マイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質抗原
【課題】マイコプラズマ・ニューモニエから単離される新規な抗原物質、該物質に特異的に結合する抗体、及び該抗体を含有するマイコプラズマ・ニューモニエ感染の診断用組成物の提供。
【解決手段】下式で表されるマイコプラズマ・ニューモニエから単離されるグリセロ型糖脂質の抗原物質、該物質に特異的に結合する抗体、及び該抗体を含有するマイコプラズマ・ニューモニエ感染の診断用組成物。
【解決手段】下式で表されるマイコプラズマ・ニューモニエから単離されるグリセロ型糖脂質の抗原物質、該物質に特異的に結合する抗体、及び該抗体を含有するマイコプラズマ・ニューモニエ感染の診断用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)から単離された新規構造であるグリセロ型糖脂質抗原物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマは、細胞壁を持たず、最も単純かつ小さい微生物群である。その一種であるマイコプラズマ・ニューモニエは、マイコプラズマ肺炎の原因微生物である。マイコプラズマ肺炎は、特に小児の肺炎において肺炎双球菌やクラミジア感染によるものとの区別がつきにくく、それらに対する抗生物質はマイコプラズマには無効である。この診断を誤り、間違った抗生物質の使用により、重篤な症状に陥ることもまれではない。よって、正確な感染の判断および病気の診断を行うことが求められている。
【0003】
しかしながら、現行のマイコプラズマ・ニューモニエ検出法は、マイコプラズマ・ニューモニエの抽出混合物を抗原として利用したものであり、特異性が低いこと、および抽出物のロット間の差異により再現性が維持されないこと等の問題がある。
【0004】
また、マイコプラズマ・ニューモニエは、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患の原因物質としても報告されている。しかしながら、その疾患発症のメカニズムは未だ解明されていない(特開2005−110545号公報;TheJournal of Emergency Medicine,2006,30,4,371−375.;Cytokine& Growth Factor Reviews,2004,15,2−3,157−168.;Brainand Development,2005,27,6,431−433.)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−110545号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Journal of Emergency Medicine,2006,30,4,371−375.
【非特許文献2】Cytokine & Growth FactorReviews,2004,15,2−3,157−168.
【非特許文献3】Brain and Development,2005,27,6,431−433.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような状況下で、マイコプラズマ・ニューモニエの感染の正確な判断方法およびこの微生物に関連する疾患の正確な診断方法が確立されることが望まれている。特に、特異性の高いマイコプラズマ・ニューモニエ検出法が望まれている。
【0008】
本発明者らは、マイコプラズマ・ニューモニエの病原性の解明をするために、マイコプラズマ・ニューモニエの膜脂質画分から抗原性を有する糖脂質を分離、精製し、構造解析を試みた。その結果、重要な生理活性を有する可能性のある新規な糖脂質を分離することに成功し、その絶対構造を決定した。さらに、本発明の糖脂質抗原に対する抗体が、神経疾患の患者に見出されることを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、以下の化合物(本発明のグリセロ型糖脂質)、それを含有する組成物、診断剤、またはキット、およびこれらを用いたマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法を提供する。
(1)下記一般式で表される化合物:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、R1=Hのとき、R2=OHである。R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能である。)
または、その塩。
(2)R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、上記(1)に記載の化合物。
(3)以下の化合物:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、またはその塩である、上記(1)に記載の化合物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を含有する組成物。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤。
(6)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(5)に記載の診断剤。
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物または上記(4)に記載の組成物を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用キット。
(8)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(7)に記載の診断用キット。
(9)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物または上記(4)に記載の組成物を、被験者由来の試料と接触させる工程、および
上記試料中の上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物に対する抗体を免疫学的に検出または測定する工程、
を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法。
(10)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(9)に記載の診断方法。
(11)ガラクトースを非還元末端に有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を利用した上記(5)〜(10)のいずれかに記載の診断剤、診断キット、または診断方法。
(12)グルコースを非還元末端に有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を利用した上記(5)〜(10)のいずれかに記載の診断剤、診断キット、または診断方法。
(13)下記一般式で表される化合物に対する抗体:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、R1=Hのとき、R2=OHである。R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能である。)
または、その塩。
(14)R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、上記(13)に記載の抗体。
(15)以下の化合物に対する抗体:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、またはその塩、
である、上記(13)に記載の抗体。
(16)モノクローナル抗体である、上記(13)〜(15)のいずれかに記載の抗体。
(17)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体を含有する組成物。
(18)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤。
(19)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(18)に記載の診断剤。
(20)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を含む、マイコプラズマ・ニューモニエ検出用キット。
(21)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用キット。
(22)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(21)に記載のキット。
(23)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を、試料と接触させる工程、および
上記試料中の抗原物質と上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体との結合を免疫学的に検出または測定する工程、
を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエの存在を検出するための方法。
(24)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を、被験者由来の試料と接触させる工程、および
上記試料中の抗原物質と上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体との結合を免疫学的に検出または測定する工程、
を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法。
(25)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(24)に記載の方法。
【0010】
本発明はまた、以下のマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法を提供する。
(26)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物または上記(4)に記載の組成物を、適切な支持体または担体と結合させる工程を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法。
(27)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(26)に記載の製造方法。
(28)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(16)に記載の組成物を、適切な支持体または担体と結合させる工程を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法。
(29)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(28)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエの主要な抗原であるため、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度・正確に検出するための分子基盤となりうる。よって、この糖脂質を利用してマイコプラズマ・ニューモニエが原因である病気の正確な診断法、診断剤および診断キットの開発が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の3−O−[(β−D−Galactopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−diacyl−O−acyl−sn−glycerol(1)、および3−O−[(β−D−Glucopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−diacyl−O−acyl−sn−glycerol(2)の構造を示す図である。
【図2】実施例1において抽出した脂質試料について、薄相クロマトグラフィー(TLC)により脂質試料を展開し、オルシノール試薬にて染色した図である。
【図3】実施例1において得られた脂質画分について、DMSO−d6100%中で測定したDQF−COSYスペクトルを示す図である。
【図4】実施例1において得られた脂質画分について、ESI−MS測定による分析により得られたスペクトルチャートである。
【図5】マイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分をTLC展開し、(a):オリシノール試薬にて染色した結果、および(b):ギランバレー症候群の患者血清との反応をTLC−Immunostaining法にて検出した結果を示す図である。(b)に示すように、糖脂質抗原のスポットが発色しており、これは、ギランバレー症候群の患者が糖脂質抗原に対する抗体を保持していることを示す。
【図6】実施例3において、Glcβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA法によって調査した疾患群と非疾患群とのスコア値の分布を示す図である。
【図7】実施例3において、Glcβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA法による実験結果を、感度対偽陽性率の値で表したROC曲線(ReceiverOperating Characteristiccurve)である。
【図8】aはイムノクロマト法テストストリップの平面図、bはaで示されたイムノクロマト法テストストリップの縦断面図を示す。図中の符号は、それぞれ以下を表す。1 粘着シート;2 含浸部材;3 膜担体;31 捕捉部位;4吸収用部材;5 試料添加用部材。
【図9】マイコプラズマ・ニューモニエ菌体から抽出した脂質混合物、および化学合成により作製したGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGをHTLCプレートに展開して、得られたヤギ血清を反応させた結果を示す写真である。右図は、得られたヤギ血清を使用して免疫染色した結果である。左図は、化合物を展開したHTLCプレートをオリシノール染色した結果である。
【図10】Galβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGを抗原と硫安分画により精製したモノクローナル抗体との反応性を示すELISA結果を示すグラフである。モノクローナル抗体が、GalGLおよびGulGLのいずれとも反応した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、マイコプラズマ・ニューモニエの抗原物質の中から、特に抗原性が強い主要な化合物の単離・精製、に成功した。またその構造解析を行い、新規グリセロ型糖脂質を同定した。
【0014】
1.本発明のグリセロ型糖脂質
1つの実施形態において、本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエの抗原物質から新たに単離され、構造決定されたグリセロ型糖脂質を提供する。
【0015】
本発明により提供されるグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエが生成する、以下の構造式で表されるグリセロ型糖脂質:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、R1=Hのとき、R2=OHである。R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能である。)
または、その塩である。好ましくは、R3は、−(CH2)nCH3(nは12、14,16、または18である)で表される飽和炭化水素である。
【0016】
特に好ましくは、本発明により提供されるグリセロ型糖脂質は、下記の構造式:
で表されるグリセロ型糖脂質、またはその塩である。
【0017】
上記構造式において、(1)の場合は、3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール(3−O−[(β−D−Galactopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−di−O−acyl−sn−glycerol)(本明細書中、「Galβ−6Galβ−3DAG」と略すことがある。)であり、(2)の場合は、3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール(3−O−[(β−D−Glucopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−di−O−acyl−sn−glycerol)(本明細書中、「Glcβ−6Galβ−3DAG」と略すことがある。)である。但し、アシル(acyl)基は、パルミトイル(palmitoryl)基もしくはステアロイル(stearoyl)基である。
【0018】
本明細書中、「本発明のグリセロ型糖脂質」という場合、上記構造式で表されるグリセロ型糖脂質およびその塩を指すものとする。塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが含まれる。
【0019】
本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエが産生する糖脂質であり、マイコプラズマ・ニューモニエの検出、またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断のためのマーカーとして有用である。例えば、本発明のグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する抗体を用いることにより、免疫学的手法を用いてマイコプラズマ・ニューモニエの検出、またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断を行うことができる。
【0020】
2.本発明のグリセロ型糖脂質に対する自己抗体を検出することによる、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法
本発明の1つの実施形態によれば、被験者由来の試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の存在により特徴づけられるマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法が提供される。この方法は、本発明のグリセロ型糖脂質を被験者由来の試料と接触させる工程を包含する。
【0021】
本発明の方法において使用する、抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法としては、被験者由来の試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の測定を可能とするものであれば特に限定されない。典型的には、抗原抗体反応に基づく免疫学的測定法が挙げられる。本発明において使用する免疫学的測定法は、被験者由来の試料と本発明のグリセロ型糖脂質とを接触させる工程、および被験者由来の試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体と本発明のグリセロ型糖脂質との免疫複合体の存在を検出する工程を包含する。
【0022】
本明細書中、「マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患」とは、マイコプラズマ・ニューモニエの感染によって引き起こされる疾患を意味する。マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患は、典型的には、本発明のグリセロ型糖脂質またはこれらの塩、あるいは本発明のグリセロ型糖脂質に対する自己抗体が、当該疾患の患者由来の生体試料中で検出されることによって特徴づけられる。マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の例としては、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書中、「被験者」とは、マイコプラズマ・ニューモニエに感染しているおそれのある哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、ラット、マウス等を含む)を意味するが、好ましくは、ヒトであり、最も好ましくは、マイコプラズマ・ニューモニエに感染しているヒト、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患を罹患しているおそれのあるヒト、またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患を罹患しているヒトを意味するものとする。
【0024】
本明細書中、「試料」または「生体試料」とは、被験者から採取された体液、例えば、全血、血漿、血清、関節液、髄液、唾液、羊水、尿、汗、膵液、滑液など、および組織、細胞などを含むものとする。
【0025】
本発明の、被験者に由来する試料中の自己抗体の検出に基づく、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断および予知方法は、このような疾患を有する被験者および疾患のないコントロールからの生体試料の使用により確認される。自己抗体を含有する可能性のある生体試料、たとえば血清は、特定の疾患の存在が疑われる被験者または疾患を発症する素因が疑われる被験者から得られる。同じ体液が、疾患を有さないコントロールから得られる。
【0026】
本発明によれば、本発明のグリセロ型糖脂質抗原に対して反応性の自己抗体の測定を、疾患、例えば、マイコプラズマ肺炎の初期診断に使用することができる。さらに、自己抗体レベルのモニタリングは疾患の進行を予知的に明らかにするために使用することができる。
【0027】
3.抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法
試料、例えば、被験者由来の血清試料中の本発明のグリセロ型糖脂質に対する自己抗体の検出は任意の多くの方法で実行することができる。このような方法にはイムノアッセイがあり、これにはそれらに限定するものではないが、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(固相酵素免疫測定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイ等が包含される。
【0028】
このようなイムノアッセイは、被験者由来の試料を、本発明のグリセロ型糖脂質抗原またはそれを含有する組成物と特異的な抗原−抗体結合が起こる条件下に接触させ、自己抗体による免疫特異的結合を検出またはその量を測定することからなる方法によって実施される。特定の態様においては、組織切片によるこのような自己抗体の結合を、たとえば自己抗体の存在を検出するために使用することが可能であり、この場合、自己抗体の検出は疾患状態であることを示す。血清試料中における自己抗体のレベルを、疾患を有しない被験者からの同種の血清試料中に存在するレベルと比較する。
【0029】
イムノアッセイは様々な方法で実施することができる。たとえば、このようなアッセイを実施するための一つの方法は、本発明のグリセロ型糖脂質の固体支持体上への繋留およびそれに特異的に結合する抗グリセロ型糖脂質抗体の検出を含む。
【0030】
試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法は、より具体的には、例えば、以下のような工程を包含する:
(1)固相に固定化した本発明のグリセロ型糖脂質と生体試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体とを反応させ、免疫複合体を形成させる工程(一次反応)、
(2)(1)の工程で生成した免疫複合体と標識化抗ヒトイムノグロブリン抗体とを反応させ、免疫複合体を形成させる工程(2次反応)、
(3)免疫複合体を形成しない標識化抗ヒトイムノグロブリン抗体を固相から分離する工程、
(4)固相に生成した免疫複合体中の標識量または標識活性を測定する工程、
(5)予め既知濃度の抗グリセロ型糖脂質抗体を用いて作成した検量線と、(4)の測定で得られた測定値とを比較する工程。
【0031】
上記の(1)の工程と(2)の工程との間に、必要に応じて、一次反応後の固相を洗浄する工程を追加してもよい。また、(1)および(2)の工程を同時に行ってもよい。また、本発明の生体試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の測定においては、二次反応でビオチン化抗ヒトイムノグロブリン抗体などと反応させてもよい。この場合、二次反応により生成した免疫複合体(本発明のグリセロ型糖脂質、抗グリセロ型糖脂質抗体、およびビオチン化抗ヒトイムノグロブリン抗体を含有する複合体)と(ストレプト)アビジン標識化抗体と反応させ、生成した免疫複合体中のアビジン標識化抗体量を測定すればよい。また、二次反応において、(標識化)抗ヒトイムノグロブリン抗体の代わりに、抗グリセロ型糖脂質抗体と反応する(標識化)アプタマーを用いることもできる。
【0032】
一次反応は、水性媒体中(例えば、ウェル内の液相中)で行われても乾式媒体中(例えば、固相支持体上)で行われてもよい。本発明のグリセロ型糖脂質が固定化される固相としては、例えば、マイクロタイタープレートなどのポリスチレンプレート、ガラス製または合成樹脂製の粒状物(ビーズ)、ガラス製または合成樹脂製の球状物(ボール)、ラテックス、磁性粒子、ニトロセルロース膜などの各種メンブレン、合成樹脂製の試験管、シリカゲルプレートなどが挙げられる。二次反応についても、水性媒体中で行われても乾式媒体中で行われてもよい。二次反応により固相上に生成した免疫複合体中の標識の量または活性を測定する方法としては、例えば、吸光度法(比色法)、蛍光法、発光法、放射活性法などが挙げられる。標識が酵素である場合、酵素の基質を当該酵素と反応させ、生成した物質を測定することにより、免疫複合体中の酵素活性を測定することができる。酵素の基質と当該酵素との反応は、水性媒体中で行われることが好ましい。
【0033】
上記の方法によりマイコプラズマ・ニューモニエに感染していると判定またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患に罹患していると診断された被験者は、適切な処置または治療を受けることができる。
【0034】
4.本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物、診断剤、および診断用キット
本発明は、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物を提供する。本発明はまた、別の実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤を提供する。本発明はさらに別の実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質または本発明の上記組成物を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用キットを提供する。
【0035】
本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物は、適切な担体、賦形剤、緩衝剤、希釈剤等を含み得る。本発明の組成物は、例えば、本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体を作製する目的でマウス、ラット、ウサギなどの動物に投与するために使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、試料中の本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体(例えば、抗Galβ−6Galβ−3DAG抗体または抗Glcβ−6Galβ−3DAG抗体)を検出するために使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤として使用され得る。本発明の組成物はまた、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用のキットに含めることができる。
【0036】
本発明のグリセロ型糖脂質を含有する上記本発明の診断剤およびキットは、上記で説明した抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法に従って使用される。本発明のキットは、上記で説明した二次反応のためのビオチンなどで標識した抗ヒトイムノグロブリン抗体などをさらに含有し得る。本発明のキットにおいて、本発明のグリセロ型糖脂質は、例えば、マイクロタイタープレートなどのポリスチレンプレート、ガラス製または合成樹脂製の粒状物(ビーズ)、ガラス製または合成樹脂製の球状物(ボール)、ラテックス、磁性粒子、ニトロセルロース膜などの各種メンブレン、合成樹脂製の試験管、シリカゲルプレートなどの固相支持体に固定化されていてもよい。本発明のキットはまた、反応を行うための液相として使用するための緩衝液などを含んでいてもよい。さらに、本発明のキットには、製造業者による取扱説明書などが含まれていてもよい。
【0037】
本発明はまた、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質または本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物を適切な支持体または担体に結合させる工程を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法を提供する。担体としては、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコンなどの合成樹脂あるいはガラスなどを用いることができる。
【0038】
5.本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体およびその使用
本発明は、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエ固有のグリセロ型糖脂質(本発明のグリセロ型糖脂質)に対して反応特異性を有するので、これを用いて検体中のグリセロ型糖脂質を免疫学的に測定することができる。本発明の抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断に使用することができる。
【0039】
(I)本発明の抗体の調製
本発明の抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエ由来の本発明のグリセロ型糖脂質を抗原として動物を免疫し、その動物から血清を分離するか、あるいはその動物の抗体産生細胞を採取し、永続的に培養可能とし、その培養物から回収することによって得られる。以下に、本発明の抗体の調製法を例示するが、これに限定されるものではなく、本発明のマイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質を抗原に用いるならば、その他の方法によって調製してもよい。
【0040】
(1)ポリクローナル抗体の調製
例えば、後述の実施例に記載されるようにして得られたマイコプラズマ・ニューモニエの脂質抽出物に、モノフォスフェートリピド、フロイント完全アジュバント、及びミネラルオイルを加えて混合し、さらに0.1%(v/v)Tween80を含むPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を加えて乳化する。
【0041】
次に、得られた乳化物をマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ等の動物の皮下または腹腔内に投与する。初回免疫後、2〜3週間目に常法によって追加免疫を行うと、力価の高い抗血清が得られる。最終免疫から1週間後に血液を採取し、血清を分離する。この血清を熱処理して補体を失活させた後、硫酸アンモニウムによる塩析、イオン交換クロマトグラフィー等の通常の抗体の精製と同様の方法によってイムノグロブリン画分を取得する。尚、最終免疫の後に、酵素免疫測定法等により血中抗体価の上昇を確認しておくことが望ましい。
【0042】
上記のようにして得られる抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する。本明細書中、抗体が、ある抗原(例えば、本発明のグリセロ型糖脂質)に対して「特異的に結合する」とは、その抗体が他の物質(例えば、本発明のグリセロ型糖脂質以外の他のグリセロ型糖脂質)に対するその親和性よりも、その抗原に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性」とは、所望の測定装置によって、その特定の抗原から区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味し、典型的には、結合定数(Ka)が少なくとも107M−1、好ましくは、少なくとも108M−1、より好ましくは、109M−1、さらにより好ましくは、1010M−1、1011M−1、1012M−1またはそれより高い、例えば、最高で1013M−1またはそれより高いものであるような結合親和性を意味する。
【0043】
マイコプラズマ・ニューモニエの脂質抽出物の代わりに、精製した本発明のグリセロ型糖脂質を用いれば、本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するポリクローナル抗体が得られる。
【0044】
(2)モノクローナル抗体の調製
モノクローナル抗体は、ケーラーとミルステインの方法(Nature,495〜492頁、1975年)によって得られる。すなわち、グリセロ型糖脂質に対する抗体を産生する哺乳動物の抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞を融合させてハイブリドーマを作製し、目的の抗体を産生するハイブリドーマをクローニングし、このハイブリドーマを培養することによって培養液中にモノクローナル抗体が得られる。以下、工程ごとに分説する。
【0045】
(i)動物の免疫及び抗体産生細胞の調製
グリセロ型糖脂質に対する抗体を産生する細胞は、グリセロ型糖脂質でマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジなどの動物を免疫し、その動物から脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血液等を調製することにより得られる。上記動物をグリセロ型糖脂質で免疫するには、(1)と同様に行えばよい。
【0046】
本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するモノクローナル抗体を得るには、精製した本発明のグリセロ型糖脂質で動物を免疫してもよいが、グリセロ型糖脂質混合物で免疫した動物の抗体産生細胞を用いてハイブリドーマを調製し、得られたハイブリドーマから本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するモノクローナル抗体を産生する株を選択してもよい。この方法によれば、動物の免疫に必要な量の本発明のグリセロ型糖脂質を得る必要がなく、酵素免疫法による検出が可能な程度の微量の本発明のグリセロ型糖脂質があればよい。
【0047】
(ii)ハイブリドーマの作製
グリセロ型糖脂質で免疫した動物から抗体産生細胞を採取し、骨髄腫細胞との細胞融合を行う。細胞融合に使用する骨髄腫細胞には種々の哺乳動物の細胞株を利用することができるが、抗体産生細胞の調製に用いた動物と同種の動物の細胞株を使用するのが好ましい。また、骨髄腫細胞株は、細胞融合の後に未融合細胞と融合細胞とを区別できるようにするために、未融合の骨髄腫細胞が生存できずハイブリドーマだけが増殖できるように、マーカーを有するものを用いることが好ましい。例えば、8−アザグアニン耐性株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)を欠損しており、核酸合成はdenovo合成経路に依存している。このような骨髄腫細胞と正常抗体産生細胞との融合細胞(ハイブリドーマ)では、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む培地(HAT培地)中で、アミノプテリンによりdenovo合成経路が阻害されても、チミジン、ヒポキサンチンが存在しているので、リンパ球由来のサルベージ回路により核酸合成できるので、増殖が可能である。これに対し、8−アザグアニン耐性の骨髄腫細胞は、アミノプテリンによりdenovo合成経路も阻害されるため、核酸合成できずに死滅し、また正常細胞である抗体産生細胞も長期培養はできない。したがって、抗体産生細胞と骨髄腫細胞との融合によって生成したハイブリドーマのみがHAT培地で増殖できるので、非融合細胞から融合細胞を選択することができる(サイエンス第145巻709頁、1964年)。また、骨髄腫細胞として、固有のイムノグロブリンを分泌しない株を使用することが、ハイブリドーマの培養上清から目的の抗体を取得することが容易となる点で好ましい。
【0048】
ハイブリドーマを得るための細胞融合は、例えば以下のようにして行う。免疫動物から脾臓を摘出し、RPMI1640培地に懸濁して細胞浮遊液を調製する。この脾細胞と、対数増殖期にあるマウスミエローマ細胞、例えばSP2/0細胞(アザグアニン耐性、IgG非分泌:ATCCCRL−1581)とを、脾細胞とミエローマ細胞が10:1〜1:1程度となるように混合し、遠沈後、沈渣に平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコールを、最終濃度が30〜50%となるように加えて細胞を融合させる。ポリエチレングリコールを加える代わりに、細胞混合液に電気パルスを印加することによって融合させてもよい。
【0049】
融合処理を行った細胞は、例えば10%(v/v)仔ウシ胎仔血清(FCS)を含むRPMI1640培地などで培養後、HAT培地などの選択培地に浮遊させ96ウェルのマイクロタイタープレートなどに分注して培養を行いハイブリドーマのみを生育させる。
【0050】
(iii)グリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有する抗体を産生するハイブリドーマの検索
上記のようにして得られたハイブリドーマは、複数の抗原あるいは抗原決定部位に対する各々のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの混合物であるので、これらの中から本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するモノクローナル抗体(例えば、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGに対して反応特異性を有するモノクローナル抗体)を産生する株を選択する。また、本発明のグリセロ型糖脂質に結合するモノクローナル抗体のうち、抗原性の強い抗原決定部位に対するモノクローナル抗体を産生する株を選択することが好ましい。
【0051】
グリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体を産生する株は、これらを抗原として用いる酵素免疫法によって選択できる。このような方法としてELISA法、すなわち、抗原をマイクロタイタープレート等に固相化しておき、これにハイブリドーマ培養液を加え、さらに酵素、ケイ光物質、発光物質などで標識した二次抗体を加えてインキュベートし、結合した標識物質によって抗体を検出する方法が挙げられる。その際、抗体を固相化し、これに抗原、標識二次抗体を順次加えてインキュベートしてもよい。尚、ELISA法については後に詳述する。
【0052】
精製された本発明のグリセロ型糖脂質が得られていない場合には、マイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分を高速薄層クロマトグラフィー(HPTLC)プレートを用いて分離し、このプレートにハイブリドーマの培養液、標識2次抗体を順次加えてインキュベートし、標識物質が結合する位置を検出する。この位置が本発明のグリセロ型糖脂質(例えば、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAG)がHPTLCによって展開される位置と同じであれば、そのハイブリドーマはその本発明のグリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体を産生すると認められる。本発明のグリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体が得られれば、これを用いたアフィニティークロマトグラフィー等によって、脂質画分から本発明のグリセロ型糖脂質を精製することもできる。
【0053】
目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを含むことが確認されたら、そのハイブリドーマが含まれていたウェルの細胞から限界希釈法などによりクローニングを行う。
【0054】
(iv)モノクローナル抗体の調製
上記のようにして得られたハイブリドーマを適当な培地中で培養すれば、その培養上清中に本発明のモノクローナル抗体が得られる。さらに常法により、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAまたはプロテインGを用いたアフィニティークロマトグラフィー、あるいは抗原を固定化した免疫吸着クロマトグラフィーなどによってモノクローナル抗体を精製することができる。
【0055】
こうして得られる本発明のグリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体は、本発明のグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する。したがって、望ましくは、そのようなモノクローナル抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエに感染していない健常人の血清中に存在するシアル酸含有糖脂質(ガングリオシド)、血小板活性化因子(1−アルキル−2−アセチルグリセロ−3−ホスホコリン)もしくはその部分脱アシル化物、ホスファチジルコリンもしくはその部分脱アシル化物、またはスフィンゴミエリン等の糖脂質及びリン脂質とは交差反応を示さない。
【0056】
本発明のモノクローナル抗体は、そのまま使用することもできるが、フラグメント化したものを使用することもできる。抗体のフラグメント化の際、抗体の抗原結合部位(Fab)が保存されていることが抗原と抗体との結合に必須であるので、抗原結合部位を分解しないプロテアーゼ(例えばプラスミン、ペプシン、パパイン)で抗体を処理して得られる抗原結合部位(Fab)を含むフラグメントは使用することができる。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’2、CDRなどが挙げられる。また、ヒト化抗体、多機能抗体、単鎖抗体(ScFv)なども本発明において使用することができる。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMであり、精製の容易性等を考慮すると、より好ましくはIgGである。
【0057】
また、本発明のモノクローナル抗体をコードする遺伝子の塩基配列もしくは抗体のアミノ酸配列が決定されれば、遺伝子工学的に抗原結合部位(Fab)を含むフラグメントを作製することが可能である。
【0058】
6.本発明の抗グリセロ型糖脂質抗体を含有する組成物、診断剤、および診断用キット
本発明は、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体を含有する組成物を提供する。本発明の組成物は、適切な担体、賦形剤、緩衝剤、希釈剤等を含み得る。担体としては、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコンなどの合成樹脂あるいはガラスなどを用いることができる。
【0059】
本発明の組成物は、試料中の本発明のグリセロ型糖脂質を検出するために使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、生体試料中の本発明のグリセロ型糖脂質を検出することによる、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断に使用することができる。
【0060】
したがって、本発明はまた、被験者由来の試料中の本発明のグリセロ型糖脂質の存在により特徴づけられるマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患を診断するための薬剤またはキットを提供し、この薬剤またはキットは、本発明の抗グリセロ型糖脂質抗体を含むか、または該抗体を含有する組成物を含む。
【0061】
したがって、本発明はまた、本発明の抗体または本発明の抗体を含む組成物を、適切な支持体または担体に結合させる工程を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法を提供する。
【0062】
本発明のキットは、免疫測定法に従って使用される。本発明のキットは、必要に応じて、免疫学的方法により被検体中のグリセロ型糖脂質またはマイコプラズマ・ニューモニエを検出する際に、本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有する抗体と、この抗体の調製に用いた免疫動物以外の動物を用いて調製した上記免疫動物のイムノグロブリンに対する抗体を標識物質で標識化した二次抗体とを含んでいてもよい。
【0063】
具体的なキットの一例として、マイクロタイタープレート、BSA(ウシ血清アルブミン)等のブロッキング試薬、本発明のグリセロ型糖脂質(標準物質)、本発明の抗体、ペルオキシダーゼ標識した抗マウスIgG抗体、過酸化水素水、OPD、洗浄用緩衝液からなるキットが挙げられる。抗体類、マイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質等は、凍結乾燥品として、またはこれらを安定して保存できる溶媒に溶解しておくことが好ましい。本発明のキットは、さらに製造業者による取扱説明書を含んでいてもよい。
【0064】
(測定法)
本発明において用いられる免疫学的な測定法としては、ELISA法、免疫染色法等、抗体を用いる通常の免疫学的方法が挙げられる。例えば、抗グリセロ型糖脂質抗体が結合した固相に検体液を接触させて検体液中に含まれるグリセロ型糖脂質を前記抗体に結合させ、非吸着成分を固相から分離除去し、次いで、標識物質で標識化したマイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質を前記固相に接触させ、前記検体液中に含まれるグリセロ型糖脂質と標識化したグリセロ型糖脂質とを競合反応させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出することにより、検体液中のグリセロ型糖脂質を測定することができる。
【0065】
また、抗グリセロ型糖脂質抗体が結合した固相に、検体液と、標識物質で標識化したグリセロ型糖脂質とを接触させ、前記検体液中に含まれるグリセロ型糖脂質と標識化したグリセロ型糖脂質とを前記抗体に対して競合反応させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出することにより検体中のグリセロ型糖脂質を測定することができる。この際、標識化したグリセロ型糖脂質の代わりに無標識の標準グリセロ型糖脂質を用い、検体中のグリセロ型糖脂質と標準グリセロ型糖脂質との競合反応を行った後、さらに標識物質で標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体を固相に接触させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出してもよい。この場合も、さらに標識化した二次抗体を用いてもよい。
【0066】
さらに、検体液中のグリセロ型糖脂質を固相に結合し、これに標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体を接触させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出してもよい。
【0067】
その他、免疫学的測定法には種々の態様が知られているが、いずれの方法も本発明に適用することができる。また、上記のような固相を用いる方法以外に、ハプテン、抗原の免疫測定に使用される方法、例えば、前記抗体に対して検体中のグリセロ型糖脂質と標識化したグリセロ型糖脂質を競合反応させ、抗体と結合した抗原と遊離の抗原を、例えばポリエチレングリコール、デキストラン、二次抗体等を用いて分離し、遊離の標識抗原の標識物質を検出する液相法を採用してもよい。
【0068】
上記固相としては、アガロースビーズ、ラテックス粒子、ポリスチレン、ナイロン等のマイクロタイタープレートのウェル等の通常の材料及び形態(粒子、微粒子、試験管、マイクロタイタープレート、ストリップ等)のものが挙げられる。固相に抗体またはグリセロ型糖脂質を結合させた後に、BSA(ウシ血清アルブミン)やゼラチンなどを用いてブロッキングを行うことが好ましい。また、標識物質としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等、酵素反応により色素の発色が可能な酵素;放射性同位元素;フルオレセインイソチオシアネート等の蛍光色素などが挙げられる。
【0069】
色素は、ペルオキシダーゼに対しては4−クロロ−1−ナフトール、O−フェニレンジアミン(OPD)もしくは3,3’−ジアミノベンチジン等、アルカリフォスファターゼに対してはp−ニトロフェニルフォスフェート等を使用する。
【0070】
また、本発明に係るグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエに固有であるので、前記の方法により検体中のグリセロ型糖脂質を測定し、グリセロ型糖脂質の存否またはその存在量と検体中のマイコプラズマ・ニューモニエの存否またはその存在量とを関連づけることによって、マイコプラズマ・ニューモニエを検出することもできる。
【0071】
上記グリセロ型糖脂質の測定法またはマイコプラズマ・ニューモニエの検出法において、検体としては、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、関節液または細胞培養液(上清)等が挙げられる。
【0072】
上記方法の他に、生体組織または細胞を、そのまま又はグリセロ型糖脂質の固定処理を施した後、標識物質で標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体と反応させ、マイコプラズマ・ニューモニエが感染した生体組織または細胞に標識化抗体を結合させ、標識物質を測定することにより、マイコプラズマ・ニューモニエを検出することもできる。固定処理の方法としては、例えばホルマリン、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド等を用いる方法が挙げられる。また、標識物質で標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体の代わりに、無標識の抗グリセロ型糖脂質抗体を固定処理した生体組織または細胞と反応させ、同時またはその後に、前記抗体の調製に用いた免疫動物以外の動物を用いて調製した前記免疫動物のイムノグロブリンに対する抗体を標識物質で標識化した二次抗体を反応させ、マイコプラズマ・ニューモニエが感染した生体組織または細胞に標識化二次抗体を結合させ、標識物質を測定してもよい。
【0073】
本発明の抗体を用いて試料中のグリセロ型糖脂質を免疫学的に測定する際、例えば、Galβ−6Galβ−3DAGおよびGlcβ−6Galβ−3DAGの両方に対して反応特異性を有する抗体を用いれば、Galβ−6Galβ−3DAGおよびGlcβ−6Galβ−3DAGを測定することができ、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGに対して反応特異性を有する抗体を用いれば、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGを選択的に測定することができる。Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGの測定に際しては、実施例記載のようにして得られるGalβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGを標準物質として使用することができる。
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
1.糖脂質の分離・精製
Mycoplasma pneumoniae(Mac strain)のPPLO培地での培養を以下のとおり行った。PPLO液体基礎培地(Difco社製)に10%牛血清、10%ペニシリン、0.0002%フェノールレッド及び1%グルコースを加えた液体培地にて37℃で培養した。培地のpH変化により微生物の増殖を確認した後、16,000×gで1時間遠心分離した。この操作をもう一度繰り返し脂質抽出用の試料とした。200L(湿潤状態の容量)の微生物試料に対し、クロロホルムとメタノールの混合溶媒で脂質画分を抽出した。
【0076】
2.脂質の抽出
試料をメタノールに浮遊させて4時間なじませた。そこに倍量のクロロホルムを加え、超音波で菌体を破砕し、さらに4時間放置した。3000rpmで遠心し、上清を回収して濃縮し、脂質画分試料とした。
【0077】
この脂質試料を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーによりクロロホルムとメタノールを使用して分離・精製した。第一段階として、クロロホルム:メタノールの混合比を9:1、8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9、0:10とした溶媒で10のフラクションに分画した。さらにそれぞれのフラクションに対し、第2、第3段階として同様のカラムクロマトグラフィーを行いさらに分離を行った。第一段階では、それぞれ33mg、79mg、2mg、5mg、2mg、4mg、4mg、2mg、6mg、0mg(何も回収されなかった)の化合物を含む10のフラクションを得た。このうちの一つの画分79mgを第2段階でさらに6つのフラクションに分画し、その中で2番目に得られたフラクションをさらに第3段階で6つのフラクションに分画し、4番目に得られたフラクションとして糖脂質1および2を得た。収量は15mgであった。
【0078】
図2は、薄相クロマトグラフィー(TLC)により脂質試料を展開し、オルシノール試薬にて染色した図である。レーン1は精製する前の菌体より抽出した脂質画分、レーン2〜10は最初のカラムクロマトグラフィーにより分離したそれぞれのフラクション、レーン11は3段階の精製を行って得た目的糖脂質画分である。
【0079】
3.NMR分析
得られた糖脂質画分をDMSO−d6:D2O=98:2溶液に溶解して、60℃にて1H−NMRを測定した。スフィンゴシンのシグナルは観察されず、グリセロール部分のプロトンが明快に観測されたことから、グリセロ型の脂質であることを決定した。脂肪酸は2本でほとんど飽和であり、ごくわずかに不飽和を含んでいた。よって、脂質部分はジアシルグリセロール(DAGと表記する)と決定した。糖部分は、1つのグルコースと3つのガラクトースのいずれもβ型のアノメリックプロトンが観察された。グルコースは非還元末端、ガラクトースの2つは6位に置換基を持っているように思われた。これらの情報から、Galβ−6Galβ−3DAGとGlcβ−6Galβ−3DAGの骨格が混合していると考えた。この骨格の検証として、還元末端のガラクトースの6位に非還元末端の糖が結合しているかどうかを、Gal−DAGを評品として、6位のケミカルシフトを比較した。さらに、D2Oを含まないDMSO−d6100%中で測定し、−OHのプロトンの同定を行ったところ、還元末端のガラクトースの2,3,4位の−OHシグナルは観察されるものの、6位の−OHシグナルは観察されなかった。これらにより6位に非還元末端の糖が結合していることを決定した。
【0080】
図3はDMSO−d6100%中で測定したDQF−COSYスペクトルであり、−OHのプロトンの帰属を記載している。また、表1は、DMSO−d6:D2O=98:2、60℃で測定した各プロトンの帰属データである。
【表1】
【0081】
4.質量分析
得られた脂質画分に対し、ESI−MS測定による分析を行った。そのスペクトルチャートを図4に示す。ポジティブモードはナトリウム添加条件で測定し、分子イオンに相当するピークm/z915(M+23)と943(M’+23)が観察された。これらは脂肪酸の組成の違いによるものであり、前者がC16:0/16:0(100%)、後者がC16:0/18:0(30%)であると予想された。これらの分子フラグメントに対しMS/MSを行ったところ、ヘキソース−ヘキソース−ジアシルグリセロールの骨格から脂肪酸、糖部位、グリセロール部位が脱離したフラグメントが観察され、この骨格に矛盾しない結果が得られた。またネガティブモードでも分子イオンピークm/z891(M−1)と919(M’−1)が観察され、これらに対するMS/MS測定でも同様の矛盾しない結果が得られた。
【0082】
1H−NMR解析および質量分析の結果を合わせて、Galβ−6Galβ−3DAGとGlcβ−6Galβ−3DAGの構造であることが決定できた。
【0083】
5.化学合成品とのデータ比較による構造の確定
構造を確定するため、化学合成により立体選択的かつ位置選択的にそれぞれの骨格を合成した。1H−NMR測定を天然物と同様のDMSO−d6:D2O=98:2、60℃の条件において行い、そのスペクトルを解析し比較した。その結果、合成品のスペクトルは天然物のそれと一致したことから、絶対構造を確定することができた。
【0084】
表2は天然物(natural)および合成品(synthesized)の各プロトンの帰属データである。スペクトルのppm値、カップリング定数(JHz)は一致し、また形も同じであった。
【表2】
グリセロ型糖脂質は、植物バクテリアなどで多数見つかっているものの、β型の糖結合であり2糖が1−6結合である構造は今までに報告がない。構造式1,2で示される糖脂質は新規構造である。
【0085】
(実施例2)
(神経疾患患者由来の試料中の本発明の糖脂質抗原に対する抗体)
構造式1および2で表される糖脂質抗原を含有するマイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分に対し、ギランバレー症候群の患者の血清を反応させる実験を、TLC−Immunostaining法によって検討した。マイコプラズマ・ニューモニエから抽出した脂質画分をTLCプレート上に展開し、ギランバレー症候群の患者血清を反応させた。反応の検出をペルオキシダーゼ標識のanti−humanIgG,IgM,IgAの混合物により行い、化学発色によって可視化した。図5は、マイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分をTLC展開し、(a):オリシノール試薬にて染色した結果、および(b):ギランバレー症候群の患者血清との反応をTLC−Immunostaining法にて検出した結果を示す図である。
【0086】
図5(b)に示すように構造式1および2で表される糖脂質抗原のスポットに対し発光が認められたため、ギランバレー症候群の患者がこれら糖脂質抗原に対する抗体を保持していることが証明できた。
【0087】
この実験結果は、構造式1および2で示す糖脂質抗原およびその抗体が、マイコプラズマ・ニューモニエ感染が原因である疾患の診断マーカーとなることを示すものである。
【0088】
(実施例3)
合成によって作製したGlcβ−6Galβ−3DAGおよびGalβ−6Galβ−3DAGについて、それぞれを使用した2種類のELISAキットを作製し、ヒト検体中のこれら抗原に対するIgM抗体価を調べた。検体として、マイコプラズマ肺炎患者のペア血清を40検体測定し、このELISA法がマイコプラズマ肺炎の診断法として有用な方法であるかを検討した。比較として健常人の血清も40検体測定し、スコア値を比較した。
【0089】
抗原プレートの作製:Glcβ−6Galβ−3DAGを5μg/mL(メタノール:アセトニトリル溶液)になるよう調製し、この溶液をELISA用イムノプレート(平底)に50μLずつ撒き、溶媒を除去することによって、Glcβ−6Galβ−3DAGを固相化したプレートを作製した。Galβ−6Galβ−3DAGについても同様の手法によりプレートを作製した。
【0090】
ELISA法のプロトコール:測定ウェルにブロッキング液を100μLずつ展開して1時間室温でインキュベーションさせた後、洗浄して、測定する検体溶液を100μLずつ撒いて2時間室温でインキュベーションさせた(測定は2重で行なった)。その後洗浄し、次にペルオキシダーゼ標識したIgM抗体溶液を100μLずつ撒いて2時間室温でインキュベーションさせた。その後洗浄したのち、TMB溶液を発色基質として加え15分間反応させた後、反応を1N硫酸水溶液にて停止し、吸光度を測定した。
【0091】
測定結果:コントロールをおき標準曲線から吸光度を任意にスコア化して検体の抗体価を比較検討した。GlCβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA測定の結果、健常人のサンプルのスコアはすべて2.5以下、半数は1未満であったのに対し、マイコプラズマ肺炎患者の血清ではスコアがすべて1以上で、2.5以下は28%、それ以上のものが72%であった。この結果を、感度対擬陽性率の値で描くROC曲線に表したところ、曲線下面積が0.95となり、この測定は疾患の識別に能力がかなり高いと評価できた。
【0092】
一方、Galβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA測定の結果では、疾患の識別能があまりなく、健常人でも高いスコア値が検出された。
【0093】
図6はGlcβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA測定の結果であり、疾患群と非疾患群(健常人)のスコア分布を示す。図7はこの測定結果を感度対偽陽性率の値で表したROC曲線である。
【0094】
この実験結果は、Glcβ−6Galβ−3DAGおよびGalβ−6Galβ−3DAGを使用した抗体測定によって、マイコプラズマ・ニューモニエの感染によって発症するマイコプラズマ肺炎の疾患識別が可能であることを示すものである。加えて、2種類の抗原糖脂質には能力に差があり、それぞれ単独で使用することによって別の結果になる可能性がある。マイコプラズマ肺炎の疾患診断にはGlcβ−6Galβ−3DAGを使用することが望ましいと考えられる。
【0095】
(実施例4)イムノクロマトグラフィー
(1)金コロイド溶液の調製
金コロイドは、40nmの粒子サイズのBiocell Research Laboratories(Cardiff,U.K.)の市販品の溶液をそのままの濃度で用いた。
【0096】
(2)金コロイド標識糖脂質抗原溶液の調製
金コロイド標識を作製するためにマイコプラズマ・ニューモニエの糖脂質抗原GlcGLを用いた。この10μg/mlのGlcGL抗原1mlと上記(1)の金コロイド溶液1mlとを混合し室温で30分間静置してこの抗原を金コロイド粒子表面に結合させた後、金コロイド溶液の最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)溶液を加え、この金コロイド粒子の残余の表面をブロックして、金コロイド標識抗原(以下、「金コロイド標識抗原」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(8000×G、10分間)して金コロイド標識抗原を沈殿せしめ、50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で3回洗浄し、上清液を除いて金コロイド標識抗原を得た。この金コロイド標識抗原を1%サッカロース・0.5%BSAを含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0097】
(3)抗マイコプラズマ・ニューモニエ特異的抗体測定用イムノクロマト法テストストリップの作製
図8に示されるイムノクロマト法テストストリップを下記の手順で作製した。
【0098】
(3−1)抗マイコプラズマ・ニューモニエ特異的抗体と金コロイド標識抗原との複合体の捕捉部位
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。
【0099】
抗ヒトIgM抗体2mg/mlが含有されてなる溶液4μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で3日間、乾燥し、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体と金コロイド標識抗原との複合体の捕捉部位31とした。
【0100】
(3−2)金コロイド標識抗体含浸部材
5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、金コロイド標識抗原溶液40μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて金コロイド標識抗体含浸部材2とした。
【0101】
(3−3)イムノクロマト法テストストリップの作製
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図8に示すようなクロマト法テストストリップを作製した。
【0102】
(4)試験
肺炎患者血清を検体希釈液で希釈して、各濃度に調製し、被験試料とした。そして、被験試料40μlを上記(3)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で10分放置後、上記捕捉部位31で捕捉された抗マイコプラズマ・ニューモニエ特異抗体と金コロイド標識抗原との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する赤紫色の呈色度合いを肉眼で、−(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)の4段階に区分して判定した。その結果を表3に示した。
【表3】
【0103】
(実施例5)抗マイコプラズマ・ニューモニエ糖脂質ポリクローナル抗体の作製
ヤギ20%血清で培養したマイコプラズマ・ニューモニエ菌体1mlを10倍の10mlに希釈し、これにフロイント完全アジュバントを10ml加え、これを400rpmでグラインドしてエマルジョンを得た。上記の方法で調製したエマルジョンを、ヤギ皮下に1匹あたり10ml皮下免疫し、1ヵ月後に10ml追加免疫した。さらに、1カ月おきにヤギ20%血清で培養したマイコプラズマ・ニューモニエ菌体で免疫を追加した。上記のようにして免疫したヤギの血液から、常法によって血清を分離した。この血清を用いてTLC免疫染色実験を行い、特異抗原糖脂質との反応性を確認した。
TLC免疫染色実験:
【0104】
実験操作は一般法に従った。マイコプラズマ・ニューモニエ菌体から抽出した脂質混合物、および化学合成により作製したGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGをHTLCプレートに展開して、得られたヤギ血清を反応させた。反応の検出をペルオキシダーゼ標識したanti−GoatIgGで行い、コニカイムノステインキットを使用してペルオキシダーゼによる反応を可視化して検出した。その結果を図9に示す。右図が得られたヤギ血清を使用して免疫染色した結果である。また左図は化合物を展開したHTLCプレートをオリシノール染色した結果である。
【0105】
図9に示すようにGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGに相当するスポットに対し発色が認められたため、作製したヤギ血清はこれらに対する反応性を有することを確認した。
【0106】
(実施例6)抗GGLモノクローナル抗体の作製
(1)ハイブリドーマの作製
マイコプラズマ・ニューモニエ菌体を含むエマルジョンを、7週令のメスBALB/cマウスの皮下に1匹あたり0.5ml注射した。初回免疫後2週間目と3週間目に、上記の方法で調製したエマルジョンを1匹あたり0.5mlを皮下と腹腔内に注射した。
【0107】
最終免疫の4日後にマウスから脾臓を摘出し、RPMI1640培地を用いて細胞浮遊液を調製した。この2×108個の脾細胞と対数増殖期にあるマウスミエローマSP2/0細胞(2×107個)と混合し、遠沈後、沈渣に45%ポリエチレングリコール(PEG4000(和光純薬(株)製)1mlを1分間かけて緩やかに振盪しながら加え、その後37℃下で、振盪しながら2分間インキュベートした。これに、RPMI1640培地1mlを1分間かけて加え、更に、8mlを3分間かけて加えた。
【0108】
上記細胞混合液を遠沈後、細胞を10%仔牛胎仔血清(FCS)を含むRPMI1640培地50mlに浮遊させ、96穴マイクロプレート4枚に、1ウェルあたり100μlずつ分注し、炭酸ガスインキュベーター(5%炭酸ガス、37℃)中で培養した。24時間後、培地をHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン含有、10%(V/V)FCS培地)に交換し、引き続き炭酸ガスインキュベーター(5%炭酸ガス、37℃)で培養した。4日目に、新しいHAT培地を1ウェルあたり100μl追加した。7日目にHT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いたもの)に交換し、その翌日に10%(V/V)FCSを含むRPMI1640培地に交換した後、コロニー形成の有無をチェックした。
【0109】
(2)抗体産生ハイブリドーマの選択
抗体を産生するハイブリドーマについて限界希釈法によってクローニングを繰り返し、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体を抗原に用いたELISAによりスクリーニングを行い、反応するハイブリドーマG1E6およびM2F8株を得た。
【0110】
(3)モノクローナル抗体の獲得
続いて、G1E6およびM2F8株を、10%(V/V)FCSを含むRPMI1640培地中で培養し、その培養上清を回収することにより、モノクローナル抗体を含む培養液を得た。硫安分画により精製したモノクローナル抗体を、Galβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGを抗原としたELISA(下記)を行って、モノクローナル抗体が、GalGLおよびGulGLのいずれとも反応した。その結果を図10に示す。
【0111】
ELISA法:
合成したGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGそれぞれ5μg/mlをメタノール:アセトニトリル=2:1の溶媒で調製し、この溶液を96穴マイクロプレートの1ウェルあたり50μlずつ加え、ケミカルフード内で風乾した後15時間真空処理して、抗原糖脂質を貼り付けたELISAプレートをそれぞれ作製した。ELISA測定プロトコールは一般法に従った。まず350μlのブロッキング液(ナカライテスク社製ブロッキングワンを水で5倍希釈したもの)を各wellに分注し、30℃で1時間静置したのち、350μl/wellの0.05% Tween20 in PBSで5回洗浄した。その後、5倍希釈済の137C培養上清(希釈液としてブロッキングワンを0.05%Tween20 in PBSで20倍希釈したものを使用)を各wellに100μlずつ分注し、30℃で2時間静置した。その後、350μl/wellの0.05% Tween20 in PBSで5回洗浄し、次に5000倍希釈したGoat anti−mouse IgG−HRP[ZYMED Laboratories、cat.#81−6520]、または、Goat−anti−IgM[ZYMED Laboratories、cat.#61−6820]溶液(希釈液としてブロッキングワンを0.05% Tween20 in PBSで20倍希釈したものを使用)を各wellに100μlずつ分注し、30℃で1時間静置した。その後350μl/wellの0.05% Tween20 in PBSで5回洗浄し、発色基質(TMB溶液;)を各wellに100μlずつ分注し、30℃で30分間静置した後、1NH2SO4を各wellに50μlずつ分注して混和し発色を止め、吸光度(450nm/620nm)を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエの主要な抗原であるため、この微生物を高感度かつ正確に検出するための分子基盤となる。よって、この糖脂質を利用してマイコプラズマ・ニューモニエが原因である病気の正確な診断法の開発が可能である。本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用のマーカーとして使用し得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)から単離された新規構造であるグリセロ型糖脂質抗原物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマは、細胞壁を持たず、最も単純かつ小さい微生物群である。その一種であるマイコプラズマ・ニューモニエは、マイコプラズマ肺炎の原因微生物である。マイコプラズマ肺炎は、特に小児の肺炎において肺炎双球菌やクラミジア感染によるものとの区別がつきにくく、それらに対する抗生物質はマイコプラズマには無効である。この診断を誤り、間違った抗生物質の使用により、重篤な症状に陥ることもまれではない。よって、正確な感染の判断および病気の診断を行うことが求められている。
【0003】
しかしながら、現行のマイコプラズマ・ニューモニエ検出法は、マイコプラズマ・ニューモニエの抽出混合物を抗原として利用したものであり、特異性が低いこと、および抽出物のロット間の差異により再現性が維持されないこと等の問題がある。
【0004】
また、マイコプラズマ・ニューモニエは、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患の原因物質としても報告されている。しかしながら、その疾患発症のメカニズムは未だ解明されていない(特開2005−110545号公報;TheJournal of Emergency Medicine,2006,30,4,371−375.;Cytokine& Growth Factor Reviews,2004,15,2−3,157−168.;Brainand Development,2005,27,6,431−433.)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−110545号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Journal of Emergency Medicine,2006,30,4,371−375.
【非特許文献2】Cytokine & Growth FactorReviews,2004,15,2−3,157−168.
【非特許文献3】Brain and Development,2005,27,6,431−433.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような状況下で、マイコプラズマ・ニューモニエの感染の正確な判断方法およびこの微生物に関連する疾患の正確な診断方法が確立されることが望まれている。特に、特異性の高いマイコプラズマ・ニューモニエ検出法が望まれている。
【0008】
本発明者らは、マイコプラズマ・ニューモニエの病原性の解明をするために、マイコプラズマ・ニューモニエの膜脂質画分から抗原性を有する糖脂質を分離、精製し、構造解析を試みた。その結果、重要な生理活性を有する可能性のある新規な糖脂質を分離することに成功し、その絶対構造を決定した。さらに、本発明の糖脂質抗原に対する抗体が、神経疾患の患者に見出されることを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、以下の化合物(本発明のグリセロ型糖脂質)、それを含有する組成物、診断剤、またはキット、およびこれらを用いたマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法を提供する。
(1)下記一般式で表される化合物:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、R1=Hのとき、R2=OHである。R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能である。)
または、その塩。
(2)R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、上記(1)に記載の化合物。
(3)以下の化合物:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、またはその塩である、上記(1)に記載の化合物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を含有する組成物。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤。
(6)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(5)に記載の診断剤。
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物または上記(4)に記載の組成物を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用キット。
(8)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(7)に記載の診断用キット。
(9)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物または上記(4)に記載の組成物を、被験者由来の試料と接触させる工程、および
上記試料中の上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物に対する抗体を免疫学的に検出または測定する工程、
を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法。
(10)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(9)に記載の診断方法。
(11)ガラクトースを非還元末端に有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を利用した上記(5)〜(10)のいずれかに記載の診断剤、診断キット、または診断方法。
(12)グルコースを非還元末端に有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物を利用した上記(5)〜(10)のいずれかに記載の診断剤、診断キット、または診断方法。
(13)下記一般式で表される化合物に対する抗体:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、R1=Hのとき、R2=OHである。R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能である。)
または、その塩。
(14)R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、上記(13)に記載の抗体。
(15)以下の化合物に対する抗体:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、またはその塩、
である、上記(13)に記載の抗体。
(16)モノクローナル抗体である、上記(13)〜(15)のいずれかに記載の抗体。
(17)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体を含有する組成物。
(18)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤。
(19)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(18)に記載の診断剤。
(20)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を含む、マイコプラズマ・ニューモニエ検出用キット。
(21)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用キット。
(22)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(21)に記載のキット。
(23)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を、試料と接触させる工程、および
上記試料中の抗原物質と上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体との結合を免疫学的に検出または測定する工程、
を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエの存在を検出するための方法。
(24)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(17)に記載の組成物を、被験者由来の試料と接触させる工程、および
上記試料中の抗原物質と上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体との結合を免疫学的に検出または測定する工程、
を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法。
(25)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(24)に記載の方法。
【0010】
本発明はまた、以下のマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法を提供する。
(26)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物または上記(4)に記載の組成物を、適切な支持体または担体と結合させる工程を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法。
(27)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(26)に記載の製造方法。
(28)上記(13)〜(16)のいずれかに記載の抗体または上記(16)に記載の組成物を、適切な支持体または担体と結合させる工程を含む、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法。
(29)上記疾患が、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患である、上記(28)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエの主要な抗原であるため、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度・正確に検出するための分子基盤となりうる。よって、この糖脂質を利用してマイコプラズマ・ニューモニエが原因である病気の正確な診断法、診断剤および診断キットの開発が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の3−O−[(β−D−Galactopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−diacyl−O−acyl−sn−glycerol(1)、および3−O−[(β−D−Glucopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−diacyl−O−acyl−sn−glycerol(2)の構造を示す図である。
【図2】実施例1において抽出した脂質試料について、薄相クロマトグラフィー(TLC)により脂質試料を展開し、オルシノール試薬にて染色した図である。
【図3】実施例1において得られた脂質画分について、DMSO−d6100%中で測定したDQF−COSYスペクトルを示す図である。
【図4】実施例1において得られた脂質画分について、ESI−MS測定による分析により得られたスペクトルチャートである。
【図5】マイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分をTLC展開し、(a):オリシノール試薬にて染色した結果、および(b):ギランバレー症候群の患者血清との反応をTLC−Immunostaining法にて検出した結果を示す図である。(b)に示すように、糖脂質抗原のスポットが発色しており、これは、ギランバレー症候群の患者が糖脂質抗原に対する抗体を保持していることを示す。
【図6】実施例3において、Glcβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA法によって調査した疾患群と非疾患群とのスコア値の分布を示す図である。
【図7】実施例3において、Glcβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA法による実験結果を、感度対偽陽性率の値で表したROC曲線(ReceiverOperating Characteristiccurve)である。
【図8】aはイムノクロマト法テストストリップの平面図、bはaで示されたイムノクロマト法テストストリップの縦断面図を示す。図中の符号は、それぞれ以下を表す。1 粘着シート;2 含浸部材;3 膜担体;31 捕捉部位;4吸収用部材;5 試料添加用部材。
【図9】マイコプラズマ・ニューモニエ菌体から抽出した脂質混合物、および化学合成により作製したGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGをHTLCプレートに展開して、得られたヤギ血清を反応させた結果を示す写真である。右図は、得られたヤギ血清を使用して免疫染色した結果である。左図は、化合物を展開したHTLCプレートをオリシノール染色した結果である。
【図10】Galβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGを抗原と硫安分画により精製したモノクローナル抗体との反応性を示すELISA結果を示すグラフである。モノクローナル抗体が、GalGLおよびGulGLのいずれとも反応した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、マイコプラズマ・ニューモニエの抗原物質の中から、特に抗原性が強い主要な化合物の単離・精製、に成功した。またその構造解析を行い、新規グリセロ型糖脂質を同定した。
【0014】
1.本発明のグリセロ型糖脂質
1つの実施形態において、本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエの抗原物質から新たに単離され、構造決定されたグリセロ型糖脂質を提供する。
【0015】
本発明により提供されるグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエが生成する、以下の構造式で表されるグリセロ型糖脂質:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、R1=Hのとき、R2=OHである。R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能である。)
または、その塩である。好ましくは、R3は、−(CH2)nCH3(nは12、14,16、または18である)で表される飽和炭化水素である。
【0016】
特に好ましくは、本発明により提供されるグリセロ型糖脂質は、下記の構造式:
で表されるグリセロ型糖脂質、またはその塩である。
【0017】
上記構造式において、(1)の場合は、3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール(3−O−[(β−D−Galactopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−di−O−acyl−sn−glycerol)(本明細書中、「Galβ−6Galβ−3DAG」と略すことがある。)であり、(2)の場合は、3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール(3−O−[(β−D−Glucopyranosyl)−(1,6)−(β−D−galactopyranosyl)]−1,2−di−O−acyl−sn−glycerol)(本明細書中、「Glcβ−6Galβ−3DAG」と略すことがある。)である。但し、アシル(acyl)基は、パルミトイル(palmitoryl)基もしくはステアロイル(stearoyl)基である。
【0018】
本明細書中、「本発明のグリセロ型糖脂質」という場合、上記構造式で表されるグリセロ型糖脂質およびその塩を指すものとする。塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが含まれる。
【0019】
本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエが産生する糖脂質であり、マイコプラズマ・ニューモニエの検出、またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断のためのマーカーとして有用である。例えば、本発明のグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する抗体を用いることにより、免疫学的手法を用いてマイコプラズマ・ニューモニエの検出、またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断を行うことができる。
【0020】
2.本発明のグリセロ型糖脂質に対する自己抗体を検出することによる、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法
本発明の1つの実施形態によれば、被験者由来の試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の存在により特徴づけられるマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断方法が提供される。この方法は、本発明のグリセロ型糖脂質を被験者由来の試料と接触させる工程を包含する。
【0021】
本発明の方法において使用する、抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法としては、被験者由来の試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の測定を可能とするものであれば特に限定されない。典型的には、抗原抗体反応に基づく免疫学的測定法が挙げられる。本発明において使用する免疫学的測定法は、被験者由来の試料と本発明のグリセロ型糖脂質とを接触させる工程、および被験者由来の試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体と本発明のグリセロ型糖脂質との免疫複合体の存在を検出する工程を包含する。
【0022】
本明細書中、「マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患」とは、マイコプラズマ・ニューモニエの感染によって引き起こされる疾患を意味する。マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患は、典型的には、本発明のグリセロ型糖脂質またはこれらの塩、あるいは本発明のグリセロ型糖脂質に対する自己抗体が、当該疾患の患者由来の生体試料中で検出されることによって特徴づけられる。マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の例としては、マイコプラズマ肺炎、喘息、神経疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書中、「被験者」とは、マイコプラズマ・ニューモニエに感染しているおそれのある哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、ラット、マウス等を含む)を意味するが、好ましくは、ヒトであり、最も好ましくは、マイコプラズマ・ニューモニエに感染しているヒト、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患を罹患しているおそれのあるヒト、またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患を罹患しているヒトを意味するものとする。
【0024】
本明細書中、「試料」または「生体試料」とは、被験者から採取された体液、例えば、全血、血漿、血清、関節液、髄液、唾液、羊水、尿、汗、膵液、滑液など、および組織、細胞などを含むものとする。
【0025】
本発明の、被験者に由来する試料中の自己抗体の検出に基づく、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断および予知方法は、このような疾患を有する被験者および疾患のないコントロールからの生体試料の使用により確認される。自己抗体を含有する可能性のある生体試料、たとえば血清は、特定の疾患の存在が疑われる被験者または疾患を発症する素因が疑われる被験者から得られる。同じ体液が、疾患を有さないコントロールから得られる。
【0026】
本発明によれば、本発明のグリセロ型糖脂質抗原に対して反応性の自己抗体の測定を、疾患、例えば、マイコプラズマ肺炎の初期診断に使用することができる。さらに、自己抗体レベルのモニタリングは疾患の進行を予知的に明らかにするために使用することができる。
【0027】
3.抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法
試料、例えば、被験者由来の血清試料中の本発明のグリセロ型糖脂質に対する自己抗体の検出は任意の多くの方法で実行することができる。このような方法にはイムノアッセイがあり、これにはそれらに限定するものではないが、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(固相酵素免疫測定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイ等が包含される。
【0028】
このようなイムノアッセイは、被験者由来の試料を、本発明のグリセロ型糖脂質抗原またはそれを含有する組成物と特異的な抗原−抗体結合が起こる条件下に接触させ、自己抗体による免疫特異的結合を検出またはその量を測定することからなる方法によって実施される。特定の態様においては、組織切片によるこのような自己抗体の結合を、たとえば自己抗体の存在を検出するために使用することが可能であり、この場合、自己抗体の検出は疾患状態であることを示す。血清試料中における自己抗体のレベルを、疾患を有しない被験者からの同種の血清試料中に存在するレベルと比較する。
【0029】
イムノアッセイは様々な方法で実施することができる。たとえば、このようなアッセイを実施するための一つの方法は、本発明のグリセロ型糖脂質の固体支持体上への繋留およびそれに特異的に結合する抗グリセロ型糖脂質抗体の検出を含む。
【0030】
試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法は、より具体的には、例えば、以下のような工程を包含する:
(1)固相に固定化した本発明のグリセロ型糖脂質と生体試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体とを反応させ、免疫複合体を形成させる工程(一次反応)、
(2)(1)の工程で生成した免疫複合体と標識化抗ヒトイムノグロブリン抗体とを反応させ、免疫複合体を形成させる工程(2次反応)、
(3)免疫複合体を形成しない標識化抗ヒトイムノグロブリン抗体を固相から分離する工程、
(4)固相に生成した免疫複合体中の標識量または標識活性を測定する工程、
(5)予め既知濃度の抗グリセロ型糖脂質抗体を用いて作成した検量線と、(4)の測定で得られた測定値とを比較する工程。
【0031】
上記の(1)の工程と(2)の工程との間に、必要に応じて、一次反応後の固相を洗浄する工程を追加してもよい。また、(1)および(2)の工程を同時に行ってもよい。また、本発明の生体試料中の抗グリセロ型糖脂質抗体の測定においては、二次反応でビオチン化抗ヒトイムノグロブリン抗体などと反応させてもよい。この場合、二次反応により生成した免疫複合体(本発明のグリセロ型糖脂質、抗グリセロ型糖脂質抗体、およびビオチン化抗ヒトイムノグロブリン抗体を含有する複合体)と(ストレプト)アビジン標識化抗体と反応させ、生成した免疫複合体中のアビジン標識化抗体量を測定すればよい。また、二次反応において、(標識化)抗ヒトイムノグロブリン抗体の代わりに、抗グリセロ型糖脂質抗体と反応する(標識化)アプタマーを用いることもできる。
【0032】
一次反応は、水性媒体中(例えば、ウェル内の液相中)で行われても乾式媒体中(例えば、固相支持体上)で行われてもよい。本発明のグリセロ型糖脂質が固定化される固相としては、例えば、マイクロタイタープレートなどのポリスチレンプレート、ガラス製または合成樹脂製の粒状物(ビーズ)、ガラス製または合成樹脂製の球状物(ボール)、ラテックス、磁性粒子、ニトロセルロース膜などの各種メンブレン、合成樹脂製の試験管、シリカゲルプレートなどが挙げられる。二次反応についても、水性媒体中で行われても乾式媒体中で行われてもよい。二次反応により固相上に生成した免疫複合体中の標識の量または活性を測定する方法としては、例えば、吸光度法(比色法)、蛍光法、発光法、放射活性法などが挙げられる。標識が酵素である場合、酵素の基質を当該酵素と反応させ、生成した物質を測定することにより、免疫複合体中の酵素活性を測定することができる。酵素の基質と当該酵素との反応は、水性媒体中で行われることが好ましい。
【0033】
上記の方法によりマイコプラズマ・ニューモニエに感染していると判定またはマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患に罹患していると診断された被験者は、適切な処置または治療を受けることができる。
【0034】
4.本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物、診断剤、および診断用キット
本発明は、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物を提供する。本発明はまた、別の実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤を提供する。本発明はさらに別の実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質または本発明の上記組成物を含有する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用キットを提供する。
【0035】
本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物は、適切な担体、賦形剤、緩衝剤、希釈剤等を含み得る。本発明の組成物は、例えば、本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体を作製する目的でマウス、ラット、ウサギなどの動物に投与するために使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、試料中の本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体(例えば、抗Galβ−6Galβ−3DAG抗体または抗Glcβ−6Galβ−3DAG抗体)を検出するために使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤として使用され得る。本発明の組成物はまた、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用のキットに含めることができる。
【0036】
本発明のグリセロ型糖脂質を含有する上記本発明の診断剤およびキットは、上記で説明した抗グリセロ型糖脂質抗体の測定方法に従って使用される。本発明のキットは、上記で説明した二次反応のためのビオチンなどで標識した抗ヒトイムノグロブリン抗体などをさらに含有し得る。本発明のキットにおいて、本発明のグリセロ型糖脂質は、例えば、マイクロタイタープレートなどのポリスチレンプレート、ガラス製または合成樹脂製の粒状物(ビーズ)、ガラス製または合成樹脂製の球状物(ボール)、ラテックス、磁性粒子、ニトロセルロース膜などの各種メンブレン、合成樹脂製の試験管、シリカゲルプレートなどの固相支持体に固定化されていてもよい。本発明のキットはまた、反応を行うための液相として使用するための緩衝液などを含んでいてもよい。さらに、本発明のキットには、製造業者による取扱説明書などが含まれていてもよい。
【0037】
本発明はまた、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質または本発明のグリセロ型糖脂質を含有する組成物を適切な支持体または担体に結合させる工程を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法を提供する。担体としては、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコンなどの合成樹脂あるいはガラスなどを用いることができる。
【0038】
5.本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体およびその使用
本発明は、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエ固有のグリセロ型糖脂質(本発明のグリセロ型糖脂質)に対して反応特異性を有するので、これを用いて検体中のグリセロ型糖脂質を免疫学的に測定することができる。本発明の抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断に使用することができる。
【0039】
(I)本発明の抗体の調製
本発明の抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエ由来の本発明のグリセロ型糖脂質を抗原として動物を免疫し、その動物から血清を分離するか、あるいはその動物の抗体産生細胞を採取し、永続的に培養可能とし、その培養物から回収することによって得られる。以下に、本発明の抗体の調製法を例示するが、これに限定されるものではなく、本発明のマイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質を抗原に用いるならば、その他の方法によって調製してもよい。
【0040】
(1)ポリクローナル抗体の調製
例えば、後述の実施例に記載されるようにして得られたマイコプラズマ・ニューモニエの脂質抽出物に、モノフォスフェートリピド、フロイント完全アジュバント、及びミネラルオイルを加えて混合し、さらに0.1%(v/v)Tween80を含むPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を加えて乳化する。
【0041】
次に、得られた乳化物をマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ等の動物の皮下または腹腔内に投与する。初回免疫後、2〜3週間目に常法によって追加免疫を行うと、力価の高い抗血清が得られる。最終免疫から1週間後に血液を採取し、血清を分離する。この血清を熱処理して補体を失活させた後、硫酸アンモニウムによる塩析、イオン交換クロマトグラフィー等の通常の抗体の精製と同様の方法によってイムノグロブリン画分を取得する。尚、最終免疫の後に、酵素免疫測定法等により血中抗体価の上昇を確認しておくことが望ましい。
【0042】
上記のようにして得られる抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する。本明細書中、抗体が、ある抗原(例えば、本発明のグリセロ型糖脂質)に対して「特異的に結合する」とは、その抗体が他の物質(例えば、本発明のグリセロ型糖脂質以外の他のグリセロ型糖脂質)に対するその親和性よりも、その抗原に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性」とは、所望の測定装置によって、その特定の抗原から区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味し、典型的には、結合定数(Ka)が少なくとも107M−1、好ましくは、少なくとも108M−1、より好ましくは、109M−1、さらにより好ましくは、1010M−1、1011M−1、1012M−1またはそれより高い、例えば、最高で1013M−1またはそれより高いものであるような結合親和性を意味する。
【0043】
マイコプラズマ・ニューモニエの脂質抽出物の代わりに、精製した本発明のグリセロ型糖脂質を用いれば、本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するポリクローナル抗体が得られる。
【0044】
(2)モノクローナル抗体の調製
モノクローナル抗体は、ケーラーとミルステインの方法(Nature,495〜492頁、1975年)によって得られる。すなわち、グリセロ型糖脂質に対する抗体を産生する哺乳動物の抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞を融合させてハイブリドーマを作製し、目的の抗体を産生するハイブリドーマをクローニングし、このハイブリドーマを培養することによって培養液中にモノクローナル抗体が得られる。以下、工程ごとに分説する。
【0045】
(i)動物の免疫及び抗体産生細胞の調製
グリセロ型糖脂質に対する抗体を産生する細胞は、グリセロ型糖脂質でマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジなどの動物を免疫し、その動物から脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血液等を調製することにより得られる。上記動物をグリセロ型糖脂質で免疫するには、(1)と同様に行えばよい。
【0046】
本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するモノクローナル抗体を得るには、精製した本発明のグリセロ型糖脂質で動物を免疫してもよいが、グリセロ型糖脂質混合物で免疫した動物の抗体産生細胞を用いてハイブリドーマを調製し、得られたハイブリドーマから本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するモノクローナル抗体を産生する株を選択してもよい。この方法によれば、動物の免疫に必要な量の本発明のグリセロ型糖脂質を得る必要がなく、酵素免疫法による検出が可能な程度の微量の本発明のグリセロ型糖脂質があればよい。
【0047】
(ii)ハイブリドーマの作製
グリセロ型糖脂質で免疫した動物から抗体産生細胞を採取し、骨髄腫細胞との細胞融合を行う。細胞融合に使用する骨髄腫細胞には種々の哺乳動物の細胞株を利用することができるが、抗体産生細胞の調製に用いた動物と同種の動物の細胞株を使用するのが好ましい。また、骨髄腫細胞株は、細胞融合の後に未融合細胞と融合細胞とを区別できるようにするために、未融合の骨髄腫細胞が生存できずハイブリドーマだけが増殖できるように、マーカーを有するものを用いることが好ましい。例えば、8−アザグアニン耐性株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)を欠損しており、核酸合成はdenovo合成経路に依存している。このような骨髄腫細胞と正常抗体産生細胞との融合細胞(ハイブリドーマ)では、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む培地(HAT培地)中で、アミノプテリンによりdenovo合成経路が阻害されても、チミジン、ヒポキサンチンが存在しているので、リンパ球由来のサルベージ回路により核酸合成できるので、増殖が可能である。これに対し、8−アザグアニン耐性の骨髄腫細胞は、アミノプテリンによりdenovo合成経路も阻害されるため、核酸合成できずに死滅し、また正常細胞である抗体産生細胞も長期培養はできない。したがって、抗体産生細胞と骨髄腫細胞との融合によって生成したハイブリドーマのみがHAT培地で増殖できるので、非融合細胞から融合細胞を選択することができる(サイエンス第145巻709頁、1964年)。また、骨髄腫細胞として、固有のイムノグロブリンを分泌しない株を使用することが、ハイブリドーマの培養上清から目的の抗体を取得することが容易となる点で好ましい。
【0048】
ハイブリドーマを得るための細胞融合は、例えば以下のようにして行う。免疫動物から脾臓を摘出し、RPMI1640培地に懸濁して細胞浮遊液を調製する。この脾細胞と、対数増殖期にあるマウスミエローマ細胞、例えばSP2/0細胞(アザグアニン耐性、IgG非分泌:ATCCCRL−1581)とを、脾細胞とミエローマ細胞が10:1〜1:1程度となるように混合し、遠沈後、沈渣に平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコールを、最終濃度が30〜50%となるように加えて細胞を融合させる。ポリエチレングリコールを加える代わりに、細胞混合液に電気パルスを印加することによって融合させてもよい。
【0049】
融合処理を行った細胞は、例えば10%(v/v)仔ウシ胎仔血清(FCS)を含むRPMI1640培地などで培養後、HAT培地などの選択培地に浮遊させ96ウェルのマイクロタイタープレートなどに分注して培養を行いハイブリドーマのみを生育させる。
【0050】
(iii)グリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有する抗体を産生するハイブリドーマの検索
上記のようにして得られたハイブリドーマは、複数の抗原あるいは抗原決定部位に対する各々のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの混合物であるので、これらの中から本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有するモノクローナル抗体(例えば、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGに対して反応特異性を有するモノクローナル抗体)を産生する株を選択する。また、本発明のグリセロ型糖脂質に結合するモノクローナル抗体のうち、抗原性の強い抗原決定部位に対するモノクローナル抗体を産生する株を選択することが好ましい。
【0051】
グリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体を産生する株は、これらを抗原として用いる酵素免疫法によって選択できる。このような方法としてELISA法、すなわち、抗原をマイクロタイタープレート等に固相化しておき、これにハイブリドーマ培養液を加え、さらに酵素、ケイ光物質、発光物質などで標識した二次抗体を加えてインキュベートし、結合した標識物質によって抗体を検出する方法が挙げられる。その際、抗体を固相化し、これに抗原、標識二次抗体を順次加えてインキュベートしてもよい。尚、ELISA法については後に詳述する。
【0052】
精製された本発明のグリセロ型糖脂質が得られていない場合には、マイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分を高速薄層クロマトグラフィー(HPTLC)プレートを用いて分離し、このプレートにハイブリドーマの培養液、標識2次抗体を順次加えてインキュベートし、標識物質が結合する位置を検出する。この位置が本発明のグリセロ型糖脂質(例えば、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAG)がHPTLCによって展開される位置と同じであれば、そのハイブリドーマはその本発明のグリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体を産生すると認められる。本発明のグリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体が得られれば、これを用いたアフィニティークロマトグラフィー等によって、脂質画分から本発明のグリセロ型糖脂質を精製することもできる。
【0053】
目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを含むことが確認されたら、そのハイブリドーマが含まれていたウェルの細胞から限界希釈法などによりクローニングを行う。
【0054】
(iv)モノクローナル抗体の調製
上記のようにして得られたハイブリドーマを適当な培地中で培養すれば、その培養上清中に本発明のモノクローナル抗体が得られる。さらに常法により、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAまたはプロテインGを用いたアフィニティークロマトグラフィー、あるいは抗原を固定化した免疫吸着クロマトグラフィーなどによってモノクローナル抗体を精製することができる。
【0055】
こうして得られる本発明のグリセロ型糖脂質に対するモノクローナル抗体は、本発明のグリセロ型糖脂質に対して特異的に結合する。したがって、望ましくは、そのようなモノクローナル抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエに感染していない健常人の血清中に存在するシアル酸含有糖脂質(ガングリオシド)、血小板活性化因子(1−アルキル−2−アセチルグリセロ−3−ホスホコリン)もしくはその部分脱アシル化物、ホスファチジルコリンもしくはその部分脱アシル化物、またはスフィンゴミエリン等の糖脂質及びリン脂質とは交差反応を示さない。
【0056】
本発明のモノクローナル抗体は、そのまま使用することもできるが、フラグメント化したものを使用することもできる。抗体のフラグメント化の際、抗体の抗原結合部位(Fab)が保存されていることが抗原と抗体との結合に必須であるので、抗原結合部位を分解しないプロテアーゼ(例えばプラスミン、ペプシン、パパイン)で抗体を処理して得られる抗原結合部位(Fab)を含むフラグメントは使用することができる。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’2、CDRなどが挙げられる。また、ヒト化抗体、多機能抗体、単鎖抗体(ScFv)なども本発明において使用することができる。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMであり、精製の容易性等を考慮すると、より好ましくはIgGである。
【0057】
また、本発明のモノクローナル抗体をコードする遺伝子の塩基配列もしくは抗体のアミノ酸配列が決定されれば、遺伝子工学的に抗原結合部位(Fab)を含むフラグメントを作製することが可能である。
【0058】
6.本発明の抗グリセロ型糖脂質抗体を含有する組成物、診断剤、および診断用キット
本発明は、1つの実施形態において、本発明のグリセロ型糖脂質に対する抗体を含有する組成物を提供する。本発明の組成物は、適切な担体、賦形剤、緩衝剤、希釈剤等を含み得る。担体としては、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコンなどの合成樹脂あるいはガラスなどを用いることができる。
【0059】
本発明の組成物は、試料中の本発明のグリセロ型糖脂質を検出するために使用することができる。あるいは、本発明の組成物は、生体試料中の本発明のグリセロ型糖脂質を検出することによる、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断に使用することができる。
【0060】
したがって、本発明はまた、被験者由来の試料中の本発明のグリセロ型糖脂質の存在により特徴づけられるマイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患を診断するための薬剤またはキットを提供し、この薬剤またはキットは、本発明の抗グリセロ型糖脂質抗体を含むか、または該抗体を含有する組成物を含む。
【0061】
したがって、本発明はまた、本発明の抗体または本発明の抗体を含む組成物を、適切な支持体または担体に結合させる工程を包含する、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断剤の製造方法を提供する。
【0062】
本発明のキットは、免疫測定法に従って使用される。本発明のキットは、必要に応じて、免疫学的方法により被検体中のグリセロ型糖脂質またはマイコプラズマ・ニューモニエを検出する際に、本発明のグリセロ型糖脂質に対して反応特異性を有する抗体と、この抗体の調製に用いた免疫動物以外の動物を用いて調製した上記免疫動物のイムノグロブリンに対する抗体を標識物質で標識化した二次抗体とを含んでいてもよい。
【0063】
具体的なキットの一例として、マイクロタイタープレート、BSA(ウシ血清アルブミン)等のブロッキング試薬、本発明のグリセロ型糖脂質(標準物質)、本発明の抗体、ペルオキシダーゼ標識した抗マウスIgG抗体、過酸化水素水、OPD、洗浄用緩衝液からなるキットが挙げられる。抗体類、マイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質等は、凍結乾燥品として、またはこれらを安定して保存できる溶媒に溶解しておくことが好ましい。本発明のキットは、さらに製造業者による取扱説明書を含んでいてもよい。
【0064】
(測定法)
本発明において用いられる免疫学的な測定法としては、ELISA法、免疫染色法等、抗体を用いる通常の免疫学的方法が挙げられる。例えば、抗グリセロ型糖脂質抗体が結合した固相に検体液を接触させて検体液中に含まれるグリセロ型糖脂質を前記抗体に結合させ、非吸着成分を固相から分離除去し、次いで、標識物質で標識化したマイコプラズマ・ニューモニエのグリセロ型糖脂質を前記固相に接触させ、前記検体液中に含まれるグリセロ型糖脂質と標識化したグリセロ型糖脂質とを競合反応させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出することにより、検体液中のグリセロ型糖脂質を測定することができる。
【0065】
また、抗グリセロ型糖脂質抗体が結合した固相に、検体液と、標識物質で標識化したグリセロ型糖脂質とを接触させ、前記検体液中に含まれるグリセロ型糖脂質と標識化したグリセロ型糖脂質とを前記抗体に対して競合反応させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出することにより検体中のグリセロ型糖脂質を測定することができる。この際、標識化したグリセロ型糖脂質の代わりに無標識の標準グリセロ型糖脂質を用い、検体中のグリセロ型糖脂質と標準グリセロ型糖脂質との競合反応を行った後、さらに標識物質で標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体を固相に接触させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出してもよい。この場合も、さらに標識化した二次抗体を用いてもよい。
【0066】
さらに、検体液中のグリセロ型糖脂質を固相に結合し、これに標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体を接触させ、固相に結合した標識物質または固相に結合しない標識物質のいずれかを検出してもよい。
【0067】
その他、免疫学的測定法には種々の態様が知られているが、いずれの方法も本発明に適用することができる。また、上記のような固相を用いる方法以外に、ハプテン、抗原の免疫測定に使用される方法、例えば、前記抗体に対して検体中のグリセロ型糖脂質と標識化したグリセロ型糖脂質を競合反応させ、抗体と結合した抗原と遊離の抗原を、例えばポリエチレングリコール、デキストラン、二次抗体等を用いて分離し、遊離の標識抗原の標識物質を検出する液相法を採用してもよい。
【0068】
上記固相としては、アガロースビーズ、ラテックス粒子、ポリスチレン、ナイロン等のマイクロタイタープレートのウェル等の通常の材料及び形態(粒子、微粒子、試験管、マイクロタイタープレート、ストリップ等)のものが挙げられる。固相に抗体またはグリセロ型糖脂質を結合させた後に、BSA(ウシ血清アルブミン)やゼラチンなどを用いてブロッキングを行うことが好ましい。また、標識物質としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等、酵素反応により色素の発色が可能な酵素;放射性同位元素;フルオレセインイソチオシアネート等の蛍光色素などが挙げられる。
【0069】
色素は、ペルオキシダーゼに対しては4−クロロ−1−ナフトール、O−フェニレンジアミン(OPD)もしくは3,3’−ジアミノベンチジン等、アルカリフォスファターゼに対してはp−ニトロフェニルフォスフェート等を使用する。
【0070】
また、本発明に係るグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエに固有であるので、前記の方法により検体中のグリセロ型糖脂質を測定し、グリセロ型糖脂質の存否またはその存在量と検体中のマイコプラズマ・ニューモニエの存否またはその存在量とを関連づけることによって、マイコプラズマ・ニューモニエを検出することもできる。
【0071】
上記グリセロ型糖脂質の測定法またはマイコプラズマ・ニューモニエの検出法において、検体としては、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、関節液または細胞培養液(上清)等が挙げられる。
【0072】
上記方法の他に、生体組織または細胞を、そのまま又はグリセロ型糖脂質の固定処理を施した後、標識物質で標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体と反応させ、マイコプラズマ・ニューモニエが感染した生体組織または細胞に標識化抗体を結合させ、標識物質を測定することにより、マイコプラズマ・ニューモニエを検出することもできる。固定処理の方法としては、例えばホルマリン、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド等を用いる方法が挙げられる。また、標識物質で標識化した抗グリセロ型糖脂質抗体の代わりに、無標識の抗グリセロ型糖脂質抗体を固定処理した生体組織または細胞と反応させ、同時またはその後に、前記抗体の調製に用いた免疫動物以外の動物を用いて調製した前記免疫動物のイムノグロブリンに対する抗体を標識物質で標識化した二次抗体を反応させ、マイコプラズマ・ニューモニエが感染した生体組織または細胞に標識化二次抗体を結合させ、標識物質を測定してもよい。
【0073】
本発明の抗体を用いて試料中のグリセロ型糖脂質を免疫学的に測定する際、例えば、Galβ−6Galβ−3DAGおよびGlcβ−6Galβ−3DAGの両方に対して反応特異性を有する抗体を用いれば、Galβ−6Galβ−3DAGおよびGlcβ−6Galβ−3DAGを測定することができ、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGに対して反応特異性を有する抗体を用いれば、Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGを選択的に測定することができる。Galβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGの測定に際しては、実施例記載のようにして得られるGalβ−6Galβ−3DAGまたはGlcβ−6Galβ−3DAGを標準物質として使用することができる。
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
1.糖脂質の分離・精製
Mycoplasma pneumoniae(Mac strain)のPPLO培地での培養を以下のとおり行った。PPLO液体基礎培地(Difco社製)に10%牛血清、10%ペニシリン、0.0002%フェノールレッド及び1%グルコースを加えた液体培地にて37℃で培養した。培地のpH変化により微生物の増殖を確認した後、16,000×gで1時間遠心分離した。この操作をもう一度繰り返し脂質抽出用の試料とした。200L(湿潤状態の容量)の微生物試料に対し、クロロホルムとメタノールの混合溶媒で脂質画分を抽出した。
【0076】
2.脂質の抽出
試料をメタノールに浮遊させて4時間なじませた。そこに倍量のクロロホルムを加え、超音波で菌体を破砕し、さらに4時間放置した。3000rpmで遠心し、上清を回収して濃縮し、脂質画分試料とした。
【0077】
この脂質試料を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーによりクロロホルムとメタノールを使用して分離・精製した。第一段階として、クロロホルム:メタノールの混合比を9:1、8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9、0:10とした溶媒で10のフラクションに分画した。さらにそれぞれのフラクションに対し、第2、第3段階として同様のカラムクロマトグラフィーを行いさらに分離を行った。第一段階では、それぞれ33mg、79mg、2mg、5mg、2mg、4mg、4mg、2mg、6mg、0mg(何も回収されなかった)の化合物を含む10のフラクションを得た。このうちの一つの画分79mgを第2段階でさらに6つのフラクションに分画し、その中で2番目に得られたフラクションをさらに第3段階で6つのフラクションに分画し、4番目に得られたフラクションとして糖脂質1および2を得た。収量は15mgであった。
【0078】
図2は、薄相クロマトグラフィー(TLC)により脂質試料を展開し、オルシノール試薬にて染色した図である。レーン1は精製する前の菌体より抽出した脂質画分、レーン2〜10は最初のカラムクロマトグラフィーにより分離したそれぞれのフラクション、レーン11は3段階の精製を行って得た目的糖脂質画分である。
【0079】
3.NMR分析
得られた糖脂質画分をDMSO−d6:D2O=98:2溶液に溶解して、60℃にて1H−NMRを測定した。スフィンゴシンのシグナルは観察されず、グリセロール部分のプロトンが明快に観測されたことから、グリセロ型の脂質であることを決定した。脂肪酸は2本でほとんど飽和であり、ごくわずかに不飽和を含んでいた。よって、脂質部分はジアシルグリセロール(DAGと表記する)と決定した。糖部分は、1つのグルコースと3つのガラクトースのいずれもβ型のアノメリックプロトンが観察された。グルコースは非還元末端、ガラクトースの2つは6位に置換基を持っているように思われた。これらの情報から、Galβ−6Galβ−3DAGとGlcβ−6Galβ−3DAGの骨格が混合していると考えた。この骨格の検証として、還元末端のガラクトースの6位に非還元末端の糖が結合しているかどうかを、Gal−DAGを評品として、6位のケミカルシフトを比較した。さらに、D2Oを含まないDMSO−d6100%中で測定し、−OHのプロトンの同定を行ったところ、還元末端のガラクトースの2,3,4位の−OHシグナルは観察されるものの、6位の−OHシグナルは観察されなかった。これらにより6位に非還元末端の糖が結合していることを決定した。
【0080】
図3はDMSO−d6100%中で測定したDQF−COSYスペクトルであり、−OHのプロトンの帰属を記載している。また、表1は、DMSO−d6:D2O=98:2、60℃で測定した各プロトンの帰属データである。
【表1】
【0081】
4.質量分析
得られた脂質画分に対し、ESI−MS測定による分析を行った。そのスペクトルチャートを図4に示す。ポジティブモードはナトリウム添加条件で測定し、分子イオンに相当するピークm/z915(M+23)と943(M’+23)が観察された。これらは脂肪酸の組成の違いによるものであり、前者がC16:0/16:0(100%)、後者がC16:0/18:0(30%)であると予想された。これらの分子フラグメントに対しMS/MSを行ったところ、ヘキソース−ヘキソース−ジアシルグリセロールの骨格から脂肪酸、糖部位、グリセロール部位が脱離したフラグメントが観察され、この骨格に矛盾しない結果が得られた。またネガティブモードでも分子イオンピークm/z891(M−1)と919(M’−1)が観察され、これらに対するMS/MS測定でも同様の矛盾しない結果が得られた。
【0082】
1H−NMR解析および質量分析の結果を合わせて、Galβ−6Galβ−3DAGとGlcβ−6Galβ−3DAGの構造であることが決定できた。
【0083】
5.化学合成品とのデータ比較による構造の確定
構造を確定するため、化学合成により立体選択的かつ位置選択的にそれぞれの骨格を合成した。1H−NMR測定を天然物と同様のDMSO−d6:D2O=98:2、60℃の条件において行い、そのスペクトルを解析し比較した。その結果、合成品のスペクトルは天然物のそれと一致したことから、絶対構造を確定することができた。
【0084】
表2は天然物(natural)および合成品(synthesized)の各プロトンの帰属データである。スペクトルのppm値、カップリング定数(JHz)は一致し、また形も同じであった。
【表2】
グリセロ型糖脂質は、植物バクテリアなどで多数見つかっているものの、β型の糖結合であり2糖が1−6結合である構造は今までに報告がない。構造式1,2で示される糖脂質は新規構造である。
【0085】
(実施例2)
(神経疾患患者由来の試料中の本発明の糖脂質抗原に対する抗体)
構造式1および2で表される糖脂質抗原を含有するマイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分に対し、ギランバレー症候群の患者の血清を反応させる実験を、TLC−Immunostaining法によって検討した。マイコプラズマ・ニューモニエから抽出した脂質画分をTLCプレート上に展開し、ギランバレー症候群の患者血清を反応させた。反応の検出をペルオキシダーゼ標識のanti−humanIgG,IgM,IgAの混合物により行い、化学発色によって可視化した。図5は、マイコプラズマ・ニューモニエの脂質画分をTLC展開し、(a):オリシノール試薬にて染色した結果、および(b):ギランバレー症候群の患者血清との反応をTLC−Immunostaining法にて検出した結果を示す図である。
【0086】
図5(b)に示すように構造式1および2で表される糖脂質抗原のスポットに対し発光が認められたため、ギランバレー症候群の患者がこれら糖脂質抗原に対する抗体を保持していることが証明できた。
【0087】
この実験結果は、構造式1および2で示す糖脂質抗原およびその抗体が、マイコプラズマ・ニューモニエ感染が原因である疾患の診断マーカーとなることを示すものである。
【0088】
(実施例3)
合成によって作製したGlcβ−6Galβ−3DAGおよびGalβ−6Galβ−3DAGについて、それぞれを使用した2種類のELISAキットを作製し、ヒト検体中のこれら抗原に対するIgM抗体価を調べた。検体として、マイコプラズマ肺炎患者のペア血清を40検体測定し、このELISA法がマイコプラズマ肺炎の診断法として有用な方法であるかを検討した。比較として健常人の血清も40検体測定し、スコア値を比較した。
【0089】
抗原プレートの作製:Glcβ−6Galβ−3DAGを5μg/mL(メタノール:アセトニトリル溶液)になるよう調製し、この溶液をELISA用イムノプレート(平底)に50μLずつ撒き、溶媒を除去することによって、Glcβ−6Galβ−3DAGを固相化したプレートを作製した。Galβ−6Galβ−3DAGについても同様の手法によりプレートを作製した。
【0090】
ELISA法のプロトコール:測定ウェルにブロッキング液を100μLずつ展開して1時間室温でインキュベーションさせた後、洗浄して、測定する検体溶液を100μLずつ撒いて2時間室温でインキュベーションさせた(測定は2重で行なった)。その後洗浄し、次にペルオキシダーゼ標識したIgM抗体溶液を100μLずつ撒いて2時間室温でインキュベーションさせた。その後洗浄したのち、TMB溶液を発色基質として加え15分間反応させた後、反応を1N硫酸水溶液にて停止し、吸光度を測定した。
【0091】
測定結果:コントロールをおき標準曲線から吸光度を任意にスコア化して検体の抗体価を比較検討した。GlCβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA測定の結果、健常人のサンプルのスコアはすべて2.5以下、半数は1未満であったのに対し、マイコプラズマ肺炎患者の血清ではスコアがすべて1以上で、2.5以下は28%、それ以上のものが72%であった。この結果を、感度対擬陽性率の値で描くROC曲線に表したところ、曲線下面積が0.95となり、この測定は疾患の識別に能力がかなり高いと評価できた。
【0092】
一方、Galβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA測定の結果では、疾患の識別能があまりなく、健常人でも高いスコア値が検出された。
【0093】
図6はGlcβ−6Galβ−3DAGを使用したELISA測定の結果であり、疾患群と非疾患群(健常人)のスコア分布を示す。図7はこの測定結果を感度対偽陽性率の値で表したROC曲線である。
【0094】
この実験結果は、Glcβ−6Galβ−3DAGおよびGalβ−6Galβ−3DAGを使用した抗体測定によって、マイコプラズマ・ニューモニエの感染によって発症するマイコプラズマ肺炎の疾患識別が可能であることを示すものである。加えて、2種類の抗原糖脂質には能力に差があり、それぞれ単独で使用することによって別の結果になる可能性がある。マイコプラズマ肺炎の疾患診断にはGlcβ−6Galβ−3DAGを使用することが望ましいと考えられる。
【0095】
(実施例4)イムノクロマトグラフィー
(1)金コロイド溶液の調製
金コロイドは、40nmの粒子サイズのBiocell Research Laboratories(Cardiff,U.K.)の市販品の溶液をそのままの濃度で用いた。
【0096】
(2)金コロイド標識糖脂質抗原溶液の調製
金コロイド標識を作製するためにマイコプラズマ・ニューモニエの糖脂質抗原GlcGLを用いた。この10μg/mlのGlcGL抗原1mlと上記(1)の金コロイド溶液1mlとを混合し室温で30分間静置してこの抗原を金コロイド粒子表面に結合させた後、金コロイド溶液の最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)溶液を加え、この金コロイド粒子の残余の表面をブロックして、金コロイド標識抗原(以下、「金コロイド標識抗原」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(8000×G、10分間)して金コロイド標識抗原を沈殿せしめ、50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で3回洗浄し、上清液を除いて金コロイド標識抗原を得た。この金コロイド標識抗原を1%サッカロース・0.5%BSAを含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0097】
(3)抗マイコプラズマ・ニューモニエ特異的抗体測定用イムノクロマト法テストストリップの作製
図8に示されるイムノクロマト法テストストリップを下記の手順で作製した。
【0098】
(3−1)抗マイコプラズマ・ニューモニエ特異的抗体と金コロイド標識抗原との複合体の捕捉部位
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。
【0099】
抗ヒトIgM抗体2mg/mlが含有されてなる溶液4μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で3日間、乾燥し、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体と金コロイド標識抗原との複合体の捕捉部位31とした。
【0100】
(3−2)金コロイド標識抗体含浸部材
5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、金コロイド標識抗原溶液40μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて金コロイド標識抗体含浸部材2とした。
【0101】
(3−3)イムノクロマト法テストストリップの作製
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図8に示すようなクロマト法テストストリップを作製した。
【0102】
(4)試験
肺炎患者血清を検体希釈液で希釈して、各濃度に調製し、被験試料とした。そして、被験試料40μlを上記(3)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で10分放置後、上記捕捉部位31で捕捉された抗マイコプラズマ・ニューモニエ特異抗体と金コロイド標識抗原との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する赤紫色の呈色度合いを肉眼で、−(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)の4段階に区分して判定した。その結果を表3に示した。
【表3】
【0103】
(実施例5)抗マイコプラズマ・ニューモニエ糖脂質ポリクローナル抗体の作製
ヤギ20%血清で培養したマイコプラズマ・ニューモニエ菌体1mlを10倍の10mlに希釈し、これにフロイント完全アジュバントを10ml加え、これを400rpmでグラインドしてエマルジョンを得た。上記の方法で調製したエマルジョンを、ヤギ皮下に1匹あたり10ml皮下免疫し、1ヵ月後に10ml追加免疫した。さらに、1カ月おきにヤギ20%血清で培養したマイコプラズマ・ニューモニエ菌体で免疫を追加した。上記のようにして免疫したヤギの血液から、常法によって血清を分離した。この血清を用いてTLC免疫染色実験を行い、特異抗原糖脂質との反応性を確認した。
TLC免疫染色実験:
【0104】
実験操作は一般法に従った。マイコプラズマ・ニューモニエ菌体から抽出した脂質混合物、および化学合成により作製したGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGをHTLCプレートに展開して、得られたヤギ血清を反応させた。反応の検出をペルオキシダーゼ標識したanti−GoatIgGで行い、コニカイムノステインキットを使用してペルオキシダーゼによる反応を可視化して検出した。その結果を図9に示す。右図が得られたヤギ血清を使用して免疫染色した結果である。また左図は化合物を展開したHTLCプレートをオリシノール染色した結果である。
【0105】
図9に示すようにGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGに相当するスポットに対し発色が認められたため、作製したヤギ血清はこれらに対する反応性を有することを確認した。
【0106】
(実施例6)抗GGLモノクローナル抗体の作製
(1)ハイブリドーマの作製
マイコプラズマ・ニューモニエ菌体を含むエマルジョンを、7週令のメスBALB/cマウスの皮下に1匹あたり0.5ml注射した。初回免疫後2週間目と3週間目に、上記の方法で調製したエマルジョンを1匹あたり0.5mlを皮下と腹腔内に注射した。
【0107】
最終免疫の4日後にマウスから脾臓を摘出し、RPMI1640培地を用いて細胞浮遊液を調製した。この2×108個の脾細胞と対数増殖期にあるマウスミエローマSP2/0細胞(2×107個)と混合し、遠沈後、沈渣に45%ポリエチレングリコール(PEG4000(和光純薬(株)製)1mlを1分間かけて緩やかに振盪しながら加え、その後37℃下で、振盪しながら2分間インキュベートした。これに、RPMI1640培地1mlを1分間かけて加え、更に、8mlを3分間かけて加えた。
【0108】
上記細胞混合液を遠沈後、細胞を10%仔牛胎仔血清(FCS)を含むRPMI1640培地50mlに浮遊させ、96穴マイクロプレート4枚に、1ウェルあたり100μlずつ分注し、炭酸ガスインキュベーター(5%炭酸ガス、37℃)中で培養した。24時間後、培地をHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン含有、10%(V/V)FCS培地)に交換し、引き続き炭酸ガスインキュベーター(5%炭酸ガス、37℃)で培養した。4日目に、新しいHAT培地を1ウェルあたり100μl追加した。7日目にHT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いたもの)に交換し、その翌日に10%(V/V)FCSを含むRPMI1640培地に交換した後、コロニー形成の有無をチェックした。
【0109】
(2)抗体産生ハイブリドーマの選択
抗体を産生するハイブリドーマについて限界希釈法によってクローニングを繰り返し、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体を抗原に用いたELISAによりスクリーニングを行い、反応するハイブリドーマG1E6およびM2F8株を得た。
【0110】
(3)モノクローナル抗体の獲得
続いて、G1E6およびM2F8株を、10%(V/V)FCSを含むRPMI1640培地中で培養し、その培養上清を回収することにより、モノクローナル抗体を含む培養液を得た。硫安分画により精製したモノクローナル抗体を、Galβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGを抗原としたELISA(下記)を行って、モノクローナル抗体が、GalGLおよびGulGLのいずれとも反応した。その結果を図10に示す。
【0111】
ELISA法:
合成したGalβ1−6Galβ−3DAGおよびGlcβ1−6Galβ−3DAGそれぞれ5μg/mlをメタノール:アセトニトリル=2:1の溶媒で調製し、この溶液を96穴マイクロプレートの1ウェルあたり50μlずつ加え、ケミカルフード内で風乾した後15時間真空処理して、抗原糖脂質を貼り付けたELISAプレートをそれぞれ作製した。ELISA測定プロトコールは一般法に従った。まず350μlのブロッキング液(ナカライテスク社製ブロッキングワンを水で5倍希釈したもの)を各wellに分注し、30℃で1時間静置したのち、350μl/wellの0.05% Tween20 in PBSで5回洗浄した。その後、5倍希釈済の137C培養上清(希釈液としてブロッキングワンを0.05%Tween20 in PBSで20倍希釈したものを使用)を各wellに100μlずつ分注し、30℃で2時間静置した。その後、350μl/wellの0.05% Tween20 in PBSで5回洗浄し、次に5000倍希釈したGoat anti−mouse IgG−HRP[ZYMED Laboratories、cat.#81−6520]、または、Goat−anti−IgM[ZYMED Laboratories、cat.#61−6820]溶液(希釈液としてブロッキングワンを0.05% Tween20 in PBSで20倍希釈したものを使用)を各wellに100μlずつ分注し、30℃で1時間静置した。その後350μl/wellの0.05% Tween20 in PBSで5回洗浄し、発色基質(TMB溶液;)を各wellに100μlずつ分注し、30℃で30分間静置した後、1NH2SO4を各wellに50μlずつ分注して混和し発色を止め、吸光度(450nm/620nm)を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエの主要な抗原であるため、この微生物を高感度かつ正確に検出するための分子基盤となる。よって、この糖脂質を利用してマイコプラズマ・ニューモニエが原因である病気の正確な診断法の開発が可能である。本発明のグリセロ型糖脂質は、マイコプラズマ・ニューモニエを病原とする疾患の診断用のマーカーとして使用し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表される化合物:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、かつ、R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能であるか、または
R1=Hのとき、R2=OHであり、かつ、R3は飽和炭化水素基である。)
または、その塩。
【請求項2】
マイコプラズマ・ニューモニエ由来の単離された天然化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
合成化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、14または16である)である、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
以下の化合物:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、または
これらの塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化合物を含有する組成物。
【請求項8】
下記一般式で表される化合物に特異的に結合する抗体:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、かつ、R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能であるか、または
R1=Hのとき、R2=OHであり、かつ、R3は飽和炭化水素基である。)
または、その塩。
【請求項9】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、14または16である)である、請求項8に記載の抗体。
【請求項11】
以下の化合物:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、または
これらの塩、
に特異的に結合する抗体である、請求項8〜10のいずれかに記載の抗体。
【請求項12】
モノクローナル抗体である、請求項8〜11のいずれかに記載の抗体。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の抗体を含有する組成物。
【請求項1】
下記一般式で表される化合物:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、かつ、R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能であるか、または
R1=Hのとき、R2=OHであり、かつ、R3は飽和炭化水素基である。)
または、その塩。
【請求項2】
マイコプラズマ・ニューモニエ由来の単離された天然化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
合成化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、14または16である)である、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
以下の化合物:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、または
これらの塩である、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化合物を含有する組成物。
【請求項8】
下記一般式で表される化合物に特異的に結合する抗体:
(式中、R1=OHのとき、R2=Hであり、かつ、R3は飽和、不飽和を問わない任意の炭化水素基から独立して選択可能であるか、または
R1=Hのとき、R2=OHであり、かつ、R3は飽和炭化水素基である。)
または、その塩。
【請求項9】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、12、14、16、または18である)である、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
R3が、―(CH2)nCH3(但し、nは、14または16である)である、請求項8に記載の抗体。
【請求項11】
以下の化合物:
3−O−[(β−D−ガラクトピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、
3−O−[(β−D−グルコピラノシル)−(1,6)−(β−D−ガラクトピラノシル)]−1,2−di−O−アシル−sn−グリセロール、または
これらの塩、
に特異的に結合する抗体である、請求項8〜10のいずれかに記載の抗体。
【請求項12】
モノクローナル抗体である、請求項8〜11のいずれかに記載の抗体。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の抗体を含有する組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−79830(P2011−79830A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228980(P2010−228980)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【分割の表示】特願2007−536522(P2007−536522)の分割
【原出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(505136789)エム バイオ テック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【分割の表示】特願2007−536522(P2007−536522)の分割
【原出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(505136789)エム バイオ テック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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