説明

マウスピース

【課題】口から滑り落ちにくく、ヘッドマイク様の支持機構を必要とすることなしに長時間にわたってくわえ続けることができ、しかも1個のマウスピースで複数の操作対象を独立に操作することができる、楽器演奏補助装置のためのマウスピースを提供すること。
【解決手段】くわえ部2と、これにつながる胴部3とからなり、くわえ部2には、その先端側の端面から胴部に向かって1つまたは複数個の呼気吹き込み口4a,4bを形成するとともに、胴部3内には、各呼気吹き込み口にそれぞれ独立して連通する1つまたは複数個の空洞状の唾液溜め室5a,5bを形成し、該唾液溜め室のそれぞれには呼気吐出用パイプ6a,6bを胴部の内外を貫通して取り付けた。さらに、くわえ部2の下面部に、側面視円弧状になる窪み部7を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手や足の不自由な身体障害者が楽器演奏補助装置を用いて楽器を演奏する際に用いられる操作信号入力用のマウスピースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、楽器の演奏補助装置が開発され、手や足の不自由な身体障害者が楽器を演奏する際の支援手段として用いられている。例えば、特許文献1には、下半身が不自由なピアノ演奏者であっても、上半身の動きによりピアノのペダルを操作して豊かな演奏表現を可能にしたペダル演奏補助装置が提案されている。
【0003】
この特許文献1に記載のペダル演奏補助装置は、ピアノのペダルを駆動するペダル駆動部と、演奏者に装着されて演奏者の上半身の動作を検出する動作検出手段と、前記動作検出手段による検出結果に基づいて前記ペダル駆動部を駆動することで前記ペダルを連続量で変位させるペダル駆動手段とによって構成されており、演奏者の上半身の動きを動作検出手段で検出し、この検出信号に基づいてペダル駆動部を駆動することにより、ピアノのペダルを押し下げるようにしたものである。
【0004】
【特許文献1】特開平2006−154504号公報(全文、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記ペダル演奏補助装置では、演奏者の上半身の動作を検出するための動作検出手段の1つとして、マウスピースを用いた検出装置が採用されている(引用文献1の図7(a)参照)。この検出装置は、演奏者の頭部に装着するためのベルト部と、ベルト部の一方の端部からヘッドマイク状に延びて演奏者の口元付近に配置されたマウスピースと、マウスピースから吹き込まれる演奏者の呼気(息)の強さを検出するためのブローセンサを備えたもので、マウスピースから吹き込まれる演奏者の呼気(息)の強さをブローセンサで抵抗変化に変え、この抵抗変化による電圧変化を操作用の検出信号として出力するようにしたものである。
【0006】
上記マウスピースを用いた検出装置は優れたものであるが、それでもなお次のような問題が残されていた。すなわち、マウスピースの形状に人間工学的に十分な工夫が施されていないため、口から滑り落ちやすく、長い演奏の場合にはマウスピースを口にくわえ続けることが難しい。そのため、マウスピースは頭部に装着したベルト部にヘッドマイク状に取り付けておく必要があった。
【0007】
また、上記マウスピースを用いた検出装置で得られるペダル操作のための検出信号は、ただ1つだけであった。一方、例えばピアノには、2つまたは3つのペダルが用意されているのが一般的である。このため、上記マウスピースを用いた検出装置では1つのペダルしか操作することができず、複数のペダルを独立に操作することは不可能であった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、口から滑り落ちにくく、ヘッドマイク様の支持機構を必要とすることなしに長時間にわたってくわえ続けることができ、しかも1個のマウスピースで複数の操作対象を独立に操作することができる、楽器演奏補助装置のためのマウスピースを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は次のような手段を採用した、
すなわち、第1の発明に係るマウスピースは、くわえ部と、これにつながる胴部とからなり、前記くわえ部には、その先端側の端面から胴部に向かって所定断面形状からなる1つまたは複数個の呼気吹き込み口を形成するとともに、前記胴部内には、前記1つまたは複数個の呼気吹き込み口にそれぞれ独立して連通する1つまたは複数個の空洞状の唾液溜め室を形成し、該唾液溜め室のそれぞれの適宜位置には呼気吐出用パイプを胴部の内外を貫通して取り付けたものである。
【0010】
また、第2の発明に係るマウスピースは、前記第1の発明に係るマウスピースにおいて、前記くわえ部の下面部に、側面視円弧状になる窪み部を形成したものである。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係るマウスピースによれば、1つまたは複数個の呼気吹き込み口を備えているので、使用しない呼気吹き込み口を舌先で塞ぐことにより、希望する呼気吹き込み口のみから呼気を吹き込むことができる。このため、舌先によって塞ぐ位置を変えることにより、1つのマウスピースで複数の操作対象を操作することが可能となり、楽器の演奏幅を拡げることができる。また、胴部内に唾液溜め室を備えているので、演奏中に唾液がマウスピース内に流れ込んできても、流れ込んできた唾液は唾液溜め室で受けて溜めることができる。このため、唾液による呼気吐出用パイプの目詰まりも防ぐことができ、呼気による楽器操作をより円滑に行なうことができる。
【0012】
また、第2の発明に係るマウスピースによれば、くわえ部の下面部に、側面視円弧状になる窪み部を形成したので、口にくわえたときに下唇が窪み部にピッタリと当たり、マウスピースが口から簡単に滑り落ちるようなことがなくなる。このため、長い演奏時間であってもマウスピースを確実に保持し続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1および図2に本発明に係るマウスピースの一実施の形態を示す。図1(a)〜(e)はマウスピースの詳細な構造を示す図、図2はマウスピースの斜視図である。
【0014】
図示例のマウスピース1は、その全体形状があたかも運動会などで用いられるホイッスル(呼び笛)様の形状を呈しており、前方へ向かって突出する立方体状のくわえ部2と、これにつながる円筒状の胴部3とからなる。なお、このくわえ部2と胴部3はプラスチック製になり、射出成形などによって一体成形されている。
【0015】
前記くわえ部2には、その先端側の端面から胴部3に向かって断面四角形状になる2つの呼気吹き込み口4a、4bが隣り合わせて平行に形成されているとともに、胴部3内には、この2つの呼気吹き込み口4a、4bにそれぞれ独立に連通する空洞状の2つの唾液溜め室5a,5bが形成されている。
【0016】
前記2つの唾液溜め室5a,5bには、その適宜位置(図示例では胴部3の外端斜め下方位置)に、所定長さからなる2つの呼気吐出用パイプ6a,6bが胴部3の内外を貫通して固設されている。この2つの呼気吐出用パイプ6a,6bの外端部は、それぞれ適宜長さだけ突出した状態で胴部3の外部に臨まされているとともに、その内端部は、唾液溜め室5a,5b内に溜まった唾液が入り込むことを防止するために、唾液溜め室5a,5bの中央部付近まで延出されている。
【0017】
前記呼気吐出用パイプ6a,6bは、例えば真ちゅうなどの金属パイプを用いて、くわえ部2と胴部3の射出成形時に一体に埋め込み形成すればよい。また、くわえ部2および胴部3と同じプラスチック樹脂を用い、くわえ部2および胴部3とともに一体に射出成形してもよい。
【0018】
さらに、本発明のマウスピース1は、上記構造に加え、くわえ部2の下面部に、側面視円弧状をした窪み部7が形成されており、くわえ部2を口にくわえた時に下唇がこの窪み部7にピッタリと当たり、マウスピース1をしっかりと保持できるように工夫されている。
【0019】
次に、上記マウスピース1を用い、ピアノのペダルを操作する場合を例に採って、図3,図4を参照して説明する。図3は本発明のマウスピースとペダル演奏補助装置の設置例を示す図、図4は図3中のペダル部分の略示平面図である。
【0020】
図において、1は本発明のマウスピース、21は呼気センサ、22はペダル制御装置、23a,23bはペダル操作アーム、24はペダル踏み込み速度調節器、25a,25bは操作対象とするピアノのペダルである。
【0021】
呼気センサ21は、マウスピース1に吹き込まれた演奏者の呼気(息)の強さを検出し、その強さに応じた値の検出信号を出力するセンサであって、例えばダイヤフラム、マグネット、ホール素子などで構成されている。この呼気センサ21とマウスピース1の間は、演奏者の吹き込んだ呼気(息)を呼気センサまで導くための可撓性チューブ26a,26bでつながれている。
【0022】
この例の場合、呼気センサ21はその内部に2組のセンサ機構を備えており、一方のセンサ機構とマウスピース1の呼気吐出用パイプ6aとの間を可撓性チューブ26a(図2参照)によってつなぐとともに、他方のセンサ機構とマウスピース1の呼気吐出用パイプ6bとの間を可撓性チューブ26b(図2参照)によってつないでいる。
【0023】
ペダル制御装置22は、呼気センサ21からの検出信号を受けてピアノのペダルを押し下げ操作するもので、ペダル制御装置22と呼気センサ21との間は信号ケーブル27で結ばれている。図示例の場合は、ペダル制御装置22は、マウスピース1の2つの呼気吹き込み口4a,4bに合わせて、2つのペダル操作アーム23a,23bを備えている。このペダル制御装置22は、ペダルの後ろ側(演奏者から見てペダルの裏側)に据え付けられ、内蔵されたマイクロコンピュータやモーター、ギア機構によってペダル操作アーム23a,23bを選択的に上方へ跳ね上げ、これによってピアノの2つのペダル25a,25bを選択的に押し下げるものである。
【0024】
なお、通常、グランドピアノには3つのペダル、すなわち演奏者側から見て左側のシフトペダル25a、右側のダンパーペダル25b、真ん中のソステヌートペダル25cという3つのペダル(図4参照)が備えられているが、図示例の場合、左側のシフトペダル25aに左側のペダル操作アーム23aを対応させるとともに、右側のダンパーペダル25bに右側のペダル操作アーム23bを対応させ、3つのペダルのうちの左右の2つのペダルを演奏者の呼気(息)によって押し下げ操作するように構成したものである。真ん中のソステヌートペダル25cも操作したい場合には、マウスピース1にもう1つ呼気吹き込み口を増やし、3つの呼気吹き込み口を用いて操作するように構成すればよい。
【0025】
ペダル踏み込み速度調節器24は、ペダルの踏み込み速さ(踏み込み加速度)を調節するもので、調節ダイヤル24aを回すことにより、ペダルの踏み込み速さを自在に調整可能としたものである。このペダル踏み込み速度調節器24とペダル制御装置22との間は、信号ケーブル28で結ばれている。
【0026】
次に、足の悪い演奏者が車いすに乗ったままでピアノを演奏する場合を例に採って、その操作方法を説明する。
【0027】
まず、演奏者は車いすに乗ったままの状態でピアノの前に座る。そして、本発明のマウスピース1を口にくわえる。このとき、マウスピース1のくわえ部2の下面側に形成した円弧状の窪み部7が下唇にピッタリと当たり、これによって口にくわえたマウスピース1が簡単に落ちるようなことがなくなる。
【0028】
上記マウスピース1をくわえた状態でピアノの演奏を開始する。
演奏途中において、例えば右側のダンパーペダル25bを押し下げ操作したい場合、演奏者は、口にくわえているマウスピース1の左側の呼気吹き込み口4bを舌先で塞ぎ、右側の呼気吹き込み口4bのみが開かれた状態とする。そして、この状態でマウスピース1に向かって息を吹き込む。
【0029】
吹き込まれた息(呼気)は、舌によって閉じられていない右側の呼気吹き込み口4bを通って胴部3内の唾液溜め室5bに送られ、さらに、呼気吐出用パイプ6b、可撓性チューブ26bを通って呼気センサ21へと送られる。呼気センサ21は、吹き込まれてきた呼気(息)の強さを検出し、その時の呼気の強さに応じた値の検出信号をペダル制御装置22へ向けて送出する。
【0030】
ペダル制御装置22は、呼気センサ21からの検出信号を受け、内部のモーターやギヤ機構を制御し、右側のダンパーペダル25bに対応するペダル操作アーム23bを検出信号に応じた距離だけ上方へ向けて押し上げる。これによって、ダンパーペダル25bの時計針方向に回動され、ダンパーペダル25bの押し下げ操作が行なわれる。これによって、すべての弦のダンパー(止音装置)が解放され、すべての音が共鳴しながら大きく響きわたり、ダンパー効果による豊かな演奏表現が実現される。なお、この時のペダルの押し下げ速さは、予めペダル踏み込み速度調節器24によって調節しておけばよい。
【0031】
一方、上記とは逆に、マウスピース1の右側の呼気吹き込み口4bを舌先で閉じ、この状態で息を吹き込めば、吹き込んだ息は開いている左側の呼気吹き込み口4aから吹き込まれていき、最終的に左側のシフトペダル25aが押し下げられる。これによって、弦のハンマーがずらされて音量が小さくなり、いわゆる弱音効果が実現される。
【0032】
上記演奏中、マウスピース1をくわえていると、唾液が出てきて呼気吐出用パイプ6a,6bや可撓性チューブ26a,26bが詰まるおそれがある。しかしながら、本発明のマウスピースの場合、マウスピース内に流れ込んだ唾液は唾液溜まり室5a,5b内に溜められる。このため、呼気吐出用パイプ6a,6bや可撓性チューブ26a,26bが唾液で詰まるおそれがなく、演奏に支障を来すようなことがなくなる。
【0033】
なお、上記実施の形態は、呼気吹き込み口を2つ形成した場合の例について示したが、前述したように呼気吹き込み口を3つ設ければ、3つのペダルのそれぞれを個別に操作することができる。操作対象によっては呼気吹き込み口を1個としてもよい。呼気吹き込み口を何個形成するかは操作対象とする楽器に応じて決定すればよい。
【0034】
また、上記の例ではピアノのペダルを操作する場合を例にとって説明したが、適用対象はピアノのペダル操作に限られるものではなく、楽器演奏補助装置を適用可能な楽器であれば、ピアノ以外の楽器でも利用することができる。この場合も、くわえ部に形成する呼気吹き込み口の数は操作対象とする楽器に応じて決定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るマウスピースの一実施の形態を示すもので、(a)は平面図、(b)は左側面図、(c)は正面図、(d)は(a)中のD−D線断面図、(e)は(b)中のE−E線断面図である。
【図2】図1のマウスピースの斜視図である。
【図3】本発明のマウスピースとペダル演奏補助装置を用いてピアノのペダルを操作する場合の例を示す図である。
【図4】図3中のペダル部分の略示平面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 マウスピース
2 くわえ部
3 胴部
4a,4b 呼気吹き込み口
5a,5b 唾液溜め室
6a,6b 呼気吐出用パイプ
7 窪み部
21 呼気センサ
22 ペダル制御装置
23a,23b ペダル操作アーム
24 ペダル踏み込み速度調節器
25a,25b,25c ピアノのペダル
26a,26b 可撓性チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
くわえ部と、これにつながる胴部とからなり、
前記くわえ部には、その先端側の端面から胴部に向かって所定断面形状からなる1つまたは複数個の呼気吹き込み口が形成されているとともに、前記胴部内には、前記1つまたは複数個の呼気吹き込み口にそれぞれ独立して連通する1つまたは複数個の空洞状の唾液溜め室が形成され、
該唾液溜め室のそれぞれの適宜位置には呼気吐出用パイプが胴部の内外を貫通して取り付けられていることを特徴とするマウスピース。
【請求項2】
請求項1記載のマウスピースにおいて、
前記くわえ部の下面部に、側面視円弧状になる窪み部を形成したことを特徴とするマウスピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−139632(P2010−139632A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314409(P2008−314409)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(598168759)有限会社ミューロン (11)
【Fターム(参考)】