説明

マイクロ波加熱用温度分布測定装置およびマイクロ波加熱用温度分布測定方法

【課題】マイクロ波加熱中である被加熱物の温度分布を測定できる測定装置を提供する。
【解決手段】本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定装置は、
マイクロ波加熱器(10)と、マイクロ波の透過を遮蔽しつつ、加熱された被加熱物(S)から放射される赤外線を透過する透過孔(32)を複数有する多孔体(30)からなる観察窓(13)と、被加熱物の温度分布を測定し得る赤外線測定器(20)とからなる。この測定装置によれば、被加熱物物と赤外線検出部との間に観察窓の多孔体のみを介在させて、マイクロ波加熱器で加熱中の被加熱物の温度分布を赤外線測定器で測定可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波の照射により加熱された被加熱物の温度分布を測定することができるマイクロ波加熱用温度分布測定装置およびその測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質(被加熱物)を効率的に加熱する方法の一つとして、被加熱物へマイクロ波を照射して加熱するマイクロ波加熱がある。このマイクロ波加熱は、家庭調理等のみならず工業的にも利用され得る。もっとも、マイクロ波加熱はマイクロ波を吸収し易い部分が集中的に加熱される傾向にあるため、均一加熱する場合など、所望した通りに被加熱物を安定的に加熱するには、加熱中の被加熱物の加熱状況(特に温度分布)を的確に把握することが必要となる。
【0003】
そのような加熱状況を把握するために、ピンポイント的な温度測定をする場合は、熱電対や放射温度計などが用いられるが、全体的な温度分布を測定する場合には、赤外線サーモグラフィの利用が考えられる。参考までに、それら各種温度測定に関連した記載のある特許文献を下記に挙げておく。
【特許文献1】特開2002−349867号公報
【特許文献2】特開2007−121238号公報
【特許文献3】特開平5−333073号公報
【特許文献4】特開2005−214632号公報
【特許文献5】特開2006−111351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
もっとも、被加熱物の温度分布を測定する手段として赤外線サーモグラフィは一般的ではあるものの、マイクロ波加熱中の被加熱物の温度分布を測定するために市販の赤外線サーモグラフィが用いることは事実上なかった。そこで本発明者はこの理由を次のように考えた。
【0005】
そもそも赤外線サーモグラフィは、測定対象物が放出する赤外線(赤外線放射エネルギー)を検出し、その検出情報を画像処理等して、対象物全体の温度分布を表示するものである。このため、正確な温度分布を測定する前提として、測定対象物の放出する赤外線を良好に検出することが必要となる。ところが、マイクロ波加熱は、通常、赤外線を透過しない金属製の筐体内に被加熱物を収容して行われる。その筐体の一部に電磁波シールド材付きの覗き窓が設けられる場合でも、その覗き窓には、気密性を保つためのガラス製またはアクリル樹脂製の板材が取付けられていた。これらガラスまたはアクリル樹脂は、波長10μm付近に多数の赤外線吸収ピークをもち、赤外線をよく吸収するため、筐体外にある赤外線サーモグラフィがその覗き窓越しに被加熱物の放出する赤外線を検出することが困難であったからと思われる。
【0006】
いずれにしろ、従来、マイクロ波加熱しながら被加熱物の温度分布を測定すること(In−Situ測定)はなされておらず、せいぜい、上記の特許文献5にもあるように、マイクロ波加熱直後に、マイクロ波加熱器の扉を開いて被加熱物の温度分布を赤外線サーモグラフィで測定する程度に過ぎなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、マイクロ波加熱を行いながらも、被加熱物の温度分布を測定できるマイクロ波加熱用温度分布測定装置およびその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、マイクロ波加熱器の筐体の扉等に取付けられた覗き窓からガラス製または樹脂製の板材を取除き、パンチングメタル等の金属多孔板のみにした状態で、その金属多孔板越しにマイクロ波加熱中の被加熱物の温度分布を赤外線サーモグラフィで測定したところ、精度良く被加熱物の温度分布を測定することに成功した。そしてこの成果を発展させることで、本発明者は以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
【0009】
〈マイクロ波加熱用温度分布測定装置〉
すなわち、本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定装置は、筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱するマイクロ波加熱器と、該マイクロ波の透過を遮蔽しつつ、該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過する透過孔を複数有する多孔体からなる観察窓と、前記被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部を有し該赤外線検出部の検出情報に基づいて該被加熱物の温度分布を測定し得る赤外線測定器とからなり、前記被加熱物物と前記赤外線検出部との間に前記観察窓の多孔体のみを介在させて、該マイクロ波加熱器で加熱中の被加熱物の温度分布を該赤外線測定器で測定可能としたことを特徴とする。
【0010】
本発明により被加熱物の温度分布測定が可能となったのは前述したように、パンチングメタル等の多孔体の周囲にガラスやアクリル樹脂等の赤外線を吸収する部材を設けずに、直接、その多孔体越しにマイクロ波加熱中の被加熱物の温度分布を測定できることを発見したことによる。勿論、ガラス等が無くても、多孔体は従来と同様にマイクロ波を遮蔽するから、実質的にマイクロ波がマイクロ波加熱器の筐体等の外部(少なくとも観察窓がある側)へ漏洩することはない。
【0011】
また、本発明は単に多孔体越しに被加熱物の温度分布を測定できるだけではなく、多孔体越しに被加熱物の温度分布を測定できるが故に、被加熱物のマイクロ波加熱を行いつつ、被加熱物の温度分布を測定できることに大きな意義がある。すなわち、試料(被加熱物)の温度分布をリアルタイムで観察できることが画期的である。この結果、不均一な加熱状態(加熱ムラ)の原因調査などが容易になる。さらには均一で安定したマイクロ波加熱を行うための加熱制御なども可能となり、マイクロ波加熱を用いた製品の品質確保も可能となる。しかも、本発明の測定装置は、高精度な温度分布測定ができるにもかかわらず、比較的構成が簡易でかつ安価となり得る。
【0012】
〈マイクロ波加熱用温度分布測定方法〉
本発明は、上記の温度分布測定装置としてのみならず、次のような温度分布測定方法としても把握される。この測定方法は、上記の測定装置を用いる場合には限らないが、上記の測定装置を使用すれば、実質的に本発明の測定方法を使用することになる。
【0013】
本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定方法は、筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱する加熱工程と、該マイクロ波の透過を遮蔽しつつ該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過する透過孔を複数有する多孔体のみを、該被加熱物と該被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部との間に介在させて、該赤外線検出部の検出情報に基づき前記マイクロ波が照射されて加熱中である被加熱物の温度分布を測定する測定工程と、からなることを特徴とする。
【0014】
〈付加的構成〉
本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定装置およびその測定方法は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであると好適である。なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。
【0015】
また、下記に示したいずれの構成も、カテゴリーを越えて相互に適宜組合わせ可能である。例えば、一見、測定装置または測定方法の一方にのみに関連するようにみえる構成であっても、他方にも関連し得る。
(i)前記多孔体は、前記透過孔となる細孔が多数形成された金属多孔板または金網である。
(ii)前記赤外線測定器は、赤外線サーモグラフィである。
(iii)前記赤外線検出部は、サーモパイル、ボロメータ、InSbまたはPtSiである。
(iv)前記多孔体から漏洩する前記マイクロ波は0.5mW/cm2以下、0.3mW/cm2以下さらには0.1mW/cm2以下である。
(v)前記多孔体の特定範囲内の総表面積(St)に対する該特定範囲内にある透過孔の総面積(Sd)の割合である開口率(Sd/St x 100%)は40〜80%である。
【0016】
〈その他〉
特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組合わせて、「a〜b」のような範囲を構成し得ることを断っておく。
また、本発明の測定装置または測定方法により測定される被加熱物は無機物、有機物、金属または金属化合物、無水物、含水物等を問わない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。
なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係るマイクロ波加熱用温度分布測定装置のみならずその測定方法にも、適宜適用できるものであることを断っておく。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なることを断っておく。
【0018】
(1)マイクロ波加熱器
本明細書でいうマイクロ波は、マイクロ波加熱が可能であれば特に限定されないが、一般的に波長(λm)が10〜1000mmのものである。周波数でいえば、0.3〜30GHzである。
【0019】
マイクロ波の発振には、固体発振器、マグネトロン、クライストロン、ジャイロトロンなどが用いられるが、これもマイクロ波加熱に有効なものならばいずれでもよい。もっとも、一般的にはマグネトロンが用いられる。このようなマイクロ波を用いた加熱装置(マイクロ波加熱器)として、いわゆる電子レンジが代表的ではあるが、家庭用に限らず工業的に大規模のものでもよい。
【0020】
マイクロ波加熱器は、通常マイクロ波を遮蔽する金属製の筐体を備え、その筐体内へ被加熱物を出し入れするための扉を備える。本発明でいう筐体は、必ずしも被加熱物を完全に囲繞または密閉する必要はなく、効率的なマイクロ波加熱が行える限度で、部分的に開放部分があってもよい。電磁シールド板等の多孔体は、その筐体の一部を加工して形成されてもよいし、その筐体や扉の一部を改良して後付的に形成されてもよい。
例えば、その筐体の開放部分に載置すればよい。
【0021】
(2)赤外線測定器
赤外線測定器は、被加熱物が放出する赤外線を検出する赤外線検出部からの検出情報に基づいて被加熱物の温度分布を測定し得るものである。より具体的には、例えば、その赤外線検出部と、その検出情報を画像処理する処理部と、処理部の処理結果を画像表示する表示部とから赤外線測定器はなる。
【0022】
この赤外線測定器はその種類を問わないが、一般的には赤外線サーモグラフィ(適宜「サーモグラフィ」という。)が代表的であり、サーモグラフィは市販されており、比較的安価に入手できる。
【0023】
被加熱物の放出する赤外線の波長は通常0.4〜30μmであるから、サーモグラフィの検出波長もそれに応じて2〜14μmであれば足る。具体的には、例えば、前記赤外線検出部の検出波長(λe)は、2〜5μm(InSb等)、8〜14μm(ボロメータ等)であると好ましい。なお、赤外線検出部は、具体的には、レンズなどを介してInSbまたはボロメータなどにより構成される。
【0024】
前記マイクロ波の波長(λm:mm)に対する前記多孔体の透過孔の平均径(d:mm)の割合である開口径比(d/λm)は、下限が1/300さらには1/120であると好ましい。その上限は1/40さらには1/50であると好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、開口径比が1/120〜1/50であると好ましい。
【0025】
開口径比が過小では赤外線の強度が低下し、開口径比が過大ではマイクロ波の漏洩が大きくなり好ましくない。
【0026】
また、透過孔の長さ(厚み)は、下限が0.3mmさらには0.5mmであり、上限が3mmさらには2mmであると好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、その長さが0.5〜2mmであると好ましい。
【0027】
その長さが過小では多孔体自体の剛性または強度を十分に確保し難く、また、それが過大になると試料から放出された赤外線がサーモグラフィに正確に到達し難くなり、試料温度の測定誤差が大きくなり易い。
【0028】
(3)観察窓
観察窓は、マイクロ波の透過を遮蔽しつつ、加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過する透過孔を複数有する多孔体からなる。より具体的にいえば、観察窓は例えば、多孔体とその枠体からなる。この観察窓は、マイクロ波加熱器と独立して設けられてもよいが、前述したように、マイクロ波加熱器の筐体を枠体とすると、測定装置が簡素になり好ましい。
【0029】
観察窓や多孔体の外形状、大きさや厚さなど問わない。例えば、観察窓は円形でも方形でもよい。要するに、被加熱物の温度分布を測定できる範囲で、赤外線を透過すれば足る。
【0030】
多孔体の典型は、金網や金属板に多数の開孔を設けた金属多孔板からなる電磁波シールド部材である。マイクロ波を遮蔽する限り、多孔体の材質は問わないが、金属特に鉄系材料が安価で好ましい。その他、多孔体は銅(または銅合金)製、アルミニウム(アルミニウム合金)製、ニッケル(ニッケル合金)製さらには黄銅製でもよい。
【0031】
このような電磁波シールド部材として、厚さ数mmの金属板に直径数mmの細孔を穿孔したパンチングメタル、展開すると網目状の開孔ができる金網(エキスパンドメタル等)がある。このような電磁波シールド材は多種多様なものが市販されており、安価に入手できる。
【0032】
例えば、マイクロ波の周波数:2.45GHz(波長:122mm)の場合であれば、透過孔の孔径の下限は0.5mm、0.7mm、1mm、1.2mmさらには1.5mmが好ましい。孔径の上限は3.5mm、3mm、2.8mm、2.5mmさらには2.0mmが好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、孔径が1〜2.5mmであると好ましい。
【0033】
孔径が過小の場合、孔数を多くした(開口率を大きくした)ときに、孔間が過小となり多孔体の剛性や強度の確保が難しくなる。孔径が過大の場合、マイクロ波の波長にも依るが、マイクロ波の漏洩が過大となり好ましくない。
【0034】
なお、透過孔の孔形状は円形である必要はなく、正方形、長方形、星形、台形など多様な形状が考えられる。これはエキスパンドメタル等でも同じである。なお、孔形状が円形でない場合、開孔面積から換算した孔径(換算孔径)に対して、上記孔径の上下限が適用される。
【0035】
多孔体の厚さの下限は0.3mm、0.5mm、0.7mmさらには1mmが好ましい。その上限は2.5mm、2mmさらには1.5mmが好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、その厚さが0.5〜2mmであると好ましい。
【0036】
多孔体の厚さが過小な場合、その剛性や強度の確保が難しくなる。厚さが過大な場合、マイクロ波の波長にも依るが、被加熱物から放出された赤外線がサーモグラフィ等の赤外線検出部に正確に到達し辛くなり、測定温度に誤差が生じ易くなる。
【0037】
さらに、多孔体の特定範囲内の総表面積(St)に対する、その特定範囲内にある透過孔の総面積(Sd)の割合である開口率(Sd/St x 100%)は、下限が35%、40%、50%、60%さらには65%であると好ましい。また、その上限が85%、80%以下、75%さらには70%であると好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、開口率が40〜80%であると好ましい。
【0038】
多孔体の開口率が過小では被加熱物の放出する赤外線を赤外線検出部が十分に検出できず、正確な温度分布を得ることが難しくなる。一方、開口率が過大になると、多孔体の剛性や強度などが不足し、また、マイクロ波の漏洩も大きくなり好ましくない。
【実施例】
【0039】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
〈マイクロ波加熱用温度分布測定装置〉
(1)本発明の一実施例であるマイクロ波加熱用温度分布測定装置(以下単に「測定装置」という。)を図1に示す。この測定装置1は、電磁波であるマイクロ波を発生させるマグネトロンを備えたマイクロ波加熱器10と、このマイクロ波加熱器10により加熱される試料Sの温度分布を測定する非冷却型の赤外線サーモグラフィ20(赤外線測定器)とからなる。
【0040】
マイクロ波加熱器10は、軟鉄製鋼板からなる直方体状の筐体11と、その筐体11の一面側に取り付けられた開閉式の扉12と、扉12に対向して設けられた観察窓13とからなる。扉12も軟鉄製鋼板からなるが、後述する図3に示す従来のマイクロ波加熱器110の扉112と同様な構造、つまり、覗き窓113を備えるものであっても良い。観察窓13は筐体11の一部に嵌め込まれたパンチングメタルからなる電磁シールド板30(多孔体)のみで構成される。この観察窓13を構成する電磁シールド板30は図2に示すように、軟鉄製鋼板からなる金属板31に多数の開孔32(透過孔)をパンチングして穿孔したものである。
【0041】
本実施例で用いたマイクロ波加熱器10の仕様は次の通りである。照射されるマイクロ波の周波数2.45GHz(波長:λm=122mm)であり、出力は200〜750Wで調整可能である。
【0042】
また、電磁シールド板30は130x250mmの略長方形状で厚さ0.8mmとした。なお、金属板31に穿孔した開孔32の開孔径はφ1.5mm、開口率は50%とした。
【0043】
赤外線サーモグラフィ20(以下単に「サーモグラフィ20」という。)は、赤外線をレンズを介して検出する赤外線検出部21と、その赤外線検出部21から検出された検出情報に基づき画像処理をして被加熱物の温度分布を画像表示する表示部22とからなる。本実施例のサーモグラフィ20には、市販されている赤外線サーモグラフィ(日本アビオニクス社製TVS−500EX)をそのまま用いた。このサーモグラフィ20の仕様は次の通りである。検出される赤外線の波長(検出波長(λe))は8〜14μmである。
【0044】
(2)上記実施例に対する比較例となるマイクロ波加熱用温度分布測定装置を図3に示す。この測定装置100も、マイクロ波加熱器110とサーモグラフィ20とからなる点は上記実施例の測定装置1と同様である。しかし、マイクロ波加熱器110の筐体111および扉112の構造が異なる。マイクロ波加熱器100では、市販の電子レンジなどと同様に扉112に覗き窓113が設けられている。
【0045】
この覗き窓113は電磁シールド板130の両側が透明な耐熱ガラス140によって挟持され補強された構造となっている。この電磁シールド板130には開孔径がφ1.5mm、開孔率が50%、板厚0.4mmのパンチングメタルが用いられている。また、その両面側に設けた耐熱ガラス140は板厚1.5mmのホウケイ酸ガラスである。
【0046】
この測定装置100は、上記の測定装置1と異なり、サーモグラフィ20によりその覗き窓113越しまたは扉112を開いてから試料Sの温度分布を測定するものである。
【0047】
〈マイクロ波加熱用温度分布測定方法〉
マイクロ波加熱器の筐体(11または111)の中央に試料Sを置き、この試料Sへ出力500Wのマイクロ波を30秒間照射してマイクロ波加熱を行った。試料Sは、アルミナファイバー断熱材にSiC粉末を厚さ約1mmコーティングして製作したものであり、試料サイズは80x45mmとした。
【0048】
(1)先ず、比較例の測定装置100を用いて、覗き窓113越しに加熱された試料Sの温度分布をサーモグラフィ20で測定したところ、赤外線が全く検出されず、サーモグラフィ20による試料Sの温度分布測定はできなかった。
【0049】
次に、比較例のマイクロ波加熱器110を用いて加熱した直後(加熱終了後1秒以内)に、マイクロ波加熱器110の扉112を開放して、試料Sの温度分布を直接的にサーモグラフィ20で測定した。このとき、試料Sとサーモグラフィ20の赤外線検出部21との距離は30cmとした。これにより得られた温度分布の測定画像を図6に示す。
【0050】
(2)実施例である測定装置1を用いて同様に測定した結果を図5に示す。図5から明らかなように、本実施例によれば、観察窓13越しの測定であっても、サーモグラフィ20により、扉112を開いた場合と同様に、試料Sの温度分布を明確に測定できることが確認された。
【0051】
〈評価〉
さらに、測定装置1の観察窓13越しに行った試料Sの温度分布測定と、測定装置100の扉12を開放して直接的に行った試料Sの温度分布測定とを比較すると、次のことが解る。
【0052】
前者の場合、図6から明らかなように、試料Sの左右部分が高温(最大286℃)で中央部分が低温である温度分布が明確に測定された。後者の場合も、図5から明らかなように、図6と同様な温度分布が明確に測定された。もっとも、本実施例に係る前者の場合、左右の高温部分の最大温度が226℃であり、測定された絶対的な温度が比較例である後者の温度よりも低くなった。これは、電磁シールド板30が試料Sから放出された赤外線の一部を遮蔽して、赤外線検出部21への到達が阻害されたためと思われる。
【0053】
そこで、開口率のみを種々変更した電磁シールド板30を製作して、各種の電磁シールド板30からなる観察窓13越しにサーモグラフィ20により、同様に加熱した試料Sを測定した。そしてサーモグラフィ20で測定された各最高温度(T)について、測定装置100の扉12を開放して直接的に測定した場合の最高温度(T0=286℃)に対する割合である相対温度(T/T0:%)を求めた。この相対温度(%)と開口率(%)との関係を図4に示した。
【0054】
図4に示す結果から、開口率30%では相対温度が50%程度であるが、開口率を40%以上にすると相対温度70%まで急上昇することが解った。そして、開口率が40%以上の場合は、いずれも図5に示すような温度分布が得られ、温度の絶対値を別にすれば、図6の温度分布と非常に近似したものとなった。つまり、開口率を40%とすることで、ほぼ正確な被加熱物の温度分布が測定されることが確認された。
【0055】
〈補足〉
ちなみに、上述のマイクロ波加熱を行ったときのマイクロ波の漏洩は、実施例および比較例ともに0.1mW/cm2以下であった。
【0056】
また、測定装置100の覗き窓113の耐熱ガラスを透明な耐熱樹脂材(ポリメチルペンテン、ポリザルフォンなど)に替えて、同様な測定を行ったが、やはりその覗き窓113越しには試料Sから放出された赤外線が全く検出されず、温度分布を測定することはできなかった。
【0057】
なお、上述した測定ではマイクロ波加熱後の試料Sの温度分布を測定したが、本実施例によればマイクロ波加熱をしている途中の試料Sの温度分布も、そのマイクロ波加熱と並行して測定できることはいうまでもない。すなわち、本発明に係る測定装置を用いれば、これまで困難であった、いわゆるIn−Situ測定がマイクロ波加熱でも容易に行えることとなった。
【0058】
このように本発明を用いれば、単に被加熱物の温度分布をリアルタイムで測定できるにとどまらず、そのリアルタイムな測定情報に基づいて、高精度なマイクロ波による加熱制御を比較的容易に行い得ることも分かる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るマイクロ波加熱用温度分布測定装置を示す概要図である。
【図2】その測定装置で用いた電磁シールド板の拡大図である。
【図3】従来のマイクロ波加熱用温度分布測定装置を示す概要図である。
【図4】本発明に係る測定装置を用いて測定した開口率と相対温度との関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係る測定装置を用いて測定した温度分布を示す赤外線サーモグラフィの画像図である。
【図6】従来の測定装置を用いて測定した温度分布を示す赤外線サーモグラフィの画像図である。
【符号の説明】
【0060】
1 マイクロ波加熱用温度分布測定装置(実施例)
10 マイクロ波加熱器
13 観察窓
20 赤外線サーモグラフィ
30 電磁シールド板(多孔体)
32 開孔(透過孔)
100 マイクロ波加熱用温度分布測定装置(比較例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱するマイクロ波加熱器と、
該マイクロ波の透過を遮蔽しつつ、該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過する透過孔を複数有する多孔体からなる観察窓と、
前記被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部を有し該赤外線検出部の検出情報に基づいて該被加熱物の温度分布を測定し得る赤外線測定器とからなり、
前記被加熱物物と前記赤外線検出部との間に前記観察窓の多孔体のみを介在させて、該マイクロ波加熱器で加熱中の被加熱物の温度分布を該赤外線測定器で測定可能としたことを特徴とするマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項2】
前記多孔体は、前記透過孔となる細孔が多数形成された金属多孔板または金網である請求項1に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項3】
前記多孔体の特定範囲内の総表面積(St)に対する該特定範囲内にある透過孔の総面積(Sd)の割合である開口率(Sd/St x 100%)は40〜80%である請求項1または2に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項4】
前記赤外線測定器は、赤外線サーモグラフィである請求項1または3に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項5】
筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱する加熱工程と、
該マイクロ波の透過を遮蔽しつつ該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過する透過孔を複数有する多孔体のみを、該被加熱物と該被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部との間に介在させて、該赤外線検出部の検出情報に基づき前記マイクロ波が照射されて加熱中である被加熱物の温度分布を測定する測定工程と、
からなることを特徴とするマイクロ波加熱用温度分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−168462(P2009−168462A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3498(P2008−3498)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】