説明

マイクロ流体デバイスシステム

【課題】脈流が発生することなく迅速に分析ができ、かつ、取り扱いが容易なマイクロ流体デバイスシステムを提供する。
【解決手段】測定物質を含んだ液体試料を導入する試料供給部11と、液体試料を分析する分析部12と、分析部12を通過した液体試料を収容する廃液部13と、試料供給部11から廃液部13へ液体試料が流下する流体流路14と、廃液部13に気体通路15を介して接続する開口部16とを設けたマイクロ流体デバイス10、および、開口部16に連通する弾性チューブ21と、弾性チューブ21を挟持した挟持部21aにて弾性チューブ21の内部空間を閉塞し、かつ弾性チューブ21における開口部16との接続端部21bから挟持部21aまでの長さを変更可能に構成した長さ調節機構22とを設けたポンプユニット20、を備えたマイクロ流体デバイスシステムX。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定物質として環境中に含まれる毒性物質などの測定物質を含んだ液体試料を分析するためのマイクロ流体デバイス、および、当該液体試料を送液するポンプユニットを備えるマイクロ流体デバイスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体等の微細加工技術を応用して製造されたマイクロ流体デバイスが、生化学、医療等の分野において使用されている。マイクロ流体デバイスとは、例えば、基板中に微小な毛細管状の流体流路、或いは、この流路と接続する反応領域としての分析部等の構造が形成された微小分析デバイスのことをいう。
【0003】
このようなマイクロ流体デバイスに、測定物質として核酸・タンパク質・菌体などの生体物質を含有する液体試料を試料供給部より導入し、分析部において、例えば抗原抗体反応による免疫学的手法や、核酸等のハイブリダイゼーションによる生化学的手法を用いて液体試料中に含まれる測定物質を検出する。
【0004】
特許文献1には、マイクロ流体デバイスに着脱可能に構成され、液滴を吐出することによりマイクロ流体デバイスの流体流路内に負圧を発生させて液体試料を送液するポンプユニットを有するマイクロ流体デバイスシステムが記載してある。
【0005】
このシステムは、複数の試料供給部を選択的に開閉して、ポンプユニットによって送液される液体試料を選択する蓋部を備える。当該蓋部は複数の試料供給部を覆い、かつ、1つの試料供給部に対応する開口部を備える。この蓋部をスライドさせて開口部を試料供給部に一致させることにより、所望の試料供給部を選択的に開閉でき、選択された試料供給部に収容してある液体試料がポンプユニットによって送液される。
【0006】
当該ポンプユニットでは、チューブポンプを使用している。当該チューブポンプは、弾性のあるチューブの一点をローラーで押し潰し、ローラーをそのままチューブに沿って移動させることでチューブ内部の液体を押し出すことができるため吐出作用が生じる。ローラーが移動した後、押し潰された箇所はチューブの復元力によって元の形状に戻る。このときチューブ内部には吸引作用が生じる。チューブポンプはこの動作を連続的に行うことで吸引・吐出というポンプ機能を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−298496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のマイクロ流体デバイスシステムでは、試料供給部に供給した液体試料を分析するには、蓋部材をスライドさせた後にポンプユニットで送液する操作を行なう。分析する液体試料の数が複数ある場合には、蓋部材のスライド操作を液体試料の数だけ行う必要があるため面倒であり、かつ当該液体試料の数だけ分析に要する時間が長くなる。
【0009】
また、チューブポンプを使用すると、吐出作用および吸引作用の切り替わり時に流量が変動する脈流が発生する。このような脈流が発生すれば、液体試料を流下させる速度が均一にならず、分析部における反応時間などの正確性に欠ける。
【0010】
そのうえ、ローラーはチューブを引っ張る方向に移動するため、弾性材であるチューブは劣化し易くなる。
【0011】
従って、本発明の目的は、脈流が発生することなく迅速に分析ができ、かつ、長寿命なマイクロ流体デバイスシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るマイクロ流体デバイスシステムの第一特徴構成は、測定物質を含んだ液体試料を導入する試料供給部と、前記液体試料を分析する分析部と、該分析部を通過した液体試料を収容する廃液部と、前記試料供給部から前記廃液部へ前記液体試料が流下する流体流路と、前記廃液部に気体通路を介して接続する開口部とを設けたマイクロ流体デバイス、および、
前記開口部に連通する弾性チューブと、前記弾性チューブを挟持した挟持部にて前記弾性チューブの内部空間を閉塞し、かつ前記弾性チューブにおける前記開口部との接続端部から当該挟持部までの長さを変更可能に構成した長さ調節機構とを設けたポンプユニット、を備えた点にある。
【0013】
本構成によれば、長さ調節機構が弾性チューブを挟持した際に、弾性チューブの内部空間を閉塞するように弾性チューブに対して圧縮力を作用させることができる。
この圧縮状態で長さ調節機構によって接続端部から挟持部までの長さを連続的に変更させると、弾性チューブにおける挟持部の位置は経時的に変化する。弾性チューブにおいて、長さ調節機構による挟持状態から解放されると、その復元力によって弾性チューブの形状は前記圧縮状態から膨らんで通常状態の形状に戻る。この通常状態の形状に戻る際に、弾性チューブには吸引作用が生じる。挟持部の側は閉塞状態であるため、当該吸引作用は、接続端部において弾性チューブと連通する開口部の側に及ぶ。そのため、マイクロ流体デバイスの内部空間を減圧することができる。これにより、マイクロ流体デバイスの内部に存在する液体試料は開口部の側に吸引され、吸引された液体試料は試料供給部から分析部を経由して廃液部に流入する。このようにして液体試料を分析部に導くことができるため、液体試料に含まれる測定物質を分析部にて反応させることができる。
【0014】
このように本構成では、事前に特許文献1に記載のシステムのように蓋部材をスライド移動させる操作をする必要がないため、液体試料の吸引操作を簡便かつ迅速に行うことができる。また、液体試料の吸引時に脈流が発生することがないため、液体試料を均一な流れで分析部に向けて流下させることができる。従って、液体試料の流速を正確に制御して分析部での反応時間などの設定を正確に行なうことができる。
【0015】
本発明に係るマイクロ流体デバイスシステムの第二特徴構成は、前記長さ調節機構は、前記弾性チューブを挟持し、少なくとも一つのローラ部材を有する点にある。
【0016】
本構成では、ローラ部材が回転することで弾性チューブを接続端部から挟持部の間に送り出して、接続端部から挟持部までの長さを連続的に変更させることができる。このとき、弾性チューブはローラ部材によって挟持されるだけであるため、弾性チューブに過大な引っ張り力が作用せず、弾性チューブは劣化し難い。
【0017】
本発明に係るマイクロ流体デバイスシステムの第三特徴構成は、前記ローラ部材に、前記弾性チューブを案内する溝部を形成した点にある。
【0018】
本構成のように弾性チューブを溝部で案内すると、弾性チューブの横方向(長尺方向に垂直な方向)への位置ズレを防止できる。
【0019】
本発明に係るマイクロ流体デバイスシステムの第四特徴構成は、前記試料供給部および前記弾性チューブをそれぞれ複数備え、隣接する弾性チューブを連結部材によって接続した点にある。
【0020】
本構成のように弾性チューブを複数備えることで、複数の試料供給部に対して同時に送液することができるため、短時間に多数の液体試料を分析することができる。
また、隣接する弾性チューブを連結部材によって接続すると、弾性チューブの交換時には一度に脱着ができ、取り扱いが容易となる。さらに、連結部材を設けると、複数の弾性チューブのそれぞれが弾性チューブの長尺方向に位置ズレするのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】は、本発明のマイクロ流体デバイスシステムの側断面の概略示す図である。
【図2】は、マイクロ流体デバイスシステムの上面視の概略図を示す図である。
【図3】は、マイクロ流体デバイスシステムのポンプユニット側からの側面視の概略図を示す図である。
【図4】は、マイクロ流体デバイスの分解斜視図の概略図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1〜4に示したように、本発明のマイクロ流体デバイスシステムXは、測定物質として環境中に含まれる毒性物質などの測定物質を含んだ液体試料を分析するためのマイクロ流体デバイス10、および、当該液体試料を送液するポンプユニット20を備える。
マイクロ流体デバイス10は、測定物質を含んだ液体試料を導入する試料供給部11と、液体試料を分析する分析部12と、分析部12を通過した液体試料を収容する廃液部13と、試料供給部11から廃液部13へ液体試料が流下する流体流路14と、廃液部13に気体通路15を介して接続する開口部16とを設ける。
また、ポンプユニット20は、開口部16に連通する弾性チューブ21と、弾性チューブ21を挟持した挟持部21aにて弾性チューブ21の内部空間を閉塞し、かつ弾性チューブ21における開口部16との接続端部21bから挟持部21aまでの長さを変更可能に構成した長さ調節機構22と設ける。
【0023】
<マイクロ流体デバイス>
マイクロ流体デバイス10は、所謂バイオチップの一種であり、基板中に微小な毛細管状の流体流路、或いは、この流路と接続する反応領域としての分析部等の構造が形成され、DNA分析デバイス・微小電気泳動デバイス・微小クロマトグラフィーデバイス・微小センサー等のように、液体試料に含まれる測定物質を検出する用途で使用される。
【0024】
マイクロ流体デバイス10は、凹部や溝を微細加工した基板10Aの両面に樹脂フィルム17,18をそれぞれ貼着することにより、流体流路14や分析部12等の構造を形成する。第1樹脂フィルム17を基板10Aの下面に貼着することで試料供給部11・分析部12・廃液部13・流体流路14が形成され、第2樹脂フィルム18を基板10Aの上面に貼着することで廃液部13の上部空間を封止する。第1樹脂フィルム17は基板10Aと同等の縦横幅を有するサイズとし、第2樹脂フィルム18は廃液部13の上部空間を封止できる程度のサイズとすればよい。
【0025】
基板10Aは、例えば耐薬品性に優れたガラスプレート等の固相担体を利用する。構成材料はガラスの他に、石英板・ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコン樹脂・アクリル樹脂等が利用できる。本実施形態では、アクリル樹脂を構成材料とした基板10Aを示す。アクリル樹脂の基板は微細加工を容易に行なえるため、効率よくマイクロ流体デバイス10を作製することができる。
【0026】
基板10Aに微細加工を施す方法は、直接加工法および間接加工法の何れを適用してもよい。直接加工法としては、微細加工用ドリル等を用いての機械的切削加工法などが例示される。一方、間接加工法としては、所望の構造に対応する鋳型を用いて微細構造を転写する射出成形法などが例示される。
【0027】
マイクロ流体デバイス10は保持台30の上に載置する。保持台30の上面には、マイクロ流体デバイス10を収容するため、マイクロ流体デバイス10の外形に対応した凹部33が形成され、マイクロ流体デバイス10の開口部16の対応する位置に弾性材31が敷設してある。保持台30の下面には、開口部16および弾性チューブ21を連通させるチューブ接続部32が設けてある。
マイクロ流体デバイス10の厚さ方向の一部が凹部33に埋設されるように凹部33に収容した状態で、その上方から押付手段(図外)によって押圧することにより、開口部16、チューブ接続部32および弾性チューブ21が気密的に接続される。
開口部16、チューブ接続部32および弾性チューブ21を気密的に接続するのは、上記押圧手段を使用する以外に、マイクロ流体デバイス10の底面を吸引手段(図外)により吸引することにより行なってもよい。
保持台30の下方には、測定物質を分析するための分析手段40(後述)を備える。
【0028】
(試料供給部)
試料供給部11は、測定物質を含んだ液体試料をピペット等で注入する開口を備えたチャンバーである。試料供給部11は、分析する液体試料の所望量を貯留できるだけの容積を備えるとよい。本実施形態の試料供給部11は、基盤10Aの厚さに亘って、かつ、流体流路14の流路幅より広くなるようにそのサイズを設定する。
本実施形態では、8つの試料供給部11を設けたものを例示するが、試料供給部11の数は限定されるものではない。以下に説明する分析部12・廃液部13・流体流路14・気体通路15・開口部16のそれぞれの設置数は、試料供給部11と同じ数とする。
試料供給部11の開口には、例えばパイプ部材(図外)を挿入して構成してもよい。この場合、パイプ部材をシリコンチューブと接続させることで、当該シリコンチューブ経由で液体試料を基板10Aに供給することができる。
【0029】
(分析部)
分析部12では液体試料に含まれる測定物質を分析するための反応を行なうチャンバーである。
本実施形態における分析部12は、結合対アッセイとして抗原抗体反応による免疫学的手法を利用した分析部12の構成を示す。ただし、これに限られるものではなく、公知の核酸等のハイブリダイゼーションによる生化学的手法を利用することもできる。
免疫学的手法を利用する場合、当該分析部12は、液体試料中に含まれる測定物質と結合して特異的複合体を形成する結合性物質を封入する構成とする。当該結合性物質は測定物質と反応する反応性物質であって測定物質の検出・定量ができるものであればよく、分析部12を形成する部材表面に結合性物質を固定する、或いは、ビーズ等の固定化粒子に結合性物質を担持させる。
本実施形態では、結合性物質を担持させた複数の固定化粒子を分析部12から移動しないようにするため、分析部12の両端に移動防止部材12a,12bを備える例を示す。このように当該結合性物質を固定化粒子の表面に担持させた状態で当該固定化粒子を分析部20の中に封入することにより、結合性物質を分析部20に配置することができる。
【0030】
(廃液部)
廃液部13は分析部12を通過した反応済みの液体試料を貯留するチャンバーである。当該廃液部13は、その上面および下面が樹脂フィルム17、18で囲まれた空間となっており、基盤10Aの厚さに亘って、かつ、流体流路14および気体通路15の流路幅より広くなるようそのサイズを設定する。また、廃液部13は、その上流側が前記空間の上方で流体流路14と接続し、その下流側が前記空間の上方で気体通路15と接続している。このように構成することで、廃液部13に貯留できる液体試料を多くすることができる。
【0031】
(流体流路)
流体流路14は、試料供給部11から廃液部13までを接続して、試料供給部11から廃液部13へ液体試料が流下する流路である。
【0032】
(気体通路)
気体通路15は、廃液部13から開口部16までを接続して、廃液部13から開口部16へ空気が流通する通路である。
【0033】
(開口部)
開口部16は、廃液部13の下流に形成された孔である。当該開口部16は、保持台30に設けたチューブ接続部32を介して弾性チューブ21と連通する。弾性チューブ21によってポンプユニット20と連通した開口部16からは、ポンプユニット20により気体通路15を経由してマイクロ流体デバイス10の内部の空気が排気される。
【0034】
<ポンプユニット>
ポンプユニット20は、マイクロ流体デバイス10の内部に存在する液体試料を試料供給部11から廃液部13へ流下するように、マイクロ流体デバイス10の内部空間を減圧する。
【0035】
(弾性チューブ)
弾性チューブ21は、外部から圧縮力が作用しない通常状態では中空の円筒形状を呈するが、外部から圧縮力が作用したとき(圧縮状態)には、当該圧縮力の作用点とその近傍が弾性変形してその内部空間が閉塞され、当該圧縮状態から開放されたときに前記通常状態の形状に復元する材料で構成する。このような材料としては、例えばゴム等の弾性材が例示される。ただし、これに限定されるものではない。本実施形態では、試料供給部11の設置数と同じ数(8つ)の弾性チューブ21を備える例を示す。
【0036】
(長さ調節機構)
長さ調節機構22は、弾性チューブ21を挟持した挟持部21aにて弾性チューブ21の内部空間を閉塞し、かつ弾性チューブ21における開口部16との接続端部21bから挟持部21aまでの長さを変更可能に構成する。
【0037】
長さ調節機構22によって弾性チューブ21の挟持部21aの位置を変化させる際に挟持状態から解放された弾性チューブ21は、その復元力によって圧縮状態から膨らみ通常状態の形状に戻る。この通常状態の形状に戻る際に、弾性チューブ21には吸引作用が生じる。挟持部21aの側は閉塞状態であるため、当該吸引作用は、接続端部21bにおいて弾性チューブ21と連通する開口部16の側に及ぶ。これにより、マイクロ流体デバイス10の内部空間が減圧される。マイクロ流体デバイス10の内部に存在する液体試料は開口部16の側に吸引され、吸引された液体試料は試料供給部11から分析部12を経由して廃液部13に流入する。このようにして液体試料を分析部12に導くことができるため、液体試料に含まれる測定物質を分析部12にて反応させることができる。
【0038】
本実施形態では、長さ調節機構22は、弾性チューブ21を挟持し、少なくとも一つのローラ部材を有する場合について説明する。
【0039】
本実施形態では、上下に配置した一対の部材22a,22bのうち、上側の部材22aを回転駆動可能なローラ部材22aとし、下側の部材22bを弾性チューブ21を下方から支持するガイド部材22bとする。ローラ部材22aには、駆動用モータ軸25・カップリング26を介して駆動用モータ24が接続している。ガイド部材22bは駆動用モータに接続しないが、弾性チューブ21とローラ部材22aおよびガイド部材22bとの摩擦力をできるだけ抑制するため、弾性チューブ21の移動に伴って回転可能に構成する。
【0040】
本構成では、ローラ部材22aが回転することで弾性チューブ21を接続端部21bから挟持部21aの間に送り出して、接続端部21bから挟持部21aまでの長さを連続的に変更させることができる。このとき、弾性チューブ21は一対のローラ部材22aおよびガイド部材22bによって挟持されるだけであるため、弾性チューブ21に過大な引っ張り力が作用せず、弾性チューブ21は劣化し難い。
【0041】
ローラ部材22aには、弾性チューブ21を案内する溝部22cを形成してある。本構成のように弾性チューブ21を溝部22cで案内すると、弾性チューブ21の横方向(長尺方向に垂直な方向)への位置ズレを防止できる。溝部22cは、ガイド部材22bの側にも設けることができる。
【0042】
上述したように試料供給部11および弾性チューブ21はそれぞれ複数(8つ)備える。隣接する弾性チューブ21は、連結部材23によって接続してある。
本構成のように弾性チューブ21を複数備えることで、複数の試料供給部11に対して同時に送液することができる。また、隣接する弾性チューブ21を連結部材23によって接続すれば、弾性チューブ21の交換時には一度に脱着ができ、複数の弾性チューブ21のそれぞれが弾性チューブ21の長尺方向に位置ズレするのを防止できる。
【0043】
(液体試料とその分析方法の詳細)
上述した「液体試料」とは、分析を行なうべき対象となる測定物質を含む、或いは、含む可能性のある液体のサンプルのことを指す。液体試料はどのような起源由来のものであってもよい。例えば、環境試料・細胞・培養物・組織・体液・尿・血清および生検試料等から得ることができる。
環境試料としては、工場跡地等から採取した土壌や、河川から採取した水等が例示される。そして、環境中より採取された試料は、マイクロ流体デバイスに形成された流路中を流下できる程度の粘性を有する液体試料となるよう調整する。
【0044】
液体試料に含まれる「測定物質」は、この測定物質と特異的結合体を形成しうる結合性物質(後述)との結合により捕捉される。特異的複合体は、結合対アッセイを行った結果生じるものであり、後述するように、抗原抗体反応の結果生じる免疫化学的複合体や、相補的な核酸同士のハイブリダイゼーションの結果生じる複合体等が好適に例示される。
【0045】
測定物質は、化学物質・タンパク質等の高分子・DNA断片・微生物又はウィルスおよびその断片・ホルモン等、あらゆる物質が対象となりうる。具体的には、土壌中に含まれる毒性物質(PCB,ダイオキシン)や、油性物質(重油)等の環境汚染の要因となりうる物質、或いは、河川の水に含まれる病原性大腸菌の菌体等が好適に例示される。
【0046】
「結合性物質」は、測定物質を認識し得る物質、つまり、結合性物質と親和性を有する測定物質を選択的に検出し得る分子認識能を有する物質を意味する。具体的には、抗原・抗体・DNA断片・タンパク質・ペプチド等が好ましく例示されるが、これらに限定されるものではない。例えば、測定物質としてのPCB、ダイオキシンに対する結合性物質は、それぞれ抗PCB抗体、抗ダイオキシン抗体である。
【0047】
「免疫化学的手法」としては、例えば、固相法によるイムノアッセイの手法を適用することにより液体試料中の測定物質の存在を検出、或いは、定量的測定ができる。イムノアッセイとして公知の所謂「サンドイッチ法」では、例えば抗原のような標的となる測定物質を、標識化抗体と固定化物質表面に固定化された抗体(結合性物質)との間に挟むことにより、分析部12において特異的複合体を形成させ、測定物質を捕捉することができる。
【0048】
特異的複合体を形成する抗体等を標識化しておくことで、測定物質の存在を検出、或いは、定量的測定ができる。
抗原抗体反応により形成された特異的複合体の検出は、以下のように行う。
例えば、抗体を蛍光(発光)物質により標識化し、その蛍光(発光)強度を直接検出する、もしくは、抗体に酵素を結合し、化学発光基質を用いて酵素反応を行なうことにより光学的変化を検出する。
【0049】
蛍光標識した抗体を使用した場合における反応の結果、生成する特異的複合体中に、「測定物質」の量に応じて標識物質が存在することになる。洗浄用バッファーなどを試料供給部11より導入して、ポンプユニット20によりマイクロ流体デバイス10の内部空間を減圧して流体流路14を流下させ、未反応物を除去した後、標識物質の量を測定することで、「測定物質」を定量することができる。標識物質の定量は、標識物質の種類と共に種々の方法をとりうる。例えば、蛍光測定装置により蛍光物質の蛍光強度を測定する。測定された標識強度を、既知量の「測定物質」を測定した場合の標識強度と比較することにより、液体試料中の測定物質量を決定できる。
【0050】
本実施形態の分析手段40として蛍光強度を測定する装置を示す。特異的複合体が有する標識に励起光照射手段41から半導体レーザを照射して励起し、放出される蛍光をマイクロレンズで収集して、光学干渉フィルターにより蛍光成分のみを透過させ蛍光測定装置42により検出する。検出は、8つの試料供給部11毎に個別に行なう。試料供給部11毎の検出を迅速に行なうため、マイクロ流体デバイス10をスライド移動可能に構成してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明のマイクロ流体デバイスシステムの実施例について説明する。
基板10Aとしてアクリル樹脂であるアクリライト(品番000、紫外線透過タイプ:三菱レイヨン社製)を切削加工し、基板10Aの下面に第1樹脂フィルム17を貼着し、基板10Aの上面に第2樹脂フィルム18を貼着して試料供給部11・分析部12・廃液部13・流体流路14を形成した。
第1樹脂フィルム17及び第2樹脂フィルム18は、低自己蛍光性を有し、マイクロ流体デバイス10への接着側に予めマイクロカプセル型接着剤が片面に塗布してある厚み0.1mmのポリオレフィン系樹脂のマイクロプレート用シーリングテープ(品番9795:3M社製)を用いた。
【0052】
基板10Aは、厚さ1.7mm縦50mm横40mmの樹脂板であり、検出手段40に取り付けるための位置決め孔19が形成してある。
【0053】
弾性チューブ21はチューブ押板27により固定される。このとき、固定部分における弾性チューブ21の内部空間は閉塞しない。弾性チューブ21は、ローラ部材22aとガイド部材22bとにより挟持され、挟持部21aにおいて弾性チューブ21の内部空間が閉塞される。ローラ部材22aの側には、弾性チューブ21の一部が係入する溝部22cが形成してある。
【0054】
試料供給部11に液体試料を注入し、ローラ部材22aを駆動用モータ24により回転(図1では右回り)させると、弾性チューブ21は接続端部21bから挟持部21aの間(図1の左方向)に送り出される。このとき、弾性チューブ21における開口部16との接続端部21bから挟持部21aまでの長さは長くなる。ガイド部材22bは弾性チューブ21の送り出しに伴って回転するため、弾性チューブ21とローラ部材22aおよびガイド部材22bとの摩擦が減少しスムーズに弾性チューブ21が送り出される。
【0055】
弾性チューブ21が接続端部21bから挟持部21aの間に送り出されることで、弾性チューブ21における挟持部21aの位置を変化させる際に挟持状態から解放された弾性チューブ21は、その復元力によって圧縮状態から膨らみ通常状態の形状に戻る。このとき弾性チューブ21の内部には吸引作用が生じ、弾性チューブ21と連通する開口部16を経由してマイクロ流体デバイス10の内部空間を減圧することができる。これにより、マイクロ流体デバイス10の内部に存在する液体試料は吸引され、試料供給部11から分析部12を経由して廃液部13に流入する。
【0056】
分析が終了した時点でマイクロ流体デバイス10を保持台30から取り外した後、ローラ部材22aを駆動用モータ24により逆方向に回転させて弾性チューブ21の接続端部21bから挟持部21aの間の長さを元の状態に戻す。
【0057】
尚、ローラ部材22aとガイド部材22bとを互いに離間する方向に移動可能に構成すれば、弾性チューブ21の交換時の作業を容易に行なうことができる。
【0058】
(絶縁油から抽出したPCBの量の測定)
本発明のマイクロ流体デバイスシステムXを使用して、トランスに用いられた絶縁油から抽出したPCBを検出するため、以下の実験を行なった。
【0059】
複数個の直径130μmのポリスチレンビーズ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に、PCBに擬似させたPCB擬似抗原を固定させ、分析部12に封入した。PCBと結合力を有するPCB抗体に蛍光物質Qdot655(登録商標:インビトロジェン社製)を標識化した。
【0060】
蛍光強度の測定は、マイクロ流体デバイス10の分析部12に励起光照射手段41から励起光を照射させ、分析部12からの光信号を蛍光測定装置42によって検出することで行った。測定された蛍光強度から既知量のPCBを測定した場合の蛍光強度と比較して、液体試料中のPCB量を決定した。
【0061】
液体試料30μLと蛍光物質Qdotで標識化したPCB抗体溶液240μLとを混合した。当該PCB抗体溶液は、液体試料に含まれると予想されるPCBよりもPCB抗体が約10倍程度過剰量になるようにした。上記混合液のうち10μLをマイクロ流体デバイス10の試料供給部11に注入した。ポンプユニット20は吸引速度を1μL/分として10分間送液した。
【0062】
混合液は送液されている間に液体試料に含まれるとPCBと標識化PCB抗体とが抗原抗体反応を起こした。10分後には、PCBは全て標識化PCB抗体と結合した。
【0063】
標識化PCB抗体は液体試料中の予想PCB量より過剰に入れてあるので、PCBと反応していない標識化PCB抗体が存在している。
この反応していない標識化PCB抗体は、分析部12に封入されているビーズに固定化されたPCB擬似抗原と抗原抗体反応を起こし、ビーズに固定化される。
【0064】
固定化された標識化PCB抗体以外の物質は廃液部13まで送液され、分析部12にはビーズに固定化された標識化PCB抗体が残り、標識物質の蛍光強度が測定された。測定した蛍光強度をもとにあらかじめ既知量のPCBを用いて同様に計測した検量線と比較して液体試料中のPCBの量を算出した。
【0065】
〔別実施の形態1〕
上述した実施形態では、上下に配置した一対の部材22a,22bのうち、上側の部材(ローラ部材)22aは駆動用モータ24を接続して軸芯まわりに回転可能に構成し、下側の部材(ガイド部材)22bは弾性チューブ21の移動に伴って回転可能に構成する構成について説明した。しかし、このような態様に限られるものではない。
例えば、両方の部材22a,22bで弾性チューブ21を挟持した状態で、
一方の部材を固定し、当該固定した部材の外周を他方の部材が回転するように構成してもよい。
本構成では、他方の部材が一方の部材の外周を回転する際に挟持部21aの位置が経時的に変化して、接続端部21bから挟持部21aの間の長さを調節する。これにより、長さ調節機構22が当該長さを調節する際には弾性チューブ21が送り出されることがないため安定した状態で長さを調節することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、測定物質として環境中に含まれる毒性物質などの測定物質を含んだ液体試料を分析するためのマイクロ流体デバイス、および、当該液体試料を送液するポンプユニットを備えるマイクロ流体デバイスシステムに利用できる。
【符号の説明】
【0067】
X マイクロ流体デバイスシステム
10 マイクロ流体デバイス
11 試料供給部
12 分析部
13 廃液部
14 流体流路
15 気体通路
16 開口部
20 ポンプユニット
21 弾性チューブ
21a 挟持部
21b 接続端部
22 長さ調節機構
22a ローラ部材
22c 溝部
23 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物質を含んだ液体試料を導入する試料供給部と、前記液体試料を分析する分析部と、該分析部を通過した液体試料を収容する廃液部と、前記試料供給部から前記廃液部へ前記液体試料が流下する流体流路と、前記廃液部に気体通路を介して接続する開口部とを設けたマイクロ流体デバイス、および、
前記開口部に連通する弾性チューブと、前記弾性チューブを挟持した挟持部にて前記弾性チューブの内部空間を閉塞し、かつ前記弾性チューブにおける前記開口部との接続端部から当該挟持部までの長さを変更可能に構成した長さ調節機構とを設けたポンプユニット、を備えたマイクロ流体デバイスシステム。
【請求項2】
前記長さ調節機構は、前記弾性チューブを挟持し、少なくとも一つのローラ部材を有する請求項1に記載のマイクロ流体デバイスシステム。
【請求項3】
前記ローラ部材に、前記弾性チューブを案内する溝部を形成してある請求項2に記載のマイクロ流体デバイスシステム。
【請求項4】
前記試料供給部および前記弾性チューブをそれぞれ複数備え、隣接する弾性チューブを連結部材によって接続してある請求項1〜3の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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