説明

マクラギの逸脱防止ガードおよび逸脱防止ガード付きマクラギ

【課題】逸脱防止ガードの付設によるマクラギの剛性増大を抑えて、マクラギをバラスト道床やコンクリート路盤に支障なく敷設できるようにしたマクラギの逸脱防止ガードおよび逸脱防止ガード付きマクラギを提供する。
【解決手段】ラダーマクラギ本体1と、当該マクラギ本体1に敷設されるレール8の外側に沿ってマクラギ本体1に設けられた逸脱防止ガード2とから構成する。逸脱防止ガード2はレール8の長手方向に所定間隔おきに形成されたスリット2aとレール8の長手方向に連続して挿通されたPC鋼材4を有する。各スリット2aに弾性目地部材3を充填する。マクラギ本体1は平行に伸びる複数の縦梁1a,1aと当該縦梁1a,1a間に設置された複数の繋ぎ梁1cとから形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に逸脱防止ガードの付設によるマクラギの剛性増大を抑え、マクラギをバラスト道床やコンクリート路盤に直接支障なく敷設できるようにしたマクラギの逸脱防止ガードおよび当該逸脱防止ガードを備えた逸脱防止ガード付きマクラギに関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行中の列車が地震などで脱線して対向列車と衝突したり、高架橋から転落するといった事態になれば、多くの負傷者がでて大惨事になることは容易に想像できることであり、新潟県中越地震における上越新幹線の列車脱線を契機に、走行中の列車の安全性が大きな課題になっている。
【0003】
従来、列車の脱線を防止する方法として、マクラギに当該マクラギの上に敷設されたレールの内側または外側に沿って逸脱防止ガードを取り付ける方法が知られており、上越新幹線の列車脱線事故を受けて、特に注目されてきている。
【特許文献1】特開2004−324245号公報
【特許文献2】特開2004−324287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
逸脱防止ガードは、一般に鋼材または鉄筋コンクリートによってマクラギと一体に形成されるため、逸脱防止ガードを備えたマクラギは逸脱防止ガードを有することで曲げ剛性が大きい。
【0005】
このため、バラスト道床やコンクリート路盤に、特にラダーマクラギを敷設するに際して、軌きょうを持ち上げ、バラストの突き固めや冶具による整正を行う場合、マクラギの曲げ剛性が大き過ぎるとバラスト道床への変位・追従がほとんど無いか非常に小さいため、マクラギの敷設・整正が非常に困難になる等の課題があった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に逸脱防止ガードの付設によるマクラギの剛性増大を抑えて、マクラギをバラスト道床やコンクリート路盤にも支障なく敷設できるようにしたマクラギの逸脱防止ガードおよび当該逸脱防止ガードを備えた逸脱防止ガード付きマクラギを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のマクラギの逸脱防止ガードは、マクラギに当該マクラギに敷設された一対のレールの内側若しくは外側に沿って設けられたマクラギの逸脱防止ガードであって、前記レールの長手方向に所定間隔おきに形成されたスリットと前記レールの長手方向に連続して挿通された線状部材を備えてなることを特徴とするものである。
【0008】
本発明は特に、平行に伸びる複数の縦梁と当該縦梁間に設置された複数の繋ぎ梁とからなるラダーマクラギに適している。すなわち、ラダーマクラギは2本の縦梁と複数の繋梁とから梯子状に構成されていて、一般に剛性が大きい。
【0009】
そのため、鋼材などからなる逸脱防止ガードを付設すると剛性がさらに大きくなって、バラスト道床やコンクリート路盤への変位・追従がほとんど無いか非常に小さくなるため、ラダーマクラギの敷設・整正が非常に困難になる。
【0010】
本発明の場合、逸脱防止ガードに複数のスリットを所定間隔おきに形成して逸脱防止ガードの付設によるマクラギの剛性増大が抑えられているため、バラスト道床やコンクリート路盤への変位・追従が可能になり、ラダーマクラギの敷設・整正が非常に容易になる。
【0011】
また、逸脱防止ガードにはPC鋼線やPC鋼より線などのPC鋼材、あるいはアラミド繊維などの新素材(FRP)からなる連続繊維補強材からなる線状部材が連続して挿通され、各スリット間が互いに連結されていることで、互いに協同して外力に抵抗することができるため、万一脱輪して車輪がスリット間に激しく当たったとしても、車輪をレールからそれ以上逸れることのないように確実に保持することができ、スリットを有することによる強度および機能の低下もない。
【0012】
なお、逸脱防止ガードはマクラギの成型時にマクラギと一体に形成することも、また取付ボルト等による後付け方式によってマクラギに後から取り付けることも可能である。
【0013】
請求項2記載のマクラギの逸脱防止ガードは、請求項1記載のマクラギの逸脱防止ガードにおいて、表面が吸音材によって被覆されてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明は特に、列車走行時の騒音の低減を図ったものであり、この場合の吸音材としては、例えば発泡コンクリートや発泡モルタル等を用いることができ、吹き付けや吸音板として張り付けることにより簡単に取り付けることができる。
【0015】
請求項3記載のマクラギの逸脱防止ガード付きマクラギは、マクラギ本体と、当該マクラギ本体に敷設された一対のレールの内側若しくは外側に沿って設けられた逸脱防止ガードとから構成され、前記逸脱防止ガードは前記レールの長手方向に所定間隔おきに形成されたスリットと前記レールの長手方向に連続して挿通された線状部材とを備えてなることを特徴とするものである。
【0016】
本発明は、マクラギに、当該マクラギに敷設されるレールの長手方向に沿って連続する逸脱防止ガードを取り付けることにより、走行中の列車の被害を未然に防止するようにしたものである。
【0017】
また特に、逸脱防止ガードに複数のスリットを設けることで、逸脱防止ガードの付設によるマクラギの剛性増大を抑制してあることにより、バラストを突き固めて整正を行うことが可能となり、バラスト道床やコンクリート路盤への設置も容易になる。
【0018】
なお、マクラギ本体と逸脱防止ガードは、鉄筋コンクリートによって一体に形成されてもよいが、特に逸脱防止ガードのみを繊維補強コンクリートや超高強度コンクリートで形成してもよく、さらに逸脱防止ガードをマクラギ本体と別体に形成し、取付ボルト等による後付けとしてもよい。
【0019】
また、線状部材は、その全長にわたって逸脱防止ガードのコンクリートと付着させる場合と付着させない(アンボンド)場合のいずれの方式によって取り付けてもよく、後者のアンボンド方式とする場合、線状部材の両端部のみを逸脱防止ガードの端部に定着すればよい。
【0020】
その際、端部にコイルバネや合成ゴム等の弾性部材を取り付けることによりPC鋼材に作用する張力を吸収できるようにすることもできる。また、線状部材にはPC鋼線、PC鋼より線、PCワイヤー等のPC鋼材、あるいはアラミド繊維などの新素材(FRP)からなる連続繊維補強材を用いることができ、また、これらの線状部材は必要に応じて複数挿通することもできる。
【0021】
請求項4記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、請求項3記載の逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、スリットに弾性目地部材が充填されてなることを特徴とするものである。各スリットに弾性目地部材を充填することによりPC鋼材の露出部分の腐蝕などを防止することができる。この場合の弾性目地部材には合成ゴムや合成樹脂などを用いることができる。
【0022】
また、スリット内に露出したPC鋼材の露出部分に鋼管や樹脂管などからなるさや管を挿通したり、単にグリース等を塗着してもよい。
【0023】
請求項5記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、請求項3または4記載の逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、マクラギ本体は平行に伸びる複数の縦梁と当該縦梁間に設置された複数の繋ぎ梁とからなるラダーマクラギであり、前記縦梁に逸脱防止ガードが取り付けられてなることを特徴とするものである。
【0024】
請求項6記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、請求項3〜5のいずれかに記載の逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、逸脱防止ガードは、吸音材によって被覆されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、マクラギに当該マクラギのレール敷設部の外側若しくは内側に逸脱防止ガードが設けられているため、列車の走行中の被害を未然に防止することができる。
【0026】
また、逸脱防止ガードに複数のスリットを設けることにより、逸脱防止ガードの付設によるマクラギの剛性増大を抑制することができるため、バラスト道床やコンクリート路盤への変位・追従が可能になり、マクラギの敷設・整正が非常に容易になる等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1と図2は、ラダーマクラギ本体と逸脱防止ガードとからなる逸脱防止ガード付きマクラギを示し、図において、ラダーマクラギ本体1は、平行に伸びる2本の縦梁1a,1aと、当該縦梁1a,1aの端部間とその内側間にそれぞれ架け渡された2本の端梁1bと、複数の繋ぎ梁1c,1cとから形成されている。
【0028】
縦梁1aと端梁1bは鉄筋コンクリートから一体的に形成され、縦梁1aにレール敷設部1dが形成され、両端の端梁1bは列車荷重に対する両端の反力受けとして形成されている。
【0029】
また、繋ぎ梁1cは鋼管などの鋼材から形成され、縦梁1b,1bの長手方向に所定間隔おきに架け渡され、各繋ぎ梁1cの両端は縦梁1aのコンクリート内に一体的に定着されている。
【0030】
逸脱防止ガード2は、縦梁1a,1aのレール敷設部1dの外側(図1(a)参照)または内側(図1(b)参照)に鉄筋コンクリートによって縦梁1a,1aと一体に、かつ当該縦梁1a,1aの長手方向に連続して形成されている。
【0031】
逸脱防止ガード2には当該逸脱防止ガード2の長手方向と直交する複数のスリット2aが、逸脱防止ガード2の長手方向に所定間隔おきに形成され、各スリット2aに合成ゴム等などからなる弾性目地部材3がそれぞれ充填されている。
【0032】
なお、各スリット2aは、図示するように逸脱防止ガード2の上端部から中間部に渡って形成されていてもよく、あるいは逸脱防止ガード2の上端部から下端部に渡って逸脱防止ガード2を横断するように形成されていてもよい。
【0033】
また、各逸脱防止ガード2には、PC鋼材4がアンボンド方式により逸脱防止ガード2の長手方向に連続して挿通され、各PC鋼材4の両端部4a,4aは、例えば図2(b)に図示するように逸脱防止ガード2の端部に支圧板5と定着ナット6等によってそれぞれ定着されている。また、支圧板5の裏側に合成ゴム等のクッション部材7が介在されている。
【0034】
なお、この場合のPC鋼材4の端部4a、支圧板5、定着ナット6およびクッション部材7はコンクリート内に埋設されている。
【0035】
このような構成において、例えば図2(a)に図示するように縦梁1a,1aに当該縦梁1a,1aのレール敷設部1d,1dにそれぞれ敷設されたレール8,8の外側に逸脱防止ガード2,2がそれぞれ設けられているため、列車の走行中の列車被害を未然に防止することができる。
【0036】
また、逸脱防止ガード2には複数のスリット2aが設けられていることで、逸脱防止ガード2の付設による縦梁1a,1aの剛性増大を抑制することができるため、敷設時のバラストの突き固めによる軌きょうの整正が可能であり、バラスト道床9にも支障なく設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るマクラギの逸脱防止ガード付は、逸脱防止ガードの付設によるマクラギの剛性増大を抑制できるため、バラスト道床やコンクリート路盤への変位・追従が可能になり、マクラギの敷設を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】逸脱防止ガード付きマクラギの一例を示し、(a)は縦梁のレール敷設部の外側に逸脱防止ガードを有する逸脱防止ガード付きマクラギの端部斜視図、(b)は縦梁のレール敷設部の内側に逸脱防止ガードを有する逸脱防止ガード付きマクラギの端部斜視図である。
【図2】(a)は、レールが敷設された状態を示す逸脱防止ガード付きマクラギの一部斜視図、(b)PC鋼材端部の定着部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ラダーマクラギ本体
2 逸脱防止ガード
3 弾性目地部材
4 PC鋼材
5 支圧板
6 定着ナット
7 クッション部材(弾性部材)
8 レール
9 バラスト道床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクラギに、当該マクラギに敷設された一対のレールの内側若しくは外側に沿って設けられたマクラギの逸脱防止ガードであって、前記レールの長手方向に所定間隔おきに形成されたスリットと前記レールの長手方向に連続して挿通された線状部材を備えてなることを特徴とするマクラギの逸脱防止ガード。
【請求項2】
表面が吸音材によって被覆されてなることを特徴とする請求項1記載のマクラギの逸脱防止ガード。
【請求項3】
マクラギ本体と、当該マクラギ本体に敷設されるレールの内側若しくは外側に沿って設けられた逸脱防止ガードとから構成され、前記逸脱防止ガードは前記レールの長手方向に所定間隔おきに形成されたスリットと前記レールの長手方向に連続して挿通された線状部材を備えてなることを特徴とする逸脱防止ガード付きマクラギ。
【請求項4】
スリットに弾性目地部材が充填されてなることを特徴とする請求項3記載の逸脱防止ガード付きマクラギ。
【請求項5】
マクラギ本体は平行に伸びる複数の縦梁と当該縦梁間に設置された複数の繋ぎ梁とからなるラダーマクラギであり、前記縦梁に逸脱防止ガードが取り付けられてなることを特徴とする請求項3または4記載の逸脱防止ガード付きマクラギ。
【請求項6】
逸脱防止ガードは、吸音材によって被覆されてなることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の逸脱防止ガード付きマクラギ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−63910(P2007−63910A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253551(P2005−253551)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(591121111)株式会社安部日鋼工業 (38)