説明

マイクロミル

【課題】 試料における所期の微小な領域部分を、高い精度で正確に切削することができるマイクロミルを提供すること。
【解決手段】 マイクロミルは、試料載置面を有するステージと、このステージの上方に位置するよう設けられた、ステージの試料載置面に保持された試料を切削するための回転切削ドリルと、ステージおよび回転切削ドリルの両者を離接方向に相対的に移動させる移動機構とを備えてなるマイクロミルであって、
回転切削ドリルは、水平な回動軸の周りに回動可能な支持機構により支持され、その回転切削ドリルの回転軸の試料載置面に対する傾斜角度が調整可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削対象試料の微小部分を切削するためのマイクロミルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、岩石試料または化石試料などについては微小領域毎の分析が必要であり、これを行うために、例えば安定同位体質量分析計または高周波誘導結合プラズマ発光−質量分析計などが用いられているが、これらの分析においては、試料である岩石片または化石片などにおける微小な分析対象領域部分を、いわゆるマイクロミルにより切削して当該分析対象領域部分を構成する物質の粉体を採取し、これを分析用試料として精密分析に供することが行われている。
【0003】
ここで、分析対象領域部分とは、例えば分析の目的、試料の種類に応じて任意に決定される、試料における組織構造中における微細な一部の組織に係る領域部分であって、通常、ミクロン単位の極めて微小な領域部分毎に試料が切削され、これにより採取された当該各領域部分に係る粉体が独立した分析用試料として分析処理に供される。従って、このように微小な領域部分の切削を行うマイクロミルは、目的とする切削対象領域部分を高い精度で正確に切削できるものであることが要求される。
【0004】
従来、マイクロミルとしては、水平な試料載置面を有すると共に、この試料載置面を水平に保持しながら上下方向に移動可能に設けられた試料載置用ステージと、ドリルビットのドリル回転軸が試料載置面に垂直となるよう固定的に支持された切削ドリルとを備えてなるものが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
このようなマイクロミルは、切削対象物が試料載置面上に保持された試料載置用ステージを移動して、切削対象物を、一定の位置および角度に固定されて支持された切削ドリルのドリルビットに対して下方から接近させると共に当該ドリルビットに対して接触させることにより、当該切削対象物の切削を実行するものである。
【0006】
しかしながら、通常、切削ドリルのドリルビットの切刃部分が回転することにより描かれる軌跡によって形成される形状(以下、単に「切刃回転形状」ともいう。)は円錐形状であるため、図3に示すように、切削対象領域部分51がステージ52の試料載置面521に対して垂直な境界面53を介して隣接領域部分54と接している場合には、境界面53に沿って切削対象領域部分51を厳密に正確に切削することができない、という問題がある。
【0007】
すなわち、図3に示す場合に、ドリルビット50の先端を境界面53に対接させた状態で切削を行うと、切刃回転形状のテーパー面501が、境界面53を越えて隣接領域部分54側に進入することとなり、その結果、得られる分析用試料は、隣接領域部分54の構成部分(斜線部)が含まれたものとなるので分析用試料として不適となる。
【0008】
一方、図4に示すように、隣接領域部分54が切削されることを防止するためにドリルビット50に係る切刃回転形状のテーパー面501が境界線53を越えないよう位置合わせをして切削対象領域部分51の切削を行う場合には、ドリルビット50の位置合わせが困難である上、ドリルビット50と境界面53との間の領域部分55(斜線部)が残留してしまい、従って、切削対象領域部分51の全部を切削・採取することができないため、分析用試料としての量が不十分となるおそれがある。
【0009】
【非特許文献1】ニューウェーブリサーチ(New Wave Research)、“マイクロミル(MicroMill)”、[online]、2004年、[平成17年3月18日検索]、インターネット<URL:http://www.new−wave.com/DownLoad%20Files/LA−MMLL−DSa4−0402.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に基いてなされたものであって、その目的は、試料における所期の微小な領域部分を、高い精度で正確に切削することができるマイクロミルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマイクロミルは、試料載置面を有するステージと、このステージの上方に位置するよう設けられた、ステージの試料載置面に保持された試料を切削するための回転切削ドリルと、ステージおよび回転切削ドリルの両者を離接方向に相対的に移動させる移動機構とを備えてなるマイクロミルであって、
回転切削ドリルは、水平な回動軸の周りに回動可能な支持機構により支持され、その回転切削ドリルの回転軸の試料載置面に対する傾斜角度が調整可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロミルによれば、水平な回動軸の周りに回動可能な支持機構により回転切削ドリルが支持された構成とされているため、回転切削ドリルは、ドリルビットの回転軸の試料載置面に対する角度が変化するよう傾斜可能であって、設定された傾斜角度で固定可能に設けられており、従って、切削対象領域部分に隣接する領域部分との境界面の試料載置面に対する角度、またはドリルビットに係る切刃回転形状のテーパー角を考慮して切削ドリルの傾斜の程度を設定することにより、ミクロン単位という極めて微小な切削対象領域部分の切削を、高い精度で、正確に達成することができる。その結果、隣接領域部分に由来する不純物が含有されない粉体を、高い量的効率で分析用試料として採取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のマイクロミルについて詳細に説明する。
図1は、本発明のマイクロミルの一例の構成を示す斜視図、図2は、切削ドリルが傾斜した状態で、切削対象物の切削が行われる状態を示す模式図である。
【0014】
図1に示す例において、マイクロミル10は、平板状の基台111およびこの基台111から上方に伸びるスタンド棒112を有するスタンド11を備えてなり、この基台111上には、切削対象物である基礎試料122を固定的に保持するための保持具が設けられた試料載置面121を有するステージ12を有すると共に、このステージ12を移動させるステージ移動機構13を備えてなるステージ台14が設けられている。
スタンド棒112には、支持機構によって、その一端にドリルビット151を有する、本体が円筒状の回転切削ドリル15が、ステージ12の上方位置においてドリルビット151が試料載置面に向って伸びるよう配設されていると共に、ドリルビットの先端を含む領域を視野として有し、ドリルビット151によって切削される部位を拡大して観察するための、鏡筒161を有する観察手段16がクロスクランプ162により配設されている。
【0015】
具体的には、支持機構は、水平方向に伸びる支持用ロッド17と、この支持用ロッド17をその基端部においてスタンド棒112に装着するクロスクランプ18とよりなり、支持用ロッド17が、クロスクランプ18によって、水平軸171の周りに回動可能とされていると共に、その回動状態が、設定された傾斜状態で固定可能に設けられている。そして、この支持用ロッド17の先端には、切削ドリル15が、ドリル装着用アダプター153によりドリルビット151の回転軸が水平軸171に垂直となるよう固定されて設けられている。
【0016】
また、クロスクランプ18から突出する支持用ロッド17の基端部の外周面には、例えばドリルビット151の回転軸の試料載置面121に対する角度(以下、単に「ビット回転軸角度」ともいう。)を設定するための角度設定目盛172が設けられている。具体的には、支持用ロッド17の外周面に、ロッド軸方向に伸びる複数の目盛線が、一の間隔距離がビット回転軸角度0.5°に相当するよう等しい間隔で周方向に並んで設けられていると共に、クロスクランプ18にはこの目盛線に対向するよう一の基準線181が設けられている。
【0017】
ここで、試料載置面に対するビット回転軸角度の設定可能範囲は、0〜±45°の範囲であればよい。
【0018】
切削ドリル15においてドリルビット151は、基礎試料122の硬度などの物性、切削対象領域の大きさおよび形状などの適宜の条件に応じて、切刃回転形状またはそのテーパー角などの異なるものに交換することが可能であり、例えば一連の切削工程中の任意のタイミングでドリルビット151を交換することも可能である。ここで、ドリルビット151を、切刃回転形状のテーパー角の異なるものに交換した場合には、後述するように、ビット回転軸角度を必要に応じて変更すればよい。
【0019】
ステージ台14におけるステージ移動機構13は、ステージ12を上下方向(Z軸方向)に推移させるリフト131と、このリフト131の上に設けられた、ステージ12を水平面内で横方向(X軸方向)に推移させる第1の中間ステージ132と、この第1の中間ステージ132の上に設けられた、ステージ12を水平面内で縦方向(Y軸方向)に推移させる第2の中間ステージ133とよりなり、この第2の中間ステージ133の上に、平坦な試料載置面121を有する平板状のステージ12が配設された構成とされている。
ここで、ステージ12の寸法は、切削対象物を安定的に載置、固定することができる大きさであればよく、例えば縦5cm横5cmとされる。
【0020】
ステージ移動機構13において、ステージ12の最小移動単位は、例えば0.025〜1.0μm、好ましくは0.025μmとされ、このようなステージ移動機構13の駆動源としては例えばステップモータが用いられる。
【0021】
観察手段16としては、切削ドリルによる試料の切削状態を視覚的に拡大して確認できるものであればよく、例えば拡大鏡、適宜のモニタ装置への画像出力機能を有するCCDカメラなどを利用することができる。
【0022】
以上のマイクロミル10においては、試料載置面121に切削対象物である基礎試料122が載置されて固定された後、ステージ移動機構13における中間ステージ132、133が駆動されてステージ12が縦方向および横方向に移動されてドリルビット151に対する基礎試料122の位置合わせが実行され、その後、リフト131が駆動されてステージ12が上昇されることにより、基礎試料122がドリルビット151に接触されて切削が開始される。更に、この状態でステージ12が縦方向および横方向に移動されて、基礎試料122における所期の領域部分の切削が達成される。
【0023】
この切削工程においては、用いられるドリルビット151に係る切刃回転形状のテーパー角度γおよび、基礎試料20における切削対象領域部分21に係る境界面22の試料載置面121に対する角度α(図2の例においては90°)に基づいて、支持用ロッド17の基端部を例えばオペレーターが指で回転させることにより、ドリルビット151のビット回転軸152が傾斜され、その角度が設定される。これにより、ドリルビット151に係る切刃回転形状のテーパー面が、境界面22に適合する状態(図2(b)参照)が達成される。
【0024】
従って、この状態でステージ移動機構13によりステージ13がZ軸方向上方に駆動されることにより、図2(c)に示すように、ドリルビット151に係るテーパー面が、切削対象領域部分21のみを切削しながら境界面22に沿って相対的に移動することとなるため、結局、隣接する領域部分を切削することなく、しかも、切削対象領域部分21を高い精度で、正確に切削することが可能である。
【0025】
以上の、マイクロミルによれば、ドリルビットを有する切削ドリルが、水平な回動軸の周りに回動可能に設けられた支持用ロッドよりなる支持機構により支持されているため、用いられるドリルビットの形状、および、切削対象領域部分に係る境界面の角度などに関わらず、当該切削対象領域部分の切削を高い精度で正確に実行することが可能であり、これにより、目的とする分析対象試料を確実に採取することができる。
ここで、支持用ロッドに角度設定目盛が設けられていることにより、ドリルビットに係る切刃回転形状のテーパー角度γに合わせてドリルビットの回転軸角度を容易に、しかも確実に設定することが可能である。
また、ステージ移動機構における最小移動単位が小さく、しかも、切削部位を視覚的に確認する拡大鏡を備えた構成とされていることにより、微小な領域部分を切削する場合であっても、オペレーターは、切削操作を高い精度で、しかも容易に実行することができる。
更に、切削ドリルが、支持機構に設けられた適宜のアダプターにより交換可能に装着されているため、切削に供される切削ドリルの種類を、市販の製品から高い自由度をもって、選択することが可能である。
【0026】
以上、本発明のマイクロミルについて具体的に説明したが、本発明においては種々の変更を加えることが可能である。
例えば、ステージ移動機構は、ステージを水平面上で回転させる回転テーブルを備えてなる構成とされていてもよい。このような構成によれば、切削対象物の切削工程において高い自由度が得られる。
また、切削対象領域部分に係る境界面の延伸方向などに応じて、切削ドリルの傾斜状態は、途中で、支持用ロッドが回動されてその角度が変更されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のマイクロミルの一例の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明のマイクロミルによる基礎試料の切削において、切削ドリルが傾斜した状態で、切削対象物の切削が行われる状態を示す模式図である。
【図3】従来のマイクロミルによる基礎試料の切削状態を示す説明用斜視図である。
【図4】従来のマイクロミルによる基礎試料の切削状態を示す説明用斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
10 マイクロミル
11 スタンド
111 基台
112 スタンド棒
12 ステージ
121 試料載置面
122 基礎試料
13 ステージ移動機構
131 リフト
132 中間ステージ
133 中間ステージ
14 ステージ台
15 切削ドリル
151 ドリルビット
152 ビット回転軸
153 ドリル装着用アダプター
16 観察手段
161 鏡筒
162 クロスクランプ
17 支持用ロッド
171 水平軸
172 角度設定目盛
18 クロスクランプ
181 基準線
20 基礎試料
21 切削対象領域部分
22 境界面
50 ドリルビット
501 テーパー面
51 切削対象領域部分
52 ステージ
521 試料載置面
53 境界面
54 隣接領域部分
55 領域部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料載置面を有するステージと、このステージの上方に位置するよう設けられた、ステージの試料載置面に保持された試料を切削するための回転切削ドリルと、ステージおよび回転切削ドリルの両者を離接方向に相対的に移動させる移動機構とを備えてなるマイクロミルであって、
回転切削ドリルは、水平な回動軸の周りに回動可能な支持機構により支持され、その回転切削ドリルの回転軸の試料載置面に対する傾斜角度が調整可能であることを特徴とするマイクロミル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−334703(P2006−334703A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161011(P2005−161011)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】