説明

マウス微量アミンレセプター

【課題】マウスの新規な微量アミン関連受容体およびその利用を提供する。
【解決手段】Gタンパク質共役型受容体のサブファミリーを形成する微量アミン関連受容体(TAAR)に特異的で選択的なフィンガープリント配列を提供する。また、このファミリーのメンバーとして同定された新しいマウスのポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、および新しいファミリーメンバーを含むベクターと宿主細胞も提供する。加えて、TAARを同定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Gタンパク質共役型受容体のサブファミリーを形成するマウスの微量アミン関連受容体(TAAR)に特異的で選択的なフィンガープリント配列を提供する。本発明はまた、このファミリーのメンバーとして同定されたマウスのポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、および新しいファミリーメンバーを含むベクター、宿主細胞、およびヒト以外の動物を提供する。さらに本発明は、マウスTAARを同定する方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
微量アミン(TA)は、構造的に生体アミンに関連する内因性化合物であり、哺乳動物神経系で微量見出される。TAは、神経末端に貯えられ、古くから知られている生体アミンと共に放出される。現在までに、TAを唯一の伝達物質として用いるシナプスが存在するという証拠は無い。最近、特異的に微量アミンを結合する受容体が、Borowski et al.(Trace amines: identification of a family of mammalian G protein-coupled receptors. Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2001)98(16): 8966-8971.)および、Bunzow et al.(Amphetamine, 3,4-methylenedioxymethamphetamine, lysergic acid diethylamide, and metabolites of the catecholamine neurotransmitters are agonists of a rat trace amine receptor. Mol. Pharmacol.2001, 60(6): 1181-1188.)によって報告された。これらの受容体は、明らかに新しいGPCRファミリーである。
【0003】
微量アミンの調節不全は、種々の精神障害、即ち、うつ病(Sandler M.et al.,Decreased cerebrospinal fluid concentration of free phenylacetic acid in depressive illness. Clin. Chim. Acta, 1979, 93(l): 169-171; Davis BA and Boulton AA. The trace amines and their acidic metabolites in depression--an overview. Prog. Neuropsychopharmacol. Biol. Psychiatry, 1994, 18(1): 17-45.)、統合失調症(Potkin SG. et al. Phenylethylamine in paranoid chronic schizophrenia. Science. 1979, 206(4417): 470-471; Sandler M and Reynolds GP. Does phenylethylamine cause schizophrenia? Lancet, 1976, 1(7950): 70-71.)および、双極性障害(Boulton AA.: Some aspects of basic psychopharmacology: the trace amines. Prog. Neuropsychopharmacol. Biol. Psychiatry, 1982; 6(4-6): 563-570; Sabelli HC et al., Clinical studies on the KM/29.04. 2005; phenylethylamine hypothesis of affective disorder: urine and blood phenylacetic acid and phenylalanine dietary supplements. J. Clin. Psychiatry, 1986 Feb; 47(2): 66-70.)に関連付けられた。さらに、微量アミンの調節不全は、注意欠陥多動性障害(Baker et al. Phenylethylaminergic mechanisms in attention-deficit disorder. Biol. Phychiatry, 1991, 29(1): 15-22)、パーキンソン病(Heller B and Fischer E., Diminution of phenethylamine in the urine of Parkinson patients. Arzneimittelforschung, 1973, 23(6): 884-886.)、片頭痛(D'Andrea G. et al. Elusive amines and primary headaches: historical background and prospectives. Neurol. Sci. 2003, 24 Suppl. 2.: S65-7; D'Andrea, G. et al., Elevated levels of circulating trace amines in primary headaches. Neurology, 2004, 62(10): 1701-1705.)、および、摂食障害(Wolf ME and Mosnaim AD. Phenylethylamine in neuropsychiatric disorders. Gen. Pharmacol,1983, 14(4): 385-390; Branchek TA and Blackburn TP. Trace amine receptors as targets for novel therapeutics: legend myth and tact. Curr. Opin. Pharmacol. 2003, 3(l): 90-97.)、即ち、PEAがこれまでに知られているもっとも強力な食欲低下化合物であるアンフェタミンと非常に高い構造上の類似性を有することから示唆されて、肥満症と食欲低下のような障害(Samanin R, and Garattini S.: Neurochemical mechanism of action of anorectic drugs. Pharmacol. Toxicol. 1993 Aug; 73(2): 63-68; Popplewell DA et al., A behavioural and pharmacological examination of phenylethylamine-induced anorexia and hyperactivity--comparisons with amphetamine. Pharmacol. Biochem. Behav. 1986 Oct; 25(4): 711-716.)、と関連付けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、微量アミン受容体に関する知見の増加、特に、さらなる微量アミン受容体の同定に、広い関心が存在する。しかし、文献と公開データベースのエントリの調査から、微量アミン受容体の命名についての不整合が明らかになった。例えば、ヒト受容体GPR102(Lee et al. Discovery and mapping of ten novel G protein-coupled receptor genes. Gene, 2001, 275(1): 83-91.)は、またTA5(Borowski et al. Trace amines: identification of a family of mammalian G protein-coupled receptors. Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2001)98(16): 8966-8971)とも呼ばれ、ヒト5−HT4Ψ(Liu et al., A serotonin-4 receptor-like pseudogene in humans. Brain Res. Mol. Brain Res. 1998, 53(1-2): 98-103.)は、またTA2Ψとも名付けられている(Borowski et al. Trace amines: identification of a family of mammalian G protein-coupled receptors. Proc. Natl. Acad. Sci. USA(2001)98(16): 8966-8971)。さらに、GPR57(Lee et al. Cloning and characterization of additional members of the G protein-coupled receptor family. Biochim. Biophys. Acta, 2000, 1490(3): 311-323.)、GPR58(Lee et al. Cloning and characterization of additional members of the G protein-coupled receptor family. Biochim. Biophys. Acta, 2000, 1490(3): 311-323.)およびPNR(Zeng et al. Cloning of a putative human neurotransmitter receptor expressed in skeletal muscle and brain. Biochem. Biophys. Res. Commun. 1998, 242(3): 575-578.)は、これまで、一般にTA受容体とは認められなかった。この不整合は、混乱と不確実性を引き起こす。したがって、この受容体ファミリーの明確な定義が強く求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
現行の命名法の曖昧さを解決するため、これらの受容体を微量アミン関連受容体(TAAR)と呼ぶ新しい統一的な命名法を、本発明と共に提案する。この新しい命名法は、少なくともあるTAARはTAに全く応答しないという発見を反映したものであり、それゆえ「関連」という用語を用いる。この命名法は、このGPCRファミリーの全ての受容体をカバーし、種々の種のいろいろな数の受容体遺伝子に適合している。新しい命名法は、厳密に各ヒト染色体上の受容体遺伝子の配列順序に基づいており、また同時に、さまざまな種に亘る受容体遺伝子の詳細な系統学的解析(図3)にも基づいている。この命名法は、次の規則を堅守する:
【0006】
a)2つ(または3つ)のオーソログ遺伝子、即ち種形成事象により生じた遺伝子には、どれも同じ番号を付する。逆に、2つの遺伝子がもしオーソログでなければ、同じ番号を付してはならない。
【0007】
b)パラログ、即ち、1つの種の系統内で遺伝子重複事象により生じた遺伝子は、1字の添字によって区別する。
【0008】
C)例:遺伝子hTAAR5、rTAAR5、mTAAR5は、全てオーソログである。
マウスの遺伝子mTAAR8a、b、cは、パラログである。
遺伝子mTAAR8a、b、cは、全てhTAAR8のオ−ソログである。
【0009】
本発明は、TAARファミリーのメンバーとして同定された新しいポリペプチド、該ポリペプチドの薬物標的としての利用、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、および、該ポリヌクレオチドを含むベクター、宿主細胞、およびヒト以外の動物を提供する。さらに本発明は、TAARファミリーに特異的で選択的なフィンガープリントモチーフと、これの利用に関する。
【0010】
本発明は、配列NSXXNPXXZXXXBXWF(配列番号1)を含むフィンガープリント配列を提供する;配列中、Xは自然に存在するいずれのアミノ酸でもよく、Zはチロシンまたはヒスチジン、Bはチロシンかフェニルアラニンでよい。ここで用いる「フィンガープリント」、「フィンガープリントモチーフ」、「フィンガープリント配列」という用語は、マウスGPCRサブファミリーTAARに特異的で選択的なアミノ酸配列に関するものである。フィンガープリントモチーフは、機能的TAARに特異的であることが好ましい。トリプトファン残基は、フィンガープリントモチーフではもっぱらTAAR中だけで見出され、どの他の既知のGPCR中でも見出されない;むしろ他のGPCR 中では、対応する配列位置は、ほとんど必ず極性を有する、または電荷さえ有するアミノ酸で占められている。フィンガープリントモチーフは、TAAR、好ましくは機能的TAARを同定するために用いることができる。
【0011】
本発明はまた、フィンガープリント配列(配列番号1)を用いてマウスTAARを同定する方法を提供する。マウスTAARファミリーのメンバーとして同定されるためには、ポリペプチドは100%の同一性を持てば良い。
【0012】
さらに、本発明は、フィンガープリント配列(配列番号1)を用いて、他の種、好ましくは哺乳類TAARを同定する方法に関する。TAARファミリーのメンバーとして同定されるためには、ポリペプチドは少なくとも、フィンガープリント配列と75%の同一性、好ましくは87%以上の、より好ましくは100%の同一性を持てば良い。
【0013】
フィンガープリント配列は、例えばTAARファミリーメンバーを同定するための検索を、配列データベースに対して行うための「問い合わせ配列」として用いることができる。そのような検索は、例えばEMBOSSのfuzzpro(Rice et al., EMBOSS: the European Molecular Biology Open Software Suite. Trends in Genetics, 2000, 16(6): 276-277)のようなパターン認識プログラムを用いて行うことができる。マウスTAARに対する検索は、fuzzproを用い、NSXXNPXX[HY]XXX[YF]XWFを必要配列とし、ミスマッチ数=0、データベース=swissprot(リリース43)、として実行できる。
【0014】
マウスTAARファミリーは、16メンバー(mTAAR1〜9)を含み、その中の1つは偽遺伝子:mTAAR7cΨである。マウスTAARファミリーメンバーをコードする全ての遺伝子が、第10染色体の同一領域(10A4)に位置する。2個のエクソンでコードされるmTAAR2を例外として、全てのTAAR遺伝子をコードする配列が、単一のエクソン中に存在する。
【0015】
ここで用いる「遺伝子」という用語は、生物学的機能に関連したDNAの任意のセグメントを表す。遺伝子は、特定の染色体上の特定の位置に存在し、特定の機能的生産物をコードするヌクレオチドの順序づけられた配列である。
【0016】
ここで用いる「偽遺伝子」という用語は、活性を有する祖先遺伝子から突然変異事象によって進化した可能性のある不活性な遺伝子のことである。不活性であるとは、遺伝子が機能を有するポリペプチドに翻訳されないことを意味する。
【0017】
本発明は、配列番号5の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは、微量アミン関連受容体(TAAR)として同定され、mTAAR2と命名された。
【0018】
ここで用いる「ポリペプチド配列」(例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、など)という用語は、自然に存在するアミノ酸から成るアミノ酸のポリマーをいう。
【0019】
「単離された」との用語は、「人間の手によって」自然状態から変えられたことを意味する。もし、「単離された」組成物または物質が、自然界に見いだされる場合、それは変化させられたか、元の環境から移されたか、またはその両方である。例えば、生きている動物内に自然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離され」ていないが、しかし自然の状態で共存する材料から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、ここで採用した用語に従って、「単離され」ている。
【0020】
「組換え型」という用語は、例えばポリヌクレオチドまたはポリペプチドに関連して用いられた場合、概して、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、異種(または外来)の核酸の導入または天然の核酸の改変によって修飾されたこと、またはタンパク質またはポリペプチドが、異種アミノ酸の導入によって修飾されたこと、を示す。
【0021】
本発明はさらに、ポリペプチドmTAAR2をコードする配列番号4を含むポリヌクレオチド配列に関する。
【0022】
ここで用いる「ポリヌクレオチド配列」(例えば、核酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、など)という用語は、ヌクレオチドA、C、T、U、Gを含むヌクレオチドのポリマーについて用いられる。
【0023】
本発明はさらに、配列番号7の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは、微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR3と命名された。
【0024】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR3をコードする配列番号6を含むポリヌクレオチド配列に関する。
【0025】
本発明はさらに、配列番号9の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは、微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR4と命名された。
【0026】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR4をコードする配列番号8を含むポリヌクレオチド配列に関する。
【0027】
本発明はさらに、配列番号11の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR5と命名された。
【0028】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR5をコードする配列番号10を含むポリヌクレオチド配列に関する。
【0029】
本発明はさらに、配列番号13の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは、微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR6と命名された。
【0030】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR6をコードする配列番号12を含むポリヌクレオチド配列に関する。
【0031】
本発明はさらに、配列番号15の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは、微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR7aと命名された。
【0032】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR7aをコードする配列番号14を含むポリヌクレオチド配列に関する。
【0033】
本発明はさらに、配列番号17の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR7bと命名された。
【0034】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR7bをコードする配列番号16を含むポリヌクレオチド配列に関する。
【0035】
本発明はさらに、配列番号22の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR7dと命名された。
【0036】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR7dをコードする配列番号21を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド配列に関する。
【0037】
本発明はさらに、配列番号24の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR7eと命名された。
【0038】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR7eをコードする配列番号23を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド配列に関する。
【0039】
本発明はさらに、配列番号26の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR7fと命名された。
【0040】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR7fをコードする配列番号25を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド配列に関する。
【0041】
本発明はさらに、配列番号28の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR8aと命名された。
【0042】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR8aをコードする配列番号27を含む単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド配列に関する。
【0043】
本発明はさらに、配列番号30の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR8bと命名された。
【0044】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR8bをコードする配列番号29を含む、単離された、または組換え型のポリヌクレオチド配列に関する。
【0045】
本発明はさらに、配列番号32の配列を含む、単離された、または組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR8cと命名された。
【0046】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR8cをコードする配列番号31を含む、単離された、または組換え型のポリヌクレオチド配列に関する。
【0047】
本発明はさらに、配列番号34の配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。該ポリペプチドは微量アミン関連受容体として同定され、mTAAR9と命名された。
【0048】
本発明はまた、ポリペプチドmTAAR9をコードする配列番号33を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド配列に関する。
【0049】
TAARファミリーの他のメンバーmTAAR1は、配列番号2のポリヌクレオチド配列および配列番号3のポリペプチド配列を持ち、以前に記載された(Borowsky, B. et al. Trace amines: identification of a family of mammalian G protein-coupled receptors, Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.(2001)98(16),8966-8971)。
【0050】
本発明はまた、mTAAR7cΨ(配列番号18)のヌクレオチド配列を提供する。さらにまた本発明は、mTAAR7cΨの修復されたポリヌクレオチド配列(配列番号19)を提供する。本発明はさらに、修理されたヌクレオチド配列mTAAR7c(配列番号20)によってコードされるポリヌクレオチド配列を提供する。ここで用いる「修復された遺伝子」または「修理された遺伝子」という用語は、遺伝子が活性型になるように配列が変えられた偽遺伝子を指す。すなわち、hTAAR3のポリヌクレオチド配列は、早期終止コドンを生じた突然変異によって不活性である。この配列は、133〜134の位置(図4参照)の2個のヌクレオチドの挿入によって修復された。
【0051】
本発明はまた、フィンガープリント配列(配列番号1)を含みかつ配列番号3の配列とは異なるアミノ酸配列を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチドを提供する。
【0052】
さらに本発明は、本発明のポリペプチドの薬物標的としての使用に関する。本発明のポリペプチドは、うつ病治療、統合失調症治療、片頭痛治療、または注意欠陥多動性障害や、食欲低下や肥満症のような摂食障害の治療、に有用な化合物を同定するための薬物標的として用いられるのが好ましい。この薬物標的は、薬学的に活性のある化合物の設計、スクリーニング、および開発にとって適切なものであり得る。
【0053】
本発明の1つの実施形態は、薬物標的としての、配列番号5、7、9、11、13、15、17、22、24、26、28、30、32、または34のポリペプチド配列を有するポリペプチドに関する。本発明のポリペプチドは、うつ病治療、統合失調症治療、片頭痛治療、または注意欠陥多動性障害や、食欲低下や肥満症のような摂食障害の治療、に有用な化合物を同定するための薬物標的として用いられるのが好ましい。
【0054】
本発明のもう1つの実施形態は、フィンガープリント配列を含み配列番号3の配列とは異なるアミノ酸配列有する、薬物標的としてのマウス受容体に関する。これらの受容体は、うつ病治療、統合失調症治療、片頭痛治療、または注意欠陥多動性障害や、食欲低下や肥満症のような摂食障害の治療、に有用な化合物を同定するための薬物標的とするのが好ましい。
【0055】
「本発明のポリペプチド」という用語は、本発明によって提供される新しいポリペプチド、即ちmTAAR2〜9を指す。
【0056】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、該ベクターによって形質導入された宿主細胞、および組換技術による本発明のポリペプチドの産生に関する。ベクターは、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、または 配列番号33、を含むポリヌクレオチドを含むことが好ましく、そして、宿主細胞は該ベクターによって形質導入されていることが好ましい。
【0057】
宿主細胞には、本発明のポリヌクレオチドの発現系または発現系の一部を組み込むために、遺伝子工学による操作(例えば、形質導入、形質転換、またはトランスフェクション)がされていてもよい。ベクターの宿主細胞への導入は、Davis et al. Basic methods in molecular biology. Elsevier, New York(1986); Davis JM(ed.): Basic cell culture: a practical approach, sec. edition. Oxford University Press(2002); R. Ian Freshney: Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, fourth edition. John Wiley & Sons(Sd)1999; and Sambrook et al., Molecular cloning: a laboratory manual, 2. Ed., Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989),のような、多くの標準実験室マニュアルに記載されている方法、即ち、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染などのような方法によって、実現できる。
【0058】
宿主細胞は、HEK293,CHO,COS,HeLaのような哺乳動物細胞;SH−SY5Y,PC12,HN−10(Lee HJ, Hammond DN, Large TH, Roback JD, Sim JA, Brown DA, Otten UH, Wainer BH.: Neuronal properties and trophic activities of immortalized hippocampal cells from embryonic and young adult mice. J. Neurosci. 1990 Jun; 10(,6): 1779-1787.)、IMR-32, NB41A3, Neuro-2a, TE 671のような、神経、神経内分泌、神経芽腫、またはグリアの細胞系統;ラット、マウスのような哺乳動物の一次神経またはグリア細胞;アフリカツメガエル卵母細胞;連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、放線菌および枯草菌の細胞のようなバクテリア細胞;酵母やコウジカビ細胞のような真菌類細胞;ショウジョウバエS2、ヨトウガSf9細胞のような昆虫細胞;および植物細胞でよい。
【0059】
非常に多様な発現系を用いることができる。そのような発現系には、他のものの中に、染色体、エピゾーム、および、ウイルスから導かれる系、即ち、バクテリアのプラスミドから、バクテリオファージから、トランスポゾンから、酵母のエピゾームから、酵母の染色体要素から、ウイルス(例えば、バキュロウイルス、SV40のようなパポバウイルス、牛痘ウイルス、アデノウイルス、鳥類ポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス)から、導かれるベクターが含まれる。また、これらの結合から導かれるベクター、即ちコスミドおよびファージミドのような、プラスミドとバクテリオファージの遺伝要素から導かれるベクターも含まれる。発現系は、発現を生じさせると共に制御する制御領域を含んでもよい。一般に、宿主中でポリペプチドを産生するためのポリヌクレオチドを維持し、伝播し、または発現するのに適した系またはベクターは、どれでも使用できる。適切なヌクレオチド配列は、種々の周知・慣用技術のいずれによっても、例えば、Sambrook et al., Molecular cloning: a laboratory manual, 2. Ed., Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour, N.Y.(1989)or Borowski et al Trace amines: identification of a family of mammalian G protein-coupled receptors. Proc Natl Acad Sci USA(2001)98(16): 8966-71)に記載されているような技術によっても、発現系に挿入することが可能である。
【0060】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ヒト以外のトランスジェニック動物を提供する。ヒト以外のトランスジェニック動物は、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、または配列番号33を含むポリヌクレオチドを含むのが好ましい。
【0061】
ヒト以外のトランスジェニック動物は、周知のヒト以外の動物であればよい。好ましくは、ヒト以外のトランスジェニック動物は、哺乳動物であり、より好ましくは、ヒト以外のトランスジェニック動物は齧歯類である。最も好ましくは、本発明のトランスジェニック動物はマウスである。
【0062】
ヒト以外のトランスジェニック動物を作り出す方法は周知技術であり、例えば、Hogan, B.C., F; Lacy, E, Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual. 1986, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press; Hogan, B., et al., Manipulating the mouse embryo. 1994, Second Edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, および Joyner, A.(ed.): Gene Targeting - A Practical Approach, Second Edition. Practical Approach Series, Oxford University Press 1999, に記載されているような方法である。
【0063】
本発明のポリペプチドは、受容体に結合する化合物および本発明の受容体ポリペプチドを活性化し(アゴニスト)または活性化を阻害する化合物(アンタゴニスト)、または例えば受容体の輸送に作用することによって受容体の機能を調節する化合物、をスクリーニングする過程において採用することができる。
【0064】
本発明は、本発明のポリペプチドに結合する化合物を同定するための方法であって:
a)本発明のポリペプチドを候補化合物と接触させること、および
b)化合物が本発明のポリペプチドと結合するか否かを決定すること、
を含む方法を提供する。
【0065】
本発明はまた、本発明のポリペプチドの生物学的活性またはその発現に対して、刺激または阻害作用を有する化合物を同定するための方法であって、
a)本発明のポリペプチドを候補化合物と接触させること、および
b)該化合物が本発明のポリペプチドの機能または活性をモジュレーションしたか否かを決定すること、
を含む方法を提供する。
【0066】
一般に、上述のようなスクリーニングの手順は、本発明の受容体ポリペプチドを表面に発現する適当な細胞の産生を必要とするが、しかし、適当な細胞に発現した受容体は、細胞内に局在してもよい。そのような細胞は、哺乳動物、アフリカツメガエル、酵母、ショウジョウバエ、または大腸菌からの細胞を含む。次に、受容体を発現している細胞(または、発現した受容体を含む細胞膜)をテスト化合物と接触させ、結合、または機能的応答の刺激または阻害を測定する。
【0067】
一つのスクリーニング技術は、本発明の受容体の発現細胞(例えば、トランスフェクションされたCHO細胞またはHEK293)を、受容体活性化に起因する細胞外pH変化または細胞内カルシウム変化を測定するシステムにおいて使用することを特徴とする。この技術では、化合物を本発明の受容体ポリペプチドを発現している細胞と接触させる。次に、セカンドメッセンジャー応答、例えば、信号変換、pH変化、PI加水分解、GTP−γ−[35S]放出、またはカルシウムレベル変化を測定し、候補化合物が受容体を活性化するか阻害するかを決定する。
【0068】
もう1つの方法は、受容体阻害剤のスクリーニングを、受容体が媒介するcAMPおよび/またはアデニル酸シクラーゼ蓄積の阻害または刺激の測定によって行うことを特徴とする。この方法では、真核細胞に本発明の受容体をトランスフェクションして、受容体を細胞表面に発現させることが必要である。その細胞は次に、本発明の受容体存在下で、候補アンタゴニストに晒される。次にcAMPの蓄積量を測定する。もし候補アンタゴニストが受容体に結合し、その結果受容体結合を阻害すれば、受容体に媒介されたcAMPまたはアデニル酸シクラーゼ活性のレベルは減少するか増加することになる。
【0069】
本発明の受容体に対するアゴニストまたはアンタゴニストを検出するもう1つの方法は、U.S. Patent 5,482,835記載の酵母を基礎にした技法である。
【0070】
測定は、単に候補化合物の結合をテストすればよく、受容体を有する細胞への付着を、候補化合物と直接または間接的に関連するラベルを用いて、またはラベルされた競合物との競争を含む測定によって検出する。さらに、これらの測定法では、候補化合物が、受容体の活性化によって信号を発生させる結果になるか否かを、受容体を表面に有する細胞に適切な検出システムを用いてテストしてもよい。活性化阻害剤は、一般に、既知のアゴニスト存在下で検定し、候補化合物の存在がアゴニストによる活性化に与える影響を観測する。そのようなスクリーニング検定実施の標準的方法は、従来技術においてよく理解されている。
【0071】
本発明のポリペプチドの候補アンタゴニストの例としては、抗体、または、ある場合には、本発明のポリペプチドのリガンドと密接に関連したオリゴヌクレオチドまたはタンパク質で、例えば、リガンドの断片、または例えば神経伝達物質の、またはアミノ酸の代謝物のような小分子量の分子であって、受容体に結合するが応答を出さないために受容体の活性が阻止されるもの、を含む。
【0072】
ここまで一般的に本発明を記述してきたが、同じことが特定の実施例を参照することでより良く理解できるようになる。実施例は説明のみの目的でここに含まれており、特にそうではないと断らない限り、図に関連づけて限定することを意図したものではない。
【0073】
【表1】

【0074】
表1:微量アミン関連受容体(TAAR)の新しい命名法
公表された配列データと本発明により提供された配列との不整合が検出された全ての遺伝子および、新しく同定されたTAARには下線を付してある。Genbank登録番号は、公表された遺伝子および、公表された配列と本発明により提供された配列との不整合を紹介している。TAAR遺伝子のクローニングと配列分析は、ヒトゲノムDNAまたはcDNA(ヒト脳の全RNAに由来する、Stratagene社)を採用して、標準プロトコルに従って行なわれた。(nt=ヌクレオチド配列;aa=アミノ酸配列)。
【実施例】
【0075】
実施例において言及する市販の試薬は、特に明記しない限りメーカーの指示に従って用いた。
【0076】
実施例1:TAARファミリーメンバーの同定
TAAR遺伝子を、以前に公表されたTAAR受容体遺伝子と、Genbankから入手可能なヒト、ラット、およびマウスのゲノム配列情報(表1も参照のこと)とを、BLASTのような標準アルゴリズムを使用して比較することにより、同定した。
【0077】
この配列情報に基づき、TAAR遺伝子を、それぞれの種のゲノムDNAまたはcDNAのいずれかから、PCRにより増幅した。さらに指定しない場合は、すべての手順を基本的には、Sambrook, J., Fritsch, E.F.,und Maniatis, T.(1989). Molecular Cloning: A laboratory manual(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press)の記載に従って実施した。全ての試薬は入手できた最高純度のものであり、全ての溶液および試薬は特に明記しない限り使用前に滅菌した。
【0078】
この目的のため、オリゴヌクレオチドプライマ−(表2)を、Genbankで利用できるゲノム配列情報から導かれるTAARコーディング配列に基づいて設計した。プライマーは、アンプリコンが読み枠全体を含むように設計した。プライマーを、主にVectorNT1 ソフトウエア(VectorNT1、version 9.0.0, Informax)を用い、PCRプライマーの標準規則に従って設計した:a)プライマーは、18〜25ヌクレオチドの長さを有するべきであり、b)約50%のG/C含量を持ち、c)3ヌクレオチド以上長い逆方向の反復を含むべきでなく、d)少なくとも5’端にGかCを有するべきであり、e)3個より多くの同じヌクレオチドの単純な繰り返しを有するべきでなく、そして、f)同じPCR反応で用いられるプライマーのアニーリング温度(TM)の違いはできる小さくすべきである(詳しくは、例えば、McPherson M.J., Hames B.D., Taylor G.R.(eds.): PCR 2 - A Practical Approach. The practical approach series, Oxford University Press, 1995, ISBN: 0-19-963424-6 を参照のこと)。プライマーオリゴヌクレオチドのアニーリング温度を、Breslauer KJ, Frank R, Blocker H, Marky LA.: Predicting DNA duplex stability from the base sequence. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1986 Jun;83(11): 3746-3750、に記載された規則に基づいて計算した(この規則は、配列が対称的でなく、少なくとも1個のGまたはCを含み、最小8ヌクレオチドの長さを有することを仮定している)。オリゴヌクレオチドは、Microsynth 社(Microsynth AG, Schutzenstrasse 15, 9436 Balgach, Switzerland)にHPLC精製品質のものを注文した。
【0079】
【表2】

【0080】
表2:mTAARクローニング用プライマー
mTAAR2:mTAAR2をcDNAからクローニングした主な理由は、対応する遺伝子転写物が実際に2つのエクソンを含んでいるか否か確かめるためであった。この実験とは独立に、2個のコーディングエクソンを、ゲノムDNAから別々にクローニングした。(Tm:℃で表した融解温度で、 Breslauer KJ, Frank R, Blocker H, Marky LA.: Predicting DNA duplex stability from the base sequence. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1986, Jun;83(11):3746-3750、に従い計算した; プライマー名中の5は、5’プライマー(即ち、musTAR3_5_01)を示し、プライマー名中の3は、3’プライマーを示す)。
【0081】
実際のPCR反応物は、総体積50μlで次の組成であった:5〜100ngのゲノムDNAまたはcDNAに等しく、100〜200ngの全RNA(入手先は以下で特定)相当量である鋳型、200nMオリゴヌクレオチドプライマー、1.5mM MgCl(Invitrogen)、200mM各dNTP(Invitrogen)、1×濃縮PCR反応緩衝液(Invitrogen)、および 5U/反応物の組換えTaq DNAポリメラーゼ(Invitrogen)。PCR反応物を、UV照射装置を有する殺菌作業ベンチ下で集め、a)鋳型材料の調製、b)PCR反応物の集成、c)PCR反応とアガロースゲル電気泳動の実施、およびd)プラスミドの調製、は、それぞれ別々の部屋で行った。試薬と、PCRで増幅した材料またはプラスミドDNAとの間で起こりうる交差汚染を避けるためである。PCR反応物を、Taq DNAポリメラーゼを含む200μlのPCRカップ(Eppendorf)に室温(RT)で集め、95℃に予熱したサーモサイクラー(Geneamp 9700 金ブロック付き、Applied Biosystems)に移した。温度条件を次のように調整した。
【0082】
【表3】

【0083】
アニーリング温度:低い方のPCR反応Tm(融解温度)値(上に特定した方法で計算したもの)を有するオリゴヌクレオチドプライマーのTm−1℃を、アニーリング温度として用いた。例:プライマー1のTm=55℃、プライマー2のTm=57℃である2つのプライマー⇒アニーリング温度:54℃。
【0084】
伸長時間を、アンプリコンの長さ(kb単位)×1分、で計算した。
【0085】
サイクル数:各遺伝子に対して、いくつかのPCR反応をサイクル数25〜40で平行して行った。その後全てのPCR反応物を、アガロースゲル電気泳動で分析し、明らかに視認できる正しいサイズのPCR産物が生産されている中で、最低のサイクル数のPCR反応物を、次のクローニングに用いた。
【0086】
PCR産物を、1%超純粋アガロース(GibcoBRL)を用いてTAE 緩衝液(Invitrogen)中で作成したアガロースゲルの電気泳動によって分析した。アガロースゲル泳動を、PerfectBlue Horizontal Mini Electrophoresis System(Pequlab Biotechnologie GmbH, Erlangen, Germany)を用い、標準プロトコル(Sambrook et al., 1989)に従って行った。アガロースゲルを臭化エチジウムで染色し、PCR産物をUVトランスイルミネーター(Syngene, Cambridge, UK)で可視化し、PCR産物のサイズを、分子量標準1kb DNAラダー(Invitrogen)と比較して解析した。予想サイズのPCR産物を、ゲルから滅菌したメス(Bayha, Tuttlingen, Germany)で切り取り、アガロースゲル切片からQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN AG, Basel, Switzerland)を用い、メーカーの指示に従って抽出した。
【0087】
抽出したPCR産物を、冷エタノール/酢酸ナトリウム沈殿(Sambrook et al., 1989)によって沈殿させ、DNAペレットを10μlの10mMトリス/塩酸pH7.5に溶解した。次に、この溶液中のPCR産物を、配列決定用TOPOクローニングキット(Invitrogen;pCR4−TOPOベクターとpCR2.1−TOPOベクターを含むキットを使用)を用い、メーカーの指示に従ってクローニングした。ライゲーション産物を、TOP10の化学的にコンピテントなバクテリア(配列決定用TOPOクローニングキットに含まれる)中にメーカーの指示に従って入れて形質転換し、次いで100μg/mlアンピシリン(Sigma, Division of FLUKA Chemie GmbH, Buchs, Switzerland)を含むLB寒天プレートにプレートし、37℃1晩インキュベートした。バクテリアのコロニーを「miniprep PCR」と呼ばれる方法によって分析した。すなわち:コロニーを滅菌した接種ループ(Copan Diagnostic S.P.A., Brescia, Italy)を用いて採取し、アンピシリン100μg/mlを含む新しいLB寒天プレートに移した。次に同じ接種ループを、それぞれ1.5ml Eppendorfカップ(Eppendorf)中の50μlの10mMトリス/塩酸pH7.5に入れ、ループ上に残っているバクテリアを溶液中に移した。次にこのバクテリア懸濁液を95℃5分間熱し、得られる溶菌液の、PCR反応物50μl当たり1μlを、PCR反応の鋳型に用いた。プライマーには、プラスミドpCR4−TOPOとpCR2.1−TOPOの複数クローニング部位の両側に接着するプライマー(T7と逆M13、配列:プライマー“T7”:5’−cgggatatcactcagcataat−3’、プライマー“逆M13”:5’−caggaaacagctatgacc−3’)を用いた。PCR反応物を、上述のように集成し、次の温度概要で実施した:
【0088】
【表4】

【0089】
PCR産物を、上述通り、アガロースゲル電気泳動によって分析した。上に概説した方法によって、予想サイズのクローニングされたDNA断片が検出されたバクテリアのコロニーを、次のプラスミドの調製のために用いた。
【0090】
プラスミドの調製のため、「miniprep PCR」によって予想サイズの挿入を有すると同定されたバクテリアのコロニーを、アンピシリン100μg/mlを含むLB培地のバクテリア液体培養液への植付けに用い、培養液は水平シェイカーで、37℃、一晩インキュベートした(Sambrook et al. 1989)。プラスミドを、バクテリア液体培養液からHiSpeed Plasmid Maxi Kit(QIAGEN AG, Basel, Switzerland)を用い、メーカーの指示に従って単離した。プラスミド濃度をUV/可視分光光度計ultrospec 3300 pro(Amersham Biosciences Europe GmbH, Otelfingen, Switzerland)を用い、260nmのODを測定して決定した。単離したプラスミド中の挿入のサイズを、制限エンドヌクレアーゼEcoRl(New England Biolabs, products distributed in Switzerland by Bioconcept, Allschwil, Switzerland)を用いた制限酵素消化によって解析した;EcoRIの制限部位がpCR4−TOPOとpCR2.l−TOPOの両ベクターの複数クローニング部位の両側にあり、それ故、クローニングされた挿入を、EcoRI制限酵素消化によりプラスミドから切り離すことができる。各プラスミドの0.5μgを、EcoRIを用い、全容積20μl中でメーカーの推奨に従って消化した。制限酵素消化産物を、上記通りアガロースゲル電気泳動により分析した。予想サイズの挿入を有することが制限酵素解析によって明らかになったプラスミドは、外部会社(Microsynth社、Schutzenstrasse 15,9436 Balgach、Switzerland)によるDNA配列分析に付した。
【0091】
DNA配列分析で明らかになった、クローニングされたTAAR遺伝子読み枠のDNA配列を、これまでに公表された配列、および/または、ゲノム配列情報から検索したTAAR遺伝子の配列と比較した。PCR反応によって導入された可能性があるDNA配列情報のエラーを、各TAAR遺伝子ごとに、独立したPCR反応によってクローンニングされた2〜3のDNAプラスミドの配列を比較して、除去した。:独立なPCR反応において同じPCRエラーが全く同じ位置で起こる確率は基本的にゼロであるので、各々の遺伝子に対する独立の配列が一致することによって、きわめて正しいDNA配列が明らかになった。
【0092】
鋳型材料:我々は、可能な場合には、同じ近交系の、ゲノム配列情報をGenbankで利用できた系統から得られる標準化された鋳型材料を用いるように特別の注意を払った。C57BL/6のマウス、またはこのマウス系統に由来するゲノムDNAを、Jackson Laboratory(600 Main Street, Bar Harbor, Maine 04609 USA)から購入し、近交系 Crl:Wi のラットを、Charles River Laboratories France(Les Oncins,France; belongs to Charles River Laboratories,Inc 251 Ballardvale Street, Wilmington, MA 01887-1000,USA)から購入した。成体Crl:Wiラットから生体組織採取した尾部のゲノムDNAを、基本的に:Laird PW, Zijderveld A, Linders K, Rudnicki MA, Jaenisch R, Berns A.: Simplified mammalian DNA isolation procedure. Nucleic Acids Res. 1991 Aug 11;19(15): 4293に従って調製した。DNA濃度を、上述のように260nmのODを測定して決定し、DNA濃度を100ng/μlに調整した。DNAを小分けして4℃で保存した。ヒトゲノム遺伝子をStratagene から購入した。
【0093】
cDNAを商業的に購入するか(ヒト:ヒト脳,小脳のMarathon-Ready cDNA, BD Biosciences Clontech)、または、全RNAから作成した。RNAを商業的に購入するか(ヒト:ヒト成人全脳, 男性,全RNA, Stratagene, Stratagene Europe, P.O. Box 12085 1100 AB Amsterdam, The Netherlands)、または生後3日目のC57BL/6マウスまたはCrl:Wiラットの幼獣から下記のようにして抽出した。
【0094】
RNAの単離:
RNAを、組織サンプルから基本的にChomczynski,P. and Sacchi, N.: Single-step method of RNA isolation by acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction.(Analytical Biochemistry(1987)162, 156-159)に従って分離した。RNAを取り扱う基本的な規則および原理は、Sambrook et al.(1989)に詳述されている。
【0095】
ラットまたはマウスの幼獣を、断頭によって殺した。脳全体を取り出し、重さを量り、5mlのガラスホモジナイザーに移し、10×体積のTrizol試薬(Invitrogen)中でホモジネートした。全RNAをこのホモジネートからメーカーの指示に従って抽出した。各半脳に由来するRNA沈殿物を、10mMトリス/塩酸pH7.0 200μlに溶かした。微量のゲノムDNAを、DNA分解酵素I消化(10μlの100μM MgClと5μl RNAseフリーDNAse I,10U/μl,Rocheを加え37℃1時間インキュベート)して除いた。DNA分解酵素Iを、溶液からSambrook et al.(1989)に従いフェノール/クロロフォルム抽出(HO飽和フェノールpH7.0,Sigma)によって除いた。RNAを、冷エタノール/酢酸ナトリウム沈殿で沈殿させ(Sambrook et al.1989)、10mMトリス/塩酸pH7.0に溶解し、RNA濃度を、上記通り260nm ODを測定して決定した。このRNA標品を、cDNAの合成に用いた。
【0096】
cDNA合成:1.5ml Eppendorfカップ中で:総量11μl中に2μg全RNAと1μlの0.5μg/μlオリゴdT12〜18(Invitrogen)を混合した。混合物を70℃10分間加熱し、氷上に置き、次の試薬を加えた:
【0097】
5×反応緩衝液4μl(酵素と共に加える)、DTT 2μl(酵素と共に加える)、dNTPs(各10mM,Amersham)1μl、RNAse阻害剤RNAse−OUT(Invitrogen)0.5μl、Superscript II逆転写酵素(Invitrogen)0.8μl。反応物を短時間ボルテックスし、1時間42℃でインキュベートし、酵素を70℃10分間保温して不活性化し、反応物を10mM Tris/HCl pH7.0で最終体積100μlにした。cDNAを使用に先だって小別けにし、−80℃で保存した。
【0098】
一般に、PCR反応による配列エラーと、鋳型材料から導入される多型性による配列エラーを取り除くため、特別な処置を講じた: a)サイクル数:それぞれのTAAR遺伝子に対して、サイクル数の異なる数回のPCR反応を行い、特定の生産物をクローニングに十分な量だけ供給した、最低サイクル数のPCR反応物を用いた。b)遺伝子当たり数個の独立なクローン:各TAAR遺伝子は、独立のPCR反応によって2〜3回クローニングし、正しい配列を、これらの独立に生成されたプラスミドの配列の一致から推測した:あるPCRエラーが、全く同じ位置で複数の独立なPCR反応において起こる可能性は基本的にゼロであるので、これらのプラスミドの配列のアライメントは、遺伝子のきわめて正しい配列をもたらす。C)標準化された鋳型材料:近交系の系統間の差異は、配列情報に重大な不整合をもたらすため、我々は、TAAR遺伝子クローニングのために用いる鋳型材料の選択にも特別の注意を払った:マウス・ゲノムDNAをJackson Laboratory(600 Main Street, Bar Harbor, Maine 04609 USA;近交系C57BL/6のゲノムDNAを使用した。この系統が、Genbankでマウス・ゲノム配列データベースに採用されていたからである)から購入し、ヒトゲノムDNAをStratageneから購入し、また、ラット・ゲノムDNAをCharles River Laboratories France(Les Oncins, France; belongs to Charles River Laboratories, Inc., 251 Ballardvale Street, Wilmington, MA 01887-1000,USA;ラット系統Crl:Wiを選択した。この系統がGenbank でラット・ゲノム配列データベースに採用されていたからである)から購入した近交系Crl:Wiのラットから単離した。cDNA合成のために、ラットとマウスの全脳の全RNAを、Crl:WiラットまたはC57BL/6マウスのいずれかの生後3日の幼獣から、Trizol試薬を採用し、メーカーの推奨に従って単離した。ヒト全脳RNAを、Stratageneから購入した。cDNAを、Invitrogenから購入したSuperScriptII逆転写酵素とAmersham から購入したdNTPを使用し、メーカーの推奨に従って合成した。
【0099】
実施例2: 細胞培養および安定した細胞系統の生成

a)サブクローニング:哺乳類の細胞系統でTAAR受容体を発現させるために、TAARの全読み枠を所持しているDNA断片を、pCR4−TOPOまたはpCR2.1−TOPOベクター(Invitrogen)から、pIRES−NEO2(Rees S et al., Bicistronic vector for the creation of stable mammalian cell lines that predisposes all antibiotic-resistant cells to express recombinant protein. Biotechniques,1996 Jan;20(1): 102-4, 106, 108-110)へサブクローニングした。
【0100】
この目的のため、TAARの全読み枠を有するDNA断片を、それぞれのTOPOベクターから、EcoRIを用いた制限酵素消化および、それに続く上述のような〜1kbの断片のアガロースゲル電気泳動による精製およびゲルからの抽出により切り離した。平行して、pIRES−NEO2ベクターを、EcoRIによって線状化し、エビのアルカリフォスファターゼ(Roche)によりメーカーの指示書に従って脱リン酸化した。TAARの全読み枠を有するDNA断片を、線状化したpIRES−NEO2ベクターにT4 DNAリガーゼ(New England Biolabs)を用いてライゲーションした。線状化したpIRES−NEO2ベクター30ng、各TAARコーディング配列を有するDNA断片100〜300ng、1×ライゲーション緩衝液(最終濃度;酵素を10×濃縮物として加えた)および、T4 DNAリガーゼ1μlを、全容量20μlに混合した。反応は、室温で2〜3時間進行させ、ライゲーション産物を、化学的にコンピテントなTOP10細胞中に、TOPOライゲーションの項に記載したようにしてトランスフォームした。形質転換されたバクテリアのプレートおよびバクテリアのクローン採取を、先にゲノムDNAまたはcDNAからのTAAR遺伝子のPCRクローニングの項で述べた通りに行った。採取したバクテリアクローンを、アンピシリン100μg/mlを含むLB 5ml中の液体培養に接種するために使用した。この液体培養物を、QlAprep Miniprep Kit(QIAGEN)を用いた小規模なプラスミド調製のために、メーカーの指示書に従って用いた。精製したpIRES−NEO2由来のプラスミドの構成物を、予想サイズの挿入の存在を確認するため、EcoRIとアガロースゲル電気泳動を用いた制限酵素分析によって分析した。予想サイズの挿入を有することを確認したプラスミドについては、挿入の正しい方向性と配列を確かめるために、DNA配列解析がMicrosynth社により行われた。正しい方向の正しい挿入を有するプラスミドを、哺乳類細胞系統でそれぞれのTAARを発現させるために用いた。
【0101】
b)細胞培養: 使用した基本的な細胞培養操作と技術は、Davis JM(ed.): Basic cell culture, sec. edition. Oxford University Press 2002, ISBN: 0199638535、に記載されている。TAARを、HEK細胞(ATCC number: CRL-1573; described in Graham, F.L., Smiley, J., Russell, W.C., und Nairn, R.(1977)Characteristics of a human cell line transformed by DNA from human adenovirus type 5. Journal of General Virology 36, 59-74)中で発現させた。培地を、Invitrogen Cat.#31966-021の、Glutamax I、ピルビン酸ナトリウム、ピリドキシン、およびグルコース4,500mg/Lを加えたDMEM;ペニシリン/ストレプトマイシン;および熱不活性化されたウシ胎児血清10%、で構成した。細胞を、トリプシン/EDTA(Invitrogen Cat. # 25300-062)を用い、1:10〜1:30の比率で、継代した。
【0102】
c)安定した細胞系統:安定にトランスフェクションされた細胞系統生成のため、HEK細胞を、各TAARのpIRES−NEO2発現ベクターにより、Lipofectamin 2000トランスフェクション試薬およびGlutamax添加Optimem 1還元血清培地(Invitrogen Cat. # 51985-026)を用い、Lipofectamine 2000データシート記載の推奨に従って、トランスフェクションした。24時間後、トランスフェクション後の細胞をトリプシン処理し、1mg/mlのG418を補充した培養液で1:10〜1:300に希釈し、90mm組織培養皿(Nunc)に移した。培養液を毎日入れ換えた。トランスフェクションの7〜10日後、十分に単離されたクローンを観察し、直径が約3mmに達した時に採取した。クローンの採取は、クローン全体を培養皿から1ml Gilsonピペットを用いて分離し、クローンを、1.5ml Eppendorfカップ中でトリプシン/EDTA(Invitrogen Cat. # 25300-062)を用いてトリプシン処理し、そしてそれらを48ウエルの皿にプレートすることによって行ない、続いて、そこからより広い培養表面積(48ウエル−12ウエル−60mm等)へと細胞を移動させることにより、細胞を拡大した。新しいプレートに細胞を移動させるときには、何時も注意深く細胞をトリプシン処理した。単一クローンを選択するとすぐに、培地のG418濃度を500μg/mlに減じた。
【0103】
個々のクローンを十分に拡大させた後、Amersham cAMP Biotrak Enzymeimmunoassay(EIA)Systemによって、微量アミン(p−チラミン、β−フニルエチルアミン(β−PEA)、トリプタミン、オクトパミン)または、化合物のセレクション(5−HTセロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン、ヒスタミン)を用いて、機能測定のテストをした。安定にトランスフェクションされた細胞系統生成の成功率は、テストしたクローンの約1/3であった。この高い成功率は、pIRESベクターの使用により可能になった。このベクターから、TAARは、TAARコーディング配列とNEOコーディング配列を有する2シストロンの転写物として、同じmRNA分子中に発現される。
【0104】
【表5】

【0105】
表3:mTAAR1の薬理学。表題の受容体を安定に発現しているHEK293細胞が、リストした各化合物による刺激に応答して産生したcAMP量を、cAMP Biotrak EIA System(Amersham)を用いて測定した。EC50値を、μMで示している(少なくとも3回の独立の実験の平均:EC50値は、30μM〜0.1nMの範囲で均等に分布した12の濃度で、各濃度点を二重にとって行った実験から計算してある)。最大応答は、p−TYRによって誘導された最大cAMPレベルのパ−セントで表示してある。ドーパミンについての実験では、EC50値を、p−Tyramineが到達するレベルと比較して50%である最大cAMPレベルに基づいて計算した。
【0106】
mTAAR1以外の全てのmTAARについて、最小10の独立なクローンをテストした。もし微量アミンまたは選択した重要な化合物のいずれにも応答するものが検出できなかった場合は、そのTAARは、この一定のテスト条件では全く化合物に応答しないと結論した。
【0107】
cAMP測定:cAMPを、Amersham社のcAMP Biotrak Enzymeimmunoassay(EIA)System を用い、製品マニュアルに記載されているように、いわゆる非アセチル化EIA手順に従って測定した。一般の手順もまた、Notley-McRobb L. et al.,(The relationship between external glucose concentration and cAMP levels inside Escherichia coli: implications for models of phosphotransferase-mediated regulation of adenylate cyclase. Microbiology. 1997 Jun;143(Pt 6): 1909-18)および Alfonso A, de la Rosa L et al.(Yessotoxin, a novel phycotoxin, activates phosphodiesterase activity. Effect of yessotoxin on cAMP levels in human lymphocytes. Biochem. Pharmacol. 2003 Jan 15;65(2):193-208.)に記載されている。
【0108】
プロトコルに次の小修正を加えた:96ウエルプレート中のHEK細胞を刺激後、予冷した(−20℃)等量のエタノールを加えて反応を止めた。細胞の融解は、キットで供給された融解緩衝液を加えることによっては達成されなかったが、96ウエルプレートを−80℃に最短6時間(数日まで)移すことにより達成された。その後96ウエルプレートの内容を50℃で一晩乾燥させ、96ウエルプレートに残った物質を測定緩衝液(キットの全ての試薬を再懸濁するための緩衝液)200μlに再懸濁した。再懸濁液を測定緩衝液で逐次希釈して測定した。
【0109】
系統学的分析
ヒト、マウス、ラットのゲノム配列(human:NCBI reference draft 34, July 2003; mouse:NCBI draft 32, October 2003; rat:Rat Genome Sequencing Consortium draft 3, June 2003)を、全TAAR遺伝子同定のための、特にこれまで未知で存在可能性のあるTAARファミリーメンバーのための企業内ゲノム配列解析手段を利用して、スクリーニングした。このスクリーニングにより、ヒト、マウス、ラット全体で44のTAAR遺伝子が同定され、その中22が新しい遺伝子(2つの偽遺伝子と1つのヒトTAAR7遺伝子断片を含む)であり、11遺伝子がこれまでに公表された配列と不整合であった。単純なDNAおよびタンパク質の配列およびより複雑なパラメーター、例えばリガンドポケットベクターのGCRP薬理作用団類縁関係およびTAAR遺伝子の系統学的関係、とゲノム配列とを比較することにより、図3にリストしたTAAR受容体は、ヒト、マウス、およびラットの完全なTAAR受容体ファミリーを表しているという結論が強く支持される。ゲノム配列情報に基づくTAAR遺伝子の同定は、TAAR2を除く全てのTAARが単一のエクソンによってコードされているという事実によってきわめて容易になった。
【0110】
これに関連して、ヒト、マウス、およびラットのゲノムのTAAR遺伝子配列を解析した(ヒトについては図1を参照のこと)。遺伝子は、全体としてヒトで約109kb(染色体6q23.1)、マウスで192kb(染色体10A4)、ラットで216kb(染色体1p12、全ての染色体領域はLocusLinkによって所属をきめた)の非常にコンパクトな領域にマップされ、同じ染色体領域に、他には注釈を付けたり予測したりする遺伝子は無かった。2つのエクソンによってコードされるTAAR2を例外として、全てのTAAR遺伝子のコード配列は単一のエクソンに位置し、3つの動物種すべてについて約1kbの長さである点が非常に似通っている(範囲:999〜1089bp)。ヒト6番染色体の領域6q23.1は、統合失調症感受性座位として知られており(Levinson et al.,: Multicenter linkage study of schizophrenia candidate regions on chromosomes 5q, 6q, 10p, and 13q: schizophrenia linkage collaborative group III. Am.J.Hum.Genet. 2000 Sep;67(3): 652-63. Epub 2000 Aug 02.; Martinez et al., Follow-up study on a susceptibility locus for schizophrenia on chromosome 6q. Am.J.Med.Genet.1999 Aug 20;88(4): 337-43)、これが、精神障害に対する薬物標的としてのTAARの可能性を明白に示すことを指摘するのは興味深いことである。
【0111】
ヒトTAAR1〜5、TAAR6、8、および9は、逆方法の読み枠を有する遺伝子の2ブロックに配置されていることが見出された。最も著しいヒトと齧歯類の違いは、ヒトゲノムから機能的TAAR7パラログが完全に欠如していることである。TAAR7はラットにおいては全TAARファミリーのほとんど半分にあたるものであるが、これに対して、我々は、rTAAR7hにきわめて高い類似性をもつ退化遺伝子断片のみをヒトにおいて検出した。さらに、TAAR3および4は、齧歯類では機能している受容体であるが、ヒトでは偽遺伝子である。hTAAR3Ψと4Ψの偽遺伝子化はおそらく最近の出来事である。その理由は、これらの遺伝子が全体として非常によく保存されており、コーディング配列中の塩基対変化はそれぞれ2カ所と3カ所のみであり、これが遺伝子を機能的でなくしているからである。互いに異なる総数9個のラットのTAAR7パラログ(2個の偽遺伝子rTAAR7fΨとrTAAR7iΨを含む)と6個のマウスのTAAR7パラログ(1個の偽遺伝子mTAAR7cΨを含む)は、このように密接に関連している遺伝子のファミリー内での、著しい齧歯類間差異を表しており、これは、リガンドポケットベクターのGCRP薬理作用団類縁関係の解析から求められた、個々のマウスおよびラットTAAR間の、リガンド結合の顕著な差異予測に反映されている(以下を参照のこと)。全体としては非常に類似したタンパク質配列を有する受容体の予想リガンド結合ポケットに検出された顕著な差異は、全体のアミノ酸配列の同一性が、マウスおよびラットTAARの薬理学的側面についての類似度を予測する適当な尺度ではないことを示しており、行動学的な動物モデルを開発するためには綿密な注意が必要であるという事実を示している。
【0112】
ヒトおよび齧歯類TAAR遺伝子のコンパクトな染色体配置と、各種内に存在する多数の非常に似通った遺伝子とが端緒となり、TAAR遺伝子の系統学的関係を3種全てに亘って解析した。系統学的解析は、TAAR遺伝子が推定上の共通祖先に由来し、そこから全8回の遺伝子重複事象を経て進化し、結果として霊長類と齧歯類の系統分離前に9個の遺伝子セットとなったことを示している(図2;共通の祖先からの遺伝子重複事象、ヒトと霊長類系統へと導く種形成、および齧歯類系統内の遺伝子重複はそれぞれ個々にひとまとめにしてそれぞれ数字1、2、3で表している)。7つのケースでは、ヒト、マウス、およびラットへと導く2つの種形成事象により、これらの遺伝子はさらに重複し、3つのオーソログセットとなった。齧歯類TAAR7と8のオーソログは、さらなるラットとマウスの系統内での独立の重複によって進化した。これらの出来事が上に概説した順序でのみ起こり得た点を指摘しておくことは重要である。
【0113】
系統樹の全体の構造は、直ちに、TAARファミリーが3つのサブグループ(図3の灰色の囲みによって示す)に区別されることを、われわれに示唆した。以下に詳述するように、サブグループの概念は、DNA配列全体だけから推定される恣意的な区別ではなく、重要な機能的差異を反映していることが明らかになった。
【0114】
合計5つの偽遺伝子が、ヒト、ラット、およびマウスに存在する。全ての偽遺伝子は、小さな変化の導入によって、機能蛋白質に変換することができた。以下は偽遺伝子化を引起した可能性がある、最も明らかで確からしい突然変異事象である:hTAAR3Ψは、早期終止を引き起こしている位置135の2塩基対(CA)の欠失のために偽遺伝子となった可能性が最も高い。Cysを終止コドンに変える点突然変異(A411T)と2つの挿入(G605、A750)が、hTAAR4Ψの偽遺伝子化を引き起こした可能性がある。rTAAR7fΨは、他の全てのTAAR7メンバーに比べて2つの明らかな相違、即ち、おそらく挿入事象によって引き起こされた位置726の付加塩基対12個と、Trpを終止コドンに変える点突然変異(A515G)とを有する。2番目のラット偽遺伝子rTAAR7iΨは、位置90で10塩基対を失っており、これが早期終止を引き起こしている。またmTAAR7cΨは、位置895(細胞内ループ3)で15塩基対と、位置513で7塩基対を失い、これが早期終止を引き起こしている。まとめると、TAARファミリー内では、偽遺伝子化は、点突然変異、欠失、および挿入のような全ての可能な突然変異事象によって引き起こされたと思われる。その事象は、非常によく保存された全体の配列からみて、かなり最近起こったと思われる。そのような修復された偽遺伝子の薬理学は、進化のあいだに起こった適応過程に関連したTAARの重要性について洞察を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1はマウスのTAAR遺伝子の染色体上の局在を示す。染色体上のTAAR遺伝子の相対的位置を、各遺伝子の単一のコーディングエクソンを表すボックスで示す。2個のエクソンによってコードされるmTAAR2については、ボックスは、読み枠の95%以上を収める第2のコーディングエクソンの位置を示す。ボックスの幅は、それぞれのコーディング配列の長さに比例したものではなく、色は、本文で議論する受容体サブグループ内の区別を示す。ボックス上の矢印は、mTAAR遺伝子の方向(→:順鎖方向の読み枠、←:逆鎖方向の読み枠)を示す。(Ψ=偽遺伝子)
【図2A−1】図2は、全ての機能的なTAARのアライメントを示す。ヒト、ラット、およびマウスのTAAR全てにおいて保存されているアミノ酸残基は、黒い影を付けて強調している。特徴的なTAARフィンガープリントモチーフが、TM VIIに局在している。 機能的なヒトTAARのアライメント。予想されたTMの位置:
【表6】


【図2A−2】図2は、全ての機能的なTAARのアライメントを示す。ヒト、ラット、およびマウスのTAAR全てにおいて保存されているアミノ酸残基は、黒い影を付けて強調している。特徴的なTAARフィンガープリントモチーフが、TM VIIに局在している。 機能的なヒトTAARのアライメント。予想されたTMの位置:
【表7】


【図2A−3】図2は、全ての機能的なTAARのアライメントを示す。ヒト、ラット、およびマウスのTAAR全てにおいて保存されているアミノ酸残基は、黒い影を付けて強調している。特徴的なTAARフィンガープリントモチーフが、TM VIIに局在している。 機能的なヒトTAARのアライメント。予想されたTMの位置:
【表8】


【図2B−1】図2Bは、機能的なマウスTAARのアライメントである。
【図2B−2】図2Bは、機能的なマウスTAARのアライメントである。
【図2B−3】図2Bは、機能的なマウスTAARのアライメントである。
【図2B−4】図2Bは、機能的なマウスTAARのアライメントである。
【図2B−5】図2Bは、機能的なマウスTAARのアライメントである。
【図2C−1】図2Cは、機能的なラットTAARのアライメントである。
【図2C−2】図2Cは、機能的なラットTAARのアライメントである。
【図2C−3】図2Cは、機能的なラットTAARのアライメントである。
【図2C−4】図2Cは、機能的なラットTAARのアライメントである。
【図2C−5】図2Cは、機能的なラットTAARのアライメントである。
【図3】図3は、DNA配列に基づいたヒト、ラット、およびマウスにおけるTAAR遺伝子の系統学的関係を示す。 その後に起こる遺伝子重複事象を、分岐点の数字で示す((1):推定共通祖先からの遺伝子重複;(2):霊長類系統と齧歯類系統の分離へと導く種形成;(3):マウスとラットの種へ導く遺伝子重複)。外集団は、ヒト5−HT受容体との配列比較に基づいて配置された。TAAR遺伝子を、異なるサブファミリーごとにまとめて灰色の影を付けた囲みで示す。Ψ:偽遺伝子、*:齧歯類TAAR7パラログ残遺物に類似した、ヒトゲノム中でラットTAAR7hに最も高い類似性を有する遺伝子断片。スケール:JTTタンパク質距離。
【図4】図4は、偽遺伝子hTAAR3(古い名称GPR57Ψ)の「修復」を示す:修理された読み枠の133〜134位置に2塩基対CCが付加され、それによって、修復前は早期終止コドンTCAであったものが修復された。
【図5A】図5は、リガンドポケットベクター(計算モデルから決定された、その残基がおそらくリガンド結合に参加しているアミノ酸)の性質に基づく、TAARの類縁関係を示す。A:Kratochwil et al.(2004)により推定した、ヒト、ラット、およびマウスTAARタンパク質のリガンドポケットベクター(LPVs)。各TAARが、最も緊密に類似しているリガンド結合ポケットを有するタンパク質が互いに隣り合うように並べられている。アミノ酸残基の物理化学的性質が、着色した影によって示されている(青:疎水性/芳香族残基;緑:脂肪族極性残基;赤/深紫:陽電荷/陰電荷を有する残基;オレンジ/黄:グリシン/プロリン残基、これはTMドメイン中で屈曲を誘発している可能性がある;ピンク:ヒスチジン;淡青:チロシン)。それぞれのアミノ酸の膜貫通ドメイン(TM1〜7)中の位置が、細胞外ループII(ECII)の位置と共に、図の下部のボックスで示されている。推定TM領域の正確な位置については、図2の説明を参照のこと。
【図5B】図5は、リガンドポケットベクター(計算モデルから決定された、その残基がおそらくリガンド結合に参加しているアミノ酸)の性質に基づく、TAARの類縁関係を示す。B:TAARタンパク質のリガンド結合ポケットの薬理作用団類似性の階層的ツリー表示。次のタンパク質は、「修復された偽遺伝子」として分析に含めた。かっこ中は修飾を示す:hTAAR3Ψ(挿入:C135−、A136−)、hTAAR4Ψ(点突然変異:T411A、欠失:−605G、−750A)、mTAAR7cΨ(挿入:C513−)、rTAAR7fΨ(点突然変異:G515A)、rTAAR7iΨ(挿入:A90−).スケールバー:薬理作用団多様性単位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項2】
配列番号7を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号9を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号11を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号13を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項6】
配列番号15を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項7】
配列番号17を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項8】
配列番号22を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項9】
配列番号24を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項10】
配列番号26を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項11】
配列番号28を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項12】
配列番号30を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項13】
配列番号32を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項14】
配列番号34を含む、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載のポリペプチドの、薬物標的としての使用。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項記載のポリペプチドの、統合失調症治療に有用な化合物を同定するための薬物標的としての使用。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項記載のポリペプチドの、片頭痛治療に有用な化合物を同定するための薬物標的としての使用。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1項記載のポリペプチドの、うつ病治療に有用な化合物を同定するための薬物標的としての使用。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれか1項記載のポリペプチドの、摂食障害の治療に有用な化合物を同定するための薬物標的としての使用。
【請求項20】
請求項1〜14のいずれか1項記載のポリペプチドの、注意欠陥多動性障害の治療に有用な化合物を同定するための薬物標的としての使用。
【請求項21】
配列番号4を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項22】
配列番号6を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項23】
配列番号8を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項24】
配列番号10を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項25】
配列番号12を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項26】
配列番号14を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項27】
配列番号16を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項28】
配列番号21を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項29】
配列番号23を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項30】
配列番号25を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項31】
配列番号27を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項32】
配列番号29を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項33】
配列番号31を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項34】
配列番号33を含む、単離されたまたは組換え型のポリヌクレオチド。
【請求項35】
請求項21〜34のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項36】
請求項35記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項37】
請求項36記載のポリヌクレオチドを含むヒト以外のトランスジェニック動物。
【請求項38】
配列NSXXNPXXZXXXBXWFを含み、配列中、Xは自然に存在するいずれのアミノ酸であり、Zはチロシンまたはヒスチジンであることができ、Bはチロシンまたはフェニルアラニンであることができる、フィンガープリントモチーフ。
【請求項39】
請求項38記載のフィンガープリントモチーフを含む配列の、TAARを同定するための使用。
【請求項40】
請求項38のフィンガープリントモチーフを含み、配列番号3の配列とは異なる配列を有する、単離されたまたは組換え型のポリペプチド。
【請求項41】
薬物標的としての、請求項40記載のポリペプチド。
【請求項42】
統合失調症治療、片頭痛治療、うつ病治療、摂食障害の治療、または注意欠陥多動性障害の治療に有用な化合物を同定するための薬物標的としての、請求項40記載のポリペプチド。
【請求項43】
a)請求項1〜14のいずれか1項または請求項40記載のポリペプチドを、候補化合物に接触させること、および
b)化合物が前記ポリペプチドに結合するか否かを決定すること、
を含む、請求項1〜14のいずれか1項または請求項40記載のポリペプチドに結合する化合物を同定するための方法。
【請求項44】
a)請求項1〜14のいずれか1項または請求項40記載のポリペプチドを、候補化合物に接触させること、および
b)前記該化合物が前記ポリペプチドの機能または活性をモジュレーションしたか否かを決定すること、
を含む、請求項1〜14のいずれか1項または請求項40記載のポリペプチドの生物学的活性に対して、刺激または阻害効果を有する化合物を同定するための方法。

【図1】
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【図2A−1】
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【図2A−2】
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【図2A−3】
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【図2B−1】
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【図2B−2】
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【図2B−3】
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【図2B−4】
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【図2B−5】
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【図2C−1】
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【図2C−2】
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【図2C−3】
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【図2C−4】
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【図2C−5】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2006−20634(P2006−20634A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−199984(P2005−199984)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】