説明

マイクロバルブ

一方向バルブ1は、座5と、座5上に引き伸ばされた内側部4aを有する薄膜4とを有し、使用時に、薄膜内側部4aは選択的に座5から偏位して、薄膜4の一方の側から他方の側へ延びる流路を形成してバルブ1を開く。薄膜4の偏位を内側部4aのみに制限するように、薄膜4の外側周縁部4bは内側部4aよりも硬く構成されている。一方向バルブ1は注入システム40のためのポンプ20に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
人間や動物の体に対する治療薬品の投与をプログラムに従って行う装置においては、一般的にポンプ室やバルブ手段と協動して動作し、治療薬品が加圧された状態で貯留された貯留室を備えている。このような装置は、チューブを介して、患者の肌に刺されたカニューレへ治療薬品を圧送する。また、このような装置は、数日間に亘って変化し得る注入率にて患者に治療薬品を注入することができる。本発明は、ポンプ室に用いられる改良されたマイクロバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
治療薬品を人間や動物に投与する方法には様々な方法があるが、しばしば、治療薬品に求められる特定の要求や治療薬品の効能に合わせた投与方法が用いられる。一般的に経口投与が好まれるが、インシュリンのようないくつかの治療薬品については、消化管を介さずに投与しなければならない場合や、作用する箇所に直接に投与する方が効果的な場合がある。
【0003】
消化管を介さない投与方法は、所謂非経口投与として知られており、治療薬品を液体として循環器へ直接投与する。この投与方法では、治療薬品のボーラス投与を行う注射器もしくはそれと等価の装置や、治療薬品を継続的に、また場合によってはプログラムに従って、投与する注入システムが用いられる。このように、制御された治療薬品の投与は治療薬品の臨床要求により適合しているので、しばしば、より良い治療調整ができ、毒性を減少させることができることは明らかである。
【0004】
糖尿病患者の血糖値を調整するための強化インシュリン療法の需要が増加している。インシュリン療法では、糖尿病ではない人の日々のインシュリン分泌パターンを模倣して定期的にインシュリンを投与することが糖尿病患者に求められる。糖尿病ではない人のインシュリンの分泌パターンは複雑である。通常、空腹時の血糖値を調整するインシュリン基礎レベルがある。インシュリン基礎レベルは、摂取された食物から分泌された血糖値の増加を抑制するべく生じる一時的な増加によって補われる。
【0005】
上記の需要に対応するために、脈動ポンプ室と協働して動作し、正の圧力が作用する貯留室に基づき、多くの注入システムが登場した。この脈動ポンプ室は、その入口及び/又は出口において作動する単一方向チェックバルブを有している。
【0006】
従来の注入システムが米国特許第4486190号に記載されている。同公報記載の注入システムでは、治療薬品が正の圧力を印加された状態で貯留室内に収容されている。治療薬品は、入口バルブを構成する一方向チェックバルブを介して、貯留室からポンプ室へと引出される。流量制限器がポンプ室の出口に設けられている。ポンプ室の薄膜を引くと、ポンプ室の体積が増加してポンプ室の圧力を低下させる。このことにより、入口バルブを横切る圧力差が増加して予め設定された動作圧力を超え、これに応答して入口バルブが開く。この結果、治療薬品がポンプ室内へ入る。ポンプ室の薄膜はソレノイドの動作を受けて移動する。ソレノイドは、開放されると、ポンプ室薄膜を初期位置へ戻す。入口バルブは、伸縮バネの動作を受けて閉じ、治療薬品は出口及び流量制限器を介してポンプ室から出てポンプ室を空にする。米国特許第4486190号公報記載のシステムは、ポンプ室の充填効率が出口における圧力による影響を受けるという欠点を有している。更にこのシステムは、入口バルブにおける漏れにより治療薬品の流れを制御できなくなることを許容しやすい設計となっている。これを防止するために、入口バルブの動作圧力を高めることができるが、そうするとポンプの性能を低下させてしまう。
【0007】
米国特許第4152098号には、注入システムに用いられるマイクロポンプが開示されている。マイクロポンプの入口及び出口には一方向チェックバルブが設けられている。各一方向チェックバルブは、2つの剛性のある層の間にゴムの薄膜を挟むことにより構成されている。バルブの部分においては、一方の剛性のある層は突出部を有しており、突出部に対する凹部が他方の剛性のある層に形成されている。流体の導管が、薄膜で覆われた突出部の中央を貫いて上方に延びている。薄膜には、突出部における流体導管の開口からオフセットした位置に穴が形成されている。組み立て時に、薄膜は、一方の剛性のある層上に配置され、一方又は両方の剛性のある層に対し接着されることにより、正しい位置に固定される。ここで、薄膜を剛性のある層へ接着するのは、組み立て時に薄膜が動かないようにして、薄膜が突出部上に延びて確実にシールを達成するようにするためである。組み立て工程においてこのように薄膜を接着しなければならないことは、マイクロポンプの製造を著しく複雑にしている。また、組み立てに関する問題点が生じる可能性や接着剤が漏出する可能性を増加させている。これらの問題は、マイクロポンプを更に小型化しようとすれば顕著に増加する。
【0008】
治療薬品が制御できない状態で患者に流入してしまうことが一切許されない注入システムに用いられるマイクロポンプに対しては、十分に高い動作圧力を有するポンプ室の出口に対して一方向チェックバルブを設け、予め想定される動作環境において液体が自由に流れてしまうことを防止する必要がある。出口バルブの動作圧力はポンプ室のポンプストロークにより発生する圧力に打ち負かされるように設計されている。その一方で入口に設けられる一方向チェックバルブは、十分にシールを達成し、且つポンプ室の充填ストロークが始まると入口バルブがただちに開くことを許容するように、相対的に低い動作圧力を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した先行技術では、バルブは、従来より知られている機械加工を使用して組み立てられており相対的に大きい。更に、これら装置は、使い捨てたり、短期間しか使われないものとしてはふさわしくない。
【0010】
WO 02/068823号公報には、別の受動的な薄膜タイプのマイクロバルブとして、切り抜きが形成された多層より形成されたものが記載されている。組み立てられたバルブは貫通孔が形成された薄膜を有している。バルブの入口は薄膜の一方の側に配置され、バルブの出口は他方の側に配置されている。薄膜における貫通孔の周囲のすぐ近傍の領域は弁座上に延びており、バルブが閉じると薄膜はこの弁座上に載置される。この公報でも、バルブの入口における正の流体圧力が、定義されていない漠然とした動作圧力を上回ると、薄膜が弁座から偏位して、流体は小さな貫通孔を通りバルブの出口から流れ出ることが可能となる。流体の圧力が低下すると、薄膜が弁座へと戻り、バルブが閉じる。このタイプのバルブは、動作圧力に影響する要因に対する考慮がなされているため、米国特許第4486190号公報記載のものよりもわずかながら改善されている。しかし、薄膜の材料は本質的に柔軟であるため、製造時に流入口、流出口、及び弁座間の位置合わせミスが生じる。これは、動作圧力の制御に有害な影響を与える。また、このタイプのバルブ構造では、装置の組み立て時にバルブの薄膜の張力を正確に制御できないため、バルブの性能にばらつきがでてしまう。
【0011】
したがって、この技術分野では、マイクロポンプに用いられる一方向マイクロバルブを、非常に小型で、軽量で、低価格で、使い捨て可能であり、正確に決められた動作圧力を有するように改善することが要求されている。マイクロバルブは、また、様々な応用に対応して様々な寸法にて製造されること、及び予め正確に定められた動作圧力の範囲を有するように製造されることに適しているべきである。上記及び他の目的は、以下の本発明の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点によれば、本発明は、座と、座上に引き伸ばされた内側部を有する薄膜とを有し、薄膜の内側部は使用時に選択的に座から偏位することにより薄膜の一方の側から他方の側へ延びる流路を形成してバルブを開き、薄膜の偏位を内側部のみに制限するように、薄膜の外側周縁部が内側部よりも硬く構成されている一方向バルブを提供している。
【0013】
本発明によれば、正確に設定された動作圧力を有する一方向バルブを提供することができる。薄膜の偏位を内側部のみに制限するように薄膜の外側周縁部が内側部よりも硬く構成されているため、製造時において、薄膜の外側部と弁座とが整合するように位置合わせすることが可能となっている。また、薄膜のうち偏位可能な部分を弁座のすぐ近くの位置に制限することができる。このため、製造したひとまとまりのバルブの全体にわたって正確に定められ一貫性のある動作圧力を提供可能である。
【0014】
薄膜外側部を硬く構成することは様々な方法により達成できる。本発明の好ましい実施の形態では、薄膜の外側部に剛性を有する枠が埋め込まれている。圧力を弁座の周囲に均一に分布させるために、剛性を有する枠を環状に形成し、一方向バルブがその直径に関して実質的に対称形状となるように構成してもよい。堅固な枠は、金属、ガラス、セラミック、及びポリマーを含む様々な材料で形成すればよい。
【0015】
剛性を有する枠を用いた実施の形態に代えて、若しくは、そのような実施の形態に加えて、薄膜の外側部を、内側部とは異なる材料組成又は寸法で構成してもよい。従って、内側部と外側部との相対的な硬度を、バルブが開くのに必要な所望の動作圧力に応じて予め決定しておいてもよい。
【0016】
好ましい実施の形態では薄膜の一方の側から他方の側へ延びるように形成された流路は、薄膜に形成されている少なくとも一つの貫通孔を通過する部分を有していてもよい。また、貫通孔の数及び配置は、バルブが開くのに必要な所望の動作圧力に応じて選択してもよい。貫通孔の数及び配置はバルブの動作に様々な形で影響を及ぼすことが分かっている。
【0017】
第1に貫通孔は、薄膜の構造的な完全さを低下させ、もって、薄膜の硬度を低下させる。第2に、貫通孔の数及び配置は、バルブが開いているときにバルブを通過する体積流量率に影響を与える。体積流量率は、バルブにおける圧力分布に重大な影響を与えるため、バルブの動作圧力のみならずバルブの性能にも影響を与える。
【0018】
弁座は、一方向バルブの第1本体部と一体的に形成されていてもよい。第1本体部はバルブの流入口を規定する導管を有していてもよい。また、バルブが開いて薄膜が弁座から移動したとき、流入口は、薄膜に形成された貫通孔と、第1のキャビティにより連通してもよい。なお、第1のキャビティは、第1本体部に形成された凹部により規定されている。バルブは、薄膜に関して第1本体部の反対側に第2本体部を有し、第2本体部にはバルブの流出口を規定する流体導管が貫通して形成されていてもよい。また、第2のキャビティを、バルブが開いたときに薄膜の内側部が移動して侵入するように第2本体部に形成された凹部により規定してもよい。また、流出口が第2のキャビティに開口し、第2のキャビティが薄膜に形成された貫通孔と流出口との間に流路を形成してもよい。流入口、流出口、及び貫通孔に対するこれらキャビティの配置が、バルブを通過する効果的な流路を提供しつつ、薄膜のバルブ本体部に対する効果的な動きを提供する。流入口及び流出口は、薄膜に関して互いに正反対の位置において開口していてもよいし、流体がバルブ内を流れる方向に関して横方向にずれた状態で互いに反対側に開口していてもよい。
【0019】
また、薄膜の外側部は、第1本体部に固定されていてもよく、又は第1本体部と第2本体部との間に固定されていてもよい。薄膜の固定は、クランプによる締め付け(clamping)、止め具で挟む(clipping)、接着(gluing)、結合(bonding)、若しくは溶接の手段により行われてもよい。このように、相対的に硬い外側部がバルブの本体に関して空間的に固定されることにより、薄膜内側部が弁座の位置に関して空間的に正確に決定される。薄膜外側部をバルブ本体に正確に固定することを確実なものとするために、第1本体部及び第2本体部の少なくとも一方を、1つ又はそれ以上の指定された位置合わせ点において薄膜と整合するように、位置合わせしてもよい。例えば、これら本体部に形成された位置合わせ柱が、薄膜外側部に形成された位置合わせ穴を貫通するように構成してもよい。又は、第1本体部と第2本体部との少なくとも一方の周縁部が薄膜の周縁部と合致するように、位置合わせしてもよい。
【0020】
また、弁座の少なくとも外側部は、バルブが閉じたときに薄膜の内側部が弁座の周囲を均一にシールできるように均一な高さを有していることが好ましい。ある適用例では、弁座がその全幅にわたって均一な高さを有することが好ましいかもしれない。しかしながら、バルブが閉じたときに最初にバルブの薄膜に当接するのは弁座の外側部であるため、弁座の少なくとも外側部が均一の高さを有していることが特に好都合である。
【0021】
バルブのうち流体が流れる領域を流体が流れない領域から隔離するために、また、漏れを防止するために、第1本体部と第2本体部との少なくとも一方には溝が形成されており、第1本体部と第2本体部とを接合した際にバルブをシールするための圧縮可能なシール部材をその溝に配置してもよい。
【0022】
当業者であれば、薄膜材料として、ゴム、シリコーン、エラストマーを含む様々な材料を使用することができることが理解できる。
【0023】
また、本発明の第2の観点によれば、本発明は第1の観点によるバルブを有するポンプを提供している。ポンプは液体治療薬品を送り込むためのものであり、入口と出口とを有するポンプ室と、ポンプ室の体積を変えるための手段と、を備え、入口と出口との少なくとも一方が本発明の第1の観点によるバルブを備えていてもよい。
【0024】
ポンプの全体の容積を小さくするために、ポンプ室の体積の一部はバルブの薄膜内側部によって境界が規定されていてもよい。また、流体導管がポンプ室を出口バルブの流体流入口に連通させていてもよい。
【0025】
ポンプを流れる治療薬品の流れが制御できなくなることを防止するために、入口バルブは出口バルブよりも低い動作圧力を有することが好ましい。入口バルブと出口バルブとの間の動作圧力の違いは、入口バルブと出口バルブとを同様な構成にしつつ、出口バルブの弁座の高さを入口バルブの弁座の高さよりも大きくすることにより達成される。換言すれば、入口バルブの弁座は、入口バルブの薄膜外側部が規定する平面を越えて薄膜内側部へ向かって突出するように延びており、その突出の程度が出口バルブの弁座の突出の程度よりも小さい。
【0026】
また、本発明の第3の実施の形態によれば、第2の観点によるポンプを備える注入システムを提供している。注入システムは、周囲の圧力に対して正の圧力を作用させた状態で治療薬品を貯留する貯留室を備えていることが好ましい。液体の治療薬品は、第2の観点による本発明のポンプによって送られ、患者の皮膚に突き刺さっているカニューレに対しチューブを介して注入される。注入システムは治療薬品の患者への注入を所望のレートで行うためにプログラム可能であってもよい。
【0027】
本発明のバルブ及びポンプはマイクロ部品であることが好ましく、ポンプのポンプ室は略100マイクロリットルよりも小さい体積を有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るバルブを示す断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るバルブを示す断面図。
【図3】図1に示されるバルブを備えるポンプを示す断面図。
【図4】注入システムの一部としての図3に示されるポンプを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1には、本発明の第1の実施の形態によるバルブが示されている。バルブ1は、第1本体部2と、第2本体部3と、第1本体部2と第2本体部3との間に挟まれた薄膜4とから構成されている。薄膜4は内側部4aと外側部4bとを有している。バルブ1は長方形をなしているが、円筒形状や6角形や8角形や正方形等の他の適切な形状であってもよい。第1本体部2は、隆起した弁座5を有している。弁座5は、薄膜の外側部4bが規定する面を超えて上方へ延びており、内側部4aが弁座5上に引き延ばされている。薄膜外側部4bの少なくとも一部と薄膜内側部4aとはエラストマーゴム材により形成されている。
【0030】
バルブの流入口6が弁座5に形成されており、バルブの流出口7は流入口6に対して薄膜4の他方の側に流入口6と対向して配置されている。キャビティ8、9は、それぞれ、第1本体部2及び第2本体部3内において、薄膜4に形成された貫通孔10に隣接する位置に形成されている。
【0031】
溝11が第1本体部2及び第2本体部3に形成されている。圧縮可能なシールリング12が溝11内に配置されている。第1本体部2及び第2本体部3がクランプ13によってクランプされシールリング12が圧縮されてバルブ1をシールすると、第1本体部2及び第2本体部3が薄膜4の外側部4bを挟持する。
【0032】
薄膜4の外側周縁部4bは、薄膜を構成するエラストマーゴム材により包まれた、実質的に剛性のある枠状部材14を有している。2つの近接配置された「硬い」表面同士の接触が図1においてXで示されている。接触点が再現可能であることを確保することによって、薄膜4の内側部4aが弁座5上に引き伸ばされる量を厳格に制御することができる。後で詳述するように、外側周縁部4bを実質的に圧縮不能とすることにより、第1、第2本体部2,3と薄膜4の外側周縁部4bとが、圧縮不能な複数の点で接触する、すなわち、第1、第2本体部2,3と薄膜4の外側周縁部4bとが、「硬い」表面で接するようにしてもよい。こうすることにより、薄膜外側部4bが規定する面を超えて弁座5が突出量を、バルブの製造過程における製造工程や設備の特性に因らずに、上記複数の接触点により制御することができる利点がある。
【0033】
使用時には、流体が正の圧力が受けて流入口6に流入する。流入口6における流体圧力が予め定められた流体圧力を超えると、薄膜内側部4aは、流入口6における流体圧力を受けて歪み、弁座5から外れた状態となる。このような状態となる圧力は、バルブの動作圧力として知られている。薄膜内側部4aと弁座5との間のシールが解除されると、流体は流入口6から流入し弁座5の頭部上を流れ、第1本体部2に形成されたキャビティ8内へ流入する。流体は薄膜4に形成された貫通孔10を通り、第2本体部3に形成され流出口7に連通したキャビティ9内へ流入する。このようにしてバルブが開くと、流体は流入口6から貫通孔10を通り流出口7を通って流れていく。
【0034】
外的な力が流体に作用して流入口6における流体の圧力が低下し予め定められた動作圧力を下回ると、薄膜内側部4aは弁座5との間を再びシールして流入口6と貫通孔10との間の流路を遮断する。すると、流体は流入口6と流出口7との間を貫通孔10を介して流れることができなくなり、バルブは閉じた状態となる。流入口の圧力がバルブ1における予め定められた動作圧力を再び超えると、バルブは再度開く。バルブが開くときの動作圧力とバルブが閉じるときの動作圧力とは、流体の静的及び動的な特性に因りわずかに異なっていても良い。
【0035】
剛性のある枠状部材14が薄膜外側周縁部4bにおけるエラストマーゴム材中に収容されているため、外側周縁部4bは内側部4aよりも硬い。薄膜4は、剛性を有する枠状部材14の周囲をエラストマーゴム材からなる薄膜4でモールド成型することにより形成してもよい。剛性のある枠状部材14は、実質上、薄膜4の内側部4aしか変形できないように、薄膜4の変形を制限している。薄膜4のうち歪むことができる部分を制限することにより、バルブ1が開くときの動作圧力を精度よく規定できる。動作圧力は、また、薄膜外側周縁部4bの面に対する弁座5の高さや、貫通孔10の数及び配置や、薄膜内側部4aの材料組成といった要因に依存する。前述のように、内側部4aは弁座5に対して精度よく配置されており、動作圧力を制御している。
【0036】
バルブ1の動作圧力が弁座5の高さに依存しているため、バルブ1に類似したバルブの集まりを、弁座5の高さのみが変数であるような複数のバルブで構成することができる。-したがって、予め定められた互いに異なる様々な動作圧力を有する複数のバルブからなるバルブの集まりを、最も一般的な部品及び組み立て方法を用いて提供することができる。このことにより、製造及びデザインに係る費用を飛躍的に抑えることができ、安価で使い捨て可能なバルブを大量に製造することができるようになる。バルブ1は比較的大きな数量毎にまとめて製造してもよい。その場合、1回分の製造で作製される互いに仕様が似ている複数のバルブ1がほぼ同一の動作圧力で動作するように、精度よく製造してもよい。
【0037】
バルブ1のうちの流体が流れる領域、即ち、流入口6からキャビティ8、9及び貫通孔10を経て流出口7に至る流路の部分を形成している領域を、バルブの周縁部のような流体が流れない領域から隔離するために、圧縮可能なエラストマー材からなるシールリング12が溝11内に設けられている。シールリング12は、第1本体部2と第2本体部3とが合わされクランプ13によって保持されている間、圧縮状態に維持される。当業者であれば、クランプ13に代えて、第1本体部と第2本体部とを固定して第1本体部と第2本体部との間に薄膜4を保持するために、例えば接着(gluing)や、溶接や、止め具で挟む(clipping)等の他の固定手段を用いてもよいことが理解できる。クランプ手段13は、バルブ1の第1本体部2及び第2本体部3を保持するためのまさに典型的な手段として示されている。
【0038】
薄膜内側部4aが弁座5上に引き伸ばされている方式であるため、そして、バルブが開いているときに弁座5と薄膜内側部4aとの間に流体が流れる方式であるため、バルブが閉じたときに薄膜の内側部4aが弁座5の周りを均一にシールするよう弁座5の少なくとも外側部が一様な高さを有していることが重要である。バルブが閉じる時に最初にシールを行いバルブが開く時に最後に開くのが弁座5の外側部であるため、弁座5が完全に均一な頭部を有していることはそれほど重要ではないが、応用例の如何によってはそのようになっていることが好ましい。
【0039】
本発明の第1の実施の形態では、剛性を有する枠状部材14は金属、ガラス、セラミック又はポリマー材により構成されている。しかし、当業者であれば、剛性を有する枠状部材14を設ける目的が薄膜外側周縁部4bを内側部4aに対してより硬くすることであることがわかる。同様な目的を達成するために、薄膜4の外側周縁部4bを、薄膜内側部4aとは異なる材料組成又は寸法にて構成してもよい。
【0040】
予め定められた動作圧力となるように設計されたバルブ1の幾何学的な構成は、有限要素分析(FEA)モデル等の理論的な計算、又は実験により設計してもよい。薄膜内側部4aの偏位量、及び、バルブの流入口6から流出口7へと流れる流体の流れを厳密に決定できるよう、バルブの動的な働きをモデル化してもよい。
【0041】
図2は、本発明によるバルブの第2の実施の形態を示しており、第1の実施の形態と同様の部材については同様の参照番号が付されている。第1の実施の形態と比した第2の実施の形態における相違点は、バルブ100が2つの流入口6を有しており、単一の貫通孔10が薄膜部分4aに形成されている点である。
【0042】
使用時には、流入口6における流体の正の圧力が第1本体部2に形成された凹部8に開口する。なお、これら2つの流入口6は互いに連通していてもよい。キャビティ8内の流体の圧力が予め定められた動作圧力より高くなると、薄膜内側部4aが弁座5から偏位して弁座5と薄膜の内側部4aとの間に流路を形成して、流体が薄膜内側部4aに形成された1つの貫通孔10を通って流れる。このようにバルブが開くと、流体は流入口6から、キャビティ8、貫通孔10、キャビティ9を通って、流出口7へ流れる。流入口6における流体の圧力が低下すると、薄膜内側部4aは再び弁座5との間でシールし、流体がもはや流入口6から貫通孔10を経て流出口7まで流れないようにバルブを閉じる。重ねて述べるが、動作圧力が作用したときに薄膜内側部4aとの間で均一なシールを達成できるよう、弁座5の外側周縁部が均一な高さを有していることが重要である。バルブ100におけるクランプの配置はバルブ1と同一である。
【0043】
当業者であれば、バルブ1の変形例をバルブ100に対しても同じように適用できることが理解できる。
【0044】
バルブ1のポンプへの応用例が図3に示されている。ポンプ20は入口バルブ22に連通する流体入口21を有している。連動アセンブリ24を有するアクチュエータ23の動作が、ポンプ室25の体積を変化させる。入口バルブ22の流出口が導管26により出口バルブ27と連通している。
【0045】
出口バルブ27は第1の実施の形態のバルブ1と実質的に同一の構成を有している。入口バルブ25の構成は、ポンプ室25の一部の境界がバルブ22の薄膜によって規定されている点で、バルブ1とはわずかに異なっている。図3に示されている特定の実施の形態では、入口バルブ22がポンプ室25の一部を構成しているが、当業者であれば、ポンプの全体の体積が大きくなるものの、ポンプ室を入口バルブ22と出口バルブ27との間に設けてもよいことが理解できる。
【0046】
アクチュエータ23としては、弾力性があり変形可能なダイヤフラムによってシールドされたワックス貯留室を有するワックスタイプアクチュエータが好ましい。貯留室内のワックスが加熱されるとワックスの体積が拡大して、弾力性があり変形可能なダイヤフラムを歪ませる。ダイヤフラムのリニアな変形を利用すれば、機械的な作用が得られる。ワックスの加熱を中断すると、貯留室内のワックスは冷却され、ワックス貯留室をシールしているダイヤフラムは初期位置に戻る。従って、ワックスタイプアクチュエータは周期的なリニアな動作を達成するのに用いることができる。
【0047】
ワックスタイプアクチュエータの代替え手段として、周期的なリニアな動作を提供することができるソレノイドや圧電アクチュエータのような他のアクチュエータが知られている。
【0048】
アクチュエータ23の変形量を増大させるために連動アセンブリ24が設けられている。連動アセンブリ24は、連動ピストンと、ポンプ室25の境界線の一部を形成する連動ダイヤフラムとを備えている。ピストンは、アクチュエータ23のダイヤフラムに対し、接続されているか、又は接触した状態で位置している。ピストンの動きはポンプの連動層29の壁部により囲まれた内側に制限されている。同様に、アクチュエータ23はアクチュエータ層30の側壁部により囲まれた内側に配置されており、連動アセンブリ24とアクチュエータ23との位置が正確に合致するように位置合わせしている。アクチュエータダイヤフラムの変形は、連動アセンブリ24のピストンを移動させ、連動ダイヤフラムを変形させる。連動ダイヤフラムはアクチュエータダイヤフラムよりも大きいため、連動ダイヤフラムの容積変化量はアクチュエータダイヤフラムの容積変化量よりもかなり大きい。
【0049】
連動ダイヤフラムがポンプ室25の一部を形成しているため、アクチュエータ23が動作することによりポンプ室25の体積を増加させたり減少させたりすることができる。ポンプ室25の体積を増大させると、入口バルブ22が開き、流体が入口21から入口バルブ22を通って流入しポンプ室25を満たす。いったんポンプ室25が流体で満たされ、連動しているアクチュエータ23、24が動作してポンプ室25の体積を減じると、流体は導管26を通って出口バルブ27へ強制的に流される。導管26を通って流れる流体は、連動しているアクチュエータ23、24からの圧力を受けているため、出口バルブ27が開き流体が出口28を通ってポンプから出ていく。
【0050】
導管26内の流体の圧力が予め定められた値よりも低下すると、出口バルブ27が閉じるため、流体は出口28から出口バルブを通って流体導管26へ流れていくことはできなくなる。連動しているアクチュエータ23、24が再び動作してポンプ室25の体積を増加させると、入口バルブ22が開いて、流体が入口21から流入してポンプ室25を満たす。連動しているアクチュエータ23、24が繰り返し動作することにより、流体はポンプ20の入口21から出口28へと送られる。
【0051】
出口バルブ27の弁座の高さは入口バルブ22の弁座よりも高いが、その他の点では、バルブ22、27の構成は実質的に互いに同一である。このため、出口バルブ27の動作圧力は入口バルブ22の動作圧力よりも高い。当業者であれば、先述したことより、例えば、薄膜の寸法、配置、及び材料や薄膜に形成された穴の数等のバルブのパラメータを変えることによって、出口バルブ27の動作圧力を入口バルブ22の動作圧力よりも高く設定することができることが理解できる。出口バルブ27の動作圧力をより高く設定することにより、たとえ正の流体圧力がポンプ20の入口21に作用しても、そして、アクチュエータ23が機能しなくても、流体がポンプ20を自由に通り抜け入口21から出口28へと流れてしまわないことを確保できる。このことは、液体治療薬品が自由に流れてしまうことが許されない注入システムの一部にポンプ20を用いる場合に特に重要である。一方、入口バルブ22は比較的低い動作圧力に設定されているため、連動しているアクチュエータ23、24の動作により、バルブ22が開いてからの最小の遅れをもってポンプ室25がすばやく入口21からの液体で満たされることが確保されている。
【0052】
図3を参照して説明したポンプ20は、人体や動物の体内に液体治療薬品を注入する注入システムといった特定の用途に利用できることが分かる。注入システム40は図7に示されており、液体治療薬品42の加圧貯留室41を有している。貯留室内空間において移動可能に設けられているプランジャ44に対し矢印43で示される力が作用することにより、液体治療薬品42が貯留室内で加圧されている。貯留室の出口45がポンプ20の入口21に接続されている。液体治療薬品を注入すべき人体又は動物の体内とポンプ20とを連通させるための手段の一端が患者に接続され、他端がポンプ20の出口28に接続されている。この手段は、カニューレ又はこれに類似した他の器具により構成してもよい。
【0053】
アクチュエータ23は、治療薬品のプログラミングされた注入を高精度で行うことを確実にするべく、少なくとも1つの流量率インジケータと協働する図示せぬ電子モジュールにより制御されることが好ましい。
【0054】
バルブ1及びポンプ20はマイクロ部品であり、ポンプのポンプ室は好ましくは略100マイクロリットル(μl)より小さい体積を有していることが想定される。
【0055】
当業者であれば添付の請求項に記載された本発明の範囲内において、本発明の様々な変形が推測可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 バルブ
2 第1本体部
3 第2本体部
4 薄膜
4a 内側部
4b 外側部
5 弁座
6 入口
7 出口
8、9 キャビティ
10 貫通孔
14 枠状部材
100 バルブ
22 入口バルブ
27 出口バルブ
25 ポンプ室
40 注入システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座と、
座上に引き伸ばされた内側部を有する薄膜とを有し、
使用時に前記薄膜の内側部は選択的に前記座から偏位することにより、前記薄膜の一方の側から他方の側へと延びる流路を形成しバルブを開き、
前記薄膜の偏位を内側部のみに制限するように、前記薄膜の外側周縁部が内側部よりも硬く構成されていることを特徴とする一方向バルブ。
【請求項2】
前記薄膜の前記外側部に埋め込まれた、剛性を有する枠を更に備えていることを特徴とする請求項1記載のバルブ。
【請求項3】
前記剛性を有する枠は、金属、ガラス、セラミック、及びポリマーを含む材料のグループから選択された材料により構成されていることを特徴とする請求項2記載のバルブ。
【請求項4】
前記薄膜の前記外側部は前記内側部とは異なる材料組成又は寸法を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一記載のバルブ。
【請求項5】
前記薄膜の前記内側部と前記外側部との相対的な硬さは、バルブを開くのに必要な所望の動作圧力に応じて選択されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一記載のバルブ。
【請求項6】
前記流路のうち前記薄膜を横切る部分を形成するための少なくとも一つの貫通孔が前記薄膜に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一記載のバルブ。
【請求項7】
前記貫通孔の数及び配置は、バルブが開くのに必要な所望の動作圧力に応じて選択されていることを特徴とする請求項6記載のバルブ。
【請求項8】
前記弁座を有する第1本体部を更に備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一記載のバルブ。
【請求項9】
前記第1本体部は、該第1本体部を貫通するように形成され、バルブの流入口を規定する流体用導管を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一記載のバルブ。
【請求項10】
第1のキャビティが第1本体部に形成された凹部により規定されており、前記凹部は、薄膜が弁座から偏位してバルブを開くときに、前記流入口から前記薄膜に形成された貫通孔への流路を提供することを特徴とする請求項8又は請求項9記載のバルブ。
【請求項11】
前記薄膜に関して第1本体部とは反対側に設けられた第2本体部を更に有していることを特徴とする請求項8乃至請求項10のいずれか一記載のバルブ。
【請求項12】
前記第2本体部は、該第2本体部を貫通するように形成され、バルブの流出口を規定する流体用導管を備えていることを特徴とする請求項11記載のバルブ。
【請求項13】
第2のキャビティが、第2の本体部に形成された凹部により規定されており、バルブが開いたときに薄膜の内側部が移動して該凹部に入ることを特徴とする請求項11又は請求項12記載のバルブ。
【請求項14】
前記流出口は第2のキャビティに開口していることを特徴とする請求項12又は請求項13記載のバルブ。
【請求項15】
第2のキャビティは、前記薄膜に形成された前記貫通孔と前記流出口との間に流路を規定していることを特徴とする請求項14記載のバルブ。
【請求項16】
薄膜の外側部は第1本体部に固定されていることを特徴とする請求項8乃至請求項15のいずれか一記載のバルブ。
【請求項17】
薄膜の外側部は第1本体部と第2本体部との間に固定されていることを特徴とする請求項11乃至請求項16のいずれか一記載のバルブ。
【請求項18】
薄膜の固定は、クランプで締め付ける、止め具で挟む、接着する、結合する、若しくは溶接することにより行われることを特徴とする請求項16又は請求項17記載のバルブ。
【請求項19】
第1本体部と第2本体部とのうちの少なくとも一方は、1つ又はそれ以上の位置合わせ点にて、前記薄膜の前記外側部と整合するよう、位置合わせされていることを特徴とする請求項17又は請求項18記載のバルブ。
【請求項20】
前記薄膜の外側部に形成された位置合わせ用穴を貫通し、第1本体部と第2本体部とのうちの少なくとも一方に接続された位置合わせ用柱を更に備えていることを特徴とする請求項19記載のバルブ。
【請求項21】
第1本体部と第2本体部とのうちの少なくとも一方の周縁部は、前記薄膜の周縁部と合致するよう位置合わせされていることを特徴とする請求項19記載のバルブ。
【請求項22】
第1本体部と第2本体部とのうちの少なくとも一方には溝が形成されており、バルブをシールするための圧縮可能なシール部材が該溝に配置されていることを特徴とする請求項17乃至請求項21のいずれか一記載のバルブ。
【請求項23】
第1本体部と第2本体部とのうちの少なくとも一方は、前記薄膜外側部に対し、実質的に圧縮不能な接触面において接触していることを特徴とする請求項17乃至請求項22のいずれか一記載のバルブ。
【請求項24】
前記薄膜は、ゴム、シリコーン、エラストマーを含む材料のグループから選択された材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項23のいずれか一記載のバルブ。
【請求項25】
弁座の少なくとも外側部は、バルブが閉じたときに薄膜の内側部が弁座の周囲を均一にシールするように均一な高さを有していることを特徴とする請求項1乃至請求項24のいずれか一記載のバルブ。
【請求項26】
請求項1乃至請求項25のいずれか一記載のバルブを有することを特徴とするポンプ。
【請求項27】
入口と出口とを有するポンプ室と、
前記ポンプ室の体積を変えるための手段と、を備え、
前記入口と前記出口との少なくとも一方が前記バルブを有することを特徴とし、液体治療薬を送るための請求項26記載のポンプ。
【請求項28】
前記ポンプ室の体積の一部は、前記バルブの前記薄膜内側部によって境界が規定されていることを特徴とする請求項27記載のポンプ。
【請求項29】
流体用導管が、前記ポンプ室を、前記出口バルブの流体流入口に連通していることを特徴とする請求項27又は請求項28のいずれか一記載のポンプ。
【請求項30】
前記入口バルブは、前記出口バルブよりも低い動作圧力を有していることを特徴とする請求項23又は請求項29のいずれか一記載のポンプ。
【請求項31】
前記入口バルブの弁座は、前記入口バルブの薄膜外側部が規定する平面を越えて前記薄膜内側部へ向かって突出しており、その突出量は前記出口バルブの弁座の突出量より小さいことを特徴とする請求項30記載のポンプ。
【請求項32】
請求項26乃至請求項31のいずれか一記載のポンプを有することを特徴とする注入システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−507431(P2010−507431A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533942(P2009−533942)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004071
【国際公開番号】WO2008/050126
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(509114033)セルノボ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】