マイクロリソグラフィ投影露光装置
【課題】マスクを層上に結像するためのマイクロリソグラフィ投影露光装置を提供する。
【解決手段】マイクロリソグラフィ投影露光装置は、投影光源(LS)と、光学要素(M2)によって少なくとも部分的に吸収される加熱光(HL)を生成するための加熱光源(100)とを含む。照明光学ユニット(102)は、光学要素(M2)の光学面(104)上で加熱光(HL)が所定の強度分布(108)を有するように、加熱光(HL)を光学要素(M2)上に向ける。本発明により、照明光学ユニット(102)は、回折光学要素(118;118a,118b;218)又は屈折自由形状要素(318;418)として具現化された偏向要素を含み、この偏向要素は、その上に入射する加熱光(HL)を同時に異なる方向に向ける。
【解決手段】マイクロリソグラフィ投影露光装置は、投影光源(LS)と、光学要素(M2)によって少なくとも部分的に吸収される加熱光(HL)を生成するための加熱光源(100)とを含む。照明光学ユニット(102)は、光学要素(M2)の光学面(104)上で加熱光(HL)が所定の強度分布(108)を有するように、加熱光(HL)を光学要素(M2)上に向ける。本発明により、照明光学ユニット(102)は、回折光学要素(118;118a,118b;218)又は屈折自由形状要素(318;418)として具現化された偏向要素を含み、この偏向要素は、その上に入射する加熱光(HL)を同時に異なる方向に向ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクを層上に結像するためのマイクロリソグラフィ投影露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロリソグラフィ投影露光装置は、マスク内に含まれるか、又はマスク上に配置された構造をレジスト又はいずれかの他の感光層に転写するのに使用される。投影露光装置の最も重要な光学構成要素は、光源と、光源によって生成された投影光を調整してマスク上に向ける照明系と、マスクのうちで照明系によって照明される区画を感光層上に結像する投影対物系とである。
【0003】
投影光の波長が短い程、投影露光装置を用いて感光層上に定義することができる構造は小さい。次世代の投影露光装置は、極紫外スペクトル範囲(EUV)内で13.5nmの波長をする投影光を使用することになる。多くの場合にそのような装置は、略してEUV投影露光装置と呼ばれる。
【0004】
しかし、そのような短い波長に対して十分に高い透過能を有するいずれの光学材料も存在しない。従って、EUV投影露光装置においては、長い波長において通例のものであるレンズ及び他の屈折光学要素はミラーで置換され、従って、マスクも同様に反射構造のパターンを含む。
【0005】
EUV投影露光装置においてミラーを設けることは、高い技術的課題をもたらす。EUV光に適し、ミラー基板に付加されるコーティングは、多くの場合に、僅か数ナノメートルの厚みのみを有する技術的に複雑な工程において蒸着によって上下に重ねて付加される30個又は40個を超える二重層を含む。そのような複雑な構造を有するコーティングを用いても、EUV光に対するミラーの反射率は、通常70%を超えることは殆どなく、更に、これは、反射コーティング上に垂直に又は数度の入射角で入射する光に対してしか当て嵌まらない。
【0006】
ミラーの比較的低い反射率の結果は、各ミラーが光学的損失を伴い、最終的に投影露光装置の収量を低下させるので、投影露光装置の開発中に可能な限り少数のミラーしか用いない手法を行わなければならないことである。
【0007】
その一方、ミラーの比較的低い反射率は熱問題も伴い、これは、高エネルギEUV光のうちでコーティングによって反射されない部分が吸収され、ミラー内の温度増大をもたらすことによる。投影露光装置は、ガスによるEUV光の高い吸収に起因して真空中で作動させなければならず、従って、対流による熱移動は除外されるので、この過程において生成された熱は、実質的にミラー基板を通じた熱伝導を用いて消散させなければならない。
【0008】
ミラー基板内で発生する温度勾配がミラーの望ましくない変形をもたらさないように、ミラー基板において、作動温度において可能な限り小さく、又は更に殆どゼロと言える程小さい熱膨張係数を有する材料を使用するのが好適である。この種のガラスシステムの材料は、例えば、SchottによってZerodur(登録商標)という商標の下で、更にCorningによってULE(登録商標)という商標の下で販売されている。付加的な対策を使用することにより、EUV光の吸収によってもたらされる熱変形を低く保つことができ、又は少なくとも投影対物系の光学特性に対する熱変形の効果を許容限度内に保つことができる。
【0009】
従って、US 7,477,355 B2は、ミラーの基板材料が熱膨張係数がゼロ又は少なくとも最小である温度にあるように、付加的な加熱手段を用いてこのミラーを加熱することを提案している。この場合、装置の作動中の温度変動は、ミラーの結像特性に対していずれの効果も持たないか又は僅かな効果のみを有する。
【0010】
US 7,557,902 B2は、2つのミラーが、これらの2つのミラーの一方において温度増大と共に増大する熱膨張係数を有する材料で構成され、他方のミラーにおいて温度増大と共に減少する熱膨張係数を有する材料から構成される投影対物系を説明している。ミラーの適切な選択の場合にこの手法で達成することができることは何かというと、温度変化の場合に2つのミラーは大きく変形するが、これらの変形の光学効果が互いに殆ど相殺することである。
【0011】
ファセットミラーの場合にも、個々のミラーファセットを担持する担持本体がこの場合には熱的に誘起される変形によって一般的に影響を受けることを除き、類似の問題を解決する必要がある。ガラスシステム材料の比較的低い熱伝導度に起因して、担持本体として通常は金属が使用される。しかし、作動温度で上述のガラスシステム材料の場合のものと類似の小さいマグニチュードを有する熱膨張係数を有するいずれの金属も存在しない。
【0012】
熱的に誘起される変形の問題は、長い波長、例えば、193nm(VUV)又は254nm(DUV)に向けて設計された投影露光装置においても存在する。通常、この問題は、投影光の吸収(僅かではあるが)の結果として不均一に加熱され、その結果、形状を変化させるレンズ要素及び他の屈折光学要素に影響を及ぼす。
【0013】
DE 103 17 662 A1は、結像ミラー上の選択領域を付加的な加熱光で照明する加熱光源を含むEUV投影露光装置を開示している。加熱光の吸収の結果として、ミラー面上に少なくともほぼ均一な温度分布が確立される。適切な設計を使用すると、熱平衡において、ミラー基板の熱膨張係数が絶対最小値を有する温度が確立される。その結果、温度分布の比較的低い温度変動又は残留不均一性は、ミラー基板の感知可能な熱変形、従って、結像収差をもはやもたらすことができない。
【0014】
加熱光を用いてミラー上の選択領域のみを照明するために、この公知の投影露光装置では、ミラー面上で、投影光が入射し、従って、加熱光によって付加的に加熱することが意図されない領域を遮蔽する透過フィルタが加熱光源の下流に配置される。加熱光が、ミラー面上で可能な限り鮮明に境界が定められたパターンを形成することが意図される場合には、透過フィルタをミラー面上に結像する付加的な結像光学ユニットを設けることができる。別の実施形態では、加熱光としてレーザが使用され、このレーザに制御可能な光線偏向デバイスが割り当てられる。この光線偏向デバイスを用いて、レーザによって生成されたレーザ光線が、ミラー面上の望ましい領域上にのみもたらされる。この場合、光線偏向デバイスは、それ自体公知のバーコードスキャナにおけるものと類似の方式に実施することができる。
【0015】
この公知の投影露光装置において不利であると見出されたことは、透過フィルタが使用される場合に、加熱光のうちで、ある一定の条件下では無視することができない量の一部分が透過フィルタ内で失われることである。ミラー面上で比較的小さい領域のみを高強度で加熱することが意図される場合には、透過フィルタの使用は、非常に高パワーの加熱光源を必要とし、その結果、透過フィルタは、一層強度に加熱される。
【0016】
スキャナ様のミラーにおいてミラー面上で加熱光によって照明される領域にわたって掃引する比較的細かいレーザ光線の使用により、いずれの光損失も発生しないのは確かである。しかし、十分に高い熱入力を得るためには、レーザ光線の強度を高くすべきである。しかし、ある一定の関連下では、高い局所放射線作用によってミラーの高感度反射コーティングが損傷を受ける可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US 7,477,355 B2
【特許文献2】US 7,557,902 B2
【特許文献3】DE 103 17 662 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、冒頭に示した種類の投影露光装置を加熱光を用いた光学要素の効率的かつ同時に穏やかな加熱を保証するように改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、マスクを層上に結像するためのマイクロリソグラフィ投影露光装置によって達成される。装置は、層が感光性を有する投影光を生成するように構成された投影光源と、装置の作動中に投影光に露出される光学面を有する光学要素とを含む。更に、装置は、投影光源とは異なる加熱光源であり、層が感光性を持たず、光学要素によって少なくとも部分的に吸収される加熱光を生成するように構成された加熱光源と、光学面上で加熱光が所定の強度分布を有するように、加熱光を光学要素上に向けるように構成された照明光学ユニットとを含む。照明光学ユニットは、回折光学要素によって又は屈折自由形状要素として形成された偏向要素を含み、この偏向要素は、その上に入射する加熱光を同時に異なる方向に向ける。
【0020】
従って、照明光学ユニットを望ましくない方向に射出する光を透過フィルタを用いて遮蔽するか、又は走査レーザ光線の場合のように加熱光を時間的に連続して異なる場所に向ける代わりに、本発明により、加熱される光学要素の光学面上に望ましい強度分布が生成されるように、加熱光を同時に異なる方向の間で分布させる偏向要素が使用される。その結果、高い加熱パワーを低い損失しか伴わずに加熱光源から光学要素に伝達することができる。投影露光装置内でもたらされる熱損失は相応に低く、更に、光学要素の高感度面に対する損傷をもたらす可能性がある非常に高い局所放射線強度が回避される。
【0021】
光学要素の光学面上に異なる強度分布を生成することができることが意図される場合には、偏向要素は、可変光学特性を有するべきである。
【0022】
最も簡単な場合には、偏向要素は、異なる偏向特性を有する異なる偏向要素と交換することができるように交換可能ホルダに収容される。
【0023】
制御可能可変偏向特性を有する偏向要素の使用は、より一層高い柔軟性を有する。
【0024】
偏向要素が回折光学要素として設計される場合には、適切な選択肢は、例えば、回折光学要素を空間分解方式で切換可能なLCDパネルとして設計することである。この場合、回折光学要素の回折構造は、個々に点灯及び消灯することができるLCDパネルのピクセルによって形成される。このようにして、偏向要素の可変角度分布、従って、光学面上の加熱光の可変強度分布を確立することができる。
【0025】
制御可能可変偏向特性を有する回折偏向要素の別の例は、音響光学変調器である。そのような変調器内では、超音波発生器を用いて超音波定常波が生成される。この波は、超音波発生器を駆動することによって変更することができる回折効果を有する格子状屈折率分布の形成をもたらす。
【0026】
特に、光学面上の強度分布の微補正に向けて、照明光学ユニットは、空間分解方式で切換可能な加熱光の一部を制御可能方式で減衰させることができるLCDパネルを含むことができる。そのような制御可能可変透過フィルタの結果として吸収損失がもたらされるが、光学要素上の光学面の照明が、実質的に偏向要素によって判断され、LCDパネルが、比較的小さい補正のためだけに使用される場合には、これらの損失を低く保つことができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、照明光学ユニットは、ビーム経路内で偏向要素の下流に配置されたテレスコープ光学ユニットを含む。そのようなテレスコープ光学ユニットは、入力側で優勢な角度分布を拡大するという利点を有する。それによって主に偏向要素が回折光学要素として設計される場合に、比較的大きい回折構造によって小さい偏向角を生成することができるので、回折光学要素から構成される要件が大きく軽減される。更に、それによって回折光学要素の製造が容易になる。例えば、テレスコープ光学ユニットが10という倍率を有する場合には、1μmの加熱光波長において、テレスコープ光学ユニットの出力において30度の偏向角を生成するためには20μmの格子間隔で十分である。それとは対照的に回折光学要素は、3°程度の偏向角を生成するだけでよい。
【0028】
本発明は、光学要素がミラーであり、投影光が30nmよりも短い波長を有する場合に特に有利に使用することができる。しかし、原理的には、本発明は、VUV投影露光装置又はDUV投影露光装置におけるミラー及び屈折要素の場合にも使用することができる。
【0029】
加熱光は、例えば、0.8μmと50μmの間の中心波長を有する赤外線光とすることができる。一般的に、赤外線光は、加熱される光学要素によって高度に吸収される。更に、通常、感光層として使用されるフォトレジストは、一般的に赤外線光に対して感光性を持たない。これは、反射又は散乱の結果として少量の加熱光がフォトレジストに到達することを阻止することができない可能性があるので重要である。
【0030】
加熱光源には射出窓を割り当てることができ、装置の作動中に加熱光はこの射出窓から射出する。この場合、好ましくは、照明光学ユニットは、射出窓から射出する光を平行なビームに変換するコリメータを含む。平行な光の使用は、第1に偏向要素の設計を容易にする。更に、その結果として、偏向要素の下流の角度分布は、偏向要素が露出される加熱光の強度分布には殆ど依存しなくなる。
【0031】
射出窓は、例えば、加熱光源自体、例えば、赤外線レーザダイオードの射出窓とすることができる。しかし、射出窓は、加熱光を加熱光源から照明光学ユニットに向ける光ファイバの端部とすることができる。
【0032】
本発明の更に別の特徴及び利点は、図面を参照する以下に続く実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による第1の実施形態に従ったEUV投影露光装置の略斜視図である。
【図2】図1に示す投影露光装置を通る子午断面図である。
【図3】図1及び図2に示す投影露光装置の照明系の一部である瞳ファセットミラーの簡略化した斜視図である。
【図4】投影露光装置の投影対物系のミラー、このミラー上に入射する投影光及び加熱光を示す図2の子午断面図からの拡大抜粋図である。
【図5】図4に示すミラーの平面図である。
【図6】偏向要素が回折光学要素として設計された第1の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図7】2つの別々の加熱光源が設けられた第2の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図8】偏向要素として使用される回折光学要素がLCDパネルとして設計された第3の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図9】偏向要素が音響光学要素として設計された第4の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図10】偏向要素が屈折自由形状要素として設計された第5の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図11】自由形状要素に制御可能減衰器としてLCDパネルが割り当てられた第6の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図12】偏向要素の下流にテレスコープ光学ユニットが配置された第7の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図13】請求する本発明の主題の一部ではない第8の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図14】請求する本発明の主題の一部ではない第9の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図15】請求する本発明の主題の一部ではない第10の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.投影露光装置の基本構成
図1は、全体を10で表す本発明によるマイクロリソグラフィ投影露光装置の基本構成を非常に概略的な斜視図に示している。投影露光装置10は、マスク14の下側に配置された反射構造12を感光層16上に投影する働きをする。特に、フォトレジスト(レジストとも呼ぶ)とすることができる感光層16は、ウェーハ18又はいずれかの他の基板によって担持される。
【0035】
投影露光装置10は、マスク14の構造12が設けられた側を投影光PLで照明する照明系20を含む。特に、5nmと30nmの間の範囲が、投影光PLにおける波長として適切である。示すこの実施形態では、投影光PLの中心波長は約13.5nmであり、従って、極紫外スペクトル範囲(EUV)内にある。投影光PLは、マスク14の下側で、図示の実施形態ではリングセグメントの幾何学形状を有する照明視野24を照明する。
【0036】
更に、投影露光装置10は、照明視野24の領域内に位置する構造12の縮小像24’を感光層16上に生成する投影対物系26を含む。OAは、リングセグメント形の照明視野24の対称軸と一致する投影対物系26の光軸を表している。しかし、本発明は、投影対物系26内にいずれの回転対称扇形面も存在せず、従って、光軸が定義されない投影露光装置に対して使用することができる。
【0037】
投影対物系26は、感光層16の露光中にマスク14がウェーハ18と同期して変位した走査作動に向けて設計される。図1には、マスク14及びウェーハ18のこれらの変位移動を矢印A1、A2に示している。マスク14が変位した速度とウェーハ18が変位した速度との比は、この場合、投影対物系26の結像スケールβに等しい。図示の実施形態では、投影対物系20によって生成される像24’は縮小され(|β|<1)、反転されず(β>0)、この理由から、ウェーハ18は、マスク14よりも低速ではあるが、同じ方向に変位される。従って、感光層16の露光中に、照明視野24は、マスク14にわたってスキャナ様の方式で掃引を行い、その結果、比較的大きい連続構造領域であっても、感光層16上に投影することができる。
【0038】
投影対物系26の物体平面内に位置する照明視野24内の各点から光ビームが射出し、これらの光ビームは、投影対物系26内に入射する。投影対物系26は、入射光ビームが、投影対物系26の下流の像平面内で視野点に収束するという効果を有する。物体平面内で光ビームが射出する視野点と、像平面内でこの光ビームが再度収束する視野点とは、この場合、互いに光学的共役と呼ぶ関係にある。
【0039】
照明視野24の中心にある個別点に対してそのような光ビームを略示し、28で表している。この場合、投影対物系10内に入射する時の光ビーム28の開口角は、投影対物系10の開口数NAの尺度である。縮小像に起因して、投影対物系26の像側開口数NAは、結像スケールβの逆数で拡大する。
【0040】
図2は、投影露光装置10を通る略子午断面図である。投影対物系26は、間に合計で6つのミラーM1からM6が配置された物体平面30と像平面32とを有する。物体平面30内の点から射出する光ビーム28は、最初に凹の第1のミラーM1上に入射し、凸の第2のミラーM2上に反射して戻され、凹の第3のミラー上に入射し、凹の4番目のミラーM4上に反射して戻され、更に凸の5番目のミラーM5上に入射し、このミラーM5は、このEUV光を凹の6番目のミラーM6上に再度向ける。6番目のミラーM6は、最終的に光ビーム28を像平面32内の共役結像点上に集束させる。
【0041】
ミラーM1からM6に図2に破線に示す部分を補填した場合には、このようにして補填を受けたミラーの反射面は、投影対物系26の光軸OAに関して回転対称になる。しかし、容易に確認することができるように、この場合ミラーM1、M2、及びM4からM6は、光路を部分的に遮蔽することになるので、上述のビーム経路は、そのような完全に回転対称なミラーを用いては達成することができない。
【0042】
投影対物系26は、第2のミラーM2の面内又はその直近に位置する第1の瞳面34を有する。瞳面は、物体平面30内の点から射出した光ビームの主光線が瞳面において光軸OAと交わることによって区別される。図2ではこれを36で表し、破線に示す、光ビーム28の主光線に対して示している。
【0043】
5番目のミラーM5と6番目のミラーM6の間のビーム経路には第2の瞳面38が位置し、第2の瞳面38からこれらの2つのミラーM5、M6までの距離は比較的大きい。第2の瞳面38と同じ面には、遮蔽絞り40が配置される。
【0044】
投影露光装置10の照明系20は、光源LS(例えば、レーザプラズマ光源)によって生成されたEUV光を調整し、このEUV光をマスク14上において照明視野24内の各点が、望ましい強度及び照明角度分布を有するEUV光で照明されるようにマスク14上に向ける。この目的のために、照明系20は、入力ミラー70と、視野ファセットミラー72と、瞳ファセットミラー74と、第1のコンデンサーミラー76と、第2のコンデンサーミラー78とを有する。かすめ入射に向けて設計されたミラー80を通じて、EUV光は最終的にマスク14上にもたらされる。
【0045】
この場合、図3の斜視図に示す瞳ファセットミラー74が、82に示す照明系20の瞳面に配置される。照明系20の瞳面82は、投影対物系26の瞳面34及び38に対して光学的に共役である。その結果、照明系20の瞳ファセットミラー74上に強度分布は、最初に投影対物系26の第2のミラーM2上に結像され、そこから第2の瞳面38上に結像される。
【0046】
瞳ファセットミラー74は、視野ファセットミラー72を用いて異なる具合に照明することができる。この目的のために、視野ファセットミラー72のミラーファセット84は、ミラーファセット84上に入射するEUV光を瞳ファセットミラー74の異なるミラーファセット上に向けることができるように、アクチュエータ85を用いて個々に傾斜可能であり、又はいずれかの他の手法で調節可能である。この目的のために、視野ファセットミラー72のアクチュエータ85は、投影露光装置10の上の中央コントローラ88に接続した制御ユニット86によって駆動される。物体平面30内の照明視野24の幾何学形状は、視野ミラーファセット84の外側プロフィールによって定義される。
【0047】
照明系20の瞳面82は、フーリエ変換によって物体平面30に関連付けられるので、物体平面30内の照明角度分布は、瞳面82内の空間強度分布によって定義される。その結果、瞳ファセットミラー74の異なる照明を用いて、マスク14上に入射する投影光の照明角度分布をマスク14内に含まれる構造12にターゲット方式で適応させることができる。
【0048】
一部の照明角度分布の場合には、投影光が、幅狭に境界が定められた角度範囲でのみマスク上に入射することが意図される。照明系20の瞳面82の照明では、これは、視野ファセットミラー72によって瞳面82の比較的小さい領域のみが照明されることを意味する。
【0049】
照明系20の瞳面82は、下流の光学構成要素によって投影対物系26の第1の瞳面34上に結像されるので、同様に小さい領域のみが照明される強度分布が第2のミラーM2の面上にもたらされる。更に、瞳ファセットミラーのラスター状配列89に起因して、上述の領域は均一に照明されず、同様にラスター化される。第2のミラーM2の面上の多くの場合に極とも呼ばれる領域が小さい程、投影光の部分吸収の得られる熱入力は均一ではない。高エネルギ投影光のうちの3分の1程度がミラーの反射コーティング内で吸収されるので、ラスター化された極の領域内の熱入力は比較的高い。低い熱膨張係数を有する材料から構成されるミラー基板を使用する場合であっても、ミラー基板の変形を回避するのは困難である。しかし、そのような変形は、投影対物系26の結像特性を劣化させ、それによってマスク14上の構造12は、感光層16上にもはや最適には結像されない。
【0050】
2.加熱光
ミラーM2の面上に望ましい(一般的に均一な)温度分布を得るために、投影対物系26は、ウェーハ18上の層16が感光性を持たず、ミラーM2によって少なくとも部分的に吸収される加熱光HLを生成するように設計された加熱光源100を含む。照明光学ユニット102は、好ましくは、第2のミラーM2の反射面のうちで高エネルギEUV光に露出されない領域にのみ加熱光HLを向ける。
【0051】
図4は、第2のミラーM2と、加熱光源100と、照明光学ユニット102とを子午断面内の拡大図に示している。投影光PLは、第2のミラーM2の104で表すミラー面上に2つの比較的小さい極P1、P2をラスター方式で照明する。図5に記載のミラーM2の平面図では、2つのラスター化された極P1、P2のサイズ及び形状、並びにミラーM2のミラー面104上でのこれらの極の位置を容易に確認することができる。
【0052】
この実施形態では、照明光学ユニット102は、加熱光源100によって生成された加熱光HLが、ミラー面104のうちで投影光PLに露出されない領域108上にのみもたらされるように設計される。図5の平面図に示すように、図示の実施形態では、加熱光HLによって照明される領域108は実質的に円形であり、2つの同様にほぼ円形の極P1、P2を取り囲む。
【0053】
加熱光HLの吸収の得られる熱入力が、極P1、P2の領域内での投影光PLの吸収の得られるものとほぼ同じマグニチュードのものである場合には、投影光PLが2つの小さい極P1、P2しか照明しなくても、ミラーM2内の温度分布は少なくともほぼ回転対称に留まる。この温度分布の平均温度が、この温度において材料が最小の熱膨張係数、又は更にゼロと言える程小さい熱膨張係数を有するようにミラー基板の材料と調整される場合には、第2のミラーM2は全く変形せず、又は最大でも殆ど変形しない。しかし、時に依然として発生するいずれかの変形は、いずれの場合にもそれ自体が前と同様に回転対称であり、これは、補正することが比較的容易な回転対称結像収差をもたらす。
【0054】
しかし、第2のミラーM2内で加熱光HLの影響下で確立される温度分布は、必ずしも回転対称である必要はない。上記に対する変形としての適切な選択肢は、ある一定の限度内で任意であるが、所定の温度分布を生成することである。この所定の温度分布は、この温度分布の場合にいずれの結像収差も確立されないように投影対物系26の設計に考慮される。この場合、全ての作動条件下で第2のミラーM2内に所定の温度分布が確立されるように、ミラーM2上で加熱光HLによって照明される領域108を設定された照明角度分布、従って、ミラー面104上で投影光PLによって照明される領域の幾何学形状に適応させなければならない。
【0055】
照明光学ユニット102における本発明による様々な構成を図6から図15を参照して以下に説明する。
【0056】
図6に図示の実施形態では、加熱光源100は、0.8μmと50μmの間の中心波長を有する赤外線光を生成する。加熱光HLは、光ファイバ110内に取り込まれ、取り込み側とは反対に位置する光ファイバ110の射出窓112に進む。射出窓112は、平行な加熱光線116を生成するコリメータレンズ要素114の焦点面内に位置する。平行な加熱光線116は、図示の実施形態では回折光学要素として設計される偏向要素118上に入射する。回折光学要素118は、明瞭化の目的で図6には拡大して示す複数の微細な回折構造120を含む。一般的に回折構造120のサイズは、数マイクロメートルの桁のものである。
【0057】
回折光学要素は、異なる光学偏向特性を有する回折光学要素118と容易に交換することができるように、交換可能ホルダ122に収容される。この図では簡略化して示す交換可能ホルダ122は、例えば、外周にわたって配分された複数の回折光学要素118を含む回転可能に装着された円盤を含むそれ自体公知のターレットホルダとして具現化することができる。この場合、サーボモータを用いて円盤を回転させることにより、望ましい回折光学要素118をビーム経路に導入することができる。
【0058】
回折光学要素118の構造120は、回折光学要素118が、図5の照明領域108によって示すように、遠視野においてミラー面104上の加熱光HLの望ましい強度分布をもたらす角度分布を生成するように設計される。従って、加熱光源100によって生成された加熱光HLは、ミラー面104の照明される領域108にわたって損失なく配分される。
【0059】
異なるマスク14を結像することが意図される場合には、多くの場合に、照明角度分布もこのマスク14に適応させなければならない。これは、ミラー面104上で投影光PLによって照明される領域が、その形状及び/又はサイズを変化させることに現れる。第2のミラーM2内に望ましい(一般的に回転対称な)温度分布を得るためには、上記に応答して、加熱光HLによって照明される領域108の形状も適応させなければならない。この適応は、交換可能ホルダ122を用いて回折光学要素118を変更することによって行われる。
【0060】
回折光学要素118は平行な加熱光線116に露出されるので、回折光学要素118の平行な加熱光線116に露出されている入力側の強度分布の不均一性は、回折光学要素118によって生成される角度分布に対していずれの効果も持たず、又は感知可能な効果を持たない。その結果、ミラー面104上に加熱光HLによって生成される強度分布は、回折光学要素118上の強度分布の製造又は作動に依存する変動に殆ど依存しない。
【0061】
3.代替的な実施形態
図7に図示の実施形態では、加熱光HLa、HLbでミラー面104を照明するために、図6に示す配列が2つ使用される。この場合、付加記号a及びbで識別される2つの配列の構成要素は、回折要素118a、118bを除いて等しく設計される。異なる回折光学要素118a、118bを使用することにより、加熱光源100a、100bの別々の駆動によって任意に重なることができる異なる強度分布をミラー面104上に生成することができる。
【0062】
図8に図示の実施形態では、回折光学要素は、空間分解方式で切り換えることができるLCDパネル218として設計される。このようにして、図6及び図7に図示の実施形態におけるものように回折光学要素を異なる偏向特性を有する要素と交換する必要なく、異なる角度分布を生成することができる。
【0063】
図9に図示の実施形態では、偏向要素は、超音波発生器を用いて超音波定常波を生成することができる音響光学変調器318である。それによって回折効果を有し、入射光を異なる方向に回折する屈折率格子の形成がもたらされる。屈折率格子の特性は、超音波発生器によって生成される超音波を変更することによって変更することができる。
【0064】
図10に図示の実施形態では、偏向要素は、屈折自由形状要素418として具現化される。加熱光HLに露出される自由形状要素418の一方又は両方の屈折面は、自由形状要素418の下流に加熱光HLの望ましい角度分布がもたらされるように定義された面断面形状を有する。
【0065】
上述の角度分布を修正することができるように、図11に図示の実施形態では、空間分解方式で切り換えることができ、かつ図8に図示の実施形態とは対照的に回折特性を持たないが、その代わりに加熱光の一部を制御可能可変方式で減衰させることのみが意図されるLCDパネル130がビーム経路に配置される。従って、LCDパネル110は、自由形状要素418の上流又は下流のいずれかに配置することができる。
【0066】
図12は、回折光学要素118の下流に拡大テレスコープ光学ユニットが配置された特に好ましい実施形態を示している。この拡大により、回折光学要素118によって生成された角度分布は更に広がり、こうすることによってミラー面104の相対的に一層大きい領域を加熱光HLを用いてターゲット方式で照明することを可能にする。角度分布の広がりの結果として、回折光学要素118によって生成される角度分布から構成される要件は軽減し、それによってより大きく、従って、製造することがより容易な回折構造120を有する回折光学要素118を使用することができる。
【0067】
4.ピボット回転可能加熱光線
図13から図15は、現時点で請求する本発明の主題の一部ではない実施形態を示している。
【0068】
加熱光源200によって生成された加熱光は、光ファイバ210内に取り込まれ、光ファイバ210の射出窓212において射出する。この実施形態でも、平行な加熱光線216が、コリメータレンズ214の下流にもたらされる。加熱光線216は、数センチメートルの桁の直径、例えば、1cmと15cmの間の直径を有し、従って、所定の時点において、ミラー面104上で加熱光によって加熱される領域108全体を照明することができない。
【0069】
ミラー面104にわたって加熱光線214を移動することができるように、図示の実施形態では光ファイバ210に対して作用し、それによって射出窓212を横に偏向させるアクチュエータ219が設けられる。この偏向により、平行な加熱光線216の伝播方向が変更される。アクチュエータ219がコリメータレンズ214に対して作用することができることは言うまでもない。平行な加熱光線216を2次元でピボット回転させることを可能にするために、光ファイバ219又はコリメータレンズ214を異なる方向に偏向させる2つ又はそれよりも多くのアクチュエータ219を設けることができる。
【0070】
適切なアクチュエータ219は、プランジャー型コイル、圧電ドライバ、静電ドライバ、又はそうでなければ熱ドライバ(例えば、バイメタル素子)のような動的ドライバを含む。
【0071】
ミラー面108上の温度分布は、加熱光源200によって生成される加熱光HLの強度の変更、加熱光線216のピボット回転移動の距離又は速度の変更、又は両方の技術の組合せのいずれかによって設定することができる。この場合、コリメータレンズ216の焦点距離が小さい程、アクチュエータ219によって生成される光ファイバ210又はコリメータレンズ214に対する偏向に関わるピボット回転移動は大きい。
【0072】
図14に図示の実施形態では、加熱光線216は、2つの回転可能楔プリズム221、223を用いて偏向される。楔プリズム221、223の角度位置に基づいて、平行な加熱光線216は、異なる方向に2次元でピボット回転される。均一な回転楔プリズム221、223の場合には、時間と共に平均した場合に、円錐立体角度範囲が加熱光線216によって走査される。ミラー面108上の強度分布は、楔回転と加熱光源200内での発光との同期によって変更することができる。
【0073】
図15に図示の実施形態では、平行な加熱光線216を異なる方向に偏向させることができるように、平行な加熱光線216のビーム経路に多軸ピボット回転可能平面ミラー225が導入される。
【符号の説明】
【0074】
100 加熱光源
114 コリメータレンズ要素
118 回折光学要素
122 交換可能ホルダ
132 テレスコープ光学ユニット
HL 加熱光
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクを層上に結像するためのマイクロリソグラフィ投影露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロリソグラフィ投影露光装置は、マスク内に含まれるか、又はマスク上に配置された構造をレジスト又はいずれかの他の感光層に転写するのに使用される。投影露光装置の最も重要な光学構成要素は、光源と、光源によって生成された投影光を調整してマスク上に向ける照明系と、マスクのうちで照明系によって照明される区画を感光層上に結像する投影対物系とである。
【0003】
投影光の波長が短い程、投影露光装置を用いて感光層上に定義することができる構造は小さい。次世代の投影露光装置は、極紫外スペクトル範囲(EUV)内で13.5nmの波長をする投影光を使用することになる。多くの場合にそのような装置は、略してEUV投影露光装置と呼ばれる。
【0004】
しかし、そのような短い波長に対して十分に高い透過能を有するいずれの光学材料も存在しない。従って、EUV投影露光装置においては、長い波長において通例のものであるレンズ及び他の屈折光学要素はミラーで置換され、従って、マスクも同様に反射構造のパターンを含む。
【0005】
EUV投影露光装置においてミラーを設けることは、高い技術的課題をもたらす。EUV光に適し、ミラー基板に付加されるコーティングは、多くの場合に、僅か数ナノメートルの厚みのみを有する技術的に複雑な工程において蒸着によって上下に重ねて付加される30個又は40個を超える二重層を含む。そのような複雑な構造を有するコーティングを用いても、EUV光に対するミラーの反射率は、通常70%を超えることは殆どなく、更に、これは、反射コーティング上に垂直に又は数度の入射角で入射する光に対してしか当て嵌まらない。
【0006】
ミラーの比較的低い反射率の結果は、各ミラーが光学的損失を伴い、最終的に投影露光装置の収量を低下させるので、投影露光装置の開発中に可能な限り少数のミラーしか用いない手法を行わなければならないことである。
【0007】
その一方、ミラーの比較的低い反射率は熱問題も伴い、これは、高エネルギEUV光のうちでコーティングによって反射されない部分が吸収され、ミラー内の温度増大をもたらすことによる。投影露光装置は、ガスによるEUV光の高い吸収に起因して真空中で作動させなければならず、従って、対流による熱移動は除外されるので、この過程において生成された熱は、実質的にミラー基板を通じた熱伝導を用いて消散させなければならない。
【0008】
ミラー基板内で発生する温度勾配がミラーの望ましくない変形をもたらさないように、ミラー基板において、作動温度において可能な限り小さく、又は更に殆どゼロと言える程小さい熱膨張係数を有する材料を使用するのが好適である。この種のガラスシステムの材料は、例えば、SchottによってZerodur(登録商標)という商標の下で、更にCorningによってULE(登録商標)という商標の下で販売されている。付加的な対策を使用することにより、EUV光の吸収によってもたらされる熱変形を低く保つことができ、又は少なくとも投影対物系の光学特性に対する熱変形の効果を許容限度内に保つことができる。
【0009】
従って、US 7,477,355 B2は、ミラーの基板材料が熱膨張係数がゼロ又は少なくとも最小である温度にあるように、付加的な加熱手段を用いてこのミラーを加熱することを提案している。この場合、装置の作動中の温度変動は、ミラーの結像特性に対していずれの効果も持たないか又は僅かな効果のみを有する。
【0010】
US 7,557,902 B2は、2つのミラーが、これらの2つのミラーの一方において温度増大と共に増大する熱膨張係数を有する材料で構成され、他方のミラーにおいて温度増大と共に減少する熱膨張係数を有する材料から構成される投影対物系を説明している。ミラーの適切な選択の場合にこの手法で達成することができることは何かというと、温度変化の場合に2つのミラーは大きく変形するが、これらの変形の光学効果が互いに殆ど相殺することである。
【0011】
ファセットミラーの場合にも、個々のミラーファセットを担持する担持本体がこの場合には熱的に誘起される変形によって一般的に影響を受けることを除き、類似の問題を解決する必要がある。ガラスシステム材料の比較的低い熱伝導度に起因して、担持本体として通常は金属が使用される。しかし、作動温度で上述のガラスシステム材料の場合のものと類似の小さいマグニチュードを有する熱膨張係数を有するいずれの金属も存在しない。
【0012】
熱的に誘起される変形の問題は、長い波長、例えば、193nm(VUV)又は254nm(DUV)に向けて設計された投影露光装置においても存在する。通常、この問題は、投影光の吸収(僅かではあるが)の結果として不均一に加熱され、その結果、形状を変化させるレンズ要素及び他の屈折光学要素に影響を及ぼす。
【0013】
DE 103 17 662 A1は、結像ミラー上の選択領域を付加的な加熱光で照明する加熱光源を含むEUV投影露光装置を開示している。加熱光の吸収の結果として、ミラー面上に少なくともほぼ均一な温度分布が確立される。適切な設計を使用すると、熱平衡において、ミラー基板の熱膨張係数が絶対最小値を有する温度が確立される。その結果、温度分布の比較的低い温度変動又は残留不均一性は、ミラー基板の感知可能な熱変形、従って、結像収差をもはやもたらすことができない。
【0014】
加熱光を用いてミラー上の選択領域のみを照明するために、この公知の投影露光装置では、ミラー面上で、投影光が入射し、従って、加熱光によって付加的に加熱することが意図されない領域を遮蔽する透過フィルタが加熱光源の下流に配置される。加熱光が、ミラー面上で可能な限り鮮明に境界が定められたパターンを形成することが意図される場合には、透過フィルタをミラー面上に結像する付加的な結像光学ユニットを設けることができる。別の実施形態では、加熱光としてレーザが使用され、このレーザに制御可能な光線偏向デバイスが割り当てられる。この光線偏向デバイスを用いて、レーザによって生成されたレーザ光線が、ミラー面上の望ましい領域上にのみもたらされる。この場合、光線偏向デバイスは、それ自体公知のバーコードスキャナにおけるものと類似の方式に実施することができる。
【0015】
この公知の投影露光装置において不利であると見出されたことは、透過フィルタが使用される場合に、加熱光のうちで、ある一定の条件下では無視することができない量の一部分が透過フィルタ内で失われることである。ミラー面上で比較的小さい領域のみを高強度で加熱することが意図される場合には、透過フィルタの使用は、非常に高パワーの加熱光源を必要とし、その結果、透過フィルタは、一層強度に加熱される。
【0016】
スキャナ様のミラーにおいてミラー面上で加熱光によって照明される領域にわたって掃引する比較的細かいレーザ光線の使用により、いずれの光損失も発生しないのは確かである。しかし、十分に高い熱入力を得るためには、レーザ光線の強度を高くすべきである。しかし、ある一定の関連下では、高い局所放射線作用によってミラーの高感度反射コーティングが損傷を受ける可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US 7,477,355 B2
【特許文献2】US 7,557,902 B2
【特許文献3】DE 103 17 662 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、冒頭に示した種類の投影露光装置を加熱光を用いた光学要素の効率的かつ同時に穏やかな加熱を保証するように改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、マスクを層上に結像するためのマイクロリソグラフィ投影露光装置によって達成される。装置は、層が感光性を有する投影光を生成するように構成された投影光源と、装置の作動中に投影光に露出される光学面を有する光学要素とを含む。更に、装置は、投影光源とは異なる加熱光源であり、層が感光性を持たず、光学要素によって少なくとも部分的に吸収される加熱光を生成するように構成された加熱光源と、光学面上で加熱光が所定の強度分布を有するように、加熱光を光学要素上に向けるように構成された照明光学ユニットとを含む。照明光学ユニットは、回折光学要素によって又は屈折自由形状要素として形成された偏向要素を含み、この偏向要素は、その上に入射する加熱光を同時に異なる方向に向ける。
【0020】
従って、照明光学ユニットを望ましくない方向に射出する光を透過フィルタを用いて遮蔽するか、又は走査レーザ光線の場合のように加熱光を時間的に連続して異なる場所に向ける代わりに、本発明により、加熱される光学要素の光学面上に望ましい強度分布が生成されるように、加熱光を同時に異なる方向の間で分布させる偏向要素が使用される。その結果、高い加熱パワーを低い損失しか伴わずに加熱光源から光学要素に伝達することができる。投影露光装置内でもたらされる熱損失は相応に低く、更に、光学要素の高感度面に対する損傷をもたらす可能性がある非常に高い局所放射線強度が回避される。
【0021】
光学要素の光学面上に異なる強度分布を生成することができることが意図される場合には、偏向要素は、可変光学特性を有するべきである。
【0022】
最も簡単な場合には、偏向要素は、異なる偏向特性を有する異なる偏向要素と交換することができるように交換可能ホルダに収容される。
【0023】
制御可能可変偏向特性を有する偏向要素の使用は、より一層高い柔軟性を有する。
【0024】
偏向要素が回折光学要素として設計される場合には、適切な選択肢は、例えば、回折光学要素を空間分解方式で切換可能なLCDパネルとして設計することである。この場合、回折光学要素の回折構造は、個々に点灯及び消灯することができるLCDパネルのピクセルによって形成される。このようにして、偏向要素の可変角度分布、従って、光学面上の加熱光の可変強度分布を確立することができる。
【0025】
制御可能可変偏向特性を有する回折偏向要素の別の例は、音響光学変調器である。そのような変調器内では、超音波発生器を用いて超音波定常波が生成される。この波は、超音波発生器を駆動することによって変更することができる回折効果を有する格子状屈折率分布の形成をもたらす。
【0026】
特に、光学面上の強度分布の微補正に向けて、照明光学ユニットは、空間分解方式で切換可能な加熱光の一部を制御可能方式で減衰させることができるLCDパネルを含むことができる。そのような制御可能可変透過フィルタの結果として吸収損失がもたらされるが、光学要素上の光学面の照明が、実質的に偏向要素によって判断され、LCDパネルが、比較的小さい補正のためだけに使用される場合には、これらの損失を低く保つことができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、照明光学ユニットは、ビーム経路内で偏向要素の下流に配置されたテレスコープ光学ユニットを含む。そのようなテレスコープ光学ユニットは、入力側で優勢な角度分布を拡大するという利点を有する。それによって主に偏向要素が回折光学要素として設計される場合に、比較的大きい回折構造によって小さい偏向角を生成することができるので、回折光学要素から構成される要件が大きく軽減される。更に、それによって回折光学要素の製造が容易になる。例えば、テレスコープ光学ユニットが10という倍率を有する場合には、1μmの加熱光波長において、テレスコープ光学ユニットの出力において30度の偏向角を生成するためには20μmの格子間隔で十分である。それとは対照的に回折光学要素は、3°程度の偏向角を生成するだけでよい。
【0028】
本発明は、光学要素がミラーであり、投影光が30nmよりも短い波長を有する場合に特に有利に使用することができる。しかし、原理的には、本発明は、VUV投影露光装置又はDUV投影露光装置におけるミラー及び屈折要素の場合にも使用することができる。
【0029】
加熱光は、例えば、0.8μmと50μmの間の中心波長を有する赤外線光とすることができる。一般的に、赤外線光は、加熱される光学要素によって高度に吸収される。更に、通常、感光層として使用されるフォトレジストは、一般的に赤外線光に対して感光性を持たない。これは、反射又は散乱の結果として少量の加熱光がフォトレジストに到達することを阻止することができない可能性があるので重要である。
【0030】
加熱光源には射出窓を割り当てることができ、装置の作動中に加熱光はこの射出窓から射出する。この場合、好ましくは、照明光学ユニットは、射出窓から射出する光を平行なビームに変換するコリメータを含む。平行な光の使用は、第1に偏向要素の設計を容易にする。更に、その結果として、偏向要素の下流の角度分布は、偏向要素が露出される加熱光の強度分布には殆ど依存しなくなる。
【0031】
射出窓は、例えば、加熱光源自体、例えば、赤外線レーザダイオードの射出窓とすることができる。しかし、射出窓は、加熱光を加熱光源から照明光学ユニットに向ける光ファイバの端部とすることができる。
【0032】
本発明の更に別の特徴及び利点は、図面を参照する以下に続く実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による第1の実施形態に従ったEUV投影露光装置の略斜視図である。
【図2】図1に示す投影露光装置を通る子午断面図である。
【図3】図1及び図2に示す投影露光装置の照明系の一部である瞳ファセットミラーの簡略化した斜視図である。
【図4】投影露光装置の投影対物系のミラー、このミラー上に入射する投影光及び加熱光を示す図2の子午断面図からの拡大抜粋図である。
【図5】図4に示すミラーの平面図である。
【図6】偏向要素が回折光学要素として設計された第1の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図7】2つの別々の加熱光源が設けられた第2の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図8】偏向要素として使用される回折光学要素がLCDパネルとして設計された第3の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図9】偏向要素が音響光学要素として設計された第4の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図10】偏向要素が屈折自由形状要素として設計された第5の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図11】自由形状要素に制御可能減衰器としてLCDパネルが割り当てられた第6の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図12】偏向要素の下流にテレスコープ光学ユニットが配置された第7の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図13】請求する本発明の主題の一部ではない第8の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図14】請求する本発明の主題の一部ではない第9の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【図15】請求する本発明の主題の一部ではない第10の実施形態による加熱光に向けて設けられた照明光学ユニットを通る簡略化した子午断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.投影露光装置の基本構成
図1は、全体を10で表す本発明によるマイクロリソグラフィ投影露光装置の基本構成を非常に概略的な斜視図に示している。投影露光装置10は、マスク14の下側に配置された反射構造12を感光層16上に投影する働きをする。特に、フォトレジスト(レジストとも呼ぶ)とすることができる感光層16は、ウェーハ18又はいずれかの他の基板によって担持される。
【0035】
投影露光装置10は、マスク14の構造12が設けられた側を投影光PLで照明する照明系20を含む。特に、5nmと30nmの間の範囲が、投影光PLにおける波長として適切である。示すこの実施形態では、投影光PLの中心波長は約13.5nmであり、従って、極紫外スペクトル範囲(EUV)内にある。投影光PLは、マスク14の下側で、図示の実施形態ではリングセグメントの幾何学形状を有する照明視野24を照明する。
【0036】
更に、投影露光装置10は、照明視野24の領域内に位置する構造12の縮小像24’を感光層16上に生成する投影対物系26を含む。OAは、リングセグメント形の照明視野24の対称軸と一致する投影対物系26の光軸を表している。しかし、本発明は、投影対物系26内にいずれの回転対称扇形面も存在せず、従って、光軸が定義されない投影露光装置に対して使用することができる。
【0037】
投影対物系26は、感光層16の露光中にマスク14がウェーハ18と同期して変位した走査作動に向けて設計される。図1には、マスク14及びウェーハ18のこれらの変位移動を矢印A1、A2に示している。マスク14が変位した速度とウェーハ18が変位した速度との比は、この場合、投影対物系26の結像スケールβに等しい。図示の実施形態では、投影対物系20によって生成される像24’は縮小され(|β|<1)、反転されず(β>0)、この理由から、ウェーハ18は、マスク14よりも低速ではあるが、同じ方向に変位される。従って、感光層16の露光中に、照明視野24は、マスク14にわたってスキャナ様の方式で掃引を行い、その結果、比較的大きい連続構造領域であっても、感光層16上に投影することができる。
【0038】
投影対物系26の物体平面内に位置する照明視野24内の各点から光ビームが射出し、これらの光ビームは、投影対物系26内に入射する。投影対物系26は、入射光ビームが、投影対物系26の下流の像平面内で視野点に収束するという効果を有する。物体平面内で光ビームが射出する視野点と、像平面内でこの光ビームが再度収束する視野点とは、この場合、互いに光学的共役と呼ぶ関係にある。
【0039】
照明視野24の中心にある個別点に対してそのような光ビームを略示し、28で表している。この場合、投影対物系10内に入射する時の光ビーム28の開口角は、投影対物系10の開口数NAの尺度である。縮小像に起因して、投影対物系26の像側開口数NAは、結像スケールβの逆数で拡大する。
【0040】
図2は、投影露光装置10を通る略子午断面図である。投影対物系26は、間に合計で6つのミラーM1からM6が配置された物体平面30と像平面32とを有する。物体平面30内の点から射出する光ビーム28は、最初に凹の第1のミラーM1上に入射し、凸の第2のミラーM2上に反射して戻され、凹の第3のミラー上に入射し、凹の4番目のミラーM4上に反射して戻され、更に凸の5番目のミラーM5上に入射し、このミラーM5は、このEUV光を凹の6番目のミラーM6上に再度向ける。6番目のミラーM6は、最終的に光ビーム28を像平面32内の共役結像点上に集束させる。
【0041】
ミラーM1からM6に図2に破線に示す部分を補填した場合には、このようにして補填を受けたミラーの反射面は、投影対物系26の光軸OAに関して回転対称になる。しかし、容易に確認することができるように、この場合ミラーM1、M2、及びM4からM6は、光路を部分的に遮蔽することになるので、上述のビーム経路は、そのような完全に回転対称なミラーを用いては達成することができない。
【0042】
投影対物系26は、第2のミラーM2の面内又はその直近に位置する第1の瞳面34を有する。瞳面は、物体平面30内の点から射出した光ビームの主光線が瞳面において光軸OAと交わることによって区別される。図2ではこれを36で表し、破線に示す、光ビーム28の主光線に対して示している。
【0043】
5番目のミラーM5と6番目のミラーM6の間のビーム経路には第2の瞳面38が位置し、第2の瞳面38からこれらの2つのミラーM5、M6までの距離は比較的大きい。第2の瞳面38と同じ面には、遮蔽絞り40が配置される。
【0044】
投影露光装置10の照明系20は、光源LS(例えば、レーザプラズマ光源)によって生成されたEUV光を調整し、このEUV光をマスク14上において照明視野24内の各点が、望ましい強度及び照明角度分布を有するEUV光で照明されるようにマスク14上に向ける。この目的のために、照明系20は、入力ミラー70と、視野ファセットミラー72と、瞳ファセットミラー74と、第1のコンデンサーミラー76と、第2のコンデンサーミラー78とを有する。かすめ入射に向けて設計されたミラー80を通じて、EUV光は最終的にマスク14上にもたらされる。
【0045】
この場合、図3の斜視図に示す瞳ファセットミラー74が、82に示す照明系20の瞳面に配置される。照明系20の瞳面82は、投影対物系26の瞳面34及び38に対して光学的に共役である。その結果、照明系20の瞳ファセットミラー74上に強度分布は、最初に投影対物系26の第2のミラーM2上に結像され、そこから第2の瞳面38上に結像される。
【0046】
瞳ファセットミラー74は、視野ファセットミラー72を用いて異なる具合に照明することができる。この目的のために、視野ファセットミラー72のミラーファセット84は、ミラーファセット84上に入射するEUV光を瞳ファセットミラー74の異なるミラーファセット上に向けることができるように、アクチュエータ85を用いて個々に傾斜可能であり、又はいずれかの他の手法で調節可能である。この目的のために、視野ファセットミラー72のアクチュエータ85は、投影露光装置10の上の中央コントローラ88に接続した制御ユニット86によって駆動される。物体平面30内の照明視野24の幾何学形状は、視野ミラーファセット84の外側プロフィールによって定義される。
【0047】
照明系20の瞳面82は、フーリエ変換によって物体平面30に関連付けられるので、物体平面30内の照明角度分布は、瞳面82内の空間強度分布によって定義される。その結果、瞳ファセットミラー74の異なる照明を用いて、マスク14上に入射する投影光の照明角度分布をマスク14内に含まれる構造12にターゲット方式で適応させることができる。
【0048】
一部の照明角度分布の場合には、投影光が、幅狭に境界が定められた角度範囲でのみマスク上に入射することが意図される。照明系20の瞳面82の照明では、これは、視野ファセットミラー72によって瞳面82の比較的小さい領域のみが照明されることを意味する。
【0049】
照明系20の瞳面82は、下流の光学構成要素によって投影対物系26の第1の瞳面34上に結像されるので、同様に小さい領域のみが照明される強度分布が第2のミラーM2の面上にもたらされる。更に、瞳ファセットミラーのラスター状配列89に起因して、上述の領域は均一に照明されず、同様にラスター化される。第2のミラーM2の面上の多くの場合に極とも呼ばれる領域が小さい程、投影光の部分吸収の得られる熱入力は均一ではない。高エネルギ投影光のうちの3分の1程度がミラーの反射コーティング内で吸収されるので、ラスター化された極の領域内の熱入力は比較的高い。低い熱膨張係数を有する材料から構成されるミラー基板を使用する場合であっても、ミラー基板の変形を回避するのは困難である。しかし、そのような変形は、投影対物系26の結像特性を劣化させ、それによってマスク14上の構造12は、感光層16上にもはや最適には結像されない。
【0050】
2.加熱光
ミラーM2の面上に望ましい(一般的に均一な)温度分布を得るために、投影対物系26は、ウェーハ18上の層16が感光性を持たず、ミラーM2によって少なくとも部分的に吸収される加熱光HLを生成するように設計された加熱光源100を含む。照明光学ユニット102は、好ましくは、第2のミラーM2の反射面のうちで高エネルギEUV光に露出されない領域にのみ加熱光HLを向ける。
【0051】
図4は、第2のミラーM2と、加熱光源100と、照明光学ユニット102とを子午断面内の拡大図に示している。投影光PLは、第2のミラーM2の104で表すミラー面上に2つの比較的小さい極P1、P2をラスター方式で照明する。図5に記載のミラーM2の平面図では、2つのラスター化された極P1、P2のサイズ及び形状、並びにミラーM2のミラー面104上でのこれらの極の位置を容易に確認することができる。
【0052】
この実施形態では、照明光学ユニット102は、加熱光源100によって生成された加熱光HLが、ミラー面104のうちで投影光PLに露出されない領域108上にのみもたらされるように設計される。図5の平面図に示すように、図示の実施形態では、加熱光HLによって照明される領域108は実質的に円形であり、2つの同様にほぼ円形の極P1、P2を取り囲む。
【0053】
加熱光HLの吸収の得られる熱入力が、極P1、P2の領域内での投影光PLの吸収の得られるものとほぼ同じマグニチュードのものである場合には、投影光PLが2つの小さい極P1、P2しか照明しなくても、ミラーM2内の温度分布は少なくともほぼ回転対称に留まる。この温度分布の平均温度が、この温度において材料が最小の熱膨張係数、又は更にゼロと言える程小さい熱膨張係数を有するようにミラー基板の材料と調整される場合には、第2のミラーM2は全く変形せず、又は最大でも殆ど変形しない。しかし、時に依然として発生するいずれかの変形は、いずれの場合にもそれ自体が前と同様に回転対称であり、これは、補正することが比較的容易な回転対称結像収差をもたらす。
【0054】
しかし、第2のミラーM2内で加熱光HLの影響下で確立される温度分布は、必ずしも回転対称である必要はない。上記に対する変形としての適切な選択肢は、ある一定の限度内で任意であるが、所定の温度分布を生成することである。この所定の温度分布は、この温度分布の場合にいずれの結像収差も確立されないように投影対物系26の設計に考慮される。この場合、全ての作動条件下で第2のミラーM2内に所定の温度分布が確立されるように、ミラーM2上で加熱光HLによって照明される領域108を設定された照明角度分布、従って、ミラー面104上で投影光PLによって照明される領域の幾何学形状に適応させなければならない。
【0055】
照明光学ユニット102における本発明による様々な構成を図6から図15を参照して以下に説明する。
【0056】
図6に図示の実施形態では、加熱光源100は、0.8μmと50μmの間の中心波長を有する赤外線光を生成する。加熱光HLは、光ファイバ110内に取り込まれ、取り込み側とは反対に位置する光ファイバ110の射出窓112に進む。射出窓112は、平行な加熱光線116を生成するコリメータレンズ要素114の焦点面内に位置する。平行な加熱光線116は、図示の実施形態では回折光学要素として設計される偏向要素118上に入射する。回折光学要素118は、明瞭化の目的で図6には拡大して示す複数の微細な回折構造120を含む。一般的に回折構造120のサイズは、数マイクロメートルの桁のものである。
【0057】
回折光学要素は、異なる光学偏向特性を有する回折光学要素118と容易に交換することができるように、交換可能ホルダ122に収容される。この図では簡略化して示す交換可能ホルダ122は、例えば、外周にわたって配分された複数の回折光学要素118を含む回転可能に装着された円盤を含むそれ自体公知のターレットホルダとして具現化することができる。この場合、サーボモータを用いて円盤を回転させることにより、望ましい回折光学要素118をビーム経路に導入することができる。
【0058】
回折光学要素118の構造120は、回折光学要素118が、図5の照明領域108によって示すように、遠視野においてミラー面104上の加熱光HLの望ましい強度分布をもたらす角度分布を生成するように設計される。従って、加熱光源100によって生成された加熱光HLは、ミラー面104の照明される領域108にわたって損失なく配分される。
【0059】
異なるマスク14を結像することが意図される場合には、多くの場合に、照明角度分布もこのマスク14に適応させなければならない。これは、ミラー面104上で投影光PLによって照明される領域が、その形状及び/又はサイズを変化させることに現れる。第2のミラーM2内に望ましい(一般的に回転対称な)温度分布を得るためには、上記に応答して、加熱光HLによって照明される領域108の形状も適応させなければならない。この適応は、交換可能ホルダ122を用いて回折光学要素118を変更することによって行われる。
【0060】
回折光学要素118は平行な加熱光線116に露出されるので、回折光学要素118の平行な加熱光線116に露出されている入力側の強度分布の不均一性は、回折光学要素118によって生成される角度分布に対していずれの効果も持たず、又は感知可能な効果を持たない。その結果、ミラー面104上に加熱光HLによって生成される強度分布は、回折光学要素118上の強度分布の製造又は作動に依存する変動に殆ど依存しない。
【0061】
3.代替的な実施形態
図7に図示の実施形態では、加熱光HLa、HLbでミラー面104を照明するために、図6に示す配列が2つ使用される。この場合、付加記号a及びbで識別される2つの配列の構成要素は、回折要素118a、118bを除いて等しく設計される。異なる回折光学要素118a、118bを使用することにより、加熱光源100a、100bの別々の駆動によって任意に重なることができる異なる強度分布をミラー面104上に生成することができる。
【0062】
図8に図示の実施形態では、回折光学要素は、空間分解方式で切り換えることができるLCDパネル218として設計される。このようにして、図6及び図7に図示の実施形態におけるものように回折光学要素を異なる偏向特性を有する要素と交換する必要なく、異なる角度分布を生成することができる。
【0063】
図9に図示の実施形態では、偏向要素は、超音波発生器を用いて超音波定常波を生成することができる音響光学変調器318である。それによって回折効果を有し、入射光を異なる方向に回折する屈折率格子の形成がもたらされる。屈折率格子の特性は、超音波発生器によって生成される超音波を変更することによって変更することができる。
【0064】
図10に図示の実施形態では、偏向要素は、屈折自由形状要素418として具現化される。加熱光HLに露出される自由形状要素418の一方又は両方の屈折面は、自由形状要素418の下流に加熱光HLの望ましい角度分布がもたらされるように定義された面断面形状を有する。
【0065】
上述の角度分布を修正することができるように、図11に図示の実施形態では、空間分解方式で切り換えることができ、かつ図8に図示の実施形態とは対照的に回折特性を持たないが、その代わりに加熱光の一部を制御可能可変方式で減衰させることのみが意図されるLCDパネル130がビーム経路に配置される。従って、LCDパネル110は、自由形状要素418の上流又は下流のいずれかに配置することができる。
【0066】
図12は、回折光学要素118の下流に拡大テレスコープ光学ユニットが配置された特に好ましい実施形態を示している。この拡大により、回折光学要素118によって生成された角度分布は更に広がり、こうすることによってミラー面104の相対的に一層大きい領域を加熱光HLを用いてターゲット方式で照明することを可能にする。角度分布の広がりの結果として、回折光学要素118によって生成される角度分布から構成される要件は軽減し、それによってより大きく、従って、製造することがより容易な回折構造120を有する回折光学要素118を使用することができる。
【0067】
4.ピボット回転可能加熱光線
図13から図15は、現時点で請求する本発明の主題の一部ではない実施形態を示している。
【0068】
加熱光源200によって生成された加熱光は、光ファイバ210内に取り込まれ、光ファイバ210の射出窓212において射出する。この実施形態でも、平行な加熱光線216が、コリメータレンズ214の下流にもたらされる。加熱光線216は、数センチメートルの桁の直径、例えば、1cmと15cmの間の直径を有し、従って、所定の時点において、ミラー面104上で加熱光によって加熱される領域108全体を照明することができない。
【0069】
ミラー面104にわたって加熱光線214を移動することができるように、図示の実施形態では光ファイバ210に対して作用し、それによって射出窓212を横に偏向させるアクチュエータ219が設けられる。この偏向により、平行な加熱光線216の伝播方向が変更される。アクチュエータ219がコリメータレンズ214に対して作用することができることは言うまでもない。平行な加熱光線216を2次元でピボット回転させることを可能にするために、光ファイバ219又はコリメータレンズ214を異なる方向に偏向させる2つ又はそれよりも多くのアクチュエータ219を設けることができる。
【0070】
適切なアクチュエータ219は、プランジャー型コイル、圧電ドライバ、静電ドライバ、又はそうでなければ熱ドライバ(例えば、バイメタル素子)のような動的ドライバを含む。
【0071】
ミラー面108上の温度分布は、加熱光源200によって生成される加熱光HLの強度の変更、加熱光線216のピボット回転移動の距離又は速度の変更、又は両方の技術の組合せのいずれかによって設定することができる。この場合、コリメータレンズ216の焦点距離が小さい程、アクチュエータ219によって生成される光ファイバ210又はコリメータレンズ214に対する偏向に関わるピボット回転移動は大きい。
【0072】
図14に図示の実施形態では、加熱光線216は、2つの回転可能楔プリズム221、223を用いて偏向される。楔プリズム221、223の角度位置に基づいて、平行な加熱光線216は、異なる方向に2次元でピボット回転される。均一な回転楔プリズム221、223の場合には、時間と共に平均した場合に、円錐立体角度範囲が加熱光線216によって走査される。ミラー面108上の強度分布は、楔回転と加熱光源200内での発光との同期によって変更することができる。
【0073】
図15に図示の実施形態では、平行な加熱光線216を異なる方向に偏向させることができるように、平行な加熱光線216のビーム経路に多軸ピボット回転可能平面ミラー225が導入される。
【符号の説明】
【0074】
100 加熱光源
114 コリメータレンズ要素
118 回折光学要素
122 交換可能ホルダ
132 テレスコープ光学ユニット
HL 加熱光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク(14)を層(16)上に結像するためのマイクロリソグラフィ投影露光装置であって、
a)前記層(16)が感光性となる投影光(PL)を生成するように構成された投影光源(LS)と、
b)前記装置(10)の作動中に前記投影光(PL)を受ける光学面(104)を有する光学要素(M2)と、
c)前記投影光源(LS)とは異なるものであり、前記層(16)が感光性とならない、前記光学要素(M2)によって少なくとも部分的に吸収される加熱光(HL)を生成するように構成された加熱光源(100)と、
d)前記加熱光(HL)を、該加熱光(HL)が前記光学面(104)上で所定の強度分布(108)を有するように前記光学要素(M2)に向けるように設計された照明光学ユニット(102)と、
を含み、
前記照明光学ユニット(102)は、回折光学要素(118;118a,118b;218)によって又は屈折自由形状要素(318;418)として形成された偏向要素を含み、該偏向要素は、その上に入射する前記加熱光(HL)を同時に異なる方向に向ける、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記偏向要素(118;118a,118b;318;418)は、それを異なる偏向特性を有する異なる偏向要素と交換することができるように交換ホルダ(122)に収容されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記偏向要素(218;318)は、制御可能に可変である偏向特性を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記偏向要素は、空間分解方式で切換可能でありかつ回折光学要素として作用するLCDパネル(218)を含むことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記偏向要素は、音響光学変調器(318)を含むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記照明光学ユニット(102)は、空間分解方式で切換可能でありかつそれによって前記加熱光(HL)の一部を制御可能な可変方式で減衰させることができるLCDパネル(130)を含むことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記照明光学ユニット(102)は、ビーム経路内で前記偏向要素(118)の下流に配置されたテレスコープ光学ユニット(132)を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記光学要素は、ミラー(M2)であり、前記投影光(PL)は、30nmよりも短い波長を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記加熱光(HL)は、0.8μmと50μmの間に中心波長を有する赤外線光であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
装置の作動中に加熱光(HL)が射出する射出窓(112)を含み、
前記照明光学ユニット(102)は、前記射出窓(112)から射出する前記加熱光(HL)を平行化されたビーム(116)に変換するコリメータ(114)を含む、
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記射出窓(112)は、前記加熱光(HL)を前記加熱光源(100)から前記照明光学ユニット(102)に案内する光ファイバ(110)の端部によって形成されることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項1】
マスク(14)を層(16)上に結像するためのマイクロリソグラフィ投影露光装置であって、
a)前記層(16)が感光性となる投影光(PL)を生成するように構成された投影光源(LS)と、
b)前記装置(10)の作動中に前記投影光(PL)を受ける光学面(104)を有する光学要素(M2)と、
c)前記投影光源(LS)とは異なるものであり、前記層(16)が感光性とならない、前記光学要素(M2)によって少なくとも部分的に吸収される加熱光(HL)を生成するように構成された加熱光源(100)と、
d)前記加熱光(HL)を、該加熱光(HL)が前記光学面(104)上で所定の強度分布(108)を有するように前記光学要素(M2)に向けるように設計された照明光学ユニット(102)と、
を含み、
前記照明光学ユニット(102)は、回折光学要素(118;118a,118b;218)によって又は屈折自由形状要素(318;418)として形成された偏向要素を含み、該偏向要素は、その上に入射する前記加熱光(HL)を同時に異なる方向に向ける、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記偏向要素(118;118a,118b;318;418)は、それを異なる偏向特性を有する異なる偏向要素と交換することができるように交換ホルダ(122)に収容されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記偏向要素(218;318)は、制御可能に可変である偏向特性を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記偏向要素は、空間分解方式で切換可能でありかつ回折光学要素として作用するLCDパネル(218)を含むことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記偏向要素は、音響光学変調器(318)を含むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記照明光学ユニット(102)は、空間分解方式で切換可能でありかつそれによって前記加熱光(HL)の一部を制御可能な可変方式で減衰させることができるLCDパネル(130)を含むことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記照明光学ユニット(102)は、ビーム経路内で前記偏向要素(118)の下流に配置されたテレスコープ光学ユニット(132)を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記光学要素は、ミラー(M2)であり、前記投影光(PL)は、30nmよりも短い波長を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記加熱光(HL)は、0.8μmと50μmの間に中心波長を有する赤外線光であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
装置の作動中に加熱光(HL)が射出する射出窓(112)を含み、
前記照明光学ユニット(102)は、前記射出窓(112)から射出する前記加熱光(HL)を平行化されたビーム(116)に変換するコリメータ(114)を含む、
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記射出窓(112)は、前記加熱光(HL)を前記加熱光源(100)から前記照明光学ユニット(102)に案内する光ファイバ(110)の端部によって形成されることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−74299(P2013−74299A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−229290(P2012−229290)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー (435)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229290(P2012−229290)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー (435)
【Fターム(参考)】
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