説明

マイクロドメインエマルションポリマー

【課題】接着剤配合物における軟質連続マトリックスによって提供される満足行く接着特性を有する、高いポリスチレン系マイクロドメイン含量のエマルションポリマーを提供する。
【解決手段】マイクロドメイン水性エマルションポリマーが提供される。このポリマーは−80〜−10℃のTgを有し、および80〜100重量%のアクリル系モノマーを含む第1ドメイン;並びに50〜120℃のTgを有し、および50〜100重量%のスチレン系モノマーを重合単位として含む架橋されていない第2ドメイン:を含み、第2ドメインの含量は第1ドメインと第2ドメインとの合計重量の6重量%より多く30重量%までの範囲である。このポリマーは接着剤およびバインダーをはじめとする用途に、特に感圧接着剤に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、複数の硬質離散ドメイン、すなわち文字通り「マイクロドメイン」を高含量で埋め込んだ軟質連続マトリックスを個々に有する水性エマルションポリマー粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
感圧接着剤に好適なマイクロドメイン構造ポリマー粒子は通常、膨潤重合技術によって合成される。高いマイクロドメイン含量のポリマーの形成を達成するために、他の合成方法が試みられてきた。現在の最新技術を用いても、マイクロドメイン形成段階における形態を制御することの困難さのせいでマイクロドメイン含量を増大させることができない。熱力学的因子および速度論的因子をはじめとする制限されたパラメータがそのプロセスが大規模バッチ製造に容易に適用されるのを妨げる。S.キルシュ(Kirsch)らは、シードとして異なる種類のカルボン酸と共重合されたポリ(アクリル酸n−ブチル)、および膨潤重合プロセスによって合成された小硬質ドメインとして6重量%のスチレンもしくは6重量%のメタクリル酸メチルからなるポリマー粒子を開示する。(Does morphology stick? Tailored particle morphologies by swelling polymerization process(形態はスティックするか?膨潤重合プロセスによって調節される粒子形態),S.Kirsch,M.Kutschera,N.Y.Choi,T.Frechen,Journal of Applied Polymer Science,第101巻、第3号、1444〜1455ページ)しかし、連続マトリックスにより提供される接着特性を犠牲にせずに、より高い含量のポリスチレンマイクロドメイン、並びに安定で時間効率的でかつ大規模実現可能な重合プロセスが依然として望まれる。
【0003】
米国特許第5,625,001号は、連続ポリアクリラートネットワーク中に約40重量%未満の硬質メタクリラートリッチマイクロドメインを有する、マイクロドメインアクリル系衝撃改良剤を開示する。このマイクロドメインは約20重量%〜約45重量%のビニル芳香族モノマーを含むことができ、逐次的もしくは段階的乳化重合プロセスを用いて第1ポリマー段階に形成される。しかし、第2段階ポリマーは架橋ドメインであり、約0.5重量%から約5重量%未満のグラフト結合性および/または架橋性モノマーを含み、高いマイクロドメイン含量に到達し、このドメイン形態を達成し、さらにドメイン構造によって付与される独特の特性に悪影響を及ぼすであろうコア/シェル構造の発生を回避する。この文献は、グラフト結合性または架橋性モノマーの寄与なしに高レベルのマイクロドメインが形成されうることを教示も示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,625,001A号明細書
【特許文献2】米国特許第6,552,116B1号明細書
【特許文献3】欧州特許第0040419B1号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0359562A2号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Does morphology stick? Tailored particle morphologies by swelling polymerization process(形態はスティックするか?膨潤重合プロセスによって調節される粒子形態),S.Kirsch,M.Kutschera,N.Y.Choi,T.Frechen,Journal of Applied Polymer Science,第101巻、第3号、1444〜1455ページ
【非特許文献2】Morphology and grafting in polybutylacrylate−polystyrene core−shell emulsion polymerization(ポリアクリル酸ブチル−ポリスチレンコア−シェル乳化重合における形態およびグラフト化)T.I.Min、A.Klein、M.S.El−aasser、J.W.Vanderhoff、Journal of Polymer Science,第21巻、2845〜2861ページ(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明によって取り組まれる課題は、対応する接着剤配合物における軟質連続マトリックスによって提供される満足行く接着特性を有する、高いポリスチレン系マイクロドメイン含量のエマルションポリマーを見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
−80〜−10℃のTgを有し、第1ドメインの重量を基準にして80〜100重量%のアクリル系モノマーを重合単位として含む第1ドメイン;並びに
50〜120℃のTgを有し、第2ドメインの重量を基準にして50〜100重量%のスチレン系モノマーを重合単位として含む架橋されていない第2ドメイン:を含み、第2ドメインの含量は第1ドメインと第2ドメインとの合計重量の6重量%より多く30重量%までの範囲である、水性エマルションポリマーに関する。
本発明は、
a)80〜100重量%のアクリル系モノマーを含む第1モノマーエマルションの反応器内での乳化重合工程;並びに
b)開始剤のコフィードと共に、50〜100重量%のスチレン系モノマーを含む第2モノマーエマルションの反応器への連続添加工程:を含むこのような水性エマルションポリマーを製造する方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の組成物における成分を説明する目的のために、挿入語句を含む全ての語句は挿入事項を含むおよび挿入語句がないものの両方、またはいずれかを示す。例えば、語句「(メタ)アクリラート」はアクリラート、メタクリラートおよびその混合物を意味し、本明細書において使用される語句「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリル、およびその混合物を意味する。
【0009】
本明細書において使用される場合、用語「水性」は水、もしくは混合物の重量を基準にして50重量%以下の水混和性溶媒と混合された水を意味するものとする。
【0010】
本明細書において使用される場合、用語「ポリマー」は樹脂およびコポリマーを含むものとする。
【0011】
本明細書において使用される場合、用語「スチレン系」とはスチレンもしくはその誘導体、例えば、メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、ブチルスチレンもしくはクロロスチレンなどの分子構造を含むモノマー、またはこれらの重合単位を含むポリマーをいう。
【0012】
本明細書において使用される場合、用語「アクリル系」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルまたはその修飾形態、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどの分子構造を含むモノマー、またはこれらの重合単位を含むポリマーをいう。
【0013】
本発明の第1形態においては、水性エマルションポリマーは第1ドメインを含み、この第1ドメインは重合単位としてアクリル系モノマーを含む。本明細書においては「第1ドメイン」は形態的に、他の離散した相もしくはドメインが埋め込まれるマトリックスを構成するポリマー粒子における連続相を意味する。好適なアクリル系モノマーには、例えば、1種以上の(メタ)アクリル酸C−C30アルキルモノマー、(メタ)アクリル酸C−C30シクロアルキル、もしくは(メタ)アクリル酸C−C30(アルキル)アリールモノマー、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソデシルおよび低Tgアクリル系モノマーが挙げられうる。好適な低Tgモノマーには、これに限定されないが、アクリル酸エチル(EA)、アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸t−ブチル(t−BA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸セチルエイコシル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル(BMA)、およびこの混合物が挙げられる。好ましいアクリル系モノマーはEA、BAおよび2−EHAから選択される。
【0014】
第1ドメインポリマーにおけるアクリル系モノマーの量は、第1ドメインポリマーの乾燥重量を基準にして80〜100重量%、好ましくは90〜100重量%、より好ましくは95〜100重量%の範囲である。第1ドメインポリマーは場合によっては非アクリル系モノマー、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルまたはその誘導体などを含むことができる。好ましくは、第1ドメインポリマーは非アクリル系モノマーを含まない。
【0015】
本発明のエマルションポリマー粒子における第1ドメインは−80〜−10℃、好ましくは−80〜−20℃、より好ましくは−70〜−30℃の低いガラス転移温度(Tg)を有する。
【0016】
本明細書において使用されるTgはフォックス式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,第1巻、第3号、123ページ(1956年))を用いることにより計算されるものである。すなわち、モノマーM1およびM2のコポリマーのTgを計算するために
【数1】

式中、Tg(calc.)はコポリマーについて計算されるガラス転移温度であり、w(M1)はコポリマー中のモノマーM1の重量分率であり、w(M2)はコポリマー中のモノマーM2の重量分率であり、Tg(M1)はM1のホモポリマーのガラス転移温度であり、およびTg(M2)はM2のホモポリマーのガラス転移温度であり、全ての温度はK単位である。ホモポリマーのガラス転移温度は例えば「Polymer Handbook(ポリマーハンドブック)」J.Brandrup(ブランドラップ)およびE.H.Immergut(イメルグート)、Interscience Publishers(インターサイエンスパブリシャーズ)に認められうる。
【0017】
本発明の水性エマルションポリマーは架橋されていない第2ドメインを含み、この第2ドメインは重合単位としてスチレン系モノマーを含む。本明細書においては「第2ドメイン」は形態的に、ポリマー粒子において「第1ドメイン」のマトリックス中に埋め込まれている離散した相もしくはドメインを意味する。好適なスチレン系モノマーには、例えば、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、ブチルスチレン、もしくはクロロスチレン、またはその混合物が挙げられうる。好ましくは、スチレン系モノマーはスチレンである。
【0018】
本明細書においては、「架橋されていないドメイン」は架橋性モノマーもしくはグラフト架橋性モノマーを重合残基として実質的に含まないか、または第2段階ポリマーの全重量を基準にして0.5重量%未満しか含まないポリマー構造を意味する。本明細書においては、「架橋性モノマー」は他のモノマーと共重合可能なジ−もしくは多−エチレン性不飽和モノマーをいい、これらエチレン性不飽和基はほぼ等しい反応性を有し、例えば、ジビニルベンゼン(DVB);グリコルジ−およびトリ−(メタ)アクリラート、例えば、1,4−ブチレングリコールジメタクリラート、1,2−エチレングリコールジメタクリラート、および1,6−ヘキサンジオールジメタクリラート;トリオールトリ(メタ)アクリラート、フタル酸ジアリルなどである。本明細書においては、「グラフト架橋性モノマー」は他のモノマーと共重合可能で、かつその重合後にポリマー中に有意な残留不飽和を残すのに充分に低い反応性の不飽和基を有するジ−もしくは多−エチレン性不飽和モノマーをいい、例えば、メタクリル酸アリル(ALMA)、アクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、アクリルオキシプロピオン酸アリルなどである。本明細書においては「実質的に含まない」とは、全く含まないか、または物質の有効量未満しか含まないか、もしくは不純物としての痕跡量しか含まないことを意味するものとする。
【0019】
第2ドメインポリマーにおけるスチレン系モノマーの量は、第2ドメインポリマーの乾燥重量を基準にして50〜100重量%、好ましくは80〜100重量%、およびより好ましくは90〜100重量%の範囲である。
【0020】
本発明のエマルションポリマー粒子における第2ドメインは50〜120℃、好ましくは80〜110℃、より好ましくは85〜105℃の高いTgを有する。
【0021】
水性エマルションポリマーの望まれる硬質マイクロドメイン含量および性能特性の観点から、第2ドメインの重量パーセントが、第1ドメインと第2ドメインとの合計重量を基準にして6重量%より多く30重量%まで、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは20〜25重量%の範囲にあることが有利である。
【0022】
本発明のある実施形態においては、エマルションポリマー粒子は個々に上述の第1ドメインおよび第2ドメインの2種のドメインからなる。
【0023】
本発明の別の実施形態においては、エマルションポリマー粒子は個々に、例えば、3種のドメインの合計重量を基準にして0.01〜40重量%の量で存在する80〜220℃のTgを有する第3のドメインをさらに含むような3種以上のドメインからなる。この第3段階の重合は2段階マイクロドメインポリマー粒子をベースにして行われることができ、第1段階ポリマーに埋め込まれる別の種類のドメインを形成するか、またはこの2段階ポリマー粒子に対してシェル構造を構成することができる。追加の段階のポリマーはマイクロドメインを導入することもできることが意図され、これは例えばプラスチックに対する衝撃改質剤としてのような潜在的な用途要求に従って設計される。存在する場合には、これら追加のドメインはアクリル系モノマー、スチレン系モノマーもしくは官能性モノマー、例えば、上記架橋性モノマーもしくはグラフト架橋性モノマーなどから形成されうる。
【0024】
エマルションポリマー粒子の平均粒子直径は、ニューヨーク州、ホルツビルのブルックハーベンインスツルメンツコーポレーションにより供給されるブルックハーベン(BROOKHAVEN商標)モデルBI−90パーティクルサイザーによって測定して、50〜600ナノメートル、好ましくは150〜550ナノメートルである。
【0025】
本発明の第2形態はa)80〜100重量%のアクリル系モノマーを含む第1モノマーエマルションの反応器内での乳化重合工程;並びに
b)開始剤のコフィードと共に、50〜100重量%のスチレン系モノマーを含む第2モノマーエマルションの反応器への連続添加工程;を含み
前記工程b)が実質的に架橋性モノマーを含まない、水性エマルションポリマーを製造する方法を提供する。
【0026】
水性エマルションポリマーを製造するために使用される重合技術は当該技術分野において周知である。乳化重合プロセスにおいては、従来の界面活性剤、例えばアニオン性および/または非イオン性乳化剤など、例えば、アルキル、アリールもしくはアルキルアリールスルファート、スルホナートもしくはホスファートのアルカリ金属もしくはアンモニウム塩;アルキルスルホン酸;スルホスクシナート塩;脂肪酸;エチレン性不飽和界面活性剤モノマー;およびエトキシ化アルコールもしくはフェノールなどが使用されうる。使用される界面活性剤の量は通常、モノマーの重量を基準にして0.05重量%〜6重量%である。熱もしくはレドックス開始プロセスが使用されうる。反応の過程を通じて、反応温度は通常100℃未満の温度に維持される。好ましいのは、30℃〜95℃、より好ましくは50℃〜90℃の反応温度である。モノマー混合物はそのままでもしくは水中のエマルションとして添加されうる。第1段階モノマー混合物は1回以上の添加で、もしくは反応期間にわたって連続的に、線形的にもしくはそうでなく、またはこの組み合わせで添加されることができ、第2段階モノマー混合物は連続的に添加される。
【0027】
従来のフリーラジカル開始剤、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過硫酸アンモニウムおよび/またはアルカリ金属、過ホウ酸ナトリウム、過リン酸およびその塩、過マンガン酸カリウム、並びにペルオキソ二硫酸のアンモニウムもしくはアルカリ金属塩などが、典型的には、全モノマーの重量を基準にして0.01重量%〜3.0重量%の量で使用されうる。好適な還元剤、例えば、ナトリウムスルホキシラートホルムアルデヒド、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、硫黄含有酸のアルカリ金属およびアンモニウム塩、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム、硫化ナトリウム、水硫化ナトリウムもしくは亜ジチオン酸ナトリウム、ホルマジンスルフィン酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、アセトンビスルフィット(acetone bisulfite)、アミン、例えば、エタノールアミン、グリコール酸、グリオキシル酸水和物、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸および前記酸の塩などと一緒になった同じ開始剤を使用するレドックスシステムが使用されうる。鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウムもしくはコバルトのレドックス反応触媒金属塩が使用されうる。この金属のためのキレート剤が場合によって使用されうる。
【0028】
エマルションポリマーの分子量を低減させるために、および/または連鎖移動剤を使用しなければフリーラジカル発生開始剤を使用して得られたであろうものとは異なる分子量分布を生じさせるために、連鎖移動剤、例えば、ハロゲン化合物、例えば、テトラブロモメタン;アリル化合物;またはメルカプタン、例えば、アルキルチオグリコラート、アルキルメルカプトアルカノアート、およびC−C22線状もしくは分岐アルキルメルカプタンなどが使用されうる。連鎖移動剤は1回以上の添加でまたは連続的に線形的にもしくはそうでなく、全反応期間のほとんどもしくは全てにわたって、もしくは反応期間の限定された部分中で、例えば、ケトルチャージでおよび残留モノマー段階のリダクションなどにおいて添加されうる。連鎖移動剤は典型的には、水性エマルションポリマーを形成するのに使用されるモノマーの全重量を基準にして0〜5重量%の量で使用される。連鎖移動剤の好ましい量は、水性エマルションポリマーを形成するのに使用されるモノマーの全モル数を基準にして0.01〜1.0モル%、より好ましくは0.02〜0.4モル%、最も好ましくは0.05〜0.2モル%である。
【0029】
エマルションポリマー粒子の望ましい形態の確認は、ポリマー粒子を直接試験することによって、最小熱履歴(minimum heat history)で膜をキャスティングし、次いでその膜を試験するか、または成形部品を試験することによってなされうる。このサンプルは選択的に染色されて、スチレン系基もしくはアクリル系基を目立たせることができ;最も有効なものはスチレン基についてはルテニウム染色技術である(Trent(トレント)ら、Macromolecules,16,588(1983))。TEM実験において、ポリスチレン系ドメインの束を有する本発明のエマルションポリマー粒子が観察され、これら束は埋め込んでいるマトリックスに均一に分布する。
【0030】
マイクロドメインエマルションポリマーは、このポリマーをアジュバント、例えば、粘着付与剤、顔料、乳化剤、造膜助剤、緩衝剤、中和剤、増粘剤もしくはレオロジー調節剤、保湿剤、湿潤剤、殺生物剤、可塑剤、消泡剤、着色剤、ワックスおよび酸化防止剤などと一緒にすることにより、接着剤、特に感圧接着剤、シーラント、織物もしくは布地不織布バインダー、エラストマー性コーティングもしくはコーキング組成物の1成分として使用されうる。
本発明において説明されるエマルションポリマー粒子および形態は、この粒子における6重量%より多く30重量%以下のより安価なスチレン系ドメインの組み込みのせいで、原料のコスト節約の顕著な利点を示す。純粋なアクリル酸ブチルマイクロドメインを含むポリマーエマルションと比較して、コストが5〜15%低減されうる。ポリマー中で6重量%以下の含量のスチレン系ドメインを有する場合には、本発明のポリマーと匹敵するもしくはわずかに良好な感圧接着剤としての性能にもかかわらず、満足のいくコスト削減をもたらさない。30重量%を超えるスチレン系モノマーを有する場合には、プラントの取り扱いにおける安全上の問題を引き起こす傾向があり、これは本発明者の実験室操作において観察される。さらに、硬質ドメインは約30重量%のような高含量水準において接着剤材料の剪断抵抗を有意に向上させることが観察される。さらに、当該技術分野において知られているように、より多くのポリスチレン系ドメインがポリマー粒子に埋め込まれると、そのドメインはその粒子に対してより疎水性に寄与し、このことは、接着剤材料としてのエマルションポリマーの耐水性を有意に向上させる。
【0031】
本明細書においては、それぞれの好ましい技術的解決策およびより好ましい技術的解決策における技術的特徴が互いに組み合わせらることができ、他に示されなくても新たな技術的解決策を形成することができる。簡潔さのために、出願人はこれらの組み合わせについての記載を省略する。しかし、これら技術的特徴の組み合わせによって得られる全ての技術的解決策は本明細書に文字通り明確に記載されているとみなされるべきである。
【実施例】
【0032】
I.原料の略語
【表1】

【0033】
II.試験方法
サンプル調製:サンプルはコロナ処理された新しいOPPフィルム上に直接コーティングされ、110℃で5分間乾燥させられた。OPPフィルムの厚みは約30μmであった。コーティング重量は約21±1g/mに調節された。乾燥したサンプルは試験前に恒温室(25±2℃、RH60±5%)で一晩コンディショニングされた。
ループタックテスト:サンプルはFINAT試験方法No.9(FINAT=欧州ラベル印刷団体)に従ってステンレス鋼板の上で試験された。
剥離強度試験:90°での剥離強度試験についてのFINAT試験方法No.2。
剪断抵抗試験:剪断抵抗試験についてのFINAT試験方法No.8。
サンプルの合成:例示の目的のためだけに、以下の実施例1〜8は、アクリル酸ブチル第1段階およびスチレン第2段階を有する接着剤ラテックスの製造についての一般的なプロセスを記載する。本明細書において開示されない反応パラメータ、反応物質および単離手順に対する微細な修正および変更がなされうることが認識される。
【0034】
実施例1
攪拌装置、液体添加手段、還流凝縮器および窒素スパージラインを備え付けた好適な反応釜に、590.0gのDI水および13.7g(固形分基準)の100nmのシードラテックスを入れ、少なくとも10分間窒素でスイープした。別に、1401.0gのBA、26.2gのMAA、404.6gのDI水および14.5gの乳化剤(22.5%、DBS)を一緒にすることにより第1段階モノマーエマルションが準備された。別に、617.8gのスチレン、130.4gのDI水および6.2gのDBS乳化剤を一緒にすることにより第2段階モノマーエマルションも準備された。
窒素雰囲気下で釜の水が88℃に加熱された。攪拌した釜に30.0gのDI水中の0.8gのNaCOおよび30gのDI水中の8.2gのAPSを添加した。次いで、第1段階モノマーエマルションおよび40gのDI水中の1.5gのNaCOの溶液を60分間にわたってフラスコに添加した。反応器温度は88℃に維持された。90gのDI水中の4.1gのAPSの溶液を第1段階モノマーエマルション供給の開始時に添加し、第2段階供給の後に終了させた。
第1段階モノマーエマルションの供給が終わったときに、モノマーエマルション供給ラインおよびNaCO供給ラインをすすぐために、それぞれ60gおよび5gのDI水が添加された。この反応器は冷却され85℃で10分間維持された。APS供給は維持され、第2段階モノマーエマルション供給が開始された。第2段階モノマーエマルションは連続的に66分間にわたって添加され、次いでモノマーエマルション供給ラインおよびAPS供給ラインをすすぐために、それぞれ60gおよび5gのDI水が添加された。
反応器内容物の75℃への冷却中に2.1gの硫酸第一鉄(0.5%)および10.0gの60nmポリマーラテックスが添加された。次いで、温度を75℃に保持しつつ、50gのDI水中の4.13gのt−AHP(85%水性)および50gのDI水中の2.22gのSSFが反応器に90分間にわたって添加された。反応器の内容物を50℃に冷却し、次いで、水酸化アンモニウムでpH7.0〜8.0に中和した。このラテックスは100メッシュおよび325メッシュチーズクロスを通してろ過され、エマルション中のゲルを除いた。さらなる配合なしに適用試験が行われた。
【0035】
実施例2
実施例2の合成においては実施例1におけるのと同じ装置が使用された。最初に、590.0gのDI水および13.7(固形分基準)の100nmのシードラテックスを入れ、少なくとも10分間窒素でスイープした。別に、1503.0gのBA、26.2gのMAA、404.6gのDI水および14.5gの乳化剤(22.5%、DBS)を一緒にすることにより第1段階モノマーエマルションが準備された。別に、515.5gのスチレン、130.4gのDI水および6.2gのDBS乳化剤を一緒にすることにより第2段階モノマーエマルションも準備された。
2つの段階の重合、残留モノマーの除去、中和およびろ過の手順は実施例1と同じであった。
【0036】
実施例3
実施例3の合成においては実施例1におけるのと同じ装置が使用された。最初に、590.0gのDI水および13.7(固形分基準)の100nmのシードラテックスを入れ、少なくとも10分間窒素でスイープした。別に、1605.1gのBA、26.2gのMAA、404.6gのDI水および16.1gの乳化剤(22.5%、DBS)を一緒にすることにより第1段階モノマーエマルションが準備された。別に、413.3gのスチレン、130.4gのDI水および4.81gのDBS乳化剤を一緒にすることにより第2段階モノマーエマルションも準備された。
2つの段階の重合、残留モノマーの除去、中和およびろ過の手順は実施例1と同じであった。
【0037】
実施例4
実施例4の合成においては実施例1におけるのと同じ装置が使用された。最初に、590.0gのDI水および13.7(固形分基準)の100nmのシードラテックスを入れ、少なくとも10分間窒素でスイープした。別に、1708.0gのBA、30.4gのMAA、446.8gのDI水および17.5gの乳化剤(22.5%、DBS)を一緒にすることにより第1段階モノマーエマルションが準備された。別に、306.8gのスチレン、80.2gのDI水および3.14gのDBS乳化剤を一緒にすることにより第2段階モノマーエマルションも準備された。
2つの段階の重合、残留モノマーの除去、中和およびろ過の手順は実施例1と同じであった。
【0038】
実施例5
実施例5の合成においては実施例1におけるのと同じ装置が使用された。最初に、590.0gのDI水および13.7(固形分基準)の100nmのシードラテックスを入れ、少なくとも10分間窒素でスイープした。別に、1809.0gのBA、32.2gのMAA、473.1gのDI水および18.5gの乳化剤(22.5%、DBS)を一緒にすることにより第1段階モノマーエマルションが準備された。別に、204.5gのスチレン、53.5gのDI水および2.09gのDBS乳化剤を一緒にすることにより第2段階モノマーエマルションも準備された。
2つの段階の重合、残留モノマーの除去、中和およびろ過の手順は実施例1と同じであった。
【0039】
実施例6、7および8
実施例6、7および8は対応して実施例1、2および3の手順に基づいて製造された。違いは以下の通りであった:
第1段階モノマーエマルションの製造においてMAAモノマーを等しい重量のAAモノマーで置き換えた。
2.1gの硫酸第一鉄(0.5%)の添加、次いで20gのDI水中の1.03gのt−AHP(85%水性)および10gのDI水中の0.55gのSSFの15分間にわたる添加によって、段階間での残留モノマー除去が行われた。
第2段階重合の開始剤が30gDI水中の2.06gのt−AHPおよび30gのDI水中の1.11gのSSFに変更された。
他の段階的な手順は実施例1と同じように維持された。
【0040】
実施例9
実施例9はBAが全部EHAに置き換えられたことを除いて、実施例1に基づいて製造された。他の段階的な手順は実施例1と同じように維持された。
【0041】
実施例10
攪拌装置、液体添加手段、還流凝縮器および窒素スパージラインを備え付けた好適な反応釜に、597.0gのDI水、6.90gのSLS(28%)、2.74gのアンモニア溶液(25%)および3.73gの補助乳化剤を入れ、少なくとも10分間窒素でスイープした。別に、888.0gのEHA、41.9gのAA、844.4gのEA、45.5gのSty、430.0gのDI水、6.90gのSLS(28%)、4.62gのKOHおよび2.50gの補助乳化剤を一緒にすることにより第1段階モノマーエマルションが準備された。
窒素雰囲気下で釜の水が83℃に加熱された。攪拌した釜に26gのDI水中の7.79gのAPS、および70.0g(固形分基準)の100nmシードラテックスを添加した。次いで、第1段階モノマーエマルションおよび100gのDI水中の2.6gのAPSの溶液を90分間にわたってフラスコに添加した。反応器温度は83℃に維持された。
第1段階モノマーエマルションの供給が終わったときに、エマルション供給ラインおよびAPS供給ラインをすすぐために、それぞれ60gおよび5gのDI水が添加された。冷却し、反応温度を55℃に保持し、3.2gの硫酸第一鉄(0.5%)を添加した。次いで、温度を55℃に保持しつつ、10gのDI水中の2.9gのt−BHP(70%水性)および10gのDI水中の1.7gのSSFが反応器に30分間にわたって添加された。
別の反応器に1680gの製造された第1段階ラテックスを移し、85℃に加熱した。加熱中に、50.0gのDI水、1.8gの乳化剤(22.5%、DBS)および200gのStyを一緒にすることによって第2段階モノマーエマルションが準備された。温度が85℃に到達したときに、3.2gの硫酸第一鉄(0.5%)が添加された。次いで、温度を85℃に保持しつつ、75gのDI水中の1.4gのAPS、75gのDI水中の1.4gのIAAおよび第2段階モノマーエマルションと混合された1.3gのt−AHP(85%水性)を反応器に90分間で添加した。供給の終わりに、モノマーエマルション供給ラインおよびレドックス供給ラインをすすぐために、それぞれ55gおよび5gのDI水が添加された。
反応器の内容物を75℃に冷却し、25gのDI水中の1.7gのt−AHP(85%水性)および25gのDI水中の1.00gのIAAを反応器に30分間で添加した。
50℃に冷却した後、内容物を水酸化アンモニウムでpH7.0〜8.0に中和した。このラテックスは100メッシュおよび325メッシュチーズクロスを通してろ過され、ゲルを除いた。次いで、さらなる配合なしに適用試験が行われた。
【0042】
実施例11
この実施例は、実施例の性能試験における市販の感圧接着剤ベンチマークとしてロームアンドハースカンパニーによって製造されたRobond商標PS−90ポリマーラテックスを使用した。
【0043】
実施例12
実施例1〜10において調製されたマイクロドメインポリマー粒子構造の試験については、10%の各ポリマーエマルションが、アクリル酸ブチル52重量部/メタクリル酸メチル46.6重量部/メタクリル酸1.3重量部のバインダーエマルションと一緒にされた。サンプルはフィルムに乾燥させられて、低温切開され、四酸化ルテニウム蒸気に15分間曝露された。次いで、STEM実験によってマイクロドメイン形態が確認された。結果は、ポリスチレン系ドメインの束が実施例1〜10のサンプル中に観察されて、これらの束は埋め込んでいるマトリックス中に均一に分布していたことを示した。実施例1〜10における第2ドメインの含有量は第1ドメインと第2ドメインとの合計重量を基準にして30、25、20、15、10、30、25、20、30、および20重量パーセントであって、このことは第2ドメインが6重量%より多く30重量%以下、あるいは10重量%〜30重量%の範囲である場合に上記マイクロドメインポリマー形態が達成されたことを示した。
【0044】
上記実施例1〜11のエマルションポリマーの乾燥フィルムはフィンガータックによって最初に試験された。全てのサンプルは、接着剤製品によって有されるべき満足のいくフィンガータック性能を示した。特に、実施例1〜9のサンプルがOPPフィルムにコーティングされ、紙に接着された後、この紙は全て接着部分で引き裂かれ、このことはこれらサンプルが満足のいく感圧接着剤材料であったことを示した。さらに、上記試験方法に従って感圧接着剤特性のさらなる試験が行われ、試験結果が表1に示された。
【0045】
【表2】

注:破壊モードキー、接着破壊については「A」および凝集破壊については「C」。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−80〜−10℃のTgを有し、第1ドメインの重量を基準にして80〜100重量%のアクリル系モノマーを重合単位として含む第1ドメイン;並びに
50〜120℃のTgを有し、第2ドメインの重量を基準にして50〜100重量%のスチレン系モノマーを重合単位として含む架橋されていない第2ドメイン:を含み、
第2ドメインの含量は第1ドメインと第2ドメインとの合計重量の6重量%より多く30重量%までの範囲である;
水性エマルションポリマー。
【請求項2】
スチレン系モノマーがスチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレンおよびこの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の水性エマルションポリマー。
【請求項3】
アクリル系モノマーが(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびこの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の水性エマルションポリマー。
【請求項4】
第1ドメインが−80〜−20℃のTgを有する請求項1に記載の水性エマルションポリマー。
【請求項5】
第2ドメインが80〜110℃のTgを有する請求項1に記載の水性エマルションポリマー。
【請求項6】
第2ドメインの含量が第1ドメインと第2ドメインとの合計重量の10重量%〜30重量%の範囲である、請求項1に記載の水性エマルションポリマー。
【請求項7】
第2ドメインの含量が第1ドメインと第2ドメインとの合計重量の20重量%〜25重量%の範囲である、請求項6に記載の水性エマルションポリマー。
【請求項8】
a)80〜100重量%のアクリル系モノマーを含む第1モノマー供給物の反応器内での乳化重合工程;並びに
b)開始剤のコフィードと共に、50〜100重量%のスチレン系モノマーを含む第2モノマー供給物の反応器への連続添加工程:を含み、
工程b)が架橋性モノマーを実質的に含まない;
請求項1に記載の水性エマルションポリマーを製造する方法。
【請求項9】
請求項1に記載の水性エマルションポリマーを含む接着剤。
【請求項10】
請求項1に記載の水性エマルションポリマーを含む織布もしくは不織布バインダー。

【公開番号】特開2012−1717(P2012−1717A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−120928(P2011−120928)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】