説明

マイクロチャネルチップ及び微生物検出装置

【課題】 十分に高い精度で、かつ簡便な操作で短時間に検体中の微生物(細菌、真菌等)を検出することを可能にするマイクロチャネルチップ、及びこれを用いた微生物検出装置を提供すること。
【解決手段】 マイクロチャネル12と、前記マイクロチャネル12の途中に設けられた二つの接続部13a及び14aで前記マイクロチャネル12に接続されている流路13及び14と、を有し、二つの接続部13a及び14aに対して前記マイクロチャネル12の一方の端部側の、前記マイクロチャネル12の内壁面に、ATP分解酵素が固定化されていることを特徴とするマイクロチャネルチップ10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチャネルチップ及び微生物検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品中の微生物(細菌、真菌等)を検出するために、すべての生物中に存在するATP(アデノシン三リン酸)を指標とし、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に基づく発光を利用して検体中のATP量を測定することが行われている。しかし、検体中には微生物中のATP以外のATP(以下、「バックグラウンドATP」という。)が混入していることが多く、必ずしも高い精度で微生物を検出できるわけではなかった。
【0003】
そのようなバックグラウンドATPを除去し、検体中の微生物の検出精度を高める方法として、下記特許文献1及び2では、検体中にATP分解酵素(アデノシンリン酸デアミナーゼ又はルシフェラーゼ)を添加してバックグラウンドATPを分解するという方法が提案されている。また、下記特許文献3では、半透膜からなるチューブにATP分解酵素(アピラーゼ)を封入し、このチューブを検体溶液中に浸すことにより、バックグラウンドATPを分解するという方法が提案されている。
【特許文献1】特開平11−56393号公報
【特許文献2】特開2000−189197号公報
【特許文献3】特開2003−210197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1及び2の方法では、検体中にATP分解酵素を添加してバックグラウンドATPを分解した後、微生物中のATPの検出のためにATP分解酵素を失活させる必要があるので、操作が煩雑である。また、上記特許文献3の方法では、バックグラウンドATPがチューブ内に拡散する必要があるので、バックグラウンドATPの除去に長時間を要する。
【0005】
ところで、飲食品中の微生物の検出は、微量の検体液(検体溶液又は液体検体)及び微量の試薬溶液を混合させることができる装置を用いて行うのが好ましい。このような装置としては、マイクロチャネルチップが適している。
【0006】
そこで、本発明は、十分に高い精度で、かつ簡便な操作で短時間に検体中の微生物(細菌、真菌等)を検出することを可能にするマイクロチャネルチップ、及びこれを用いた微生物検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、マイクロチャネルと、前記マイクロチャネルの途中に設けられた少なくとも一つの接続部で前記マイクロチャネルに接続されている流路と、を有し、前記少なくとも一つの接続部に対して前記マイクロチャネルの一方の端部側の、前記マイクロチャネルの内壁面に、ATP分解酵素が固定化されていることを特徴とするマイクロチャネルチップを提供する。
【0008】
このようなマイクロチャネルチップでは、ATP分解酵素が固定化されている側の、マイクロチャネルの端部から検体液(検体溶液又は液体検体)をマイクロチャネルに導入すると、まず、検体液のみがマイクロチャネルを流通し、バックグラウンドATPがATP分解酵素によって分解除去される。次いで、ATP抽出試薬及びATP検出試薬を、いずれかを先に、又は両方を同時に、一つ又は複数の流路からマイクロチャネルに導入すると、これらが検体液と混合される。そして、検体液中に微生物が存在する場合は、微生物中のATPがATP抽出試薬によって抽出され、抽出されたATPがATP検出試薬と反応して発光する。生じた光を検出することによって、検体中の微生物が検出される。
【0009】
上記マイクロチャネルチップを用いれば、検体液とATP抽出試薬又はATP検出試薬とが混合される前に、バックグラウンドATPが分解除去されるので、微生物中のATPを十分に高い精度で検出することができる。
【0010】
また、ATP分解酵素がマイクロチャネルの内壁面に固定化されているので、検体液とATP抽出試薬又はATP検出試薬とが混合される接続部にATP分解酵素が到達することがない。従って、微生物中のATPの検出のためにATP分解酵素を失活させる必要がなく、それだけ簡便な操作で短時間に微生物中のATPを検出することができる。
【0011】
更に、バックグラウンドATP及びATP分解酵素がマイクロチャネルという極めて狭い空間で接触するため、ATP分解反応が速く、バックグラウンドATPの除去が短時間で行われることになる。また、検体液、ATP抽出試薬及びATP検出試薬がマイクロチャネルという極めて狭い空間で混合されるため、短時間(数秒)で発光反応が生じることになる。従って、十分に高い精度で、かつ短時間に微生物中のATPを検出することができる。
【0012】
更に、検体液、ATP抽出試薬及びATP検出試薬がマイクロチャネルという極めて狭い空間で混合され、検体液と試薬との混合状態のバラツキが小さいので、ATP量測定結果の再現性を高めることができる。
【0013】
なお、本発明において、「酵素が固定化されている」とは、酵素が物理吸着、化学結合等により固体表面に結合しており、固体表面を水又は水溶液と接触させても、酵素が固体表面から脱離しないことをいう。
【0014】
上記マイクロチャネルチップは、上記少なくとも一つの接続部に対してマイクロチャネルの一方の端部側の、マイクロチャネルの内壁面に、ATP分解酵素の他に、更にADP(アデノシン二リン酸)分解酵素が固定化されているか、または、上記ATP分解酵素がADP分解酵素を兼ねることが好ましい。
【0015】
すなわち、微生物中のATPをより高い感度で検出するには、ATP増幅試薬によって微生物中のATPを増幅して検出するのが好ましい。しかし、ATP増幅試薬によってATPを増幅する場合、ADPはATP増幅反応の過程でATPに変換されて増幅されるので、検体液中に混入しているADP(以下、「バックグラウンドADP」という。)は、検体液とATP増幅試薬とが混合される前に除去しておく必要がある。上記少なくとも一つの接続部に対してマイクロチャネルの一方の端部側の、マイクロチャネルの内壁面に、更にADP分解酵素が固定化されているか、または、上記ATP分解酵素がADP分解酵素を兼ねれば、ATP増幅試薬を用いた場合にも、検体液とATP抽出試薬、ATP増幅試薬又はATP検出試薬とが混合される前に、バックグラウンドATP及びバックグラウンドADPが分解除去されるので、微生物中のATPを十分に高い精度で検出することができる。また、ATP検出試薬と同時か、又はそれより前に、ATP増幅試薬を検体液と混合させることによって、微生物中のATPをより高い感度で検出することができる。なお、ATP分解酵素がADP分解酵素を兼ねれば、ATP分解酵素及びADP分解酵素を別々にマイクロチャネルに固定化する必要がなく、それだけマイクロチャネルチップの製造の際の作業が簡便になる。また、マイクロチャネルの内壁面に固定化するATP分解酵素及びADP分解酵素の量的比率を制御しやすい。
【0016】
なお、本発明において、「ATP分解酵素がADP分解酵素を兼ねる」とは、ATP分解酵素、すなわちATP分解酵素活性を有する物質(例えば、タンパク質)が更にADP分解酵素活性を有することを意味し、この物質においてATP分解酵素活性部位及びADP分解酵素活性部位が異なっていてもよい。
【0017】
上記マイクロチャネルチップを用いて検体中の微生物を検出する場合、マイクロチャネル中の発光反応によって生じる光は光検出器により検出される。すなわち、本発明はまた、上記マイクロチャネルチップと、そのマイクロチャネル内で生じた光を検出する光検出器と、を備える微生物検出装置を提供する。
【0018】
このような微生物検出装置は、上記マイクロチャネルチップを備えるので、十分に高い精度及び感度で、かつ簡便な操作で短時間に、再現性よく検体中の微生物を検出することを可能にする。
【0019】
なお、ATP抽出試薬とは、微生物を死滅させて微生物中のATPを抽出する試薬であり、例として、溶菌酵素(リゾチーム、キチナーゼ、キトサナーゼ等)、陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム等)、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)が挙げられる。ATP抽出試薬中には、溶菌酵素等に加えて、例えば、非イオン性界面活性剤、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸等)又は糖類(スクロース、グルコース、フルクトース等)が含まれていてもよい。
【0020】
ATP検出試薬とは、ATPと反応して発光等を生じさせることにより、ATPを検出する試薬であり、例えば、ルシフェリン、ルシフェラーゼ及び2価金属イオン(Mg2+等)からなる試薬が挙げられる。ATPは、酸素及び2価金属イオンの存在下でルシフェリン及びルシフェラーゼと反応して、ルシフェリンによる発光を生じさせる。
【0021】
ATP増幅試薬とは、ATPを増幅させる試薬であり、例えば、AMP(アデノシン一リン酸)、ポリリン酸、アデニル酸キナーゼ及びポリリン酸キナーゼからなる試薬が挙げられる。ATPは、アデニル酸キナーゼの存在下でAMPと反応して2分子のADPを生じ、この2分子のADPは、ポリリン酸キナーゼの存在下でポリリン酸と反応して2分子のATPを生じる。この反応を繰り返すことにより、ATPは増幅される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、十分に高い精度で、かつ簡便な操作で短時間に検体中の微生物(細菌、真菌等)を検出することを可能にするマイクロチャネルチップ、及びこれを用いた微生物検出装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。なお、図面の説明においては、同一または同等の要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0024】
以下の本発明の実施形態の説明においては、ATP増幅試薬としては、AMP、ポリリン酸、アデニル酸キナーゼ及びポリリン酸キナーゼからなる試薬を用いるものとする。また、AMP及びポリリン酸からなる試薬を「ATP増幅試薬(I)」といい、アデニル酸キナーゼ及びポリリン酸キナーゼからなる試薬を「ATP増幅試薬(II)」という。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るマイクロチャネルチップの平面図である。第1実施形態に係るマイクロチャネルチップ10は、図1に示されているように、マイクロチャネル12と、マイクロチャネル12の途中に設けられた二つの接続部13a及び14aでそれぞれマイクロチャネル12に接続されている二つの流路13及び14と、を有する。また、図1には示されていないが、二つの接続部13a及び14aに対してマイクロチャネル12の一方の端部側の、マイクロチャネル12の内壁面には、ATP分解酵素が固定化されている。
【0026】
マイクロチャネル12は、蛇行状に形成されている。マイクロチャネル12の一方の端部には、検体液を収容するためのウェル15が、他方の端部には、マイクロチャネル12を流通した反応液を収容するためのウェル18が設けられている。また、流路13及び14の端部にはそれぞれ、各種試薬溶液を収容するためのウェル16及び17が設けられている。以下、本発明の第1実施形態の説明においては、ウェル16にATP抽出試薬溶液が、ウェル17にATP検出試薬溶液が収容されているものとする。
【0027】
マイクロチャネルチップ10では、まず、ウェル15に収容されている検体液をマイクロチャネル12に導入すると、接続部13aまでは検体液のみがマイクロチャネル12を流通する。この過程で、検体液中のバックグラウンドATPは、マイクロチャネル12の内壁面に固定化されているATP分解酵素によって分解除去される。次いで、ウェル16に収容されているATP抽出試薬溶液を流路13を通じてマイクロチャネル12に導入すると、検体液及びATP抽出試薬溶液の混合液が接続部14aまで流通する。この過程で、微生物中のATPが抽出される。最後に、ウェル17に収容されているATP検出試薬溶液を流路14を通じてマイクロチャネル12に導入すると、検体液、ATP抽出試薬溶液及びATP検出試薬溶液の混合液がウェル18まで流通する。この過程で、先に抽出されたATPは発光反応を起こし、発光する。この光を検出することによって、検体中の微生物を検出することができる。
【0028】
マイクロチャネル12のうちウェル15と接続部13aとの間の部分は蛇行状に形成されていて十分に長いので、検体液中のバックグラウンドATPは、その部分の内壁面に固定化されたATP分解酵素によってほぼ完全に分解除去される。また、マイクロチャネル12のうち接続部13aと接続部14aとの間の部分も蛇行状に形成されていて十分に長いので、微生物中のATPはATP抽出試薬によってほぼ完全に抽出される。更に、マイクロチャネル12のうち接続部14aとウェル18との間の部分も蛇行状に形成されていて十分に長いので、発光反応によって生じた光は発光強度のピーク位置で確実に検出することができる。
【0029】
マイクロチャネルチップ10を用いれば、検体液とATP抽出試薬又はATP検出試薬とが混合される前に、バックグラウンドATPがほぼ完全に分解除去されるので、微生物中のATPを十分に高い精度で検出することができる。
【0030】
また、マイクロチャネルチップ10を用いれば、微生物中のATPの検出のためにATP分解酵素を失活させる必要がない。また、バックグラウンドATP及びATP分解酵素がマイクロチャネルという極めて狭い空間で接触するため、ATP分解反応が速く、バックグラウンドATPの除去が短時間で行われる。また、検体液、ATP抽出試薬及びATP検出試薬がマイクロチャネルという極めて狭い空間で混合されるため、短時間(数秒)で発光反応が生じる。従って、十分に高い精度で、かつ短時間に微生物中のATPを検出することができる。
【0031】
更に、マイクロチャネルチップ10を用いれば、検体液、ATP抽出試薬及びATP検出試薬がマイクロチャネルという極めて狭い空間で混合され、検体液と試薬との混合状態のバラツキが小さいので、ATP量測定結果の再現性を高めることができる。
【0032】
図2は、第1実施形態に係るマイクロチャネルチップの、図1のII−II線に沿った断面図である。図3は、第1実施形態に係るマイクロチャネルチップの、マイクロチャネルの延び方向に垂直な平面で切断した部分断面図である。図1〜図3に示されているように、マイクロチャネルチップ10は三層の基板11a〜11cを備え、マイクロチャネル12及びウェル15〜18は、基板11aに形成されている。
【0033】
基板11a〜11cは、透光性を有する材料で構成されていればよい。そのような材料としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリイミド、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の樹脂や、石英ガラス又はパイレックス(登録商標)ガラス等のガラスが挙げられる。
【0034】
図3に示されているように、マイクロチャネル12の断面の形状は、長辺が基板の表面に平行な長方形である。マイクロチャネル12の幅及び深さは、好ましくは1mm以下であり、より好ましくは0.1μm〜500μmであり、更に好ましくは0.1μm〜100μmである。幅及び深さが1mmを超えると、幅及び深さが1mm以下である場合に比べて、発光反応の際の検体液と各種試薬との混合状態のバラツキが大きくなって、反応が遅くなり、また、発光量の測定結果の再現性が低くなる傾向がある。幅及び深さが0.1〜500μmであると、検体液と各種試薬との混合状態のバラツキが小さくなって、反応が速くなり、また、測定結果の再現性が高くなる傾向が顕著である。幅及び深さが0.1〜100μmであると、上記の傾向が更に顕著である。なお、マイクロチャネルの幅とは、マイクロチャネルの延び方向に垂直で、基板の表面に平行な方向の、マイクロチャネルの長さの最大値のことである。また、マイクロチャネルの深さとは、基板の表面に垂直な方向の、マイクロチャネルの長さの最大値のことである。図3においては、マイクロチャネル12の断面によって形成される長方形の長辺の長さが幅に、短辺の長さが深さに当たる。
【0035】
マイクロチャネルチップ10は、例えば、次のように製造することができる。
【0036】
まず、シリコンウェハ上にレジストを塗布し、マイクロチャネル12、流路13、流路14及びウェル15〜18に対応した形状にパターニング(露光、現像)した後、シリコンウェハの表面部分をエッチングする。こうしてシリコン表面にマイクロチャネル12、流路13、14及びウェル15〜18に対応した凸部が形成される。
【0037】
次に、上記レジストを除去し、未硬化のPDMSを塗布する。そして、PDMSを硬化(125℃、20分)させ、PDMSを剥離することにより、マイクロチャネル12、流路13、14及びウェル15〜18の形状を有するPDMS硬化物が得られる。PDMS硬化物は、更に加工(穴あけ加工等)してもよい。
【0038】
最後に、ガラスウェハ上に別の未硬化のPDMSを塗布し、仮硬化(50℃、10分)させる。仮硬化したPDMSの上に先のPDMS硬化物を貼り合わせ、仮硬化したPDMSを硬化(125℃、20分)する。
【0039】
マイクロチャネル12の内壁面に固定化されるATP分解酵素としては、アピラーゼ、アデノシンリン酸デアミナーゼ及びルシフェラーゼが挙げられる。ATP分解酵素はADP分解酵素を兼ねていてもよく、ADP分解酵素を兼ねるATP分解酵素としてはアピラーゼが挙げられる。
【0040】
ATP分解酵素の固定化は、例えば、次のように行うことができる。まず、マイクロチャネル12に酵素溶液を流通させた後、開放部(ウェル)をすべてシールし、冷蔵庫内(約4℃)で約5時間放置する。次いで、マイクロチャネル12にバッファーを流通させて、脱離しやすい酵素を取り除き、最後に、マイクロチャネル12内部を空気で置換する。
【0041】
酵素が固定化されたかどうか、及び固定化された酵素のATP分解能を判定するには、例えば、マイクロチャネル12にATP溶液を流通させた後、ウェル18に収容された反応済溶液を回収し、ここにルシフェリン及びルシフェラーゼを加えて、ルミテスターで発光量を測定すればよい。元のATP溶液に比べて発光量が減少していれば、ATP分解酵素が固定化されていると判定することができる。また、発光量の減少量の大小によって、ATP分解能を判定することができる。
【0042】
図4は、第1実施形態に係る微生物検出装置の平面図である。図5は、第1実施形態に係る微生物検出装置の、図4の矢印Vの向きに見た側面図である。
【0043】
図4及び図5に示される微生物検出装置100は、マイクロチャネルチップ10と、マイクロチャネル12内で生じた光を検出する光検出器25(図4には示されていない)と、を備えている。更に、反射板19と、チューブ21a〜23a(図4には示されていない)付きの蓋21〜23と、チューブ21a〜23aに連結されたポンプ(図4及び図5には示されていない)とを備えている。ウェル18は大気に開放されている。
【0044】
光検出器25は受光部24を有し、マイクロチャネル12のうち接続部14aとウェル18との間の部分、すなわち発光が生じる領域(以下、「発光領域」という。)に受光面24aが対向するように、マイクロチャネルチップ10の一方の表面(基板11cの表面)側に配置されている。また、反射板19は、光反射面19aが受光部24の受光面24aに対向するように、マイクロチャネルチップ10に対して光検出器25と反対の表面(基板11aの表面)側に配置されている。
【0045】
また、蓋21〜23は、それぞれウェル15〜17を覆っている。蓋21〜23に取り付けられているチューブ21a〜23aは、それぞれウェル15〜17とポンプ内部とを連通している。ウェル15に収容されている液体は、ポンプで圧力を加えることによって、直接にマイクロチャネル12に導入される。また、ウェル16及び17に収容されている液体は、ポンプで圧力を加えることによって、それぞれ流路13及び14を通じてマイクロチャネル12に導入される。マイクロチャネル12、流路13及び14を流通する液体の流通速度はそれぞれ、チューブ21a〜23aに連結されているポンプで調節することができる。
【0046】
図6〜図9は、マイクロチャネルに液体が流通している一時点の、第1実施形態に係る微生物検出装置の一部切欠き平面図である。図6〜図9においては、微生物検出装置を、便宜上、マイクロチャネル12の一部(実線で表した部分)が表面に現れるようにマイクロチャネルチップ10の基板11aを一部切り欠いて図示している。図6〜図9における「P=0」又は「P=+P1」等は、対応するウェルに収容されている液体に加えられた圧力が0又はP1等であることを表す。また、ドットの集合は液体を表す。なお、図6〜図9には、光検出器25、反射板19、蓋21〜23、チューブ21a〜23a及びポンプは示されていない。
【0047】
微生物検出装置100では、まず、ウェル15に収容されている検体液にP1の圧力を加えて、検体液をマイクロチャネル12に導入し、接続部13aまでマイクロチャネル12を流通させる。この過程で、検体液中のバックグラウンドATPは、マイクロチャネル12の内壁面に固定化されているATP分解酵素によって分解除去される。検体液が接続部13aの少し手前(例えば、図6に示される位置)まで流通した時点で、ウェル16に収容されているATP抽出試薬溶液にP2の圧力を加えて、ATP抽出試薬溶液を流路13を通じてマイクロチャネル12に導入し、検体液及びATP抽出試薬溶液の混合液を接続部14aまで流通させる。この過程で、微生物中のATPが抽出される。検体液が接続部14aの少し手前(例えば、図7に示される位置)まで流通した時点で、ウェル17に収容されているATP検出試薬溶液にP3の圧力を加えて、ATP検出試薬溶液を流路14を通じてマイクロチャネル12に導入し、検体液、ATP抽出試薬溶液及びATP検出試薬溶液の混合液をウェル18まで流通させる。この過程で、先に抽出されたATPは発光反応を起こし、発光する。この光を検出することによって、検体中の微生物を検出することができる。光を検出する際は、発光強度のピーク位置及びその前後で確実に光が検出されるように、すなわち、液体が図8に示される位置から図9に示される位置に至る過程、特に液体が蛇行部分を流通する過程で発光強度がピークを示すように、P1、P2又はP3を調節する。
【0048】
微生物検出装置100はマイクロチャネルチップ10を備えているので、これを用いれば、十分に高い精度及び感度で、かつ簡便な操作で短時間に、再現性よく検体中の微生物を検出することができる。
【0049】
また、微生物検出装置100では、発光領域で生じた光のうち、受光面24aと反対側に向かう光も、反射面19aで反射されて受光面24aに入射する。また、発光領域のうち反射板19及び受光部24に挟まれた部分ではマイクロチャネル12が蛇行状に密に形成されているので、受光面24a及び反射面19aに向かう光の量は極めて多い。従って、極めて高い感度で微生物を検出することができる。
【0050】
光検出器25としては、光電子増倍管、ルミノメーター、ゲルマニウムフォトダイオード、ガリウムヒ素フォトダイオード、フォトトランジスタ、CCD素子等を用いることができる。
【0051】
反射板19は、光を反射する材料で構成されていればよい。そのような材料としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、クロム、金、銅、鉄等の金属が挙げられる。
【0052】
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態に係るマイクロチャネルチップの平面図である。第2実施形態に係るマイクロチャネルチップ20は、図10に示されるように、マイクロチャネル12と、接続部13a及び14aの間に設けられた接続部26aでマイクロチャネル12に接続されている流路26を更に有し、流路26の端部に試薬溶液を収容するためのウェル27が設けられている点で、第1実施形態に係るマイクロチャネルチップ10と相違する。また、図10には示されていないが、三つの接続部13a、26a及び14aに対してマイクロチャネル12の一方の端部側の、マイクロチャネル12の内壁面、すなわちウェル15と接続部13aとの間の、マイクロチャネル12の内壁面に、ADP分解酵素を兼ねるATP分解酵素が固定化されている点で、第1実施形態に係るマイクロチャネルチップ10と相違する。
【0053】
本発明の第2実施形態の説明においては、ウェル16にATP抽出試薬溶液が、ウェル27にATP増幅試薬(I)溶液が、ウェル17にATP増幅試薬(II)及びATP検出試薬(以下、ATP増幅試薬(II)及びATP検出試薬を「ATP増幅−検出試薬」という。)の溶液が収容されているものとする。
【0054】
なお、本発明のマイクロチャネルチップにおいて、ATP抽出試薬及びATP検出試薬の他に更にATP増幅試薬を用いる場合、ATP増幅試薬がAMP、ポリリン酸、アデニル酸キナーゼ及びポリリン酸キナーゼからなる試薬であるとすると、ポリリン酸のみ、又はAMP及びポリリン酸と、ATP増幅試薬を構成するそれ以外の試薬とは別々にマイクロチャネルに導入されるのが好ましい。ポリリン酸のみ、又はAMP及びポリリン酸と、ATP増幅試薬を構成するそれ以外の試薬とが予め混合されていなければ、各種酵素(アデニル酸キナーゼ、ポリリン酸キナーゼ及びルシフェラーゼ)に不純物として混入している可能性の高いATPが増幅されることがなく、本発明のマイクロチャネルチップを用いた検体中の微生物の検出をより高い精度で行うことができる。
【0055】
マイクロチャネルチップ20では、まず、ウェル15に収容されている検体液をマイクロチャネル12に導入すると、接続部13aまでは検体液のみがマイクロチャネル12を流通する。この過程で、検体液中のバックグラウンドATP及びバックグラウンドADPは、マイクロチャネル12の内壁面に固定化されている、ADP分解酵素を兼ねるATP分解酵素によって分解除去される。次いで、ウェル16に収容されているATP抽出試薬溶液を流路13を通じてマイクロチャネル12に導入すると、検体液及びATP抽出試薬溶液の混合液が接続部26aまで流通する。この過程で、微生物中のATPが抽出される。次いで、ウェル27に収容されているATP増幅試薬(I)溶液を流路26を通じてマイクロチャネル12に導入すると、検体液、ATP抽出試薬溶液及びATP増幅試薬(I)溶液の混合液が接続部14aまで流通する。この過程では、ATP増幅試薬を構成する試薬のすべてがマイクロチャネル12に導入されているわけではないので、抽出されたATPの増幅は起こらない。最後に、ウェル17に収容されているATP増幅−検出試薬溶液を流路14を通じてマイクロチャネル12に導入すると、検体液、ATP抽出試薬溶液、ATP増幅試薬(I)溶液及びATP増幅−検出試薬溶液の混合液がウェル18まで流通する。この過程で、先に抽出されたATPは増幅されながら発光反応を起こし、発光する。この光を検出することによって、検体中の微生物を検出することができる。
【0056】
マイクロチャネル12のうちウェル15と接続部13aとの間の部分は蛇行状に形成されていて十分に長いので、検体液中のバックグラウンドATP及びバックグラウンドADPは、その部分の内壁面に固定化されている、ADP分解酵素を兼ねるATP分解酵素によってほぼ完全に分解除去される。また、マイクロチャネル12のうち接続部13aと接続部14aとの間の部分も蛇行状に形成されていて十分に長いので、微生物中のATPはATP抽出試薬によってほぼ完全に抽出される。更に、マイクロチャネル12のうち接続部14aとウェル18との間の部分も蛇行状に形成されていて十分に長いので、抽出されたATPは十分に増幅され、また、発光反応によって生じた光は発光強度のピーク位置で確実に検出することができる。
【0057】
マイクロチャネルチップ20を用いれば、検体液とATP抽出試薬、ATP増幅試薬(I)又はATP増幅−検出試薬とが混合される前に、バックグラウンドATP及びバックグラウンドADPがほぼ完全に分解除去されるので、微生物中のATPを十分に高い精度で検出することができる。また、ATP増幅試薬がATP検出試薬と同時か、又はそれより前に検体液と混合されるので、微生物中のATPをより高い感度で検出することができる。
【0058】
また、マイクロチャネルチップ20を用いれば、微生物中のATPの検出のためにATP分解酵素を失活させる必要がない。また、バックグラウンドATP及びATP分解酵素がマイクロチャネルという極めて狭い空間で接触するため、ATP分解反応が速く、バックグラウンドATPの除去が短時間で行われる。同様に、バックグラウンドADPの除去も短時間で行われる。また、検体液、ATP抽出試薬、ATP増幅試薬(I)及びATP増幅−検出試薬がマイクロチャネルという極めて狭い空間で混合されるため、短時間(数秒)でATP増幅反応及び発光反応が生じる。従って、十分に高い感度及び精度で、かつ短時間に微生物中のATPを検出することができる。
【0059】
更に、マイクロチャネルチップ20を用いれば、検体液、ATP抽出試薬、ATP増幅試薬(I)及びATP増幅−検出試薬がマイクロチャネルという極めて狭い空間で混合され、検体液と試薬との混合状態のバラツキが小さいので、ATP量測定結果の再現性を高めることができる。
【0060】
ADP分解酵素を兼ねるATP分解酵素としては、アピラーゼが挙げられる。
【0061】
(他の実施形態)
本発明の実施形態は、上記の第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではない。以下に他の実施形態を例示する。
【0062】
マイクロチャネル12の途中に設けられた少なくとも一つの接続部に対してマイクロチャネル12の一方の端部側の、マイクロチャネル12の内壁面には、ATP分解酵素の他に、更にADP分解酵素が固定化されていてもよい。ここで、ATP分解酵素は、ADP分解酵素を兼ねていても兼ねていなくてもよい。ADP分解酵素の固定化は、ATP分解酵素の固定化と同様に行うことができる。
【0063】
マイクロチャネル12に接続されている流路の数は1又は4以上であってもよい。
【0064】
流路の数が1である場合は、例えば、微生物中のATPを検出するための試薬としてATP抽出試薬及びATP検出試薬のみを用い、これらの試薬を一つの流路から同時にマイクロチャネル12に導入すればよい。
【0065】
流路の数が4である場合は、ATP抽出試薬、ATP増幅試薬(I)、ATP増幅試薬(II)及びATP検出試薬を四つの流路から別々にマイクロチャネル12に導入することができる。この場合、まず、ATP抽出試薬を最上流側の一つの流路から導入し、次いで、ATP増幅試薬(I)及びATP増幅試薬(II)を二つの流路から導入し(いずれが先でもよい)、最後に、ATP検出試薬を最下流側の一つの流路から導入する。また、いずれか一つ〜三つの流路を用いて、流路の数が1〜3の場合と同様に各種試薬をマイクロチャネル12に導入することができる。この場合、試薬の導入に使用されない流路の端部、又はここに設けられたウェルは蓋等で密閉しておく。
【0066】
流路の数が5以上である場合は、いずれか一つ〜四つの流路を用いて、流路の数が1〜4の場合と同様に各種試薬をマイクロチャネル12に導入することができる。この場合、試薬の導入に使用されない流路の端部、又はここに設けられたウェルは蓋等で密閉しておく。
【0067】
マイクロチャネルチップは、ウェルを有していなくてもよい。ウェルが設けられていないマイクロチャネル12又は流路への検体液又は各種試薬溶液の導入は、シリンジ等で行うことができる。マイクロチャネル12を流通した反応液を収容するためのウェル18を有していない場合は、反応液を収容するための容器等をマイクロチャネル12の下流側の端部に設けておけばよい。
【0068】
図11は、他の実施形態に係るマイクロチャネルチップの、マイクロチャネルの延び方向に平行で、基板の表面に垂直な平面で切断した部分断面図である。マイクロチャネル12に接続されている流路は、図11の流路28のように、基板11aの表面に垂直に形成されていてもよい。例えば、図11の流路28のように流路が基板11aの表面に開口している場合は、シリンジ等で各種試薬溶液を流路に注入することができる。
【0069】
図12及び図13は、他の実施形態に係るマイクロチャネルチップの、マイクロチャネルの延び方向に垂直な平面で切断した部分断面図である。図12に示されるように、マイクロチャネル12は、三層の基板11d〜11fのうちの中間層の基板11eに形成されていてもよい。また、図13に示されるように、マイクロチャネルチップは二層の基板11g及び11hからなるものでもよく、マイクロチャネル12を構成する溝は、二層の基板11g及び11hの両方に形成されていてもよい。
【0070】
マイクロチャネルの断面の形状は、正方形、台形、円形、半円形、楕円形等であってもよい。
【0071】
マイクロチャネル12及び流路には逆止弁が設けられていてもよい。逆止弁が設けられていると、液体の逆流を防いで、逆流によるトラブルを未然に防ぐことができる。
【0072】
微生物検出装置においては、ウェル15〜17が大気に開放され、ウェル18が蓋で覆われ、ポンプ内部に連通されていてもよい。この場合は、ポンプでウェル18の内部を減圧することによって、液体をマイクロチャネル12及び流路に流通させる。
【0073】
微生物検出装置には恒温装置が設けられていてもよい。マイクロチャネル12内で起こる反応は発熱又は吸熱を伴うため、反応温度を調節しないと、温度変化により反応が不安定になるおそれがある。また、温度が変化すると、液体が膨張して不要な気泡が発生し、マイクロチャネル12の目詰まりが生じるおそれがある。恒温装置が設けられていれば、そのようなトラブルを未然に防ぐことができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
図14は、実施例1において用いられたマイクロチャネルチップの平面図である。実施例1において用いられたマイクロチャネルチップ30は、図14に示されるように、蛇行状のマイクロチャネル31(幅33μm、深さ38μm、長さ160mm)、及びその両端部に設けられた二つのウェル32及び33を有する。マイクロチャネルチップ30は三層の基板からなり、基板29a(外層)及び基板29b(中間層)は各々、PDMS基板であり、もう一方の外層(図14には、示されていない。)はガラス基板である。マイクロチャネル31、ウェル32及び33は、基板29aに形成されている。
【0076】
アピラーゼ(Sigma社製、GradeVII)1.34mg/mLのバッファー(50mM Tris−HCl、8mM MgCl、pH 7.4)溶液をウェル32に注入し、この溶液をマイクロチャネル31に流通させた後、4℃で5時間インキュベートした。次いで、バッファー(50mMTris−HCl、8mM MgCl、pH 7.4)のみをマイクロチャネル31に流通させた。
【0077】
次いで、ATP1×10−7Mのバッファー(50mM Tris−HCl、8mM MgCl、pH 7.4)溶液をウェル32に注入し、この溶液をマイクロチャネル31に流通させた後、溶液100μLを回収し、これにルシフェリン及びルシフェラーゼを含有する試薬(ルシフェール250プラス、キッコーマン株式会社製)100μLを加えた。発光量(RLU)をルミテスターで測定し、溶液中のATP濃度を求めた。
【0078】
図15は、実施例1における反応時間(流通時間)とATP濃度との関係を示すグラフである。
【0079】
(比較例1)
アピラーゼ(Sigma社製、A6535)50ユニット/mLのリン酸バッファー(pH7.0)溶液200μLを透析チューブ(三光純薬株式会社製、UC8-32-25)に封入した。
【0080】
ATPのリン酸バッファー(pH 7.0)溶液中に上記透析チューブを1時間30分浸漬した後、溶液100μLを回収し、実施例1と同様に溶液中のATP濃度を求めた。
【0081】
図16は、比較例1における反応時間(浸漬時間)とATP濃度との関係を示すグラフである。
【0082】
図15及び図16から明らかなように、ATP濃度が反応前の濃度の約1/10に減少するのに、実施例1では1秒を要しなかったのに対して、比較例1では1.5時間を要した。すなわち、実施例1及び比較例1により、アピラーゼが固定化されたマイクロチャネルにATP溶液を流通させると、極めて短時間に多量のATPが分解除去されることが確認された。
【0083】
(実施例2)
図1〜図5に示される、第1実施形態に係るマイクロチャネルチップ10及び微生物検出装置100を用いた。基板11a及び11bとしてPDMS基板を、基板11cとしてガラス基板を用い、また、ATP分解酵素としてアピラーゼを用いた。
【0084】
検体液として大腸菌入りの10nM ATP溶液を、ATP抽出試薬として0.01%塩化ベンザルコニウムを、ATP検出試薬としてルシフェラーゼ(0.25mg/mL、和光純薬工業株式会社製)、D(−)−ルシフェリン(2.5mM、和光純薬工業株式会社製)及びMgCl・6HO(10mM)からなる試薬を用いて、上記マイクロチャネルチップ及び光検出器により発光量(CPS)を測定した。
【0085】
なお、検体液はウェル15から30μL/minで、ATP抽出試薬はウェル16から30μL/minで、ATP検出試薬はウェル17から60μL/minでマイクロチャネル12に導入した。光検出器としては、光電子増倍管(H7155、浜松ホトニクス株式会社製)を用いた。
【0086】
(比較例2)
ATP分解酵素がマイクロチャネルの内壁面に固定化されていない他はマイクロチャネルチップ10及び微生物検出装置100と同様の、マイクロチャネルチップ及び微生物検出装置を用いて、実施例2と同様の操作を行った。
【0087】
実施例2及び比較例2の結果を表1及び図17に示す。図17は、実施例2及び比較例2における、検体液中の大腸菌濃度と発光量との関係を示すグラフである。表1及び図17から明らかなように、ATP分解酵素が固定化されたマイクロチャネルチップを用いた場合は、検体液中の大腸菌濃度と発光量との間に明確な対応関係が認められたのに対して、ATP分解酵素が固定化されていないマイクロチャネルチップを用いた場合は、大腸菌濃度と発光量との間に明確な対応関係が認められなかった。すなわち、表1及び図17は、ATP分解酵素が固定化されたマイクロチャネルチップを用いれば、発光量を求めることによって検体液中の大腸菌濃度を十分に高い精度で求めることができることを示している。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例2及び比較例2により、本発明のマイクロチャネルチップ及び微生物検出装置を用いれば、十分に高い精度で微生物を検出することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のマイクロチャネルチップ及び微生物検出装置は、飲食品中の微生物(細菌、真菌等)の検出に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】第1実施形態に係るマイクロチャネルチップの平面図である。
【図2】第1実施形態に係るマイクロチャネルチップの、図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】第1実施形態に係るマイクロチャネルチップの、マイクロチャネルの延び方向に垂直な平面で切断した部分断面図である。
【図4】第1実施形態に係る微生物検出装置の平面図である。
【図5】第1実施形態に係る微生物検出装置の、図4の矢印Vの向きに見た側面図である。
【図6】マイクロチャネルに液体が流通している一時点の、第1実施形態に係る微生物検出装置の一部切欠き平面図である。
【図7】マイクロチャネルに液体が流通している一時点の、第1実施形態に係る微生物検出装置の一部切欠き平面図である。
【図8】マイクロチャネルに液体が流通している一時点の、第1実施形態に係る微生物検出装置の一部切欠き平面図である。
【図9】マイクロチャネルに液体が流通している一時点の、第1実施形態に係る微生物検出装置の一部切欠き平面図である。
【図10】第2実施形態に係るマイクロチャネルチップの平面図である。
【図11】他の実施形態に係るマイクロチャネルチップの、マイクロチャネルの延び方向に平行で、基板の表面に垂直な平面で切断した部分断面図である。
【図12】他の実施形態に係るマイクロチャネルチップの、マイクロチャネルの延び方向に垂直な平面で切断した部分断面図である。
【図13】他の実施形態に係るマイクロチャネルチップの、マイクロチャネルの延び方向に垂直な平面で切断した部分断面図である。
【図14】実施例1において用いられたマイクロチャネルチップの平面図である。
【図15】実施例1における反応時間(流通時間)とATP濃度との関係を示すグラフである。
【図16】比較例1における反応時間(浸漬時間)とATP濃度との関係を示すグラフである。
【図17】実施例2及び比較例2における、検体液中の大腸菌濃度と発光量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0092】
10…マイクロチャネルチップ、11a〜11h…基板、12…マイクロチャネル、13,14…流路、13a,14a…接続部、15〜18…ウェル、100…微生物検出装置、19…反射板、19a…反射面、21〜23…蓋、21a〜23a…チューブ、24…受光部、24a…受光面、25…光検出器、20…マイクロチャネルチップ、26…流路、26a…接続部、27…ウェル、28…流路、30…マイクロチャネルチップ、29a,29b…基板、31…マイクロチャネル、32,33…ウェル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチャネルと、
前記マイクロチャネルの途中に設けられた少なくとも一つの接続部で前記マイクロチャネルに接続されている流路と、を有し、
前記少なくとも一つの接続部に対して前記マイクロチャネルの一方の端部側の、前記マイクロチャネルの内壁面に、ATP分解酵素が固定化されていること
を特徴とするマイクロチャネルチップ。
【請求項2】
前記マイクロチャネルの前記内壁面に、更にADP分解酵素が固定化されていること
を特徴とする請求項1記載のマイクロチャネルチップ。
【請求項3】
前記ATP分解酵素がADP分解酵素を兼ねること
を特徴とする請求項1記載のマイクロチャネルチップ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロチャネルチップと、
前記マイクロチャネル内で生じた光を検出する光検出器と、を備えること
を特徴とする微生物検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−211967(P2008−211967A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172883(P2005−172883)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】