粒子の径に対して十分に大きい径の微小管7を用いてサンプル液層流とシース液層流の形成を行った後に、層流幅の絞り込みを行うことができる。従って、上記のような微小管7の詰まりの問題を解消することが可能である。
【0047】
微小管7の内径は、分析対象とするサンプル液中に含まれる微小粒子の径に応じて適宜設定することができる。例えば、サンプル液として血液を用い、血球細胞の分析を行う場合には、好適な微小管7の内径は10〜500μm程度である。また、流路1の幅及び深さは、分析対象とする微小粒子の径を反映した微小管7の外径に応じて適宜設定すればよい。例えば、微小管7の内径が10〜500μm程度である場合、流路1の幅及び深さはそれぞれ100〜2000μm程度が好適である。なお、微小管の断面形状は、円形以外にも、楕円形や四角形、三角形など任意の形状とすることができる。
【0048】
絞込部14における絞り込み前のシース液層流とサンプル液層流の層流幅は、上記の流路1の幅及び深さと微小管7の径に依存して変化し得るが、絞込部14の送液方向に対する垂直断面の面積を適宜調整することによって任意の層流幅にまで絞り込みを行うことが可能である。例えば、図2において、絞込部14の流路長をL、流路底面の傾斜角度をθZとした場合、絞込部14におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅の絞り込み幅はL・tanθZとなる。従って、流路長L及び傾斜角度θZを適宜調整することによって任意の絞り込み幅を設定することが可能である。さらに、図1中、絞込部14流路側壁のY軸方向における狭窄角度をそれぞれθY1、θY2とし、これらと上記θZを等しく形成することにより、図3(A)及び(B)に示したように、シース液層流Tとサンプル液層流Sを等方的に縮小して絞り込むことが可能となる。
【0049】
(2-3)圧電素子による液滴化と微小管による荷電
図4は、流路1のキャビティー2への連通口13付近のシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。図は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面図であり、微小管7の開口71近傍と連通口13近傍の流路1とを拡大して示している。
【0050】
シース液層流T及びサンプル液層流Sは、微小管7及び絞込部14によって、サンプル液層流Sの周囲をシース液層流Tが取り囲み、両層流の幅が絞り込まれた状態で連通口13に送液される。
【0051】
このシース液層流T及びサンプル液層流Sに対し、連通口13上流に流路1内に臨んで配設された圧電素子5にパルス電圧を印加することによって圧力を加えると、シース液層流T及びサンプル液層流Sは液滴となってキャビティー2内へ吐出される。図4中、符号Dは、連通口13からキャビティー2内へ吐出された液滴を示している。この液滴Dは、シース液及びサンプル液からなり、サンプル液中に含まれる微小粒子が包含されている。
【0052】
さらに、圧電素子5による液滴化と同時に、金属によって形成された微小管7に電圧を印加することによって、キャビティー2内へ吐出される液滴Dに正又は負の電荷を付与することができる。例えば、微小管7に正電圧を印加し、流路1内を通流するシース液層流T及びサンプル液層流Sに対して正電荷を付与した場合には、キャビティー2内へ吐出された液滴Dは正電荷を帯びる。逆に、微小管7に負電圧を印加した場合には、キャビティー2内へ吐出される液滴Dに負電荷を付与することができる。
【0053】
また、シース液層流T及びサンプル液層流Sが液滴状となって連通口13からキャビティー2へ吐出する瞬間に、微小管7に印加する電圧を切換えることで、正荷電された液滴Dと負荷電された液滴Dとを交互にキャビティー2内へ吐出することができる。この場合、微小管7に印加する電圧は、液滴化のために圧電素子5に印加されるパルス電圧に同調したパルス電圧とされる。
【0054】
図5は、圧電素子5近傍の流路1に臨んで配設されたグランド電極43, 44を示す模式図である。図は、圧電素子5を含むYZ平面における断面図である。
【0055】
グランド電極43, 44は、キャビティー2内における移動方向を制御のための電極41, 42からの電位の影響を排除して、微小管7によって付与される液滴の荷電状態を安定化させるために機能する。グランド電極43, 44の配設位置は、流路1内において液体が液滴化されて、電荷が付与される領域に臨む位置であればよいものとする。
【0056】
(2-4)空洞領域における液滴の移動方向の制御
(2-4-1)一次元方向の移動制御
図6は、キャビティー2内に送流された液滴Dを示す模式図である。図は、図1中U-U断面に対応する断面図である。
【0057】
正又は負の電荷が付与されてキャビティー2内に送流された液滴Dは、キャビティー2の内部空間に臨んで配設された一対の電極41, 42との電気的力に基づいて、キャビティー2内における移動方向を制御される。
【0058】
例えば、図に示すように、微小管7によって液滴Dに正電荷が付与されている場合には、電極41を負に、電極42を正に帯電させることによって、電極41との電気的吸引力及び電極42との反発力によって、液滴DをY軸正方向に移動させることができる。
【0059】
また、液滴DをY軸負方向に移動させる場合には、電極41を正に、電極42を負に帯電させればよい。このように、マイクロチップAでは、電極41, 42と、キャビティー2に導入された液滴に付与された電荷との電気的力に基づいて、キャビティー2内における液滴の移動方向を制御することができる。従って、この液滴に含まれる微小粒子についても、液滴全体に作用する大きな力によって、その移動方向が制御されることとなる。
【0060】
キャビティー2の表面には、シース液及びサンプル液の液滴状態を維持するため、撥水処理加工を施すことが好ましい。キャビティー2内において液滴同士が一部で連通する状態となると、液滴の電荷が消失してしまい、液滴の移動方向の制御が不能となったり、不正確となったりするおそれがある。撥水加工は、通常使用されるシリコン樹脂系撥水剤やフッ素樹脂系撥水剤などの塗布や、アクリルシリコーン撥水膜やフッ素撥水膜などの成膜による表面処理の他、流路表面に微細構造を形成することによって撥水性を付与することもできる。
【0061】
また、各液滴に付与された電荷を維持するため、キャビティー2の表面に電気的絶縁性を付与して、液滴間で電荷の移動を阻止することも有効である。電気的絶縁性は、例えば、キャビティー2表面に絶縁性を備える物質を塗布または成膜することにより付与し得る。
【0062】
キャビティー2の内部空間は、気体又は液体が充填された状態であってよいが、特に超純水等の電気的絶縁性を有する液体を充填することで、液滴間での通電を阻止することが可能となる。さらに、シース液に電気的絶縁性を有する液体を用いて、微小管7によって電荷を付与されたサンプル液を絶縁性シース液で取り囲んで液滴化することも、液滴間の通電を阻止するため有効である。ただし、キャビティー2内に液体を充填した場合には、液滴が移動する際に抵抗をもたらすこととなるため、抵抗の少ない気体を充填したほうが、より高速かつ高精度に液滴の移動方向の制御を行い得る可能性がある。
【0063】
図7は、キャビティー2内において移動方向を制御され、分岐領域に誘導される液滴Dを示す模式図である。図は、キャビティー2及び分岐領域31, 32, 33を拡大して示す簡略上面図である。
【0064】
既に説明したように、キャビティー2内へ送流された液滴Dの移動方向は、付与された電荷と電極41, 42との電気的力に基づいて、Y軸正負方向に制御することができる。従って、例えば、微小管7によって液滴Dに正電荷が付与されている場合には、電極41を負に、電極42を正に帯電させることによって、液滴DをY軸正方向に移動させて分岐領域31へ誘導することができる。
【0065】
また、液滴DをY軸負方向に移動させて分岐領域33へ誘導する場合には、電極41を正に、電極42を負に帯電させればよい。さらに、両電極41, 42に電圧を印加せずに、液滴Dに対し電気的力を作用させなければ、液滴Dを分岐領域32へ誘導することができる。
【0066】
このようにマイクロチップAでは、微小管7によって液滴Dに付与された正又は負の電荷に応じて、電極41, 42を適宜、正又は負に帯電させることで、分岐領域31, 32, 33から任意に選択される一の分岐領域に各液滴を誘導し、分取することが可能とされている。
【0067】
(2-4-2)二次元方向の移動制御
以上は、液滴Dの移動方向の制御を一次元方向(Y軸正負方向)に行う場合を説明したが、この移動方向制御は、二次元方向(Y軸及びZ軸正負方向)に行うことも可能である。二次元方向の移動制御を行う場合、キャビティー2に臨んでZ軸方向にも複数の電極を配設する。
【0068】
図8は、キャビティー2内における液滴の移動方向の制御を二次元方向に行うための電極の配設位置を示す模式図である。
【0069】
このマイクロチップAの変形例では、キャビティー2に臨み、その四隅に対応する位置に、4つの電極411, 412, 421, 422を配設している。そして、これらの電極を正又は負に帯電させることによって、電荷が付与された液滴の移動方向を、電気的吸引力及び反発力に基づきY軸正負方向及びZ軸正負方向の両方向に制御する。
【0070】
図9は、キャビティー2内において二次元方向に移動方向制御される液滴の移動方向を示す模式図である。図中、液滴の移動方向を矢印で、キャビティー2内の空間を点線で示す。
【0071】
このマイクロチップAの変形例では、キャビティー2に連通して13の分岐領域31, 32a〜32d, 33a〜33d, 34a〜34dを設けている。そして、電極411, 412, 421, 422を正又は負に帯電させることによって、キャビティー2内に送流された液滴の移動方向をY軸及びZ軸正負方向に制御し、各分岐領域へ選択的に誘導する。例えば、電極に電圧を印加しない状態においては分岐領域31へ誘導される液滴を、各電極を所定条件で帯電させることで分岐領域32aに選択的に誘導する。
【0072】
このマイクロチップAの変形例において、分岐領域は、キャビティー2に連通してYZ平面上に多数配することができ、それぞれの分岐領域に液滴をひとつずつ誘導し、分取することもできる。これにより、マイクロチップAに微小粒子を含む液体を通流させて微小粒子の分取を行う場合において、各分岐領域に微小粒子をひとつずつ分取することが可能となる。これは、例えば、多数設けた分岐領域に、細胞をひとつひとつ分取するといった応用が考えられる。
【0073】
3.マイクロチップBとマイクロチップBにおける送流方法
図10は、本発明の第二実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。図中、符号Bで示すマイクロチップは、マイクロチップAと同様に、微小粒子を含む液体を通流させて、微小粒子の分取を行うために好適に使用されるものである。以下、マイクロチップBの構成について、マイクロチップAと異なる点を説明する。
【0074】
(3-1)圧電素子
マイクロチップBは、チップの一辺に沿って配設した圧電素子5によって、流路1を通流する液体を液滴化して、キャビティー2へ送流するよう構成されている。すなわち、圧電素子5にパルス電圧を印加して振動させ、マイクロチップB全体を振動させることにより、流路1の連通口13から吐出される液体を液滴化する。
【0075】
先に説明したマイクロチップAでは、圧電素子5によって流路1内を通流する液体に圧力を加えて液滴化を行う構成であるため、圧電素子5を流路1内に臨んで配設する必要がある(図4参照)。これに対して、マイクロチップBでは、マイクロチップB全体を振動させて液滴化を行う構成であるため、圧電素子5はチップ上の任意の位置に配設すればよい。従って、マイクロチップBでは、チップ内部に圧電素子5を作りこむための手間を省くことができる。
【0076】
さらに、マイクロチップBでは、搭載される装置側に圧電素子を設ければ、チップそのものに圧電素子を設けることは不要である。この場合、マイクロチップBを搭載した状態において、装置に設けられた圧電素子がマイクロチップBの一部に接触するようする。これにより、装置側の圧電素子の振動を搭載されたマイクロチップBに伝導して液滴化を行うことができる。
【0077】
(3-2)分岐領域
マイクロチップBでは、分岐領域内に、誘導された液滴をチップ外に取り出すための細管が設けられている。図10拡大図中、符号312, 332で示す細管は、金属やガラス、セラミックス、各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)等から形成されたチューブであって、分岐領域31, 33へ誘導された液滴をその内空に捕獲する。図は、分岐領域31には液滴D1が、分岐領域32, 33にはそれぞれ液滴D2, D3が誘導される場合において、液滴D1, D3をチップ外に取り出す場合を示している。なお、分岐領域32に誘導された液滴D2は、アウトレット321からマイクロチップB外に排出されるものとする。
【0078】
マイクロチップBを用いて微小粒子の分取を行う場合、サンプル液インレット8から微小粒子を含むサンプル液を、シース液インレット6からシース液を導入して、キャビティー2へ微小粒子を含む液滴を送流する。そして、キャビティー2内において、この液滴の移動方向を制御することで、液滴に含まれる微小粒子を液滴ごと分岐領域31, 32, 33のいずれかに誘導し、分取する。
【0079】
マイクロチップBでは、このようにして分岐領域31, 33に分取された微小粒子D1, D3を、細管312, 332ごとチップ外に取り出して回収することができる。例えば、微小粒子として細胞の分取を行う場合には、分岐領域31, 33にそれぞれ分取された液滴D1, D3に含まれる細胞集団を細管312, 332ごと取り出し、細管312, 332ごと細胞培養液に投入することにより、各細胞集団の培養を行うことができる。
【0080】
マイクロチップBでは、分岐領域に誘導された液滴を、細管ごとチップ外に取り出すことができるように構成したことで、各分岐領域内に分取された細胞やマイクロビーズ等の微小粒子を互いに混じり合うことなく回収することができる。また、微小粒子を回収する際の細菌や夾雑物等の混入を防止することができる。
【0081】
マイクロチップBにおいて微小粒子として細胞の分取を行う場合、分岐領域31, 33内に細胞培養用ゲルを充填することも、分岐領域内に分取された細胞をマイクロチップBから取り出し易く、その後の細胞培養を容易にするために効果的である。
【0082】
分岐領域に細胞培養用ゲルを充填しておくことにより、キャビティー2から誘導されてくる細胞をゲル内に取り込んで保持することができる。これにより、分取された細胞が、分岐領域の内壁に接触、衝突してダメージを受けたり、分岐領域内で乾燥して死んでしまったりすることを防止できる。また、分取後の細胞をゲルごとチップ外に取り出して回収し、細胞培養を行うこともできる。
【0083】
細胞培養用ゲルには、コラーゲンゲルやエラスチンゲルなどの従来公知のゲルを使用すればよい。あるいは、生理食塩水とこれらのゲルを適量濃度に調整したものを使用することができる、また、分岐領域に上記の細管を設け、この細管内にさらに細胞培養用ゲルを充填する構成を採用することもできる。こうすることで、マイクロチップ内から、微細管を回収すればよく、細胞回収において短時間で効果的に分取した細胞を回収することが可能となる。
【0084】
4.マイクロチップCとマイクロチップCにおける送流方法
図11は、本発明の第三実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。図中、符号Cで示すマイクロチップは、マイクロチップA, Bと同様に、微小粒子を含む液体を通流させて、微小粒子の分取を行うために好適に使用されるものである。以下、マイクロチップCの構成について、マイクロチップAと異なる点を説明する。
【0085】
(4-1)流体導入部
図中、符号91, 92は、流路1内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入するための流体導入部を示す。流体導入部91, 92は、その一端において流路1に連通し、他端には流体が供給される流体インレット911, 912が設けられている。図示しない加圧ポンプによって流体インレット911, 912から流体導入部91, 92に供給された気体又は絶縁性液体(以下、「気体等」という)は、符号15で示す合流部において流路1内に導入される。
【0086】
マイクロチップCでは、この流体導入部91, 92から合流部15に導入される流体によって、流路1を通流する液体を分断し、液滴化してキャビティー2へ送流することができる。
【0087】
図12は、合流部15を拡大して示す模式図である。図12(A)は上面図であり、(B)は図11中P-P断面に対応する断面図である。図は、微小管7及び絞込部14を経て、合流部15に送液されたシース液層流T及びサンプル液層流Sを分断して、液滴化する場合を示している。
【0088】
合流部15において、送液されてくるシース液層流T及びサンプル液層流Sに対して、流体導入部91, 92から所定のタイミングで気体等を導入すると、導入された気体等によってシース液層流T及びサンプル液層流Sは、図に示すように分断され、液滴化される。これにより、シース液層流T及びサンプル液層流Sを、流路1内において液滴化して、連通口13からキャビティー2内へ吐出させることができる(図12、液滴D参照)。なお、この液滴Dが、サンプル液中に含まれる微小粒子を包含し得る点は既に述べた通りである。
【0089】
ここで、図11及び図12では、流体導入部を流路1の両側に、それぞれ1つずつ設けた場合を示したが、気体導入部は流路1の少なくとも一側方に1つ設けられていればよい。さらに、接続部15において、2以上の流体導入部を合流させることもできる。
【0090】
また、図11及び図12では、流体導入部が流路1に対して直角に合流されているが、流体導入部の合流角度は任意に設定できるものとする。
【0091】
流路1のうち、合流部15から連通口13までの間の表面には、シース液及びサンプル液の液滴状態を維持するため、撥水処理加工を施すことが好ましい。流路1内において液滴同士が一部で連通する状態となると、微小管7によって液滴に付与された電荷が消失してしまい、キャビティー2内における液滴の移動方向の制御が不能となったり、不正確となったりするおそれがある。
【0092】
また、各液滴に付与された電荷を維持するため、流路1の表面には電気的絶縁性を付与して、液滴間で電荷の移動を阻止することも有効である。流体導入部から導入される流体を絶縁性液体とすることも同様の効果を奏する。
【0093】
5.マイクロチップの製造方法
(5-1)成形
マイクロチップの材質は、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)とすることができる。マイクロチップの材質には、撥水性を有する材質を用いることが好ましい。これにより、キャビティー表面の撥水性により、液滴同士の連通による電荷の消失を防止することができる。また、マイクロチップを用いて光学的分析を行う場合、材質には、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ないものを選択する。
【0094】
マイクロチップに配設される流路1等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行うことができる。そして、流路1等を成形した基板層を、同じ材質又は異なる材質の基板層でカバーシールすることで、マイクロチップを形成することができる。
【0095】
以下、マイクロチップAを例に、マイクロチップの製造方法を具体的に説明する。まず、基板層に対して、流路1、キャビティー2、分岐領域31, 32, 33等の形状を備える金型を射出成形機にセットし、形状転写を行う。
【0096】
マイクロチップAでは、図4に示すように、2枚の基板層a1, a2にそれぞれキャビティー2を形成する陥凹を転写している。陥凹は、図13(A)に示すように基板層a1のみに成形してもよく、 また基板層a2のみに成形してもよい。さらに、図13(B)に示すように、キャビティー2のZ軸方向の高さを、流路1の連通口13の高さを等しくして、基板層a1, a2を陥凹させることなくキャビティー2を形成してもよい。成形工程の簡略化のためには、図7(A)又は(B)に示したようなキャビティー2を形成することが好ましい。
【0097】
また、マイクロチップAでは、キャビティー2の形状を、その上面視において、連通口13を頂点とする二等辺三角形として形成している(図1参照)。キャビティー2の上面視形状は、例えば、後述する図14(A)のように上面視四角形であってもよく、連通する分岐領域へ液滴を誘導可能な限りにおいて、任意の形状とすることができる。
【0098】
キャビティー2のZ軸方向の高さは、導入される液滴の大きさの10倍から100倍程度に設定される。例えば、分析対象とするサンプル液中に含まれる微小粒子が血球細胞である場合、液滴の大きさは30〜50μm程度であるので、キャビティー2の高さは300μm〜5mm程度となる。
【0099】
キャビティー2の高さは、図8及び図9で説明したように、液滴の移動方向の制御を二次元方向に行いたい場合には、Z軸方向により高く形成する必要がある。このためには、後述するように3以上の基板層を積層してチップを成形することが望ましい。
【0100】
マイクロチップAでは、図4に示すように、流路1が真っ直ぐに延伸されて、キャビティー2への連通口13が転写されている。流路1の連通口13は、図13(C)に示すように、キャビティー2へ向かってノズル状に狭窄させて成形してもよい。これにより、連通口13における水切れをよくして、圧電素子5によるシース液層流T及びサンプル液層流Sの液滴化を促進させることができる。なお、連通口13の形状は、図に示す形状に限定されず、液滴化を促進し得る種々の形状を採用できる。
【0101】
さらに、図13(D)に示すように、連通口13に、金属やセラミック、樹脂等によって成形した微小なチューブ型ノズル131を配置してもよい。このチューブ型ノズル131の形状も、図に示す形状に限定されず、液滴化を促進し得るような任意形状に成形される。また、図に示すように、チューブ型ノズル131を、流路1からキャビティー2内へ突出させて設けることで、さらに水切れをよくすることもできる。
【0102】
(5-2)微小管等の配置
次に、成形後の基板層に、微小管7、電極41, 42、圧電素子5を配置する。微小管7は、サンプルインレット8と流路1との間にこれらを連絡するように形成された溝に嵌め込み、サンプルインレット8に導入されるサンプル液が微小管7によって流路1内に送液されるよう配置する(図1参照)。
【0103】
電極41, 42及びグランド電極43, 44は、図5及び図6に示したように、流路1又はキャビティー2に沿って形成された溝に嵌め込んで配置する。各電極が嵌め込まれる溝は、流路1又はキャビティー2との間に隔壁を設けて成形される。この隔壁の厚さ(図5中Y軸方向の長さ)は10〜500μm程度とする。電極をキャビティー2内壁に直接配置せず、隔壁を隔てて配置することで、キャビティー2表面の撥水処理や電気的絶縁処理を行い易くすることができる。
【0104】
マイクロチップAでは、図1に示したように、電極41, 42を上面視「ハ」の字状に配置している。キャビティー2内における液滴の移動方向を制御するための電極は、例えば、キャビティー2の形状を上面視四角形とする場合には、図14(A)に示すように、両電極を平行に対向させて配置することもできる。
【0105】
液滴の移動方向の制御のためには、キャビティー2の少なくとも一側方に、一つ以上の電極が配置されていることが必要となる。ただし、適宜、3以上の電極を配設することも当然に可能である。例えば、図14(B)に示すように、キャビティー2の両側に、それぞれ複数の電極411, 412, 413(又は、電極421, 422, 423)を配置してもよい。図14(B)では、X軸正方向に従って段階的にキャビティー2のY軸方向の幅を広くしている。そして、これに併せて、電極411, 412, 413及び電極421, 422, 423を、それぞれ対向する電極間との距離が徐々に広くなるようにして配置している。なお、図14(B)では、キャビティー2に連通する分岐領域を4つ(分岐領域31〜34)としている。
【0106】
また、電極は、図14(C)に示すように、キャビティー2の内部領域に配置してもよい。図14(C)では、キャビティー2内に電極431, 432, 433を配し、キャビティー2側方に配された電極と合せて合計9個の電極が配置されている。電極431, 432, 433は、キャビティー2内空との間に隔壁を設けて配置されている。このようにキャビティー2の内部領域にも電極を配置することにより、分岐領域を多数(図では6つ)設けたような場合にも、液滴の移動方向を精緻に制御して、選択された一の分岐領域へ正確に液滴を誘導することができる。なお、キャビティー2に連通させる分岐領域は、2以上であればよく、その数は特に限定されないものとする。
【0107】
圧電素子5は、図4で説明したように、流路1の連通口13上流において、パルス電圧を印加されて振動することにより、流路1内を通流する液体に圧力が加わるような位置に配置される。
【0108】
(5-3)貼り合わせ
微小管7、電極41, 42、圧電素子5の配置後、基板層a1, a2を貼り合わせる。基板層の貼り合わせは、従来公知の手法を適宜用いることができる。例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等を適宜用いることができる。
【0109】
基板層a1, a2を貼り合わせる際は、微小管7を嵌め込んだ溝を、接着剤によって封止する。この接着剤は、溝に微小管7を固定するためのものと同一とできる。溝の封止によって、サンプルインレット8と流路1が、微小管7を介して連絡されるようになる。
【0110】
以上の方法により得られたマイクロチップAは、その表裏を無関係に使用することができる。従って、図4に示したマイクロチップAを、基板層a2が上面に、基板層a1が下面となる状態で使用することも当然に可能である。図4の状態では、絞込部14が、その流路底面が上流から下流に向かって徐々に高くなる傾斜面として形成されている。しかし、マイクロチップAを裏返しにすれば、絞込部14は、その流路上面が上流から下流に向かって流路深さ方向に低くなる傾斜面としてみることができる。この場合、絞込部14へ送液されたシース液層流とサンプル液層流は、マイクロチップA下面側に偏向されながら、層流幅を絞り込まれることとなる。
【0111】
(5-4)二次元方向の移動制御を行うための基板層の積層
図8及び図9で説明したように、液滴の移動方向の制御を二次元方向に行う場合には、複数の基板層を積層することにより、キャビティー2のZ軸方向の高さを高く形成することが望ましい。
【0112】
図15は、二次元方向の移動制御のため、キャビティー2のZ軸方向の高さを高く成形したマイクロチップCの変形例の断面を示す断面模式図(A)と、これを形成する基板層を模式的に示す簡略斜視図(B)である。
【0113】
図15(A)に示すように、このマイクロチップCの変形例では、10枚の基板層b1〜b10を積層することにより、キャビティー2の高さを高く形成している。図中、符号13は流路1のキャビティー2への連通口、符号31, 33b, 33cは分岐領域を示している。また、符号102及び103は、後述の液体分析装置に設けられる光学検出系(照射部102、検出部103)を示す(図16参照)。
【0114】
基板層b1には、流路及び流体導入部を構成する陥凹が転写されている(図15(B)参照)。この陥凹は、シース液インレット6、サンプル液インレット8、流体インレット911, 921等の形状に対応するものである。また、この基板層b1には、グランド電極43, 44が配置される溝が成形されている。この溝にグランド電極43, 44を配置した後、基板層b1に基板層b2を積層する。基板層b2には、シース液インレット6、サンプル液インレット8、流体インレット911, 921に対応する位置及びキャビティー2に対応する位置にそれぞれ開口が形成されている。
【0115】
次いで、基板層b2の上層に、分岐領域32b, 33b, 34b(図9参照)を構成する3枚の基板層b3〜b5を順に積層する。同様に、基板層b1の下層に、分岐領域32c, 33c, 34c(図9参照)を構成する基板層b7〜b9を積層する。分岐流路を構成する基板層は3枚を1セットして、複数セットを積層することにより、キャビティー2に連通する分岐流路を多数形成することができる。
【0116】
最後に、最上層及び最下層に、電極411, 421及び電極412, 422が配置される溝を設けた基板層b6, b10を積層し、これらの電極を配置する。
【0117】
このように、10枚の基板層b1〜b10を積層することにより、キャビティー2の高さを高くして、キャビティー2内の自由空間を広く形成することができる。これにより、図9で説明したような電極411, 421, 412, 422による液滴の二次元方向の移動制御を効果的に行うことが可能となる。また、液滴の移動方向制御を一次元方向でのみ行う場合にも、キャビティー2内の自由空間を広くすることで、液滴がキャビティー2の上面や下面に接触したり、付着したりするのを防止して、移動方向の制御をより確実に行うことが可能となる。
【0118】
また、積層される基板層は、流路1を構成する基板層b1, b2を除いて、光学検出系(照射部102、検出部103)によるレーザー光照射部位に対応する位置に窓(開口)を設けることが望ましい。これにより、各基板層を積層して得られるマイクロチップにおいて、レーザー光照射部位のチップ厚を薄くすることができ、チップ全体を厚くした場合に比べて、レーザー光の反射や減衰、散乱等を抑制することが可能となる。また、レーザー光照射部位のチップ厚を一定にしたまま、キャビティー2の高さを任意に調整することができ、キャビティー2の高さが異なる複数のチップを分析する場合にも、装置側の光学検出系の光学特性を変化させる必要がない。
【0119】
6.液体分析装置
図16は、本発明に係る液体分析装置の構成を説明する模式図である。この液体分析装置は、微小粒子の特性を分析し、分析結果に基づいて微小粒子の分別を行う微小粒子分取装置として好適に使用されるものである。以下、この液体分析装置(微小粒子分取装置)の各構成を、上記のマイクロチップCを搭載した場合を例として説明する。
【0120】
図16に示す微小粒子分析装置は、マイクロチップCの合流部15上流において、流路1内部を通流する微小粒子を検出するための光学検出系(照射部102、検出部103)と、合流部15の下流において微小粒子の光学特性を判定するための光学検出系(照射部104、検出部105)と、マイクロチップCの流体インレット911, 921に気体等を供給する加圧ポンプ106と、を備える。図中、符号101は、これらの光学検出系及び加圧ポンプと、微小管7及び電極41, 42に印加される電圧を制御するための全体制御部を示す。
【0121】
さらに、微小粒子分取装置は、図示しない液体供給手段を備え、マイクロチップCのシース液インレット6からシース液層流を、サンプル液インレット8からサンプル液層流を供給する。マイクロチップCに供給されたシース液及びサンプル液は、微小管7及び絞込部14によって、サンプル液層流がシース液層流によって取り囲まれ、かつ、層流幅を絞り込まれた状態で、合流部15に送液される(図12参照)。
【0122】
(6-1)微小粒子の検出
微小粒子分取装置は、合流部1の上流において、サンプル液層流中に含まれる微小粒子を光学的に検出するための光学検出系を備えている。この光学検出系は、従来のマイクロチップを用いた微小粒子の分析システムと同様に構成することができる。具体的には、レーザー光源と、微小粒子に対しレーザー光を集光・照射するための集光レンズやダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等からなる照射部102と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する光を検出する検出部103と、によって構成される。検出部は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって構成される。
【0123】
マイクロチップCでは、絞込部14によって、シース液層流及びサンプル液層流の層流幅を絞り込んで、照射部102のレーザー光照射部位に送液することができる。このため、照射部102からのレーザー光の焦点位置と、流路1内における微小粒子の送流位置とを、精緻に一致させることできる。これにより、微小粒子に対し精度良くレーザー光を照射して、微小粒子を高感度に検出することが可能とされている。
【0124】
検出部103によって検出された微小粒子から発生する光は、電気信号に変換され、全体制御部101に出力される。検出部103によって検出する光は、微小粒子の前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよい。
【0125】
全体制御部101は、この電気信号に基づいて、流路1を送流されるサンプル液層流中の微小粒子を検出する。そして、所定のタイミングで加圧ポンプ106を制御して、流体インレット911, 912及び流体導入部91, 92から合流部15に気体等を導入し、シース液層流及びサンプル液層流を分断・液滴化する(図12参照)。
【0126】
合流部15への流体導入のタイミングは、例えば、検出部103からの電気信号に基づいて微小粒子が1つ検出される度に、一定時間をおいて気体等を導入するようにする。微小粒子検出から流体導入までの時間は、照射部102のレーザー光照射部位と合流部15との間の距離、及び、流路1内のサンプル液の送液速度によって規定される。この時間を適宜調整した上で、微小粒子が1つ検出される度に合流部15に気体等を導入することで、シース液層流及びサンプル液層流を微小粒子1つ毎に分断し、液滴化することができる。
【0127】
この場合、各液滴には1つずつ微小粒子が含まれることとなるが、各液滴に含まれる微小粒子の数は、合流部15への流体導入のタイミングを適宜調整することにより、任意に設定できる。すなわち、所定数の微小粒子が検出される度に気体等を導入すれば、微小粒子をその数毎に液滴化することができる。
【0128】
ここでは、サンプル液層流中に含まれる微小粒子を検出するための検出を光学検出系により行う場合について説明した。微小粒子の検出は、光学的手段に限定されず、電気的又は磁気的手段によっても行うことができる。微小粒子を電気的又は磁気的に検出する場合には、合流部15の上流に微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。そして、測定結果を電気信号として出力することにより、この信号に基づいて全体制御部101での微小粒子の検出を行う。
【0129】
マイクロチップCでは、微小粒子を電気的又は磁気的に検出する場合においても、配設された微小電極の測定位置と微小粒子の送流位置とを精緻に一致させ、微小粒子を高感度に検出することが可能である。
【0130】
なお、ここで、微小粒子が磁性を有するものである場合には、特に、マイクロチップCの電極41, 42を磁極として構成することにより、磁気的力に基づいてキャビティー2内の微小粒子の送流方向を制御することも考えられる。
【0131】
(6-2)微小粒子の光学特性の判定
微小粒子分取装置は、合流部1の下流においても、照射部104と検出部105とからなる光学検出系を備える。この光学検出系は、微小粒子の特性を判定するためのものであるが、照射部104及び検出部105の構成そのものは、先に説明した照射部102及び検出部104と同様とできる。
【0132】
照射部104は、合流部15において形成された液滴中に含まれる微小粒子に対してレーザー光を照射する。これによって、微小粒子から発生する光は、検出部105によって検出される。検出部103によって検出する光は、微小粒子の前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよく、これらは電気信号に変換されて全体制御部101に出力される。
【0133】
全体制御部101は、入力された電気信号に基づき、微小粒子を前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光をパラメーターとして微小粒子の光学特性を判定する。この光学特性判定のためのパラメーターは、対象とする微小粒子及び分取目的に応じて、微小粒子の大きさを判定する場合には前方散乱光を、構造を判定する場合には側方散乱光を、微小粒子に標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光を採用する。
【0134】
全体制御部101は、これらのパラメーターにより検出された光を解析し、微小粒子が所定の光学特性を有するか否かについて判定を行う。
【0135】
ここでは、液滴中に含まれる微小粒子の特性を光学的に判定する場合について説明したが、微小粒子の特性判定は、電気的又は磁気的に行うこともできる。微小粒子の電気的物性及び磁気特性の測定を行う場合には、合流部15の下流に微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。これらの特性は二以上を同時に測定することもでき、例えば、微小粒子として磁気ビーズ等を蛍光色素で標識したものを測定する場合には、光学特性と磁気特性の測定が同時に行われる。
【0136】
(6-3)微小粒子の分取
全体制御部101は、微小粒子の特性の判定結果に基づいて、微小管7及び電極41, 42に印加する電圧を制御して、所定の特性を備えた微小粒子を含む液滴を分岐領域31, 32, 33のいずれかに誘導することにより、微小粒子の分別・分取を行う。
【0137】
例えば、液滴中に含まれる微小粒子が所定の特性を有すると判定された場合において、その微小粒子を含む液滴に対して微小管7により正電荷が付与されている場合には、電極41を負に、電極42を正に帯電させる。これにより、キャビティー2内での液滴の移動方向を分岐領域31へと誘導し、所定の特性を有する微小粒子を分岐領域31に分取する。分取された液滴及び微小粒子は、アウトレット311から回収することができる。
【0138】
また、逆に、液滴中に含まれる微小粒子が所定の特性を有しないと判定された場合には、電極41を正に、電極42を負に帯電させることによって、液滴を分岐領域33へ誘導し、微小粒子をアウトレット331から排出する。また、電極41, 42を帯電させることなく、液滴を分岐領域32及びアウトレット321に誘導してもよい。
【0139】
このように本発明に係る微小粒子分別装置では、微小粒子の特性の判定結果に応じて、その微小粒子を含む液滴に付与する電荷及び電極に印加する電圧を、適宜正又は負に切換えて制御することにより、微小粒子を任意に選択される一の分岐領域に誘導、分取することができる。
【0140】
ここでは、流路1を通流するサンプル液層流中の微小粒子を検出して液滴化するための光学検出系(照射部102、検出部103)と、液滴中に含まれる微小粒子の光学特性を判定するための光学検出系(照射部104、検出部105)と、を合流部15の上流と下流に別々に設けたが、これらは一体に構成することも可能である。
【0141】
例えば、本発明に係る微小粒子分別装置に、圧電素子によって液滴化を行うマクロチップA又はBを搭載した場合には、一の光学検出系(例えば、照射部102、検出部103)によって微小粒子の検出と光学特性の判定を行うことができる。この場合、全体制御部101は、微小粒子を検出すると同時に、その光学特性を判定し、その判定結果に基づいて微小管7及び電極41, 42に印加する電圧を切換える(図1参照)。例えば、微小粒子が所定の特性を有すると判定された場合には、その微小粒子が圧電素子5により連通口13で液滴化され、吐出される瞬間に微小管7に正電圧を印加する。同時に、電極41に正電圧に、電極42に負電圧を印加して、微小粒子を含む液滴を分岐領域33へ誘導し、分取する。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。
【図2】流路1内に形成されるシース液Tとサンプル液Sの層流を示す模式図である。(A)は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面図であり、(B)は、Q-Q断面に対応する断面図である。
【図3】絞込部14の上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。
【図4】流路1のキャビティー2への連通口13付近のシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。
【図5】圧電素子5近傍の流路1に臨んで配設されたグランド電極43, 44を示す模式図である。
【図6】キャビティー2内に送流された液滴Dを示す模式図である。
【図7】キャビティー2内において移動方向を制御され、分岐領域に誘導される液滴Dを示す模式図である。
【図8】キャビティー2内における液滴の移動方向の制御を二次元方向に行うための電極の配設位置を示す模式図である。
【図9】キャビティー2内において二次元方向に移動方向制御される液滴の移動方向を示す模式図である。
【図10】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。
【図11】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。
【図12】合流部15を拡大して示す模式図である。(A)は、上面図であり、(B)は、図11中P-P断面に対応する断面図である。
【図13】キャビティー及び連通口について、他の好適な実施形態を説明する模式図である。
【図14】キャビティー及び電極について、他の好適な実施形態を説明する模式図である。
【図15】マイクロチップCの変形例の断面を示す断面模式図(A)と、これを形成する基板層を模式的に示す簡略斜視図(B)である。
【図16】本発明に係る液体分析装置の構成を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0143】
A, B, C マイクロチップ
a1, a2, b1, b2, b3, b4, b5, b6, b7, b8, b9, b10 基板層
D(D1, D2, D3) 液滴
S サンプル液層流
T シース液層流
1 流路
11, 12 曲折部
13 連通口
131 チューブ型ノズル
14 絞込部
2 空洞領域(キャビティー)
31, 32, 33, 34, 35, 36 分岐領域
311, 321, 331 アウトレット
312, 332 細管
41, 42, 411, 412, 413, 421, 422, 423, 431, 432, 433 電極
43, 44 グランド電極
5 圧電素子
6 シース液インレット
7 微小管
71, 72 開口部
8 サンプル液インレット
91, 92 流体導入部
911, 921 流体インレット
101 全体制御部
102, 103 照射部
104, 105 検出部
106 加圧ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ、及びこのマイクロチップが搭載され得る液体分析装置、並びにこのマイクロチップにおける送流方法に関する。より詳しくは、マイクロチップに設けられた空洞領域内へ荷電された液滴を導入し、電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-total-analysis system)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や効率化、集積化、あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、チップのディスポーザブルユース(使い捨て)が可能なことなどの理由から、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された流路内で細胞やマイクロビーズ等の微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術がある。この微小粒子分析技術では、分析の結果、所定の条件を満たすポピュレーション(群)を微小粒子中から分別回収することも行われている。
【0006】
この微小粒子分取技術に関連して、特許文献1には、レーザートラッピングを利用した粒子分別装置が開示されている。この粒子分別装置は、移動する細胞等の粒子に対して走査光を照射することにより、粒子の種類に応じた作用力を与えて粒子の分取を行うものである。
【0007】
同様の技術として、特許文献2には、光圧(optical forceもしくはoptical pressure)を利用した微粒子回収装置が開示されている。この微粒子回収装置は、微粒子の流路に、微粒子の流れ方向に交差させてレーザービームを照射し、回収すべき微粒子の運動方向をレーザービームの収束方向に偏向させて微粒子を回収するものである。
【0008】
また、特許文献3には、微粒子の移動方向を制御するための電極を有する微粒子分別マイクロチップが記載されている。この電極は、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置され、電界との相互作用により微粒子の移動方向を制御するものである。
【0009】
【特許文献1】特開平7−24309号公報
【特許文献2】特開2004−167479号公報
【特許文献3】特開2003−107099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3に開示されるように、従来のμ−TASでは、流路内を一定方向に流れる液体中の微小粒子に対し、直接、レーザートラッピングや光圧、電気等によって作用力を与え、微小粒子を液体の流れる方向とは異なる向きに、いわば流れに逆らって移動させていた。このため、微小粒子の送流方向の制御を行うためには、微小粒子に対してかなり大きな作用力を付与してやる必要があった。
【0011】
しかし、レーザートラッピングや光圧、電気等によって、直接、微小粒子に対して作用力を付与する方式では、微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に行うために十分な作用力を与えることは難しかった。
【0012】
そこで、本発明は、微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に制御し得るマイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題解決のため、本発明は、荷電された液滴が導入される空洞領域と、この空洞領域に臨んで配設された電極と、を備えるマイクロチップを提供する。このマイクロチップは、さらに前記空洞領域に連通して複数の分岐領域を備える。これにより、本発明に係るマイクロチップでは、液滴に付与された電荷と電極との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御して、任意に選択される一の分岐領域へ液滴を誘導することができる。
さらに、本発明に係るマイクロチップは、以下の(1)〜(4)の構成を備える。
すなわち、このマイクロチップは、液体を前記空洞領域に送液する流路と、(1)この流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化するための圧電素子、又は、(2)少なくとも一側方からこの流路に合流し、流路内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入して、流路内を通流する液体を分断し、液滴化するための流体導入部、とを備える。
このマイクロチップは、(3)前記流路を通流する液体Tの層流中に他の液体Sを導入する微小管を備える。これにより、本発明に係るマイクロチップでは、微小管から導入される液体Sの層流の周囲を、液体Tの層流で取り囲んだ状態で、該流路の前記連通口又は前記流体導入部の合流部へ送液することができる。
(4)前記流路には、送液方向に対する垂直断面の面積が次第に小さくなるように形成された絞込部が設けられる。これにより、前記液体S及び液体Tの両層流の層流幅を絞り込んで送液することができる。
このマイクチップは、(5)前記微小管が、電圧を印加可能な金属により形成される。これにより、前記流路を通流する前記液体S及び液体Tに対し電荷を付与することができる。この際、前記流路内において液体が液滴化及び電荷付与される領域に臨んで、接地された電極を配設することが好適となる。
以上の構成によって、本発明に係るマイクロチップでは、前記液体Sに含まれる微小粒子を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取することが可能とされる。この分岐領域には、細胞培養用ゲルを充填しておくことができる。
【0014】
併せて、本発明は、上記マイクロチップが搭載され得る液体分析装置及び微小粒子分取装置を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、マイクロチップに設けられた空洞領域内へ荷電された液滴を導入し、空洞領域に臨んで配設された電極と液滴に付与された電荷との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップにおける送流方法をも提供する。
この送流方法では、前記空洞領域における前記液滴の移動方向を制御することにより、空洞領域に連通して複数設けられた分岐領域から選択される任意の一の分岐領域へ液滴を誘導することができる。
この送流方法では、圧電素子を用い、液体を前記空洞領域に送液する流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する構成や、液体を前記空洞領域に送液する流路内へ、気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入して通流する液体を分断、液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する構成を採用し得る。
この送流方法では、微小粒子を含む液体を導入して、この液体を所定数の微小粒子ごとに分断し、液滴化することで、微小粒子を含む液滴を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取することが可能である。
【0016】
ここで、本発明において「液体」という用語は広義に解釈されるべきであり、均質な液体、懸濁液、すなわち微小粒子を含む液体や、小さい気泡を含む液体などが含まれる。「液体」は、水性液、有機液体又は二相系液体であってよく、疎水性液体又は親水性液体であってよい。また、「気体」という用語も、狭義に解釈されるべきでなく、空気や、窒素、等のガスなどを広く包含し得るものとする。
【0017】
本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
【0018】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に制御し得るマイクロチップが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
1.マイクロチップA
図1は、本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。図中、符号Aで示すマイクロチップは、微小粒子を含む液体を通流させて、微小粒子の分取を行うために好適に使用されるものである。
【0022】
(1-1)空洞領域
マイクロチップAは、略90度折れ曲がる曲折部11, 12を有する流路1と、この流路1に連通する空洞領域2(以下、「キャビティー2」という)と、キャビティー2に連通する分岐領域31, 32, 33と、を備えている。キャビティー2には、流路1から送流される荷電された液滴が導入される。
【0023】
図1中、符号41, 42は、キャビティー2の内部空間に臨んで配設された一対の移動方向制御用電極(以下、単に「電極」という)を示している。マイクロチップAでは、この電極41, 42と、キャビティー2に導入された液滴に付与された電荷との電気的力に基づいて、キャビティー2内における液滴の移動方向を制御することができる。これにより、マイクロチップAでは、液滴を分岐領域31, 32, 33のいずれかに選択的に誘導することが可能とされている。図中、符号311, 321, 331は、分岐領域31, 32, 33へ誘導された液滴をマイクロチップA外へ排出するためのアウトレットを示す。
【0024】
このように、マイクロチップAは、液滴を荷電した上で、キャビティー2に導入し、キャビティー2内の自由空間において電気的力に基づいて液滴の移動方向を制御することを特徴とする。このため、キャビティー2に導入する液滴に微小粒子を包含させることで、液滴全体に作用する大きな電気的作用力でもって微小粒子の移動方向を制御することができる。加えて、微小粒子を含む液滴の移動方向の制御は、キャビティー2内の自由空間内において行われるため、流路壁面との摩擦力の影響が小さく、他の流体が一定方向に通流する流路内で移動方向の制御を行う場合に比べて、高速かつ高精度に移動方向を変化させることができる。
【0025】
(1-2)圧電素子
図1中、符号5は、流路1を通流する液体を液滴化してキャビティー2に送流するための圧電素子を示している。この圧電素子5は、流路1のキャビティー2への連通口13において、通流する液体を液滴化する。
【0026】
圧電素子5は、流路1の連通口13上流に、流路1内に臨んで配設されている。圧電素子5は電圧を印加されると変形し、流路1内を通流する液体に圧力を加える。そして、流路1内の液体は、この圧電素子5からの圧力を受けると、流路1の連通口13からキャビティー2内へ吐出される。この際、圧電素子5に印加する電圧をパルス電圧として圧電素子5を振動させることで、液体を液滴状としてキャビティー2内へ吐出させることができる。このとき、流路1に微小粒子を含む液体を通流させれば、キャビティー2内へ微小粒子を含む液滴を吐出させることができる。
【0027】
このような圧電素子5を用いた液滴化は、例えば、インクジェットプリンタで採用されるピエゾ振動素子を用いたインクの滴状吐出と同様にして行うことができる。
【0028】
(1-3)微小管
図1中、符号6は、流路1内に液体(これを「液体T」とする)を導入するためのインレットを示す。流路1の曲折部12には、このインレット6から供給されて、流路1内を通流する液体T層流中に、他の液体(これを「液体S」とする)を導入するための微小管7が配設されている。
【0029】
以下では、マイクロチップAを用いて微小粒子の分取を行う場合を例に、インレット6から液体Tとしてシース液Tが、微小管7から液体Sとして微小粒子を含むサンプル液Sが導入されるものとして説明する。すなわち、符号8で示すサンプル液インレットから供給されるサンプル液Sは、微小管7によって、インレット6(以下、「シース液インレット6」という)から供給されて流路1を通流するシース液Tの層流中に導入される。図1中、符号71は微小管7の流路1側端の開口を、符号72はサンプル液インレット8側端の開口を示す。
【0030】
マイクロチップAでは、このように微小管7によって流路1を通流するシース液Tの層流中にサンプル液Sを導入することによって、サンプル液Sの層流の周囲を、シース液Tの層流で取り囲んだ状態で送液することが可能とされている。
【0031】
さらに、この微小管7は、電圧を印加可能な金属によって形成されており、流路1を通流するシース液T及びサンプル液Sに対し、正又は負の電荷を付与することが可能とされている。後述するように、シース液T及びサンプル液Sが液滴化されてキャビティー2内へ吐出される際に、微小管7に電圧を印加することで、吐出される液滴に正又は負の電荷を付与することができる。なお、流路1を通流するシース液T及びサンプル液Sに対し、微細管に電圧を印加することなしで、電荷を付与しないことも可能である。この場合、シース液T及びサンプル液Sが液滴化されてキャビティー2内へ吐出される際に、微小管7に電圧を印加しないので、吐出される液滴に電荷をもたないようにすることが可能である。
【0032】
この際、液滴に正確に電荷を付与し、液滴の荷電状態を安定化させるため、マイクロチップAでは、流路1内において液体が液滴化及び電荷付与される領域、すなわち圧電素子5近傍の流路1、に臨んで、接地された電極43, 44(以下、「グランド電極43, 44」という)を配設している。
【0033】
荷電された液滴はキャビティー2に導入され、付与された電荷と電極41, 42との電気的力に基づいて、キャビティー2内における移動方向を制御されるが、正確な移動方向の制御を行うためには、液滴に正確かつ安定した電荷が付与されることが必要である。マイクロチップAでは、液体の液滴化及び電荷付与が行われる領域と、電極41, 42とが隣接して設けられている。そのため、電極41, 42の高電位の影響によって液滴に電位が生じ、微小管7による液滴の荷電状態が不安定となるおそれがある。
【0034】
マイクロチップAでは、圧電素子5近傍の流路1に臨んでグランド電極43, 44を配設し、液体が液滴化される領域に電極41, 42の高電位の影響が及ばないようにしている。これにより、液滴に正確な電荷を付与し、移動方向を正確に制御することが可能とされている。
【0035】
(1-4)絞込部
図1中、符号14は、流路1に設けられた絞込部を示す。絞込部14は、送液方向に対する垂直断面の面積が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、絞込部14の流路側壁は送液方向に従って図中Y軸正負方向に狭窄するように形成されており、絞込部14はその上面視において次第に細くなる錘形としてみることができる。この形状によって、絞込部14は、シース液Tとサンプル液Sの層流の層流幅を、図中Y軸正負方向に絞り込んで送液することが可能とされている。さらに、絞込部14は、その流路底面が上流から下流に向かって深さ方向(Z軸正方向)に高くなる傾斜面となるように形成されており、同方向にも層流幅を絞り込むことが可能とされている(次に詳しく説明する)。
【0036】
2.マイクロチップAにおける液体送流方法
次に、マイクロチップAにおけるサンプル液S及びシース液Tの送流方法について、送流方向上流から順に説明する。
【0037】
(2-1)微小管による層流形成
図2は、流路1内に形成されるシース液Tとサンプル液Sの層流を示す模式図である。図2(A)は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面図であり、微小管7の開口71と、流路1の絞込部14と、を拡大して示している。また、図2(B)は、図1拡大図中Q-Q断面に対応する断面図であり、流路1下流側から正面視した開口71を拡大して示している。
【0038】
流路1を通流するシース液Tの層流(図中符号T参照)中に、微小管7によってサンプル液Sを導入することにより、図2(A)に示すように、サンプル液Sの層流を、シース液Tの層流で取り囲んだ状態で送液することができる。以下、サンプル液Sの層流を単に「サンプル液層流S」、シース液Tの層流を「シース液層流T」というものとする。
【0039】
図2では、微小管7を、その中心が流路1の中心と同軸上に位置するように配設した場合を示した。この場合、サンプル液層流Sは、流路1を通流するシース液層流Tの中心に導入されることとなる。シース液層流T中のサンプル液層流Sの形成位置は、流路1内における微小管7の配設位置を調節することによって任意に設定することができる。
【0040】
(2-2)絞込部による層流幅の絞り込み
絞込部14は、送液方向に対する垂直断面の面積が、流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成されている。すなわち、図2(A)に示すように、絞込部14は、その流路底面が上流から下流に向かってZ軸正方向に高くなる傾斜面となるように形成されている。この形状によって、絞込部14へ送液されたシース液層流Tとサンプル液層流Sは、マイクロチップA上面側に偏向されながら、Z軸正方向に層流幅を絞り込まれることとなる。
【0041】
図3は、絞込部14の上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。図3(A)は、図2中R1-R1断面に対応する断面図であり、図3(B)は、図2中R2-R2断面に対応する断面図である。
【0042】
図1において説明したように、絞込部14は、上流から下流に向かってY軸正負方向に次第に細くなる錘形に形成されている。また、図2で説明したように、絞込部14の流路底面は、上流から下流に向かってZ軸正方向に高くなる傾斜面として形成されている。このように、絞込部14を送液方向に対する垂直断面の面積が流路上流から下流へ次第に小さくなるように形成したことにより、シース液層流Tとサンプル液層流Sを、Y軸及びZ軸方向に層流幅を絞り込みながら、マイクロチップA上面側(図3中Z軸正方向)に偏向させて送液することが可能となる。すなわち、図3(A)に示すシース液層流Tとサンプル液層流Sは、絞込部14において、図3(B)に示すように層流幅を絞り込まれて送液される。
【0043】
このように、シース液層流とサンプル液層流の層流幅を絞り込んで送液することにより、サンプル液として微小粒子を含む溶液を流路内に通流させて、微小粒子の光学分析を行う場合、絞り込まれたサンプル液層流中の微小粒子に精度良く測定光を照射することが可能となる。なお、このようなシース液層流とサンプル液層流の層流幅の絞り込みは、絞込部14の流路底面及び上面の両方を傾斜面として形成することにより行うこともできる。
【0044】
特に、絞込部14によれば、マイクロチップAの水平方向(図1中Y軸方向)のみならず、垂直方向(図2中Z軸方向)にもサンプル液層流の層流幅を絞り込むことができるため、流路1の深さ方向における測定光の焦点位置を微小粒子の送流位置と精緻に一致させることできる。このため、微小粒子に精度良く測定光を照射して高い測定感度を得ることが可能となる。
【0045】
ここで、流路1を十分に細い流路として形成し、この流路1を通流するシース液層流中に、径の小さい微小管7を用いてサンプル液を導入すれば、予め層流幅が絞り込まれたシース液層流とサンプル液層流を形成することが可能とも考えられる。しかしながら、この場合には、微小管7の径を小さくすることによって、サンプル液中に含まれる微小粒子が微小管7に詰まるという問題が生じ得る。
【0046】
マイクロチップAでは、絞込部14を設けたことにより、サンプル液中に含まれる微小粒子の径に対して十分に大きい径の微小管7を用いてサンプル液層流とシース液層流の形成を行った後に、層流幅の絞り込みを行うことができる。従って、上記のような微小管7の詰まりの問題を解消することが可能である。
【0047】
微小管7の内径は、分析対象とするサンプル液中に含まれる微小粒子の径に応じて適宜設定することができる。例えば、サンプル液として血液を用い、血球細胞の分析を行う場合には、好適な微小管7の内径は10〜500μm程度である。また、流路1の幅及び深さは、分析対象とする微小粒子の径を反映した微小管7の外径に応じて適宜設定すればよい。例えば、微小管7の内径が10〜500μm程度である場合、流路1の幅及び深さはそれぞれ100〜2000μm程度が好適である。なお、微小管の断面形状は、円形以外にも、楕円形や四角形、三角形など任意の形状とすることができる。
【0048】
絞込部14における絞り込み前のシース液層流とサンプル液層流の層流幅は、上記の流路1の幅及び深さと微小管7の径に依存して変化し得るが、絞込部14の送液方向に対する垂直断面の面積を適宜調整することによって任意の層流幅にまで絞り込みを行うことが可能である。例えば、図2において、絞込部14の流路長をL、流路底面の傾斜角度をθZとした場合、絞込部14におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sの層流幅の絞り込み幅はL・tanθZとなる。従って、流路長L及び傾斜角度θZを適宜調整することによって任意の絞り込み幅を設定することが可能である。さらに、図1中、絞込部14流路側壁のY軸方向における狭窄角度をそれぞれθY1、θY2とし、これらと上記θZを等しく形成することにより、図3(A)及び(B)に示したように、シース液層流Tとサンプル液層流Sを等方的に縮小して絞り込むことが可能となる。
【0049】
(2-3)圧電素子による液滴化と微小管による荷電
図4は、流路1のキャビティー2への連通口13付近のシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。図は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面図であり、微小管7の開口71近傍と連通口13近傍の流路1とを拡大して示している。
【0050】
シース液層流T及びサンプル液層流Sは、微小管7及び絞込部14によって、サンプル液層流Sの周囲をシース液層流Tが取り囲み、両層流の幅が絞り込まれた状態で連通口13に送液される。
【0051】
このシース液層流T及びサンプル液層流Sに対し、連通口13上流に流路1内に臨んで配設された圧電素子5にパルス電圧を印加することによって圧力を加えると、シース液層流T及びサンプル液層流Sは液滴となってキャビティー2内へ吐出される。図4中、符号Dは、連通口13からキャビティー2内へ吐出された液滴を示している。この液滴Dは、シース液及びサンプル液からなり、サンプル液中に含まれる微小粒子が包含されている。
【0052】
さらに、圧電素子5による液滴化と同時に、金属によって形成された微小管7に電圧を印加することによって、キャビティー2内へ吐出される液滴Dに正又は負の電荷を付与することができる。例えば、微小管7に正電圧を印加し、流路1内を通流するシース液層流T及びサンプル液層流Sに対して正電荷を付与した場合には、キャビティー2内へ吐出された液滴Dは正電荷を帯びる。逆に、微小管7に負電圧を印加した場合には、キャビティー2内へ吐出される液滴Dに負電荷を付与することができる。
【0053】
また、シース液層流T及びサンプル液層流Sが液滴状となって連通口13からキャビティー2へ吐出する瞬間に、微小管7に印加する電圧を切換えることで、正荷電された液滴Dと負荷電された液滴Dとを交互にキャビティー2内へ吐出することができる。この場合、微小管7に印加する電圧は、液滴化のために圧電素子5に印加されるパルス電圧に同調したパルス電圧とされる。
【0054】
図5は、圧電素子5近傍の流路1に臨んで配設されたグランド電極43, 44を示す模式図である。図は、圧電素子5を含むYZ平面における断面図である。
【0055】
グランド電極43, 44は、キャビティー2内における移動方向を制御のための電極41, 42からの電位の影響を排除して、微小管7によって付与される液滴の荷電状態を安定化させるために機能する。グランド電極43, 44の配設位置は、流路1内において液体が液滴化されて、電荷が付与される領域に臨む位置であればよいものとする。
【0056】
(2-4)空洞領域における液滴の移動方向の制御
(2-4-1)一次元方向の移動制御
図6は、キャビティー2内に送流された液滴Dを示す模式図である。図は、図1中U-U断面に対応する断面図である。
【0057】
正又は負の電荷が付与されてキャビティー2内に送流された液滴Dは、キャビティー2の内部空間に臨んで配設された一対の電極41, 42との電気的力に基づいて、キャビティー2内における移動方向を制御される。
【0058】
例えば、図に示すように、微小管7によって液滴Dに正電荷が付与されている場合には、電極41を負に、電極42を正に帯電させることによって、電極41との電気的吸引力及び電極42との反発力によって、液滴DをY軸正方向に移動させることができる。
【0059】
また、液滴DをY軸負方向に移動させる場合には、電極41を正に、電極42を負に帯電させればよい。このように、マイクロチップAでは、電極41, 42と、キャビティー2に導入された液滴に付与された電荷との電気的力に基づいて、キャビティー2内における液滴の移動方向を制御することができる。従って、この液滴に含まれる微小粒子についても、液滴全体に作用する大きな力によって、その移動方向が制御されることとなる。
【0060】
キャビティー2の表面には、シース液及びサンプル液の液滴状態を維持するため、撥水処理加工を施すことが好ましい。キャビティー2内において液滴同士が一部で連通する状態となると、液滴の電荷が消失してしまい、液滴の移動方向の制御が不能となったり、不正確となったりするおそれがある。撥水加工は、通常使用されるシリコン樹脂系撥水剤やフッ素樹脂系撥水剤などの塗布や、アクリルシリコーン撥水膜やフッ素撥水膜などの成膜による表面処理の他、流路表面に微細構造を形成することによって撥水性を付与することもできる。
【0061】
また、各液滴に付与された電荷を維持するため、キャビティー2の表面に電気的絶縁性を付与して、液滴間で電荷の移動を阻止することも有効である。電気的絶縁性は、例えば、キャビティー2表面に絶縁性を備える物質を塗布または成膜することにより付与し得る。
【0062】
キャビティー2の内部空間は、気体又は液体が充填された状態であってよいが、特に超純水等の電気的絶縁性を有する液体を充填することで、液滴間での通電を阻止することが可能となる。さらに、シース液に電気的絶縁性を有する液体を用いて、微小管7によって電荷を付与されたサンプル液を絶縁性シース液で取り囲んで液滴化することも、液滴間の通電を阻止するため有効である。ただし、キャビティー2内に液体を充填した場合には、液滴が移動する際に抵抗をもたらすこととなるため、抵抗の少ない気体を充填したほうが、より高速かつ高精度に液滴の移動方向の制御を行い得る可能性がある。
【0063】
図7は、キャビティー2内において移動方向を制御され、分岐領域に誘導される液滴Dを示す模式図である。図は、キャビティー2及び分岐領域31, 32, 33を拡大して示す簡略上面図である。
【0064】
既に説明したように、キャビティー2内へ送流された液滴Dの移動方向は、付与された電荷と電極41, 42との電気的力に基づいて、Y軸正負方向に制御することができる。従って、例えば、微小管7によって液滴Dに正電荷が付与されている場合には、電極41を負に、電極42を正に帯電させることによって、液滴DをY軸正方向に移動させて分岐領域31へ誘導することができる。
【0065】
また、液滴DをY軸負方向に移動させて分岐領域33へ誘導する場合には、電極41を正に、電極42を負に帯電させればよい。さらに、両電極41, 42に電圧を印加せずに、液滴Dに対し電気的力を作用させなければ、液滴Dを分岐領域32へ誘導することができる。
【0066】
このようにマイクロチップAでは、微小管7によって液滴Dに付与された正又は負の電荷に応じて、電極41, 42を適宜、正又は負に帯電させることで、分岐領域31, 32, 33から任意に選択される一の分岐領域に各液滴を誘導し、分取することが可能とされている。
【0067】
(2-4-2)二次元方向の移動制御
以上は、液滴Dの移動方向の制御を一次元方向(Y軸正負方向)に行う場合を説明したが、この移動方向制御は、二次元方向(Y軸及びZ軸正負方向)に行うことも可能である。二次元方向の移動制御を行う場合、キャビティー2に臨んでZ軸方向にも複数の電極を配設する。
【0068】
図8は、キャビティー2内における液滴の移動方向の制御を二次元方向に行うための電極の配設位置を示す模式図である。
【0069】
このマイクロチップAの変形例では、キャビティー2に臨み、その四隅に対応する位置に、4つの電極411, 412, 421, 422を配設している。そして、これらの電極を正又は負に帯電させることによって、電荷が付与された液滴の移動方向を、電気的吸引力及び反発力に基づきY軸正負方向及びZ軸正負方向の両方向に制御する。
【0070】
図9は、キャビティー2内において二次元方向に移動方向制御される液滴の移動方向を示す模式図である。図中、液滴の移動方向を矢印で、キャビティー2内の空間を点線で示す。
【0071】
このマイクロチップAの変形例では、キャビティー2に連通して13の分岐領域31, 32a〜32d, 33a〜33d, 34a〜34dを設けている。そして、電極411, 412, 421, 422を正又は負に帯電させることによって、キャビティー2内に送流された液滴の移動方向をY軸及びZ軸正負方向に制御し、各分岐領域へ選択的に誘導する。例えば、電極に電圧を印加しない状態においては分岐領域31へ誘導される液滴を、各電極を所定条件で帯電させることで分岐領域32aに選択的に誘導する。
【0072】
このマイクロチップAの変形例において、分岐領域は、キャビティー2に連通してYZ平面上に多数配することができ、それぞれの分岐領域に液滴をひとつずつ誘導し、分取することもできる。これにより、マイクロチップAに微小粒子を含む液体を通流させて微小粒子の分取を行う場合において、各分岐領域に微小粒子をひとつずつ分取することが可能となる。これは、例えば、多数設けた分岐領域に、細胞をひとつひとつ分取するといった応用が考えられる。
【0073】
3.マイクロチップBとマイクロチップBにおける送流方法
図10は、本発明の第二実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。図中、符号Bで示すマイクロチップは、マイクロチップAと同様に、微小粒子を含む液体を通流させて、微小粒子の分取を行うために好適に使用されるものである。以下、マイクロチップBの構成について、マイクロチップAと異なる点を説明する。
【0074】
(3-1)圧電素子
マイクロチップBは、チップの一辺に沿って配設した圧電素子5によって、流路1を通流する液体を液滴化して、キャビティー2へ送流するよう構成されている。すなわち、圧電素子5にパルス電圧を印加して振動させ、マイクロチップB全体を振動させることにより、流路1の連通口13から吐出される液体を液滴化する。
【0075】
先に説明したマイクロチップAでは、圧電素子5によって流路1内を通流する液体に圧力を加えて液滴化を行う構成であるため、圧電素子5を流路1内に臨んで配設する必要がある(図4参照)。これに対して、マイクロチップBでは、マイクロチップB全体を振動させて液滴化を行う構成であるため、圧電素子5はチップ上の任意の位置に配設すればよい。従って、マイクロチップBでは、チップ内部に圧電素子5を作りこむための手間を省くことができる。
【0076】
さらに、マイクロチップBでは、搭載される装置側に圧電素子を設ければ、チップそのものに圧電素子を設けることは不要である。この場合、マイクロチップBを搭載した状態において、装置に設けられた圧電素子がマイクロチップBの一部に接触するようする。これにより、装置側の圧電素子の振動を搭載されたマイクロチップBに伝導して液滴化を行うことができる。
【0077】
(3-2)分岐領域
マイクロチップBでは、分岐領域内に、誘導された液滴をチップ外に取り出すための細管が設けられている。図10拡大図中、符号312, 332で示す細管は、金属やガラス、セラミックス、各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)等から形成されたチューブであって、分岐領域31, 33へ誘導された液滴をその内空に捕獲する。図は、分岐領域31には液滴D1が、分岐領域32, 33にはそれぞれ液滴D2, D3が誘導される場合において、液滴D1, D3をチップ外に取り出す場合を示している。なお、分岐領域32に誘導された液滴D2は、アウトレット321からマイクロチップB外に排出されるものとする。
【0078】
マイクロチップBを用いて微小粒子の分取を行う場合、サンプル液インレット8から微小粒子を含むサンプル液を、シース液インレット6からシース液を導入して、キャビティー2へ微小粒子を含む液滴を送流する。そして、キャビティー2内において、この液滴の移動方向を制御することで、液滴に含まれる微小粒子を液滴ごと分岐領域31, 32, 33のいずれかに誘導し、分取する。
【0079】
マイクロチップBでは、このようにして分岐領域31, 33に分取された微小粒子D1, D3を、細管312, 332ごとチップ外に取り出して回収することができる。例えば、微小粒子として細胞の分取を行う場合には、分岐領域31, 33にそれぞれ分取された液滴D1, D3に含まれる細胞集団を細管312, 332ごと取り出し、細管312, 332ごと細胞培養液に投入することにより、各細胞集団の培養を行うことができる。
【0080】
マイクロチップBでは、分岐領域に誘導された液滴を、細管ごとチップ外に取り出すことができるように構成したことで、各分岐領域内に分取された細胞やマイクロビーズ等の微小粒子を互いに混じり合うことなく回収することができる。また、微小粒子を回収する際の細菌や夾雑物等の混入を防止することができる。
【0081】
マイクロチップBにおいて微小粒子として細胞の分取を行う場合、分岐領域31, 33内に細胞培養用ゲルを充填することも、分岐領域内に分取された細胞をマイクロチップBから取り出し易く、その後の細胞培養を容易にするために効果的である。
【0082】
分岐領域に細胞培養用ゲルを充填しておくことにより、キャビティー2から誘導されてくる細胞をゲル内に取り込んで保持することができる。これにより、分取された細胞が、分岐領域の内壁に接触、衝突してダメージを受けたり、分岐領域内で乾燥して死んでしまったりすることを防止できる。また、分取後の細胞をゲルごとチップ外に取り出して回収し、細胞培養を行うこともできる。
【0083】
細胞培養用ゲルには、コラーゲンゲルやエラスチンゲルなどの従来公知のゲルを使用すればよい。あるいは、生理食塩水とこれらのゲルを適量濃度に調整したものを使用することができる、また、分岐領域に上記の細管を設け、この細管内にさらに細胞培養用ゲルを充填する構成を採用することもできる。こうすることで、マイクロチップ内から、微細管を回収すればよく、細胞回収において短時間で効果的に分取した細胞を回収することが可能となる。
【0084】
4.マイクロチップCとマイクロチップCにおける送流方法
図11は、本発明の第三実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。図中、符号Cで示すマイクロチップは、マイクロチップA, Bと同様に、微小粒子を含む液体を通流させて、微小粒子の分取を行うために好適に使用されるものである。以下、マイクロチップCの構成について、マイクロチップAと異なる点を説明する。
【0085】
(4-1)流体導入部
図中、符号91, 92は、流路1内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入するための流体導入部を示す。流体導入部91, 92は、その一端において流路1に連通し、他端には流体が供給される流体インレット911, 912が設けられている。図示しない加圧ポンプによって流体インレット911, 912から流体導入部91, 92に供給された気体又は絶縁性液体(以下、「気体等」という)は、符号15で示す合流部において流路1内に導入される。
【0086】
マイクロチップCでは、この流体導入部91, 92から合流部15に導入される流体によって、流路1を通流する液体を分断し、液滴化してキャビティー2へ送流することができる。
【0087】
図12は、合流部15を拡大して示す模式図である。図12(A)は上面図であり、(B)は図11中P-P断面に対応する断面図である。図は、微小管7及び絞込部14を経て、合流部15に送液されたシース液層流T及びサンプル液層流Sを分断して、液滴化する場合を示している。
【0088】
合流部15において、送液されてくるシース液層流T及びサンプル液層流Sに対して、流体導入部91, 92から所定のタイミングで気体等を導入すると、導入された気体等によってシース液層流T及びサンプル液層流Sは、図に示すように分断され、液滴化される。これにより、シース液層流T及びサンプル液層流Sを、流路1内において液滴化して、連通口13からキャビティー2内へ吐出させることができる(図12、液滴D参照)。なお、この液滴Dが、サンプル液中に含まれる微小粒子を包含し得る点は既に述べた通りである。
【0089】
ここで、図11及び図12では、流体導入部を流路1の両側に、それぞれ1つずつ設けた場合を示したが、気体導入部は流路1の少なくとも一側方に1つ設けられていればよい。さらに、接続部15において、2以上の流体導入部を合流させることもできる。
【0090】
また、図11及び図12では、流体導入部が流路1に対して直角に合流されているが、流体導入部の合流角度は任意に設定できるものとする。
【0091】
流路1のうち、合流部15から連通口13までの間の表面には、シース液及びサンプル液の液滴状態を維持するため、撥水処理加工を施すことが好ましい。流路1内において液滴同士が一部で連通する状態となると、微小管7によって液滴に付与された電荷が消失してしまい、キャビティー2内における液滴の移動方向の制御が不能となったり、不正確となったりするおそれがある。
【0092】
また、各液滴に付与された電荷を維持するため、流路1の表面には電気的絶縁性を付与して、液滴間で電荷の移動を阻止することも有効である。流体導入部から導入される流体を絶縁性液体とすることも同様の効果を奏する。
【0093】
5.マイクロチップの製造方法
(5-1)成形
マイクロチップの材質は、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)とすることができる。マイクロチップの材質には、撥水性を有する材質を用いることが好ましい。これにより、キャビティー表面の撥水性により、液滴同士の連通による電荷の消失を防止することができる。また、マイクロチップを用いて光学的分析を行う場合、材質には、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ないものを選択する。
【0094】
マイクロチップに配設される流路1等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行うことができる。そして、流路1等を成形した基板層を、同じ材質又は異なる材質の基板層でカバーシールすることで、マイクロチップを形成することができる。
【0095】
以下、マイクロチップAを例に、マイクロチップの製造方法を具体的に説明する。まず、基板層に対して、流路1、キャビティー2、分岐領域31, 32, 33等の形状を備える金型を射出成形機にセットし、形状転写を行う。
【0096】
マイクロチップAでは、図4に示すように、2枚の基板層a1, a2にそれぞれキャビティー2を形成する陥凹を転写している。陥凹は、図13(A)に示すように基板層a1のみに成形してもよく、 また基板層a2のみに成形してもよい。さらに、図13(B)に示すように、キャビティー2のZ軸方向の高さを、流路1の連通口13の高さを等しくして、基板層a1, a2を陥凹させることなくキャビティー2を形成してもよい。成形工程の簡略化のためには、図7(A)又は(B)に示したようなキャビティー2を形成することが好ましい。
【0097】
また、マイクロチップAでは、キャビティー2の形状を、その上面視において、連通口13を頂点とする二等辺三角形として形成している(図1参照)。キャビティー2の上面視形状は、例えば、後述する図14(A)のように上面視四角形であってもよく、連通する分岐領域へ液滴を誘導可能な限りにおいて、任意の形状とすることができる。
【0098】
キャビティー2のZ軸方向の高さは、導入される液滴の大きさの10倍から100倍程度に設定される。例えば、分析対象とするサンプル液中に含まれる微小粒子が血球細胞である場合、液滴の大きさは30〜50μm程度であるので、キャビティー2の高さは300μm〜5mm程度となる。
【0099】
キャビティー2の高さは、図8及び図9で説明したように、液滴の移動方向の制御を二次元方向に行いたい場合には、Z軸方向により高く形成する必要がある。このためには、後述するように3以上の基板層を積層してチップを成形することが望ましい。
【0100】
マイクロチップAでは、図4に示すように、流路1が真っ直ぐに延伸されて、キャビティー2への連通口13が転写されている。流路1の連通口13は、図13(C)に示すように、キャビティー2へ向かってノズル状に狭窄させて成形してもよい。これにより、連通口13における水切れをよくして、圧電素子5によるシース液層流T及びサンプル液層流Sの液滴化を促進させることができる。なお、連通口13の形状は、図に示す形状に限定されず、液滴化を促進し得る種々の形状を採用できる。
【0101】
さらに、図13(D)に示すように、連通口13に、金属やセラミック、樹脂等によって成形した微小なチューブ型ノズル131を配置してもよい。このチューブ型ノズル131の形状も、図に示す形状に限定されず、液滴化を促進し得るような任意形状に成形される。また、図に示すように、チューブ型ノズル131を、流路1からキャビティー2内へ突出させて設けることで、さらに水切れをよくすることもできる。
【0102】
(5-2)微小管等の配置
次に、成形後の基板層に、微小管7、電極41, 42、圧電素子5を配置する。微小管7は、サンプルインレット8と流路1との間にこれらを連絡するように形成された溝に嵌め込み、サンプルインレット8に導入されるサンプル液が微小管7によって流路1内に送液されるよう配置する(図1参照)。
【0103】
電極41, 42及びグランド電極43, 44は、図5及び図6に示したように、流路1又はキャビティー2に沿って形成された溝に嵌め込んで配置する。各電極が嵌め込まれる溝は、流路1又はキャビティー2との間に隔壁を設けて成形される。この隔壁の厚さ(図5中Y軸方向の長さ)は10〜500μm程度とする。電極をキャビティー2内壁に直接配置せず、隔壁を隔てて配置することで、キャビティー2表面の撥水処理や電気的絶縁処理を行い易くすることができる。
【0104】
マイクロチップAでは、図1に示したように、電極41, 42を上面視「ハ」の字状に配置している。キャビティー2内における液滴の移動方向を制御するための電極は、例えば、キャビティー2の形状を上面視四角形とする場合には、図14(A)に示すように、両電極を平行に対向させて配置することもできる。
【0105】
液滴の移動方向の制御のためには、キャビティー2の少なくとも一側方に、一つ以上の電極が配置されていることが必要となる。ただし、適宜、3以上の電極を配設することも当然に可能である。例えば、図14(B)に示すように、キャビティー2の両側に、それぞれ複数の電極411, 412, 413(又は、電極421, 422, 423)を配置してもよい。図14(B)では、X軸正方向に従って段階的にキャビティー2のY軸方向の幅を広くしている。そして、これに併せて、電極411, 412, 413及び電極421, 422, 423を、それぞれ対向する電極間との距離が徐々に広くなるようにして配置している。なお、図14(B)では、キャビティー2に連通する分岐領域を4つ(分岐領域31〜34)としている。
【0106】
また、電極は、図14(C)に示すように、キャビティー2の内部領域に配置してもよい。図14(C)では、キャビティー2内に電極431, 432, 433を配し、キャビティー2側方に配された電極と合せて合計9個の電極が配置されている。電極431, 432, 433は、キャビティー2内空との間に隔壁を設けて配置されている。このようにキャビティー2の内部領域にも電極を配置することにより、分岐領域を多数(図では6つ)設けたような場合にも、液滴の移動方向を精緻に制御して、選択された一の分岐領域へ正確に液滴を誘導することができる。なお、キャビティー2に連通させる分岐領域は、2以上であればよく、その数は特に限定されないものとする。
【0107】
圧電素子5は、図4で説明したように、流路1の連通口13上流において、パルス電圧を印加されて振動することにより、流路1内を通流する液体に圧力が加わるような位置に配置される。
【0108】
(5-3)貼り合わせ
微小管7、電極41, 42、圧電素子5の配置後、基板層a1, a2を貼り合わせる。基板層の貼り合わせは、従来公知の手法を適宜用いることができる。例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等を適宜用いることができる。
【0109】
基板層a1, a2を貼り合わせる際は、微小管7を嵌め込んだ溝を、接着剤によって封止する。この接着剤は、溝に微小管7を固定するためのものと同一とできる。溝の封止によって、サンプルインレット8と流路1が、微小管7を介して連絡されるようになる。
【0110】
以上の方法により得られたマイクロチップAは、その表裏を無関係に使用することができる。従って、図4に示したマイクロチップAを、基板層a2が上面に、基板層a1が下面となる状態で使用することも当然に可能である。図4の状態では、絞込部14が、その流路底面が上流から下流に向かって徐々に高くなる傾斜面として形成されている。しかし、マイクロチップAを裏返しにすれば、絞込部14は、その流路上面が上流から下流に向かって流路深さ方向に低くなる傾斜面としてみることができる。この場合、絞込部14へ送液されたシース液層流とサンプル液層流は、マイクロチップA下面側に偏向されながら、層流幅を絞り込まれることとなる。
【0111】
(5-4)二次元方向の移動制御を行うための基板層の積層
図8及び図9で説明したように、液滴の移動方向の制御を二次元方向に行う場合には、複数の基板層を積層することにより、キャビティー2のZ軸方向の高さを高く形成することが望ましい。
【0112】
図15は、二次元方向の移動制御のため、キャビティー2のZ軸方向の高さを高く成形したマイクロチップCの変形例の断面を示す断面模式図(A)と、これを形成する基板層を模式的に示す簡略斜視図(B)である。
【0113】
図15(A)に示すように、このマイクロチップCの変形例では、10枚の基板層b1〜b10を積層することにより、キャビティー2の高さを高く形成している。図中、符号13は流路1のキャビティー2への連通口、符号31, 33b, 33cは分岐領域を示している。また、符号102及び103は、後述の液体分析装置に設けられる光学検出系(照射部102、検出部103)を示す(図16参照)。
【0114】
基板層b1には、流路及び流体導入部を構成する陥凹が転写されている(図15(B)参照)。この陥凹は、シース液インレット6、サンプル液インレット8、流体インレット911, 921等の形状に対応するものである。また、この基板層b1には、グランド電極43, 44が配置される溝が成形されている。この溝にグランド電極43, 44を配置した後、基板層b1に基板層b2を積層する。基板層b2には、シース液インレット6、サンプル液インレット8、流体インレット911, 921に対応する位置及びキャビティー2に対応する位置にそれぞれ開口が形成されている。
【0115】
次いで、基板層b2の上層に、分岐領域32b, 33b, 34b(図9参照)を構成する3枚の基板層b3〜b5を順に積層する。同様に、基板層b1の下層に、分岐領域32c, 33c, 34c(図9参照)を構成する基板層b7〜b9を積層する。分岐流路を構成する基板層は3枚を1セットして、複数セットを積層することにより、キャビティー2に連通する分岐流路を多数形成することができる。
【0116】
最後に、最上層及び最下層に、電極411, 421及び電極412, 422が配置される溝を設けた基板層b6, b10を積層し、これらの電極を配置する。
【0117】
このように、10枚の基板層b1〜b10を積層することにより、キャビティー2の高さを高くして、キャビティー2内の自由空間を広く形成することができる。これにより、図9で説明したような電極411, 421, 412, 422による液滴の二次元方向の移動制御を効果的に行うことが可能となる。また、液滴の移動方向制御を一次元方向でのみ行う場合にも、キャビティー2内の自由空間を広くすることで、液滴がキャビティー2の上面や下面に接触したり、付着したりするのを防止して、移動方向の制御をより確実に行うことが可能となる。
【0118】
また、積層される基板層は、流路1を構成する基板層b1, b2を除いて、光学検出系(照射部102、検出部103)によるレーザー光照射部位に対応する位置に窓(開口)を設けることが望ましい。これにより、各基板層を積層して得られるマイクロチップにおいて、レーザー光照射部位のチップ厚を薄くすることができ、チップ全体を厚くした場合に比べて、レーザー光の反射や減衰、散乱等を抑制することが可能となる。また、レーザー光照射部位のチップ厚を一定にしたまま、キャビティー2の高さを任意に調整することができ、キャビティー2の高さが異なる複数のチップを分析する場合にも、装置側の光学検出系の光学特性を変化させる必要がない。
【0119】
6.液体分析装置
図16は、本発明に係る液体分析装置の構成を説明する模式図である。この液体分析装置は、微小粒子の特性を分析し、分析結果に基づいて微小粒子の分別を行う微小粒子分取装置として好適に使用されるものである。以下、この液体分析装置(微小粒子分取装置)の各構成を、上記のマイクロチップCを搭載した場合を例として説明する。
【0120】
図16に示す微小粒子分析装置は、マイクロチップCの合流部15上流において、流路1内部を通流する微小粒子を検出するための光学検出系(照射部102、検出部103)と、合流部15の下流において微小粒子の光学特性を判定するための光学検出系(照射部104、検出部105)と、マイクロチップCの流体インレット911, 921に気体等を供給する加圧ポンプ106と、を備える。図中、符号101は、これらの光学検出系及び加圧ポンプと、微小管7及び電極41, 42に印加される電圧を制御するための全体制御部を示す。
【0121】
さらに、微小粒子分取装置は、図示しない液体供給手段を備え、マイクロチップCのシース液インレット6からシース液層流を、サンプル液インレット8からサンプル液層流を供給する。マイクロチップCに供給されたシース液及びサンプル液は、微小管7及び絞込部14によって、サンプル液層流がシース液層流によって取り囲まれ、かつ、層流幅を絞り込まれた状態で、合流部15に送液される(図12参照)。
【0122】
(6-1)微小粒子の検出
微小粒子分取装置は、合流部1の上流において、サンプル液層流中に含まれる微小粒子を光学的に検出するための光学検出系を備えている。この光学検出系は、従来のマイクロチップを用いた微小粒子の分析システムと同様に構成することができる。具体的には、レーザー光源と、微小粒子に対しレーザー光を集光・照射するための集光レンズやダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等からなる照射部102と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する光を検出する検出部103と、によって構成される。検出部は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって構成される。
【0123】
マイクロチップCでは、絞込部14によって、シース液層流及びサンプル液層流の層流幅を絞り込んで、照射部102のレーザー光照射部位に送液することができる。このため、照射部102からのレーザー光の焦点位置と、流路1内における微小粒子の送流位置とを、精緻に一致させることできる。これにより、微小粒子に対し精度良くレーザー光を照射して、微小粒子を高感度に検出することが可能とされている。
【0124】
検出部103によって検出された微小粒子から発生する光は、電気信号に変換され、全体制御部101に出力される。検出部103によって検出する光は、微小粒子の前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよい。
【0125】
全体制御部101は、この電気信号に基づいて、流路1を送流されるサンプル液層流中の微小粒子を検出する。そして、所定のタイミングで加圧ポンプ106を制御して、流体インレット911, 912及び流体導入部91, 92から合流部15に気体等を導入し、シース液層流及びサンプル液層流を分断・液滴化する(図12参照)。
【0126】
合流部15への流体導入のタイミングは、例えば、検出部103からの電気信号に基づいて微小粒子が1つ検出される度に、一定時間をおいて気体等を導入するようにする。微小粒子検出から流体導入までの時間は、照射部102のレーザー光照射部位と合流部15との間の距離、及び、流路1内のサンプル液の送液速度によって規定される。この時間を適宜調整した上で、微小粒子が1つ検出される度に合流部15に気体等を導入することで、シース液層流及びサンプル液層流を微小粒子1つ毎に分断し、液滴化することができる。
【0127】
この場合、各液滴には1つずつ微小粒子が含まれることとなるが、各液滴に含まれる微小粒子の数は、合流部15への流体導入のタイミングを適宜調整することにより、任意に設定できる。すなわち、所定数の微小粒子が検出される度に気体等を導入すれば、微小粒子をその数毎に液滴化することができる。
【0128】
ここでは、サンプル液層流中に含まれる微小粒子を検出するための検出を光学検出系により行う場合について説明した。微小粒子の検出は、光学的手段に限定されず、電気的又は磁気的手段によっても行うことができる。微小粒子を電気的又は磁気的に検出する場合には、合流部15の上流に微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。そして、測定結果を電気信号として出力することにより、この信号に基づいて全体制御部101での微小粒子の検出を行う。
【0129】
マイクロチップCでは、微小粒子を電気的又は磁気的に検出する場合においても、配設された微小電極の測定位置と微小粒子の送流位置とを精緻に一致させ、微小粒子を高感度に検出することが可能である。
【0130】
なお、ここで、微小粒子が磁性を有するものである場合には、特に、マイクロチップCの電極41, 42を磁極として構成することにより、磁気的力に基づいてキャビティー2内の微小粒子の送流方向を制御することも考えられる。
【0131】
(6-2)微小粒子の光学特性の判定
微小粒子分取装置は、合流部1の下流においても、照射部104と検出部105とからなる光学検出系を備える。この光学検出系は、微小粒子の特性を判定するためのものであるが、照射部104及び検出部105の構成そのものは、先に説明した照射部102及び検出部104と同様とできる。
【0132】
照射部104は、合流部15において形成された液滴中に含まれる微小粒子に対してレーザー光を照射する。これによって、微小粒子から発生する光は、検出部105によって検出される。検出部103によって検出する光は、微小粒子の前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などであってよく、これらは電気信号に変換されて全体制御部101に出力される。
【0133】
全体制御部101は、入力された電気信号に基づき、微小粒子を前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光をパラメーターとして微小粒子の光学特性を判定する。この光学特性判定のためのパラメーターは、対象とする微小粒子及び分取目的に応じて、微小粒子の大きさを判定する場合には前方散乱光を、構造を判定する場合には側方散乱光を、微小粒子に標識された蛍光物質の有無を判定する場合には蛍光を採用する。
【0134】
全体制御部101は、これらのパラメーターにより検出された光を解析し、微小粒子が所定の光学特性を有するか否かについて判定を行う。
【0135】
ここでは、液滴中に含まれる微小粒子の特性を光学的に判定する場合について説明したが、微小粒子の特性判定は、電気的又は磁気的に行うこともできる。微小粒子の電気的物性及び磁気特性の測定を行う場合には、合流部15の下流に微小電極を配し、例えば抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値等、あるいは、例えば微小粒子に関する磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。これらの特性は二以上を同時に測定することもでき、例えば、微小粒子として磁気ビーズ等を蛍光色素で標識したものを測定する場合には、光学特性と磁気特性の測定が同時に行われる。
【0136】
(6-3)微小粒子の分取
全体制御部101は、微小粒子の特性の判定結果に基づいて、微小管7及び電極41, 42に印加する電圧を制御して、所定の特性を備えた微小粒子を含む液滴を分岐領域31, 32, 33のいずれかに誘導することにより、微小粒子の分別・分取を行う。
【0137】
例えば、液滴中に含まれる微小粒子が所定の特性を有すると判定された場合において、その微小粒子を含む液滴に対して微小管7により正電荷が付与されている場合には、電極41を負に、電極42を正に帯電させる。これにより、キャビティー2内での液滴の移動方向を分岐領域31へと誘導し、所定の特性を有する微小粒子を分岐領域31に分取する。分取された液滴及び微小粒子は、アウトレット311から回収することができる。
【0138】
また、逆に、液滴中に含まれる微小粒子が所定の特性を有しないと判定された場合には、電極41を正に、電極42を負に帯電させることによって、液滴を分岐領域33へ誘導し、微小粒子をアウトレット331から排出する。また、電極41, 42を帯電させることなく、液滴を分岐領域32及びアウトレット321に誘導してもよい。
【0139】
このように本発明に係る微小粒子分別装置では、微小粒子の特性の判定結果に応じて、その微小粒子を含む液滴に付与する電荷及び電極に印加する電圧を、適宜正又は負に切換えて制御することにより、微小粒子を任意に選択される一の分岐領域に誘導、分取することができる。
【0140】
ここでは、流路1を通流するサンプル液層流中の微小粒子を検出して液滴化するための光学検出系(照射部102、検出部103)と、液滴中に含まれる微小粒子の光学特性を判定するための光学検出系(照射部104、検出部105)と、を合流部15の上流と下流に別々に設けたが、これらは一体に構成することも可能である。
【0141】
例えば、本発明に係る微小粒子分別装置に、圧電素子によって液滴化を行うマクロチップA又はBを搭載した場合には、一の光学検出系(例えば、照射部102、検出部103)によって微小粒子の検出と光学特性の判定を行うことができる。この場合、全体制御部101は、微小粒子を検出すると同時に、その光学特性を判定し、その判定結果に基づいて微小管7及び電極41, 42に印加する電圧を切換える(図1参照)。例えば、微小粒子が所定の特性を有すると判定された場合には、その微小粒子が圧電素子5により連通口13で液滴化され、吐出される瞬間に微小管7に正電圧を印加する。同時に、電極41に正電圧に、電極42に負電圧を印加して、微小粒子を含む液滴を分岐領域33へ誘導し、分取する。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。
【図2】流路1内に形成されるシース液Tとサンプル液Sの層流を示す模式図である。(A)は、図1拡大図中、P-P断面に対応する断面図であり、(B)は、Q-Q断面に対応する断面図である。
【図3】絞込部14の上流(A)及び下流(B)におけるシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。
【図4】流路1のキャビティー2への連通口13付近のシース液層流Tとサンプル液層流Sを示す模式図である。
【図5】圧電素子5近傍の流路1に臨んで配設されたグランド電極43, 44を示す模式図である。
【図6】キャビティー2内に送流された液滴Dを示す模式図である。
【図7】キャビティー2内において移動方向を制御され、分岐領域に誘導される液滴Dを示す模式図である。
【図8】キャビティー2内における液滴の移動方向の制御を二次元方向に行うための電極の配設位置を示す模式図である。
【図9】キャビティー2内において二次元方向に移動方向制御される液滴の移動方向を示す模式図である。
【図10】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。
【図11】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップの構成を示す簡略上面図である。
【図12】合流部15を拡大して示す模式図である。(A)は、上面図であり、(B)は、図11中P-P断面に対応する断面図である。
【図13】キャビティー及び連通口について、他の好適な実施形態を説明する模式図である。
【図14】キャビティー及び電極について、他の好適な実施形態を説明する模式図である。
【図15】マイクロチップCの変形例の断面を示す断面模式図(A)と、これを形成する基板層を模式的に示す簡略斜視図(B)である。
【図16】本発明に係る液体分析装置の構成を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0143】
A, B, C マイクロチップ
a1, a2, b1, b2, b3, b4, b5, b6, b7, b8, b9, b10 基板層
D(D1, D2, D3) 液滴
S サンプル液層流
T シース液層流
1 流路
11, 12 曲折部
13 連通口
131 チューブ型ノズル
14 絞込部
2 空洞領域(キャビティー)
31, 32, 33, 34, 35, 36 分岐領域
311, 321, 331 アウトレット
312, 332 細管
41, 42, 411, 412, 413, 421, 422, 423, 431, 432, 433 電極
43, 44 グランド電極
5 圧電素子
6 シース液インレット
7 微小管
71, 72 開口部
8 サンプル液インレット
91, 92 流体導入部
911, 921 流体インレット
101 全体制御部
102, 103 照射部
104, 105 検出部
106 加圧ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電された液滴が導入される空洞領域と、この空洞領域に臨んで配設された電極と、を備え、
液滴に付与された電荷と電極との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップ。
【請求項2】
前記空洞領域に連通する複数の分岐領域を備え、
空洞領域における前記液滴の移動方向を制御することにより、任意に選択される一の分岐領域へ液滴を誘導する請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
液体を前記空洞領域に送液する流路と、この流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化するための圧電素子と、を備える請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項4】
液体を前記空洞領域に送液する流路と、少なくとも一側方からこの流路に合流し、流路内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入する流体導入部と、を備え、
流体導入部から導入される流体によって、流路内を通流する液体を分断し、液滴化して空洞領域に送流する請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記流路を通流する液体Tの層流中に他の液体Sを導入する微小管を備え、
微小管から導入される液体Sの層流の周囲を、液体Tの層流で取り囲んだ状態で、該流路の前記連通口又は前記流体導入部の合流部へ送液する請求項3又は4記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記流路は、送液方向に対する垂直断面の面積が次第に小さくなるように形成された絞込部を有し、
絞込部において、前記液体S及び液体Tの両層流の層流幅を絞り込んで送液する請求項5記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記微小管は、電圧を印加可能な金属により形成され、前記流路を通流する前記液体S及び液体Tに対し電荷を付与し得る請求項6記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記流路内において液体が液滴化及び電荷付与される領域に臨んで、接地された電極が配設された請求項7記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記液体Sに含まれる微小粒子を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取する請求項8記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記分岐領域に細胞培養用ゲルを充填した請求項9記載のマイクロチップ。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロチップが搭載され得る液体分析装置。
【請求項12】
請求項9又は10記載のマイクロチップが搭載され得る微小粒子分取装置。
【請求項13】
マイクロチップに設けられた空洞領域内へ荷電された液滴を導入し、空洞領域に臨んで配設された電極と液滴に付与された電荷との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップにおける送流方法。
【請求項14】
前記空洞領域における前記液滴の移動方向を制御することにより、
空洞領域に連通して複数設けられた分岐領域から選択される任意の一の分岐領域へ液滴を誘導する請求項13記載の送流方法。
【請求項15】
圧電素子を用い、液体を前記空洞領域に送液する流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する請求項14記載の送流方法。
【請求項16】
液体を前記空洞領域に送液する流路内へ、気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入して通流する液体を分断、液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する請求項14記載の送流方法。
【請求項17】
微小粒子を含む液体を所定数の微小粒子ごとに分断し、液滴化する請求項15又は16記載の送流方法。
【請求項18】
微小粒子を含む液滴を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取する請求項17記載の送流方法。
【請求項1】
荷電された液滴が導入される空洞領域と、この空洞領域に臨んで配設された電極と、を備え、
液滴に付与された電荷と電極との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップ。
【請求項2】
前記空洞領域に連通する複数の分岐領域を備え、
空洞領域における前記液滴の移動方向を制御することにより、任意に選択される一の分岐領域へ液滴を誘導する請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
液体を前記空洞領域に送液する流路と、この流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化するための圧電素子と、を備える請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項4】
液体を前記空洞領域に送液する流路と、少なくとも一側方からこの流路に合流し、流路内へ気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入する流体導入部と、を備え、
流体導入部から導入される流体によって、流路内を通流する液体を分断し、液滴化して空洞領域に送流する請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記流路を通流する液体Tの層流中に他の液体Sを導入する微小管を備え、
微小管から導入される液体Sの層流の周囲を、液体Tの層流で取り囲んだ状態で、該流路の前記連通口又は前記流体導入部の合流部へ送液する請求項3又は4記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記流路は、送液方向に対する垂直断面の面積が次第に小さくなるように形成された絞込部を有し、
絞込部において、前記液体S及び液体Tの両層流の層流幅を絞り込んで送液する請求項5記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記微小管は、電圧を印加可能な金属により形成され、前記流路を通流する前記液体S及び液体Tに対し電荷を付与し得る請求項6記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記流路内において液体が液滴化及び電荷付与される領域に臨んで、接地された電極が配設された請求項7記載のマイクロチップ。
【請求項9】
前記液体Sに含まれる微小粒子を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取する請求項8記載のマイクロチップ。
【請求項10】
前記分岐領域に細胞培養用ゲルを充填した請求項9記載のマイクロチップ。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロチップが搭載され得る液体分析装置。
【請求項12】
請求項9又は10記載のマイクロチップが搭載され得る微小粒子分取装置。
【請求項13】
マイクロチップに設けられた空洞領域内へ荷電された液滴を導入し、空洞領域に臨んで配設された電極と液滴に付与された電荷との間に作用する電気的力に基づいて、空洞領域内における液滴の移動方向を制御するマイクロチップにおける送流方法。
【請求項14】
前記空洞領域における前記液滴の移動方向を制御することにより、
空洞領域に連通して複数設けられた分岐領域から選択される任意の一の分岐領域へ液滴を誘導する請求項13記載の送流方法。
【請求項15】
圧電素子を用い、液体を前記空洞領域に送液する流路の空洞領域への連通口において液体を液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する請求項14記載の送流方法。
【請求項16】
液体を前記空洞領域に送液する流路内へ、気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入して通流する液体を分断、液滴化すると同時に、液体に電荷を付与することによって、荷電された液滴を形成し、空洞領域に送流する請求項14記載の送流方法。
【請求項17】
微小粒子を含む液体を所定数の微小粒子ごとに分断し、液滴化する請求項15又は16記載の送流方法。
【請求項18】
微小粒子を含む液滴を、任意に選択される一の前記分岐領域へ分取する請求項17記載の送流方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−25911(P2010−25911A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231248(P2008−231248)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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