マイクロチップ
【課題】試料を簡便かつ正確に流路やウェルなどの領域内に導入でき、高い分析精度が得られるマイクロチップの提供。
【解決手段】外部から溶液が導入される気密な領域として穿刺部14、流路153、ウェル163などが配設されたマイクロチップであって、これらの領域を形成する基板層a1を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネル4を、穿刺部14に対して位置決めする位置決め手段を備えたマイクロチップを提供する。
【解決手段】外部から溶液が導入される気密な領域として穿刺部14、流路153、ウェル163などが配設されたマイクロチップであって、これらの領域を形成する基板層a1を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネル4を、穿刺部14に対して位置決めする位置決め手段を備えたマイクロチップを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップに関する。より詳しくは、基板に配設された領域内に物質を導入し、化学的分析あるいは生物学的分析を行うためのマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用して、シリコン製基板またはガラス製基板などの基板上に、化学的分析あるいは生物学的分析を行うためのウェルまたは流路などの領域を設けたマイクロチップが開発されている(例えば、特許文献1参照)。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップなどと称され、分析の高速化、高効率化あるいは集積化、および分析装置の小型化などを可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能であり、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能であることから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された複数の領域内に物質を導入し、該物質を光学的に検出する光学検出装置がある。このような光学検出装置としては、マイクロチップ上の流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップ上のウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイムPCR装置)などがある。
【0006】
μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しく、領域内に存在する空気によって試料の導入が阻害されたり、導入に時間がかかったりする場合があった。また、試料の導入の際に、領域内に気泡が生じる場合があった。その結果、各流路または各ウェルなどに導入される試料の量にばらつきが生じて分析精度が低下したり、分析効率が低下したりするという問題があった。また、PCRのように試料の加熱を行う場合には、領域内に残存した気泡が膨脹し、反応を阻害したり、分析精度を低下させたりするという問題があった。
【0007】
μ−TASにおける試料の導入を容易にするため、例えば、特許文献2には、「試料を導入する試料導入部と、前記試料を収容する複数の収容部と、夫々の前記収容部に接続された複数の排気部と、を少なくとも備え、少なくとも二以上の前記排気部は、一端が開放された一の開放路に連通された基板」が開示されている。この基板では、各収容部に排気部を接続することにより、試料導入部から収容部に試料が導入される際に、収容部中に存在する空気が排気部から排出されるため、収容部にスムーズに試料を充填することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−219199号公報
【特許文献2】特開2009−284769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しい場合があった。そこで、本発明は、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度が得られるマイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、外部から溶液が導入される気密な領域が配設され、該領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、前記領域の穿刺部に対して位置決めする位置決め手段を備えるマイクロチップを提供する。
このマイクロチップは、前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、中央に向かって延設された2以上のアームにより該本体を保持する枠体と、からなるものとできる。この場合、前記位置決め手段は、前記アームのうち前記穿刺部上に延設されたアームに、前記チャネルを前記穿刺部へ挿通させる位置決め孔を開孔することにより構成できる。この構成によれば、サンプル液を導入する際に、枠体のアームに設けられた位置決め孔にチャネルを挿通させて本体に穿刺することで、正確に穿刺部に穿刺できる。
前記枠体の前記アームのうち少なくとも一以上は可撓性を有し、該可撓性に基づいてマイクロチップの設置面に対して前記本体を付勢して保持することが好ましい。この場合、前記アームは、板ばねとして構成できる。
また、このマイクチップは、前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、該本体を保持する第一部材と、前記チャネルを前記穿通部に対向させて保持する第二部材と、からなるものとしてもよい。この場合、前記第一部材の一端と前記第二部材の一端とをヒンジによって結合し、該ヒンジが閉じた状態において第二部材に保持されたチャネルが第一部材に保持された本体の前記穿刺部に対して位置決めされるように構成できる。この構成によれば、サンプル液を導入する際に、本体を第一部材に、チャネルを第二部材にそれぞれ保持した状態でヒンジを閉じることによって、チャネルを正確に穿刺部に穿刺できる。
また、本発明は、外部から溶液が導入される気密な領域が配設されたマイクロチップと、該マイクロチップを内部に収容する容器と、を有し、前記容器には、前記領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、該容器外部から、収容された前記マイクロチップの穿刺部へと挿通させる位置決め孔が開孔されている容器付マイクロチップをも提供する。この構成によれば、サンプル液を導入する際に、容器に設けられた位置決め孔にチャネルを挿通させてマイクロチップに穿刺することで、正確に穿刺部に穿刺できる。
これらのマイクロチップにおいて、前記基板層は弾性変形による自己封止性を備えることが好ましく、前記領域内は大気圧に対して負圧とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度が得られるマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップAの構成を説明するための模式図である。(A)は上面図を示す。(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示し、(C)は(A)中Q−Q断面に対応する断面図を示す。
【図2】マイクロチップAの本体12の構成を説明するための模式図である。(A)は上面図を示し、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【図3】マイクロチップAへのサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図4】マイクロチップAの変形例の構成とサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップBの構成を説明するための模式図である。(A)は上面図を示す。(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【図6】マイクロチップBの設置面への設置状態を説明するための断面模式図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップCの構成とサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【図8】本発明の第四実施形態に係る容器付マイクロチップDの構成を説明するための断面模式図である。
【図9】容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図10】容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図11】容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図12】容器付マイクロチップDの変形例の構成とサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【図13】容器付マイクロチップDの変形例へのサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序により行う。
1.第一実施形態に係るマイクロチップ
2.第一実施形態に係るマイクロチップの変形例
3.第二実施形態に係るマイクロチップ
4.第三実施形態に係るマイクロチップ
5.第四実施形態に係るマイクロチップ
6.第四実施形態に係るマイクロチップの変形例
【0014】
1.第一実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの模式図を図1に示す。(A)は上面図を示す。また、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図であり、(C)は(A)中Q−Q断面に対応する断面図である。
【0015】
図中、符号Aで示すマイクロチップは、物質が導入され、該物質の化学的分析あるいは生物学的分析が行われる領域が配設された本体12と、この本体12を保持する枠体11とを含んで構成されている。枠体11は、中央に向かって延設されたアーム111,112,113,114,115,116により本体12を保持している。このうち、アーム111,112,115,116は本体12の下面に接触し、下方から本体12を保持している。また、アーム113,114は本体12の上面に接触し、上方から本体12を保持している。これにより、本体12は、下方のアーム111,112,115,116と、上方のアーム113,114とによって挟持されて保持されている。本体12と枠体11は、これらのアームによって着脱可能に保持されていてもよい。また、本体12と枠体11は、これらの接する面において接着されて結合されていてもよく、あるいは一体に成形されて結合されていてもよい。
【0016】
図中、符号13は、外部から本体12に配設された領域内に溶液(以下、「サンプル液」ともいう)を注入する際に、サンプル液を注入するチャネルを本体12の適切な部位(具体的には後述する「穿刺部14」)に位置決めするために機能する位置決め孔を示す。位置決め孔13は、本体12の上方に延設されたアーム113に開孔されている。
【0017】
図2に、マイクロチップAの本体12の模式図を示す。(A)は上面図を示し、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【0018】
本体12には、外部からサンプル液が導入される気密な領域として以下の領域が形成されている。まず、穿刺部14は、外部からサンプル液が穿刺注入される領域である。図1で説明した位置決め孔13は、アーム113において、この穿刺部14の上方に位置して開孔されている。
【0019】
次に、ウェル161,162,163,164,165は、サンプル液に含まれる物質あるいは該物質の反応生成物の分析場となる領域である。さらに、流路151,152,153,154,155は、穿刺部14に注入されたサンプル液をそれぞれウェル161,162,163,164,165に送液するための領域である。
【0020】
ウェル161は5つ配設されており、互いに隣接するウェルは流路151によって連通されている。また、ウェル161の一つは、流路151によって穿刺部14に接続されている。これにより、穿刺部14に注入され、流路151を送液されるサンプル液が、5つのウェル161内に順に導入されるように構成されている。この構成は、ウェル162〜165および流路152〜155についても同様である。
【0021】
穿刺部14に注入されたサンプル液のウェル161内およびウェル162内への導入が同時に開始されるように、穿刺部14から最初にサンプル液が導入されるウェル161までの流路151の流路長と、穿刺部14から最初にサンプル液が導入されるウェル162までの流路152の流路長と、は等しく形成されることが好ましい。この点、穿刺部14から最初にサンプル液が導入されるウェル163,164あるいは165までの流路153,154あるいは155の流路長についても同様である。
【0022】
また、穿刺部14に注入されたサンプル液のウェル161内およびウェル162内への導入が同時に完了するように、各ウェル161および各ウェル162は等間隔で配設されていることが好ましく、これよって流路151の全長と流路152の全長とが等しく形成されていることが好ましい。この点、ウェル163〜165の配設間隔および流路153〜155の全長についても同様である。
【0023】
マイクロチップAは、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165を形成した基板層a1に基板層a2を貼り合わせて構成されている。マイクロチップAでは、基板層a1と基板層a2の貼り合わせを大気圧に対して負圧下で行うことにより、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の各領域の内部が、大気圧に対して負圧(例えば1/100気圧)となるように気密に封止されている。さらに、基板層a1と基板層a2の貼り合わせは真空下で行い、各領域の内部が真空となるように気密に封止することがより好ましい。
【0024】
基板層a1,a2の材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とすることができる。また、枠体11についても同様の材質を採用できる。基板層a1,a2の少なくとも一方は、弾性を有する材質とすることが好ましい。弾性を有する材料としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン系エラストマーの他、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、スチレン系エラストマー、エポキシ系エラストマー、天然ゴムなどが挙げられる。基板層a1,a2の少なくとも一方をこれらの弾性を有する材料により形成することで、マイクロチップAに、次に説明する自己封止性を付与することができる。
【0025】
ウェル161〜165内に導入された物質の分析を光学的に行う場合には、基板層a1,a2の材質は、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材料を選択することが好ましい。
【0026】
基板層a1への穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の成形は、例えば、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、あるいはプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。各領域は、基板層a2に成形されてもよく、あるいは基板層a1に一部を基板層a2に残りの部分を成形されてもよい。基板層a1と基板層a2の貼り合わせは、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等の公知の手法により行うことができる。
【0027】
次に、図3を参照して、マイクロチップAへのサンプル液の導入方法を説明する。図3は、マイクロチップAの断面模式図であり、図1中Q−Q断面に対応する。
【0028】
マイクロチップAへのサンプル液の導入は、図3(A)に示すように、チャネル4を基板層a1に穿通させ、穿刺部14にサンプル液を注入することによって行う。図中、矢印F1は、チャネル4の穿刺方向を示す。チャネル4は、基板層a1の表面から、先端部が基板層a1を貫通して穿刺部14内空に到達するように穿刺される。
【0029】
この際、チャネル4は、穿刺部14の上方に位置して枠体11のアーム113に開孔された位置決め孔13に挿通されて基板層a1に穿刺される。このように、チャネル4を予め穿刺部14の上方に位置して設けられている位置決め孔13を目標とし、これを挿通させて基板層a1に穿刺することで、穿刺部14に対してチャネル4を位置決めしてチャネル4の先端部が確実に穿刺部14内空に到達するようにできる。
【0030】
外部から穿刺部14に注入されたサンプル液は、流路151〜155を送液され(図中、矢印f参照)、ウェル161〜155内に導入される。マイクロチップAでは、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の各領域の内部が、大気圧に対して負圧とされている。このため、チャネル4の先端部が穿刺部14内空に到達した状態で一定時間保持すると、サンプル液が陰圧によって吸引されて各領域内にスムーズに短時間で導入される。さらに、各領域の内部を真空とした場合には、各領域の内部に空気が存在しないため、空気によってサンプル液の導入が阻害されたり、気泡が発生したりすることがない。
【0031】
サンプル液の導入後は、図3(B)に示すように、チャネル4を引き抜き、基板層a1の穿刺箇所を封止する。図中、矢印F2は、チャネル4の抜去方向を示す。このとき、基板層a1をPDMS等の弾性を有する材料により形成しておくことにより、チャネル4の引き抜き後に、基板層a1の弾性変形による復元力で穿刺箇所が自然に封止されるようにできる。本発明においては、この基板層の弾性変形による穿刺箇所の自然封止を、基板層の「自己封止性」と定義するものとする。
【0032】
基板層a1の自己封止性を確保するため、穿刺箇所における基板層表面から穿刺部14内空までの基板層の厚さ(図中、符号d参照)は、基板層a1の材質やチャネル4の径に応じて適切な範囲に設定される必要がある。また、分析時にマイクロチップAを加熱する場合には、加温に伴う内圧の上昇によって自己封止性が失われないように、厚さdを設定する。
【0033】
基板層a1の弾性変形による自己封止を確実とするため、チャネル4には、可能な限り径の細いものを使用することが望ましい。具体的には、インスリン用注射針として用いられる、先端外径が0.2mm程度の無痛針が好適に使用される。サンプル液の注入を容易にするため、無痛針の基部には、汎用のマイクロピペット用チップの先端部を切断したものを接続してもよい。これにより、チップ先端部にサンプル液を充填した状態で無痛針を穿刺部14に穿刺すると、マイクロチップA内の陰圧によって、無痛針に接続されたチップ先端部内のサンプル液が穿刺部14内に吸引されて注入されるようにできる。
【0034】
チャネル4として、先端外径0.2mmの無痛針を用いる場合、PDMSにより形成された基板層a1の厚みdは0.5mm以上、加熱が行われる場合には0.7mm以上が好適となる。
【0035】
以上のように、本実施形態に係るマイクロチップでは、サンプル液を導入する際に、チャネル4を枠体11のアーム113に設けられた位置決め孔13に挿通させて本体12に穿刺することで、チャネル4を本体12の穿刺部14に正確に穿刺できる。従って、本実施形態に係るマイクロチップでは、微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル4を本体12の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。さらに、チャネル4を人体等に誤って刺してしまうことを防止して、操作の安全性を高めることもできる。
【0036】
本実施形態では、マイクロチップに、1本の流路で連通された5つのウェルを計5組、合計25個のウェルを配設する例を説明した。しかし、本発明に係るマイクロチップにおいて、配設されるウェルの数や位置は任意とでき、ウェルの形状も図に示した円柱形状に限定されない。また、穿刺部14に注入されたサンプル液を各ウェルに送液するための流路の構成も図に示した態様に限定されないものとする。さらに、ここでは、基板層a1を弾性材料により形成し、チャネル4を基板層a1の表面から穿刺する場合を説明した。しかし、チャネル4は基板層a2の表面から穿刺してもよく、この場合には、基板層a2を弾性材料により形成し、自己封止性を付与すればよい。
【0037】
2.第一実施形態に係るマイクロチップの変形例
マイクロチップAの変形例の構成とサンプル液の導入方法を図4に示す。
【0038】
この変形例に係るマイクロチップは、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165を形成した基板層a1に基板層a2、a3を貼り合わせて構成され、3層構造とされている点でマイクロチップAと異なっている。
【0039】
基板層a1と基板層a2の貼り合わせは、マイクロチップAと同様に、大気圧に対して負圧下で行われ、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の各領域の内部は大気圧に対して負圧となるように気密に封止されている。さらに、基板層a1と基板層a2の貼り合わせは真空下で行い、各領域の内部が真空となるように気密に封止することがより好ましい。
【0040】
基板層a1の材質は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン系エラストマーの他、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、スチレン系エラストマー、エポキシ系エラストマー、天然ゴムなどの弾性を有し、自己封止性を備える材質とされる。
【0041】
これらの材質は、柔軟性を有し、弾性変形が可能である一方で、ガス透過性を有している。そのため、PDMS製の基板層では、ウェル内に導入したサンプル液を加熱すると、気化したサンプル液が基板層を透過してしまう場合がある。このようなサンプル液の気化による消失(液抜け)は、分析精度を低下させ、ウェル内への新たな気泡混入の原因ともなる。
【0042】
これを防止するため、この変形例に係るマイクロチップは、自己封止性を備える基板層a1に、ガス不透過性を備える基板層a2、a3を貼り合わせて3層構造としている。
【0043】
基板層a2、a3の材質は、ガラス、ラスチック類、金属類およびセラミック類などが採用できる。プラスチック類としては、PMMA(ポリメチルメタアクリレート:アクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、SAN樹脂(スチレン−アクリロニトリル共重合体)、MS樹脂(MMA−スチレン共重合体)、TPX(ポリ(4−メチルペンテン−1))、ポリオレフィン、SiMA(シロキサニルメタクリレートモノマー)−MMA共重合体、SiMA−フッ素含有モノマー共重合体、シリコーンマクロマー(A)−HFBuMA(ヘプタフルオロブチルメタクリレート)−MMA3元共重合体、ジ置換ポリアセチレン系ポリマー等が挙げられる。金属類としては、アルミニウム、銅、ステンレス(SUS)、ケイ素、チタン、タングステン等が挙げられる。セラミック類としては、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミ(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニア(ZrO2)、石英等があげられる。
【0044】
サンプル液の導入は、図4(A)に示すように、チャネル4を基板層a1に穿通させ、穿刺部14にサンプル液を注入することによって行う。図中、矢印F1は、チャネル4の穿刺方向を示す。チャネル4は、基板層a1の表面から、先端部が基板層a1を貫通して穿刺部14内空に到達するように穿刺される。
【0045】
チャネル4は、穿刺部14の上方に位置して枠体11のアーム113に開孔された位置決め孔13に挿通されて基板層a1に穿刺されることで、穿刺部14に対して位置決めされる。この際、位置決め孔13に挿通されたチャネル4が基板層a1表面に到達できるように、基板層a3にも位置決め孔13に対応する位置に貫通孔が設けられている。
【0046】
3.第二実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第二実施形態に係るマイクロチップの模式図を図5に示す。(A)は上面図を示し、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【0047】
図中、符号Bで示すマイクロチップは、物質が導入され、該物質の化学的分析あるいは生物学的分析が行われる領域が配設された本体12と、この本体12を保持する枠体11とを含んで構成されている。マイクロチップBの本体12は、上述したマイクロチップAあるいはその変形例の本体12と同一であるので、以下では説明を省略する。
【0048】
枠体11は、中央に向かって延設されたアーム111,112,113,114,115,116により本体12を保持している。これらのアームはいずれも本体12の上面に接触し、本体12を上方から保持している。本体12と枠体11は、これらの接する面において接着されて結合されていてもよく、あるいは一体に成形されて結合されていてもよい。
【0049】
マイクロチップBの各アームは、可撓性を有し、この可撓性に基づいてマイクロチップBが設置される設置面に対して本体12を付勢して保持する機能を有する。設置面に設置された状態のマイクロチップBを図6に示す。図中、ブロック矢印は、各アームによる本体12の付勢方向を示す。
【0050】
図中、符号Hは、マイクロチップBが設置される設置面を示す。設置面Hは、例えばマイクロチップBに配設された領域内に導入された物質の分析を光学的に行う場合、面光源、面レンズあるいは面フィルターなどの光学部材の表面であってよい。また、例えば分析時にマイクロチップBを加熱する場合には、設置面Hは、面ヒーターなどの温度制御部材の表面であってもよい。
【0051】
図5(B)に示したように、各アームは枠体11から斜め方向に突設されて本体12を保持している。これにより、枠体11に保持された状態において、本体12の設置面への接触面は、枠体11の設置面への接触面よりも、設置面側に突出した状態となっている。従って、図6に示すように、マイクロチップBを設置面H上に載置して、本体12および枠体11を設置面Hに接触させた状態では、各アームがその可撓性に基づいて本体12を設置面Hに対して押圧することで、本体12と設置面Hが密着されることとなる。なお、この際、マイクロチップBを設置面H上の所定位置に正確に載置するため、設置面H側に位置決めピンを設け、枠体11側に該ピンの嵌合孔(図4中符合117参照)を設けてもよい。
【0052】
このように設置面Hに対して本体12を付勢して密着させて保持することにより、設置面Hが温度制御部材表面である場合には、熱伝達効率を高めて、高精度な温度制御が可能となる。また、設置面Hが光学部材表面である場合には、本体12に配設された領域内への光の照射あるいは領域内から発生する光の検出を効率良く行うことができる。
【0053】
アーム111,112,113,114,115,116は少なくとも一以上が可撓性を有していればよい。可撓性を有するアームには、例えば弾性を有する各種プラスチックにより形成された板ばねを採用できる。また、設置面Hに対して本体12を付勢して密着させて保持するための手段として、可撓性を有するアームに替えて、本体12とこれを保持する枠体11との間に弾性変形する部材(ばねや緩衝ゴム)を設置してもよい。また、この弾性変形する部材は、本体12あるいは枠体11と別体の部材であっても、本体12あるいは枠体11と一体に成形された部材であってもよい。
【0054】
図中、符号13は、外部から本体12に配設された領域内にサンプル液を注入する際に、サンプル液を注入するチャネルを本体12の穿刺部14に位置決めするために機能する位置決め孔である。位置決め孔13は、マイクロチップAと同様に、本体12の上方に延設されたアーム113に開孔されている。マイクロチップBへのサンプル液の導入は、マイクロチップAと同様の方法で行うことができる。
【0055】
4.第三実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第三実施形態に係るマイクロチップの構成とサンプル液の導入方法を図7に示す。
【0056】
図中、符号Cで示すマイクロチップは、物質が導入され、該物質の化学的分析あるいは生物学的分析が行われる領域が配設された本体12を含んでなる。マイクロチップCの本体12は、上述したマイクロチップAあるいはその変形例の本体12と同一であるので、以下では説明を省略する。マイクロチップCは、本体12に加えて、図中符号31で示される第一部材と、符号32で示される第二部材と、を含んでいる。
【0057】
第一部材31には、その上面に本体12が載置され保持される。この際、マイクロチップCを第一部材31の上面の所定位置に正確に載置するため、第一部材31側に位置決めピンを設け、本体12側に該ピンの嵌合孔を設けてもよい。あるいは、本体12の外形状に利用して第一部材31の上面の所定位置に本体12を突き当てる方式も採用できる。
【0058】
また、第二部材32は、本体12に配設された領域内に外部からサンプル液を注入するチャネル4を、第一部材31に保持された本体12に対向させて保持する。第一部材31の一端と第二部材32の一端はヒンジ33によって結合され、第一部材31と第二部材32はヒンジ33を支点とした開閉動作が可能とされている((A)中点線矢印参照)。第一部材31における本体12の保持位置および第二部材32におけるチャネル4の保持位置は、ヒンジ33が閉じられた状態((B)参照)において、チャネル4が本体12の穿刺部14(図3参照)に位置決めされるように構成されている。
【0059】
第一部材31および第二部材32の材質は、ガラス、各種金属あるいは各種プラスチックとすることができる。本体12と第一部材31あるいは第二部材32は、別体の部材であっても、一体に成形された部材であってもよい。
【0060】
第一部材31および第二部材32を開閉可能に結合する手段としては、ヒンジ33に替えて、ロータリーダンパーを用いてもよい。ロータリーダンパーを用いることで、第一部材31および第二部材32の開閉動作が安定する。また、ヒンジ33によって一端を結合された第一部材31および第二部材32との間に、開閉方向に弾性を発揮するスプリングばねを接続したり、開閉動作を所定範囲内に制限するストッパー機構を設けたりしてもよい。これらによっても、第一部材31および第二部材32の開閉動作を安定させ、操作性を向上させられる。なお、図中符号321は、第一部材31に対して第二部材32を開閉動作させる際に把持されるハンドルを示す。
【0061】
本実施形態に係るマイクロチップでは、サンプル液を導入する際に、本体12を第一部材31に、チャネル4を第二部材32にそれぞれ保持した状態でヒンジ33を閉じることによって、チャネル4を本体12の穿刺部14に正確に穿刺できる。従って、本実施形態に係るマイクロチップでは、微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル4を本体12の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。さらに、チャネル4を人体等に誤って刺してしまうことを防止して、操作の安全性を高めることもできる。
【0062】
5.第四実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第四実施形態に係るマイクロチップの構成を図8に示す。
【0063】
図中、符号Dで示す容器付マイクロチップの本体12は、上述したマイクロチップAの変形例の本体12と同一であるので、以下では説明を省略する。容器付マイクロチップDは、マイクロチップである本体12に加えて、本体12を内部に収容する容器を含んでいる。
【0064】
容器は、容器筐体を構成するカセット51およびインサート52,53と、本体12を容器内において中空保持するリブ54と、を含んでなる。インサート52,53はカセット51に出し入れ可能に挿入されている。また、リブ54は本体12を着脱可能に保持しており、リブ54自体もインサート52,53によって着脱可能に保持されている。リブ54は、本体12を容器内に中空保持することにより、容器外部からの衝撃が本体12に加わるのを防止し、マイクロチップの保管時あるいは輸送時における本体12の破損を防止する。
【0065】
カセット51には、収容された本体12の穿刺部14(図4参照)にチャネル4を挿通させる位置決め孔13が開孔されている。図中、符号55は、使用時に取り外される、位置決め孔13の蓋を示す。
【0066】
カセット51およびインサート52,53の材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とすることができる。カセット51は、容器外部からの本体12の視認性を確保するため、透明な材質を用いて形成することが好ましい。また、リブ54の材質もガラスや各種プラスチックとできるが、外部からの衝撃を緩和するため、弾性を有する材料を用いて形成することが好ましい。
【0067】
容器は、図示しない梱包材によって減圧密封されている。上述のように、本発明に係るマイクロチップは、基板層の貼り合わせを大気圧に対して負圧下で行うことにより、マイクロチップに形成された各領域の内部が大気圧に対して負圧(あるいは真空)となるように気密に封止されている。しかしながら、マイクロチップの保管あるいは輸送の期間が長くなると、基板層を透過する僅かな空気によって、領域内の負圧や真空状態が消失してしまうおそれがある。マイクロチップを梱包材によって減圧密封することにより、このような保管期間あるいは輸送期間中における領域内の負圧や真空状態の消失を防止できる。梱包材には、ヒートシールが可能な合成樹脂フィルムや、ガスバリア性に優れたアルミフィルムなどの従来公知の材料を用いればよい。
【0068】
次に、図9〜図11を参照しながら、容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明する。
【0069】
容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入は、チャネル4をカセット51に開孔された位置決め孔13に挿通し、本体12の基板層に穿通させることにより行い得る。位置決め孔13は、収容された本体12の穿刺部14に対応する位置に設けられているため、位置決め孔13から基板層に穿通されたチャネル4は、その先端部が穿刺部14内空に到達するように本体12の基板層に穿刺される。
【0070】
本実施形態では、サンプル液が収容されるサンプルチューブ41と、サンプルチューブ41内のサンプル液がチャネル4に供給されるように両者を接続する円筒状のアダプタ42と、を用いてサンプル液の導入を行う例を説明する。アダプタ42の内周面にはねじ面が形成されており、チャネル4はこのねじ面にねじ込まれてアダプタ42内に保持されている。
【0071】
まず、図9に示すように、サンプル液を充填したサンプルチューブ41を、チャネル4が保持されたアダプタ42に接続する。サンプルチューブ41の接続は、アダプタ42の内周面に形成されたねじ面に接続口をねじ込むことにより行うことができる。この状態では、チャネル4の先端部はアダプタ42の内部に収容され、外部に露出していない。
【0072】
図示しない梱包材によって減圧密封された容器付マイクロチップDを、梱包材を開封して取り出し、蓋55を取り外した後、サンプルチューブ41が接続されたアダプタ42を、カセット51に開孔された位置決め孔13に挿入する(図10参照)。アダプタ42が位置決め孔13に嵌合した状態で、サンプルチューブ41の接続口をアダプタ42内にさらにねじ込むと、チャネル4も同時にねじ込まれる。サンプルチューブ41の接続口をさらにねじ込むと、チャネル4が押し出されてアダプタ42の内部からチャネル4の先端部が露出する。露出されたチャネル4の先端部は、位置決め孔13に対応する位置に配されている本体12の穿刺部14に穿刺され、その内空に到達する。チャネル4の先端部が穿刺部14内空に到達した状態で一定時間保持すると、サンプルチューブ41内のサンプル液が陰圧によって吸引されて各領域内に導入される。
【0073】
アダプタ42が位置決め孔13に嵌合すると、アダプタ42の外周面に設けられたフリンジ421がカセット51の内側面に係止する。これにより、アダプタ42は一度位置決め孔13に嵌合させた後は、容易に取り外しができないようにされている。
【0074】
サンプル液の導入が完了した後、サンプルチューブ41の接続口をアダプタ42内からねじ上げて引き出すと、チャネル4も同時にねじ上げられる。サンプルチューブ41の接続口を所定量ねじ上げると、チャネル4の先端部はアダプタ42の内部に再度収容され、外部に露出しない状態となる(図11参照)。
【0075】
続いて、本体12を収容する容器を分解して、本体12を取り出す。容器の分解は、カセット51からインサート52,53を引き抜いて行う。この際、インサート52またはインサート53のどちらか一方とともに、リブ54に保持された本体12が引き出されるようにすることが好ましい。なお、インサート52およびインサート53の一方は、カセット51と一体に成形されていてよく、この場合にはもう一方のインサートをリブ54および本体12と共に取り外せるようにする。リブ54は、分析に供する前に本体12から取り外せばよい。
【0076】
以上のように、本実施形態に係る容器付マイクロチップでは、サンプル液を導入する際に、チャネル4をカセット51に設けられた位置決め孔13に挿通させて本体12に穿刺することで、チャネル4を本体12の穿刺部14に正確に穿刺できる。従って、本実施形態に係る容器付マイクロチップでは、マイクロチップの微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル4を本体12の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。さらに、サンプル液の導入後、チャネル4の先端部はアダプタ42の内部に収容されて外部に露出せず、アダプタ42自体も一度位置決め孔13に嵌合させた後は容易に取り外しができないため、廃棄時にチャネル4を人体等に誤って刺したり、サンプル液が拡散して環境を汚染したりするおそれがない。
【0077】
6.第四実施形態に係るマイクロチップの変形例
容器付マイクロチップDの変形例の構成とサンプル液の導入方法を図12および図13に示す。
【0078】
この変形例に係る容器付マイクロチップは、容器を構成するインサート52,53の形状において容器付マイクロチップDと異なっている。すなわち、本変形例に係る容器付マイクロチップEでは、カセット51からインサート53を引き抜くと、カセット51の位置決め孔13が開孔された部分の内側面と、リブ54により容器内に中空保持された本体12の表面との間に、引き抜かれたインサート53に由来する空隙が形成されるように構成されている。
【0079】
本変形例におけるサンプル液の導入手順は、まず、サンプルチューブ41が接続されたアダプタ42を、カセット51に開孔された位置決め孔13に挿入する。そして、インサート53を引き抜き、カセット51と本体12との間に空隙を形成させる。次に、アダプタ42が位置決め孔13に嵌合した状態で、サンプルチューブ41の接続口をアダプタ42内にさらにねじ込むと、チャネル4が押し出され、チャネル4の先端部がアダプタ42の内部から上記空隙に露出する。
【0080】
この状態で、図13に示すように、インサート53が挿入されていた側のカセット51表面を指などで押圧すると、カセット51が下方に撓んで、チャネル4の先端部が、位置決め孔13に対応する位置に配されている本体12の穿刺部14に穿刺される。カセット51表面の押圧を続け、チャネル4の先端部が穿刺部14内空に到達した状態で一定時間保持すると、サンプルチューブ41内のサンプル液が陰圧によって吸引されて各領域内に導入される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るマイクロチップによれば、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度を得ることができる。そのため、本発明に係るマイクロチップ等は、マイクロチップ上の流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップ上のウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイムPCR装置)などに好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0082】
A,B,C:マイクロチップ、D,E:容器付マイクロチップ、11:枠体、111,112,113,114,115,116:アーム、12:本体、121:基板層a1、122:基板層a2、13:位置決め孔、14:穿刺部、151,152,153,154,155:流路、161,162,163,164,165:ウェル、31:第一部材、32:第二部材、33:ヒンジ、4:チャネル、41:サンプルチューブ、42:アダプタ、51:カセット、52,53:インサート、54:リブ、55:蓋
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップに関する。より詳しくは、基板に配設された領域内に物質を導入し、化学的分析あるいは生物学的分析を行うためのマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用して、シリコン製基板またはガラス製基板などの基板上に、化学的分析あるいは生物学的分析を行うためのウェルまたは流路などの領域を設けたマイクロチップが開発されている(例えば、特許文献1参照)。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップなどと称され、分析の高速化、高効率化あるいは集積化、および分析装置の小型化などを可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能であり、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能であることから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
μ−TASの応用例として、マイクロチップ上に配設された複数の領域内に物質を導入し、該物質を光学的に検出する光学検出装置がある。このような光学検出装置としては、マイクロチップ上の流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップ上のウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイムPCR装置)などがある。
【0006】
μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しく、領域内に存在する空気によって試料の導入が阻害されたり、導入に時間がかかったりする場合があった。また、試料の導入の際に、領域内に気泡が生じる場合があった。その結果、各流路または各ウェルなどに導入される試料の量にばらつきが生じて分析精度が低下したり、分析効率が低下したりするという問題があった。また、PCRのように試料の加熱を行う場合には、領域内に残存した気泡が膨脹し、反応を阻害したり、分析精度を低下させたりするという問題があった。
【0007】
μ−TASにおける試料の導入を容易にするため、例えば、特許文献2には、「試料を導入する試料導入部と、前記試料を収容する複数の収容部と、夫々の前記収容部に接続された複数の排気部と、を少なくとも備え、少なくとも二以上の前記排気部は、一端が開放された一の開放路に連通された基板」が開示されている。この基板では、各収容部に排気部を接続することにより、試料導入部から収容部に試料が導入される際に、収容部中に存在する空気が排気部から排出されるため、収容部にスムーズに試料を充填することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−219199号公報
【特許文献2】特開2009−284769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しい場合があった。そこで、本発明は、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度が得られるマイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、外部から溶液が導入される気密な領域が配設され、該領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、前記領域の穿刺部に対して位置決めする位置決め手段を備えるマイクロチップを提供する。
このマイクロチップは、前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、中央に向かって延設された2以上のアームにより該本体を保持する枠体と、からなるものとできる。この場合、前記位置決め手段は、前記アームのうち前記穿刺部上に延設されたアームに、前記チャネルを前記穿刺部へ挿通させる位置決め孔を開孔することにより構成できる。この構成によれば、サンプル液を導入する際に、枠体のアームに設けられた位置決め孔にチャネルを挿通させて本体に穿刺することで、正確に穿刺部に穿刺できる。
前記枠体の前記アームのうち少なくとも一以上は可撓性を有し、該可撓性に基づいてマイクロチップの設置面に対して前記本体を付勢して保持することが好ましい。この場合、前記アームは、板ばねとして構成できる。
また、このマイクチップは、前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、該本体を保持する第一部材と、前記チャネルを前記穿通部に対向させて保持する第二部材と、からなるものとしてもよい。この場合、前記第一部材の一端と前記第二部材の一端とをヒンジによって結合し、該ヒンジが閉じた状態において第二部材に保持されたチャネルが第一部材に保持された本体の前記穿刺部に対して位置決めされるように構成できる。この構成によれば、サンプル液を導入する際に、本体を第一部材に、チャネルを第二部材にそれぞれ保持した状態でヒンジを閉じることによって、チャネルを正確に穿刺部に穿刺できる。
また、本発明は、外部から溶液が導入される気密な領域が配設されたマイクロチップと、該マイクロチップを内部に収容する容器と、を有し、前記容器には、前記領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、該容器外部から、収容された前記マイクロチップの穿刺部へと挿通させる位置決め孔が開孔されている容器付マイクロチップをも提供する。この構成によれば、サンプル液を導入する際に、容器に設けられた位置決め孔にチャネルを挿通させてマイクロチップに穿刺することで、正確に穿刺部に穿刺できる。
これらのマイクロチップにおいて、前記基板層は弾性変形による自己封止性を備えることが好ましく、前記領域内は大気圧に対して負圧とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度が得られるマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態に係るマイクロチップAの構成を説明するための模式図である。(A)は上面図を示す。(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示し、(C)は(A)中Q−Q断面に対応する断面図を示す。
【図2】マイクロチップAの本体12の構成を説明するための模式図である。(A)は上面図を示し、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【図3】マイクロチップAへのサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図4】マイクロチップAの変形例の構成とサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係るマイクロチップBの構成を説明するための模式図である。(A)は上面図を示す。(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【図6】マイクロチップBの設置面への設置状態を説明するための断面模式図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係るマイクロチップCの構成とサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【図8】本発明の第四実施形態に係る容器付マイクロチップDの構成を説明するための断面模式図である。
【図9】容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図10】容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図11】容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明するための断面模式図である。
【図12】容器付マイクロチップDの変形例の構成とサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【図13】容器付マイクロチップDの変形例へのサンプル液の導入方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序により行う。
1.第一実施形態に係るマイクロチップ
2.第一実施形態に係るマイクロチップの変形例
3.第二実施形態に係るマイクロチップ
4.第三実施形態に係るマイクロチップ
5.第四実施形態に係るマイクロチップ
6.第四実施形態に係るマイクロチップの変形例
【0014】
1.第一実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第一実施形態に係るマイクロチップの模式図を図1に示す。(A)は上面図を示す。また、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図であり、(C)は(A)中Q−Q断面に対応する断面図である。
【0015】
図中、符号Aで示すマイクロチップは、物質が導入され、該物質の化学的分析あるいは生物学的分析が行われる領域が配設された本体12と、この本体12を保持する枠体11とを含んで構成されている。枠体11は、中央に向かって延設されたアーム111,112,113,114,115,116により本体12を保持している。このうち、アーム111,112,115,116は本体12の下面に接触し、下方から本体12を保持している。また、アーム113,114は本体12の上面に接触し、上方から本体12を保持している。これにより、本体12は、下方のアーム111,112,115,116と、上方のアーム113,114とによって挟持されて保持されている。本体12と枠体11は、これらのアームによって着脱可能に保持されていてもよい。また、本体12と枠体11は、これらの接する面において接着されて結合されていてもよく、あるいは一体に成形されて結合されていてもよい。
【0016】
図中、符号13は、外部から本体12に配設された領域内に溶液(以下、「サンプル液」ともいう)を注入する際に、サンプル液を注入するチャネルを本体12の適切な部位(具体的には後述する「穿刺部14」)に位置決めするために機能する位置決め孔を示す。位置決め孔13は、本体12の上方に延設されたアーム113に開孔されている。
【0017】
図2に、マイクロチップAの本体12の模式図を示す。(A)は上面図を示し、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【0018】
本体12には、外部からサンプル液が導入される気密な領域として以下の領域が形成されている。まず、穿刺部14は、外部からサンプル液が穿刺注入される領域である。図1で説明した位置決め孔13は、アーム113において、この穿刺部14の上方に位置して開孔されている。
【0019】
次に、ウェル161,162,163,164,165は、サンプル液に含まれる物質あるいは該物質の反応生成物の分析場となる領域である。さらに、流路151,152,153,154,155は、穿刺部14に注入されたサンプル液をそれぞれウェル161,162,163,164,165に送液するための領域である。
【0020】
ウェル161は5つ配設されており、互いに隣接するウェルは流路151によって連通されている。また、ウェル161の一つは、流路151によって穿刺部14に接続されている。これにより、穿刺部14に注入され、流路151を送液されるサンプル液が、5つのウェル161内に順に導入されるように構成されている。この構成は、ウェル162〜165および流路152〜155についても同様である。
【0021】
穿刺部14に注入されたサンプル液のウェル161内およびウェル162内への導入が同時に開始されるように、穿刺部14から最初にサンプル液が導入されるウェル161までの流路151の流路長と、穿刺部14から最初にサンプル液が導入されるウェル162までの流路152の流路長と、は等しく形成されることが好ましい。この点、穿刺部14から最初にサンプル液が導入されるウェル163,164あるいは165までの流路153,154あるいは155の流路長についても同様である。
【0022】
また、穿刺部14に注入されたサンプル液のウェル161内およびウェル162内への導入が同時に完了するように、各ウェル161および各ウェル162は等間隔で配設されていることが好ましく、これよって流路151の全長と流路152の全長とが等しく形成されていることが好ましい。この点、ウェル163〜165の配設間隔および流路153〜155の全長についても同様である。
【0023】
マイクロチップAは、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165を形成した基板層a1に基板層a2を貼り合わせて構成されている。マイクロチップAでは、基板層a1と基板層a2の貼り合わせを大気圧に対して負圧下で行うことにより、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の各領域の内部が、大気圧に対して負圧(例えば1/100気圧)となるように気密に封止されている。さらに、基板層a1と基板層a2の貼り合わせは真空下で行い、各領域の内部が真空となるように気密に封止することがより好ましい。
【0024】
基板層a1,a2の材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とすることができる。また、枠体11についても同様の材質を採用できる。基板層a1,a2の少なくとも一方は、弾性を有する材質とすることが好ましい。弾性を有する材料としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン系エラストマーの他、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、スチレン系エラストマー、エポキシ系エラストマー、天然ゴムなどが挙げられる。基板層a1,a2の少なくとも一方をこれらの弾性を有する材料により形成することで、マイクロチップAに、次に説明する自己封止性を付与することができる。
【0025】
ウェル161〜165内に導入された物質の分析を光学的に行う場合には、基板層a1,a2の材質は、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材料を選択することが好ましい。
【0026】
基板層a1への穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の成形は、例えば、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、あるいはプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。各領域は、基板層a2に成形されてもよく、あるいは基板層a1に一部を基板層a2に残りの部分を成形されてもよい。基板層a1と基板層a2の貼り合わせは、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等の公知の手法により行うことができる。
【0027】
次に、図3を参照して、マイクロチップAへのサンプル液の導入方法を説明する。図3は、マイクロチップAの断面模式図であり、図1中Q−Q断面に対応する。
【0028】
マイクロチップAへのサンプル液の導入は、図3(A)に示すように、チャネル4を基板層a1に穿通させ、穿刺部14にサンプル液を注入することによって行う。図中、矢印F1は、チャネル4の穿刺方向を示す。チャネル4は、基板層a1の表面から、先端部が基板層a1を貫通して穿刺部14内空に到達するように穿刺される。
【0029】
この際、チャネル4は、穿刺部14の上方に位置して枠体11のアーム113に開孔された位置決め孔13に挿通されて基板層a1に穿刺される。このように、チャネル4を予め穿刺部14の上方に位置して設けられている位置決め孔13を目標とし、これを挿通させて基板層a1に穿刺することで、穿刺部14に対してチャネル4を位置決めしてチャネル4の先端部が確実に穿刺部14内空に到達するようにできる。
【0030】
外部から穿刺部14に注入されたサンプル液は、流路151〜155を送液され(図中、矢印f参照)、ウェル161〜155内に導入される。マイクロチップAでは、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の各領域の内部が、大気圧に対して負圧とされている。このため、チャネル4の先端部が穿刺部14内空に到達した状態で一定時間保持すると、サンプル液が陰圧によって吸引されて各領域内にスムーズに短時間で導入される。さらに、各領域の内部を真空とした場合には、各領域の内部に空気が存在しないため、空気によってサンプル液の導入が阻害されたり、気泡が発生したりすることがない。
【0031】
サンプル液の導入後は、図3(B)に示すように、チャネル4を引き抜き、基板層a1の穿刺箇所を封止する。図中、矢印F2は、チャネル4の抜去方向を示す。このとき、基板層a1をPDMS等の弾性を有する材料により形成しておくことにより、チャネル4の引き抜き後に、基板層a1の弾性変形による復元力で穿刺箇所が自然に封止されるようにできる。本発明においては、この基板層の弾性変形による穿刺箇所の自然封止を、基板層の「自己封止性」と定義するものとする。
【0032】
基板層a1の自己封止性を確保するため、穿刺箇所における基板層表面から穿刺部14内空までの基板層の厚さ(図中、符号d参照)は、基板層a1の材質やチャネル4の径に応じて適切な範囲に設定される必要がある。また、分析時にマイクロチップAを加熱する場合には、加温に伴う内圧の上昇によって自己封止性が失われないように、厚さdを設定する。
【0033】
基板層a1の弾性変形による自己封止を確実とするため、チャネル4には、可能な限り径の細いものを使用することが望ましい。具体的には、インスリン用注射針として用いられる、先端外径が0.2mm程度の無痛針が好適に使用される。サンプル液の注入を容易にするため、無痛針の基部には、汎用のマイクロピペット用チップの先端部を切断したものを接続してもよい。これにより、チップ先端部にサンプル液を充填した状態で無痛針を穿刺部14に穿刺すると、マイクロチップA内の陰圧によって、無痛針に接続されたチップ先端部内のサンプル液が穿刺部14内に吸引されて注入されるようにできる。
【0034】
チャネル4として、先端外径0.2mmの無痛針を用いる場合、PDMSにより形成された基板層a1の厚みdは0.5mm以上、加熱が行われる場合には0.7mm以上が好適となる。
【0035】
以上のように、本実施形態に係るマイクロチップでは、サンプル液を導入する際に、チャネル4を枠体11のアーム113に設けられた位置決め孔13に挿通させて本体12に穿刺することで、チャネル4を本体12の穿刺部14に正確に穿刺できる。従って、本実施形態に係るマイクロチップでは、微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル4を本体12の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。さらに、チャネル4を人体等に誤って刺してしまうことを防止して、操作の安全性を高めることもできる。
【0036】
本実施形態では、マイクロチップに、1本の流路で連通された5つのウェルを計5組、合計25個のウェルを配設する例を説明した。しかし、本発明に係るマイクロチップにおいて、配設されるウェルの数や位置は任意とでき、ウェルの形状も図に示した円柱形状に限定されない。また、穿刺部14に注入されたサンプル液を各ウェルに送液するための流路の構成も図に示した態様に限定されないものとする。さらに、ここでは、基板層a1を弾性材料により形成し、チャネル4を基板層a1の表面から穿刺する場合を説明した。しかし、チャネル4は基板層a2の表面から穿刺してもよく、この場合には、基板層a2を弾性材料により形成し、自己封止性を付与すればよい。
【0037】
2.第一実施形態に係るマイクロチップの変形例
マイクロチップAの変形例の構成とサンプル液の導入方法を図4に示す。
【0038】
この変形例に係るマイクロチップは、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165を形成した基板層a1に基板層a2、a3を貼り合わせて構成され、3層構造とされている点でマイクロチップAと異なっている。
【0039】
基板層a1と基板層a2の貼り合わせは、マイクロチップAと同様に、大気圧に対して負圧下で行われ、穿刺部14、流路151〜155およびウェル161〜165の各領域の内部は大気圧に対して負圧となるように気密に封止されている。さらに、基板層a1と基板層a2の貼り合わせは真空下で行い、各領域の内部が真空となるように気密に封止することがより好ましい。
【0040】
基板層a1の材質は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン系エラストマーの他、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、スチレン系エラストマー、エポキシ系エラストマー、天然ゴムなどの弾性を有し、自己封止性を備える材質とされる。
【0041】
これらの材質は、柔軟性を有し、弾性変形が可能である一方で、ガス透過性を有している。そのため、PDMS製の基板層では、ウェル内に導入したサンプル液を加熱すると、気化したサンプル液が基板層を透過してしまう場合がある。このようなサンプル液の気化による消失(液抜け)は、分析精度を低下させ、ウェル内への新たな気泡混入の原因ともなる。
【0042】
これを防止するため、この変形例に係るマイクロチップは、自己封止性を備える基板層a1に、ガス不透過性を備える基板層a2、a3を貼り合わせて3層構造としている。
【0043】
基板層a2、a3の材質は、ガラス、ラスチック類、金属類およびセラミック類などが採用できる。プラスチック類としては、PMMA(ポリメチルメタアクリレート:アクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、SAN樹脂(スチレン−アクリロニトリル共重合体)、MS樹脂(MMA−スチレン共重合体)、TPX(ポリ(4−メチルペンテン−1))、ポリオレフィン、SiMA(シロキサニルメタクリレートモノマー)−MMA共重合体、SiMA−フッ素含有モノマー共重合体、シリコーンマクロマー(A)−HFBuMA(ヘプタフルオロブチルメタクリレート)−MMA3元共重合体、ジ置換ポリアセチレン系ポリマー等が挙げられる。金属類としては、アルミニウム、銅、ステンレス(SUS)、ケイ素、チタン、タングステン等が挙げられる。セラミック類としては、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミ(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニア(ZrO2)、石英等があげられる。
【0044】
サンプル液の導入は、図4(A)に示すように、チャネル4を基板層a1に穿通させ、穿刺部14にサンプル液を注入することによって行う。図中、矢印F1は、チャネル4の穿刺方向を示す。チャネル4は、基板層a1の表面から、先端部が基板層a1を貫通して穿刺部14内空に到達するように穿刺される。
【0045】
チャネル4は、穿刺部14の上方に位置して枠体11のアーム113に開孔された位置決め孔13に挿通されて基板層a1に穿刺されることで、穿刺部14に対して位置決めされる。この際、位置決め孔13に挿通されたチャネル4が基板層a1表面に到達できるように、基板層a3にも位置決め孔13に対応する位置に貫通孔が設けられている。
【0046】
3.第二実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第二実施形態に係るマイクロチップの模式図を図5に示す。(A)は上面図を示し、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。
【0047】
図中、符号Bで示すマイクロチップは、物質が導入され、該物質の化学的分析あるいは生物学的分析が行われる領域が配設された本体12と、この本体12を保持する枠体11とを含んで構成されている。マイクロチップBの本体12は、上述したマイクロチップAあるいはその変形例の本体12と同一であるので、以下では説明を省略する。
【0048】
枠体11は、中央に向かって延設されたアーム111,112,113,114,115,116により本体12を保持している。これらのアームはいずれも本体12の上面に接触し、本体12を上方から保持している。本体12と枠体11は、これらの接する面において接着されて結合されていてもよく、あるいは一体に成形されて結合されていてもよい。
【0049】
マイクロチップBの各アームは、可撓性を有し、この可撓性に基づいてマイクロチップBが設置される設置面に対して本体12を付勢して保持する機能を有する。設置面に設置された状態のマイクロチップBを図6に示す。図中、ブロック矢印は、各アームによる本体12の付勢方向を示す。
【0050】
図中、符号Hは、マイクロチップBが設置される設置面を示す。設置面Hは、例えばマイクロチップBに配設された領域内に導入された物質の分析を光学的に行う場合、面光源、面レンズあるいは面フィルターなどの光学部材の表面であってよい。また、例えば分析時にマイクロチップBを加熱する場合には、設置面Hは、面ヒーターなどの温度制御部材の表面であってもよい。
【0051】
図5(B)に示したように、各アームは枠体11から斜め方向に突設されて本体12を保持している。これにより、枠体11に保持された状態において、本体12の設置面への接触面は、枠体11の設置面への接触面よりも、設置面側に突出した状態となっている。従って、図6に示すように、マイクロチップBを設置面H上に載置して、本体12および枠体11を設置面Hに接触させた状態では、各アームがその可撓性に基づいて本体12を設置面Hに対して押圧することで、本体12と設置面Hが密着されることとなる。なお、この際、マイクロチップBを設置面H上の所定位置に正確に載置するため、設置面H側に位置決めピンを設け、枠体11側に該ピンの嵌合孔(図4中符合117参照)を設けてもよい。
【0052】
このように設置面Hに対して本体12を付勢して密着させて保持することにより、設置面Hが温度制御部材表面である場合には、熱伝達効率を高めて、高精度な温度制御が可能となる。また、設置面Hが光学部材表面である場合には、本体12に配設された領域内への光の照射あるいは領域内から発生する光の検出を効率良く行うことができる。
【0053】
アーム111,112,113,114,115,116は少なくとも一以上が可撓性を有していればよい。可撓性を有するアームには、例えば弾性を有する各種プラスチックにより形成された板ばねを採用できる。また、設置面Hに対して本体12を付勢して密着させて保持するための手段として、可撓性を有するアームに替えて、本体12とこれを保持する枠体11との間に弾性変形する部材(ばねや緩衝ゴム)を設置してもよい。また、この弾性変形する部材は、本体12あるいは枠体11と別体の部材であっても、本体12あるいは枠体11と一体に成形された部材であってもよい。
【0054】
図中、符号13は、外部から本体12に配設された領域内にサンプル液を注入する際に、サンプル液を注入するチャネルを本体12の穿刺部14に位置決めするために機能する位置決め孔である。位置決め孔13は、マイクロチップAと同様に、本体12の上方に延設されたアーム113に開孔されている。マイクロチップBへのサンプル液の導入は、マイクロチップAと同様の方法で行うことができる。
【0055】
4.第三実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第三実施形態に係るマイクロチップの構成とサンプル液の導入方法を図7に示す。
【0056】
図中、符号Cで示すマイクロチップは、物質が導入され、該物質の化学的分析あるいは生物学的分析が行われる領域が配設された本体12を含んでなる。マイクロチップCの本体12は、上述したマイクロチップAあるいはその変形例の本体12と同一であるので、以下では説明を省略する。マイクロチップCは、本体12に加えて、図中符号31で示される第一部材と、符号32で示される第二部材と、を含んでいる。
【0057】
第一部材31には、その上面に本体12が載置され保持される。この際、マイクロチップCを第一部材31の上面の所定位置に正確に載置するため、第一部材31側に位置決めピンを設け、本体12側に該ピンの嵌合孔を設けてもよい。あるいは、本体12の外形状に利用して第一部材31の上面の所定位置に本体12を突き当てる方式も採用できる。
【0058】
また、第二部材32は、本体12に配設された領域内に外部からサンプル液を注入するチャネル4を、第一部材31に保持された本体12に対向させて保持する。第一部材31の一端と第二部材32の一端はヒンジ33によって結合され、第一部材31と第二部材32はヒンジ33を支点とした開閉動作が可能とされている((A)中点線矢印参照)。第一部材31における本体12の保持位置および第二部材32におけるチャネル4の保持位置は、ヒンジ33が閉じられた状態((B)参照)において、チャネル4が本体12の穿刺部14(図3参照)に位置決めされるように構成されている。
【0059】
第一部材31および第二部材32の材質は、ガラス、各種金属あるいは各種プラスチックとすることができる。本体12と第一部材31あるいは第二部材32は、別体の部材であっても、一体に成形された部材であってもよい。
【0060】
第一部材31および第二部材32を開閉可能に結合する手段としては、ヒンジ33に替えて、ロータリーダンパーを用いてもよい。ロータリーダンパーを用いることで、第一部材31および第二部材32の開閉動作が安定する。また、ヒンジ33によって一端を結合された第一部材31および第二部材32との間に、開閉方向に弾性を発揮するスプリングばねを接続したり、開閉動作を所定範囲内に制限するストッパー機構を設けたりしてもよい。これらによっても、第一部材31および第二部材32の開閉動作を安定させ、操作性を向上させられる。なお、図中符号321は、第一部材31に対して第二部材32を開閉動作させる際に把持されるハンドルを示す。
【0061】
本実施形態に係るマイクロチップでは、サンプル液を導入する際に、本体12を第一部材31に、チャネル4を第二部材32にそれぞれ保持した状態でヒンジ33を閉じることによって、チャネル4を本体12の穿刺部14に正確に穿刺できる。従って、本実施形態に係るマイクロチップでは、微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル4を本体12の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。さらに、チャネル4を人体等に誤って刺してしまうことを防止して、操作の安全性を高めることもできる。
【0062】
5.第四実施形態に係るマイクロチップ
本発明の第四実施形態に係るマイクロチップの構成を図8に示す。
【0063】
図中、符号Dで示す容器付マイクロチップの本体12は、上述したマイクロチップAの変形例の本体12と同一であるので、以下では説明を省略する。容器付マイクロチップDは、マイクロチップである本体12に加えて、本体12を内部に収容する容器を含んでいる。
【0064】
容器は、容器筐体を構成するカセット51およびインサート52,53と、本体12を容器内において中空保持するリブ54と、を含んでなる。インサート52,53はカセット51に出し入れ可能に挿入されている。また、リブ54は本体12を着脱可能に保持しており、リブ54自体もインサート52,53によって着脱可能に保持されている。リブ54は、本体12を容器内に中空保持することにより、容器外部からの衝撃が本体12に加わるのを防止し、マイクロチップの保管時あるいは輸送時における本体12の破損を防止する。
【0065】
カセット51には、収容された本体12の穿刺部14(図4参照)にチャネル4を挿通させる位置決め孔13が開孔されている。図中、符号55は、使用時に取り外される、位置決め孔13の蓋を示す。
【0066】
カセット51およびインサート52,53の材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とすることができる。カセット51は、容器外部からの本体12の視認性を確保するため、透明な材質を用いて形成することが好ましい。また、リブ54の材質もガラスや各種プラスチックとできるが、外部からの衝撃を緩和するため、弾性を有する材料を用いて形成することが好ましい。
【0067】
容器は、図示しない梱包材によって減圧密封されている。上述のように、本発明に係るマイクロチップは、基板層の貼り合わせを大気圧に対して負圧下で行うことにより、マイクロチップに形成された各領域の内部が大気圧に対して負圧(あるいは真空)となるように気密に封止されている。しかしながら、マイクロチップの保管あるいは輸送の期間が長くなると、基板層を透過する僅かな空気によって、領域内の負圧や真空状態が消失してしまうおそれがある。マイクロチップを梱包材によって減圧密封することにより、このような保管期間あるいは輸送期間中における領域内の負圧や真空状態の消失を防止できる。梱包材には、ヒートシールが可能な合成樹脂フィルムや、ガスバリア性に優れたアルミフィルムなどの従来公知の材料を用いればよい。
【0068】
次に、図9〜図11を参照しながら、容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入方法を説明する。
【0069】
容器付マイクロチップDにおけるサンプル液の導入は、チャネル4をカセット51に開孔された位置決め孔13に挿通し、本体12の基板層に穿通させることにより行い得る。位置決め孔13は、収容された本体12の穿刺部14に対応する位置に設けられているため、位置決め孔13から基板層に穿通されたチャネル4は、その先端部が穿刺部14内空に到達するように本体12の基板層に穿刺される。
【0070】
本実施形態では、サンプル液が収容されるサンプルチューブ41と、サンプルチューブ41内のサンプル液がチャネル4に供給されるように両者を接続する円筒状のアダプタ42と、を用いてサンプル液の導入を行う例を説明する。アダプタ42の内周面にはねじ面が形成されており、チャネル4はこのねじ面にねじ込まれてアダプタ42内に保持されている。
【0071】
まず、図9に示すように、サンプル液を充填したサンプルチューブ41を、チャネル4が保持されたアダプタ42に接続する。サンプルチューブ41の接続は、アダプタ42の内周面に形成されたねじ面に接続口をねじ込むことにより行うことができる。この状態では、チャネル4の先端部はアダプタ42の内部に収容され、外部に露出していない。
【0072】
図示しない梱包材によって減圧密封された容器付マイクロチップDを、梱包材を開封して取り出し、蓋55を取り外した後、サンプルチューブ41が接続されたアダプタ42を、カセット51に開孔された位置決め孔13に挿入する(図10参照)。アダプタ42が位置決め孔13に嵌合した状態で、サンプルチューブ41の接続口をアダプタ42内にさらにねじ込むと、チャネル4も同時にねじ込まれる。サンプルチューブ41の接続口をさらにねじ込むと、チャネル4が押し出されてアダプタ42の内部からチャネル4の先端部が露出する。露出されたチャネル4の先端部は、位置決め孔13に対応する位置に配されている本体12の穿刺部14に穿刺され、その内空に到達する。チャネル4の先端部が穿刺部14内空に到達した状態で一定時間保持すると、サンプルチューブ41内のサンプル液が陰圧によって吸引されて各領域内に導入される。
【0073】
アダプタ42が位置決め孔13に嵌合すると、アダプタ42の外周面に設けられたフリンジ421がカセット51の内側面に係止する。これにより、アダプタ42は一度位置決め孔13に嵌合させた後は、容易に取り外しができないようにされている。
【0074】
サンプル液の導入が完了した後、サンプルチューブ41の接続口をアダプタ42内からねじ上げて引き出すと、チャネル4も同時にねじ上げられる。サンプルチューブ41の接続口を所定量ねじ上げると、チャネル4の先端部はアダプタ42の内部に再度収容され、外部に露出しない状態となる(図11参照)。
【0075】
続いて、本体12を収容する容器を分解して、本体12を取り出す。容器の分解は、カセット51からインサート52,53を引き抜いて行う。この際、インサート52またはインサート53のどちらか一方とともに、リブ54に保持された本体12が引き出されるようにすることが好ましい。なお、インサート52およびインサート53の一方は、カセット51と一体に成形されていてよく、この場合にはもう一方のインサートをリブ54および本体12と共に取り外せるようにする。リブ54は、分析に供する前に本体12から取り外せばよい。
【0076】
以上のように、本実施形態に係る容器付マイクロチップでは、サンプル液を導入する際に、チャネル4をカセット51に設けられた位置決め孔13に挿通させて本体12に穿刺することで、チャネル4を本体12の穿刺部14に正確に穿刺できる。従って、本実施形態に係る容器付マイクロチップでは、マイクロチップの微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル4を本体12の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。さらに、サンプル液の導入後、チャネル4の先端部はアダプタ42の内部に収容されて外部に露出せず、アダプタ42自体も一度位置決め孔13に嵌合させた後は容易に取り外しができないため、廃棄時にチャネル4を人体等に誤って刺したり、サンプル液が拡散して環境を汚染したりするおそれがない。
【0077】
6.第四実施形態に係るマイクロチップの変形例
容器付マイクロチップDの変形例の構成とサンプル液の導入方法を図12および図13に示す。
【0078】
この変形例に係る容器付マイクロチップは、容器を構成するインサート52,53の形状において容器付マイクロチップDと異なっている。すなわち、本変形例に係る容器付マイクロチップEでは、カセット51からインサート53を引き抜くと、カセット51の位置決め孔13が開孔された部分の内側面と、リブ54により容器内に中空保持された本体12の表面との間に、引き抜かれたインサート53に由来する空隙が形成されるように構成されている。
【0079】
本変形例におけるサンプル液の導入手順は、まず、サンプルチューブ41が接続されたアダプタ42を、カセット51に開孔された位置決め孔13に挿入する。そして、インサート53を引き抜き、カセット51と本体12との間に空隙を形成させる。次に、アダプタ42が位置決め孔13に嵌合した状態で、サンプルチューブ41の接続口をアダプタ42内にさらにねじ込むと、チャネル4が押し出され、チャネル4の先端部がアダプタ42の内部から上記空隙に露出する。
【0080】
この状態で、図13に示すように、インサート53が挿入されていた側のカセット51表面を指などで押圧すると、カセット51が下方に撓んで、チャネル4の先端部が、位置決め孔13に対応する位置に配されている本体12の穿刺部14に穿刺される。カセット51表面の押圧を続け、チャネル4の先端部が穿刺部14内空に到達した状態で一定時間保持すると、サンプルチューブ41内のサンプル液が陰圧によって吸引されて各領域内に導入される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るマイクロチップによれば、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度を得ることができる。そのため、本発明に係るマイクロチップ等は、マイクロチップ上の流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップ上のウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイムPCR装置)などに好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0082】
A,B,C:マイクロチップ、D,E:容器付マイクロチップ、11:枠体、111,112,113,114,115,116:アーム、12:本体、121:基板層a1、122:基板層a2、13:位置決め孔、14:穿刺部、151,152,153,154,155:流路、161,162,163,164,165:ウェル、31:第一部材、32:第二部材、33:ヒンジ、4:チャネル、41:サンプルチューブ、42:アダプタ、51:カセット、52,53:インサート、54:リブ、55:蓋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から溶液が導入される気密な領域が配設され、
該領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、前記領域の穿刺部に対して位置決めする位置決め手段を備えるマイクロチップ。
【請求項2】
前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、中央に向かって延設された2以上のアームにより該本体を保持する枠体と、を有し、
前記アームのうち前記穿刺部上に延設されたアームに、前記チャネルを前記穿刺部へ挿通させる位置決め孔が開孔されることにより、前記位置決め手段が構成されている請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記枠体の前記アームのうち少なくとも一以上は可撓性を有し、該可撓性に基づいてマイクロチップの設置面に対して前記本体を付勢して保持する請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記アームが板ばねとして構成されている請求項3記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、該本体を保持する第一部材と、前記チャネルを前記穿通部に対向させて保持する第二部材と、を有し、
前記第一部材の一端と前記第二部材の一端とがヒンジによって結合され、該ヒンジが閉じた状態において第二部材に保持されたチャネルが第一部材に保持された本体の前記穿刺部に対して位置決めされるように構成された請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記領域内が大気圧に対して負圧とされた請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記基板層は弾性変形による自己封止性を備える請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
請求項2〜4記載のいずれか一項に記載のマイクロチップを構成する前記枠体。
【請求項9】
請求項5記載のマイクロチップを構成する前記第一部材と前記第二部材とが一端においてヒンジにより結合されてなる治具。
【請求項10】
外部から溶液が導入される気密な領域が配設されたマイクロチップと、該マイクロチップを内部に収容する容器と、を有し、
前記容器には、前記領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、該容器外部から、収容された前記マイクロチップの穿刺部へと挿通させる位置決め孔が開孔されている容器付マイクロチップ。
【請求項11】
前記領域内が大気圧に対して負圧とされ、
前記マイクロチップを収容した前記容器を減圧密封してなる請求項10記載の容器付マイクロチップの梱包体。
【請求項1】
外部から溶液が導入される気密な領域が配設され、
該領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、前記領域の穿刺部に対して位置決めする位置決め手段を備えるマイクロチップ。
【請求項2】
前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、中央に向かって延設された2以上のアームにより該本体を保持する枠体と、を有し、
前記アームのうち前記穿刺部上に延設されたアームに、前記チャネルを前記穿刺部へ挿通させる位置決め孔が開孔されることにより、前記位置決め手段が構成されている請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記枠体の前記アームのうち少なくとも一以上は可撓性を有し、該可撓性に基づいてマイクロチップの設置面に対して前記本体を付勢して保持する請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記アームが板ばねとして構成されている請求項3記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記領域および前記穿刺部が設けられた本体と、該本体を保持する第一部材と、前記チャネルを前記穿通部に対向させて保持する第二部材と、を有し、
前記第一部材の一端と前記第二部材の一端とがヒンジによって結合され、該ヒンジが閉じた状態において第二部材に保持されたチャネルが第一部材に保持された本体の前記穿刺部に対して位置決めされるように構成された請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記領域内が大気圧に対して負圧とされた請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記基板層は弾性変形による自己封止性を備える請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
請求項2〜4記載のいずれか一項に記載のマイクロチップを構成する前記枠体。
【請求項9】
請求項5記載のマイクロチップを構成する前記第一部材と前記第二部材とが一端においてヒンジにより結合されてなる治具。
【請求項10】
外部から溶液が導入される気密な領域が配設されたマイクロチップと、該マイクロチップを内部に収容する容器と、を有し、
前記容器には、前記領域を形成する基板層を穿通して該領域内に前記溶液を注入するチャネルを、該容器外部から、収容された前記マイクロチップの穿刺部へと挿通させる位置決め孔が開孔されている容器付マイクロチップ。
【請求項11】
前記領域内が大気圧に対して負圧とされ、
前記マイクロチップを収容した前記容器を減圧密封してなる請求項10記載の容器付マイクロチップの梱包体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−118039(P2012−118039A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281881(P2010−281881)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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