説明

マイクロホンの製造方法

【課題】可動電極と固定電極とを備える平行平板型のマイクを高品質で製造することができるマイクロホンの製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロホンは、第1の電極と、前記第1の電極に中空部を介して対向するように形成された第2の電極とを有し、前記第1の電極はエレクトレット膜を具備する平行平板型である。このマイクロホンの製造方法は、第1の電極と第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、第1の電極と第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第1の工程(S3)と、第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの感度とエレクトレット膜への着電量との関係を算出する第2の工程(S4)と、第2の工程で算出された結果に基づいて、エレクトレット膜へ着電する第3の工程(S7)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平行平板構造における容量変化を検知するマイクロホンの製造方法に関するものであり、特にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製作されるマイクロホンの製造方法に適用される。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS技術を用いた容量検知型マイクロホン(以下、単に「MEMSマイク」と呼ぶ。)が実用化されている。このMEMSマイクは、音圧を受けて変位する可動電極と、当該可動電極に対向して配された固定電極とを内部に有するMEMS素子を備え、MEMS素子内の可動電極が音圧を受けて変位した(つまり、可動電極と固定電極との距離が変化した)際に出力される、可動電極と固定電極との間の容量変化を電圧変化として外部へと出力している。
【0003】
出力電圧をより大きくするために、例えば可動電極と固定電極との間に電圧が供給される。両電極への電圧の供給方法としては、可動電極と固定電極との間でない外部より電圧を供給する方法(例えば特許文献1)や、可動電極と固定電極との間に電荷を蓄積できるエレクトレット膜を配置する方法(例えば特許文献2,3)等がある。
【0004】
MEMSマイクの感度は、音圧1[Pa]をマイク(MEMS素子)に与えたときのMEMSマイクからの出力電圧により算出され、例えばマイク出力電圧が10[mV]であれば、そのマイク感度は−40[dB]となる。
【0005】
MEMSマイクの感度はマイクの組立状態で音圧を加えることで測定しているため、MEMS素子単体での感度測定ができない。音圧を加えることなく、MEMSマイクの感度を推定する方法としては、MEMS素子の可動電極のスティフネス(可動電極の剛さ、動きにくさを示し、単位は[N/m]である。)と、可動電極と固定電極の距離を求め、これらから感度を推定する方法がある。
【0006】
ただし可動電極のスティフネスは、直接測定することができない物理量であるため、MEMSマイクの可動電極の共振周波数(単位は[Hz]である。)を測定することで可動電極のスティフネスを算出している。
【0007】
また、容量検知型のMEMSマイクにおいては、可動電極と固定電極間に与える電圧を上げていくとマイク感度が良く(高く)なるものの、電圧を与えすぎると、静電引力の作用により、可動電極が固定電極に吸着してしまい、マイクとして機能しなくなる。
【0008】
上記のような電極間の吸着現象は、MEMS技術を用いたMEMSマイクに留まらず、例えば従来のエレクトレットコンデンサーマイク(ECM)などの平行平板コンデンサ型マイクにも発生する現象である。
【0009】
従来の平行平板コンデンサ型マイクにおいては、この電極間の吸着を防ぐため、可動電極と固定電極との間に与える電圧を制限する「安定度」と呼ばれる概念が導入されている(例えば特許文献4)。
【0010】
ただしこの安定度も、可動電極のスティフネスと、可動電極と固定電極間の距離とを計測して算出する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4338395号
【特許文献2】特許第4264103号
【特許文献3】特開2009−164539
【特許文献4】特開2001−339796
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、音圧を加えることなくMEMSマイクの感度や安定度を推定するために、可動電極の共振周波数(スティフネス算出のため)や可動電極と固定電極間の距離を測定するのが非常に困難であるという課題がある。
【0013】
つまり、可動電極の共振周波数は、可動電極の上部にある固定電極を除去した後、可動電極の共振周波数をレーザードップラー振動計で測定するか、MEMS素子単体を真空チャンバーに入れて測定した素子のインピーダンスに基づいて算出する必要がある。
【0014】
また、MEMS素子の可動電極と固定電極との間の距離を求めるためには、走査型白色光干渉法や位相シフト干渉法の機能を有する顕微鏡を用いて測定する必要がある。
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、MEMS素子を破壊することなく、あるいは特殊機能を有する顕微鏡を使用することなく、可動電極のスティフネスと、可動電極と固定電極との間の距離を算出し、MEMSマイクの感度と安定度を把握することを目的としている。
【0015】
さらに本発明は、ウェハ状態で各MEMS素子の可動電極のスティフネスと、可動電極と固定電極との間の距離の算出を実施可能であり、かつウェハ状態でMEMSマイクの感度と安定度の算出を可能とし、本手法をMEMSマイク製造工程に組み入れ、可動電極と固定電極とを備える平行平板型のマイクを高品質で製造することができるマイクロホンの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るマイクロホンの製造方法は、第1の電極と、前記第1の電極に中空部を介して対向するように形成された第2の電極とを有し、前記第1の電極はエレクトレット膜を具備する平行平板型のマイクロホンの製造方法であって、前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第1の工程と、前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの感度と前記エレクトレット膜への着電量との関係を算出する第2の工程と、前記第2の工程で算出された結果に基づいて、前記エレクトレット膜へ着電する第3の工程とを含むことを特徴としている。
【0017】
また、第1の電極と、前記第1の電極に中空部を介して対向するように形成された第2の電極とを有し、前記第1の電極はエレクトレット膜を具備する平行平板型のマイクロホンの製造方法であって、前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第1の工程と、前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの安定度と前記エレクトレット膜への着電量との関係を算出する第2の工程と、前記第2の工程で算出された結果に基づいて、前記エレクトレット膜へ着電する第3の工程とを含むことを特徴としている。
【0018】
あるいは、第1の電極と、前記第1の電極の上方に中空部を介して形成された第2の電極とを有する平行平板型のマイクロホンの製造方法であって、前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第1の工程と、前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの感度又は安定度を算出する第2の工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マイクロホンを破壊することなく、あるいは特殊機能を有する顕微鏡を使用することなく、第1の電極のスティフネスと、第1の電極と第2の電極との間の距離を算出し、マイクロホンの感度や安定度を把握することができる。
【0020】
さらに、ウェハ状態でマイクロホンの第1の電極のスティフネスと、第1の電極と第2の電極との間の距離の算出が可能となり、さらにはウェハ状態でマイクロホンの感度や安定度の算出を可能となる。したがって、本手法をマイクロホンの製造工程に組み入れると、第1の電極と第2の電極とを備える平行平板型のマイクを高品質で製造することができる。
【0021】
また、前記第3の工程を行う前に、前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの安定度と前記エレクトレット膜への着電量との関係を算出する第4の工程を更に含み、前記第3の工程は、前記第4の工程で算出された結果にも基づくことを特徴としている。これによって、マイクロホンの感度と安定度とに基づいた着電量を算出でき、高品質なマイクロホンを製造できる。
【0022】
また、前記第3の工程の後に、第1の電極と第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第5の工程を有し、前記第5の工程で測定された測定結果に基づいて、前記エレクトレット膜への着電量を求める第6の工程と、前記第5の工程で測定された測定結果に基づいて、着電前後の前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値を比較する第7の工程とを含むことを特徴としている。これによって、エレクトレット膜に対して所望の着電が行われたかの判断が可能となり、高品質なマイクロホンの製造が可能となる。
【0023】
また、前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、前記第6の工程又は前記第7の工程の結果に基づいてチップを選別する工程を更に有することを特徴としている。これにより、所望の性能を有するマイクロホンのみを得ることが可能となる。
【0024】
また、前記第3の工程の後、再度、前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第4の工程と、前記第3の工程の着電量と前記4の工程の測定結果よりマイクロホンの安定度を算出する第5の工程とを含むことを特徴としている。これにより、所望の安定度を有するマイクロホンを得ることができる。
【0025】
また、前記第4の工程で測定された測定結果に基づいて、前記エレクトレット膜への着電量を求める第6の工程と、前記第4の工程で測定された測定結果に基づいて、着電前後の前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値を比較する第7の工程とを更に含むことを特徴としている。これにより、所望の着電が行われたマイクロホンを得ることができる。
【0026】
また、前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、前記第6の工程及び/又は前記第7の工程の結果に基づいてチップを選別する工程を更に有することを特徴としている。これにより、所望の性能を有するマイクロホンを得ることができる。
【0027】
また、前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、前記シリコン基板に形成された第1のマイクロホンに対して前記第3の工程を行っているのと同時に、前記シリコン基板に形成された第2のマイクロホンに対して前記第1又は前記第4の工程を行っていることを特徴としている。これにより、生産効率の高い製造ラインが構築できる。
【0028】
また、前記第1の工程と前記第3の工程は同一の装置を用いて実施されることを特徴としている。これにより、生産効率の高い製造ラインが構築できる。
また、前記マイクロホンは空孔部を有するシリコン基板を有しており、前記エレクトレット膜は前記中空部に面して形成されていることを特徴としている、あるいは、前記第1の電極の上方に第2の電極が形成されていることを特徴としている。
【0029】
また、前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、前記各工程は、前記シリコン基板をダイシングする前に行われることを特徴としている。これにより、所望の性能を有するチップのみ選別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるMEMSマイクの構成を示す図。
【図2】本発明の第1の実施の形態におけるMEMS素子の構成を示す図。
【図3】本発明の第1の実施の形態におけるMEMSマイク製造工程フローを示す図。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるMEMS素子とウェハの関係を示す図。
【図5】本発明の第1の実施の形態におけるC−V測定を実施する装置例を示す図。
【図6】本発明の第1の実施の形態におけるC−V測定結果を示す図。
【図7】本発明の第1の実施の形態における着電電圧に対するMEMSマイク良品個数の関係を示す図。
【図8】本発明の第1の実施の形態における着電前後のC−V測定結果を示す図。
【図9】本発明の第1の実施の形態におけるウェハ内におけるMEMSマイクの感度分布を示す図。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係るMEMSマイクの感度分布を示す図。
【図11】本発明の第2の実施の形態におけるMEMSマイク製造工程フローを示す図。
【図12】本発明の第2の実施の形態におけるC−V測定と着電とC−V測定を実施する装置例を示す図。
【図13】本発明の第3の実施の形態におけるMEMSマイク製造工程フローを示す図。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係るMEMSマイクの感度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明で使用している、材料、数値は好ましい例を例示しているだけであり、この形態に限定されることはない。また、本発明の技術的思想の範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。また、他の実施の形態との組み合わせは、矛盾が生じない範囲で可能である。
<第1の実施の形態>
以下、本発明の第1の実施の形態について、図1〜図9を参照し、詳細に説明する。
1.MEMSマイクの構成
(1)全体
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるMEMSマイクの構成を示す概略図である。(a)は、MEMSマイクの斜視図であり、金属ケースが開封された状態を示しており、(b)は、金属ケースが封止されたMEMSマイクの断面図である。
【0032】
同図の(a)において、1は金属ケース、2はFR−4などの樹脂基板やセラミックを材料とする基板、3はMEMS技術で製作される容量検知型のMEMS素子(音圧変化を容量変化として検知する)、4は容量検知型のMEMS素子3の容量変化を電流あるいは電圧変化として電気信号に変換するIC部、5はMEMS素子3とIC部4を電気的に接続する金属ワイヤを表している。
【0033】
基板2には図示していないが、電気信号伝送用の配線が、基板2の表面あるいは内部に形成されており、基板2の底面において、外部の他の基板と電気的接続および構造体としての接続がなされる。
【0034】
なお、MEMS素子3、IC部4等を搭載する基板2を金属ケース1で覆い、電気的および構造体として接続を実施したものを、MEMSマイク6とする。
(2)MEMS素子
図2は、図1で示したMEMS技術で作成される容量検知型のMEMS素子3の詳細図であり、(a)は断面図、(b)は平面図を示す。
【0035】
同図の(a)において、8はシリコン基板、9はシリコン基板8に設けられた空孔部、10は下部電極(本発明の「第1の電極」に相当する。)、11は電荷を蓄積するエレクトレット膜で、12は音圧を受けて可動する可動電極であり、下部電極10とエレクトレット膜11より構成される。なお、下部電極10も可動電極とすることもある。
【0036】
13は下部電極10と対向して固定された上部電極(本発明の「第2の電極」に相当する。)であり、この上部電極は可動せず固定電極として作用する。14は固定電極13に設けられた音孔である。15a、15b、15cは、絶縁膜であり、MEMS素子3の構造体の一部を構成している。
【0037】
16は、可動電極12と固定電極13との間に設けられた空孔(中空部)である。下部電極10と固定電極13とは、中空部16を介して平行に配されており、これにより平行平板コンデンサを形成している。空孔内16に存在する空気は、音孔14を介し、MEMS素子3の外部(MEMSマイク6のパッケージ内部空間)の空気と一体となっている。
【0038】
同図の(b)に示す10aは、下部電極10と電気的に接続する電気パッド、13aは固定電極13と電気的に接続する電気パッドを示しており、図5で説明するC−V測定が、電気パッド10a,13aにプローブを接続することにより実施される。
2.MEMS素子の動作説明
MEMS素子3は、図1の(b)で示した基板2の空孔部7に音圧(音)が加わると、可動電極12が可動(変位)し、図2の(a)に示す可動電極12と固定電極13との距離(d)が変化する。これにより平行平板コンデンサの容量値(C)が変化する。
【0039】
このコンデンサの容量変化は、金属ワイヤ5を介してIC部4に送出され、IC部4において容量変化を例えば電圧変化として電気信号に変換してMEMSマイク6から外部へと出力される。このようにMEMS素子3は、音圧変化を容量変化に変換するトランスデューサ(音響変換器)として機能する。
【0040】
ここで、MEMS素子3の可動電極12と固定電極13との間(以下、単に「電極間」ともいう。)に電荷(Q)を蓄えておくと、音圧による可動電極12と固定電極13との距離(d)の変化を電圧(V)の変化として出力することが可能となる。
【0041】
可動電極12と固定電極13との間を、以下、単に「電極間」ともいい、可動電極12と固定電極13との距離(d)を、以下、単に「電極間距離(d)」ともいう。
電極間に電荷(Q)を蓄えるために、可動電極12に電荷を注入できるエレクトレット膜11を形成しておき、エレクトレット膜11に電荷を蓄える方法(この方法を、エレクトレット方式と呼ぶ。)を採用している。なお、本方法以外に、外部電源を用意して電荷を供給する方法(この方法を、チャージポンプ方式とする。)がある。
3.製造方法
(1)概略
図3は、本実施例におけるMEMSマイクの製造方法である工程フローを示している。
【0042】
本実施の形態に係るMEMSマイク6は、後述のシリコンウェハ(以下、単に「ウェハ」ともいう。)16を加工する工程S1、工程S1で加工されたウェハ16をシートに貼り付ける工程S2、後述するプルイン電圧VPIと容量値Cを測定する工程S3、工程S3で求めたプルイン電圧VPIと容量値CとからMEMS素子3の感度と着電量の関係式を算出する工程S4、工程S3で求めたプルイン電圧VPIと容量値CとからMEMS素子3の安定度と着電量の関係式を算出する工程S5、工程S4と工程S5とから算出したMEMS素子3の感度と安定度からエレクトレット膜11への着電量を決定する工程S6、エレクトレット膜11に着電を実施する工程S7、着電後にプルイン電圧VPIと容量値Cを測定する工程S8、工程S8で得られたプルイン電圧値VPIより実際の着電量を求め、工程S6で設定された着電量と差異がないことを確認する工程S9、工程S8で測定された容量値Cが、工程S3で測定された容量値Cと差異がないことを確認する工程S10、ウェハ16をダイシングする工程S11、紫外線を照射する工程S12、MEMS素子3をダイスピックする工程S13、MEMSマイク6の組立工程S14からなるマイクの製造方法である。
以下に各工程について詳しく説明する。
(2)工程S1
工程S1は、ウェハ加工工程である。
【0043】
図4は、MEMS素子3がシリコンウェハ16に多数存在することを示す図である。
MEMS素子3は、シリコン基板に半導体プロセス技術を用いて複数形成される。なお、MEMS素子3は、シリコンウェハ16からダイシングされたものを言うが、便宜上、ダイシングされる前のシリコンウェハ中に存する、素子に相当するものもMEMS素子3という。
(3)工程S2
工程S2は、ウェハ16をシートに貼り付ける工程である。
【0044】
本工程では、張力を有する状態でリングフレームに固定された粘着性シート上に、上記MEMS素子3が多数形成されたシリコンウェハ16が貼り付けられる。ここでは、シリコンウェハ16は、図2の(a)中の8で示すシリコン基板表面のうち振動膜及び固定膜が形成されていない方の面が粘着性シートに接触する状態で貼り付けられる。
【0045】
これにより、本工程以降で実施されるプルイン電圧VPIと容量値Cとを測定する(この測定を、以下、「C−V測定」ともいう。)工程S3において、プローバーのステージ上にシリコンウェハ16が吸着固定された際に、可動電極12等の破損を防止することができる。
【0046】
なお、粘着性シートは、一方面(一主面)のみが粘着性を有するシートであり、例えば紫外光を照射することにより粘着性を低下させることができるようになっている。
(4)工程S3
工程S3は、各MEMS素子3についてC―V測定を行い、C−V測定結果からMEMS素子3のプルイン電圧値VPIと、容量値Cを決定する工程である。
【0047】
図5は、各MEMS素子3をプローバーでC−V測定を実施する形態を示している。
同図において、複数のMEMSマイク素子3が存在しているシリコンウェハ16は、市販のプローバー上に設置され(図示せず)、プローバーの機構により、シリコンウェハ16は、X,Y,Zの3方向に移動可能となっている。
【0048】
17はプローブカードを表しており、プローブカード17内には、C−V測定を実施する18のユニットが配置されている。ユニット18には、MEMS素子3の中に配置されている電気パッド10aおよび13aに電気的接続を行うプローブ針19が配置されている。このプローブ針19によって、電気パッド10a,13aを介してMEMS素子3の容量Cとプルイン電圧VPIを測定する。
【0049】
図6は、MEMS素子3の可動電極12につながるパッド(図2(b)の10aである。)と固定電極13につながるパッド(図2(b)の13aである。)間にバイアス電圧(V)を掃引印加しながら、可動電極12と固定電極13間の容量値(C)の測定(C−V測定)を実施したときに現れるグラフを示している。
【0050】
図6に示すグラフにおいて、横軸は掃引印加する電圧(V)で、縦軸は容量(C、単位は[F]である。)である。得られるグラフは、電圧=0[V]を境とし、プラス(+)側の電圧とマイナス(−)側の電圧とが左右対称となっている。
【0051】
ここで、電圧=0[V]のときの容量値(C)がMEMS素子3の容量値Cである。MEMS素子3の容量値Cは測定した容量値(C)の最小値を示すが、プラス(+)側の電圧あるいはマイナス(−)側の電圧の絶対値が大きくなると、容量値(C)も大きくなる。
【0052】
これは、可動電極12と固定電極13間のバイアス電圧が大きくなることにより、可動電極12と固定電極13間の静電引力が強まり、可動電極12と固定電極13との電極間距離が縮まるため、可動電極12と固定電極13間の容量値が大きくなることに起因する。
【0053】
プルイン電圧(Pull-In Voltage)は、図6中の「VPI−1」あるいは「VPI−2」と記載した電圧値である。プルイン電圧VPIは、可動電極12と固定電極13との間に供給するバイアス電圧(V)に対し、電圧を0[V]から掃引印加していったときに得られる容量値(C)が急激に変化する電圧値を指す。容量値(C)が急激に変化する理由は、可動電極12が静電引力により固定電極13への接触を開始するためである。
【0054】
工程S3では、シリコンウェハ16に存在する複数のMEMS素子3すべてに対し、C−V測定が実施され、それぞれのプルイン電圧VPIと容量値Cが測定される。
(5)工程S4
工程S4は、プルイン電圧値VPIと容量値Cより、感度と着電量との関係式を求める工程である。
【0055】
MEMSマイク6の感度は、基準圧力1[Pa]を加えたときの出力と定義されていることに対し、本実施例は基準圧力を与えず電気的測定結果よりMEMSマイク6の感度を求めている。つまり、本実施例では、電気的測定結果より算出される値をも感度と定義する。
【0056】
MEMSマイク6の感度(Vout)は、以下の式を用いて求められる。
【0057】
【数1】

【0058】
ここで、VmはMEMS素子3の開放端出力、CはMEMS素子3の平行平板コンデンサの容量、CstはMEMS素子3の寄生容量、CinはMEMS素子3へ接続するIC部4の寄生容量、GはIC部4のゲインである。
【0059】
式(1)で、Cst、Cin、Gが既知であるとき、MEMS素子3の開放端出力VとMEMS素子3の平行平板コンデンサの容量(値)Cを把握できれば、MEMSマイク6の感度を求めることができ、本実施例ではCst、Cin、Gは、実施の形態には記載しない別工程の測定により既知とすることができるため、ここでは既知とする。
【0060】
基準圧力1[Pa]を与えたときのMEMS素子3の開放端出力(電気パッド10a,13a間の出力)Vは式(2)で表せられる。
【0061】
【数2】

【0062】
ここで、Eは、可動電極12と固定電極13との間の電圧(単位は[V]である。)であり、エレクトレット型のMEMSマイクの場合、MEMS素子3内のエレクトレットに蓄える電荷量(電圧)である。
【0063】
また、Sは、背気室のスティフネスであり、図2(a)で示したMEMSマイク6におけるシリコン基板8に設けられた空孔9の体積に起因する物理量(単位は[N/m]である。)で、MEMSマイク6の形状が決定されていることから定数となる。
【0064】
Sは、MEMS素子3の可動電極12の面積であるため、MEMS素子3の形状が決定されていることから、定数となる。
従って式(2)において、MEMS素子3およびMEMSマイク6の形状が定まっている場合、開放端出力Vを求める際の変数となるのはE、d、Sであり、これらの値を把握できれば、開放端出力Vが求まり、さらに式(1)で示したMEMSマイク6の感度Voutを求めることができる。
【0065】
しかしながら、可動電極12と固定電極13との間の距離dについては、可動電極12と固定電極13との間を犠牲層エッチングすることにより、可動電極12と固定電極13との間に空間を生じさせ、その空間の垂直方向(電極の膜厚方向でもある。)の距離が可動電極12と固定電極13との距離dとなるため、犠牲層エッチングのバラツキにより、同一ウェハ16内でもウェハ16内に形成されたMEMS素子3毎(チップ毎)に寸法がばらつき、MEMS素子3毎(チップ毎)によって可動電極12と固定電極13との距離dが異なっている。
【0066】
なお、MEMS素子3の可動電極12と固定電極13との距離dの把握(測定)は、従来、査型白色光干渉法や位相シフト干渉法の機能を有する顕微鏡を用いた独立工程の検査が必要であった。
【0067】
また、可動電極12のスティフネスSは、可動電極12の膜厚のばらつきを起因とし、MEMS素子3毎(チップ毎)にばらつきがある。
なお、MEMS素子3の可動電極12のスティフネスSは、直接の測定が困難であるため、従来、可動電極(12)の上部に位置する固定電極(13)を除去し、レーザードップラー振動計を用いて可動電極の共振周波数foを測定し、式(3)の関係式より、求めていた。
【0068】
【数3】

【0069】
ここで、Moは可動電極の質量(単位は[kg]である。)である。
一方、本発明の意図の1つは、MEMS素子3を破壊したり、別工程での独立した検査を行ったりすることなく、ウェハ状態でMEMS素子3の開放端出力VおよびMEMSマイク6の感度Voutを求めることにある。
【0070】
本実施の形態では、開放端出力VおよびMEMSマイク6の感度Voutを求める際のd、Sの把握については、図5で示したC−V測定を実施することにより行う(工程S3である。)。
【0071】
まず、MEMS素子3の可動電極12と固定電極13との間の距離dを算出する方法について説明する。
MEMS素子3の可動電極12と固定電極13との間の距離dと可動電極12と固定電極13の間の容量値C(可動電極12と固定電極13の間の静電引力がないときの容量値)は、可動電極12と固定電極13が平行平板コンデンサであることから、以下の式が成り立つ。
【0072】
【数4】

【0073】
ここで、εrは、可動電極12と固定電極13間の絶縁体の比誘電率である。MEMSマイク6の場合、可動電極12と固定電極13間の絶縁体は空気であるので、εr=1で定数である。
【0074】
また、εは真空の誘電率であり、8.85×10-12[F/m]の定数である。SはMEMS素子4の形状が決定されている場合は定数である。
したがって、可動電極12と固定電極13との間の距離dは、工程S3により測定した容量値Cと、式(4)とにより算出できる。
【0075】
可動電極12のスティフネスSを算出する方法について説明する。
プルイン電圧VPIは、MEMSマイク6のような平行平板型コンデンサの形態に留まらず、片持ち梁構造あるいは両持ち梁構造などのコンデンサ型センサでも計測される電圧値であるが、本実施の形態に係るMEMSマイク6のような振動膜(可動電極12である。)の膜周辺部が固定された形態においては、以下のような関係式が成り立つ。
【0076】
【数5】

【0077】
ここで、SはMEMS素子3の可動電極12のスティフネス(可動電極の剛さ、動きにくさを示す。単位は[N/m]である。)、dはMEMS素子3の可動電極12と固定電極13との間の距離(単位は[m]である。)、εは真空の誘電率(定数であり、8.85×10-12[F/m]である。)、SはMEMS素子3の可動電極12の面積(単位は[m]である。)である。
【0078】
式(5)において、dが式(4)により既知である。従って、可動電極12のスティフネスSは、工程S3で測定したプルイン電圧VPIと、式(5)とにより算出できる。
【0079】
式(2)で示したMEMS素子3の開放端出力Vは、上記によりS、d、S、Sが既知となるため、MEMS素子3の着電量Eが決定されれば、決定(算出)される。
【0080】
MEMSマイクの感度Voutと着電量Eの関係式は、MEMS素子3の開放端出力Vおよび式(1)を用いることで、MEMSマイク6を組み立てることなく、ウェハ16の状態で求めることが可能である。
(6)工程S5
工程S5は、工程S3で測定したプルイン電圧値VPIと容量値Cとより、安定度と着電量の関係式を求める工程である。
【0081】
背景技術で説明した「安定度(μと表す)」は、可動電極12のスティフネスSを、静電界に基づいて可動電極12に発生する負のスティフネスS(単位は[N/m])にて除した値として与えられ(式(6))、安定度μが1よりも大きいことが可動電極12の安定条件となる。またこの安定度μは大きな値ほど望ましい。
【0082】
可動電極12に発生する負のスティフネスSは、式(7)として与えられており、可動電極12の面積S、可動電極12と固定電極13との間の距離d、可動電極12と固定電極13との間の電圧E、真空の誘電率ε(定数)の関数となっている。
【0083】
従って、所望の安定度μ(例えば安定度2以上)を確保したMEMS素子3を製造する場合、可動電極12のスティフネスS、可動電極12の面積S、可動電極12と固定電極13との距離d、可動電極12と固定電極13間の電圧Eの物理的数値の同定が必要となる。
【0084】
【数6】

【0085】
【数7】

【0086】
式(6)は、式(5)の関係式を用いると、式(8)のように表現できる。
【0087】
【数8】

【0088】
本実施の形態によれば、MEMS素子3のC−V測定を実施することによりプルイン電圧値VPIが同定できるので、安定度μを定めたとき、可動電極12と固定電極13間の電圧Eがどのような値となるべきかを求めることができる。
【0089】
たとえば安定度μを2よりも大きくすると規定したとき、式(8)は、式(9)となり、MEMS素子3の着電量Eの条件が定まる。
【0090】
【数9】

【0091】
なお、工程S4と工程S5は工程S3の後にどちらを先に行ってもよく、同時に行っても良い。
(7)工程S6
工程S6は、着電電圧を変化させたときのMEMSマイク6の感度Voutと安定度μを求め、安定度μと感度Voutを加味した歩留まりが最大となる着電電圧Eを決定する工程である。
【0092】
エレクトレット型のMEMSマイク6は、MEMS素子3に内蔵するエレクトレット膜11に電荷を蓄積させることが特徴であり、着電量(電荷蓄積量)を任意に調整することが可能で、この着電量が可動電極12と固定電極13間の着電電圧Eに相当し、着電量及び着電電圧に「E」をそのまま使用する。
【0093】
着電量Eを大きくすることによりMEMSマイク6の感度Voutを高めることができるが、着電量Eを大きくし過ぎると、静電引力の作用により可動電極12が固定電極13に吸着する現象が生じてしまう。このため、着電量Eの決定には安定度μ確保の制約が発生する。
【0094】
図7は、MEMS素子3に着電する着電量Eに対する、MEMSマイク6の感度Voutを基準とした場合のMEMSマイク6の歩留まりと、MEMSマイク6の安定度μを基準とした場合のMEMSマイク6の歩留まりの関係を示したものである。
【0095】
なお、MEMSマイク6の歩留まりを判断する感度Vout、安定度μの閾値が、あらかじめ定まっており、この閾値に基づいて合否を判断している。また、感度Voutおよび安定度μについての閾値は、所望のMEMSマイク6の規格に適合する値である。
【0096】
図7の関係は、ウェハ16上のすべてのMEMS素子3に対して、工程S4および工程S5の関係を利用して着電量Eを変化させたときの各MEMSマイク6の感度VoutとMEMS素子3の安定度μとを算出し、算出した感度Voutと安定度μが上述の感度Voutおよび安定度μの閾値以上か否かにより品質の合否を判断して、ウェハ16全体での歩留まりを計算してプロットしたものである。
【0097】
図7で示すように、MEMS素子3に着電する着電量(着電電圧)Eを上げればMEMSマイク6の感度Voutを基準とした場合のMEMSマイク6の歩留まりは増加するが、安定度μを基準とした場合のMEMSマイク6の歩留まりは低下する。
【0098】
逆に、MEMS素子3に着電する着電量(電圧)Eを下げれば、安定度μを基準とした場合のMEMSマイク6の歩留まりは増加するが、感度Voutを基準とした場合のMEMSマイク6の歩留まりは低下する。
【0099】
本実施の形態では、上記を鑑み、MEMS素子3に着電する着電電圧Eを安定度μと感度Voutを加味した歩留まりが最大となる着電電圧Eとする。
具体的には、工程S4で求めた感度Voutと着電量の関係式と工程S5で求めた安定度μと着電量の関係式とから、着電量Eを変化させたときのMEMSマイク6の感度Voutと安定度μを求めて良品を判断し(図7の状態)、安定度μと感度Voutを加味した歩留まりが最大となる(図7における、安定度を基準とした場合の歩留まりを示す線分と感度を基準とした場合の歩留まりを示す線分とが交差する)着電電圧Eを一義的に決定している。
(8)工程S7
3工程S7は、各MEMS素子3に対し着電を実施する工程である。
【0100】
着電は、たとえば、コロナ放電を利用した着電装置を用いて行われる。具体的には、MEMS素子3のパッド10aと13aに図5に示したプローブ針19をあて、下部電極10と固定電極13との間に工程S6で決定した着電電圧Eに相当する電位(着電を実施したい電位)を与え、少なくとも1回のコロナ放電を実施して、MEMS素子3に対して個別に実施することにより、エレクトレット膜11を着電させる。
(9)工程S8
工程S8は、着電後の各MEMS素子3に対して、工程S3と示した同様な方法でC−V測定を実施し、着電電圧E、プルイン電圧VPI、容量値Cの算出を実施する工程である。工程S8により図8で示した着電実施後のC−Vのグラフを得る。
(10)工程S9
工程S9は、所望の着電が各MEMS素子3に実施したことを確認する工程である。
【0101】
工程S8で得られた着電実施後のC−Vカーブより着電量を測定し、設定された着電量と差異がないことを確認する。
ここでは、着電量の測定は、着電実施後のC―Vカーブにおいて容量値(C)が容量値Cをとる電圧と、着電実施前の未着電のC―Vカーブにおいて容量値(C)が容量値Cをとる電圧との差を求めることで行う。
【0102】
つまり、着電実施後のC―Vカーブにおけるプルイン電圧VPI−1[V]と、VPI−2[V]との中央の電圧値[V]と0[V]との差の電圧が着電電力Eと一致するかで判断している。
【0103】
なお、着電量が設定された着電量と異なるMEMS素子3であった場合は、そのMEMS素子3は不良とする。
また、工程S9において、ウェハ16の各MEMS素子3の開放端出力Vをコンター図等で出力し、ウェハ16の出来栄えを確認することも可能である。
【0104】
図9は、シリコンウェハ16の各MEMS素子3の開放端出力Vをコンター図にした例である。
同図により、例えばシリコンウェハ16内のMEMS素子3の開放端出力Vのバラツキを確認することができる。なお、各MEMS素子3の開放端出力VだけでなくMEMSマイクのVoutや容量値C、およびプルイン電圧VPIも同様に、コンター図にして可視化できることは言うまでもない。
(11)工程S10
工程S10は、工程S8で測定されたMEMS素子3の容量値が、着電前後で差異がないことを確認する工程である。具体的には、着電前後の容量値Cの差で判断している。
【0105】
MEMS素子3が、工程S8のC−V測定実施の際に可動電極12と固定電極13とが吸着現象を起こすと、容量値Cは、着電前後でその値が異なる。なお、着電前後で容量値Cが異なるMEMS素子は不良とする。
【0106】
このような構成をとれば、不良のあるMEMS素子3を、後工程のダイスピックを行う工程S13で、ダイスピックを行わなくすることができるため、不良MEMS素子3がMEMSマイク6を組み立てる工程S14へ供給されないので、組立て部材の抑制が図れ、製造コストの低減が図れる。
(12)工程S11
工程S11は、シリコンウェハ16上の各MEMS素子3を、ダイシングすることにより、個片に分離する工程である。
(13)工程S12
工程S12は、工程S2でシリコンウェハ16に貼付けた粘着性シートの粘着力を弱めるために、紫外光(UV)を粘着性シートに照射する工程である。粘着性シートの粘着力を弱めることで、次工程のピックアップを容易できる。
(14)工程S13
工程S13は、MEMS素子3をピックアップする工程である。
【0107】
この工程S13では、着電量Eが正常であり、かつ着電前後の着電前後のプルイン電圧VPIおよび容量値Cに異常がないMEMS素子3(本発明の「チップ」に相当する。)のみをピックアップする。
(15)工程S14
工程S14は、MEMSマイクの組立工程であり、図1で示した状態にMEMSマイクを組上げる。
(16)まとめ
工程S1から工程S14をシリコンウェハ16毎に実施することにより、MEMSマイク6の組立後のMEMSマイク6の感度Voutと安定度μが保証されたMEMS素子3のみをMEMSマイク6として組立てることができる。
【0108】
これにより、感度Voutと安定度μが保証されていないMEMS素子3をも組立てる場合と比べて、組立て部材の抑制、MEMSマイク6の良品可否選別の工数低減など、MEMSマイク6の製造におけるコスト低減を図ることができる。
【0109】
また、本実施の形態によると、従来のようにマイクの感度Voutと安定度μをそれぞれ異なる測定方法により求めるのではなく、工程S3という一つの測定ステップから感度Voutと安定度μとの両方を算出することができる。
【0110】
さらに、このような構成によれば、着電前のMEMS素子3のC−V測定検査、エレクトレットへの着電および着電量測定、着電後のC−V測定検査とが1台の設備で実施可能であるため、生産効率の高いMEMSマイク6の製造ラインが構築できる。
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について、図10〜図12を参照し、詳細に説明する。
【0111】
本発明の第1の実施の形態では、MEMSマイク6の感度Voutと安定度μとを加味した良品が最大となるように着電量を決定したが、本実施の形態では、予め規定したマイク感度Voutになるように着電量の決定を行い、その後、安定度μが規格内のものを選別するMEMSマイク製造方法を提供する。
【0112】
図10の(a)は、1枚のシリコンウェハ16に対して、着電量を一定にしたときに作製される各MEMSマイク感度Voutのばらつき分布を示している。
1枚のシリコンウェハ16に対して着電量を一定にした場合、感度Voutの分布において、感度中心値を中心として、感度が高い(図中の「感度高」である。)ものと感度が低い(図中の「感度低」である。)ものが一定の幅を持つ。
【0113】
これに対し、1枚のシリコンウェハ16の各MEMS素子3の着電量を調整すれば、図10の(b)で示すような、図10(a)と比べてMEMSマイク6の感度Voutのばらつきの小さい(感度Voutの分布において、感度中心値を中心として、感度高ものと感度低ものが持つ一定の幅が小さい)MEMSマイク6の製造方法が実現できる。
【0114】
その理由は、式(1)で示したごとく、MEMSマイク6の感度VoutとMEMS素子3の開放端出力Vとは比例関係にあり、式(2)で示したごとく開放端出力Vは、可動電極12のスティフネスSと可動電極12と固定電極13間の距離dとを把握することができれば、エレクトレット膜11への着電量Eを調整することで所望の値とすることができるからである。
【0115】
例えば、MEMSマイク6の感度Voutを−42[dB](電圧値では8[mV]である。)とするために、MEMS素子3の開放端出力Vを−40[dB](電圧値では10[mV]である。)とすればよいことが分かっていれば、MEMS素子3のC−V測定を実施することで、MEMS素子3ごとに可動電極12のスティフネスSと可動電極12と固定電極13間の距離dの把握が可能である。
【0116】
従って、開放端出力Vを−40[dB]とする着電量Eが決定され、この決定に基づいて実際に着電を行えば、開放端出力Vが−40[dB]であるMEMS素子3を製作でき、そのMEMS素子3を使えばマイク感度Voutが−42[dB]であるMEMSマイク6を組立てることができる。
【0117】
図11は、第2の実施の形態におけるMEMSマイクの製造方法である工程フローを示している。
第1の実施の形態における図4で示した工程フローと異なる点は、図11には、工程S4の後に図4で示した工程S5がなく、そのかわりに、工程S10の後に工程S101が存在するところである。
【0118】
図11の工程フローにおいて、工程S1および工程S2は、図4と示した工程と同一である。工程S3のC−V測定を実施し、プルイン電圧VPIと可動電極12と固定電極13間の容量値Cを測定する行為は、図4と同一であるが、本実施の形態では、使用するプローバーの形態が異なる。
【0119】
図12は、本実施例の各MEMS素子3をプローバーでC−V測定を実施する形態を示している。図12においては、20はプローブカードを表し、着電前にC−V測定を実施するユニット21と、着電をおこなうユニット22と、着電後のC−V測定を実施するユニット23とがプローブカード20に配置されている。
【0120】
各ユニットのプローブ針19が、異なるMEMS素子3に配置されている電気パッド10aおよび13aに電気的接続ができるよう配置されている。MEMS素子3は、図12中の矢印の方向に移動するため、1つのMEMS素子3に注目すると、この3組のユニット21,22,23が、順番に(着電前のC−V測定→着電→着電後のC−V測定)実施されることとなる。
【0121】
図11の工程フローによれば、工程S3のC−V測定は、図12のユニット21により実施され、工程S4で、工程S3で測定したプルイン電圧値VPIと容量値Cより、MEMSマイク6の感度Voutと着電量Eとの関係式を求め、工程S6においてMEMS素子3の開放端出力Vが所望の値になるよう着電量Eが決定され、工程S7において図12のユニット22でエレクトレット膜11に着電を行い、工程S8において着電後のC−V測定を図12のユニット23で実施することになる。
【0122】
その後、工程S9において着電量が正常になされたことを確認し、工程S10においてMEMS素子3毎の着電後の容量値Cの比較を実施し、着電前後で差が0とそれ以外のものが分別される。
【0123】
その後、工程S101で、安定度μが規定以上(図11では安定度6以上と記載している)のものを選別する。これは、図4でいう工程S5と同様に安定度μと着電量Eの関係を求めるが、工程S8で実際に測定された着電量から具体的に安定度を算出している点で異なる。
【0124】
そして、ウェハ16をダイシングする工程S11、粘着性シートの粘着力を弱めるためにUV照射を行う工程S12を実施した後、工程S13で、着電量が正常であり、かつ着電前後の着電前後のプルイン電圧VPIおよび容量値Cに異常がなく、かつ安定度μが規定以上のMEMS素子3のみをピックアップし、最後に、工程S14にてMEMSマイク6を図1で示した形態に組立てる。
【0125】
以上に示したMEMSマイクの6製造工程(製造方法)を実施することで、感度バラツキの小さいMEMSマイク6を高歩留まりで製造できる。また、このような構成によれば、着電前のMEMS素子3のC−V測定および検査、着電、着電量測定、着電後のC−V測定検査とを略同時に行うことができるので、生産効率の高いMEMSマイク6の製造ラインが構築できる。
【0126】
なお、本実施の形態では、MEMSマイク6の感度VoutおよびMEMS素子3の開放端出力Vのばらつき低減をはかることができる製造方法を示したが、MEMSマイク6の安定度μに注目し、安定度μが規定値以上になる着電量を決めMEMSマイクを製造する方法にも、同様な手法(例えば図11において、工程S4の代わりに工程S5を行い、工程S101の代わりに工程S4に相当する工程を行う。)で実現可能である。
<第3の実施の形態>
以下、本発明の第3の実施の形態について、図13、図14を参照し、詳細に説明する。
【0127】
本発明の第1の実施および第2の実施の形態では、エレクトレット型のMEMSマイク6の製造方法を示したが、本実施の形態では、MEMS素子の可動電極(本実施の形態では、可動電極は下部電極10及び本発明の「第1の電極」に相当し、以下、可動電極の符号に「10」を用いる。)10と固定電極13(本発明の「第2の電極」に相当する。)との間の電圧の供給方法として外部より電圧を供給する方式のMEMSマイク(チャージポンプ方式と呼ばれる)の製造方法を提供する。なお、MEMS素子の構成としては、図2(a)のエレクトレット膜11が存在しない形態であり、符号等は、第1の実施の形態と同様とする。
【0128】
図13は、本実施例におけるMEMSマイク6の製造方法である工程フローを示している。
同図の工程S1から工程S3まで、工程S11から工程S14までの各工程は、図4、図11で示した工程と同様である。
【0129】
図13のS201の工程は、MEMS素子6の開放端出力と、得られた開放端出力よりMEMSマイク6の感度Voutを計算する工程である。
チャージポンプ式のMEMSマイク6は、MEMS素子3の外部にあるICから電圧の供給を受けるが、ICの供給電圧値は一義的な値である。ICの供給電圧値はMEMS素子3の供給電圧(着電電圧に相当する。)Eとして扱えるので、式(2)で示したMEMS素子3の開放端出力Vと、式(1)で示したMEMSマイク6の感度Voutは、工程S3で実施されたC−V測定による可動電極10のスティフネスSおよび可動電極10と固定電極13間の距離dの把握により計算で求められる。
【0130】
図14は、一般的なMEMSマイク6の感度分布を示すもので、横軸をMEMSマイク6の感度Vout、縦軸をMEMSマイク6の個数とした感度分布例である。一般のMEMSマイク6の製造においては、生産するMEMSマイク6の感度Voutにおいて規格幅があり、感度上限以上、あるいは感度下限以下のMEMSマイク6を市場に供給できない。
【0131】
これに対し、工程S202では、MEMSマイク6の感度Voutが規格内にあるもののみを選別している。なお、MEMSマイク6の感度Voutを計算する工程S201で、図14で示した感度分布グラフを作成・出力することによって、感度Voutが規格外のMEMSマイク6の個数を把握できるとともに、MEMSマイク6の製造においての工程能力把握や、さらには工程能力の改善のためのデータとすることが可能となる。
【0132】
また、感度分布グラフは、図9で示したようなコンター図としても良い。MEMSマイク6を組立てることなくMEMS素子3の状態で販売する場合、客先でMEMS素子3をピックアップすることになり、MEMS素子3と対応付けたコンター図の作成は客先でのMEMS素子ピックアップ可/不可のデータ提供とすることができる。
【0133】
図13の工程S203と工程S204の工程は、安定度μを計算し、規定内の安定度μ(図中では安定度6以上)のもののみを選別する工程である。安定度μの算出は、エレクトレット型MEMSマイクと同様な方法で達成できる。
【0134】
図13の工程S11以降の工程を実施することにより、チャージポンプ方式のMEMSマイク6の感度Voutと安定度μが保証されたMEMSマイク6の組立てが実施される。
【0135】
上記のような構成によれば、従来実施されていなかったウェハレベルでのMEMS素子3の全数検査が可能となり、不良なMEMS素子3がMEMSマイク6の組立工程に供給されないので、組立て部材の抑制が図れ、製造コストの低減が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、MEMSマイクの製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0137】
1 金属ケース
2 基板
3 MEMS素子
4 IC部
6 MEMSマイク
10 下部電極
11 エレクトレック膜
12 可動電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、前記第1の電極に中空部を介して対向するように形成された第2の電極とを有し、前記第1の電極はエレクトレット膜を具備する平行平板型のマイクロホンの製造方法であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第1の工程と、
前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの感度と前記エレクトレット膜への着電量との関係を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出された結果に基づいて、前記エレクトレット膜へ着電する第3の工程とを含むことを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記第3の工程を行う前に、前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの安定度と前記エレクトレット膜への着電量との関係を算出する第4の工程を更に含み、
前記第3の工程は、前記第4の工程で算出された結果にも基づくことを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記第3の工程の後に、
第1の電極と第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第5の工程を有し、
前記第5の工程で測定された測定結果に基づいて、前記エレクトレット膜への着電量を求める第6の工程と、
前記第5の工程で測定された測定結果に基づいて、着電前後の前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値を比較する第7の工程とを含むことを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、
前記第6の工程又は前記第7の工程の結果に基づいてチップを選別する工程を更に有することを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記第3の工程の後、再度、前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第4の工程と、
前記第3の工程の着電量と前記4の工程の測定結果よりマイクロホンの安定度を算出する第5の工程とを含むことを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記第4の工程で測定された測定結果に基づいて、前記エレクトレット膜への着電量を求める第6の工程と、
前記第4の工程で測定された測定結果に基づいて、着電前後の前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値を比較する第7の工程とを更に含むことを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、
前記第6の工程及び/又は前記第7の工程の結果に基づいてチップを選別する工程を更に有することを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、
前記シリコン基板に形成された第1のマイクロホンに対して前記第3の工程を行っているのと同時に、前記シリコン基板に形成された第2のマイクロホンに対して前記第1又は前記第4の工程を行っていることを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項9】
第1の電極と、前記第1の電極に中空部を介して対向するように形成された第2の電極とを有し、前記第1の電極はエレクトレット膜を具備する平行平板型のマイクロホンの製造方法であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第1の工程と、
前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの安定度と前記エレクトレット膜への着電量との関係を算出する第2の工程と、
前記第2の工程で算出された結果に基づいて、前記エレクトレット膜へ着電する第3の工程とを含むことを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項4又は請求項9のいずれか1項に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記第1の工程と前記第3の工程は同一の装置を用いて実施されることを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記マイクロホンは空孔部を有するシリコン基板を有しており、
前記エレクトレット膜は前記中空部に面して形成されていることを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記第1の電極の上方に第2の電極が形成されていることを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項13】
第1の電極と、前記第1の電極の上方に中空部を介して形成された第2の電極とを有する平行平板型のマイクロホンの製造方法であって、
前記第1の電極と前記第2の電極との間にバイアス電圧を掃引印加しながら、前記第1の電極と前記第2の電極との間の容量値とバイアス電圧とを測定する第1の工程と、
前記第1の工程で測定された測定結果に基づいて、マイクロホンの感度又は安定度を算出する第2の工程とを含むことを特徴とする、マイクロホンの製造方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載のマイクロホンの製造方法であって、
前記平行平板型のマイクロホンはシリコン基板上に複数形成されており、
前記各工程は、前記シリコン基板をダイシングする前に行われることを特徴とする、マイクロホンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−39406(P2012−39406A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178082(P2010−178082)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】